以下、本発明の1本糸錠縫化ハンドステッチ形成方法及びミシンを実施の最良の形態例について図面に基き説明する。
本発明の1本糸錠縫化ハンドステッチミシンは図1、図2に示すように、アーム2及びベッド3からなるフレーム1に、糸捕捉鉤10aを側設し垂直方向に直線往復運動して被縫製体21に縫糸20を刺し通す鉤針10、水平方向において全回転して縫糸20を交差させ縫目を作る回転釜200、水平方向で直線往復運動して縫糸20を鉤針10に周接して糸捕捉鉤10aで捕捉させる偏倚子16、糸捕捉鉤13aで捕捉された縫糸20が糸弛み状態の時に、鉤針13の針先と被縫製体の間でクランク運動して、その糸弛み状態の縫糸20を糸寄せ15で糸寄せする糸寄せ機構600、水平方向で直線往復運動して縫糸20に弛みを与えたり縫目を引き締めたりする糸引出作動子17、及び楕円運動して被縫製体21を送り出す送り歯601等が装着され、回転釜200に巻装された1本の縫糸20で被縫製体21の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目をそれぞれ形成させるミシンである。なお、本明細書において、「周接」とはある部位の周りに接していることを意味する。また、本明細書において、「巻装」とは巻かれた状態で装着されていることを意味する。
アーム2には上軸5、ベッド3には下軸6が、それぞれ軸方向が水平方向に設置されている。上軸5は上軸前メタル51及び上軸後メタル52(図7参照)でアーム2に回動自在に設置され、下軸6は下軸前メタル61及び下軸後メタル62(図7参照)でベッド3に回動自在に設置されている。
上軸5の一端には従動プーリ4が設けられモータMにより無端ベルトである駆動ベルトMBを介して駆動され、上軸5の他端には鉤針10を駆動する鉤針駆動機構100の釣合錘101が設けられている。また、上軸5の従動プーリ4に近傍する部位には下軸6を介して送り歯401を楕円運動させる布送り機構400及び回転釜200を駆動する上軸タイミングプーリ8が設けられている。この上軸5の上軸タイミングプーリ8に近傍する部位には偏倚子16及び糸引出作動子17を直線往復運動させる偏倚子・糸引出作動子駆動機構500を駆動する円筒カム501が設けられている。さらに、上軸5の釣合錘101及び円筒カム501間には、糸寄せ15をクランク運動させる糸寄せ機構600を駆動するかさ歯車(bevel gear)607の第1歯車607Aが設けられている。
鉤針駆動機構100は、鉤針10を、上死点から下降し針板13に載置された被縫製体21に貫通し、下死点から被縫製体21から抜け出して上昇し、垂直方向に直線往復運動する第1ストロークにおいて上死点から下降し被縫製体21に貫通し、下死点から上昇する際に、縫糸20を糸捕捉鉤10aで捕捉し、第2ストロークにおいて上死点から下降し被縫製体21に貫通し、下死点から上昇する際に、糸捕捉鉤10aで捕捉されていた縫糸20を解放することができる機構構成である。なお、本明細書において、「鉤針10の第1ストローク」とは鉤針10が針上死点→針下死点→針上死点に至るまでの1針目、「鉤針10の第2ストローク」とは鉤針10が針上死点→針下死点→針上死点に至るまでの2針目のことを意味する。この鉤針駆動機構100の近傍には、被縫製体21を針板13に押え付けるための押え金14を動作させる押え金駆動機構300が設けられている。
布送り機構400は、鉤針10を第1ストロークにおいて被縫製体21から抜け出して上昇させ上死点を通過する間に、送り歯401で被縫製体21を1縫目ピッチ送りするとともに、鉤針10を第2ストロークにおいて被縫製体21から抜け出して上昇させ上死点を通過する間に、送り歯401で被縫製体21を1縫目間ピッチ送りすることができる機構構成である。この布送り機構400は、送り歯401を上昇→前進→下降→後退という所謂送りの四工程運動をさせることで、鉤針10上で被縫製体21を布送りすることができる。
回転釜200は、針板13の下方にあって縫糸20が巻装され縫糸20が糸出口209aから引き出される釜であって、第1ストロークにおいて上死点から下降し被縫製体21に貫通し、下死点から上昇する際に、糸捕捉鉤10aで縫糸20を捕捉した鉤針10の上昇に伴って縫糸20を糸締めすると共に、鉤針10が第2ストロークにおいて上死点から下降し被縫製体21に貫通し、下死点から上昇する際に、糸捕捉鉤10aで捕捉されていた縫糸20を釜が回転して掬う剣先201aを有し、捕捉されていた縫糸20を釜の回転によって釜の剣先201aで掬って糸捕捉鉤10aから解放し、解放された縫糸20を釜が更に回転することにより釜にくぐり入れて釜に巻装されている縫糸20に交錯させることができる機構構成である。このように構成された回転釜200は、下軸6の回転運動を伝達するねじ歯車202によって駆動することができる。
偏倚子・糸引出作動子駆動機構500は、円筒カム501のカム溝501aに沿って偏倚子16を水平方向で直線往復運動させる機構構成で、偏倚子16を、鉤針10が第1ストロークにおいて上死点から下降し針板13に載置された被縫製体に貫通し、下死点から上昇する際に、針板13の下方にあって縫糸20が巻装され回転釜200の糸出口209aから引き出され緊張されている縫糸20を鉤針10の下降とともに偏倚させた後、鉤針10の上昇直前に復帰させることにより縫糸20を鉤針10に周接して糸捕捉鉤10aで捕捉することができるように動作させる。なお、偏倚子16の先端には、縫糸20を引っ掛けて偏倚させるための凹部16aが形成されている。
また、偏倚子・糸引出作動子駆動機構500は、円筒カム501のカム溝501aに沿って糸引出作動子17を水平方向で直線往復運動させる機構構成で、糸引出作動子17を、回転釜200が回転することにより当該回転釜200の糸出口209aから引き出されている縫糸20を糸締めすることができるように動作させる。この糸引出作動子17は、糸捕捉鉤10aで捕捉されていた縫糸20が回転釜200の剣先201aで掬われた後、回転釜200の糸出口209aから引き出されている縫糸20を引っ掛け、回転釜200から引出して糸締めし、糸捕捉鉤10aで縫糸20を捕捉した後、引っ掛けている縫糸20を釈放する機能を有している。なお、糸引出作動子17の先端には、縫糸20を引っ掛けるための糸掛け部17aが形成されている。
