以下、添付図面に従って、本発明に係るマイクロ科学装置及びその流体操作方法の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態におけるナンバリングアップタイプのマイクロ科学装置10の一例を説明する斜視図である。同図では、マイクロ科学装置10を構成する3つの要素を分解した様子を示す。図2は、上記の3つの要素を積層した状態を説明する上面図であり、図3は、図2におけるA−A’線及びB−B’線における各要素の断面図である。
図1に示されるように、本実施形態におけるマイクロ科学装置10は、少なくとも第1の溶液を供給するための第1の供給要素12と、第2の溶液を供給するための第2の供給要素14と、第1と第2の溶液を混合及び反応させるための合流要素16と、を備えている。マイクロ科学装置10は、少なくともこれらの各要素が一体に締結及び積層されて組み立てられる。組み立て方法としては、例えば、各要素の周辺部に円柱を貫通する図示しないボア(又は穴)を等間隔に設けて、各要素間をボルト及びナットで一体に締結する方法や、直接接合による方法や、接着剤等を用いて組み立てる方法等が挙げられる。
第1の供給要素12の合流要素16側とは反対面の中心に、厚さ方向に貫通していない円形の滞留部22が形成されている。(図3(a)参照)。この滞留部22から放射状に4本の供給流路22a、22b、22c、22dが設けられている。各供給流路22a、22b、22c、22dの端部は、それぞれ厚さ方向に貫通するボア23a、23b、23c、23dと連通している。ボア23a、23b、23c、23dは、第2の供給要素にも同様に設けられ、厚さ方向に貫通している。
各供給流路22a、22b、22c、22dの断面形状は、矩形でも円形(半円形も含む)でもよく、特に限定されない。流路断面積は、特に規定しないが、層流を形成できる範囲であることが、系の安定性の観点から好ましい。層流を形成できる条件としては、通常、等価直径2mm以下、好ましくは600μm以下が好ましい。また、分岐する供給流路の数も本実施形態では4本としたが、2〜3本、又は5本以上でもよく、特に限定されない。
第2の供給要素14には、厚さ方向に貫通する貫通穴24が中心部に設けられている(図3(b)参照)。この貫通穴24から放射状に、厚さ方向に貫通しない4本の供給流路24a、24b、24c、24dが設けられている。
第2の供給要素14に設けられた4本の供給流路24a、24b、24c、24dは、第1の供給要素と積層したときに、第1の供給要素12に設けられた4本の供給流路22a、22b、22c、22dと重ならないように形成されている。各供給流路24a、24b、24c、24dの端部は、それぞれ厚さ方向に貫通するボア25a、25b、25c、25dと連通している。なお、各供給流路の断面形状、断面積、及び分岐する供給流路の数等は、既述したものと同様である。
合流要素16は、第1の供給要素12のボア23a、23b、23c、23dと連通、する流路26a、26b、26c、26dと、第2の供給要素14のボア25a、25b、25c、25dと連通する流路28a、28b、28c、28dと、をそれぞれ合流させるための混合流路30a、30b、30c、30dが形成されている。各混合流路の端部に、厚さ方向に貫通するボア32a、32b、32c、32dが形成されており、それぞれ図示しない排出口に連通するように構成される。
また、合流要素16の中心部には、第2の供給要素14と積層したときに、貫通穴24と重なり連通するように貫通穴24が形成されている。これにより、図示しない供給口より第2の溶液を合流要素16の貫通穴24から取込むことができる。
マイクロ科学装置10を構成する部材の材質としては、強度が高く、腐食防止性があり、原料流体の流動性を高くするものが好ましい。例えば、金属(鉄、アルミ、ステンレス鋼、チタン、その他の各種金属)、樹脂(フッ素樹脂、アクリル樹脂等)、ガラス(石英等)、セラミックス(シリコン等)などが好ましく使用できる。
マイクロ科学装置10を製作するには、微細加工技術が適用される。適用可能な微細加工技術としては、例えば、一部既述したように、X線リソグラフィを用いるLIGA(Roentgen−Lithographie Galvanik Abformung)技術、EPON SU−8(商品名)を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM(Micro Electro Discharge Machining))、Deep RIE(Reactive Ion Etching)によるシリコンの高アスペクト比加工法、Hot Emboss加工法、光造形法、レーザー加工法、イオンビーム加工法、及びダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法等がある。これらの技術を単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好ましい微細加工技術は、X線リソグラフィを用いるLIGA技術、EPON SU−8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法、マイクロ放電加工法(μ−EDM)、及び機械的マイクロ切削加工法である。
