本発明は、半導体発光素子および面発光レーザおよび面発光レーザアレイおよび画像形成装置および光ピックアップシステムおよび光送信モジュールおよび光送受信モジュールおよび光通信システムに関する。
AlGaAs系の半導体レーザは、850nmよりも波長の短い半導体レーザとして、CD等の光ピックアップ用光源や、プリンター等の画像形成装置の光源など民生用途で用いられている。例えば780nm帯の半導体レーザの量子井戸活性層にはAlが組成比で12%程度添加されている。そして、障壁層,光ガイド層(面発光レーザではスペーサ層),クラッド層(面発光レーザではスペーサ層と呼ぶ場合もある)などの他の構成層にはAl組成の大きいAlGaAsが用いられている。しかし、850nmよりも短波長帯のAlGaAs系半導体レーザでは、波長が短くなるほど活性層がワイドギャップになっていくので、障壁層,光ガイド層やクラッド層(スペーサ層)とのバンド不連続が小さくなり、活性層へのキャリア閉じ込めが弱くなってしまい、850nm帯の半導体レーザに比べて、特に温度特性において良好な特性を得るのが困難であるといった問題がある。面発光レーザでは、キャリア密度が高くなるので、より問題である。したがって、630nmから700nm程度の波長の半導体発光素子では、GaN系材料以外のIII−V族材料で最もワイドギャップであるAlGaInP系材料が用いられている。
なお、850nmよりも波長の短い半導体発光素子には、端面発光型半導体レーザが主に用いられている。これに対し、面発光型半導体レーザ(面発光レーザ)は、基板に対して垂直方向に光を出射する半導体レーザであり、端面発光型に比べて低コストで高性能が得られること、集積化が容易であるといった特徴があり、近年注目されている。従来、面発光レーザとして、850nm帯,980nm帯のものは、活性層へのキャリア閉じ込めが良好である。具体的に、850nm帯の面発光レーザでは、量子井戸活性層にはGaAsが用いられ、障壁層やスペーサ層(クラッド層)にはAlGaAsが用いられている。更に高性能なAlGaAs系反射鏡(DBR)と、Al酸化膜を利用した電流狭窄構造とを採用できることで、実用レベルの性能を実現している。しかしながら、面発光レーザは、高いキャリア密度を必要とするので、850nmよりも波長の短い面発光レーザは、端面発光型レーザに比べてより高性能化が困難となっている。
また近年、量子井戸活性層を圧縮歪組成とし、障壁層を引っ張り歪組成とした構造、または量子井戸活性層を引っ張り歪組成とし、障壁層を圧縮歪組成とした構造からなる歪補償構造が半導体レーザなどの半導体発光素子の活性層として良く用いられている。
量子井戸活性層の歪が増加すると、ヘビーホールとライトホールのバンド分離が大きくなるため、利得の増加が大きくなり、低しきい値電流,高発光効率動作が可能になる。量子井戸活性層の歪量をできるだけ大きくして大きな利得の増加を得るために、障壁層に反対側の歪を与え活性層全体の歪量を低減している。このため、従来、量子井戸活性層の歪量の方が障壁層の歪量より大きい構造となっている。しかしながら、AlGaAs系材料は格子整合系で構成されているので上記歪の効果を利用できない。
そこで、特許文献1には、1%の圧縮歪を有するInGaAlAs量子井戸活性層と、0.7%引っ張り歪を有するAlGaAsP障壁層とを採用した波長850nm面発光レーザが提案されており、この特許文献1では、歪補償により量子井戸活性層の臨界膜厚が増加し井戸層を多くすることができ、上記歪活性層の効果により高出力化できることが示されている。
しかしながら、InGaAlAsやAlGaAs系レーザは活性層に活性なAlが添加されているので、特許文献1の構成では、成長中や加工中等に酸素が取り込まれてしまい、非発光再結合センターが形成されて、発光効率や信頼性の低下を招いてしまうという問題があった。
この問題を回避するため、AlフリーのGaInPAs系材料を活性層とした歪量子井戸活性層を用いた例がある。特許文献2には、850nmよりも短波長帯の面発光レーザで非発光再結合センターの形成を抑える目的で、Alフリー活性領域(量子井戸活性層、及びそれに隣接する層)を採用する面発光レーザ(780nm帯)が提案されている。この面発光レーザは、Alフリー活性領域を採用するために、量子井戸活性層に引っ張り歪を有するGaAsPが用いられ、また障壁層には、ミスフィット転位を発生させないために、活性層と歪量が等しくかつ反対の歪となる圧縮歪を有するGaInPが用いられ、また、スペーサ層(クラッド層と第1及び第3量子井戸活性層との間の層)に格子整合GaInPが用いられ、また、クラッド層にAlGaInPが用いられている。この特許文献2によれば、活性領域がAlフリーなので、信頼性が改善される。
更に、非特許文献1には、活性領域がAlフリーであることによる効果に加えて、活性層の利得を大きくするために、量子井戸活性層に圧縮歪を有するGaInPAs(+0.6%)が用いられ、障壁層に格子整合または引っ張り歪(−0.3%)を有するGaInPが用いられ、スペーサ層(クラッド層と第1及び第3量子井戸活性層との間の層)に格子整合AlGaInPが用いられ、クラッド層にAlGaInP(スペーサ層よりもAl組成が大きい)が用いられた780nm帯の面発光レーザが提案されている。この非特許文献1の面発光レーザでは、GaInP障壁層は格子整合または引っ張り歪であり、圧縮歪組成よりもバンドギャップが大きいので、前述した特許文献1の構造に比べてキャリア閉じ込めが良好になっている。更にクラッド層にAlGaAsよりもワイドギャップであるAlGaInPを用いており、障壁層からあふれたキャリアを閉じ込める効果が高く、より利得が高くなるので、低しきい値動作が可能となる。
また、非特許文献2には、1.6%の圧縮歪を有するInGaAsP量子井戸活性層を用い、引っ張り歪を有するInGaP障壁層の歪量を0.0%、0.5%、0.75%、1.0%と変えて特性評価を行った結果が示されている。なお、非特許文献2における特性評価は、発振波長が730nmの端面発光型レーザでなされた。これによると、引っ張り歪量が0.5%〜0.75%程度まではしきい値が下がり、内部量子効率や特性温度が向上している。これは、歪補償の効果と、障壁層のバンドギャップが大きくなりキャリア閉じ込めが良好になるためであるが、〜1%の高歪になると特性温度はさらに向上するものの、しきい値は上昇し、内部量子効率は低下することが報告されている。
更に、特許文献3には、圧縮歪GaInPAs量子井戸活性層の歪量を1%以下、P組成を0.55以上とし、大きな引っ張り歪を有する障壁層を用いた例が示されている。なお、クラッド層,光ガイド層にはAlGaAsが用いられている。特許文献3によれば、障壁層の歪量を大きくすると、量子井戸活性層とのバンド不連続が大きくなり、キャリアのオーバーフローを低減でき、しきい値電流を小さくできるとしている。
しかしながら、GaAs基板上の850nmよりも波長が短くAlフリー活性層を有する従来の半導体発光素子は、キャリア閉じ込めが不十分で、光出力,温度特性の点で、850nm帯,980nm帯の半導体発光素子に対して大きく劣っていた。特に、高いキャリア密度が必要な面発光レーザは良好な特性が得られていない。
特開平9−162482号公報
特開平9−107153号公報
特開2003−152281号公報
IEEE Photonics Technology Letters, Vol.12, No.6, 2000(Wisconsin Univ.)
IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, Vol.5, No.3, 1999(Wisconsin Univ.)
