JP2008174810A - 転動疲労特性に優れた、軸受の内輪および外輪、および、軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】軸受における重要な特性である転動疲労特性、具体的には、転動疲労試験における10%累積破損確率を大幅に向上させた、軸受に供する内輪および外輪を提供する。
【解決手段】転走部における少なくとも表面から0.5mm深さ位置までの鋼組織を、旧オーステナイト粒径3.5μm以下とする。
【選択図】図2
【解決手段】転走部における少なくとも表面から0.5mm深さ位置までの鋼組織を、旧オーステナイト粒径3.5μm以下とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、軸受鋼により製造された軸受および軸受内輪、軸受外輪に関するものであり、特に、従来に比し転動疲労特性を向上させた軸受に関するものである。
軸受は、自動車や機械などの回転部品に利用されており、優れた転動疲労特性が要求される。例えば、特許文献1に記載されているように、軸受鋼の加熱方法を規定する手法があり、旧オーステナイト粒径を平均4.0μm以下に微細化することによって、転動疲労寿命2倍以上を達成している。しかし、この特許文献1には、最小で0.1mmの旧オーステナイト粒径が記載されているのみであり、また、軸受の焼入れ深さに関しては記述されていない。ところが、転動疲労寿命には焼入れ深さが重要であり、極表層部のみの場合、十分に良好な転動疲労寿命は得られない。
特開2006−152407号公報
そこで、本発明は、軸受における重要な特性である転動疲労特性、具体的には、転動疲労試験における10%累積破損確率(以下、B10寿命という)を大幅に向上させた、軸受に供する内輪および外輪を提供するものである。
発明者らは、焼入部の旧オーステナイト粒径を微細化した軸受の内輪および外輪を作製し、同一条件で20回の転動疲労試験を行い、転走部において疲労剥離が発生するまでの転動疲労寿命を調査し、B10寿命を求めた。その結果、転動疲労寿命は平均オーステナイト粒径3.5μm以下で大幅に向上できることが判った。しかし、その細粒の領域が転送部の表面から0.5mm未満の深さでは、転動疲労寿命の向上効果が十分に得られず、粒径3.5μm以下の領域の深さが0.5mm以上は必要であることがわかった。
本発明は、この知見に基づいて成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
本発明は、この知見に基づいて成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)軸受鋼を素材とした軸受であって、転走部における少なくとも表面から0.5mm深さ位置までの鋼組織が、旧オーステナイト粒径3.5μm以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
ここに、転送部とは、軸受の内輪あるいは外輪において、鋼球もしくはころが接触しながら転がる部位のことを言う。
ここに、転送部とは、軸受の内輪あるいは外輪において、鋼球もしくはころが接触しながら転がる部位のことを言う。
(2)前記鋼組織は、前記素材をオーステナイトと球状化炭化物の2相域に加熱後、急冷して焼き入れる処理を2回以上行って得たものであることを特徴とする前記(1)に記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
(3)前記2相域への加熱は、800℃から最高加熱温度までの加熱速度が0.5℃/s以上950℃/s以下、最高加熱温度がAc3以上Ac3+130℃以下、Ac3点以上の温度での滞留時間が500s以下の条件に従うものであることを特徴とする前記(2)に記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
(4)前記転走部における表面から0.5mm深さ位置までの硬度がHv700以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
(5)前記素材がSUJ2からなることを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
(6)前記(1)乃至(5)に記載の内輪を有する転動疲労特性に優れた軸受。
(7)軸受鋼を素材とした軸受であって、転走部における少なくとも表面から0.5mm深さ位置までの鋼組織が、旧オーステナイト粒径3.5μm以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
(8)前記鋼組織は、前記素材をオーステナイトと球状化炭化物の2相域に加熱後、急冷して焼き入れる処理を2回以上行って得たものであることを特徴とする前記(7)に記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
