JP2008020386A - オージェ電子分光による化学状態分析法及び装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 FeO(2価)とFe2O3(3価)を標準試料、Fe3O4を被験試料として、FeOとFe2O3の標準スペクトルを用いて、Fe3O4からのスペクトルに対して最小二乗法のフィッティング計算による波形分離計算を行う。convolution曲線は、最もよいフィッティング結果を与えるときの、FeOとFe2O3の標準スペクトルに各々係数を乗じて合成されたスペクトルである。このときのFeOとFe2O3の係数に基づいて、Fe3O4中の2価と3価の鉄原子の存在比率を求めることができる。
【選択図】図3
Description
細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置による化学状態分析法であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む複数の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算を行うステップとを備えたことを特徴とする。
前記チタン以外の元素の窒素化合物のみからなる試料からのN−KLLオージェスペクトル及び金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトル、又はN−KLLとTi−LMMが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのN−KLLとTi−LMMの重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記下地と前記薄膜に含まれる窒素の存在比率を求めることを特徴とする。
試料から発生したオージェ電子のエネルギーと前記電子エネルギーアナライザに入射する時のエネルギーに対する減速比を一定にして前記試料から発生したオージェ電子のエネルギーを測定する方法におけるエネルギー分解能が0.35%以上の電子エネルギーアナライザを用いることを特徴とする。
化学状態が異なる分析対象元素を含む少なくとも2種類の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算手段とを備えたことを特徴とする。
化学状態が異なる分析対象元素を含む複数の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算を行うステップとを備えたので、
分析対象元素の化学状態が混在していても、その化学状態毎の割合を知ることができる。
鉄の化学状態が混在していても、その化学状態毎の割合を知ることができる。
前記被験試料がチタンと窒素を同時に含むためチタンと窒素のオージェスペクトルが重なるという問題解決して、チタン化合物と窒素化合物の化学状態へと波形分離が可能となり、化学状態毎の存在比率を求めることができる。さらに求められた化学状態毎の存在比率から、前記被験試料に含まれる元素毎の定量値を知ることができる。
チタンの化学状態が混在していても、異なる化学状態にあるチタン毎の割合を知ることができる。
前記チタン以外の元素の窒素化合物のみからなる試料からのN−KLLオージェスペクトル及び金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトル、又はN−KLLとTi−LMMが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのN−KLLとTi−LMMの重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記下地と前記薄膜に含まれる窒素の存在比率を求めるようにしたので、
従来は極表面のみの分析が行えるオージェ電子分光分析によっても困難とされてきた、チタンと窒素を含む下地上に形成された1〜2nm程度の極薄い窒化物層のみの分析を行うことができる。
試料毎に異なるバックグランドを一定の方法で除去した後のスペクトルを用いて前記波形分離計算を行うことができる。
Fe-LMMオージェスペクトルを用いた鉄の化学状態分析と、Ti−LMMオージェスペクトルを用いたチタンの化学状態分析を正しく行うことができる。
化学状態が異なる分析対象元素を含む少なくとも2種類の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算手段とを備えたので、
分析対象元素の化学状態が混在していても、その化学状態毎の割合を分析より求めることのできるオージェ電子分光装置を提供することができる。
波形分離に用いるスペクトルのエネルギー幅をn点で分割する。式(1)の左辺が被験試料からのスペクトルのy成分(オージェ電子強度)であり、右辺はそれに相当する標準試料スペクトル(S1〜Sm)のy成分の集合行列である。ここで示すa1,a2,…,amが各標準スペクトルの係数であり、bが定数ベクトルである。この左辺から右辺を引いたものが残差Σであり、式(2)に示すように、この残差が最小になる係数aと定数bを計算する。
