JP2005023846A - 燃料噴射弁 - Google Patents
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Abstract
【課題】従来とは全く異なる簡単な構成で、燃料の噴射形態を変更することができる燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】本発明の燃料噴射弁1は、ニードル弁4と、このニードル弁を収容するノズルボディ2と、ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔13を具備する。上記噴孔13の形状は、この噴孔を流れる燃料の流速を変更するとこの噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっている。燃料噴射弁1は噴孔13を流れる燃料の流速を変更する流速変更手段をさらに具備する。
【選択図】 図3
【解決手段】本発明の燃料噴射弁1は、ニードル弁4と、このニードル弁を収容するノズルボディ2と、ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔13を具備する。上記噴孔13の形状は、この噴孔を流れる燃料の流速を変更するとこの噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっている。燃料噴射弁1は噴孔13を流れる燃料の流速を変更する流速変更手段をさらに具備する。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料噴射弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、燃料噴射弁から噴射する燃料の噴射形態を変更することができる燃料噴射弁が知られている。このような燃料噴射弁としては、例えば、ノズルボディの軸線方向に離間されてノズルボディに配置された二つの噴孔群を具備するものが知られている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載の燃料噴射弁では、ノズルボディ内に収容されたニードル弁のリフト量が小さいときにはノズルボディの後端側に配置された噴孔群のみから燃料が噴射され、ニードル弁のリフト量が大きいときにはノズルボディの先端側および後端側に配置された両噴孔群から燃料が噴射される。したがって、この燃料噴射弁では、一方の噴孔群のみからの燃料の噴射と、両噴孔群からの燃料の噴射とに二段階の噴射を、機関運転状態に応じて変更するようにしている。
【0003】
また、上記特許文献1に記載の燃料噴射弁では、後端側の噴孔群と先端側の噴孔群とのノズルボディ軸線に対する角度が異なり、先端側の噴孔群はノズルボディの径方向を向いており、また、後端側の噴孔群は先端側の噴孔群よりもノズルボディの先端側を向いている。したがって、特許文献1の燃料噴射弁によれば、二段階の噴射に応じて、ノズルボディの先端側に向かう燃料の噴射と、ノズルボディの径方向および先端側に向かう燃料が噴射とが変更される。すなわち、この燃料噴射弁では、燃料噴射弁からの燃料の噴射方向をも変更することができる。
【0004】
【特許文献1】
特開平09−49470号公報
【特許文献2】
特開平11−93673号公報
【特許文献3】
特開平11−117833号公報
【特許文献4】
特開平11−117830号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1に記載の燃料噴射弁では、上述したようにリフト量に応じて燃料が通過する噴孔群が選択されるようにするために、ニードル弁の先端部の形状およびノズルボディの先端部に形状が非常に複雑になってしまう。そして、ニードル弁の先端部や、ノズルボディの先端部は非常に小さいため、これらの複雑な形状を形成するためには非常に精密な加工が必要であり、製造コストが高くなってしまっていた。このため、燃料の噴射形態を適切に変更することができる単純な機構の燃料噴射弁が待ち望まれている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、従来とは全く異なる簡単な構成で、燃料の噴射形態を変更することができる燃料噴射弁を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の発明では、ニードル弁と、該ニードル弁を収容するノズルボディと、該ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔を具備する燃料噴射弁において、上記噴孔の形状が、該噴孔を流れる燃料の流速を変更(以下、「噴孔内燃料流速」と称す)すると該噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっており、上記噴孔内燃料流速を変更する流速変更手段をさらに具備する。
第1の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射方向、すなわち燃料の噴射形態を変更することができる。すなわち、噴射方向を変更するために、各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がない。なお、噴孔内燃料流速の変更は、例えば、噴孔入口の燃料の圧力を変更することによって、より具体的には、ニードル弁のリフト量を変更することまたは燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を変更することによって行われる。
【0008】
第2の発明では、第1の発明において、上記噴孔の壁面は該噴孔出口まで続く第一部分壁面と第二部分壁面とを有し、上記第一部分壁面は、上記噴孔内燃料流速が第一流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着せず且つ第一流速よりも遅いときに燃料の流れの剥離が起きないかまたは燃料の流れの剥離が起きても剥離した流れが再付着するような形状であって、上記噴孔出口近傍において上記噴孔の軸線に対して傾いており、上記第一部分壁面は上記噴孔内燃料流速が上記第一流速よりも遅い第二流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着しないような形状である。
第2の発明によれば、噴孔内燃料流速が第一流速以上の高速である場合には、第一部分壁面および第二部分壁面共に燃料の流れの剥離が起き、剥離した流れがこれら部分壁面に再付着しにくい。このため、燃料は第一部分壁面および第二部分壁面に沿うことなく例えば噴孔の軸線方向に噴射される。噴孔内燃料流速が第一流速と第二流速との間の低速である場合には、第二部分壁面では流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着しにくいが、第一部分壁面では流れの剥離が起きないかまたは流れの剥離が起きても剥離した流れが再付着しやすい。このため、燃料は第一部分壁面に沿って、すなわち噴孔の軸線に対して傾いている噴孔出口近傍の第一部分壁面に沿って噴射される。したがって、噴孔内燃料流速を第一流速近傍で変更することにより、燃料の噴射方向を噴孔の軸線方向と第一部分壁面に沿った方向との間で変更することができる。
さらに、噴孔内燃料流速が第二流速よりも遅い場合には、第一部分壁面および第二部分壁面のいずれにおいても流れの剥離が起きないかまたは流れの剥離が起きても剥離した流れがこれら部分壁面に再付着する。このため、燃料は、第一部分壁面、第二部分壁面に沿って、さらにその中心である噴孔の軸線に沿って噴射される。なお、第一流速は、本発明の燃料噴射弁を使用した際に噴孔を通って流れる燃料がとり得る全ての流速範囲内にないほど遅い流速であってもよい。この場合、本発明の燃料噴射弁を実際に使用した場合には、噴孔での燃料の流れはほとんどいつも第二部分壁面で剥離してその後第二部分壁面に再付着しない。
【0009】
第3の発明では、第2の発明において、上記第一部分壁面は上記噴孔の軸線に対して第一角度で折れ曲がる第一角部を有し、上記第二部分壁面は上記噴孔の軸線に対して第二角度で折れ曲がる第二角部を有し、上記第一角度は上記噴孔内燃料流速が上記第一流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが上記第一部分壁面に再付着せず且つ第一流速よりも遅いときに燃料の流れの剥離が起きないかまたは燃料の流れの剥離が起きても剥離した流れが上記第一部分壁面に再付着するような角度であり、上記第二角度は上記噴孔内燃料流速が第二流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが上記第二部分壁面に再付着しないような角度である。
第3の発明によれば、燃料の流れの剥離は、噴孔内燃料流速に応じて第一角部または第二角部で起こる。そして、剥離した流れが再付着するか否かの分岐点となる噴孔内燃料流速を各角部の角度の設定に応じて任意に変更することができる。
【0010】
第4の発明では、第3の発明において、上記噴孔の軸線方向における上記第二角部の位置は、上記噴孔の軸線方向における上記第一角部の位置と同じであるかまたはそれよりも噴孔の入口側である。
第一角部が第二角部よりも噴孔入口側にある場合、第一流速と第二流速との間の流速の燃料は、第一角部において流れの剥離が起きてその後再付着するかまたは流れの剥離が起こらないことにより第一部分壁面に沿って流れながらも、同時に第二部分壁面の噴孔入口側に位置する壁面部分に沿っても流れる。その後、第二角部において第二部分壁面の噴孔入口側に位置する壁面部分に沿った燃料の流れが剥離してその後第二部分壁面には再付着しないが、このような燃料は第一部分壁面に沿った向きよりも若干噴孔の軸線向きに噴射される。第4の発明によれば、第一流速と第二流速との間の流速の燃料の流れは第二角部において剥離してから第一部分壁面に沿って流れるので、燃料がほぼ第一部分壁面に沿った向きに噴射されるようになる。
【0011】
第5の発明では、第2〜4のいずれか一つの発明において、上記第一部分壁面が上記ノズルボディの軸線方向において上記噴孔の軸線に対して一方の側に位置し、上記第二部分壁面が上記ノズルボディの軸線方向において噴孔の軸線に対して他方の側に位置する。
第5の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、ノズルボディの先端に向かうノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度(以下、単に「噴射角度」と称す)が変わる。
【0012】
第6の発明では、第1〜5のいずれか一つの発明において、上記噴孔は上記ノズルボディの軸線方向とは異なる方向を向いて配置されており、該噴孔内燃料流速を変更すると、上記ノズルボディの先端に向かう該ノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度(噴射角度)が変わるようになっており、機関運転状態が高負荷状態にあるときには上記角度を大きくし、逆に機関運転状態が低負荷状態にあるときには上記角度を小さくするようにした。
機関運転状態が高負荷・高回転にあるときには、ピストンの速度が速く、噴射期間も短い。そこで、第6の発明によれば、この場合噴射角度が大きくされ、これにより燃料がピストンのリップに当たり、燃料が短時間で燃焼室内に拡散するようになる。一方、機関運転状態が低負荷・低回転にあるときには、ピストンの速度が遅く、噴射期間も長い。したがって、燃料の噴射角度を大きくすると燃料がシリンダ壁面に付着してしまう。そこで、第6の発明によれば、この場合噴射角度を小さくされ、これにより燃料がシリンダ壁面に付着することなく燃焼室内で拡散するようになる。
【0013】
第7の発明では、第1〜5のいずれか一つの発明において、複数の噴孔を具備し、全ての噴孔内燃料流速は常にほぼ同一となるように制御され、上記噴孔内燃料流速が少なくとも特定の流速範囲にあるときには、一つまたはそれ以上の噴孔から噴射される燃料の噴射方向であって各噴孔の軸線方向に対する噴射方向が残りの噴孔から噴射される燃料の上記噴射方向とは異なる。
第7の発明によれば、ノズルボディに複数の噴孔が形成されている場合に、噴孔内燃料流速が特定の流速範囲にあるときには、噴孔から噴射される燃料の噴射方向であって各噴孔の軸線方向に対する噴射方向(以下、単に「噴射方向」と称す)を、噴孔毎または幾つかの噴孔毎に異なる方向にすることができる。一方、噴孔内燃料流速が上記特定の流速範囲にないときには、燃料の噴射方向を全ての噴孔において同一の方向とする等、各噴孔からの燃料の噴射方向はどのような方向であってもよい。
なお、「全ての噴孔内燃料流速がほぼ同一」とは、噴孔の位置関係や燃料噴射弁の機能上必要不可欠な構成要素等によって各噴孔内の燃料流速が若干異なってしまっている場合をも含むものとする。
【0014】
第8の発明では、第7の発明において、各噴孔は上記ノズルボディの軸線方向とは異なる方向を向いて配置されており、該噴孔を流れる燃料の流速を変更すると上記ノズルボディの先端に向かう該ノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度が変わるようになっており、全ての噴孔から燃料が上記ノズルボディの先端部周りのほぼ同一の円周上に向かう噴射または噴射角度が全ての噴孔において同一となるような噴射と、各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射とで切替可能である。
第8の発明では、全ての噴孔から燃料がノズルボディの先端部またはその軸線周りのほぼ同一の円周上に向かう噴射(以下、「狭角噴射」と称す)または全ての噴孔からの噴射角度が同一になるような噴射(以下、「平行噴射」と称す)、すなわち、噴射される燃料が拡散せずにピストンのリップ等に集まる噴射と、各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射(以下、「広角噴射」と称す)、すなわち噴射される燃料が燃焼室に拡がるような噴射とを切り替えることができる。
【0015】
第9の発明では、第2〜4のいずれか一つの発明において、上記第一部分壁面が上記ノズルボディの周方向において上記噴孔の軸線に対して一方の側に位置し、上記第二部分壁面が上記ノズルボディの周方向において上記噴孔の軸線に対して他方の側に位置する。
第9の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、ノズルボディ周方向における噴孔の軸線方向に対する噴射方向の角度が変わるようになっている。
【0016】
第10の発明では、第1〜9のいずれか一つの発明において、上記ニードル弁をリフトすることにより噴孔が開弁され、上記流速変更手段は上記ニードル弁のリフト速度を変更することにより各噴射期間中における上記噴射方向の変わり方を変更する。
第10の発明によれば、ニードル弁のリフトを開始してからニードル弁が降ろされるまでの各噴射期間における燃料の噴射方向を時間に応じて変化させることができる。
【0017】
上記課題を解決するために、第11の発明では、ニードル弁と、該ニードル弁を収容するノズルボディと、該ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔を具備し、上記ニードル弁をリフトすることにより上記噴孔が開弁される燃料噴射弁において、上記ニードル弁のリフト量に応じて上記噴孔の入口と上記ニードル弁の先端部との間の幅が変わり、これにより上記噴孔の入口において起こる流れの剥離の程度が変わり、上記噴孔の形状が、上記噴孔の入口において起こる流れの剥離の程度が変わると該噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっており、上記ニードル弁のリフト量を変更するリフト量変更手段をさらに具備する。
このように、第11の発明によれば、リフト量を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射方向、すなわち燃料の噴射形態を変更することができる。すなわち、噴射形態を変更するために各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がない。
【0018】
第12の発明では、第11の発明において、上記噴孔の壁面は該噴孔出口まで続く部分壁面を有し、該部分壁面は、上記ニードル弁のリフト量が所定リフト量以上であるときには上記噴孔の入口で剥離した燃料の流れが上記部分壁面に再付着せず且つ上記ニードル弁のリフト量が所定リフト量よりも小さいときには上記噴孔の入口で剥離した燃料の流れが上記部分壁面に再付着するかまたは噴孔の入口で流れの剥離が起こらないように形成されると共に、上記噴孔の出口近傍において上記噴孔の軸線に対して傾いている。
一般に、ニードル弁のリフト量、すなわち噴孔の入口とニードル弁の先端部との間の幅に応じて、噴孔の入口で起こる燃料の流れの剥離の程度が異なり、ニードル弁のリフト量が小さいときには流れの剥離の程度が大きく、ニードル弁のリフト量が大きいときには流れの剥離の程度が小さい。第12の発明によれば、流れの剥離の程度が一定程度以上に大きいときには噴孔の所定の部分壁面に燃料の流れが再付着することがなく且つ流れの剥離の程度が一定程度よりも小さいときには上記部分壁面に燃料の流れが再付着するかまたは噴孔の入口で流れの剥離が起こらないような噴孔形状とし、且つ所定の部分壁面を燃料の流れが再付着した場合としない場合とで噴孔からの燃料の噴射形態が変わるような形状とされる。このため、ニードル弁を所定リフト量以上にリフトさせた場合と所定リフト量よりも小さくリフトさせた場合とで噴孔からの燃料の噴射形態が変わる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図1および図2を参照して本発明の燃料噴射弁1の実施形態について詳細に説明する。なお、図1は、内燃機関の燃焼室の壁面または内燃機関の燃焼室へと続く吸気ポートの壁面に配置される燃料噴射弁1の概略断面図であり、図2は燃料噴射弁1の先端部を拡大した断面図である。本発明の燃料噴射弁1は、ディーゼル型の圧縮自着火式内燃機関に用いられるが、火花点火式内燃機関等、他の内燃機関に用いられてもよい。
【0020】