(9)前記2相域への加熱は、800℃から最高加熱温度までの加熱速度が0.5℃/s以上950℃/s以下、最高加熱温度がAc3以上Ac3+130℃以下、Ac3点以上の温度での滞留時間が500s以下の条件に従うものであることを特徴とする前記(8)に記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
(10)前記転走部における表面から0.5mm深さ位置までの硬度がHv700以上であることを特徴とする前記(7)乃至(9)のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
(11)前記素材がSUJ2からなることを特徴とする前記(7)乃至(10)のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
(12)前記(7)乃至(11)のいずれかに記載の外輪を有する転動疲労特性に優れた軸受。
(13)前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の内輪、および、前記(7)乃至(11)のいずれかに記載の外輪を有する転動疲労特性に優れた軸受。
本発明の内輪および外輪を適用することによって、転動疲労特性に優れた軸受が得られるため、本発明は工業的に非常に有用である。
本発明の軸受の内輪および外輪は、鋼素材、棒鋼あるいは鋼管などを、成型工程(鍛造や切削など)に供して軸受の内輪および外輪に加工した後、その転走部もしくは部品全体に焼入れを施して製造される。
本発明を得るためには、鋼素材の組成、組織、焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径および深さ、焼入れ条件、そして焼入れ後の組織の適正化が必要である。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明を得るためには、鋼素材の組成、組織、焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径および深さ、焼入れ条件、そして焼入れ後の組織の適正化が必要である。
以下、本発明を具体的に説明する。
[鋼組成]
先ず、後述する焼入れ表層部を得るのに好適な、鋼素材の成分組成について説明する。鋼素材には、軸受鋼として広く用いられているSUJ2が最も好適であるが、下記の成分組成を満足する鋼を用いることもできる。
先ず、後述する焼入れ表層部を得るのに好適な、鋼素材の成分組成について説明する。鋼素材には、軸受鋼として広く用いられているSUJ2が最も好適であるが、下記の成分組成を満足する鋼を用いることもできる。
C:0.6mass%〜1.5mass%
Cは、焼入れ部において部品の良好な疲労寿命を得るために必要となる、硬度確保のために必要な元素であり、0.6mass%未満では、焼入れ部において十分な硬さおよび疲労強度が得られない。一方、1.5mass%を超えて添加すると、焼入れ前の加工性(剪断性および鍛造性)を劣化させる。よって、好適なC含有量の範囲は0.6〜1.0mass%である。
Cは、焼入れ部において部品の良好な疲労寿命を得るために必要となる、硬度確保のために必要な元素であり、0.6mass%未満では、焼入れ部において十分な硬さおよび疲労強度が得られない。一方、1.5mass%を超えて添加すると、焼入れ前の加工性(剪断性および鍛造性)を劣化させる。よって、好適なC含有量の範囲は0.6〜1.0mass%である。
Si:0.1〜1.0mass%
Siは、転動疲労寿命を向上するために、0.1mass%以上で含有されていることが好ましい。しかし、1.0mass%を越えて添加すると、Cと同様、焼入れ前の加工性(剪断性、鍛造性)を劣化させる。よって、Siの好適含有量の範囲は、0.1〜1.0mass%である。
Siは、転動疲労寿命を向上するために、0.1mass%以上で含有されていることが好ましい。しかし、1.0mass%を越えて添加すると、Cと同様、焼入れ前の加工性(剪断性、鍛造性)を劣化させる。よって、Siの好適含有量の範囲は、0.1〜1.0mass%である。
Mn:0.1〜1.5mass%
Mnは、焼入性を向上するため、0.1mass%以上含有されていることが好ましい。しかし、過剰に添加すると焼入れ前の加工性(剪断性、鍛造性)を劣化させる。このため、その含有量の上限は1.5mass%以下とすることが好ましい。
Mnは、焼入性を向上するため、0.1mass%以上含有されていることが好ましい。しかし、過剰に添加すると焼入れ前の加工性(剪断性、鍛造性)を劣化させる。このため、その含有量の上限は1.5mass%以下とすることが好ましい。
Cr:0.05〜2.0mass%
