JP2005314789A - 転動装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 素材の結晶粒をより微細化して更なる長寿命化を図ることができる転動装置を提供する。
【解決手段】 内方部材、外方部材及び転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とすると共に、熱処理時に窒化又は軟窒化処理を行うことで、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、窒素濃度を0.3重量%以上とし、前記熱処理が、素材を800°C以上1000°C以下に加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下の温度で窒化又は軟窒化処理する第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cに加熱し、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備する。
【選択図】 図1
【解決手段】 内方部材、外方部材及び転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とすると共に、熱処理時に窒化又は軟窒化処理を行うことで、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、窒素濃度を0.3重量%以上とし、前記熱処理が、素材を800°C以上1000°C以下に加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下の温度で窒化又は軟窒化処理する第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cに加熱し、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備する。
【選択図】 図1
Description
本発明は、例えば自動車、一般産業機械、工作機械、鉄鋼機械等に用いられる玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受等の転がり軸受に代表される転動装置の長寿命化に関する。
通常、転がり軸受等の転動装置の材料としては、高炭素クロム軸受鋼が用いられるが、近年、使用条件の過酷化傾向に対応するために長寿命化の要求が高まり、クリーンな潤滑条件下では、材料の清浄度を高めることで、長寿命化が図られている。また、軸受鋼は、通常、焼き入れ、焼戻し処理が施されるが、寿命を延長させるため、浸炭窒化焼き入れ処理が施される場合もある。
上述した材料の清浄度の向上については、鋼の製造上、介在物を無くすことは不可能であり、極限まで介在物を低減させるには特殊な溶解方法が必要となるため、素材のコストアップにつながる。また、浸炭窒化処理を施す場合には、長時間の浸炭窒化処理が必要となり、やはり製品のコストアップにつながる。
そこで、このような問題点を解決するため、軸受鋼の強度を向上させて、転動疲労寿命の改善を図ることが考えられる。材料の強度を改善する手法としては、金属学的には、(1)結晶粒(熱処理完了後の旧オーステナイト粒)を細かくする、(2)炭素、窒素の固溶量を増加させ、固溶強化を図る、(3)炭化物による析出強化が主に挙げられている。
そこで、このような問題点を解決するため、軸受鋼の強度を向上させて、転動疲労寿命の改善を図ることが考えられる。材料の強度を改善する手法としては、金属学的には、(1)結晶粒(熱処理完了後の旧オーステナイト粒)を細かくする、(2)炭素、窒素の固溶量を増加させ、固溶強化を図る、(3)炭化物による析出強化が主に挙げられている。
上記(2)の手法は、上述した浸炭窒化処理に相当し、コスト上の問題があり、また、上記(3)の手法は、通常の軸受鋼ではセメンタイトが析出物に相当し、強化に必要とされる析出量が確保されているため、析出硬化で強度を向上させるには、MoやV等の特殊な元素の添加が必要となり、やはり素材のコストアップにつながる。
上記(1)の結晶粒の微細化による強化は、結晶粒径dの−1/2乗に比例して、材料強度が増すというホールペッチ則で知られており、素材を変えずに、結晶粒径を細かくするだけで強度が改善されるので、近年、注目を集めている強化方法である。
上記(1)の結晶粒の微細化による強化は、結晶粒径dの−1/2乗に比例して、材料強度が増すというホールペッチ則で知られており、素材を変えずに、結晶粒径を細かくするだけで強度が改善されるので、近年、注目を集めている強化方法である。
軸受鋼の結晶粒の微細化を図った事例としては、例えば、熱間温度及び温間温度領域で加工を施し、焼入れを行うことで、4〜7μmの結晶粒を得るようにしたものが開示されている(例えば特許文献1参照)。
また、加工を施さずに軸受鋼の結晶粒の微細化を図った事例としては、例えば、浸炭窒化処理を施し、更に800°C近くの低温で2次焼入れ処理を施すことによって、結晶粒を5〜6μmとして、清浄な油浴潤滑および摩耗粉等の異物が混入する条件下での長寿命化を図るようにしたものが開示されている(例えば特許文献2参照)。
特許第2524156号公報
特開2003−226918号公報
また、加工を施さずに軸受鋼の結晶粒の微細化を図った事例としては、例えば、浸炭窒化処理を施し、更に800°C近くの低温で2次焼入れ処理を施すことによって、結晶粒を5〜6μmとして、清浄な油浴潤滑および摩耗粉等の異物が混入する条件下での長寿命化を図るようにしたものが開示されている(例えば特許文献2参照)。
ところで、近年、転動装置の使用条件はより過酷化する傾向にあり、軸受鋼等の結晶粒をできるだけ微細化して転動装置の更なる長寿命化を図ることが望まれるが、上記特許文献1及び特許文献2においては、結晶粒を3μm以下に微細化することは難しいと考えられる。