図1および図2に示したように、燃料噴射弁1は、内部に中空空間3を有するほぼ円筒状のノズルボディ2と、このノズルボディ2の中空空間3内で摺動(移動)するほぼ円柱形のニードル弁4とを具備する。ノズルボディ2とニードル弁4とはこれらの軸線Aが同軸になるように配置される。ノズルボディ2には中空空間3に通じる供給通路5がさらに設けられる。供給通路5は燃料噴射弁1の外部の燃料供給源(図示せず)に接続され、この供給通路5を介して中空空間3内に高圧の燃料が供給される。供給された燃料はニードル弁4とノズルボディ2の内壁面7との間に設けられた上流側環状流路6を介してノズルボディ2の先端部8へと流れる。
【0021】
ノズルボディ2の先端部8は円錐状であり、この先端部8内には円錐状の中空空間(以下、「先端中空空間」と称す)9が設けられる。この先端中空空間9はノズルボディ2の中空空間3と連通しており、先端中空空間9を画成するノズルボディ2の先端部8の内壁面10はニードル弁4の先端部11と接触可能である。さらに、先端中空空間9の先端には円柱状の空間(以下、「サック部」と称す)12が設けられる。
【0022】
また、この先端部8には少なくとも一つ(本実施形態では八つ)の噴孔13が設けられる。噴孔13は、ノズルボディ2の周方向において等間隔に配置され、サック部12を画成するノズルボディ2の先端部8の内壁面14上に設けられた入口16と先端部8の外壁面17上に設けられた出口18との間で貫通し、ノズルボディ2の中空空間3、9とノズルボディ2の外部との間をつなぐ。したがって、噴孔13を介して、中空空間3、9内の高圧の燃料を噴孔13の出口18からノズルボディ2の外部へと噴射することができる。なお、噴孔13は、先端中空空間9を画成する内壁面10上に設けられた入口と外壁面17上に設けられた出口とを貫通するように形成されてもよい。
【0023】
ニードル弁4は中空空間3、9内で摺動して、ニードル弁4の先端部11が先端中空空間9を画成する内壁面10と接触したり離れたりすることにより、噴孔9の入口16を閉じたり開いたりすることができる。すなわち、図2に示したような、ニードル弁4の先端部11と先端中空空間9を画成する内壁面10との間に下流側環状流路19が形成されるような位置(以下、「噴孔開放位置」と称す)にニードル弁4があるときには、噴孔13が開かれ、この下流側環状流路19および噴孔13を介して中空空間3、9内の燃料が噴孔13の出口18から噴射される。一方、ニードル弁4の先端部11と先端中空空間9を画成する内壁面10とが接触するような位置(以下、「噴孔閉鎖位置」と称す)にニードル弁4があるときには、これらの間に下流側環状流路19が形成されず、ニードル弁4によって噴孔13が閉じられ、よって中空空間3、9内の燃料は噴射されない。ニードル弁4は、ソレノイドまたはピエゾ素子等の弁駆動手段(図示せず)によってノズルボディ2に対して摺動せしめられる。
【0024】
次に、図3を参照して噴孔13の形状について説明する。図3(a)は噴孔13の近傍を拡大した図2と同様な断面図であり、図3(b)および(c)は図3(a)中の矢印III−IIIに沿って見たノズルボディ2の先端部8の外周の図である。なお、以下の説明において、「上」とは、ノズルボディ2の軸線方向であってノズルボディ2の先端に向かう方向とは反対方向を意味し、「下」とは、ノズルボディ2の軸線方向であってノズルボディ2の先端に向かう方向を意味する。また、「横」とは、ノズルボディ2の周方向を意味する。
【0025】
図3に示したように、噴孔13は、その入口16から地点aまでほぼ円柱状であり、したがってその断面積はほぼ変わらない。そして、地点aにおける角部30から出口18まで噴孔13の上側の部分壁面(以下、「拡大上壁面」と称す)32が噴孔13の軸線Bに対して角度αでこの軸線Bから離れるように直線的に延びる。また、地点bにおける角部31から出口18まで噴孔13の下側の部分壁面(以下、「拡大下壁面」と称す)33が噴孔の軸線Bに対して角度βでこの軸線Bから離れるように直線的に延びる。すなわち、噴孔13の上壁面は地点aにおいて軸線Bに対して角度αで非連続的に折れ曲がり、噴孔13の下壁面は地点bにおいて噴孔Bに対して角度βで非連続的に折れ曲がる。特に、本実施形態の燃料噴射弁1では、図3(b)に示したように、入口近傍における噴孔13の半円筒状の上壁面が地点aから角度αで同じ半円筒状のまま出口に向かって広がり、入口近傍における噴孔13の半円筒状の下壁面が地点bから角度βで同じ半円筒状のまま出口に向かって広がっている。なお、噴孔13の上壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線Bの直上に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味する。同様に、噴孔13の下壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線Bの直下に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味する。
【0026】
ここで、地点a、bはそれぞれ噴孔13の軸線方向における位置である。地点aは噴孔13の出口面(噴孔13の出口18であってノズルボディ2の外壁面17と同一平面上に位置する面)からの長さがl1であり、地点bは噴孔13の出口面からの長さがl2である。長さl1は長さl2よりも長く、したがって、角部31は角部30よりも噴孔13の入口16側に位置する。
【0027】
次に、図4を参照して、上述したような形状の噴孔13内における燃料の流れおよびこの噴孔13からの燃料の噴射について説明する。ここで、図4(a)および(b)は、図3(a)と同様な拡大断面図である。まず、噴孔13内を流れる燃料の流速(以下、「噴孔内燃料流速」と称す)が速い(すなわち、噴孔13を流れる燃料の流量が多い)場合、図4(a)に示したように、燃料の流れは、地点aを通過するときに角部30において剥離し、角部30よりも出口側において噴孔13の拡大上壁面32に再付着することなく流れる。またこの場合、燃料の流れは、地点bを通過するときにも角部31において剥離し、角部31よりも下流側において噴孔13の拡大下壁面33に再付着することなく流れる。この結果、噴孔内燃料流速が速い場合には、燃料は、噴孔13から噴孔13の軸線方向に噴射される。
【0028】
噴孔内燃料流速が遅い(すなわち、噴孔13を流れる燃料の流量が少ない)場合、図4(b)に示したように、燃料の流れは、地点aを通過するときに角部30において剥離し、角部30よりも下流側において噴孔13の拡大上壁面32に再付着することなく流れる。しかしながら、この場合、燃料の流れは、地点bを通過するときには角部31において剥離しないか、または角部31において剥離しても拡大下壁面32に再付着する。よって、図4(b)に示したように角部31よりも出口側において噴孔13の拡大下壁面32に沿って流れる。この結果、噴孔内燃料流速が遅い場合には、燃料は噴孔13から噴孔13の軸線方向よりも下向きに噴射される。
【0029】
ここで、噴孔内燃料流速と、噴孔13から噴射される燃料の噴射方向との関係は、角部30、31における角度α、βに応じて変更される。例えば、角部31における角度βを大きくすると、噴孔13内の燃料の流れは角部31において剥離し易く且つ剥離後に再付着しにくくなる。よって燃料の流れは、その流速が非常に遅くないと角部31において剥離すると共にその後拡大下壁面33に再付着しない。逆に、角部31における角度βを小さくすると、噴孔13内の燃料の流れは角部31において剥離しにくく且つ剥離後に再付着し易くなる。よって燃料の流れは、その流速が比較的速くても角部31において剥離しないかまたは剥離しても拡大下壁面33に再付着し、角部31より出口側において噴孔13の拡大下壁面33に沿って流れる。
【0030】
本実施形態では、角部30における角度αは、燃料噴射弁1を実際に使用した際に噴孔13を通って流れる燃料がとり得る全ての流速範囲(以下、「実用流速範囲」と称す)において、角部30において燃料の流れが剥離し且つその後再付着しないような角度に設定される。また、角部31における角度βは、噴孔内燃料流速が実用流速範囲内の所定の第一流速V1であるときに角部31において剥離した燃料の流れが再付着しなくなり始めるような角度に設定される。この場合、噴孔内燃料流速が第一流速V1よりも速い所定流速以上であるときに、角部31において燃料の流れが完全に剥離する。
【0031】
したがって、本実施形態の燃料噴射弁1によれば、噴孔内燃料流速が第一流速V1よりも遅いときには、燃料は噴孔13の軸線Bに対して角度βだけ下向き(以下、「最下向き」と称す)に噴射され、噴孔内燃料流速が上記第一流速V1よりも速い所定流速以上であるときには、燃料は噴孔13の軸線Bに沿った向き(以下、「軸線向き」と称す)に噴射される。
【0032】
このように、本発明の燃料噴射弁1によれば、噴孔内燃料流速を変更することで、噴孔13から噴射される燃料の噴射方向を変更することができる。
【0033】
また、本実施形態の噴孔13では、図3(b)に示したように、拡大上壁面32および拡大下壁面33は、入口近傍における噴孔13の上方向および下方向にのみ広がっており、横方向には広がっていない。したがって、拡大上壁面32および拡大下壁面33が広がっているにも関わらず、噴孔13の出口18の断面積は比較的狭い。噴孔13の出口18の断面積が広いと、噴孔13内に炭化水素等のデポジットが付着し易く、噴孔13を流れる燃料の流れが悪化してしまうが、上述したように本実施形態の噴孔13では出口18における断面積が狭いため、このようなデポジットの付着が抑制される。
【0034】
また、図3(c)に示したように、拡大上壁面32および拡大下壁面33が放射状に広がるような形状である場合、燃料が噴孔13の拡大下壁面33に沿って噴射されるときに、拡大下壁面33全体に亘って噴射される。このため、図3(c)に矢印で示したように、噴孔13の軸線に対して下方向のみならず、斜め下方向や、横方向に近い方向にも噴射される。したがって、この場合、噴射された燃料全体が向かう方向を巨視的に見ると、噴孔13の軸線Bに対して角度βよりも小さい角度で噴射されることになる。これに対して、本実施形態の場合では、図3(b)に矢印で示したように、噴孔13から噴射される燃料全体が噴孔13の軸線Bに対して角度βだけ下向きに噴射される。このため、本実施形態のように噴孔13の出口を拡げた場合の方が、噴孔内燃料流速を変更したときに、より効果的に噴孔13からの燃料の噴射方向を変更することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、角部30における角度αは、実用流速範囲において常に角部30において燃料の流れが剥離してその後再付着しないような角度に設定されているが、噴孔内燃料流速が実用流速範囲内の所定の第一流速V1よりも遅い所定の第二流速V2にあるときに角部30において燃料の流れが剥離してその後再付着しなくなり始めるような角度に設定されてもよい。この場合、噴孔内燃料流速が第一流速V1以上であるときには上記実施形態と同様であるが、噴孔内燃料流速が第一流速V1よりも遅く且つ第二流速V2よりも速いときには燃料は噴孔13の軸線Bに対して角度βだけ下向き(最下向き)に噴射され、噴孔内燃料流速が第二流速V2よりも遅いときには燃料は噴孔13の軸線Bに対して角度αだけ上向きの方向から角度βだけ下向きの方向までの範囲内のほぼ全体に亘って噴射される。このような範囲内全体に亘って燃料が噴射されるのは、燃料が噴孔13の拡大上壁面32および拡大下壁面33の両方に沿って流れ、噴射されることによる。
【0036】
また、拡大上壁面32は上記実施形態のように半円筒状でなくてもよく、少なくとも噴孔13の軸線Bの直上に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面が地点aから噴孔13の軸線Bに対して角度αで延びていればよい。同様に、拡大下壁面33も上記実施形態のように半円筒状でなくてもよく、少なくとも噴孔13の軸線Bの直下に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面が地点bから噴孔13の軸線Bに対して角度βで延びていればよい。
【0037】
したがって、例えば、図3(c)に示したように、拡大上壁面32および拡大下壁面33が放射状に広がるような形状であってもよい。噴孔13をこのように形成するには、ノズルボディ2にドリルで円柱状の孔を形成した後に、円錐状のドリルで既に形成された孔の入口近傍を削ればよいため、噴孔13の形成するのが容易になる。
【0038】
次に、第一実施形態における噴孔内燃料流速の変更方法(以下、「流速変更方法」と称す)について説明する。噴孔内燃料流速の変更は、基本的に、噴孔13から噴射される燃料の圧力、すなわち噴孔13の入口16近傍における燃料の圧力(以下、「噴射圧力」と称す)を調整することによって行われる。すなわち、噴射圧力を高くすれば噴孔内燃料流速が速くなり、噴射圧力を低くすれば噴孔内燃料流速が遅くなる。この噴射圧力を調整する方法としては、大きく二つに分けられる。一つの方法としては、例えば、コモンレール(図示せず)等により燃料噴射弁1に供給する燃料の圧力(以下、「供給燃料圧力」と称す)、すなわち上流側環状流路6内の燃料の圧力を変更する方法が挙げられる。供給燃料圧力を高くすれば、噴射圧力も高くなり、よって噴孔内燃料流速が速くなり、供給燃料圧力を低くすれば、噴射圧力も低くなり、よって噴孔内燃料流速が遅くなる。
【0039】
もう一つの方法としては、ニードル弁4のリフト量を変更する方法が上げられる。例えば、ニードル弁4のリフト量が少ない場合、すなわちニードル弁4が小さくリフトされている場合には、ノズルボディ2の先端部8の内壁面10とニードル弁4の先端部11との間には狭い環状流路しか形成されない。このため、噴孔13から燃料を噴射することで低下したサック部12内の燃料の圧力を補うだけの燃料が上流側環状流路6からサック部12に流れず、燃料の噴射圧力が低下し、その結果、噴孔内燃料流速が遅くなる。一方、ニードル弁4のリフト量が多い場合には、ノズルボディ2の先端部8の内壁面10とニードル弁4の先端部11との間には広い環状流路が形成される。このため、サック部12内の燃料の圧力を上流側環状流路6における燃料の圧力とほぼ同一に維持することができるので、噴孔内燃料流速が速くなる。
【0040】
次に、図5を参照して、本発明の第一実施形態の燃料噴射弁1の変更例について説明する。なお、図5(a)および(b)は、各変更例の燃料噴射弁の図3(a)と同様な拡大断面図である。図5(a)に示した変更例では、噴孔13の形状は基本的に第一実施形態の噴孔と同形状であるが、角部30における角度αがほぼ直角となっており、噴孔13が地点aにおいてステップ状に広がっている。この場合も、上記第一実施形態と同様に、角部30では実用流速範囲において角部30で燃料の流れが剥離してその後再付着しない。したがって、本変更例では、第一実施形態と同様に、角部31における角度βと噴孔内燃料流速とに応じて、軸線向きまたは最下向きに噴孔13から燃料を噴射することができる。
【0041】
なお、本変更例では、噴孔13が地点aにおいて深さl3だけステップ状に広がるように拡大上壁面32が形成されている。この深さl3が小さすぎると、噴孔内燃料流速によっては、一旦角部30で剥離した燃料の流れが拡大上壁面32上に再付着して拡大上壁面32に沿って流れて、そのまま噴孔13から噴射されたり、あるいは角部30から拡大上壁面32の出口縁部に向かって噴孔13の軸線Bに対して所定の角度で流れて、そのままの角度で噴孔13から噴射されたりする(以下、これらをまとめて「拡大上壁面32に沿う等して流れる」と称す)ことがある。このため、角部30における角度αをほぼ直角とした場合に、噴孔13を流れる燃料の流れが拡大上壁面32に沿う等して流れることのないように角部30において流れを剥離させるためには、地点aにおける深さl3を所定深さ以上の適切な値に設定する必要がある。
【0042】
なお、逆に考えると、ステップ状に広がる深さl3の設定如何によっては、角度αを直角に設定しても、噴孔内燃料流速に応じて、燃料が拡大上壁面32に沿う等して流れないようにすることと、燃料が拡大上壁面32に沿う等して流れることとを変更することができる。したがって、角部31における角度βをほぼ直角にして拡大下壁面33を地点bにおいてステップ状に広がるように形成し、このときの地点bにおいてステップ状に広がる深さを噴孔内燃料流速が所定の流速V1であるときに燃料が拡大下壁面32に沿う等して流れ始めるような深さに設定してもよい。
【0043】
また、図5(b)に示した別の変更例では、噴孔13の形状は基本的に第一実施形態の噴孔と同形状であるが、噴孔13の出口面と地点aとの間の長さl1が噴孔13の出口面と地点bとの間の長さl2よりも短くなっている。したがって、この場合、噴孔内燃料流速が角部31において燃料の流れの剥離が起こらないかまたは燃料の流れが剥離してもその後再付着するような流速であるとき、噴孔13を流れる燃料は、地点bから地点aまでの間、拡大下壁面33に沿って流れながらも噴孔13の軸線Bに平行な噴孔13の上壁面に沿って流れる。その後、噴孔13の軸線Bに平行な噴孔13の上壁面に沿って流れていた燃料の流れは、地点aにおいて角部30で剥離し、噴孔13の軸線Bに沿って噴射されたり、拡大下壁面33に沿って流れて噴射される主流の燃料の影響を受けて噴孔13の軸線Bよりも僅かに下向きに噴射されたりする。
【0044】
結果として、図5(b)に示した変更例では、噴孔内燃料流速が、角部30において燃料の流れが剥離してその後再付着しないような流速であって、角部31において燃料の流れの剥離が起こらないかまたは燃料の流れが剥離してもその後再付着するような流速であるとき、燃料は、上記第一実施形態において噴射が行われる噴孔13の軸線Bに対して下向きに角度βの方向よりも若干上向きな方向であって、噴孔13の軸線Bよりも下向きな方向に噴射される。したがって、図5(b)のように噴孔13を形成しても、噴射方向を変更できるという本発明の効果を得られる。
【0045】