Crは、焼入性向上および炭化物球状化の促進による、焼入れ前の硬度低下並びに加工性向上の効果があるため、0.05mass%以上含有されていることが好ましい。しかし、2.0mass%を超えて添加しても効果が飽和してしまうため0.05〜2.0mass%の範囲で含有されていることが好ましい。
Crは、焼入性向上および炭化物球状化の促進による、焼入れ前の硬度低下並びに加工性向上の効果があるため、0.05mass%以上含有されていることが好ましい。しかし、2.0mass%を超えて添加しても効果が飽和してしまうため0.05〜2.0mass%の範囲で含有されていることが好ましい。
以上説明した元素を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である組成が、基本成分である。なお、不可避的不純物としては、P、S、NおよびOが挙げられ、Pは0.05mass%まで、Oは0.0150mass%までを許容できる。SおよびNは不可避的不純物としても混入するが、後述するとおり積極的に添加してもよい。
すなわち、上記基本成分組成に加えて、以下の元素をそれぞれ以下に示す範囲で含有させてもよい。
すなわち、上記基本成分組成に加えて、以下の元素をそれぞれ以下に示す範囲で含有させてもよい。
S:0.03mass%以下
Sは、Mnと結合してMnSを形成して被削性を向上することから、添加しても良いが、0.03mass%を超えて添加すると、MnSが転動疲労試験中の割れ起点となり転動疲労特性を著しく低下するため、その含有量の上限は0.03mass%とすることが好ましい。
Sは、Mnと結合してMnSを形成して被削性を向上することから、添加しても良いが、0.03mass%を超えて添加すると、MnSが転動疲労試験中の割れ起点となり転動疲労特性を著しく低下するため、その含有量の上限は0.03mass%とすることが好ましい。
Al:0.1mass%以下
Alは、強力な脱酸作用を持ち、鋼の清浄化を向上させる効果を有する成分であるため添加しても良いが、0.1mass%を超えて添加した場合には、鋼の清浄化がむしろ劣化し、転動疲労特性が低下することから、その含有量を0.1mass%以下とすることが好ましい。
Alは、強力な脱酸作用を持ち、鋼の清浄化を向上させる効果を有する成分であるため添加しても良いが、0.1mass%を超えて添加した場合には、鋼の清浄化がむしろ劣化し、転動疲労特性が低下することから、その含有量を0.1mass%以下とすることが好ましい。
Cu:1.0mass%以下
Cuは、焼入性の向上により焼入れ部の硬度向上効果があるため添加しても良いが、この効果を得るためには1.0mass%以下で十分である。
Cuは、焼入性の向上により焼入れ部の硬度向上効果があるため添加しても良いが、この効果を得るためには1.0mass%以下で十分である。
Ni:1.0mass%以下
Niは、焼入性や焼入れ部の靭性を向上させるために、1.0mass%を上限に添加しても良い。また、Cu添加時には熱間脆性を抑制するために、NiをCu添加量の1/2で添加することが好ましい。
Niは、焼入性や焼入れ部の靭性を向上させるために、1.0mass%を上限に添加しても良い。また、Cu添加時には熱間脆性を抑制するために、NiをCu添加量の1/2で添加することが好ましい。
Mo:1.0mass%以下
Moは、焼入性や焼戻し軟化抵抗の向上に効果があるため添加してもよいが、過剰に添加すると加工性が劣化するため、1.0mass%以下とすることが好ましい。
Moは、焼入性や焼戻し軟化抵抗の向上に効果があるため添加してもよいが、過剰に添加すると加工性が劣化するため、1.0mass%以下とすることが好ましい。
W:1.0mass%以下
Wは、焼入性の向上効果があるため添加してもよいが、過剰に添加すると加工性が劣化するため、1.0mass%以下とすることが好ましい。
Wは、焼入性の向上効果があるため添加してもよいが、過剰に添加すると加工性が劣化するため、1.0mass%以下とすることが好ましい。
Ti:0.01mass%以下
Tiは、窒化物形成によるオーステナイト粒成長抑制に有効であるため添加してもよいが、0.01mass%を超えると、転動疲労特性が劣化することから0.01mass%以下とすることが好ましい。
Tiは、窒化物形成によるオーステナイト粒成長抑制に有効であるため添加してもよいが、0.01mass%を超えると、転動疲労特性が劣化することから0.01mass%以下とすることが好ましい。
Nb:0.5mass%以下
Nbは、窒化物(もしくは炭窒化物)の形成によるオーステナイト粒成長抑制に効果であるため添加しても良いが、その含有量が0.5mass%を超えるとその効果は飽和するため、0.5mass%以下とすることが好ましい。