本発明はこのような技術的背景に鑑みてなされたものであり、素材の結晶粒をより微細化して更なる長寿命化を図ることができる転動装置を提供することを目的とする。
本発明はこのような技術的背景に鑑みてなされたものであり、素材の結晶粒をより微細化して更なる長寿命化を図ることができる転動装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内方部材と外方部材との間に複数の転動体が周方向に転動可能に配設された転動装置において、
前記内方部材、前記外方部材及び前記転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素(N)濃度を0.3重量%以上、炭素(C)濃度と窒素(N)濃度との比をC/N=1.10以下としたことを特徴とする。
前記内方部材、前記外方部材及び前記転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素(N)濃度を0.3重量%以上、炭素(C)濃度と窒素(N)濃度との比をC/N=1.10以下としたことを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記熱処理が、素材を800〜1000°Cに加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下の温度で窒化又は軟窒化処理する第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cに加熱し、塑性加工後、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備することを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記熱処理が、素材を800〜1000°Cに加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下の温度で窒化又は軟窒化処理する第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cに加熱し、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備することを特徴とする。
本発明によれば、内方部材、外方部材及び転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素(N)濃度を0.3重量%以上、炭素(C)濃度と窒素(N)濃度との比をC/N=1.10以下とすることにより、熱処理完了後の旧オーステナイト粒径を微細化して材料強度を高めると共に基地組織を強化し、これにより、転動疲労寿命の延長を可能にする。
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施の形態である転がり軸受の熱処理工程を説明するための説明図、図2は結晶粒径と寿命比との関係を示すグラフ図、図3は実施例2の走査型電子顕微鏡による金属組織の写真、図4は比較例5の走査型電子顕微鏡による金属組織の写真、図5は窒素濃度と結晶粒径との関係を示すグラフ図、図6は塑性加工率と結晶粒径との関係を示すグラフ図、図7は本発明の第2の実施の形態である転がり軸受の熱処理工程を説明するための説明図、図8は結晶粒径と寿命比との関係を示すグラフ図、図9は窒素濃度と結晶粒径との関係を示すグラフ図、図10は硬さとN/Cとの関係を示すグラフ図、図11は寿命比とN/Cとの関係を示すグラフ図である。
本発明の第1の実施の形態では、一般的に転がり軸受に使用される高炭素クロム鋼SUJ2に代表される高炭素鋼の結晶粒径を、通常の焼入れ、焼戻し処理を施した場合よりも微細にすることによって、転がり疲労特性を改善する。
本発明の第1の実施の形態における結晶粒の微細化の方法の第1の特徴は、オーステナイト化時にオ一ステナイト粒の核の発生箇所を増やすため、窒化物および炭窒化物を利用することである。通常、軸受鋼においては、窒素含有量を高める方法として浸炭窒化処理が施されるが、浸炭窒化は800〜900°Cで行なわれ、窒素の供給ガスであるNH3 が分解してしまうため、窒素濃度を効果的に高くすることができない。
本発明の第1の実施の形態における結晶粒の微細化の方法の第1の特徴は、オーステナイト化時にオ一ステナイト粒の核の発生箇所を増やすため、窒化物および炭窒化物を利用することである。通常、軸受鋼においては、窒素含有量を高める方法として浸炭窒化処理が施されるが、浸炭窒化は800〜900°Cで行なわれ、窒素の供給ガスであるNH3 が分解してしまうため、窒素濃度を効果的に高くすることができない。
これに対し、この実施の形態では、より窒素濃度を高める方法として窒化又は軟窒化処理に着目した。窒化又は軟窒化処理は、500〜600°Cで実施され、窒素濃度を効果的に高めることができ、浸炭窒化した場合よりも、オーステナイト化時の再結晶の核発生箇所となる窒化物および炭窒化物量を著しく増加させることができる。
また、第2の特徴としては、窒化又は軟窒化処理後にオーステナイト温度域で塑性加工を施し、オ一ステナイトの再結晶を利用して、微細化を促進させる点である。
また、第2の特徴としては、窒化又は軟窒化処理後にオーステナイト温度域で塑性加工を施し、オ一ステナイトの再結晶を利用して、微細化を促進させる点である。
即ち、本発明の第1の実施の形態である転がり軸受は、内輪(内方部材)、外輪(外方部材)及び転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ熱処理時に窒化又は軟窒化処理及び塑性加工を行うことで、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上とすることにより、熱処理完了後の旧オーステナイト粒径を微細化して材料強度を高めると共に基地組織を強化し、これにより、転動疲労寿命の延長を可能にする。
