パターン形成は、胚細胞が種々の組織の秩序立った空間的配置を形成する活動である。高等生物の身体の複雑さは、細胞固有の系列と細胞外からのシグナリングとの相互作用から胚形成中に生じる。誘導性相互作用は、ボディープランの最初の確立から臓器系のパターン形成に至る脊椎動物の発生における胚のパターン形成に必須であり、組織分化中に多様な細胞型の生成に至る。(Davidson, E., (1990) Development 108: 365-389; Gurdon, J. B., (1992) Cell 68: 185-199; Jessell, T. M. et al., (1992) Cell 68: 257-270)。しかしながら、複雑さの生成及び胚形成中に始まる細胞の同定及び行動の微細な区別は、成体期中、続く。細胞固有の及び細胞外からのシグナリング並びに相互作用は、成体期の発生における細胞増殖、細胞分化、移動及び生存に影響し続ける。
シグナリング分子のヘッジホッグファミリーのメンバーは、無脊椎動物及び脊椎動物の胚、胎児及び成体の発生における多くの重要な近距離及び遠距離パターニング過程を媒介する。ハエにおいては、単一のヘッジホッグ遺伝子が、体節及び成虫盤パターニングを調節する。対照的に、脊椎動物においては、ヘッジホッグ遺伝子ファミリーが、3つの胚葉のすべてに由来する細胞及び組織の増殖、分化、移動及び生存の制御に関与している。非制限的例として、ヘッジホッグシグナリングは、左右非対称、CNS発生、原体節及び肢のパターニング、軟骨形成及び骨形成、及び***形成に関与している。
最初のヘッジホッグ遺伝子は、ショウジョウバエのドロソフィラ・メラノガスターにおける遺伝子スクリーニングにより同定された(Nusslein-Volhard, C. and Wieschaus, E. (1980) Nature 287, 795-801)。このスクリーニングは、胚及び幼虫の発生に影響を与える幾つかの変異を同定した。1992年及び1993年に、ドロソフィラのヘッジホッグ(hh)遺伝子の分子的性質が報告され(C.F., Lee et al. (1992) Cell 71, 33-50)、その後、幾つかのヘッジホッグ同族体が、種々の脊椎動物種から単離された。ドロソフィラ及び他の無脊椎動物においては唯一つのヘッジホッグ遺伝子が見出されたが、脊椎動物では多数のヘッジホッグ遺伝子が存在している。
ヘッジホッグ遺伝子の脊椎動物のファミリーには、少なくとも4つのメンバー例えば、単一のドロソフィラのヘッジホッグ遺伝子のパラログが含まれる。典型的なヘッジホッグ遺伝子及びタンパク質は、PCT公開WO95/18856及びWO96/17924に記載されている。これらのメンバーのうちの3つは、ここでは、デザートヘッジホッグ(Dhh)、ソニックヘッジホッグ(Shh)及びインディアンヘッジホッグ(Ihh)と呼ばれ、明らかに、魚類、鳥類及び哺乳動物を含むすべての脊椎動物に存在する。第四のメンバーは、ここでは、ティギーウィンクルヘッジホッグ(Thh)と呼ぶが、魚類に特異的であるようである。デザートヘッジホッグ(Dhh)は、マウスの胚発生中及び成体のゲッ歯類とヒトの両方で、主として精巣で発現され;インディアンヘッジホッグ(Ihh)は、胚形成中及び成体の骨形成中の骨の発生に関与しており;そしてShhは、多数の胚性及び成体の細胞型(3つのすべての系統に由来する)に含まれる。胚発生及び成体の発生におけるヘッジホッグポリペプチド及びヘッジホッグシグナリングの臨界的役割並びに様々な病気における異所的ヘッジホッグシグナリングの役割を仮定すると、ヘッジホッグシグナリングを改変するための改良された方法及び組成物への相当の要求がある。
様々なヘッジホッグタンパク質は、シグナルペプチド、高度に保存されたN末端領域、及び一層発散するC末端ドメインからなっている。分泌経路におけるシグナル配列の開裂(Lee, J.J. et al. (1992) Cell 71:33-50; Tabata, T. et al. (1992) Genes Dev. 2635-2645; Chang, D.E. et al. (1994) Development 120:3339-3353)に加えて、ヘッジホッグ前駆体タンパク質は、C末端部分の保存配列に依存する内部自動タンパク質分解性開裂を受ける(Lee et al. (1994) Science 266:1528-1537; Porter et al. (1995) Nature 374:363-366)。この自動開裂は、19kDのN末端ペプチド及び26〜28kDのC末端ペプチドへと導く(Lee et al. (1992) supra; Tabata et al. (1992) supra; Chang et al. (1994) supra; Lee et al. (1994) supra; Bumcrot, D.A., et al. (1995) Mol. Cell. Biol. 15:2294-2303; Porter et al. (1995) supra; Ekker, S.C. et al. (1995) Curr. Biol. 5:944-955; Lai, C.J. et al. (1995) Development 121:2349-2360)。N末端ペプチドは、それが合成された細胞の表面としっかりと結合されて存在するが、C末端ペプチドは、インビトロ及びイン・ビボの両方で自由に拡散しうる(Porter et al. (1995) Nature 374:363; Lee et al. (1994) supra; Bumcrot et al. (1995) supra; Marti, E. et al. (1995) Development 121:2537-2547; Roelink, H. et al. (1995) Cell 81:445-455)。興味深いことには、N末端ペプチドの細胞表面での保持は、内部開裂の正常位置で正確に終了するRNAによりコードされるHHの切り詰め型がイン・ビトロ(Porter et al. (1995) supra)及びイン・ビボ(Porter, J.A. et al. (1996) Cell 86, 21-34)で拡散しうるので、自動開裂に依存している。生化学的研究は、HH前駆体タンパク質の自動タンパク質分解性開裂が内部チオエステル中間体を通して進行し、該中間体はその後親核置換にて開裂されることを示した。ドロソフィラ及び脊椎動物における近距離及び遠距離ヘッジホッグシグナリング活性に必要十分なのは、このN末端ペプチドである(Porter et al. (1995) supra; Ekker et al. (1995) supra; Lai et al. (1995) supra; Roelink, H. et al. (1995) Cell 81:445-455; Porter et al. (1996) supra; Fietz, M.J. et al. (1995) Curr. Biol. 5:643-651; Fan, C.-M. et al. (1995) Cell 81:457-465; Marti, E., et al. (1995) Nature 375:322-325; Lopez-Martinez et al. (1995) Curr. Biol 5:791-795; Ekker, S.C. et al. (1995) Developement 121:2337-2347; Forbes, A.J. et al. (1996) Development 122:1125-1135)。
上で簡単に概説したように及びここで更に詳述するように、ヘッジホッグタンパク質及びヘッジホッグシグナリングは、胚発生及び成体の発生中における多くの細胞型の増殖、分化、移動及び生存の調節において臨界的役割を演じている。その上、異常なヘッジホッグシグナリング(例えば、ヘッジホッグシグナリング経路の成分の変異、ヘッジホッグシグナリング経路の成分の誤発現など)は、多くの病気と関係付けられてきた。
今まで、多くのHHシグナリング成分が、同定されてきた。これらのHHシグナリング成分の多くにおける変異は、様々な病気例えば癌と関係付けられてきた。従って、HHシグナリング経路の機能を、例えばHHシグナリングに関与する個々のメンバーの活性及び/又は発現を調節することによって調節することは望ましい。しかしながら、重要な生物学的経路に関係する標的遺伝子の発現を調節することは、現代医学の主要なチャレンジである。外因的に真核細胞に導入された導入遺伝子の過剰発現は、比較的簡単であるが、特定の内因性遺伝子の狙いを定めた阻害は、達成するのが一層困難である。位置指定遺伝子破壊、アンチセンスRNA又は同時抑制又はインジェクションを含む遺伝子発現を抑制するための伝統的アプローチは、複雑な遺伝子操作又は高投与量のサプレッサー(しばしば、宿主細胞の毒性許容レベルを超える)を必要とする。
発明の概要
本発明は、RNA干渉(RNAi)を利用するヘッジホッグシグナリングと拮抗するための方法及び試薬を企図する。ヘッジホッグシグナリングの拮抗作用は、細胞の望ましくない増殖、成長、分化又は生存の少なくとも一つを低減させ又は阻害するために利用することができる。細胞のかかる望ましくない増殖、成長、分化又は生存は、多くの形態の癌を含む状況において認めうる。
ある面において、本発明は、活性ヘッジホッグ(HH)シグナリング経路により細胞中で生じる望ましくない成長状態を阻害するための利用可能な方法及び試薬を作る。一具体例において、主題の方法は、細胞がgli遺伝子を過剰発現するかどうかを測定することにより及びgli遺伝子を過剰発現する細胞を有効量のヘッジホッグアンタゴニストと接触させることにより望ましくない細胞増殖を阻害するために利用することができる。好適具体例において、この望ましくない細胞増殖は、癌であり又は良性の前立腺肥厚である。本発明の他の面は、患者から組織試料を得て、該試料中のgli遺伝子発現のレベルを測定することを含み、gli遺伝子の過剰発現が、ヘッジホッグアンタゴニストによる治療が適当であることを示す治療プロトコールを決定するために利用可能な方法を作る。
他の好適具体例において、この発明のヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、短いヘアピン(ステムループ)siRNA、合成siRNA、又はプロセッシングを受けて一層短いsiRNA(21〜23ヌクレオチド)になりうる一層長いdsRNAをコードするDNAベクターから転写されるsiRNAである。
ある具体例において、本発明のRNAiアンタゴニストは、2000ダルトン未満の小型分子、ヘッジホッグ抗体、パッチト抗体、スムースンド抗体、変異型ヘッジホッグタンパク質、アンチセンス核酸、及びリボザイムから選択される他の非RNAiHHアンタゴニストと共に用いられることが企図される。特に好適な具体例において、これらの非RNAiヘッジホッグアンタゴニストは、同時係属中の米国特許出願第10/652,298号(参考として本明細書中に援用する)に記載された式I〜XXVの一つから選択される。特に好適な具体例において、非RNAiヘッジホッグアンタゴニストは、シクロパミン、コンパウンドA、トマチジン、ジャービン、AY9944、トリパラノール、コンパウンドB、及びUSSN10/652,298号に記載されたような機能的に有効なこれらの誘導体から選択される。更に別の好適具体例において、非RNAiヘッジホッグアンタゴニストは、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体から選択するヘッジホッグ抗体である。典型的なモノクローナル抗体は、脊椎動物のヘッジホッグポリペプチドと特異的に免疫反応性である。好適具体例において、かかる特異的に免疫反応性のモノクローナル抗体は、無脊椎動物ヘッジホッグポリペプチド又は他の非ヘッジホッグポリペプチドと実質的に交差反応しない。主題の方法でヘッジホッグアンタゴニストとして使用するための典型的なヘッジホッグモノクローナル抗体には、5E1及び5E1と同じエピトープを認識する抗体が含まれる。5E1は、2002年8月13日にATCCに寄託された。更に別の面において、この発明は、主題の方法において使用するためのヘッジホッグRNAiアンタゴニストの治療用組成物を提供する。これらの治療用組成物には、ヘッジホッグRNAiアンタゴニスト単独、又は他の非RNAiHHアンタゴニスト例えばヘッジホッグモノクローナル抗体及びヘッジホッグポリクローナル抗体の少なくとも一つと組合せたヘッジホッグRNAiアンタゴニストが含まれるが、これらに限られない。本発明は、更に、製薬上許容しうる賦形剤又はキャリアーと配合した一種より多くのヘッジホッグRNAiアンタゴニストの組合せを含む治療用組成物をも企図する。典型的な治療用組成物は、製薬上許容しうる賦形剤又はキャリアーと配合した2種以上のヘッジホッグRNAiアンタゴニストの組合せを含む。更なる典型的組成物は、一種以上のヘッジホッグRNAiアンタゴニスト、一種以上のヘッジホッグ非RNAiアンタゴニスト(例えば、小型有機分子、抗体など)及び製薬上許容しうる賦形剤又はキャリアーの組合せを含む。
更に別の面において、本発明は、活性ヘッジホッグシグナリング経路を有する細胞の望ましくない増殖、成長、分化又は生存の少なくとも一つを阻害するための利用可能な方法及び試薬を作る。一具体例において、主題の方法は、望ましくない細胞増殖、生育、分化又は生存の少なくとも一つを、細胞がgli遺伝子を過剰発現するか測定すること及びgli遺伝子を過剰発現する細胞を有効量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることによって阻害するために利用することができる。更に別の具体例において、主題の方法は、望ましくない細胞の増殖、生育、分化又は生存の少なくとも一つを、細胞がヘッジホッグ遺伝子を過剰発現するか測定して、ヘッジホッグ遺伝子を過剰発現する細胞を有効量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることによって阻害するために利用することができる。好適具体例において、望ましくない細胞の増殖、生育、分化又は生存は、癌又は良性の前立腺肥厚である。
主題の方法により治療することのできる癌の典型的形態には、前立腺癌、膀胱癌、肺癌(小細胞癌又は非小細胞癌を含む)、結腸癌、腎臓癌、肝臓癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜又は他の子宮癌、卵巣癌、精巣癌、陰茎癌、膣癌、尿道癌、膀胱癌、食道癌、又は膵臓癌が含まれるが、これらに限られない。主題の方法により治療することのできる癌の更なる典型的形態には、骨格筋又は平滑筋の癌、胃癌、小腸の癌、唾液腺癌、肛門癌、直腸癌、甲状腺癌、副甲状癌、下垂体癌、及び鼻咽腔癌が含まれるが、これらに限られない。本発明のヘッジホッグアンタゴニストにより治療することのできる癌の更なる典型的な形態には、ヘッジホッグを発現する細胞を含む癌が含まれる。本発明のヘッジホッグRNAiアンタゴニストにより治療することのできる癌の尚更なる典型的形態には、gliを発現する細胞を含む癌が含まれる。ある例において、その癌は、パッチト−1の変異を特徴としていない。この発明は、本発明のヘッジホッグRNAiアンタゴニストを単独で使用することもできるし、又は他のヘッジホッグ治療剤及び/又は他の伝統的若しくは非伝統的治療を含む全体的治療養生法の部分として投与することもできることを企図する。
本発明は、更に、癌患者のための適当な治療養生法を決定する方法をも企図する。如何なる特定の理論にも束縛されないが、ヘッジホッグ遺伝子又はgli遺伝子を発現するか又はヘッジホッグ遺伝子又はgli遺伝子を同じ組織型の非癌細胞と比較して過剰に発現する癌は、本発明のヘッジホッグRNAiアンタゴニストによる治療に一層従順でありうる。従って、ヘッジホッグ遺伝子又はgli遺伝子の発現を測定する方法は、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストを利用する治療が適当であるかどうか(即ち、有効であることがありそうか)を決定するために利用することができる。
他の面において、本発明は、少なくとも一のヘッジホッグRNAiアンタゴニストの、患者の癌を治療するための医薬の製造における利用を提供する。
他の面において、本発明は、少なくとも一のヘッジホッグRNAiアンタゴニストの、細胞の望ましくない成長、増殖又は生存を減じるための医薬の製造における利用を提供する。
この発明は、作用機構にかかわらず、ヘッジホッグアンタゴニストの任意の組合せの利用を企図する。典型的なヘッジホッグアンタゴニストには、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、抗体、RNAi構築物、小型分子、リボザイムなどが含まれるが、これらに限られない。
この発明の更なる面は、肺細胞を、界面活性物質産生を刺激するのに有効な量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含む肺細胞における界面活性物質産生を刺激する方法を提供する。この発明の他の面は、肺細胞におけるラメラ体形成を刺激する方法であって、該細胞を、ラメラ体形成を刺激するのに有効な量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含む当該方法を提供する。好適具体例において、この肺細胞は、未成熟の幼児の肺組織内に存在する。
従って、この発明の一つの面は、細胞の望ましくない成長、増殖又は生存の少なくとも一つを阻害する方法であって、該細胞を、有効量のヘッジホッグ経路の標的配列に対するヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含み、該標的配列がヘッジホッグ経路の正のレギュレーターであり、該細胞を該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることが細胞の成長、増殖又は生存の少なくとも一つを減少させる当該方法を提供する。
一具体例において、この方法は、更に、該細胞が、gli遺伝子を発現するかどうかを測定すること、及び該gli遺伝子を発現する細胞を、有効量のヘッジホッグ経路の標的配列に対するヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含む。
一具体例において、該gli遺伝子は、gli−1である。
一具体例において、該望ましくない細胞増殖は、癌である。
一具体例において、該望ましくない細胞増殖は、良性の肥厚である。
一具体例において、当該癌は、尿生殖器の癌である。
一具体例において、当該癌は、悪性の神経膠腫、髄膜腫、髄芽細胞腫、神経外胚葉性腫瘍及び上衣細胞腫を含む神経系の癌である。
一具体例において、当該癌は、肺、前立腺、***、卵巣、子宮、筋肉、膀胱、結腸、腎臓、膵臓及び肝臓組織の少なくとも一つと関係している。
一具体例において、当該***組織と関係する癌の形態は、下位腺管癌、下葉癌腫、腺管内癌腫、髄質癌腫及び管状腺癌から選択される。
一具体例において、当該肺組織と関係する癌は、腺癌、気管支肺胞腺癌及び小細胞癌から選択される。
一具体例において、当該前立腺と関係する癌は、腺癌である。
一具体例において、当該望ましくない細胞増殖は、望ましくない血管形成である。
一具体例において、当該ヘッジホッグアンタゴニストを利用して、望ましくない血管形成を減少させる。望ましくない血管形成は、次の何れかにおいて起こりうる:腫瘍成長、腫瘍転移、又は内皮細胞による異常成長(新血管新生疾患、加齢関連黄斑変性、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植の拒絶、新血管新生性緑内障、水晶体後繊維増殖症、流行性角結膜炎、ビタミンA欠乏症、コンタクトレンズ疲労症、アトピー性角膜炎、上輪部角結膜炎、表皮爪膜乾燥症、シェーグレン酒性座瘡、フリクテン症、梅毒、ミコバクテリア感染症、脂質退行変性、化学的火傷、細菌性潰瘍、真菌性潰瘍、単純ヘルペス感染症、帯状疱疹、原虫感染症、カポジ肉腫、モーレン潰瘍、テリエン辺縁変性、辺縁表皮剥離、慢性関節リウマチ、全身性狼瘡、多発性動脈炎、外傷、ウェゲナー肉芽腫症、類肉腫症、鞏膜炎、スティーヴンズ-ジョンソン病、周辺放射角膜切開、角膜移植片拒絶、慢性関節リウマチ、骨関節症慢性的炎症(例えば、潰瘍性大腸炎又はクローン病)、血管腫、遺伝性出血性毛細管拡張症及び遺伝性出血性毛細管拡張症を含む)。
一具体例において、該望ましくない血管形成は、傷の治癒、***、及び受精後の胞胚の着床を含む正常な生理的過程において起きる。
一具体例において、該細胞の該望ましくない成長、増殖又は生存は、正常な毛髪の成長、異所発毛症、多毛症、多毛性早熟症、又は毛嚢炎(脱毛性毛嚢炎、網状瘢痕性紅斑性毛嚢炎、ケロイド毛嚢炎及び擬似毛嚢炎を含む)において起きる。
一具体例において、該望ましくない細胞増殖は、良性の前立腺肥厚である。
一具体例において、該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストを利用して、培養における未拘束の幹細胞の増殖、分化、又は生存を調節する。例えば、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストを利用して、幹細胞の最終分化した神経細胞への分化を、脳内移植における利用のために調節することができる。一具体例において、該最終分化した神経細胞には、グリア細胞、シュワン細胞、クロム親和性細胞、コリン作動***感神経又は副交感神経ニューロン、及びペプチド作動性及びセロトニン作動性ニューロンが含まれる。一具体例において、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、該未拘束の幹細胞の特定の分化の運命を一層増進する他の神経栄養性因子と組み合わせて利用される。
この発明の関連する面は、細胞の所望の成長、増殖、分化又は生存の少なくとも一つを刺激する方法であって、該細胞をヘッジホッグ経路の標的配列に対する有効量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含み;該標的配列が、該ヘッジホッグ経路の負のレギュレーターであり、該細胞を該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることが細胞の成長、増殖、分化又は生存の少なくとも一つを増大させる当該方法を提供する。
一具体例において、該所望の成長、増殖、分化又は生存は、(i)外傷性傷害、化学的傷害、血管傷害、及び発作、感染/炎症及び腫瘍誘導性傷害の結果生じる欠乏、虚血を含む神経系に対する急性、亜急性、又は慢性の傷害;(ii)アルツハイマー病を含む神経系の加齢;(iii)パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症及び脊髄小脳変性症を含む神経系の慢性的な神経退行性疾患;及び(iv)多発性硬化症を含む神経系の(即ち、神経系に影響する)慢性免疫疾患に由来する神経病学的条件において起きる。
一具体例において、該所望の成長、増殖、分化、又は生存は、軟骨形成及び/又は骨形成において起きる。
一具体例において、該軟骨形成及び/又は骨形成は、可動関節又は顎関節の軟骨の治療又は軟骨移植及び補綴デバイス治療における治療介入において起きる。
一具体例において、該軟骨形成及び/又は骨形成は、骨格組織が欠損している動物の部位における骨の形成(骨形成)のための養生法において起きる。
一具体例において、該所望の成長、増殖、分化又は生存は、毛髪の再生又は再成長において起きる。
一具体例において、該毛髪の再生又は再成長は、化学療法又は放射線療法の後で起きる。
一具体例において、RNAiアンタゴニストは、siRNAアンタゴニストである。
一具体例において、該siRNAアンタゴニストは、プラスミド(RNAi発現ベクター)からの転写又は外因性の合成後に形成されるsiRNAである。
一具体例において、該siRNAは、該プラスミド(RNAi発現ベクター)の単一プロモーターからの転写後に形成される短いヘアピンsiRNAである。
一具体例において、該siRNAは、該プラスミド(RNAi発現ベクター)上の2つの隣接コンバージェントプロモーターからの転写後に形成される短いdsRNAである。
一具体例において、該siRNAは、凡そ19〜30ヌクレオチド長である。
一具体例において、該siRNAは、21〜23ヌクレオチド長である。
一具体例において、該siRNAは、一層長い少なくとも25、50、100、200、300、400、又は400〜800塩基長の二本鎖RNAのヌクレアーゼダイシングにより生成される断片である。
一具体例において、該siRNAは、二本鎖であり、一端又は両端に短いオーバーハングを含む。
一具体例において、該短いオーバーハングは、3’末端で1〜6ヌクレオチド長であって、3’末端で2〜4ヌクレオチド長であり、又は3’末端で1〜3ヌクレオチド長である。
一具体例において、該siRNAの一の鎖は、3’オーバーハングを有して、他の鎖は鈍端であり、又は同じ若しくは異なる長さのオーバーハングを有する。
一具体例において、該3’オーバーハングは、分解に対して安定化される。
一具体例において、該3’オーバーハングは、プリンヌクレオチドのアデノシン又はグアノシンを含有することにより分解に対して安定化される。
一具体例において、該3’オーバーハングは、ピリミジンヌクレオチドを改変類似体により置換することにより例えばウリジンヌクレオチド3’オーバーハングの2’−デオキシチミジンによる置換によって分解に対して安定化される。
一具体例において、該siRNAは、化学的に合成される。
一具体例において、該RNAiは、該標的核酸配列と同一若しくは実質的に同一である二本鎖RNAの長いストレッチ、又は該標的核酸配列の一領域にのみ同一若しくは実質的に同一である二本鎖RNAの短いストレッチの何れかを含む。
一具体例において、該標的配列は、表Xに列記した正のHHシグナリング成分、又は表Yに列記した負のHHシグナリング成分である。
一具体例において、該標的配列は、ヒトの配列である。
一具体例において、該標的配列は、非ヒト配列である。
一具体例において、該標的配列は、表X又はYに列記した配列の何れか一つの同族体であるが、表X又はYに列記されたもの自体ではない。
一具体例において、該RNAiアンタゴニストは、同じHHシグナリング成分の幾つかの同族体の一のメンバーに特異的である。
一具体例において、該HHシグナリング成分は、哺乳動物のヘッジホッグであり、該RNAiアンタゴニストは、Shhに特異的である。
一具体例において、該RNAiアンタゴニストは、同じHHシグナリング成分の幾つかの同族体の一のメンバーについて、他のすべてのメンバーの少なくとも1.5倍、2倍、3倍、5倍、10倍、100倍、又は1000倍選択的である。
一具体例において、該RNAiアンタゴニストは、HHシグナリング経路に特異的であり、他の細胞シグナリング経路に有意の影響を与えない。
一具体例において、該他の細胞シグナリング経路は、ウイングレス経路である。
この発明の他の面は、肺細胞における界面活性物質産生を刺激する方法であって、該細胞を、界面活性物質産生を刺激するのに有効な量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含む当該方法を提供する。
この発明の他の面は、肺細胞におけるラメラ体形成を刺激する方法であって、該細胞を、ラメラ体形成を刺激するのに有効な量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含む当該方法を提供する。
一具体例において、該肺細胞は、未熟児の肺組織に存在する。
この発明の他の面は、患者の腫瘍を治療する方法であって、該患者に、腫瘍の成長、増殖又は生存の少なくとも一つを減少させるのに十分な量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストを投与することを含み、該腫瘍がヘッジホッグ遺伝子又はgli遺伝子の少なくとも一つを発現する、当該方法を提供する。
一具体例において、該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、癌治療養生法の部分として投与される。
この発明の他の面は、望ましくない細胞の成長、増殖又は生存の少なくとも一つを阻害する方法であって、(a)該細胞がヘッジホッグ遺伝子を発現するかどうか測定して、(b)該ヘッジホッグ遺伝子を発現する該細胞を有効量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることを含み、該細胞を該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストと接触させることが細胞の成長、増殖又は生存の少なくとも一つを減少させる、当該方法を提供する。
一具体例において、該ヘッジホッグ遺伝子は、ソニックヘッジホッグである。
一具体例において、該細胞の望ましくない細胞の成長、増殖又は生存は、癌である。
一具体例において、該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、製薬上許容しうるキャリアー中に配合される。
この発明の他の面は、患者の腫瘍を治療する方法であって、該患者に、該腫瘍の成長、増殖又は生存の少なくとも一つを減少させるのに有効な量のヘッジホッグRNAiアンタゴニストを投与することを含む当該方法を提供する。
一具体例において、該ヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、癌治療養生法の部分として投与される。
この発明の他の面は、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストの、患者の腫瘍を治療するための医薬の製造における利用を提供する。
一具体例において、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、癌治療養生法の部分として投与される。
この発明の他の面は、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストの、望ましくない細胞の成長、増殖又は生存の少なくとも一つを阻害するための医薬の製造における利用を提供する。
一具体例において、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、癌治療養生法の部分として投与される。
上記の具体例の任意の一つは、適宜、任意の他の具体例と組み合わせることができるということは企図される。
図面の簡単な説明
図1 ヘッジホッグシグナリング経路(Michelson, Sci. STKE, 2003(192): PE30,Jul.22, 2003から改作)。
図2 ヒトShhに対する短いヘアピンsiRNAアンタゴニストがHEK−293細胞におけるShh発現を阻害することを示している。
図3 短いヘアピンsiRNAが、Ihh及びDhhと比較してヒトShhに対して特異的であることを示している。
図4 マウスの胎児及び成体の肺におけるgli−1遺伝子発現を描いている。
図5 gli−1発現と肺の成熟のマーカーの発現と間の反比例を示している。E13.5とE16.5の間で、gli−1の発現は減じるが、成熟マーカーのC型界面活性物質(Sp−C)の発現は増えている。
図6 マウス胎児肺のコンパウンドB処理の、gli−1発現に対する効果を示している。
図7 コンパウンドB処理が、マウス胎児肺におけるC型界面活性物質産生を増大させることを示している。
図8 コンパウンドB処理を受けた肺のII型肺胞細胞が、界面活性物質産生ラメラ体の存在により証明されるように未成熟分化することを示している。
図9 胎児肺培養物のコンパウンドBでの処理が、gli−1の発現を減じることを示している。
図10 胎児肺培養物のコンパウンドBでの処理が、成熟マーカーSp−Cの発現を増大させることを示している。処理後に認められたSp−Cの誘導は、公知の肺成熟因子での処理後に認められたものに匹敵する。
図11 胎児肺培養物のヘッジホッグアゴニストでの処理が反対の効果を有することを示している。ソニックヘッジホッグ又はアゴニストZでの処理は、gli−1発現を増大させて、Sp−C発現を減少させる。
図12 イン・シトゥーハイブリダイゼーション法により可視化した、乳癌組織におけるgli−1発現を示している。
図13 イン・シトゥーハイブリダイゼーション法により可視化した肺癌におけるgli−1発現を示している。
図14 イン・シトゥーハイブリダイゼーション法により可視化した、前立腺癌におけるgli−1発現を示している。
図15 イン・シトゥーハイブリダイゼーション法により可視化した良性前立腺肥厚におけるgli−1発現を示している。
図16 (A)新生マウスのptc−1(d11)lacZ膀胱上皮におけるPtc−lacZ導入遺伝子発現を示している。LacZ発現は、増殖中の尿路上皮細胞において検出されえ、隣接する間充織細胞において一層弱く検出されうる。(B)成体マウス膀胱上皮におけるGli−1発現。Gli−1発現は、増殖中の尿路上皮細胞において検出されうる。
図17 gli−1及びshhの正常な成体の膀胱及び市販の膀胱癌における発現を示している。
図18 市販の8種類の膀胱癌細胞株におけるshh及びgli−1の発現を示している。調べた8種類すべての細胞株は、ヘッジホッグシグナリングに関与する遺伝子を発現している。
図19 shh、ptc−1、smo、gli−1、gli−2及びgli−3の、市販の膀胱癌細胞株並びに胎児脳における発現を示している。
図20 gli−Lucアッセイの図式表示を示している。
図21 膀胱癌細胞共培養物におけるgli−Lucアッセイの結果を示している。S12細胞の、細胞株5637又は細胞株RT4との共培養は、レポーター遺伝子の活性化を生じ、これは、これらの細胞株がヘッジホッグシグナリングを活性化することができることを示している。
図22 Shh抗体5E1が、RT−4/S12共培養におけるレポーター遺伝子の活性化を阻害することを示している。
図23及び24 Shh抗体5E1の投与が、ヌードマウス膀胱癌モデルにおいて、イン・ビボで腫瘍成長を阻害することを示している。
図25 Shh抗体5E1の投与が、ヌードマウス膀胱癌モデルにおいて、イン・ビボでgli−1の発現を減少させることを示している。
図26 shhが、前立腺癌試料において発現されることを、イン・シトゥーハイブリダイゼーション法により可視化して示している。
図27 Q−RT−PCRにより、gli−1の、正常な成体の前立腺及び前立腺癌における発現を示している。
図28 shh及びgli−1の、3種類の前立腺癌細胞株における発現を、正常前立腺細胞株における発現と比較して示している。
図29 前立腺癌細胞株が、gli−Lucイン・ビトロアッセイにおいて、S12細胞と共培養した際に、ルシフェラーゼの発現を増大させることを示している。
図30 拮抗性抗体5E1が、gli−Lucイン・ビトロアッセイにおいて、前立腺癌細胞におけるルシフェラーゼの誘導を阻害することを示している。
図31 shhの、ヒトBPH試料における前立腺上皮及び間質における発現を示している。
図32 イン・シトゥー放射性ハイブリダイゼーションにより測定したヒトBPH試料の前立腺間質におけるgli−1の発現を示している。
図33 shh及びパッチト−1が、正常前立腺組織において、短距離−長距離パターンで、近位即ち中心領域で起きる遺伝子発現の最高レベルで発現されることを示している。
図34 shh及びgli−1のBPH試料における発現を示して、遺伝子発現のレベルをBCC試料と比較している。
図35 shh及びgli−1のBPH細胞株における発現を示して、遺伝子発現のレベルを、BCC試料、正常前立腺、及び前立腺癌のそれと比較している。
図36 shhの、様々な大腸、肺、卵巣、腎臓及び肝臓のヒト癌細胞株における発現を示している。shhの発現は、shhが幾つかの多様な組織型に由来するヒト癌細胞株で様々な程度に発現されることを示すQ−RT−PCRを利用して測定される。
図37 大腸、肺、***、メラノーマ、卵巣、前立腺、膵臓及び腎臓組織に由来する様々な継代された腫瘍におけるshhの発現を示している。shhの発現は、shhが、幾つかの多様な組織型に由来する継代された腫瘍において、様々な程度に発現されることを示すQ−RT−PCRを利用して測定される。
図38 正常なヒトの胃、前立腺、脾臓、小腸、大腸、胆嚢、虫垂及び腎臓組織におけるヘッジホッグタンパク質の発現を示している。ヘッジホッグタンパク質の発現は、ポリクローナル抗ヘッジホッグ抗体を利用する免疫組織化学により検査された。
図39 ヘッジホッグタンパク質の、唾液腺、食道、膵臓、甲状腺、大腸、子宮内膜、腎臓及び前立腺組織に由来するヒトの腫瘍における発現を示している。ヘッジホッグタンパク質の発現は、ポリクローナル抗ヘッジホッグ抗体を利用する免疫組織化学により検査された。
図40 膵臓腫瘍の試料におけるヘッジホッグタンパク質の、正常な膵臓組織におけるヘッジホッグタンパク質発現と比較して増大された発現を示している。ヘッジホッグタンパク質の発現は、ポリクローナル抗ヘッジホッグ抗体を利用する免疫組織化学により測定された。
図41 Shhブロッキング抗体5E1が、Shh発現性大腸癌細胞株HT−29と繊維芽細胞の組合せを注射されたマウスに投与された場合に腫瘍の大きさを減少させることを示している。
図42 Shhブロッキング抗体5E1が、Shh発現性大腸癌細胞株HT−29と繊維芽細胞の組合せを注射されたマウスに投与された場合に腫瘍の大きさを減少させることを示している。
図43 Shhブロッキング抗体5E1の遅延させた投与は、Shh発現性大腸癌細胞株HT−29と繊維芽細胞の組合せを注射されたマウスに投与された場合に腫瘍の大きさを減少させることを示している。