本発明は、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めが充分に行われ、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた半導体発光素子および面発光レーザおよび面発光レーザアレイおよび画像形成装置および光ピックアップシステムおよび光送信モジュールおよび光送受信モジュールおよび光通信システムを提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、GaAs基板上に、下部クラッド層と、下部光ガイド層と、活性層と、上部光ガイド層と、上部クラッド層とが形成された半導体発光素子において、前記活性層は、GacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)圧縮歪量子井戸活性層と、GaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)引っ張り歪障壁層とを有し、下部クラッド層と上部クラッド層のうちの少なくとも一方のクラッド層の少なくとも一部には、活性層よりもバンドギャップエネルギーが大きい(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)層が用いられ、また、前記障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいことを特徴としている。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の半導体発光素子において、該半導体発光素子は、発振波長が約680nmよりも長波長であることを特徴としている。
また、請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の半導体発光素子において、GaAs基板の面方位は(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)面であることを特徴としている。
また、請求項4記載の発明は、GaAs基板上に、レーザ光を発生する少なくとも1層の量子井戸活性層と障壁層とを有する活性層と該活性層の上部および下部に設けられ少なくとも1種類の材料からなる上部スペーサ層および下部スペーサ層とを含む共振器領域と、該共振器領域の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡とを備えた面発光レーザにおいて、上部反射鏡および下部反射鏡は、屈折率が周期的に変化し入射光を光波干渉によって反射する半導体分布ブラッグ反射鏡を含み、半導体分布ブラッグ反射鏡の少なくとも一部は、AlxGa1−xAs(0<x≦1)からなる屈折率が小なる層と、AlyGa1−yAs(0≦y<x≦1)からなる屈折率が大なる層とからなり、上部スペーサ層と下部スペーサ層のうちの少なくとも一方のスペーサ層の少なくとも一部には、(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)が用いられ、量子井戸活性層は圧縮歪を有するGacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)からなり、障壁層は引っ張り歪を有するGaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)からなり、障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいことを特徴としている。
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の面発光レーザにおいて、該面発光レーザは、発振波長が約680nmよりも長波長であることを特徴としている。
また、請求項6記載の発明は、請求項4または請求項5記載の面発光レーザにおいて、GaAs基板の面方位は(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)面であることを特徴としている。
また、請求項7記載の発明は、請求項6記載の面発光レーザにおいて、光出射方向から見た活性層の外周形状は、(111)A面方向に長い形状となる異方性を有していることを特徴としている。
また、請求項8記載の発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザが同一基板上に複数個形成されて構成されていることを特徴とする面発光レーザアレイである。
また、請求項9記載の発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、書き込み光源として用いられていることを特徴とする画像形成装置である。
また、請求項10記載の発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光ピックアップシステムである。
また、請求項11記載の発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送信モジュールである。
また、請求項12記載の発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送受信モジュールである。
また、請求項13記載の発明は、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光通信システムである。
請求項1乃至請求項3記載の発明によれば、GaAs基板上に、下部クラッド層と、下部光ガイド層と、活性層と、上部光ガイド層と、上部クラッド層とが形成された半導体発光素子において、前記活性層は、GacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)圧縮歪量子井戸活性層と、GaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)引っ張り歪障壁層とを有し、下部クラッド層と上部クラッド層のうちの少なくとも一方のクラッド層の少なくとも一部には、活性層よりもバンドギャップエネルギーが大きい(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)層が用いられ、また、前記障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいので、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めが充分に行われ、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた半導体発光素子を提供することができる。
また、請求項4乃至請求項7記載の発明によれば、GaAs基板上に、レーザ光を発生する少なくとも1層の量子井戸活性層と障壁層とを有する活性層と該活性層の上部および下部に設けられ少なくとも1種類の材料からなる上部スペーサ層および下部スペーサ層とを含む共振器領域と、該共振器領域の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡とを備えた面発光レーザにおいて、上部反射鏡および下部反射鏡は、屈折率が周期的に変化し入射光を光波干渉によって反射する半導体分布ブラッグ反射鏡を含み、半導体分布ブラッグ反射鏡の少なくとも一部は、AlxGa1−xAs(0<x≦1)からなる屈折率が小なる層と、AlyGa1−yAs(0≦y<x≦1)からなる屈折率が大なる層とからなり、上部スペーサ層と下部スペーサ層のうちの少なくとも一方のスペーサ層の少なくとも一部には、(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)が用いられ、量子井戸活性層は圧縮歪を有するGacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)からなり、障壁層は引っ張り歪を有するGaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)からなり、障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいので、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めが充分に行われ、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた面発光レーザを提供することができる。
また、請求項8記載の発明によれば、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザが同一基板上に複数個形成されて構成されていることを特徴とする面発光レーザアレイであるので、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた面発光レーザアレイを提供することができる。
また、請求項9記載の発明によれば、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、書き込み光源として用いられていることを特徴とする画像形成装置であるので、高速印刷が可能で、低コスト化等を図ることの可能な画像形成装置を提供することができる。
また、請求項10記載の発明によれば、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光ピックアップシステムであるので、信頼性が高く、電力が長持ちするハンディータイプの光ピックアップシステムを実現できる。