糸寄せ機構600は、糸寄せ15をクランク運動させる機構構成で、糸寄せ15を、第2ストロークにおいて鉤針10が上死点から下降し被縫製体に貫通する前に縫糸20を糸寄せし、回転釜200からくぐり出た縫糸20を糸締めした後、緩められた縫糸20を引き上げることができるように動作させる。具体的には図3に示すように、上軸5が1回転する間に糸寄せ15のL字形に形成された先端部15aを移動軌跡MLの楕円運動により押え金14上で1周させるもので、上下方向に直線運動する鉤針10に干渉することなく糸寄せ15の先端部15aを楕円運動させることができる。このような糸寄せ機構600を備えるのは、鉤針10の第2ストロークにおいて当該鉤針10が下降していくと、鉤針10の針先と被縫製体21との間で鉤針10の糸捕捉鉤10aに捕捉された縫糸20が張った状態から弛んだ状態になって糸弛みができるので、その糸弛み状態の縫糸20を、下降する鉤針10の針先で刺し通してしまう虞があるからである。
このように構成された1本糸錠縫化ハンドステッチミシンは、鉤針10、回転釜200、偏倚子16、糸寄せ15、糸引出作動子17及び送り歯401の協働によって被縫製体21の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目を跳び縫いセットとして形成し、鉤針10の第1ストロークにおいて送り歯401により被縫製体21をハンドステッチ縫目のための縫目ピッチ送りし、鉤針10の第2ストロークにおいて送り歯401により被縫製体21をハンドステッチ縫目間のための縫目間ピッチ送りするものである。
このような1本糸錠縫化ハンドステッチミシンの動作を、1本糸錠縫化ハンドステッチ形成方法を中心にして図4(A)〜(H)、図5に基づき説明する。図4(A)〜図4(H)は鉤針10、回転釜200、偏倚子16、糸寄せ15及び糸引出作動子17の動作説明図で、図5は鉤針10、回転釜200、糸寄せ15、偏倚子16、送り歯401、蓋針12及び糸引出作動子17のモーションダイヤグラムである。なお、蓋針12の機構構成及び動作については、この動作説明においては省略する。この動作説明において、方向を示す場合には図4(A)〜図4(H)を正面から見た状態で説明する。また、図4(A)〜図4(H)においては、送り歯401及び被縫製体の図示を省略している。
また、図4(A)〜図4(H)においては、便宜上、縫糸20が糸捕捉鉤10aに捕捉されていない鉤針10が上死点に位置する状態で、且つ回転釜200の剣先201aが図中において上下方向の上方に位置している状態(図4(A))から動作説明を行うものとする。この図4(A)の状態においては、回転釜200は停止した状態、糸引出作動子17は回転釜200の糸出口209aを介して縫糸20を引き出すために後退(図中、右方向移動)している状態、送り歯401は縫目間送り状態であり、偏倚子16は最後退点(図中、最右点)に位置している。被縫製体の送り方向は手前から奥方向に向かうものとする。
また、図5においては、プーリ4が2回転で跳び縫いセットとして形成するので、縫製の1サイクルは上軸5の回転における720度で示され、図4(A)は上軸5が0度(720度)の状態、図4(B)は上軸5が60度の状態、図4(C)は上軸5が180度の状態、図4(D)は上軸5が270度の状態、図4(E)は上軸5が360度の状態、図4(F)は上軸5が410度の状態、図4(G)は上軸5が540度の状態、図4(H)は上軸5が610度の状態とする。なお、図4(I)は図4(B)における動作詳細図である。上軸5が0度で鉤針10は上死点、180度で鉤針10は下死点、360度で鉤針10は上死点、540度で鉤針10は下死点となる。
また、回転釜200の剣先201aは上軸5が1回転する間に2回転するように設定されている。なお、図4(A)〜図4(H)において鉤針10の糸捕捉鉤10aは左側に開口部が向くように形成されている。
図1において、モータMにより駆動ベルトMBを介して駆動される従動プーリ4が、鉤針10側より見て時計方向に回転すると、上軸5の回転により鉤針駆動機構100、布送り機構400、回転釜200、偏倚子・糸引出作動子駆動機構500及び糸寄せ機構600が駆動する。鉤針駆動機構100が駆動すると鉤針10を垂直方向に直線往復運動させ、布送り機構400が駆動すると送り歯401を送りの四工程運動させ、回転釜200が駆動すると剣先201aを回転運動させ、偏倚子・糸引出作動子駆動機構500が駆動すると偏倚子16及び糸引出作動子17をそれぞれ個別に水平方向に直線往復運動させ、糸寄せ機構600が駆動すると糸寄せ15を楕円運動させる。
このように動作する鉤針10、送り歯401、回転釜200、偏倚子16、糸引出作動子17及び糸寄せ15は下記のように協働して、1本の縫糸20で被縫製体の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目をそれぞれ形成させる。
(a)垂直方向に直線往復運動する鉤針10が第1ストロークにおいて上死点(上軸5:0度)から下降し針板13に載置された被縫製体に貫通し(図4(A)〜図4(C)、図5)、下死点(上軸5:180度)から上昇する際に、針板13の下方にあって縫糸20が巻装された回転釜200の糸出口209aから引き出され緊張されている縫糸20を鉤針10の下降とともに偏倚子16で偏倚させた後、鉤針10の上昇直前に復帰させることにより縫糸20を鉤針10に周接して糸捕捉鉤10aで捕捉する(図4(D)、図5)。
この際、回転釜200の糸出口209aから引き出されている縫糸20は糸引出作動子17によって引き出されている。また、縫糸20を鉤針10に周接するには図4(I)の(a)、(b)に示すように、鉤針10が上死点から偏倚子16が水平方向に直線往復運動する位置まで降下するまでに、偏倚子16が最も前進している位置から縫糸20を鉤針10に周接可能な位置まで後退させることで達成することができる。また、糸引出作動子17は鉤針10が被縫製体21に刺さる前に最前進で停止する(上軸5:180度)(図5)。蓋針12は鉤針10が被縫製体21に刺さると開状態になる(図5)。送り歯401は鉤針10が被縫製体21に刺さる前に被縫製体21の布送りを停止する(図5)。さらに、糸寄せ15は図4(C)から図4(D)まで左方向に前進して鉤針10の位置よりも左側まで移動する。