図44 Shhブロッキング抗体5E1の遅延させた投与は、Shh発現性大腸癌細胞株HT−29と繊維芽細胞の組合せを注射されたマウスに投与された場合に腫瘍の大きさを減少させることを示している。
図45 Shhブロッキング抗体5E1の投与が、HT−29/繊維芽細胞混合腫瘍におけるアポトーシスを増大させることを示している。
図46 Shhブロッキング抗体5E1の遅延させた投与が、Shh発現性大腸癌細胞株HT−29を注射されたマウスに投与した場合に、腫瘍の大きさを減少させることを示している。
図47 Shhブロッキング抗体5E1の遅延させた投与が、Shh発現性大腸癌細胞株HT−29を注射されたマウスに投与した場合に、腫瘍の大きさを減少させることを示している。
図48 Shh発現性大腸癌細胞株HT−29を注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の遅延させた投与が、gli−1mRNAの発現を減少させることを示している。
図49 ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞株SW1990を注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の投与が、腫瘍重量を減少させることを示している。
図50 ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞株SW1990を注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の投与が、腫瘍の大きさを減少させ、該腫瘍内の広範囲の壊死を生じることを示している。
図51 ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞株SW1990を注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の投与が、腫瘍の体積を減じることを示している。
図52 ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞株CFPACを注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の投与が、腫瘍の重量を減じることを示している。
図53 ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞株CFPACを注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の投与が、腫瘍の体積を減じることを示している。
図54 ヘッジホッグ非発現性大腸癌細胞株SW480を注射されたマウスへの、Shhブロッキング抗体5E1の投与が、腫瘍の体積に影響しないことを示している。
図55 ヒトの癌におけるヘッジホッグの発現を示している:(a、d)ヒトの乳腺管癌から採られた生検材料におけるヘッジホッグの免疫反応性。癌性上皮(矢印)に存在して上昇したHhレベルを示している、隣接する正常管上皮(矢尻)より一層強い免疫反応性に注意されたい。(b、e)十分分化したボーダーライン漿液性腺癌(b)と僅かしか分化してない腺癌(e)を含む2つの型の卵巣癌におけるヘッジホッグ染色。(c、f)十分分化した(c)及び僅かしか分化してない高度に侵襲性の癌(f)の両者における発現を示す子宮癌の試料におけるヘッジホッグ免疫反応性。
発明の詳細な説明
1.概観
RNA干渉(RNAi)は、二本鎖(ds)RNA依存性の遺伝子特異的な転写後サイレンシングを記述する現象である。この現象を哺乳動物細胞の実験操作に利用する初期の試みは、長いdsRNA分子に応答して活性化される強い非特異的な抗ウイルス防御機構によってくじかれた。Gil等、Appoptosis 2000, 5:107-114。この分野は、合成の21ヌクレオチドの二本鎖RNAが哺乳動物細胞における遺伝子特異的なRNAiを、一般的な抗ウイルス防御機構を呼び出すことなく、媒介することができることが示されたことにより、有意に進歩した。Elbashir等、Nature 2001, 411:494-498;Caplen等、Proc.Natl.Acad.Sci.2001, 98:9742-9747。結果として、小型の干渉性RNA(siRNA)が、遺伝子機能を詳細に分析するための強力な道具となった。小型RNAの化学合成は、将来有望な結果を生成してきた一本の道である。多くのグループが、細胞内でかかるsiRNAを生成することのできるDNAベースのベクターの開発をも追及してきた。幾つかのグループが、このゴールに到達して、一般に、細胞内で効率的にプロセッシングを受けてsiRNAを形成する短いヘアピン(sh)RNAの転写を含む類似のストラテジーを公開した。Paddison等、PNAS 2002,99:1443-1448;Paddison等、Genes & Dev 2002, 16:948-958;Sui等、PNAS 2002, 8:5515-5520;及びBrummelkamp等、Science 2002, 296:550-553。これらの報告は、多くの内因的及び外因的に発現された遺伝子を特異的に標的とすることのできるsiRNAを生成する方法を記載している。
本発明は、ヘッジホッグ、パッチト(ptc)、gli、スムースンド、及び他の多くのHHシグナリング経路タンパク質により調節されるシグナル変換経路が、少なくとも部分的に、特異的RNAiアンタゴニストによって阻害されうるという発見に関係している。ある種のHHシグナリングタンパク質は、HHシグナリング全体を正に調節するので(他のものは、HHシグナリング全体を負に調節するが)、これらのRNAiアンタゴニストは、影響を受ける細胞又は組織/器官において、HHシグナリング全体を増大させても減少させてもよい。それ故、特に、ヘッジホッグ、ptc、スムースンドなどのシグナル変換活性を調節するRNAiアンタゴニストは、同様に、組織発生における細胞の役割を変えることができるということが企図される。
好適具体例において、この細胞は、実質的に野生型のヘッジホッグシグナリング経路を有する。ヘッジホッグアンタゴニストが、HHシグナリング経路の成分の突然変異の結果として又はHHシグナリング経路の成分の変異/障害を含まない細胞におけるHHシグナリング経路の不適当な活性化の結果として、ヘッジホッグ経路の亢進により生じる病気の治療に特に有効であるということも又、企図される。それ故、アンタゴニスト治療を効率よく狙いを定めることができるように、ヘッジホッグ経路が亢進している細胞を同定する方法を有することは、望ましいことである。当業者は、本発明のRNAiアンタゴニストが、ヘッジホッグシグナリングを、ヘッジホッグシグナリング経路の任意の点で調節することができるということを容易に認識するであろう。即ち、典型的RNAiモジュレーターは、HHシグナリングを、ヘッジホッグ自体と拮抗することにより又は任意の他のHHシグナリング成分例えばヘッジホッグレセプターパッチトと拮抗することによって調節することができる。本発明のRNAiアンタゴニストは、野生型細胞又はヘッジホッグシグナリング経路の成分に変異を含む細胞におけるヘッジホッグシグナリングを調節するために利用することができるということは、企図される。
従って、本発明の方法は、ヘッジホッグ機能亢進の表現型を有する広範な細胞、組織及び器官の修復及び/又は機能性能の調節において及び野生型ヘッジホッグ活性を有する組織においてHHシグナリングを調節するRNAiアンタゴニストの利用を含むが、これらに限られない。例えば、主題の方法は、神経組織、骨及び軟骨の形成及び修復の調節から、***形成の調節、平滑筋の調節、肺、肝臓及び他の原腸から生じた器官の調節、造血機能の調節、皮膚及び毛髪成長の調節などに及ぶ治療応用及び化粧応用を有する。その上、主題の方法は、培養で与えられた細胞(イン・ビトロ)又は動物一匹全体の中の細胞(イン・ビボ)において実施することができる。例えば、PCT公開WO95/18856及びWO96/17924(これらの明細書を、参考として、本明細書中にそっくりそのまま援用する)を参照されたい。
他の面において、本発明は、活性成分として、増殖又は他のヘッジホッグ機能亢進の生物学的結果をイン・ビボで阻害するのに十分な量で配合された、HHシグナリング組成物の何れか一つのRNAiアンタゴニストを含む医薬製剤を提供する。
主題のHH経路成分のRNAiアンタゴニストを利用する治療は、ヒト及び非ヒト細胞及び患者の両方に有効でありうる。この発明が適用可能な動物患者は、ペットとして又は商業目的のために育てられた家庭飼育動物及び家畜の両者に拡大する。かかる非ヒト動物の例には、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、マウス、ラット、ウサギ、カエル、魚、ニワトリなどが含まれる。
II.定義
便宜のために、この明細書、実施例及び添付の請求の範囲で用いた幾つかの用語を、ここに集めた。
語句遺伝子の「異常型改変又は変異」は、遺伝子損傷例えばヌクレオチドの遺伝子からの欠失、置換又は遺伝子への付加並びに遺伝子の大きい染色体再配置及び/又は遺伝子の異常なメチル化を指す。同様に、遺伝子の誤発現は、遺伝子の転写の、同じ条件下での、正常細胞におけるレベルと比較して異常なレベル並びに遺伝子から転写されたmRNAの非野生型スプライシングを指す。
用語「腺癌」は、ここで用いる場合、腺上皮に起源を有する悪性腫瘍を指す。
用語「血管形成」は、ここで用いる場合、血管の形成を指す。特に、血管形成は、内皮細胞が限局的に退化してそれら自身の基底膜を通って浸出し、間質を通って血管形成刺激物に向かって移動し、移動チップに近くで増殖し、血管に組織化されて、新たに合成された基底膜と再結合する多段階過程である(Folkman等、Adv.Cancer Res., Vo.43, p.175-203 (1985)参照)。
「基底細胞癌」は、様々な臨床的及び組織学的形態例えば結節性潰瘍性、表在性、有色素性、限局性強皮症様、線維上皮腫及び母斑様症候群で存在しうる。基底細胞癌は、ヒトで見出される最も一般的な皮膚の新生物である。非メラノーマ皮膚癌の新しい患者の大部分は、この範疇に入る。
「良性前立腺肥厚」即ち「BPH」は、通常50歳代以降に始まり、おそらく男性ホルモンに従属する前立腺の良性の拡大である。もし相当の拡大が起これば、尿道が挟みつぶされて排尿が困難又は不可能となる。
「火傷」は、熱及び/又は化学剤のために、個体から、皮膚の大きな表面積が取り去られ又は失われた症例を指す。
用語「癌腫」は、上皮細胞よりなり、周囲の組織に浸潤する傾向及び転移を生じる傾向のある悪性の新規な増殖をいう。典型的な癌腫には、めったに転移しないが局所的侵襲及び破壊の可能性を有する皮膚の上皮性腫瘍である「基底細胞癌」;鱗状の上皮から生じる立方体様の細胞を有する癌腫をいう「扁平上皮細胞癌」;癌性組織と肉腫性組織とからなる悪性腫瘍を含む「癌肉腫」;小さい上皮細胞の集団又は帯により分離され又は囲まれたヒアリン又はムチン間質のシリンダー又はバンドを特徴とし、乳腺及び唾液腺並びに気道の粘液腺に生じる癌腫である「腺嚢腫癌」;表皮と同様に分化する傾向がある(即ち、有棘細胞を形成し、角質化を受ける傾向がある)癌細胞をいう「類表皮癌」;鼻の後ろの空間の上皮性の内層に生じる悪性腫瘍をいう「鼻咽頭癌」;及び配置の変化する管状細胞よりなる腎臓実質組織の癌腫に属する「腎細胞癌」が含まれる。他の癌性上皮増殖は、上皮に由来し、パピローマウイルスを原因因子として有する良性腫瘍をいう「乳頭腫」;及び神経溝の閉じるときに外胚葉エレメントの封入により形成される脳又は髄膜の腫瘍をいう「類表皮腫」である。
「真皮」は、上皮の深部にある皮膚の層をいい、血管結合組織の密な層よりなり且つ神経及び末端感覚器官を含む。毛根及び皮脂腺及び汗腺は、真皮に深く埋められた表皮の構造である。
「歯組織」は、上皮組織と類似する口内の組織例えば歯肉組織をいう。本発明の方法は、歯周病の治療に有用である。
「真皮潰瘍」は、組織表面の喪失により引き起こされる皮膚の病変(通常、炎症を伴う)をいう。本発明の方法により治療することのできる真皮潰瘍には、褥瘡性潰瘍、糖尿病性潰瘍、静脈鬱血性潰瘍及び動脈性潰瘍が含まれる。褥瘡は、長時間にわたって皮膚の領域に加えられる圧力により生じる慢性的潰瘍をいう。この種の傷は、しばしば、床ずれと呼ばれる。静脈鬱血性潰瘍は、欠陥のある静脈の鬱血又は他の液体の停滞により生じる。動脈性潰瘍は、血流の乏しい動脈の周囲の領域における壊死した皮膚をいう。
用語「ED50」は、最大の応答又は効果の50%を生じる薬物の投与量を意味する。
主題の治療方法に関して、例えば、ヘッジホッグアンタゴニストの「有効量」は、所望の投薬養生法の部分として適用した場合に、例えば、細胞増殖速度の及び/又は細胞の分化状態の及び/又は細胞の生存率の変化を引き起こす製剤中のアンタゴニストの量(治療すべき疾患又は化粧目的について臨床的に許容し得る標準に従う)をいう。
用語「上皮性」及び「上皮」は、内部及び外部の体表面の細胞性の被覆(皮膚、粘膜及び漿膜)をいい、それから生じた腺その他の構造例えば角膜、食道、真皮、毛嚢及び上皮細胞を含んでいる。他の典型的な上皮組織には、鼻腔の嗅覚器領域の内表面となっている擬似層化上皮であって嗅覚のためのレセプターを含んでいる嗅覚上皮;分泌細胞よりなる上皮をいう腺上皮;平らな板状の細胞からなる上皮をいう扁平上皮が含まれる。用語上皮は又、縮小及び拡大のために大きな機械的変化を受ける中空臓器を裏打ちすることが特徴的に見出される過渡的上皮例えば層化扁平上皮と円柱上皮の間の過渡的上皮をもいう。
用語「上皮形成」は、剥離された表面を覆う上皮組織の増殖による治癒をいう。
用語「表皮腺」は、表皮と結合して、通常の代謝の必要性と関係なく物質を分泌又は排出するように特化された細胞の凝集をいう。例えば、「皮脂腺」は、油性物質と皮脂を分泌する真皮中の全分泌腺である。用語「汗腺」は、真皮又は皮下組織に位置されて管によって体表面に開口している汗を分泌する腺をいう。
用語「表皮」は、胚の外胚葉に由来する厚さ0.07〜1.4mmの皮膚の最も外側の非脈管層をいう。手掌及び足底表面においては、それは、内側から外側に向かって、5つの層:直立して配置された円柱細胞よりなる基底層;短い突起又はとげを有する平らな多面細胞よりなる有棘細胞又は有棘層;平らな顆粒細胞よりなる顆粒層;核がはっきりしないか又は存在しない透明な細胞の幾つかの層よりなる透明層;及び平らな角化した無核の細胞よりなる角質層よりなる。全身の体表面の表皮において、透明層は、通常、存在しない。
「切り出し傷」は、皮膚の上皮層中の裂き傷、擦り傷、切り傷、刺し傷又は破傷を含み、真皮層に及び得るし、皮下脂肪以下にさえ及び得る。切り出し傷は、外科的手順により生じ得るし又は不慮の皮膚貫通によって生じ得る。
細胞の「増殖状態」は、細胞の増殖の速度及び/又は細胞の分化状態をいう。「変化された増殖状態」は、異常な増殖速度を特徴とする増殖状態(例えば、正常細胞に比べて増大した又は減少した増殖速度を示す細胞)である。
用語「毛」は、糸状構造、特に、ケラチンよりなり、真皮中に埋められた乳頭状突起から発生する特殊化された表皮構造であって、哺乳動物によってのみ生成され、動物のグループに特徴的である表皮構造をいう。又、「毛」は、かかる毛の集合を指すこともある。「毛嚢」は、毛を含む表皮の管状の陥入の一つをいい、それから毛が成長する。「毛嚢上皮細胞」は、毛嚢中の真皮の乳頭状突起を囲む上皮細胞例えば幹細胞、外毛根鞘細胞、マトリクス細胞及び内毛根鞘細胞をいう。かかる細胞は、正常の非悪性細胞であっても、トランスフォームされた/不死化細胞であってもよい。
用語「ヘッジホッグ」は、ソニック、インディアン、デザート及びティギーウィンクルを含むヘッジホッグファミリーの任意のメンバーを包括的に指すために用いられる。この用語は、タンパク質又は遺伝子を示すために用いることができる。この用語は又、種々の動物種における同族体/オルソログ配列を記述するためにも用いられる(下記参照)。
用語「ヘッジホッグ(HH)シグナル伝達経路」、「ヘッジホッグ(HH)経路」及び「ヘッジホッグ(HH)シグナル変換経路」は、すべて、通常、他の内で、ヘッジホッグ、スムースンド、ptc及びgliにより媒介される事象並びにヘッジホッグ活性に典型的な遺伝子発現の変化及び他の表現型の変化を生じる事象の鎖をいうのに用いる。このヘッジホッグ経路は、たとえヘッジホッグタンパク質が存在しなくても、下流成分の活性化により活性化されうる。例えば、スムースンドの過剰発現は、この経路をヘッジホッグの非存在下で活性化する。gli及びptc遺伝子発現は、活性なヘッジホッグシグナル伝達経路の指標である。
用語「HHシグナリング成分」は、HHシグナリング経路に参加する遺伝子産物を指す。HHシグナリング成分は、頻繁に、細胞/組織におけるHHシグナルの伝達に物質的に又は実質的に影響を与え、典型的には、下流の遺伝子の発現レベルの程度の変化及び/又は表現型の変化を生じる。
各HHシグナリング成分は、それらの生物学的機能及び下流の遺伝子の活性化/発現の最終的出力に対する効果に依って、正のレギュレーター及び負のレギュレーターに分けることができる。正のレギュレーターは、HHシグナルの伝達に正の影響を及ぼす(即ち、HHが存在する場合に下流の生物学的事象を刺激する)HHシグナリング成分である。例には、下記の表Xに列記した遺伝子が含まれる(但し、これらに限られない)。負のレギュレーターは、HHシグナルの伝達に負の影響を及ぼす(即ち、HHが存在する場合に下流の生物学的事象を阻害する)HHシグナリング成分である。例には、下記の表Yに列記した遺伝子が含まれる(但し、これらに限られない)。
用語「ヘッジホッグRNAiアンタゴニスト」は、HHシグナリング成分(ヘッジホッグ、パッチト、又はgli1など)の生物学的活性を阻害して、標的HHシグナリング成分の発現を抑制するRNAi剤を指す。例えば、ある好適なヘッジホッグRNAiアンタゴニストは、ptc機能喪失及び/又はスムースンド機能亢進を克服するために利用することができる。他の好適RNAiアンタゴニストは、ヘッジホッグシグナル変換の不適当な増大を、該シグナル変換の増大がヘッジホッグシグナリング経路の成分(例えば、ptc、gli1、gli3、スムースンドなど)の突然変異/変質における結果であっても、或は該増大がヘッジホッグシグナリング経路の成分の変異/変質を含まない細胞のコンテキスト(例えば、ヘッジホッグシグナリング経路の成分について野生型の細胞)で生じるものであっても、該増大を克服するために利用することができる。RNAiアンタゴニストは、ソニック、インディアン又はデザートヘッジホッグ、スムースンド、ptc−1、ptc−2、gli−1、gli−2、gli−3などを含む(但し、これらに限られない)ヘッジホッグ経路内の何れの遺伝子にコードされるタンパク質に向けられたものであってもよい。殆どの場合において、RNAiアンタゴニストは、標的タンパク質の活性を、例えば、ヘッジホッグ経路内の何れかの遺伝子によりコードされたタンパク質の生成を減少させ、そうしてHHシグナリングをアップレギュレートするかダウンレギュレートすることによって阻害する。RNAiアンタゴニストが、通常ヘッジホッグシグナリング経路の正のレギュレーターとして機能する標的タンパク質の発現を阻害する場合には、全体的効果は、ヘッジホッグシグナリングの減少又は阻害である。RNAiアンタゴニストが、通常ヘッジホッグシグナリング経路の負のレギュレーターとして機能する標的タンパク質の発現を阻害する場合には、全体的効果は、ヘッジホッグシグナリングの増大又は促進である。
その上、HHシグナリング経路の非RNAiアンタゴニスト例えばHH経路タンパク質に対するアンチセンスヌクレオチド、抗体、小型有機分子などを含む、一種より多くのアンタゴニストを投与することができる。同時係属米国出願第10/652,298号(2003年8月29日出願)は、HHシグナリング経路の様々なモジュレーターについて詳細に記載している(その全内容を、参考として、本明細書中に援用する)。従って、更に、一種より多くのヘッジホッグアンタゴニストを投与する場合には、該剤は、ヘッジホッグシグナリングを、同じ機構により阻害することも、異なる機構により阻害することもできるということも企図される。
用語「ヘッジホッグ機能亢進」は、ptc遺伝子、ヘッジホッグ遺伝子若しくはスムースンド遺伝子の異常型改変若しくは変異、又はかかる遺伝子の発現レベルの低下(若しくは喪失)を指し、これは、細胞をヘッジホッグタンパク質に接触させた場合とに似た表現型例えばヘッジホッグ経路の異常型の活性化を生じる。この機能亢進は、ptc遺伝子産物の、Ci遺伝子例えばCli1、Gli2及びGli3の発現レベルを調節する能力の喪失を含みうる。用語「ヘッジホッグ機能亢進」は、ここでは、ヘッジホッグシグナル変換経路の何処かの変化(ヘッジホッグ自身の改変又は変異を含むが、これらに限られない)のための、任意の類似の細胞表現型(例えば、過剰な増殖を示す表現型)を指すためにも用いられる。例えば、ヘッジホッグシグナリング経路の活性化のために異常に高い増殖速度を有する腫瘍細胞は、たとえヘッジホッグが細胞内で変異していなくても、「ヘッジホッグ機能亢進」表現型を有するであろう。
ここで用いる場合、「不滅化細胞」は、化学的及び/又は組換え手段によって変化されて、培養において無限に増殖する能力を有する細胞を指す。
「内部上皮組織」は、皮膚の上皮組織と類似の特性を有する身体内の組織を指す。例には、腸の内層が含まれる。本発明の方法は、内部の傷例えば手術により生じた傷の治癒を促進するのに有用である。
用語「角化症」は、表皮の角質層の肥厚を特徴とする増殖性皮膚疾患を指す。典型的な角化疾患には、毛包性角化症、点状掌蹠角化症、咽頭角化症、毛角化症及び光線性角化症が含まれる。
「ラメラ体」は、界面活性物質を産生する肺細胞において見出される亜細胞性構造を指す。ラメラ体は、肺の界面活性物質の生合成部位と考えられている。該体は、電子顕微鏡写真において多層の膜の外観を有している。
用語「LD50」は、試験された被験者の50%に致死的である投与量を意味する。
用語「爪」は、指又は足指の遠心端の背側表面上の角質の皮膚板をいう。
用語「過剰発現」は、遺伝子発現レベルに言及して用いる場合、組織の細胞における遺伝子発現のレベルであって、その組織の正常な発現レベルより高い任意のレベルを意味する。組織の正常レベルの発現は、その組織の健康な部分における遺伝子発現を測定することによって評価することができる。
用語「パッチト機能喪失」は、細胞をヘッジホッグタンパク質と接触させた場合と似た表現型(例えば、ヘッジホッグ経路の異常な活性化)を生じるptc遺伝子の異常型の改変若しくは突然変異又はこの遺伝子の減少した発現レベルをいう。同機能喪失は、Ci遺伝子例えばGli1、Gli2及びGli3の発現レベルを調節するptc遺伝子産物の能力の喪失を含むことができる。
用語「製薬上許容しうる塩」は、この発明の化合物の生理的及び製薬的に許容しうる塩即ち親化合物の所望の生物学的活性を保持し且つ該化合物に望ましくない毒性を与えない塩を指す。
「標準的ハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーションと洗浄の両方について、0.5×SSC〜5×SSC及び65℃と実質的に等しい塩及び温度条件を指す。用語「標準的ハイブリダイゼーション条件」は、ここで用いる場合、それ故、操作限定であり、ある範囲のハイブリダイゼーション条件を包含する。それにもかかわらず、本開示の目的に関して、「高緊縮」条件は、プラークスクリーニング緩衝液(0.2% ポリビニルピロリドン、0.2% フィコール400;0.2% ウシ血清アルブミン、50mM トリス−HCl(pH7.5);1M NaCl;0.1% ピロリン酸ナトリウム;1% SDS);10% デキストランサルフェート及び100μg/ml変性超音波処理サケ***DNAを用いて、65℃で12〜20時間ハイブリダイズさせ、75mM NaCl/7.5mM クエン酸ナトリウム(0.5×SSC)/1% SDSで65℃で洗浄することを含む。「低緊縮」条件は、プラークスクリーニング緩衝液、10% デキストランサルフェート及び110μg/ml 変性超音波処理サケ***DNAを用いて55℃で12〜20時間ハイブリダイズさせ、300mM NaCl/30mM クエン酸ナトリウム(2.0×SSC)/1% SDSで55℃で洗浄することを含む。Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. New York, 第6.3.1-6.3.6節(1989)も参照されたい。
主題の方法により治療を受ける「患者」又は「被験者」は、ヒトを意味しても、非ヒト動物を意味してもよい。
用語「プロドラッグ」は、生理的条件下で、本発明の治療上活性な薬剤に変換される化合物を包含することを意図している。プロドラッグを作成するための一般的方法は、生理的条件下で加水分解されて所望の分子が出現する選択した部位を含有させることである。他の具体例において、プロドラッグは、宿主の動物の酵素活性により変換される。
ここで用いる場合、「増殖性」及び「増殖」は、有糸***を受ける細胞をいう。
この出願中で、用語「増殖性皮膚疾患」は、皮膚組織の望ましくない又は異常な増殖により特徴付けられる任意の皮膚の病気/疾患をいう。これらの病気は、典型的には、表皮細胞の増殖又は不完全な細胞分化により特徴付けられ、例えば、X染色体性魚鱗癬、乾癬、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、表皮剥離性角化症及び脂漏性皮膚炎を含む。例えば、表皮異形成は、表皮の不完全な発生形態である。他の例は、自発的な又は外傷部位の水疱の形成を伴う表皮のゆるんだ状態をいう「表皮剥離」である。
ここで用いる場合、用語「乾癬」は、皮膚の調節機構を変える増殖過剰性皮膚疾患をいう。特に、表皮の増殖における一次的及び二次的変化、皮膚の炎症性応答及び調節分子例えばリンホカイン及び炎症性因子の発現を含む病変が形成される。乾癬の皮膚は、形態的に、表皮細胞の増大したターンオーバー、肥厚した表皮、異常な角質化、真皮層への炎症性細胞浸潤及び多形核白血球の表皮層への浸潤(基底細胞サイクルの増大を生じる)を特徴とする。加えて、過角化症及び不全角化細胞が存在する。
用語「皮膚」は、身体の外側の保護用の被覆であり、真皮と表皮よりなり、汗腺及び皮脂腺並びに毛嚢構造を含むと理解されている。本願中で、形容詞「皮膚の」は、一般に、それらを用いる分脈において適当であれば、皮膚の属性をいうように用いられ且つ理解されるべきである。
用語「小細胞癌」は、一般に、気管支の悪性新生物をいう。この腫瘍の細胞は、エンドクリン様の特性を有し、一種以上の広範なホルモン特に調節ペプチド様ボンベシンを分泌しうる。
用語「スムースンド機能亢進」は、細胞をヘッジホッグタンパク質と接触させた場合と似た表現型(例えば、ヘッジホッグ経路の異常な活性化)を生じるsmo遺伝子の異常型の改変若しくは突然変異又はこの遺伝子の増大した発現レベルをいう。如何なる特定の理論に拘束されることも望まないが、ptcが、直接細胞にシグナルを送ることができず、むしろ、ヘッジホッグシグナリングにおいてptcの下流に位置する他の膜結合タンパク質であるスムースンドと相互作用するということは注意される(Marigo等(1996) Nature 384: 177-179)。遺伝子smoは、Drosophilaの各セグメントの正しいパターニングに必要なセグメントポラリティー遺伝子である(Alcedo等(1996) Cell 86:221-232)。smoのヒトの同族体が同定されている。例えば、Stone等(1996) Nature 384:129-134及びGenBank受理番号U84401を参照されたい。スムースンド遺伝子は、ヘテロ三量体Gタンパク質共役レセプターの特徴を有する不可欠な膜タンパク質;即ち、7回膜貫通領域をコードする。このタンパク質は、wingless経路のメンバーであるDrosophila Frizzled (Fz)タンパク質に対する相同性を示す。元々、smoは、Hhシグナルのレセプターをコードすると考えられていた。しかしながら、この示唆は、その後、ptcがHhレセプターである証拠が得られたことにより反証が示された。Smoを発現する細胞が、Hhを結合することができず、これは、smoがHhと直接には相互作用しないことを示している(Nusse,(1996) Nature 384:119-120)。むしろ、ソニックヘッジホッグ(SHH)のそのレセプターPTCHへの結合は、7回膜貫通タンパク質であるスムースンド(SMO)のPTCHによる正常な阻害を妨げると考えられている。
最近、スムースンド変異の活性化が、散発性の基底細胞癌(Xie等(1998) Nature 391:90-2)及び中枢神経系の原始神経外胚葉腫瘍(Reifenberger等(1998) Cancer Res 58:1798-803)に生じるということが報告された。
用語「治療指数」は、LD50/ED50として規定される薬物の治療指数をいう。
ここで用いる場合、「トランスフォームされた細胞」は、無制限の増殖の状態に自発的に変換された(即ち、培養において無限回の***によって増殖する能力を得た)細胞をいう。トランスフォームされた細胞は、それらの増殖制御の喪失に関して、新生物の、未分化の及び/又は過形成の等の用語によって特徴付けられ得る。
「尿生殖器の」は、他の組織の内で、前立腺、尿管、腎臓及び膀胱を含む尿生殖路の器官及び組織を指す。「尿生殖器癌」は、尿生殖組織の癌である。
III.ヘッジホッグシグナリング経路の典型的な標的
分泌されるシグナリング分子をコードするヘッジホッグは、最初、キイロショウジョウバエにおいて必須の胚パターニング遺伝子として同定された。Hhファミリーのメンバーは、その後、ヒトを含む多様な種で発見され、そこでは、それらは、広範な発生的効果を発揮している(例えば、Ho及びScott, Curr.Opin.Neurobiol. 12,57-63, 2002;Ingham及びMcMahon, Genes Dev. 15,3059-3087, 2001参照)。更に興味深いことには、異常なHHシグナリングは、幾つかの型の癌を含む幾つかのヒトの病気と関係している(総説としては、Bale, Annu.Rev.Genomics Hum.Genet. 3,47-65, 2002;Taipale及びBeachy, Nature 411,349-354, 2001を参照されたい)。集中的な遺伝学的及び生化学的研究から、下記のHhシグナリング経路の概要が現れた(図1)(総説としては、Nybakken及びPerrimon, Curr.Opin.Genet.Dev. 12,503-511, 2002を参照されたい)。
Hhの非存在下では、膜貫通レセプターパッチト(Ptc)は、第二の膜結合タンパク質スムースンド(Smo)を阻害する。この過程は、キネシン関連分子Costal2(Cos2)、セリン−スレオニンプロテインキナーゼFused(Fu)及びfusedのタンパク質サプレッサー[Su(fu)]を含む細胞内高分子量タンパク質複合体が、完全長のキュビタスインターラプタス(Ci155)のタンパク質分解過程を促進することを可能にし、それにより、転写リプレッサーCi75を生成する。この阻害性複合体と直接相互作用するかどうか未だ分かっていないが、プロテインキナーゼA(PKA)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)及びカゼインキナーゼ1α(CK1α)も又、Ciを改変してその開裂を調節する。この過程も又、Slimbに依存している。HhのPtcへの結合は、Smoの阻害を解放し、未知の機構によって、Smoは、細胞質の複合体のCiプロセッシング活性を抑制する。プロセッシングを受けていないCi155は、その後、核へ移動され、そこで、特異的な標的遺伝子の発現を活性化する。
最近、Lum等(Science 299:2039-2045, 2003)は、HHシグナリング経路の幾つかの更なるメンバーを同定した。イン・ビトロ及びイン・ビボアッセイの両方を利用して、これらの著者は、以前には遺伝子産物がHhシグナリングにおける特異的役割を有すると認識されていない4つの遺伝子:CK1α、dally−like(dlp)、caupolican(caup)及び予想された遺伝子CG9211を同定した。それらの内で、CK1αは、負のレギュレーターであり、dlp、caup及びCG9211は、すべて正のレギュレーターである。
様々な種のすべてのHHシグナリング経路の遺伝子は、日常的に、公開された又は占有されたデータベース例えば少数例を挙げればGenBank、EMBL、FlyBaseから得ることができる。ヒト及びキイロショウジョウバエなどのある種の生物においては、全ゲノムが配列決定されており、NCBIウェブサイトでオンラインで提供されているBLASTシリーズのプログラムなどの配列比較用プログラムを利用して、任意の公知のHHシグナル経路遺伝子の最もアップデートされた配列を引き出すことができる。下記の表は、様々な種の公知のHHシグナリング経路遺伝子の幾つかの代表的メンバーを列記している。それは、決して、網羅的なものではなく、如何なる意味においても制限と見るべきではない。むしろ、それは、網羅的検索のための有用な出発点として役立ち、当業者は、それを、日常的なバイオ技術を利用して実行することができる。幾つかの遺伝子は、幾つかの異なる受入れ番号の異なるデータベースエントリーを有するが、それにもかかわらず、同じか殆ど同じ配列である。とにかく、下記の表では、各遺伝子につき唯一つのエントリーを与えてある。
これらの遺伝子は、HHシグナリング経路の正又は負のレギュレーターとして列記されている。従って、正のレギュレーターを阻害するRNAiアンタゴニストは、例えば、HHシグナリングの亢進を含む状況において、HHシグナリングをダウンレギュレートするのに有用であろう。対照的に、負のレギュレーターを阻害するRNAiアンタゴニストは、例えば、HHシグナリングの機能低下を含む状況において、HHシグナリングをアップレギュレートするのに有用であろう。
パッチトは、最初、Drosophilaにおいて、セグメントポラリティー遺伝子(胚の前後軸に沿った同族列に生じる個々のセグメント内の細胞分化に影響を与える発生遺伝子のグループの一つ)として同定された。Hooper,J.E.等(1989)Cell 59:751;及びNakano,Y.等(1989)Nature 341:508を参照されたい。パッチトの脊椎動物同族体の発現パターンは、それが、神経管、骨格、肢、頭蓋顔面構造及び皮膚の発生に関与することを示唆する。
遺伝及び機能の研究は、パッチトが、ヘッジホッグシグナリングカスケード(下流の多くの遺伝子の発現を調節する進化的に保存された経路)の部分であることを示している。Perrimon,N.(1995)Cell 80:517;及びPerrimon,N.(1996)Cell 86:513を参照されたい。パッチトは、標的遺伝子の構成的な転写の抑制に関係しており;その効果は、ヘッジホッグ又は脊椎動物の同族体にコードされる転写を活性化する分泌糖タンパク質に妨害される。この経路の制御下の遺伝子には、Wnt及びTGFβファミリーのメンバーが含まれる。
パッチトタンパク質は、2つの大きい細胞外ドメイン、12の膜貫通セグメント及び幾つかの細胞質セグメントを有する。Hooper前出;Nakao前出;Johnson,R.L.等(1996)Science 272:1668;及びHahn,H.等(1996)Cell 85:841を参照されたい。パッチトのヘッジホッグシグナリング経路における生化学的役割は、不明である。しかしながら、ヘッジホッグタンパク質との直接的相互作用が報告されており(Chen,Y.等(1996)Cell 87:553)、パッチトは、ヘッジホッグレセプター複合体に、スムースンド遺伝子によりコードされる他の膜貫通タンパク質と共に関係しうる。Perrimon,前出;及びChen,前出を参照されたい。
パッチトのヒトの同族体は、クローン化され、染色体9q22.3にマップされた。Johnson,前出;及びHahn,前出を参照されたい。この領域は、肋骨及び頭蓋顔面変性、手及び脚の異常、並びに二分脊椎を含む発生異常を特徴とする、基底細胞母斑症候群(BCNS)に関係している。
散発性の腫瘍も又、パッチトの両機能性アレルの喪失を示した。一本鎖コンホメーション多形スクリーニングアッセイによりパッチト変異が同定された12の腫瘍の内で、9つが、第2アレルの染色体欠失を有し、他の3つは、両アレルに不活性化変異を有した(Gailani,前出)。対応する生殖細胞系列のDNAには、変化は生じなかった。
殆どの同定された突然変異は、時期尚早の停止コドン又はフレームシフトを生じた(Lench,N.J.等、Hum.Genet.1997 Oct; 100(5-6):497-502)。しかしながら、幾つかは、細胞外又は細胞質ドメインにおけるアミノ酸置換へと導く点突然変異であった。これらの変異部位は、細胞外タンパク質又は細胞質の下流のシグナル伝達経路のメンバーとの相互作用についての機能的重要性を示しうる。
パッチトの遺伝子発現の阻止への関与及びBCCにおけるパッチトの頻繁なアレル欠失の出現は、この遺伝子についての腫瘍サプレッサー機能を支持する。細胞シグナル伝達及び細胞間コミュニケーションに関与することが知られた遺伝子ファミリーの調節におけるその役割は、腫瘍抑制の可能な機構を与える。
