本発明の一実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる焙煎装置100の概略構成を示すブロック図である。この図に示すように、本実施形態にかかる焙煎装置100は、蒸気発生装置200、過熱蒸気発生装置300、焙煎機400、排気サイクロン500を備えている。
蒸気発生装置200は、外部から供給される水を加熱し、飽和蒸気(飽和水蒸気)を発生させて過熱蒸気発生装置300に供給するものである。蒸気発生装置200としては、例えば従来から公知のボイラーなどを用いることができる。
過熱蒸気発生装置300は、蒸気発生装置200から供給される飽和蒸気をさらに加熱して過熱蒸気(過熱水蒸気)を発生させ、焙煎機400に供給するものである。この過熱蒸気発生装置300は、IH電磁誘導原理(インバーターによる高周波電流を用いたIH過熱方式)を応用したものであり、過熱蒸気を発生させるタンクの大きさが外径120mm、長さ250mmというコンパクトな形状でありながら、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜200kg/h生成できる。なお、過熱蒸気発生装置300の詳細については後述する。
焙煎機400は、投入されたコーヒー豆(焙煎対象物)を過熱蒸気発生装置300から供給される過熱蒸気を用いて焙煎するものである。詳細については後述するが、焙煎機400は、半密閉式の回転ドラムを内蔵した焙煎室を備えており、この焙煎室内に過熱蒸気発生装置300から供給される過熱蒸気を噴射することにより、回転ドラム内に投入(バッチ供給)されたコーヒー豆を過熱蒸気と接触させるようになっている。なお、回転ドラムの容量は0.02m3であり、焙煎装置100では一度に5kgのコーヒー豆を焙煎できるようになっている。つまり、過熱蒸気発生装置300に備えられるタンク(過熱タンク)の容量は、回転ドラムの容量よりも小さくなっている。
排気サイクロン500は、焙煎機400からの排気を旋回させ、遠心力および重力によってチャフ等のゴミや凝縮水と排気とを分離するものである。
(1.過熱蒸気発生装置300の構成)
図2は、過熱蒸気発生装置300の断面図である。この図に示すように、過熱蒸気発生装置300は、蒸気供給管3から供給された蒸気を過熱蒸気排出管5へと通過させる過熱蒸気発生装置のタンク1と、タンク1内に設けられた金属板(磁性部材)11と、磁性球体(磁性部材)13と、タンク1の周辺を巻き込むように配置された高周波コイル21とを備えている。
タンク1は、ステンレススチール403(SUS403)あるいは430(SUS430)などの金属からなる筒体(外壁)2の一端部に蒸気供給管3を耐熱性のパッキン7を介して接続され、フランジ4で固定されており、筒体2の他端部に過熱蒸気排出管5を耐熱性のパッキン7を介して接続され、フランジ6で固定された構成である。耐熱性のパッキン7としては、例えば耐熱ゴムパッキンやメタルパッキンを使用できる。なお、タンク1の筒体2の大きさは、外径120mm、長さ250mmである。ただし、タンク1の大きさはこれに限るものではなく、適宜変更してもよい。
なお、図2に矢印で示すように、蒸気発生装置200からの飽和蒸気が蒸気供給管3に供給され、過熱蒸気発生装置300で発生した過熱蒸気が過熱蒸気排出管5から焙煎機400へ供給されるようになっている。つまり、過熱蒸気排出管5の先端は、焙煎機400に臨ませて過熱蒸気の温度が低下しないように設けられている。なお、蒸気発生装置200と過熱蒸気発生装置300との間、および過熱蒸気発生装置300と焙煎機400との間に備えられる配管には、配管内の蒸気,過熱蒸気の温度の低下を抑制するために、必要に応じて断熱処置を施してもよい。
タンク1の内側には、両面を凹球面状に形成したステンレススチール403(SUS403)あるいは430(SUS430)などの金属からなる金属板11,11が間隔を設けて配置されており、タンク1内に筒体2の中心軸と同軸に位置させた軸体14に固定されている。この金属板11には、多数の透孔12,12を穿設している。なお、金属板11と筒体2とは、溶接により接合する等の方法で一体として形成することが望ましい。これにより、筒体2および金属板11の両方を誘導過熱することができるため、より熱効率のよい過熱蒸気発生装置を得ることができる。
また、金属板11,11の間には多数の同じ金属からなる球体13,13を介在させており、金属板11,11はこれを挟持した状態で軸体14に固定されている。したがって、タンク1内においては、金属板の透孔12並びに球体13,13間の空隙によって、蒸気が通過する空隙が確保されている。なお、球体13は必ずしも備えられる必要はなく、例えばタンク1の圧力損失を低減させる必要がある場合などには省略してもよい。
また、過熱蒸気発生装置300では、筒体2、金属板11、球体13および軸体14は、いずれも金属製で形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、セラミックからなる筒体2を用いてもよい。
図3は、金属板11の断面図である。この図に示すように、金属板11に穿設した透孔12は、その両端開口縁16,16がテーパー状に形成されている。また、球体13,13は、その直径の大きさが異なるものを取り混ぜて充填させている。
これにより、蒸気との接触面積の確保と通過する空隙の確保との調和を図ることができる。
筒体2の外側には、筒体2の外周に沿ってセラミックからなる断熱壁8が設けてあり、その外側には可動車22が配置されており、コロ23,23を利用して、タンクの筒体2の外壁に沿って進退させることができる。可動車22の内側には、断熱壁8との間に隙間を設けて筒体25が配置され、その外側に交流電源に接続したコイル21が固定されている。
これにより、高周波交流電源を入れると、コイル21が発生する磁力線によってタンク1内にジュール熱を発生させることができる。
なお、この高周波交流電源の高周波とは、家庭用電源の周波数50〜60Hzよりも高い周波数を意味しており、近隣の電波障害等への影響を考慮した上で、例えば、250Hz〜6万Hzの広い範囲で適用可能である。
断熱壁8は、セラミックからなり、コイル21を熱から保護する機能を果たしている。つまり、コイルを固定式にした場合には、常に同じ箇所が加熱されるが、過熱蒸気発生装置300では、車22を常時移動させることによって、その発熱部分を移動させることができ、タンク内において広範囲にわたる部分を加熱できる。さらに、車22を移動させることで、タンク1内の金属板(磁性体板)11、球体(磁性球体)13の温度がキュリー点(強磁性から弱磁性になる温度)を超えないように調整することができる。
なお、本実施形態では、筒体2の断熱壁8として、セラミックのものを使用しているが、ガラス繊維その他の耐熱性の断熱材を使用してもよい。
タンク1内には、温度センサー(図示せず)が固定されており、この温度センサーの温度検知結果は図示しない温度表示部に表示される。オペレーターは、この温度検出結果に応じて高周波電流のスイッチを手動で動作させ、温度の昇降を制御することができる。これにより、急激な温度上昇を伴うことなく、高周波の出力を維持しながら温度の緩慢な昇降を行うことができ、従来よりも精度の高い温度制御を行うことができる。
また、過熱蒸気発生装置300では、可動車22にファン24が取り付けることで、可動車22内を適度に放熱できるようになっており、さらに、可動車22の一端側の断熱壁8との間に隙間(通気口26)を設けている。これにより、通気口26から流入する空気を移動させて(矢印参照)コイル21を冷却することができるようになっている。
