JP2004531262A - ヒト胚性幹細胞由来インスリン産生細胞 - Google Patents
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Abstract
本発明は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を開示する。インスリン産生胚性細胞系の集団を生成、濃縮、選択、クローニング、及び単離する方法が開示される。これらの細胞のインスリン産生は、グルコース応答性又は調節可能であり得る。有利には、これらのインスリン産生細胞は、hESCの安定なトランスフェクタント由来の安定な細胞系であり得る。これらの細胞、細胞集団、又は細胞系の使用方法、特に細胞療法での使用方法が開示される。
Description
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン産生ヒト胚性幹細胞、インスリン産生ヒト胚性幹細胞集団の生成及び濃縮、インスリン産生ヒト胚性幹細胞又は安定細胞系の単離、並びにこれらの細胞の使用方法、特に細胞置換療法での使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
I型糖尿病は一般に、結果として生じる絶対的インスリン欠乏、及び外因性インスリン治療への完全依存を伴う、ランゲルハンス島β細胞の自己免疫破壊に起因する。膵臓又は島同種移植片移植の提供片が相対的に不足しているため、β細胞置換療法の代替供給源の探求が促されてきた。
【0003】
最近の研究は、I型糖尿病の眼、神経、及び腎合併症を低減するために、厳格な血糖コントロールが重要であることを強調している(Fioretto等、1998)。さらに、現在のところ膵臓及び島細胞置換が、唯一の治療アプローチであると考えられている。実際に、このアプローチは糖尿病性腎症を伴う患者において糸球体病変を好転することが最近示された(Shapiro等、2000)。このアプローチへの期待は、島同種移植片移植において糖質コルチコイドを含まない有害性の低い改善された治療プログラムの使用が報告されたことによって近年さらに高まっている(Samstein等、2001)。しかしながら、提供片の不足が主要な障害であり、このアプローチが実用的な解決手段となるのを妨げている。したがって、異種移植片などの代替供給源の使用に注目が集まっているが、異種移植片は未特定の人畜共通性感染の潜在的リスクを含む、他の不利益を有する(Efrat、1998)。齧歯動物由来のβ細胞系が、細胞置換治療の無限の供給源を提供する可能性も示唆されている。生体異物源に内在する問題に加えて、そのような細胞系は、増殖中のインスリン生合成及び調節性分泌の低下を伴う表現型の不安定性を露呈することが示されている(Efrat、1999、Soria等、2000a、Cheung等、2000)。より最近に記載された他のアプローチには、グルコース感受性プロモータの制御下でインスリン遺伝子又はインスリン遺伝子アナログを発現させることによって、あるいはインスリンプロモータ因子1/膵臓及び十二指腸ホメオボックス遺伝子1(IPF1/PDX1)の異所性発現によって(Thomson等、1998)、in vivo遺伝子導入を用いて他の組織にβ細胞表現型を拡張することが含まれる(Lee等、2000、Ferber等、2000)。
【0004】
多能性ヒト胚性幹(hES)細胞(Reubinoff等、2000、Shamblott等、1998)、及び胚性生殖(EG)細胞(Soria等、2000b)の確立は、特に最近のマウスESからのグルコース感受性インスリン分泌細胞産生の成功の観点から(Shamblott等、2001)、I型糖尿病患者における細胞療法に新しい潜在的供給源を導入した。hES細胞は、マウス胚性線維芽細胞(MEF)供給細胞層上で増殖させるとき、均質な未分化コロニーとして増殖する(Reubinoff等、2000)。以前に示されているように、これらのhES細胞は、正常な核型を有し、テロメラーゼ及び胚性細胞表面マーカを発現する。MEF供給細胞層からの除去は、ヌードマウスへの皮下注射後に形成される奇形腫から明らかなように、3種の胚性生殖層の派生物への分化に関連している(Reubinoff等、2000)。インスリン発現ではないが、内胚葉マーカは、以前に行われたEG細胞での異なる増殖条件及び分化マーカの総合的な調査において報告されている(Schuldiner等、2000)。分化hES細胞から抽出されたRNAにRT−PCRを適用し、インスリンを含む多様な分化細胞マーカを検出することが報告されている(Robertson、1987)。
【0005】
哺乳動物幹細胞に関して哺乳動物細胞の混合集団を濃縮する方法は、米国特許第6146888号に記載されている。この方法によれば、この哺乳動物細胞の混合集団は、哺乳動物幹細胞において優先的に抗生物質耐性遺伝子を発現するプロモータに操作的に結合した抗生物質耐性遺伝子を含む。したがって、哺乳動物細胞の混合集団は、抗生物質の存在下、哺乳動物幹細胞の優先的な生存に寄与する条件下、in vitroで培養される。
【0006】
新規な胚性細胞集団を生成し、増殖因子の組合せを用いて胚性幹細胞を増殖し、そのような細胞系を不朽化する多様な方法は当分野で知られており、数ある中でもたとえば米国特許第5690926号、第5753506号、第6110739号、欧州特許出願第380646号に記載されている。
【0007】
細胞の多能性を保持しながら、ヒト胚性幹細胞を長期間in vitroで培養する方法、並びに前記細胞の精製調製物は米国特許第6200806号に記載されている。この胚性幹細胞は、培養期間中及び11ヶ月の連続培養後、3種すべての胚性生殖層由来のすべての組織に分化する能力も維持する。
【0008】
幹細胞を含む細胞の増殖、付着、及び/又は分化を支持する表面を産生する方法は、米国特許第6232121号に記載されている。この方法は、少なくとも1種の生物活性増殖因子を含む細胞外マトリクスの細胞による分泌を促進する条件下で表面上に骨肉腫細胞を増殖させることを含み、細胞外マトリクス及び増殖因子は同時に産生され、細胞外マトリクスは前記表面に接着されている。
【0009】
未分化胚性幹細胞から所望の構造の所望の生体組織を哺乳動物において再生する方法は、米国特許第6328765号に記載されている。
【0010】
治療上有効量のヒト間葉幹細胞を投与することによって、ヒト対象を治療する方法は、米国特許第6355239号に記載されている。この特許による幹細胞は、組み込まれた当該遺伝物質を発現することができる。
【0011】
インスリン産生細胞系が確立されたヒト幹細胞系から得られる可能性のあることは背景技術のいずれにも教示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一目的は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を濃縮した細胞集団を提供することである。好ましくはヒト胚性幹細胞由来の選択されたインスリン産生細胞を含有する細胞集団、より好ましくは単離された細胞、もっとも好ましくはクローン化細胞系が、本発明の原理に従って提供される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の他の態様によれば、hES細胞由来のインスリン産生細胞、又はhES細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団は調節可能である。好ましくは、それらはグルコース応答性、又はインスリン産生及び分泌に関してグルコース調節可能である。
【0015】
本発明の他の態様によれば、hES細胞由来のインスリン産生細胞、又はhES細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団は、長期間にわたって安定であり、好ましくは長命であり、すなわち増殖停止又は老化せず、より好ましくは安定な細胞系であり、もっとも好ましくはクローン細胞系であり、あるいは不朽化細胞系である。
【0016】
本発明の他の態様によれば、hES細胞由来のインスリン産生細胞、又はhES細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団は、これに限定されるものではないが、細胞置換療法を含む医療応用例に有用である。
【0017】
本発明の原理により、多能性未分化ヒト胚性幹(hES)細胞が系統特異分化の系として機能し得ることがここに開示される。付着及び浮遊培養条件においてhES細胞を用いる本発明の好ましい実施形態において、in vitro分化がインスリン産生β細胞の特性を有する細胞の生成を含むことが実証された。インスリンの免疫組織化学染色が、驚くほど高い割合の細胞で認められた。インスリンの培地への分泌は、分化依存的に認められ、他のβ細胞マーカの出現に関連した。これらの調査結果は、糖尿病における細胞置換療法の可能な供給源としてのヒトβ細胞又はその前駆体の派生及び/又は濃縮の潜在的基礎として、hES細胞系の有効性を示している。
【0018】
本発明のより好ましい実施形態により、インスリンプロモータを用いてヒト胚性幹細胞を安定にトランスフェクトできることがここに開示される。以下に例示するとおり、これらの安定なトランスフェクタントは多能性を維持する。
【0019】
本発明のもっとも好ましい一実施形態によれば、インスリンプロモータは、非限定的な例として緑色蛍光タンパク質などの蛍光マーカのような好都合なマーカに結合することができ、それによりトランスフェクタントの蛍光活性化細胞選別装置(FACS)による選択又は濃縮が可能になる。この安定なトランスフェクタントは、非限定的な例としてハイグロマイシンなどの抗生物質を用いて選択することができ、首尾よくクローン化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
最近、ヒト及び成体マウスの膵幹細胞からin vitroで島細胞が首尾よく生成された(Ramiya等、2000、Amit等、2000)。後者の研究において、Ramiya等は、非肥満型糖尿病マウスに移植後、これらの島細胞が糖尿病を好転できることを示した。しかしながら、このアプローチの重大な実用上の制限は、ヒト膵臓から培養できる細胞の数が限られていることである。したがって、ヒト胚性幹細胞は適当な潜在的代替物である。
【0021】
本発明は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞の生成、濃縮、選択、クローニング、及び使用に関する。本発明を、好ましい実施形態に関してここに詳しく記載する。
【0022】
I.定義
本明細書では、「多能性胚性幹細胞」は、生殖細胞(***及び卵子)を含む、胚又は成体に多数の分化細胞型を生じることのできる細胞を意味する。これは細胞系統においてもっとも分化していない細胞である。多能性胚性幹細胞は自己複製することもできる。この細胞型は、本明細書では「ES細胞」とも呼ばれる。しかしながら、幹細胞は操作上の用語である。ES細胞は供給細胞層で培養されるか、又はある種の細胞によって調整された培地で培養されたときにのみ、in vitroで幹細胞表現型を保持することが知られている。供給細胞層又は調整培地が存在しないとき、ES細胞は自然に多種多様な細胞型に分化し、これは胚形成中、及び成体動物において見出されるものに類似している。
【0023】
本明細書では、「供給細胞層」は、多能性ES細胞を培養するために培養された細胞又は細胞系である。あるいは、供給細胞層は、始原生殖細胞、胚体外胚葉細胞又は生殖細胞が位置する、たとえば生殖腺などの器官又は組織に由来するか、又はそれらから提供され得る。したがって、所望の細胞が位置する組織又は器官の体細胞が適切な培養環境を提供するのに充分である場合、別の供給細胞層は必要でない。あるいは、この供給細胞層は、細胞外マトリクスと結合増殖因子とによって代用できる。
【0024】
本明細書では、「補足剤」という用語は、「因子」という用語と同じ意味で用いられる。培地に添加される因子は、多能性ES細胞の形成に必須である。したがって、用いられる因子の量は、多能性ES細胞の最終結果によって決定される。しかしながら、この因子はさらに増殖を促進し、細胞の連続増殖を可能にする役割も果たす。したがって、因子は細胞の生存にも役立っていると考えられる。
【0025】
本明細書では、「遺伝子改変細胞」という用語は、たとえば当該遺伝子のコード配列を含む発現ベクターなどのベクターによってトランスフェクトされた細胞に関し、前記細胞は前記遺伝子を発現することができる。特に本発明において、遺伝子改変細胞は、リボソーム内部進入部位(IRES);細胞特異遺伝子プロモータ、たとえばβ細胞分化経路の非常に早い段階でβ細胞の前駆体において活性化するPDX−1;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);これに限定されるものではないが、たとえばネオマイシンなどの抗生物質を含む選択マーカ、又は蛍光マーカ、たとえば変異型緑色蛍光タンパク質(EGFP);構成プロモータ、たとえばPGKプロモータ又は他の哺乳動物プロモータから選択された少なくとも1つの遺伝子コード配列を含有する発現ベクターを用いてトランスフェクトされた胚性幹細胞である。この遺伝子改変hES細胞は、それらをインスリン産生細胞に分化させる条件下で培養することができる。
【0026】
II.本発明を実施するための好ましい様式
膵臓の胚発生は、増殖因子、上皮/間葉相互作用(Edlund、1999)、及び最終的に多様な転写因子の発現を調節する細胞外マトリクス(Apelqvist等、1999、Kim等、2001、Efrat、1997)を含むいくつかの別個であるが相互に作用する機構によってもたらされるものであることが当分野で知られている。しかしながら、腸内胚葉が膵臓組織に発達することを確約する事象のカスケードにおける最初のシグナルはまだ知られていない。
【0027】
現在用いられるhES細胞は、未分化状態で均質に見えるにもかかわらずクローン起源ではなく、各hES由来細胞系の分化をin vitroで独立して調べるか、あるいは増殖因子に対する明確な分化応答を用いてクローンhES細胞系を調べる必要性を示唆している(Klug等、1996)。
【0028】
胚性幹細胞は、自然に分化する生得の特性を示す。本発明の未分化hES細胞の集団を濃縮し、その均質性を維持するために、これらの細胞の生得の自然分化は抑制されなければならない。胚性細胞の分化を抑制する方法には、以下に非限定的な例として記載するようなマウス線維芽細胞などの供給細胞層、又はある種の細胞によって調整した培地で未分化胚性細胞を培養することが含まれる。
【0029】
hES細胞における分化の誘導、好ましくは特定の細胞系統に対して制御された誘導は、たとえば培地から分化抑制要素、たとえば供給細胞層を除去することによって主として達成される。結果として生じる分化を有効に制御するために、細胞は均質状態でなければならない。胚性幹細胞の増殖及び分化を支持できる任意の細胞培養培地を本発明に用いることができる。そのような細胞培養培地には、これに限定されるものではないが、Basal Media Eagle、Dulbecco’s Modified Eagle培地、Iscove’s Modified Dulbecco’s培地、McCoy’s培地、Minimum Essential培地、F−10 Nutrient Mixtures、OPTI−MEM(登録商標)Reduced−Serum培地、RPMI培地、及びMacrophage−SFM培地、又はそれらの組合せが含まれる。培地は、濃縮(たとえば10倍)、又は非濃縮形態で供給でき、液体、粉末、又は凍結乾燥体として提供されることができる。培地は、GIBCO BRL(Gaithersburg Md.)、及びSigma(St.Louis Mo.)などの多数の供給元から市販されている。
【0030】
本発明の一態様によれば、インスリン産生細胞に対して制御されたhES細胞のin vitroでの分化は、好ましくは、以下でノックアウト培地とも称する無血清条件下で行われる。好ましくは、ノックアウト培地には、血清代替物、非必須アミノ酸、2−メルカプトエタノール、グルタミンを補足する。もっとも好ましくは、ノックアウト培地には、さらにヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(hrbFGF)を補足する。
【0031】
ES細胞を用いて、ES派生(より分化した)細胞を産生する因子をスクリーニングすることができる。より分化した細胞の存在を判定するための多くの標準的な手段が当分野でよく知られている。たとえば、RT−PCRは分化hES細胞から抽出されたRNAに適用され、インスリンを含む多様な分化細胞マーカの検出を可能にしている(Robertson、1987)。しかしながら、インスリンの培地への同化、インスリン産生細胞の割合を含む量的な側面は当分野で知られていない。そのような情報は、β細胞置換細胞療法の供給源として、hES細胞の使用を可能にするために不可欠である。
【0032】
本発明は、さらにβ細胞の特徴を有するインスリン分泌細胞を産生する経路が、本明細書に記載の適切な条件下、培養ヒト胚性幹細胞の自然分化の過程で生じるのは珍しくないことを証明している。この観察結果は、細胞置換療法に用いる、自然発生β細胞又はその前駆体の濃縮に基づく実験的方策の必要条件である。本明細書に記載の細胞は、インスリンを産生、分泌し、2種の必須の遺伝子、Glut−2及び島特異グルコキナーゼ(GK)を発現するが、これらはβ細胞機能及びグルコース刺激インスリン分泌において重要な役割を果たすと考えられている(Matschinsky等、1998、Shepherd等、1999、Alarcon等、1998)。β細胞発生マーカ出現の時間的経過を含む、同定された他のマーカを考慮し、完全にプロセシングされたインスリンの分泌を考慮すると、インスリン染色細胞がβ細胞に関係せず、胚体外性又は他の起源である(Ling等、1996)という可能性は極めて低い。