(b)鉤針10を第1ストロークにおいて被縫製体21から抜け出して上昇させ上死点(上軸5:360度)を通過する間に、被縫製体21を送り歯401で1縫目ピッチ送りするとともに縫糸20を捕捉した鉤針10が上昇することにより引き上げる(図4(E)、図5)。
この際、糸引出作動子17は鉤針10が下死点(上軸5:180度)に到達してから縫糸20を繰り出しできるように後退を開始して糸緩め行う(図5)。蓋針12は、鉤針10が下死点(上軸5:180度)から上死点(上軸5:360度)に移動する際、当該鉤針10が針板13を通過した後に鉤針10の糸捕捉鉤10aを閉状態にして被縫製体21を鉤針10と共に通過する(図5)。送り歯401は鉤針10が上死点(上軸5:360度)を通過する直前に1縫目ピッチ送りを開始する(図5)。なお、偏倚子16は鉤針10が上死点(上軸5:360度)を通過すると、右退避位置に退避する(図5)。
(c)鉤針10が第2ストロークにおいて上死点から下降し被縫製体21に貫通する前に縫糸20を糸寄せする(図4(F)、図5)。具体的には、第2ストロークにおいて鉤針10が上死点から下降する際に糸捕捉鉤10aで捕捉された縫糸20を鉤針10の針先と被縫製体21の間で糸捕捉鉤10aの非開口方向に糸寄せする。これにより、糸捕捉鉤10aで捕捉された縫糸20が糸捕捉鉤10aから外れてしまうことを防ぐことができる。また、糸引出作動子17は鉤針10が上死点(上軸:360度)から下降しても糸緩めを行っているので、縫糸20が緩んで遊んでしまうことを防ぐために、糸寄せ15で縫糸20を糸寄せしている。
この際、蓋針12は、鉤針10が被縫製体21から抜け出しているので、糸捕捉鉤10aを閉状態にしたままである(図5)。送り歯401は鉤針10が被縫製体21に貫通する前に1縫目ピッチ送りを停止する(図5)。偏倚子16は右退避位置に退避したままである(図5)。
(d)鉤針10が第2ストロークにおいて上死点(上軸5:360度)から下降し被縫製体21に貫通し(図4(G)、図5)、下死点(上軸5:540度)から上昇する際に、糸捕捉鉤10aで捕捉されていた縫糸20を回転釜200の剣先201aで掬うと共に、捕捉されていた縫糸20を回転釜200の回転によって糸捕捉鉤10aから解放する(図4(H)、図5)。
この際、回転釜200は鉤針10が下死点(上軸5:540度)に到達すると、3回転目の直前に糸捕捉鉤10aで捕捉されていた縫糸20を剣先201aで掬う(図5)。糸引出作動子17は糸緩めを行ったままである。蓋針12は鉤針10が上死点から下降して被縫製体21を通過すると、鉤針10の糸捕捉鉤10aを開状態にする(図5)。送り歯401は停止したままである(図5)。偏倚子16は右退避位置に退避したままである(図5)。
(e)回転釜200の剣先201aで掬われて解放された縫糸20を回転釜200が更に回転することにより回転釜200にくぐり入れて回転釜200に巻装されている縫糸20に交錯(interlace)させ、回転釜200からくぐり出た縫糸20を糸引出作動子17で糸締めする(図4(H)、図4(A)、図5)。
この際、糸引出作動子17は鉤針10が被縫製体21から抜けると縫糸20を引き締めできるように後退するように摺動を開始するので、回転釜200からくぐり出た縫糸20を糸引出作動子17で糸締めした後、緩められた縫糸20を引き上げることになる(図5)。蓋針12は鉤針10が下死点から上昇して被縫製体21を通過すると、鉤針10の糸捕捉鉤10aを閉状態にする(図5)。送り歯401は鉤針10が上死点(上軸5:720度)を通過する直前に1縫目間ピッチ送りを開始する(図5)。偏倚子16は鉤針10が上死点(上軸5:720度)を通過する直前に縫糸20を偏倚させる方向である左方向に摺動を開始する(図5)。
(f)鉤針10を第2ストロークにおいて被縫製体21から抜け出して上昇させ上死点(上軸5:720度)を通過する間に、送り歯401で被縫製体21を1縫目間ピッチ送りする(図4(A)、図5)。
(g)(a)乃至(f)の工程を繰り返して被縫製体21の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目をそれぞれ形成する。
したがって、縫糸20が鉤針10の糸捕捉鉤10aへ確実に捕捉され、かつミシンベッド内空間で1本糸錠縫化縫目形成を行ないピンポイント/サドルステッチと呼ばれる擬似ハンドステッチに適する縫製ができる。また、被縫製体21の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目がそれぞれ形成されるので、作業者にとって表面にハンドステッチ縫目を目視できる状態で縫製作業が行なわれ、ハンドステッチ縫位置を確認できることから正確な縫製ができる。また、被縫製体21の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目がそれぞれ形成されるので、1本糸錠縫化縫目を形成している縫糸20を引っ張ることによって容易にほどけることはないので、強固な縫製が得られる。
次に、上述した本発明の1本糸錠縫化ハンドステッチミシンの構成要素である鉤針駆動機構100、押え金駆動機構300、布送り機構400、回転釜200、偏倚子・糸引出作動子駆動機構500及び糸寄せ機構600の具体例の一例について説明する。
鉤針駆動機構100は、鉤針10の第1ストロークにおいて鉤針10が被縫製体から抜け出した時に糸捕捉鉤10aで捕捉した縫糸20が外れないようにするために、蓋針12を備えている(以下、「鉤針・蓋針駆動機構100」という。)。
この鉤針・蓋針駆動機構100は図1、図2、図7、図8(A)、(B)、図9に示すように、アーム2に上端部110aがピン109で回動自在に連結されている針棒枠110に形成された上鉤針棒受110b及び下鉤針棒受110cの各穴に、鉤針棒9が垂直方向に直線往復運動可能な状態で挿入され、鉤針棒9の下端部に鉤針10が針留116とともに針止めネジ117で固定されている。また、上鉤針棒受110b及び下鉤針棒受110c間の鉤針棒9には針棒抱104が固定され、この針棒抱104に形成された軸部104aは針棒クランクロッド103の一端が回動自在に連結され、針棒クランクロッド103の他端は上軸5の他端に固着された釣合錘101にクランクロッドピン102によって回動自在に連結されている。したがって、針棒クランクロッド103が上軸5の回転により釣合錘101を介してクランク運動するので、鉤針10が針留116で固定された鉤針棒9が針棒抱104によって垂直方向に直線往復運動する。