上記二つの変更例を考慮すると、噴孔内燃料流速に応じて、噴孔13からの燃料の噴射方向を変更するためには、角部30から出口18まで続く拡大上壁面32を、噴孔内燃料流速が第二流速V2以上であるときに、角部30で流れの剥離が起きて剥離した燃料の流れが拡大上壁面32に再付着せず、よって拡大上壁面32に沿う等することのないように形成する。さらに、角部31から出口18まで続く拡大下壁面33を、噴孔内燃料流速が第一流速V1以上であるときに、角部31で剥離が起きて剥離した燃料の流れが再付着せず且つ拡大下壁面33に沿う等することのないような形状であって、噴孔内燃料流速が第一流速V1より遅いときに、燃料が拡大下壁面33に沿う等して流れるような形状であればよい。この場合、角部30と噴孔13の出口面との間の長さと、角部31と噴孔13の出口面との間の長さはどちらが長くてもよい。また、拡大下壁面33は、少なくとも噴孔13の出口近傍において、噴孔13の軸線Bに対して所定の角度で傾いているのが好ましい。
【0046】
また、上記実施形態では、拡大上壁面32および拡大下壁面33は共にほぼ直線的に延びているが、それぞれ角部30、31よりも出口側で噴孔13が広がるように連続的に湾曲していてもよい。このように湾曲させることにより、角部30、31において剥離が起きて再付着しない場合の噴射方向と、剥離が起きない場合または剥離が起きても再付着する場合の噴射方向とを大きく変えることができるようになる。
【0047】
次に、第一実施形態および第一実施形態の変更例における燃料の噴射方向の変更制御について説明する。本実施形態の燃料噴射弁1では、上述したように、燃料は、噴孔内燃料流速に応じて、軸線向きまたは最下向きのいずれかの方向に噴射される。見方を変えると、本実施形態の燃料噴射弁1では、下向きのノズルボディ2の軸線方向に対する噴射方向の角度(以下、「噴射角度」と称す)が大きい噴射と、噴射角度の小さい噴射とのいずれかの噴射が行われる。
【0048】
ところで、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、内燃機関の各運転行程は短い。このため、燃料噴射弁1から燃料を噴射することができる時間も短く、さらに、燃料噴射弁1から噴射した燃料は拡散しにくい。したがって、この場合、図6に示したようにピストンPのリップLに燃料を当てて、燃料をそのリップLの周辺に飛び散らせることによって燃料を拡散させるのが好ましい。そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、噴射角度が大きいときの燃料噴射弁1からの燃料噴射方向を、噴孔13の出口18からピストンPが上死点近傍にあるときのリップLに向かう方向に設定し、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、噴射角度の大きい噴射を行う。こうすることで、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、燃料を確実にリップLに当て、燃料を燃焼室内に拡散させることができるようになる。
【0049】
一方、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には、内燃機関の各運転行程の時間は長い。このため、燃料噴射弁1から燃料を噴射することができる時間は長い。また、この場合、噴射角度が大きい噴射を行うと、燃焼室内での燃料の燃焼が開始される前に燃料がシリンダSの壁面に到達してしまい、よって、燃料は燃焼室内で気化せずに液体状態でシリンダSの壁面に付着してしまう。このように、燃料がシリンダSの壁面に付着してしまうと、燃焼が適切に行われず、また、燃費の悪化や内燃機関内の潤滑油の劣化等をまねいてしまう。そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には、噴射角度の小さい噴射を行う。これにより、噴射された燃料がシリンダSの壁面に付着することが防止されると同時に、燃焼室内での燃焼が開始されるかなり前から燃料が噴射されるため燃料が燃焼室内でより混合し易くなる。
【0050】
また、ディーゼル型の圧縮自着火式内燃機関では、ピストンPが圧縮上死点付近にあるときに行われる主噴射の他に、この主噴射の前に噴射(以下、「早期噴射」と称す)が行われたり、主噴射の後に噴射(以下、「ポスト噴射」と称す)が行われたりする。早期噴射は、例えば、この噴射による燃料を着火源としてその後の主噴射で速やかに着火燃焼が起こるようにするために行われる。ポスト噴射は、例えば、燃焼室から排出される排気ガス中に未燃の燃料を含有させることにより、排気ガスの空燃比(燃焼室に供給される燃料と空気との比率)を強制的にほぼ理論空燃比またはリッチにしたり、排気浄化触媒上で未燃の燃料を燃焼させて排気浄化触媒を昇温したりするために行われる。
【0051】
このような早期噴射またはポスト噴射においても、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合と同様に、噴射された燃焼がシリンダSの壁面に付着し易い。そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、早期噴射またはポスト噴射は、噴射角度の小さい噴射によって行われる。
【0052】
なお、上記実施形態の噴射方向変更制御においては、内燃機関の回転数に応じて燃料噴射弁1からの燃料噴射方向を決めるようにしていたが、回転数には無関係に常に噴射角度の大きい噴射のみを行い、早期噴射またはポスト噴射の場合にのみ噴射角度の小さい噴射を行ってもよい。また、回転数には無関係に常に噴射角度の大きい噴射のみを行っている場合でも、内燃機関の冷間始動時(すなわち、内燃機関の冷間始動後所定期間)のみ噴射角度の小さい噴射を行うようにしてもよい。これは、内燃機関の冷間始動時には燃焼室内の温度が低くて燃料が気化しにくく、よって燃料噴射弁から噴射された燃料は気化されずにシリンダSの壁面に付着し易くなっており、このため噴射角度の大きい噴射を行うと、燃料がシリンダSの壁面に付着してしまう可能性が高いことによる。
【0053】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。上記実施形態において、噴孔13からの燃料の噴射方向は、軸線向きと最下向きとの二方向とされている。しかしながら、実際には、角部31において起こる流れの剥離の程度に応じて、燃料の噴射方向は、最下向きと、噴孔13の軸線向きとの間で連続的に変更可能である。したがって、例えば、噴孔内燃料流速を第一流速V1から徐々に速くしていくと、噴孔13からの燃料の噴射方向は最下向きから徐々に軸線向きの方向へと移り変わっていき、逆に噴孔内燃料流速を徐々に遅くしていくと、噴孔13からの燃料の噴射方向は軸線向きから徐々に最下向きの方向へと移り変わっていく。
【0054】
そこで、本発明の第二実施形態では、噴孔内燃料流速を一回の噴射期間中に徐々に連続的に速くさせて、各噴射期間中に燃料の噴射方向を徐々に上向きにさせる。例えば、一回の噴射期間の開始時には噴孔内燃料流速を燃料の噴射方向が最下向きになるような流速にし、そこから噴射期間の終了直前までの間の少なくとも一部期間中に徐々に噴孔内流速を速くさせ、噴射期間の終了直前には噴孔内流速を噴射方向が軸線向きになるような流速にする。
【0055】
次に、第二実施形態における流速変更方法について説明する。第一実施形態において説明したように、噴孔内燃料流速を変更する方法は二つあるが、このうち燃料噴射弁1への供給燃料圧力を変更する方法では、一回の噴射期間中に噴射圧力、および噴孔内燃料流速を変化させるのは困難である。そのため、第二実施形態における流速変更方法では、ニードル弁4のリフト量を変更することで一回の噴射期間中に噴孔内燃料流速を変化させる。
【0056】
すなわち、例えば、一回の噴射期間の開始時には燃料の噴射方向が最下向きになる噴射圧力および噴孔内燃料流速となるようなリフト量(以下、「低リフト量」と称す)とし、そこから噴射期間の終了直前までの間の少なくとも一部期間中に徐々にニードル弁4をリフトさせ、噴射期間の終了直前には燃料の噴射方向が軸線向きになる噴射圧力および噴孔内燃料流速となるようなリフト量(以下、「高リフト量」と称す)にする。このとき、燃料の噴射方向が最下向きの状態から軸線向きに変化させるまでにかかる時間(以下、「変化時間」と称す)は、ニードル弁4をリフトする速度(以下、「リフト速度」と称す)に応じて変化する。すなわち、リフト速度が速ければ変化時間は短くなり、リフト速度が遅ければ変化時間は短くなる。
【0057】
次に、第二実施形態における燃料の噴射方向の変更制御について説明する。ところで、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合等には、上述したようにピストンPのリップLに燃料を当てて燃料を燃焼室内に拡散させるのが好ましい。ところが、ピストンPは常に移動しているため、燃料噴射弁から同一の噴射方向に燃料を噴射すると、ピストンPに位置によっては燃料はピストンPのリップLに当たらない。このようにリップLに当たらなかった燃料は、燃焼室内で拡散しにくく、これにより燃焼状態が悪化してしまうことが考えられる。
【0058】
そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、燃料噴射弁1からの燃料の噴射方向が、噴射された燃料が常にピストンPのリップLに向かうような方向とされる。したがって、ニードル弁4は、ピストンPが燃料噴射弁1から離れて位置する噴射期間の初期には燃料の噴射方向が下向きとなっており、ピストンPの上死点への移動に伴って噴射方向が徐々に軸線向きへと変化し、ピストンPが上死点付近にあるときには噴射方向が軸線向きとなるように、一定のリフト速度でリフトされる。各噴射期間におけるニードル弁4のリフト速度は、ピストンPの移動速度、あるいは機関回転数に応じて変更される。
【0059】
このように、燃料噴射弁1から噴射される燃料を常にピストンPのリップLに当てるようにすることにより、燃焼室内において燃料を最適に拡散させ且つ良好に燃焼させることができるようになる。
【0060】
なお、上記実施形態では、噴射期間の開始から終了直前までの間の少なくとも一部期間中に一定のニードル速度でニードル弁をリフトさせることで、燃料の噴射方向を連続的に変化させているが、リフト中のニードル弁のリフト速度を変更することにより各噴射期間中における上記噴射方向の変わり方を変更する如何なる制御を行ってもよい。すなわち、一回の噴射期間中に噴孔内燃料流速を変化させて、噴孔13からの燃料の噴射方向を変化させれば如何なる制御を行ってもよい。例えば、ニードル速度を一定にせずにニードル弁4のリフト中に速くしたり遅くしたりしてもよいし、ニードル弁4のリフト中に一旦ニードル弁4のリフトを停止してもよい。また、噴射期間中にニードル弁を一定のリフト速度でまたはリフト速度を変化させつつリフトさせるだけでなく、一定の降ろし速度(ニードル弁を降ろす(噴孔を閉じる方向に移動させる)速度)でまたは降ろし速度を変化させつつニードル弁を降ろすようにしてもよい。
【0061】
また、一回の噴射期間におけるニードル弁のリフト量をステップ的に変化させて、すなわち、噴孔内燃料流速をステップ的に変化させて、燃料の噴射方向を段階的に変更してもよい。さらに、第二実施形態の燃料噴射弁1の形状は、第一実施形態およびその変更例として示した如何なる形状であってもよい。また、第二実施形態における噴射方向変更制御は、第一実施形態における噴射方向変更制御と組み合わせてもよい。その場合、例えば、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には第二実施形態の噴射方向変更制御を行い、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には最下向きに燃料を噴射するようにすることが考えられる。
【0062】
次に、図7を参照して本発明の第三実施形態の燃料噴射弁1’について説明する。ここで、図7(a)は、第三実施形態の燃料噴射弁1’を図2のラインVII−VIIから見た断面図であり、図7(b)は、燃料噴射弁1’から噴射される燃料の様子を示す拡大概略図である。第二実施形態の燃料噴射弁1’は基本的に第一実施形態の燃料噴射弁1と同様な構成であるが、第一実施形態では燃料の噴射方向を上下方向に変更することができるのに対して、第二実施形態の燃料噴射弁1’では燃料の噴射方向を横方向に変更することができる。また、第三実施形態の燃料噴射弁1’は、燃焼室内に生成されるスワールが弱い内燃機関に用いられる。以下の説明では、噴孔13の左壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線B’の一方の側(以下、「左側」と称す)の真横に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味し、噴孔13の右壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線B’の他方の側(以下、「右側」と称す)の真横に位置する噴孔13の平面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味する。なお、本発明を実施するにあたり、右壁面と左壁面とが逆に配置されてもよい。
【0063】
図7(a)に示したように、第二実施形態の燃料噴射弁1’では、地点aにおける角部30’から出口18’まで噴孔13’の左壁面(以下、「拡大左壁面」と称す)が噴孔13の軸線B’に対して角度αでこの軸線B’から離れるように直線的に延びる。また、地点bにおける角部31’から出口18’まで噴孔13’の右壁面(以下、「拡大右壁面」と称す)が噴孔13の軸線B’に対して角度βでこの軸線B’から離れるように直線的に延びる。角部30’における角度αは、実用流速範囲において常に角部30’で流れが剥離してその後再付着しないような角度に設定される。また、角部31’における角度βは、噴孔内燃料流速が実用流速範囲内の所定の流速V1であるときに角部31’において燃料の流れが剥離してその後再付着しなくなり始めるような角度に設定される。
【0064】
次に、上述したような形状で形成された噴孔13’内における燃料の流れおよびこの噴孔13からの燃料の噴射について説明する。噴孔内燃料流速が上記所定の流速V1よりも速い所定流速以上である場合には、角部30’および角部31’において燃料の流れが剥離してその後再付着せず、よって燃料は噴孔13の軸線方向に噴射される。噴孔内燃料流速が所定の流速V1よりも遅い場合には、角部30’において燃料の流れが剥離してその後再付着せず、角部31’において燃料の流れが剥離しないかまたは剥離してもその後再付着し、よって燃料は拡大右壁面33’に沿って流れ、軸線B’よりも右向きに噴射される。燃料の噴射方向の軸線B’からの角度は、噴孔内燃料流速から所定の流速V1を減算した流速の差に応じて変わり、噴孔内燃料流速が速くなるほど、軸線B’からの角度が小さくなる。
【0065】
本実施形態では、上述した第二実施形態と同様に、一回の噴射期間においてニードル弁4’を徐々に上昇させることにより、噴孔13’からの燃料の噴射方向が連続的に変更される。以下では、図7(b)を参照して、各噴射期間における燃料の噴射の様子を説明する。なお、図7(b)は、ニードル弁4’が低リフト量から高リフト量まで徐々にリフトされたときに、噴孔13’から噴射された燃料の様子を示す。
【0066】
各噴射期間においては、まず、ニードル弁4’はリフト量がほぼ零の位置から低リフト位置へと迅速に移動せしめられる。ニードル弁4’が低リフト位置にあるときには、燃料は、噴孔13’の軸線B’よりも角度βだけ右向きに噴射される(図7(b)中のf1)。次いで、ニードル弁4’が低リフト位置から高リフト位置へと徐々にリフトされるにつれて、燃料の噴射方向が徐々に左向きにになっていく(図7(b)中のf2、f3)。そして、ニードル弁4’が高リフト位置までリフトされると、燃料は噴孔13’の軸線方向とほぼ同一の方向に噴射される(図7(b)中のf3)。
【0067】
このように、燃料噴射弁1’からの燃料の噴射方向が徐々に横方向にずれると、例えば燃焼室内にスワールが生成されている場合と同様に、燃料が拡散して燃焼室内全体に広く行き渡るようになる。
【0068】
次に、第三実施形態における燃料の噴射方向の変更制御について説明する。一般に、多くの内燃機関においては、機関運転状態が低負荷・低回転であるときにはスワール比を大きくすることで、燃料と空気とが十分に混合するようにしており、機関運転状態が高負荷・高回転であるときにはスワール比を小さくすることで、燃焼初期に関与する予混合燃焼量を低減させて排気ガス中に含まれるNOxを低減させるようにしている。ここで、本実施形態の燃料噴射弁13’によれば、上述したように燃料の噴射方向を変化させることで燃焼室内にスワールを発生させるのと同様の効果を得ることができる。そこで、第三実施形態の噴射方向変更制御では、機関運転状態が低負荷・低回転であるときには、上述したように各噴射期間中にニードル弁4’を徐々にリフトさせて燃料の噴射方向を徐々に変化させ、スワール比を大きくした場合と同様な効果を得ようにする。一方、機関運転状態が高負荷・高回転であるときには、ニードル弁4’を迅速にリフトさせて、スワール比を小さくした場合と同様な効果を得るようにする。
【0069】
これにより、第三実施形態の燃料噴射弁1’によれば、スワール比を変化させることができる可変スワール装置(例えば、スワールコントロールバルブ)を設けることなく、スワール比を変化させるのと同様な効果を得ることができる。
【0070】
なお、上記第三実施形態では、燃焼室内の混合気に発生する実際のスワールが非常に弱い(スワール比が非常に小さい)か、または実際のスワールがほとんど発生していない内燃機関に用いられるが、実際のスワールが強い(スワール比が大きい)内燃機関に用いてもよい。この場合、燃料噴射弁1’からの燃料の噴射方向は実際のスワールを打ち消すように(すなわち、燃料の噴射方向が実際のスワールの向きと同一方向に徐々に移り変わるように)変化させる。そして、機関運転状態が高負荷・高回転であるときには、各噴射期間中にニードル弁4’を徐々にリフトさせて燃料の噴射方向を徐々に変化させ、実際のスワールを打ち消すようにする。機関運転状態が低負荷・低回転のときには、ニードル弁4’を迅速にリフトさせて、実際のスワールにより燃焼が最適に混合するようにする。
【0071】
また、第三実施形態の燃料噴射弁1’は、第一実施形態の燃料噴射弁のように二段階に分けて、または多段階に分けて燃料を噴射するようにしてもよい。さらに、第三実施形態の燃料噴射弁の形状は、第一実施形態およびその変更例と同様な形状であって、第一実施形態およびその変更例で上下向きになっているものを横向きにした形状であってもよい。
【0072】
