JP2004324007A - ポリイミド繊維用処理剤、それで処理されたポリイミド繊維、不織布及び複合材料 - Google Patents
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Abstract
【課題】マトリックス樹脂との接着性に乏しいポリイミド繊維の接着性を改善させる効果の高いポリイミド繊維用処理剤、及び接着性に優れたポリイミド繊維や不織布、並びにポリイミド繊維材料を強化材としたマトリックス樹脂との界面接着性に優れる複合材料、さらにはそれを用いてなるプリント基板を提供することにある。
【解決手段】ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴とするポリイミド繊維用処理剤。
【選択図】 なし
【解決手段】ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴とするポリイミド繊維用処理剤。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリイミド繊維用処理剤、並びにそれで処理されたポリイミド繊維、不織布、さらにはそれらを用いた複合材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の電気、電子分野もしくは宇宙、航空分野における技術開発はめざましく、これら分野ではその優れた耐熱性、機械特性および電気的特性からポリイミド樹脂が注目され、種々形態での使用が試みられている。
中でも、ポリイミド繊維及びそれを加工して得られる不織布を強化材とした複合材料の開発が盛んに行われており、ポリイミド繊維間を熱硬化性樹脂バインダーにより結合した積層板用基材不織布(例えば、特許文献1参照。)が知られている。また、熱可塑性を有する結晶性ポリイミド短繊維を主な構成成分とする不織布と熱硬化性樹脂とからなる、耐熱寸法安定性等に優れた複合材料の発明(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0003】
ところで、ポリイミド繊維に限らず、繊維材料を複合材料の強化材として用いる場合には、マトリックス樹脂との接着性を高めることが重要であることはよく知られている。繊維材料とマトリックス樹脂との界面での剥離が生じると、強度低下等の種々の問題を引き起こすからである。したがって、ポリイミド繊維についても、例えば、ポリイミド不織布と熱硬化性樹脂からなる複合材料をプリント基板材料として用いる場合に、複合材料の基材であるポリイミド不織布とマトリックス樹脂である熱硬化製樹脂との接着が不十分であれば、吸湿時のはんだ耐熱性が低下したりして、せっかくのポリイミドの優れた特性が生かせないという懸念が生じる。
【0004】
一方、ポリイミドは元来接着性に乏しい樹脂であることが知られているため、ポリイミド成形品の接着性の改善が古くから試みられており、ポリイミド成形品の表面をアルカリ処理した後にカップリング処理を行う方法(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−200210号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−138385号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭63−99282号公報(特許請求の範囲)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した他にも、ポリイミド成形品の接着性を改善する試みがなされてはいるが、いずれもフィルム状のポリイミド成形品を対象としているものであり、ポリイミドフィルムよりもさらに表面が不活性で接着性に乏しいポリイミド繊維、特に、延伸されて高度に結晶配向された接着性に極めて乏しいポリイミド繊維の接着性を向上させるのに有効な方法は、未だ見出されていないのが現状である。
【0007】
そのような状況に鑑み、本発明の課題は、マトリックス樹脂との接着性に乏しいポリイミド繊維の接着性を改善させる効果の高いポリイミド繊維用処理剤、及び接着性に優れたポリイミド繊維や不織布、並びにポリイミド繊維材料を強化材としたマトリックス樹脂との界面接着性に優れる複合材料、さらにはそれを用いてなるプリント基板を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液を処理剤としてポリイミド繊維に付与することにより、接着性改善に著るしい効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
第一に、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴とするポリイミド繊維用処理剤であり、ポリイミド前駆体が、下記一般式(1)に示すジアミンと下記一般式(2)に示すテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体とからなる水溶性の塩である好ましい態様、及びシラン系カップリング剤がアミノシラン系カップリング剤である好ましい態様を包含する。