また、鉤針10の糸捕捉鉤10aは、蓋針12によって開閉される。この蓋針12は蓋針留118に形成され、蓋針留118は針棒枠110に形成された上蓋針棒受110e及び下蓋針棒受110dの各穴に垂直方向に直線往復運動可能な状態で挿入された蓋針棒17の下端部に固定されている。また、上蓋針棒受110eの上部に位置する蓋針棒17には蓋針駆動駒108が固定され、この蓋針駆動駒108の腕部108aは上鉤針棒受110b及び下鉤針棒受110c間の鉤針棒9に移動可能に隙間を有して嵌められている。なお、この蓋針駆動駒108の腕部108aは針棒抱104の上部に位置しているので、針棒抱104が鉤針棒9と共に上昇すると、その腕部108aを介して蓋針駆動駒108も上昇させることができる。また、針棒枠110の平面部に対して蓋針駆動駒108の平面部が摺動可能に位置しているので、蓋針駆動駒108が固定された蓋針棒17は回転しないようになる。したがって、鉤針10の糸捕捉鉤10aを閉塞可能な位置から蓋針12がずれてしまうことを防ぐことができる。さらに、蓋針棒17の上端部には蓋針棒ばね掛け112が固定され、この蓋針棒ばね掛け112は針棒枠110に形成された蓋針棒ばね掛け110fに一端が固定された蓋針棒バネ115の他端が固定されるので、蓋針棒ばね掛け112は常時下方に引っ張られるようになっている。
このように構成された鉤針・蓋針駆動機構100は、上軸5の回転により鉤針棒9が上昇した場合には図8(A)に示すように、針棒抱104が蓋針駆動駒108を蓋針棒バネ115の弾性力に抗して上昇させる。この際、鉤針10の上昇と共に蓋針12も上昇するので、図10(A)、図11(A)に示すように、鉤針10の糸捕捉鉤10aは蓋針12によって閉状態になる。即ち、鉤針10が下死点から上死点に向かっていくときに糸捕捉鉤10aは蓋針12によって閉塞されることになる。また、上軸5の回転により鉤針棒9が下降した場合には図8(B)に示すように、針棒抱104も下降するので、蓋針駆動駒108は蓋針棒バネ115の弾性力によって下降する。この際、蓋針12は蓋針駆動駒108が針棒枠110の上蓋針棒受110eに当接するので、図10(B)、図11(B)に示すように、鉤針10の糸捕捉鉤10aは開状態になる。即ち、鉤針10が被縫製体を貫通した後、糸捕捉鉤10は針板13の下方において蓋針12から開放されることになる。したがって、鉤針10及び蓋針12は図5のモーションダイヤグラムに示す移動軌跡で直線往復運動することができる。
押え金駆動機構300は図1、図2、図7、図12に示すように、押え棒301が垂直方向に直線往復運動可能にアーム2に設置され、押え棒301の下端部に、押え金14が揺動自在に取り付けられた押え足302が押え止ネジ304で固定されている。また、押え棒301の上部には押え圧力調節ネジ308が固定され、押え圧力調節ネジ308はアーム2の上部に螺合されている。押え棒301には押え棒抱き305が固定され、押え棒抱き305とアーム2の下面との間には押え圧力調節バネ307が押え棒301に嵌めこまれている。この押え圧力調節バネ307による押え金14の被縫製体21に対する押圧力は押え圧力調節ネジ308を回すことによって調節できる。さらに、押え金14を上下させるために、押え棒抱き305に係合する押え上げレバー310がアーム2に固定された押え上げレバー軸309に回動自在に設けられている。押え上げレバー310を上昇させると押え棒抱き305が上昇し、下降させると押え棒抱き305が下降する。したがって、押え上げレバー310を上昇させて押え金14及び針板13間に空間を作り、被縫製体21を針板13上に載せたら押え上げレバー310を下降させて当該被縫製体21を押え金14で針板13に押し付けることで、被縫製体21を針板13上にセットすることができる。
布送り機構400は図1、図2、図13、図14に示すように、針板13の下方に設けられ、送り歯401が送り土台402の一端部に固定されている。送り土台402の他端部は、水平送り腕404の上端部に回動自在に連結されている送り土台連結軸403に固定されている。水平送り腕404の送り土台連結軸403が回動自在に連結されている部位の下方には水平送り軸416が突出するように回動自在に装着され、この水平送り腕404の下端部にはベッド3に突出するように固定された水平送り腕軸405の突出部分が回動自在に装着されている。なお、送り土台連結軸403、水平送り軸416及び水平送り腕軸405は、下軸6と軸方向が同一になっている。
また、水平送り軸416の突出部分の一端は水平送り二又417の水平送り軸駆動腕417aに回動自在に装着されている。この水平送り二又417は、上腕部417b、下腕部417c、上腕部417bと下腕部417cとを接続する腕接続部417dからなるコの字形に形成され、腕接続部417dの上腕部417b側に水平送り軸駆動腕417aが形成され、上腕部417bの先端に水平送り調節腕417eが形成されている。このように形成された水平送り二又417の上腕部417b及び下腕部417cの間には、下軸6の中間部に固定された三角カムからなる水平送りカム420がカム動作可能に嵌め込まれている。なお、下軸6の一端には、上軸5の上軸タイミングプーリ8によって回転する下軸タイミングプーリ204が固定されている。この下軸タイミングプーリ204は、上軸タイミングプーリ8と歯数が同数なので回転数が同一になる。
したがって、下軸6が回転すると、水平送り二又417が水平送りカム420により上下方向に揺動するので、水平送り二又417の水平送り軸駆動腕417aが水平送り軸416を水平方向に往復揺動する。水平送り軸416が水平方向に往復揺動すると、水平送り腕404が水平送り腕軸405を回動中心にして水平方向に往復揺動するので、送り歯401は送り土台402を介して水平方向で往復運動させることができる。