なお、ファン24は、コイル21自体の発熱状態を勘案して、適宜その数を増減させてもよい。また、コイル21を放熱するための手段は、上記のような空冷式に限るものではなく、例えば水冷式のものを採用してもよい。
過熱蒸気発生装置300においては、上記のような構成により、出力(供給電力)20kw時において、蒸気供給管3側より飽和蒸気200kg/hを供給したところ、約450℃以上の高温高圧の過熱蒸気を過熱蒸気排出管5側から連続して排出させることができた。また、供給する電力および飽和蒸気量を変化させたところ、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜300kg/h生成できた。
なお、本実施形態では、外径120mm、長さ250mmのタンクを備えた過熱蒸気発生装置100を用いるものとしたが、過熱蒸気発生装置100の構成はこれに限るものではない。例えば、タンクの大きさをこれよりも大きくしてもよい。また、供給電力についても20kWに限るものではなく、適宜変更してもよい。タンクのサイズを変更することにより、あるいは供給電力を変化させることにより、例えば、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜300kg/h生成することができる。
また、蒸気の最高温度については、発熱体の耐熱温度に依存するため上記の温度が限界値ではない。過熱蒸気発生装置300では、発熱体を耐熱性のあるものに取り替えた場合には、これ以上の高温高圧の過熱蒸気を連続して発生させることも可能である。
また、本実施形態のように、筒体内で隔壁となる金属板(磁性板11)が金属製である場合には、板材を軸体に貫通させて粒状物を挟持させ、その状態で軸体に固定する構成を採用すると、板材と粒状物とを一体化することができ、タンク内へ配置する作業が容易となる。
なお、磁性網状ケース内に磁性粒状物を充填した構成を採用することによっても、磁性板および磁性粒状物からなる磁性部材を一体化させることができるため、同様の手軽さを得ることができる。
(2.焙煎機400の構成)
次に、焙煎機400の構成について説明する。図4は、焙煎機400の構成を模式的に示した説明図である。
この図に示すように、焙煎機400は、原料ホッパー401、焙煎室(ドラム)402を備えた本体403、冷却箱404、排気部405などを備えている。
原料ホッパー401は、原料であるコーヒー豆を投入するためのものであり、原料ホッパー401から投入されたコーヒー豆は、焙煎室402に投入される。なお、焙煎室402の前方(図中右側)の面には、コーヒー豆が焙煎室に投入されることを遮断するための投入扉および焙煎後のコーヒー豆を排出するための排出扉(いずれも図示せず)が設けられている。
焙煎室402は、原料ホッパー401から投入されたコーヒー豆を、過熱蒸気発生装置300から供給される過熱蒸気によって焙煎するためのものである。なお、焙煎室402の詳細については後述する。
冷却箱404は、焙煎室402から排出される焙煎後のコーヒー豆を受け取るためのものである。また、冷却箱404には図示しない撹拌手段および冷却ファンが設けられており、冷却箱404に排出されたコーヒー豆を撹拌手段によって撹拌するとともに冷却ファンによって大気への対流伝熱を促進させることで、コーヒー豆を効率よく冷却できるようになっている。
排気部405は、焙煎室402内の気体(過熱蒸気あるいは空気)を排出するための排気口の開度(開口面積)を調整する排気ダンパーと、焙煎室402内の気体を吸引して排気口から排気させるための排気ファンとを備えている(いずれも図示せず)。排気ダンパーの開度および排気ファンの回転速度(単位時間あたりの回転数)は可変になっており、オペレーターがこれらを調整することにより、焙煎室402から排出する過熱蒸気の流量を調節して焙煎室402内の温度,圧力を適切に保つとともに、焙煎室402内の雰囲気を過熱蒸気のみ(あるいはそれに近い状態)とし、焙煎室402内を無酸素状態(あるいは低酸素状態)に保てるようになっている。なお、上記排気ファンおよび/または排気サイクロンによって、焙煎室内の気体を吸引して焙煎室内を大気圧より低い負圧にすることが好ましい。これにより、焙煎室に投入する過熱蒸気の圧力を低くすることが可能になる。したがって、過熱蒸気発生装置300から排出する過熱蒸気の圧力を低くすることができる(過熱蒸気発生装置300から排出する過熱蒸気の圧力は焙煎室内の圧力よりも高ければよいので、例えば常圧(大気圧)であってもよく常圧よりもわずかに高い圧力(微圧)であってもよい)ので、過熱蒸気発生装置300から焙煎機400に供給される過熱蒸気の流量をさらに増すことができる。また、蒸気を昇圧する加圧手段を設ける必要がないので、装置構成を簡略化できる。
図5は、焙煎室402の構成を模式的に示した説明図である。この図に示すように、焙煎室402は、円筒形状の外壁部412と、この外壁部412の内面に沿うように配置された円筒形状の回転ドラム413と、外壁部412および回転ドラム413の中心線(両底面(前方および後方の面)の中心を通る直線)に沿って回転ドラム413を回転させるように備えられた回転軸414とを備えている。
回転軸414はモーター等の駆動手段(図示せず)によって回転駆動されるようになっている。この回転軸414は、回転ドラム413を中心線に沿って回転させるものであればよく、例えば図5に示すように回転ドラム413の両底面から外側に向かって突出するように備えられていてもよく、回転ドラム413を貫通するように備えられていてもよい。
なお、上記の駆動手段は、例えばオペレーターの手動操作により回転速度(回転軸414の回転速度)を可変できるようになっている。あるいは、駆動手段の回転速度を制御する回転制御手段をそなえておき、この回転制御手段が、一定時間毎あるいは連続的に駆動手段の回転速度を変化させるようにしてもよい。また、回転ドラム413は回転軸414に固定されており、回転軸414とともに一体的に回転するようになっている。なお、図5における破線は、過熱蒸気の流れを示している。
なお、回転ドラム413の容量は0.02m3であり、一度に5kgのコーヒー豆を焙煎できるようになっている。
また、焙煎室402には、過熱蒸気発生装置300からの過熱蒸気が蒸気配管411を介して供給される。
具体的には、蒸気配管411は外壁部412の下部に設けられた開口部に接続されており、蒸気配管411を介して供給される過熱蒸気はこの開口部から外壁部412の内部に導入される。なお、外壁部412は、過熱蒸気を導入するための上記開口部および焙煎室402内の気体を排気サイクロン500へ排出するための排出口を除いて密封された構造(半密封構造)である。
外壁部412の内面に沿って配置された回転ドラム(胴体)413は、ドラム内に過熱蒸気を導入するための多数の孔部を有するパンチング板で構成されており、蒸気配管411から供給された過熱蒸気は、このパンチング板を介して回転ドラム413の内部に供給される。
上記多数の孔部は、回転ドラム413の側面の周方向全周に渡って設けられており、両底面にも設けられている。このため、過熱蒸気は、外壁部412の下部に接続された蒸気配管411から供給された過熱蒸気は、回転ドラム413の全体(全面)から回転ドラム413内に導入される。また、上記多数の孔部は、焙煎室402内に投入された原料(コーヒー豆)415が通過したり挟まったりしない程度の大きさであることが好ましい。
なお、回転ドラム413の構成はこれに限るものではない。例えば、図6に示すように、回転ドラム413における後方側(図中左側)の底面のみをパンチング板としてもよい(後方側の底面にのみ孔部を設けてもよい)。この場合には、後方側の底面から過熱蒸気が供給されることになる。また、両底面(前方側および後方側の底面)をパンチング板としてもよく、側面のみをパンチング板としてもよい。