次に、図8を参照して、本発明の第四実施形態の燃料噴射弁35について説明する。ここで、図8は、燃料噴射弁35をその先端側から見た底面図である。第四実施形態の燃料噴射弁35の構成は、基本的に第一実施形態の燃料噴射弁1の構成と同様である。しかしながら、第四実施形態の燃料噴射弁35は、噴孔の軸線に対する拡大上壁面および拡大下壁面の角度が第一実施形態の拡大上壁面32および拡大下壁面33の角度と同様である下向き噴孔36と、第一実施形態の拡大上壁面32および拡大下壁面33の角度と互いに反対である上向き噴孔37とが交互に設けられている。
【0073】
すなわち、下向き噴孔36においては、噴孔の軸線Bに対する拡大上壁面の角度が角度αであり、拡大下壁面の角度が角度βであるのに対し、上向き噴孔37においては、噴孔の軸線Bに対する拡大上壁面の角度が角度βであり、拡大下壁面の角度が角度αである。また、各噴孔36、37はノズルボディ2の同一円周上に設けられており、全ての噴孔36、37において噴孔内燃料流速はほぼ同一とされる。さらに、各噴孔36、37は、その軸線Bがノズルボディの軸線を中心に放射状に且つその軸線Bが下向きのノズルボディの軸線に対する角度(噴射角度)が全ての噴孔36、37で等しくなるように配置される。
【0074】
したがって、第四実施形態の燃料噴射弁35では、噴孔内燃料流速が速いときには、各噴孔36、37から噴射される燃料の噴射方向は、各噴孔36、37の軸線Bとほぼ同一の方向である。すなわち、この場合、各噴孔36、37からの燃料の噴射角度は、全ての噴孔36、37においてほぼ同一となっている。
【0075】
一方、噴孔内燃料流速が遅いときには、各噴孔36、37から噴射される燃料の噴射方向は、噴孔36、37によって異なる。すなわち、噴孔36においては、燃料が噴孔36の軸線に対して角度βだけ下向きに噴射され、噴孔37においては、燃料が噴孔37の軸線に対して角度βだけ上向きに噴射される。したがって、第四実施形態の燃料噴射弁35によれば、噴孔内燃料流速が遅いときには、燃料は燃焼室内で拡散するように噴射される。
【0076】
このように、本実施形態の燃料噴射弁35によれば、噴孔内燃料流速に応じて、全ての噴孔36、37からの燃料の噴射角度が各噴孔36、37の軸線方向である噴射(以下、「平行噴射」と称す)と、互いに隣り合った噴孔36、37からの燃料の噴射方向が上下逆になっている噴射、すなわち各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射(以下、「広角噴射」と称す)とを切り替えたり、両噴射間で変更したりすることができる。なお、ここでの噴孔内燃料流速の変更は、第一実施形態および第二実施形態と同様に、ニードル弁4のリフト量および供給燃料圧力を変更することによって行われる。
【0077】
次に、第四実施形態における噴射方向変更制御について説明する。上述したように、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、ピストンPのリップLに燃料を当てるのが好ましいため、噴射した燃料がピストンPのリップLに向かうように平行噴射が行われる。内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には、噴射した燃料が燃焼室内に拡散するのが好ましいため、広角噴射を行う。これにより、燃焼室における燃焼を常に良好に維持することができるようになる。
【0078】
なお、第四実施形態の燃料噴射弁35には、第一実施形態、その変更例および第二実施形態を組み合わせることができる。
【0079】
次に、図9を参照して、本発明の第五実施形態の燃料噴射弁40について説明する。ここで、図9(a)は、第五実施形態の燃料噴射弁40の図3(a)と同様な拡大断面図であり、図9(b)は、燃料噴射弁40をその先端側から見た図8と同様な底面図である。第五実施形態の燃料噴射弁40の構成は、基本的に第四実施形態の燃料噴射弁35の構成と同様である。しかしながら、第五実施形態の燃料噴射弁40は、ノズルボディ41の先端部の或る円周上に配置された四つの下側噴孔43と、この円周よりも上側または外周側に位置する別の円周上に配置された四つの上側噴孔44とを具備し、これら噴孔43、44はノズルボディの円周方向において等間隔で交互に配置される。
【0080】
また、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43の軸線Cの向きは、その上側噴孔44の軸線Dの向きと異なる。すなわち、図9に示したように、下向きのノズルボディの軸線方向に対する上側噴孔44の軸線Dの向きは、その下側噴孔43の軸線Cの向きよりも下向きである。より詳細には、これら噴孔43、44の軸線C、Dの向きは、噴孔43の軸線C向きに噴射された燃料と、噴孔44の軸線D向きに噴射された燃料とが、ノズルボディの先端部またはその軸線周りのまたはこれらを中心としたほぼ同一の円周上に向かって噴射されるような向きとなっている。すなわち、下側噴孔43と上側噴孔44とが同一鉛直平面上に位置するものと仮定した場合におけるこれらの軸線C、D間の角度γは、これら軸線が上記同一の円周上で交わるような角度とされる(図9(a)参照)。本実施形態では、この円周の位置が、ピストンPが上死点にあるときのリップLに位置となるように噴43、44が形成される。
【0081】
このため、第五実施形態の燃料噴射弁40では、噴孔内燃料流速が速いときには、各噴孔43、44からの燃料の噴射方向は、各噴孔43、44の軸線C、Dとほぼ同一の向き、すなわちノズルボディの先端部またはその軸線周りのほぼ同一の円周上に向かう向きとなる。一方、噴孔内燃料流速が遅いときには、各噴孔43、44からの燃料の噴射方向は、下側噴孔43と上側噴孔44とで異なる。すなわち、下側噴孔43においては、燃料が下側噴孔43の軸線Cに対して角度βだけ下向きに噴射され、上側噴孔44においては、燃料が上側噴孔44の軸線Dに対して角度βだけ下向きに噴射される。したがって、第五実施形態の燃料噴射弁40では、噴孔内燃料流速が遅いときには、燃料は燃焼室内で拡散するように噴射される。
【0082】
このように、本実施形態の燃料噴射弁35によれば、噴孔内燃料流速に応じて、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43からの燃料の噴射方向と上側噴孔44からの燃料の噴射方向とが互いに近づくような噴射(以下、「狭角噴射」と称す)と、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43からの燃料の噴射方向と上側噴孔44からの燃料の噴射方向とが互いに遠ざかるような噴射(以下、「広角噴射」と称す)とを切り替えたり、両噴射間で変更したりすることができる。なお、ここでの噴孔内燃料流速の変更は、第一実施形態および第二実施形態と同様に、ニードル弁4のリフト量および供給燃料圧力を変更することによって行われる。
【0083】
第五実施形態における噴射方向変更制御では、第四実施形態における噴射方向変更制御と同様な理由で、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には狭角噴射が行われ、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には広角噴射が行われる。
【0084】
なお、上記第五実施形態の燃料噴射弁40では、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43の軸線Cの向きがその上側噴孔44の軸線Dの向きよりも上向きとなっているが、これら軸線Cの向きと軸線Dの向きは同一方向であってもよい。
【0085】
また、上記第五実施形態では、上側噴孔43と下側噴孔44とをノズルボディの周方向において等間隔に交互に設けているが、同一の角度位置に設けてもよい。すなわち、ノズルボディの先端からノズルボディの軸線に沿って延びる同一直線上に上側噴孔43と下側噴孔44とが設けられてもよい。あるいは、上側噴孔43と下側噴孔44とがノズルボディの周方向において交互に設けられる場合でも、等間隔で設けられなくてもよい。
【0086】
さらに、第五実施形態の燃料噴射弁40には、第一実施形態、その変更例および第二実施形態を組み合わせることができる。
【0087】
次に、図10を参照して、本発明の第六実施形態の燃料噴射弁50について説明する。なお、図10(a)は、第六実施形態の燃料噴射弁50の図3(a)と同様なであり、図10(b)および(c)はそれぞれ、ニードル弁のリフト量が小さいときおよび大きいときの燃料の流れを示す図である。第六実施形態の燃料噴射弁50の構成は、基本的に第一実施形態の燃料噴射弁1の構成と同様である。ただし、図10(a)から分かるように、噴孔53は、サック部ではなく、先端中空空間、あるいは噴孔53はニードル弁52の先端部と先端中空空間9を画成する内壁面55との間に形成される下側環状流路56に通じている。すなわち、噴孔53の入口54は、ニードル弁52がリフトされていないときに、ニードル弁52の先端部の外壁面57と当接または近接するノズルボディ51の円錐状の内壁面55上に設けられる。
【0088】
また、第六実施形態の燃料噴射弁50では、角部60から噴孔53の出口に向かって直線的に広がる拡大上壁面58と、角部61から噴孔53の出口に向かって直線的に広がる拡大下壁面59とが設けられるが、噴孔53の軸線Eに対する拡大上壁面58および拡大下壁面59の角度は同一の角度δである。さらに、噴孔53の入口面からの噴孔53の軸線方向における角部60および61までの長さは同一の長さl4である。
【0089】
次に、図10(b)および(c)を参照して、上述したような形状の噴孔53における燃料の流れおよびこの噴孔53からの燃料の噴射について説明する。図示したような形状の燃料噴射弁50では、下側環状流路56から噴孔53に流入する燃料は、噴孔53の入口54で急激に流れの方向が変わる。このため、噴孔53の入口54の角部では流れの剥離が起こるが、噴孔53に流入する燃料の多くは図10(b)の矢印のように、噴孔53の上方から流れてくるため、流れの剥離は噴孔53の入口54の上縁部において起こる。
【0090】
ここで、図10(b)に示したように、ニードル弁52のリフト量が所定リフト量よりも小さい場合、すなわちノズルボディ2の内壁面55とニードル弁52の先端部の外壁面57との間の幅が狭い場合、噴孔53の入口54における燃料の流れの方向の移り変わりが非常に急であるため、噴孔53の入口54において起こる流れの剥離の程度は大きい。このため、燃料の流れが剥離している距離は長く(図中の剥離線X1参照)、角部60に至っても燃料の流れは再付着しない。このため、燃料は拡大上壁面58に沿って流れない。このとき、燃料の流速が角部61において燃料の流れの剥離が起きないような流速であれば、燃料は拡大下壁面59にのみ沿って流れる。したがって、燃料は、噴孔53の軸線Eに対して角度δだけ下向きに噴射される。
【0091】
一方、図10(c)に示したように、ニードル弁52のリフト量が所定リフト量よりも大きい場合、すなわちノズルボディ2の内壁面55とニードル弁52の先端部の外壁面57との間の幅が広い場合、図10(b)に示した場合に比べて噴孔53の入口54における燃料の流れの方向の移り変わりは急ではないため、噴孔53の入口54において起こる流れの剥離の程度は小さい。このため、燃料の流れが噴孔53の壁面から剥離している距離は短く(図中の剥離線X2参照)、角部60においては燃料の流れは再付着している。このため、燃料は拡大上壁面58に沿って流れる。このとき、燃料の流速が角部60、61において燃料の流れの剥離が起きないような流速であれば、燃料は拡大上壁面58および拡大下壁面59の両方に沿って流れる。したがって、燃料は、噴孔53の軸線Eに対して角度δだけ下向きの方向と角度δだけ上向きの方向との間で全体に亘って噴射される。
【0092】
このように、第六実施形態の燃料噴射弁50では、ニードル弁52のリフト量に応じて、噴孔53からの燃料の噴射形態を変更することができる。
【0093】
ここで、噴孔53の入口面から角部60、61までの長さl4とニードル弁52のリフト量とは互いに関係しており、長さl4を長くすると噴孔53の入口54における流れの剥離が角部60まで続くようなニードル弁52のリフト量が小さくなり、長さl4を短くすると噴孔53の入口54における流れの剥離が角部60まで続くようなニードル弁52のリフト量が大きくなる。したがって、燃料噴射弁50の製造には、このことを考慮して噴孔53の入口面から角部60、61までの長さl4が設定される。
【0094】
なお、第六実施形態の燃料噴射弁50では、噴孔53の入口面から角部60までの長さと角部61までの長さは同一となっているが、これら長さは同一でなくてもよい。また、角部60の角度と角部61の角度とは同一となっているが、これら角度も同一でなくてもよい。例えば、角部61における角度を実用流速範囲において常に燃料の流れが剥離するような角度にすれば、燃料の噴射方向を軸線Eの方向と、拡大上壁面58に沿った方向との間で変更することができる。
【0095】
また、第六実施形態の燃料噴射弁50に、第一実施形態、その変更例および第二実施形態を組み合わせてもよい。
【0096】
なお、本明細書において噴孔からの燃料の噴射方向は一方向に定まるように説明されているが、実際には、全ての燃料が一方向のみに噴射されているわけではなく、燃料の一部はその方向とは異なる方向にも噴射されている。したがって、本明細書中における燃料の噴射方向とは、噴射される燃料全体の平均した流れ方向、または燃料の主流の流れ方向を意味する。
【0097】
【発明の効果】
第1〜第10の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射形態を変更することができ、噴射形態を変更するために各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がないため、従来とは全く異なる簡単な構成で燃料の噴射形態を変更することができる。
【0098】
第3の発明によれば、流れが剥離してその後再付着しなくなり始める噴孔内燃料流速を各角部の角度を適切に設定することで任意に変更することができるため、流れの剥離が起こる噴孔内燃料流速を容易に設定することができる。
【0099】
第5および第6の発明によれば、機関運転状態等に応じて噴射角度を変えることができるため、内燃機関の燃焼状態を最適にすることができる。
【0100】
第7および第8の発明によれば、複数の噴孔が設けられる場合に、各噴孔からの燃料の噴射方向を噴孔毎に異なる方向にすることと統一された方向にすることとを変更することができ、特に狭角噴射または平行噴射と広角噴射とを変更することができる。このため、機関運転状態に応じてこれらを変更すれば内燃機関の燃焼状態を最適にすることができる。
【0101】
第9の発明によれば、燃焼室内にスワールができていない場合でも、燃焼室内にスワールができている場合と同様な効果を得ることができる。
【0102】
第11および第12の発明によれば、ニードル弁のリフト量を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射形態を変更することができ、噴射形態を変更するために各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がないため、従来とは全く異なる簡単な構成で燃料の噴射形態を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料噴射弁の断面側面図である。
【図2】本発明の第一実施形態における燃料噴射弁の先端部の断面側面図である。
【図3】第一実施形態における燃料噴射弁の噴孔を示す図である。
【図4】第一実施形態における燃料噴射弁の噴孔での燃料の流れを示す図である。
【図5】第一実施形態の変更例における燃料噴射弁の噴孔を示す図である。
【図6】燃料の噴射方向を説明するための図である。
【図7】第三実施形態における燃料噴射弁を示す図である。
【図8】第四実施形態における燃料噴射弁の底面図である。
【図9】第五実施形態における燃料噴射弁を示す図である。
【図10】第六実施形態における燃料噴射弁を示す図である。
【符号の説明】
1…燃料噴射弁
2…ノズルボディ
4…ニードル弁
12…サック部
13…噴孔
16…入口
18…出口
30…上側角部
31…下側角部
32…拡大上壁面
33…拡大下壁面
B…軸線
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料噴射弁に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、燃料噴射弁から噴射する燃料の噴射形態を変更することができる燃料噴射弁が知られている。このような燃料噴射弁としては、例えば、ノズルボディの軸線方向に離間されてノズルボディに配置された二つの噴孔群を具備するものが知られている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載の燃料噴射弁では、ノズルボディ内に収容されたニードル弁のリフト量が小さいときにはノズルボディの後端側に配置された噴孔群のみから燃料が噴射され、ニードル弁のリフト量が大きいときにはノズルボディの先端側および後端側に配置された両噴孔群から燃料が噴射される。したがって、この燃料噴射弁では、一方の噴孔群のみからの燃料の噴射と、両噴孔群からの燃料の噴射とに二段階の噴射を、機関運転状態に応じて変更するようにしている。
【0003】
また、上記特許文献1に記載の燃料噴射弁では、後端側の噴孔群と先端側の噴孔群とのノズルボディ軸線に対する角度が異なり、先端側の噴孔群はノズルボディの径方向を向いており、また、後端側の噴孔群は先端側の噴孔群よりもノズルボディの先端側を向いている。したがって、特許文献1の燃料噴射弁によれば、二段階の噴射に応じて、ノズルボディの先端側に向かう燃料の噴射と、ノズルボディの径方向および先端側に向かう燃料が噴射とが変更される。すなわち、この燃料噴射弁では、燃料噴射弁からの燃料の噴射方向をも変更することができる。
【0004】
【特許文献1】
特開平09−49470号公報
【特許文献2】
特開平11−93673号公報
【特許文献3】
特開平11−117833号公報
【特許文献4】