【0010】
【化4】
(式中、R1は2価の脂肪族残基、少なくとも1個の芳香族環を含む2価の芳香族残基及び少なくとも1個の芳香族環を含む2価の部分芳香族残基からなる群から選択される残基を表す。)
【0011】
【化5】
(式中、R2 は4価の芳香族又は脂肪族残基を表し、R3及びR4は、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基もしくはヒドロキシアルキレン基を表す。ただし、式中の4個のカルボニル基はR2に含まれる異なった炭素原子に直接連結しており、かつ2個ずつが対をなして隣接する炭素原子に結合しており、また、R3とR4のうちの少なくとも一方は水素原子である。)
【0012】
第二に、上記の処理剤で処理されたことを特徴とするポリイミド繊維であり、ポリイミド繊維が下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有する熱可塑性ポリイミドで形成された繊維である好ましい態様を包含する。
【0013】
【化6】
(式中、R5は単環式芳香族、縮合多環式芳香族、芳香環が直接もしくは架橋員により結合された非縮合多環式芳香族からなる群から選択される4価の芳香族の残基を表わす。また、Xは直接結合、炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオ基及びスルホニル基からなる群から選択される2価の残基を表わし、Y1〜Y4は水素、アルキル基、アルコキシル基及びハロゲン基からなる群から選択される価の残基を表わす。)
【0014】
第三に、上記のポリイミド繊維から主としてなることを特徴とするポリイミド不織布である。
第四に、上記のポリイミド不織布に熱硬化性樹脂が含浸されてなることを特徴とする複合材料である。
第五に、上記の複合材料からなる板の片面もしくは両面に導電層を有してなることを特徴とするプリント基板である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミド繊維用処理剤(以下、本処理剤と略記することがある)は、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴としている。
本処理剤に含まれるポリイミド前駆体は、加熱によりイミド化されポリイミドを形成するため、その形成されたポリイミドがポリイミド系繊維と良く接着するのは勿論である。それに加えて、前期ポリイミド前駆体は単にイミド化するだけでなく、その一部とシラン系カップリング剤とが反応して、反応性の高い官能基、例えばカルボキシル基、水酸基、アミノ基、イミノ基等を多く有するポリイミドが形成され、これらの反応性の高い官能基がマトリックス樹脂との接着性を改善すると考えられる。すなわち、本処理剤から形成された反応性の高いポリイミドを介して、ポリイミド繊維とマトリックス樹脂との接着性が改善されることになると考えられる。
【0016】
本処理剤に含まれるポリイミド前駆体としては、特に限定されるものではなく、公知のポリイミド前駆体を採用することができるが、作業性や環境問題等の観点から、水溶性のポリイミド前駆体であることが好ましい。そのような水溶性のポリイミド前駆体としては、例えば特開2000−319389号公報に記載されているようなポリイミド前駆体を用いることができ、下記一般式(1)に示すジアミンと下記一般式(2)に示すテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体とからなる水溶性の塩が好ましい。
【0017】
【化7】
(式中、R1は2価の脂肪族残基、少なくとも1個の芳香族環を含む2価の芳香族残基及び少なくとも1個の芳香族環を含む2価の部分芳香族残基からなる群から選択される残基を表す。)
【0018】
【化8】
(式中、R2 は4価の芳香族又は脂肪族残基を表し、R3及びR4は、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基もしくはヒドロキシアルキレン基を表す。ただし、式中の4個のカルボニル基はR2に含まれる異なった炭素原子に直接連結しており、かつ2個ずつが対をなして隣接する炭素原子に結合しており、また、R3とR4のうちの少なくとも一方は水素原子である。)
【0019】
上記一般式(1)において、R1で表わす残基の具体例としては、次に示す化学構造のものが挙げられる。
【0020】
【化9】
【0021】
また、上記一般式(2)において、R2で表わす残基の具体例としては、次に示す化学構造のものが挙げられる。
【0022】
【化10】
【0023】
また、上記一般式(2)中の、炭素数1〜12のアルキル基もしくはヒドロキシアルキレン基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられ、メチル基が好ましい。上記一般式(2)におけるR3とR4の組み合わせとしては、一方がメチル基であり、他方が水素原子である組み合わせが特に好ましい。
【0024】
