本発明の構造体、及び構造体の製造方法、構造体の形成の概念等に関して図面を参照しながら詳細に説明する。さらに、本発明による電子デバイス、磁気記録媒体、触媒能を有する機能性膜、電子放出素子について説明する。
[構造体について]
図1に本発明の構造体の模式図を示す。構造体は、基体104の表面上に形成された膜の形態をなしており、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間で化合物を形成し得る元素AのSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物を含んでなる第一の部材と、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)及び元素Aのうちのいずれか一方を含んでなる第二の部材とを含み構成されている。SinGe1-n(ここで0≦n≦1)は、n=1の場合にはSiであり、n=0の場合にはGeであり、0<n<1の場合にはSi及びGeを含んでなる物質(以後、この物質をSiGeと略記することがある)である。第一及び第二の部材はいずれも柱状部材である。ここで、柱状部材とは、基体104の表面(あるいは基体上に形成された前記第一及び第二の部材で構成される膜と基体との界面)に対してほぼ垂直に形成されている部材であることを示す。元素Aとしては、Li、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bが例示される。
第一の組み合わせ103においては、例えばPdSi、PdGe、PdSiGe等の「元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物」を主として含んでなる第一の部材100が、例えばSi、Ge、SiGe等のSinGe1-n(ここで0≦n≦1)を主として含んでなる第二の部材101に側面を取り囲まれて複数が分散して配置されている。第二の組み合わせ102においては、例えばSi、Ge、SiGe等のSinGe1-n(ここで0≦n≦1)を主として含んでなる第二の部材101’が、例えばPdSi、PdGe、PdSiGe等の「元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物」を主として含んでなる第一の部材100’に側面を取り囲まれて複数が分散して配置されている。尚、実際の構造体では、第一の組み合わせ103及び第二の組み合わせ102のうちの一方が実現されるか、又は第一の組み合わせ103及び第二の組み合わせ102が混在する。なお、横断面形状とは、基体上に形成された前記第一及び第二の部材で構成される膜と基体との界面に対して垂直な方向から当該膜を見た場合の形状である。即ち基体上に前記膜を形成した場合の、当該膜の平面形状である。
柱状部材100,101’;101,100’は、膜厚方向即ち基体104の表面に対してほぼ垂直に延びており、その横断面形状は膜厚方向の位置によらずほぼ一定である。従って、膜状構造体の横断面形状は、基体側とは反対側の主面を形成する柱状部材100,101’;101,100’の上端面の形状と実質上同等である。
図1では、柱状部材100,101’がランダムに並んでいるが、これに限定されるものではない。とくに、後述のように、基体の表面に所望の凹凸構造等を形成することで該凹凸構造等のパターンに対応して異方性を持たせた基体を利用したり、原料の拡散に対して異方性をもつようにした基体を利用したり、第一の部材及び第二の部材の形成に影響を与え得る表面特性において異方性の所望パターンをもつように形成した下地層を利用したりすることで、図4のように柱状部材100,101’;101,100’をある方向400に配列させることも可能である。また、作製条件、材料の組成等により柱状部材の上面の形状は、細長く伸びた楕円形、さらに細長く屈曲した構造を含むものである。
本発明においては、相分離構造の一方の相を構成する複数の柱状部材100,101’(又は他方の相を構成する複数の柱状部材101,100’)における横断面形状(または端面形状)の長軸方向の平均直径Dlと短軸方向の平均直径Dsとの比Dl/Dsが5以上である。図3に示すように、横断面形状(または端面形状)において屈曲部を複数有し又は分岐している柱状部材の長軸方向の直径は容易には決定できない。ここで、短軸方向の直径301は複数の柱状部材について比較的幅が一定であることから柱状部材の横断面形状(または端面形状)における短い部分を幅として任意の場所で定義できる。しかし、長軸方向の直径は直線を引くことでは算出できないため、柱状部材の横断面形状(または端面形状)における屈曲部を引き伸ばし又は分岐部分を切断し直列に接続して擬似的に細長い長方形としてみなしてから長軸方向の直径300を算出することが有効である。
ここで、図2のフローチャートを用いて、[長軸方向の平均直径Dl]/[短軸方向の平均直径Ds]≧5を満たす構造体かどうかの判別法を説明する。
(a)先ず、本発明の構造体の表面を電子顕微鏡により観察し、柱状部材の上端面の形状が判別可能な画像を取得する。このとき、元素構成によっては走査型電子顕微鏡では構造が不明瞭にしか観察されない場合があるため、透過型電子顕微鏡により上端面からの2次電子からの結像だけでなく透過電子の結像をも用いて画像を取得しても良い。
(b)前記(a)にて取得した画像を適宜のソフトウエアにて画像処理し、2値化する。例えば、本発明に属する構造体の画像を2値化したものが図2(b)に示されている。ここで、構造体の特徴として柱状部材の上端面の形状が屈曲部を複数有し又は分岐しているものに関しては直径の概念の形成が困難であるため解析に際して、以下のようにした。
(c)画像処理ソフトウエアにより2値化した画像の柱状部材を認識させ、一方の相について、個々の柱状部材の面積を算出する。さらに、短軸方向と思われる方向の直径はほぼ一定であることが画像から認識できるため、複数の柱状部材についての短軸方向の直径の平均値(短軸方向の平均直径)を算出する。そして、それぞれの柱状部材につき[柱状部材の面積]/[短軸方向の平均直径]の式により算出された数値の複数の柱状部材についての平均値を擬似的に長軸方向の平均直径とする。このことは、屈曲し又は分岐したものを長さの等しい長方形とみなして計算したことに相当する。
(d)次に、算出したそれぞれの平均直径を[長軸方向の平均直径Dl]/[短軸方向の平均直径Ds]の式に従って算出する。
(e)最後に、(d)で得られた値が5以上である場合には本発明の構造体であるという判断にいたるものである。
本発明においては、複数の柱状部材における短軸方向の平均直径は、例えば0.5nm以上20nm以下である。
[構造体の製造方法]
膜状の構造体を形成するための基体を準備する。基体104としては、特に限定されるものではない。例えばガラス、石英ガラスなどの酸化物やプラスチックなどからなる絶縁性基板、シリコン、ゲルマニウムやガリウム砒素やインジウム燐などからなる半導体基板、またはアルミニウム等からなる金属基板を目的に応じて用いることができる。さらに、レジスト等によりパターニングされたものも使用可能である。また、基体104は上記材料に限定されるものではない。
更に、構造体を構成する材料であるところの元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)とを個別にまたは一体的に含んでなる材料を準備する。SiGeについては、SiとGeとを個別に含んでなる材料を用いてもよい。即ち、構造体は必ずSi及びGeの双方を除く元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物を含むのであるから、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)と元素Aとを原料として準備する必要がある。ただし、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)と元素Aとは単離している必要はない。元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物と元素A、元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物とSinGe1-n(ここで0≦n≦1)、元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との混合物などの形態でもかまわない。これらの材料を用いて、基体104に対して非平衡状態において原料となる元素の堆積を行い目的の構造体を得ることが可能である。このとき、上記のように、柱状部材の短軸方向の平均直径Dsが0.5nm以上20nm以下である構造体を形成するためには、基体104上で原料となる元素が急速に冷却される、すなわち原料となる元素のエネルギーが急速に失われるような状態が好ましい。ただし、原料となる元素の相分離が起こるような時間のスケールで表面拡散を起こすような状況にする。これにより、従来バルクで試みられてきた手法(全体を溶解して、一方向急冷凝固する手法)では容易には達成不可能であったような微細な組織を原料となる元素の堆積方向に一様に形成することが可能になる。さらに、好ましくはこの非平衡状態における成膜手法としては、スパッタリング法、電子線蒸着法など気相中・真空中で行うものが好ましく、特にスパッタリング法で行うことが好ましい。スパッタリング法については、図20に示されるように主に原料を含むスパッタリングターゲット2001に対して基体104が対向するように配置される。また、スパッタリングターゲット2001の状態は、所要の原料を含むものであれば、合金でもかまわないし、焼結したものでもかまわない。また、図20に示されているように、一方の材料をターゲットとして配置し、他方の材料を任意の大きさの板としてターゲットの上に配置して使用しても良い。例えば、スパッタリングターゲット2001がSinGe1-n(ここで0≦n≦1)からなり、その中心部分に配置されたSinGe1-n(ここで0≦n≦1)またはある元素(元素A)の板2002がPdからなるという具合である。さらに、スパッタリングとはアルゴンなどのプロセスガスによりスパッタリングターゲット2001から弾き飛ばされた原料が逐次基体104に堆積するものであり、対向するように配置される基体104に対して成膜方向2005が堆積方向である。さらに、弾き飛ばされた原料は高いエネルギーを有しており、基体104上で急速にエネルギーを失い、さらに基体の表面をある程度拡散するので本発明の構造体を得るためには有効な手法である。従って、スパッタリング法におけるスパッタリングターゲットと基体との間の距離2004、投入電力、プロセスガスの種類・圧力、基体104の温度、基体104に印加するバイアス電圧等により高度に構造体の形成を制御することが可能である。