そして、前記熱処理が、図1に示すように、素材を800°〜1000°Cで20〜60分に加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下、例えば500〜600°Cで3〜48時間の窒化又は軟窒化処理を施す第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cで10〜30分加熱し、加工率25〜50%で塑性加工後、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備することで、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上とすることを可能とする。
次に、各工程について詳述する。
(第1の工程)
第1の工程は、前処理としての焼入れ処理であり、マルテンサイト組織とする工程である。焼入れ温度は、800〜1000°Cの範囲内で20〜60分行い、マルテンサイトと残留オーステナイトおよびセメンタイトの3相組織とするか、通常の軸受鋼の標準焼入れ温度である830〜850°Cよりも高い900〜1000°Cで焼入れをすることによって、球状化セメンタイトを消失させてもよい。
(第1の工程)
第1の工程は、前処理としての焼入れ処理であり、マルテンサイト組織とする工程である。焼入れ温度は、800〜1000°Cの範囲内で20〜60分行い、マルテンサイトと残留オーステナイトおよびセメンタイトの3相組織とするか、通常の軸受鋼の標準焼入れ温度である830〜850°Cよりも高い900〜1000°Cで焼入れをすることによって、球状化セメンタイトを消失させてもよい。
(第2の工程)
第2の工程は窒化又は軟窒化処理工程であり、Ae1変態点以下、例えば500〜600°Cで3〜48時間実施する。この工程では、鉄と窒素が反応して、窒素濃度に応じてFe4 N、Fe3 N、Fe2 Nの鉄窒化物が形成される。窒化又は軟窒化処理によって、浸炭窒化処理では得ることができない最大15重量%程度の高濃度の窒素を富化することができ、非常に微細な窒化物、或いは炭窒化物が多量に形成される。この微細な窒化物或いは炭窒化物は、次の第3の工程でのオ―ステナイト粒の核発生箇所となり、微細化が促進する。
第2の工程は窒化又は軟窒化処理工程であり、Ae1変態点以下、例えば500〜600°Cで3〜48時間実施する。この工程では、鉄と窒素が反応して、窒素濃度に応じてFe4 N、Fe3 N、Fe2 Nの鉄窒化物が形成される。窒化又は軟窒化処理によって、浸炭窒化処理では得ることができない最大15重量%程度の高濃度の窒素を富化することができ、非常に微細な窒化物、或いは炭窒化物が多量に形成される。この微細な窒化物或いは炭窒化物は、次の第3の工程でのオ―ステナイト粒の核発生箇所となり、微細化が促進する。
窒化又は軟窒化処理完了時の窒素濃度については、0.5重量%以上にすることによって、結晶粒の微細化に有効な微細な窒化物或いは炭窒化物が形成される。
軸受鋼は、通常、球状化焼鈍材が標準的に使用されるが、球状化焼鈍材に窒化又は軟窒化処理を施した場合には、結晶粒の微細化は進行しない。これは、球状化焼鈍材は、フェライトと球状化セメンタイトの2相であるが、SUJ2に代表される軸受鋼のような低合金鋼の球状化焼鈍材に窒化又は軟窒化処理を施した場合は、形成される窒化物は、所謂、白層と言われ、表面に層状に形成されてしまうため、結晶粒の微細化に有効な微細な窒化物、炭窒化物が形成されないためである。従って、この実施の形態では、第1の工程で述べたように、窒化又は軟窒化処理を施す前段階としての組織の状態は、マルテンサイトを基本的な構成相とするのが必須である。
軸受鋼は、通常、球状化焼鈍材が標準的に使用されるが、球状化焼鈍材に窒化又は軟窒化処理を施した場合には、結晶粒の微細化は進行しない。これは、球状化焼鈍材は、フェライトと球状化セメンタイトの2相であるが、SUJ2に代表される軸受鋼のような低合金鋼の球状化焼鈍材に窒化又は軟窒化処理を施した場合は、形成される窒化物は、所謂、白層と言われ、表面に層状に形成されてしまうため、結晶粒の微細化に有効な微細な窒化物、炭窒化物が形成されないためである。従って、この実施の形態では、第1の工程で述べたように、窒化又は軟窒化処理を施す前段階としての組織の状態は、マルテンサイトを基本的な構成相とするのが必須である。
(第3の工程)
第3の工程は、オ―ステナイト化とオーステナイト域での塑性加工工程で、実質的な結晶粒の微細化工程に相当し、A1変態点よりも高温の780〜880°C、より好ましくは780〜840°Cで行われる。オーステナイト温度域での塑性加工の方法としては、ローリングミルによるローリング成形、熱間鍛造が挙げられる。
第2の工程で析出した微細な窒化物を核として、オーステナイト粒が形成されるので、球状化焼鈍材をオ一ステナイト化した場合よりも、著しく結晶粒の微細化が進行する。オーステナイト化するだけでも、結晶粒の微細化は進行するが、更に微細化を促進させる工程として、塑性加工を実施する。
第3の工程は、オ―ステナイト化とオーステナイト域での塑性加工工程で、実質的な結晶粒の微細化工程に相当し、A1変態点よりも高温の780〜880°C、より好ましくは780〜840°Cで行われる。オーステナイト温度域での塑性加工の方法としては、ローリングミルによるローリング成形、熱間鍛造が挙げられる。
第2の工程で析出した微細な窒化物を核として、オーステナイト粒が形成されるので、球状化焼鈍材をオ一ステナイト化した場合よりも、著しく結晶粒の微細化が進行する。オーステナイト化するだけでも、結晶粒の微細化は進行するが、更に微細化を促進させる工程として、塑性加工を実施する。