CK1αは、Ci開裂(そのリプレッサー型を生成する過程)の正のレギュレーターである(Price及びKalderon, Cell 108, 823-835, 2002, 図1)。従って、CK1αは、HHシグナリングの負のレギュレーターである。対照的に、dlpは、正のHhシグナルトランスデューサーである。後者の結果は、グリピカンクラスの細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)をコードするdlpと一致する。何故なら、かかる分子は、様々な細胞外リガンドに対するコレセプターとして機能することが知られているので(Nybakken及びPerrimon, Biochim.Biophys.Acta 1573, 280-291, 2002)。Lum等は、DlpがPtcの上流で又はPtcと共に、おそらく細胞表面の遊離のHhを濃縮することにより又はHhをPtcレセプターに提示することによって作用する更なる証拠を提供した。
注目されることには、Lum等は、dlp阻害剤がWg特異的細胞培養アッセイに影響を有しないことを報告した。この結果は、Dlpが、そのHhシグナリングへの参加に反して、細胞自律的でないWgの効果を媒介することを示唆している。このモデルは、dlpがWgの細胞外分布の調節にかかわっていることを意味する以前の遺伝学的実験と一致する。従って、Dlpは、Hhシグナリング経路とWgシグナリング経路で異なる役割を演じるようであり、HH経路特異的な標的として利用することができる。
遺伝子caupは、以前に、翅の発生時のHhシグナリングの下流のメディエーターとして記載された(Gomez-Skarmeta及びModolell, Genes Dev. 10, 2935-2945, 1996)ものであり、それ故、Hh経路の正のレギュレーターとしてのその検出は幾らか驚くべきことであった。Caupは、ホメオドメイン転写因子であり、考えられるところでは、Hhシグナルをおそらく短距離の正のシグナリング成分の発現を活性化することによって増幅する正のフィードバックループに含まれうる(図1)。
CG9211は、免疫グロブリンドメイン反復とIII型フィブロネクチン反復とを有する細胞表面タンパク質をコードすると予想される。この因子が、Hh経路の他の膜結合性成分例えばPtc及びSmoと相互作用してそれらの活性を調節することによって正のHhレギュレーターとして機能しうることはありうることである。或は、CG9211は、Hh応答に影響を与える並行的シグナリング経路を媒介することができる(図1)。
ショウジョウバエにおける新規なシグナリング経路成分の同定も又、ヒトの病気に関係付けられる。例えば、WgとHhの両シグナリング経路の基礎活性の調節におけるCK1αの役割は、それが、大腸癌、基底細胞癌、横紋筋肉腫又は髄芽細胞腫において、腫瘍サプレッサーとして作用しうることを示唆している。これらの腫瘍は、髄芽細胞腫を除いて、何れかの活性化と関係する一の又は他の経路の不適当な活性と関係している(Taipale及びBeachy, Nature 411, 349, 2001)。Dlpの場合、GPC4及びGPC6は、最も密接に関係している6種類の哺乳動物グリピカンファミリーのメンバーである(De Cat及びDavid, Semin.Cell Dev.Biol. 12, 117, 2001)。GPC6は、ヒトの染色体遺伝子座13q32にマップされ(Paine-Saunders等、Genomics 57, 455, 1999)、その欠失(13q32症候群)は、全前脳症(HPE)、肛門性器形成異常、及び親指欠如を含む欠損と関係し(Brown等、Am.J.Hum.Genet. 57, 859, 1995);これらの形成異常はすべて、ソニックヘッジホッグシグナリングの変化する程度の喪失と一致する(Ramalho-Santos等、Development 127, 2763, 2000; Chiang等、Nature 383, 407, 1996)。もしGPC6のレベルが哺乳動物のHh応答性において限定的であるならば、GPC6機能の喪失は、13q32症候群の形成異常(おそらく、この領域の中又は近くの他のHPE遺伝子と並んでいる)においてある役割を演じうる(Brown等、Nature Genet. 20, 180, 1998)。最後に、CG9211の哺乳動物同族体であるCDOの変異は、HPEの形態を生じ(Cole及びKrauss, Curr.Biol. 13, 411, 2003)、シグナリングにおけるCDOの役割と一致する。
IV.更なるHHシグナリング経路成分を同定する方法
Lum等(前出)で用いられたRNAiアプローチは、任意所定の生物の全ゲノムをカバーするように、特に、多くの樹立された細胞株を容易に入手できる蠕虫、ショウジョウバエ、魚、ゲッ歯類、及びヒトなどのモデル生物において拡張することができる。Lum等(前出)は、配列決定されたショウジョウバエゲノムにより与えられた情報(Morrison等、J.Cell Biol. 150, F57, 2000)を利用して、かかる大規模なキナーゼ−ホスファターゼRNAiライブラリースクリーニングの例を与えている。その結果、4つの更なるHHシグナリング成分が同定された。かかる予備的なイン・ビトロスクリーニングは、高スループット様式で行なって、一生物中の全遺伝子の、又は少なくともその生物中の遺伝子の特定のサブセット例えば全キナーゼなどの迅速スクリーニングを可能にすることができる(Lum等、前出参照)。これらのイン・ビトロスクリーニングから得られた結果は、イン・ビボで又は他の独立のアッセイで確認して、任意の同定されたHHシグナリング経路成分の役割を確認することができる。これらの確認された成分を、次いで、特異的RNAiアンタゴニストスクリーニングのために選択して、最終ゴールのHHシグナリングの調節をイン・ビトロ及びイン・ビボの両方で達成することができる。明らかに、伝統的な遺伝学的、生化学的手段も又(単独で又は組み合わせて)、更なるHHシグナリング経路化合物を同定するために利用することができる。
理論的には、任意の生物学的過程を、その機能を監視するための迅速スクリーニング手順を開発できれば、この方法を利用して調べることができる。例えば、細胞の増殖、アポトーシス、細胞***、ファゴサイトーシス、タンパク質−タンパク質相互作用、細胞融合又はウイルス侵入の蛍光ベースのアッセイは、RNAi研究に従順である。本件においては、HHシグナリング成分の生物学的機能は、よく研究されており、任意のHHシグナリング成分についての機能的アッセイを開発することは、当業者の日常的実施の内にある。RNAiを、一次培養細胞を研究するために適合させることも又、実行することができ、そこでは、様々な分化事象を試験することができる。加えて、合成表現型、遺伝子改変、及び特定の薬物効果をRNAi法により分析することのできるスクリーニング計画を工夫することは、可能なはずである。
最近まで、RNAiアプローチを、哺乳動物細胞に適用することは、長いdsRNAが、インターフェロンを含む抗ウイルス応答及び他の一緒にタンパク質合成の全体的阻害とその後のアポトーシスを引き起こす細胞内経路を刺激するので、可能でなかった。しかしながら、21〜23ヌクレオチドの遺伝子特異的dsRNAは、哺乳動物細胞において、インターフェロン応答を刺激することなく、遺伝子機能を効果的に阻害する(Watanabe等、J.Cell Biol. 130, 1207, 1995;Song及びFilmus, Biochim.Biophys.Acta 1573, 241, 2002)。これらの短い干渉性又はsiRNAは、イン・ビトロで合成して、直ぐに細胞にトランスフェクトすることができる。或は、哺乳動物細胞を、関心あるコード領域に対応するヘアピン前駆体の発現を指示するDNAベクターで安定にトランスフォームすることができ;その結果生成した転写物は、その後、プロセッシングを受けて、所望の遺伝子を標的とする特異的siRNAとなる。これらの進歩(及び適当なsiRNAライブラリー)により、哺乳動物細胞において、新規な薬物標的を同定するためにデザインされた戦略を含む、情報を与えるRNAiスクリーニングを企てることができる。しかしながら、哺乳動物細胞における直接的スクリーニングがなくても、他のモデル動物例えばショウジョウバエにおいて行なわれた研究から集められたHH経路についての情報は、このシグナリング経路の高度な機能的保存のために、一層高等な真核生物に適用することもできる。
V.典型的なRNAiアンタゴニスト及びそれらの合成
RNAi構築物は、標的遺伝子の発現を特異的にブロックすることのできる二本鎖RNAを含む。従って、RNAi構築物は、特定の遺伝子の発現を特異的にブロックすることによって、アンタゴニストとして作用することができる。「RNA干渉」即ち「RNAi」は、最初、植物及び蠕虫で認められた現象であって、二本鎖RNA(dsRNA)が遺伝子発現を特異的に且つ転写後様式でブロックする当該現象に適用された用語である。理論に拘束されるものではないが、RNAiは、mRNA分解を含むようであるが;その生化学的機構は、現在、活発に研究されている領域である。作用機構に関して幾分不明確であるにもかかわらず、RNAiは、遺伝子発現をイン・ビトロ又はイン・ビボで阻害する有用な方法を提供する。
ここで用いる場合、用語「dsRNA」は、siRNA分子又は、二本鎖の特徴を含み且つ細胞中でプロセッシングを受けてsiRNAになることのできる他のRNA分子例えばヘアピンRNA部分を指す。
用語「機能喪失」は、主題のRNAi法により阻害された遺伝子をいう場合には、RNAi構築物の非存在下のレベルと比較しての遺伝子の発現レベルの低下を指す。
ここで用いる場合、語句「RNAiを媒介する」は、RNAi過程によって、何れのRNAを分解すべきかを識別する能力を指す(示す)ものであり、例えば、分解は、配列と無関係のdsRNA応答(例えば、PKR応答)によるよりは、配列特異的様式で起きる。
ここで用いる場合、用語「RNAi構築物」は、この明細書中で用いられる包括的用語であって、小型の干渉性RNA(siRNA)、ヘアピンRNA、及び他の、イン・ビボで開裂されてsiRNAを形成することのできるRNA種を包含する。RNAi構築物は、ここでは、細胞内でdsRNA又はヘアピンRNAを形成する転写物、及び/又はイン・ビボでsiRNAを生成することのできる転写物を生成させることのできる発現ベクター(RNAi発現ベクターとも呼ばれる)をも包含する。
「RNAi発現ベクター」(ここでは、「dsRNAをコードするプラスミド」とも呼ばれる)は、核酸構築物が発現された細胞内でsiRNA分子を生成するRNAを発現(転写)させるために用いる当該複製可能な核酸構築物を指す。かかるベクターは、(1)遺伝子発現を調節する役割を有する遺伝子エレメント例えばプロモーター、オペレーター又はエンハンサーのアセンブリを(2)転写されて二本鎖RNA(細胞内でアニールしてsiRNAを形成する2つのRNA部分、又はプロセッシングを受けてsiRNAとなりうる一本鎖ヘアピンRNA)を生成する「コード」配列に機能的に結合して含む転写ユニット、及び(3)適当な転写開始及び終止のための配列を含む。プロモーター及び他の調節用エレメントの選択は、一般に、意図される宿主細胞によって変化する。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしば、ベクター形態において染色体と結合されない環状二本鎖DNAループを指す「プラスミド」の形態である。本明細書においては、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドは、最も一般的に用いられるベクターの形態であるので、交換可能に用いる。しかしながら、この発明は、同等の機能を達成し、以下に記すような他の形態の発現ベクターを包含することを意図している。
これらのRNAi構築物は、細胞の生理的条件下で、阻害すべき遺伝子(即ち、「標的」遺伝子)のmRNA転写物の少なくとも一部のヌクレオチド配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列を含む。この二本鎖RNAは、RNAiを媒介する能力を有するだけ十分に天然のRNAに似ているだけでよい。従って、この発明は、遺伝子変異、系統多型性又は進化的分岐のために予想されうる配列の変化を許容しうるという利点を有している。標的配列とRNAi構築物配列との間の許容されるヌクレオチドミスマッチの数は、5塩基対中1以下であり、又は10塩基対中1以下、又は20塩基対中1以下、又は50塩基対中1以下である。二本鎖siRNAの中心でのミスマッチは、最も臨界的であり、本質的に、標的RNAの開裂を完全に破壊しうる。対照的に、標的RNAと相補的なsiRNA鎖の3’末端のヌクレオチドは、標的認識の特異性に有意に寄与しない。
配列同一性は、当分野で公知の配列比較及びアラインメントアルゴリズム(Gribskov及びDevereux, Analysis Primer, Stockton Press, 1991 及び同書中で引用された参考文献参照)により、ヌクレオチド配列間の差異パーセントを例えばデフォルトパラメーターを利用するBESTFITソフトウェアプログラムにて実行されるスミス−ウォーターマンアルゴリズム(例えば、ウィスコンシン大学、Genetic Computing Group)により計算することによって最適化させることができる。阻害性RNAと標的遺伝子の部分との間の90%より大きい配列同一性が好ましく、100%配列同一性さえ好ましい。或は、RNAの二本鎖領域は、標的遺伝子転写物の一部とハイブリダイズ(例えば、400mM NaCl、40mM PIPES pH6.4、1mM EDTA、50℃又は70℃で12〜16時間のハイブリダイゼーションとその後の洗浄)することのできるヌクレオチド配列として、機能的に規定することができる。
RNAi構築物の製造は、化学合成法により又は組換え核酸技術によって実行することができる。処理した細胞の内因性RNAポリメラーゼは、イン・ビボで転写を媒介することができ、又はクローン化したRNAポリメラーゼをイン・ビトロでの転写に利用することができる。これらのRNAi構築物は、例えば、細胞性ヌクレアーゼに対する感受性を減じ、バイオアベイラビリティーを改善し、配合物の特性を改善し、及び/又は他の薬物速度論的特性を変えるように、リン酸−糖主鎖又はヌクレオシドの何れかに改変を含むことができる。例えば、天然のRNAのホスホジエステル結合は、窒素又はイオウヘテロ原子の少なくとも一つを含むように改変することができる。RNA構造中の改変は、dsRNAに対する一般的な応答を回避しつつ、特異的な遺伝子阻害を可能にするように、RNA構造の改変を調整することができる。同様に、アデノシンデアミナーゼの活性物質をブロックするように、塩基を改変してもよい。RNAi構築物は、酵素によってあるいは部分的/全体的有機合成によって産生することもでき、イン・ビトロの酵素的又は有機的合成によって、あらゆる改変リボヌクレオチドを導入することができる。
RNA分子を化学的に改変する方法は、RNAi構築物を改変するために適合させることができる(例えば、Heidenreich等(1997) Nucleic Acids Res, 25:776-780; Wilson等(1994) J Mol Recog 7:89-98; Chen等(1995) Nucleic Acids Res 23:2661-2668; Hirschbein等(1997) Antisense Nucleic Acid Drug Dev 7:55-61参照)。単に、説明のため記すが、RNAi構築物の主鎖は、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、ホスホジチオエート、キメラメチルホスホネート−ホスホジエステル、ペプチド核酸、5−プロピニル−ピリミジン含有オリゴマー又は糖改変(例えば、2’−置換リボヌクレオシド、a−コンフィギュレーション)によって改変することができる。
二本鎖構造は、1種の自己相補的RNA鎖で形成されてもよいし、2種の相補的RNA鎖で形成されてもよい。RNA二本鎖の形成は、細胞内で開始されてもよいし、細胞外で開始されてもよい。RNAは、細胞1個につき少なくとも1コピーの構築物となる量で導入することができる。二本鎖物質の投与量が多いほど(例えば細胞1個につき少なくとも5、10、100、500又は1000コピー)、より効力のある阻害が得られる。少ない投与量も、特定の用途には有用である。RNAの二本鎖領域に相当するヌクレオチド配列が、遺伝子阻害の標的となるという点において、阻害は配列特異的である。
ある具体例において、主題のRNAi構築物は、「小型の干渉性RNA」即ち「siRNA」である。これらの核酸は、約19〜30ヌクレオチド長であり、一層好ましくは、21〜23ヌクレオチド長であり、長さにおいて、一層長い二本鎖RNAのヌクレアーゼ「ダイシング」により生成される断片に相当する。このsiRNAは、二本鎖であり、各末端に短いオーバーハングを含むことができる。好ましくは、これらのオーバーハングは、3’末端で、1〜6ヌクレオチド長である。当分野では、siRNAは、化学合成することができ、又は一層長い二本鎖RNA若しくはヘアピンRNAから誘導されうるということが知られている。これらのsiRNAは、標的RNAに対して、siRNAが標的RNAと対合して、RNA干渉機構による標的RNAの配列特異的な分解を生じうるような有意の配列類似性を有している。これらのsiRNAは、ヌクレアーゼ複合体をリクルートして、特異的配列への対合によって該複合体を標的mRNAに導くと理解されている。その結果、標的mRNAは、タンパク質複合体中のヌクレアーゼによって分解される。特定の具体例において、この21〜23ヌクレオチドのsiRNAは、3’ヒドロキシル基を含む。
本発明のsiRNA分子は、当業者に公知の多くの技術を利用して得ることができる。例えば、このsiRNAは、化学合成することもできるし又は当分野で公知の方法を利用して組換えによって生成することもできる。例えば、短いセンス及びアンチセンスRNAオリゴマーを合成して、アニールさせて、各末端に2ヌクレオチドのオーバーハングを有する二本鎖RNA構造を形成することができる(Caplen等(2001) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 98:9742-9747; Elbashir等(2001) EMBO J, 20:6877-88)。これらの二本鎖siRNA構造は、その後、直接、細胞に、受動的取込みにより又は下記のような選択した送達システムによって導入することができる。
ある具体例において、これらのsiRNA構築物は、一層長い二本鎖RNAのプロセッシングによって、例えば、酵素ダイサーの存在下で生成することができる。一具体例において、ショウジョウバエのイン・ビトロの系を利用する。この具体例においては、dsRNAは、ショウジョウバエ胚に由来する可溶性の抽出物と合わされ、それにより、合わせたものが生成される。この合わせたものを、dsRNAがプロセッシングを受けて約21〜23ヌクレオチドのRNA分子とあなる条件下に維持する。
これらのsiRNA分子は、当業者に公知の多くの技術を利用して精製することができる。例えば、ゲル電気泳動を利用して、siRNAを精製することができる。或は、非変性法例えば非変性カラムクロマトグラフィーを利用して、siRNAを精製することができる。加えて、クロマトグラフィー(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)、グリセロール勾配遠心分離法、抗体を利用するアフィニティークロマトグラフィーを利用して、siRNAを精製することができる。
ある好適な具体例において、siRNA分子の少なくとも一本の鎖は、2〜4ヌクレオチド長であってよいが、約1〜6ヌクレオチド長の3’オーバーハングを有する。一層好ましくは、3’オーバーハングは、1〜3ヌクレオチド長である。ある具体例において、一の鎖は、3’オーバーハングを有し及び他の鎖は、鈍端であるか又はやはりオーバーハングを有する。オーバーハングの長さは、各鎖につき、同じであっても異なってもよい。siRNAの安定性を更に増進するために、3’オーバーハングは、分解に対して安定化されうる。一具体例において、RNAは、プリンヌクレオチド例えばアデノシン又はグアノシンヌクレオチドを含有することによって安定化される。或は、ピリミジンヌクレオチドの改変アナログによる置換(例えば、ウリジンヌクレオチド3’オーバーハングの2’−デオキシチミジンによる置換)は、許容され、RNAiの効率に影響を与えない。2’ヒドロキシルの不在は、組織培養培地におけるオーバーハングのヌクレアーゼ耐性を有意に増進させ且つイン・ビボでも利益となりうる。
他の具体例において、RNAi構築物は、長い二本鎖RNAの形態である。ある具体例において、このRNAi構築物は、少なくとも、25、50、100、200、300又は400塩基である。ある具体例において、このRNAi構築物は、400〜800塩基長である。これらの二本鎖RNAは、細胞内で消化されて、例えば、siRNA配列を細胞内で生成する。しなしながら、長い二本鎖RNAのイン・ビボでの利用は、おそらく、配列非依存性のdsRNA応答により引き起こされうる有害作用のために、常に実際的である訳ではない。かかる具体例においては、局所的送達システム及び/又はインターフェロン若しくはPKRの効果を減じる薬剤の利用が好適である。
ある具体例において、RNAi構築物は、ヘアピン構造の形態(即ち、ヘアピンRNA)である。これらのヘアピンRNAは、外因的に合成することができ又はRNAポリメラーゼIIIプロモーターからイン・ビボで転写することにより形成することができる。かかるヘアピンRNAを哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングのために作成して利用する例は、例えば、Paddison等、Genes Dev, 2002, 16:948-58; McCaffrey等、Nature, 2002, 418:38-9; McManus等、RNA, 2002, 8:842-50; Yu等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 2002, 99:6047-52に記載されている。好ましくは、かかるヘアピンRNAは、細胞内又は動物内で巧みに処理されて所望の遺伝子の連続的で安定した抑制を確実にする。siRNAは細胞内でのヘアピンRNAのプロセッシングにより生成されうるということが当分野で知られている。
更に別の具体例において、プラスミドは、二本鎖RNAを、例えば転写産物として送達するために利用される。かかる具体例において、このプラスミドは、RNAi構築物のセンス及びアンチセンス鎖の各々について、「コード配列」を含むようにデザインされる。これらのコード配列は、例えば逆向きプロモーターが隣接した同じ配列であってよいし、又はそれぞれ別々のプロモーターの転写制御下にある2つの別々の配列であってもよい。コード配列が転写された後で、それらの相補的なRNA転写物が塩基対合して、二本鎖RNAを形成する。
PCT出願WO01/77350は、真核細胞内の同じ導入遺伝子のセンス及びアンチセンスRNA転写物の両方を生成するための導入遺伝子の二方向性(又はコンバージェント)転写のための典型的なベクターを記載している。従って、ある具体例において、本発明は、次のユニークな特徴を有する組換えベクターを提供する:それは、逆向きに配置された2つの重複する転写ユニットを有し且つ関心あるRNAi構築物の導入遺伝子と隣接するウイルス性レプリコンを含み、これらの2つの重複する転写ユニットは、宿主細胞内で同導入遺伝子断片からのセンス及びアンチセンスRNA転写物の両方を生成する。Tran等、BMC Biotechnology 3:21, 2003 (参考として、本明細書中に援用する)も参照されたい。
RNAi構築物は、標的核酸配列と同一若しくは実質的に同一の二本鎖RNAの長いストレッチ又は標的核酸配列の一領域とのみ同一若しくは実質的に同一の二本鎖RNAの短いストレッチを含むことができる。長い又は短いRNAi構築物を作成して送達する典型的方法は、例えば、WO01/68836及びWO01/75164中に見出すことができる。
特定の遺伝子又は特定の遺伝子ファミリーを特異的に認識する典型的なRNAi構築物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの選択に関して上で詳しく概説した方法論を利用して選択することができる。同様に、RNAi構築物の送達方法は、上で詳しく概説したアンチセンスオリゴヌクレオチド送達のための方法を包含する。
一般に、正の、活性化HHシグナリングタンパク質例えばヘッジホッグ、スムースンド又はgli−1の存在又は翻訳を減少させる前述の何れかのRNAiアンタゴニストは、HHシグナリングのアンタゴニストとして作用するが、負の、阻害的HHシグナリングタンパク質例えばパッチトの産生を減少させるRNAiアンタゴニストは、HHシグナリングに対するアゴニスト効果を有するであろうということが予想される。
ある具体例において、主題のRNAiアンタゴニストは、ヘッジホッグ経路に対する選択性に基づいて選択することができる。この選択性は、ヘッジホッグ経路体他の経路例えばHH経路とある種の成分を共有するウィングレス経路に関するものであってよく;又は幾つかの類似体例えばptc−1 v.ptc−2などの一つを利用する特定のヘッジホッグ経路間の選択性に関するものであってもよい。
特別の具体例において、このRNAiアンタゴニストを、それが一つのパッチトイソ型に対して隣のものより一層選択的であるので、例えば、一つのパッチト経路(ptc−1、ptc−2)に対して、他のものの1.5倍、2倍、3倍、5倍、10倍、一層好ましくは少なくとも100倍又は1000倍も選択的であるので利用するために選択する。
ある好適具体例においては、主題のインヒビターは、ヘッジホッグ媒介のシグナル変換を、1mM以下の、一層好ましくは1μM以下の、尚一層好ましくは1nM以下のED50で阻害する。
ある具体例においては、PKA以外のプロテインキナーゼ例えばPKCより一層選択的にヘッジホッグ活性と拮抗するヘッジホッグ経路のアンタゴニストであるRNAiアンタゴニストを選択し、例えば、そのRNAiアンタゴニストは、ヘッジホッグ経路の活性を、他のプロテインキナーゼの活性を調節する場合より少なくとも一桁強力に、好ましくは少なくとも2桁強力に、尚一層好ましくは少なくとも3桁強力に調節する。従って、例えば、ヘッジホッグ経路の好適なインヒビターは、ヘッジホッグ活性を、PKCの阻害のKiより少なくとも一桁低い、好ましくは少なくとも2桁低い、尚一層好ましくは少なくとも3桁低いKiで阻害することができる。ある具体例において、PKA阻害のKiは、10nM未満であり、好ましくは1nM未満であり、尚一層好ましくは0.1nM未満である。
VI.方法及び組成物の典型的適用
本発明の他の特徴は、細胞の分化状態、生存及び/又は増殖を調節する方法に関する。
例えば、主題の方法を用いて、血管形成を阻止することができるであろうということが予想される。ヘッジホッグは、血管形成を刺激することが知られている。ヘッジホッグタンパク質を浸透させてマウスに挿入されたマトリゲルプラグは、実質的な新血管新生を示すが、ヘッジホッグを有しないマトリゲルプラグは、比較的僅かの血管新生しか示さない。ヘッジホッグタンパク質は又、通常無血管のマウス角膜の血管新生を増大させることもできる。ptc−1遺伝子は、大動脈の内皮細胞、血管平滑筋細胞、大動脈の動脈血管外膜繊維芽細胞、心房及び心室の冠状動脈管構造及び心筋細胞を含む正常な血管組織において発現される。これらの組織も又、ヘッジホッグタンパク質に感受性である。外因性ヘッジホッグでの処理は、ptc−1発現のアップレギュレーションを引き起こす。加えて、ヘッジホッグタンパク質は、血管平滑筋細胞の増殖をイン・ビボで刺激する。ヘッジホッグタンパク質は又、繊維芽細胞に、VEGF、bFGF、Ang−1及びAng−2などの血管形成成長因子の発現を増大させる。最後に、ヘッジホッグタンパク質は、虚血性の損傷からの回復を刺激すること及び側副血管の形成を刺激することが知られている。
ヘッジホッグが血管形成を促進するとすれば、ヘッジホッグアンタゴニストは、特に、あるレベルのヘッジホッグシグナリングが血管形成に必要である状況において、血管形成阻害剤として作用することが予想される。
血管形成は、多くの疾患にとって基本的に重要である。持続性の、無秩序な血管形成が、ある範囲の病気状態、腫瘍の転移及び内皮細胞の異常増殖において生じる。血管形成過程の結果として造られた脈管構造は、これらの病気においてみられる病的ダメージを支持するものである。無秩序な血管形成により造られた種々の病的状態は、血管形成依存性又は血管形成関連疾患としてグループにまとめられている。血管形成過程の制御に向けられた治療は、これらの疾患の排除又は緩和へと導くことができた。
血管形成により引き起こされ、支持され又はそれに関係する疾患には、眼の新血管新生疾患、加齢関連黄斑変性、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植の拒絶、新血管新生性緑内障、水晶体後繊維増殖症、流行性角結膜炎、ビタミンA欠乏症、コンタクトレンズ疲労症、アトピー性角膜炎、上輪部角結膜炎、表皮爪膜乾燥症、シェーグレン酒性座瘡、、フリクテン症、梅毒、ミコバクテリア感染症、脂質退行変性、化学的火傷、細菌性潰瘍、真菌性潰瘍、単純ヘルペス感染症、帯状疱疹、原虫感染症、カポジ肉腫、モーレン潰瘍、テリエン辺縁変性、辺縁表皮剥離、慢性関節リウマチ、全身性狼瘡、多発性動脈炎、外傷、ウェゲナー類肉腫症、鞏膜炎、スティーヴンズ-ジョンソン病、周辺放射角膜切開、角膜移植片拒絶、慢性関節リウマチ、骨関節症慢性的炎症(例えば、潰瘍性大腸炎又はクローン病)、血管腫、遺伝性出血性毛細管拡張症及び遺伝性出血性毛細管拡張症が含まれる。
加えて、血管形成は、癌においても重要な役割を演じている。腫瘍は、栄養を供給し且つ細胞老廃物を除去する血液の供給なしでは拡大できない。血管形成が重要である腫瘍には、固形腫瘍例えば横紋筋肉腫、網膜芽細胞腫、ユーイング肉腫、神経芽細胞腫及び骨肉腫、並びに良性腫瘍例えば聴神経腫、神経繊維腫、トラコーマ及び化膿性肉芽腫が含まれる。血管形成因子は、幾つかの固形腫瘍と関連することが見出されている。血管形成の防止は、これらの腫瘍の成長及び腫瘍の存在の結果生じる動物のダメージを停止させることができるであろう。血管形成は又、血液から生じる腫瘍例えば白血病(これは、白血球の無制御な増殖が起きる、何れかの骨髄の様々な急性又は慢性の新生物疾患で、通常、貧血症、血液凝固機能障害及びリンパ節、肝臓及び脾臓の肥大を伴う)とも関係している。血管形成は、骨髄における白血病様腫瘍を生じさせる異常において役割を演じているということが考えられる。
腫瘍の成長に加えて、血管形成は、転移においても重要である。初期においては、血管形成は、腫瘍の血管新生において重要であり、それは、癌細胞が血流に入って身体中を循環することを可能にする。腫瘍細胞が原発部位を離れて二次的な転移部位に定着した後は、新たな腫瘍が成長して拡大しうる前に、血管形成が起きなければならない。それ故、血管形成の防止は、腫瘍の転移の防止(おそらく原発部位の新生物成長を含む)に導くことができよう。
血管形成は又、再生及び傷の治癒などの正常な生理的過程にも関与している。血管形成は、***において(及び受精後の胞胚の着床においても)重要なステップである。血管形成の防止は、無月経の誘導、***のブロック又は胞胚の着床の防止に利用することができよう。
この発明は、呼吸障害症候群又は他の不適当な肺表面張力から生じる疾患の治療及び/又は予防において有用であろうということが予想される。呼吸障害症候群は、肺の肺胞における不十分な表面活性物質から生じる。脊椎動物の肺は、肺の膨張中に表面張力を上昇させ且つ肺の収縮中には減少する脂質とタンパク質の複雑な混合物である表面活性物質を含んでいる。肺の収縮中、表面活性物質は、肺胞をつぶす表面力がなくなるように減少する。呼息中つぶれなかった膨らんだ肺胞は、血液と肺胞ガスの間での連続的な酸素と二酸化炭素の輸送を可能にし、その後の吸息中に膨張するのにずっと小さい力しか必要としない。膨張中、肺の表面活性物質は、肺胞表面積が増大するにつれて表面張力を増大させる。膨張中の肺胞におけるすすぎ表面張力は、それらの空気を含んだ空間における過剰膨張に対抗し、吸入された空気を十分空気を含んでいない肺胞へそらし、それにより一様な肺の吸気を促進する傾向がある。
呼吸障害症候群は、特に、未熟児に多い。肺の表面活性物質は、通常は、胎児期の最後の6週間まで非常に低速で合成される。正常な妊娠期間より6週間以上前に生まれたヒトの幼児は、不適当な量の肺表面活性物質及び不適当な表面活性物質合成速度を有して生まれるリスクが高い。生まれた幼児が未熟であるほど、表面活性物質欠乏は重症でありそうである。重い表面活性物質欠乏症は、誕生後数分から数時間以内に呼吸不全を生じうる。この表面活性物質欠乏症は、最大呼吸努力にもかかわらず、肺の広がる能力の減少の故に、進行性の肺胞崩壊(肺拡張不全)を生じる。その結果、幼児の血液に到達する酸素の量は不十分となる。RDSは、成人においても、典型的には表面活性物質の生合成不全の結果として生じうる。
未熟児の肺組織は、ヘッジホッグシグナリング経路の高い活性を示す。この経路のヘッジホッグアンタゴニストを用いた阻害は、ラメラ体の形成を増大させ且つ表面活性物質の生合成に関与する遺伝子の発現を増大させる。ラメラ体は、表面活性物質の生合成に関係する細胞内構造である。これらの理由から、未熟児のヘッジホッグアンタゴニストでの処理は、表面活性物質の生合成を刺激してRDSを改善するはずである。成人のRDSがヘッジホッグ経路の活性化に関係している場合には、ヘッジホッグアンタゴニストでの処理はやはり有効なはずである。
ヘッジホッグアンタゴニストの利用は、特に、冒された組織及び/又は細胞が高いヘッジホッグ経路の活性化を示す病気を標的としうるということが更に予想される。gli遺伝子の発現は、ヘッジホッグシグナリング経路により活性化される(gli−1、gli−2及びgli−3を含む)。gli−1発現は、最も首尾一貫して、広範囲の組織及び病気にわたって、ヘッジホッグシグナリング活性と相関しているが、gli−3は、それ程でない。このgli遺伝子は、ヘッジホッグシグナリングの完全な効果を誘出するのに必要な多くの遺伝子の発現を活性化する転写因子をコードしている。しかしながら、Gli−3転写因子は又、ヘッジホッグエフェクター遺伝子のリプレッサーとしても作用し得て、それ故、gli−3の発現は、ヘッジホッグシグナリング経路の減少した効果を引き起こすことができる。Gli−3が転写アクチベーターとして作用するかリプレッサーとして作用するかは、転写後事象に依存しており、それ故、Gli−3タンパク質の活性化型(抑制型に対して)を検出する方法がヘッジホッグ経路活性化の信頼できる測定でもあろうということが予想される。gli−2遺伝子発現は、ヘッジホッグ経路活性化についての信頼できるマーカーを与えることが予想される。gli−1遺伝子は、多くの癌、肥厚及び未熟肺において強く発現されており、ヘッジホッグ経路の相対的な活性化のマーカーとして機能する。加えて、高いgli遺伝子発現を有する未熟な肺などの組織は、ヘッジホッグ阻害剤により強く影響される。従って、gli遺伝子発現の検出は、ヘッジホッグアンタゴニストでの治療から特に利益を得るであろう組織及び病気を同定するための強力な予測ツールとして用いることができるということが予想される。
好適具体例において、gli−1発現レベルは、転写物の直接的検出により、又はタンパク質のレベル若しくは活性の検出によって検出される。転写物は、主としてプローブのgli−1転写物又はそれから合成されたcDNAへのハイブリダイゼーションに依存する任意の広範囲の技術を用いて検出することができる。周知技術には、ノーザンブロッティング、逆転写PCR及び転写物レベルのマイクロアレイ分析が含まれる。Gliタンパク質レベルを検出する方法には、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D SDS−PAGE)(好ましくは、Gliタンパク質の位置が決定されている標準と比較する)、及び質量分析法が含まれる。質量分析法は、一連の精製ステップと連結させて、特定の試料中の多くの異なるタンパク質レベルの高スループットの同定を可能にすることができる。質量分析法及び2D SDS−PAGEは又、タンパク質分解事象、ユビキチン化、リン酸化、脂質修飾などを含むタンパク質に対する転写後修飾を同定するためにも利用することができる。Gli活性は又、基質DNAに対する結合又は標的プロモーターのイン・ビトロ転写活性化を分析することによっても評価することができる。ゲルシフトアッセイ、DNAフットプリンティングアッセイ及びDNA−タンパク質架橋アッセイは、すべて、DNA上のGli結合部位に結合することのできるタンパク質の存在を評価するために利用することのできる方法である。(J Mol Med 1999 6月、77(6):459-68; Cell 2000 2月、18;100(4):423-34; Development 2000;1 27(19):4293-4301)
好適具体例において、gli転写物レベルを測定し、異常に高いgliレベルを示す病気又は障害のある組織をヘッジホッグアンタゴニストで治療する。他の具体例において、治療される病気は、ヘッジホッグ経路の異常な活性化と有意の相関を有することが知られている(たとえ、治療される組織において、gli発現レベルの測定を行なわなくても)。未熟肺組織、肺癌(例えば、腺癌、気管支肺胞腺癌、小細胞癌)、乳癌(例えば、下方腺管癌、下方小葉癌、管状癌)、前立腺癌(例えば、腺癌)、及び良性前立腺肥厚は、すべて、ある場合において、強く上昇したgli−1発現レベルを示す。従って、gli−1発現レベルは、これらの組織のどれをヘッジホッグアンタゴニストで処理すべきであるかを決定するための強力な診断デバイスである。加えて、ウロセリアル細胞の癌(例えば、膀胱癌、他の泌尿生殖器癌)がやはりある場合に上昇したgli−1レベルを有するであろうという実質的な相関の形跡がある。例えば、染色体9q22上のヘテロ接合性の喪失が膀胱癌に共通していることが知られている。このptc−1遺伝子は、この位置に位置され、ptc−1機能欠損は、おそらく、他の多くの種類の癌におけるように、増殖過剰の部分的原因である。従って、かかる癌は又、高いgli発現をも示し、特に、ヘッジホッグアンタゴニストでの治療に従順であろう。