本発明の構造体は、原料となる元素等の基体104上での相互拡散による自己組織的な構造形成を基本としており、成膜速度が速くなりすぎる状況では相分離が完了する前に逐次原料となる元素等が堆積してくるため相分離の程度が弱くなる傾向がある。従って、成膜速度が遅いほうが分離には有効である。スパッタリングターゲットと基体との間の距離2004を大きくすることによっても成膜速度を十分遅くすることが可能ではある。しかし、基体104までの距離が長くなりすぎると堆積する原料となる元素等のエネルギーが基体104に飛来する前に低くなり基体104上で拡散する時間は有していても拡散するエネルギーが足りなくなることがある。そこで、そのような状況下において基体104へバイアス電圧を印加する、または基体温度を上げることにより、基体104上に飛来した原料の拡散に要するエネルギーを与えてやるということも可能である。従って、上記のことを勘案して、成膜条件を適切に保つことが本発明の構造体の形成には好ましい。
最後に、本発明の構造体は、上記例示のものの他どのような基体104の表面上へも適用できるものであり、各々の形成条件において基体104の損傷を伴わない状況があり得るものである。また、構造体の膜としての厚さは、形成時間を長くすることでいくらでも厚くすることが可能である。しかし、形成される膜に発生する応力等を適切に維持することを勘案して、基体104の種類及び所望により該基体の表面層として形成される下地層の種類などは適宜選択するのが好ましい。
また、基体104に、構成したい相分離構造の横断面形状(または端面形状)における柱状部材の幅の整数倍に相当する周期(間隔)をもって、ある方向400に延びて並列した複数の凹凸構造(テクスチャー)を形成する。これにより、図4に示す模式図のように本発明の構造体における相分離構造における各相をある方向に配列させることが可能である。また、このテクスチャーは、凹凸により形成したものであることが好ましいが、構造体を形成する原料の拡散に対して異方性を持たせることが可能であれば、凹凸に限定するものではない。したがって、成膜時の堆積を基体に対して斜め方向からおこなうことにより、基体へ入射してくる原料自体の運動方向に異方性を持たせることによって実施することも好ましい。
[構造体の形成の概念等]
本発明の構造体の形成に関して、更に述べることにする。
まず、無機材料をもとに自己組織化を利用したナノスケールの構造体の形成に関する提案は、従来まれである。ただ、上述のように、主にアルミニウムとシリコンとを用いた相分離構造が提案されている。しかし、その提案においては、図5(a)に示すような2元系の全率共晶型の状態図を有していることが必要であることから、このような状態図を有する元素の組み合わせというものは、意外と少ないことが判る。かくして、このような構造体をその他の元素の組み合わせで達成させることは非常に困難であると考えられていた。すなわち、図6(a)に示す概念図のように、2元系において全率共晶型である場合には、これらの化合物を作らないため、飛来した元素(原子などの形態)601の基体表面603での相分離過程604がスムーズに進むことが考えられる。しかし、2元系の状態図において図5(b)のような場合においては、形成可能な複数の化合物501が存在し、基体104上において化合物の形成と相分離とが同時に進行するのは複雑であることが予想される。即ち、図5(c)や(d)のように原料元素等と化合物との間において共晶型の状態図である場合においても、図6(b)の概念図のような表面拡散する元素602が化合物605を形成してさらに凝集するような相分離過程604を逐次生ぜしめるであろうということが自明でないことは容易に想像できるものである。さらには、無機材料にて2層分離構造を有し、かつ図1ないし図4に示すようなラメラ構造と呼ばれる構造を呈するものは、従来、ナノスケールでは見出されていないことからも困難さが示唆される。
しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、非平衡状態の成膜条件を巧く制御してやることで、図5(c)や(d)のような原料元素等とその化合物と間においても相分離が可能であることを見出した。従って、本発明により、従来適用不可能であると思われていた材料の多くを用いてナノスケールの相分離構造をもつ構造体とくにラメラ構造の構造体を形成することが可能になった。
本発明の主要な特徴はSinGe1-n(ここで0≦n≦1)あるいはSi及びGeの双方を除く元素Aと、該元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物との間における相分離構造である。それらは構成元素等同士の間においては全率共晶型でなくともよいのである。従って、選択可能な材料としては原料となる元素Aを、Li、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bのうちから選択することが好ましい。ただし、本発明の構造体を形成できるものであれば、元素Aとして上記以外の元素を用いてもよい。また、上記原料以外の元素が30atomic%以下で添加されていることも好ましい。更に好ましくは、上記原料以外の元素の添加量は15atomic%以下である。特に、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)と全率において共晶型の状態図を有する材料の一部添加を行うことも好ましい。そのような材料としては、例えばAl,Zn,Ag,Au,Sb,Sn,Inが例示される。添加とは、上記元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物よりも組成割合が低いということを指すものであり、組成はatomic%にて比較され得るものである。
また、本発明の構造体は、その部材のうちの一方を元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物が占めている。しかし、この化合物とはSinGe1-n(ここで0≦n≦1)と元素Aとの間に複数の結合が存在していることであり、必ずしも結晶化している必要はないものである。特に、非晶質の状態であることも応用上好ましい。例えば、パラジウムとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)とからなる系においては、PdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物(即ち、AがPdであるA(SiGe)y:尚、yについては後述)とSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間で図5(d)のような共晶型の状態図を有している。この場合、本発明の構造体を形成することが可能である。しかし、PdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物として存在する場合には、この化合物の結晶としてのみでなく、非晶質として分離構造を形成していてもかまわない。従って、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)のみをエッチングする場合においても、PdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の結晶はエッチングされなくとも、非晶質状態のPdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物ではSiまたはGeのダングリングボンドが複数存在するためエッチングされうる場合がある。この場合、結合の甘いSiまたはGeはエッチングされ、Pd組成の高いものが残されるということもありうるのである。このように、本発明においては、構造体を構成する部材のうちのいずれか一方を除去する場合において、他方が少し侵されることをも許容するものである。