この塑性加工によって、オーステナイト粒が変形して加工歪が導入され、この歪エネルギーによって再結晶が起こる。塑性加工の終了温度をオーステナイトの再結晶温度にすることによって、加工歪の導入直後から、再結晶が進行して、新しいオーステナイト粒が形成されて結晶粒の微細化が進行する。オーステナイトの再結晶は、短時間で完了するので、塑性加工後、直ちに焼入れすることによって、旧オーステナイト粒が微細なマルテンサイト組織を得ることができる。
オーステナイト化温度は、窒化又は軟窒化温度よりも高い温度なので、第3の工程の加熱保持段階では、表面の窒素の内部への拡散が進行して表面の窒素濃度は窒化又は軟窒化処理完了後より低下する。詳細は後述するが、オーステナイト温度域での塑性加工完了時に0.3重量%以上の窒素濃度を保つことができれば、オーステナイト加熱時に、オーステナイト結晶粒の成長を抑制する窒化物、炭窒化物を残存させることができるので、結晶粒径を微細に保つことが可能である。
第3の工程による焼入れ後、第4の工程の焼戻し処理(160〜240°C、より好ましくは160〜180°C)を行い、研削加工を施して軸受として用いる。
第3の工程による焼入れ後、第4の工程の焼戻し処理(160〜240°C、より好ましくは160〜180°C)を行い、研削加工を施して軸受として用いる。
以上の第1〜第4の工程を経ることによって、球状化焼鈍材を出発素材とした通常の焼入れ、焼戻し処理では、結晶粒径が15〜20μm程度のマルテンサイト組織であるが、この実施の形態では、結晶粒径を3μm以下に微細化することが可能となり、結晶粒の微細化によって、材料強度が向上して寿命が延長する。
また、熱処理完了時の表面の窒素濃度が0.3重量%以上とされているため、基地組織が強化されて、結晶粒の微細化のみの場合よりも寿命延長効果が大きくなり、異物混入潤滑下でも長寿命化が可能となる。
また、熱処理完了時の表面の窒素濃度が0.3重量%以上とされているため、基地組織が強化されて、結晶粒の微細化のみの場合よりも寿命延長効果が大きくなり、異物混入潤滑下でも長寿命化が可能となる。
次に、図7を参照して、本発明の第2の実施の形態である転がり軸受の熱処理工程について説明する。
本発明の第2の実施の形態では、上記第1の実施の形態と同様に、一般的に転がり軸受に使用される高炭素クロム鋼SUJ2に代表される高炭素鋼の結晶粒を、通常の焼入れ、焼戻し処理を施した場合よりも微細にすることによって、転がり疲労特性を改善する。
この実施の形態における結晶粒の微細化の方法の第1の特徴は、上記第1の実施の形態と同様に、オーステナイト化時にオーステナイト粒の核の発生箇所を増やすため、窒化物および炭窒化物を利用する。通常、軸受鋼においては、窒素含有量を高める方法として浸炭窒化処理が施されるが、浸炭窒化は800〜900°Cで行なわれ、窒素の供給ガスであるNH3 が分解してしまうため、窒素濃度を効果的に高くすることができない。
本発明の第2の実施の形態では、上記第1の実施の形態と同様に、一般的に転がり軸受に使用される高炭素クロム鋼SUJ2に代表される高炭素鋼の結晶粒を、通常の焼入れ、焼戻し処理を施した場合よりも微細にすることによって、転がり疲労特性を改善する。
この実施の形態における結晶粒の微細化の方法の第1の特徴は、上記第1の実施の形態と同様に、オーステナイト化時にオーステナイト粒の核の発生箇所を増やすため、窒化物および炭窒化物を利用する。通常、軸受鋼においては、窒素含有量を高める方法として浸炭窒化処理が施されるが、浸炭窒化は800〜900°Cで行なわれ、窒素の供給ガスであるNH3 が分解してしまうため、窒素濃度を効果的に高くすることができない。
これに対し、この実施の形態では、より窒素濃度を高める方法として窒化又は軟窒化処理に着目した。窒化又は軟窒化処理は、Ae1変態点の温度以下の例えば500〜600°Cで実施され、窒素濃度を数重量%に高めることができ、浸炭窒化した場合よりも、オーステナイト化時の再結晶の核発生箇所となる窒化物および炭窒化物量を著しく増加することができる。これらの窒化物および炭窒化物が結晶粒の成長を抑制するため、微細な結晶粒が生成すると考えられる。
また、第2の特徴として、焼入れ後の窒化又は軟窒化処理後に、再度焼入れ工程を経て、焼戻し工程を経る。
即ち、本発明の第2の実施の形態である転がり軸受は、内輪(内方部材)、外輪(外方部材)及び転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ熱処理時に焼入れ後の窒化又は軟窒化処理及び再焼入れ処理を行うことで、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上とすることにより、熱処理完了後の旧オーステナイト粒径を微細化して材料強度を高めると共に基地組織を強化し、これにより、転動疲労寿命の延長を可能にする。
即ち、本発明の第2の実施の形態である転がり軸受は、内輪(内方部材)、外輪(外方部材)及び転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ熱処理時に焼入れ後の窒化又は軟窒化処理及び再焼入れ処理を行うことで、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上とすることにより、熱処理完了後の旧オーステナイト粒径を微細化して材料強度を高めると共に基地組織を強化し、これにより、転動疲労寿命の延長を可能にする。
そして、前記熱処理が、図7に示すように、素材を800°〜1000°Cで20〜60分に加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点温度以下の例えば500〜600°Cで3〜48時間の窒化又は軟窒化処理を施す第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°C、より好ましくは780〜840°Cで10〜30分加熱し、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備することで、加工装置を用いることなく、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上とすることを可能とする。