さらに、下軸6の水平送りカム420が固定されている近傍の部位には偏心カムからなる上下送りカム414が固定されている。また、送り土台402の略中央部にねじ込まれている送り高さ調節ネジ412がナット413によって当該送り土台402に固定されている。この送り高さ調節ネジ412はネジ頭部412aが送り土台402の下方に突出するように位置し、上下送りカム414に当接するようになっている。また、送り土台402の送り歯401側には送り土台バネ408の一端が固定され、送り土台バネ408の一端は送り土台402の下方に位置するベッド3に固定されたバネ掛け410に固定され、送り歯401が送り土台402を介して常時下方に引っ張られるようになっている。
したがって、下軸6が回転すると、上下送りカム414により送り土台402が送り高さ調節ネジ412を介して送り土台連結軸403を回動中心にして上下方向に往復揺動するので、送り歯401は送り土台402を介して上下方向で往復運動させることができる。
このように、送り土台402を、水平送りカム420の三角カム運動及び上下送りカム414の偏心カム運動で動作させることで、送り土台402に固定された送り歯401は、上昇→前進→下降→後退という所謂送りの四工程運動をすることができる。したがって、送り歯401は図5のモーションダイヤグラムに示す移動軌跡で送りの四工程運動することができる。
このように構成された布送り機構400には、送り歯401による被縫製体21の送り量を調節する送り量調節機構を備えている。この送り量調節機構は、フレーム1の従動プーリ4が配置された側に設けられた送り目調節ダイヤル436によって調節するものである。送り目調節ダイヤル436は、ベッド3に下軸6と軸方向が同一で回動自在に装着された送りダイヤル軸435の一端に固定され、送りダイヤル軸435の他端には偏心カムからなる送り目調節カム434が固定されている。この送り目調節カム434は、水平送り二又417の水平送り軸駆動腕417aによる水平方向の往復揺動量を調節する送り調節腕425の腕端が当接している。
この送り調節腕425は、2つの軸受431、431によってベッド3に下軸6と軸方向が同一で回動自在に装着された送り調節軸430に固定されている。なお、送り調節腕425の腕部には送り調節腕バネ427の一端が固定され、送り調節腕バネ427の他端は送り調節腕425の下方に位置するベッド3に固定されたバネ掛け428に固定され、送り調節腕425の腕端が常時下方に引っ張られるようになっている。
送り調節軸430の一端には溝423aが形成された送り調節桝423が固定されている。この送り調節桝423の溝423aには、水平送り二又417の水平送り調節腕417eに角駒軸421を介して固定された送り調節角駒422が摺動自在に嵌め込まれている。なお、送り調節桝423の溝423aは傾斜するように配置され、送り目調節ダイヤル436を回転させるとこの傾斜角度が変位することから、送り調節桝423の溝423a内で往復直線運動する送り調節角駒422の移動量が変位する。したがって、水平送り二又417の水平送り軸駆動腕417aによる水平方向の往復揺動量が変位するので、送り歯401による被縫製体21の送り量を調節することができる。なお、送り土台402においてナット413を緩めて送り高さ調節ネジ412の突出量を調節すると、上下方向の往復揺動量を調節することができるので、送り歯401による被縫製体21の適正な送り量を調節することができる。
回転釜200は図1、図2、図15、図16に示すように、縫糸20が巻装されるボビン212を内蔵する内釜207と、内釜207を回転自在に内装すると共に剣先201aを有する外釜201と、内釜207を回転止めする中釜押え213とを備えている。
内釜207は、ボビンケース212を収容するボビンケース収容部207aを有し、このボビンケース収容部207aにボビンケース212を取り外し自在に収容する。また、ボビンケース収容部207aの内側側面には、その湾曲に沿って形成された糸調子バネ208及び糸案内板209が重ねて固定されている。糸案内板209には糸出口209a及び糸案内溝209bが形成され、ボビンケース212から引き出される縫糸20は糸調子バネ208によって張力が付与される。
外釜201は、内釜205を収容する内釜収容部201bと、ベッド3に垂直方向に軸方向を向けて固定される釜軸205を回動可能に挿入するための釜軸穴201cが設けられた取付ボス部201dとを有し、内釜収容部201bの回転中心及び釜軸穴201cの回転中心は同心である。
中釜押え213は、ベッド3の回転釜200が配置される近傍に固定され、内釜205に形成された切欠部207bに当接することで、外釜201が回転しても内釜207の回転を阻止することができる。なお、図15、図16中、外釜201は左回転、即ち、反時計方向に回転するので、内釜205も外釜201と共に左回転しようとするが、切欠部207bが中釜押え213に当接するので、内釜207の回転を阻止することができる。
このような回転釜200の外釜201を回転させるために、下軸6の水平方向における回転運動を垂直方向における回転運動に変換するねじ歯車202を備えている。ねじ歯車202は、第1歯車202Aが下軸6の他端側に固定され、第2歯車202Bが外釜201の取付ボス部201dに回転中心が同心になるように設けられ、下軸6が1回転する間に外釜201を2回転させることができる。また、下軸6の一端に固定された下軸タイミングプーリ204と、上軸5に固定されたタイミングプーリ8とは、無端ベルトであるタイミングベルトTBが巻き掛けられている。なお、タイミングベルトTBは、アーム2及びベッド3を結合しているフレーム1の部位にテンション軸203によって回動自在に装着されたテンションローラ206で張力を制御されている。