また、請求項11記載の発明によれば、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送信モジュールであるので、経済的で高速な光送信モジュールを実現できる。
また、請求項12記載の発明によれば、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送受信モジュールであるので、経済的で高速な光送受信モジュールを実現できる。
また、請求項13記載の発明によれば、請求項4乃至請求項7のいずれか一項に記載の面発光レーザ、または、請求項8記載の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光通信システムであるので、経済的な光通信システムを実現できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
(第1の形態)
本発明の第1の形態は、GaAs基板上に、下部クラッド層と、下部光ガイド層と、活性層と、上部光ガイド層と、上部クラッド層とが形成された半導体発光素子において、前記活性層は、GacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)圧縮歪量子井戸活性層と、GaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)引っ張り歪障壁層とを有し、下部クラッド層と上部クラッド層のうちの少なくとも一方のクラッド層の少なくとも一部には、活性層よりもバンドギャップエネルギーが大きい(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)層が用いられ、また、前記障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいことを特徴としている。
本発明の第1の形態によれば、GaAs基板上に、下部クラッド層と、下部光ガイド層と、活性層と、上部光ガイド層と、上部クラッド層とが形成された半導体発光素子において、前記活性層は、GacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)圧縮歪量子井戸活性層と、GaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)引っ張り歪障壁層とを有し、下部クラッド層と上部クラッド層のうちの少なくとも一方のクラッド層の少なくとも一部には、活性層よりもバンドギャップエネルギーが大きい(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)層が用いられ、また、前記障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいので、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めが充分に行われ、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた半導体発光素子を提供することができる。
すなわち、キャリア閉じ込めを充分に行うためには、量子井戸活性層と障壁層とのバンド不連続、量子井戸活性層とクラッド層(面発光レーザではスペーサ層)とのバンド不連続をともに大きくする必要がある。なぜならば、障壁層をあふれたキャリアは最終的にクラッド層とのバンド不連続でキャリアブロックされるので、量子井戸活性層とクラッド層とのバンド不連続を大きくする必要があるが、あふれたキャリアによる非発光再結合を低減するために、可能な限り障壁層でキャリアブロックするのが発光効率の点で好ましいからである。つまり、いずれか一方では不十分である。
本発明の第1の形態では、クラッド層の少なくとも一部にAlGaInP材料,すなわち(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)が用いられることで、クラッド層をAlGaAs系で形成した場合に比べて、クラッド層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差を極めて大きく取ることができ、キャリア閉じ込めが良好になる。(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)の好ましい組成a,bとしては、AlGaAsクラッド層の典型的な組成範囲で最もバンドギャップが大きいAlxGa1−xAs(x=0.6、Eg=2.0226eV)よりもバンドギャップが大きい0.2≦a(bはGaAs基板に格子整合する組成である約0.5)が好ましい。より好ましくは0.5≦a≦0.7程度が良い。
また、本発明の第1の形態では、活性層はGacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)圧縮歪量子井戸活性層と、GaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)引っ張り歪障壁層とから構成され、障壁層の歪量の絶対値を量子井戸活性層の歪量の絶対値より大きくしていることで、障壁層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差を極めて大きく取ることができ、キャリア閉じ込めが良好になる。
一般に同じ構成元素を用いたIII−V族半導体材料では、格子定数が小さくなるほどバンドギャップを大きくできる組成を有しており、障壁層の引っ張り歪量が大きいほど、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めを良好にできる。つまり、障壁層の引っ張り歪量を、量子井戸活性層の圧縮歪量より大きくすると、バンドギャップの大きな材料を障壁層とすることができ、キャリア閉じ込めが良好になるので、活性層の利得が高くなり、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力である半導体発光素子を得ることができる。
しかし、量子井戸活性層と障壁層はそれぞれ反対の歪を有している。その界面では引っ張り歪量と圧縮歪量を足した歪がかかっており、その値には限界がある。この値は成長温度などの条件に依存する。量子井戸活性層の圧縮歪量を大きくすると障壁層の引っ張り歪量を大きくできない。これに対し、障壁層の引っ張り歪量を量子井戸活性層の圧縮歪量より大きくすると、バンドギャップの大きな材料を障壁層として用いることが可能となる。
これにより、量子井戸活性層と障壁層とのバンド不連続、量子井戸活性層とクラッド層とのバンド不連続をともに大きくすることができ、キャリア閉じ込めを充分に行うことができる。
なお、引っ張り歪障壁層の歪量を量子井戸活性層の歪量よりも大きくする効果は次のように得られる。すなわち、GaAs基板を用いた場合、GaAsP、AlGaAsP、GaInP、AlInP、GaInPAs、AlGaInP、AlGaInPAsは格子定数を小さくするほどバンドギャップを大きくできる組成を有する材料であるので、引っ張り歪障壁層として用いることで上記効果が得られる。また、InP基板を用いた場合、GaInP、GaInAs、AlInAs、AlGaInAs、GaInPAs、AlGaInP、AlGaInPAsは格子定数を小さくするほどバンドギャップを大きくできる組成を有する材料であるので、引っ張り歪障壁層として用いることで上記効果が得られる。
特に量子井戸活性層として非混和性の強い材料GaInPAsを用いた場合、歪量を大きくするほど均質組成混晶の作製が困難になり高品質結晶が得られにくく、量子井戸活性層の歪増加による利得向上に限界がある。しかし、障壁層をワイドギャップ材料とすることで、キャリア閉じ込めが良好になるので、量子井戸活性層の歪を大きくしなくても活性層の利得が高くなるとともに、量子井戸活性層を高品質に作製することが容易になる。これらにより温度特性が良好であって、低しきい値,高出力である半導体発光素子を得ることができる。なお、同一格子定数(歪)のGaInPAs材料で最もワイドギャップはGaInPなので、障壁層にはGaInPを用いるのが好ましい。
また、GaInPAs量子井戸活性層とGaInPAs障壁層とからなるAlフリー活性層によれば、端面発光型レーザの場合ではCODレベルの上昇による高出力化が可能となる。また酸素を取り込み易いAlを活性層に含まないことから、信頼性向上が可能となる。請求項1によれば、Alフリーを維持しつつ従来よりもワイドギャップ障壁層を採用できることから、キャリア閉じ込めが良好になるので、量子井戸活性層の歪を大きくしなくても活性層の利得が高くなるとともに、量子井戸活性層を高品質に作製することが容易になる。これらにより温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で信頼性に優れた半導体発光素子を得ることができる。波長としては赤色から近赤外まで幅広いが、従来の半導体発光素子の障壁層のバンドギャップの制限から、850nmよりも波長の短い半導体発光素子、特に半導体レーザにおいて効果が大きい。もちろん、850nmよりも長い波長であっても、上記効果が得られる。
なお、AlGaInPやGaInPAsのようなP系材料の上部にAlGaAsのようなAs系材料を形成すると、P系材料上部のPがAsに置き換わり、バンドギャップの狭いAsリッチな材料になりやすい。また、界面ではAlGaAs層へのInのキャリーオーバーなど、Inの分離(Segregation)が生じる。この部分が活性層とクラッド層との間にあると、活性層で発生した光の吸収の問題が生じ、しきい値上昇を招く。したがって、GaInPAs系活性層と上部AlGaInPクラッド層との間にはAlGaAsのようなAs系材料を挿入しない方が良い。GaInPAs系活性層とAlGaInPクラッド層との間の光ガイド層にはクラッド層よりAl組成が小さくナローギャップのAlGaInPを用いることが望ましい。