特開平11−117830号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1に記載の燃料噴射弁では、上述したようにリフト量に応じて燃料が通過する噴孔群が選択されるようにするために、ニードル弁の先端部の形状およびノズルボディの先端部に形状が非常に複雑になってしまう。そして、ニードル弁の先端部や、ノズルボディの先端部は非常に小さいため、これらの複雑な形状を形成するためには非常に精密な加工が必要であり、製造コストが高くなってしまっていた。このため、燃料の噴射形態を適切に変更することができる単純な機構の燃料噴射弁が待ち望まれている。
【0006】
そこで、本発明の目的は、従来とは全く異なる簡単な構成で、燃料の噴射形態を変更することができる燃料噴射弁を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の発明では、ニードル弁と、該ニードル弁を収容するノズルボディと、該ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔を具備する燃料噴射弁において、上記噴孔の形状が、該噴孔を流れる燃料の流速を変更(以下、「噴孔内燃料流速」と称す)すると該噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっており、上記噴孔内燃料流速を変更する流速変更手段をさらに具備する。
第1の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射方向、すなわち燃料の噴射形態を変更することができる。すなわち、噴射方向を変更するために、各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がない。なお、噴孔内燃料流速の変更は、例えば、噴孔入口の燃料の圧力を変更することによって、より具体的には、ニードル弁のリフト量を変更することまたは燃料噴射弁に供給される燃料の圧力を変更することによって行われる。
【0008】
第2の発明では、第1の発明において、上記噴孔の壁面は該噴孔出口まで続く第一部分壁面と第二部分壁面とを有し、上記第一部分壁面は、上記噴孔内燃料流速が第一流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着せず且つ第一流速よりも遅いときに燃料の流れの剥離が起きないかまたは燃料の流れの剥離が起きても剥離した流れが再付着するような形状であって、上記噴孔出口近傍において上記噴孔の軸線に対して傾いており、上記第一部分壁面は上記噴孔内燃料流速が上記第一流速よりも遅い第二流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着しないような形状である。
第2の発明によれば、噴孔内燃料流速が第一流速以上の高速である場合には、第一部分壁面および第二部分壁面共に燃料の流れの剥離が起き、剥離した流れがこれら部分壁面に再付着しにくい。このため、燃料は第一部分壁面および第二部分壁面に沿うことなく例えば噴孔の軸線方向に噴射される。噴孔内燃料流速が第一流速と第二流速との間の低速である場合には、第二部分壁面では流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着しにくいが、第一部分壁面では流れの剥離が起きないかまたは流れの剥離が起きても剥離した流れが再付着しやすい。このため、燃料は第一部分壁面に沿って、すなわち噴孔の軸線に対して傾いている噴孔出口近傍の第一部分壁面に沿って噴射される。したがって、噴孔内燃料流速を第一流速近傍で変更することにより、燃料の噴射方向を噴孔の軸線方向と第一部分壁面に沿った方向との間で変更することができる。
さらに、噴孔内燃料流速が第二流速よりも遅い場合には、第一部分壁面および第二部分壁面のいずれにおいても流れの剥離が起きないかまたは流れの剥離が起きても剥離した流れがこれら部分壁面に再付着する。このため、燃料は、第一部分壁面、第二部分壁面に沿って、さらにその中心である噴孔の軸線に沿って噴射される。なお、第一流速は、本発明の燃料噴射弁を使用した際に噴孔を通って流れる燃料がとり得る全ての流速範囲内にないほど遅い流速であってもよい。この場合、本発明の燃料噴射弁を実際に使用した場合には、噴孔での燃料の流れはほとんどいつも第二部分壁面で剥離してその後第二部分壁面に再付着しない。
【0009】
第3の発明では、第2の発明において、上記第一部分壁面は上記噴孔の軸線に対して第一角度で折れ曲がる第一角部を有し、上記第二部分壁面は上記噴孔の軸線に対して第二角度で折れ曲がる第二角部を有し、上記第一角度は上記噴孔内燃料流速が上記第一流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが上記第一部分壁面に再付着せず且つ第一流速よりも遅いときに燃料の流れの剥離が起きないかまたは燃料の流れの剥離が起きても剥離した流れが上記第一部分壁面に再付着するような角度であり、上記第二角度は上記噴孔内燃料流速が第二流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが上記第二部分壁面に再付着しないような角度である。
第3の発明によれば、燃料の流れの剥離は、噴孔内燃料流速に応じて第一角部または第二角部で起こる。そして、剥離した流れが再付着するか否かの分岐点となる噴孔内燃料流速を各角部の角度の設定に応じて任意に変更することができる。
【0010】
第4の発明では、第3の発明において、上記噴孔の軸線方向における上記第二角部の位置は、上記噴孔の軸線方向における上記第一角部の位置と同じであるかまたはそれよりも噴孔の入口側である。
第一角部が第二角部よりも噴孔入口側にある場合、第一流速と第二流速との間の流速の燃料は、第一角部において流れの剥離が起きてその後再付着するかまたは流れの剥離が起こらないことにより第一部分壁面に沿って流れながらも、同時に第二部分壁面の噴孔入口側に位置する壁面部分に沿っても流れる。その後、第二角部において第二部分壁面の噴孔入口側に位置する壁面部分に沿った燃料の流れが剥離してその後第二部分壁面には再付着しないが、このような燃料は第一部分壁面に沿った向きよりも若干噴孔の軸線向きに噴射される。第4の発明によれば、第一流速と第二流速との間の流速の燃料の流れは第二角部において剥離してから第一部分壁面に沿って流れるので、燃料がほぼ第一部分壁面に沿った向きに噴射されるようになる。
【0011】
第5の発明では、第2〜4のいずれか一つの発明において、上記第一部分壁面が上記ノズルボディの軸線方向において上記噴孔の軸線に対して一方の側に位置し、上記第二部分壁面が上記ノズルボディの軸線方向において噴孔の軸線に対して他方の側に位置する。
第5の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、ノズルボディの先端に向かうノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度(以下、単に「噴射角度」と称す)が変わる。
【0012】
第6の発明では、第1〜5のいずれか一つの発明において、上記噴孔は上記ノズルボディの軸線方向とは異なる方向を向いて配置されており、該噴孔内燃料流速を変更すると、上記ノズルボディの先端に向かう該ノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度(噴射角度)が変わるようになっており、機関運転状態が高負荷状態にあるときには上記角度を大きくし、逆に機関運転状態が低負荷状態にあるときには上記角度を小さくするようにした。
機関運転状態が高負荷・高回転にあるときには、ピストンの速度が速く、噴射期間も短い。そこで、第6の発明によれば、この場合噴射角度が大きくされ、これにより燃料がピストンのリップに当たり、燃料が短時間で燃焼室内に拡散するようになる。一方、機関運転状態が低負荷・低回転にあるときには、ピストンの速度が遅く、噴射期間も長い。したがって、燃料の噴射角度を大きくすると燃料がシリンダ壁面に付着してしまう。そこで、第6の発明によれば、この場合噴射角度を小さくされ、これにより燃料がシリンダ壁面に付着することなく燃焼室内で拡散するようになる。
【0013】
第7の発明では、第1〜5のいずれか一つの発明において、複数の噴孔を具備し、全ての噴孔内燃料流速は常にほぼ同一となるように制御され、上記噴孔内燃料流速が少なくとも特定の流速範囲にあるときには、一つまたはそれ以上の噴孔から噴射される燃料の噴射方向であって各噴孔の軸線方向に対する噴射方向が残りの噴孔から噴射される燃料の上記噴射方向とは異なる。
第7の発明によれば、ノズルボディに複数の噴孔が形成されている場合に、噴孔内燃料流速が特定の流速範囲にあるときには、噴孔から噴射される燃料の噴射方向であって各噴孔の軸線方向に対する噴射方向(以下、単に「噴射方向」と称す)を、噴孔毎または幾つかの噴孔毎に異なる方向にすることができる。一方、噴孔内燃料流速が上記特定の流速範囲にないときには、燃料の噴射方向を全ての噴孔において同一の方向とする等、各噴孔からの燃料の噴射方向はどのような方向であってもよい。
なお、「全ての噴孔内燃料流速がほぼ同一」とは、噴孔の位置関係や燃料噴射弁の機能上必要不可欠な構成要素等によって各噴孔内の燃料流速が若干異なってしまっている場合をも含むものとする。
【0014】
第8の発明では、第7の発明において、各噴孔は上記ノズルボディの軸線方向とは異なる方向を向いて配置されており、該噴孔を流れる燃料の流速を変更すると上記ノズルボディの先端に向かう該ノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度が変わるようになっており、全ての噴孔から燃料が上記ノズルボディの先端部周りのほぼ同一の円周上に向かう噴射または噴射角度が全ての噴孔において同一となるような噴射と、各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射とで切替可能である。
第8の発明では、全ての噴孔から燃料がノズルボディの先端部またはその軸線周りのほぼ同一の円周上に向かう噴射(以下、「狭角噴射」と称す)または全ての噴孔からの噴射角度が同一になるような噴射(以下、「平行噴射」と称す)、すなわち、噴射される燃料が拡散せずにピストンのリップ等に集まる噴射と、各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射(以下、「広角噴射」と称す)、すなわち噴射される燃料が燃焼室に拡がるような噴射とを切り替えることができる。
【0015】
第9の発明では、第2〜4のいずれか一つの発明において、上記第一部分壁面が上記ノズルボディの周方向において上記噴孔の軸線に対して一方の側に位置し、上記第二部分壁面が上記ノズルボディの周方向において上記噴孔の軸線に対して他方の側に位置する。
第9の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、ノズルボディ周方向における噴孔の軸線方向に対する噴射方向の角度が変わるようになっている。
【0016】
第10の発明では、第1〜9のいずれか一つの発明において、上記ニードル弁をリフトすることにより噴孔が開弁され、上記流速変更手段は上記ニードル弁のリフト速度を変更することにより各噴射期間中における上記噴射方向の変わり方を変更する。
第10の発明によれば、ニードル弁のリフトを開始してからニードル弁が降ろされるまでの各噴射期間における燃料の噴射方向を時間に応じて変化させることができる。
【0017】
上記課題を解決するために、第11の発明では、ニードル弁と、該ニードル弁を収容するノズルボディと、該ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔を具備し、上記ニードル弁をリフトすることにより上記噴孔が開弁される燃料噴射弁において、上記ニードル弁のリフト量に応じて上記噴孔の入口と上記ニードル弁の先端部との間の幅が変わり、これにより上記噴孔の入口において起こる流れの剥離の程度が変わり、上記噴孔の形状が、上記噴孔の入口において起こる流れの剥離の程度が変わると該噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっており、上記ニードル弁のリフト量を変更するリフト量変更手段をさらに具備する。
このように、第11の発明によれば、リフト量を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射方向、すなわち燃料の噴射形態を変更することができる。すなわち、噴射形態を変更するために各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がない。
【0018】
第12の発明では、第11の発明において、上記噴孔の壁面は該噴孔出口まで続く部分壁面を有し、該部分壁面は、上記ニードル弁のリフト量が所定リフト量以上であるときには上記噴孔の入口で剥離した燃料の流れが上記部分壁面に再付着せず且つ上記ニードル弁のリフト量が所定リフト量よりも小さいときには上記噴孔の入口で剥離した燃料の流れが上記部分壁面に再付着するかまたは噴孔の入口で流れの剥離が起こらないように形成されると共に、上記噴孔の出口近傍において上記噴孔の軸線に対して傾いている。
一般に、ニードル弁のリフト量、すなわち噴孔の入口とニードル弁の先端部との間の幅に応じて、噴孔の入口で起こる燃料の流れの剥離の程度が異なり、ニードル弁のリフト量が小さいときには流れの剥離の程度が大きく、ニードル弁のリフト量が大きいときには流れの剥離の程度が小さい。第12の発明によれば、流れの剥離の程度が一定程度以上に大きいときには噴孔の所定の部分壁面に燃料の流れが再付着することがなく且つ流れの剥離の程度が一定程度よりも小さいときには上記部分壁面に燃料の流れが再付着するかまたは噴孔の入口で流れの剥離が起こらないような噴孔形状とし、且つ所定の部分壁面を燃料の流れが再付着した場合としない場合とで噴孔からの燃料の噴射形態が変わるような形状とされる。このため、ニードル弁を所定リフト量以上にリフトさせた場合と所定リフト量よりも小さくリフトさせた場合とで噴孔からの燃料の噴射形態が変わる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図1および図2を参照して本発明の燃料噴射弁1の実施形態について詳細に説明する。なお、図1は、内燃機関の燃焼室の壁面または内燃機関の燃焼室へと続く吸気ポートの壁面に配置される燃料噴射弁1の概略断面図であり、図2は燃料噴射弁1の先端部を拡大した断面図である。本発明の燃料噴射弁1は、ディーゼル型の圧縮自着火式内燃機関に用いられるが、火花点火式内燃機関等、他の内燃機関に用いられてもよい。
【0020】
図1および図2に示したように、燃料噴射弁1は、内部に中空空間3を有するほぼ円筒状のノズルボディ2と、このノズルボディ2の中空空間3内で摺動(移動)するほぼ円柱形のニードル弁4とを具備する。ノズルボディ2とニードル弁4とはこれらの軸線Aが同軸になるように配置される。ノズルボディ2には中空空間3に通じる供給通路5がさらに設けられる。供給通路5は燃料噴射弁1の外部の燃料供給源(図示せず)に接続され、この供給通路5を介して中空空間3内に高圧の燃料が供給される。供給された燃料はニードル弁4とノズルボディ2の内壁面7との間に設けられた上流側環状流路6を介してノズルボディ2の先端部8へと流れる。
【0021】
ノズルボディ2の先端部8は円錐状であり、この先端部8内には円錐状の中空空間(以下、「先端中空空間」と称す)9が設けられる。この先端中空空間9はノズルボディ2の中空空間3と連通しており、先端中空空間9を画成するノズルボディ2の先端部8の内壁面10はニードル弁4の先端部11と接触可能である。さらに、先端中空空間9の先端には円柱状の空間(以下、「サック部」と称す)12が設けられる。
【0022】
また、この先端部8には少なくとも一つ(本実施形態では八つ)の噴孔13が設けられる。噴孔13は、ノズルボディ2の周方向において等間隔に配置され、サック部12を画成するノズルボディ2の先端部8の内壁面14上に設けられた入口16と先端部8の外壁面17上に設けられた出口18との間で貫通し、ノズルボディ2の中空空間3、9とノズルボディ2の外部との間をつなぐ。したがって、噴孔13を介して、中空空間3、9内の高圧の燃料を噴孔13の出口18からノズルボディ2の外部へと噴射することができる。なお、噴孔13は、先端中空空間9を画成する内壁面10上に設けられた入口と外壁面17上に設けられた出口とを貫通するように形成されてもよい。
【0023】
ニードル弁4は中空空間3、9内で摺動して、ニードル弁4の先端部11が先端中空空間9を画成する内壁面10と接触したり離れたりすることにより、噴孔9の入口16を閉じたり開いたりすることができる。すなわち、図2に示したような、ニードル弁4の先端部11と先端中空空間9を画成する内壁面10との間に下流側環状流路19が形成されるような位置(以下、「噴孔開放位置」と称す)にニードル弁4があるときには、噴孔13が開かれ、この下流側環状流路19および噴孔13を介して中空空間3、9内の燃料が噴孔13の出口18から噴射される。一方、ニードル弁4の先端部11と先端中空空間9を画成する内壁面10とが接触するような位置(以下、「噴孔閉鎖位置」と称す)にニードル弁4があるときには、これらの間に下流側環状流路19が形成されず、ニードル弁4によって噴孔13が閉じられ、よって中空空間3、9内の燃料は噴射されない。ニードル弁4は、ソレノイドまたはピエゾ素子等の弁駆動手段(図示せず)によってノズルボディ2に対して摺動せしめられる。
【0024】
次に、図3を参照して噴孔13の形状について説明する。図3(a)は噴孔13の近傍を拡大した図2と同様な断面図であり、図3(b)および(c)は図3(a)中の矢印III−IIIに沿って見たノズルボディ2の先端部8の外周の図である。なお、以下の説明において、「上」とは、ノズルボディ2の軸線方向であってノズルボディ2の先端に向かう方向とは反対方向を意味し、「下」とは、ノズルボディ2の軸線方向であってノズルボディ2の先端に向かう方向を意味する。また、「横」とは、ノズルボディ2の周方向を意味する。
【0025】