ptc−1及びptc−2の発現は又、ヘッジホッグシグナリング経路によっても活性化されるが、これらの遺伝子は、ヘッジホッグ経路活性化のマーカーとしてはgli遺伝子に劣る。ある組織においては、ヘッジホッグ経路が高度に活性であるにもかかわらず、ptc−1又はptc−2の一方のみが発現される。例えば、精巣の発生において、デザートヘッジホッグは重要な役割を演じ、そのヘッジホッグ経路が活性化されるが、ptc−2しか発現されない。従って、これらの遺伝子は、両遺伝子の同時測定はヘッジホッグアンタゴニストで処理すべき組織の一層有用な指標として企図されるが、ヘッジホッグ経路活性化のマーカーとしては個別的には信頼できない。
如何なる程度のgli過剰発現でも、ヘッジホッグアンタゴニストが有効な治療剤であろうということを決定するのに有用でありうるということが予想される。好適具体例において、gliは、少なくとも正常の2倍高いレベルで発現されるであろう。特に好適な具体例において、発現は、正常より4、6、8又は10倍高い。
例えば脊椎動物において、分化した組織が秩序だって空間的に配置されることに、ヘッジホッグ、ptc及びスムースンドが明らかに広く関与しているという発見に照らし合わせると、主題の方法はイン・ビトロ及びイン・ビボ両方において、異なる脊椎動物組織系列の作成及び/又は維持処置の一部として用いることができる。所与の組織の増殖及び分化に関して、誘導性の有無に関わらず、適当なものであれば、ヘッジホッグアンタゴニストは上記した調製物のいずれでもありうる。
例えば、本発明の方法は、ヘッジホッグシグナリングのレベルを低下させるのが望ましい場合、細胞培養技術に適用することができる。イン・ビトロのニューロン培養系は、ニューロン発達の研究並びに神経向性因子[神経成長因子(NGF)、毛様体向性因子(CNTF)及び脳誘導神経向性因子(BDNF)など]の同定において基本的で不可欠なツールであるということがわかっている。本発明の方法の使用法の一つとして、神経幹細胞の培養において用いるもの(例えば新しいニューロン及びグリアの作成を目的に、そのような培養において用いる)が挙げられる。主題の方法のそのような態様においては、培養細胞を本発明のヘッジホッグアンタゴニストと接触させて、培養中の神経幹細胞の増殖率及び/又は分化の速度を変化させるか、ある種の末期分化神経細胞の培養の完全性を保持する。例証的な態様においては、主題の方法を用いて、例えば感覚ニューロン又は運動ニューロンを培養することができる。そのようなニューロン培養を、簡易なアッセイ系並びに治療用の移植可能細胞源として用いることができる。
主題のヘッジホッグアンタゴニストの他の使用法をさらに例証するものとして、脳内移植が中枢神経系治療の更なる方法として用いられるようになったことを挙げておく。例えば、損傷した脳組織を修復する一つの方法として、胎児又は新生児動物の細胞を成体の脳に移植する方法が挙げられる(Dunnett他(1987)J Exp Biol123:265−289;及びFreund他(1985)J Neurosci5:603−616)。様々な脳領域から取った胎児ニューロンを、成体の脳にうまく組み込むことができ、その結果、行動上の欠陥を緩和することができる。例えば、脳幹神経節に対するドーパミン作用性突起物における損傷によって起こる運動障害は、胎児のドーパミン作用性ニューロンを移植することによって避けることができる。新皮質の損傷によって起こる複雑認識機能の障害は、胎児の皮質細胞を移植することによって部分的に回復させることができる。主題の方法を用いて培養の成長状態を調節することができ、胎児組織が用いられる場合には、特に神経幹細胞を用いて、幹細胞の分化率を調節することができる。
本発明で用いることのできる幹細胞は、公知のものである。例えば、幾つかの神経冠細胞が同定されているが、そのうちの幾つかは多分化能を有しており拘束されていない神経冠細胞を代表し、その他は一種類のみの細胞(例えば、感覚ニューロン)を産生する拘束された前駆細胞を代表する。本発明の方法において、そのような幹細胞の培養に用いられるヘッジホッグアンタゴニストの役割としては、拘束されていない前駆細胞の分化の調節;又は拘束された前駆細胞の、神経細胞になる最終的分化へ向かう発達の更なる制限の調節が挙げられる。例えば、本発明の方法をイン・ビトロで用いて、神経冠細胞のグリア細胞、シュワン細胞、クロム親和性細胞、コリン作動***感ニューロン又は副交感ニューロン、並びにペプチド作動性及びセロトニン作動性ニューロンへの分化を調節することができる。ヘッジホッグアンタゴニストは単独で用いることもできるし、神経前駆細胞の特定の分化の運命をさらに促進する他の神経向性因子と組み合わせて用いることもできる。
本発明の主題のヘッジホッグアンタゴニストの存在下で培養した細胞の移植に加えて、本発明のさらに他の特徴は、ヘッジホッグアンタゴニストを適用して、中枢神経系と末梢神経系両方のニューロン及び他のニューロン細胞の成長状態を調節することに関する。ptc、ヘッジホッグ及びスムースンドが、神経系発生中と、おそらくは成人期にニューロンの分化を調節する能力を有する。このことは、主題のヘッジホッグアンタゴニストがある場合において、正常細胞の保持、機能遂行及び老化;化学的又は機械的に損傷を受けた細胞の修復及び再生;及びある種の病理学上の条件下での変質の治療に関して、成人ニューロンを制御するであろうことを示している。これに鑑みて、本発明は特に主題の方法を下記に由来する神経系状態の治療プロトコル(予防及び/又は病状の低減)に適用することを企図する。(i)外傷、化学的損傷、血管損傷及び欠陥(例えば脳卒中による虚血)、感染性/炎症性及び腫瘍性損傷などの神経系の急性、亜急性、又は慢性の損傷;(ii)アルツハイマー病などの神経系の老化;(iii)パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性などの慢性神経変性疾患;及び(iv)多発性硬化症などの、神経系の又は神経系に影響を与える慢性免疫疾患。
適正に行えば、主題の方法を用いて中枢及び末梢神経損傷を修復する、人工神経を作成することができる。特に、潰れた又は切断された軸索に、人工器具を用いて管を取り付ける場合には、人工器具にヘッジホッグアンタゴニストを添加して、成長速度及び樹状突起の再生を調節することができる。神経導入経路の例は、米国特許第5,092,871号及び第4,955,892号に記載がある。
他の態様においては、主題の方法を(例えば中枢神経系において起こる)悪性又は過形成性形質転換の治療に用いることができる。例えば、ヘッジホッグアンタゴニストを用いて、そのような形質転換細胞を***終了させ又はアポトーシスを起こさせることができる。従って、本発明の方法は、例えば悪性神経膠腫、髄膜腫、髄芽細胞腫、神経外胚葉腫及び脳室上皮腫の治療の一部に用いることができる。
好ましい態様においては、主題の方法を、悪性髄芽細胞腫及び他の一次CNS悪性神経外胚葉腫の治療養生法の一部として用いることができる。
ある態様においては、主題の方法を髄芽細胞腫の治療プログラムの一部として用いることができる。一次脳腫瘍である髄芽細胞腫は、子供にみられる最も一般的な脳腫瘍である。髄芽細胞腫は後窩に発生する初期神経外胚葉腫である。これは小児脳腫瘍の約25%を占めている(Miller)。髄芽細胞腫は組織構造的には、一般にロゼット状に配置された小型の丸い細胞腫であるが、いくつかは星状細胞、上衣細胞又はニューロンに分化する(Rorke;Kleihues)。PNETは松果体(松果体芽細胞腫)及び大脳を含む脳の他の領域に起こりうる。テント上方領域に起こるこれらは、一般にPF同等物より病状が重い。
髄芽細胞腫/PNETは切除術の後CNSのどこにでも再発し、骨にまで移転することが知られる。従って前処理評価において、「脱落(dropped)移転」の可能性を除外するための脊髄の検査が行われる。このため一般に、脊髄造影法の代わりにガドリニウム促進MRIが行われており、術後の日常操作としてCSF細胞診断が得られる。
他の態様においては、主題の方法が脳室上皮腫の治療プログラムの一部として用いられる。脳室上皮腫は、小児脳腫瘍の原因の約10%を占めている。概して、脳室上皮腫は脳室の上衣ライニングに起こる腫瘍であり、顕微鏡的な大きさのロゼット、カナル及び血管周囲のロゼットを形成する。脳室上皮腫について報告された51人の小児のCHOPにおいて、3/4が組織構造上は良性であった。約2/3が第4の脳室に由来した。1/3がテント上方領域に存在した。SEERのデータ及びCHOPのデータが示すように、0歳から4歳の間にそれらがピークに達した。中央値の年齢は5歳であった。この疾病を有する小児の多くが乳児なので、多様な治療法が必要とされる。
本発明のさらに他の特徴は、ptc、ヘッジホッグ及び/又はスムースンドが、上記した神経分化に加えて、他の脊椎動物有機物質経路に関与する形態発生シグナルに関与し、内胚葉のパターン形成、中胚葉及び内胚葉の分化過程に明らかに役割を果たしているという観察に関する。従って本発明は、ヘッジホッグアンタゴニストを包含する組成物を、非神経組織の産生及び保持に関わる細胞培養及び治療法の両方に用いることを企図する。
一つの態様において、本発明はptc、ヘッジホッグ及びスムースンドが、原腸に由来する消化管、肝臓、肺及び他の臓器の形成に関与する幹細胞の発達の制御に明らかに関与しているという発見を利用するものである。Shhは内胚葉から中胚葉への誘導シグナルとして提供されるが、これは腸管形態形成に非常に重要である。従って、例えば本発明の方法のヘッジホッグアンタゴニストを用いて、正常な肝臓の複数の代謝機能を有する人工肝臓の発達及び維持を調節することができる。例証的な態様においては、主題の方法を用いて、消化管幹細胞の増殖及び分化を調節し、肝細胞培養を形成して、細胞外基質を稠密にさせるのに用いるかあるいは生体適合性重合体に封入して移植可能及び体外人工肝臓を形成することができる。
他の態様においては、ヘッジホッグアンタゴニストの治療組成物を、人工肝臓、胎児肝臓構造などの移植とともに用いて、腹腔内移植の取り込み、血管新生及び生体内分化並びに移植された肝臓組織の維持を調節することができる。
さらに他の態様においては、主題の方法を治療に用いて、物理的、化学的又は病理学的損傷を受けた後の上記のような臓器を調節することができる。例えば、ヘッジホッグアンタゴニストを包含する治療用組成物を、肝切除術に次ぐ肝臓修復に用いることができる。
胎児の腸管からの膵臓及び小腸の形成は、腸管の内胚葉細胞と中胚葉細胞との間の細胞間シグナリングに依存している。特に、腸の中胚葉の平滑筋への分化は、隣接する内胚葉細胞からのシグナルに依存することが示唆されている。胎児の後腸における内胚葉に由来するシグナル媒介物の候補の一つとして、Sonicヘッジホッグがある(例えばApelqvist他(1997)Curr Biol 7:801−4参照)。Shh遺伝子は胎児の腸管内胚葉に渡って発現されるが、これには例外があって、膵臓芽内胚葉では、膵臓発達初期の必須レギュレーターであるホメオドメインタンパク質Ipf1/Pdx1 (インシュリンプロモーター因子1/膵臓及び十二指腸ホメオボックス1)が高レベルで発現される。Apelqvist他(上述)では、胎児の腸管におけるShhの差異発現が、取り巻く中胚葉から小腸及び膵臓といった特異な中胚葉誘導体への分化を制御するかどうかを研究している。該文献ではこれを調べるために、Ipf1/Pdx1遺伝子のプロモーターを用いて、発達中の膵臓上皮におけるShhを選択的に発現している。Ipf1/Pdx1−Shhトランスジェニックマウスにおいて、膵臓中胚葉は膵臓間充織及び脾臓へ分化せず、平滑筋及び腸管カハル細胞(腸管に特徴的な細胞)に発達した。さらに、Shhに接触させた膵臓外植は、同様の腸管分化を経た。これらの結果は、内胚葉に由来するShhの差異発現が、腸管の異なる領域における隣接する中胚葉の分化を制御することを意味している。
従って本発明の文脈では、主題のヘッジホッグアンタゴニストを用いて、イン・ビボ及びイン・ビトロの両方において膵臓組織の増殖及び/又は分化を制御又は調節することを企図する。
他の具体例において、ヘッジホッグアンタゴニストは、間充織幹細胞及び中胚葉性組織に由来する幹細胞を含む非内胚葉性幹細胞から内胚葉性組織を生成するために利用される。幹細胞を分離することのできる典型的な中胚葉組織には、骨格筋、心筋、腎臓、骨、軟骨及び脂肪が含まれる。
本発明の阻害剤が治療効果をもたらす、様々な病理学上の細胞増殖及び分化条件がある。例えば異常なインシュリン発現の修正、又は分化の調節などが挙げられる。しかしより一般的には、本発明は、膵臓細胞を主題の阻害剤に接触させることによって、細胞の分化状態を誘導及び/又は維持し、生存を強化し及び/又は増殖へ影響を与える方法に関する。例えば、膵臓組織の秩序だった空間的配置形成にptc、ヘッジホッグ及びスムースンドが明らかに関与していることから、イン・ビトロ及びイン・ビボの両方でそのような組織を産生及び/又は維持する方法の一部として主題の方法を用いることが本発明によって企図される。例えば、ヘッジホッグの機能の調節は、β細胞及びおそらくは非膵臓組織の産生及び維持に関与する、細胞培養及び治療法の両方に(例えば原腸に由来する消化管、脾臓、肺、泌尿生殖器(例えば、膀胱)及び他の臓器からの組織の発達及び維持の制御に)用いることができる。
例証的な態様においては、本発明の方法を、特に膵臓細胞の異常な増殖によって特徴づけられる、膵臓組織の過形成性及び腫瘍性疾患の治療に用いることができる。例えば膵臓癌は、膵臓のインシュリン分泌量に変化をきたす、膵臓細胞の異常な増殖によって特徴付けられる。例えば膵癌などのある種の膵臓過形成は、β細胞の機能不全又は島細胞重量の減少によって、低インシュリン血症を引き起こす。
その上さらに、異なる点でヘッジホッグシグナリング特性を操作することは、イン・ビボ及びイン・ビトロの両方における膵臓組織復元/再生技術の一部として有用である。一つの態様においては、本発明は、ptc、ヘッジホッグ及びスムースンドが膵臓組織の発達の調節に関与していることを利用する。一般に、主題の方法を治療的に用いて、物理的、化学的又は病理的傷害の後に膵臓を調節することができる。さらに他の態様において、主題の方法を細胞培養技術に適用することができ、特に人工膵臓組織の初期形成の促進に用いることができる。例えばヘッジホッグ活性を変化させることによる膵臓組織の増殖及び分化の操作は、培養組織の特徴をより注意深く制御する手段を提供する。例証的な態様においては、主題の方法を用いて、例えば下記に記載のある封入装置に用いることのできる、β島細胞を必要とする人工器官の産生を増加させることができる(Aebischer他、米国特許第4,892,538号、Aebischer他、米国特許第5,106,627号、Lim、米国特許第4,391,909号、及びSefton、米国特許第4,353,888号)。膵島の初期幹細胞は多分化能を有し、最初に出現したときから、全ての島細胞特異的遺伝子を共活性化するのは明らかである。発生が進むにつれて、島細胞特異的ホルモン(例えばインシュリン)の発現は、成熟島細胞に特徴的な発現パターンに制限される。しかし、成熟β細胞における胎児の特徴の再発が観察できるようになると、成熟島細胞の表現型は培養中では安定しない。主題のヘッジホッグアンタゴニストを利用することによって、細胞の分化経路又は増殖率を調節することができる。
さらに、膵臓組織の分化状態の操作を、人工膵臓の移植と組み合わせて利用することができる。例えば、組織分化に影響するヘッジホッグ機能の操作を、移植片の生存能力を維持する手段として利用することができる。
Bellusci他(1997)Development 124:53には、Sonicヘッジホッグが肺間充織細胞増殖をイン・ビボで調節することが報告されている。従って、本発明の方法を用いて、(例えば肺気腫の治療における)肺組織の再生を調節することができる。
Fujita他(1997)Biochein Biophys Res Commun238:658には、Sonicヘッジホッグがヒト肺扁平上皮癌及び腺癌において発現することが報告されている。Sonicヘッジホッグの発現は、ヒト肺扁平上皮癌組織において検出されたが、同じ患者の正常な肺組織においては検出されなかった。上記文献は、SonicヘッジホッグがBrdUの癌細胞への取り込みを刺激し、細胞成長を刺激する一方で、抗Shh−Nが細胞成長を阻害することも報告している。これらの結果は、ptc、ヘッジホッグ及び/又はスムースンドが、そのように形質転換した肺組織の細胞成長に関与していることを示唆し、従って主題の方法を、肺癌及び腺癌、並びに肺上皮に関する増殖疾患の治療の一部として用いることができることを示している。
これらの腫瘍にヘッジホッグ経路が関与していること、又は発達の際にこれらの組織中にヘッジホッグ及びその受容体の発現が検出されることに鑑みて、主題の化合物による処置によって、他の多くの腫瘍に影響を与えうる。そのような腫瘍の例としては、ゴーリン症候群に関する腫瘍(例えば髄芽細胞腫、髄膜腫など)、pctノックアウトマウスにみられる腫瘍(例えば血管腫、横紋筋肉腫など)、gli−1増幅の結果起こる腫瘍(例えば神経グリア芽細胞腫、肉腫など)、TRC8、ptc同族体に関連した腫瘍(例えば腎臓癌、甲状腺癌など)、Ext−1関連腫瘍(例えば骨癌など)、Shh誘導腫瘍(例えば肺癌、軟骨肉腫など)及び他の腫瘍(例えば乳癌、尿生殖器(例えば腎臓、膀胱、尿管、前立腺など)癌、副腎癌、胃腸(例えば胃、腸など)癌など)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
主題の方法により治療することのできる癌の典型的形態には、前立腺癌、膀胱癌、肺癌(小細胞又は非小細胞癌を含む)、結腸癌、腎臓癌、肝臓癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜若しくは他の子宮癌、卵巣癌、精巣癌、陰茎癌、膣癌、尿道癌、食道癌、又は膵臓癌が含まれるが、これらに限られない。主題の方法により治療することのできる更なる癌の典型的形態には、骨格筋又は平滑筋の癌、胃癌、小腸の癌、唾液腺癌、肛門癌、直腸癌、甲状腺癌、副甲状癌、下垂体癌、及び鼻咽腔癌が含まれるが、これらに限られない。本発明のヘッジホッグアンタゴニストにより治療することのできる癌の更なる典型的な形態には、ヘッジホッグを発現する細胞を含む癌が含まれる。本発明のヘッジホッグアンタゴニストにより治療することのできる癌の尚更なる典型的形態には、gliを発現する細胞を含む癌が含まれる。一具体例において、その癌は、パッチト−1の変異を特徴としていない。
本発明の更に他の態様において、ヘッジホッグアンタゴニストを包含する組成物を用いて、例えば骨格形成性幹細胞から骨格組織をイン・ビトロで産生すること、並びにイン・ビボで骨格組織欠陥を治療することができる。本発明は、特に、ヘッジホッグアンタゴニストを用いて軟骨形成及び/又は骨形成の速度を調節することを企図する。「骨格組織欠陥」とは、欠陥がどのような由来(例えば外科手術的介入、腫瘍の除去、潰瘍形成、移植、骨折又は他の外傷あるいは変性状態)であれ、骨又は結合組織の回復が望まれる場所における、骨又は他の骨格結合組織の欠陥のことをいう。
例えば、本発明の方法を、結合組織の軟骨機能の回復を目的とする養生法の一部として用いることができる。そのような方法は、例えば変性摩耗(関節炎など)、並びに組織の外傷(摩耗した半月板組織の置き換え、半月板切除、靱帯の摩耗による関節の緩み、関節の悪性腫瘍、骨折などの組織の外傷により生じる、又は遺伝病により生じうるもの)などの他の機械的傷害の結果起こる、軟骨組織における欠陥又は損傷の回復において有用である。本発明の修復方法は、成形外科、再建術及び歯周手術などの、軟骨基質の再構成に有用である。本発明の方法は、半月板、靱帯又は軟骨の手術による修復に続く、前修復段階の改善に適用することができる。その上更に、本発明の方法は、外傷を受けた後の早い時期に適用された場合には、変性疾患の発症又は病状再燃を防ぎうる。
本発明の一つの態様において、主題の方法は、治療上十分な量のヘッジホッグアンタゴニスト(特に、インディアンヘッジホッグシグナル変換に対して選択的なアンタゴニスト)によって疾患のある結合組織を処置し、組織の有する軟骨細胞の分化及び/又は増殖速度を操作することによって、結合組織における軟骨修復応答を調節することを包含する。関節軟骨、関節間軟骨(半月板)、肋軟骨(真肋と胸骨を連結する)、靱帯及び腱などの結合組織は、主題の方法を用いる再建及び/又は再生治療における処置に特に敏感に反応する。ここで言う再生治療には、組織の欠陥が明らかに現れる点まで進行した変性状態の治療、変性が初期段階又は切迫した状態である組織の予防治療が含まれる。
例証的な態様において、主題の方法を、膝、足首、肘、臀部、手首、手又は足の指関節、又は顎関節などの可動関節の軟骨の治療における治療的介入の一部として用いることができる。治療は関節の半月板、関節軟骨、又はその両方を対象とすることができる。更に例証すると、主題の方法は、外傷(例えばスポーツによる傷害又は過度の摩耗)又は変性関節炎の結果起こりうる膝の変性疾患の治療に用いることができる。主題のアンタゴニストは、例えば関節鏡検査針を用いて、関節に注射して投与してもよい。ある場合には投与される薬剤は、薬剤と治療組織との接触を延長させ定常的なものとするために、ヒドロゲル又は上記した他の緩効性賦形剤の形状をとることができる。
本発明は、軟骨移植及び人工器官治療の分野において主題の方法を使用することを更に企図する。しかし、例えば軟骨と繊維軟骨の特性は組織によって(例えば関節、半月板軟骨、靱帯及び腱の間で;同じ靱帯又は腱の両端の間で;そして同じ組織の表面部と深淵部との間で)異なるので、問題が生じる。これらの組織の空間的配置は、機械的特性上の緩やかな変化を反映しうるので、これらの条件下にある未分化の移植組織が、適当に応答する能力を有していない場合には、機能不全が起こる。例えば、半月板軟骨が前十字靱帯の修復に用いられる場合、組織に化生が起こり純粋な繊維組織になる。軟骨形成の速度を調節することによって、新しい環境に移植細胞を適合させ、組織の初期発達段階の肥大軟骨細胞に類似させるように制御して、主題の方法を特にこの問題を対処するように用いることができる。
同様に、主題の方法を適用して、人工軟骨の作成及び移植の両方を促進することができる。改善された治療法が必要とされているため、コラーゲン−グリコサミノゲン鋳型[Stone他(1990)Clin Orthop Relat Red252:129]、単離軟骨細胞[Grande他(1989)J Orthop Res7:208;及びTakigawa他(1987)Bone Miner2:449]及び天然又は合成重合体に連結した軟骨細胞[Walitani他(1989)J Bone Jt Surg71B:74;Vacanti他(1991)Plast Reconstr Surg88:753;von Schroeder他(1991)JBiomed Mater Res25:329;Freed他(1993)J Biomed Mater Res27:11;及びVacanti他、米国特許第5,041,138号]に基づいて、新たな軟骨の作成を目的に研究がされてきた。例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、アガロースなどの重合体、あるいは重合体主鎖の加水分解機能で長期にわたって無害のモノマーに分解される他の重合体から形成される、生分解性及び生体適合性を有する多孔質の骨格上の培養基で、軟骨細胞を育成することができる。基質は、移植までに、細胞の適当な栄養供給とガス交換が可能なように設計されている。細胞は、移植する細胞の体積及び密度が適当に大きくなるまでイン・ビトロで培養することができる。基質を用いると、個々が望ましい形状に型どりでき、最終産物を患者自身の例えば耳又は鼻に似せることができるという利点がある。あるいは柔軟な基質を用いて、例えば関節に移植する際に整復することができる。
主題の方法の一つの態様においては、培養工程のある段階において、移植組織片をヘッジホッグアンタゴニストに接触させて、軟骨細胞の分化の速度及び培養内の肥大軟骨細胞の形成を制御する。
他の態様においては、移植された人工組織をヘッジホッグアンタゴニストで処置して、移植された基質を能動的に形作って意図する機能に好適なものとする。組織移植に関して上記したように、人工移植には、移植された実際の機械的環境との比較が可能な環境に基質が由来するものではないという、同じ欠点がある。主題の方法の有する、基質において軟骨細胞を調節する能力によって、置換される予定の組織と同様の特徴を移植片が獲得できるようになる。
更に他の態様において、主題の方法は、人工器官の付着を促進するのに用いられる。例えば主題の方法を、人工歯周器官の移植に用いることができる。ここでは周辺の結合組織を処置することによって、人工器官を取り巻く歯周靱帯の形成が刺激される。
更に他の態様においては、主題の方法を、動物の骨格組織の欠陥部位における骨形成を目的とした養生法の一部として用いることができる。Indianヘッジホッグは、最終的に骨芽細胞に置換される肥大軟骨細胞に特に関連している。例えば被験者の骨損失を調節する方法の一部として、本発明のヘッジホッグアンタゴニストを投与することができる。例えばヘッジホッグアンタゴニストを包含する調製物を用いて、例えば骨化の「モデル」形成における軟骨内骨化を制御することができる。
本発明の更に他の態様において、ヘッジホッグアンタゴニストを用いて***形成を調節することができる。ヘッジホッグタンパク質、特にDhhは、精巣生殖細胞の分化及び/又は増殖及び維持に関連していることが示されている。Dhhの発現は、Sry(精巣決定遺伝子)活性化の直後にセルトリ細胞前駆体において誘導され、成人の精巣においても持続する。成熟***が全く存在しないので、男性は生存可能であるが不妊である。様々な遺伝子背景において発達中の精巣を検査したところ、Dhhは***形成の初期段階及び後期段階の両方を調節することが示唆された[Bitgood他(1996)Curr Biol 6:298]。好ましい態様においては、ヘッジホッグアンタゴニストを避妊薬として用いることができる。同様に、主題の方法のヘッジホッグアンタゴニストは、正常な卵巣機能の調節に有用である可能性がある。
主題の方法は、上皮組織に起こる疾患の予防処置、化粧などに幅広く適用することができる。一般にこの方法は、処置を行った上皮組織の成長状態が変化するのに有効な量のヘッジホッグアンタゴニストを、動物に投与する段階を含むことを特徴とする。投与の方法及び用量計画は、処置される上皮組織に応じて異なる。例えば、処置される組織が表皮組織(皮膚組織又は粘膜組織)である場合には、局所的な投与が好ましい。
「傷の治癒を促進する」方法で処置を行った場合には、この処置を用いない場合の傷の治癒と比較して、より速く傷が治癒する。「傷の治癒の促進」とは、とりわけケラチン合成細胞の増殖及び/又は成長を調節する方法、又はより少ない傷跡、より少ない傷収縮、より少ないコラーゲン付着及びより表層でおこるの傷の治癒を意味する。ある場合においては、「傷の治癒の促進」とは、本発明の方法を用いたときに、ある種の傷治癒の方法が改善された継代速度(例えば皮膚移植の生着速度)を有することも意味する。
現在まで再建術に有意な進歩があったにもかかわらず、治癒される皮膚の正常機能及び外観の回復において、傷跡は重大な障害になりうる。これは、手や顔のケロイド又は肥大性傷跡などの病理的傷跡が機能障害及び肉体的変形の原因となっている場合に特にあてはまる。最も厳しい状況においては、そのような傷跡は心理的な悩みを引き起こし、経済的な負担にもなる。傷の回復は、止血作用、炎症、増殖及び再形成の段階を含む。増殖段階は、繊維芽細胞並びに内皮及び上皮細胞の増加を含む。傷の閉鎖を促進する及び/又は瘢痕組織の形成を最小化するために、主題の方法の使用を通じて、傷内及び周辺の上皮細胞の増殖速度を制御することができる。
本発明の処置は、例えば放射線療法及び/又は化学療法の結果起こる口内炎及び口腔傍炎の治療を目的とした、治療養生法の一部として有効である。そのような潰瘍は一般に化学療法又は放射線療法の後、数日以内に発達する。一般に、これらの潰瘍は始めには、灰色の壊死性膜によって覆われ炎症組織によって囲まれる、痛みを伴う、小さな不定形の傷である。多くの場合、処置を施さないでいると、炎症基部上の傷周辺の組織が増殖する。例えば、潰瘍の周縁にある上皮組織が増殖活性を示し、その結果表面上皮組織の連続性が失われる。傷が大きくなり上皮組織の保全性が失われるので、二次感染を起こす可能性がある。食物及び水を摂取する度に痛みを感じ、潰瘍が消化管を通じて増殖した場合には、様々な要因が加わり下痢が起こる。本発明によると、ヘッジホッグアンタゴニストを適用してそのような潰瘍を処置することによって、患部上皮組織の異常な増殖及び分化を低減することができ、それに続く炎症に伴う苦痛を低減することができる。
主題の方法及び組成物を用いて、自己免疫疾患に由来する傷(例えば乾癬)などの皮膚科学疾患に由来する傷を治療することができる。アトピー性皮膚炎とは、花粉、食物、鱗屑、昆虫毒及び植物毒などのアレルゲンによって引き起こされる免疫応答に関連したアレルギーの結果起こる皮膚の外傷のことをいう。
他の態様においては、ヘッジホッグアンタゴニストの抗増殖調製物を用いて、水晶体上皮細胞増殖を阻害して、嚢外白内障摘出の術後合併症を防ぐことができる。白内障は、難治性の眼病であり、白内障の治療について様々な研究がなされてきた。現在、白内障の治療は外科手術によって行われている。白内障の外科術は、長い間用いられており、様々な手術法が研究されてきた。嚢外水晶体摘出が、白内障除去の手段として用いられている。嚢外摘出に用いるこの方法には、無水晶体類嚢胞黄斑浮腫及び網膜剥離が起こりにくいという医療上の利点がある。嚢外摘出は、後眼房型眼内水晶体(ほとんどの場合に用いられるべき水晶体と考えられている)の移植に必要である。
しかし嚢外白内障摘出には、後水晶体嚢の不透明化(後白内障と称される)が起こりやすいという欠点がある。この不透明化は術後3年以内に50%までの確立で起こる。後白内障は、嚢外水晶体摘出の後に残る、赤道及び後嚢水晶体上皮細胞の増殖によって起こる。これらの細胞は増殖してゾンマーリング(Sommerling)環を形成し、同じく後嚢に蓄積する繊維芽細胞とともに後嚢の不透明化を起こして、視界を妨げる。後白内障を予防する処置をとることが好ましい。二次白内障形成を阻害するために、主題の方法は、残った水晶体上皮細胞の増殖を阻害する手段を提供する。例えば水晶体除去の後に、後眼房にヘッジホッグアンタゴニストの調製物を含む溶液を点眼することによって、そのような細胞を静止状態に保つことができる。更に、溶液の浸透圧のバランスを保つことによって、後眼房内に適用したときに効果的な投与量を最小限にすることができ、嚢下上皮の成長をある特異性で阻害することができる。
主題の方法を、角膜上皮細胞の増殖に特徴付けられる角膜疾患(例えば上皮の下方成長、眼表面の扁平上皮細胞癌といった眼の上皮の疾患)治療に用いることもできる。
Levine他[(1997)J Neurosci 17:6277]は、ヘッジホッグタンパク質が脊椎動物網膜における有糸***及び光受容体分化を調節し、Ihhが、網膜幹細胞の増殖及び光受容器の分化を促進しうる色素上皮からの要素であることを示している。同様に、Jensen他[(1997)Development 124:363]は、周生期のマウス網膜細胞の培養を、Sonicヘッジホッグのアミノ末端断片で処置すると、ブロモデオキシウリジンを取り込む細胞の割合が、全細胞、桿体光受容体、無軸索細胞、ミュラー神経膠細胞において増加することを示している。このことは、Sonicヘッジホッグが網膜前駆体細胞の増殖を促進することを示唆している。従って、本発明の方法を、網膜細胞の増殖疾患の治療に用いて、光受容体分化を調節することができる。
本発明の更に他の特徴は、毛の成長の制御に主題の方法を使用することに関する。毛は基本的には強靱で不溶性の蛋白質ケラチンから構成される。強度はシスチンのジスルフィド結合に由来する。各毛は、円筒状の毛幹及び毛根を包含し、皮膚にフラスコ状の陥没部である毛嚢を有する。毛嚢の底部には、毛乳頭と呼ばれる指のような突起物がある。この毛乳頭を構成する結合組織から毛が成長し、結合組織を通じて血管が細胞に栄養を供給する。毛幹は皮膚表面から外部に突き出た部分であり、一方毛根とは埋没した毛の部分である。毛根の基部は毛球内で伸張し、毛乳頭上に収まっている。毛を産生する細胞は、毛嚢の毛球内で成長する。細胞が毛嚢内で増殖するにつれて、細胞は繊維の形で押し出される。毛の「成長」とは、***する細胞によって毛繊維が形成され伸張することをいう。
当分野で知られるように、一般的な毛周期は、発育期、休止期、終止期の3つの段階に分けられる。活性期(発育期)の間、皮膚毛乳頭の表皮幹細胞は急速に***する。娘細胞は上方に移動し、分化して円錐状の層を形成する。移行期(休止期)は、毛嚢における幹細胞の有糸***の休止を特徴とする。停止段階は終止期として知られる。ここでは毛は頭皮内に数週間保持され、その下に現れる新しい毛が、終止期の毛幹を毛嚢から押し出す。このモデルから明なのは、毛細胞に分化する、***幹細胞の集まりが大きいほど、毛の成長が起こりやすいということである。従って、これらの幹細胞の増殖を助長する又は阻害することによって、毛の成長をそれぞれ増加又は低減する方法が得られる。
ある態様においては、切断、剃毛又は脱毛などの従来の除去方法の代わりに、主題の方法をヒトの毛の成長を押さえる方法として用いることができる。例えば、本発明の方法を、異常に速い又は濃い毛の成長に特徴付けられる毛髪病(例えば多毛症)の治療に用いることができる。例証的な態様においては、ヘッジホッグアンタゴニストを用いて、異常な発毛に特徴付けられる、女性の多毛症を制御することができる。主題の方法は、脱毛期間を延長する工程を提供することもできる。
その上更に、ヘッジホッグアンタゴニストは、上皮細胞に細胞毒を与えるのではなく細胞***を停止するので、化合物は、効能を得るために細胞周期のS期への進行を必要とする細胞毒剤(例えば放射線誘導死)から毛嚢細胞を保護することができる。主題の方法による処置を行うことで、毛嚢細胞を休止させることによって(例えば細胞がS期に入るのを阻害し、従って毛嚢細胞の有糸***不能とプログラム細胞死を防ぐことによって)細胞を保護することができる。例えばヘッジホッグアンタゴニストを、通常は毛喪失が起こってしまう化学療法又は放射線療法を受けている患者に用いることができる。そのような療法の間に主題の処置を用いて、通常はプログラム細胞死に結びつく細胞周期の進行を阻害することによって、毛嚢細胞死を防ぐことができる。療法の終了後、毛嚢細胞増殖の阻害の停止と同時に、本発明の処置を停止することができる。
主題の方法は、脱毛性毛嚢炎、網状瘢痕性紅斑毛嚢炎又はケロイド毛嚢炎などの毛嚢炎の治療に用いることができる。例えば、ヘッジホッグアンタゴニストを化粧に調製したものを局所的に適用して、擬毛嚢炎を治療することができる。この毛嚢炎は、首の下顎領域における、髭剃りに関連して最もよく起こる慢性的疾患であり、紅斑性の丘疹及び毛が埋没した膿疱に特徴付けられる。
ある種の別の具体例において、主題の方法を、ヒトの毛の成長を増大させる方法として利用することができる。Sato等(J Clin Invest 104:855-864, 1999 10月)は、新生児の皮膚のShh活性のアップレギュレーションが、休止中の毛嚢に発育相に入って毛の成長を生じることを誘導する生物学的スイッチとして機能することを報告した。Sato等は、アデノウイルスベクターAdShhを利用して、マウスShhcDNAを、出生後19日目のC57BL/6マウスの皮膚にトランスファーした。その処理された皮膚は、Shh、パッチト(Shhレセプター)及びGli(Shh経路における転写因子)の増大したmRNA発現を示した。AdShhを受けたマウスにおいては、毛嚢の大きさ及びメラニン形成が増大し、毛特異的ケラチンghHb−1及びメラニン合成に関連したチロシナーゼmRNAが蓄積したので、発育相への促進が明白であったが、対照用マウスではそういうことはなかった。最後に、C57BL/6マウスは、処理の2週間後に、AdShhを皮膚に投与した領域において、新しい毛の成長の開始の顕著な促進を示したが、対照用ベクターで処理した領域又は未処理領域では、そういうことはなかった。6ヵ月後に、AdShh処理した皮膚は、正常な毛及び正常な皮膚形態を示した。従って、ある種の状況においては、毛の成長を、hh経路のある種の負のレギュレーター(上記の表Y参照)を阻害することによって刺激することが有用でありうる。
本発明の他の特徴において、主題の方法を、上皮に由来する組織の分化を促進する及び/又は増殖を阻害するのに用いることができる。これら分子のそのような形態は、上皮組織に関する過形成性及び/又は腫瘍性状態を処置するための分化治療の基礎を提供することができる。例えばそのような調製物を、皮膚細胞の異常な増殖及び成長が起こる皮膚疾患の処置に用いることができる。
例えば本発明の薬学的調製物は、角化症などの過形成性の表皮状態の処置、並びに様々な皮膚癌(扁平上皮細胞癌など)の高増殖率に特徴付けられる腫瘍性の表皮状態の処置に用いることを企図する。主題の方法は、皮膚に影響を与える自己免疫疾患、特に(乾癬又はアトピー性皮膚炎によって起こる)病的な増殖及び/又は表皮のケラチン化を含む、皮膚科学疾患の処置に用いることができる。