残差Σ2は、必ず正の値となることが明らかなので、この式をa1,a2,…,amで偏微分し、その偏微分した値が0となる点が最小の残差である。よって、次式を満たすように方程式の解を求めれば、各標準試料からのスペクトルの係数aと定数bが求まる。
これらの偏微分方程式を解いて、a1,a2,…,amの各標準スペクトルの係数と定数bを求めることができる。ただし、条件としてa1,a2,…,amはすべて正の数であるという条件を付加して解を求める。以上のようにして、最小二乗法によるピーク分離を行う。
このようにして求められた各標準スペクトルの係数a1,a2,…,amは、被験試料における化学状態毎の存在比率に相当する。なお、実際に波形分離計算を行う際は、ピークシフト等を考慮して非負拘束条件付の最小二乗法を用いることが望ましい。
はじめに、Fe−LMMオージェスペクトルを使って、鉄の酸化状態を評価する方法について検討した結果を説明する。図1と図2は、FeO,Fe2O3,Fe3O4の標準試料について、それぞれエネルギー分解能が0.5%と0.1%の電子エネルギーアナライザにより測定したFe−LMMオージェスペクトルを示している。ここで、上記エネルギー分解能の定義は、電子エネルギーアナライザへの入射スリットを通過する電子のパスエネルギーをE、検出される電子のエネルギー幅をΔEとしたときのΔE/Eである。なお、パスエネルギーEは、試料から発生したオージェ電子のエネルギーEoとパスエネルギーEに対する減速比Eo/Eを一定にしてオージェ電子のエネルギーを測定するモード(CRR:Constant Retarding Ratio)によって決められる値である。
FeOの係数×FeO中のFe原子濃度=0.2774×0.5
Fe3+の原子濃度は、
Fe2O3の係数×Fe2O3中のFe原子濃度=0.7226×0.4
として、波形分離計算により求めた係数からFe3O4を構成するFe原子の化学状態の存在比率を求めることができる。
表1における換算された原子濃度をみると、Fe2+とFe3+の原子濃度がFe3O4の理論値に近い値が得られており、FeOとFe2O3のスペクトルを2価と3価の標準スペクトルとして、Fe3O4の化学状態を分離できることが分かった。
次に、Ti−LMMオージェスペクトルによる化学状態分析を用いて、炭窒化チタン(以下、TiCNと記す)化合物におけるTiCとTiNの割合を求める方法について説明する。この方法は、Ti原子の結合相手がCとNに依存してTi−LMMオージェスペクトルが変化することを利用して、TiCとTiNの存在比率を見積もる方法である。このとき、TiNにおいてオーバーラップしているTiとNのスペクトルを恰も一つのスペクトルであるように扱うことで、TiとNのスペクトルがオーバーラップして定量が行えないという問題を解決している。
次に、図11に示すような、チタンと窒素を含む下地上に形成された1〜2nm程度の極薄い窒化物層の分析方法について説明する。試料に入射した電子線により試料内部でもオージェ電子は発生するが、オージェ電子の試料内での平均自由行程は短いので、一般に分析に寄与するオージェ電子の発生する深さ(本発明においては、「オージェ電子分光の実効分析深さ」と称す)は、図11に示されるように5nm程度である。従って、もし下地上に厚さが1〜2nm程度の薄膜が形成されていても、その薄膜のみを分析することは、オージェ電子分光分析を用いても極めて困難である。特に、分析対象元素が窒素の場合、図11に示すようにチタンと窒素を含む下地が存在する場合は、下地上にチタンを含まない窒化物層が存在するか否かさえも知ることができない。実施の形態3の発明は、このような試料において効果を発揮することができる。
(実施例1)
はじめに、Fe−LMMスペクトルによる波形分離法を用いて、身の回りにある鉄錆の分析を行った例を示す。図6に示した二次電子像は、どちらも鉄試料を大気中に長期間さらして、自然に酸化していたものである。図6(a)は肉眼的に黒色をした、所謂黒錆試料である。図6(b)は赤錆試料であるが、肉眼で見ても場所によって赤色した所や黒色した所が混在している。赤色して均一だと思われた領域を二次電子像で観察すると、図6(b)に示すように領域Aと領域Bの二種類の領域が存在することがわかった。
図8に示す結果をみると、図3の時のようにFeとFeOとFe2O3のスペクトルの和で示されるconvolution曲線と完全に重なってはいない。これは他の分析点でも同じで、完全に重なることはなかった。この理由は、水酸化物等の別の化学状態にあるFeが存在する可能性を示しているためと思われる。しかしここでは、FeとFeOとFe2O3のスペクトルのみを使って、ピーク分離計算と評価を行った。
次に、TiCN化合物の中の偏析について分析を行った結果を説明する。既に実施の形態の中で述べたように、Ti−LMMオージェスペクトルによる波形分離を用いたTiC3N7の分析結果は、分析の平均値をとればTiC3N7の理論値とよい一致が得られている。ところが、図9の二次電子像から、TiC3N7は2種類の異なる結晶粒が存在していることが分かった。図9の二次電子像から、TiC3N7は表面がスムースな結晶粒と少し凹凸のある結晶粒の2種類がほぼ同率で存在していることがわかる。それぞれの結晶粒を代表する分析点P1とP2において測定したオージェスペクトルを図10に示す。図10からは、P1とP2とではTi−LMMスペクトルが若干異なっていることが分かる。P1とP2で測定したスペクトルに対して波形分離計算を行い、得られた標準スペクトルの係数と換算した原子濃度を表4に示す。