図3に示したように、噴孔13は、その入口16から地点aまでほぼ円柱状であり、したがってその断面積はほぼ変わらない。そして、地点aにおける角部30から出口18まで噴孔13の上側の部分壁面(以下、「拡大上壁面」と称す)32が噴孔13の軸線Bに対して角度αでこの軸線Bから離れるように直線的に延びる。また、地点bにおける角部31から出口18まで噴孔13の下側の部分壁面(以下、「拡大下壁面」と称す)33が噴孔の軸線Bに対して角度βでこの軸線Bから離れるように直線的に延びる。すなわち、噴孔13の上壁面は地点aにおいて軸線Bに対して角度αで非連続的に折れ曲がり、噴孔13の下壁面は地点bにおいて噴孔Bに対して角度βで非連続的に折れ曲がる。特に、本実施形態の燃料噴射弁1では、図3(b)に示したように、入口近傍における噴孔13の半円筒状の上壁面が地点aから角度αで同じ半円筒状のまま出口に向かって広がり、入口近傍における噴孔13の半円筒状の下壁面が地点bから角度βで同じ半円筒状のまま出口に向かって広がっている。なお、噴孔13の上壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線Bの直上に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味する。同様に、噴孔13の下壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線Bの直下に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味する。
【0026】
ここで、地点a、bはそれぞれ噴孔13の軸線方向における位置である。地点aは噴孔13の出口面(噴孔13の出口18であってノズルボディ2の外壁面17と同一平面上に位置する面)からの長さがl1であり、地点bは噴孔13の出口面からの長さがl2である。長さl1は長さl2よりも長く、したがって、角部31は角部30よりも噴孔13の入口16側に位置する。
【0027】
次に、図4を参照して、上述したような形状の噴孔13内における燃料の流れおよびこの噴孔13からの燃料の噴射について説明する。ここで、図4(a)および(b)は、図3(a)と同様な拡大断面図である。まず、噴孔13内を流れる燃料の流速(以下、「噴孔内燃料流速」と称す)が速い(すなわち、噴孔13を流れる燃料の流量が多い)場合、図4(a)に示したように、燃料の流れは、地点aを通過するときに角部30において剥離し、角部30よりも出口側において噴孔13の拡大上壁面32に再付着することなく流れる。またこの場合、燃料の流れは、地点bを通過するときにも角部31において剥離し、角部31よりも下流側において噴孔13の拡大下壁面33に再付着することなく流れる。この結果、噴孔内燃料流速が速い場合には、燃料は、噴孔13から噴孔13の軸線方向に噴射される。
【0028】
噴孔内燃料流速が遅い(すなわち、噴孔13を流れる燃料の流量が少ない)場合、図4(b)に示したように、燃料の流れは、地点aを通過するときに角部30において剥離し、角部30よりも下流側において噴孔13の拡大上壁面32に再付着することなく流れる。しかしながら、この場合、燃料の流れは、地点bを通過するときには角部31において剥離しないか、または角部31において剥離しても拡大下壁面32に再付着する。よって、図4(b)に示したように角部31よりも出口側において噴孔13の拡大下壁面32に沿って流れる。この結果、噴孔内燃料流速が遅い場合には、燃料は噴孔13から噴孔13の軸線方向よりも下向きに噴射される。
【0029】
ここで、噴孔内燃料流速と、噴孔13から噴射される燃料の噴射方向との関係は、角部30、31における角度α、βに応じて変更される。例えば、角部31における角度βを大きくすると、噴孔13内の燃料の流れは角部31において剥離し易く且つ剥離後に再付着しにくくなる。よって燃料の流れは、その流速が非常に遅くないと角部31において剥離すると共にその後拡大下壁面33に再付着しない。逆に、角部31における角度βを小さくすると、噴孔13内の燃料の流れは角部31において剥離しにくく且つ剥離後に再付着し易くなる。よって燃料の流れは、その流速が比較的速くても角部31において剥離しないかまたは剥離しても拡大下壁面33に再付着し、角部31より出口側において噴孔13の拡大下壁面33に沿って流れる。
【0030】
本実施形態では、角部30における角度αは、燃料噴射弁1を実際に使用した際に噴孔13を通って流れる燃料がとり得る全ての流速範囲(以下、「実用流速範囲」と称す)において、角部30において燃料の流れが剥離し且つその後再付着しないような角度に設定される。また、角部31における角度βは、噴孔内燃料流速が実用流速範囲内の所定の第一流速V1であるときに角部31において剥離した燃料の流れが再付着しなくなり始めるような角度に設定される。この場合、噴孔内燃料流速が第一流速V1よりも速い所定流速以上であるときに、角部31において燃料の流れが完全に剥離する。
【0031】
したがって、本実施形態の燃料噴射弁1によれば、噴孔内燃料流速が第一流速V1よりも遅いときには、燃料は噴孔13の軸線Bに対して角度βだけ下向き(以下、「最下向き」と称す)に噴射され、噴孔内燃料流速が上記第一流速V1よりも速い所定流速以上であるときには、燃料は噴孔13の軸線Bに沿った向き(以下、「軸線向き」と称す)に噴射される。
【0032】
このように、本発明の燃料噴射弁1によれば、噴孔内燃料流速を変更することで、噴孔13から噴射される燃料の噴射方向を変更することができる。
【0033】
また、本実施形態の噴孔13では、図3(b)に示したように、拡大上壁面32および拡大下壁面33は、入口近傍における噴孔13の上方向および下方向にのみ広がっており、横方向には広がっていない。したがって、拡大上壁面32および拡大下壁面33が広がっているにも関わらず、噴孔13の出口18の断面積は比較的狭い。噴孔13の出口18の断面積が広いと、噴孔13内に炭化水素等のデポジットが付着し易く、噴孔13を流れる燃料の流れが悪化してしまうが、上述したように本実施形態の噴孔13では出口18における断面積が狭いため、このようなデポジットの付着が抑制される。
【0034】
また、図3(c)に示したように、拡大上壁面32および拡大下壁面33が放射状に広がるような形状である場合、燃料が噴孔13の拡大下壁面33に沿って噴射されるときに、拡大下壁面33全体に亘って噴射される。このため、図3(c)に矢印で示したように、噴孔13の軸線に対して下方向のみならず、斜め下方向や、横方向に近い方向にも噴射される。したがって、この場合、噴射された燃料全体が向かう方向を巨視的に見ると、噴孔13の軸線Bに対して角度βよりも小さい角度で噴射されることになる。これに対して、本実施形態の場合では、図3(b)に矢印で示したように、噴孔13から噴射される燃料全体が噴孔13の軸線Bに対して角度βだけ下向きに噴射される。このため、本実施形態のように噴孔13の出口を拡げた場合の方が、噴孔内燃料流速を変更したときに、より効果的に噴孔13からの燃料の噴射方向を変更することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では、角部30における角度αは、実用流速範囲において常に角部30において燃料の流れが剥離してその後再付着しないような角度に設定されているが、噴孔内燃料流速が実用流速範囲内の所定の第一流速V1よりも遅い所定の第二流速V2にあるときに角部30において燃料の流れが剥離してその後再付着しなくなり始めるような角度に設定されてもよい。この場合、噴孔内燃料流速が第一流速V1以上であるときには上記実施形態と同様であるが、噴孔内燃料流速が第一流速V1よりも遅く且つ第二流速V2よりも速いときには燃料は噴孔13の軸線Bに対して角度βだけ下向き(最下向き)に噴射され、噴孔内燃料流速が第二流速V2よりも遅いときには燃料は噴孔13の軸線Bに対して角度αだけ上向きの方向から角度βだけ下向きの方向までの範囲内のほぼ全体に亘って噴射される。このような範囲内全体に亘って燃料が噴射されるのは、燃料が噴孔13の拡大上壁面32および拡大下壁面33の両方に沿って流れ、噴射されることによる。
【0036】
また、拡大上壁面32は上記実施形態のように半円筒状でなくてもよく、少なくとも噴孔13の軸線Bの直上に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面が地点aから噴孔13の軸線Bに対して角度αで延びていればよい。同様に、拡大下壁面33も上記実施形態のように半円筒状でなくてもよく、少なくとも噴孔13の軸線Bの直下に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面が地点bから噴孔13の軸線Bに対して角度βで延びていればよい。
【0037】
したがって、例えば、図3(c)に示したように、拡大上壁面32および拡大下壁面33が放射状に広がるような形状であってもよい。噴孔13をこのように形成するには、ノズルボディ2にドリルで円柱状の孔を形成した後に、円錐状のドリルで既に形成された孔の入口近傍を削ればよいため、噴孔13の形成するのが容易になる。
【0038】
次に、第一実施形態における噴孔内燃料流速の変更方法(以下、「流速変更方法」と称す)について説明する。噴孔内燃料流速の変更は、基本的に、噴孔13から噴射される燃料の圧力、すなわち噴孔13の入口16近傍における燃料の圧力(以下、「噴射圧力」と称す)を調整することによって行われる。すなわち、噴射圧力を高くすれば噴孔内燃料流速が速くなり、噴射圧力を低くすれば噴孔内燃料流速が遅くなる。この噴射圧力を調整する方法としては、大きく二つに分けられる。一つの方法としては、例えば、コモンレール(図示せず)等により燃料噴射弁1に供給する燃料の圧力(以下、「供給燃料圧力」と称す)、すなわち上流側環状流路6内の燃料の圧力を変更する方法が挙げられる。供給燃料圧力を高くすれば、噴射圧力も高くなり、よって噴孔内燃料流速が速くなり、供給燃料圧力を低くすれば、噴射圧力も低くなり、よって噴孔内燃料流速が遅くなる。
【0039】
もう一つの方法としては、ニードル弁4のリフト量を変更する方法が上げられる。例えば、ニードル弁4のリフト量が少ない場合、すなわちニードル弁4が小さくリフトされている場合には、ノズルボディ2の先端部8の内壁面10とニードル弁4の先端部11との間には狭い環状流路しか形成されない。このため、噴孔13から燃料を噴射することで低下したサック部12内の燃料の圧力を補うだけの燃料が上流側環状流路6からサック部12に流れず、燃料の噴射圧力が低下し、その結果、噴孔内燃料流速が遅くなる。一方、ニードル弁4のリフト量が多い場合には、ノズルボディ2の先端部8の内壁面10とニードル弁4の先端部11との間には広い環状流路が形成される。このため、サック部12内の燃料の圧力を上流側環状流路6における燃料の圧力とほぼ同一に維持することができるので、噴孔内燃料流速が速くなる。
【0040】
次に、図5を参照して、本発明の第一実施形態の燃料噴射弁1の変更例について説明する。なお、図5(a)および(b)は、各変更例の燃料噴射弁の図3(a)と同様な拡大断面図である。図5(a)に示した変更例では、噴孔13の形状は基本的に第一実施形態の噴孔と同形状であるが、角部30における角度αがほぼ直角となっており、噴孔13が地点aにおいてステップ状に広がっている。この場合も、上記第一実施形態と同様に、角部30では実用流速範囲において角部30で燃料の流れが剥離してその後再付着しない。したがって、本変更例では、第一実施形態と同様に、角部31における角度βと噴孔内燃料流速とに応じて、軸線向きまたは最下向きに噴孔13から燃料を噴射することができる。
【0041】
なお、本変更例では、噴孔13が地点aにおいて深さl3だけステップ状に広がるように拡大上壁面32が形成されている。この深さl3が小さすぎると、噴孔内燃料流速によっては、一旦角部30で剥離した燃料の流れが拡大上壁面32上に再付着して拡大上壁面32に沿って流れて、そのまま噴孔13から噴射されたり、あるいは角部30から拡大上壁面32の出口縁部に向かって噴孔13の軸線Bに対して所定の角度で流れて、そのままの角度で噴孔13から噴射されたりする(以下、これらをまとめて「拡大上壁面32に沿う等して流れる」と称す)ことがある。このため、角部30における角度αをほぼ直角とした場合に、噴孔13を流れる燃料の流れが拡大上壁面32に沿う等して流れることのないように角部30において流れを剥離させるためには、地点aにおける深さl3を所定深さ以上の適切な値に設定する必要がある。
【0042】
なお、逆に考えると、ステップ状に広がる深さl3の設定如何によっては、角度αを直角に設定しても、噴孔内燃料流速に応じて、燃料が拡大上壁面32に沿う等して流れないようにすることと、燃料が拡大上壁面32に沿う等して流れることとを変更することができる。したがって、角部31における角度βをほぼ直角にして拡大下壁面33を地点bにおいてステップ状に広がるように形成し、このときの地点bにおいてステップ状に広がる深さを噴孔内燃料流速が所定の流速V1であるときに燃料が拡大下壁面32に沿う等して流れ始めるような深さに設定してもよい。
【0043】
また、図5(b)に示した別の変更例では、噴孔13の形状は基本的に第一実施形態の噴孔と同形状であるが、噴孔13の出口面と地点aとの間の長さl1が噴孔13の出口面と地点bとの間の長さl2よりも短くなっている。したがって、この場合、噴孔内燃料流速が角部31において燃料の流れの剥離が起こらないかまたは燃料の流れが剥離してもその後再付着するような流速であるとき、噴孔13を流れる燃料は、地点bから地点aまでの間、拡大下壁面33に沿って流れながらも噴孔13の軸線Bに平行な噴孔13の上壁面に沿って流れる。その後、噴孔13の軸線Bに平行な噴孔13の上壁面に沿って流れていた燃料の流れは、地点aにおいて角部30で剥離し、噴孔13の軸線Bに沿って噴射されたり、拡大下壁面33に沿って流れて噴射される主流の燃料の影響を受けて噴孔13の軸線Bよりも僅かに下向きに噴射されたりする。
【0044】
結果として、図5(b)に示した変更例では、噴孔内燃料流速が、角部30において燃料の流れが剥離してその後再付着しないような流速であって、角部31において燃料の流れの剥離が起こらないかまたは燃料の流れが剥離してもその後再付着するような流速であるとき、燃料は、上記第一実施形態において噴射が行われる噴孔13の軸線Bに対して下向きに角度βの方向よりも若干上向きな方向であって、噴孔13の軸線Bよりも下向きな方向に噴射される。したがって、図5(b)のように噴孔13を形成しても、噴射方向を変更できるという本発明の効果を得られる。
【0045】
上記二つの変更例を考慮すると、噴孔内燃料流速に応じて、噴孔13からの燃料の噴射方向を変更するためには、角部30から出口18まで続く拡大上壁面32を、噴孔内燃料流速が第二流速V2以上であるときに、角部30で流れの剥離が起きて剥離した燃料の流れが拡大上壁面32に再付着せず、よって拡大上壁面32に沿う等することのないように形成する。さらに、角部31から出口18まで続く拡大下壁面33を、噴孔内燃料流速が第一流速V1以上であるときに、角部31で剥離が起きて剥離した燃料の流れが再付着せず且つ拡大下壁面33に沿う等することのないような形状であって、噴孔内燃料流速が第一流速V1より遅いときに、燃料が拡大下壁面33に沿う等して流れるような形状であればよい。この場合、角部30と噴孔13の出口面との間の長さと、角部31と噴孔13の出口面との間の長さはどちらが長くてもよい。また、拡大下壁面33は、少なくとも噴孔13の出口近傍において、噴孔13の軸線Bに対して所定の角度で傾いているのが好ましい。
【0046】
また、上記実施形態では、拡大上壁面32および拡大下壁面33は共にほぼ直線的に延びているが、それぞれ角部30、31よりも出口側で噴孔13が広がるように連続的に湾曲していてもよい。このように湾曲させることにより、角部30、31において剥離が起きて再付着しない場合の噴射方向と、剥離が起きない場合または剥離が起きても再付着する場合の噴射方向とを大きく変えることができるようになる。
【0047】
次に、第一実施形態および第一実施形態の変更例における燃料の噴射方向の変更制御について説明する。本実施形態の燃料噴射弁1では、上述したように、燃料は、噴孔内燃料流速に応じて、軸線向きまたは最下向きのいずれかの方向に噴射される。見方を変えると、本実施形態の燃料噴射弁1では、下向きのノズルボディ2の軸線方向に対する噴射方向の角度(以下、「噴射角度」と称す)が大きい噴射と、噴射角度の小さい噴射とのいずれかの噴射が行われる。
【0048】
ところで、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、内燃機関の各運転行程は短い。このため、燃料噴射弁1から燃料を噴射することができる時間も短く、さらに、燃料噴射弁1から噴射した燃料は拡散しにくい。したがって、この場合、図6に示したようにピストンPのリップLに燃料を当てて、燃料をそのリップLの周辺に飛び散らせることによって燃料を拡散させるのが好ましい。そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、噴射角度が大きいときの燃料噴射弁1からの燃料噴射方向を、噴孔13の出口18からピストンPが上死点近傍にあるときのリップLに向かう方向に設定し、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、噴射角度の大きい噴射を行う。こうすることで、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、燃料を確実にリップLに当て、燃料を燃焼室内に拡散させることができるようになる。
【0049】
一方、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には、内燃機関の各運転行程の時間は長い。このため、燃料噴射弁1から燃料を噴射することができる時間は長い。また、この場合、噴射角度が大きい噴射を行うと、燃焼室内での燃料の燃焼が開始される前に燃料がシリンダSの壁面に到達してしまい、よって、燃料は燃焼室内で気化せずに液体状態でシリンダSの壁面に付着してしまう。このように、燃料がシリンダSの壁面に付着してしまうと、燃焼が適切に行われず、また、燃費の悪化や内燃機関内の潤滑油の劣化等をまねいてしまう。そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には、噴射角度の小さい噴射を行う。これにより、噴射された燃料がシリンダSの壁面に付着することが防止されると同時に、燃焼室内での燃焼が開始されるかなり前から燃料が噴射されるため燃料が燃焼室内でより混合し易くなる。
【0050】