また、回転ドラム413の構成は、その一部または全部がパンチング板である構成に限るものではない。例えば、図7に示すように、回転ドラム413を、排気口を除いて密閉した構造にするとともに、回転軸414を両底面の中心を貫通する中空構造とし、この回転軸414における焙煎室402内(回転ドラム413内)の部分に蒸気噴射口を設け、回転軸414を介して過熱蒸気を焙煎室402内に供給するようにしてもよい。また、この場合、回転ドラム413の一部または全部をパンチング板で構成し、回転軸414に設けた蒸気噴射口および回転ドラム413におけるパンチング板部分の両方から過熱蒸気を供給するようにしてもよい。
また、回転ドラム413に回転駆動力を供給する回転軸414とは別に、回転ドラム413内に過熱蒸気を供給するための蒸気軸(蒸気供給軸)を設けてもよい。例えば、図21(a)に示すように、回転ドラム413における一方の底面の中心を通る中空構造の蒸気軸416を設け、この蒸気軸416における焙煎室402内(回転ドラム413内)の部分に蒸気噴射口を設け、蒸気軸416を介して過熱蒸気を焙煎室402内に供給するようにしてもよい。この場合、蒸気軸416は必ずしも回転軸414と共に回転する必要はなく、焙煎機400に備えられる固定部材に固定されていてもよい。
なお、回転ドラム413内のコーヒー豆は、回転ドラム413の回転に伴って鉛直方向下向きよりも回転方向側に偏る傾向になる。そこで、蒸気軸416を回転させない構成とする場合、図21(b)に示すように、過熱蒸気の排出方向(蒸気噴射口の向き)を、鉛直方向下向きよりも回転ドラム413の回転方向側に傾斜させてもよい。これにより、回転ドラム413内のコーヒー豆に対してより効率的に過熱蒸気を噴射することができる。なお、過熱蒸気を噴射する方向は一方向でなくてもよく、例えば図21(c)に示すように、回転ドラム413の中心線に垂直な断面で見たときに噴射方向が扇状をなし、全体として鉛直方向下向きよりも回転方向側に噴射される過熱蒸気量が、鉛直方向下向きよりも回転方向の反対側に噴射される過熱蒸気量よりも多くなるように各蒸気噴射口を設けてもよい。
また、蒸気軸416は必ずしも円筒形状である必要はなく、断面が矩形や楕円、多角形等であってもよい。また、必ずしも回転ドラム413の中心線に沿った形状でなくてもよく、湾曲あるいは屈曲した形状であってもよく、先端が枝分かれしていてもよい。
回転ドラム413における内周面には、焙煎室402内に投入されたコーヒー豆を撹拌するための羽根が設けられている。図8(a)は、回転ドラム413の斜視図であり、図8(b)は回転ドラム413に備えられる羽根の形状を模式的に示した説明図であり、図8(c)は図8(b)に示した回転ドラム413をA方向から見た場合の羽根の配置を示した説明図である。
これらの図に示すように、回転ドラム413には、その内周面に沿って設けられた第1羽根421と、この第1羽根421よりも回転ドラム413の中心線側に設けられた第2羽根422とが備えられている。
第1羽根421は、回転ドラム413の後方側(図8(b)の左側)から見たときに、時計回りに順次捻れるように並べて配置された複数枚の第1羽根421からなる組が、回転ドラム413の円周方向に沿って複数組配置されている。また、各第1羽根421は、図8(b)に示すように、回転ドラム413の中心線に垂直な方向から見たときに、各第1羽根421と回転ドラム413の中心線とのなす角度が135度になるように配置されている。なお、各第1羽根421と回転ドラム413の中心線とのなす角度は、必ずしも厳密に135度である必要はないが、コーヒー豆を効率よく撹拌するためには、130度以上140度以下であることが好ましい。また、各第1羽根421は、溶接等によって回転ドラム413に固定されている。
第2羽根422は、第1羽根421における回転ドラム413の中心線側の位置に、例えば溶接により固定されている。なお、第2羽根422の数は特に限定されるものではないが、例えば、上記第1羽根421の組数と同数備えられる。また、各第2羽根422は、図8(b)に示すように、回転ドラム413の中心線に垂直な方向から見たときに、各第2羽根422と回転ドラム413の中心線とのなす角度が25度になるように配置されている。なお、各第2羽根422と回転ドラム413の中心線とのなす角度は、必ずしも厳密に25度である必要はないが、コーヒー豆を効率よく撹拌するためには、20度以上30度以下であることが好ましい。
第1羽根421および第2羽根422を上記のように配置することにより、焙煎室402内のコーヒー豆を効率良く撹拌できる。具体的には、図8(b)に示すように回転ドラム413を、回転軸414によって図中のA方向から見て時計回りに回転させることにより、第1羽根421によって焙煎室402の外層側(底側;回転ドラム413側)に位置するコーヒー豆は前方(図8(b)における右側)へ送られ、それよりも内層側(上側;回転軸414側)に位置するコーヒー豆は第2羽根422によって後方へ送られる。また、焙煎室402の外層側に位置するコーヒー豆が内層側の位置に移動し、内層側に位置するコーヒー豆が外層側に移動するように撹拌される。
なお、過熱蒸気は、ガスや炭火等の従来の焙煎装置に備えられていた熱源よりも、焙煎対象物に対する熱伝達特性が優れている。このことは、焙煎時間の短縮,焙煎に要するエネルギー消費量の低減等の効果をもたらす一方、焙煎対象物を効率的に撹拌しないと、焙煎ムラが生じ易いという問題を生じさせる。したがって、過熱蒸気を用いた焙煎装置では、焙煎ムラを低減するために、コーヒー豆の撹拌を特に効率よく行う必要がある。
焙煎装置100では、焙煎室402に上記のような第1羽根421,第2羽根422を備えることにより、過熱蒸気を用いて焙煎を行うにもかかわらず、焙煎室402に投入されたコーヒー豆を効率よく撹拌しながら焙煎処理を行うことができるので、焙煎ムラを低減できる。また、焙煎処理を効率よく行えるので、焙煎に必要な過熱蒸気量を低減できる。また、焙煎時間を短縮し、ランニングコストを低減できる。
また、上記の構成によれば、焙煎室402内のコーヒー豆を、全体的に前方に移動させることができる。つまり、コーヒー豆が外層側と内層側とに順次移動するように効率よく撹拌するとともに、全体的に前方に寄ってくる傾向にできる。したがって、図4に示したように焙煎室402の前方に配置された冷却箱404への排出扉から、焙煎後のコーヒー豆を効率よく排出できる。
なお、このように、コーヒー豆は全体的に前方に寄ってくる傾向にあるので、図9に示すように、第2羽根422の高さ(回転ドラム413から回転軸414に向かう方向の長さ)を、前方に向かうほど高くなるようにすることが好ましい。これにより、コーヒー豆をより効率的に撹拌できる。
また、第1羽根421の高さ(回転ドラム413の側面から中心線に向かう方向の長さ)は、第2羽根422の1倍以上2倍以下であることが好ましく、1.5倍であることがより好ましい。これにより、コーヒー豆の撹拌ムラをより好適に低減できる。
また、焙煎工程中に、回転軸414の回転速度を変化させることが好ましい。これにより、より効率的に撹拌を行い、焙煎ムラを低減できる。
また、図8(a)に示した例では、回転ドラム413の中心線に垂直な断面を見たときに、第1羽根421が回転ドラム413の内周面から回転ドラム413の中心線に向かって略直線形状になっている。しかしながら、第1羽根421の形状はこれに限るものではない。