要素間や部材間の接合方法は、高温加熱による材料の変質や変形による流路等の破壊を伴わず、寸法精度を保った精密な方法が望ましく、製作材料との関係から固相接合(例えば圧接接合や拡散接合等)や液相接合(例えば、溶接、共晶接合、はんだ付け、接着等)を選択することが好ましい。例えば、材料にシリコンを使用する場合にシリコン同士を接合するシリコン直接接合や、ガラス同士を接合する融接、シリコンとガラスを接合する陽極接合、金属同士を接合する拡散接合等が挙げられる。セラミックスの接合については、金属のようなメカニカルなシール技術以外の接合技術が必要であり、アルミナに対してglass solderなる接合剤をスクリーン印刷で、80μm程度の膜厚に印刷し、圧力をかけずに440〜500℃で熱処理する方法がある。また、新しい技術として、表面活性化接合、水素結合を用いた直接接合、HF(フッ化水素)水溶液を用いた接合等がある。
このようなマイクロ科学装置10において、図4に示されるように、第1の溶液が、図示しない第1の供給口から第1の供給要素における滞留部22へ供給される(太い破線矢印)。第1の溶液は、4つに分割されて4本の供給流路22a、22b、22c、22dを流れた後、ボア23a、23b、23c、23dを流れる。その後、第2の供給要素に設けられたボア23a’、23b’、23c’、23d’を流れた後、合流部材16において、ボア23a’、23b’、23c’、23d’の開口部と連通する合流要素16の流路26a、26b、26c、26dに到達する。
これと同様に、第2の溶液は、図示しない第2の供給口から第1の溶液の流れる方向とは逆方向に、合流要素16における貫通穴24を介して、第2の供給要素における貫通穴24へ供給される。次いで、第2の溶液は4つに分割されて4本の供給流路24a、24b、24c、24dを流れた後、ボア25a、25b、25c、25dを流れる。そして、合流部材16において、ボア25a、25b、25c、25dの開口部と連通する合流要素16の流路28a、28b、28c、28dに到達する(細い破線矢印)。
合流要素16に形成された4つの混合流路30a、30b、30c、30dにおいて、上記のようにそれぞれ供給された第1の溶液と第2の溶液が合流して混合又は反応する。その後、反応生成物を含む溶液は、排出流路32a、32b、32c、32dを流れて、図示しない排出口より外部へ回収される(実線矢印)。
このようなナンバリングアップタイプのマイクロ科学装置10において、第1、2の溶液をより均一に混合及び反応させるためには、分岐部の流路における流動抵抗(圧力損失)を増加させることが好ましい(図4において、○で図示した箇所参照)。その一方で、流路内の気泡を抜いたり、洗浄したりする場合は、流動抵抗を低減させることが好ましい。そこで、流路における流動抵抗を可変にする流動抵抗可変手段を設けるようにしたことが本発明の特徴である。
以下、断面積が矩形である微細流路に分岐する分岐構造流路に、流動抵抗可変手段を設けた例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図5は、本発明に係る流動抵抗可変手段40の一例を説明する図である。このうち、図5(a)は板ばね34であり、図5(b)は、図5(a)の板ばね34を供給流路22aに適用したときの断面図である。
図5(b)に示されるように、流動抵抗可変手段40は、主に、供給流路22a内に設けられた板ばね34(変位部材)と、板ばね34に接するように供給流路22a内壁面に設けられた形状記憶合金36(作用部材)と、形状記憶合金36の温度制御を行うためのヒータ38(制御手段)と、を備えている。
板ばね34は、形状記憶合金36の変位を受けて、供給流路22aの内側に伸縮する弾性体であり、公知公用の板ばね又はゴム部材等の各種弾性体が使用できる。
形状記憶合金36は、ヒータ38により制御される温度による作用で変形する金属である。形状記憶合金36の材質としては、Ni-Ti、Fe-Mn-Si、Cu-Zn-Al合金系を使用できるが、耐食性の高いものがより好適に使用できる。
ヒータ38は、温度変化によって形状記憶合金36の変位量を制御するための温度制御手段である。ヒータ38は、形状記憶合金36に伝熱させやすいように設けられることが好ましく、例えば、形状記憶合金36に接するように設けられることがより好ましいが、間接的に伝熱可能に構成されてもよい。