また、ディーゼル型の圧縮自着火式内燃機関では、ピストンPが圧縮上死点付近にあるときに行われる主噴射の他に、この主噴射の前に噴射(以下、「早期噴射」と称す)が行われたり、主噴射の後に噴射(以下、「ポスト噴射」と称す)が行われたりする。早期噴射は、例えば、この噴射による燃料を着火源としてその後の主噴射で速やかに着火燃焼が起こるようにするために行われる。ポスト噴射は、例えば、燃焼室から排出される排気ガス中に未燃の燃料を含有させることにより、排気ガスの空燃比(燃焼室に供給される燃料と空気との比率)を強制的にほぼ理論空燃比またはリッチにしたり、排気浄化触媒上で未燃の燃料を燃焼させて排気浄化触媒を昇温したりするために行われる。
【0051】
このような早期噴射またはポスト噴射においても、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合と同様に、噴射された燃焼がシリンダSの壁面に付着し易い。そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、早期噴射またはポスト噴射は、噴射角度の小さい噴射によって行われる。
【0052】
なお、上記実施形態の噴射方向変更制御においては、内燃機関の回転数に応じて燃料噴射弁1からの燃料噴射方向を決めるようにしていたが、回転数には無関係に常に噴射角度の大きい噴射のみを行い、早期噴射またはポスト噴射の場合にのみ噴射角度の小さい噴射を行ってもよい。また、回転数には無関係に常に噴射角度の大きい噴射のみを行っている場合でも、内燃機関の冷間始動時(すなわち、内燃機関の冷間始動後所定期間)のみ噴射角度の小さい噴射を行うようにしてもよい。これは、内燃機関の冷間始動時には燃焼室内の温度が低くて燃料が気化しにくく、よって燃料噴射弁から噴射された燃料は気化されずにシリンダSの壁面に付着し易くなっており、このため噴射角度の大きい噴射を行うと、燃料がシリンダSの壁面に付着してしまう可能性が高いことによる。
【0053】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。上記実施形態において、噴孔13からの燃料の噴射方向は、軸線向きと最下向きとの二方向とされている。しかしながら、実際には、角部31において起こる流れの剥離の程度に応じて、燃料の噴射方向は、最下向きと、噴孔13の軸線向きとの間で連続的に変更可能である。したがって、例えば、噴孔内燃料流速を第一流速V1から徐々に速くしていくと、噴孔13からの燃料の噴射方向は最下向きから徐々に軸線向きの方向へと移り変わっていき、逆に噴孔内燃料流速を徐々に遅くしていくと、噴孔13からの燃料の噴射方向は軸線向きから徐々に最下向きの方向へと移り変わっていく。
【0054】
そこで、本発明の第二実施形態では、噴孔内燃料流速を一回の噴射期間中に徐々に連続的に速くさせて、各噴射期間中に燃料の噴射方向を徐々に上向きにさせる。例えば、一回の噴射期間の開始時には噴孔内燃料流速を燃料の噴射方向が最下向きになるような流速にし、そこから噴射期間の終了直前までの間の少なくとも一部期間中に徐々に噴孔内流速を速くさせ、噴射期間の終了直前には噴孔内流速を噴射方向が軸線向きになるような流速にする。
【0055】
次に、第二実施形態における流速変更方法について説明する。第一実施形態において説明したように、噴孔内燃料流速を変更する方法は二つあるが、このうち燃料噴射弁1への供給燃料圧力を変更する方法では、一回の噴射期間中に噴射圧力、および噴孔内燃料流速を変化させるのは困難である。そのため、第二実施形態における流速変更方法では、ニードル弁4のリフト量を変更することで一回の噴射期間中に噴孔内燃料流速を変化させる。
【0056】
すなわち、例えば、一回の噴射期間の開始時には燃料の噴射方向が最下向きになる噴射圧力および噴孔内燃料流速となるようなリフト量(以下、「低リフト量」と称す)とし、そこから噴射期間の終了直前までの間の少なくとも一部期間中に徐々にニードル弁4をリフトさせ、噴射期間の終了直前には燃料の噴射方向が軸線向きになる噴射圧力および噴孔内燃料流速となるようなリフト量(以下、「高リフト量」と称す)にする。このとき、燃料の噴射方向が最下向きの状態から軸線向きに変化させるまでにかかる時間(以下、「変化時間」と称す)は、ニードル弁4をリフトする速度(以下、「リフト速度」と称す)に応じて変化する。すなわち、リフト速度が速ければ変化時間は短くなり、リフト速度が遅ければ変化時間は短くなる。
【0057】
次に、第二実施形態における燃料の噴射方向の変更制御について説明する。ところで、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合等には、上述したようにピストンPのリップLに燃料を当てて燃料を燃焼室内に拡散させるのが好ましい。ところが、ピストンPは常に移動しているため、燃料噴射弁から同一の噴射方向に燃料を噴射すると、ピストンPに位置によっては燃料はピストンPのリップLに当たらない。このようにリップLに当たらなかった燃料は、燃焼室内で拡散しにくく、これにより燃焼状態が悪化してしまうことが考えられる。
【0058】
そこで、本実施形態の噴射方向変更制御では、燃料噴射弁1からの燃料の噴射方向が、噴射された燃料が常にピストンPのリップLに向かうような方向とされる。したがって、ニードル弁4は、ピストンPが燃料噴射弁1から離れて位置する噴射期間の初期には燃料の噴射方向が下向きとなっており、ピストンPの上死点への移動に伴って噴射方向が徐々に軸線向きへと変化し、ピストンPが上死点付近にあるときには噴射方向が軸線向きとなるように、一定のリフト速度でリフトされる。各噴射期間におけるニードル弁4のリフト速度は、ピストンPの移動速度、あるいは機関回転数に応じて変更される。
【0059】
このように、燃料噴射弁1から噴射される燃料を常にピストンPのリップLに当てるようにすることにより、燃焼室内において燃料を最適に拡散させ且つ良好に燃焼させることができるようになる。
【0060】
なお、上記実施形態では、噴射期間の開始から終了直前までの間の少なくとも一部期間中に一定のニードル速度でニードル弁をリフトさせることで、燃料の噴射方向を連続的に変化させているが、リフト中のニードル弁のリフト速度を変更することにより各噴射期間中における上記噴射方向の変わり方を変更する如何なる制御を行ってもよい。すなわち、一回の噴射期間中に噴孔内燃料流速を変化させて、噴孔13からの燃料の噴射方向を変化させれば如何なる制御を行ってもよい。例えば、ニードル速度を一定にせずにニードル弁4のリフト中に速くしたり遅くしたりしてもよいし、ニードル弁4のリフト中に一旦ニードル弁4のリフトを停止してもよい。また、噴射期間中にニードル弁を一定のリフト速度でまたはリフト速度を変化させつつリフトさせるだけでなく、一定の降ろし速度(ニードル弁を降ろす(噴孔を閉じる方向に移動させる)速度)でまたは降ろし速度を変化させつつニードル弁を降ろすようにしてもよい。
【0061】
また、一回の噴射期間におけるニードル弁のリフト量をステップ的に変化させて、すなわち、噴孔内燃料流速をステップ的に変化させて、燃料の噴射方向を段階的に変更してもよい。さらに、第二実施形態の燃料噴射弁1の形状は、第一実施形態およびその変更例として示した如何なる形状であってもよい。また、第二実施形態における噴射方向変更制御は、第一実施形態における噴射方向変更制御と組み合わせてもよい。その場合、例えば、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には第二実施形態の噴射方向変更制御を行い、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には最下向きに燃料を噴射するようにすることが考えられる。
【0062】
次に、図7を参照して本発明の第三実施形態の燃料噴射弁1’について説明する。ここで、図7(a)は、第三実施形態の燃料噴射弁1’を図2のラインVII−VIIから見た断面図であり、図7(b)は、燃料噴射弁1’から噴射される燃料の様子を示す拡大概略図である。第二実施形態の燃料噴射弁1’は基本的に第一実施形態の燃料噴射弁1と同様な構成であるが、第一実施形態では燃料の噴射方向を上下方向に変更することができるのに対して、第二実施形態の燃料噴射弁1’では燃料の噴射方向を横方向に変更することができる。また、第三実施形態の燃料噴射弁1’は、燃焼室内に生成されるスワールが弱い内燃機関に用いられる。以下の説明では、噴孔13の左壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線B’の一方の側(以下、「左側」と称す)の真横に位置する噴孔13の壁面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味し、噴孔13の右壁面とは、少なくとも噴孔13の軸線B’の他方の側(以下、「右側」と称す)の真横に位置する噴孔13の平面上の直線を含む噴孔13の部分壁面を意味する。なお、本発明を実施するにあたり、右壁面と左壁面とが逆に配置されてもよい。
【0063】
図7(a)に示したように、第二実施形態の燃料噴射弁1’では、地点aにおける角部30’から出口18’まで噴孔13’の左壁面(以下、「拡大左壁面」と称す)が噴孔13の軸線B’に対して角度αでこの軸線B’から離れるように直線的に延びる。また、地点bにおける角部31’から出口18’まで噴孔13’の右壁面(以下、「拡大右壁面」と称す)が噴孔13の軸線B’に対して角度βでこの軸線B’から離れるように直線的に延びる。角部30’における角度αは、実用流速範囲において常に角部30’で流れが剥離してその後再付着しないような角度に設定される。また、角部31’における角度βは、噴孔内燃料流速が実用流速範囲内の所定の流速V1であるときに角部31’において燃料の流れが剥離してその後再付着しなくなり始めるような角度に設定される。
【0064】
次に、上述したような形状で形成された噴孔13’内における燃料の流れおよびこの噴孔13からの燃料の噴射について説明する。噴孔内燃料流速が上記所定の流速V1よりも速い所定流速以上である場合には、角部30’および角部31’において燃料の流れが剥離してその後再付着せず、よって燃料は噴孔13の軸線方向に噴射される。噴孔内燃料流速が所定の流速V1よりも遅い場合には、角部30’において燃料の流れが剥離してその後再付着せず、角部31’において燃料の流れが剥離しないかまたは剥離してもその後再付着し、よって燃料は拡大右壁面33’に沿って流れ、軸線B’よりも右向きに噴射される。燃料の噴射方向の軸線B’からの角度は、噴孔内燃料流速から所定の流速V1を減算した流速の差に応じて変わり、噴孔内燃料流速が速くなるほど、軸線B’からの角度が小さくなる。
【0065】
本実施形態では、上述した第二実施形態と同様に、一回の噴射期間においてニードル弁4’を徐々に上昇させることにより、噴孔13’からの燃料の噴射方向が連続的に変更される。以下では、図7(b)を参照して、各噴射期間における燃料の噴射の様子を説明する。なお、図7(b)は、ニードル弁4’が低リフト量から高リフト量まで徐々にリフトされたときに、噴孔13’から噴射された燃料の様子を示す。
【0066】
各噴射期間においては、まず、ニードル弁4’はリフト量がほぼ零の位置から低リフト位置へと迅速に移動せしめられる。ニードル弁4’が低リフト位置にあるときには、燃料は、噴孔13’の軸線B’よりも角度βだけ右向きに噴射される(図7(b)中のf1)。次いで、ニードル弁4’が低リフト位置から高リフト位置へと徐々にリフトされるにつれて、燃料の噴射方向が徐々に左向きにになっていく(図7(b)中のf2、f3)。そして、ニードル弁4’が高リフト位置までリフトされると、燃料は噴孔13’の軸線方向とほぼ同一の方向に噴射される(図7(b)中のf3)。
【0067】
このように、燃料噴射弁1’からの燃料の噴射方向が徐々に横方向にずれると、例えば燃焼室内にスワールが生成されている場合と同様に、燃料が拡散して燃焼室内全体に広く行き渡るようになる。
【0068】
次に、第三実施形態における燃料の噴射方向の変更制御について説明する。一般に、多くの内燃機関においては、機関運転状態が低負荷・低回転であるときにはスワール比を大きくすることで、燃料と空気とが十分に混合するようにしており、機関運転状態が高負荷・高回転であるときにはスワール比を小さくすることで、燃焼初期に関与する予混合燃焼量を低減させて排気ガス中に含まれるNOxを低減させるようにしている。ここで、本実施形態の燃料噴射弁13’によれば、上述したように燃料の噴射方向を変化させることで燃焼室内にスワールを発生させるのと同様の効果を得ることができる。そこで、第三実施形態の噴射方向変更制御では、機関運転状態が低負荷・低回転であるときには、上述したように各噴射期間中にニードル弁4’を徐々にリフトさせて燃料の噴射方向を徐々に変化させ、スワール比を大きくした場合と同様な効果を得ようにする。一方、機関運転状態が高負荷・高回転であるときには、ニードル弁4’を迅速にリフトさせて、スワール比を小さくした場合と同様な効果を得るようにする。
【0069】
これにより、第三実施形態の燃料噴射弁1’によれば、スワール比を変化させることができる可変スワール装置(例えば、スワールコントロールバルブ)を設けることなく、スワール比を変化させるのと同様な効果を得ることができる。
【0070】
なお、上記第三実施形態では、燃焼室内の混合気に発生する実際のスワールが非常に弱い(スワール比が非常に小さい)か、または実際のスワールがほとんど発生していない内燃機関に用いられるが、実際のスワールが強い(スワール比が大きい)内燃機関に用いてもよい。この場合、燃料噴射弁1’からの燃料の噴射方向は実際のスワールを打ち消すように(すなわち、燃料の噴射方向が実際のスワールの向きと同一方向に徐々に移り変わるように)変化させる。そして、機関運転状態が高負荷・高回転であるときには、各噴射期間中にニードル弁4’を徐々にリフトさせて燃料の噴射方向を徐々に変化させ、実際のスワールを打ち消すようにする。機関運転状態が低負荷・低回転のときには、ニードル弁4’を迅速にリフトさせて、実際のスワールにより燃焼が最適に混合するようにする。
【0071】
また、第三実施形態の燃料噴射弁1’は、第一実施形態の燃料噴射弁のように二段階に分けて、または多段階に分けて燃料を噴射するようにしてもよい。さらに、第三実施形態の燃料噴射弁の形状は、第一実施形態およびその変更例と同様な形状であって、第一実施形態およびその変更例で上下向きになっているものを横向きにした形状であってもよい。
【0072】
次に、図8を参照して、本発明の第四実施形態の燃料噴射弁35について説明する。ここで、図8は、燃料噴射弁35をその先端側から見た底面図である。第四実施形態の燃料噴射弁35の構成は、基本的に第一実施形態の燃料噴射弁1の構成と同様である。しかしながら、第四実施形態の燃料噴射弁35は、噴孔の軸線に対する拡大上壁面および拡大下壁面の角度が第一実施形態の拡大上壁面32および拡大下壁面33の角度と同様である下向き噴孔36と、第一実施形態の拡大上壁面32および拡大下壁面33の角度と互いに反対である上向き噴孔37とが交互に設けられている。
【0073】
すなわち、下向き噴孔36においては、噴孔の軸線Bに対する拡大上壁面の角度が角度αであり、拡大下壁面の角度が角度βであるのに対し、上向き噴孔37においては、噴孔の軸線Bに対する拡大上壁面の角度が角度βであり、拡大下壁面の角度が角度αである。また、各噴孔36、37はノズルボディ2の同一円周上に設けられており、全ての噴孔36、37において噴孔内燃料流速はほぼ同一とされる。さらに、各噴孔36、37は、その軸線Bがノズルボディの軸線を中心に放射状に且つその軸線Bが下向きのノズルボディの軸線に対する角度(噴射角度)が全ての噴孔36、37で等しくなるように配置される。
【0074】
したがって、第四実施形態の燃料噴射弁35では、噴孔内燃料流速が速いときには、各噴孔36、37から噴射される燃料の噴射方向は、各噴孔36、37の軸線Bとほぼ同一の方向である。すなわち、この場合、各噴孔36、37からの燃料の噴射角度は、全ての噴孔36、37においてほぼ同一となっている。
【0075】
一方、噴孔内燃料流速が遅いときには、各噴孔36、37から噴射される燃料の噴射方向は、噴孔36、37によって異なる。すなわち、噴孔36においては、燃料が噴孔36の軸線に対して角度βだけ下向きに噴射され、噴孔37においては、燃料が噴孔37の軸線に対して角度βだけ上向きに噴射される。したがって、第四実施形態の燃料噴射弁35によれば、噴孔内燃料流速が遅いときには、燃料は燃焼室内で拡散するように噴射される。
【0076】
このように、本実施形態の燃料噴射弁35によれば、噴孔内燃料流速に応じて、全ての噴孔36、37からの燃料の噴射角度が各噴孔36、37の軸線方向である噴射(以下、「平行噴射」と称す)と、互いに隣り合った噴孔36、37からの燃料の噴射方向が上下逆になっている噴射、すなわち各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射(以下、「広角噴射」と称す)とを切り替えたり、両噴射間で変更したりすることができる。なお、ここでの噴孔内燃料流速の変更は、第一実施形態および第二実施形態と同様に、ニードル弁4のリフト量および供給燃料圧力を変更することによって行われる。
【0077】
次に、第四実施形態における噴射方向変更制御について説明する。上述したように、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には、ピストンPのリップLに燃料を当てるのが好ましいため、噴射した燃料がピストンPのリップLに向かうように平行噴射が行われる。内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には、噴射した燃料が燃焼室内に拡散するのが好ましいため、広角噴射を行う。これにより、燃焼室における燃焼を常に良好に維持することができるようになる。
【0078】
なお、第四実施形態の燃料噴射弁35には、第一実施形態、その変更例および第二実施形態を組み合わせることができる。
【0079】