例えば、図10(a)に示すように、第1羽根421は、この第1羽根421の回転ドラム413との当接部と回転ドラム413の中心線とを結ぶ直線よりも、先端部が回転ドラム413の回転方向側に位置するように、断面が屈曲した形状であってもよい。この場合、例えば、屈曲部から先端部までの長さを、回転ドラム413との当接部から屈曲部までの長さ(高さ)hの1/2倍程度にすることが好ましい。これにより、回転ドラム413内の下層に位置するコーヒー豆415は、第1羽根421によってすくい上げられて上層まで搬送される。したがって、コーヒー豆415をより効率的に撹拌することができ、焙煎ムラを低減できる。また、焙煎に要する過熱蒸気量を低減できる。
なお、図10(a)の例では、第1羽根421は、回転ドラム413との当接部から回転ドラム413の中心線へ向かう方向に延びる部分と、この方向に対して略垂直な方向に屈曲した部分とを備えているが、これに限るものではない。例えば、第1羽根421は、回転ドラム413との当接部から回転ドラム413の中心線へ向かう方向よりも回転ドラム413の回転方向側に延びる形状であってもよい。また、この場合、図10(b)に示すように、先端部が回転ドラム413の回転方向側に屈曲した形状としてもよい。また、図10(c)に示すように、第1羽根421は、この第1羽根421の回転ドラム413との当接部と回転ドラム413の中心線とを結ぶ直線よりも、先端部が回転ドラム413の回転方向側に位置するように、断面が湾曲した形状であってもよい。第1羽根421の形状を上記いずれかの形状にすることで、図10(a)と略同様の効果を奏することができる。
また、図10(a)〜図10(c)の例では、第1羽根421の先端部が、この第1羽根421と回転ドラム413との当接部と回転ドラム413の中心線とを結ぶ直線よりも回転ドラム413の回転方向側に位置しているが、第1羽根421の形状は必ずしもこれに限るものではない。例えば、第1羽根421の先端部が、この第1羽根421の回転ドラム413との当接部と回転ドラム413の中心線と結ぶ直線上(あるいはこの直線よりも少し回転ドラム413の回転方向の反対側)にある場合であっても、図11(a)および図11(b)に示すように、第1羽根421の断面が回転ドラム413の回転方向の反対側に凸となるように屈曲または湾曲した形状とすることで、図10(a)の構成と同様、コーヒー豆を効率よく撹拌することができる。
(3.焙煎処理)
次に、焙煎装置100における焙煎処理の流れについて図12を用いて説明する。
まず、回転ドラム(回転シリンダー)413および排気ファンの駆動を開始するとともに(S1)、蒸気発生装置200を起動して飽和蒸気を発生させ、過熱蒸気発生装置300への飽和蒸気の供給を開始させる(S2)。その後、図示しない電流源から過熱蒸気発生装置300に高周波電流を供給して過熱蒸気を発生させ、焙煎機400への過熱蒸気の供給を開始させる(S3)。
その後、オペレーターは、焙煎室402に備えられた温度センサーの検出結果に基づいて、焙煎室402内の温度が予め設定した焙煎開始温度(例えば200℃)に達したかどうかを判断する(S4)。そして、焙煎開始温度に達していない場合には焙煎室402内の温度が焙煎開始温度に到達することを監視する。
S4において焙煎室402内の温度が焙煎開始温度に達したと判断した場合、オペレーターは、原料ホッパー401にコーヒー豆を投入する(S5)。さらに、オペレーターは、焙煎室402に備えられた投入扉を開き、所定量(例えば5kg)のコーヒー豆を原料ホッパー401から焙煎室402内に投入する(S6)。これにより、コーヒー豆の焙煎工程が開始される。なお、一般に、コーヒー豆の焙煎工程としては、3分〜7分程度の蒸らし工程(コーヒー豆を乾燥させる工程;予備焙煎工程)と、その後に行う5分〜10分程度の本焙煎工程とが行われる。本実施形態では、蒸らし工程と本焙煎工程とを連続して同じ条件で行うようになっているが、これに限らず、蒸らし工程と本焙煎工程とで温度条件,圧力条件を変化させてもよい。また、焙煎工程中、回転ドラム413の回転速度を所定時間毎に(あるいは連続的に)変化させてもよい。これにより、コーヒー豆を効率的に撹拌して焙煎ムラを低減できる。
また、オペレーターは、焙煎工程中、焙煎室402内の温度を所定の温度範囲かつ無酸素状態に保つように、焙煎装置100の各部を調整する(S7)。例えば、蒸気発生装置200から過熱蒸気発生装置300へ供給される飽和蒸気量を制御したり、過熱蒸気発生装置300に供給する駆動電力や焙煎機400に供給する過熱蒸気の量,温度などを制御したり、排気ダンパーの開度を制御したり、排気ファンの回転数を制御したりして、焙煎室402内の温度を所定の温度範囲かつ無酸素状態に保つ。なお、上記したように、焙煎室402内を負圧にすることが好ましい。
その後、オペレーターは、焙煎室402内に投入されているコーヒー豆に対する焙煎処理を終了するかどうかを判断する(S8)。この判断は、例えば、オペレーターがコーヒー豆表面の色に基づいて判断する。あるいは、コーヒー豆を投入してから(焙煎工程を開始してから)の経過時間など、他の判断基準に基づいて判断してもよい。
S8において焙煎処理を終了せずに継続すると判断した場合、S7の処理を引き続き行い、焙煎室402内の温度を所定の温度範囲かつ無酸素状態に保つように、各部の動作を制御する。
一方、S8において焙煎処理を終了すると判断した場合、オペレーターは、焙煎室402に備えられた排出扉を開いて焙煎したコーヒー豆を冷却箱404に排出させる(S9)。そして、コーヒー豆の焙煎を続けて行うかどうか、すなわち次に焙煎処理を行うコーヒー豆を焙煎室402に投入するかどうかを判断する(S10)。そして、焙煎を続行する場合には、次に焙煎処理を行うコーヒー豆についてS6以降の処理を行う。一方、それ以上、コーヒー豆の焙煎を行わない場合には、焙煎機400への過熱蒸気の供給を停止し(S11)、焙煎処理を終了する。
(4.実施例)
次に、本実施形態にかかる焙煎装置100による焙煎処理と、過熱蒸気を蒸らし工程でのみ用い、本焙煎工程にはガスバーナーを用いる従来の蒸気焙煎装置(富士珈機販売(株)製)による焙煎処理とを比較した結果について説明する。
表1は、焙煎装置100による焙煎処理と、上記従来の焙煎装置による焙煎処理とを比較した表である。なお、表1に記載した焙煎時間の短縮効果は、ガスバーナーを用いて焙煎工程の全工程を行う焙煎装置を用いたときの焙煎時間に対する短縮効果を示している。また、各焙煎装置において焙煎するコーヒー豆の量を5kgとし、焙煎を終了させるタイミングは、コーヒー豆表面の色を目視にて判断し、所定の色(所定のサンプルと同じ色あい)になったときとした。
この表に示すように、従来の蒸気焙煎装置では、100℃〜160℃の過熱蒸気を1.2kg/hしか生成できなかった。このため、上記従来の蒸気焙煎装置では、過熱蒸気を蒸らし工程でしか用いることができなかった。また、上記従来の焙煎装置における焙煎時間は、ガスバーナーを熱源とする焙煎装置と同等であった。
これに対して、焙煎装置100では、200℃〜600℃の過熱蒸気を、50kg/h〜300kg/h生成できるので、過熱蒸気のみを熱源として焙煎処理の全工程(蒸らし工程および本焙煎工程)を行うことができる。また、焙煎処理の全工程において過熱蒸気を熱源として用いることにより、ガスバーナーを熱源とする焙煎装置に比べて、焙煎時間を1分〜4分短縮できた。
表2は、焙煎装置100を用いて各種コーヒー豆(ブレンド,マンデリン,サントス,コロンビア,モカ)を焙煎処理した結果を示している。
なお、焙煎室402内の温度が200℃に達したときにコーヒー豆を投入して焙煎工程を開始させ、供給する過熱蒸気の温度,圧力,流量を一定に保って焙煎工程を行った。なお、投入するコーヒー豆の量は5kgとした。また、焙煎工程を終了させるタイミングは、コーヒー豆表面の色を目視にて判断し、所定の色(所定のサンプルと同じ色あい)になったときとした。そして、この焙煎終了時の温度を焙煎終了温度とし、焙煎を開始してから終了するまでの時間を焙煎時間とした。また、この表において、括弧内に示した数値は、熱源としてガスバーナーを用いる従来の焙煎装置を用いた場合の数値である。