また、本処理剤に含まれるシラン系カップリング剤としては、公知のものを適用することができるが、接着性や保存安定性等の観点から、アミノシラン系カップリング剤であることが好ましい。そのようなアミノシラン系カップリング剤の具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
本処理剤は、上記したようなポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とが水等の溶媒に溶解されてなるものである。本処理剤におけるポリイミド前駆体とシランカップリング剤とを合算した濃度としては、5〜40質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。上記の好ましい範囲より濃度が低すぎると本処理剤の使用効果が得られ難い傾向にあり、逆に高すぎると本処理剤にゲル化や沈殿が生じる傾向にあるので好ましくない。
【0026】
また、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤との配合割合としては、ポリイミド前駆体を構成するテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体1モルに対して、シランカップリング剤を0.1〜4.0モルの割合とするのが好ましく、0.3〜3.0モルの割合とするのがより好ましい。シラン系カップリング剤の添加割合が上記の好ましい範囲外では、ポリイミド繊維の接着性改善効果が十分に得られない傾向にあるので好ましくない。
【0027】
なお、本処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリイミド前駆体及びシラン系カップリング剤以外に、pH調整剤、界面活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0028】
上記したような本処理剤でポリイミド繊維を処理することにより、本発明の処理されたポリイミド繊維が得られる。ここで、本処理剤で処理するためのポリイミド繊維としては、特に限定されるものではないが、下記一般式(3)で示される化学構造を繰り返し単位として有する熱可塑性ポリイミドで形成された繊維であることが好ましい。この好ましい繊維を形成する熱可塑性ポリイミドは、熱可塑性かつ結晶性のポリイミドであるため、溶融紡糸により容易に繊維にすることができると共に、優れた耐熱性と熱加工性を具備したポリイミド繊維が形成されるからである。
【0029】
【化11】
(式中、R5は単環式芳香族、縮合多環式芳香族、芳香環が直接もしくは架橋員により結合された非縮合多環式芳香族からなる群から選択される4価の芳香族の残基を表わす。また、Xは直接結合、炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオ基及びスルホニル基からなる群から選択される2価の残基を表わし、Y1〜Y4は水素、アルキル基、アルコキシル基及びハロゲン基からなる群から選択される価の残基を表わす。)
【0030】
上記一般式(3)で示される化学構造を繰り返し単位として有する熱可塑性ポリイミドの具体例としては、下記構造式(4)で示される化学構造を繰り返し単位として有するポリイミドが挙げられ、このポリイミドは、例えば、三井化学株式会社より「オーラム(商標名)」が市販されている。
【0031】
【化12】
【0032】
本発明において、ポリイミド繊維を形成するための熱可塑性ポリイミドの熱的性質としては、ガラス転移点が230℃以上であり、かつ融点が400℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が230℃未満であるとポリイミド繊維の耐熱性が低下する傾向にあるので好ましくなく、一方、融点が400℃を超えると、ポリイミド繊維を得る工程での紡糸、延伸加工が困難になったり、得られたポリイミド繊維の熱加工が困難となる傾向にあるので好ましくない。
【0033】
ポリイミド繊維を形成するポリイミドとしては、種々特性を改善する目的で、上記の好ましいポリイミドに、他の構造を有するポリイミドを共重合もしくはブレンドしたものでもよい。また、ポリイミド繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアリレート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの他のポリマーが含まれていてもよく、また酸化チタン、アルミナ、シリカ、カーボンブラックなどの無機系充填材が含まれていてもよい。
【0034】
本発明に用いられるポリイミド繊維としては、上記したようなポリイミドもしくは、ポリイミドに必要に応じて他の成分を配合した樹脂組成物を原料として、例えば溶融紡糸して、必要に応じて延伸することにより製造することができる。このとき、ポリイミドとして結晶性を有する好ましいポリイミドを用いれば、溶融紡糸された原糸を延伸することにより、結晶部を高度に配向させたポリイミド繊維を得ることができる。そのような高度に配向した結晶性のポリイミド繊維は、非晶性のポリイミド繊維に比べて加熱、冷却時の寸法変化が小さく、熱寸法安定性に優れる。したがって、そのような高度に配向した結晶性のポリイミド繊維を用いれば、熱寸法安定性に優れたポリイミド布帛やポリイミド不織布を得ることができ、ひいては熱寸法安定性に優れた複合材料を得ることができる。