このような構成の回転釜200は上軸5が回転すると、上軸タイミングプーリ8がタイミングベルトTBを介して下軸タイミングプーリ204が回転するので、下軸6が回転を開始する。下軸6が回転すると、ねじ歯車202の第1歯車202Aが外釜201の第2歯車202Bを全回転させることができる。したがって、回転釜200は図5のモーションダイヤグラムに示す移動軌跡で、鉤針1の1ストロークにおいて外釜201を水平方向において2回転させることができる。即ち、上軸5が1回転する間に外釜201は2回転することになる。なお、1本糸錠縫化ハンドステッチ形成方法における、(e)回転釜200の剣先201aで掬われて解放された縫糸20を回転釜200が更に回転することにより回転釜200にくぐり入れて回転釜200に巻装されている縫糸20に交錯(interlace)させ、回転釜200からくぐり出た縫糸20を糸引出作動子17で糸締めする際、回転釜200に縫糸20をくぐり入れには、外釜201と内釜205との間に形成される隙間を利用する。即ち、外釜201と内釜205との間に形成される隙間に縫糸20をくぐり入れる。
偏倚子・糸引出作動子駆動機構500は図1、図2、図17、図19(A)〜図(H)に示すように、円筒カム501のカム溝501aに沿って移動するカムフォロワ502のカム運動に基づき糸引出作動子17を水平方向で直線往復運動させるために、一端にカムフォロワ502が装着され他端に糸引出作動子17が連結され、上軸5から下軸6に向かって配置されている糸引出作動子駆動棹503と、糸引出作動子駆動棹503に連結され偏倚子駆動腕508を介して偏倚子16を水平方向で直線往復運動させる偏倚子制御腕506と、糸引出作動子17及び偏倚子16をベッド3内において下軸6の軸方向と同一方向に摺動させる偏倚子・糸引出作動子摺動台516とを備えている。なお、本明細書において、「摺動」とは接触状態ですり動かすことを意味する。
円筒カム501のカム溝501aは、円筒面に1条の溝が2回転で1サイクルとなるように溝交叉点501bを有し、カムフォロワ502が溝交叉点501bから出発し1回転ずつその溝交叉点501bに戻るように形成されている。また、カム溝501aは溝交叉点501b部分を除き円筒カム501の円筒面に対して2つの溝が形成されることになる。なお、カムフォロワ502の形状は溝交叉点501bにおいて直進する溝方向から交叉する溝方向へ入り込まないように、平面形状が略長円形状で先端部は鋭角に形成されている。
糸引出作動子駆動棹503は、アーム2及びベッド3を結合しているフレーム1の部位に固定されている制御台507に突出して設けられた支持ピン507aに回動自在に装着するためのボス部503aが一端と他端との間に設けられ、他端には糸引出連結リンク514を介して糸引出作動子17の連結部となる後端17bが連結されている。この糸引出作動子駆動棹503は、カムフォロワ502が装着される一端が力点、糸引出作動子17が連結される他端が作用点、ボス部503aが支点となるように構成されている。
偏倚子制御腕506は、長手方向が糸引出作動子駆動棹503と同一方向で、上端が制御台507の支持ピン507aに回動自在に挿入されている。なお、制御台507の支持ピン507aには、偏倚子制御腕506、座金505及び糸引出作動子駆動棹503が、偏倚子制御腕506、ワッシャ505、糸引出作動子駆動棹503の順番で挿入して装着されている。
また、糸引出作動子駆動棹503のボス部503aと他端との間には水平方向が長手方向になる長穴503bが形成され、偏倚子制御腕506の下端には偏倚子駆動腕508の一端と他端との間が連結ピン511で連結され、偏倚子駆動腕508の一端に突出するように設けられた支持ピン508aが、偏倚子制御腕506の上端と下端との間に形成された水平方向が長手方向になる長穴506aと共に糸引出作動子駆動棹503の長穴503bにも挿入されている。なお、糸引出作動子駆動棹503の長穴503bは、糸引出作動子駆動棹503が制御台507の支持ピン507aを中心に揺動しても偏倚子駆動腕508の支持ピン508aが引っ掛からないような弓形で形成されている。また、偏倚子制御腕506の長穴506aは、偏倚子制御腕506が制御台507の支持ピン507aを中心に揺動しても偏倚子駆動腕508の支持ピン508aが引っ掛からないような弓形で形成されている。このような偏倚子駆動腕508の他端には連結ピン508bが突出するように設けられ、偏倚子16の後端に上下方向が長手方向になる長穴16bに挿入されている。
さらに、図17中において、偏倚子制御腕506の上端に右方向に延びるように形成されたバネ掛け腕506bと、このバネ掛け腕506bの下方のアーム2及びベッド3を結合しているフレーム1の部位に固定されているバネ掛け513とを偏倚子制御腕バネ512で連結することで、偏倚子制御腕バネ512の弾性力によりバネ掛け腕506bは常時下方に引っ張られるようになっている。したがって、偏倚子制御腕506は常時、時計方向に回転するように偏倚子制御腕バネ512で付勢されている。なお、偏倚子制御腕506には制御台507に向かって回転止めピン506cが設けられ、この回転止めピン506cが制御台507に形成された上下方向が長手方向になる長穴507bに移動可能に嵌め込まれているので、偏倚子制御腕506の偏倚子制御腕バネ512による時計方向への回転止め位置の位置決めとなる。
また、偏倚子駆動腕508の偏倚子制御腕506との連結部に右方向に延びるように形成されたバネ掛け腕508cと、このバネ掛け腕508cの上方に位置する制御台507の右下端部に設けられたバネ掛け507cとを偏倚子駆動腕バネ510で連結することで、偏倚子駆動腕バネ510の弾性力により偏倚子駆動腕508は偏倚子駆動腕508の偏倚子制御腕506との連結部を回転中心にして常時、反時計方向に回転するように付勢されている。
偏倚子・糸引出作動子摺動台516は、偏倚子16を縫製方向L(図1参照)に対して直交する方向の水平方向で直線往復運動させるための摺動長穴516aが形成され、偏倚子16を偏倚子・糸引出作動子摺動台516の板面516bに載置させ且つ摺動長穴516aの下方から段ピン518によって偏倚子・糸引出作動子摺動台516に連結させる。したがって、偏倚子16は、段ピン518が摺動長穴516aの長手方向に移動できる範囲内において偏倚子16を水平方向で直線往復運動させることができる。また、糸引出作動子17を縫製方向L(図1参照)に対して直交する方向の水平方向で直線往復運動させるための摺動長穴516cが形成され、糸引出作動子17を偏倚子・糸引出作動子摺動台516の板面516bに載置させ且つ摺動長穴516cの下方から段ピン517によって偏倚子・糸引出作動子摺動台516に連結させる。したがって、糸引出作動子17は、段ピン517が摺動長穴516cの長手方向に移動できる範囲内において糸引出作動子17を水平方向で直線往復運動させることができる。