この表に示すように、焙煎装置100を用いることにより、従来のガスバーナーを用いた焙煎装置よりも、焙煎時間を2分〜3分(7.1%〜18.8%)短縮できた。
また、味については、表2に示した5種類のコーヒー豆のそれぞれについて、焙煎装置100で焙煎したものとガスバーナーを用いる焙煎装置で焙煎したものとを用意し、それぞれ同じ粒度で挽いた同量の粉末に、同温(約95℃)、同量のお湯を注ぎ、10人が試飲して評価した。もちろん、各試飲者にはどちらのコーヒーが焙煎装置100で焙煎したものであるかは知らせなかった。その結果、10人とも焙煎装置100で焙煎したコーヒーの方が「味がまろやかである」と評価した。
また、香りについては、表2に示した5種類のコーヒー豆のそれぞれについて、焙煎装置100で焙煎したものとガスバーナーを用いる焙煎装置で焙煎したものとを室温で14日間保管し、10人が香りの変化を評価した。もちろん、各試飲者にはどちらのコーヒー豆が焙煎装置100で焙煎したものであるかは知らせなかった。その結果、10人とも焙煎装置100で焙煎したコーヒーの方が「香りが長持ちする」と評価した。
図13は、ガスバーナーを用いた焙煎装置で焙煎したコーヒー豆、および、焙煎装置100で焙煎したコーヒー豆の、焙煎後の室温保存下での経過日数と酸価の変化との関係を測定した結果を示すグラフである。
酸価とは、油脂1g中に含まれている遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数のことであり、試料に中性溶剤を加えて溶かし、N/10(0.1mol/L)水酸化カリウム−エタノール標準液で滴定したのち、下式(1)
酸価 = 5.611×A×F/B ・・・(1)
によって求められる。なお、AはN/10水酸化カリウム−エタノール標準液の使用量(ml)、FはN/10水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター、Bは試料採取量(g)である。なお、酸価は、加水分解の進行度合を示す指標であり、この値が大きいほど加水分解が進行しており、香りや色の劣化がすすんでいることを示す。
図13に示すように、焙煎装置100によって焙煎したコーヒー豆の酸価は、ガスバーナーを用いた焙煎装置で焙煎したコーヒー豆の酸価よりも低かった。
また、図14は、ガスバーナーを用いた焙煎装置で焙煎したコーヒー豆、および、焙煎装置100で焙煎したコーヒー豆の、焙煎後の室温保存下での経過日数と過酸化物価の変化との関係を測定した結果を示すグラフである。
過酸化物価とは、試料にヨウ化カリウムを加えた場合に、遊離されるヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数で表したものであり、下式(2)
過酸化物価(meq/kg) = a×f/b×10 ・・・(2)
から求められる。ここで、aはN/100(0.01mol/L)チオ硫酸ナトリウム標準液使用量(ml)、fはN/100チオ硫酸ナトリウム標準液のファクター、bは試料採取量(g)である。なお、過酸化物価は、酸化の進行度合を示す指標であり、この値が大きいほど酸化が進行しており、香りの変化、臭気の発生、色の変化、毒性の発現などの種々の変化が生じていることを示す。
図14に示すように、焙煎装置100によって焙煎したコーヒー豆の過酸化物価は、ガスバーナーを用いた焙煎装置で焙煎したコーヒー豆の過酸化物価よりも低かった。
表3は、ガスバーナーを熱源とする従来の焙煎装置(ガス熱源焙煎機)の排煙および焙煎装置100の排煙を比較した結果である。
この表に示すように、ガス熱源焙煎機で排煙の色が白色、青色、薄い黒色の間で変化したのに対して、焙煎装置100では薄い白色であった。また、ガス熱源焙煎機では大量の排煙が排出されるのに対して、焙煎装置100では排煙量は非常に少なかった。また、排煙の臭いについては、ガス熱源焙煎機では強烈な焙煎臭があったのに対して、焙煎装置100では焙煎臭が大幅に低減した。また、排煙の温度は、ガス熱源焙煎機では200℃以上であったのに対して、焙煎装置100では100℃以下であった。
以上のように、焙煎装置100は、装置サイズが小さく、かつ大流量の過熱蒸気を連続的に発生することのできる過熱蒸気発生装置300を備えているので、過熱蒸気のみを熱源として焙煎工程の全工程を行うことができる。なお、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜300kg/hの流量で連続して焙煎室402に供給し、焙煎するコーヒー豆の量を変化させたところ、5kg〜30kgのコーヒー豆を従来のガスバーナー等を用いた焙煎装置よりも短時間で焙煎することができた。焙煎可能なコーヒー豆の量は、これに限定されるものではなく、さらに多量のコーヒー豆を焙煎することも可能であると考えられる。
このように、焙煎装置100によれば、一度に焙煎できるコーヒー豆の量を増大させて生産性を向上させることができる。したがって、従来の過熱蒸気のみを熱源として用いたコーヒー豆の焙煎装置は商業生産に利用することは困難であったが、焙煎装置100は商業生産に利用できる。また、焙煎工程の全工程を過熱蒸気によって行うので、対流伝熱,放射伝熱に加えて、凝縮膜伝熱,遠赤外線加熱効果(過熱蒸気は熱放射性ガスとして作用する)を利用することができ、焙煎時間を短縮できる。また、大流量の過熱蒸気を連続的に供給できるので、焙煎室内を常に無酸素状態(あるいは低酸素状態)に保つことができ、コーヒー豆の味覚および香りを向上させるとともに、賞味期限および香りの持続時間を長期化させることができる。
また、熱源としてガスバーナー等を用いた従来の焙煎装置では、焙煎によって大量の煙が発生するので、消煙バーナー等の消煙設備を設置する必要があった。これに対して、焙煎装置100では、焙煎工程の全工程を過熱蒸気によって行うので、発煙をほとんど伴わない。つまり、焙煎中に発生する煙を過熱蒸気の熱によって消煙し、大気に放出する排煙の量を大幅に削減できる。このため、消煙設備を省略あるいは小型化することができる。これにより、消煙設備の消費エネルギーを削減して省エネルギー化を図ることができ、また、消煙設備にかかる設備コストを低減できる。
なお、過熱蒸気発生装置300から出力される過熱蒸気量が、焙煎室402に供給する必要のある過熱蒸気量よりも多い場合には、図15に示すように、過熱蒸気の余剰分(余剰過熱蒸気)を、焙煎機400をバイパスさせて排気サイクロン500からの排気に含まれる煙を消煙するための消煙設備600に供給するようにしてもよい。消煙設備600において噴射ノズル(噴射手段)から排煙中に過熱蒸気を噴射することにより、消煙設備600において過熱蒸気の熱を消煙に用いることができるので、消煙設備600における消費エネルギーをさらに削減できる。なお、この場合、過熱蒸気をバイパスさせる配管(バイパス手段)には、バイパスさせる過熱蒸気の流量を調整するための流量調整手段(流量調整弁など)が備えられていることが好ましい。また、過熱蒸気発生装置300から出力される過熱蒸気の圧力が低い場合には、過熱蒸気を吸引して消煙設備に導くための吸引手段(ファン等)を備えることが好ましい。