温度制御手段としては、ヒータ38のほか、各種公知公用のヒータが使用できる。
このような流動抵抗可変手段40は、第1の供給要素における滞留部22から分岐した直後の各供給流路22a、22b、22c、22dや、第2の供給要素における貫通穴24から分岐した直後の各供給流路24a、24b、24c、24dに形成されることが好ましい。
本実施形態では、対向する内壁面に2つの流動抵抗可変手段40を設ける例を示したが、1つだけ設けてもよいし、複数設けてもよい。また、本実施形態では、板バネは、形状記憶合金に対し、フック状に固定しているが、これに限定されることはなく、板バネの復元力を利用して、摩擦力で固定してもよい。また、板バネの形状から断面形状が円形の流路でも使用は可能であるが、断面形状が矩形の流路で使用する方がより好ましい。
次に、本発明の流動抵抗可変手段40の作用について説明する。
溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、例えば、ヒータ38の温度を所定温度以上に上昇させる。ヒータ38の温度上昇に伴い、形状記憶合金36が所定の温度以上になると、一定の形状を復元するように作用する。この形状記憶合金36の作用により、流路断面積を小さくするように板ばね34が変形する。これにより、流動抵抗は増加し、分岐する流路において均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、ヒータ38の温度を下げることにより、形状記憶合金36が作用を受けて一定の形状から変形する。この作用を受けて、板ばね34が流路断面積を大きくするように変形する。これにより、流動抵抗を低減でき、洗浄性を向上させることができる。
なお、上記は作用の一例であり、形状記憶合金36の材質や特性に合わせた温度制御を行うことが必要である。
このように、本実施形態のようなナンバリングアップタイプのマイクロ科学装置10において、流動抵抗を可変にできるので、単位時間当たりの処理量を増加させ且つ得られる生成物を各流路から均等に得ることができる。さらに、流路内に気泡や目詰まりが生じた場合、又は使用後に流路内を洗浄する場合等に、高流量で送液することができるので、洗浄効率を向上できる。したがって、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性、流路内の気泡除去や洗浄性を向上できる。
次に、本発明に係る流動抵抗可変手段40の変形例について説明する。図6〜9、及び図12、13は、本発明に係る流動抵抗可変手段の変形例を説明する断面図である。このうち、図6は、流動抵抗可変手段40の第二実施形態であり、図7は、流動抵抗可変手段40の第三実施形態であり、図8は、流動抵抗可変手段40の第四実施形態であり、図9は、流動抵抗可変手段40の第五実施形態であり、図12は、流動抵抗可変手段40の第六実施形態であり、図13は、流動抵抗可変手段40の第七実施形態である。なお、各図において、同一の部材や機能を有するものは、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図6は、流動抵抗可変手段40の第二実施形態を説明する断面図である。図6の流動抵抗可変手段40は、主に、低温に変態点を持つ形状記憶合金44aと高温に変態点を持つ形状記憶合金44bとを張り合わせた変位部材44と、変位部材44の温度を制御するためのヒータ38(温度制御手段)と、を備えている。
形状記憶合金44a及び形状記憶合金44bの種類や温度制御手段38については、第一実施形態の流動抵抗可変手段40と同様のものを使用できる。
変位部材44は、形状記憶合金44aと形状記憶合金44bとを張り合わせて構成されている。これにより、温度制御手段38により形状記憶合金44b及び形状記憶合金44aの反り量を制御することができる。
この変位部材44は、まず成膜により流路22aの表面に形状記憶合金44bを形成し、高温にして結晶構造を安定化させた後に形状記憶合金44bの変形部分に相当する流路22aの内壁部分をエッチングにより除去する。その後、低温で形状記憶合金44bを流路内側に向けて変形させ、その変形を維持したまま形状記憶合金44aを成膜により形状記憶合金44bの上に積層させ、高温にして形状記憶合金44bの結晶構造を安定化させる。
このようにして作製した変位部材44に熱を加えると、形状記憶合金44bは元の形に戻ろうとし、形状記憶合金44aは超弾性の性質により、形状記憶合金44bに引っ張られる形で変形する。また、低温では形状記憶合金44bの形状記憶効果が解かれ、形状記憶合金44aの流路内側への変形に引っ張られて形状記憶合金44bも変形し、流路を絞る役割を果たす。従って、形状記憶合金44aの材質としては形状記憶合金44bの合金よりも変態点が低く、さらに室温よりも変態点の低い合金(例えばNi-Ti-Co合金等)がより好ましい。