乾癬、扁平上皮細胞癌、角化棘細胞腫及び光線性角化症などの多くの一般的な皮膚疾患は、局所的な異常増殖及び成長によって特徴付けられる。例えば皮膚上の落屑性の赤い***したプラークによって特徴付けられる乾癬においては、正常な細胞に比較してケラチン合成細胞が非常に速く増殖し、ほとんど分化しないことが知られている。
一つの態様において、本発明の調製物は、炎症又は非炎症要素のいずれかによって特徴付けられる、異常な皮膚細胞の増殖を起こすケラチン化疾患に関連した皮膚科学的疾患の処置に好適である。例えば、ヘッジホッグアンタゴニストの治療用調製物(例えば休止又は分化を促進する)を、皮膚、粘膜又は爪などの様々な形態の乾癬の治療に用いることができる。上記したように、乾癬は一般に、「再生」経路に沿った増殖活性及び分化を示す表皮ケラチン合成細胞によって特徴付けられる。主題の方法の、抗増殖的な態様を用いた処置は、異常な表皮活性化を反転させるのに用いることができ、疾患の軽減の維持を提供することができる。
他の様々な角化症損傷も、主題の方法を用いた治療の対象となりうる。例えば光線性角化症は、日光にさらされた及び光線照射を受けた皮膚に起こる表面炎症性前癌性腫瘍である。傷は、紅斑から茶色まで様々なものにわたる。現在行われている治療には、切除術及び冷凍外科手術がある。しかしこれらの処置は苦痛を伴い、しばしば化粧に不適格な傷跡を生じる。従って、光線性角化症といった角化症の処置として、損傷の表皮/類表皮腫細胞の過増殖を阻害するのに十分な量の、ヘッジホッグアンタゴニスト組成物を好ましくは局所的に適用することが挙げられる。
座瘡は、主題の方法によって処置されうる、別の皮膚科学的疾患である。例えば尋常性座瘡は、十代の若者及び成人初期において最もよく見られる多因性の疾患であり、顔及び胴体上部にみられる、炎症及び非炎症性損傷として特徴付けられる。尋常性座瘡を起こす元になる欠陥は、活動過多な皮脂腺管の過角質化である。過角質化は、皮膚及び毛嚢微生物の正常な移動を妨げ、それによってバクテリアPropinobacterium acnes、Staphylococcus epidermidis及び酵母菌Pitrosporum ovaleによるリパーゼの放出が刺激される。抗増殖的なヘッジホッグアンタゴニスト、好ましくは局所用調製物で処置することが、損傷形成に結びつく管の変化(例えば過角質化)を防ぐのに有用であろう。主題の処置は、例えば抗生物質、レチノイド及び抗アンドロゲンをさらに含んでいてもよい。
本発明は又、様々な形態の皮膚炎を治療する方法を提供する。皮膚炎とは、掻痒性、紅斑性、落屑性、疱疹性、湿潤性、亀裂性又は痂皮性の損傷を漠然と画定する用語である。これらの損傷は、様々な理由で起こる。最も一般的な皮膚炎はアトピー性、接触性及びおむつ皮膚炎である。脂漏性皮膚炎は慢性で通常は掻痒性の、紅斑、乾燥、湿潤又は脂様の鱗片を伴う皮膚炎で、乾燥鱗片の過度な量の剥離を伴う、様々な領域(特に頭皮)における黄色の痂皮性斑点である。主題の方法は、しばしば慢性であり通常は湿疹性皮膚炎である、鬱血性皮膚炎の処置に用いることができる。光線性皮膚炎は、太陽光線、紫外線、X又はγ放射線などの光線放射にさらされた結果起こる皮膚炎である。本発明によると、主題の方法を、上皮細胞の望まれない増殖によって起こる皮膚炎の、ある種の症状を処置及び/又は予防するのに用いることができる。様々な皮膚炎の形態に対するこうした治療法は、局所的及び全身性投与のコルチコステロイド、止痒剤及び抗生物質をさらに含むことができる。
主題の方法によって処置しうる疾患としては、ヒト以外に特異に見られる疾患、例えば疥癬が挙げられる。
更に別の具体例において、主題の方法は、ヒトの癌例えば上皮組織例えば皮膚の腫瘍の治療において利用することができる。例えば、ヘッジホッグアンタゴニストを、主題の方法において、ヒトの癌腫、腺癌、肉腫などの治療の部分として利用することができる。主題の方法により治療することのできる癌の典型的形態には、前立腺癌、膀胱癌、肺癌(小細胞癌又は非小細胞癌を含む)、大腸癌、腎臓癌、肝臓癌、乳癌、子宮頸癌、子宮内膜若しくは他の子宮の癌、卵巣癌、精巣癌、陰茎癌、膣癌、尿道癌、膀胱癌、食道癌、又は膵臓癌が含まれるが、これらに限られない。主題の方法により治療することのできる癌の更なる典型的形態には、骨格筋又は平滑筋の癌、胃癌、小腸の癌、唾液腺癌、肛門癌、直腸癌、甲状腺癌、副甲状癌、下垂体癌、及び鼻咽腔癌が含まれるが、これらに限られない。本発明のヘッジホッグアンタゴニストにより治療することのできる癌の更なる典型的な形態には、ヘッジホッグを発現する細胞を含む癌が含まれる。本発明のヘッジホッグアンタゴニストにより治療することのできる癌の尚更なる典型的形態には、gliを発現する細胞を含む癌が含まれる。一具体例において、その癌は、パッチト−1の変異を特徴としていない。
更に別の面において、主題の方法は、パッチト−スムースンドレセプター複合体及びGli転写因子と独立している異端的Shh経路における活性の調節において利用することができる。最近の報告において、Jarov等(Dev.Biol. 261(2):520-536, 2003)は、Shhが基材(細胞外マトリクス)に固定化されるか又はトランスフェクション後に神経上皮細胞自身により産生される場合には、神経板外植片が、分散することができず、小さい構造を形成したことを記載している。Shhにより引き起こされる神経上皮細胞の接着能における変化は、N−カドヘリン媒介の細胞接着の増大と結合した表面1−インテグリンの不活性化により説明されうる。この固定化Shh媒介の接着は、以前に知られた(可溶性)Shh媒介の誘導性、有糸***性、及び栄養性機能と矛盾又は干渉するものではない(何故なら、固定化Shhは、可溶性Shhと同じ効力で、神経上皮細胞の運動神経及び床板細胞への分化を促進したから)。Jarvo等は又、神経管形態形成時の接着特性のShh調節が、迅速且つ可逆的であり、それが古典的なパッチト−スムースンド−Gliシグナリング経路を含まず、それがShh媒介の細胞分化から独立して識別されうるものであることをも示した。従って、Shhにより誘導される神経上皮細胞の接着性の改変を、分化促進効果に帰することはできず、Shhのこの組織における以前に記載されたことのない新規な機能を示すものである。
それ故、この発明の方法を利用して、このPtc、Smo及び/又はGliに依存しない異端的ヘッジホッグ経路を調節することができる。一層特に、ヘッジホッグアンタゴニスト(例えば、ShhのRNAiインヒビター)を利用して、神経組織又は他の適用可能な組織においてこの機能を好ましくは特異的発生ステージにおいて破壊することができる。
他の特徴において、本発明はヘッジホッグアンタゴニストを包含する薬剤調製物を提供する。主題の方法に用いられるヘッジホッグアンタゴニストは、生物学的に許容可能な媒体[水、緩衝食塩水、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)又はそれらの好適な混合物]を用いて、投与に都合よく調合することができる。選択された媒体中での活性成分の最適濃度は、医化学者に公知の方法に従って経験的に決定することができる。ここでいう「生物学的に許容可能な媒体」には、薬剤調製物の投与経路に適したあらゆる溶媒、分散媒などが含まれる。薬学的に活性な物質におけるそのような媒体の使用は、当分野において公知のものである。従来の媒体又は薬剤がヘッジホッグアンタゴニストの活性に不適合な場合を除いて、本発明の薬剤調製物に主題の化合物を使用することが企図される。好適な賦形剤及び他の蛋白質を含む調合については、例えばRemington Pharmaceutical Sciences[Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、米国ペンシルバニア州イーストン(1985)]に記載がある。これらの賦形剤は、注射可能な「沈殿(deposit)配合物」を含む。
本発明の薬剤調製物は、例えば家畜や犬などのペットの処置といった獣医学的な使用に好適なヘッジホッグアンタゴニストの薬剤調製物などの、獣医学的な組成物を含むこともできる。
導入の方法は、再充填可能な又は生分解性の装置を用いて提供することができる。近年、様々な緩効性重合体装置が開発され、蛋白質様生物薬剤といった薬剤の、制御された投与がイン・ビボで試されている。生分解性及び非分解性重合体の両方を含む様々な生体適合性重合体(ヒドロゲルなど)を用いて、ヘッジホッグアンタゴニストを特定の標的部位において持続的に放出する移植片を形成することができる。
本発明の調製物は、経口、非経口、局所、又は直腸内で投与することができる。調製物はもちろん各投与経路に適した形状で投与される。例えば、錠剤、カプセル形状などによる注射、吸入投与;目薬、軟膏、座薬、制御された放出パッチなどによる注射、浸剤又は吸入投与;ローション剤又は軟膏による局所投与;及び座薬による直腸投与が挙げられる。経口及び局所投与が好ましい。
ここでいう「非経口投与」及び「非経口に投与する」とは、腸内及び局所投与を除く投与方法、通常は注射による投与を意味する。例としては静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、クモ膜下、髄腔内及び胸骨内注射及び浸剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ここでいう「全身投与」「全身に投与する」「末梢投与」及び「末梢に投与する」とは、中枢神経系に直接投与するのではなく、化合物、薬剤又は他の物質を患者の系に入るように投与し、従って代謝や他の類似方法(例えば皮下投与)の影響を受ける投与のことを言う。
これらの化合物は、好適な投与経路によって、治療を目的としてヒト及び他の動物に投与することができる。例えば、噴霧の形での経口、経鼻の投与、粉末、軟膏又は滴下の形での直腸内、膣内、非経口、槽内及び局所投与、並びに口腔及び舌下投与が挙げられる。
選択された投与経路に関わらず、好適な水和形態で用いることのできる本発明のRNAiアンタゴニスト及び/又は本発明の薬剤組成物を、下に記すような又は当業者に知られる従来法で、薬学的に許容可能な投与形態に調合することができる。
本発明の薬剤組成物中の活性成分の実際の投与レベルは、患者に毒性を与えることなく、特定の患者、組成物及び投与方法について望ましい治療的応答を達成できるのに有効な量の活性成分が得られるように変えることができる。
選択される投与レベルは、本発明の特定の化合物、エステル、塩又はそのアミドの活性、投与経路、投与時間、該特定の化合物の排出速度、処置時間、該特定のヘッジホッグアンタゴニストとともに用いられた他の薬剤、化合物及び/又は物質、処置を受ける患者の年齢、性別、体重、体調、健康状態及び病歴、医療分野で知られるその他の要因といった様々な要因に依存する。
当分野で通常の技術を有する医者又は獣医は、必要とされる薬剤組成物の有効量を容易に決定し処方することが可能である。例えば、医者又は獣医は、薬剤組成物に用いられる本発明の化合物の用量を、必要とされる量より低いレベルから始めて、望ましい効果が達成できるまで徐々に用量を増加させることができる。
一般に、この発明のRNAiアンタゴニストの好ましい一日の用量は、治療効果を生み出すのに有効な最も低い化合物量である。そのような有効な量は、一般に上記したような要因に依存する。一般に、患者に対する本発明の化合物の静脈内、脳内及び皮下投与の量は、約0.0001〜100mg/kg(体重)/日である。
望ましい場合には、活性化合物の有効な一日分の用量は、2、3、4、5、6回以上の副次用量で、一日を通じて適当な間隔をおいて(随意に回分服用の形態をとることができる)、分けて投与することができる。
ここでいう「処置」とは、予防法、療法及び治療を含むことを意図する。
この処置を受ける対象は、霊長類(特にヒト)及び他の非ヒトほ乳類(ウマ、ウシ、ブタ及びヒツジ)、家禽類及びペットを含む、処理を必要とするあらゆる動物を含む。
本発明のRNAiアンタゴニストは、そのままで又は薬学的に許容でき且つ/若しくは無菌の担体との混合物として投与することができ、ペニシリン、セファロスポリン、アミノグリコシド及びグリコペプチドなどの抗菌剤と併せて投与することもできる。従って併合治療は、最初の投与の治療効果が完全に消えないうちに次の投与を行う、活性化合物の連続的、同時及び分離投与を含む。
VII.薬理ゲノム学
患者における遺伝子発現を迅速に評価する能力は、医師が特定の病気の治療のための適当な医薬を選択する手段を根本的に変えることを約束する。病気の組織の遺伝子発現プロフィルを得て、治療方法をその遺伝子発現プロフィルに基づいて選択することができる。この方法論は、所定の治療剤の作用の分子機構が既知の場合に、特に有効である。換言すれば、もし抗腫瘍剤が、特定の癌タンパク質を阻害することにより作用するならば、特定の癌がその癌遺伝子を発現するかどうかを、抗腫瘍剤でその癌の治療を試みる前に知ることは望ましいことである。発現プロファイリングが一層早く、安くそして信頼できるものになれば、かかる情報は、治療選択の日常的部分となり、効果のない治療プロトコールを最少にして、適当な治療剤の一層迅速な適用を可能にすることができる。
加えて、ある種の疾病を患っている患者のプールを、遺伝子発現プロフィルに基づいて亜群に分けて、薬物を、これらの限定した患者亜群に影響を及ぼす能力について再試験することができる。こうして、患者群全体については役に立たないと思われた薬物が、今や、患者亜群については有用であることが見出されうる。この種のスクリーニングは、不成功の化合物の復活、新規化合物の同定及び周知化合物の新規用途の同定を可能にする。
特定の遺伝子の発現は、多くの方法で評価することができる。遺伝子転写物のレベル又はコードされるタンパク質のレベルを測定することができる。タンパク質の存在は、抗体結合、質量分析及び2次元ゲル電気泳動などの方法によって、直接、又は、タンパク質の活性(該活性は、生化学的活性である)か又は他のタンパク質若しくは1つ以上の遺伝子の発現のレベルに対する効果の検出によって、間接に測定することができる。
遺伝子転写物のレベルの測定方法は、当分野で周知であり、大抵、問題の転写物(又は、そのcDNA)に対する一本鎖プローブのハイブリダイゼーションに依存している。かかる方法には、標識プローブを利用するノーザンブロッティング又はcDNAのPCR増幅(RT−PCRとしても知られる)が含まれる。mRNA及びcDNAは、様々な方法によって標識して、オリゴヌクレオチドのアレイにハイブリダイズさせることができる。かかるアレイは、1つ以上の遺伝子に対応する順序付けられたプローブを含むことができ、好適具体例において、このアレイは、RNAが得られた生物のゲノムの全遺伝子に対応するプローブを含む。
多くの方法論が、現在、遺伝子発現の測定のために用いられている。これらの方法論のうちで最も鋭敏なものは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を利用するものであり、その詳細は、米国特許第4,683,195号、4,683,202号及び4,965,188号(すべてMullis等に対して発行)に与えられており、これらのすべてを特に参考として本明細書中に援用する。従って、PCR技術の詳細は、ここには含まれない。最近、核酸の増幅のための更なる技術が記載され、その殆どは、PCRに必要な温度サイクリングに対して、等温的増幅ストラテジーに基づいている。これらの技術は、例えば、Strand Displacemant Amplification (SDA)(Walkerの米国特許第5,455,166号及び5,457,027号;Walker等(1992) PNAS 89:392;これらの各々を、特に、参考として本明細書中に援用する)及びNucleic Acid Sequence-Based Amplification(NASBA)(Malek等の米国特許第5,130,238号;Kievits等の欧州特許第525882号;両者を、特に、参考として本明細書中に援用する)を含んでいる。これらの増幅技術の各々は、用いる酵素又は特定の条件にかかわらず、増幅領域を限定するのに短いデオキシリボ核酸プライマーの利用を採用している点で類似している。
最近まで、RNA増幅は、熱安定性のDNAポリメラーゼ(Taqなど)により増幅されうるcDNAを生成するために、追加的ステップ及び熱安定性でない逆転写酵素の利用を必要とした。単一酵素でRNAの逆転写とDNAの増幅を結合することのできる組換え熱安定性酵素(rTth)の発見(単一反応手順)は、RNA増幅を大いに簡素化して増進させた(Myers & Gelfand(1991) Biochemistry 30:7661-7666;Gelfand及びMyersの米国特許第5,407,800号参照、両者を参考として本明細書中に援用する)。
マイクロアレイを用いる遺伝子発現分析において、「プローブ」のオリゴヌクレオチドのアレイは、関心ある核酸試料、即ち、特定の組織型に由来するポリAmRNAなどの標的と接触される。接触は、ハイブリダイゼーション条件下で行われ、次いで、未結合核酸は除去される。その結果生じたハイブリダイズした核酸のパターンが、試験した試料の遺伝子プロフィルに関する情報を与える。遺伝子発現分析は、新規な遺伝子発現の同定、特定の表現型に対する遺伝子発現の相関、疾病素質のスクリーニング、特定の薬剤の細胞遺伝子発現に対する効果の同定(細胞傷害性試験など)を含む様々な応用における用途を発見する。転写物のレベルを分析する詳細な方法は、次の特許に記載されている:米国特許第5,082,830号及びWO97/27317。
関心ある他の参考文献には、Schena等、Science(1995)467-470;Schena等、P.N.A.S.U.S.A.(1996)93:10614-10616;Pietu等、Genome Res.(1996,6月)6:492-503;Zhao等、Gene(1995,4月24日)156:207-213;Soares,Gurr.Opin.Biotechnol.(1997,10月)8:542-546;Raval,J.Pharmacol Toxicol Methods(1994,11月)32:125-127;Chalifour等、Anal.Biochem(1994,2月1日)216:299-304;Stoz & Tuan, Mol.Biotechnol.(1996,12月)6:225-230;Hong等、Bioscience Reports(1982)2:907;及びMcGraw,Anal.Biochem.(1984)143:298が含まれる。
VIII.医薬組成物及び配合物
この発明のRNAi構築物は又、取込み、分配及び/又は吸収を助けるために、他の分子、分子構造又は化合物の混合物(例えば、リポソーム、ポリマー、レセプター標的分子、経口、直腸、局所投与用若しくは他の配合物)と、混合し、カプセル封入し、結合体化し或は会合させることもできる。主題のRNAi構築物は、透過性増進剤、キャリアー化合物及び/又はトランスフェクション因子をも含む配合物で提供することができる。
取込み、RNAi構築物の送達に適合させうる分配及び/又は吸収を助成する配合物の製法を教示する代表的な米国特許には、米国特許第5,108,921号;5,354,844号;5,416,016号;5,459,127号;5,521,291号;51543,158号;5,547,932号;5,583,020号;5,591,721号;4,426,330号;4,534,899号;5,013,556号;5,108,921号;5,213,804号;5,227,170号;5,264,221号;5,356,633号;5,395,619号;5,416,016号;5,417,978号;5,462,854号;5,469,854号;5,512,295号;5,527,528号;5,534,259号;5,543,152号;5,556,948号;5,580,575号及び5,595,756号が含まれるが、これらに限られない。
本発明の化合物は単独で投与することが可能であるが、これを医薬配合物(組成物)として投与することが好ましい。本発明に従うヘッジホッグアンタゴニストは、ヒト用又は獣医用の医薬品に使用するために任意の都合のよい方法で投与するために処方することができる。ある種の具体例では、医薬製剤に含有させる化合物は、それ自体活性であってよく、又は例えば生理学的環境で活性化合物に転化できるプロドッラグであることができる。
従って、本発明の他の観点は、治療学的に有効な量の前記の化合物の1種以上を1種以上の製薬上許容できるキャリアー(添加剤)及び(又は)希釈剤と共に処方してなる製薬上許容できる組成物を提供する。以下に詳細に説明するように、本発明の製薬組成物は、以下のもの:(1)経口投与に適合した形態、例えば、飲薬(水性又は非水性の溶液又は懸濁液)、錠剤、ボーラス、粉末、顆粒、舌に適用するためのペースト、(2)例えば皮下、筋肉内又は静脈内注射による非経口的投与に適合した形態、例えば、無菌溶液又は懸濁液、(3)局所適用に適合した形態、例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏又はスプレー、(4)膣内又は直腸内投与に適合した形態、例えば、ペッサリー、クリーム又はフォームも含めて、固体又は液体形態で投与するために特に処方することができる。しかし、ある種の具体例では、主題化合物は、無菌水に単に溶解又は懸濁させることができる。ある種の具体例では、製薬製剤は発熱性ではない。即ち、患者の体温を上昇させない。
語句“製薬上有効な量”とは、ここで使用するときは、少なくとも動物細胞の亜集団におけるヘッジホッグ機能亢進表現型に打ち勝ち、しかして処置された細胞におけるその経路の生物学的結果を、どんな医療的処置にも適用できる合理的な利益/危険の比で持って、ブッロクすることによって何らかの所望の治療的効果を生じさせるのに有効である本発明の化合物を含む化合物、材料又は組成物についてのそのような量を意味する。
語句“製薬上許容できる”とは、健全な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応又はその他の問題若しくは合併症なしに、人間及び動物の組織と接触して使用するのに好適であり、合理的な利益/危険の比で適合する化合物、材料、組成物及び(又は)投薬の形態をいうのに使用する。
語句“製薬上許容できるキャリアー”とは、ここで使用するときは、主題アンタゴニストを体の一つの器官又は一部から他の器官又は一部に運び又は輸送する際に係わる液体又は固体状の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒又はカプセル化材のような製薬上許容できる材料、組成物又はビヒクルを意味する。それぞれのキャリアーは、処方物の他の成分と適合でき且つ患者に有害でないという意味で“許容できる”ものでなければならない。製薬上許容できるキャリアーとして使用できる材料のいくつかの例には、(1)糖類、例えばラクトース、グルコース及びサッカロース、(2)でんぷん、例えばコーンスターチ及びジャガイモでんぷん、(3)セルロース及びその誘導体、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及び酢酸セルロース、(4)粉末状トラガンタ、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)タルク、(8)賦形剤、例えばココアバター及び座薬用ワックス、(9)油、例えばピーナッツ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーンオイル及び大豆油、(10)グリコール、例えばプロピレングリコール、(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビット、マンニット及びポリエチレングリコール、(12)エステル、例えばオレイン酸エチル及びラウリン酸エチル、(13)寒天、(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム、(15)アルギン酸、(16)発熱原を含まない水、(17)等張性塩水、(18)リンゲル溶液、(19)エチルアルコール、(20)燐酸塩緩衝溶液及び(21)製薬処方物に使用されるその他の非毒性の許容できる物質が包含される。
上記したように、本発明のヘッジホッグアンタゴニストのある種の具体例は、アミノ又はアルキルアミノのような塩基性官能基を含有し、しかして、製薬上許容できる酸により製薬上許容できる塩を形成することができる。この観点で、用語“製薬上許容できる塩”とは、本発明の化合物の比較的毒性でない無機及び有機酸との付加塩をいう。これらの塩類は、本発明の化合物の最終の単離及び精製中に現場で、或いは遊離塩基の形の精製された本発明の化合物を好適な有機又は無機酸と別途反応させ、次いでそのように形成された塩を単離することによって製造することができる。代表的な塩類には、臭化水素酸塩、塩酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、燐酸塩、硝酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、燐酸塩、トシレート、くえん酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、こはく酸塩、酒石酸塩、ナフタリン酸塩、メシレート、グルコヘプトン酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリルスルホン酸塩などが包含される(例えば、Berge他による「製薬用塩類」、J.Pharm.Sci.(1977)66:1−19を参照)。
主題化合物の製薬上許容できる塩類は、例えば、非毒性の有機又無機酸からの化合物の周知の非毒性の塩類又は第四アンモニウム塩を包含する。例えば、このような周知の非毒性の塩類には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、燐酸、硝酸などのような無機酸から誘導されるもの、酢酸、プロピオン酸、こはく酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、くえん酸、アスコルビン酸、パルミチン酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、しゅう酸、イセチオン酸などのような有機酸から製造される塩類が包含される。
その他の場合には、本発明の化合物は、1個以上の酸性官能基を含有することができ、しかして、製薬上許容できる塩基により製薬上許容できる塩類を形成することができる。これらの場合に、用語“製薬上許容できる塩類”とは、本発明の化合物の比較的非毒性の有機又無機塩基との付加塩をいう。これらの塩類は、同様に、本発明の化合物の最終の単離及び精製中に現場で、或いは遊離酸の形の精製された本発明の化合物を好適な塩基、例えば製薬上許容できる金属陽イオンの水酸化物、炭酸塩又は重炭酸塩と、アンモニアと又は製薬上許容できる有機第一、第二若しくは第三アミンと別途反応させることによって製造することができる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類金属塩類には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム塩などが包含される。塩基付加塩を形成させるのに有用な代表的な有機アミンには、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペラジンなどが包含される(例えば、上記のBerge他を参照)。
製薬上許容しうる塩基付加塩は、金属又はアミン例えばアルカリ及びアルカリ土類金属又は有機アミンによって形成される。カチオンとして利用される金属の例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどである。適当なアミンの例は、N,NI−ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N−メチルグルカミン、及びプロカインである(例えば、Berge等、「Pharmaceutical Salts」J. of Pharma Sci., 1977, 66, 1-19参照)。該酸性化合物の塩基付加塩は、遊離酸形態を十分量の所望の塩基と接触させて、慣用の方法で塩を生成することにより製造する。遊離酸形態は、塩形態を酸と接触させて、遊離酸を慣用の方法で分離することによって再生することができる。遊離酸形態は、それらの各塩形態と、ある種の物理的特性例えば極性溶媒中の溶解度において幾分異なるが、他の点では、塩は、それらの各遊離酸と本発明の目的に関して同等である。ここで用いる場合、「製薬的付加塩」は、この発明の組成物の成分の一つの酸形態の製薬上許容しうる塩を包含する。これらは、アミンの有機又は無機酸性塩を包含する。好適な酸性塩は、塩酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、硝酸塩及びリン酸塩である。他の適当な製薬上許容しうる塩は、当業者に周知であり、様々な無機及び有機酸の塩基性塩を包含する。
siRNAオリゴヌクレオチドについては、製薬上許容しうる塩の好適な例には、(a)カチオン例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、ポリアミン例えばスペルミン及びスペルミジンなどにより形成された塩;(b)無機酸例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸などにより形成された酸付加塩;(c)有機酸例えば酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パルミチン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ポリガラクツロン酸などにより形成された塩;及び(d)塩素、臭素、及びヨウ素などの元素のアニオンから形成された塩が含まれるが、これらに限られない。
湿潤剤、乳化剤及び滑剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、並びに着色剤、剥離剤、被覆剤、甘味剤、香料及び芳香剤、保存剤及び酸化防止剤も組成物中に存在できる。
製薬上許容できる酸化防止剤の例には、(1)水溶性酸化防止剤、例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなど、(2)油溶性酸化防止剤、例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロールなど、(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、燐酸などが包含される。
本発明の処方物は、経口、経鼻、局所(口腔及び舌下を含めて)、直腸、膣及び(又は)非経口投与に好適なものを包含する。これらの処方物は、単位投薬形態で具合良く提供でき、医薬品分野で周知の任意の方法により製造することができる。単一投薬形態を生じさせるためにキャリアー材料と混合できる活性成分の量は、処理する宿主、特定の投与方法によって変動する。単一投薬形態を生じさせるためにキャリアー材料と混合できる活性成分の量は、一般に、治療効果を生じさせる化合物の量である。一般に、100%からみて、この量は約1%〜約99%の活性成分、好ましくは約5%〜約70%、最も好ましくは約10%〜約30%の活性成分の範囲にある。
これらの処方物又は組成物を製造するための方法は、本発明の化合物をキャリアー及び随意の1種以上の補助成分と会合させる工程を包含する。一般に、処方物は、本発明の化合物を液状キャリアー又は微細状の固体キャリアー又はこれらの両者と均質に且つ緊密に会合させ、次いで必要ならば生成物を賦形させることによって製造される。
経口投与に好適な本発明の処方物は、カプセル、カシェー、ピル、錠剤、ロゼンジ(風味付けベース、例えばサッカロース及びアカシア又はトラガンタを使用)、粉末、顆粒の形態で、或いは水性又は非水性液体中の溶液又は懸濁液として、或いは水中油型又は油中水型液状エマルジョンとして、或いはエレキシル又はシロップとして、或いは香錠(不活性ベース、例えばゼラチン及びグリセリン、又はサッカロース及びアカシアを使用)として及び(又は)口腔洗浄液などであって、それぞれ活性成分として本発明の化合物を所定量で含有するものであることができる。また、本発明の化合物はボーラス、舐剤又はペーストとして投与することができる。
本発明の経口投与用の固形投薬形態(カプセル、錠剤、ピル、糖剤、粉末、顆粒など)では、活性成分は、1種以上の製薬上許容できるキャリアー、例えば、くえん酸ナトリウム若しくは燐酸二カルシウム及び(又は)下記のいずれか:(1)充填剤又は増量剤、例えばでんぷん、ラクトース、サッカロース、グルコース、マンニット及び(又は)珪酸、(2)結合材、例えばカルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、サッカロース及び(又は)アカシア、(3)保湿剤、例えばグリセリン、(4)崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカでんぷん、アルギン酸、ある種の珪酸塩及び炭酸ナトリウム、(5)溶解遅延剤、例えばパラフィン、(6)吸収促進剤、例えば第四アンモニウム化合物、(7)湿潤剤、例えばセチルアルコール及びグリセリンモノステアレート、(8)吸収剤、例えばカオリン及びベントナイトクレー、(9)滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム及びこれらの混合物、(10)着色剤と混合される。カプセル、錠剤及びピルの場合には、製薬組成物は、緩衝剤も含むことができる。類似のタイプの固形組成物は、ラクトース又は乳糖のような賦形剤並びに高分子量ポリエチレングリコールなどを使用する軟質及び硬質ゼラチンカプセルにおける充填剤として使用できる。
錠剤は、1種以上の補助成分と共に圧縮又は成形によって製造することができる。圧縮錠剤は、結合材(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、でんぷんグリコール酸ナトリウム又は架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロース)、界面活性又は分散剤を使用して製造することができる。成形錠剤は、加湿した粉末状化合物と不活性液体希釈剤との混合物を適当な機械で成形することによって製造することができる。
本発明の製薬組成物の錠剤及びその他の固形投薬形態、例えば糖剤、カプセル、ピル及び顆粒は、要すれば、被覆及び外殻、例えば腸用被覆及び製薬処方分野において周知のその他の被覆で得ることができ又は調製することができる。また、それらは、例えば、所望の放出プロフィルを与えるように割合を変えてヒドロキシプロピルメチルセルロース、その他の重合体マトリックス、リポソーム及び(又は)マイクロスフェアーを使用して活性成分の遅延された又は制御された放出を与えるように処方することもできる。それらは、例えば、細菌保持性フィルターによるろ過により、又は使用直前に無菌水若しくはその他の無菌注射可能媒体に溶解できる無菌固形組成物の形で滅菌剤を配合することによって滅菌することができる。これらの組成物は随意に不透明剤も含有でき、またこれらが活性成分のみを又は優先的に、胃腸器官のある部分で、場合により遅延された態様で放出させるような組成物であることができる。使用できる包封用組成物の例は重合体物質及びワックスを包含する。また、活性成分は、適当ならば、上記した賦形剤の1種以上によりマイクロカプセル化された形態であることができる。
本発明の化合物の経口投与用の液状投薬形態は、製薬上許容できるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルを包含する。液状投薬形態は、活性成分に加えて、斯界で普通に使用される不活性希釈剤、例えば、水又はその他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、油(特に、綿実油、グラウンドナッツ油、コーンオイル、胚芽油、オリーブ油、ひまし油及びゴマ油)、グリセリン、テトラヒドロフリルアリール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、これらの混合物を含有することができる。
不活性希釈剤以外に、経口投与用組成物は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁剤、甘味料、風味料、着色剤、香料及び保存剤のような補助剤も含有することができる。
懸濁液は、活性化合物に加えて、懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビット及びソルビタンエステル、微結晶質セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天及びトラガカント並びにこれらの混合物を含有することができる。
ステロール例えばコレステロールは、シクロデキストリンと複合体を形成することが知られている。従って、インヒビターがステロイド性アルカロイドである好適具体例において、それを、シクロデキストリン例えばα−、β−及びγ−シクロデキストリン、ジメチル−βシクロデキストリン及び2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンと配合させることができる。