このような構成の偏倚子・糸引出作動子駆動機構500は図19(A)〜図19(H)に示すように動作するものである。この動作説明において、方向を示す場合には図19(A)〜図19(H)を正面から見た状態で説明する。また、図19(A)〜図19(H)においては、送り歯401及び縫糸20の図示を省略している。
この図19(A)〜図19(H)は図4(A)〜図4(H)に対応する図面で、図19(A)は上軸5が0度(720度)の状態、図19(B)は上軸5が60度の状態、図19(C)は上軸5が180度の状態、図19(D)は上軸5が270度の状態、図19(E)は上軸5が360度の状態、図19(F)は上軸5が410度の状態、図19(G)は上軸5が540度の状態、図19(H)は上軸5が610度の状態とする。したがって、偏倚子16及び糸引出作動子17は、上述した図4(A)〜図4(H)に関する動作説明のように動作することができるものである。
また、図19(A)は、回転釜200は停止した状態、糸引出作動子17は回転釜200の糸出口209aを介して縫糸20を引き出すために後退(図中、右方向移動)している状態、送り歯401は縫目間送り状態であり、偏倚子16は最後退点(図中、最右点)に位置している。被縫製体の送り方向は手前から奥方向に向かうものとする。
さらに、図19(A)においては、糸引出作動子駆動棹503のカムフォロワ502が円筒カム501の溝交叉点501bに位置し、当該糸引出作動子駆動棹503は長手方向が略垂直方向に位置する状態であり、また、偏倚子制御腕506は、偏倚子制御腕バネ512の弾性力により制御台507の支持ピン507aを回動中心にして時計方向に弾発されているが、回転止めピン506cが制御台507の長穴507bの下端面に当接しているので、その位置において回転止めされている。また、偏倚子駆動腕508は、偏倚子駆動腕バネ510の弾性力により連結ピン511を回動中心にして反時計方向に弾発されているので、連結ピン508aが糸引出作動子駆動棹503の長穴503bの左端面に当接されるが、偏倚子制御腕506の長穴506aの左端面には当接しない状態になっている。
このような状態において上軸5が0度から60度まで回転することで円筒カム501が回転すると、カムフォロワ502が左方向に向かって徐々に形成されているカム溝501aに沿って移動するので、糸引出作動子駆動棹503は制御台507の支持ピン507aを回動中心にして反時計方向に揺動する。糸引出作動子駆動棹503が反時計方向に揺動することで長穴503bもその揺動方向となる右方向に移動することから、偏倚子駆動腕508の連結ピン508aを長穴503bの左端面で押し上げるので、偏倚子駆動腕508は偏倚子駆動腕バネ510の弾性力に抗して時計方向に揺動する。したがって、偏倚子16は糸引出連結リンク514を介して左方向に摺動して最大突出することになる(図19(A)、図19(B)、図5)。この偏倚子16の状態が図4(B)の状態であり、鉤針10が降下を開始している。なお、この状態においては、偏倚子制御腕506は偏倚子駆動腕508の連結ピン508aが長穴506a内を移動するだけである。
また、糸引出作動子駆動棹503が反時計方向に揺動することによって、糸引出作動子17は、糸引出作動子連結リンク514を介して右方向に摺動して後退するので、糸掛け部17aは回転釜200の右退避位置方向に移動する(図19(A)、図19(B)、図5)。この糸引出作動子17の状態が図4(B)の状態であり、鉤針10が降下を開始している。
さらに、上軸5が60度から180度まで回転することで円筒カム501が回転するが、上軸5の回転が120度を過ぎると、カムフォロワ502がさらに左方向に向かって徐々に形成されているカム溝501aに沿って移動するので、糸引出作動子駆動棹503は、さらに制御台507の支持ピン507aを回動中心にして反時計方向に揺動する。したがって、糸引出作動子17は糸引出作動子連結リンク514を介して、さらに右方向に摺動して後退する(図19(C)、図5)。この糸引出作動子17の状態が図4(C)の状態であり、鉤針10は降下中である。
また、糸引出作動子駆動棹503が、さらに反時計方向に揺動することによって、長穴503bの左端面に当接している偏倚子駆動腕508の連結ピン508aを、さらに押し上げる。この際、偏倚子駆動腕508の連結ピン508aが偏倚子制御腕506の長穴506aの右端面に当接後、さらに連結ピン508aが偏倚子制御腕506の長穴506aの右端面を右方向に移動させるので、偏倚子制御腕506は偏倚子制御腕バネ512の弾性力に抗して反時計方向に揺動する。偏倚子制御腕506が反時計方向に揺動すると、偏倚子駆動腕508は連結ピン508aが偏倚子制御腕506の長穴506aの右端面に当接したまま偏倚子制御腕506と共に反時計方向に揺動することになるので、偏倚子16は右方向に摺動して最大突出から後退を開始して、鉤針10が下死点に到達する前に偏倚子16の凹部16aで偏倚した縫糸20を鉤針10に周接させることができる(図19(C)、図5)。この偏倚子16の状態が図4(C)の状態であり、鉤針10は降下中である。
さらに、上軸5が180度から270度まで回転することで円筒カム501が回転すると、カムフォロワ502が右方向に向かって徐々に形成されているカム溝501aに沿って移動するので、糸引出作動子駆動棹503は制御台507の支持ピン507aを回動中心にして時計方向に揺動を開始する。したがって、糸引出作動子17は糸引出連結リンク514を介して左方向に摺動して前進を開始する(図19(D)、図5)。この糸引出作動子17の状態が図4(D)の状態であり、鉤針10は上昇を開始する。また、糸引出作動子駆動棹503が時計方向に揺動を開始すると、長穴503bの左端面に当接していた偏倚子駆動腕508の連結ピン508aが左方向に戻され、その連結ピン508aの左方向の移動により偏倚子制御腕506も偏倚子制御腕バネ512の弾性力によって時計方向に揺動して、回転止めピン506cが制御台507の長穴507bの下端面に当接した位置で停止する。したがって、偏倚子16は左方向に摺動してある程度前進して停止する(図19(D)、図5)。この偏倚子16の状態が図4(D)の状態であり、鉤針10は上昇を開始する。