また、本発明で選択可能な元素Aにおいて、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物を形成する組成に関しては材料ごとに色々な状態を取るため一律に表現することが出来ない。しかし、図5(b)のような状態図において図5(c)や(d)の状態図として取り出せるものが有効である。そのときの図5(c)が示す元素Aが多数を占めるAx(SiGe)または図5(d)が示すSinGe1-n(ここで0≦n≦1)が多数を占めるA(SiGe)yのx,yの値は材料固有である。しかしながら、一旦x,yの値が決まると組成の範囲も決まる。例えば、Ax(SiGe)の場合には、AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との全量に対するAの組成範囲[atomic%]は、(100x+15)/(x+1)以上(100x+85)/(x+1)以下において選択することが好ましい。また、この組成範囲においても本発明の構造体を形成するかどうかは作製条件によるため、最低限満たす必要がある組成範囲を示している。したがって、この組成範囲内かつ前述の柱状部材の長軸方向の平均直径Dlと短軸方向の平均直径Dsとの比が5以上であることから本発明の構造体であるか判断されるものである。さらに、A(SiGe)yの場合には、AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との全量に対するAの組成範囲は、15y/(y+1)以上85y/(y+1)以下において選択することが好ましい。このAx(SiGe)はSinGe1-n(ここで0≦n≦1)一個あたりX個のAが存在する組成の比を表している。A(SiGe)yにおいても同様である。たとえば、前述のPdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物と、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)とにおける系を考えれば、PdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物はA(SiGe)y型であり、y=1である。つまり、AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)は1:1の同量のときに形成される化合物であるということである。このときの、Aの組成範囲は、15y/(y+1)以上85y/(y+1)以下から選択することが好ましいということ、即ちこれにy=1を代入して得られる7.5atomic%以上42.5atomic%以下ということになる。これは、PdとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の系のy=1の場合に成り立つものであり、もしy=2などの場合には10atomic%以上56.667atomic%以下となる。
上記のSinGe1-n(ここで0≦n≦1)は、SiとGeとの組成を表現しており、Si組成が100n[atomic%]、Ge組成が100(1−n)[atomic%]である。一方、Ax(SiGe)は、AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との比率のみを表現しており、組成に換算すると、A組成が100x/(x+1)[atomic%]、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)組成が100/(x+1)[atomic%]である。
また、本発明の構造体の形成される条件というのも一律ではなく、選択される材料固有のものとなるが、本発明者らは鋭意検討の結果、ある相関を見出したので、これを以下の表1及び表2に記載する。
上記の表1及び表2には、いくつかの主だった材料を選択した場合の状態図における共晶温度[℃]を示した。また、基体104の温度を室温とし、基体104へのバイアス電圧印加等も無い条件にてスパッタリング法で作製した構造体の柱状部材の平均直径[nm]を示した。その他の条件としては、ターゲットと基体との間の距離は約80mm、プロセスガスはアルゴンを0.1Pa、投入電力は4インチサイズのターゲットに対してSi系の場合には120WとしGe系の場合には60Wとした。注意としては、組成は2相分離構造における双方の柱状部材の上端面形状が図2(b)の画像のような状況となるように設定した。そのため表に記載の柱状部材の平均直径としては、一方の相に対する短軸方向の直径の平均値を示している。また、共晶温度は一般的なバルクの平衡状態図を参照したものであるが、この場合にはある程度の誤差を含んでいても、本発明者らの見出した相関関係には実質上影響はない。
表1及び表2から見て取れるように、柱状部材の平均直径は、共晶温度が高くなるほど小さくなり、あるところで本発明の構造体を形成しなくなることがわかる。これらのうち、本発明の構造体を形成する4つのデータに基づき大まかに(一次近似にて)相関を定式化すると、以下のようになる。材料の選択にかかわらず、所望の柱状部材の平均直径に対してどのような共晶温度の材料を選択することが可能であるかの判断ができるのである。
Si系の場合には
[共晶温度℃]=1280℃-75x[柱状部材の平均直径nm] [1]
Ge系の場合には
[共晶温度℃]=897℃-37x[柱状部材の平均直径nm] [2]
また、式[1],[2]において注目すべきは、柱状部材の平均直径が0となる場合、つまりSi系の場合にはおよそ1280℃以上、Ge系の場合にはおよそ897℃以上の共晶温度を有するものに関しては構造体が形成されないことが示唆されるのである。しかしながら、これは構造体の形成条件が前述の様に固定されているためである。基体104の温度をさらに上昇させたり、基体104へのバイアス電圧の印加等により基体表面603における元素の拡散を促進させてやれば、上記の相関におけるSi系の場合の1280℃やGe系の場合の897℃はさらに上昇するものである。ここで示した例は、Si系及びGe系のものであるが、SiGe系においても同様の傾向がある。
ここで、Si系及びGe系における相関を示す式[1],[2]が大きく異なる。これはGeのスパッタリング率(プロセスガス[この場合はArガス]1つに対してはじき飛ばされる確率)がSiに対して大幅に高いことから、Ge系の成膜レートが高いことに起因している。双方の成膜レートを等しくした場合には、Si系、Ge系及びSiGe系の区別なく1つの相関式で表現することができる。尚、前述のスパッタリングでの投入電力(RFパワー)がSi系の場合には120WとしGe系の場合には60Wとして双方での成膜レートの値が近づくようにしているが、これでもまだGe系の場合にはSi系の場合に比べて成膜レートが高い。
参考として、PdSi系に関して述べれば、基体温度に対して、形成される構造体の柱状部材の平均直径を以下の表3のように変化させることができる。
この場合には、
[基体温度℃]=-575+124x[柱状部材の平均直径nm] [3]
というような相関が式[3]として得られるのである。
以上のように、特定の材料のみにかかわるものでなく、統一的な相関を見出すことにより、ナノスケールの領域において所望のサイズの柱状部材を有する構造体を形成することが可能である。
従って、本発明においては、化合物の形成を含みながらも相分離構造を形成した構造体を形成することが可能であることを見出し、さらには材料にほとんどかかわらない相関関係を見出した。それに基づき、非常に有効な相分離構造をもつナノスケールの構造体、及びその製造方法を提供するものである。
また、本発明の構造体は、適当な組成を選択することにより、ある一方の相のみに注目する場合には、長軸方向の長さの長短を制御することが可能である。また、本発明の構造体の形成がされにくい状況(表1及び表2の共晶温度が高い材料)では、適当な組成においても2相分離構造は本発明の条件である長軸方向と短軸方向との平均直径の比5以上の条件を満たさなくなる可能性が存在する。これは、相分離がほとんど生じない状況においては、長い柱状部材とならず、これが細かく切れたような小さな柱状部材が点在する状況となることがありうるということである。しかし、成膜条件を適正化することにより本発明の構造体を形成することは可能である。また、本発明の構造体の分離構造においては、鋭角な部分が少なく、分離構造の各々の均一性が優れている。つまり、短軸方向の直径の揺らぎがすくない。これは平衡状態図において図5に示すような広い温度域にわたり共晶型の相図であるからであり、言い換えれば、相分離構造の形成過程においてただ一つ有する共晶温度において分離が生じるからである。従って、相分離が複数存在する状態図においては、何度かに渡り相分離が繰り返され、複雑な構造に至ることが容易に推測できる。
[迷図構造体、及びその作製方法]
本発明の迷図構造体、及びその作製方法について述べることにする。
本発明の上記相分離構造をもつ構造体から一方の相を形成する柱状部材部分のみを取り除くことにより形成可能である迷図構造体は、図7に示すように、空隙部分700と第一の部材乃至第二の部材701からなる迷図部分からなることを特徴とする。空隙部分700は基体104に対してほぼ垂直に伸びており直線性に優れるのが特徴である。
この迷図構造体の作製に際しては、一方の相を形成する柱状部材部分のみを除去する方法としては、ケミカルウェットエッチング、気相エッチング、プラズマアシストエッチングなど選択性のあるエッチング法が使用可能である。出発点となる本発明の上記相分離構造をもつ構造体が元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物からなる部分とSinGe1-n(ここで0≦n≦1)からなる部分とから構成される場合、ケミカルウェットエッチングにおいては、KOH水溶液などのエッチング液を用いて加熱状態においてSinGe1-n(ここで0≦n≦1)のみをエッチングすることが可能である。また、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)がGe組成の低いまたはGeを含まないものである場合の気相エッチングでは、XeF2などのSiのみのエッチングが可能なエッチングガスを利用することが有効である。特に、XeF2によるエッチングは、本発明の構造体の柱状部材の直径または柱状部材間の間隔がナノメートルサイズであるにもかかわらず、高い選択性を活かしてアスペクト比の高いエッチングを可能にする。さらに、プラズマ等のアシストも不要であり被エッチング部分以外へのダメージが少ないことやレジスト等へのダメージも無いことから自己組織化膜とフォトリソグラフィーとの組み合わせによるプロセスがスムーズに行えるのである。また、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)がGe組成の高いものである場合には、GeまたはSiGeを過酸化水素水にてエッチングすることも好ましい。また、出発点となる本発明の上記相分離構造をもつ構造体が元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物からなる部分と元素Aからなる部分とから構成される場合には、特に元素Aが金属である場合には元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の高い耐薬品性を考え、ケミカルエッチングが非常に有効である。特に、元素Aが容易に酸やアルカリに溶解する場合には速やかに本発明の迷図構造体を得ることが可能である。また、構造体に電気を流せる場合には酸水溶液中にて陽極側に構造体を配置して電圧を印加することによって構造体の一部を加速的に溶解させることも可能である。最後に、この迷図構造体を得る過程において被エッチング部分以外の場所は表面への酸素吸着等による酸化を伴うこともあってもよい。特に、電圧印加した場合には酸化も促進されるために、積極的に酸化したい場合にはこの手段が好ましい。