本実施形態の流動抵抗可変手段40の作用について説明する。溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、既述した第一実施形態と同様に、ヒータ38の温度を所定温度以上に上昇させて、形状記憶合金44bと形状記憶合金44aの作用により変位部材44を撓ませる。これにより、流路断面積を低減させることができ、分岐構造流路等において溶液を均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、ヒータ38の温度を下げて、形状記憶合金44b及び形状記憶合金44aを、温度及び流路内を流れる流体の力により変形させて縮める。これにより、流動抵抗を低減でき、洗浄性を向上させることができる。
このように、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性を向上できる。
なお、上記は作用の一例であり、形状記憶合金44bや形状記憶合金44aの材質や特性に合わせた温度制御を行うことが必要である。
図7は、流動抵抗可変手段40の第三実施形態を説明する断面図である。図7の流動抵抗可変手段40は、主に、供給流路22aの内壁面に設けられた弾性体54(変位部材)と、弾性体54の表面に形成された磁性体56(作用部材)と、磁性体56に印加する磁場を制御するためのコイル48(磁場制御手段)と、を備えている。
弾性体54は、内部にばねが設けられており、その表面が弾性体膜で覆われている。このような弾性体54としては、これに限定されることはなく、ゴムのように弾性を有する部材であれば特に限定されない。弾性体膜の材質としては、フッ素系樹脂、シリコン等が使用できるが、耐食性の高いものがより好適に使用できる。
弾性体54の表面には、磁性体56が形成されている。この磁性体56は、コイル48に電流を流すことで磁場を調節し、この磁場の強さにより変位量が変化する。磁性体56の材質としては、フェライト系(酸化鉄)、SmCo系、Nd-Fe-B系等が使用できる。
磁場制御手段としては、コイル48に流す電流を調節する方法等が挙げられるが、磁場の強さを調節しながら印加できるものであれば、その他の手段でもよい。
本実施形態の流動抵抗可変手段40の作用について説明する。溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、コイル48に流す電流値を制御して磁場の強さを調節する。コイル48に発生する磁場の強さの変化に伴い、磁性体56を所定量だけ変位させて、流路断面積を小さくするように弾性体54を伸縮させる(図7の矢印c)。これにより、流動抵抗を増加させることができ、分岐構造流路において溶液を均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、コイル48に流す電流値を制御して磁場の強さを調節する。コイル48に発生する磁場の強さの変化に伴い、磁性体56を所定量だけ変位させて、流路断面積を大きくするように弾性体54を伸縮させる(図7の矢印d)。これにより、流動抵抗を低減させることができ、洗浄性を向上させることができる。
このように、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性を向上できる。
図8は、流動抵抗可変手段40の第四実施形態を説明する断面図である。図8の流動抵抗可変手段40は、主に、供給流路22aの内壁面に設けられた板状又は棒状のレバー64(変位部材)と、レバー64の先端に形成された磁性体56(作用部材)と、磁性体56に印加する磁場を制御するためのコイル48(磁場制御手段)と、を備えている。
レバー64は、支点62をもとにして可動に設けられている。レバー64の材質としては、シリコン、フッ素系樹脂等が好ましく使用でき、耐食性の高いものがより好ましく使用できる。
支点62と反対側のレバー64の先端には、磁性体56が形成されている。磁性体56の材質や磁場制御手段については、第三実施形態と同様のものが使用できる。
本実施形態の流動抵抗可変手段40の作用について説明する。溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、溶液を均一に分配するときは、既述した第三実施形態と同様に、コイル48に流す電流値を制御して磁場の強さを調節し、磁性体56を作用させて流路断面積を小さくするように支点62を軸にレバー64を移動させる(図8の矢印c)。これにより、流動抵抗を増加させることができ、分岐構造流路において溶液を均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、コイル48に流す電流値を制御して磁場の強さを調節し、磁性体56を作用させて、流路断面積を大きくするように支点62を軸にレバー64を移動させる(図8の矢印d)。これにより、流動抵抗を低減させることができ、洗浄性を向上させることができる。