次に、各工程について詳述する。
(第1の工程)
第1の工程は、前処理としての焼入れ処理であり、マルテンサイト組織とする工程である。焼入れ温度は、800〜1000°Cの範囲内で20〜60分行なわれ、マルテンサイトと残留オーステナイトおよびセメンタイトの3相組織とするか、通常の軸受鋼の標準焼入れ温度である830〜850°Cよりも高い900〜950°Cで焼入れをすることによって、球状化セメンタイトを消失させてもよい。
(第1の工程)
第1の工程は、前処理としての焼入れ処理であり、マルテンサイト組織とする工程である。焼入れ温度は、800〜1000°Cの範囲内で20〜60分行なわれ、マルテンサイトと残留オーステナイトおよびセメンタイトの3相組織とするか、通常の軸受鋼の標準焼入れ温度である830〜850°Cよりも高い900〜950°Cで焼入れをすることによって、球状化セメンタイトを消失させてもよい。
(第2の工程)
第2の工程は、所謂、窒化又は軟窒化処理工程であり、Ae1変態点以下、例えば500〜600°Cで3〜48時間実施する。この工程では、鉄と窒素が反応して、窒素濃度に応じて表面には、Fe4 N、Fe3 N、Fe2 Nの鉄窒化物が形成される。窒化又は軟窒化処理によって、浸炭窒化処理では得ることができない最大15重量%程度の高濃度の窒素を富化することができ、非常に微細な窒化物或いは、炭窒化物が多量に形成される。この微細な窒化物或いは炭窒化物は、次の第3の工程でのオーステナイト粒の核発生箇所となり、微細化が促進する。
第2の工程は、所謂、窒化又は軟窒化処理工程であり、Ae1変態点以下、例えば500〜600°Cで3〜48時間実施する。この工程では、鉄と窒素が反応して、窒素濃度に応じて表面には、Fe4 N、Fe3 N、Fe2 Nの鉄窒化物が形成される。窒化又は軟窒化処理によって、浸炭窒化処理では得ることができない最大15重量%程度の高濃度の窒素を富化することができ、非常に微細な窒化物或いは、炭窒化物が多量に形成される。この微細な窒化物或いは炭窒化物は、次の第3の工程でのオーステナイト粒の核発生箇所となり、微細化が促進する。
窒化又は軟窒化完了時の窒素濃度については、少なくとも0.3重量%以上(望ましくは0.5重量%以上)にすることによって、結晶粒の微細化に有効な微細な窒化物或いは炭窒化物が形成される。
軸受鋼は、通常、球状化焼鈍材が標準的に使用されるが、球状化焼鈍材に窒化又は軟窒化処理を施した場合には、焼入れ材に比べて微細化が進行しにくい。これは、炭素の生成状態が窒素の拡散と窒化物及び炭窒化物の生成に大きく関与している結果であると考えられる。
軸受鋼は、通常、球状化焼鈍材が標準的に使用されるが、球状化焼鈍材に窒化又は軟窒化処理を施した場合には、焼入れ材に比べて微細化が進行しにくい。これは、炭素の生成状態が窒素の拡散と窒化物及び炭窒化物の生成に大きく関与している結果であると考えられる。
(第3の工程)
第3の工程は、オ一ステナイト域からの焼入れ処理で、実質、結晶粒の微細化工程に相当し、A1変態点よりも高温の780〜880°C、より好ましくは780〜840°Cで行われる。
第2の工程で析出した微細な窒化物を核として、オーステナイト粒が形成されるので、球状化焼鈍材をオーステナイト化した場合よりも、著しく微細化が進行する。
オーステナイト化温度は、窒化又は軟窒化温度よりも高い温度なので、第3の工程での加熱保持段階では、表面の窒素の内部への拡散が進行するので、表面の窒素濃度は、窒化又は軟窒化完了後より低下する。詳細は後述するが、オーステナイト温度域で0.3重量%以上の窒素濃度を保つことができれば、オーステナイト加熱時に、オーステナイト結晶粒の成長を抑制する窒化物、炭窒化物を残存させることができるので、結晶粒径を微細に保つことが可能である。
第3の工程は、オ一ステナイト域からの焼入れ処理で、実質、結晶粒の微細化工程に相当し、A1変態点よりも高温の780〜880°C、より好ましくは780〜840°Cで行われる。
第2の工程で析出した微細な窒化物を核として、オーステナイト粒が形成されるので、球状化焼鈍材をオーステナイト化した場合よりも、著しく微細化が進行する。
オーステナイト化温度は、窒化又は軟窒化温度よりも高い温度なので、第3の工程での加熱保持段階では、表面の窒素の内部への拡散が進行するので、表面の窒素濃度は、窒化又は軟窒化完了後より低下する。詳細は後述するが、オーステナイト温度域で0.3重量%以上の窒素濃度を保つことができれば、オーステナイト加熱時に、オーステナイト結晶粒の成長を抑制する窒化物、炭窒化物を残存させることができるので、結晶粒径を微細に保つことが可能である。
第3の工程後、第4の工程である焼戻し処理(160〜240°C、より好ましくは160〜180°C)を行い、研削加工を施して、軸受として用いる。
球状化焼鈍材を出発素材とした通常の焼入れ処理では、結晶粒径が15〜20μm程度のマルテンサイト組織であるが、以上の第1の工程〜第4の工程を経ることによって、加工装置を用いることなく、熱処理のみで完成品転動面表面層の結晶粒を3μm以下に微細化することが可能となり、結晶粒の微細化によって、材料強度が向上して寿命が延長する。
球状化焼鈍材を出発素材とした通常の焼入れ処理では、結晶粒径が15〜20μm程度のマルテンサイト組織であるが、以上の第1の工程〜第4の工程を経ることによって、加工装置を用いることなく、熱処理のみで完成品転動面表面層の結晶粒を3μm以下に微細化することが可能となり、結晶粒の微細化によって、材料強度が向上して寿命が延長する。
また、前記表面層の窒素濃度が0.3重量%以上とされているので、基地組織が強化されており、微細化のみの場合よりも寿命延長効果が大きく、異物混入潤滑下でも長寿命化が可能である。
図10に上記各実施の形態における前記熱処理後の前記表面層の窒素(N)濃度(重量%)と炭素(C)濃度(重量%)との比=N/Cと硬さとの関係を示す。