本発明の迷図構造体を形成する構成元素には、Li、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bが含まれていることが好ましい。更に、迷図構造体を形成する構成元素には、前述の添加元素として適用可能なAl,Zn,Ag,Au,Sb,Sn,In等が含まれていてもよい。但し、これらの添加元素は上記構成元素のいずれかと固溶する範囲にて添加が実施されることが好ましい。
さらに、図4の本発明の構造体を元にして、図8に示すように横断面形状において方向性をもって配列された第一の部材乃至第二の部材701からなる迷図部分を有する迷図構造体を形成することも可能である。その空隙部分701に機能性を有する材料を充填すると、応用上非常に有効な構造体又は膜を得ることが可能である。
[本発明を利用した電子デバイスについて]
本発明における電子デバイスとは、量子ドット、量子細線、量子細線トランジスタ、単電子トランジスタ、あるいは単電子メモリなどである。さらに、それらデバイスを用いた情報処理装置をも含むものである。特に、本発明は元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物とSinGe1-n(ここで0≦n≦1)あるいは元素Aとからなる構造体であることが特徴である。従って、たとえばFe、Ca、Sr、Mg、BaなどとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物などの環境半導体と呼ばれる材料からなる柱状部材の形成が可能であり、それらに微量元素を添加することにより伝導性の制御を行えば細線状の電子デバイスが可能となる。これらの場合には、それぞれのバンドギャップに応じて発光する場合も含む。また、量子ドット、量子細線と呼ばれるものに対して、図16に示されるような本発明の構造体1601に対してソース電極1603、ドレイン電極1604を有し、ゲート電極1602にて電子の移動を制御するようなトランジスタを構成すること等が実現可能である。また、本発明の構造体は、図1だけでなく、図4に示すようなある方向に配列させることも可能であることから、電子デバイスにおいては配線としての能力も有する。
[本発明を利用した磁気記録媒体、磁気記録再生装置、及び情報処理装置について]
本発明の磁気記録媒体を説明するための磁気記録媒体の層構成について図9を用いて説明する。磁気記録媒体は、まず基体104上に磁気ヘッドからの磁束が記録層903へ集中するように軟磁性層901が形成され、さらに記録層の構造や結晶の配向などを制御する目的の下地層902が続き、それを介して記録層903が形成されている。媒体の劣化やヘッドの浮上安定性と耐衝突性とを兼ね備えるために保護層904と潤滑層905とが順に形成されていることが好ましい。ただし、これは最低限の層構成であって、各層間に更に1つ又は複数の層を適宜挿入してもよい。
さて、本発明の磁気記録媒体における第一の発明とは、自己組織的に第一及び第二の柱状部材からなる2相分離構造をもつ本発明の構造体を下地層902として、その上に形成される記録層903を構成する硬磁性部分が、下地層902の第一及び第二の部材のうちの一方の柱状部材に対応して該柱状部材と接続されて位置していることを特徴とするものである。即ち、下地層902の2相分離構造の一方の相を構成する柱状部材とほぼ同一の横断面形状を有する硬磁性部分1001が、上記柱状部材と一対一に接続した構造を有するものである。図10を用いてこれを説明する。下地層902として本発明の構造体からなる層(膜)1000を適用し、その構造体の一方の相の柱状部材の各々に対して記録層903を構成する硬磁性部分1001が同一の横断面形状で連続的に接続していることが特徴である。また、本発明の構造体からなる層1000の他方の相の柱状部材部分が記録層903に含まれる非磁性領域1002と連続的に接続していることを特徴とする磁気記録媒体である。本発明においては、硬磁性部分1001を含む記録層903を形成する初期に硬磁性部分1001の核形成を下地層902の柱状部材によりすみやかに発生させることができるのが特徴である。この下地層を形成する本発明の構造体の構成元素Aには、Li、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bが含まれていることが好ましい。さらに、記録層903の形成手段は化学気相成長法(Chemical Vapor deposition)、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法などが好ましい。特にスパッタリング法等の気相中成膜法が好ましい。記録層903の材料としては、適当な組成を有するCoCr、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoPt-MgO、FePt-MgO、CoPt-SiO2、FePt-SiO2、CoCrPt-SiO2、Co/Pt系、Fe/Pt系、Co/Pd系、Fe/Pd系多層膜等を選択することが好ましく、その他スパッタリング法のような気相中成膜法が適用できる材料であればどのような材料でも適用可能である。そして、下地層902の表面において、図4に示すように、本発明の構造体の柱状部材がある好ましい方向に配列していることが好ましい。それにより20nm以下の短軸方向平均直径を有する硬磁性部分1001のある方向に直交する方向の直径の分散も低減され、この後者の方向に沿って情報単位列を配置して記録した場合には非常に低ノイズの磁気記録媒体の提供が可能である。これは、本発明の構造体における柱状部材の短軸方向の平均直径の分散が非常に小さいという特徴が有効に働いている。また、本発明の磁気記録媒体は、垂直記録方式・面内記録方式のどちらにも適用可能である。
次に、本発明の磁気記録媒体における第二の発明とは、自己組織的に第一及び第二の柱状部材からなる2相分離構造をもつ本発明の構造体を下地層902として、その上に形成される記録層903を構成する硬磁性部分1001を形成する硬磁性粒子が、下地層902の第一及び第二の部材のうちの一方の柱状部材の各々に接続した構造を有することを特徴とするものである。図11を用いてこれを説明する。下地層902として本発明の構造体からなる層(膜)1000を適用し、その構造体の柱状部材の各々に対して記録層903に含まれる硬磁性部分1001を形成する複数の硬磁性粒子が連続的に接続していることが特徴である。また、本発明の構造体からなる層1000の柱状部材部分以外の領域が記録層903に含まれる非磁性領域1002と連続的に接続していることを特徴とする磁気記録媒体である。本発明においては、硬磁性部分1001を形成する硬磁性粒子を含む記録層903を形成する初期に硬磁性部分1001を形成する硬磁性粒子の核形成を下地層の柱状部材によりすみやかに発生させることができるのが特徴である。さらに、記録層903の形成手段は化学気相成長法(Chemical Vapor deposition)、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法などが好ましく、特にスパッタリング法等の気相中成膜法が好ましい。本発明の構造体においては、元素AはLi、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bから選択することが好ましい。記録層903の材料としては、適当な組成を有するCoCr、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTa、CoPt-MgO、FePt-MgO、CoPt-SiO2、FePt-SiO2、CoCrPt-SiO2、Co/Pt系、Fe/Pt系、Co/Pd系、Fe/Pd系多層膜等を選択することが好ましい。その他スパッタリング法のような気相中成膜法が適用できる材料であればどのような材料でも適用可能である。そして、下地層902の表面において、図4に示すように、本発明の構造体の柱状部材がある好ましい方向に配列していることが好ましい。それにより20nm以下の短軸方向平均直径を有する硬磁性部分1001のある方向に直交する方向の直径の分散も低減され、この後者の方向に沿って情報単位列を配置して記録した場合には非常に低ノイズの磁気記録媒体の提供が可能である。これは、本発明の構造体における柱状部材の短軸方向の平均直径の分散が非常に小さいという特徴が有効に働いている。また、本発明の磁気記録媒体は、垂直記録方式・面内記録方式のどちらにも適用可能である。