【0033】
有効な細胞置換療法の他の必要条件は、ヒト胚性幹細胞によるインスリン産生がグルコース応答性又は調節可能であることである。β細胞が均質又は濃縮状態でなく、他の細胞型の中に存在する限り、グルコースの作用を他の分泌促進物質の対抗的な作用から分離することはできない。さらに、均質細胞集団が存在しないとき、EBの不均質性、及びタンパク質又はDNA含量などのパラメータに対するインスリン応答を正規化することの難しさから、異なる実験条件に基づく比較は容易に定量されない(Jonkers等、1999)
【0034】
選択された細胞を単離及び増殖するために、不均質なES細胞集団から前駆細胞を選択する好ましい方策には、細胞特異プロモータを用いた多能性ES細胞のトランスフェクションが含まれる。好ましくは、細胞特異プロモータをさらに、抗生物質耐性クローンを選択できる抗生物質などの都合のよいマーカ、又は蛍光活性化細胞選別装置(FACS)によって所望の細胞を選択できる蛍光マーカに結合することができる。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態によれば、未分化ヒトES細胞は、β細胞発生の非常に早い段階でβ細胞前駆体において活性化する細胞特異遺伝子プロモータを用いてトランスフェクトされ、前記トランスフェクションは、ES細胞の多能性を損なわない。さらに、前記プロモータの制御下、選択マーカが添加され、トランスフェクト細胞は分化され、選択的インスリン産生細胞クローンが産生される。
【0036】
グルコースに応答するインスリン分泌の微調整は、機能の異質性のため隣接するβ細胞間の相互認識を必要とし、単離されたβ細胞の機能は、クラスタ又は偽島に見出されるβ細胞とは異なることが示されている(Charollais等、2000、Bonner−Weir等、2000)。他の系において以前に報告されているように、高濃度のグルコースへの長期の曝露は、そのようなインスリン産生細胞の機能に影響を及ぼし、急激なグルコースの変化に対する応答性が低減される可能性のある(Jonkers等、1999)ことが考えられる。この高グルコース培地は、生存可能なhESの培養増殖の維持に必要であるが、このことは低濃度のグルコースを含有する培地でのインスリン産生能力を備えた細胞の増殖を可能にするプロトコルがグルコース応答性を付与又は回復する可能性を排除しない。いずれの場合においても、分化hES由来のβ細胞移植片を用いた糖尿病の治療のために、マウスES由来β細胞に関して実証されている(Shamblott等、2001)濃縮又は均質β細胞培養物獲得後の刺激−分泌連関を実証する必要がある。
【0037】
本明細書に開示の様々な実験的アプローチの元でhES細胞のH9系の分化を用いて、もっとも顕著なインスリン産生及び分泌を含むβ細胞の特徴を備えた豊富な細胞が確立されることが初めてここに開示される。hESの安定なトランスフェクタントが得られたことが初めてここに開示される。これらのトランスフェクタントは多能性を維持し、選択、濃縮、クローン化することができる。これらの安定にトランスフェクトされたクローンを浮遊培養で増殖したとき、野生型hESCに外観の類似した、細胞集合体(胚様体)が生成された。
【0038】
多量の未分化及び分化胚性幹細胞の濃縮及び増殖には、低い増殖能及び寿命の限定という不都合が起こることが考えられる。この制限を克服するために設計された条件及び方法は、細胞置換療法の利益を大いに高めることになる。このことは、より高い供給量のhES細胞を提供する多能性未分化胚性幹細胞の「自己再生」の増加、及びより高い供給量の系統特異細胞、特にインスリン産生β細胞を提供する分化を伴う増殖の両方に当てはまる。分化及び未分化胚性幹細胞に増殖優位性を付与する可能性のある薬剤が、好ましくは本発明において用いられる。テロメア長及び完全性を維持し、それによって胚性幹細胞の増殖能を拡大するために、特にテロメラーゼを用いることができる。ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の異所性過剰発現が分化パターンに悪影響を及ぼさない場合、テロメラーゼ陽性ES細胞の完全に分化された所望の系統を生じることができる。
【0039】
さらなる特性決定と研究のためにインスリン分泌hES由来細胞系の集団を濃縮する方策に関して、マウスES細胞由来の心筋細胞を濃縮するために最初にKlug等が記載したアプローチを本出願にも潜在的に適合できることを本出願人等の結果は間違いなく示唆している(Klug等、1996)。簡潔に述べれば、Klugのアプローチは、ES細胞の心筋細胞への分化の誘導、それに続く心筋ミオシンプロモータを用いたES細胞の安定なトランスフェクションに基づいている。この単純な遺伝子改変は、分化性ES細胞からの本質的に純粋な心筋細胞の培養の生成を可能にする。非限定的な1つの例として、β細胞の場合、下流の選択マーカに接合されたインスリンプロモータは、分化ヒトES細胞由来のこれらの細胞の適切な選択ツールとしての機能を果たすことができる。実際に、最近この方策はマウスES細胞由来のβ細胞の濃縮に拡大適用された(Shamblott等、2001)。本発明の観察結果は、非クローン多能性hES細胞の自然分化の条件下であっても、インスリン産生能を有する細胞を驚くほど高い発現量で含むEBが産生されることを示唆している。この研究において60%を越えるEBが陽性染色細胞の散在小集団を含有し、これはマウスESでは1%未満であるのに対し、ヒトEBの細胞集団の約1〜3%に相当する(Efrat、1998、Shamblott等、2001)。これは自然に起こったように見えるが、分化培地にはbFGFが補足されていることに留意されたい。近年、Hart等(Hart等、2000)は、FGFシグナリングがβ細胞の成熟、最終分化、及び生後伸長に関与する可能性のあることを示した。組織工学による推定値は、このことがすでにKlug等(Klug等、1996)に記載の方策に基づく濃縮プロトコルの充分な基礎となることを示している。重要なことに、EBの約60%であるサブセットがインスリンを含有し、残部はインスリンを含有していないという観察結果は、その後の濃縮に用いる原材料として、もっとも高い割合でインスリン発現細胞を含むEBのサブセットを選択することから始めることが有用である可能性を示している。インスリンプロモータに駆動される必須のレポータマーカを安定に過剰発現するhESを用いることによって、このサブセットのEBを犠牲にすることなくこれらを選択することができる。本明細書で以下に例示するとおり、EB中の細胞混合集団においてβ細胞の出発総数を増加するための追加のプロトコルは、濃縮方策の収率を高めることができる。
【0040】
その発現がたとえば本発明の細胞に増殖優位性を付与し、選択効率を高める可能性のある所望の遺伝子が細胞培養に導入される。エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、その遺伝子配列を含有するウイルス又はバクテリオファージベクターの感染、細胞融合、染色体介在遺伝子導入、マイクロセル介在遺伝子導入、リン酸カルシウム介在トランスフェクション、スフェロプラスト融合などを含む、細胞に外来遺伝子を導入するための多数の技法が当分野で知られている(たとえば、Loeffler等、1993、Cohen等、1993、Cline、1985を参照のこと)。受容細胞に必要な発達及び生理的機能が妨げられないならば、これらの方法を本発明に従って用いることができる。その遺伝子がその細胞によって発現可能であり、好ましくはその細胞子孫においても遺伝性かつ発現可能であるために、この方法はさらにES細胞への安定な遺伝子の導入を提供するべきである。通常この導入法には、細胞に選択マーカを導入することが含まれる。次いで、この細胞を選択段階に供し、導入された遺伝子を取り込み、それを発現している細胞を単離する。
【0041】
III.薬理学
本発明のES細胞は、病的状態を治療する療法に用いる細胞を得るために用いることができる。胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を導入するか、あるいは多能性胚性幹細胞を得ることのできる対象は、好ましくは、これに限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどを含む動物であり、好ましくは哺乳動物であり、もっとも好ましくはヒトである。好ましくは、この胚性幹細胞はそれが投与される対象に由来し、すなわち移植片は自己由来である。たとえば、ヒトES細胞の派生物は、インスリン産生β細胞置換細胞療法の供給源として用いることができる。
【0042】
本発明は、治療上有効量の細胞、好ましくは胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を含む薬剤(治療)組成物を対象に投与することによって治療する方法を提供する。治療上の使用が想定されるそのような細胞は、以下において「治療剤」又は「本発明の治療剤」と呼ぶ。好ましい態様において、治療剤は実質的に精製されている。対象は、好ましくは哺乳動物、もっとも好ましくはヒトである。
【0043】
本発明の治療剤は、移植される細胞型及び移植部位に適切な、当分野で知られている任意の方法によって、疾病又は損傷の治療のために患者に投与することができる。この細胞は、当該器官に位置することができるならば、静脈内に移植することができる。特定の実施形態において、本発明の治療剤は、治療を必要としている領域に局所的に投与することが望ましい可能性がある。この投与は、これに限定されるものではないが、たとえば手術時局所注入、局所適用、たとえば注入、カテーテル、又はインプラントにより埋め込み部位で膵臓に直接移植することによって達成され、前記インプラントは、ポーラス、非ポーラス、又はゼラチン材料であり、シアラスチック(sialastic)膜などの膜、又はファイバーが含まれる。
【0044】
本発明は、薬剤組成物を提供する。そのような組成物は、治療上有効量の治療剤、及び薬剤として許容される担体又は賦形剤を含む。そのような担体には、これに限定されるものではないが、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組合せが含まれる。この担体及び組成物は無菌であり得る。配合は投与様式に適しているべきである。
【0045】
この組成物は所望であれば、微量の湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤をさらに含むことができる。組成物は、溶液、懸濁液、又はエマルジョンであることができる。
【0046】
好ましい一実施形態において、この組成物は、好ましくはヒトの膵臓組織への静脈内投与又は異所性投与に適合させた薬剤組成物として常法に従って配合される。必要な場合には、この組成物は、可溶化剤、及び投与部位の痛みを緩和するためにリグノカインなどの局所麻酔剤をさらに含むことができる。
【0047】
本明細書で細胞移植とも称する細胞置換療法のために変更できる代表的な方法は、Lindvall等によって示されている(Lindvall等、1989及び1990)。
【0048】
特定の障害又は状態の治療に有効な本発明の治療組成物の量は、その障害又は状態の性質によって決まり、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、最適な投与量範囲を特定する一助とするために、任意選択でin vitroアッセイを用いることができる。製剤に用いられる正確な用量は、さらに投与経路、及び疾病又は障害の重篤度によって決まり、医師の判断、及び各患者の状況によって決定されるべきである。
【0049】
IV.本発明の利点
本明細書に開示のとおり、hES細胞の複雑な分化パターンは、プロインスリン及び/又はインスリン産生、インスリン放出、並びに他のβ細胞マーカの発現を含む、β細胞機能の多くの特性を有する細胞のサブセットを含む。この発見は、I型糖尿病における細胞置換の供給源としてのhES細胞由来の細胞の濃縮に基づく方策に必要な前提条件である。さらに、そのような細胞を驚くほど高い割合で含むEBの数は、細胞置換療法におけるインスリン産生ヒト胚性幹細胞の使用の成功の可能性に関して好材料である。
【0050】
結論として、本出願人等はここに初めて、細胞特異プロモータによって駆動されるレポータを遺伝子導入した、遺伝子導入多能性未分化hESCクローンを開示する。このアプローチは、インスリン産生細胞の分化の調査及びモニターに有用である。本発明は、細胞移植療法に有用なhESC由来のインスリン産生細胞の成功した単離及び濃縮を初めて提示する。
【0051】
本発明は本明細書に特に示し記載したものによって制限されないことを、当分野の技術者は理解するであろう。本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定義される。
【実施例1】
【0052】
研究計画及び方法
a.組織培養
多量の初代マウス胚線維芽細胞(MEF)をRobertson(Robertson等、1995)に記載のとおり調製し、液体窒素に保存した。各解凍後、細胞は3〜5継代のみ使用した。
【0053】
hES H9細胞を、35Gyでγ照射することによって有糸***不活性化したMEFの供給細胞層上で培養増殖して未分化状態で維持し、ゼラチンコートした6ウェルプレートに培養した。細胞を、20%血清代替物(GIBCO/BRL)、1%非必須アミノ酸(GIBCO/BRL)、0.1mM2−メルカプトエタノール(GIBCO/BRL)、1mMグルタミン(Biological Industries、Ashrat、Israel)、4ng/mlヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(hrbFGF、PeproTech Inc.Rocky Hill、NJ)を補足したノックアウトDMEM(GIBCO/BRL、Grand Island、NY)で増殖させた。培養物を5%CO2、湿度95%で増殖させ、0.1%のコラゲナーゼIV(GIBCO/BRL)で分散した後、4〜5日毎に定期的に継代した。
【0054】
b.hES細胞の分化の誘導
マウスESに分化を誘導する方法を、本発明においてhES分化の誘導に適用した(Robertson等、1995、Keller、1995)。簡潔に述べると、約107の未分化hES細胞を分散させ、100mm細菌用ペトリ皿(Greiner、Frickenhausen、Germany)で浮遊培養したが、これによって初期の小集合体形成を特徴とする同調分化が誘導され、次いで胚様体(EB)の構造が得られる(Itskovitz−Eldor等、2000)。別法として、hESコロニーをコンフルエンスまで(約10日)未継代のままにし、その後、供給細胞層を含まないゼラチンコート6ウェル組織培養プレートに再び培養した。細胞は、一連の細胞表現型に自然に分化した。分化に用いた増殖培地は、上述のとおりである。
【0055】
c.組織学的分析
EBを指示された間隔で収集し、氷冷PBSで3回洗浄、10%中性緩衝ホルマリンに一晩固定、段階的濃度(70〜100%)のアルコールで脱水、パラフィンに包埋した。一般的な組織形態学分析のために、5μmの切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した。
【0056】
d.免疫組織化学
脱パラフィンした5μmの切片を、1次抗体のポリクローナルモルモット抗ブタインスリン1:100希釈(Dako)と共に室温で90分間インキュベートし、次いでヤギ抗ウサギビオチン化2次抗体と共にインキュベートした。ストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ複合体及び基質としてAEC(又はDAB)(Histostain−SPキット、Zymed Lab Inc.CA)を用いて、検出を行った。対比染色はヘマトキシリンを用いて行った。非免疫血清を陰性コントロールとして用い、正常ヒト膵臓パラフィン切片を陽性コントロールとして用いた。
【0057】
e.形態計測研究
免疫組織化学によって陽性に染色している細胞の相対的割合を推定するために、以前に記載されているとおり形態計測を行った(Green等、2000)。
【0058】
f.インスリン検出アッセイ
付着細胞に関して、MEF、未分化hES細胞、in vitroで自然に分化した細胞を、20日を超える期間6ウェルプレートで増殖させた。細胞を、25mMグルコースを含有する無血清培地で3回洗浄し、3mlの無血清培地中で2時間インキュベートした。浮遊EBに関して、50mmの細菌用ペトリ皿で実験を行った。プレート当たり60から70のEBを、5.5mM又は25mMのグルコースを含有する3mlの無血清培地に曝露した。その後、調整培地を回収し、プロインスリン又はCペプチドに交差反応性がなく、ヒトインスリンを検出する微粒子酵素免疫測定法MEIA(Abbott AXSYM(登録商標)システムインスリンキット、コードB2D010)を用いて、インスリンレベルを測定した。データは平均±標準誤差で表す。
【0059】
g.RT−PCR
未分化hES細胞、及びEBとして、又は分化の様々な段階の高密度培養として増殖するin vitro分化hES細胞から全RNAを単離した。
【0060】