Nbは、窒化物(もしくは炭窒化物)の形成によるオーステナイト粒成長抑制に効果であるため添加しても良いが、その含有量が0.5mass%を超えるとその効果は飽和するため、0.5mass%以下とすることが好ましい。
B:0.01mass%以下
Bは、焼入性の向上に有効であるため、0.01mass%を上限に添加しても良いが、その含有量0.01mass%を超えるとその効果は飽和することから、0.01mass%以下とすることが好ましい。
Bは、焼入性の向上に有効であるため、0.01mass%を上限に添加しても良いが、その含有量0.01mass%を超えるとその効果は飽和することから、0.01mass%以下とすることが好ましい。
Sb:0.0050mass%以下
Sbは、転動疲労試験中のミクロ組織変化(白色層生成)の遅延に対して効果があり、転動疲労特性の劣化を防止する作用を有するため、添加してもよい。しかし、その含有量が0.01mass%を超えると、靭性が劣化するため、0.01mass%以下とすることが好ましい。
Sbは、転動疲労試験中のミクロ組織変化(白色層生成)の遅延に対して効果があり、転動疲労特性の劣化を防止する作用を有するため、添加してもよい。しかし、その含有量が0.01mass%を超えると、靭性が劣化するため、0.01mass%以下とすることが好ましい。
N:0.01mass%以下
Nは、窒化物や炭窒化物を形成し、オーステナイト粒を微細化するのに効果があるが、過剰の添加は鋼の加工性を劣化させるため、0.01mass%以下で添加することが好ましい。
なお、以上の元素以外の残部は、当然、Feおよび不可避的不純物である。
Nは、窒化物や炭窒化物を形成し、オーステナイト粒を微細化するのに効果があるが、過剰の添加は鋼の加工性を劣化させるため、0.01mass%以下で添加することが好ましい。
なお、以上の元素以外の残部は、当然、Feおよび不可避的不純物である。
[鋼素材の組織]
軸受用鋼部品は、焼入れ前に、鋼素材から切削、研削、鍛造等の各種加工を経て成形されることから、焼入れ前の鋼素材の組織は、球状化処理により、母相はフェライト組織に、そして炭化物は球状化されている必要がある。このとき、炭化物は、加工性、焼入れ処理中のオーステナイト粒成長を抑制する効果を考慮して、アスペクト比(炭化物の長径/短径の比)を平均で3以下とする必要がある。
軸受用鋼部品は、焼入れ前に、鋼素材から切削、研削、鍛造等の各種加工を経て成形されることから、焼入れ前の鋼素材の組織は、球状化処理により、母相はフェライト組織に、そして炭化物は球状化されている必要がある。このとき、炭化物は、加工性、焼入れ処理中のオーステナイト粒成長を抑制する効果を考慮して、アスペクト比(炭化物の長径/短径の比)を平均で3以下とする必要がある。
[焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径]
軸受用鋼部品は、転動疲労特性が要求されるため、焼入れおよび焼戻しが施されている。本発明では、特に、転動疲労特性にとって重要である、焼入れ表層部において、旧オーステナイト粒径が平均3.5μm以下であることが肝要である。これは、焼入れ表層部において、旧オーステナイト粒径を平均3.5μm以下とすることによって、転動疲労寿命が格段に向上するからである。
軸受用鋼部品は、転動疲労特性が要求されるため、焼入れおよび焼戻しが施されている。本発明では、特に、転動疲労特性にとって重要である、焼入れ表層部において、旧オーステナイト粒径が平均3.5μm以下であることが肝要である。これは、焼入れ表層部において、旧オーステナイト粒径を平均3.5μm以下とすることによって、転動疲労寿命が格段に向上するからである。
さらに、旧オーステナイト粒径が3.5μm以下である領域の深さを0.5mm以上とすることも、次に示す実験から明らかである。
ちなみに、旧オーステナイト粒径の測定方法は、まず、出願人が開発のガンマR液で旧オーステナイト粒界を腐食後、表面から0.1mm、0.2mm、0.3mm・・・・・と0.1mmヒ゜ッチの位置で、5000倍でSEM像をそれぞれ4枚ずつ撮影した後、画像解析装置で1個1個のオーステナイト粒の面積を測定し、面積から円相当径(2×(面積/π)1/2)を求め、その位置での平均オーステナイト粒径を求める。このようにして、深さ方向位置それぞれにおける平均オーステナイト粒径を求め、0.1〜0.5mmまでのすべての位置において、平均オーステナイト粒径が3.5μm以下であればよい。
ちなみに、旧オーステナイト粒径の測定方法は、まず、出願人が開発のガンマR液で旧オーステナイト粒界を腐食後、表面から0.1mm、0.2mm、0.3mm・・・・・と0.1mmヒ゜ッチの位置で、5000倍でSEM像をそれぞれ4枚ずつ撮影した後、画像解析装置で1個1個のオーステナイト粒の面積を測定し、面積から円相当径(2×(面積/π)1/2)を求め、その位置での平均オーステナイト粒径を求める。このようにして、深さ方向位置それぞれにおける平均オーステナイト粒径を求め、0.1〜0.5mmまでのすべての位置において、平均オーステナイト粒径が3.5μm以下であればよい。