次に、本発明の磁気記録媒体における第三の発明は、第一及び第二の柱状部材からなる2相分離構造をもつ本発明の構造体の第一及び第二の柱状部材のうちの一方の柱状部材部分のみを除去した後にそこに硬磁性材料を充填した記録層を有する磁気記録媒体である。つまり、本発明の迷図構造体の空隙部分に硬磁性材料を充填した場合と同様である。図12に示すのが磁気記録媒体における第三の発明であり、記録層903の模式図である。本磁気記録媒体は硬磁性材料が本発明の構造体の第一及び第二の柱状部材のうちの他方の柱状部材部分と同様の形状を有していることが特徴である。それは構造体から一方の柱状部材のみを除去することにより得られる迷図構造体の空隙部分700に対して、硬磁性体を充填したものだからである。従って、残留する柱状部材が硬磁性材料1200からなり、それ以外の部分が第一の部材乃至第二の部材からなる非磁性領域1201であることが好ましい。この第一の部材乃至第二の部材は、前述の本発明の構造体における部材を指すものであり、それぞれ元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物を含む部材、及びSinGe1-n(ここで0≦n≦1)または元素Aを含む部材である。元素AはLi、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bから選択することが好ましい。これらの元素は、組成によって磁性を持つことになるものもあるが、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間での化合物においては硬磁性とはなり得ないことから、少なくともSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間での化合物の使用が可能である。
また、硬磁性材料1200としては、Co、Fe、L10規則合金であるMPt(M=Co、Fe、Niのうち一つ以上からなる)、L12規則合金であるM3Pt(M=Co、Fe、Niのうち一つ以上からなる)を主成分とする材料、さらにCoまたはFeとPtまたはPdを主成分とする多層膜等から選択することが好ましい。また、充填方法としては、迷図構造体の空隙部分700へ硬磁性材料が導入されれば、手段を問わないが、化学気相成長法(Chemical Vapor deposition)、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法などが好ましい。また、メッキ法が電解メッキの場合には記録層903の下部の下地層902には低抵抗金属が含まれることが好ましい。
さらに、本発明の磁気記録媒体における第四の発明は、第一及び第二の柱状部材からなる2相分離構造をもつ本発明の構造体の第一及び第二の柱状部材のうちの一方の柱状部材部分のみを除去した後にそこに軟磁性材料を充填した軟磁性層を有する磁気記録媒体である。つまり、本発明の迷図構造体の空隙部分に軟磁性材料を充填した場合と同様である。図13に示すのが磁気記録媒体における第四の発明であり、軟磁性層901の模式図である。本磁気記録媒体の軟磁性層は、本発明の構造体の第一及び第二の柱状部材のうちの他方の柱状部材部分と同様の形状を有していることが特徴である。それは構造体から一方の柱状部材のみを除去することにより得られる迷図構造体の空隙部分700に対して、軟磁性体を充填したものだからである。従って、残留する柱状部材が軟磁性材料1300からなり、それ以外の部分が第一の部材乃至第二の部材からなる非磁性領域1201であることが好ましい。この第一の部材乃至第二の部材は、前述の本発明の構造体における部材を指すものであり、それぞれ元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物を含む部材、及びSinGe1-n(ここで0≦n≦1)または元素Aを含む部材である。元素AはLi、Na、Mg、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Bから選択することが好ましい。軟磁性材料1300としては、Co、Fe、Niのうち2つ以上からなる合金、L12規則合金であるMPt3(M=Co、Fe、Niのうち一つ以上からなる)等を主成分とした高透磁率な材料を選択することが好ましい。また、充填方法としては、迷図構造体の空隙部分700へ軟磁性材料が導入されれば、手段を問わないが、化学気相成長法(Chemical Vapor deposition)、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法などが好ましい。また、メッキ法が電解メッキの場合には軟磁性層901の下部の基体104には低抵抗金属が含まれることが好ましい。
さらに、本発明の磁気記録再生装置は、上記の本発明の磁気記録媒体における第一、第二、第三、第四の発明を用いることが特徴である。この磁気記録再生装置は、図14に示す模式図のように、筐体の中に本発明の磁気記録媒体1400のいずれかと媒体を駆動する磁気記録媒体駆動部1401と磁気ヘッド1402と磁気ヘッド駆動部1403と信号処理部1404から構成されることを特徴とする。また、本発明の磁気記録再生装置においては、記録再生方式は、図14に示されるような媒体の回転駆動及びヘッドの円弧上の駆動のみに限定されるものではない。
また、本発明の磁気記録再生装置を用いた情報処理装置について説明する。図15に示すように、本発明の情報処理装置は、格納容器1500内に磁気記録再生装置1501と演算部1502とメモリ部1503と電源1504とを格納している。各々を配線1506で接続し、各種情報が外部入出力部1505を介してやり取りされることを特徴とする。また、配線1506や外部入出力部1505は、有線を指すだけでなく、情報の受け渡しが可能であれば無線で行うことも好ましい。
[本発明の迷図構造体を利用した触媒能を有する機能性膜について]
前記の本発明の迷図構造体は、通常の膜の状態に比べて格段に表面積が増大しており、なおかつナノスケールにて構造が繰り返されている。このため、同様の構造物においてもミクロンサイズとは異なりナノスケールという点において多大なメリットを有することが特徴である。本発明の迷図構造体と同様の形状を柱状部材の短軸方向平均直径が1μm、最近接の柱状部材の平均間隔(配列ピッチに相当)が2μmにて実現している場合と、本発明の迷図構造体の一例として柱状部材の短軸方向平均直径が5nm、最近接の柱状部材の平均間隔(配列ピッチに相当)が10nmのものとを比較する。表面積を比較すると、柱状部材の側面の面積比がその違いにあたり、柱状部材が一直線に配列していると仮定すると、配列方向と直交する方向の周期の比から表面積比が算出可能である。したがって、周期の比が2μm/10nmであることから、本発明の構造体の方が200倍も表面積を大きくとることが可能なのである。そこで、表面積を有効に利用するような手法すなわち触媒能を有する機能性膜においては非常に有効であることがわかる。また、本発明の機能性膜では、迷図構造体における第一の部材乃至第二の部材701として、触媒能を有する貴金属材料を含有することが好ましい。特に、Pd、Ptが含有されることが好ましく、さらに貴金属の使用量を少なくするためにその他の材料との合金系で含まれることも好ましい。貴金属としては、所望の触媒能を発揮するものを適宜選択して使用することができる。従って、本発明においては、Pd、Ptからなる迷図構造体を形成可能であるが、さらにPdSi、PtSi、PdGe、PtGe等を主成分とすることも好ましい。この場合には、Pd、ないしPtの膜全体(迷図構造体において)に対する組成範囲は、50%前後となり、ナノスケールにて表面積を稼いだ上に貴金属の使用量を半分に抑えることを可能にする。このような触媒は、燃料電池等における水素を効率良く発生させることに利用できるものであり、特にこれらの迷図構造体をプロトン伝導性を担う高分子電解質膜と一体化させることが好ましい。つまり、模式図としては、図17に図示されるような構成であり、貴金属含有メンブレン1702の空隙部分700の壁に沿って電解質膜1701の一部が侵入して一体化していることが好ましい。この作製は、前記迷図構造体を作製し、電解質膜を塗布・圧着し、構造体部分が支持されていた基体104から引き剥がすことで作製可能である。
[本発明の構造体及び迷図構造体を利用した電子放出素子について]
本発明の電子放出素子は、本発明の構造体に対して引き出し電極を設けたものであり、本発明の構造体がナノスケールでの相分離構造をもつことから低抵抗な各々の柱状部材へ電界が集中し、より閾値の低い電子放出素子の形成が可能である。好ましくは、さらに本発明の構造体の第一及び第二の柱状部材のうちの一方の柱状部材部分を取り除くことで、最表面以外の側面も関与した電子放出素子の形成が可能である。
まず、図18の模式図に示すように、電子放出部1801となる柱状部材(2相分離構造の一方の相を構成するもの)を複数含む開口を有する引き出し電極1803が絶縁層1802で電子放出部1801と隔たれて形成されている。電子放出部1801の下に位置する下地電極1800と引き出し電極1803との間にバイアス印加回路1805にて電圧が印加され、それにより電子放出部1801から引き出された電子が電子放出方向1804に放出されることを特徴とする電子放出素子である。
さらに、本発明における柱状部材間の材料(2相分離構造の他方の相を構成する柱状部材のもの)の絶縁性によっては、第一及び第二の柱状部材のうちの一方の柱状部材部分以外の第一の部材乃至第二の部材を引き出し電極1803に設けられた開口部に対応する部分のみ除去することにより、図19の模式図に示すように空隙部分700を形成することが好ましい。そうすることで、電子放出部1801と引き出し電極1803との間に下地電極1800を介してバイアス印加回路1805で電圧を印加することにより電子が電子放出方向1804に放出され、電子放出効率の高い電子放出素子の形成が可能となる。