0.5μmol/lのオリゴdT(12-18)(GIBCO/BRL)及び400μmol/lのdNTPを含有する1倍転写バッファ中でMoloneyマウス白血病ウイルス(M−MuLV)逆転写酵素(Promega)を用いて、7μgの全RNAからcDNAを合成した。cDNAのアリコートを、IPF1/PDX1、ニューロゲニン3(Ngn3)、オクタマー結合転写因子(Oct4)、Glut−1、及びGlut−2に対して1:5、又はインスリン、及び島特異グルコキナーゼ(GK)に対して1:2で希釈した。続いてPCR反応を以下のように行った。cDNA2.5μl(IPF1/PDX1、Ngn3、Oct4の場合)又は5μl(その他の場合)、1倍PCRバッファ、dNTP400μmol/l、各プライマペア100ng、Taqポリメラーゼ1U。5分間の最初のホットスタート後、βアクチンは28サイクル、Glut−1は31サイクル、Glut−2は40サイクル、グルコキナーゼは38サイクル、インスリンは36サイクル、Oct4は37サイクル、IPF1/PDX1及びNgn3は35サイクル増幅を続けた。熱変性段階は94℃で1分間、アニーリングはそれぞれ58、52、50、67、62、55、52、60℃で1分間、伸長は72℃で1分間、最終重合は10分間行った。この増幅産物を1.5%アガロースゲルで分離した。それぞれのPCR反応は、直線条件下二重で行った。ヒトインスリン、IPF1/PDX1、Ngn3、βアクチンの決定に用いたフォワード及びリバースプライマ配列は次のとおりである。それぞれhIns:5’−GCC TTT GTG AAC CAA CAC CTG−3’、5’−GTT GCA GTA GTT CTC CAG CTG−3’(261bpフラグメント)、IPF1:5’−CCC ATG GAT GAA GTC TAC C−3’、5’−GTC CTC CTC CTT TTT CCA C(262bpフラグメント)、Ngn3:5’−CTC GAG GGT AGA AAG GAT GAC GCC TC−3’、5’−ACG CGT GAA TGG GAT TAT GGG GTG GTG−3’(948bpフラグメント)、βアクチン5’−CAT CGT GGG CCG CTC TAG GCA C−3’、5’−CCG GCC AGC CAA GTC CAG GAC GG−3’(508bpフラグメント)である。Glut−1、Glut−2、GK、及びOct4の決定に用いたプライマ配列は、以前に記載されたとおりであり(Seino等、1993、Koranyi等、1992、van Eijk等、1999)、増幅フラグメントはそれぞれ310、398、380、320bpであった。
【0061】
h.統計
結果は平均±標準誤差で表し、比較は対応のないスチューデントt検定を用いて行った。
【実施例2】
【0062】
自然分化のヒトES細胞H9系由来インスリン産生細胞
本発明の好ましい一実施形態に従って、hES細胞のH9系を用いた。これらの細胞は、MEFの供給細胞層上で増殖させるとき、均質かつ未分化のコロニーとして増殖する。したがって、H9細胞in vitro自然分化を、MEF供給細胞層から細胞を除去した後、2種の異なるモデル系を用いて調べた。MEFの不在下、組織培養プレート中付着条件で増殖した細胞は、ニューロン様、筋様、又は腺様構造を含む多数の形態を有する多面性パターンを示した(データは示していない)。対照的に、浮遊培養のin vitro分化は、離散EBの形成を伴うより均一なパターンを生じた。細菌用ペトリ皿に移して1日後、細胞は付着できず、小さな集合体を形成した。この条件下で3日後、EBは内細胞を囲む原始内胚葉層を有する単純構造を獲得し(図1A〜B)、その後、大きさを増し続け、より嚢包性の構造を発達させた(400〜700μm)。これらはマウスEBに関して報告された形態に類似している(Abe、1996)。続く研究は空間及び時間的パターンを求め、インスリン産生能を有するEB浮遊培養の細胞の相対密度の推定値を得るために免疫組織化学(IHC)を用いて行った。EBの全体的な組織形態を知るために、パラフィン包埋切片のヘマトキシリン及びエオシン染色を用いた。EBの構築は、MEFから除去し浮遊培養に移して3日後には始まった。浮遊培養において日数の経過と共に、中空構造又は嚢胞の内側を覆う上皮又は内皮様細胞などの、より複雑な構造が明らかになった(図1C)。
【0063】
EBの発達をモニターするために、第19日まで3日毎にEBを採集した。抗インスリン抗体を用いる免疫組織化学は、細胞が分化の第14日にはインスリンを発現し、その数は第19日まで漸進的に増加することを明らかにした(図2A〜F)。インスリン発現細胞は、EB中に散在するか、あるいは小さいクラスタを形成することが見出された(図2A〜F)。インスリンに対して陽性に染色されるEBの中で(60〜70%)、平均して1〜3%の細胞が最大密度で染色されていた。残りの30〜40%のEBは、インスリン染色に陰性であった。
【0064】
自然に分化する付着hESの混合集団に散在しているこれらのインスリン含有細胞の特性を明らかにするために、未分化hES(uhES)、分化hES(dhES)、及びMEF細胞において培地に同化したインスリンを酵素免疫法によって測定した。増殖培地は、hESの生存に必須である25mMグルコース及び血清代替物を含有した。インスリンの分泌は、付着細胞(図3A)及びEB(図3B)の両方の培養条件で測定した。付着細胞では、未分化hES(5.6±0.6μU/ml、n=6)から採取された無血清培地で微量の免疫反応性インスリンが検出され、hESを覆っていない供給細胞層からは検出されなかった(データは示していない)。しかしながら、分化の22日後、及び31日後に採取した無血清培地では、インスリン濃度はそれぞれ126.2±17.7(n=12)、及び315.9±47μU/ml(n=7)であった(図3A)。dhES細胞のインスリン濃度は、uhES細胞に比べて著しく高かった(P<0.0001)。dhES細胞において、分化31日後のインスリン分泌は、22日後に比べて著しく高かった(P=0.0004)。同様に、図3Bに示したように、インスリン放出はuhESに比べて20〜22日のEBで著しく高かった(各実験当たりEB60〜70)(P<0.0001)。
【0065】
異なるグルコース濃度に対するEBインスリン応答性を評価するために、EBを含有する培養皿を5.5mM又は25mMのグルコースに2時間、急激に曝露した。培地グルコースの急激な変化は、2つのグループの同化インスリン濃度に著しい相違を誘出しなかった(それぞれ158±16μU/ml、n=6と146.2±22.1μU/ml、n=6、図3B)。
【実施例3】
【0066】
H9hES細胞におけるβ細胞関連遺伝子の発現
前述の実施例からヒントを得て、本出願人等は、未分化及び分化hES細胞から抽出した全RNAのRT−PCR分析を用いて、他のβ細胞関連遺伝子の発現を調べた。図4に示したように、インスリンmRNAは分化細胞で検出されたが、未分化hESでは検出されなかった。同様に、島グルコキナーゼ(GK、図4A)及びGlut−2(図4B)遺伝子も分化後に同定されたが、分化前には同定されなかった。EB又は高密度付着培養条件を用いても、同様の結果が得られた。これに対して、Glut−1アイソタイプ、構成グルコース輸送担体は、hESのすべての形態、並びにヒト線維芽細胞に広く発現した(図4B)。3種の転写因子、Oct4、Ngn3、IPF1の発現を調べた(図4C)。予想どおり、多能性状態のマーカであるOct4のmRNA発現は(Yeom等、1996、Niwa等、2000)未分化hESで検出されたが、分化から3週間の間に段階的に減少した(図4C)。本出願人等はさらに分化性hES細胞がIPF1/PDX1及びNgn3転写因子を発現することを実証したが(図4C)、これらは共に膵細胞及び内分泌細胞の分化を調節することが示されている(Edlund、1998、Apelqvist等、1999、Schwitzgebel等、2000、Herrera、2000)。
【0067】
βアクチンの発現は、β細胞関連遺伝子の発現と同様に、RNAロード及びブロットのレーン間相違の内部コントロールの役割を果たす。
【実施例4】
【0068】
ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)過剰発現hES細胞由来のインスリン産生細胞
多能性hES細胞は多くの細胞型に分化できるので、多能性hES細胞及びその派生物は、細胞移植を含む医療応用例及び研究に用いることができる。本発明の主要な目的は、所望の前駆体の集団、又は完全に分化した細胞が得られるように、hES細胞の分化を調節することである。
【0069】
本発明で用いた条件下で、驚くほど多数のインスリン産生β細胞が培養hESの分化中に出現することを本出願人等はすでに証明した(実施例2を参照)。この観察結果は、組織工学及び糖尿病の治療における細胞置換療法に用いる自然発生β細胞又はその前駆体の濃縮に基づく実験的方策の必要条件である。
【0070】
しかしながら、多量な分化細胞の濃縮及び増殖には、低い増殖能及び寿命の限定といった不都合が起こることが考えられる。この制限を克服するために、増殖優位性を付与する可能性のある薬剤(たとえば、テロメラーゼ)を用いることができる。テロメラーゼは特にテロメア長及び完全性を維持し、それによってその細胞の増殖能を拡大するために用いることができる。hTERTの異所性過剰発現が分化パターンに悪影響を及ぼさない場合、完全に分化されたテロメラーゼ陽性細胞の所望の系統を生成することができる。
【0071】
実験プロトコル:
a.未分化hES細胞におけるhTERTの異所性発現
hTERT過剰発現hES細胞は、インスリン産生細胞を生成するための選択及び濃縮に選ばれた条件と同じ条件下で分化することができる(培地中、インスリン+トランスフェリン+亜セレン酸ナトリウム(ITS)、グルコース、ニコチンアミド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、神経発育因子(NGF)、アクチビン、βセルリンなどの因子の組合せ)。
【0072】
本発明のもっとも好ましい実施形態によれば、ITSとして知られる因子、すなわちインスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸塩の組合せを用いて、インスリン産生細胞の収率を著しく高めることができる。好ましい塩の1つは亜セレン酸ナトリウムであるが、セレンを含有する他の塩も用いることができる。
【0073】
本出願人等は、減衰したリボソーム内部進入部位(IRES)を含有する適切な(たとえば、バイシストロン性)発現ベクターを用いることによって、均質なインスリン産生細胞が生成できるような方法で細胞特異プロモータ−ネオマイシン耐性導入遺伝子を用いるヒトES細胞の遺伝子改変の方策を用いる。このベクターは、β細胞分化経路の非常に早い段階でβ細胞の前駆体において活性化する細胞特異遺伝子プロモータPDX−1によってhTERTコード配列が駆動されるように構築される。他のプロモータをPDX−1の代わりに用いることができる。hTERTコード領域は、IRES及びハイグロマイシン又は他の抗生物質耐性選択マーカと共に単一カセットに存在するように構築される。さらに、このベクターは、たとえばPGKプロモータ又は他の哺乳動物プロモータを含む、構成プロモータの制御下ネオマイシン(又は他の抗生物質)選択マーカを有する。この構築物を未分化hES細胞にトランスフェクトし、ネオマイシン耐性クローンを選択する。次のステップにおいて、これらのクローンを分化させ、ハイグロマイシン耐性クローンを選択する。実質的には、選択マーカを発現するすべてのトランスフェクト細胞がテロメラーゼを発現するはずであり、この分化経路の非常に早い段階でPDX−1細胞特異プロモータを活性化する能力を有するインスリン産生細胞系統に分化する可能性が高い。
【0074】
hES細胞の増殖培地のグルコース濃度が高いことにより、高グルコースがPDX−1プロモータに与える有害な影響を回避するために、これに限定されるものではないが、ニコチンアミド、L−リボース、N−アセチルシステイン、及び他の抗酸化薬を含む抗酸化試薬を培地に添加する。
【0075】
b.クローン選択の基準
得られたクローンは、以下のとおり、有利な特性及び/又は有害性の不在に関して検査する。
1.偽陽性クローンによる選択手順が進行するのを回避するために、ネオマイシン耐性遺伝子の発現に関してRT−PCRを用いて未分化状態で検査する。
2.外因性hTERT又は他の増殖(寿命の延長)促進遺伝子の発現に関してノザンブロット分析又はRT−PCRを用いて、テロメラーゼ活性に関してTRAPアッセイを用いて、テロメア長に関してTRFアッセイを用いて、分化及びハイグロマイシン選択後に生じたクローンを検査する。これらは分化後、複数の時間間隔でモニターする。コントロールとして、同じプロセスを経た正常hESを用いる。
3.β細胞分化及び成熟に関わる因子の発現プロファイルを、定量RT−PCRを用いて検査する。以下の遺伝子の発現をモニターする。インスリン、PDX−1、Nkx6.1、Nkx2.2、Glut−2、Pax−6、BETA2、Ngn3、Islet−1、Pax−4、Hlxb−9、GK、ネスチン、プロホルモン変換酵素(PC)1及び2、グルカゴン、GAD65である。発現のパターンをコントロール細胞と比較する。必要であれば、評価を容易にするために、発現プロファイル用のマイクロチップを用いる。
4.Glut−2、GK、PCに関して、酵素アッセイを用いて特定酵素プロファイルを検査する。
5.前述のとおりhESから得られたインスリン産生細胞の品質管理を以下のパラメータを用いて行う。電子顕微鏡を用いる超微細構造の特性決定、インスリン分泌、インスリンプロセシング、電気生理学プロファイル、代謝プロファイル。
6.クローン中のβ細胞発生遺伝子発現プロファイルを、マイクロアレイチップを用いて正常細胞と比較する。
7.β細胞特異マーカに関して特定の抗体を用いて免疫組織化学又はウエスタンブロット分析を行う。
8.ヌードマウスに腫瘍を生じる能力、軟寒天における増殖能力(増殖巣形成)、及び正常細胞核型の存在を含む、当分野で知られている任意の基準に従って腫瘍形成性の不在を検査する。
【0076】
c.完全分化細胞系統へのhTERTの安定なトランスフェクション
完全に分化した細胞系統、たとえばインスリン産生β細胞の濃縮及び特徴決定に続いて、低い増殖能、寿命の限定といった不都合を克服するために、βアクチン遺伝子プロモータ又はPGK遺伝子プロモータなどの強力なプロモータによって駆動されるhTERT遺伝子コード配列を、選択マーカを用いて安定にトランスフェクトする。これは島移植のドナーの必要性に取って代わる可能性のあるインスリン産生β細胞の増殖を促進するための方策である。最終クローン集団を、上述のすべての基準に関して検査する。同時に、このクローン集団を、上に概説したとおり、テロメラーゼ活性、テロメア長、寿命の延長、及び腫瘍形成性の不在に関して検査する。
【0077】
d.Creリコンビナーゼ遺伝子と組み合わせた未分化hES細胞におけるhTERT及び/又は増殖促進遺伝子の異所性発現
細胞療法用の多量のインスリン産生細胞を確立するために、最終的に分化した成熟β細胞の増殖能及び寿命の限定という問題をいずれ克服する必要がある。前述のとおり、この制限を克服するために、テロメラーゼ活性を利用してテロメア長及び完全性を維持し、それによって細胞の増殖能を拡大することができる。別法として、上に記載の方策と同様に、増殖促進遺伝子をhES細胞に挿入することができる。簡潔に述べれば、PDX−1プロモータの制御下、SV40大型T抗原などの増殖促進遺伝子のコード領域を、それ自体もβアクチン遺伝子又はPGK遺伝子の構成プロモータの制御下ネオマイシン体制遺伝子を有するバイシストロン性ベクター中ハイグロマイシン選択マーカ及びIRESと共に単一カセットに構築する。前駆細胞集団を、成熟β細胞への最終分化の誘導後、桁違いに拡大することができる。これらの成熟細胞を、上述の基準を用いて、8番目の基準、すなわち腫瘍形成性の不在に重点を置いて検査する。
【0078】
細胞移植のために、腫瘍形成性を生じる可能性のあるDNA配列を、移植前に細胞から除去する。hTERT遺伝子は癌遺伝子ではないが、癌の85〜95%でその再活性化が起こる。さらに、ほとんどの増殖促進遺伝子が、細胞の悪性の特質を付与する能力を有している。
【0079】
このため、本出願人等は、細胞特異的に標的配列の不活性化及び除去を限定するためにCreリコンビナーゼ−loxP(Cre−loxP)を用いる。Creリコンビナーゼは、部位特異リコンビナーゼとして機能し、loxP部位として知られる特定の34bp配列間のDNA配列をスプライシングする。膵臓β細胞にのみ発現するインスリン遺伝子に独自の特性のために、Creリコンビナーゼ発現のβ細胞特異インスリンプロモータを用いて、完全成熟β細胞の遺伝子を不活性化及び除去することができる。このプロトコルは、IRES及びハイグロマイシン又は他の抗生物質選択マーカを伴う単一カセット中、上述のβ細胞前駆細胞特異プロモータPDX−1の制御下、hTERT又は増殖促進遺伝子コード配列で安定にトランスフェクトされたhESを用いる。ハイグロマイシン遺伝子の下流に独立して挿入されたlacZ遺伝子コード配列は、Creリコンビナーゼが活性化されていない限り、前駆細胞において未発現のままである。hTERT−IRES−ハイグロマイシン配列をloxPで挟むことにより(flox)、細胞内でのCreリコンビナーゼの発現に続いて、この配列の切り出しが可能となる。インスリンプロモータが活性化し、それによって完全に成熟したβ細胞でCreリコンビナーゼ遺伝子が活性化すると、この配列は除去(flox out)され、PDX−1プロモータの制御下、lacZコード配列が発現される。lacZ遺伝子の発現はCreリコンビナーゼの発現に依存するので、β細胞の標的遺伝子を切除し、lacZ遺伝子の発現をもたらす最大の組換えに要する最適時間を求めるために、時間的経過の研究は必須である。