図22(a)は過熱蒸気を用いて消煙処理を行う消煙設備(消煙装置)600の一例を示す断面図であり、図22(b)は図22(a)に示したA−A断面の断面図である。これらの図に示すように、消煙設備(消煙装置)600は、消煙処理を行う消煙室(消煙部)601と、消煙室601に煙を供給する供給管(供給部)602と、消煙室601内に過熱蒸気を噴射する噴射ノズル(噴射手段)605と、消煙室601から消煙処理後の排気を排出する排気管(排気部)603とを備え、消煙室601内に供給された煙に過熱蒸気を噴射することで消煙処理を行う構成としてもよい。これにより、煙の微粒子を過熱蒸気の熱によって分解し、あるいは凝縮水に吸着させて除去し、消煙することができる。また、この燃焼設備600は、図22(a)に示すように、燃焼室601の周囲が断熱材604で覆われており、これによって過熱蒸気の熱を効率的に利用できるようになっている。なお、図22(a)に示した消煙設備600では、ニチアス(株)製のファイバーキャスト(セラミックファイバーと無機バインダー等とを湿式混合したペースト状の不定形耐火材)からなる断熱材604で消煙室601の周囲を覆った。ただし、断熱材604の材質は特に限定されるものではなく、従来から公知の種々の材料を用いることができる。
なお、図22(b)に示した例では、噴射ノズル605は、消煙室601の側面を貫通して消煙室601における煙が通過する方向に垂直な断面がなす円の直径方向に延伸しており、煙が通過する方向に垂直な方向に過熱蒸気を噴射する噴射口を設けた構成としているが、噴射ノズル605の形状、位置、設置数、噴射口の数、位置、方向等は特に限定されるものではなく、煙と過熱蒸気とを適切に噴射できるものであればよい。
図23(a)は過熱蒸気を用いて消煙処理を行う消煙設備(消煙装置)600の他の例を示す断面図であり、図23(b)は図23(a)に示したA−A断面の断面図である。図23(b)に示すように、噴射ノズル605は、消煙室601の内側面に沿った形状を有し、内側面側から断面の中心側に向かって過熱蒸気を噴射する噴射口を設けた構成であってもよい。
図24は、過熱蒸気を用いて消煙処理を行う消煙設備(消煙装置)600のさらに他の例を示す断面図である。この図に示すように、消煙室601内に過熱蒸気を噴射する噴射ノズル605を複数設け、多方向に過熱蒸気を噴射する構成としてもよい。
また、上記の例では、消煙室601の形状を円筒型としたが、これに限るものではなく、例えば直方体型、立方体型であってもよく、供給管602との接続部から排気管603との接続部にかけて煙の通過方向が非直線的である形状(例えば螺旋状)であってもよい。
また、過熱蒸気をサイクロン500内に噴射することで、焙煎機400から排気サイクロン500に供給された煙と過熱蒸気とを接触させ、排気サイクロン500において消煙処理を行ってもよい。この場合、排気サイクロン500内で旋回している煙に過熱蒸気を噴射することで、煙と過熱蒸気とを効率的に接触させることができ、消煙処理の高効率化を図ることができる。また、遠心力および重力によって凝縮水を排気と分離できるので、煙の微粒子を凝縮水とともに効率よく回収できる。つまり、本発明の消煙装置は、煙を旋回させる旋回手段と、旋回中の煙に過熱蒸気を噴射する噴射手段(あるいは過熱蒸気を接触させる接触手段)とを備えた構成であってもよい。また、上記旋回による遠心力および重力によって排気と分離されたゴミや凝縮水を回収する回収手段を備えていてもよい。
また、焙煎機400に過熱蒸気を供給するための過熱蒸気発生装置300とは別に、消煙設備600の熱源として過熱蒸気を供給するための過熱蒸気発生装置(第2の過熱蒸気発生装置)を設けてもよい。これにより、消煙設備600あるいは過熱蒸気の噴射ノズルを備えた排気サイクロン500(消煙装置)において効率的に消煙処理を行える。なお、上記第2の過熱蒸気発生装置は、消煙のために必要な温度,量の過熱蒸気を発生することができるものであればよく、例えば過熱蒸気発生装置300と同様の構成であってもよい。
なお、焙煎装置100に5kgの生豆を投入して焙煎処理を行い、消煙設備600を備えない場合と、図22(a)および図22(b)に示した過熱蒸気を用いて消煙処理を行う消煙設備600を備えた場合とで、排煙の状態を目視により比較する実験を行った。なお、この実験では、消煙設備600における消煙室601は、内径300mm、長さ(煙の通過方向の長さ)300mm、厚さ1mmの円筒形状とし、鉛直方向下方から消煙室601に煙を供給し、鉛直方向上方に排気を排出する構成とした。また、供給管602および排気管603は、外径201mm、内径199mm、長さ100mmの円筒形状とした。また、焙煎機400に過熱蒸気を供給するための過熱蒸気発生装置300とは別に、消煙設備600に過熱蒸気を供給するための過熱蒸気発生装置として過熱蒸気発生装置300と同仕様のものを用い、消煙室601に温度600℃、流量100kg/hの過熱蒸気を噴射した。
その結果、排煙設備600を設けない場合には排煙は濃い白色であったのに対して、上記構成の配線設備600を設けた場合の排煙はほぼ無色透明であった。すなわち、過熱蒸気を用いた消煙設備600を設けることにより、目視によって明確に確認できるほど十分な消煙効果が得られた。
なお、消煙室601に噴射する過熱蒸気(煙に接触させる過熱蒸気)の温度は200℃以上600℃以下であることが好ましい。この温度範囲の過熱蒸気を煙に接触させることにより、消煙を効率的に行うことができる。
また、熱源としてガスバーナー等を用いた従来の焙煎装置では、排気の焙煎臭が強く、特に市街地,住宅地等に焙煎装置を設置する場合にはこの焙煎臭を除去するためのフィルター等を設ける必要があった。これに対して、焙煎装置100では、熱源として過熱蒸気を用いているので焙煎臭が低減される。このため、焙煎臭を除去するためのフィルター等を省略あるいは簡素化することができる。
また、焙煎装置100では、排気路にチャフ等の乾燥したゴミが付着することを防止し、それによって排気路のメンテナンス周期を延ばすことができ、また、火災を予防することができる。この点について、図16および図17を用いて説明する。
図16は、焙煎装置100において焙煎処理を行っているときの、焙煎機400から排気サイクロン500への排気ダクト、排気サイクロン500内、排気サイクロン500からの排気を大気に放散させる排気煙突における排気温度の測定結果を示している。また、図17は、ガスバーナーを熱源として焙煎を行う従来の焙煎装置において焙煎処理中をおこなっているときの、焙煎機から排気サイクロンへの排気ダクト、排気サイクロン内、排気サイクロンからの排気を大気に放散させる排気煙突における排気温度の測定結果を示している。
図16に示すように、焙煎機400からの排気温度は従来のガスバーナーを用いた焙煎装置と同様、200℃〜300℃であるが、排気ダクトにおいて冷却され、排気サイクロン500では100℃〜150℃に低下する。このため排気ダクトにおいて過熱蒸気の一部が凝縮して凝縮水となる。この凝縮水は、排気ダクトへのチャフ等のゴミの付着を抑制するように機能する。また、過熱蒸気は排気サイクロン500内においてさらに冷却されて一部が凝縮水となり、排気サイクロン500におけるチャフ等のゴミの分離能力を向上させる。なお、排気ダクトおよび排気サイクロン500で凝縮した凝縮水は、チャフ等のゴミとともに、排気サイクロン500の下部に設けられた排水口を介して回収される。
このように、焙煎装置100では、排気路(排気ダクト,排気サイクロン500,排気煙突)で過熱蒸気が凝縮して凝縮水となり、排気路に付着するチャフ等のゴミを、従来のガスバーナー等を用いた焙煎装置に比べて大幅に低減できる。したがって、排気路の清掃等のメンテナンス周期を延ばすことができ、ユーザーの利便性を向上できる。