また、電子放出素子の形態は、図18、19に図示されているものに限るものではない。特に、本発明の構造体の一方の相である柱状部材間にバイアスを印加することで電子を放出させるような構造も好ましい。これと類似の電子放出素子は、空隙部分700を有する上記の本発明の構造体を使用することでも得られる。さらに、上記の電子放出素子において電子放出部1801の表面に薄くカーボンをコーティングすることも好ましい。
なお、上記の電子放出素子の発明は、これらを多数配置した画像表示装置を含むものである。
[実施例1]
本実施例は、本発明の構造体の形成に関するものである。
本発明の範囲に属する構造体は、SinGe1-n(ここで0≦n≦1)と元素Aとを主成分とする2元系以上からなるが、本実施例ではPdSi−Si系、PdGe−Ge系及びPdSiGe−SiGe系を取り上げてその構造について述べることにする。
まず、図20のようにSiのスパッタリングターゲット上の中心にPdの12mm角の金属片を2つ及び6mm角の金属片を2つを配置し、基体104としてGe基板を選択する。ターゲットと基板との間の距離は約80mmであり、基板はターゲットに対して直上に配置する。成膜条件は、基板温度室温、基板へのDCバイアスなし、RF120Wの投入電力で、アルゴンガス圧0.1Paとし、5分間成膜を行う。
また、同様にして、Geのスパッタリングターゲット上の中心にPdの12mm角の金属片を3つ配置し、基体104としてSi基板を選択する。ターゲットと基板との間の距離は約80mmであり、基板はターゲットに対して直上に配置する。成膜条件は、基板温度室温、基板へのDCバイアスなし、RF60Wの投入電力で、アルゴンガス圧0.1Paとし、5分間成膜を行う。
そして、これら基板上に得られた膜の構造観察のために走査型電子顕微鏡にてその表面と断面の構造観察を行う。
そうすると、PdSi−Si系では、Ge基板上に、表面構造としてラメラ状構造をなしており、各々の相の形状が屈曲部を有する細長い形状で、短軸方向の直径がいずれも約4nmの柱状のPdSi部分からなる相とその周りのSi部分からなる相とに分離している構造の確認ができる。さらに、断面観察においてPdSi部分が基板面から垂直に膜が堆積する方向に伸びた柱状構造を有していることも確認できる。SiとPdの組成を蛍光X線による分析から算出するとこの場合においてはPdが約20atomic%である。また、膜厚は約45nmである。
PdGe−Ge系では、Si基板上に、表面構造としてラメラ状構造をなしており、各々の相の形状が屈曲部を有する細長い形状で、短軸方向の直径がいずれも約4.5nmの柱状のPdGe部分からなる相とその周りのGe部分からなる相とに分離している構造の確認ができる。さらに、断面観察においてPdGe部分が基板面から垂直に膜が堆積する方向に伸びた柱状構造を有していることも確認できる。GeとPdの組成を蛍光X線による分析から算出するとこの場合においてはPdが約25atomic%である。また、膜厚は約55nmである。
更に、Siのスパッタリングターゲット上に、Pdの12mm角の金属片を2個及び6mm角の金属片を2個配置し、且つGeの10mm角の金属片を1個配置し、RF100Wの投入電力で、成膜を実施する。基板としては、MgO基板を用いる。そうして得られる膜においては、表面構造としてラメラ状構造をなしており、各々の相の形状が屈曲部を有する細長い形状で、短軸方向の直径がいずれも4nm弱の柱状のPdSiGe部分からなる相とその周りのSiGe部分からなる相とに分離している構造の確認ができる。さらに、断面観察においてPdSiGe部分が基板面から垂直に膜が堆積する方向に伸びた柱状構造を有していることも確認できる。SiGeとPdの組成を蛍光X線による分析から算出するとこの場合においてはPdが約18atomic%である。また、膜厚は約50nmである。このように、PdSiGe−SiGe系においても、PdSi−Si系やPdGe−Ge系と同様に、本発明の構造体の形成が確認される。
また、Ge基板に対して上記のある方向に延びた複数の凹凸構造を約8nmの周期にて形成させる。これは、ダイヤモンドスラリー等を染み込ませた研磨テープによるテープバーニッシュにより形成する。この基板に対して、上記と同様の条件にてPdSi−Si系の材料をスパッタリングにより成膜すると、図4の模式図に示されるような凹凸構造に沿った相分離構造の配列が見出されることがわかる。この配列の特徴は、本発明の構造体において重要である。
[実施例2]
本実施例は、得られる構造体が本発明の範囲内のものであるかどうかを判断する手段に関する。
実施例1に記載の一方の相を構成する柱状部材がPdSiであり短軸方向平均直径が約4nmの構造体を1つの例として、その走査型電子顕微鏡像を利用して図2に示すフローチャートに従い判定を行うこととする。
ちなみに、この画像を2値化したものが図2(b)に示される画像に対応するものである。そして、2値化した画像から(c)に従い個々の柱状部材の上端面の面積を短軸方向の平均直径の算出値Ds=約4nmで割ることとする。それで得られる値の平均値を算出すると長軸方向の平均直径Dlとして約33nmを得る。最終的に、Dl/Dsを計算すると33/4となり8.25が導かれ、5以上であることから本発明の構造体に属することが示せるのである。
ただし、本判定法において、画像が含む領域に対して構造体の一方の相を構成する柱状部材のサイズが大きすぎる場合には、画像の周辺部で該柱状部材が切れているものも含んでしまうことを考慮すると、計算上は面積がやや低く見積もられることが予想される。このため、周辺部にて切れる部分が多い場合には、画像の領域を広げる等して、周辺部にて切れる部分が少なくなるような領域設定を適宜行うことが好ましい。本実施例においても、Dl/Dsの値は、より好ましい領域設定を行えば、8.25ではなく、もう少し大きな値をとることがわかる。
[実施例3]
本実施例は、本発明の構造体が複数の材料から選択可能であることを示すと同時にそれらにおいて材料にかかわらず存在する相関関係に関する。
実施例1のように相分離構造の各々の相の柱状部材における上端面の形状が屈曲部を有する細長い形状であるような組成に対して、成膜をCu3Si-Si系、PdSi-Si系、NiSi-Si系、CoSi2-Si系、TiSi2-Si系、WSi2-Si系、更にCu3Ge-Ge系、PdGe-Ge系、NiGe-Ge系、TiGe2-Ge系において試みる。それらの構造の平均直径を走査型電子顕微鏡にて観察すると上記の表1及び表2を得る。但し、ここでは、PdSi-Si系の組成は実施例1のものと異なる。
表1及び表2にはバルクの平衡状態図から読み取れる共晶温度[℃]と本実施例にて観察される柱状部材の短軸方向の平均直径[nm]とを列記している。ここから上記式[1],[2]に示される相関関係が見出せる。
このように、同じような構造体が得られる成膜条件や組成においては、異種材料やそれらの組成差に大きく依存しないという意味深い関係を導き出せる。これは、今までにない新たな発見であり、本発明において最も重要な事項の1つである。
[実施例4]
本実施例は、本発明の構造体が同一の材料と組成においても構造のサイズ等が変化することに関しての相関関係に関する。
本実施例では、代表例としてPdSi-Si系を用いて説明する。実施例3と同様の条件で但し基板温度のみを室温の25℃、200℃、300℃と変化させて成膜を実施し、一方の相の柱状部材を形成するPdSiの上端面の短軸方向の平均直径を計測すると上記の表3を得る。即ち、基板(基体)の温度に応じて、形成される構造体の柱状部材の短軸方向平均直径が表3のように変化する。ここから上記式[3]に示される相関関係が見出せる。
この相関もまた本発明において最も重要な事項の1つであり、実施例3とあわせると所望の柱状部材の短軸方向直径を得るためにはどのような材料をどのような条件で実施することが好ましいかという指針を与え得るものである。
[実施例5]
本実施例では、原料の種類や組成による構造の変化ではなく、スパッタリング法において制御可能なパラメータに依存して構造体が変化することに関する。
まず、スパッタリング法におけるパラメータとしては、スパッタリングターゲットと基板との間の距離、投入電力、プロセスガスの種類・圧力、基板温度、基板バイアスの印加等があげられる。
まず、4インチターゲットに対して投入電力を120Wとし、アルゴンガス圧を0.1Pa、基板温度室温に固定する。そして、スパッタリングターゲットと基板との間の距離(以下、基板間距離ということがある)の60mm、90mm、120mmに対して代表例としてPdSi-Si系を用いて構造の違いを見ることにする。基板にはGe基板を用いることとする。基板間距離が増加するに従ってPdSiの柱状構造の境界がやや不明瞭かつサイズ分布が大きくなることが観察され、基板間距離が増加するに従いスパッタリングされた原料粒子が基板まで飛来する間にエネルギーが失われることが確認される。
次に、スパッタリングターゲットと基板との間の距離を90mmに固定し、投入電力を200Wとして、投入電力120Wとの比較を行う。PdSiの柱状構造が不明瞭かつ短軸方向平均直径が小さくなること及び細長い形状が所々で短く分離されかけている部分の存在などが観察される。投入電力の上昇による成膜速度の上昇にともない、基板上での元素の拡散による相分離が早い堆積速度により阻害されることが確認される。
さらに、スパッタリングターゲットと基板との間の距離を90mm、投入電力を120Wに固定し、アルゴンガス圧を0.25Paとして、アルゴンガス圧0.1Paの場合との構造の違いを見ることとする。アルゴンガス圧の上昇に伴い、柱状構造のPdSiの短軸方向の平均直径が小さくなり、さらに境界も不明瞭になることが確認される。即ち、ガス圧の上昇に伴い飛来中に原料粒子のエネルギーが失われることと基板上においても拡散が阻害されることによることが確認される。