【0080】
lacZ酵素活性の測定は、加水分解され、細胞内に保持される蛍光基質を用いて行う。この系の利点は、lacZが組換え効率を定量するレポータ遺伝子、及びlacZ発現レベルに基づく蛍光活性化細胞選別の選択マーカの両方としての機能を果たすことである。
【0081】
このアプローチの変法は、loxP部位の間にチミジンキナーゼ遺伝子が安定にトランスフェクトされた細胞でインスリンプロモータによって駆動されるCreリコンビナーゼを用いる。ガンシクロビルの添加によって細胞毒性が誘出され、TKが特異的に除去(flox out)される(細胞特異プロモータがCreリコンビナーゼを駆動)細胞のみがガンシクロビル処理後も生存する。
【0082】
本発明が属する分野の技術者は、前述のすべてのプロトコルを他の細胞特異プロモータに基づく系に一般化できることを理解するであろう。
【0083】
e.グルコース応答性
グルコース応答性に関して、本発明のプロトコルは、抗酸化剤を添加又は添加しない、様々なグルコース濃度の培地でのプレインキュベーションを利用する。長期培養に適切なインキュベーショングルコース濃度の指標として、EMSAによるPDX−1結合をモニターする。
【0084】
重要なことに、EBの約60%であるサブセットがインスリンを含有し、残部はインスリンを含有していないという観察結果は、その後の濃縮に用いる原材料として、もっとも高い割合でインスリン発現細胞を含むEBのサブセットを選択することから始めることが有用である可能性を示している。インスリンプロモータに駆動される必須のレポータマーカを安定に過剰発現するhESを用いることによって、このサブセットのEBを犠牲にすることなくこれらを選択することができる。
【0085】
別法として、EB集団を96ウェルプレートにウェル当たり1つのEBで接種し、培地へのインスリン分泌を測定することによって、インスリン応答性を実証する。
【実施例5】
【0086】
インスリンプロモータ駆動変異型緑色蛍光タンパク質(EGFP)レポータ遺伝子で安定にトランスフェクトされたhES細胞クローンの確立
a.ヒトインスリンプロモータを含有するプラスミドの構築(pIns)
ヒトインスリン遺伝子の327bpの5’フランキング領域及び30bpのエキソン1を含有するDNAフラグメントを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて増幅した。以下のオリゴデオキシヌクレオチオドをプライマとして用いた。
5’−GCG GAG CTC TCT CCT GGT CTA ATG TGG AA−3’
5’−GCG CTC GAG CTC TTC TGA TGC AGC CTG TC−3’
【0087】
新しい構築物のヒトインスリン調節フラグメントの配列を、ABI PRISM(登録商標)Big Dye(商標)Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystem)を用いる配列決定によって確認した。
【0088】
このフラグメントを、SacI及びXhoI制限酵素部位を用いて、pBluescript(登録商標)IIKS(Stratagene)にサブクローンした。pInsを含有するpBluescripをSacI及びKpnIによって消化し、得られたフラグメントをpEGFP−1(Clontech)のMCSに正しい方向性で挿入した。このベクターはさらに構成SV40プロモータによって駆動されるネオマイシン耐性遺伝子を有する。この特徴は、安定なトランスフェクションの実験の淘汰圧に関するさらなる研究において重要である。
【0089】
pEGFP−1バックボーンを、インスリンコアプロモータ駆動ハイグロマイシン耐性遺伝子がEGFPの上流に融合した第2の構築物に用いた。このレポータ遺伝子を用いる利点は、これがEGFP陽性細胞を同定する能力を備えた薬剤耐性選択マーカの利便性を提供することである。
【0090】
両発現ベクターにおけるインスリンプロモータの活性は、トランスフェクト細胞でEGFP蛍光を示すハムスターインスリノーマ腫瘍細胞(HIT)の一過性トランスフェクションを用いて試験した。
【0091】
b.安定なトランスフェクション
H9 hES細胞を6ウェルプレートで培養し、24時間後、3μgのプラスミドDNA及び6μlの非リポソーム配合FuGENE(商標)トランスフェクション試薬(Boehringer Mannheim)を用いてトランスフェクトした。
【0092】
陽性クローンを単離し、増殖培地中100μg/mlのG418の存在下で増殖し、ノザンブロット分析を用いてネオマイシン耐性遺伝子発現の特性を明らかにした。
【0093】
c.トランスフェクトクローンの奇形腫の発生
安定クローン由来の未分化細胞をヌードマウスの後肢に筋肉注射した(部位当たり細胞〜5×106)。70〜90日後、奇形腫を採取し、固定、パラフィンに包埋、5μmの切片を調製した。組織形態分析のために、切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した。免疫組織化学分析のために、脱パラフィン切片を、以前に記載のとおり、抗インスリン抗体と共にインキュベートした(Assady等、2001)。
【0094】
d.インスリン陽性細胞集団の確立
インスリンプロモータ−EGFPレポータで安定にトランスフェクトされた6つの陽性クローン、及びインスリンプロモータ−HygEGFPレポータで安定にトランスフェクトされた1つのクローンを確立した。
【0095】
野生型H9細胞と比べて、トランスフェクト未分化細胞は正常な形態を維持した。
【0096】
浮遊培養で増殖したとき、すべての新しいクローンが細胞集合体(胚様体)を生成し、ヌードマウスへの注射後、胚生殖細胞の3種すべての原始細胞層の進化した派生物を形成した(図5A〜B)。希少であるが明白なインスリン陽性細胞の小さなクラスタがIHCによって認められ(図5C〜D)、これはin vivoの血糖正常生理状態でこの特定の導入遺伝子を有する細胞に発生上の優位性が欠如していることを示している可能性がある。
【0097】
EGFPは未分化状態で陰性であり、分化条件下で増殖したとき、可視となった(図6)。培養ウェルにおいて、顕微鏡検査によって観察されたEGFP蛍光と、測定されたインスリン分泌及び含量との間に相関性があったことに留意されたい。たとえば、IB3クローン(図6B、1015μU/ml)に比べて低い蛍光及び低いインスリン含量(図6A、282μU/ml)を示したIIB6クローンは、IB3クローン(364.5μU/ml)に分泌されるものより少ないインスリンを分泌した(43μU/ml)。形態学的には、多くの場合EGFP発現細胞は小さく、密度の高いクラスタとして増殖した。これらの細胞をEGFP蛍光に基づく蛍光活性化選別を用いて分離したが、分子及び生理学上の特徴は現在調査されている。
【0098】
e.インスリン陽性細胞集団の濃縮
異なるプロトコルを比較する。15日間、EBとしてhESを増殖し、その後4〜5週間、増殖培地中ITS X1(Sigma又はGIBCO)及びFGF4ng/mlを含むマトリゲルに接種することによって、IB3クローン中FACS分析による評価で5%の濃縮が得られることが予備段階の結果示された(プロトコル1、図6B)。
【0099】
次に、最近Lumelsky等によって発表されたマウスES由来のβ様細胞を濃縮するための再現性段階的濃縮プロトコルの変更プロトコルを、EGFPレポータ遺伝子を用いるトラッキング濃縮法と組み合わせて適応した(プロトコル2)。簡潔に述べると、このプロトコルは以下の段階で構成された。
ステージI:トランスフェクトされたクローンの多能性未分化細胞を、4〜5日間、以前に記載されているとおり(Assady等、2001)、10cm組織培養皿(Nunc)でMEFの供給細胞層上に増殖した。
ステージII:コラゲナーゼIV型0.1%を用いて分散した後、細胞を4〜5日間、hrbFGFを含まない同じ増殖培地の浮遊培養に移した。
ステージIII:フィブロネクチン1μg/ml及びITS×1を含有する無血清DMEM/F12培地中、7〜10日間、フィブロネクチンコート6ウェル組織培養皿で増殖した後、トリプシン/EDTAX1(GIBCO/BRL)によって5分間EBを分散した。
ステージIV:B27補足剤(GIBCO)、N2補足剤(GIBCO)、ラミニン1μg/ml、FGF10μg/mlを含有する無血清DMEM/F12培地中、7〜8日間、ラミニン/ポリオルニチン又はラミニン/ポリリシンコート皿で細胞を増殖した。
ステージV:培地を、7〜10日間、ニコチンアミド10μg/ml、B27、N2、及びステージ4と同様にラミニンを含有する培地に置き換えた。
【0100】
この濃縮プロトコルを8回繰り返し、増殖及び分化の再現性パターンが認められた。図7A(第4日)に示したように、ステージIIIの第4日及び第5日に最初の蛍光シグナルが認められ、細胞の付着層において、Lumelsky報告の対応する段階では赤色の染色として示された陽性インスリン免疫蛍光を大いに連想させる形態で領域全体に散在して蛍光細胞群が観察される。ステージIV又はVの終わりまでに、容易に除去されるEGFP発現細胞のクラスタが、神経様投射路に囲まれた(図7B、第2日)。
【0101】
分子及び生理学上の特徴は現在調査されている。
【0102】
結論として、細胞特異プロモータによって駆動されるレポータを遺伝子導入した遺伝子導入多能性未分化hES細胞クローンが生成された。このアプローチは、インスリン産生細胞の分化を調査、モニターし、その後、今後に見込まれる移植療法のインスリン産生細胞の濃縮集団を単離するために用いることができる。
【0103】
上述の特定の増殖条件又はその構成要素は、hES由来インスリン産生細胞の有利な増殖を促進するプロトコルの基礎となるものである。これらのプロトコルの多くの項目を本発明の本質的要素から逸脱することなく変更できることを、当分野の技術者は明確に理解するであろう。多くの可能な変形例はすべて、開示された本発明の範囲内のパラメータの最適化であると見なすことができる。本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定義される。
【0104】
特定の実施形態に関する上述の説明は本発明の一般的な性質を完全に開示しているので、現在の知識を適用することによって、必要以上の実験なしに、包括的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を変更しかつ/又は多様な応用例に適応させることができ、したがってそのような適応及び変更は、開示された実施形態の同等物の意味及び範囲内であることが理解されるべきであり、理解されることが意図される。本明細書で用いられた表現及び用語は説明のためであり、限定のためではないことが理解される。開示した種々の機能を実施するための方法、材料、及び段階は、本発明から逸脱することなく他の様々な形態を取ることができる。したがって、上述の明細書及び/又は添付の請求の範囲に見出すことのできる、機能上の説明に伴う「〜するための手段」及び「〜のための手段」という表現、又は方法段階のいずれの表現も、上述の明細書に開示された実施形態の厳密な同等物であるかどうかを問わず、どのような構造的、物理学的、化学的、又は電気的な要素又は構造であっても、又は現在又は今後存在する可能性があり、列挙した機能を実行するどのような方法段階であっても、それを定義し、網羅することを意図し、すなわち同一の機能を実施するための他の手段及び段階を用いることができ、かつそのような表現にはもっとも広い解釈が与えられることが意図される。
【0105】
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1A】MEFからES細胞を除去して3日後、浮遊中、20倍の胚体(EB)を示す図である。
【図1B】MEFからES細胞を除去して3日後、浮遊中、40倍のEBを示す図である。
【図1C】MEFからES細胞を除去して17日後、浮遊中、40倍のEBを示す図である。
【図2A】正常なヒト膵臓のコントロール組織におけるインスリン発現を示す図である。
【図2B】分化19日後のEBにおけるインスリン発現を示す図である。
【図2C】分化19日後のEBにおけるインスリン発現を示す図である。
【図2D】分化19日後のEBにおけるインスリン発現を示す図である。
【図2E】分化19日後のEBにおける染色の細胞質局在(インスリン発現)を示す図である。
【図2F】非免疫血清を用いた分化19日後のEBを示す図である。
【図3】A:ノックアウト培地で培養した未分化hES細胞(uhES)、又は22日間及び31日間、高密度付着条件で分化させたhES細胞(dhES)によるインスリン分泌を示す図である。 B:種々のグルコース濃度で20〜22日間胚様体として培養、浮遊で増殖させたhESによるインスリン分泌を示す図である。
【図4A】未分化hES(uhES)、EB又は高密度付着細胞培養(dhES)として増殖する分化hES、及び正常ヒト線維芽細胞(NHF)の全RNA中のβ細胞関連遺伝子、インスリン、及びGKの発現を示す図である。
【図4B】未分化hES(uhES)、EB、高密度付着細胞培養(dhES)、及び正常ヒト線維芽細胞(NHF)の全RNA中のGlut−2、及びGlut−1の発現を示す図である。
【図4C】未分化hES(uhES)、EB、高密度付着細胞培養(dhES)、及び正常ヒト線維芽細胞(NHF)の全RNA中のOct4、Ngn3、及びIPF1/PDX1の発現を示す図である。
【図5A】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEBを示す図である。
【図5B】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEBを示す図である。
【図5C】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEB中のインスリン陽性細胞を示す図である。
【図5D】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEB中のインスリン陽性細胞を示す図である。
【図6A】IIB6クローン中の分化後のEGFP蛍光を示す図である。
【図6B】IB3クローン中の分化後のEGFP蛍光を示す図である。
【図7】神経投射路に囲まれたEGFP発現細胞を示す図である。
【0001】
本発明は、インスリン産生ヒト胚性幹細胞、インスリン産生ヒト胚性幹細胞集団の生成及び濃縮、インスリン産生ヒト胚性幹細胞又は安定細胞系の単離、並びにこれらの細胞の使用方法、特に細胞置換療法での使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
I型糖尿病は一般に、結果として生じる絶対的インスリン欠乏、及び外因性インスリン治療への完全依存を伴う、ランゲルハンス島β細胞の自己免疫破壊に起因する。膵臓又は島同種移植片移植の提供片が相対的に不足しているため、β細胞置換療法の代替供給源の探求が促されてきた。
【0003】
最近の研究は、I型糖尿病の眼、神経、及び腎合併症を低減するために、厳格な血糖コントロールが重要であることを強調している(Fioretto等、1998)。さらに、現在のところ膵臓及び島細胞置換が、唯一の治療アプローチであると考えられている。実際に、このアプローチは糖尿病性腎症を伴う患者において糸球体病変を好転することが最近示された(Shapiro等、2000)。このアプローチへの期待は、島同種移植片移植において糖質コルチコイドを含まない有害性の低い改善された治療プログラムの使用が報告されたことによって近年さらに高まっている(Samstein等、2001)。しかしながら、提供片の不足が主要な障害であり、このアプローチが実用的な解決手段となるのを妨げている。したがって、異種移植片などの代替供給源の使用に注目が集まっているが、異種移植片は未特定の人畜共通性感染の潜在的リスクを含む、他の不利益を有する(Efrat、1998)。齧歯動物由来のβ細胞系が、細胞置換治療の無限の供給源を提供する可能性も示唆されている。生体異物源に内在する問題に加えて、そのような細胞系は、増殖中のインスリン生合成及び調節性分泌の低下を伴う表現型の不安定性を露呈することが示されている(Efrat、1999、Soria等、2000a、Cheung等、2000)。より最近に記載された他のアプローチには、グルコース感受性プロモータの制御下でインスリン遺伝子又はインスリン遺伝子アナログを発現させることによって、あるいはインスリンプロモータ因子1/膵臓及び十二指腸ホメオボックス遺伝子1(IPF1/PDX1)の異所性発現によって(Thomson等、1998)、in vivo遺伝子導入を用いて他の組織にβ細胞表現型を拡張することが含まれる(Lee等、2000、Ferber等、2000)。
【0004】