P1、P2 分析点
Claims (8)
- 細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置による化学状態分析法であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む複数の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得するステップと、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算を行うステップとを備えたことを特徴とする化学状態分析法。 - 前記被験試料が前記分析対象元素として鉄を含むとき、Fe、FeO、Fe2O3、Fe3O4のうちの少なくとも2種類の標準試料からのFe-LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのFe-LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれる鉄の化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析法。
- 前記被験試料がチタンと窒素を同時に含み、チタン又は窒素が前記分析対象元素であるとき、チタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の複数の標準試料から得られたTi−LMMオージェスペクトル、N−KLLオージェスペクトル、又はTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMとN−KLLとが重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタン又は窒素の何れか又は両方を含む化合物の化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項1に記載の化学状態分析法。
- 前記被験試料が前記分析対象元素としてチタンを含み、炭素と窒素と酸素のうちの少なくともひとつの元素とチタンとの化合物であるとき、金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのTi−LMMオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記被験試料に含まれるチタンの化学状態毎の存在比率を求めることを特徴とする請求項3に記載の化学状態分析法。
- 前記被験試料の前記分析対象元素が窒素であり、チタンを含む化合物からなる下地と、前記下地上に形成されたチタン以外の元素の窒素化合物からなる薄膜とからなり、前記薄膜の厚さがオージェ電子分光の実効分析深さより薄いとき、
前記チタン以外の元素の窒素化合物のみからなる試料からのN−KLLオージェスペクトル及び金属チタンと炭化チタンと窒化チタンと酸化チタンのうちの少なくとも2種類の標準試料からのTi−LMMオージェスペクトル、又はN−KLLとTi−LMMが重畳したオージェスペクトルを用いて、前記被験試料からのN−KLLとTi−LMMの重畳したオージェスペクトルに対して前記波形分離計算を行い、求められた前記係数に基づいて前記下地と前記薄膜に含まれる窒素の存在比率を求めることを特徴とする請求項3に記載の化学状態分析法。 - 前記波形分離計算を行うために、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルのバックグランドを除去するバックグランド除去手段を備え、前記バックグランド除去方法は、前記標準試料からのスペクトル及び被験試料からのスペクトルとして微分スペクトルを用いることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の化学状態分析法。
- 前記オージェ電子分光装置に備えられた電子エネルギーアナライザにより前記標準スペクトル及び被験試料からのスペクトルを測定するとき、
試料から発生したオージェ電子のエネルギーと前記電子エネルギーアナライザに入射する時のエネルギーに対する減速比を一定にして前記試料から発生したオージェ電子のエネルギーを測定する方法におけるエネルギー分解能が0.35%以上の電子エネルギーアナライザを用いることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の化学状態分析法。 - 細く絞った電子線を試料表面に照射して試料の極表面分析を行うオージェ電子分光装置であって、
化学状態が異なる分析対象元素を含む少なくとも2種類の標準試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
被験試料からの前記分析対象元素のオージェスペクトルを取得する手段と、
前記標準試料からのスペクトルに各々の係数を乗じたものの加算スペクトルと前記被験試料からのスペクトルとの残差が最小を与えるときの前記係数を求める波形分離計算手段とを備えたことを特徴とするオージェ電子分光装置。
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