また、従来の焙煎装置では、例えば装置メーカーのマニュアルで規定された排気路のメンテナンスを怠ると、排気路にチャフ等の乾燥したゴミが大量に付着する場合があった。このような場合には、排気路に付着したゴミに着火し、排気路全体に延焼してしまう可能性があった。これに対して、焙煎装置100では、排気路に付着するゴミを大幅に低減できるので、火災の発生あるいは火災発生時の延焼を防止できる。なお、従来の過熱蒸気を用いた焙煎装置では、過熱蒸気量が非常に小さいので、このような排気路での過熱蒸気の凝縮によるゴミの付着防止効果を十分に得ることはできなかった。焙煎装置100では、排気ダクトの直径を100mmとし、過熱蒸気の排気量を50kg/h〜300kg/hとしたところ、十分にゴミの付着防止効果を得ることができた。
また、過熱蒸気発生装置300から出力される過熱蒸気量が、焙煎室402に供給する必要のある過熱蒸気量よりも多い場合には過熱蒸気の余剰分(余剰過熱蒸気)を、焙煎機400をバイパスさせて排気路(排気ダクト)に供給するようにしてもよい。これにより、ゴミの付着防止効果をより向上させることができる。なお、この場合、過熱蒸気をバイパスさせる配管(バイパス手段)には、バイパスさせる過熱蒸気の流量を調整するための流量調整手段(流量調整弁など)が備えられていることが好ましい。また、過熱蒸気発生装置300から出力される過熱蒸気の圧力が低い場合には、過熱蒸気を吸引して排気路に導くための吸引手段(ファン等)を備えることが好ましい。
本実施形態では、主に、焙煎装置100が5kgのコーヒー豆を焙煎するための焙煎装置である場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、さらに多量のコーヒー豆を一度に焙煎できる構成としてもよい。この場合、焙煎装置100に備えられる各部材のサイズ(例えば焙煎室402の容量、過熱蒸気発生装置300に備えられるタンク1の容量など)、焙煎室402に供給する過熱蒸気量などを適宜変更してもよい。ただし、タンク1の容量が焙煎室402の容量よりも小さいことが好ましい。
また、本実施形態では、コーヒー豆を焙煎する場合について説明したが、焙煎対象物はこれに限るものではない。焙煎装置100は、例えば、ピーナッツ,米,麦,粟,とううもろこし,にんにく,茶葉,焼き菓子など、さまざまな食品の焙煎に用いることができる。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1で説明した部材と共通の機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
図18は、本実施形態にかかる過熱蒸気発生装置300aの断面図である。この過熱蒸気発生装置300aは、実施形態1に示した焙煎装置100に、過熱蒸気発生装置300に代えて備えられる。
この図に示すように、過熱蒸気発生装置300aは、弱磁性を備えたステンレススチール403(SUS403)および/または430(SUS430)からなる筒体2の一端に蒸気供給管3を一体的に取り付け、他端に過熱蒸気排出管5を一体的に取り付けたタンク(過熱タンク)1aと金属板(磁性体部材)11とを備えている。
金属板11は、筒体2と同じ金属で形成されており、両者は溶接等の方法により一体として形成されている。これにより、金属板11に加えて、筒体2についても同時に誘導過熱することができるため、より熱効率のよい過熱蒸気発生装置を得ることができるようになっている。
なお、過熱蒸気発生装置300aでは、タンク1a内に筒体2の軸芯と略直角に多数の金属板(隔壁)11,11を設けて区画室34を直列に配置すると共に、区画室34,34を連通するための透孔12,12を金属板11に多数穿設している。
過熱蒸気発生装置300aにおいては、隣り合った隔壁に形成された透孔12,12の開口位置(軸心からの距離)を互いに変位させている。
これにより、透孔12を通過した蒸気は、次の金属板11の透孔12に直接的に入るのではなく、確実に隣の金属板11に衝突して空隙内で乱流状態におかれ、その後、透孔12を通過し、過熱、膨張を繰り返しながら排出口へ送られる。よって、一層過熱効率を向上させることができ、これによって高温高圧の過熱蒸気を連続して発生させることができる。
本実施形態にかかる過熱蒸気発生装置300aによれば、上記の構成により、実施形態1に示した過熱蒸気発生装置300と同様に、出力20kw時の条件下において、蒸気供給管3側から飽和蒸気200Kg/hを供給したところ、過熱蒸気排出管5側から520℃以上の高温高圧の過熱蒸気を連続して排出することができた。また、供給する電力および飽和蒸気量を変化させたところ、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜200kg/h生成できた。なお、タンクのサイズを変更することにより、あるいは供給電力を変化させることにより、例えば、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜300kg/h生成することができる。
なお、過熱蒸気の最高温度については、発熱体の耐熱温度に依存するため、上記の温度が限界値ではない。発熱体をより耐熱性の高い材質に取り替えることで、これ以上の高温高圧の過熱蒸気を連続して発生させることも可能である。
〔実施形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1または2で説明した部材と共通の機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
図19は、本実施形態にかかる過熱蒸気発生装置300bの断面図である。この過熱蒸気発生装置300bは、実施形態1に示した焙煎装置100に、過熱蒸気発生装置300に代えて備えられる。
この図に示すように、過熱蒸気発生装置300bは、弱磁性を備えたステンレススチール403(SUS403)および/または430(SUS430)からなる筒体2の一端に蒸気供給管3を一体的に取り付け、他端に過熱蒸気排出管5を一体的に取り付けたタンク(過熱タンク)1bと磁性体部材(金属板11)と衝突板45とを備えている。
なお、本実施形態においても、上記実施形態2と同様に、タンク1bと磁性体からなる部材とが、同一の金属を用いて溶接等により一体として形成されている。これにより、タンク1bおよび内部の磁性体部材を同時に加熱することが可能になり、より効率よく蒸気を過熱することができるようになっている。
過熱蒸気発生装置300bは、タンク1b内にその軸芯と略直角に多数の金属板11,11を設けて区画室44を軸心方向に沿って直列に配置すると共に、区画室44,44を連通するための透孔12,12を金属板11の周縁部に多数穿設している。
各区画室44,44内には金属板11と同一の材質で形成した薄肉の衝突板(ドーナツ板)45を、金属板11と溶接して一体化させて配置している。これにより、金属板11の透孔12から出てくる蒸気を衝突板45に衝突させ、過熱蒸気をより一層効率的に発生させることができる。
衝突板45の中央部の穴は、金属板11における最も中心部(軸心)よりの透孔12より内側に形成されている。
これにより、透孔12を通過して区画室44内に臨んだ蒸気は、必ずこの衝突板45と衝突するため、区画室44内で蒸気が一旦乱流状態におかれる。このとき、衝突板45は高温状態におかれているため、蒸気はさらに過熱されて区画室44内で混合された後、透孔12から次の区画室44へと移動する。これにより、区画室44を通過するたびに、過熱膨張を繰り返しながら効率よく蒸気の温度を上昇させることができ、高温高圧の過熱蒸気を連続して発生させることができる。
なお、本実施形態では、衝突板45としてドーナツ形状のものを用いているが、衝突板45の形状はこれに限定されるものではない。他の形状であっても、透孔12を通過してきた蒸気が確実に衝突する位置に設けられている形状であればよい。