直腸又は膣投与用の本発明の製薬組成物の処方物は坐薬として提供でき、これは本発明の1種以上の化合物を、例えばココアバター、ポリエチレングリコール、座薬用ワックス又はサリチル酸エステルを含む1種以上の好適な非刺激性賦形剤又はキャリアーであって、室温で固体であるが体温で液状であり、従って直腸又は膣内で溶融して活性なヘッジホッグアンタゴニストを放出するものと混合することによって製造することができる。
膣に投与するのに好適な本発明の処方物は、斯界で適切であることが知られているようなキャリアーを含有するペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム又はスプレー処方物も包含する。
本発明の化合物の局所又は経皮投与のための投薬形態は、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤を包含する。活性成分は、製薬上許容できるキャリアーと、要求されるかもしれない任意の保存剤、緩衝剤又は吸入剤とを無菌条件下で混合することができる。
軟膏、ペースト、クリーム及びゲルは、本発明の活性成分に加えて、動物性及び植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、でんぷん、トラガンタ、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコーン、ベントナイト、珪酸、タルク、酸化亜鉛及びこれらの混合物のような賦形剤を含有することができる。
粉末及びスプレーは、本発明の化合物に加えて、ラクトース、タルク、珪酸、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、ポリアミド粉末及びこれらの物質の混合物のような賦形剤を含有することができる。スプレーは、さらにクロルフルオル炭化水素や、ブタン及びプロパンのような揮発性非置換炭化水素のような慣用の発射剤を含有することができる。
経皮用パッチは、皮膚に対する本発明の化合物の制御された送出を提供するという付加的な利点を有する。このような投薬形態は、ヘッジホッグアンタゴニストを適切な媒質に溶解又は分散することによって製造することができる。皮膚を介するヘッジホッグアンタゴニストの流れを増大させるために吸収向上剤を使用することができる。このような流れの速度は、速度制御膜を備えるか又は化合物を重合体マトリックス若しくはゲルに分散させることによって制御することができる。
この発明の他の面は、RNAi構築物の気道への送達のためのエアゾルを提供する。気道には、口腔咽頭及び喉頭を含む上気道と、それに続く、気管を含む下気道(気管は、その後、気管支及び細気管支に分岐)が含まれる。これらの上気道及び下気道は、通道気道と呼ばれる。末端の細気管支は、その後、呼吸細気管支に分岐し、これは、その後、最終的な呼吸ゾーンである肺胞、即ち肺深部へと導く。
ここに、吸入による投与は、経口及び/又は鼻内投与であってよい。エアゾル送達のための医薬用デバイスの例には、自動計量吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)及びエアジェット噴霧器が含まれる。主題のRNAi構築物の送達用に容易に適合させることのできる吸入による典型的な核酸送達システムは、例えば、米国特許第5,756,353号;5,858,784号;及びPCT出願WO98/31346;WO98/10796;WO00/27359;WO01/54664;WO02/060412に記載されている。二本鎖RNAの送達に利用することのできる他のエアゾル配合物は、米国特許第6,294,153号;6,344,194号;6,071,497号、及びPCT出願WO02/066078;WO02/053190;WO01/60420;WO00/66206に記載されている。更に、RNAi構築物を送達する方法は、他のオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)を、例えば、Templin等、Antisense Nucleic Acid Drug Dev, 2000, 10:359-68;Sandrasagra等、Expert Opin Biol Ther, 2001, 1:979-83;Sandrasagra等、Antisense Nucleic Acid Drug Dev, 2002, 12:177-81に記載されている、吸入によって送達するのに利用されているものを適合させることができる。
ヒトの肺は、加水分解により開裂できる付着したエアゾルを数分から数時間の期間で除去し又は迅速に分解することができる。上気道において、繊毛上皮は、粒子を気道から口へ掃き出す「粘膜繊毛除去装置」に寄与している。Pavia, D.,「LungMucociliary Clearance」(Aerosols and the Lung: Clinical and Experimental Aspects, Clarke, S.W.及びPavia, D.,編、Butterworths, London, 1984中)。肺深部においては、肺胞マクロファージは、粒子をそれらの付着後間もなくファゴサイトーシスにより取り込むことができる。Warheit等、Microscopy Res. Tech., 26:412-422(1993);及びBrain, J.D.「Physiology and Pathophysiology of Pulmonary Macrophages」(The Reticuloendothelial System, S.M. Reichard and J. Filkins, 編、Plenum, New. York., 315-327頁、1985中)。肺深部即ち肺胞は、RNAi構築物の全身送達のための治療用吸入エアゾルの主たる標的である。
好適具体例において、特に、RNAi構築物の全身投与が望まれる場合には、エアゾルRNAi構築物を、微粒子として配合する。0.5〜10ミクロンの直径を有する微粒子は、肺を透過することができ、殆どの天然のバリヤーを通過する。10ミクロン未満の直径が、咽喉をバイパスするために必要とされ、0.5ミクロン以上の直径が、吐き出されるのを回避するのに必要とされる。
この発明の他の面は、被覆された医用デバイスに関係する。例えば、ある具体例では、主題の発明は、少なくとも一面に付着された被覆を有する医用デバイスを提供し、ここに、この被覆は、主題のポリマーマトリクス及びここに開示した改変を含むRNAi構築物を含むものである。適宜、この被覆は、更に、RNAi構築物と非共有結合した(又は、被覆からの放出の際にRNAi構築物と相互作用するように選択された)タンパク質を含む。かかる被覆は、スクリュー、プレート、ウォッシャー、縫合糸、プロテーゼアンカー、タック、ステープル、導線、弁、膜などの外科用器具に適用することができる。これらのデバイスは、カテーテル、移植可能な血管アクセスポート、血液貯蔵用バッグ、血液チューブ、中心静脈カテーテル、動脈カテーテル、血管移植片、大動脈内バルーンポンプ、心臓弁、心臓血管用縫合糸、人工心臓、ペースメーカー、心室補助ポンプ、身体外デバイス、血液フィルター、血液透析ユニット、血液潅流ユニット、血漿搬出ユニット及び血管配備に適合されたフィルターであってよい。
本発明による幾つかの具体例において、ポリマーを形成するためのモノマーは、RNAi構築物と結合されて、モノマー溶液中のRNAi構築物の均質な分散を作るように混合される。この分散を、次いで、慣用の被覆工程によって、ステント又は他のデバイスに塗布し、その後、架橋工程を、慣用の開始剤例えばUV光によって開始する。本発明の他の具体例において、ポリマー組成物は、RNAi構築物と合せられて、分散を形成する。この分散は、次いで、医用デバイスの表面に適用され、このポリマーは、架橋して、固体の被覆を形成する。本発明の他の具体例においては、ポリマー及びRNAi構築物を、適当な溶媒と合わせて分散を形成し、次いで、それを、ステントに慣用の方法で塗布する。その後、この溶媒を、慣用の工程例えば加熱蒸発によって除去し、その結果、このポリマー及びRNAi構築物(一緒に、持続的放出用薬物送達システムを形成する)は、ステント上に被覆として残る。RNAi構築物をポリマー組成物に溶解させる類似の方法を利用することができる。RNAiをタンパク質と予備混合する場合は、溶媒は、好ましくは、タンパク質の3次構造を保存するように選択される。
この発明の幾つかの具体例において、このシステムは、比較的硬いポリマーを含む。他の具体例においては、このシステムは、軟質で且つ展性のポリマーを含む。更に別の具体例においては、このシステムは、粘着性を有するポリマーを含む。このポリマーの強度、弾性、粘着性、及び他の特性は、下記で一層詳細に論じるように、システムの特定の最終的な物理的形態によって、広範囲で変化しうる。
本発明のシステムの具体例は、多くの異なる形態をとる。幾つかの具体例においては、このシステムは、ポリマー中に懸濁又は分散されたRNAi構築物からなる。ある別の具体例においては、このシステムは、RNAi構築物及び半固体又はゲル状ポリマーよりなり、注射器によって身体内に注射されるように適合されている。本発明の他の具体例においては、このシステムは、RNAi構築物及び軟質の可撓性ポリマーよりなり、適当な外科的方法によって身体に挿入又は移植されるように適合されている。本発明の尚更に別の具体例においては、このシステムは、硬い、固体ポリマーよりなり、適当な外科的方法によって身体に挿入又は移植されるように適合されている。更なる具体例において、このシステムは、RNAi構築物を内部に懸濁又は分散して有するポリマーを含み、該RNAi構築物及びポリマーの混合物は、スクリュー、ステント、ペースメーカーなどの外科用器具上に被覆を形成する。本発明の特定の具体例において、デバイスは、硬い、固体ポリマーよりなり、外科用スクリュー、プレート、ステントなどの外科用器具又はそれらのある部分の形状をしている。本発明の他の具体例において、このシステムは、RNAi構築物を内部に分散又は懸濁して有する縫合糸の形態のポリマーを含む。
本発明の幾つかの具体例において、表面(例えば外表面)及び外表面上の被覆を有する基材を含む医用デバイスを提供する。この被覆は、ポリマー及び該ポリマー中に分散されたRNAi構築物を含み、該ポリマーは、RNAi構築物に対して透過性であり、生物分解してRNAi構築物を放出する。適宜、この被覆は、更に、RNAi構築物と会合するタンパク質を含む。本発明のある具体例において、デバイスは、RNAi構築物を適当なポリマー中に懸濁又は分散させて含み、該RNAi構築物及びポリマーは、全基材(例えば、外科用器具)の上を被覆する。かかる被覆は、噴霧被覆又は浸漬被覆によって達成することができる。
本発明の他の具体例において、デバイスは、RNAi構築物及びポリマーの懸濁液又は分散を含み、該ポリマーは、硬く、身体に挿入又は移植されるべきデバイスの構成部分を形成する。適宜、この懸濁液又は分散は、更に、RNAi構築物と非共有結合により相互作用するポリペプチドを含む。例えば、本発明の特定の具体例において、デバイスは、ポリマー中に懸濁又は分散されたRNAi構築物により被覆された外科用スクリュー、ステント、ペースメーカーなどである。本発明の他の特定の具体例において、このRNAi構築物が懸濁されるポリマーは、外科用スクリューのチップ又はヘッド或はそれらの部分を形成する。本発明の他の具体例において、このRNAiが懸濁又は分散されるポリマーは、外科用器具例えば外科用管類(例えば、人工肛門形成、腹腔洗浄、カテーテル、及び静脈内用管類)上に被覆される。本発明の尚更に別の具体例においては、デバイスは、被覆されたポリマー及びRNAi構築物を有する静脈内用針である。
上で論じたように、本発明の被覆は、生物腐食性のポリマー又は生物腐食性でないポリマーを含む。生物腐食性か非生物腐食性かの選択は、システム又はデバイスの意図する最終目的に基づいて行われる。本発明の幾つかの具体例においては、このポリマーは、有利に、生物腐食性である。例えば、システムが外科的に移植されるデバイス例えばスクリュー、ステント、ペースメーカーなどの上の被覆である場合、このポリマーは、有利に、生物腐食性である。ポリマーが有利に生物腐食性である本発明の他の具体例は、移植可能な、吸入可能な、又は注射可能な、RNAi構築物の、ポリマー中の懸濁液又は分散であるデバイスを含むが、更なるエレメント(スクリュー又はアンカーなど)は、用いられない。
ポリマーが透過性及び生物腐食性に乏しいものである本発明の幾つかの具体例において、該ポリマーの生物腐食の速度は、有利に、RNAi構築物の放出速度より十分に遅く、それで、該ポリマーは、RNAi構築物が放出された後もかなりの期間にわたって適所に残っているが、最終的には、生物腐食を受けて周囲の組織に再吸収される。例えば、デバイスが、生物腐食性ポリマーに懸濁又は分散されたRNAi構築物を含む生物腐食性縫合糸である場合、該ポリマーの生物腐食の速度は、有利に、十分遅く、それで、RNAi構築物は、約3〜14日の期間にわたって直線的様式で放出されるが、該縫合糸は、約3週間から約6ヶ月の期間にわたって存続する。本発明の類似のデバイスは、生物腐食性ポリマーに懸濁又は分散されたRNAi構築物を含む外科用ステープルを含む。
本発明の他の具体例において、ポリマーの生物腐食速度は、有利に、RNAi構築物の放出速度と同じオーダーである。例えば、システムが、外科用器具(例えば、整形外科用スクリュー、ステント、ペースメーカー、又は非生物腐食性縫合糸)上に被覆されるポリマーに懸濁又は分散されたRNAi構築物を含む場合、該ポリマーは、有利には、周囲の身体組織に直接さらされるRNAi構築物の表面積が、経時的に、実質的に一定のままであるような速度で、生物腐食される。
本発明の他の具体例において、ポリマービヒクルは、周囲の組織(例えば、血漿)において水透過性である。かかる場合には、水溶液は、ポリマーを透過することができ、それにより、RNAi構築物と接触する。分離速度は、生理学的液体の、ポリマーの透過性、RNAi構築物の溶解度、pH、イオン強度、及びタンパク質組成などの変数の複合セットによって支配されうる。
本発明の幾つかの具体例において、ポリマーは、非生物腐食性である。非生物腐食性ポリマーは、システムが、永久に又は半永久的に身体に挿入され又は移植されるために適合されている外科用器具を被覆する(又は、その構成部分を形成する)ことを意図するポリマーを含む場合に、特に有用である。このポリマーが外科用器具上に有利に永久的被覆を形成する典型的なデバイスには、整形外科用スクリュー、ステント、プロテーゼジョイント、人工弁、永久的縫合糸、ペースメーカーなどが含まれる。
経皮経管冠状動脈拡張術の後に利用されうる非常に多数の異なるステントがある。幾つのステントでも本発明によって利用することができるが、簡単のために、限られた数のステントを、本発明の典型的具体例において記載する。当業者は、如何なる数のステントでも、本発明と共に利用することができることを認めよう。加えて、上記のように、他の医用デバイスも利用することができる。
ステントは、一般に、閉塞を救済するために、管の内腔に残す管状構造として用いられる。一般に、ステントは、広げてない形態で内腔に挿入して、その後、自律的に又は第二のデバイスの助成によりイン・シトゥーで広げられる。拡張の典型的な方法は、カテーテルマウントした血管形成バルーンの利用にあり、該バルーンは、血管の壁成分と関係する閉塞を摘み取って崩壊させ及び拡大された内腔を得るために、狭窄した血管内又は身体内の通路内でふくらませる。
本発明のステントは、任意の数の方法を利用して製作することができる。例えば、このステントは、中空の又は形成されたステンレス鋼のチューブから製作することができ、該チューブは、レーザー、放電削り、化学的エッチング又は他の手段を利用して、機械で作ることができる。このステントを、身体に挿入して、未拡張形態で所望の部位に位置させる。一つの典型的具体例において、拡張を、血管内で、バルーンカテーテルによって行なうことができ、該ステントの最終的直径は、用いたバルーンカテーテルの直径の関数である。
本発明のステントは、形状記憶材料(例えば、適当なニッケルとチタン又はステンレス鋼の合金)によって具現化されうるということは認められるべきである。
ステンレス鋼から形成される構造は、該ステンレス鋼を予め決めた仕方で配置する(例えば、それを編んだ配置にねじる)ことにより、自己拡張性にすることができる。この具体例では、ステントを形成した後で、それを、血管又は他の組織に、挿入手段(適当なカテーテル又は可撓性ロッドを包含する)によって挿入することを可能にするだけ十分に小さい空間を占めるように圧縮することができる。
カテーテルからの出現に際して、このステントは、所望の配置に拡張するように配置することができ、該拡張は、自動的に起き又は圧力、温度の変化又は電気刺激によって引き金を引かれる。
このステントのデザインにかかわらず、有効投薬量を病変領域に与えるのに十分な特異性及び十分な濃度で適用されるRNAi構築物を有することは、好ましい。この点において、この被覆における「貯蔵サイズ」は、好ましくは、RNAi構築物を所望の位置で且つ所望の量で、十分に適用するようなサイズである。
別の典型的具体例において、ステントのすべての内面及び外面を、RNAi構築物で、治療的投薬量で、被覆することができ、しかしながら、被覆技術は、RNAi構築物及び任意の含有タンパク質に依って変化しうることに注意することは重要である。やはり、これらの被覆技術は、ステント又は他の内腔内医用デバイスを構成する材料によって変化しうる。
この内腔内医用デバイスは、持続的放出用の薬物送達用被覆を含む。RNAi構築物の被覆は、慣用の被覆工程例えば浸漬被覆、噴霧被覆及び浸漬被覆によってステントに塗布することができる。
一具体例において、内腔内医用デバイスは、縦のステント軸に沿って伸びる内腔内面及び反対側の外表面を有する細長い半径方向に拡張しうる管状ステントを含む。このステントは、永久的移植用ステント、移植可能なグラフテッドステント、又は一時的ステントを包含することができ、この一時的ステントは、血管内で拡張することができ、その後、血管から回収することのできるステントとして定義される。ステントの配置は、コイル配置、記憶コイル配置、ニチノールステント、メッシュステント、足場ステント、スリーブステント、透過性ステント、温度センサーを有するステント、多孔性ステントなどを包含することができる。このステントは、慣用の方法によって、例えばふくらませることのできるバルーンカテーテルにより、自己展開機構により(カテーテルから放出後)、又は他の適当な手段によって配備することができる。細長い半径方向に拡張しうる管状ステントは、グラフテッドステントであってよく、これは、移植片の内側又は外側にステントを有する複合デバイスである。この移植片は、血管移植片例えばePTFE移植片、生物学的移植片、又は編んだ移植片であってよい。
このRNAi構築物及び任意の会合した分子は、多くの方法で、ステント上に組み込み又は加えることができる。典型的具体例において、このRNAi構築物は、直接、ポリマーマトリクスに組み込まれ、ステントの外表面に噴霧される。このRNAi構築物は、ポリマーマトリクスから経時的に溶出して、周囲の組織に入る。このRNAi構築物は、好ましくは、少なくとも3日間、最長で6ヶ月間、一層好ましくは、7〜13日間ステント上に残る。
ある具体例において、本発明のポリマーは、RNAi構築物に対して透過性である任意の生物学的に許容されるポリマー、及び透過性を有するがそれがポリマーからのRNAi構築物の放出速度の主たる速度決定因子でないようなポリマーを含む。
本発明の幾つかの具体例において、このポリマーは、非生物腐食性である。本発明で有用な非生物腐食性ポリマーの例には、ポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)(EVA)、ポリビニルアルコール及びポリウレタン例えばポリカーボネートベースのポリウレタンが含まれる。本発明の他の具体例において、ポリマーは、生物腐食性である。本発明で有用な生物腐食性ポリマーの例には、ポリ無水物、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリアルキルシアノアクリレート又はこれらの誘導体及びコポリマーが含まれる。当業者は、ポリマーの生物腐食性か非生物腐食性かの選択は、以下で大いに詳しく説明するように、システムの最終的な物理的形態に依存することを認めよう。他の典型的ポリマーには、ポリシリコーン及びヒアルロン酸から導かれるポリマーが含まれる。当業者は、本発明のポリマーが、RNAi構築物のポリマーからの放出における主たる速度決定因子でないように透過性を与えるのに適した条件下で製造されることを理解しよう。
その上、適当なポリマーには、生物学的に体液及び哺乳動物組織と適合性であって、本質的に、接触する体液に不溶性の天然(コラーゲン、ヒアルロン酸など)又は合成の材料が含まれる。加えて、これらの適当なポリマーは、本質的に、ポリマーに分散/懸濁されたRNAi構築物と体液中のタンパク質様成分との間の相互作用を防止する。迅速に溶解するポリマー又は体液に高度に溶解性の若しくはRNAi構築物と内因性タンパク質様成分との相互作用を可能にするポリマーの利用は、ポリマーの溶解又はタンパク質様成分との相互作用は、薬物放出の恒常性に影響しうるので、ある場合には避けるべきである。ポリマーの選択は、RNAi構築物を被覆中でタンパク質と予備会合させる場合には、異なるものとなりうる。
他の適当なポリマーには、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンビニルアセテート(PVA又はEVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリカルボン酸、ポリアルキルアクリレート、セルロースエーテル、シリコーン、ポリ(dl−ラクチド−コグリコリド)、様々なユードラグリット(例えば、NE30D、RS PO及びRL PO)、ポリアルキル−アルキアクリレートコポリマー、ポリエステル−ポリウレタンブロックコポリマー、ポリエーテル−ポリウレタンブロックコポリマー、ポリジオキサノン、ポリ−(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、及びPEO−PLAコポリマーが含まれる。
本発明の被覆は、少なくとも一種の適当なモノマーと適当なRNAi構築物を混合し、その後、該モノマーを重合させてポリマーシステムを形成することによって形成することができる。この方法において、RNAi構築物、及び任意の会合タンパク質は、ポリマー中に溶解又は分散される。他の具体例において、このRNAi構築物及び任意の会合タンパク質は、液体ポリマー又はポリマー分散中に混合され、その後、該ポリマーは、更に処理されて、この発明の被覆を形成する。適当な更なる処理は、適当な架橋RNAi構築物と架橋すること、液体ポリマー又はポリマー分散の更なる重合、適当なポリマーブロックとのブロック共重合などを包含する。この更なる処理は、RNAi構築物をポリマー中に捕捉し、それで、このRNAi構築物は、ポリマービヒクル中に懸濁又は分散される。
非腐食性ポリマーを幾つでも、RNAi構築物と共に利用することができる。この出願中の被覆に利用することのできるフィルム形成性ポリマーは、吸収性であっても非吸収性であってもよく、血管壁に対する刺激を最小にするように生体適合性でなければならない。このポリマーは、所望の放出速度又は所望のポリマー安定性の程度によって、生体内で安定であっても生体吸収性であってもよいが、生体吸収性ポリマーが、生体内で安定なポリマーと異なり、移植後長く存在して何らかの有害な、慢性的な局所応答を引き起こすことがないので、好適である。その上、生体吸収性ポリマーは、長期にわたって、ステントが組織に封入された後でさえ被覆を取り払って更なる問題を導入することのできる生物学的環境ストレスにより引き起こされるステントと被覆との間の接着が失われる危険を与えない。
使用することのできる適当なフィルム形成性の生体吸収性ポリマーには、脂肪族ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、コポリ(エーテル−エステル)、ポリアルキレンオキサレート、ポリアミド、ポリ(イミノカルボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミノ基含有ポリオキサエステル、ポリ(無水物)、ポリホスファゼン、生態分子及びこれらのブレンドよりなる群から選択するポリマーが含まれる。この発明の目的に関して、脂肪族ポリエステルには、ラクチド(乳酸、d−、l−及びメゾラクチドを含む)、ε−カプロラクトン、グリコリド(グリコール酸を含む)、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、パラ−ジオキサノン、トリメチレンカルボネート(及びそのアルキル誘導体)、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オン及びこれらのポリマーブレンドのホモポリマー及びコポリマーが含まれる。この発明の目的に関して、ポリ(イミノカルボネート)は、Kemnitzer及びKohn(Handbook of Biodegradable Polymers, Domb, Kost及びWisemen編、Hardwood Academic Press, 1997, 251-272頁中)により記載されたように、含む。この発明の目的に関して、コポリ(エーテル−エステル)は、Cohn及びYounes, Journal of Biomaterials Research, Vol.22, 993-1009頁, 1988及びCohn, Polymer Preprints (ACS Division of Polymer Chemistry) Vol. 30(1), 498頁, 1989に記載されたようなコポリエステル−エーテル(例えば、PEO/PLA)を包含する。ポリアルキレンオキサレートは、この発明の目的に関して、米国特許第4,208,511号;4,141,087号;4,130,639号;4,140,678号;4,105,034号;及び4,205,399号(参考として、本明細書中に援用する)を包含する。ポリホスファゼン、コ、ター、及び一層高次の混合モノマーベースのポリマー(L−ラクチド、D,L−ラクチド、乳酸、グリコリド、グリコール酸、パラ−ジオキサノン、トリメチレンカルボネート及びε−カプロラクトンより作られたものなど)は、Allcock(The Encyclopedia of Polymer Science, Vol. 13, 31-41頁、Wiley Intersciences, John Wiley & Sons, 1988中)により及びVandorpe, Schacht, Dejardin及びLemmouchi (Handbook of Biodegradable Polymers, Domb, Kost及びWiseman編、Hardwood Academic Press, 1997, 161-182頁(参考として、本明細書中に援用する)中)により記載されている。HOOC-C6H4-O-(CH2)m−O-C6H4-COOH型の二酸からのポリ無水物(式中、mは、2〜8の範囲の整数である)及びその脂肪族アルファ−オメガ二酸(最大12炭素)とのコポリマー。アミン及び/又はアミド基を含むポリオキサエステル ポリオキサアミド及びポリオキサエステルは、次の米国特許第5,464,929号;5,595,751号;5,597,579号;5,607,687号;5,618,552号;5,620,698号;5,645,850号;5,648,088号;5,698,213号及び5,700,583号(これらを、参考として、本明細書中に援用する)の少なくとも一つに記載されている。ポリオルトエステル、例えば、Heller (Handbook of Biodegradable Polymers, Domb, Kost及びWisemen編、Hardwood, Academic Press, 1977, 99-118頁中)(参考として、本明細書中に援用する)により記載されたようなもの。この発明の目的に関して、フィルム形成性ポリマーの生体分子は、ヒトの身体中で酵素により分解することができ又はヒトの身体中で加水分解に不安定である天然の物質例えばフィブリン、フィブリノーゲン、コラーゲン、エラスチン、及び吸収可能な生体適合性の多糖類例えばキトサン、澱粉、脂肪酸(及びそのエステル)、グルコソ−グリカン及びヒアルロン酸を包含する。
比較的低い慢性組織応答を有する適当なフィルム形成性の生体安定性ポリマー例えばポリウレタン、シリコーン、ポリ(meth)アクリレート、ポリエステル、ポリアルキルオキシド(ポリエチレンオキシド)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリドン、並びにヒドロゲル例えば架橋されたポリビニルピロリドン及びポリエステルから形成されるものも又、利用することができる。他のポリマーも又、ステント上で溶解させ、硬化させ又は重合させることができるならば、利用することができる。これらには、ポリオレフィン、ポリイソブチレン及びエチレン−アルファオレフィンコポリマー;アクリル酸ポリマー(メタクリレート)及びコポリマー、ビニルハリドポリマー及びコポリマー例えばポリビニルクロリド;ポリビニルエーテル例えばポリビニルメチルエーテル;ポリビニリデンハリド例えばポリビニリデンフルオリド及びポリビニリデンクロリド;ポリアクリロニトリル、ポリビニルケトン;ポリビニル芳香族例えばポリスチレン;ポリビニルエステル例えばポリビニルアセテート;ビニルモノマーの相互の及びオレフィンとのコポリマー例えばエチレン−メチルメタクリレートコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂及びエチレン−ビニルアセテートコポリマー;ポリアミド例えばナイロン66及びポリカプロラクタム;アルキド樹脂;ポリカルボネート;ポリオキシメチレン;ポリイミド;ポリエーテル;エポキシ樹脂、ポリウレタン;レーヨン;レーヨン−トリアセテート、セルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート;セロハン;セルロースニトレート;セルロースプロピオネート;セルロースエーテル(即ち、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシアルキルセルロース);及びこれらの結合が含まれる。この出願の目的に関して、ポリアミドには又、-NH-(CH2)n-CO-及びNH-(CH2)x-NH-CO-(CH2)y-CO型のポリアミド(式中、nは、好ましくは、6〜13の整数であり;xは、6〜12の範囲の整数であり;そしてyは、4〜16の範囲の整数である)も包含されよう。上に与えた一覧は、説明のためのものであり、制限するものではない。
被覆に用いられるポリマーは、蝋質又は粘着性でないだけ十分高い分子量を有するフィルム形成性ポリマーであってよい。これらのポリマーも又、ステントに付着すべきであり且つステント上に付着した後は、血流力学的ストレスによってはずされうることに関して、あまり容易に変形されるべきでない。これらのポリマーの分子量は、好ましくは、十分な丈夫さを与えるのに十分なだけ高いので、これらのポリマーは、ステントの操作及び配備中に、すり落とされないであろうし、ステントの拡張時にひび割れないであろう。ある具体例において、このポリマーは、40℃より高い、好ましくは約45℃より高い、一層好ましくは、50℃より高い、最も好ましくは、55℃より高い融点を有する。
被覆は、少なくとも一種の治療用RNAi構築物を被覆混合物中で被覆用ポリマーと混合することによって配合することができる。このRNAi構築物は、液体、微粉固体、又は任意の他の適当な物理的形態として存在してよい。適宜、この混合物は、RNAi構築物と会合する少なくとも一種のタンパク質を含むことができる。適宜、この混合物は、少なくとも一種の添加剤例えば無毒性の補助物質例えば希釈剤、キャリアー、賦形剤、安定剤などを含むことができる。他の適当な添加剤を、これらのポリマー及びRNAi構築物と配合することができる。例えば、前に記載した生体適合性のフィルム形成性ポリマーの一覧から選択する親水性ポリマーを生体適合性の疎水性被覆に加えて、放出プロフィルを改変することができる(或は、疎水性ポリマーを、親水性被覆に加えて、放出プロフィルを改変することもできる)。一例は、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース及びこれらの組合せよりなる群から選択する親水性ポリマーを脂肪族ポリエステル被覆に添加して、放出プロフィルを改変することである。適当な放出量は、イン・ビトロ及び/イン・ビボ放出プロフィルを治療用RNAi構築物についてモニターすることにより測定することができる。
被覆の厚みは、RNAi構築物がマトリクスから溶出する速度を決定することができる。本質的に、RNAi構築物は、マトリクスから、ポリマーマトリクスを通る拡散によって溶出する。ポリマーは、透過性であり、それにより、固体、液体及び気体がそれから漏出することを可能にする。このポリマーマトリクスの全厚は、約1ミクロンから約20ミクロンであり又はそれより厚い。ポリマーマトリクスを医用デバイスに加える前に、下塗り層及び金属表面の処理を利用することができることに注意することは重要である。例えば、酸洗浄、アルカリ(塩基)洗浄、塩処理及びパリレン付着を、記載した全工程の部分として利用することができる。
更なる説明のために、ポリ(エチレン−コ−ビニルアセテート)、ポリブチルメタクリレート及びRNAi構築物溶液を、ステント中へ又はステント上へ、多くの方法にて組み込むことができる。例えば、この溶液は、ステント上に噴霧することができ、又はステントを該溶液に浸すこともできる。他の方法には、スピンコーティング及びRFプラズマ重合が含まれる。一つの典型的具体例においては、この溶液を、ステント上に噴霧してから、乾燥させる。他の典型的具体例においては、この溶液を、一極性に帯電させて、ステントを反対の極性に帯電させる。この方法では、この溶液とステントは、互いに引き合う。この型の噴霧工程の利用においては、浪費を減少できて、被覆の厚みの一層正確な制御を達成することができる。
他の典型的具体例において、このRNAi構築物を、重合したビニリデンフルオリド及び重合したテトラフルオロエチレンよりなる群から選択するある量の第一成分、及び第一成分と異なる成分であって第一成分と共重合してポリフルオロコポリマーを生成する第二成分(該第二成分は、該ポリフルオロコポリマーにえ丈夫さ又は弾力性を与えることができる)を含むフィルム形成性ポリフルオロコポリマーであって、第一成分と第二成分の相対量が、それから生成された被覆及びフィルムに、移植可能な医用デバイスの処理に用いるのに有効な特性を与えるのに効果的である、当該フィルム形成性ポリフルオロコポリマー中に組み込むことができる。
本発明の一具体例において、本発明の内腔内医用デバイスの拡張可能な管状ステントの外表面は、本発明の被覆を含む。被覆を有するステントの外表面は、組織と接触する表面であり、生体適合性である。この「持続的放出用RNAi構築物送達システムで被覆した表面」は、「被覆した表面」と同義語であり、この表面は、本発明の持続的放出用RNAi構築物送達システムで被覆され、覆われ又は該システムを含浸されている。
別の具体例においては、本発明の内腔内医用デバイスの細長い急速に拡張しうる管状ステントの内腔内表面又は全面(即ち、内表面と外表面の両方)は、この被覆した表面を有する。この発明の持続的放出用RNAi構築物送達システムの被覆を有する内腔内表面は又、液体と接触する表面でもあり、生体適合性であり且つ血液適合性である。
ある種の具体例において、主題の発明の高分子複合体は、標的細胞上の特異的な細胞表面タンパク質又はマトリクスに結合するのに有効な一種以上のリガンドと会合することができ、それにより、該複合体の標的細胞に対する隔離を促進し、幾つかの場合には、該細胞によるRNAi構築物の取込みを増進させる。単に説明のために、特異的細胞型に対する本発明の超分子複合体及びリポソームのターゲティングにおける利用に適したリガンドの例を、下記の表に列記する。
本発明は又、主題のポリマー複合体の、該複合体のトランスサイトーシスを促進するリガンドとの誘導体化をも企図する。更に説明するために、ポリマー複合体を、内在化ペプチドに共有結合させることができ、これは、RNAi構築物の細胞内移動を容易にするために複合体の細胞膜を横切る移動を駆動する。この点において、内在化ペプチド自身は、細胞膜を、例えばトランスサイトーシスによって比較的高速で横切ることができる。この内在化ペプチドは、例えば、共有結合性ペンダント基としてポリマーに結合される。
一具体例において、内在化ペプチドは、キイロショウジョウバエのアンテペンネペディアタンパク質又はその同族体から誘導される。ホメオタンパク質のアンテペンネペディアの60アミノ酸長のホメオドメインは、生物の膜を通って移行すること及びそれが結合した異質ポリペプチドの移行を促進することができることが示されている。例えば、Derossi等(1994) J Biol Chem 269:10444-10450;及びPerez等(1992) J Cell Sci 102:717-722を参照されたい。最近、このタンパク質の16アミノ酸長という小さい断片が、内在化を駆動するのに十分であるということが示された。Derossi等(1996)J Biol Chem 271:18188-18193参照。本発明は、アンテペンネペディアタンパク質(又はその同族体)の少なくとも一部分が添えられたRNAi含有ポリマー複合体であって、該複合体の膜貫通輸送を、添えられてない複合体と比較して、統計的に有意の量で増大させるのに十分なアンテペンネペディアタンパク質(又はその同族体)の少なくとも一部分が添えられた当該RNAi含有ポリマー複合体を企図する。