(第2の形態)
本発明の第2の形態は、第1の形態の半導体発光素子において、該半導体発光素子は、発振波長が約680nmよりも長波長であることを特徴としている。
本発明では、AlGaInP系のクラッド層、及びワイドギャップ障壁層を用いることで、組成波長が680nmよりも長波長であれば、Alフリー活性層(量子井戸活性層と障壁層)を用いても、AlGaAs系の活性層による780nm帯の半導体発光素子の場合と同等以上のキャリア閉じ込めが可能となり、更に歪量子井戸活性層の効果も加わることから、AlGaAs系の活性層による780nm帯の半導体発光素子の場合と同等以上の特性を得ることが可能となる。
(第3の形態)
本発明の第3の形態は、第1または第2の形態の半導体発光素子において、GaAs基板の面方位は(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)面であることを特徴としている。
AlGaInP、GaInP等のP系材料の結晶成長において、基板の面方位を考慮し、面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)GaAs基板を用いることで、自然超格子の形成によるバンドギャップの低下や、ヒロック(丘状欠陥)発生による表面性の悪化や非発光再結合センターの発生など、半導体レーザなどのデバイス特性への悪影響を低減させることができる。なお、(311)Aなど傾斜を大きくするほど結晶成長が難しくなる。これに対し、面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)GaAs基板を用いることで、容易に結晶成長できる。
(第4の形態)
本発明の第4の形態は、GaAs基板上に、レーザ光を発生する少なくとも1層の量子井戸活性層と障壁層とを有する活性層と該活性層の上部および下部に設けられ少なくとも1種類の材料からなる上部スペーサ層および下部スペーサ層とを含む共振器領域と、該共振器領域の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡とを備えた面発光レーザにおいて、上部反射鏡および下部反射鏡は、屈折率が周期的に変化し入射光を光波干渉によって反射する半導体分布ブラッグ反射鏡を含み、半導体分布ブラッグ反射鏡の少なくとも一部は、AlxGa1−xAs(0<x≦1)からなる屈折率が小なる層と、AlyGa1−yAs(0≦y<x≦1)からなる屈折率が大なる層とからなり、上部スペーサ層と下部スペーサ層のうちの少なくとも一方のスペーサ層の少なくとも一部には、(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)が用いられ、量子井戸活性層は圧縮歪を有するGacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)からなり、障壁層は引っ張り歪を有するGaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)からなり、障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいことを特徴としている。
本発明の第4の形態によれば、GaAs基板上に、レーザ光を発生する少なくとも1層の量子井戸活性層と障壁層とを有する活性層と該活性層の上部および下部に設けられ少なくとも1種類の材料からなる上部スペーサ層および下部スペーサ層とを含む共振器領域と、該共振器領域の上部および下部に設けられた上部反射鏡および下部反射鏡とを備えた面発光レーザにおいて、上部反射鏡および下部反射鏡は、屈折率が周期的に変化し入射光を光波干渉によって反射する半導体分布ブラッグ反射鏡を含み、半導体分布ブラッグ反射鏡の少なくとも一部は、AlxGa1−xAs(0<x≦1)からなる屈折率が小なる層と、AlyGa1−yAs(0≦y<x≦1)からなる屈折率が大なる層とからなり、上部スペーサ層と下部スペーサ層のうちの少なくとも一方のスペーサ層の少なくとも一部には、(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)が用いられ、量子井戸活性層は圧縮歪を有するGacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)からなり、障壁層は引っ張り歪を有するGaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)からなり、障壁層の歪量の絶対値が量子井戸活性層の歪量の絶対値よりも大きいので、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めが充分に行われ、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた面発光レーザを提供することができる。
すなわち、本発明の第4の形態の面発光レーザでは、スペーサ層の少なくとも一部にAlGaInP材料,すなわち(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0<b<1)が用いられることで、スペーサ層をAlGaAs系で形成した場合に比べて、スペーサ層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差を極めて大きく取ることができ、キャリア閉じ込めが良好になる。また、量子井戸活性層を圧縮歪組成とすることで、価電子帯のバンド分離効果により低しきい値化するとともに高効率化(高出力化)することができる。更には、障壁層の引っ張り歪量が量子井戸活性層の圧縮歪量より大きいので、バンドギャップの大きな材料を障壁層とすることができ、障壁層によるキャリア閉じ込めも向上するとともに、量子井戸活性層を高品質に作製することが容易になる。これらの高利得化,高品質化によって低しきい値化することで、光取り出し側のDBR(分布ブラッグ反射鏡)の反射率を低減することが可能となり、更に高出力化することもできる。
また、障壁層や量子井戸活性層にはGaInPAs材料が用いられており(すなわち、量子井戸活性層は圧縮歪を有するGacIn1−cPdAs1−d(0<c<1、0≦d≦1)からなり、障壁層は引っ張り歪を有するGaeIn1−ePfAs1−f(0<e≦1、0≦f≦1)からなり、Alを含んでいない材料から活性層が構成されており)、Alフリー活性領域(量子井戸活性層、及びそれに隣接する層)としているので、酸素の取り込まれが低減されて非発光再結合センターの形成を抑えることができ、長寿命の面発光レーザを実現できる。従来の面発光レーザの障壁層のバンドギャップの制限から、850nmよりも波長の短い面発光レーザにおいて効果が大きい。
なお、AlGaInPやGaInPAsのようなP系材料の上部にAlGaAsのようなAs系材料を形成すると、P系材料上部のPがAsに置き換わり、バンドギャップの狭いAsリッチな材料になりやすい。また、界面ではAlGaAs層へのInのキャリーオーバーなど、Inの分離(Segregation)が生じる。この部分が活性層の近くにあると、活性層で発生した光の吸収の問題が生じ、しきい値上昇を招く。したがって、GaInPAs系活性層と上部AlGaInPスペーサ層との間にはAlGaAsのようなAs系材料を挿入しない方が良い。AlGaAsのようなAs系材料は、ワイドギャップのAlGaInPスペーサ層の活性層とは反対の側に設けると良い。GaInPAs系活性層とAlGaInPスペーサ層との間に半導体層を設ける場合、該半導体層には、AlGaInPスペーサ層よりもAl組成が小さくナローギャップのAlGaInPを用いることが望ましい。
(第5の形態)
本発明の第5の形態は、第4の形態の面発光レーザにおいて、該面発光レーザは、発振波長が約680nmよりも長波長であることを特徴としている。
本発明では、AlGaInP系のスペーサ層、及びワイドギャップ障壁層を用いることで、組成波長が680nmよりも長波長であれば、Alフリー活性層(量子井戸活性層と障壁層)を用いても、AlGaAs系の活性層による780nm帯の面発光レーザの場合と同等以上のキャリア閉じ込めが可能となり、更に歪量子井戸活性層の効果も加わることから、AlGaAs系の活性層による780nm帯の面発光レーザの場合と同等以上の特性を得ることが可能となる。
(第6の形態)
本発明の第6の形態は、第4または第5の形態の面発光レーザにおいて、GaAs基板の面方位は(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)面であることを特徴としている。
AlGaInP、GaInP等のP系材料の結晶成長において、基板の面方位を考慮し、面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)GaAs基板を用いることで、自然超格子の形成によるバンドギャップの低下や、ヒロック(丘状欠陥)発生による表面性の悪化や非発光再結合センターの発生など、面発光レーザのデバイス特性への悪影響を低減させることができる。なお、(311)Aなど傾斜を大きくするほど結晶成長が難しくなる。これに対し、面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)GaAs基板を用いることで、容易に結晶成長できる。また、第6の形態の面発光レーザにおいては、光学利得異方性の効果が圧縮歪量子井戸活性層により増大し、偏光制御が可能になる。
(第7の形態)
本発明の第7の形態は、第6の形態の面発光レーザにおいて、光出射方向から見た活性層の外周形状は、(111)A面方向に長い形状となる異方性を有していることを特徴としている。