図から明らかなように、N/Cが1.10を超える場合は、窒素の拡散領域において炭素濃度が低下するため、硬さが低下し、その結果として転動寿命が低下するのが判る。N/Cが1.10以下の範囲、より好ましくはN/Cが0.3〜1.10の範囲では窒素は固溶強化が顕著であり、転動寿命は向上するのが判る。
図10に上記各実施の形態における前記熱処理後の前記表面層の窒素(N)濃度(重量%)と炭素(C)濃度(重量%)との比=N/Cと硬さとの関係を示す。
図から明らかなように、N/Cが1.10を超える場合は、窒素の拡散領域において炭素濃度が低下するため、硬さが低下し、その結果として転動寿命が低下するのが判る。N/Cが1.10以下の範囲、より好ましくはN/Cが0.3〜1.10の範囲では窒素は固溶強化が顕著であり、転動寿命は向上するのが判る。
なお、上記各実施の形態での軸受形式は限定されるものではなく、玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受等の転がり軸受や他の転動装置にも適用でき、いずれの場合も同様の作用効果が得られる。
また、上記各実施の形態では、例えば表面から0.1mmまでを表面層としているが、例えば表面から0.5mmまでの深さを表面層とし、結晶粒径、窒素濃度、炭素濃度と窒素濃度との比が前記の範囲であることが、より好ましい。
また、上記各実施の形態では、例えば表面から0.1mmまでを表面層としているが、例えば表面から0.5mmまでの深さを表面層とし、結晶粒径、窒素濃度、炭素濃度と窒素濃度との比が前記の範囲であることが、より好ましい。
(第1の実施例:第1の実施の形態に対応)
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
高炭素クロム鋼SUJ2を用いて、試験片を作製した。出発素材は、球状化焼鈍材であり、窒化処理後の表面窒素濃度は0.5〜12重量%の範囲であった。各試験片の熱処理工程を表1に示す。熱処理後、研削を行った。
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
高炭素クロム鋼SUJ2を用いて、試験片を作製した。出発素材は、球状化焼鈍材であり、窒化処理後の表面窒素濃度は0.5〜12重量%の範囲であった。各試験片の熱処理工程を表1に示す。熱処理後、研削を行った。
これらの試験片について、スラスト寿命試験を行った。寿命試験には森式スラスト転がリ寿命試験機を用いた。試験条件は次の通りである。
(寿命試験条件)
荷重 :4900MPa
回転数:300min-1
潤滑油:♯68タービン油
混入異物
組成 :Fe3 C系粉
硬さ :HRC52
粒径 :74〜147μm
混入量:潤滑油中に300ppm
寿命は、各試験片をそれぞれn=10試験して、フレーキングが発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
(寿命試験条件)
荷重 :4900MPa
回転数:300min-1
潤滑油:♯68タービン油
混入異物
組成 :Fe3 C系粉
硬さ :HRC52
粒径 :74〜147μm
混入量:潤滑油中に300ppm
寿命は、各試験片をそれぞれn=10試験して、フレーキングが発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
各試験片の完成品転動面表面層の結晶粒径(旧オーステナイト粒径)は、塩化第二鉄と塩酸の混合溶液でエッチングして旧オーステナイト粒界のみを現出させ、走査型電子顕微鏡で2000〜10000倍で撮影した写真を用いて結晶粒径を切片法で測定し、平均化した。前記表面層の窒素濃度の測定は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた。
試験結果を表1に併せて示す。表1中の寿命比は比較例5の通常焼入れ,焼戻しのL10寿命を1とし、その比率で示してある。
表1から判るように、本発明の実施例1〜7は、本発明の熱処理工程を実施することによって、いずれも前記表面層の窒素濃度が0.3重量%以上で、且つ結晶粒径(旧オーステナイト粒径)が3μm以下に微細化されており、異物混入潤滑下での寿命延長効果は明らかである。図2に結晶粒径と寿命比との関係を示す。図2から結晶粒径が3μm以下で寿命比が向上することが判る。また、一例として図3に本発明の実施例2の走査型電子顕微鏡による金属組織を、図4に比較例5の走査型電子顕微鏡による金属組織をそれぞれ示す。
表1から判るように、本発明の実施例1〜7は、本発明の熱処理工程を実施することによって、いずれも前記表面層の窒素濃度が0.3重量%以上で、且つ結晶粒径(旧オーステナイト粒径)が3μm以下に微細化されており、異物混入潤滑下での寿命延長効果は明らかである。図2に結晶粒径と寿命比との関係を示す。図2から結晶粒径が3μm以下で寿命比が向上することが判る。また、一例として図3に本発明の実施例2の走査型電子顕微鏡による金属組織を、図4に比較例5の走査型電子顕微鏡による金属組織をそれぞれ示す。
図5は、本発明の実施例1〜7および比較例3について、前記表面層の窒素濃度と結晶粒径との関係を整理したもので、図から前記表面層の窒素濃度が0.3重量%未満になると、結晶粒径が本発明の上限値である3μmよりも大きくなっているのが判る。これは、前記表面層の窒素濃度が0.3重量%未満では、オーステナイト化時の結晶粒の成長を抑える窒化物および炭窒化物の存在割合が少なくなり、ピン止め効果が小さくなったためである。
以上の結果より、本発明では、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上で、且つ旧オーステナイトの平均結晶粒径を3μm以下とする。