すなわち、図1に示す球軸受の内輪および外輪に高周波焼入れを行い、旧オーステナイト粒径が3.5μm以下である領域の深さが0.2mm、0.5mmおよび1.5mmの軸受を、それぞれ作製した。このような軸受において、内輪もしくは外輪が疲労破壊するまで回転させた。なお、鋼球が破損した場合は、鋼球を交換して試験を続けた。この疲労試験を各焼入れ深さの軸受で15個行い、上記のB10 寿命を算出した。この結果を図2に示すように、旧オーステナイト粒径が3.5μm以下である領域を転送部表面から0.5mm以上とすることにより、転動疲労寿命を高レベルにすることができる。
なお、旧オーステナイト粒径3.5μm以下である焼入れ部の深さに関しては、転送部表面から0.5mm以上であればよく、深さ0.5mm超位置における鋼組織の旧オーステナイト粒径が3.5μm超となっていても、あるいは、深さ0.5mmを超える領域についても3.5μm以下となっていても、いずれでもよい。
[焼入れ部の硬さ]
本発明において、軸受の内輪および外輪における焼入れ部の硬度は、転送部表層部から0.5mmの位置において、ビッカース硬度(以下Hv)で700以上であることとする。これは、硬度がHv700未満であるような部材では、十分な転動疲労寿命が得られないからである。なお、焼入れ部の深さは全域にわたってHv700以上であっても良い。
本発明において、軸受の内輪および外輪における焼入れ部の硬度は、転送部表層部から0.5mmの位置において、ビッカース硬度(以下Hv)で700以上であることとする。これは、硬度がHv700未満であるような部材では、十分な転動疲労寿命が得られないからである。なお、焼入れ部の深さは全域にわたってHv700以上であっても良い。
[焼入れ条件]
本発明では、焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径が平均3.5μm以下である必要があることから、焼入れ条件の最適化が非常に重要な意味を持つ。焼入れ回数に関してはN回焼入れ(N:1以上)を実施すれば良いが、N回目(最後)の焼入れ処理における加熱条件を、
(i)加熱温度:Ac3点以上Ac3+130℃以下
(ii)加熱速度:(Ac3点−20℃)以上Ac3点以下の温度域で平均0.5℃/s以上950℃/s以下
(iii)Ac3点以上の滞留時間:500秒以下
とする必要がある。
本発明では、焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径が平均3.5μm以下である必要があることから、焼入れ条件の最適化が非常に重要な意味を持つ。焼入れ回数に関してはN回焼入れ(N:1以上)を実施すれば良いが、N回目(最後)の焼入れ処理における加熱条件を、
(i)加熱温度:Ac3点以上Ac3+130℃以下
(ii)加熱速度:(Ac3点−20℃)以上Ac3点以下の温度域で平均0.5℃/s以上950℃/s以下
(iii)Ac3点以上の滞留時間:500秒以下
とする必要がある。
ここで、Ac3点は、加熱時にフェライトもしくはベイナイトやマルテンサイトからオーステナイトへの変態が終了する温度のこととする。加熱温度がAc3点に満たないと、オーステナイトへの逆変態が終了しないため、完全なマルテンサイトの焼入れ組織とすることができず、硬度も十分に得られない。逆に、加熱温度がAc3+130℃超では、球状化炭化物の溶け込みが進みオーステナイトの粒成長抑制効果が無くなり、粒成長が急速に促進するため、焼入れ後の旧オーステナイト粒径が3.5μm超となってしまう。
焼入れ処理の加熱速度については、(Ac3点−20℃)以上Ac3点以下の温度域で平均0.5℃/s以上1000℃/s以下とする必要がある。この温度域で0.5℃/sより加熱速度が遅くなれば、オーステナイトへの核生成駆動力の減少などの影響によって、オーステナイト粒径が微細化せずに、焼入れ組織の旧オーステナイト粒径が3.5μm超となってしまう。一方、1000℃/s超えでは旧オーステナイト粒径3.5μm以下の領域が0.5mm未満の深さ域となってしまい、十分な疲労寿命が得られない。
さらに、Ac3点以上の滞留時間が500秒以下となるように、加熱条件を調整する必要がある。Ac3点以上の滞留時間が500秒超となると、粒成長に十分な時間が与えられ、焼入れ後の組織の旧オーステナイト粒径が3.5μm超となってしまう。