さらに、上軸5が270度から360度まで回転することで円筒カム501が回転すると、糸引出作動子駆動棹503のカムフォロワ502が円筒カム501の溝交叉点501bに位置するので、偏倚子・糸引出作動子駆動機構500は図19(A)の状態と同一になる(図19(E)、図5)。この偏倚子16及び糸引出作動子17の状態が図4(E)の状態であり、鉤針10は上死点に位置することになる。
さらに、上軸5が360度から410度まで回転することで円筒カム501が回転すると、カムフォロワ502が右方向に向かって徐々に形成されているカム溝501aに沿って移動するので、糸引出作動子駆動棹503は制御台507の支持ピン507aを回動中心にして時計方向に揺動する。したがって、糸引出作動子17は糸引出連結リンク514を介して左方向に摺動して前進する(図19(F)、図5)。この糸引出作動子17の状態が図4(F)の状態であり、鉤針10は降下を開始する。また、糸引出作動子駆動棹503が時計方向に揺動することで長穴503bもその揺動方向となる左方向に移動するが、偏倚子駆動腕508の連結ピン508aは長穴503bの左端面に当接しているので、偏倚子16は回転釜200の右退避位置に退避している。(図19(F)、図5)。この偏倚子16の状態が図4(F)の状態であり、鉤針10は降下を開始する。
さらに、上軸5が410度から540度まで回転することで円筒カム501が回転しても、円筒カム501のカム溝501aは図19(F)と同位置のままなので、偏倚子16及び糸引出作動子17は停止している(図19(G)、図5)。この偏倚子16及び糸引出作動子17の状態が図4(G)の状態であり、鉤針10は下死点に位置することになる。
さらに、上軸5が540度から610度まで回転することで円筒カム501が回転すると、カムフォロワ502が右方向に向かって形成されているカム溝501aに沿って移動するので、糸引出作動子駆動棹503は制御台507の支持ピン507aを回動中心にして時計方向に揺動する。この際、偏倚子駆動腕508の連結ピン508aは糸引出作動子駆動棹503の長穴503b内を移動して当該長穴503bの右端面に当接すると共に糸引出作動子駆動棹503の揺動が停止する。したがって、糸引出作動子17は糸引出連結リンク514を介して左方向に摺動して前進する(図19(H)、図5)。この糸引出作動子17の状態が図4(H)の状態であり、鉤針10は上昇を開始している。また、糸引出作動子駆動棹503が時計方向に揺動することで長穴503bもその揺動方向となる左方向に移動するが、偏倚子駆動腕508の連結ピン508aは長穴503bの左端面方向に位置しているので、偏倚子16は回転釜200の右退避位置に退避している。(図19(H)、図5)。この偏倚子16の状態が図4(H)の状態であり、鉤針10は上昇を開始している。
さらに、上軸5が610度から720度まで回転することで円筒カム501が回転すると、カムフォロワ502が左方向に向かって形成されているカム溝501aに沿って移動するので、糸引出作動子駆動棹503は制御台507の支持ピン507aを回動中心にして反時計方向に揺動する。したがって、糸引出作動子17は糸引出連結リンク514を介して右方向に摺動して後退する(図19(H)、図19(A)図5)。この糸引出作動子17の状態が図4(A)の状態であり、鉤針10は上死点に位置することになる。また、糸引出作動子駆動棹503が時計方向に揺動することで長穴503bもその揺動方向となる左方向に移動するが、偏倚子駆動腕508の連結ピン508aは長穴503bの右端面方向に位置しているので、偏倚子16は回転釜200の右退避位置に退避している(図19(H)、図19(A)図5)。この偏倚子16の状態が図4(A)の状態であり、鉤針10は上死点に位置することになる。
このような縫製の1サイクルが繰り返されることで、被縫製体21の表面にハンドステッチ縫目、裏面に錠縫縫目をそれぞれ形成する。
糸寄せ機構600は図1、図2、図18に示すように、上軸5の釣合錘101及び円筒カム501間に設けられ上軸5の水平方向における回転運動を垂直方向における回転運動に変換するかさ歯車(bevel gear)607と、かさ歯車607で水平方向から垂直方向に変換された回転運動を伝達する糸寄せ軸604と、糸寄せ軸604の回転運動をクランク運動に変換する糸寄せ軸腕605とを備えている。
具体的には、かさ歯車607の第1歯車607Aが上軸5に固定され、第2歯車607Bが糸寄せ軸604の一端(上端)に固定されている。糸寄せ軸604の他端(下端)には糸寄せ軸腕605が固定され、糸寄せ軸腕605の腕端部605aには糸寄せ腕601が回動自在に装着されている。この糸寄せ腕601の先端には糸寄せ15が固定されている。また、ベッド3上には糸寄せ台606が糸寄せ腕601及び糸寄せ15を覆うようにして固定されると共に、糸寄せ軸604が貫通している。なお、糸寄せ15は常時、先端部15aが糸寄せ台606から突出しており、また、糸寄せ台606の先端には糸寄せ15を摺動自在に嵌め込むための穴606aが形成されている。
このような構成の糸寄せ機構600は上軸5が回転すると、かさ歯車607の第1歯車607Aが外釜201の第2歯車607Bを介して糸寄せ軸604を回転させるので、糸寄せ軸腕605がクランク運動して糸寄せ腕601を介して糸寄せ15を進退させながら揺動させる。この際、糸寄せ15は、縫製方向Lに直交する方向には揺動範囲は限定されないが縫製方向Lと同一方向には糸寄せ台606の穴606aによって揺動範囲が限定されるので、糸寄せ15の先端部15aを楕円運動させることができる。したがって、糸寄せ15は図5のモーションダイヤグラムに示す移動軌跡のように運動するので、鉤針10の第2ストロークにおいて鉤針10が上死点から下降する際に糸捕捉鉤10aで捕捉された縫糸20を鉤針10の針先と被縫製体21の間で糸寄せ15の先端部15aで掬って糸寄せすることが可能になる。
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。