基板温度に関しては、実施例4に示すとおりである。ただし、バルクの平衡状態図における共晶温度に近い基板温度となると二次元表面での拡散ではなく、バルクと同様の三次元的な拡散が支配的となるため好ましくないが、一定の温度まではおおむね実施例4に示すことが成り立つことがわかる。
最後に、基板バイアスの印加である。スパッタリングターゲットと基板との間の距離を90mm、投入電力を120W、アルゴンガス圧を0.1Pa、基板温度を室温として、基板バイアスをDCで0V、−20V、−40V印加した場合を行った。ただ、基板の抵抗が大きい場合にはDCバイアスを印加することが不可能であるため低抵抗な基板を使用する。絶縁基板の場合には、RFバイアスを印加することで対応可能である。この場合には、バイアスの印加なしの小さな短軸方向平均直径を有するPdSiの柱状構造が、バイアスの印加を増大させていくにつれ、短軸方向平均直径が顕著に大きくなることがわかる。基板バイアスの効果としては、イオン化した粒子を基板上に引き込み、基板上の粒子と衝突させることにより、エネルギーの受け渡しの結果として表面拡散のエネルギーを増加させ、短軸方向平均直径を大きくすることが挙げられる。また、この効果が行過ぎた場合には、スパッタリングと同様の現象となり、基板表面の粒子が離脱して膜が形成されないこともわかる。
以上のように、スパッタリング法における様々なパラメータの変化によっても構造体の制御が可能であることが示される。
[実施例6]
本実施例は、本発明の相分離構造をもつ構造体から一方の相を構成する柱状部材部分のみを除去することにより得られる迷図構造体に関する。
実施例1に示したPdSi-Si系を代表例として取り上げる。先ず、スパッタリングターゲットの中心付近に12mm角のPd板を2つ及び6mm角のPd板を2つ配置した場合に得られる膜状構造体と、その状況にて基板温度を300℃に変更した場合に得られる膜状構造体とを準備する。前者の膜状構造体は一方の相の柱状部材がSiであり平均直径が約4nmであり、後者の膜状構造体も一方の相の柱状部材がSiであり但し平均直径が約6nmである。
それぞれの膜状構造体のSi部分を除去することにより本発明の迷図構造体の形成が可能である。Si部分の除去にはSiのみをエッチング可能とする選択性を持った手法が好ましく、60℃程度のKOH水溶液中に浸漬することで、Siの選択エッチングが可能であることがわかる。しかし、本実施例の前者の場合は、柱状部材のSiを取り囲むPdSi部分が十分結晶化しておらずアモルファス状であるためSiのダングリングボンドの存在によりSiのエッチングと同時にPdSi部分もゆっくりエッチングされることがわかる。ただ、後者の場合にはPdSi部分の結晶化が進んでおり、エッチングにおいても犯されることなく目的のSiの柱状部材のみが除去され、図7に示すような迷図構造体を得ることが可能になる。以上は液中でのエッチングであるが、気相中のエッチングを行うことも好ましい。そこで、上記の2種類の膜状構造体に対して、XeF2というガスの雰囲気下でのSiの選択エッチングという特徴を利用する方法を試みることが可能である。上記の前者の膜に適用するとSi部分のみならず、PdSi部分のSiをも除去しており、本発明の迷図構造体の形成には好ましくないことが確認できる。しかし、後者の膜ではやはりPdSiが十分結晶化しているためにSiの柱状部材部分のみ選択的にエッチングされていることが確認できる。
以上から、本発明の相分離構造をもつ構造体は、元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の部分が十分結晶化している場合のみに限定するものではないが、本発明の迷図構造体を形成するにあたっては、ある程度元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の部分の結晶化が進んだ構造体を用いることが、選択性エッチングに対して好ましいことが示される。
また、本実施例は元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物とSinGe1-n(ここで0≦n≦1)とからなる構造体を出発点として示している。しかし、元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物と元素Aとからなる構造体においても同様に結晶化が進んでいる元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の高い耐薬品性や耐熱性等を利用して選択的にエッチングすることが可能である。さらに、元素Aが金属である場合には金属固有の酸またはアルカリのエッチング溶液などを用いることで選択的なエッチングが容易に可能である。この場合には、金属の種別にもよるが酸に容易に溶解するために元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の部分が十分結晶化していない場合にも本発明の迷図構造体を得ることが可能である。
[実施例7]
本実施例は、本発明の相分離構造をもつ構造体を用いた電子デバイスに関する。
図4に示すようなある方向に配列させている本発明の構造体の上部に3つの電極を配置する。ちょうど図16のように配置すると電極間には一方の相の柱状部材がほぼ一つ配置されている格好となる。この状況を本発明のNiSi-Si系にて構成されるNiSiの柱状部材とSiの柱状部材とからなる構造体を代表例として利用して実現させることが可能である。これらの図16中の左右の電極(ソース電極1603及びドレイン電極1604)間で計測を行うと図16中の下部の電極(ゲート電極1602)にてバイアスを印加している場合にはトンネル電流が観測されない。しかし、バイアスを解除するとトンネル電流が観測され、NiSiの柱状部材間のSi領域をトンネルして、電極間を電子が通過したことが確認できる。従って、本発明の構造体を利用すると量子ドット、量子細線などの電子デバイス、単電子デバイスに有効であることがわかる。また、ゲート電極1602は直接電気が流れないよう絶縁膜状に形成されている。
[実施例8]
本実施例は、本発明の相分離構造をもつ構造体を記録層制御に用いた磁気記録媒体に関する。
まず、本発明の構造体の相分離構造における特徴は幅広い温度領域に渡って共晶関係にある材料を出発点としている。つまり、図5(c)または(d)のように簡潔な共晶系状態図を有していることであり、現行のCoCr系磁気記録媒体における相分離構造と比較した場合、柱状部材の平均直径などの分散や柱状部材の形状において、本発明の構造体の方が優れている。さらに、図9の磁気記録媒体における記録層903の初期層と呼ばれる初期の結晶配列などが乱れた層領域が磁記録性などに悪影響を及ぼすことがわかっている。これを克服するために、本発明の構造体を下地層902として用いることで、記録層形成初期の層領域から、構造体の柱状部材部分に記録層903の磁性粒子がエピタキシャルに成長を開始する核の役割を果たさせる。これにより、非常に磁性粒子の形状制御と結晶性制御にすぐれた記録層903の形成が可能である。また、構造体がラメラ構造を有しており、さらに図4に示すようにある方向に配列を有していることから、この配列に直交する方向を記録方向とする。
まず、図4に示すようなある方向に配列している本発明の構造体であるPdSi-Si系を代表例として取り上げ、これを下地層として準備し、引き続きCoCrPt-SiO2系の材料をスパッタリングにより成膜する。この試料の断面方向からの透過型電子顕微鏡による観察を実施すると、本発明の構造体からなる下地層の一方の相を構成する柱状部材をなすPdSiと記録層を形成するCoCrPtとがエピタキシャルに接続して結晶成長していることが確認できる。さらに、PdSiの周りのSi部分に対応してSiO2部分が成長しており、CoCrPtが下地層におけるPdSiの直径の低分散な状態を保ったまま記録層を形成できることが確認できる。この状況は、低ノイズな磁気記録媒体の提供において重要である。つまり、CoCrPtが記録方向に対して垂直に細長い構造を有することは、記録方向の磁気的な分離という特徴を備えつつ、熱に対して安定となる体積を確保することを可能とするものである。
以上のように、本発明の構造体は結晶成長における非常に優れた下地層としての役割を果たすことが可能であることがわかる。
[実施例9]
本実施例は、本発明の相分離構造をもつ構造体を記録層制御に用いた磁気記録媒体に関する。
まず、本発明の構造体の相分離構造における特徴は幅広い温度領域に渡って共晶関係にある材料を出発点としている。つまり、図5(c)または(d)のように簡潔な共晶系状態図を有していることであり、現行のCoCr系磁気記録媒体における相分離構造と比較した場合、柱状部材の平均直径などの分散や柱状部材の形状において、本発明の構造体の方が優れている。さらに、図9の磁気記録媒体における記録層903の初期層と呼ばれる初期の結晶配列などが乱れた層領域が磁記録性などに悪影響を及ぼすことがわかっている。これを克服するために、本発明の構造体を下地層902として用いることで、記録層形成初期の層領域から、構造体の柱状部材部分に記録層903の磁性粒子がエピタキシャルに成長を開始する核の役割を果たさせる。これにより、非常に磁性粒子の形状制御と結晶性制御にすぐれた記録層903の形成が可能である。また、構造体がラメラ構造を有しており、さらに図4に示すようにある方向に配列を有していることから、この配列に直交する方向を記録方向とする。