多能性ヒト胚性幹(hES)細胞(Reubinoff等、2000、Shamblott等、1998)、及び胚性生殖(EG)細胞(Soria等、2000b)の確立は、特に最近のマウスESからのグルコース感受性インスリン分泌細胞産生の成功の観点から(Shamblott等、2001)、I型糖尿病患者における細胞療法に新しい潜在的供給源を導入した。hES細胞は、マウス胚性線維芽細胞(MEF)供給細胞層上で増殖させるとき、均質な未分化コロニーとして増殖する(Reubinoff等、2000)。以前に示されているように、これらのhES細胞は、正常な核型を有し、テロメラーゼ及び胚性細胞表面マーカを発現する。MEF供給細胞層からの除去は、ヌードマウスへの皮下注射後に形成される奇形腫から明らかなように、3種の胚性生殖層の派生物への分化に関連している(Reubinoff等、2000)。インスリン発現ではないが、内胚葉マーカは、以前に行われたEG細胞での異なる増殖条件及び分化マーカの総合的な調査において報告されている(Schuldiner等、2000)。分化hES細胞から抽出されたRNAにRT−PCRを適用し、インスリンを含む多様な分化細胞マーカを検出することが報告されている(Robertson、1987)。
【0005】
哺乳動物幹細胞に関して哺乳動物細胞の混合集団を濃縮する方法は、米国特許第6146888号に記載されている。この方法によれば、この哺乳動物細胞の混合集団は、哺乳動物幹細胞において優先的に抗生物質耐性遺伝子を発現するプロモータに操作的に結合した抗生物質耐性遺伝子を含む。したがって、哺乳動物細胞の混合集団は、抗生物質の存在下、哺乳動物幹細胞の優先的な生存に寄与する条件下、in vitroで培養される。
【0006】
新規な胚性細胞集団を生成し、増殖因子の組合せを用いて胚性幹細胞を増殖し、そのような細胞系を不朽化する多様な方法は当分野で知られており、数ある中でもたとえば米国特許第5690926号、第5753506号、第6110739号、欧州特許出願第380646号に記載されている。
【0007】
細胞の多能性を保持しながら、ヒト胚性幹細胞を長期間in vitroで培養する方法、並びに前記細胞の精製調製物は米国特許第6200806号に記載されている。この胚性幹細胞は、培養期間中及び11ヶ月の連続培養後、3種すべての胚性生殖層由来のすべての組織に分化する能力も維持する。
【0008】
幹細胞を含む細胞の増殖、付着、及び/又は分化を支持する表面を産生する方法は、米国特許第6232121号に記載されている。この方法は、少なくとも1種の生物活性増殖因子を含む細胞外マトリクスの細胞による分泌を促進する条件下で表面上に骨肉腫細胞を増殖させることを含み、細胞外マトリクス及び増殖因子は同時に産生され、細胞外マトリクスは前記表面に接着されている。
【0009】
未分化胚性幹細胞から所望の構造の所望の生体組織を哺乳動物において再生する方法は、米国特許第6328765号に記載されている。
【0010】
治療上有効量のヒト間葉幹細胞を投与することによって、ヒト対象を治療する方法は、米国特許第6355239号に記載されている。この特許による幹細胞は、組み込まれた当該遺伝物質を発現することができる。
【0011】
インスリン産生細胞系が確立されたヒト幹細胞系から得られる可能性のあることは背景技術のいずれにも教示されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一目的は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を濃縮した細胞集団を提供することである。好ましくはヒト胚性幹細胞由来の選択されたインスリン産生細胞を含有する細胞集団、より好ましくは単離された細胞、もっとも好ましくはクローン化細胞系が、本発明の原理に従って提供される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の他の態様によれば、hES細胞由来のインスリン産生細胞、又はhES細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団は調節可能である。好ましくは、それらはグルコース応答性、又はインスリン産生及び分泌に関してグルコース調節可能である。
【0015】
本発明の他の態様によれば、hES細胞由来のインスリン産生細胞、又はhES細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団は、長期間にわたって安定であり、好ましくは長命であり、すなわち増殖停止又は老化せず、より好ましくは安定な細胞系であり、もっとも好ましくはクローン細胞系であり、あるいは不朽化細胞系である。
【0016】
本発明の他の態様によれば、hES細胞由来のインスリン産生細胞、又はhES細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団は、これに限定されるものではないが、細胞置換療法を含む医療応用例に有用である。
【0017】
本発明の原理により、多能性未分化ヒト胚性幹(hES)細胞が系統特異分化の系として機能し得ることがここに開示される。付着及び浮遊培養条件においてhES細胞を用いる本発明の好ましい実施形態において、in vitro分化がインスリン産生β細胞の特性を有する細胞の生成を含むことが実証された。インスリンの免疫組織化学染色が、驚くほど高い割合の細胞で認められた。インスリンの培地への分泌は、分化依存的に認められ、他のβ細胞マーカの出現に関連した。これらの調査結果は、糖尿病における細胞置換療法の可能な供給源としてのヒトβ細胞又はその前駆体の派生及び/又は濃縮の潜在的基礎として、hES細胞系の有効性を示している。
【0018】
本発明のより好ましい実施形態により、インスリンプロモータを用いてヒト胚性幹細胞を安定にトランスフェクトできることがここに開示される。以下に例示するとおり、これらの安定なトランスフェクタントは多能性を維持する。
【0019】
本発明のもっとも好ましい一実施形態によれば、インスリンプロモータは、非限定的な例として緑色蛍光タンパク質などの蛍光マーカのような好都合なマーカに結合することができ、それによりトランスフェクタントの蛍光活性化細胞選別装置(FACS)による選択又は濃縮が可能になる。この安定なトランスフェクタントは、非限定的な例としてハイグロマイシンなどの抗生物質を用いて選択することができ、首尾よくクローン化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
最近、ヒト及び成体マウスの膵幹細胞からin vitroで島細胞が首尾よく生成された(Ramiya等、2000、Amit等、2000)。後者の研究において、Ramiya等は、非肥満型糖尿病マウスに移植後、これらの島細胞が糖尿病を好転できることを示した。しかしながら、このアプローチの重大な実用上の制限は、ヒト膵臓から培養できる細胞の数が限られていることである。したがって、ヒト胚性幹細胞は適当な潜在的代替物である。
【0021】
本発明は、ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞の生成、濃縮、選択、クローニング、及び使用に関する。本発明を、好ましい実施形態に関してここに詳しく記載する。
【0022】
I.定義
本明細書では、「多能性胚性幹細胞」は、生殖細胞(***及び卵子)を含む、胚又は成体に多数の分化細胞型を生じることのできる細胞を意味する。これは細胞系統においてもっとも分化していない細胞である。多能性胚性幹細胞は自己複製することもできる。この細胞型は、本明細書では「ES細胞」とも呼ばれる。しかしながら、幹細胞は操作上の用語である。ES細胞は供給細胞層で培養されるか、又はある種の細胞によって調整された培地で培養されたときにのみ、in vitroで幹細胞表現型を保持することが知られている。供給細胞層又は調整培地が存在しないとき、ES細胞は自然に多種多様な細胞型に分化し、これは胚形成中、及び成体動物において見出されるものに類似している。
【0023】
本明細書では、「供給細胞層」は、多能性ES細胞を培養するために培養された細胞又は細胞系である。あるいは、供給細胞層は、始原生殖細胞、胚体外胚葉細胞又は生殖細胞が位置する、たとえば生殖腺などの器官又は組織に由来するか、又はそれらから提供され得る。したがって、所望の細胞が位置する組織又は器官の体細胞が適切な培養環境を提供するのに充分である場合、別の供給細胞層は必要でない。あるいは、この供給細胞層は、細胞外マトリクスと結合増殖因子とによって代用できる。
【0024】
本明細書では、「補足剤」という用語は、「因子」という用語と同じ意味で用いられる。培地に添加される因子は、多能性ES細胞の形成に必須である。したがって、用いられる因子の量は、多能性ES細胞の最終結果によって決定される。しかしながら、この因子はさらに増殖を促進し、細胞の連続増殖を可能にする役割も果たす。したがって、因子は細胞の生存にも役立っていると考えられる。
【0025】
本明細書では、「遺伝子改変細胞」という用語は、たとえば当該遺伝子のコード配列を含む発現ベクターなどのベクターによってトランスフェクトされた細胞に関し、前記細胞は前記遺伝子を発現することができる。特に本発明において、遺伝子改変細胞は、リボソーム内部進入部位(IRES);細胞特異遺伝子プロモータ、たとえばβ細胞分化経路の非常に早い段階でβ細胞の前駆体において活性化するPDX−1;ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT);これに限定されるものではないが、たとえばネオマイシンなどの抗生物質を含む選択マーカ、又は蛍光マーカ、たとえば変異型緑色蛍光タンパク質(EGFP);構成プロモータ、たとえばPGKプロモータ又は他の哺乳動物プロモータから選択された少なくとも1つの遺伝子コード配列を含有する発現ベクターを用いてトランスフェクトされた胚性幹細胞である。この遺伝子改変hES細胞は、それらをインスリン産生細胞に分化させる条件下で培養することができる。
【0026】
II.本発明を実施するための好ましい様式
膵臓の胚発生は、増殖因子、上皮/間葉相互作用(Edlund、1999)、及び最終的に多様な転写因子の発現を調節する細胞外マトリクス(Apelqvist等、1999、Kim等、2001、Efrat、1997)を含むいくつかの別個であるが相互に作用する機構によってもたらされるものであることが当分野で知られている。しかしながら、腸内胚葉が膵臓組織に発達することを確約する事象のカスケードにおける最初のシグナルはまだ知られていない。
【0027】
現在用いられるhES細胞は、未分化状態で均質に見えるにもかかわらずクローン起源ではなく、各hES由来細胞系の分化をin vitroで独立して調べるか、あるいは増殖因子に対する明確な分化応答を用いてクローンhES細胞系を調べる必要性を示唆している(Klug等、1996)。
【0028】
胚性幹細胞は、自然に分化する生得の特性を示す。本発明の未分化hES細胞の集団を濃縮し、その均質性を維持するために、これらの細胞の生得の自然分化は抑制されなければならない。胚性細胞の分化を抑制する方法には、以下に非限定的な例として記載するようなマウス線維芽細胞などの供給細胞層、又はある種の細胞によって調整した培地で未分化胚性細胞を培養することが含まれる。
【0029】
hES細胞における分化の誘導、好ましくは特定の細胞系統に対して制御された誘導は、たとえば培地から分化抑制要素、たとえば供給細胞層を除去することによって主として達成される。結果として生じる分化を有効に制御するために、細胞は均質状態でなければならない。胚性幹細胞の増殖及び分化を支持できる任意の細胞培養培地を本発明に用いることができる。そのような細胞培養培地には、これに限定されるものではないが、Basal Media Eagle、Dulbecco’s Modified Eagle培地、Iscove’s Modified Dulbecco’s培地、McCoy’s培地、Minimum Essential培地、F−10 Nutrient Mixtures、OPTI−MEM(登録商標)Reduced−Serum培地、RPMI培地、及びMacrophage−SFM培地、又はそれらの組合せが含まれる。培地は、濃縮(たとえば10倍)、又は非濃縮形態で供給でき、液体、粉末、又は凍結乾燥体として提供されることができる。培地は、GIBCO BRL(Gaithersburg Md.)、及びSigma(St.Louis Mo.)などの多数の供給元から市販されている。
【0030】
本発明の一態様によれば、インスリン産生細胞に対して制御されたhES細胞のin vitroでの分化は、好ましくは、以下でノックアウト培地とも称する無血清条件下で行われる。好ましくは、ノックアウト培地には、血清代替物、非必須アミノ酸、2−メルカプトエタノール、グルタミンを補足する。もっとも好ましくは、ノックアウト培地には、さらにヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(hrbFGF)を補足する。
【0031】
ES細胞を用いて、ES派生(より分化した)細胞を産生する因子をスクリーニングすることができる。より分化した細胞の存在を判定するための多くの標準的な手段が当分野でよく知られている。たとえば、RT−PCRは分化hES細胞から抽出されたRNAに適用され、インスリンを含む多様な分化細胞マーカの検出を可能にしている(Robertson、1987)。しかしながら、インスリンの培地への同化、インスリン産生細胞の割合を含む量的な側面は当分野で知られていない。そのような情報は、β細胞置換細胞療法の供給源として、hES細胞の使用を可能にするために不可欠である。
【0032】
本発明は、さらにβ細胞の特徴を有するインスリン分泌細胞を産生する経路が、本明細書に記載の適切な条件下、培養ヒト胚性幹細胞の自然分化の過程で生じるのは珍しくないことを証明している。この観察結果は、細胞置換療法に用いる、自然発生β細胞又はその前駆体の濃縮に基づく実験的方策の必要条件である。本明細書に記載の細胞は、インスリンを産生、分泌し、2種の必須の遺伝子、Glut−2及び島特異グルコキナーゼ(GK)を発現するが、これらはβ細胞機能及びグルコース刺激インスリン分泌において重要な役割を果たすと考えられている(Matschinsky等、1998、Shepherd等、1999、Alarcon等、1998)。β細胞発生マーカ出現の時間的経過を含む、同定された他のマーカを考慮し、完全にプロセシングされたインスリンの分泌を考慮すると、インスリン染色細胞がβ細胞に関係せず、胚体外性又は他の起源である(Ling等、1996)という可能性は極めて低い。
【0033】
有効な細胞置換療法の他の必要条件は、ヒト胚性幹細胞によるインスリン産生がグルコース応答性又は調節可能であることである。β細胞が均質又は濃縮状態でなく、他の細胞型の中に存在する限り、グルコースの作用を他の分泌促進物質の対抗的な作用から分離することはできない。さらに、均質細胞集団が存在しないとき、EBの不均質性、及びタンパク質又はDNA含量などのパラメータに対するインスリン応答を正規化することの難しさから、異なる実験条件に基づく比較は容易に定量されない(Jonkers等、1999)
【0034】
選択された細胞を単離及び増殖するために、不均質なES細胞集団から前駆細胞を選択する好ましい方策には、細胞特異プロモータを用いた多能性ES細胞のトランスフェクションが含まれる。好ましくは、細胞特異プロモータをさらに、抗生物質耐性クローンを選択できる抗生物質などの都合のよいマーカ、又は蛍光活性化細胞選別装置(FACS)によって所望の細胞を選択できる蛍光マーカに結合することができる。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態によれば、未分化ヒトES細胞は、β細胞発生の非常に早い段階でβ細胞前駆体において活性化する細胞特異遺伝子プロモータを用いてトランスフェクトされ、前記トランスフェクションは、ES細胞の多能性を損なわない。さらに、前記プロモータの制御下、選択マーカが添加され、トランスフェクト細胞は分化され、選択的インスリン産生細胞クローンが産生される。
【0036】
グルコースに応答するインスリン分泌の微調整は、機能の異質性のため隣接するβ細胞間の相互認識を必要とし、単離されたβ細胞の機能は、クラスタ又は偽島に見出されるβ細胞とは異なることが示されている(Charollais等、2000、Bonner−Weir等、2000)。他の系において以前に報告されているように、高濃度のグルコースへの長期の曝露は、そのようなインスリン産生細胞の機能に影響を及ぼし、急激なグルコースの変化に対する応答性が低減される可能性のある(Jonkers等、1999)ことが考えられる。この高グルコース培地は、生存可能なhESの培養増殖の維持に必要であるが、このことは低濃度のグルコースを含有する培地でのインスリン産生能力を備えた細胞の増殖を可能にするプロトコルがグルコース応答性を付与又は回復する可能性を排除しない。いずれの場合においても、分化hES由来のβ細胞移植片を用いた糖尿病の治療のために、マウスES由来β細胞に関して実証されている(Shamblott等、2001)濃縮又は均質β細胞培養物獲得後の刺激−分泌連関を実証する必要がある。
【0037】
本明細書に開示の様々な実験的アプローチの元でhES細胞のH9系の分化を用いて、もっとも顕著なインスリン産生及び分泌を含むβ細胞の特徴を備えた豊富な細胞が確立されることが初めてここに開示される。hESの安定なトランスフェクタントが得られたことが初めてここに開示される。これらのトランスフェクタントは多能性を維持し、選択、濃縮、クローン化することができる。これらの安定にトランスフェクトされたクローンを浮遊培養で増殖したとき、野生型hESCに外観の類似した、細胞集合体(胚様体)が生成された。
【0038】