面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に傾斜した(100)GaAs基板を用いているので、偏光制御について、現在、最有力視されている(311)B基板(25°の傾斜)を用いた場合の効果を利用することができず、傾斜基板利用による光学利得異方性は小さくなるが、本発明では、この低下分を量子井戸活性層に圧縮歪を与えることによる光学利得異方性の増大、及び、面発光レーザの光出射方向から見た活性層の外周形状に異方性を持たせ、(111)A面方向に長い形状とすることによる基板傾斜方向((111)A面方向)の光学的利得増大により補償することで、偏光方向を制御することが可能となる。なお、活性層の外周形状とは、発振する領域の形状のことであって、電流が注入される活性層領域の形状のことである。電流狭窄を行っている場合は電流狭窄の形状と考えてよい。
このように、本発明の第7の形態によれば、活性層の利得が大きく、低しきい値,高出力であることと、信頼性に優れていることと、偏光方向が制御されていることとを同時に満たした、850nmよりも波長の短い面発光レーザを提供することができる。
(第8の形態)
本発明の第8の形態は、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザが同一基板上に複数個形成されて構成されていることを特徴とする面発光レーザアレイである。
本発明の第8の形態によれば、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザが同一基板上に複数個形成されて構成されていることを特徴とする面発光レーザアレイであるので、量子井戸活性層へのキャリア閉じ込めが充分に行われ、利得が大きく、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力で、更には信頼性に優れた面発光レーザアレイを提供することができる。
すなわち、面発光レーザは、面発光型であることでアレイ化が容易で、しかも通常の半導体プロセスで形成されるので、素子の位置制度が高い。また、高出力動作可能な面発光レーザを同一基板上に多数集積することで、書き込み光学系に応用した場合、同時にマルチビームでの書きこみが容易となり、書きこみ速度が格段に向上し、書きこみドット密度が上昇しても印刷速度を落とすことなく印刷できる。また、同じ書きこみドット密度の場合は印刷速度を早くできる。また、通信に応用した場合、同時に多数ビームによるデータ伝送が可能となるので高速通信ができる。更に、面発光レーザは低消費電力動作し、特に機器の中に組み込んで利用した場合、温度上昇を低減できる。
(第9の形態)
本発明の第9の形態は、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、書き込み光源として用いられていることを特徴とする画像形成装置(例えば、プリンタやファクシミリなど)である。
本発明の第9の形態によれば、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、書き込み光源として用いられていることを特徴とする画像形成装置であるので、高速印刷が可能で、低コスト化等を図ることの可能な画像形成装置を提供することができる。
すなわち、本発明の面発光レーザあるいは面発光レーザアレイにより高出力化できることから、従来の面発光レーザあるいは面発光レーザアレイを用いた画像形成装置に比べて高速印刷が可能となる。もしくは、従来と同速度の場合ではアレイ数の低減が可能となり、面発光レーザアレイチップの製造歩留まりが大きく向上するとともに、レーザプリンターなどの画像形成装置の低コスト化が図れる。更に、Alフリー活性層により、850nm帯面発光レーザのような通信用面発光レーザと同等の寿命が達成可能となることから、光書き込み光学ユニット自体の再利用が可能となり、環境負荷低減に貢献できる。
(第10の形態)
本発明の第10の形態は、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光ピックアップシステムである。
本発明の第10の形態によれば、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光ピックアップシステムであるので、信頼性が高く、電力が長持ちするハンディータイプの光ピックアップシステムを実現できる。
すなわち、メディアへの光書込み用,再生用の光源である半導体レーザの波長は、CDでは780nmが用いられている。面発光レーザは端面発光型半導体レーザに比べて1桁程度消費電力が小さいことから、本発明の780nmの面発光レーザを再生用光源とした、信頼性が高く、電力が長持ちするハンディータイプの光ピックアップシステムを実現できる。
(第11の形態)
本発明の第11の形態は、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送信モジュールである。
本発明の第11の形態によれば、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送信モジュールであるので、経済的で高速な光送信モジュールを実現できる。
すなわち、アクリル系POF(プラスチックファイバー)を用いた光伝送では、その吸収損失から、650nmの発振波長の面発光レーザが検討されているが、高温特性が悪く実用にはなっていない。従って、現在、LEDが使われているが、高速変調が困難であり、1Gbpsを越えた高速伝送実現のためには、半導体レーザが必要である。
最短波長が680nmである本発明の面発光レーザによれば、活性層利得が大きいので、高出力であるとともに高温特性にも優れており、ファイバーの吸収損失は大きくなるが短距離であれば伝送可能となり、安い光源である面発光レーザと、安い光ファイバーであるPOFとを用いた経済的で高速な光送信モジュールを実現できる。
(第12の形態)
本発明の第12の形態は、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送受信モジュールである。
本発明の第12の形態によれば、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光送受信モジュールであるので、経済的で高速な光送受信モジュールを実現できる。
すなわち、アクリル系POF(プラスチックファイバー)を用いた光伝送では、その吸収損失から、650nmの発振波長の面発光レーザが検討されているが、高温特性が悪く実用にはなっていない。従って、現在、LEDが使われているが、高速変調が困難であり、1Gbpsを越えた高速伝送実現のためには、半導体レーザが必要である。
最短波長が680nmである本発明の面発光レーザによれば、活性層利得が大きいので、高出力であるとともに高温特性にも優れており、ファイバーの吸収損失は大きくなるが短距離であれば伝送可能となり、安い光源である面発光レーザと、安い光ファイバーであるPOFとを用いた経済的で高速な光送受信モジュールを実現できる。
(第13の形態)
本発明の第13の形態は、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光通信システムである。
本発明の第13の形態によれば、第4乃至第7のいずれかの形態の面発光レーザ、または、第8の形態の面発光レーザアレイが、光源として用いられていることを特徴とする光通信システムであるので、経済的な光通信システムを実現できる。
すなわち、アクリル系POF(プラスチックファイバー)を用いた光伝送では、その吸収損失から、650nmの発振波長の面発光レーザが検討されているが、高温特性が悪く実用にはなっていない。従って、現在、LEDが使われているが、高速変調が困難であり、1Gbpsを越えた高速伝送実現のためには、半導体レーザが必要である。
最短波長が680nmである本発明の面発光レーザは、活性層利得が大きいので高出力であるとともに高温特性にも優れており、ファイバーの吸収損失は大きくなるが短距離であれば伝送可能となり、安い光源である面発光レーザと、安い光ファイバーであるPOFとを用いた経済的な光通信システムを実現できる。極めて経済的であることから、特に一般家庭やオフィスの室内,機器内などの光通信システムとして用いることができる。
図1は本発明の実施例1に係る波長730nm帯の端面発光型レーザを示す図である。なお、図1の例では、リッジストライプ型レーザとなっている。また、層構造としてはSCH−DQW(Separate Confinement Heterostructure Double Quantum Well)構造である。
図1を参照すると、面方位が(111)A面方向に10°傾斜したn−(100)GaAs基板上に、n−GaAsバッファ層、n−(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pクラッド層、下部(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P光ガイド層、2層のGaInPAs量子井戸活性層と3層のGaInP障壁層とからなる活性層(多重量子井戸活性層)、上部(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P光ガイド層、p−(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pクラッド層、p−GaInP中間層、p−GaAsコンタクト層が順次形成されている。結晶成長はMBE(分子線エピタキシー)法で行った。