内在化用ペプチドの他の例は、HIVトランスアクチベーター(TAT)タンパク質である。このタンパク質は、4つのドメインに分割されるようである(Kuppuswamy等(1989) Nucl. Acids Res. 17:3551-3561)。精製TATタンパク質は、組織培養において細胞によって取り込まれ(Frankel及びPabo,(1989) Cell 55:1189-1193)、ペプチド例えばTATの残基37〜62に相当する断片は、イン・ビトロで、細胞によって急速に取り込まれる(Green及びLoewenstein, (1989) Cell 55:1179-1188)。高度に塩基性の領域は、内在化及び内在化用部分の核へのターゲティングを媒介する(Ruben等(1989) J. Viol. 63:1-8)。高度に塩基性の領域に存在する配列を含むペプチド又は類似体、例えば、CFITKALGISYGRKKRRQRRRPPQGS(SEQ ID NO:1)は、内在化を助成するためにポリマーに結合体化され、それらの複合体を細胞内ミレアウに標的を定める。
他の典型的な細胞透過ポリペプチドは、マストパランの十分な部分を含むように生成して(T. Higashijima等、(1990) J.Biol.Chem. 265:14176)RNAi複合体の膜貫通輸送を増大させることができる。
他の適当な内在化用ペプチドを、例えば、ヒストン、インスリン、トランスフェリン、塩基性アルブミン、プロラクチン及びインスリン様成長因子I(IGF−I)、インスリン様成長因子II(IGF−II)又は他の成長因子の全部又は一部を利用して生成することができる。例えば、毛細血管細胞上のインスリンレセプターに対する親和性を示すが、血糖低下においてインスリンより効果が低いインスリンの断片は、レセプター媒介のトランスサイトーシスによって膜貫通輸送が可能であり、それ故、主題の細胞浸透ポリペプチドに対する内在化用ペプチドとして役立ちうるということが見出されている。好適な成長因子由来の内在化ペプチドには、EGF(上皮成長因子)由来のペプチド例えばCMHIESLDSYTC(SEQ ID NO:2)及びCMYIEALDKYAC(SEQ ID NO:3);TGF−ベータ(トランスフォーミング成長因子ベータ)由来のペプチド;PDGF(血小板由来成長因子)由来のペプチド又はPDGF−2;IGF−I(インスリン様成長因子)又はIGF−II由来のペプチド;及びFGF(繊維芽細胞成長因子)由来のペプチドが含まれる。
他の移行/内在化用ペプチドの好適なクラスは、pH依存性の膜結合を示す。酸性pHでらせん状コンホメーションを呈する内在化用ペプチドについては、該内在化用ペプチドは、両親媒性を獲得し、例えば、それは、疎水性界面と親水性界面の両方を有する。一層詳細には、約5.0〜5.5のpH範囲内で、内在化用ペプチドは、アルファらせんの両親媒性構造であって、該部分の標的膜内への挿入を促進する当該構造を形成する。アルファらせん誘導性酸性pH環境は、例えば、細胞のエンドソーム内の低pH環境において見出されうる。かかる内在化ペプチドは、エンドサイトーシス機構により取り込まれたRNAi複合体の、エンドソーム区画から細胞質への輸送を促進するために利用することができる。
更に別の好適な内在化用ペプチドには、アポリポタンパク質A−1及びBのペプチド;ペプチド毒素例えばメチリン、ボンボリチン、デルタヘモリシン及びパルダキシン;抗生物質ペプチド例えばアラメチシン;ペプチドホルモン例えばカルシトニン、コルチコトロフィン放出因子、ベータエンドルフィン、グルカゴン、副甲状腺ホルモン、膵臓ポリペプチド;及び多くの分泌タンパク質のシグナル配列に対応するペプチドが含まれる。加えて、典型的な内在化用ペプチドは、酸性pHで内在化ペプチドのアルファらせん特性を増大させる置換基の結合によって改変することができる。
本発明における使用に適した更に別のクラスの内在化用ペプチドには、生理的pHでは「隠れている」が、標的細胞のエンドソームの低いpH環境において露出される疎水性ドメインが含まれる。この疎水性領域のpHにより誘導される展開及び露出により、該部分は、脂質二重層に結合して、共有結合した複合体の細胞質への移動を達成する。かかる内在化用ペプチドは、例えばシュードモナスエキソトキシンA、クラスリン、又はジフテリア毒素において配列が同定された後で、モデル化することができる。
孔形成タンパク質又はペプチドも又、ここでは、内在化用ペプチドとして役立ちうる。孔形成タンパク質又はペプチドは、例えば、C9補体タンパク質、細胞溶解性T細胞分子又はNK細胞分子から得られ又は誘導されうる。これらの部分は、膜中で環様構造を形成することができ、それにより、結合した複合体を膜を通して細胞内に輸送することを可能にする。
内在化用ペプチドの単なる膜挿入は、細胞膜を横切るRNAi複合体の移動にとって十分でありうる。しかしながら、移動は、内在化ペプチド細胞内酵素の基質(即ち、「アクセサリーペプチド」)への結合により改善されうる。アクセサリーペプチドが、細胞膜を通して細胞質面に突き出ている内在化用ペプチドの一部に結合することは好ましい。アクセサリーペプチドは、有利に、移動/内在化用部分又は係留用ペプチドの一端に結合することができる。本発明のアクセサリー部分は、一つ以上のアミノ酸残基を含むことができる。一具体例において、アクセサリー部分は、細胞のリン酸化の基質を提供することができる(例えば、このアクセサリーペプチドは、チロシン残基を含むことができる)。
この点において典型的なアクセサリー部分は、N−ミリストイルトランスフェラーゼのペプチド基質例えばGNAAAARR、SEQ ID NO:4(Eubanks等、Peptides. Chemistry and Biology, Garland Marshall (編)、ESCOM, Leiden, 1988, pp.566-69)である。この構造において、内在化用ペプチドは、N末端グリシンはアクセサリー部分の活性に臨界的であるので、アクセサリーペプチドのC末端に結合される。RNAi含有ポリマー複合体に結合されたこのハイブリッドペプチドは、Nミリスチル化され、更に、標的細胞膜に係留され、例えば、それは、その複合体の細胞膜における局所的濃度を増大させるのに役立つ。
適当なアクセサリーペプチドには、キナーゼの基質であるペプチド、単一の正の電荷を有するペプチド、及び膜結合性グリコトランスフェラーゼによりグリコシル化されている配列を含むペプチドが含まれる。膜結合性グリコトランスフェラーゼによりグリコシル化されているアクセサリーペプチドは、配列x−NLT−xを含むことができる(式中、「x」は、例えば、他のペプチド、アミノ酸、カップリング剤又は疎水性分子であってよい)。この疎水性取りペプチドをミクロソーム小胞とインキュベートすると、それは、小胞膜を横切って、管腔側にてグリコシル化され、その親水性のために小胞内に捕捉される(C. Hirschberg等、(1987) Ann.Rev.Biochem. 56:63-87)。従って、配列x−NLT−xを含むアクセサリーペプチドは、標的細胞の対応する複合体の保持を増進させよう。
上記のように、内在化用及びアクセサリーペプチドは、各々独立に、RNAi構築物含有複合体又はリポソームに、化学的架橋又は非共有結合性相互作用(例えば、ストレプトアビジン−ビオチン結合体、His6−Ni相互作用などの利用)によって加えることができる。ある例において、非構造化ポリペプチドリンカーを、ペプチド部分とポリマー複合体又はリポソームとの間に含ませることができる。
かかる内在化用及びアクセサリーペプチドは、核酸の主鎖上のヒドロキシル基への共有結合などによって、RNAi構築物と直接結合させることができるということも又、企図される。ある具体例においては、この結合は、エステラーゼへの曝露又は単純な加水分解反応などの生理的条件下で開裂しやすい。かかる組成物は、単独で用いることもできるし(「裸のRNAi」構築物)、ポリマー複合体又はリポソーム中に配合することもできる。
眼科用配合物、眼科用軟膏、粉末、溶液なども又、この発明の範囲内にあることが企図される。
非経口的投与のために好適な本発明の製薬組成物は、1種以上の本発明の化合物を1種以上の製薬上許容できる無菌で等張性の水溶液又は非水溶液、分散液、懸濁液又はエマルジョン、或いは使用直前に無菌注射可能溶液又は分散液に再構成できる無菌粉末と組合わせて含み、これは酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤や、処方物を意図された受容体の血液により又は懸濁若しくは増粘剤により等張性にさせる溶質を含有することができる。
本発明の製薬組成物に使用できる好適な水性及び非水性キャリアーの例には、水、エタノール、ポリオール(グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)及びこれらの好適な混合物、オリーブ油のような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能有機エステルが包含される。適切な流動性は、例えば、レシチンのような被覆材を使用して、分散液の場合には所要の粒度を維持することによって、及び界面活性剤を使用することによって保持することができる。
これらの組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤のような補助剤を含有することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌剤及び抗菌剤、例えば、パラベン、クロルブタノール、フェノール、ソルビン酸などを含有させることによって確実にすることができる。また、糖、塩化ナトリウムなどのような等張剤を組成物中に含有させることが望ましいであろう。更に、注射可能な製薬形態の持続された吸収は、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンのような吸収を遅延させる剤を含有させることによりもたらすことができる。
ある場合には、薬物の効果を持続させるために、皮下又は筋肉内注射からの薬物の吸収を遅延させることが望ましい。これは、水溶解度が劣った結晶質又は非晶質材料の液状懸濁液を使用することにより達成することができる。この場合に、薬物の吸収速度はその溶解速度に依存し、後者も結晶寸法及び結晶形態に依存しよう。別法として、非経口的に投与された薬物形態の吸収の遅延は、薬物を油性ビヒクルに溶解又は懸濁させることにより達成される。
注射可能なデポー剤形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドのような生分解性重合体中の主題化合物のマイクロカプセルマトリックスを形成させることにより製造される。薬物対重合体の比率及び使用された特定の重合体の種類に応じて、薬物の放出速度は制御することができる。その他の生分解性重合体の例には、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が包含される。また、デポー剤注射可能処方物も薬物を体の組織と適合性のリポソーム又はマイクロエマルジョン中に包封することによって製造される。
本発明の化合物が人及び動物に薬剤として投与されるときは、それらは、それ自体で又は例えば0.1〜99.5%(更に好ましくは0.5〜90%)の活性成分を製薬上許容できるキャリアーと組み合わせて含有する製薬組成物として与えることができる。
本発明の化合物の動物飼料への添加は、好ましくは、活性化合物を有効量で含有する適当な供給プレミックスを製造し、このプレミックスを配合して完全な糧食にすることによって達成される。
別法として、活性成分を含有する中間濃厚物又は供給補充物を飼料に配合することができる。このような供給プレミックス及び完全糧食を製造し投与できる方法は、参照文献(例えば、“応用動物栄養”(W.H.フリーマン他、サンフランシスコ、1969)又は“家畜飼料及び飼育”(O−Bブックス、コーバリス、オレゴン、1977))に記載されている。
前述の具体例の何れかにおいて、この発明は、医薬製剤が非発熱性でありうることを企図する。
本発明の方法において用いるための医薬製剤は、2種以上のヘッジホッグアンタゴニストの組合せを含むことができる。例えば、2つの異なるHH経路RNAiアンタゴニストを製薬上許容しうるキャリアー又は賦形剤と合わせることができる。これらの2種のRNAiアンタゴニストは、相加的又は相乗的に作用することができる。他の例においては、一種以上のRNAiアンタゴニストを一種以上の非RNAiヘッジホッグアンタゴニスト(例えば、一種以上の小型有機分子)及び製薬上許容しうるキャリアー又は賦形剤と合わせることができる。ヘッジホッグアンタゴニストの該組合せは、相加的又は相乗的に作用しうる。
今や、この発明を、一般的に説明したので、下記の実施例を参照することによって、それは、一層容易に理解されるであろう(これらの実施例は、単に、本発明のある種の面及び具体例の説明の目的で含まれるものであり、発明を制限することを意図するものではない)。
実施例1:ヘッジホッグ、肺発生及び表面活性物質産生
呼吸障害症候群は、肺の肺胞における不十分な表面活性物質から生じる。脊椎動物の肺は、肺の膨張中に表面張力を上昇させ且つ肺の収縮中には減少する脂質とタンパク質の複雑な混合物である表面活性物質を含んでいる。肺の収縮中、表面活性物質は、肺胞をつぶす表面力がなくなるように減少する。呼息中つぶれなかった膨らんだ肺胞は、血液と肺胞ガスの間での連続的な酸素と二酸化炭素の輸送を可能にし、その後の吸息中に膨張するのにずっと小さい力しか必要としない。膨張中、肺の表面活性物質は、肺胞表面積が増大するにつれて表面張力を増大させる。膨張中の肺胞におけるすすぎ表面張力は、それらの空気を含んだ空間における過剰膨張に対抗し、吸入された空気を十分空気を含んでいない肺胞へそらし、それにより一様な肺の吸気を促進する傾向がある。
呼吸障害症候群は、特に、未熟児に多い。肺の表面活性物質は、通常は、胎児期の最後の6週間まで非常に低速で合成される。正常な妊娠期間より6週間以上前に生まれたヒトの幼児は、不適当な量の肺表面活性物質及び不適当な表面活性物質合成速度を有して生まれるリスクが高い。生まれた幼児が未熟であるほど、表面活性物質欠乏は重症でありそうである。重い表面活性物質欠乏症は、誕生後数分から数時間以内に呼吸不全を生じうる。この表面活性物質欠乏症は、最大呼吸努力にもかかわらず、肺の広がる能力の減少の故に、進行性の肺胞崩壊(肺拡張不全)を生じる。その結果、幼児の血液に到達する酸素の量は不十分となる。RDSは、成人においても、典型的には表面活性物質の生合成不全の結果として生じうる。
ヘッジホッグシグナリング経路の肺の成熟における役割及び界面活性物質の産生を研究して、ヘッジホッグシグナリング経路の阻害が界面活性物質産生を刺激することを発見した。
ヘッジホッグに調節される遺伝子、Gli−1の発現を、マウス胎児肺組織で評価した。Gli−1は、胎児肺で強く発現されたが、この発現は、肺の成熟中に減少した(図4)。胚形成の終了に向けてのヘッジホッグシグナリングの低下は、肺末端の上皮の肺胞細胞への成熟と相関するということに注意されたい。Gli−1(ヘッジホッグシグナリングを示す転写因子)は、誘導気道において発現され続けるが、成体の気道では発現され続けない。
方法:パラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋組織の切片を、清浄化し、再水和させ、プロテイナーゼKで消化し、アセチル化して、[33P]標識したソニックヘッジホッグ及びgli−1RNAプローブとそれぞれ一晩ハイブリダイズさせた。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション後の洗浄後に、スライドをフォトエマルジョンに浸け、最長で3週間インキュベートし、現像して、暗視野照明法を用いて像を造った。暗視野シグナルは、人工色(赤)で満たされて明視野イメージと重ね合わされた。
更にgli−1発現の減少と肺の成熟とを相関させるために、gli−1の発現を肺成熟マーカーのC型界面活性物質(Sp−C)の発現と比較した(図5)。この分析は、gli−1の発現がE13.5とE16.5の間で減少するにつれて、Sp−Cの発現が増大することことを示した。
方法:E13.5及びE16.5マウスの肺の外植片を切り裂いて、定量的リアルタイムPCR(Q−RT−PCR)により分析した。簡単にいえば、全リボ核酸(RNA)を該組織から単離し、逆転写にかけてDNAを生成する。このDNAをポリメラーゼ連鎖反応で、遺伝子特異的プライマー並びに遍在的に発現されるハウスキーピング遺伝子GAPDH用のプライマーを利用して増幅する。これらの2つのプライマーセットを、異なる蛍光体で標識して、リアルタイムPCR装置(TaqMan)の同じ反応チューブ中の両シグナルの定量を可能にする。gli−1及びSp−Cの発現レベルを計算する場合、特異的シグナルをGAPDHシグナルに対して標準化する(これは、反応に用いられた全DNAの尺度として役立つ)。
Gli−1の発現がヘッジホッグシグナリングのマーカーであるので、ヘッジホッグシグナリング経路は、未成熟肺組織で活性であるらしい。従って、ヘッジホッグシグナリング経路の阻害が、一層迅速な肺の成熟を可能にし、特に界面活性物質の産生を刺激するということが仮説として設けられた。
マウス胎児の肺のヘッジホッグアンタゴニスト化合物Bでの処理は、Gli−1発現をダウンレギュレートする(図6)。方法:E13.5マウス胎児肺を解剖した。外植片を、肺外植片用培地(DMEMベース、マウス肺の培養に最適化された添加物)中で、気相液相界面にさらして、67時間生育させた。次いで、それらを、定量的リアルタイムPCR(Q−RT−PCR)のために処理した。簡単にいえば、全リボ核酸(RNA)を該組織から単離し、逆転写にかけてDNAを生成する。このDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応で、遺伝子特異的プライマー並びに 遍在的に発現されるハウスキーピング遺伝子GAPDH用のプライマーを利用して増幅する。これらの2つのプライマーセットを、異なる蛍光体で標識して、リアルタイムPCR装置(TaqMan)の同じ反応チューブ中の両シグナルの定量を可能にする。gli−1の発現レベルを計算する場合、特異的シグナルをGAPDHシグナルに対して標準化する(これは、反応に用いられた全DNAの尺度として役立つ)。
化合物Bでの処理は、マウス胎児の肺におけるC型界面活性物質の産生を増大させる(図7)。界面活性物質産生は、肺の成熟の尺度であり、界面活性物質を産生できないことは、成体及び幼児の呼吸障害症候群の主たる原因である。このC型界面活性物質産生の増大は、この界面活性物質産生に決定的に重要なタンパク質をコードするSp−Cの発現の測定によって評価した。
方法:E13.5齢のマウス胎児の肺を解剖した。外植片を、肺外植片用培地(DMEMベース、マウスの肺の培養に最適化させた添加剤)に浸して50時間生育させた。それらを、次いで、Q−RT−PCRのために処理した。簡単にいえば、全リボ核酸(RNA)を、この組織から単離し、逆転写にかけてDNAを生成する。このDNAをポリメラーゼ連鎖反応で、遺伝子特異的プライマー並びに遍在的に発現されるハウスキーピング遺伝子GAPDH用のプライマーを利用して増幅する。これらの2つのプライマーセットを、異なる蛍光体で標識して、リアルタイムPCR装置(TaqMan)の同じ反応チューブ中の両シグナルの定量を可能にする。Sp−Cの発現レベルを計算する場合、特異的シグナルをGAPDHシグナルに対して標準化する(これは、反応に用いられた全DNAの尺度として役立つ)。
層板小体は、サーファクチン産生肺細胞で見出される細胞内構造であり、サーファクチン産生部位であると考えられている。化合物B処理した肺のII型肺胞細胞は、時期尚早に分化し、これは、界面活性物資を産生する層板小体の存在により証明される。ビヒクル処理した対照では、かかる構造は観察されえなかった(図8)。方法:E13.5マウス胎児肺を解剖した。外植片を、肺外植片用培地(DMEMベース、マウス肺の培養に最適化された添加物)中で、気相液相界面にさらして、67時間生育させた。次いで、それらを、透過型電子顕微鏡観察のために処理し、倍率62,000倍で写真を撮った。
図9及び10は、胎児肺培養物の化合物Bでの処理に際して上記のものと類似の結果を示している(図9〜10)。化合物B処理後に認められるSp−C発現の増大は、胎児肺外植片をステロイドホルモンのヒドロコーチゾンで処理したときに認められるものに匹敵する。ステロイドは、ヒトを含む哺乳動物において、肺の成熟及び界面活性物質産生を増大させることが知られている。
ヘッジホッグアンタゴニストの肺成熟に対する効果の特異性は、肺成熟に対するヘッジホッグシグナリングのアゴニストの効果を調べることにより示される。胎児の肺の培養物の脂質修飾したソニックヘッジホッグ又はヘッジホッグアゴニスト化合物での処理は、gli−1の増大した発現及びSp−Cの減少した発現を生じる(図11)。
まとめると、これらの結果は、ヘッジホッグインヒビターが、肺組織の成熟及び該組織におけるサーファクチン産生を刺激するということを示している。このヘッジホッグシグナリング経路は、未成熟肺組織において活性であり、該組織でサーファクチンは、大したレベルでは産生されていないが、サーファクチンが産生される成体の気道ではヘッジホッグ経路が比較的不活性である。未成熟肺組織の、ヘッジホッグシグナリング経路のアンタゴニストでの処理は、迅速な成熟並びに、サーファクチン産生と関連する分子及び細胞学的マーカーの増大した存在を引き起こす。肺外植片のヘッジホッグアンタゴニスト及びアゴニストでの処理に際して得られた逆の結果は、これらの結果の特異性を示している。
実施例2:ヒトの腫瘍におけるGli−1発現
ヒトの腫瘍におけるヘッジホッグ経路の活性化
ヘッジホッグシグナリングは、基底細胞癌(BCC)の発生の原因となる役割を演じる。ヘッジホッグシグナリングを分析して、この経路が、他のヒト腫瘍特に前立腺、肺及び乳癌並びに良性の前立腺肥厚において活性であるかどうかを測定した。ヘッジホッグタンパク質は、様々な細胞型に対する公知の増殖因子である。ヘッジホッグは、様々な細胞型に対する公知の増殖効果を有するので、ヘッジホッグアンタゴニストは、高レベルのヘッジホッグシグナリングの存在する癌に対する価値ある治療剤でありうる。
腫瘍型におけるヘッジホッグ活性化の問題は、ヘッジホッグシグナリングの公知の転写エフェクター遺伝子のgli−1を用いる放射性イン・シトゥーハイブリダイゼーション実験を行なうことにより扱った。
簡単にいえば、パラホルムアルデヒドで固定したパラフィン包埋組織切片を、清浄化し、再水和させ、プロテイナーゼKで消化し、アセチル化して、[33P]標識したRNAプローブと一晩ハイブリダイズさせた。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション後の洗浄後に、スライドをフォトエマルジョンに浸け、最長で3週間インキュベートし、現像して、暗視野照明法を用いて像を造った。暗視野シグナルは、人工色(赤)で満たされて明視野イメージと重ね合わされた。Gli−1発現は、「−」から「+」を経て「++++」までの階級で等級付けされた。Gli−1発現は、スライド内の増殖過多細胞において、他の非増殖細胞におけるよりも高発現でない場合には「−」と評価された。増大する発現レベルに対して「+」から「++++」までの評価が与えられたが、「++」以上と評価された何れの細胞も、実質的に増大したgli−1発現を有すると考えられた。シグナルが解釈不能であった場合には、試料は、「ND」と示される。
これらの実験のデータを、下記の表1〜4にまとめた。簡単にいえば、18の乳癌試料のうちの8つが実質的に増大したgli−1発現を示した。11の肺癌試料のうちの7つ、19の良性前立腺肥厚試料(BPH)のうちの11、及び15の前立腺癌試料のうちの6つの何れもが、強いgli−1発現を示した。
まとめると、高レベルのGli−1発現(即ち、ヘッジホッグシグナリング活性化)が、ヒトの前立腺癌及び良性前立腺肥厚、肺癌及び乳癌において認められうる(図12〜15)。これらの腫瘍型におけるヘッジホッグ経路の活性化は、以前に記載されたことはない。これらの増殖中の細胞における非常に活性なヘッジホッグ経路の存在は、これらの疾患におけるヘッジホッグ経路と過剰増殖との間の因果的連鎖を強く示唆している。ヘッジホッグアンタゴニストが、これらの型の癌における抗増殖剤として有効であることが予想される。
実施例3:膀胱癌
細胞遺伝学及び突然変異のデータは、ヘッジホッグ活性化が膀胱癌の原因の役割を演じていることを示唆している
膀胱癌において見出された細胞遺伝学的な及び分子の変化は、不均一である。癌における第一の、特異的な変異の確立において、高二倍体性により達成される複雑な、複数の染色体の変化を未だ有しない近二倍体癌を試験することは、しばしば有用である。Gibas等は、膀胱の移行上皮癌の9例中の4例において、第9染色体のモノソミーを見出した(Gibas等(1984) Cancer Research 44:1257-1264)。これらの内の3つにおいて、核型は、近二倍体であり、1つにおいては、モノソミー9が、認められた唯一の異常であった。それ故、第9染色体のモノソミーは、かかる癌の亜群において悪性トランスフォーメーションを開始しうる。
この変化が初期事象として現れることの更なる証拠が、第9染色体の欠失が表面乳頭状腫瘍において頻繁に存在する唯一の遺伝学的変化であることを報告した2つの別のグループにより与えられた(Dalbagni等(1993) Lancet 342:469-471)。実際、9q欠失は、膀胱癌の約60〜70パーセントにおいて生じると見積もられている(Cairns等(1992) Oncogene 8:1083-1085;Dalbagni等、前出)。ある研究は、9q22の欠失が情報を与える症例の約35%に起きることを報告した(Simoneau等、1999)。このヘッジホッグシグナリング経路の成分のパッチト−1は、9q22上に位置している。
すべての他の染色体のLOHは、低発達の、非侵襲性の癌において、低頻度である(10%未満)。同様に、膀胱癌関連オンコジーン(ERBB2、EGFR)の変化も又、表面的な、低発達の腫瘍においては稀である(Cairns等、前出)。
これらの細胞遺伝学的発見に基づいて、膀胱癌の発癌についての次のモデルが提案されている:イニシエーションが、第9染色体上の腫瘍サプレッサー遺伝子の欠失により起き、これは、表面乳頭状腫瘍に又はときとして偏平腫瘍へと導き、その内の少数が、その後、更なる変異(例えば、p53)を獲得して侵襲性へと進行する。
3グループは、三染色体性7を膀胱癌の低いパーセンテージで観察した(Sandberg, 前出;Berger等、前出;Smeets等、前出)。Shhは、我々の実験によって、成体の生涯を通して膀胱上皮中で発現され続けるが、第7染色体に局在している。Berger等は又、10q24(su(fu)の遺伝子座)の欠失をも観察した(Berger等(1986) Cancer Genetics and Cytogenetics 23:1-24)。同様に、Smeets等は、10q欠失が膀胱癌の発生の第一の事象でありうることを示唆した(Smeets等(1987) Cancer Genetics and Cytogenetics 29:29-41)。
このデータは、成体膀胱上皮中に存在するヘッジホッグシグナリングの基線発現が増大して、尿路上皮細胞の増大した増殖へと導く機構を示唆している。この仮説は、細胞学的データにより並びにptc−1、smo及びgli−3の正常ヒト尿路上皮及び2つの移行上皮癌細胞株での発現を記載したMcGarvey等の発見(McGarvey等(1998) Oncogene 17:1167-1172)により支持されている。
ヘッジホッグシグナリングを、マウスの膀胱で試験して、正常な膀胱中に存在することを見出した。Ptc−lacZトランスジェニック新生マウス(ptc−1(d11)lacZ)において、LacZ発現は、膀胱上皮の増殖中の尿路上皮細胞で検出することができ、隣接する間充織細胞においては一層弱く検出することができる(図16A)。成体マウスの膀胱の更なるイン・シトゥーハイブリダイゼーション分析は、膀胱上皮におけるgli−1の発現(特に、増殖中の尿路上皮細胞中)を示している(図16B)。
方法:lacZ染色のために、ptc−1(d11)lacZ膀胱を、尾を利用するlacZ検出により同定したトランスジェニック新生マウスから採取した。膀胱を、lacZ固定液中で固定し、すすいで、lacZについて染色し(O/Nで、37℃で)、次いで、標準的組織学用に処理した。切片を、エオシンで対比染色した。イン・シトゥーハイブリダイゼーション用に、パラホルムアルデヒド固定し、パラフィン包埋した組織の切片を、洗浄し、再水和し、プロテイナーゼKで消化し、アセチル化して、[33P]標識したgli−1RNAプローブと一晩ハイブリダイズさせた。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション後洗浄の後に、スライドを、フォトエマルジョンに浸け、最長で3週間インキュベートし、現像して、暗視野照明法を用いて像を造った。暗視野シグナルは、人工色(赤)で満たされて明視野イメージと重ね合わされた。
膀胱癌におけるヘッジホッグシグナリング
ヘッジホッグシグナリング及びヘッジホッグ経路遺伝子の発現を、ヒト膀胱癌及び幾つかの膀胱癌細胞株において分析した。これらの組織における遺伝子発現を、定量的リアルタイムPCR(Q−RT−PCR)を利用して測定した。これらの結果は、図17〜19にまとめてあるが、ヘッジホッグ経路遺伝子が膀胱癌細胞株において発現されることを示している。
図17は、膀胱腫瘍において、shh発現が成体の正常な膀胱と比較して12倍増大され、gli−1発現が2.5倍増大されることを示している。図18は、shh及びgli−1の発現を、8つのヒト膀胱癌細胞株において試験しており、図19は、同じ8つのヒト膀胱癌細胞株におけるshh、ptc−1、smo、gli−1、gli−2及びgli−3の発現を試験している。これらの結果は、ヘッジホッグ経路の成分が、試験した8つの細胞株の内の8つにおいて発現されることを示している。
方法:実験1(図17) − 膀胱腫瘍におけるヘッジホッグシグナリングの評価。
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(Q−RT−PCR)実験のために、市販のcDNA(Clontech)を、Perkin ElmerのABIプリズム7700シーケンス検出システム(TaqMan)及び遺伝子特異的プライマーを利用して増幅した。ハウスキーピング遺伝子GAPDHを用いて、RNA濃度及びPCR効率を標準化し、GAPDHプライマーを同反応物に加えた。両遺伝子に対するプローブを異なる蛍光体で標識したので、特異的シグナルとGAPDHのそれを同じ管内で検出することができる。シグナル強度は、Sequence Detector v1.7 (製造業者により提供されるソフトウェア)により与えられたアルゴリズムを利用して計算した。
実験2(図18〜19) − 8つの膀胱癌細胞株におけるヘッジホッグシグナリング。
膀胱癌細胞株をATCC(American Type Culture Collection)から購入し、製品説明書中で推奨されたようにして維持した。集密状態で、細胞をすすぎ、1% 血清を含む培地に切り替た(ヘッジホッグシグナリングを増大させる処理)。次いで、細胞を、更に2日間生育させ、トリゾール(GIBCO-BRL)中に集めて、RNAを、製造業者のプロトコールに従って単離した。このRNAを、次いで、標準的プロトコールにより第一鎖cDNAに転写し、Perkin ElmerのABIプリズム7700シーケンス検出システム(TaqMan)及び遺伝子特異的プライマーを利用して増幅した。ハウスキーピング遺伝子GAPDHを利用して、RNA濃度及びPCR効率を標準化し、GAPDHプライマーを同反応物に加えた。両遺伝子のプローブを異なる蛍光体で標識したので、特異的シグナルとGAPDHのそれを同じ管内で検出することができる。シグナル強度を、Sequence Detector v1.7 (製造業者により提供されるソフトウェア)により与えられるアルゴリズムを利用して計算した。
膀胱癌細胞株におけるヘッジホッグシグナリングを試験するためのイン・ビトロアッセイ
試験した8つの膀胱癌細胞株中のヘッジホッグシグナリング経路の成分の発現は、ヘッジホッグシグナリングが膀胱癌細胞において活性であることを示唆した。しかしながら、観察された遺伝子発現は、機能的シグナリングの指標たりえない。機能的ヘッジホッグシグナリングが膀胱癌細胞株において生じるかどうかを評価するために、gli−Lucイン・ビトロアッセイを利用した。このアッセイを、図20に図式的にまとめた。簡単にいえば、ヘッジホッグに応答性のルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現する10T1/2(S12)繊維芽細胞が、ヘッジホッグシグナリングの指標として機能する。これらの細胞を機能的ヘッジホッグタンパク質と接触させた場合に、ヘッジホッグシグナリング経路が、S12細胞内で活性化されて、ルシフェラーゼが発現される。ここに提示した実験において、S12細胞は、膀胱癌細胞と共存培養される。もし膀胱癌細胞株が、機能的ヘッジホッグタンパク質を分泌するならば、ルシフェラーゼ発現が、隣接するS12細胞において活性化されるであろう。
図21は、S12細胞単独での、及び3つの膀胱癌細胞株と共存培養させたS12細胞におけるルシフェラーゼ誘導を示している。試験した3つの細胞株の内の2つが、S12細胞においてルシフェラーゼの発現を誘導し、これは、これらの膀胱癌細胞株が機能的ヘッジホッグタンパク質を分泌することを示している。
膀胱癌細胞株によるヘッジホッグシグナリングの活性化の特異性を確認するために、S12/RT−4共存培養物を、Shhブロッキング抗体(5E1)で処理した。図22は、共存培養物の5E1処理がS12細胞におけるルシフェラーゼの発現を、85ng/mlのIC50及び500ng/mlのIC90で阻止することを示している。このモデルは、小分子及びポリペプチドアンタゴニストを含む他のヘッジホッグアンタゴニストのイン・ビトロの効力を評価する手段をも与えるということに注意すべきである。
イン・ビボのマウス膀胱癌モデルにおけるヘッジホッグシグナリング
膀胱腫瘍細胞のヌードマウスへの注入は、腫瘍形成を誘導する。Shh抗体5E1の、上記のイン・ビトロgli−Lucアッセイにおいてヘッジホッグシグナリングを阻止する能力に基づいて、5E1の、膀胱細胞腫瘍のイン・ビボでの増殖を阻止する能力を試験した。簡単にいえば、ヌードマウスに。107のRT−4細胞を皮下注射した。これらのマウスを2群に分けて、5E1で又は対照用IgG抗体で処理した。図23及び24は、5E1での処理が、腫瘍の寸法を、対照用IgGでの処理と比較して、有意に減少させたことを示している。この特定の実験で利用した手順(マトリゲルを用いる腫瘍細胞の注射)の故に、これらの腫瘍が、マトリゲルマトリクス(=100μlの注射容積)のために最初に100mm3の平均寸法を有していたことに注意することは重要である。マトリゲルは、濡れた氷の上に保持すれば液体であるが、注射に際して凝固する。従って、5E1群の平均腫瘍寸法は、実験の最後に、処理の開始時のそれとほぼ等しい。結果は、高度に統計的に有意である(スチューデントのt検定:p=0.017)。このモデルは又、小分子及びポリペプチドアンタゴニストを含む他のヘッジホッグアンタゴニストのイン・ビボの効力を評価する手段をも提供するということに注意すべきである。
5E1処理の腫瘍寸法に対する効果の評価に加えて、両RT−4腫瘍及び周囲の組織におけるgli−1の発現も又、評価した。5E1処理は、gli−1の発現を、両RT−4腫瘍及び隣接する組織で減少させた(図25)。この発見は、上記のイン・ビトロ実験が、これらのヘッジホッグ発現細胞は隣接細胞においてヘッジホッグシグナリングを活性化することができるということを示しているので重要である。癌の進行の複雑な性質を考えれば、ヘッジホッグシグナリングが癌に直接・間接に影響を及ぼすことはありうる。間接的効果には、増殖因子、血管形成因子又は抗アポトーシス因子の誘導が含まれうる。かかる因子の誘導は、癌細胞自身において又は隣接する細胞において起こりうる。従って、ヘッジホッグアンタゴニスト5E1が両癌細胞及び周囲の細胞においてヘッジホッグシグナリングを阻止することができるという指示は、有意の意味を有する。
方法:指数関数的に増殖中のRT−4培養物をトリプシン処理し、遠心沈降させて小容積の培養培地に再懸濁させた。生存力のある腫瘍細胞の割合を、トリパンブルー排除により測定した。動物1匹当たり107の細胞を、100μlのマトリゲル(基底膜成分の市販の調製物)に再懸濁させて、6〜8週齢の無胸腺の雄のBALB/c nu/nuヌードマウスの右脇腹に皮下注射した。細胞の注射の翌日に処理を開始した。マウスを2群に分けた(16匹/群)。対照群(対照用IgG抗体)と5E1処理群に、10mg/kgの抗体を、3×/週で、腹腔内注射した。腫瘍を、2×/週で、カリパスにより2次元で測定し、測定値を、長球面の式(a×b2×1/2)を利用して腫瘍の容積に変換した。上記のように、この特定の実施例においては、腫瘍をマトリゲルと共に注射した。それ故、これらの腫瘍は、100mm3の初期寸法を有し、5E1処理後に認められた腫瘍寸法の阻止は、ほぼ完全な腫瘍増殖の阻止である。
gli−1の発現は、本願を通して記載したQ−RT−PCRを利用して測定した。