多量の未分化及び分化胚性幹細胞の濃縮及び増殖には、低い増殖能及び寿命の限定という不都合が起こることが考えられる。この制限を克服するために設計された条件及び方法は、細胞置換療法の利益を大いに高めることになる。このことは、より高い供給量のhES細胞を提供する多能性未分化胚性幹細胞の「自己再生」の増加、及びより高い供給量の系統特異細胞、特にインスリン産生β細胞を提供する分化を伴う増殖の両方に当てはまる。分化及び未分化胚性幹細胞に増殖優位性を付与する可能性のある薬剤が、好ましくは本発明において用いられる。テロメア長及び完全性を維持し、それによって胚性幹細胞の増殖能を拡大するために、特にテロメラーゼを用いることができる。ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)の異所性過剰発現が分化パターンに悪影響を及ぼさない場合、テロメラーゼ陽性ES細胞の完全に分化された所望の系統を生じることができる。
【0039】
さらなる特性決定と研究のためにインスリン分泌hES由来細胞系の集団を濃縮する方策に関して、マウスES細胞由来の心筋細胞を濃縮するために最初にKlug等が記載したアプローチを本出願にも潜在的に適合できることを本出願人等の結果は間違いなく示唆している(Klug等、1996)。簡潔に述べれば、Klugのアプローチは、ES細胞の心筋細胞への分化の誘導、それに続く心筋ミオシンプロモータを用いたES細胞の安定なトランスフェクションに基づいている。この単純な遺伝子改変は、分化性ES細胞からの本質的に純粋な心筋細胞の培養の生成を可能にする。非限定的な1つの例として、β細胞の場合、下流の選択マーカに接合されたインスリンプロモータは、分化ヒトES細胞由来のこれらの細胞の適切な選択ツールとしての機能を果たすことができる。実際に、最近この方策はマウスES細胞由来のβ細胞の濃縮に拡大適用された(Shamblott等、2001)。本発明の観察結果は、非クローン多能性hES細胞の自然分化の条件下であっても、インスリン産生能を有する細胞を驚くほど高い発現量で含むEBが産生されることを示唆している。この研究において60%を越えるEBが陽性染色細胞の散在小集団を含有し、これはマウスESでは1%未満であるのに対し、ヒトEBの細胞集団の約1〜3%に相当する(Efrat、1998、Shamblott等、2001)。これは自然に起こったように見えるが、分化培地にはbFGFが補足されていることに留意されたい。近年、Hart等(Hart等、2000)は、FGFシグナリングがβ細胞の成熟、最終分化、及び生後伸長に関与する可能性のあることを示した。組織工学による推定値は、このことがすでにKlug等(Klug等、1996)に記載の方策に基づく濃縮プロトコルの充分な基礎となることを示している。重要なことに、EBの約60%であるサブセットがインスリンを含有し、残部はインスリンを含有していないという観察結果は、その後の濃縮に用いる原材料として、もっとも高い割合でインスリン発現細胞を含むEBのサブセットを選択することから始めることが有用である可能性を示している。インスリンプロモータに駆動される必須のレポータマーカを安定に過剰発現するhESを用いることによって、このサブセットのEBを犠牲にすることなくこれらを選択することができる。本明細書で以下に例示するとおり、EB中の細胞混合集団においてβ細胞の出発総数を増加するための追加のプロトコルは、濃縮方策の収率を高めることができる。
【0040】
その発現がたとえば本発明の細胞に増殖優位性を付与し、選択効率を高める可能性のある所望の遺伝子が細胞培養に導入される。エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、その遺伝子配列を含有するウイルス又はバクテリオファージベクターの感染、細胞融合、染色体介在遺伝子導入、マイクロセル介在遺伝子導入、リン酸カルシウム介在トランスフェクション、スフェロプラスト融合などを含む、細胞に外来遺伝子を導入するための多数の技法が当分野で知られている(たとえば、Loeffler等、1993、Cohen等、1993、Cline、1985を参照のこと)。受容細胞に必要な発達及び生理的機能が妨げられないならば、これらの方法を本発明に従って用いることができる。その遺伝子がその細胞によって発現可能であり、好ましくはその細胞子孫においても遺伝性かつ発現可能であるために、この方法はさらにES細胞への安定な遺伝子の導入を提供するべきである。通常この導入法には、細胞に選択マーカを導入することが含まれる。次いで、この細胞を選択段階に供し、導入された遺伝子を取り込み、それを発現している細胞を単離する。
【0041】
III.薬理学
本発明のES細胞は、病的状態を治療する療法に用いる細胞を得るために用いることができる。胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を導入するか、あるいは多能性胚性幹細胞を得ることのできる対象は、好ましくは、これに限定されるものではないが、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどを含む動物であり、好ましくは哺乳動物であり、もっとも好ましくはヒトである。好ましくは、この胚性幹細胞はそれが投与される対象に由来し、すなわち移植片は自己由来である。たとえば、ヒトES細胞の派生物は、インスリン産生β細胞置換細胞療法の供給源として用いることができる。
【0042】
本発明は、治療上有効量の細胞、好ましくは胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を含む薬剤(治療)組成物を対象に投与することによって治療する方法を提供する。治療上の使用が想定されるそのような細胞は、以下において「治療剤」又は「本発明の治療剤」と呼ぶ。好ましい態様において、治療剤は実質的に精製されている。対象は、好ましくは哺乳動物、もっとも好ましくはヒトである。
【0043】
本発明の治療剤は、移植される細胞型及び移植部位に適切な、当分野で知られている任意の方法によって、疾病又は損傷の治療のために患者に投与することができる。この細胞は、当該器官に位置することができるならば、静脈内に移植することができる。特定の実施形態において、本発明の治療剤は、治療を必要としている領域に局所的に投与することが望ましい可能性がある。この投与は、これに限定されるものではないが、たとえば手術時局所注入、局所適用、たとえば注入、カテーテル、又はインプラントにより埋め込み部位で膵臓に直接移植することによって達成され、前記インプラントは、ポーラス、非ポーラス、又はゼラチン材料であり、シアラスチック(sialastic)膜などの膜、又はファイバーが含まれる。
【0044】
本発明は、薬剤組成物を提供する。そのような組成物は、治療上有効量の治療剤、及び薬剤として許容される担体又は賦形剤を含む。そのような担体には、これに限定されるものではないが、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組合せが含まれる。この担体及び組成物は無菌であり得る。配合は投与様式に適しているべきである。
【0045】
この組成物は所望であれば、微量の湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤をさらに含むことができる。組成物は、溶液、懸濁液、又はエマルジョンであることができる。
【0046】
好ましい一実施形態において、この組成物は、好ましくはヒトの膵臓組織への静脈内投与又は異所性投与に適合させた薬剤組成物として常法に従って配合される。必要な場合には、この組成物は、可溶化剤、及び投与部位の痛みを緩和するためにリグノカインなどの局所麻酔剤をさらに含むことができる。
【0047】
本明細書で細胞移植とも称する細胞置換療法のために変更できる代表的な方法は、Lindvall等によって示されている(Lindvall等、1989及び1990)。
【0048】
特定の障害又は状態の治療に有効な本発明の治療組成物の量は、その障害又は状態の性質によって決まり、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、最適な投与量範囲を特定する一助とするために、任意選択でin vitroアッセイを用いることができる。製剤に用いられる正確な用量は、さらに投与経路、及び疾病又は障害の重篤度によって決まり、医師の判断、及び各患者の状況によって決定されるべきである。
【0049】
IV.本発明の利点
本明細書に開示のとおり、hES細胞の複雑な分化パターンは、プロインスリン及び/又はインスリン産生、インスリン放出、並びに他のβ細胞マーカの発現を含む、β細胞機能の多くの特性を有する細胞のサブセットを含む。この発見は、I型糖尿病における細胞置換の供給源としてのhES細胞由来の細胞の濃縮に基づく方策に必要な前提条件である。さらに、そのような細胞を驚くほど高い割合で含むEBの数は、細胞置換療法におけるインスリン産生ヒト胚性幹細胞の使用の成功の可能性に関して好材料である。
【0050】
結論として、本出願人等はここに初めて、細胞特異プロモータによって駆動されるレポータを遺伝子導入した、遺伝子導入多能性未分化hESCクローンを開示する。このアプローチは、インスリン産生細胞の分化の調査及びモニターに有用である。本発明は、細胞移植療法に有用なhESC由来のインスリン産生細胞の成功した単離及び濃縮を初めて提示する。
【0051】
本発明は本明細書に特に示し記載したものによって制限されないことを、当分野の技術者は理解するであろう。本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定義される。
【実施例1】
【0052】
研究計画及び方法
a.組織培養
多量の初代マウス胚線維芽細胞(MEF)をRobertson(Robertson等、1995)に記載のとおり調製し、液体窒素に保存した。各解凍後、細胞は3〜5継代のみ使用した。
【0053】
hES H9細胞を、35Gyでγ照射することによって有糸***不活性化したMEFの供給細胞層上で培養増殖して未分化状態で維持し、ゼラチンコートした6ウェルプレートに培養した。細胞を、20%血清代替物(GIBCO/BRL)、1%非必須アミノ酸(GIBCO/BRL)、0.1mM2−メルカプトエタノール(GIBCO/BRL)、1mMグルタミン(Biological Industries、Ashrat、Israel)、4ng/mlヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(hrbFGF、PeproTech Inc.Rocky Hill、NJ)を補足したノックアウトDMEM(GIBCO/BRL、Grand Island、NY)で増殖させた。培養物を5%CO2、湿度95%で増殖させ、0.1%のコラゲナーゼIV(GIBCO/BRL)で分散した後、4〜5日毎に定期的に継代した。
【0054】
b.hES細胞の分化の誘導
マウスESに分化を誘導する方法を、本発明においてhES分化の誘導に適用した(Robertson等、1995、Keller、1995)。簡潔に述べると、約107の未分化hES細胞を分散させ、100mm細菌用ペトリ皿(Greiner、Frickenhausen、Germany)で浮遊培養したが、これによって初期の小集合体形成を特徴とする同調分化が誘導され、次いで胚様体(EB)の構造が得られる(Itskovitz−Eldor等、2000)。別法として、hESコロニーをコンフルエンスまで(約10日)未継代のままにし、その後、供給細胞層を含まないゼラチンコート6ウェル組織培養プレートに再び培養した。細胞は、一連の細胞表現型に自然に分化した。分化に用いた増殖培地は、上述のとおりである。
【0055】
c.組織学的分析
EBを指示された間隔で収集し、氷冷PBSで3回洗浄、10%中性緩衝ホルマリンに一晩固定、段階的濃度(70〜100%)のアルコールで脱水、パラフィンに包埋した。一般的な組織形態学分析のために、5μmの切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した。
【0056】
d.免疫組織化学
脱パラフィンした5μmの切片を、1次抗体のポリクローナルモルモット抗ブタインスリン1:100希釈(Dako)と共に室温で90分間インキュベートし、次いでヤギ抗ウサギビオチン化2次抗体と共にインキュベートした。ストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ複合体及び基質としてAEC(又はDAB)(Histostain−SPキット、Zymed Lab Inc.CA)を用いて、検出を行った。対比染色はヘマトキシリンを用いて行った。非免疫血清を陰性コントロールとして用い、正常ヒト膵臓パラフィン切片を陽性コントロールとして用いた。
【0057】
e.形態計測研究
免疫組織化学によって陽性に染色している細胞の相対的割合を推定するために、以前に記載されているとおり形態計測を行った(Green等、2000)。
【0058】
f.インスリン検出アッセイ
付着細胞に関して、MEF、未分化hES細胞、in vitroで自然に分化した細胞を、20日を超える期間6ウェルプレートで増殖させた。細胞を、25mMグルコースを含有する無血清培地で3回洗浄し、3mlの無血清培地中で2時間インキュベートした。浮遊EBに関して、50mmの細菌用ペトリ皿で実験を行った。プレート当たり60から70のEBを、5.5mM又は25mMのグルコースを含有する3mlの無血清培地に曝露した。その後、調整培地を回収し、プロインスリン又はCペプチドに交差反応性がなく、ヒトインスリンを検出する微粒子酵素免疫測定法MEIA(Abbott AXSYM(登録商標)システムインスリンキット、コードB2D010)を用いて、インスリンレベルを測定した。データは平均±標準誤差で表す。
【0059】
g.RT−PCR
未分化hES細胞、及びEBとして、又は分化の様々な段階の高密度培養として増殖するin vitro分化hES細胞から全RNAを単離した。
【0060】
0.5μmol/lのオリゴdT(12-18)(GIBCO/BRL)及び400μmol/lのdNTPを含有する1倍転写バッファ中でMoloneyマウス白血病ウイルス(M−MuLV)逆転写酵素(Promega)を用いて、7μgの全RNAからcDNAを合成した。cDNAのアリコートを、IPF1/PDX1、ニューロゲニン3(Ngn3)、オクタマー結合転写因子(Oct4)、Glut−1、及びGlut−2に対して1:5、又はインスリン、及び島特異グルコキナーゼ(GK)に対して1:2で希釈した。続いてPCR反応を以下のように行った。cDNA2.5μl(IPF1/PDX1、Ngn3、Oct4の場合)又は5μl(その他の場合)、1倍PCRバッファ、dNTP400μmol/l、各プライマペア100ng、Taqポリメラーゼ1U。5分間の最初のホットスタート後、βアクチンは28サイクル、Glut−1は31サイクル、Glut−2は40サイクル、グルコキナーゼは38サイクル、インスリンは36サイクル、Oct4は37サイクル、IPF1/PDX1及びNgn3は35サイクル増幅を続けた。熱変性段階は94℃で1分間、アニーリングはそれぞれ58、52、50、67、62、55、52、60℃で1分間、伸長は72℃で1分間、最終重合は10分間行った。この増幅産物を1.5%アガロースゲルで分離した。それぞれのPCR反応は、直線条件下二重で行った。ヒトインスリン、IPF1/PDX1、Ngn3、βアクチンの決定に用いたフォワード及びリバースプライマ配列は次のとおりである。それぞれhIns:5’−GCC TTT GTG AAC CAA CAC CTG−3’、5’−GTT GCA GTA GTT CTC CAG CTG−3’(261bpフラグメント)、IPF1:5’−CCC ATG GAT GAA GTC TAC C−3’、5’−GTC CTC CTC CTT TTT CCA C(262bpフラグメント)、Ngn3:5’−CTC GAG GGT AGA AAG GAT GAC GCC TC−3’、5’−ACG CGT GAA TGG GAT TAT GGG GTG GTG−3’(948bpフラグメント)、βアクチン5’−CAT CGT GGG CCG CTC TAG GCA C−3’、5’−CCG GCC AGC CAA GTC CAG GAC GG−3’(508bpフラグメント)である。Glut−1、Glut−2、GK、及びOct4の決定に用いたプライマ配列は、以前に記載されたとおりであり(Seino等、1993、Koranyi等、1992、van Eijk等、1999)、増幅フラグメントはそれぞれ310、398、380、320bpであった。
【0061】
h.統計
結果は平均±標準誤差で表し、比較は対応のないスチューデントt検定を用いて行った。
【実施例2】
【0062】
自然分化のヒトES細胞H9系由来インスリン産生細胞
本発明の好ましい一実施形態に従って、hES細胞のH9系を用いた。これらの細胞は、MEFの供給細胞層上で増殖させるとき、均質かつ未分化のコロニーとして増殖する。したがって、H9細胞in vitro自然分化を、MEF供給細胞層から細胞を除去した後、2種の異なるモデル系を用いて調べた。MEFの不在下、組織培養プレート中付着条件で増殖した細胞は、ニューロン様、筋様、又は腺様構造を含む多数の形態を有する多面性パターンを示した(データは示していない)。対照的に、浮遊培養のin vitro分化は、離散EBの形成を伴うより均一なパターンを生じた。細菌用ペトリ皿に移して1日後、細胞は付着できず、小さな集合体を形成した。この条件下で3日後、EBは内細胞を囲む原始内胚葉層を有する単純構造を獲得し(図1A〜B)、その後、大きさを増し続け、より嚢包性の構造を発達させた(400〜700μm)。これらはマウスEBに関して報告された形態に類似している(Abe、1996)。続く研究は空間及び時間的パターンを求め、インスリン産生能を有するEB浮遊培養の細胞の相対密度の推定値を得るために免疫組織化学(IHC)を用いて行った。EBの全体的な組織形態を知るために、パラフィン包埋切片のヘマトキシリン及びエオシン染色を用いた。EBの構築は、MEFから除去し浮遊培養に移して3日後には始まった。浮遊培養において日数の経過と共に、中空構造又は嚢胞の内側を覆う上皮又は内皮様細胞などの、より複雑な構造が明らかになった(図1C)。