そして、フォトリソグラフィとエッチング技術により幅3μmのストライプ領域以外をp-AlGaAsクラッド層の途中まで除去し、リッジ構造を形成した。そして、このリッジ構造上に、p側電極を、電流注入部となる部分を除去した絶縁膜を介して形成した。また、基板の裏面には、n側電極を形成した。
ここで、GaInPAs量子井戸活性層の圧縮歪量は0.7%、GaInP障壁層の引っ張り歪量は1.6%とした。GaInPは格子定数が小さいほど、つまりGa組成が大きいほど、バンドギャップが大きくなる材料である。
前述した非特許文献2では、成長温度700℃、量子井戸活性層が1.6%の圧縮歪の場合、障壁層の引っ張り歪量を0.75%までが限界でそれ以上とすると特性の悪化が見られていた。つまり、量子井戸活性層と障壁層との間の歪量が2.35%を越えると、特性が悪化している。この実施例1では、量子井戸活性層の圧縮歪量が0.7%と非特許文献2より小さいので、障壁層の引っ張り歪量を1.6%と大きくしても特性が劣化せず、良好な特性が得られた。このように歪補償を適切に行うことで、歪によって生じる格子緩和の起こる膜厚を厚くすることができるので、井戸層の数や井戸層の厚さの許容度が高くなり、狙う素子特性に応じた設計をする場合の自由度が高くなる効果がある。
引っ張り歪量0.75%,1.6%のGaInPのバンドギャップEgは、それぞれ、2.049eV(Ga組成x=0.62),2.239eV(Ga組成x=0.73)であり、量子井戸活性層(730nm:1.698eV)とのバンドギャップ差はそれぞれ351meV,541meVとなり、190meVもの差がある。一方、AlGaAs系材料からなる850nmレーザの構造(障壁層Al組成xは典型的な値の内で最も大きい0.3とした)では356meVである。また、(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5Pクラッド層のバンドギャップは2.3eVであり、AlGaAsクラッド層の典型的な組成範囲で最もバンドギャップが大きいAlxGa1−xAs(x=0.6、Eg=2.0226eV)と比べて大きく、量子井戸活性層と障壁層とのバンド不連続、及び量子井戸活性層とクラッド層とのバンド不連続をともに大きくできる。以上のように、本発明により、波長が730nmでも、AlGaAs系材料からなる850nmレーザよりも充分なキャリア閉じ込めができることがわかる。
また、本発明の実施例1の端面発光型レーザでは、それほどは大きくはできないが、量子井戸活性層を圧縮歪組成としている。歪が増加すると、ヘビーホールとライトホールのバンド分離が大きくなるため、利得の増加が大きくなり、低しきい値化するとともに高効率化(高出力化)する。この効果はAlGaAsクラッド層/AlGaAs系活性層のレーザでは実現できないので、本発明のAlGaInPクラッド層/GaInPAs系活性層によれば、AlGaAsクラッド層/AlGaAs系活性層の850nmレーザよりも、低しきい値化,高効率化(高出力化)が可能であることがわかる。
また、光ガイド層には(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P層を用いた。バンドギャップは2.2eVである。AlGaInPやGaInPAsのようなP系材料の上部にAlGaAsのようなAs系材料を形成するとP系材料上部のPがAsに置き換わり、バンドギャップの狭いAsリッチな材料になりやすい。また、界面ではAlGaAs層へのInのキャリーオーバーなど、Inの分離(Segregation)が生じる。この部分(すなわち、AlGaAs層)が活性層とクラッド層との間にあると、活性層で発生した光の吸収の問題が生じ、しきい値上昇を招く。したがって、GaInPAs系活性層とAlGaInPクラッド層との間にはAlGaAsのようなAs系材料を挿入しない方が良い。この実施例1では、P系材料とAs系材料の界面は活性層から見てクラッド層の外側であり、活性層から離れているので、しきい値上昇の問題は起こらなかった。
この実施例1で量子井戸活性層に用いたGaInPAsのような4元混晶は、組成が中心に近づくほど相分離が発生し易く、良好な結晶を得るのは容易ではない。圧縮歪組成のGaInPAsで730nmや780nmを得るためには4元混晶の中心付近となってしまい、圧縮歪量を大きくするほど結晶が不安定になるのでより困難となる。一方、障壁層に用いたGaInPは3元混晶であり、GaInPAsからなる量子井戸活性層に比べてはるかに結晶成長が容易である。つまり、障壁層の引っ張り歪量を量子井戸活性層の圧縮歪量よりも大きくする方が良好な結晶を得易い。
また、活性層にAlを含んでいると、非発光再結合中心となり易い酸素を取り込み易く、CODレベルが低く端面破壊により高出力が得られないとか、寿命が短いといった課題がある。この実施例1の量子井戸活性層と障壁層とからなる活性層はAlフリー構造となっているので、高出力,長寿命が得られる。
なお、特許文献2のように、より結晶成長の容易な3元混晶であるGaPAsで700nm帯を得る例が多い。GaAsPは引っ張り歪であり、短波長ほど歪量を大きくする(P組成を大きくする)必要があるが、Alフリー活性層とするためには、この実施例1のような大きな引っ張り歪の障壁層を用いることができない。
これらのように、この実施例1によれば、温度特性が良好であって、低しきい値,高出力,長寿命である700nm帯の半導体レーザを得ることができた。
なお、半導体基板がGaAsであって、格子定数を小さくするほどバンドギャップを大きくできる組成を有する材料であるGaAsP、AlGaAsP、GaInP、AlInP、GaInPAs、AlGaInP、AlGaInPAsのいずれかを障壁層として用いる場合、障壁層の歪量(引っ張り)を量子井戸活性層の歪量(圧縮)よりも大きくすることで、そうでない場合に比べてキャリア閉じ込めが良好になる。また、半導体基板がInPの場合は、格子定数を小さくするほどバンドギャップを大きくできる組成を有する材料であるGaInP、GaInAs、AlInAs、AlGaInAs、GaInPAs、AlGaInP、AlGaInPAsのいずれかを用いる場合、障壁層の歪量(引っ張り)を量子井戸活性層の歪量(圧縮)より大きくすることで、そうでない場合に比べてキャリア閉じ込めが良好になる。発振波長など必要に応じて材料を選択して設計することができる。
上述の例では、MBE法での成長の例を示したが、MOCVD等の他の成長方法を用いることもできる。また、積層構造として二重量子井戸構造(DQW)の例を示したが、他の井戸数とした量子井戸構造を用いることもできる。また、レーザの構造も他の構造にしてもかまわない。また、端面型半導体レーザの例を示したが、発光ダイオード(LED)でもよく、発光効率が高く、温度特性が良好で、超寿命であるLED(端面型、面発光型)を得ることができる。
図2,図3は本発明の実施例2に係る面発光レーザを示す図である。なお、図3は図2の面発光レーザの活性層周辺の断面構造を示す図である。
実施例2の面発光レーザは、面方位が(111)A面方向に傾斜角15°で傾斜したn−(100)GaAs基板上に、n−Al0.9Ga0.1Asとn−Al0.3Ga0.7Asとを媒質内における発振波長の1/4倍の厚さで交互に例えば35.5周期積層した周期構造からなるn−半導体分布ブラッグ反射鏡(第1反射鏡:n側DBR)が形成されている(図2では詳細は省略)。なお、n−Al0.9Ga0.1Asとn−Al0.3Ga0.7Asとの間にはAl組成を一方の値から他方の値に徐々に変化させた厚さ20nmの組成傾斜層を挿入しており、傾斜層を含めて媒質内における発振波長の1/4倍の厚さとしている。これによれば、DBRに電気を流す場合、両者のバンド不連続を滑らかにすることができ、高抵抗化を抑制できる。
そして、この第1反射鏡の上に、格子整合する(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5P下部第1スペーサ(クラッド)層、格子整合する(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P下部第2スペーサ層、1.0%の圧縮歪組成であって波長が780nmとなる3層のGaInPAs井戸層と1.2%の引っ張り歪組成である4層のGa0.68In0.32P障壁層とからなる量子井戸活性層、(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5P上部第2スペーサ層、(Al0.7Ga0.3)0.5In0.5P上部第1スペーサ(クラッド)層が形成されている。更にその上に、p−AlxGa1−xAs(x=0.9)とp−AlxGa1−xAs(x=0.3)とを交互に例えば25周期積層した周期構造からなるp−半導体分布ブラッグ反射鏡(第2反射鏡:p側DBR)が形成されている(図2では詳細は省略)。この第2反射鏡にも、第1反射鏡と同様に組成傾斜層を挿入している。そして最上部には、電極とコンタクトを取るp−GaAsコンタクト層が形成されている。第1反射鏡と第2反射鏡との間は発振波長の1波長分の厚さ(いわゆるラムダキャビティー)とした。
この実施例2の面発光レーザは、以下のように作製される。すなわち、結晶成長はMOCVDにより成長した。原料には、TMG(トリメチルガリウム),TMA(トリメチルアルミニウム),TMI(トリメチルインジウム),PH3(フォスフィン)、AsH3(アルシン)を用い、n型のドーパントとしてH2Se(セレン化水素)を用い、p型のドーパントとしてDMZn(ジメチルジンク)、CBr4を用いた。また、キャリアガスにはH2を用いた。MOCVD法は、原料ガス供給量を制御することで、組成傾斜層のような構成を容易に形成できるので、DBRを含んだ面発光レーザの結晶成長方法としてMBE法に比べて適している。またMBE法のような高真空を必要とせず、原料ガスの供給流量や供給時間を制御すれば良いので、量産性にも優れている。