このように、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性、流路内の気泡除去や洗浄性を向上できる。
図9は、流動抵抗可変手段40の第五実施形態を説明する断面図である。図9の流動抵抗可変手段40は、主に、供給流路22aの内壁面に設けられた板状又は棒状のレバー64(変位部材)と、レバー64と流路内壁面との間に設けられた圧電素子66(作用部材)と、を備えている。
圧電素子66は、圧電体に加えられた電圧を力に変換する、圧電効果を利用した受動素子の一つである。圧電体を2枚の電極で挟んだ素子を基本として各種の構造を有しているものを使用できる。上記圧電素子66としては、特定の周波数で振動振幅が最も大きくなるものが多く、設計や仕様に応じて材料を選択することが好ましい。
この圧電素子66が面内で伸縮すると、貼り合わせた金属板の寸法に反りが生じ、変位するようになる。圧電素子66に加える電圧を制御することで、発生する振動や変位を利用することができる。
上記圧電素子66の好ましい材料としては、PLZTセラミックスが挙げられる。PLZTセラミックスとは、チタン酸鉛とジルコン酸鉛の化合物に酸化ランタンを添加して焼結させたチタン酸ジルコン酸ランタン鉛のことで、セラミックス多結晶体であり、圧電材料の一種である。このPLZTセラミックスの両端に電極を作成し、分極処理を施したものをPLZT素子として使用できる。波長が365nm程度の紫外光を、この素子の側面に照射すると素子は光起電力効果で分極方向に内部起電流を発生し、その結果、電荷が電極に蓄えられることで発生する高電圧の圧電効果で機械的歪みが生じる(光歪効果)。
この光起電力効果によって発生する電圧は電極間の距離である素子の高さで決定される。また、光起電流は照射光の光強度に比例する。
圧電素子66の電圧を制御するための図示しない光照射制御手段が、流路近傍に形成されることが好ましい。
レバー64の材質については、第四実施形態と同様のものが使用できる。
本実施形態の流動抵抗可変手段40の作用について説明する。溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、図示しない電圧制御手段を制御して圧電素子66にかける電圧を調節し、この圧電素子66を作用させて流路断面積を小さくするように支点62を軸にレバー64を移動させる(図9の矢印c)。これにより、流動抵抗を増加させることができ、分岐構造流路において溶液を均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、図示しない電圧制御手段を制御して圧電素子66にかける電圧を調節し、この圧電素子66を作用させて流路断面積を大きくするように支点62を軸にレバー64を移動させる(図9の矢印d)。これにより、流動抵抗を低減させることができ、洗浄性を向上させることができる。
このように、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性、流路内の気泡除去や洗浄性を向上できる。
尚、本実施形態では、圧電素子66に印加する電圧をアナログ的に調節することで、レバー64の変位量を無段階で調節可能に構成したが、流路の所定領域の内壁面に圧電素子を格子状に成膜し、デジタル的に変位量を制御することもできる。
図10は、デジタル制御が可能な流動抵抗可変手段40を備えた流路を説明する斜視図である。図11(a)は、図10における矢印A方向からみた流路の正面図であり、図11(b)は、図10における矢印B方向からみた流路の上面図である。
図10に示されるように、流路22aの内壁面は単位格子状に分割されている。圧電素子は、半導体プロセス技術を応用して、流路22aの内壁面に格子状に成膜され、同時に圧電素子66への配線も形成される。このようにして構成した圧電素子66は、配線を介して図示しない制御用集積回路に接続されている。そして、コンピュータ制御により各圧電素子66の電圧をON/OFF制御することにより、デジタル的に制御することができる。
例えば、図11に示されるように、必要な場所の必要な単位数だけ圧電素子66…を流路22a内に突出させることができる。これにより、圧電素子66の変移量をアナログ的に制御しなくても、流路22aの体積を段階的に変化させることができ、圧力損失を細かく制御することが可能となる。
図12は、流動抵抗可変手段40の第六実施形態を説明する断面図である。図12の流動抵抗可変手段40は、主に、供給流路22aの内壁面に出没又は沈没可能に設けられたマイクロメータ74(変位部材)と、マイクロメータ74の回転量を制御する回転量制御手段78と、を備えている。