ヘッジホッグアンタゴニスト5E1による腫瘍増殖の阻止は、請求項記載の発明の有用性を指示している。ある範囲の薬剤を利用するヘッジホッグシグナリングの拮抗は、腫瘍増殖の減少において類似の効果を有するであろうということ及び任意の候補の化合物の効力を、上記のイン・ビトロ及びイン・ビボ方法を利用して容易に評価することができるであろうということが予想される。
実施例4:前立腺癌
ヘッジホッグシグナリングは、正常な前立腺の発生において、重要な役割を演じている。ソニックヘッジホッグは、前立腺の成長に必要であり、Shhの発現は、前立腺の導管分岐に強く相関している(Podlasek等(1999) Developmental Biology 209:28-39)。適当な前立腺の分岐におけるshhの必須の役割を支持する最近の証拠は、胎児の前立腺のヘッジホッグアンタゴニストのシクロパミンでの処理が成長及び分岐を阻止することを示している(W.Bushman, 未公開の結果)。加えて、成体マウスの前立腺におけるヘッジホッグシグナリングの低レベルの維持は、胎児前立腺の初期の成長及び分岐におけるこの初期の役割を超えるヘッジホッグシグナリングの更なる役割を示唆している。
最近の研究は、ヘッジホッグ経路の成分の発現と前立腺癌との間の相関関係を試験してきた。これらの結果は、shh及び/又はgli−1の増大した発現と前立腺癌との間の相関関係を示している。更なる細胞学的データは、ヘッジホッグ経路の誤調節(mis-regulation)が前立腺癌においてある役割を演じているという考えを支持している。2つの研究が、前立腺癌においてSu(fu)遺伝子座を含む第10染色体断片の欠失を記載した(Carter等(1990)PNAS 87:8751-8755;Li等(1997)Science 275:1943-1947)。前立腺癌におけるヘッジホッグシグナリングの役割を示唆する文献中の証拠を前提に、幾つかの前立腺癌細胞株におけるヘッジホッグシグナリングを試験した。加えて、ヘッジホッグアンタゴニストの、前立腺腫瘍細胞株におけるヘッジホッグシグナリングの活性化を減少させる能力が示された。これらの結果は、膀胱癌細胞と同様に、ヘッジホッグシグナリングのアンタゴニストが前立腺癌細胞の生育及び増殖の減少における有用性を有することを示唆している。
前立腺癌におけるヘッジホッグシグナリング
shh及びgli−1の発現を、ヒト前立腺癌試料及び市販の前立腺癌細胞株において試験した。図26は、ヒトの前立腺癌試料のイン・シトゥーハイブリダイゼーション分析を示しており、豊富なshh発現を示している。図27は、前立腺癌細胞における高レベルのgli−1発現を示している(Q−RT−PCRにより測定)。最後に、図28は、shh及びgli−1の両方の発現を、Q−RT−PCRによって、市販の3つの前立腺癌細胞株において試験した。これらの結果は、ヘッジホッグシグナリングが3つのすべての市販の細胞株で起きることを示している。
方法:イン・シトゥーハイブリダイゼーション:パラホルムアルデヒド固定した組織を、30μmの切片に冷凍切片化し、プロテイナーゼKで消化し、ジゴキシゲニン標識したRNAプローブと一晩ハイブリダイズさせる。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション後洗浄の後に、切片を、アルカリホスファターゼで標識した抗ジゴキシゲニン抗体とインキュベートする。このシグナルを、アルカリホスファターゼと反応して紫色の沈殿を形成する市販の色原体溶液のBMパープルの添加により可視化する。
前立腺癌細胞株をATCC(American Type Culture Collection)から購入し、製品説明書中で推奨されたようにして維持した。集密状態で、細胞をすすぎ、1% 血清を含む培地に切り替た(ヘッジホッグシグナリングを増大させる処理)。次いで、細胞を、更に2日間生育させ、トリゾール(GIBCO-BRL)中に集めて、RNAを、製造業者のプロトコールに従って単離した。このRNAを、次いで、標準的プロトコールにより第一鎖cDNAに転写し、Perkin ElmerのABIプリズム7700シーケンス検出システム(TaqMan)及び遺伝子特異的プライマーを利用して増幅した。ハウスキーピング遺伝子GAPDHを利用して、RNA濃度及びPCR効率を標準化し、GAPDHプライマーを同反応物に加えた。両遺伝子のプローブを異なる蛍光体で標識したので、特異的シグナルとGAPDHのそれを同じ管内で検出することができる。シグナル強度を、Sequence Detector v1.7 (製造業者により提供されるソフロウェア)により与えられるアルゴリズムを利用して計算した。
前立腺癌細胞株におけるヘッジホッグシグナリングを試験するためのイン・ビトロアッセイ
前立腺癌試料及び細胞株におけるヘッジホッグシグナリング経路の成分の発現は、ヘッジホッグシグナリングが前立腺癌において活性であることを示唆している。しかしながら、認められた遺伝子発現は、機能的シグナリングの指標たりえるものではない。機能的ヘッジホッグシグナリングが前立腺癌細胞株で生じるかどうかを評価するために、gli−Lucイン・ビトロアッセイを行なった。このアッセイは、上に概説したが、図20に図式表示してある。簡単にいえば、ヘッジホッグに応答性のルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現する10T1/2(S12)繊維芽細胞が、ヘッジホッグシグナリングの指標として機能する。これらの細胞を機能的ヘッジホッグタンパク質と接触させた場合、ヘッジホッグシグナリング経路がS123細胞内で活性化されて、ルシフェラーゼが発現される。ここに提示した実験においては、S12細胞を前立腺癌細胞と共存培養する。もし前立腺癌細胞株が機能的ヘッジホッグタンパク質を分泌すれば、ルシフェラーゼ発現が、隣接するS12細胞において活性化されるであろう。
図29は、単独で培養したS12細胞において又はPZ−HPV−7(正常)細胞と共に培養したS12細胞においてルシフェラーゼの誘導がないことを示している。しかしながら、ルシフェラーゼ誘導は、S12細胞を3つの前立腺癌細胞株:22Rv1、PC−3又はLNCaPの何れかと共に培養した場合に認められる。この結果は、これらの前立腺癌細胞株が機能的ヘッジホッグタンパク質を分泌することを示している。
この前立腺癌細胞株によるヘッジホッグシグナリングの活性化の特異性を確認するために、S12/前立腺癌共存培養物を、Shhブロッキング抗体(5E1)で処理した。図30は、共存培養物の5E1処理がS12細胞におけるルシフェラーゼの発現を阻止することを示している。
方法:S12の培養及び共存培養、並びにルシフェラーゼアッセイを、上記のように実施した。
実施例5:良性前立腺肥厚(BPH)
上記のように、ヘッジホッグシグナリングは、初期前立腺パターニングにおける重要な役割及び成体前立腺の維持における役割の両方を有するようである。前立腺癌は、成体前立腺におけるヘッジホッグシグナリングの誤調節の一つの潜在的影響であるが、ヘッジホッグ発現と相関すると思われる他の一般的な前立腺の病気は、良性前立腺肥厚(BPH)である。
BPHは、中心前立腺の病気であり、前立腺尿道周囲の平滑筋の増大により特徴付けられる。興味深いことに、shhは、成体前立腺において、その中心域で最大に発現される勾配を有して発現される。加えて、shhは、消化管及び肺を含む他の組織において、平滑筋分化に関与している(Apelqvist等(1997) Current Biology 7:801-804;Pepicelli等(1998) Current Biology 8:1083-1086)。この証拠は、ヘッジホッグシグナリングを、BPHの原因論に関係する有力候補として同定した。最後に、shhの転写は、ジヒドロテストステロン(DHT)にさらすことにより増大される(Podlasek等、前出)。これは、5−アルファ−レダクターゼ(テストステロンをDHTに変換する酵素)の濃度がBPH間質において上昇しているので重要である(Wilkin等(1980) Acta Endocrinology 94:284-288)。このデータは、ヘッジホッグシグナリングの誤調節がBPHに関与しており、それ故、本発明がBPHの治療に対して有用性を与えることを示唆している。
BPHにおけるヘッジホッグシグナリング
ヒトのBPH試料におけるソニックヘッジホッグ及びgli−1の発現を試験した。図31及び32は、ヒトのBPH試料のイン・シトゥーハイブリダイゼーション分析を示しており、Shhとgli−1の両方がBPHにおいて豊富に発現されていることを示している。その上、図33は、Shhが、前立腺中で偏在的に発現されるのではなく、むしろ前立腺の近位中心域にヘッジホッグ及びptc−1転写物の両方の最高レベルを有する勾配で存在することを示している。
加えて、Q−RT−PCRにより、shh及びgli−1の発現を分析した。図34は、shhとgli−1の両方が、BPH試料において発現されることを示している。shhとgli−1の基底細胞癌(BCC)試料における発現を、比較のために与えてある。これらの結果は、gli−1が、BPH試料において、ヘッジホッグ経路の突然変異により引き起こされることが知られている型の癌で見出されるのと同様のレベルで発現されることを示している。最後に、図35は、shh及びgli−1のBPH細胞株における発現を示しており、発現を、BCC、前立腺癌細胞株及び正常な前立腺繊維芽細胞において認められたものと比較している。gli−1が、BPH細胞株とBCC試料の両方において同様のレベルで発現されるということに注意されたい。これらの結果は、BPHにおけるヘッジホッグシグナリングの役割を示唆しており、更に、ヘッジホッグシグナリングの拮抗が、BPH治療において重要な有用性を有することを示唆している。
方法:イン・シトゥーハイブリダイゼーション(図31及び33):パラホルムアルデヒド固定した組織を、30μmの切片に冷凍切片化し、プロテイナーゼKで消化し、ジゴキシゲニン標識したRNAプローブと一晩ハイブリダイズさせる。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション後洗浄の後に、切片を、アルカリホスファターゼで標識した抗ジゴキシゲニン抗体とインキュベートする。このシグナルを、アルカリホスファターゼと反応して紫色の沈殿を形成する市販の色原体溶液のBMパープルの添加により可視化する。
放射性イン・シトゥーハイブリダイゼーション(図32):簡単にいえば、パラホルムアルデヒド固定して、パラフィン包埋した大型基底細胞の島を含む組織の7mmの切片を洗浄し、再水和し、プロテイナーゼKで消化し、アセチル化して、33P標識したRNAプローブと一晩ハイブリダイズさせる。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション後洗浄の後に、スライドを、フォトエマルジョンに浸けて、暗黒中で、4℃で14日間インキュベートした。現像後に、スライドを、ヘマトキシリンとエオシンで対比染色し、暗視野照明法を用いて像を造った。暗視野イメージを赤色人工色に変換して、明視野イメージと重ね合わせた。Q−RT−PCR:試料をトリゾール(GIBCO-BRL)中に集めて、RNAを、製造業者のプロトコールに従って単離した。このRNAを、次いで、標準的プロトコールにより第一鎖cDNAに転写し、Perkin ElmerのABIプリズム7700シーケンス検出システム(TaqMan)及び遺伝子特異的プライマーを利用して増幅した。ハウスキーピング遺伝子GAPDHを利用して、RNA濃度及びPCR効率を標準化し、GAPDHプライマーを同反応物に加えた。両遺伝子のプローブを異なる蛍光体で標識したので、特異的シグナルとGAPDHのそれを同じ管内で検出することができる。シグナル強度を、Sequence Detector v1.7 (製造業者により提供されるソフトウェア)により与えられるアルゴリズムを利用して計算した。
実施例6:正常及び増殖過剰組織におけるヘッジホッグ発現の更なる分析
本発明の方法及び組成物が細胞の増殖、成長、分化又は生存の阻止において有用でありうる組織の範囲を更に評価するために、正常な及び癌様のヒト組織の範囲においてヘッジホッグ発現を分析した。発現を、ヘッジホッグmRNAのレベル(定量的RT−PCRを利用)とヘッジホッグタンパク質のレベル(免疫組織化学による)の両方で試験した。
図36は、様々なヒトの癌細胞株におけるソニックヘッジホッグ(shh)発現のQ−RT−PCR分析を示している。Shhの発現を、ヒトの大腸、肺、卵巣、腎臓及び肝臓の細胞株で検査したところ、これらの結果は、shhが、これらの組織の各々に由来する細胞株において変化する濃度で発現されることを示している。
図37は、継代された大腸、肺、***、メラノーマ、卵巣、前立腺、膵臓及び腎臓の腫瘍におけるshh発現のQ−RT−PCR分析を示している。これらの結果は、これらの組織の各々に由来する継代された腫瘍において、shhが変化するレベルで発現されることを示している。
試料中のshhRNAの発現は、ヘッジホッグシグナリングが細胞中で活性でありうることの証拠を与えるが、細胞におけるヘッジホッグタンパク質の発現を調べることによって、更なる情報を収集することができる。この問題を扱うために、ポリクローナル抗ヘッジホッグ一次抗体を利用する免疫組織化学を、正常な及び癌様のヒト組織試料の両方において実施した。図38は、ヘッジホッグタンパク質が、胃、前立腺、脾臓、小腸、大腸、胆嚢、腎臓及び虫垂を含む様々な起源から採取した正常なヒトの組織において発現されることを示している。ヘッジホッグ発現が、中胚葉又は内胚葉に由来する正常な成体組織で認められることに注目することは興味深いことである。
ヘッジホッグタンパク質の発現は、更に、ある範囲の組織から採取されたヒトの腫瘍においても認められた。図39及び40は、ヘッジホッグタンパク質が、唾液腺、食道、膵臓、甲状腺、結腸、子宮内膜、腎臓及び前立腺組織に由来する腫瘍において、免疫組織化学によって検出可能であることを示している。
これらの結果は、ヘッジホッグが、正常な及び増殖過剰組織の両方の広範囲の組織において、発現されることをmRNAレベル及びタンパク質レベルの両方で示している。所定の組織型について、正常組織と増殖過剰組織の間でのヘッジホッグ発現のレベルの差異を確認するには、更なる分析が必要である。かかる分析は、癌を含む増殖過剰状態における増大したヘッジホッグ発現の機構的役割のより一層の理解を与えることを助けるであろう。
方法:Q−RT−PCR:試料をTrizol(GIBCO-BRL)にて集めて、RNAを製造業者のプロトコールに従って単離した。次いで、そのRNAを、標準的プロトコールに従って第一鎖cDNAに転写し、Perkin ElmerのABI Prism 7700シーケンス検出システム(TaqMan)及び遺伝子特異的プライマーを利用して増幅した。ハウスキーピング遺伝子GAPDHを利用して、RNA濃度とPCR効率を標準化し、GAPDHプライマーを同反応液に加えた。両遺伝子のプローブは異なる蛍光体で標識されているので、特異的シグナルとGAPDHのそれを同じチューブ中で検出することができる。シグナル強度を、Sequence Detector v1.7(製造業者から提供されたソフトウェア)にて提供されたアルゴリズムを利用して計算した。
免疫組織化学:試料を採取して、標準的方法を利用して免疫組織化学のために処理した。試料を、一晩、ポリクローナルの抗ヘッジホッグ一次抗体とインキュベートした。
実施例7:ヘッジホッグシグナリングの大腸癌における拮抗性
腫瘍の成長は、増殖、血管形成、細胞死の阻止、及び多くの他の複雑な癌細胞と周囲の組織との間の相互作用を必要とする複雑な過程である。ヘッジホッグシグナリングが腫瘍の成長及び進行に影響を及ぼすことのできる更なる機構は、増殖、血管形成及び細胞死の阻止を増進させる因子の誘導によるものである。例えば、ソニックヘッジホッグは、繊維芽細胞においてVEGFを誘導することが示されている。従って、ヘッジホッグアンタゴニストの利用は、ヘッジホッグシグナリングが、腫瘍形成を促進する因子を誘導するのを防止し、それ故、腫瘍の形成又は進行を阻止することができる。
腫瘍細胞と周囲組織との間に存在することのありそうな複雑な相互作用を仮定して、我々は、2つのモデルを用いて、増殖過剰組織の増殖、成長、分化及び生存の阻止におけるヘッジホッグアンタゴニストの効果を分析してきた。第一のモデルにおいては、マウスに、ヘッジホッグ発現性の癌細胞と繊維芽細胞の組合せ物を注射して、ヘッジホッグアンタゴニストの、この混合腫瘍の成長に対する効果を経時的に調べる。第二のモデルにおいては、マウスに、予め繊維芽細胞と合わせてないヘッジホッグ発現性癌細胞を注射する。如何なる特定の理論に束縛されることも望まないが、両モデルは、腫瘍形成時に起きる複雑な相互作用を少なくともある程度再現するようである。混合腫瘍モデルにおいて、癌細胞と繊維芽細胞は、相互作用し、これは、多くの種類の癌の発生時に癌細胞と間質細胞が相互作用するのによく似ている。しかしながら、第二のモデルにおいては、周囲の内在性細胞が、注射されたヘッジホッグ発現性癌細胞に侵入して該細胞と相互作用するようであり、これは、混合腫瘍モデルと多くの型の癌の発生時の両方で起きる相互作用の再現に類似している。従って、何れのモデルを用いて得られた結果も、ヘッジホッグアンタゴニストの、増殖過剰細胞の増殖、成長、分化及び生存の阻止における利用と取り組むのを助ける。
モデルI:混合腫瘍モデル
このモデルを扱うのを助けるために、ヘッジホッグを発現する大腸癌細胞と繊維芽細胞の組合せを注射されたマウスにおいて腫瘍成長を阻止する拮抗性ヘッジホッグ抗体5E1の能力を研究した。2つの実験を行なって、ヘッジホッグを発現する大腸癌細胞を注射されたマウスにおける腫瘍寸法に対する5E1処理の効果を評価した。第一の実験においては、5E1又はPBS対照での処理を、腫瘍細胞の注射と同じ日に開始した。その結果は、図41及び42にまとめてあるが、5E1での処理が腫瘍の寸法、重量及び成長速度を、PBSで処理されたマウスと比較して、有意に減少させたことを示している(図41及び42)。この実験を、類似の性質を有する2つの別個の大腸癌細胞株を利用して行なった。
第二の実験において、5E1での処理は、腫瘍が11日間成長するまで遅らせた。その結果は、図43及び44にまとめてあるが、5E1での処理が、腫瘍の寸法及び成長速度を、対照用マウスと比較して、有意に減少させるということを示している(図43及び44)。この実験を、類似の性質を有する2つの別個の大腸癌細胞株を利用して行なった。
ヘッジホッグアンタゴニストの投与がイン・ビボで腫瘍の成長を阻止する機構を更に理解するために、TUNEL分析を、5E1又は対照用PBSで処理した混合腫瘍について行なった。図45は、HT−29/繊維芽細胞混合腫瘍中の細胞の少なくとも一部が、ヘッジホッグアンタゴニスト5E1の投与後に、アポトーシスにより死滅することを示している。この結果は、これらの増殖過剰細胞のヘッジホッグアンタゴニストでの処理が、イン・ビボで、この混合腫瘍の増殖、成長及び生存を阻止すること及びこの効果の少なくとも幾つかは、処理後の該混合腫瘍中の細胞のアポトーシスによる死によるものであることを示している。
これらの結果は、癌細胞の増殖と清澄の阻止におけるヘッジホッグアンタゴニストの有用性を示している。加えて、このモデルは、候補のヘッジホッグアンタゴニストの効力をイン・ビボで容易に評価する方法を提供する。
方法:実験1。20匹のヌードマウスに、106のHT−29細胞(Shhを発現する大腸癌細胞株)と106の10T1/2細胞(繊維芽細胞株)の組合せを、100μlの容積で皮下注射した。これらのマウスをランダムに2つの群に分けた。A群をPBSで処理し、B群を5E1で処理した。これらの処理を、癌細胞の注射と同じ日に開始した。処理を、腹腔内投与にて、週3回、30日間にわたって、6mg/kgの投与量で施与した。更に、この実験を、他のShh発現性大腸癌細胞株(Colo205)を利用する同じプロトコールで実施して、同様の結果を得た。
実験2 − 遅らせた投与。20匹のヌードマウスに、106のHT−29細胞(Shhを発現する大腸癌細胞株)と106の10T1/2細胞(繊維芽細胞株)の組合せを、100μlの容積で皮下注射した。これらのマウスをランダムに2つの群に分けた。A群をPBSで処理し、B群を5E1で処理した。腫瘍が11日間成長した後に、処理を開始した。かかる腫瘍は、約90〜210mm3の容積を有した。処理を、腹腔内投与にて、週3回、29日間にわたって(全腫瘍成長40日目まで)、6mg/kgの投与量で施与した。更に、この実験を、他のShh発現性大腸癌細胞株(Colo205)を利用する同じプロトコールで実施して、同様の結果を得た。
モデルII
類似の実験を行なって、HT−29細胞のみの移植に由来する腫瘍の成長、増殖及び生存の減少におけるヘッジホッグアンタゴニストの効力を評価した。ヘッジホッグを発現するHT−29大腸癌細胞を、上で詳述したように、ヌードマウスに皮下注射した。図46及び47は、ヘッジホッグアンタゴニスト5E1の遅延させた投与が、かかる腫瘍のイン・ビボでの成長を、対照用PBSで処理した腫瘍と比較して、有意に低減させることを示している。これらの結果と一致して、5E1での処理は又、これらの腫瘍におけるgli−1の発現をも、対照用PBSで処理した腫瘍と比較して、有意に低減させる(図48)。
上で詳述した2つのイン・ビボモデルを利用して得られた結果は、ヘッジホッグシグナリングの拮抗作用が、ヘッジホッグ発現性腫瘍の成長、増殖及び生存を有意に阻止することを示している。
方法:ヌードマウスに、106のHT−29細胞(Shhを発現する大腸癌細胞株)を、100μlの容積にて皮下注射した。これらのマウスをランダムに2つの群に分けた。A群をPBSで処理し、B群を5E1で処理した。腫瘍が11日間成長した後に、処理を開始した。処理を、腹腔内投与にて、週3回、50日間にわたって、6mg/kgの投与量で施与した。腫瘍の容積を、経時的に測定した。加えて、gli−1mRNAの発現も、PBS処理した腫瘍と5E1処理した腫瘍とにおいて、Q−RT−PCRによって分析した。
実施例8:膵臓癌におけるヘッジホッグシグナリングの拮抗性
我々は、以前に、ヘッジホッグmRNA及びタンパク質が、幾つかの膵臓癌細胞株並びにヒトの膵臓組織の初代培養試料において発現されることを示した。ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞株の存在を仮定して、我々は、ヘッジホッグシグナリングの拮抗性の、ヌードマウス中の異種移植片における膵臓癌細胞の成長、増殖及び生存を減少させる能力を試験した。ヘッジホッグ発現性の膀胱、前立腺及び大腸癌細胞株の異種移植片を用いて観察された結果と同様に、ヘッジホッグアンタゴニストの投与は、ヘッジホッグ発現性膵臓癌細胞の異種移植片により生成された腫瘍の大きさ及び生存を減少させる。
SW1990異種移植片
SW−1990は、ヘッジホッグ発現性膵管腺癌細胞株である。ヘッジホッグアンタゴニストの投与の膵臓腫瘍を治療する潜在的効力を評価するために、腫瘍を、ヌードマウスに、SW−1990細胞の皮下注射によって発生させた。これらの実験において、SW−1990細胞を、繊維芽細胞の非存在下で注射した。これらのSW−1990細胞を受けた動物を、2つの群に分割して、直ちに、ヘッジホッグブロッキング抗体5E1又はPBSを用いて治療を開始した。5E1を受けた動物は、2mg/kgの投与量で、毎週一回静脈投与を受けた。
ヘッジホッグアンタゴニスト5E1による治療の効果を、腫瘍の容積及び重量を測定することにより、並びに該腫瘍の視覚的診査によって評価した。興味深いことには、腫瘍容積は、炎症によって変化しやすく、それ故、視覚的分析及び腫瘍重量は、これらの腫瘍に対するヘッジホッグ拮抗性の効果の一層正確な尺度であるようである。
図49は、ブロッキング抗体5E1の投与が、SW1990異種移植片腫瘍の重量の有意の減少を生じることを示している。この5E1処理の効果は、該腫瘍の視覚的診査によって、最も劇的に関係している。図50は、5E1処理した腫瘍が、対照用腫瘍より小さいこと及び5E1処理した腫瘍が、広範囲の壊死領域を含むことを示している。SW1990異種移植片腫瘍の容積は、炎症のために変わりやすかったけれども、図51は、ヘッジホッグアンタゴニスト5E1の投与後の異種移植片腫瘍の減少する容積の全体的傾向を示している。
CF PAC 異種移植片
ヘッジホッグシグナリングの阻止がヘッジホッグ発現性の膵臓腫瘍の成長、増殖及び生存の阻害において効力を有することを示すこれらの結果を更に確認するために、類似の実験を、他のヘッジホッグ発現性膵臓腫瘍細胞株CF PACを用いて行なった。SW1990と同様に、CF PACは、ヘッジホッグを発現する膵管腺癌細胞株である。SW1990異種移植片を生成させて、ヘッジホッグアンタゴニスト5E1の該異種移植片における効力を試験したのと類似の方法を用いて実験を行なった。これらの2つの実験における唯一の違いは、5E1処理を、CF−PAC細胞の投与後約11日経つまで遅らせたことである。
ヘッジホッグアンタゴニスト5E1での処理の効果は、腫瘍の容積と重量を測定することにより評価した。興味深いことには、腫瘍の容積は、炎症によって変化しやすく、それ故、視覚的分析及び腫瘍重量は、これらの腫瘍に対するヘッジホッグ拮抗性の効果の一層正確な尺度であるようである。
図52は、ブロッキング抗体5E1の投与が、CF PAC異種移植片腫瘍の重量の有意の減少を生じることを示している。CF PAC異種移植片腫瘍の容積は炎症により変化しやすかったが、図53は、ヘッジホッグアンタゴニスト5E1の投与後の異種移植片腫瘍の減少する容積の全体的傾向を示している。
更なるヒトの癌例えばヒトの乳管腺癌、卵巣癌、子宮癌におけるヘッジホッグ発現を、図55に示してある。
実施例9:非ヘッジホッグ発現性癌細胞株
増殖過剰細胞の成長、増殖及び生存の調節におけるヘッジホッグシグナリングの拮抗性の効力を、ヘッジホッグを発現しない癌細胞株を利用して調べた。如何なる特定の理論にも束縛されるものではないが、ヘッジホッグシグナリングの拮抗性が、ヘッジホッグシグナリングが既に亢進している細胞の成長、増殖及び生存の調節において最も効果的であることはありうることである。かかる細胞には、例えば、ヘッジホッグシグナリング経路の成分に変異を含む細胞であって、該変異がヘッジホッグシグナリングのアクチベーターの機能亢進又はヘッジホッグシグナリングのレセプター(例えば、パッチト)の機能喪失の少なくとも一つを生じる当該細胞が含まれる。
SW−480は、ヘッジホッグを発現しない大腸腺癌細胞株である。SW−480細胞を、前述のように、ヌードマウスに皮下投与して、異種移植片を生成させた。これらのSW−480細胞の投与から約7日後に、5E1又は対照用PBSによる治療を開始した(遅らせた投与)。5E1処理した動物においては、2mg/kgの投与量で、毎週一回、静脈投与した。腫瘍の容積を、治療中、定期的に測定した。図54は、5E1の投与が、SW−480異種移植片における腫瘍容積に何らの効果も有しないらしいことを示している。
これらの実験結果は、更に、統制されていないヘッジホッグシグナリングが、増殖過剰細胞及び/又は不適当な細胞生存を生じうるということを強調している。これらの結果は、不適当なヘッジホッグシグナリングの阻害の、不適当な細胞の増殖、成長及び生存を阻止する方法として有用性を示している。これらの方法によって処理されうる病気の例には、様々な種類の癌が含まれるが、それらに限られない。
加えて、ヘッジホッグアンタゴニストが、ヘッジホッグを発現する細胞、又はヘッジホッグシグナリング経路が亢進している細胞の増殖、成長及び生存の調節において最も効果的であるという観察は、何れの病気及び何れの患者(例えば、何れの種類の癌)が、ヘッジホッグアンタゴニストを含む治療養生法に応答することが最もありそうかを予想する診断方法を示唆する。
実施例10:HHシグナリング成分のRNAiインヒビターのスクリーニング
前述の実験は、細胞増殖に対するヘッジホッグRNAiアンタゴニストの効果を試験するための、イン・ビトロとイン・ビボの両方のモデルを与える。これらのモデルは、RNAiアンタゴニストの範囲を、細胞の成長及び増殖を阻止する能力について試験するためのアッセイを提供する。かかるスクリーニングは、リードRNAi構築物を同定するための初期のアッセイにおいて利用することができ、候補のRNAiアンタゴニストの相対的効力を評価するためにも利用することができる。
この方法で分析することのできるRNAiアンタゴニスト剤は、ヘッジホッグシグナリングを、シグナル変換経路に沿った任意の点で邪魔することができる。例えば、好適なRNAiアンタゴニストは、ヘッジホッグ、パッチト−1又はスムースンドと相互作用することができる(単独又は組合せ)。更なる好適な薬剤は、gli−1、gli−2又はgli−3を含むヘッジホッグ経路の細胞内成分と相互作用することができる。
上記のイン・ビトロ及びイン・ビボの方法は、ここで明示的に記載した癌細胞株に特異的ではない。任意の細胞型又は細胞株を同様に試験することができ、これらの方法は、ヘッジホッグRNAiアンタゴニストの、他の種類の癌細胞の腫瘍の成長及び増殖を阻止する能力を評価するために容易に利用することができる。加えて、このイン・ビトロアッセイを用いて、他の非癌性の過剰増殖性の細胞型において、ヘッジホッグシグナリング及びヘッジホッグシグナリングをブロックするヘッジホッグRNAiアンタゴニストの能力を分析することができる。例えば、過剰増殖性疾患には、乾癬などの皮膚病を含む多くの他のクラスの疾患が含まれる。候補のヘッジホッグRNAiアンタゴニストの、これらの細胞型に対する効果は、ここに記載の方法を利用して容易に評価することができる。
実施例11.癌細胞株におけるShh発現のsiRNA阻害
下記の実験は、ある種のsiRNA構築物例えば、標的細胞にトランスフェクトされたプラスミドから転写された短いヘアピンsiRNA(shsiRNA)の効力及び特異性を示す。
ヒトShhの5つの潜在的なsiRNAアンタゴニストを、本明細書の教示に従ってデザインして、これらの5対の内の3対を最初の試験用に選択した。特に、これらの3つの選択したsiRNAアンタゴニストの各々については、2本の21塩基のポリリボヌクレオチド(RNA)オリゴマーを、5’−リン酸化され、脱塩され、脱保護されたRNAオリゴマー対としてオーダーして製造した(Dharmacon Research, Inc., コロラド、Lafayette在)。これらの3つのオリゴ対の配列は、下記の通りである:
次いで、これらのRNAオリゴマーを、10mM トリス−HCl(pH8.0)に、100μMの終濃度まで溶解させた。各siRNAアンタゴニストにつき、その後、2本のRNAオリゴマーの各々の10μLを混合して、ABI7700PCRマシンにおいて、PCRブロックを利用して非常にゆっくりとアニールさせた。
これらの3つのsiRNAアンタゴニストの効力を試験するために、HEK−293細胞の集密プレートを、1:3に分割して、24ウェルの組織培養プレート上にプレートした。最終的な細胞の密度は、約14,000細胞/ウェルであった。リポフェクタミンインフェクションを、製造業者の指示に従って行なった。詳細には、0.4μgのphShhFL(ヒトShhをコードするプラスミド「pcDNA3.1−hShh」)と0、20、100又は500pモルの各アニールしたShhsiRNAアンタゴニストとを、4μLの「Plus Reagent」を含む25μLの無血清DMEM(ペニシリン/ストレプトマイシンなし)中で15分間混合した。同時に、1μLのリポフェクタミンを、4μLの「Plus Reagent」を含む25μLの無血清DMEM(ペニシリン/ストレプトマイシンなし)中で15分間混合した。インキュベーションの最後に、これら2つの混合物を15分間合わせて、複合剤を形成した。HEK−293細胞の各ウェルにつき、培地を200μLの無血清DMEM(ペニシリン/ストレプトマイシンなし)に変えてから、該形成した複合剤を、それぞれの試験用ウェルに加えた。5%CO2の組織培養用インキュベーターで、37℃で、3時間インキュベートした後に、250μLの20%FEBを含むDMEM(ペニシリン/ストレプトマイシンなし)を各ウェルに加えた。次いで、これらの細胞のプレートをインキュベーターに戻した。約68時間のインキュベーションの後に、各ウェル中の細胞を、4%PFA/PASにて固定して、1:200希釈のウサギ抗Shh抗体及びCy3標識した抗ウサギ二次抗体により染色した。図2に示したこれらの結果は、siRNA#1が、最少量のsiRNA(20pモル)でさえ、トランスフェクトされた細胞においてShh発現を殆ど完全に阻害することを示した。siRNA#4の阻害効果は、実験誤差が、このsiRNAの単一実験に基づく効果が一層低いことの主な理由であるということを除外することはできないが、一層低く判断される。#5の阻害効果は、#1より僅かに低い。それ故、#1siRNAを、今後の実験に用いた。
次に、#1ShhsiRNAアンタゴニストの阻害効果の特異性を、2つの他の関連するHhタンパク質、Ihh及びDhhに対して試験した。詳細には、同じHEK−293細胞を、分割して、最終密度約14,000細胞/ウェルで24ウェル組織培養プレート中に播種した。同じリポフェクタミントランスフェクションを、下記の組合せの各々につき、上記のように行なった:
0.4μgpcDNA3.1−hShh+0、50又は250pモルsiRNA#1;
0.4μgpcDNA3.1−hIhh+0、50又は250pモルsiRNA#1;
0.4μgpcDNA3.1−hDhh+0、50又は250pモルsiRNA#1;及び、
0.4μgpcDNA3.1−hShh+250pモルsiRNA#1逆行鎖のみの対照。
これらの複合剤の各々とのインキュベーションの2時間後に、各トランスフェクションウェル中の培地を、実験の最後に一層健康な細胞を得る目的で、1mLの新鮮なDMEM(ペニシリン/ストレプトマイシンなし)+10%FEBと置き換えた。更に2日間インキュベートした後に、全細胞を上記のように固定して、H−160pan−Hhウサギポリクローナル抗体(Cat.No.sc−9024、Biotechnology, カリフォルニア、Santa Cruz在)及びCy3標識した抗ウサギ二次抗体で染色した。図3に示したこれらの結果は、Shhに対する#1siRNAが、非常にShhに特異的であり、明らかに、Ihh又はDhhの発現を阻害しなかったことを示した。この実験は又、50pモルの#1siRNAがヒトShhの発現を殆ど完全に阻止することをも確認した。加えて、負の対照の250pモルの逆行鎖のみの#1siRNAは、同じ条件下で、完全に無効であった。
トランスフェクトされた細胞における減少したHhmRNA転写を確認するために、HEK−293細胞を、6ウェル組織培養プレート中で(最終的播種密度は、約100,000細胞/ウェル)、上記と同様の方法を用いてトランスフェクトした(結果は、示してない)。
上記の方法により選択したsiRNAアンタゴニスト配列を、次いで、短いヘアピンsiRNA配列を導くために利用することができ、更に、それを、プラスミドベクター中にクローン化することができる。このプラスミドを安定に宿主細胞中にトランスフェクトして、安定な細胞株を樹立することができる。該樹立された安定な細胞株は、ヒトShh、又は任意の他のHHシグナリング成分に対するsiRNAを構成的に発現し又は発現を誘導することもできる。これらの安定な細胞株は、多くの目的のために非常に有用である。例えば、もし該安定な細胞株が、十分樹立された癌細胞株例えばHT−29に基づくものであるならば、それらを用いて、癌細胞の成長におけるHHシグナリングの減衰の効果を研究することができる。それらは又、イン・ビトロ研究、例えば、癌におけるHHを介するパラクリンシグナリングの理解のためのHH応答性繊維芽細胞との共培養における発現プロファイリングのためにも有用である。これらの安定な細胞株は又、該安定株を利用する異種移植動物モデルにおける他のHHインヒビター例えば5E1抗体の効率を評価するために利用することもできる。
ヒトShhの#1siRNAの誘導された短いヘアピン配列を有する一つのかかるプラスミドを構築して、HEK−293細胞を安定にトランスフェクトするために利用した。
簡単にいえば、ヒトShhの#1siRNA配列に基づいて、下記の短いヘアピンオリゴをデザインした:
これらのオリゴをTEに100μM ストックとして溶解させた。次いで、これらの2種のオリゴを1:1比で混合して、50μLの10μLストックを生成し、PCRブロックにて5分間100℃に加熱した。このPCRブロックを止めて、温度を約1時間にわたってゆっくりと40℃に低下させた。
このアニールしたオリゴを、pcDNA3.1−U6−ヒグロ(−)ベクター中のマルチクローニング部位(ApaI及びBamHI部位の間)に、標準的分子生物学技術を用いてサブクローン化した。この型のベクターは、関心ある配列をそのRNAポリメラーゼIII用のU6snRNAプロモーターから発現し、そのRNA転写物は、正確にトップ鎖の5’末端「cag」から開始して、3’末端のTTTT配列で正確に終止する(Paddison, Genes and Dev. 16:948-958, 2002)。その結果生成した一本鎖RNA転写物は、ステムループ構造又は短いヘアピン構造を形成し、そのヘアピンのステムは#1siRNAの配列とマッチする。異なる哺乳動物用の選択マーカー例えばゼオマイシン及びピューロマイシンを有する同様のベクターも又、利用可能である。
すべての刊行物、特許及び特許出願を、参考として、そっくりそのまま本明細書中に援用する(個々の刊行物、特許又は特許出願が個別に、そっくりそのまま参考として援用されると示されたのと同じ程度に)。
同等物
当業者は、ここに記載したこの発明の特定の具体例に対する多くの同等物を認識し、又は日常的実験によって確かめることができるであろう。かかる同等物も、後記の請求の範囲に包含されるものである。