次に、図9を参照して、本発明の第五実施形態の燃料噴射弁40について説明する。ここで、図9(a)は、第五実施形態の燃料噴射弁40の図3(a)と同様な拡大断面図であり、図9(b)は、燃料噴射弁40をその先端側から見た図8と同様な底面図である。第五実施形態の燃料噴射弁40の構成は、基本的に第四実施形態の燃料噴射弁35の構成と同様である。しかしながら、第五実施形態の燃料噴射弁40は、ノズルボディ41の先端部の或る円周上に配置された四つの下側噴孔43と、この円周よりも上側または外周側に位置する別の円周上に配置された四つの上側噴孔44とを具備し、これら噴孔43、44はノズルボディの円周方向において等間隔で交互に配置される。
【0080】
また、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43の軸線Cの向きは、その上側噴孔44の軸線Dの向きと異なる。すなわち、図9に示したように、下向きのノズルボディの軸線方向に対する上側噴孔44の軸線Dの向きは、その下側噴孔43の軸線Cの向きよりも下向きである。より詳細には、これら噴孔43、44の軸線C、Dの向きは、噴孔43の軸線C向きに噴射された燃料と、噴孔44の軸線D向きに噴射された燃料とが、ノズルボディの先端部またはその軸線周りのまたはこれらを中心としたほぼ同一の円周上に向かって噴射されるような向きとなっている。すなわち、下側噴孔43と上側噴孔44とが同一鉛直平面上に位置するものと仮定した場合におけるこれらの軸線C、D間の角度γは、これら軸線が上記同一の円周上で交わるような角度とされる(図9(a)参照)。本実施形態では、この円周の位置が、ピストンPが上死点にあるときのリップLに位置となるように噴43、44が形成される。
【0081】
このため、第五実施形態の燃料噴射弁40では、噴孔内燃料流速が速いときには、各噴孔43、44からの燃料の噴射方向は、各噴孔43、44の軸線C、Dとほぼ同一の向き、すなわちノズルボディの先端部またはその軸線周りのほぼ同一の円周上に向かう向きとなる。一方、噴孔内燃料流速が遅いときには、各噴孔43、44からの燃料の噴射方向は、下側噴孔43と上側噴孔44とで異なる。すなわち、下側噴孔43においては、燃料が下側噴孔43の軸線Cに対して角度βだけ下向きに噴射され、上側噴孔44においては、燃料が上側噴孔44の軸線Dに対して角度βだけ下向きに噴射される。したがって、第五実施形態の燃料噴射弁40では、噴孔内燃料流速が遅いときには、燃料は燃焼室内で拡散するように噴射される。
【0082】
このように、本実施形態の燃料噴射弁35によれば、噴孔内燃料流速に応じて、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43からの燃料の噴射方向と上側噴孔44からの燃料の噴射方向とが互いに近づくような噴射(以下、「狭角噴射」と称す)と、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43からの燃料の噴射方向と上側噴孔44からの燃料の噴射方向とが互いに遠ざかるような噴射(以下、「広角噴射」と称す)とを切り替えたり、両噴射間で変更したりすることができる。なお、ここでの噴孔内燃料流速の変更は、第一実施形態および第二実施形態と同様に、ニードル弁4のリフト量および供給燃料圧力を変更することによって行われる。
【0083】
第五実施形態における噴射方向変更制御では、第四実施形態における噴射方向変更制御と同様な理由で、内燃機関が高負荷・高回転で運転されている場合には狭角噴射が行われ、内燃機関が低負荷・低回転で運転されている場合には広角噴射が行われる。
【0084】
なお、上記第五実施形態の燃料噴射弁40では、下向きのノズルボディの軸線方向に対する下側噴孔43の軸線Cの向きがその上側噴孔44の軸線Dの向きよりも上向きとなっているが、これら軸線Cの向きと軸線Dの向きは同一方向であってもよい。
【0085】
また、上記第五実施形態では、上側噴孔43と下側噴孔44とをノズルボディの周方向において等間隔に交互に設けているが、同一の角度位置に設けてもよい。すなわち、ノズルボディの先端からノズルボディの軸線に沿って延びる同一直線上に上側噴孔43と下側噴孔44とが設けられてもよい。あるいは、上側噴孔43と下側噴孔44とがノズルボディの周方向において交互に設けられる場合でも、等間隔で設けられなくてもよい。
【0086】
さらに、第五実施形態の燃料噴射弁40には、第一実施形態、その変更例および第二実施形態を組み合わせることができる。
【0087】
次に、図10を参照して、本発明の第六実施形態の燃料噴射弁50について説明する。なお、図10(a)は、第六実施形態の燃料噴射弁50の図3(a)と同様なであり、図10(b)および(c)はそれぞれ、ニードル弁のリフト量が小さいときおよび大きいときの燃料の流れを示す図である。第六実施形態の燃料噴射弁50の構成は、基本的に第一実施形態の燃料噴射弁1の構成と同様である。ただし、図10(a)から分かるように、噴孔53は、サック部ではなく、先端中空空間、あるいは噴孔53はニードル弁52の先端部と先端中空空間9を画成する内壁面55との間に形成される下側環状流路56に通じている。すなわち、噴孔53の入口54は、ニードル弁52がリフトされていないときに、ニードル弁52の先端部の外壁面57と当接または近接するノズルボディ51の円錐状の内壁面55上に設けられる。
【0088】
また、第六実施形態の燃料噴射弁50では、角部60から噴孔53の出口に向かって直線的に広がる拡大上壁面58と、角部61から噴孔53の出口に向かって直線的に広がる拡大下壁面59とが設けられるが、噴孔53の軸線Eに対する拡大上壁面58および拡大下壁面59の角度は同一の角度δである。さらに、噴孔53の入口面からの噴孔53の軸線方向における角部60および61までの長さは同一の長さl4である。
【0089】
次に、図10(b)および(c)を参照して、上述したような形状の噴孔53における燃料の流れおよびこの噴孔53からの燃料の噴射について説明する。図示したような形状の燃料噴射弁50では、下側環状流路56から噴孔53に流入する燃料は、噴孔53の入口54で急激に流れの方向が変わる。このため、噴孔53の入口54の角部では流れの剥離が起こるが、噴孔53に流入する燃料の多くは図10(b)の矢印のように、噴孔53の上方から流れてくるため、流れの剥離は噴孔53の入口54の上縁部において起こる。
【0090】
ここで、図10(b)に示したように、ニードル弁52のリフト量が所定リフト量よりも小さい場合、すなわちノズルボディ2の内壁面55とニードル弁52の先端部の外壁面57との間の幅が狭い場合、噴孔53の入口54における燃料の流れの方向の移り変わりが非常に急であるため、噴孔53の入口54において起こる流れの剥離の程度は大きい。このため、燃料の流れが剥離している距離は長く(図中の剥離線X1参照)、角部60に至っても燃料の流れは再付着しない。このため、燃料は拡大上壁面58に沿って流れない。このとき、燃料の流速が角部61において燃料の流れの剥離が起きないような流速であれば、燃料は拡大下壁面59にのみ沿って流れる。したがって、燃料は、噴孔53の軸線Eに対して角度δだけ下向きに噴射される。
【0091】
一方、図10(c)に示したように、ニードル弁52のリフト量が所定リフト量よりも大きい場合、すなわちノズルボディ2の内壁面55とニードル弁52の先端部の外壁面57との間の幅が広い場合、図10(b)に示した場合に比べて噴孔53の入口54における燃料の流れの方向の移り変わりは急ではないため、噴孔53の入口54において起こる流れの剥離の程度は小さい。このため、燃料の流れが噴孔53の壁面から剥離している距離は短く(図中の剥離線X2参照)、角部60においては燃料の流れは再付着している。このため、燃料は拡大上壁面58に沿って流れる。このとき、燃料の流速が角部60、61において燃料の流れの剥離が起きないような流速であれば、燃料は拡大上壁面58および拡大下壁面59の両方に沿って流れる。したがって、燃料は、噴孔53の軸線Eに対して角度δだけ下向きの方向と角度δだけ上向きの方向との間で全体に亘って噴射される。
【0092】
このように、第六実施形態の燃料噴射弁50では、ニードル弁52のリフト量に応じて、噴孔53からの燃料の噴射形態を変更することができる。
【0093】
ここで、噴孔53の入口面から角部60、61までの長さl4とニードル弁52のリフト量とは互いに関係しており、長さl4を長くすると噴孔53の入口54における流れの剥離が角部60まで続くようなニードル弁52のリフト量が小さくなり、長さl4を短くすると噴孔53の入口54における流れの剥離が角部60まで続くようなニードル弁52のリフト量が大きくなる。したがって、燃料噴射弁50の製造には、このことを考慮して噴孔53の入口面から角部60、61までの長さl4が設定される。
【0094】
なお、第六実施形態の燃料噴射弁50では、噴孔53の入口面から角部60までの長さと角部61までの長さは同一となっているが、これら長さは同一でなくてもよい。また、角部60の角度と角部61の角度とは同一となっているが、これら角度も同一でなくてもよい。例えば、角部61における角度を実用流速範囲において常に燃料の流れが剥離するような角度にすれば、燃料の噴射方向を軸線Eの方向と、拡大上壁面58に沿った方向との間で変更することができる。
【0095】
また、第六実施形態の燃料噴射弁50に、第一実施形態、その変更例および第二実施形態を組み合わせてもよい。
【0096】
なお、本明細書において噴孔からの燃料の噴射方向は一方向に定まるように説明されているが、実際には、全ての燃料が一方向のみに噴射されているわけではなく、燃料の一部はその方向とは異なる方向にも噴射されている。したがって、本明細書中における燃料の噴射方向とは、噴射される燃料全体の平均した流れ方向、または燃料の主流の流れ方向を意味する。
【0097】
【発明の効果】
第1〜第10の発明によれば、噴孔内燃料流速を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射形態を変更することができ、噴射形態を変更するために各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がないため、従来とは全く異なる簡単な構成で燃料の噴射形態を変更することができる。
【0098】
第3の発明によれば、流れが剥離してその後再付着しなくなり始める噴孔内燃料流速を各角部の角度を適切に設定することで任意に変更することができるため、流れの剥離が起こる噴孔内燃料流速を容易に設定することができる。
【0099】
第5および第6の発明によれば、機関運転状態等に応じて噴射角度を変えることができるため、内燃機関の燃焼状態を最適にすることができる。
【0100】
第7および第8の発明によれば、複数の噴孔が設けられる場合に、各噴孔からの燃料の噴射方向を噴孔毎に異なる方向にすることと統一された方向にすることとを変更することができ、特に狭角噴射または平行噴射と広角噴射とを変更することができる。このため、機関運転状態に応じてこれらを変更すれば内燃機関の燃焼状態を最適にすることができる。
【0101】
第9の発明によれば、燃焼室内にスワールができていない場合でも、燃焼室内にスワールができている場合と同様な効果を得ることができる。
【0102】
第11および第12の発明によれば、ニードル弁のリフト量を変えることにより、同一の噴孔からの燃料の噴射形態を変更することができ、噴射形態を変更するために各噴射方向毎にその方向を向いた噴孔を形成する必要がないため、従来とは全く異なる簡単な構成で燃料の噴射形態を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料噴射弁の断面側面図である。
【図2】本発明の第一実施形態における燃料噴射弁の先端部の断面側面図である。
【図3】第一実施形態における燃料噴射弁の噴孔を示す図である。
【図4】第一実施形態における燃料噴射弁の噴孔での燃料の流れを示す図である。
【図5】第一実施形態の変更例における燃料噴射弁の噴孔を示す図である。
【図6】燃料の噴射方向を説明するための図である。
【図7】第三実施形態における燃料噴射弁を示す図である。
【図8】第四実施形態における燃料噴射弁の底面図である。
【図9】第五実施形態における燃料噴射弁を示す図である。
【図10】第六実施形態における燃料噴射弁を示す図である。
【符号の説明】
1…燃料噴射弁
2…ノズルボディ
4…ニードル弁
12…サック部
13…噴孔
16…入口
18…出口
30…上側角部
31…下側角部
32…拡大上壁面
33…拡大下壁面
B…軸線
Claims (12)
- ニードル弁と、該ニードル弁を収容するノズルボディと、該ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔を具備する燃料噴射弁において、
上記噴孔の形状が、該噴孔を流れる燃料の流速を変更すると該噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっており、上記噴孔を流れる燃料の流速を変更する流速変更手段をさらに具備する燃料噴射弁。 - 上記噴孔の壁面は該噴孔出口まで続く第一部分壁面と第二部分壁面とを有し、上記第一部分壁面は、上記噴孔を流れる燃料の流速が第一流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着せず且つ第一流速よりも遅いときに燃料の流れの剥離が起きないかまたは燃料の流れの剥離が起きても剥離した流れが再付着するような形状であって、上記噴孔出口近傍において上記噴孔の軸線に対して傾いており、上記第一部分壁面は上記噴孔を流れる燃料の流速が上記第一流速よりも遅い第二流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが再付着しないような形状である請求項1に記載の燃料噴射弁。
- 上記第一部分壁面は上記噴孔の軸線に対して第一角度で折れ曲がる第一角部を有し、上記第二部分壁面は上記噴孔の軸線に対して第二角度で折れ曲がる第二角部を有し、上記第一角度は上記噴孔を流れる燃料の流速が上記第一流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが上記第一部分壁面に再付着せず且つ第一流速よりも遅いときに燃料の流れの剥離が起きないかまたは燃料の流れの剥離が起きても剥離した流れが上記第一部分壁面に再付着するような角度であり、上記第二角度は上記噴孔を流れる燃料の流速が第二流速以上であるときに燃料の流れの剥離が起きて剥離した流れが上記第二部分壁面に再付着しないような角度である請求項2に記載の燃料噴射弁。
- 上記噴孔の軸線方向における上記第二角部の位置は、上記噴孔の軸線方向における上記第一角部の位置と同じであるかまたはそれよりも噴孔の入口側である請求項3に記載の燃料噴射弁。
- 上記第一部分壁面が上記ノズルボディの軸線方向において上記噴孔の軸線に対して一方の側に位置し、上記第二部分壁面が上記ノズルボディの軸線方向において噴孔の軸線に対して他方の側に位置する請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
- 上記噴孔は上記ノズルボディの軸線方向とは異なる方向を向いて配置されており、該噴孔を流れる燃料の流速を変更すると、上記ノズルボディの先端に向かう該ノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度が変わるようになっており、機関運転状態が高負荷状態にあるときには上記角度を大きくし、逆に機関運転状態が低負荷状態にあるときには上記角度を小さくするようにした請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
- 複数の噴孔を具備し、全ての噴孔を流れる燃料の流速は常にほぼ同一となるように制御され、上記噴孔を流れる燃料の流速が少なくとも特定の流速範囲にあるときには、一つまたはそれ以上の噴孔から噴射される燃料の噴射方向であって各噴孔の軸線方向に対する噴射方向が残りの噴孔から噴射される燃料の上記噴射方向とは異なる請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
- 各噴孔は上記ノズルボディの軸線方向とは異なる方向を向いて配置されており、該噴孔を流れる燃料の流速を変更すると上記ノズルボディの先端に向かう該ノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度が変わるようになっており、全ての噴孔から燃料が上記ノズルボディの先端部周りのほぼ同一の円周上に向かう噴射または上記ノズルボディの先端に向かうノズルボディの軸線方向に対する噴射方向の角度が全ての噴孔において同一となるような噴射と、各噴孔からの燃料の噴射方向が他の噴孔の軸線から離れるような方向である噴射とで切替可能である請求項7に記載の燃料噴射弁。
- 上記第一部分壁面が上記ノズルボディの周方向において上記噴孔の軸線に対して一方の側に位置し、上記第二部分壁面が上記ノズルボディの周方向において上記噴孔の軸線に対して他方の側に位置する請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
- 上記ニードル弁をリフトすることにより噴孔が開弁され、上記流速変更手段は上記ニードル弁のリフト速度を変更することにより各噴射期間中における上記噴射方向の変わり方を変更する請求項1〜9のいずれか1項に記載の燃料噴射弁。
- ニードル弁と、該ニードル弁を収容するノズルボディと、該ノズルボディの内壁面から外壁面へと貫通する少なくとも一つの噴孔を具備し、上記ニードル弁をリフトすることにより上記噴孔が開弁される燃料噴射弁において、
上記ニードル弁のリフト量に応じて上記噴孔の入口と上記ニードル弁の先端部との間の幅が変わり、これにより上記噴孔の入口において起こる流れの剥離の程度が変わり、上記噴孔の形状が、上記噴孔の入口において起こる流れの剥離の程度が変わると該噴孔からの燃料の噴射方向が変わるような形状になっており、上記ニードル弁のリフト量を変更するリフト量変更手段をさらに具備する燃料噴射弁。 - 上記噴孔の壁面は該噴孔出口まで続く部分壁面を有し、該部分壁面は、上記ニードル弁のリフト量が所定リフト量以上であるときには上記噴孔の入口で剥離した燃料の流れが上記部分壁面に再付着せず且つ上記ニードル弁のリフト量が所定リフト量よりも小さいときには上記噴孔の入口で剥離した燃料の流れが上記部分壁面に再付着するかまたは噴孔の入口で流れの剥離が起こらないように形成されると共に、上記噴孔の出口近傍において上記噴孔の軸線に対して傾いている請求項11に記載の燃料噴射弁。
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