この実施例2では、p側DBR中で活性層に近い低屈折率層の一部をAlAs層とした。そして、所定の大きさのメサを少なくともp−AlAs被選択酸化層の側面を露出させて形成し、側面の現れたAlAsを水蒸気で側面から酸化してAlxOy電流狭さく部を形成した。そして次に、ポリイミドでエッチング部を埋め込んで平坦化し、pコンタクト部と光出射部のある上部反射鏡上のポリイミドを除去し、pコンタクト層上の光出射部以外にp側電極を形成し、基板の裏面にn側電極を形成した。
この実施例2では、AlとAsを主成分とした被選択酸化層の選択酸化により電流狭さくを行ったので、しきい値電流は低かった。被選択酸化層を選択酸化したAl酸化膜からなる電流狭さく層を用いた電流狭さく構造では、電流狭さく層を活性層に近づけて形成することで電流の広がりを抑えられ、大気に触れない微小領域に効率良くキャリアを閉じ込めることができる。さらに酸化してAl酸化膜となることで屈折率が小さくなり、凸レンズの効果でキャリアの閉じ込められた微小領域に効率良く光を閉じ込めることができ、極めて効率が良くなり、しきい値電流は低減される。また、容易に電流狭さく構造を形成できることから、製造コストを低減できる。
実施例2の面発光レーザでは、スペーサ層としてAlGaInP材料を用い、障壁層や量子井戸活性層にはGaInPAsを用いている。そして、面方位が(111)A面方向に15°傾斜した(100)GaAs基板上に形成したことで、自然超格子の形成によるバンドギャップの低下やヒロック(丘状欠陥)発生による表面性の悪化や非発光再結合センターの影響を低減している。
つまり、AlGaInPやGaInPにおいては、面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度(傾斜角)に傾斜した(100)GaAs基板が適している。(100)面に近い場合、自然超格子の形成によるバンドギャップの低下や、ヒロック(丘状欠陥)発生による表面性の悪化や非発光再結合センターの発生が生じ、半導体レーザなどのデバイス特性に悪影響を及ぼす。一方、(100)面から(111)A面方向に傾斜させると、傾斜角に応じて自然超格子の形成が抑えられる。すなわち、バンドギャップは、傾斜角が10°から15°程度までは急激に変化し、その後は徐々に正規のバンドギャップ(完全に混ざった混晶の値)に近づき、また、ヒロックも徐々に発生しなくなっていく。しかし、(111)A面方向の傾斜角が20°を超えると、結晶成長が困難になっていく。そこで、赤色レーザ(630nmから680nm)の材料系で使われているAlGaInP材料では、5°乃至20°の範囲内の角度に(より多くの場合、7°乃至15°の範囲内の角度に)傾斜させた基板が一般に使われている。これは、スペーサ層(クラッド層)であるAlGaInPはもとより、後述の表1の例のように障壁層をGaInPとした場合も当てはまる。更には、障壁層や量子井戸活性層がGaInPAsの場合であっても悪影響が懸念されるので、これら材料の成長には面方位が(111)A面方向に5°乃至20°の範囲内の角度に(より望ましくは7°乃至15°の範囲内の角度に)傾斜した(100)GaAs基板を用いることが好ましい。
また、次表(表1)には、AlGaAs(スペーサ層)/AlGaAs(量子井戸活性層)系の780nm,850nm面発光レーザの典型的な材料組成でのスペーサ層と井戸層、及び障壁層と井戸層とのバンドギャップ差が示されている。同時に、本発明のAlGaInP(スペーサ層)/GaInPAs(量子井戸活性層)系の780nm面発光レーザの一例となるスペーサ層と井戸層、及び障壁層と井戸層とのバンドギャップ差が示されている。なおGaInPAs障壁層はGa組成0.68(引っ張り歪1.2%)の例を示した。
この実施例2では、スペーサ層(クラッド層)としてワイドバンドギャップである(Al0.7Ga)0.5In0.5Pを用いている。スペーサ層の少なくとも一部に(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0≦b≦1)を用いることで、スペーサ層をAlGaAs系で形成した場合に比べて、スペーサ層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差を極めて大きく取ることができる。スペーサ層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差は、スペーサ層をAlGaAsで形成した場合の466meV(Al組成0.6の場合)に比べて、743meVであり極めて大きい。実施例1で示したように障壁層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差も同様に優位差があり、良好なキャリア閉じ込めとなる。
表1に示すように、AlGaInP(スペーサ層)/GaInPAs(量子井戸活性層)系の780nm面発光レーザは、AlGaAs/AlGaAs系の780nm面発光レーザはもとより、AlGaAs/AlGaAs系の850nm面発光レーザよりも、バンドギャップ差を大きく取れることがわかる。
また、量子井戸活性層が圧縮歪を有しているので、ヘビーホールとライトホールのバンド分離により利得の増加が大きくなった。これらにより高利得となるので、実施例2の面発光レーザは、低しきい値で高出力であった。
また、量子井戸活性層と障壁層は、Alを含んでいない材料から構成されている。すなわち、Alフリー活性領域(量子井戸活性層、及びそれに隣接する層)としているので、酸素の取り込まれが低減されて非発光再結合センターの形成を抑えることができ、長寿命であった。
また、本実施例2の面発光レーザにおける偏光方向の制御は、基板の傾斜による光学利得異方性を利用している。現在、最有力視されている(311)B基板(傾斜角が25°)を用いた場合に比べて、小さい傾斜角(15°)であるので、光学利得異方性は小さくなる。実施例2では、この低下分を、量子井戸活性層に圧縮歪を与えることによる光学利得異方性の増大で補ったので、偏光方向を制御できた。
このように、実施例2によれば、活性層の利得が大きく、低しきい値,高出力であって、偏光方向の制御された、信頼性に優れた780nm面発光レーザを実現することができた。
また、本発明の面発光レーザでは、キャリアの閉じ込めが向上し、歪量子井戸活性層による高利得化によって低しきい値化することで、光取り出し側DBRの反射率を低減することが可能となり、より一層の高出力化が可能となる。
なお、本発明のワイドギャップスペーサ層,ワイドギャップ障壁層を用い、AlGaAs系材料による780nm帯よりキャリア閉じ込めが良好になる効果は、短波長化とともに小さくなっていくが、680nmよりも長波長であれば得ることができる。AlxGa1−xAs(0<x≦1)系スペーサ層の定型的な組成範囲で最もバンドギャップが大きいAlxGa1−xAs(x=0.6、Eg=2.0226eV)と組成波長780nm(Eg=1.5567eV)の活性層とのバンドギャップ差は、(AlaGa1−a)bIn1−bP(0<a≦1、0≦b≦1)スペーサ層の定型的な組成範囲で最もバンドギャップが大きい(AlaGa1−a)bIn1−bP(a=0.7、b=0.5、Eg=2.289eV)と組成波長680nm(Eg=1.8233eV)の活性層とのバンドギャップ差(460meV)とほぼ等しい。また障壁層と量子井戸活性層とのバンドギャップ差については、例えば障壁層がGaeIn1−ePfAs1−f(e=0.6、f=1、Eg=2.02eV)の場合、組成波長680nmの活性層とのバンドギャップ差がおよそ200meVとなり、AlGaAs/AlGaAs系活性層による780nm面発光レーザの場合とほぼ同等となるので、e>0.6とすればAlGaAs系材料よりもバンドギャップ差を大きくできる。
つまり、AlGaInP系スペーサ層を用いることで、組成波長が680nmよりも長波長であれば、Alフリー活性層(量子井戸活性層と障壁層)を用いても、AlGaAs/AlGaAs系活性層による780nm面発光レーザの場合と同等以上のキャリア閉じ込めが可能となる、更に歪量子井戸活性層の効果も加わることから、同等以上の特性を得ることが可能となる。
なお、680nmより短波長であってもAlフリー活性層とすることができる。600nmから700nmの発振波長の赤色レーザの材料として、AlGaInPスペーサ層(クラッド層)、AlGaInP障壁層、GaInP量子井戸活性層が用いられている。障壁層には(Al0.5Ga0.5)0.5In0.5Pが良く用いられており、バンドギャップは2.2eV程度である。本発明のように大きな引っ張り歪組成のGaInPのバンドギャップは例えばGa組成0.73で2.239eVであり、量子井戸活性層の圧縮歪量を大きくしなければ用いることができる。これにより赤色レーザの寿命を改善することもできる。
図4は本発明の実施例3に係る面発光レーザの上面図である。
実施例3の実施例2との違いは、面発光レーザの光出射方向から見たメサ形状を、(111)A面方向に長い長楕円形状となるように異方性を設けて形成したことである。これは長方形など他の形状でも良い。これにより、Al酸化膜により形成された電流注入領域の形状も(111)A面方向に長い形状となった。
本発明の面発光レーザにおける偏光方向の制御は、主に基板の傾斜による光学利得異方性を利用している。現在、最有力視されている(311)B基板(傾斜角が25°)を用いた場合に比べて、小さい傾斜角(15°)であるので、基板コストを抑えられることやへき開し易く扱い易さが改善するものの、光学利得異方性は小さくなる。実施例3では、この低下分を、量子井戸活性層に圧縮歪を与えることによる光学利得異方性の増大、更には、面発光レーザの光出射方向から見た活性層の外周形状に異方性を持たせ、(111)A面方向に長い形状とすることによる基板傾斜方向((111)A面方向)の光学的利得増大により補償しており、(311)B基板利用と比べて劣らない偏光方向制御ができた。