マイクロメータ74は、精密なねじ機構を利用して、ねじの回転角に変位を置き換えることにより、精密な変位量の調節が可能となっている。このように、マイクロメータ74の回転量を調節することで、流路22aの内部への出没量を調節できる。逆に、流路22aよりも沈没させることで流路22aの断面積を増加させて、流動抵抗を低減させることもできる。
このようなマイクロメータ74としては、公知公用のものが使用できる。また、マイクロメータ74を外部入力に応じて回転量を制御する回転量制御手段78を設けていることが好ましいが、手動で回転量を調節してもよい。
本実施形態の流動抵抗可変手段40の作用について説明する。溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、回転量制御手段78を制御するか、又は手動でマイクロメータ74の回転量を調節して、マイクロメータ74を流路内に出没させる(図12の矢印c)。これにより、流動抵抗を増加させることができ、分岐構造流路において溶液を均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、回転量制御手段78を制御するか、又は手動でマイクロメータ74の回転量を調節して、マイクロメータ74の出没量を低減させたり、流路の内壁面よりも沈没させたりする(図12の矢印d)。これにより、流動抵抗を低減させることができ、洗浄性を向上させることができる。
このように、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性、流路内の気泡除去や洗浄性を向上できる。
図13は、流動抵抗可変手段40の第七実施形態を説明する断面図である。図13の流動抵抗可変手段40は、主に、温度、電圧、電流等の制御を行う制御手段88と、制御手段88により作用を受ける作用部材76と、作用部材76の作用により変位する弾性体84(変位部材)と、を備えている。
温度、電圧、電流等の制御を行う制御手段88、及び制御手段88により作用を受ける作用部材76としては、既述したものと同様のものが使用できる。例えば、制御手段88としては、ヒータ等の温度制御手段、電圧印加装置、コイル等の磁場制御手段等が使用できる。また、作用部材76としては、形状記憶合金や圧電素子、磁性体等が使用できる。
弾性体84としては、作用部材76の作用を受けて壁部材75を伸縮させるように構成されている。弾性体84は、例えば、第1の供給要素12などに固定される。
壁部材75、75は、作用部材76及び弾性体84の伸縮に伴い、矢印方向に伸縮可能に設けられている。また、流路22aと壁部材75との間の領域77には、疎水化処理又は親水化処理されたり、流路22aの内壁面とは異なる材質や粗さに調整されたりすることが好ましい。
また、図13に示されるように、流動抵抗可変手段40には、流路22aから溶液等を回収するための回収管73が設けられることが好ましい。これにより、流路22a内を漏らした溶液を流路22a外へ回収し、再利用することができる。
本実施形態の流動抵抗可変手段40の作用について、作用部材76が圧電素子である例で説明する。溶液を均一に分配する場合や流量を減らす場合は、例えば、制御手段88を制御して圧電素子76にかける電圧を調節する。この圧電素子76の作用により、対向する壁部材75、75を変位させる(図13の矢印c)。これにより、疎水性領域77が増加し、流動抵抗を増加させることができる。したがって、分岐構造流路において溶液を均一に分配することができる。
また、混合及び反応の途中又は終了後に、流路内の気泡や目詰まり等を除去する場合は、圧電素子66にかける電圧を調節し、この圧電素子66を作用により、対向する壁部材75、75を変位させる(図13の矢印d)。これにより、疎水性領域77が減少し、流動抵抗を低減させることができる。したがって、洗浄性を向上させることができる。
なお、余分な溶液等を回収管73より回収することができるので、よりスムーズに流動抵抗を切り換えることができる。
このように、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性、流路内の気泡除去や洗浄性を向上できる。
次に、本発明に係る流動抵抗可変手段40が適用できるマイクロ科学装置の他の実施形態について説明する。図14は、平板状の基板上に設けられた分岐構造流路を有するマイクロ科学装置の一要素42を説明する上面図である。
図14のマイクロ科学装置の一要素42において、図示しない供給口から第1の流路51Aが延び、分岐位置52で第1の流路51Aに対して直角な第2の流路53Aが左右方向に枝分かれし、この枝分かれした第2の流路53Aから互いに平行な複数の第3の流路55Aがそれぞれの図示しない混合部まで延びている。これにより、分岐構造流路57が形成される。