【0063】
EBの発達をモニターするために、第19日まで3日毎にEBを採集した。抗インスリン抗体を用いる免疫組織化学は、細胞が分化の第14日にはインスリンを発現し、その数は第19日まで漸進的に増加することを明らかにした(図2A〜F)。インスリン発現細胞は、EB中に散在するか、あるいは小さいクラスタを形成することが見出された(図2A〜F)。インスリンに対して陽性に染色されるEBの中で(60〜70%)、平均して1〜3%の細胞が最大密度で染色されていた。残りの30〜40%のEBは、インスリン染色に陰性であった。
【0064】
自然に分化する付着hESの混合集団に散在しているこれらのインスリン含有細胞の特性を明らかにするために、未分化hES(uhES)、分化hES(dhES)、及びMEF細胞において培地に同化したインスリンを酵素免疫法によって測定した。増殖培地は、hESの生存に必須である25mMグルコース及び血清代替物を含有した。インスリンの分泌は、付着細胞(図3A)及びEB(図3B)の両方の培養条件で測定した。付着細胞では、未分化hES(5.6±0.6μU/ml、n=6)から採取された無血清培地で微量の免疫反応性インスリンが検出され、hESを覆っていない供給細胞層からは検出されなかった(データは示していない)。しかしながら、分化の22日後、及び31日後に採取した無血清培地では、インスリン濃度はそれぞれ126.2±17.7(n=12)、及び315.9±47μU/ml(n=7)であった(図3A)。dhES細胞のインスリン濃度は、uhES細胞に比べて著しく高かった(P<0.0001)。dhES細胞において、分化31日後のインスリン分泌は、22日後に比べて著しく高かった(P=0.0004)。同様に、図3Bに示したように、インスリン放出はuhESに比べて20〜22日のEBで著しく高かった(各実験当たりEB60〜70)(P<0.0001)。
【0065】
異なるグルコース濃度に対するEBインスリン応答性を評価するために、EBを含有する培養皿を5.5mM又は25mMのグルコースに2時間、急激に曝露した。培地グルコースの急激な変化は、2つのグループの同化インスリン濃度に著しい相違を誘出しなかった(それぞれ158±16μU/ml、n=6と146.2±22.1μU/ml、n=6、図3B)。
【実施例3】
【0066】
H9hES細胞におけるβ細胞関連遺伝子の発現
前述の実施例からヒントを得て、本出願人等は、未分化及び分化hES細胞から抽出した全RNAのRT−PCR分析を用いて、他のβ細胞関連遺伝子の発現を調べた。図4に示したように、インスリンmRNAは分化細胞で検出されたが、未分化hESでは検出されなかった。同様に、島グルコキナーゼ(GK、図4A)及びGlut−2(図4B)遺伝子も分化後に同定されたが、分化前には同定されなかった。EB又は高密度付着培養条件を用いても、同様の結果が得られた。これに対して、Glut−1アイソタイプ、構成グルコース輸送担体は、hESのすべての形態、並びにヒト線維芽細胞に広く発現した(図4B)。3種の転写因子、Oct4、Ngn3、IPF1の発現を調べた(図4C)。予想どおり、多能性状態のマーカであるOct4のmRNA発現は(Yeom等、1996、Niwa等、2000)未分化hESで検出されたが、分化から3週間の間に段階的に減少した(図4C)。本出願人等はさらに分化性hES細胞がIPF1/PDX1及びNgn3転写因子を発現することを実証したが(図4C)、これらは共に膵細胞及び内分泌細胞の分化を調節することが示されている(Edlund、1998、Apelqvist等、1999、Schwitzgebel等、2000、Herrera、2000)。
【0067】
βアクチンの発現は、β細胞関連遺伝子の発現と同様に、RNAロード及びブロットのレーン間相違の内部コントロールの役割を果たす。
【実施例4】
【0068】
ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)過剰発現hES細胞由来のインスリン産生細胞
多能性hES細胞は多くの細胞型に分化できるので、多能性hES細胞及びその派生物は、細胞移植を含む医療応用例及び研究に用いることができる。本発明の主要な目的は、所望の前駆体の集団、又は完全に分化した細胞が得られるように、hES細胞の分化を調節することである。
【0069】
本発明で用いた条件下で、驚くほど多数のインスリン産生β細胞が培養hESの分化中に出現することを本出願人等はすでに証明した(実施例2を参照)。この観察結果は、組織工学及び糖尿病の治療における細胞置換療法に用いる自然発生β細胞又はその前駆体の濃縮に基づく実験的方策の必要条件である。
【0070】
しかしながら、多量な分化細胞の濃縮及び増殖には、低い増殖能及び寿命の限定といった不都合が起こることが考えられる。この制限を克服するために、増殖優位性を付与する可能性のある薬剤(たとえば、テロメラーゼ)を用いることができる。テロメラーゼは特にテロメア長及び完全性を維持し、それによってその細胞の増殖能を拡大するために用いることができる。hTERTの異所性過剰発現が分化パターンに悪影響を及ぼさない場合、完全に分化されたテロメラーゼ陽性細胞の所望の系統を生成することができる。
【0071】
実験プロトコル:
a.未分化hES細胞におけるhTERTの異所性発現
hTERT過剰発現hES細胞は、インスリン産生細胞を生成するための選択及び濃縮に選ばれた条件と同じ条件下で分化することができる(培地中、インスリン+トランスフェリン+亜セレン酸ナトリウム(ITS)、グルコース、ニコチンアミド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮増殖因子(EGF)、神経発育因子(NGF)、アクチビン、βセルリンなどの因子の組合せ)。
【0072】
本発明のもっとも好ましい実施形態によれば、ITSとして知られる因子、すなわちインスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸塩の組合せを用いて、インスリン産生細胞の収率を著しく高めることができる。好ましい塩の1つは亜セレン酸ナトリウムであるが、セレンを含有する他の塩も用いることができる。
【0073】
本出願人等は、減衰したリボソーム内部進入部位(IRES)を含有する適切な(たとえば、バイシストロン性)発現ベクターを用いることによって、均質なインスリン産生細胞が生成できるような方法で細胞特異プロモータ−ネオマイシン耐性導入遺伝子を用いるヒトES細胞の遺伝子改変の方策を用いる。このベクターは、β細胞分化経路の非常に早い段階でβ細胞の前駆体において活性化する細胞特異遺伝子プロモータPDX−1によってhTERTコード配列が駆動されるように構築される。他のプロモータをPDX−1の代わりに用いることができる。hTERTコード領域は、IRES及びハイグロマイシン又は他の抗生物質耐性選択マーカと共に単一カセットに存在するように構築される。さらに、このベクターは、たとえばPGKプロモータ又は他の哺乳動物プロモータを含む、構成プロモータの制御下ネオマイシン(又は他の抗生物質)選択マーカを有する。この構築物を未分化hES細胞にトランスフェクトし、ネオマイシン耐性クローンを選択する。次のステップにおいて、これらのクローンを分化させ、ハイグロマイシン耐性クローンを選択する。実質的には、選択マーカを発現するすべてのトランスフェクト細胞がテロメラーゼを発現するはずであり、この分化経路の非常に早い段階でPDX−1細胞特異プロモータを活性化する能力を有するインスリン産生細胞系統に分化する可能性が高い。
【0074】
hES細胞の増殖培地のグルコース濃度が高いことにより、高グルコースがPDX−1プロモータに与える有害な影響を回避するために、これに限定されるものではないが、ニコチンアミド、L−リボース、N−アセチルシステイン、及び他の抗酸化薬を含む抗酸化試薬を培地に添加する。
【0075】
b.クローン選択の基準
得られたクローンは、以下のとおり、有利な特性及び/又は有害性の不在に関して検査する。
1.偽陽性クローンによる選択手順が進行するのを回避するために、ネオマイシン耐性遺伝子の発現に関してRT−PCRを用いて未分化状態で検査する。
2.外因性hTERT又は他の増殖(寿命の延長)促進遺伝子の発現に関してノザンブロット分析又はRT−PCRを用いて、テロメラーゼ活性に関してTRAPアッセイを用いて、テロメア長に関してTRFアッセイを用いて、分化及びハイグロマイシン選択後に生じたクローンを検査する。これらは分化後、複数の時間間隔でモニターする。コントロールとして、同じプロセスを経た正常hESを用いる。
3.β細胞分化及び成熟に関わる因子の発現プロファイルを、定量RT−PCRを用いて検査する。以下の遺伝子の発現をモニターする。インスリン、PDX−1、Nkx6.1、Nkx2.2、Glut−2、Pax−6、BETA2、Ngn3、Islet−1、Pax−4、Hlxb−9、GK、ネスチン、プロホルモン変換酵素(PC)1及び2、グルカゴン、GAD65である。発現のパターンをコントロール細胞と比較する。必要であれば、評価を容易にするために、発現プロファイル用のマイクロチップを用いる。
4.Glut−2、GK、PCに関して、酵素アッセイを用いて特定酵素プロファイルを検査する。
5.前述のとおりhESから得られたインスリン産生細胞の品質管理を以下のパラメータを用いて行う。電子顕微鏡を用いる超微細構造の特性決定、インスリン分泌、インスリンプロセシング、電気生理学プロファイル、代謝プロファイル。
6.クローン中のβ細胞発生遺伝子発現プロファイルを、マイクロアレイチップを用いて正常細胞と比較する。
7.β細胞特異マーカに関して特定の抗体を用いて免疫組織化学又はウエスタンブロット分析を行う。
8.ヌードマウスに腫瘍を生じる能力、軟寒天における増殖能力(増殖巣形成)、及び正常細胞核型の存在を含む、当分野で知られている任意の基準に従って腫瘍形成性の不在を検査する。
【0076】
c.完全分化細胞系統へのhTERTの安定なトランスフェクション
完全に分化した細胞系統、たとえばインスリン産生β細胞の濃縮及び特徴決定に続いて、低い増殖能、寿命の限定といった不都合を克服するために、βアクチン遺伝子プロモータ又はPGK遺伝子プロモータなどの強力なプロモータによって駆動されるhTERT遺伝子コード配列を、選択マーカを用いて安定にトランスフェクトする。これは島移植のドナーの必要性に取って代わる可能性のあるインスリン産生β細胞の増殖を促進するための方策である。最終クローン集団を、上述のすべての基準に関して検査する。同時に、このクローン集団を、上に概説したとおり、テロメラーゼ活性、テロメア長、寿命の延長、及び腫瘍形成性の不在に関して検査する。
【0077】
d.Creリコンビナーゼ遺伝子と組み合わせた未分化hES細胞におけるhTERT及び/又は増殖促進遺伝子の異所性発現
細胞療法用の多量のインスリン産生細胞を確立するために、最終的に分化した成熟β細胞の増殖能及び寿命の限定という問題をいずれ克服する必要がある。前述のとおり、この制限を克服するために、テロメラーゼ活性を利用してテロメア長及び完全性を維持し、それによって細胞の増殖能を拡大することができる。別法として、上に記載の方策と同様に、増殖促進遺伝子をhES細胞に挿入することができる。簡潔に述べれば、PDX−1プロモータの制御下、SV40大型T抗原などの増殖促進遺伝子のコード領域を、それ自体もβアクチン遺伝子又はPGK遺伝子の構成プロモータの制御下ネオマイシン体制遺伝子を有するバイシストロン性ベクター中ハイグロマイシン選択マーカ及びIRESと共に単一カセットに構築する。前駆細胞集団を、成熟β細胞への最終分化の誘導後、桁違いに拡大することができる。これらの成熟細胞を、上述の基準を用いて、8番目の基準、すなわち腫瘍形成性の不在に重点を置いて検査する。
【0078】
細胞移植のために、腫瘍形成性を生じる可能性のあるDNA配列を、移植前に細胞から除去する。hTERT遺伝子は癌遺伝子ではないが、癌の85〜95%でその再活性化が起こる。さらに、ほとんどの増殖促進遺伝子が、細胞の悪性の特質を付与する能力を有している。
【0079】
このため、本出願人等は、細胞特異的に標的配列の不活性化及び除去を限定するためにCreリコンビナーゼ−loxP(Cre−loxP)を用いる。Creリコンビナーゼは、部位特異リコンビナーゼとして機能し、loxP部位として知られる特定の34bp配列間のDNA配列をスプライシングする。膵臓β細胞にのみ発現するインスリン遺伝子に独自の特性のために、Creリコンビナーゼ発現のβ細胞特異インスリンプロモータを用いて、完全成熟β細胞の遺伝子を不活性化及び除去することができる。このプロトコルは、IRES及びハイグロマイシン又は他の抗生物質選択マーカを伴う単一カセット中、上述のβ細胞前駆細胞特異プロモータPDX−1の制御下、hTERT又は増殖促進遺伝子コード配列で安定にトランスフェクトされたhESを用いる。ハイグロマイシン遺伝子の下流に独立して挿入されたlacZ遺伝子コード配列は、Creリコンビナーゼが活性化されていない限り、前駆細胞において未発現のままである。hTERT−IRES−ハイグロマイシン配列をloxPで挟むことにより(flox)、細胞内でのCreリコンビナーゼの発現に続いて、この配列の切り出しが可能となる。インスリンプロモータが活性化し、それによって完全に成熟したβ細胞でCreリコンビナーゼ遺伝子が活性化すると、この配列は除去(flox out)され、PDX−1プロモータの制御下、lacZコード配列が発現される。lacZ遺伝子の発現はCreリコンビナーゼの発現に依存するので、β細胞の標的遺伝子を切除し、lacZ遺伝子の発現をもたらす最大の組換えに要する最適時間を求めるために、時間的経過の研究は必須である。
【0080】
lacZ酵素活性の測定は、加水分解され、細胞内に保持される蛍光基質を用いて行う。この系の利点は、lacZが組換え効率を定量するレポータ遺伝子、及びlacZ発現レベルに基づく蛍光活性化細胞選別の選択マーカの両方としての機能を果たすことである。
【0081】
このアプローチの変法は、loxP部位の間にチミジンキナーゼ遺伝子が安定にトランスフェクトされた細胞でインスリンプロモータによって駆動されるCreリコンビナーゼを用いる。ガンシクロビルの添加によって細胞毒性が誘出され、TKが特異的に除去(flox out)される(細胞特異プロモータがCreリコンビナーゼを駆動)細胞のみがガンシクロビル処理後も生存する。
【0082】
本発明が属する分野の技術者は、前述のすべてのプロトコルを他の細胞特異プロモータに基づく系に一般化できることを理解するであろう。
【0083】
e.グルコース応答性
グルコース応答性に関して、本発明のプロトコルは、抗酸化剤を添加又は添加しない、様々なグルコース濃度の培地でのプレインキュベーションを利用する。長期培養に適切なインキュベーショングルコース濃度の指標として、EMSAによるPDX−1結合をモニターする。
【0084】
重要なことに、EBの約60%であるサブセットがインスリンを含有し、残部はインスリンを含有していないという観察結果は、その後の濃縮に用いる原材料として、もっとも高い割合でインスリン発現細胞を含むEBのサブセットを選択することから始めることが有用である可能性を示している。インスリンプロモータに駆動される必須のレポータマーカを安定に過剰発現するhESを用いることによって、このサブセットのEBを犠牲にすることなくこれらを選択することができる。
【0085】
別法として、EB集団を96ウェルプレートにウェル当たり1つのEBで接種し、培地へのインスリン分泌を測定することによって、インスリン応答性を実証する。
【実施例5】
【0086】
インスリンプロモータ駆動変異型緑色蛍光タンパク質(EGFP)レポータ遺伝子で安定にトランスフェクトされたhES細胞クローンの確立
a.ヒトインスリンプロモータを含有するプラスミドの構築(pIns)
ヒトインスリン遺伝子の327bpの5’フランキング領域及び30bpのエキソン1を含有するDNAフラグメントを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて増幅した。以下のオリゴデオキシヌクレオチオドをプライマとして用いた。
5’−GCG GAG CTC TCT CCT GGT CTA ATG TGG AA−3’
5’−GCG CTC GAG CTC TTC TGA TGC AGC CTG TC−3’
【0087】
新しい構築物のヒトインスリン調節フラグメントの配列を、ABI PRISM(登録商標)Big Dye(商標)Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystem)を用いる配列決定によって確認した。
【0088】
このフラグメントを、SacI及びXhoI制限酵素部位を用いて、pBluescript(登録商標)IIKS(Stratagene)にサブクローンした。pInsを含有するpBluescripをSacI及びKpnIによって消化し、得られたフラグメントをpEGFP−1(Clontech)のMCSに正しい方向性で挿入した。このベクターはさらに構成SV40プロモータによって駆動されるネオマイシン耐性遺伝子を有する。この特徴は、安定なトランスフェクションの実験の淘汰圧に関するさらなる研究において重要である。
【0089】