このように、実施例3によれば、活性層の利得が大きく、低しきい値,高出力であることと、信頼性に優れていることと、偏光方向が制御されていることとを同時に満たした780nm面発光レーザを実現することができた。
図5は本発明の実施例4に係る面発光レーザアレイを示す図である。すなわち、図5は実施例4の面発光レーザアレイチップの上面図である。
図5の例では、実施例3の面発光レーザ10素子が1次元に並んだものとなっている。ただし、実施例4では、面発光レーザのpとnを実施例2の面発光レーザとは逆にした。すなわち、実施例4では、面発光レーザは、p型GaAs半導体基板上に形成されており、上面にn側個別電極、裏面にp側共通電極が形成されている。また、図5の例では、複数の面発光レーザを1次元に並べたが、例えば後述の図9に示すように複数の面発光レーザを2次元に集積させても良い。
面発光レーザは、面発光型であることでアレイ化が容易で、しかも通常の半導体プロセスで形成されるので、素子の位置制度が高い。更に、本発明のように偏光方向が一定方向に制御された、高出力動作可能な面発光レーザを同一基板上に多数集積することで、書き込み光学系に応用した場合、同時にマルチビームでの書きこみが容易となり、書き込み速度が格段に向上し、書き込みドット密度が上昇しても印刷速度を落とすことなく印刷できる。また同じ書き込みドット密度の場合は印刷速度を早くできる。また、通信に応用した場合、同時に多数ビームによるデータ伝送が可能となるので高速通信ができる。更に面発光レーザは低消費電力動作し、特に機器の中に組み込んで利用した場合、温度上昇を低減できる。
図6は本発明の実施例5に係る光送信モジュールを示す図であり、図6の光送信モジュールは、本発明の面発光レーザアレイチップと安価なアクリル系POF(プラスチック光ファイバー)とを組み合わせたものとなっている。なお、発振波長が680nmとなるような活性層組成としている。実施例5の光送信モジュールでは、面発光レーザからのレーザ光がPOFに入力され、伝送される。アクリル系POFは650nmに吸収損失のボトムがあり、650nmの面発光レーザが検討されているが、高温特性が悪く、実用にはなっていない。従来、この程の光送信モジュールにはLEDが使われているが、この場合には高速変調が困難であり、1Gbpsを越えた高速伝送実現のためには半導体レーザが必要である。
この実施例5の光送信モジュールに用いられる面発光レーザの波長は680nmであるが、活性層利得が大きいので高出力であるとともに高温特性にも優れており、ファイバーの吸収損失は大きくなるが短距離であれば伝送可能である。
光通信の分野では、同時により多くのデータを伝送するために、複数の半導体レーザが集積したレーザアレイを用いた並列伝送が試みられている。これにより、高速な並列伝送が可能となり、従来よりも多くのデータを同時に伝送できるようになった。
この実施例5では(すなわち、図6の例では)、面発光レーザアレイの各面発光レーザ素子と光ファイバーとを1対1に対応させたが、発振波長の異なる複数の面発光レーザ素子を1次元または2次元にアレイ状に配置して、波長多重送信することにより伝送速度を更に増大させることも可能である。
さらに、本発明による安価な面発光レーザ素子と安価なPOFとを組み合わせたので、低コストの光送信モジュールを実現できる他、これを用いた低コストの光通信システムを実現できる。すなわち、極めて低コストであることから、家庭用,オフィスの室内用,機器内用等の短距離のデータ通信に有効である。
図7は、本発明の実施例6に係る光送受信モジュールを示す図であり、図7の光送受信モジュールは、実施例2の面発光レーザ素子と、受信用フォトダイオードと、アクリル系POFとを組み合わせたものとなっている。なお、面発光レーザ素子は、波長が680nmとなるような活性層組成としている。
本発明による面発光レーザ素子を光通信システムに用いる場合、本発明の面発光レーザ素子とPOFは低コストであるので、図7に示すように、送信用の面発光型半導体レーザ素子と、受信用フォトダイオードと、POFとを組み合わせた光送受信モジュールを用いた低コストの光通信システムを実現できる。また、POFは、ファイバの径が大きくてファイバとのカップリングが容易で実装コストを低減できることから、極めて低コストのモジュールを実現できる。極めて経済的であることから、特に一般家庭やオフィスの室内,機器内などの光通信システムに用いることが効果的である。
アクリル系POF(プラスチックファイバー)を用いた光伝送では、その吸収損失から、650nmの発振波長の面発光レーザが検討されているが、高温特性が悪く実用にはなっていない。従って、現在、LEDが使われているが、高速変調が困難であり、1Gbpsを越えた高速伝送実現のためには、半導体レーザが必要である。
発振波長が680nmである本発明の面発光レーザによれば、活性層利得が大きいので、高出力であるとともに高温特性にも優れており、発熱が少なく、高温まで冷却なしで使えるより低コストのシステムを実現できる。なお、ファイバーの吸収損失は大きくなるが短距離であれば伝送可能である。
本発明に係る面発光レーザ素子を用いた光通信システムとしては、光ファイバーを用いたLAN(Local Area Network)などのコンピュータ等の機器間伝送、さらには機器内のボード間データ伝送、ボード内のLSI間、LSI内の素子間等、光インターコネクションとして、特に短距離通信に用いることができる。
近年、LSI等の処理性能は向上しているが、これらを接続する部分の伝送速度が今後ボトルネックとなる。システム内の信号接続を従来の電気接続から光インターコネクトに変えるとき、例えばコンピュータシステムのボード間,ボード内のLSI間,LSI内の素子間等を本発明に係る光送信モジュールや光送受信モジュールを用いて接続すると、超高速コンピュータシステムが可能となる。
また、複数のコンピュータシステム等を本発明に係る光送信モジュールや光送受信モジュールを用いて接続した場合、超高速ネットワークシステムが構築できる。特に面発光レーザ素子は、端面発光型レーザに比べて桁違いに低消費電力化でき2次元アレイ化が容易なので、並列伝送型の光通信システムに適している。
図8は本発明の実施例7のレーザプリンターを示す図である。実施例7のレーザプリンターでは、実施例3の面発光レーザを用いている。すなわち、図8は、波長780nmである4×4の二次元に配置された面発光レーザアレイチップと、感光帯ドラムとを組み合わせたレーザプリンターの光走査部分の概要図である。また、図9は、図8のレーザプリンターに用いられる面発光レーザアレイチップの概略構成を示す図(上面図)である。この面発光レーザアレイチップは、点灯のタイミングを調整することで、感光体上では図9に示すように副走査方向に10μm間隔で光源が並んでいる場合と同様な構成と捉えることができる。
この実施例7では、面発光レーザアレイからの複数のビームを、同じ光学系を用い走査用ポリゴンミラーを高速回転させてドット位置を点灯のタイミングを調整して副走査方向に分離した複数の光スポットとして、被走査面である感光体上に集光して、一度に複数のビームを走査している(すなわち、一度に複数のビームを走査している)。
本発明の面発光レーザアレイは、偏光方向が制御されてしかも高出力化できることから、従来の面発光レーザアレイを用いたレーザプリンターに比べて高速印刷が可能となる。もしくは従来と同速度の場合ではアレイ数の低減が可能となり、面発光レーザアレイチップの製造歩留まりが大きく向上するとともに、レーザプリンターの低コスト化が図れる。
この実施例7によると、副走査方向に約10μm間隔で感光体上に書き込み可能であり、これは2400DPI(ドット/インチ)に相当する。また、主走査方向の書き込み間隔は、光源の点灯のタイミングで容易に制御できる。16ドットを同時に書き込み可能であり、高速印刷できた。アレイ数を増加させることで更に高速印刷可能である。また、面発光レーザ素子の間隔を調整することで、副走査方向の間隔を調整でき、2400DPIよりも高密度にすることができ、より高品質の印刷が可能となる。この実施例7による面発光レーザは、従来の面発光レーザよりも高出力化されているので、印刷速度を従来よりも早くすることができた。
更に、Alフリー活性層により、850nm帯面発光レーザのような通信用面発光レーザと同等の寿命(推定で室温100万時間が報告されている)が達成可能となることから、光書き込み光学ユニット自体の再利用が可能となり、環境負荷低減に貢献できる。
なお、実施例7ではレーザプリンターへの応用例を示したが、本発明の面発光レーザまたは面発光レーザアレイをCD等の記録用,再生用光源としても用いることができる。
メディアへの光書き込み用,再生用光源である半導体レーザの波長は、CDでは780nmが用いられている。本面発光レーザは寿命が長く、また面発光レーザは端面発光型半導体レーザに比べて1桁程度消費電力が小さいことから、本発明の780nmの面発光レーザを再生用光源とした、信頼性が高く、電力が長持ちするハンディータイプの光ピックアップシステムを実現できる。
本発明の実施例1に係る波長730nm帯の端面発光型レーザを示す図である。
本発明の実施例2に係る面発光レーザを示す図である。
本発明の実施例2に係る面発光レーザを示す図である。
本発明の実施例3に係る面発光レーザの上面図である。
本発明の実施例4に係る面発光レーザアレイを示す図である。
本発明の実施例5に係る光送信モジュールを示す図である。
本発明の実施例6に係る光送受信モジュールを示す図である。
本発明の実施例7のレーザプリンターを示す図である。
複数の面発光レーザを2次元に集積させた面発光レーザアレイチップの例を示す図である。