ここで、第1の流路51A、第2の流路53A、及び複数の第3の流路55Aの断面形状は、矩形でも半円形でもよく、特に限定されない。また、複数の第3の流路55Aは、等価直径2mm以下が好ましく、0.6μm以下がより好ましい。また、第1の流路51A、第2の流路53Aは、等価直径6mm以下が好ましい。
図14で示されるように、分岐構造流路57を構成する第3の流路55Aにはそれぞれ、図示しない供給口からサンプル液の流量を均等に分配するための流動抵抗可変手段40がそれぞれ設けられている(例えば、○で囲んだ箇所)。この流動抵抗可変手段40としては、既述した第一〜七実施形態のものを好適に使用することができる。
図14において、例えば、第3の流路55Aに設けられた各流動抵抗可変手段40は、分岐位置52から図示しない下流側の混合部までの流路長が長くなるに従って、流動抵抗可変手段40の絞り量が小さくなるように設定される。これにより、分岐位置52から図示しない混合部までの流路長が長いほどサンプル液が流れ易くなる。したがって、それぞれの流動抵抗可変手段40の絞り量を適切に調整することで、図示しない供給口から各混合部へ流れるサンプル液の流量を均等に分配することができる。
本実施形態では、1本の流路から8本の流路に分岐する分岐構造流路の例について説明したが、分岐数はこれに限定されるものではない。
以上に説明した本発明に係るマイクロ科学装置及びその流体操作方法(第一〜第七実施形態)によれば、状況に応じてフレキシブルに微細な流路内の流体の流通状態を制御することができ、ナンバリングアップにおける反応流体の均一分配性、流路内の気泡除去や洗浄性を向上できる。また、ナンバリングアップによって単位時間あたりの処理量を増加させることができる。
以上、本発明に係るマイクロ科学装置及びその流体操作方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
例えば、流動抵抗を変化させる場合として、本実施形態では、分岐構造流路において溶液を均一に分配したり、流路内に反応生成物等による目詰まりや気泡が滞留したりする場合について説明したが、これらに限定されない。例えば、複数の反応溶液の混合比を調整する場合等、流量や流速の調節が必要な場合はいずれも本発明が適用可能である。
また、本実施形態の流動抵抗可変手段40としては、主に、アナログ的に制御する例について説明したが、第三実施形態と同様に、いずれの実施形態においても弾性体を単位格子ごとに流路内壁面に設けて、デジタル的に制御してもよい。
また、本実施形態の流動抵抗可変手段40としては、主に、変位部材を制御することで流路断面積を変化させる例について説明したが、これに限定されない。例えば、流路の内壁面の材料物性(例えば、表面粗さ、親水性、撥水性等)が異なるダミー流路に切り換えることで流動抵抗を変化させたり、流路内を流れる溶液に磁場や電場を印加したり、加熱又は冷却することにより溶液の物性(粘度、粒度等)を変化させたりする方法も採用できる。
また、各種マイクロ科学装置において、反応生成物の物性(例えば、粒子径、粒度分布、粘度、分散性等)を測定する測定部を設けて、その測定結果に基づいて各流路に設けられた制御手段により、流動抵抗可変手段40の変位量を制御するようにシステムを構築することも可能である。
また、本発明に係る流動抵抗可変手段は、各種混合及び反応装置、各種分析装置等に適用可能である。例えば、各種塗料、インクジェット用インク、電子写真用トナー、カラーフィルタ等の顔料微粒子や磁性粒子等の微粒子を製造する微粒子製造装置や積層型燃料電池等の反応装置及びその流体操作方法に適用可能である。
10…マイクロ科学装置、12…第1の供給要素、14…第2の供給要素、16…合流要素、22…滞留部、24…貫通穴、22a、22b、22c、22d…(第1の供給要素における)供給流路、24a、24b、24c、24d…(第2の供給要素における)供給流路、23a、23b、23c、23d…ボア(第1の供給要素)、23a’、23b’、23c’、23d’…ボア(第2の供給要素)、25a、25b、25c、25d…ボア(第2の供給要素)、26a、26b、26c、26d…流路(L1)、28a、28b、28c、28d…流路(L2)、30a、30b、30c、30d…混合流路(合流要素)、42…マイクロ科学装置(他の実施形態)の要素、40…流動抵抗可変手段、34…板ばね(変位部材)、44…変位部材、44a…形状記憶合金、44b…形状記憶合金、54、84…弾性体(変位部材)、64…レバー(変位部材)、74…マイクロメータ、36、46…形状記憶合金(作用部材)、56…磁性体(作用部材)、66…圧電素子(作用部材)、76…作用部材、38…ヒータ(温度制御手段)、48…コイル(磁場制御手段)、78…回転量制御手段、88…制御手段、75…壁部材、57…分岐構造流路、51A、53A、55A…流路、52…分岐位置