比較例1は、第1の工程の焼入れ工程を施さない場合であり、結晶粒の微細化が十分進行しておらず、寿命延長効果が小さい。これは、上述したように、窒化処理の前にマルテンサイト組織としないと、オーステナイト結晶粒の核発生箇所となる微細な窒化物や炭窒化物が得られないためである。
比較例1は、第1の工程の焼入れ工程を施さない場合であり、結晶粒の微細化が十分進行しておらず、寿命延長効果が小さい。これは、上述したように、窒化処理の前にマルテンサイト組織としないと、オーステナイト結晶粒の核発生箇所となる微細な窒化物や炭窒化物が得られないためである。
比較例2は、第3の工程におけるオーステナイト温度域での塑性加工率が25%未満の場合であり、結晶粒の微細化に必要な加工歪が得られないので、結晶粒径が3μmを超えている。
図6にオーステナイト温度域での塑性加工率と結晶粒径との関係を示すが、図から結晶粒径を寿命延長効果のある3μm以下にするには、25%以上の加工率で塑性加工を加える必要があることが判る。また、安定的に微細な結晶粒を得る場合は、30%以上の加工度とする。
図6にオーステナイト温度域での塑性加工率と結晶粒径との関係を示すが、図から結晶粒径を寿命延長効果のある3μm以下にするには、25%以上の加工率で塑性加工を加える必要があることが判る。また、安定的に微細な結晶粒を得る場合は、30%以上の加工度とする。
なお、塑性加工の加工率が大きくなると、結晶粒の微細化は比例的に進行するが、肉厚比で50%を超えるような加工度で加工を加えても、微細化の程度は小さくなり、また、大加工を加えるには、装置が大型化してコストアップとなる。したがって、本発明では、オ―ステナイト温度域での塑性加工の加工率は25〜50%とし、低コストで安定した製造ができる範囲としては、30%〜50%とする。
比較例4は、第1の工程および第2の工程の工程を施さず、素材をオーステナイト化後、塑性加工を施したのみの場合であるが、微細な窒化物および炭窒化物の効果が得られないため、結晶粒の微細化が不十分であり、寿命延長効果が小さい。
比較例6は、従来技術である球状化焼鈍材に浸炭窒化後、焼入れ処理を施し、且つ790〜820°Cで2次焼入れを施した場合であるが、結晶粒径は5μm以上で本発明範囲よりも大きく、本発明の実施例より、寿命延長効果は小さい。
比較例6は、従来技術である球状化焼鈍材に浸炭窒化後、焼入れ処理を施し、且つ790〜820°Cで2次焼入れを施した場合であるが、結晶粒径は5μm以上で本発明範囲よりも大きく、本発明の実施例より、寿命延長効果は小さい。
(第2の実施例:第2の実施の形態に対応)
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
高炭素クロム鋼SUJ2を用いて、試験片を作製した。出発素材は、球状化焼鈍材である。焼戻し工程は、いずれの場合も160〜240°Cで2時間行った。また、窒化処理後の表面窒素濃度は0.5〜12重量%の範囲であった。各試験片の熱処理工程を表2に示す。熱処理後、研削を行った。
本発明の効果を確認するために、以下の実験を行った。
高炭素クロム鋼SUJ2を用いて、試験片を作製した。出発素材は、球状化焼鈍材である。焼戻し工程は、いずれの場合も160〜240°Cで2時間行った。また、窒化処理後の表面窒素濃度は0.5〜12重量%の範囲であった。各試験片の熱処理工程を表2に示す。熱処理後、研削を行った。
これらの試験片を用いて、スラスト寿命試験を行った。寿命試験には森式スラスト転がり寿命試験機を用いた。試験条件は次の通りである。
(寿命試験条件)
荷重 :4900MPa
回転数:300min-1
潤滑油:♯68タービン油
混入異物
組成 :Fe3 C系粉
硬さ :HRC52
粒径 :74〜147μm
混入量:潤滑油中に300ppm
寿命は、各試験片をそれぞれn=10試験して、フレーキングが発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
(寿命試験条件)
荷重 :4900MPa
回転数:300min-1
潤滑油:♯68タービン油
混入異物
組成 :Fe3 C系粉
硬さ :HRC52
粒径 :74〜147μm
混入量:潤滑油中に300ppm
寿命は、各試験片をそれぞれn=10試験して、フレーキングが発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
各試験片の完成品転動面表面層の平均結晶粒径は、塩化第二鉄をべースとした溶液でエッチングして、旧オーステナイト粒界のみを現出させ、走査型電子顕微鏡で2000〜3000倍で撮影した写真を用いて、結晶粒径を測定した。結晶粒径の測定は、切片法で測定して平均化した。前記表面層の窒素濃度の測定は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた。
試験結果を表2に併せて示す。表2中の寿命比は、比較例5Aの通常焼入れ、焼戻しのL10寿命を1とし、その比率で示してある。
表2から判るように、本発明の実施例1A〜7Aは、本発明に係る熱処理工程を実施することによって、いずれも前記表面層の窒素濃度が0.3重量%以上で、且つ結晶粒径が3μm以下に微細化されており、異物混入潤滑下での寿命延長効果は明らかである。図8に結晶粒径と寿命比の関係を示す。
表2から判るように、本発明の実施例1A〜7Aは、本発明に係る熱処理工程を実施することによって、いずれも前記表面層の窒素濃度が0.3重量%以上で、且つ結晶粒径が3μm以下に微細化されており、異物混入潤滑下での寿命延長効果は明らかである。図8に結晶粒径と寿命比の関係を示す。
図9は、本発明の実施例1A〜7Aおよび比較例2A〜4Aについて、前記表面層の窒素濃度と結晶粒径との関係を整理したもので、図から前記表面層の窒素濃度が0.3重量%未満になると、結晶粒径が本発明の上限値である3μmよりも大きくなっているのが判る。これは、窒素濃度が0.3重量%未満では、オーステナイト化時の結晶粒の成長を抑える窒化物および炭窒化物の存在割合が少なくなり、ピン止め効果が小さくなったためである。