pEGFP−1バックボーンを、インスリンコアプロモータ駆動ハイグロマイシン耐性遺伝子がEGFPの上流に融合した第2の構築物に用いた。このレポータ遺伝子を用いる利点は、これがEGFP陽性細胞を同定する能力を備えた薬剤耐性選択マーカの利便性を提供することである。
【0090】
両発現ベクターにおけるインスリンプロモータの活性は、トランスフェクト細胞でEGFP蛍光を示すハムスターインスリノーマ腫瘍細胞(HIT)の一過性トランスフェクションを用いて試験した。
【0091】
b.安定なトランスフェクション
H9 hES細胞を6ウェルプレートで培養し、24時間後、3μgのプラスミドDNA及び6μlの非リポソーム配合FuGENE(商標)トランスフェクション試薬(Boehringer Mannheim)を用いてトランスフェクトした。
【0092】
陽性クローンを単離し、増殖培地中100μg/mlのG418の存在下で増殖し、ノザンブロット分析を用いてネオマイシン耐性遺伝子発現の特性を明らかにした。
【0093】
c.トランスフェクトクローンの奇形腫の発生
安定クローン由来の未分化細胞をヌードマウスの後肢に筋肉注射した(部位当たり細胞〜5×106)。70〜90日後、奇形腫を採取し、固定、パラフィンに包埋、5μmの切片を調製した。組織形態分析のために、切片をヘマトキシリン/エオシンで染色した。免疫組織化学分析のために、脱パラフィン切片を、以前に記載のとおり、抗インスリン抗体と共にインキュベートした(Assady等、2001)。
【0094】
d.インスリン陽性細胞集団の確立
インスリンプロモータ−EGFPレポータで安定にトランスフェクトされた6つの陽性クローン、及びインスリンプロモータ−HygEGFPレポータで安定にトランスフェクトされた1つのクローンを確立した。
【0095】
野生型H9細胞と比べて、トランスフェクト未分化細胞は正常な形態を維持した。
【0096】
浮遊培養で増殖したとき、すべての新しいクローンが細胞集合体(胚様体)を生成し、ヌードマウスへの注射後、胚生殖細胞の3種すべての原始細胞層の進化した派生物を形成した(図5A〜B)。希少であるが明白なインスリン陽性細胞の小さなクラスタがIHCによって認められ(図5C〜D)、これはin vivoの血糖正常生理状態でこの特定の導入遺伝子を有する細胞に発生上の優位性が欠如していることを示している可能性がある。
【0097】
EGFPは未分化状態で陰性であり、分化条件下で増殖したとき、可視となった(図6)。培養ウェルにおいて、顕微鏡検査によって観察されたEGFP蛍光と、測定されたインスリン分泌及び含量との間に相関性があったことに留意されたい。たとえば、IB3クローン(図6B、1015μU/ml)に比べて低い蛍光及び低いインスリン含量(図6A、282μU/ml)を示したIIB6クローンは、IB3クローン(364.5μU/ml)に分泌されるものより少ないインスリンを分泌した(43μU/ml)。形態学的には、多くの場合EGFP発現細胞は小さく、密度の高いクラスタとして増殖した。これらの細胞をEGFP蛍光に基づく蛍光活性化選別を用いて分離したが、分子及び生理学上の特徴は現在調査されている。
【0098】
e.インスリン陽性細胞集団の濃縮
異なるプロトコルを比較する。15日間、EBとしてhESを増殖し、その後4〜5週間、増殖培地中ITS X1(Sigma又はGIBCO)及びFGF4ng/mlを含むマトリゲルに接種することによって、IB3クローン中FACS分析による評価で5%の濃縮が得られることが予備段階の結果示された(プロトコル1、図6B)。
【0099】
次に、最近Lumelsky等によって発表されたマウスES由来のβ様細胞を濃縮するための再現性段階的濃縮プロトコルの変更プロトコルを、EGFPレポータ遺伝子を用いるトラッキング濃縮法と組み合わせて適応した(プロトコル2)。簡潔に述べると、このプロトコルは以下の段階で構成された。
ステージI:トランスフェクトされたクローンの多能性未分化細胞を、4〜5日間、以前に記載されているとおり(Assady等、2001)、10cm組織培養皿(Nunc)でMEFの供給細胞層上に増殖した。
ステージII:コラゲナーゼIV型0.1%を用いて分散した後、細胞を4〜5日間、hrbFGFを含まない同じ増殖培地の浮遊培養に移した。
ステージIII:フィブロネクチン1μg/ml及びITS×1を含有する無血清DMEM/F12培地中、7〜10日間、フィブロネクチンコート6ウェル組織培養皿で増殖した後、トリプシン/EDTAX1(GIBCO/BRL)によって5分間EBを分散した。
ステージIV:B27補足剤(GIBCO)、N2補足剤(GIBCO)、ラミニン1μg/ml、FGF10μg/mlを含有する無血清DMEM/F12培地中、7〜8日間、ラミニン/ポリオルニチン又はラミニン/ポリリシンコート皿で細胞を増殖した。
ステージV:培地を、7〜10日間、ニコチンアミド10μg/ml、B27、N2、及びステージ4と同様にラミニンを含有する培地に置き換えた。
【0100】
この濃縮プロトコルを8回繰り返し、増殖及び分化の再現性パターンが認められた。図7A(第4日)に示したように、ステージIIIの第4日及び第5日に最初の蛍光シグナルが認められ、細胞の付着層において、Lumelsky報告の対応する段階では赤色の染色として示された陽性インスリン免疫蛍光を大いに連想させる形態で領域全体に散在して蛍光細胞群が観察される。ステージIV又はVの終わりまでに、容易に除去されるEGFP発現細胞のクラスタが、神経様投射路に囲まれた(図7B、第2日)。
【0101】
分子及び生理学上の特徴は現在調査されている。
【0102】
結論として、細胞特異プロモータによって駆動されるレポータを遺伝子導入した遺伝子導入多能性未分化hES細胞クローンが生成された。このアプローチは、インスリン産生細胞の分化を調査、モニターし、その後、今後に見込まれる移植療法のインスリン産生細胞の濃縮集団を単離するために用いることができる。
【0103】
上述の特定の増殖条件又はその構成要素は、hES由来インスリン産生細胞の有利な増殖を促進するプロトコルの基礎となるものである。これらのプロトコルの多くの項目を本発明の本質的要素から逸脱することなく変更できることを、当分野の技術者は明確に理解するであろう。多くの可能な変形例はすべて、開示された本発明の範囲内のパラメータの最適化であると見なすことができる。本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定義される。
【0104】
特定の実施形態に関する上述の説明は本発明の一般的な性質を完全に開示しているので、現在の知識を適用することによって、必要以上の実験なしに、包括的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を変更しかつ/又は多様な応用例に適応させることができ、したがってそのような適応及び変更は、開示された実施形態の同等物の意味及び範囲内であることが理解されるべきであり、理解されることが意図される。本明細書で用いられた表現及び用語は説明のためであり、限定のためではないことが理解される。開示した種々の機能を実施するための方法、材料、及び段階は、本発明から逸脱することなく他の様々な形態を取ることができる。したがって、上述の明細書及び/又は添付の請求の範囲に見出すことのできる、機能上の説明に伴う「〜するための手段」及び「〜のための手段」という表現、又は方法段階のいずれの表現も、上述の明細書に開示された実施形態の厳密な同等物であるかどうかを問わず、どのような構造的、物理学的、化学的、又は電気的な要素又は構造であっても、又は現在又は今後存在する可能性があり、列挙した機能を実行するどのような方法段階であっても、それを定義し、網羅することを意図し、すなわち同一の機能を実施するための他の手段及び段階を用いることができ、かつそのような表現にはもっとも広い解釈が与えられることが意図される。
【0105】
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1A】MEFからES細胞を除去して3日後、浮遊中、20倍の胚体(EB)を示す図である。
【図1B】MEFからES細胞を除去して3日後、浮遊中、40倍のEBを示す図である。
【図1C】MEFからES細胞を除去して17日後、浮遊中、40倍のEBを示す図である。
【図2A】正常なヒト膵臓のコントロール組織におけるインスリン発現を示す図である。
【図2B】分化19日後のEBにおけるインスリン発現を示す図である。
【図2C】分化19日後のEBにおけるインスリン発現を示す図である。
【図2D】分化19日後のEBにおけるインスリン発現を示す図である。
【図2E】分化19日後のEBにおける染色の細胞質局在(インスリン発現)を示す図である。
【図2F】非免疫血清を用いた分化19日後のEBを示す図である。
【図3】A:ノックアウト培地で培養した未分化hES細胞(uhES)、又は22日間及び31日間、高密度付着条件で分化させたhES細胞(dhES)によるインスリン分泌を示す図である。 B:種々のグルコース濃度で20〜22日間胚様体として培養、浮遊で増殖させたhESによるインスリン分泌を示す図である。
【図4A】未分化hES(uhES)、EB又は高密度付着細胞培養(dhES)として増殖する分化hES、及び正常ヒト線維芽細胞(NHF)の全RNA中のβ細胞関連遺伝子、インスリン、及びGKの発現を示す図である。
【図4B】未分化hES(uhES)、EB、高密度付着細胞培養(dhES)、及び正常ヒト線維芽細胞(NHF)の全RNA中のGlut−2、及びGlut−1の発現を示す図である。
【図4C】未分化hES(uhES)、EB、高密度付着細胞培養(dhES)、及び正常ヒト線維芽細胞(NHF)の全RNA中のOct4、Ngn3、及びIPF1/PDX1の発現を示す図である。
【図5A】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEBを示す図である。
【図5B】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEBを示す図である。
【図5C】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEB中のインスリン陽性細胞を示す図である。
【図5D】インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたクローンから生じたEB中のインスリン陽性細胞を示す図である。
【図6A】IIB6クローン中の分化後のEGFP蛍光を示す図である。
【図6B】IB3クローン中の分化後のEGFP蛍光を示す図である。
【図7】神経投射路に囲まれたEGFP発現細胞を示す図である。
Claims (33)
- ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を含む細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を濃縮した請求項1に記載の細胞集団。
- 前記濃縮が、ヒト胚性幹細胞をインスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸塩で処理することを含む請求項2に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の選択されたインスリン産生細胞を含む請求項1に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の単離されたインスリン産生細胞を含む請求項1に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来のクローン化インスリン産生細胞を含む請求項1に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の調節可能なインスリン産生細胞を含む細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来のグルコース応答性インスリン産生細胞を含む請求項7に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来のグルコース応答性インスリン産生細胞が濃縮された請求項8に記載の細胞集団。
- 前記濃縮が、インスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸塩による処理を含む請求項9に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の選択されたグルコース応答性インスリン産生細胞を含む請求項8に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の単離されたグルコース応答性インスリン産生細胞を含む請求項8に記載の細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来のクローン化グルコース応答性インスリン産生細胞を含む請求項8に記載の細胞集団。
- 前記細胞が、インスリン、島グルコキナーゼ、Glut−2グルコース輸送担体、Glut−1グルコース輸送担体、インスリンプロモータ因子1/膵臓及び十二指腸ホメオボックス遺伝子1 IPF1/PDX1転写因子、Ngn3転写因子のグループの少なくとも1種の遺伝子を発現する請求項8〜13のいずれか一項に記載のグルコース応答性インスリン産生細胞。
- ヒト胚性幹細胞由来の安定なインスリン産生細胞を含む細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の安定なクローンインスリン産生細胞を含む請求項15に記載の細胞集団。
- hTERT過剰発現ヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を含む請求項15に記載の細胞集団。
- インスリンプロモータを含む構築物で安定にトランスフェクトされたヒト胚性幹細胞由来のインスリン産生細胞を含む請求項15に記載の細胞集団。
- インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたヒト胚性幹細胞由来のクローンインスリン産生細胞を含む請求項18に記載の細胞集団。
- ヒトインスリンプロモータのDNAコード配列を含むベクターで安定にトランスフェクトされた未分化ヒト幹細胞のクローン。
- インスリンプロモータで安定にトランスフェクトされたヒト胚性幹細胞由来の膵臓ベータ島細胞の多能性前駆体を含む細胞集団。
- ヒト胚性幹細胞由来の膵臓ベータ島細胞の前駆細胞を含む細胞集団。
- レポータ遺伝子が、インスリンプロモータ配列の下流に融合されている請求項20に記載の細胞クローン。
- レポータ遺伝子の発現が、インスリンプロモータ遺伝子によって調節される請求項20に記載の細胞クローン。
- インスリン産生細胞を含む請求項20に記載の細胞クローン。
- 幹細胞由来のインスリン産生細胞をイン・ビトロ(in vitro)で濃縮する方法であって、
(i)血清代替物、非必須アミノ酸、メルカプトエタノール、グルタミン、線維芽細胞増殖因子から選択された補足剤を補った既知組成の無血清培地で未分化多能性幹細胞を培養する段階、
(ii)(i)の付着細胞培養物を分散し、細菌用ペトリ皿の浮遊培養に移す段階、及び
(iii)(ii)の細胞の培地に、インスリン、トランスフェリン、及び亜セレン酸ナトリウム(ITS)、グルコース、ニコチンアミド、ケラチノサイト増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、上皮増殖因子、神経発育因子、アクチビン、βセルリンからなるグループから選択された補足剤を添加する段階、
を含む上記方法。 - (i)血清代替物、非必須アミノ酸、メルカプトエタノール、グルタミン、線維芽細胞増殖因子から選択された補足剤を補った既知組成の無血清培地中、供給細胞層上に未分化多能性幹細胞を培養する段階、
(ii)(i)の付着細胞培養物を分散し、細菌用ペトリ皿の浮遊培養に移す段階、
(iii)線維芽細胞増殖因子を含まない(i)の培地で4〜5の間、(ii)の細胞を培養する段階、
(iv)(iii)で形成された胚様体を分散し、フィブロネクチンコート組織培養皿の無血清培地に移す段階、
(v)(iv)の培地に、フィブロネクチン、トランスフェリン、及び亜セレン酸ナトリウム(ITS)からなるグループから選択された補足剤を添加する段階、
(vi)(v)の培地に、B27補足剤(GIBCO)、N2補足剤(GIBCO)、ラミニン、線維芽細胞増殖因子からなるグループから選択された補足剤を添加する段階、及び
(vii)(vi)の培地を、B27補足剤(GIBCO)、N2補足剤(GIBCO)、ラミニン、ニコチンアミドからなるグループから選択された補足剤を含む培地に置き換える段階、
を含む請求項26に記載の方法。 - 細胞置換療法でのヒト胚性幹細胞由来インスリン産生細胞の使用。
- 前記細胞を、それを必要としている対象の膵臓に移植する請求項28に記載の使用。
- 前記細胞を、それを必要としている対象の異所部位に移植する請求項28に記載の使用。
- ヒト胚性幹細胞由来インスリン産生細胞を用いて、それを必要としている患者を治療する方法であって、ヒト胚性幹細胞由来インスリン産生細胞を含む細胞集団を移植することを含む上記方法。
- ヒト胚性幹細胞由来インスリン産生細胞を含む細胞集団を膵臓に移植することを含む請求項31に記載の方法。
- ヒト胚性幹細胞由来インスリン産生細胞を含む細胞集団を異所部位に移植することを含む請求項31に記載の方法。
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