まず、図4に示すようなある方向に配列している本発明の構造体であるPdSi-Si系を代表例として取り上げ、これを下地層として準備し、引き続きCoCrPt-SiO2系の材料をスパッタリングによりSiO2組成を実施例8より高くして成膜する。この試料の断面方向からの透過型電子顕微鏡による観察を実施すると、本発明の構造体からなる下地層の一方の相を構成する柱状部材をなすPdSiと記録層を形成するCoCrPtの複数の粒子とがエピタキシャルに接続して結晶成長していることが確認できる。さらに、CoCrPtの粒子の周りにはSiO2部分が成長しており、記録方向に関してはCoCrPt粒子が下地層におけるPdSiの直径の低分散な状態を保ったまま記録層を形成できることが確認できる。また、記録方向と直交する方向にはCoCrPt粒子間が緩く磁気的に結合した状態を実現できる。この状況は、低ノイズな磁気記録媒体の提供において重要である。つまり、CoCrPtが記録方向に対して垂直に細長い構造を有することは、記録方向の磁気的な分離という特徴を備えつつ、熱に対して安定となる磁気反転体積を確保することを可能とするものである。
以上のように、本発明の構造体は結晶成長における非常に優れた下地層としての役割を果たすことが可能であることがわかる。
[実施例10]
本実施例は、本発明の迷図構造体を用いた磁気記録媒体に関する。
実施例6により得られた本発明の迷図構造体を準備する。ただし、この迷図構造体の層の下にはPtからなる金属層を形成しておく。また、迷図構造体は、図8に示すようなある方向400に配列している構造体から形成されているものを準備する。この迷図構造体をスルファミン酸コバルトを主成分とするメッキ液に浸漬し、Pt層を介して電圧を印加する。参照極のAg/AgClに対して-1.0Vの電位にて実施すると迷図構造体の空隙部分700の底部からコバルトが析出し、すべての空隙部分700がコバルトで充填された膜を得ることが可能である。このようにして、メッキ液の調製が可能であれば所望の硬磁性材料を迷図構造体の空隙部分にメッキ技術により充填することが可能であり、その際迷図構造体の下には低抵抗金属からなる金属層を配置してメッキすることが可能である。また、電解メッキのみならず、無電解メッキも適用可能であることがわかる。
以上のようにして磁性材料が充填されている膜からなる記録層が形成されたのち、保護層としてダイヤモンドライクカーボンを成膜し、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤を塗布して潤滑層を形成し、記録再生可能な媒体とすることが可能である。
こうして得られる図12に示すような記録層903を有する磁気記録媒体は、硬磁性材料1200部分以外の部分が強度にすぐれた元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物でできているので、使用環境において変質・衝撃に対する耐久性が強い。
また、硬磁性材料1200が第一の部材乃至第二の部材からなる非磁性領域1201をなすPdSiによって十分に分離されており、記録方向を構造体が配列しているある方向400に対して垂直な方向にすることで、低ノイズな磁気記録媒体としても非常に有効である。特に、硬磁性材料1200部分の短軸方向の平均直径を8nm以下とする場合には、CoPt、FePt等の規則合金を主成分とする材料を利用することも可能である。
[実施例11]
本実施例は、本発明の迷図構造体を用いた磁気記録媒体に関する。
実施例6により得られた本発明の迷図構造体を準備する。ただし、この迷図構造体の層の下にはPtからなる金属層を形成しておく。また、迷図構造体は、図8に示すようなある方向400に配列している構造体から形成されているものを準備する。この迷図構造体をスルファミン酸ニッケルと塩化鉄とを主成分とする軟磁性用メッキ液に浸漬し、Pt層を介して電圧を印加する。参照極のAg/AgClに対して-1.2Vの電位にて実施すると迷図構造体の空隙部分700の底部からニッケル鉄合金が析出し、すべての空隙部分がニッケル鉄合金で充填された膜を得ることが可能である。このようにして、メッキ液の調製が可能であれば所望の軟磁性材料を迷図構造体の空隙部分にメッキ技術により充填することが可能であり、その際迷図構造体の下には低抵抗金属からなる金属層を配置してメッキすることが可能である。また、電解メッキのみならず、無電解メッキも適用可能であることがわかる。
以上のようにして軟磁性材料が充填されている膜からなる軟磁性層が形成されたのち、記録層(CoCrPt-SiO2系材料からなるもの)を形成する。更には保護層としてダイヤモンドライクカーボンを成膜し、パーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤を塗布して潤滑層を形成し、記録再生可能である媒体とすることが可能である。尚、軟磁性層と記録層との間に下地層を介在させてもよい。
こうして得られる図13に示すような軟磁性層901を有する磁気記録媒体は、軟磁性材料1300部分以外の部分が強度にすぐれた元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物でできているので、使用環境において変質・衝撃に対する耐久性が強い。
また、軟磁性材料1300が第一の部材乃至第二の部材からなる非磁性領域1201をなすPdSiによって十分に分離されており、軟磁性層を起源とするスパイクノイズなどが発生しない磁気記録媒体としても非常に有効である。
[実施例12]
本実施例は、本発明の磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置に関する。
実施例8、9、10、11に示すような本発明の磁気記録媒体を用いて、図14のような磁気記録媒体1400と磁気記録媒体駆動部1401と磁気ヘッド1402と磁気ヘッド駆動部1403と信号処理部1404とからなる装置に組み立てる。これにより、磁気記録再生装置を形成することが可能である。尚、本実施例により本発明の磁気記録媒体1400の駆動が回転のみ、磁気ヘッド1402の駆動が円周上のスライドのみに限定されるものではない。
[実施例13]
本実施例は、本発明の磁気記録再生装置を用いた情報処理装置に関する。
実施例12に記載の磁気記録再生装置部1501は、情報の出し入れが可能である。このため、図15に示すように、この磁気記録再生装置部とメモリ部1503と演算部1502と外部入出力部1505と電源1504とこれらをつなぐ配線1506とを格納容器1500に収めた情報処理装置を形成することが可能である。また、配線1506は有線、無線の関係なく、情報のやり取りが可能であればその役割を果たすものである。
[実施例14]
本実施例は、本発明の迷図構造体を用いた触媒能を有する機能性膜に関する。ここでは、本発明の構造体としてPtSi-Si系構造体を代表例として取り上げる。
スパッタリング法により基板温度300℃にて、RF電力120W、アルゴンガス圧0.1Paにて15mm角のPt板をSiのスパッタリングターゲットの中心に3枚配置し、PtSi-Si系構造体を1μm厚さで、W下地層を有する基体104上に作製した。そして、XeF2のガスによりSi部分を選択エッチングするとPtSiのメンブレン1702が形成されていることが確認できる。さらに、燃料電池用の電解質膜を塗布・圧着し、引き剥がすことにより基体104からPtSiメンブレンを剥離し、電解質膜1701と貴金属含有メンブレン1702とが図17のように一体化した燃料電池用触媒にも利用できる機能性膜を形成することが可能である。比較例としての一般的な貴金属粒子をカーボンブラックに担持させた触媒(貴金属担持させるものの厚さを1μmとする)との電流密度と燃料電池セル電圧特性の違いを比較する。同一の電圧出力に対して、本発明の触媒能を有する機能性膜の方が比較例の担時触媒よりも電流密度が約2.5倍高い値を示すことが確認できる。これは、単位容積当りの貴金属使用量が少ないにもかかわらず高い電流密度の値を得ることを可能にするものであることがわかる。
[実施例15]
本実施例は、本発明の相分離構造をもつ構造体を用いた電子放出素子に関する。
図18にあるように、本発明のNb、Mo、W、Ti等の元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の一方の相の柱状部材を有する構造体上に開口を有する絶縁層1802と引き出し電極1803とを形成し、引き出し電極1803と本発明の構造体との間に電圧を印加する。これにより、構造体の一方の相の柱状部材から効率良く電子放出を行うことが可能であることが確認できる。さらに、効果としては一方の相の柱状部材が元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物から形成されていることを反映して、非常に高い耐熱性を有していることが確認でき、長寿命で電子放出の電流値が安定した電子放出素子を得られることが確認できる。
[実施例16]
本実施例は、本発明の迷図構造体を用いた電子放出素子に関する。
図19にあるように、本発明のNb、Mo、W、Ti等の元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物の一方の相の柱状部材を有する構造体上に開口を有する絶縁層1802と引き出し電極1803とを形成する。さらにXeF2による選択エッチングにより電子放出部1801に対応する領域の上記一方の相の柱状部材の周りのSinGe1-n(ここで0≦n≦1)の部分のみの除去を行って、空隙部分701を形成する。そして、引き出し電極1803と本発明の構造体との間に電圧を印加することで構造体の一方の相の柱状部材から効率良く電子放出を行うことが可能であることが確認できる。さらに、効果としては柱状部材が元素AとSinGe1-n(ここで0≦n≦1)との間の化合物から形成されていることを反映して、非常に高い耐熱性を有していることが確認でき、長寿命で電子放出の電流値が安定した電子放出素子を得られることが確認できる。