以上の結果より、本発明では、前記表面層の窒素濃度を0.3重量%以上で、且つ旧オーステナイトの平均結晶粒径を3μm以下とする。
比較例1Aは、第1の工程の焼入れ処理を施さない場合であり、微細化が十分進行しておらず、寿命延長効果が小さい。これは、上述したように、窒化処理の前にマルテンサイト組織としないと、オーステナイト結晶粒の核発生箇所となる微細な窒化物や炭窒化物が得られず、焼入れの際のピン止め効果が小さいためであると考えられる。
比較例1Aは、第1の工程の焼入れ処理を施さない場合であり、微細化が十分進行しておらず、寿命延長効果が小さい。これは、上述したように、窒化処理の前にマルテンサイト組織としないと、オーステナイト結晶粒の核発生箇所となる微細な窒化物や炭窒化物が得られず、焼入れの際のピン止め効果が小さいためであると考えられる。
(第3の実施例:第1及び第2の実施の形態に対応)
SUJ2を用い、出発素材は球状化焼鈍材とした。焼戻し工程は、いずれの場合も160〜240°Cで2時間行った。窒化処理後の表面窒素濃度は0.5重量%以上であった。各試験片の熱処理工程の詳細を表3に示す。なお、完成品転動面表面層の窒素(N)濃度(重量%)と炭素(C)濃度(重量%)との比=N/Cのコントロールは窒化の処理時間及び研削取り代を変えて行った。
SUJ2を用い、出発素材は球状化焼鈍材とした。焼戻し工程は、いずれの場合も160〜240°Cで2時間行った。窒化処理後の表面窒素濃度は0.5重量%以上であった。各試験片の熱処理工程の詳細を表3に示す。なお、完成品転動面表面層の窒素(N)濃度(重量%)と炭素(C)濃度(重量%)との比=N/Cのコントロールは窒化の処理時間及び研削取り代を変えて行った。
この試験片を用いてスラスト型寿命試験を行った。試験には森式スラスト転がり寿命試験機を用いた。試験条件は次の通りである。
荷重 :8900N
回転速度:1000min-1
潤滑油 :♯68タービン油
寿命は、各サンプルをそれぞれn=10試験して、剥離が発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
荷重 :8900N
回転速度:1000min-1
潤滑油 :♯68タービン油
寿命は、各サンプルをそれぞれn=10試験して、剥離が発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
各試験片の完成品転動面表面層の平均結晶粒径は、塩化第二鉄をベースとした溶液でエッチングし、旧オーステナイト粒界のみを現出させ、走査型電子顕微鏡で2000〜3000倍で撮影した写真を用い、結晶粒径を切片法で測定して平均化した。窒素濃度の測定は電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いた。
試験結果を表3に併せて示す。表中の寿命試験結果は、比較例6Bの通常焼入れ、焼戻しのL10寿命を1とした比率で示してある。
試験結果を表3に併せて示す。表中の寿命試験結果は、比較例6Bの通常焼入れ、焼戻しのL10寿命を1とした比率で示してある。
表3から明らかなように、本発明例である実施例1B〜7Bは上述した本発明に係る熱処理工程を実施することによって、完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径が3μm以下、窒素濃度が0.3重量%以上、N/Cの値が1.10以下、より好ましくは0.30〜1.10の範囲で寿命延長効果が大きいことが判る。図11にN/Cと寿命との関係を示す。図からも判るように、N/Cの値が1.10以下、より好ましくは0.30〜1.10の範囲で寿命延長効果が得られるのが判る。
なお、上記各実施例では、高炭索クロム軸受鋼SUJ2の事例のみを示したが、鋼種はこれに限定されず、SUJ3の他、炭素量で0.5重量%以上の鋼で、構成組織がマルテンサイト、セメンタイト、残留オーステナイトからなる鋼種であれば、同様の効果が得られる。
また、上記各実施例では、窒化又は軟窒化処理の方法については、ガス窒化のみを示したが、特に限定されるものではなく、タフトライド処理、イオン窒化、ガス軟窒化などを用いても同様の効果が得られる。
また、上記各実施例では、窒化又は軟窒化処理の方法については、ガス窒化のみを示したが、特に限定されるものではなく、タフトライド処理、イオン窒化、ガス軟窒化などを用いても同様の効果が得られる。
Claims (3)
- 内方部材と外方部材との間に複数の転動体が周方向に転動可能に配設された転動装置において、
前記内方部材、前記外方部材及び前記転動体の内の少なくとも一つの素材をC含有量:0.5重量%以上の高炭素軸受鋼とし、且つ完成品転動面表面層の旧オーステナイト平均結晶粒径を3μm以下、前記表面層の窒素(N)濃度を0.3重量%以上、炭素(C)濃度と窒素(N)濃度との比をC/N=1.10以下としたことを特徴とする転動装置。 - 前記熱処理が、素材を800〜1000°Cに加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下の温度で窒化又は軟窒化処理する第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cに加熱し、塑性加工後、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備することを特徴とする請求項1に記載した転動装置。
- 前記熱処理が、素材を800〜1000°Cに加熱し、オーステナイト化した後、急冷によりマルテンサイト組織とする第1の工程と、Ae1変態点以下の温度で窒化又は軟窒化処理する第2の工程と、オーステナイト温度域の780〜880°Cに加熱し、焼入れする第3の工程と、焼戻しする第4の工程とを具備することを特徴とする請求項1に記載した転動装置。
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