上記条件による焼入れ処理は、2回以上とする。なぜなら、旧オーステナイト粒径3.5μm以下であることおよび、旧オーステナイト粒径3.5μm以下の領域深さを0.5mm以上とすることを両立させるためであり、1回加熱では、旧オーステナイト粒径は3.5μm以下にできても、領域の深さは得られなかったからである。この加熱速度条件は、最終の焼入れ処理時にのみ(N回焼入れ処理を施す場合には、N回目のみ)適用すればよい。最終の焼入れ処理に先立って行う焼入れ処理(N回焼入れ処理を施す場合には、1回〜N−1回目までの焼入れ処理)では、焼入れ後の組織がベイナイトもしくはマルテンサイト組織(単相でも複合でも良い)と、残留球状炭化物とであれば良く、最終焼入れ工程に限定されるような熱処理は特に必要とはしない。
但し、残留球状炭化物が溶解してしまうような高温で加熱を行うと、最終焼入れ時に球状炭化物によるオーステナイト粒成長抑制作用が消失してしまい、オーステナイト粒が粗大化かつ不均一化するといった問題や、母相への炭素の溶け込み量が最適値より高くなり転動疲労特性を低下するといった弊害が出るため、最終焼入れ以前の焼入れ処理時においては、球状化炭化物がオーステナイトに溶け込みオーステナイト単相となる、温度以下とする必要がある。なお、焼入れ回数に関しては、3回以上としても良いが、工業的生産性やコストの面から考えれば、2回とするのが好適である。
但し、残留球状炭化物が溶解してしまうような高温で加熱を行うと、最終焼入れ時に球状炭化物によるオーステナイト粒成長抑制作用が消失してしまい、オーステナイト粒が粗大化かつ不均一化するといった問題や、母相への炭素の溶け込み量が最適値より高くなり転動疲労特性を低下するといった弊害が出るため、最終焼入れ以前の焼入れ処理時においては、球状化炭化物がオーステナイトに溶け込みオーステナイト単相となる、温度以下とする必要がある。なお、焼入れ回数に関しては、3回以上としても良いが、工業的生産性やコストの面から考えれば、2回とするのが好適である。
以上説明した条件にて焼入れ処理を施すことにより、平均旧オーステナイト粒径が3.5μm以下、平均旧オーステナイト粒径3.5μm以下である領域が表面から0.5mm以上の深さまで存在する、軸受の内輪もしくは外輪が製造できる。
[焼戻し]
本発明においては、焼入れ処理の後に焼戻し処理を行ってもよい。但し、焼戻し処理を行う場合、焼戻し温度が高すぎると、焼入れ表層部が軟化して、疲労強度が低下してしまい、焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径を微細化した効果が減じてしまうため、焼戻しを行う場合、温度は200℃以下とする。また、時間は2時間以下とすることが好ましい。
本発明においては、焼入れ処理の後に焼戻し処理を行ってもよい。但し、焼戻し処理を行う場合、焼戻し温度が高すぎると、焼入れ表層部が軟化して、疲労強度が低下してしまい、焼入れ表層部の旧オーステナイト粒径を微細化した効果が減じてしまうため、焼戻しを行う場合、温度は200℃以下とする。また、時間は2時間以下とすることが好ましい。
[その他]
上記の条件で、焼入れ処理、そして焼戻し処理が施された後は、必要に応じてショットピーニングなどの表面処理や、仕上げの表面研磨処理などが施されて、軸受に仕上げることが可能である。
また、本発明は、軸受を構成する内輪、外輪のいずれにも適用可能であり、軸受として見た時の転動疲労破壊の律速になる側の部材に適宜用いればよい。内輪および外輪の両方に本発明を適用できることも言うまでもない。
上記の条件で、焼入れ処理、そして焼戻し処理が施された後は、必要に応じてショットピーニングなどの表面処理や、仕上げの表面研磨処理などが施されて、軸受に仕上げることが可能である。
また、本発明は、軸受を構成する内輪、外輪のいずれにも適用可能であり、軸受として見た時の転動疲労破壊の律速になる側の部材に適宜用いればよい。内輪および外輪の両方に本発明を適用できることも言うまでもない。
表1に示す各種組成の100kg鋼塊を、1250℃で20hソーキングを行った後、仕上げ温度1000℃で20mmφに熱間鍛造して丸棒とした。この丸棒を、780℃で5h保持する球状化焼鈍を行った。この丸棒を球軸受の内輪および外輪に粗加工し、表2に示す熱処理条件にて高周波焼入れ処理を行った後、焼戻しを170℃で2時間行った。その後、転走部を表面研磨により、▽▽▽▽に仕上げた。次いで、内輪と外輪との間に鋼球を組み込み、鋼球を保持リングで固定して、図1に示す#6206球軸受を作製した。なお、使用した鋼球は、3/8inch鋼球であり、850℃に15分加熱後焼入れしてオーステナイト粒径を6μmとした鋼球と、加熱速度50℃/sおよび加熱温度850℃でソルトバスによる2回焼入れを行いオーステナイト粒径を3.0μmとした鋼球と、をそれぞれ作製し、それぞれ内輪と外輪との間に組み込んだ。
転動疲労試験は、軸受に11760N(1200kgf)の荷重を与えながら内輪を回転させ、内輪もしくは外輪に剥離が発生するまで転動疲労試験を行った。疲労試験は、15本試験を行い、10%累積破損確率でのB10寿命を求めた。