本実施形態にかかる過熱蒸気発生装置300bによれば、上記の構成により、上記実施形態1・2の過熱蒸気発生装置300・300aと同様に、出力20kw時の条件下において、蒸気供給管3側から飽和蒸気200Kg/hを供給したところ、過熱蒸気排出管5側から500℃以上の高温高圧の過熱蒸気を連続して排出することができた。また、供給する電力および飽和蒸気量を変化させたところ、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜200kg/h生成できた。なお、タンクのサイズを変更することにより、あるいは供給電力を変化させることにより、例えば、温度200℃〜600℃、圧力0.05MPa〜0.2MPaの過熱蒸気を50kg/h〜300kg/h生成することができる。
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、実施形態1〜3で説明した部材と共通の機能を有する部材については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
図20は、本実施形態にかかる過熱蒸気発生装置300cの断面図である。過熱蒸気発生装置300cは、高温高圧の過熱蒸気をより効率よく連続して発生させるために、以下に示すような構成となっている。
すなわち、図20に示す過熱蒸気発生装置300cにおいては、蒸気供給管3から送り込まれた蒸気は、一旦、タンク1cの中央部を通過して過熱蒸気排出管5側へと送られ、タンク1cの奥側から蒸気供給管3側へ透孔12aを介して複数の区画室44を通過した後、再度、蒸気供給管3側から過熱蒸気排出管5側へ、透孔12を介して複数の区画室44を通過することで、過熱、圧縮を繰り返しながら送られて、効率よく蒸気の温度を上昇させることができ、高温高圧の過熱蒸気を連続して発生させることができる。
このように、上記した過熱蒸気発生装置300,300a,300bよりも、蒸気が通過する透孔12および区画室44の数を増やすことで、高温高圧の過熱蒸気をより効率よく連続して発生させることができる。
上記した各過熱蒸気発生装置は、タンク内に磁性体からなる部材を備えており、蒸気がこの磁性体からなる部材と接触しながら通過するようになっている。これにより、大量の過熱蒸気を効率よく発生することができる。また、タンク内の温度の昇降を緩慢にコントロールすることができ、効率よく過熱蒸気を発生させることができる。
つまり、タンク(電磁誘導過熱タンク)内には、磁性体からなる部材(磁性部材)が配置されているから、高周波交流電源をONすることで発生する磁力線はこの磁性部材の磁力に影響され、うず電流は若干弱くなる。このうず電流によって発生するジュール熱は、タンク1内に配置されている磁性部材をも加熱してしまうため、タンク内の温度の上昇がゆっくりと行われることになる。
蒸気は、タンク内を通過する際に加熱された磁性部材に接触し、さらに過熱されて過熱蒸気となり、徐々に膨張しながらタンクの排出側へ移動する。タンク内の温度が上昇してコイルの電源を切っても、磁性部材が高温状態にあり、これが冷えることによってタンク内の温度が下がるため、冷却にも時間を要する。したがって、タンク内の温度の上昇及び下降の双方について、急激な変化を伴わずに緩慢に行うことができる。
磁性部材として、弱磁性のものを使用すると、温度の上昇及び下降をより緩慢に行わせることができる。
過熱蒸気の温度は、誘導電流の強さの他、供給する蒸気量とも関係している。すなわち、誘導電流を同じ強さにした場合、蒸気量を増やすと低温域で温度を制御することができ、蒸気量を減らすと高温域で温度を制御することができる。また、流量を一定とし、出口側の圧力の調整することによっても、温度制御が可能である。
上記のタンクとしては、金属製やセラミック製のものを使用することができる。例えば、金属製のタンクを用いた場合には、磁性板とタンクとを溶接等により一体として形成することが好ましい。これにより、磁性板だけでなく、タンクについても誘導加熱することができ、より効率よく高温高圧の過熱蒸気を連続して発生することができる。
磁性部材としては、鉄などの強い磁性の金属、ステンレススチール430,403,304、ニッケル、チタン等の弱い磁性の金属の他、カーボンセラミックを使用することができる。
磁性部材は、タンク内において蒸気を円滑に通過させる必要があるため、粒状物や網体、多数の透孔を穿設した板材を使用することが望ましい。この粒状物としては、球体やその他の形態の小物体を使用することができる。この粒状物に透孔を穿設しておいても良い。これらの部材は、タンク内に充填ないし装填するだけであるから、手軽に装置することができる。
磁性部材を、透孔が穿設され、蒸気の進行方向に間隔を設けて配置された複数の磁性板と、この磁性板の間に充填した磁性粒状物とを組み合わせた構成とした場合には、蒸気が球面に沿って移動させられるから、接触面積を広くして熱効率を高めることができる。
透孔の数は特に限定されるものではなく、タンクの大きさ、通過させる蒸気量などを勘案して適宜設定すればよい。
磁性板の両面を凹球面状に形成した場合には、粒状物を安定した状態で充填したり挟持したりすることができる。さらに、凹球面状に形成することで、中央の薄い部分は厚い部分よりも誘導加熱によって加熱されやすくなることから、蒸気の過熱効率をさらに向上させることができる。
また、上記各過熱蒸気発生装置において、タンクと磁性体からなる部材とを溶接等で一体に構成してもよい。タンク内にその軸芯と略直角に多数の隔壁を設けて区画室を直列に配置すると共に、区画室を連通するための透孔を隔壁に穿設しておくと、熱効率を高められる。さらに、各区画室を順次通過していくことで蒸気を効率よく膨張させることができ、排出側から過熱蒸気を勢いよく噴出させることができる。
このとき、隣り合った隔壁における透孔の開口位置を互いに変位させた場合には、区画室内に臨んだ蒸気は、確実に隣の隔壁に衝突して空隙内で乱流状態におかれ、その後、次の透孔を通過するため、一層効率よく過熱蒸気を発生することができる。
また、タンクと磁性体とからなる部材とを溶接等で一体として構成し、タンク内にその軸芯と略直角に多数の隔壁を設けて区画室を直列に配置すると共に、区画室を連通するための透孔を隔壁に多数穿設し、透孔と透孔との間に磁性体からなる衝突板を配置してもよい。
これにより、透孔を通過した蒸気は、加熱されて高温となった衝突板に衝突し、同時に区画室内で蒸気が一旦乱流状態におかれる。このとき、衝突板は隔壁より薄肉となっているために、隔壁よりも高温状態におかれている。このため、蒸気は高温状態となって区画室内で混合され、その後、透孔から次の区画室へと移動するため、区画室を通過するたびに過熱膨張を繰り返し、熱効率よく過熱蒸気を連続して発生させることができる。
この場合、透孔を通過した蒸気を衝突板に衝突させることができる限り、隣り合う隔壁の透孔の開口位置は、同じであってもよいし、互いに変位させた位置であってもよい。
また、多数の透孔を隔壁の周縁部に穿設し、ドーナツ状の衝突板を各隔壁間に挿入すると、衝突板を高い温度まで加熱でき、蒸気に対する過熱効率はより一層高くなる。なお、このような一体型の装置においても、透孔の数は、タンクの大きさ、通過させる蒸気量などを勘案して適宜設定しればよい。
また、高周波交流電源に接続させたコイルを、タンクに沿って進退させる構成としてもよい。これにより、タンク内におけるジュール熱が発生する部分を移動させることができる。よって、タンク内の磁性部材が過加熱の状態になるのを防止でき、磁性部材が過加熱の状態になって磁性を失うこともないため、安定した温度制御が可能となる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。