試験片の焼入れ硬度および粒径は、内輪および外輪を転走面に垂直に切断し、切断面を鏡面に研磨し、転走面表面から0.1mmピッチでビッカース硬さ、旧オーステナイト粒径を調査した。なお、ビッカース硬度は荷重2.94N(300gf)で測定し、また、旧オーステナイト粒径は前述した通り0.1mmピッチで、各深さ位置における平均旧オーステナイト粒径を求め、平均旧オーステナイト粒径が3.5μm以下である転送面表面からの深さを求めた。
表2に示すように、表面が微細でかつ硬度Hv700 以上である領域が表面から0.5mm以上の深さに到る内輪および外輪を用いれば、軸受の寿命が大幅に向上する。
Claims (13)
- 軸受鋼を素材とした軸受であって、転走部における少なくとも表面から0.5mm深さ位置までの鋼組織が、旧オーステナイト粒径3.5μm以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
- 前記鋼組織は、前記素材をオーステナイトと球状化炭化物の2相域に加熱後、急冷して焼き入れる処理を2回以上行って得たものであることを特徴とする請求項1に記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
- 前記2相域への加熱は、800℃から最高加熱温度までの加熱速度が0.5℃/s以上950℃/s以下、最高加熱温度がAc3以上Ac3+130℃以下、Ac3点以上の温度での滞留時間が500s以下の条件に従うものであることを特徴とする請求項2に記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
- 前記転走部における表面から0.5mm深さ位置までの硬度がHv700以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
- 前記素材がSUJ2からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の内輪。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の内輪を有する転動疲労特性に優れた軸受。
- 軸受鋼を素材とした軸受であって、転走部における少なくとも表面から0.5mm深さ位置までの鋼組織が、旧オーステナイト粒径3.5μm以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
- 前記鋼組織は、前記素材をオーステナイトと球状化炭化物の2相域に加熱後、急冷して焼き入れる処理を2回以上行って得たものであることを特徴とする請求項7に記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
- 前記2相域への加熱は、800℃から最高加熱温度までの加熱速度が0.5℃/s以上950℃/s以下、最高加熱温度がAc3以上Ac3+130℃以下、Ac3点以上の温度での滞留時間が500s以下の条件に従うものであることを特徴とする請求項8に記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
- 前記転走部における表面から0.5mm深さ位置までの硬度がHv700以上であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
- 前記素材がSUJ2からなることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の転動疲労特性に優れた軸受の外輪。
- 請求項7乃至11のいずれかに記載の外輪を有する転動疲労特性に優れた軸受。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の内輪、および、請求項7乃至11のいずれかに記載の外輪を有する転動疲労特性に優れた軸受。
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JP2010174356A (ja) * | 2009-01-30 | 2010-08-12 | Jfe Steel Corp | 軸受鋼およびその製造方法 |
JP2012163204A (ja) * | 2011-01-21 | 2012-08-30 | Nsk Ltd | 転がり軸受 |
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JP2014506289A (ja) * | 2010-12-13 | 2014-03-13 | アクティエボラゲット・エスコーエッフ | 高温接合プロセス用の鋼及び部材 |
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-
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