【0035】
また、ポリイミド繊維としては、その使用目的に応じて、長繊維であってもよく、所望の繊維長にカットされた短繊維であってもよい。
【0036】
本発明において、本処理剤でポリイミド繊維を処理する際には、上記のようなポリイミド繊維に、本処理剤を付与した後、加熱処理をする。加熱処理をすることによって、本処理剤に含まれるポリイミド前駆体がイミド化して生じた反応性の高い官能基を有するポリイミド樹脂(以下、反応基ポリイミド樹脂と略記することがある)が、ポリイミド繊維に付着する。このときのポリイミド繊維への反応基ポリイミド樹脂の付着状態としては、ポリイミド繊維の1本1本が反応基ポリイミド樹脂でコーティングされている状態が理想的であるが、本発明の効果を得るうえでそのような理想的なコーティングが実現されていることは要しない。すなわち、ポリイミド繊維表面に反応基ポリイミド樹脂の連続層が形成されて付着している状態、断片的に付着している状態、あるいはポリイミド繊維内部に反応基ポリイミド樹脂が浸透して含浸された状態等が考えられるが、これらのいずれの状態でも構わない。
なお、本処理剤においては、加熱前の状態すなわちイミド化前の状態でポリイミド前駆体に反応性の高い官能基が取り込まれていると考えられる。これについては、本処理剤を調製する過程で、ポリイミド前駆体溶液にカップリング剤を添加すると溶液の色が変化することを本発明者らが実際に確認しているため、そのように考えられるのである。
【0037】
ポリイミド繊維に本処理剤を付与する方法としては、繊維処理剤について従来公知の方法が適用できる。また、ポリイミド繊維に本処理剤を含浸もしくは付与するタイミングとしては、長繊維の段階、短繊維の段階、及びそれらから布帛や不織布を構成した後の段階のいずれでもよいが、最終的に布帛や不織布として利用するのであれば、布帛や不織布を構成した後に付与するのが好ましい。熱処理のタイミングとしても、本処理剤を付与した後であれば、特に限定されるものではない。
例えば布帛や不織布にした後の段階に本処理剤を付与するのであれば、ポリイミド布帛もしくは不織布に、本処理剤をスプレー、浸漬もしくはウェットロール等の方法により含浸せしめ、余剰の処理剤をプレスロール等で圧搾した後、乾燥すればよい。このとき、本処理剤の濃度、含浸温度、含浸時間及び圧搾力等を適宜調整することにより、本処理剤を所望の量で付与することができる。
【0038】
ポリイミド繊維に本処理剤を付与する付与量としては、ポリイミド繊維の100質量部に対して、本処理剤に含まれるポリイミド前駆体とシランカップリング剤とを合わせた量(以下、有効成分量と略記する)が1〜40質量部であることが好ましく、5〜25質量部がより好ましく、10〜20質量部が特に好ましい。有効成分量が1質量部未満では、接着性改善効果が得られ難いので好ましくない。一方、40質量部を超えると、ポリイミド繊維が本来有する優れた特性が活かされなくなったり、繊維の可とう性が低下したり、布帛や不織布の段階で付与した場合には目が詰まって複合材を得るためにマトリックス樹脂を含浸させるのが困難になったりする等、弊害が生じる場合があるので好ましくない。
【0039】
ポリイミド繊維に本処理剤を付与した後に加熱処理するときの温度条件としては、本処理剤に含有されたポリイミド前駆体をイミド化することによって得られるポリイミドのガラス転移点以上の温度が好ましい。当該ガラス転移点未満の温度であると、ポリイミド前駆体のイミド化によるポリイミドの生成が十分でなく、目的の効果が得られ難いので好ましくない。また、加熱処理するときの温度条件としては、ポリイミド繊維を形成する主たるポリイミドの分解点もしくは融点より低い温度が好ましく、さらには当該分解点もしくは融点より10℃以上低い温度であることがより好ましい。当該分解点もしくは融点以上の温度で加熱処理を行なうと、ポリイミド繊維の形状や性能が損なわれる場合があるので好ましくない。
【0040】
本処理剤で処理したポリイミド繊維は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂に代表される熱硬化性樹脂等の各種樹脂との接着性に優れているので、繊維強化樹脂複合材料の強化材として有用なものである。そのような目的で本処理剤で処理したポリイミド繊維を使用する場合、スライバー、トウ、布帛、不織布等、各種の形態で用いることが可能であるが、不織布の形態で用いることは好ましい態様である。したがって、本処理剤で処理したポリイミド繊維は、不織布の構成素材として好適である。
なお、本処理剤で処理したポリイミド繊維を不織布の構成素材とする際には、ポリイミド繊維を予め本処理剤で処理してから不織布を製造してもよいが、先にポリイミド繊維を不織布の形態にしておいてから、不織布を本処理剤で処理する方法が効率的で好ましく、本発明のポリイミド不織布にはそのような好ましい方法で得られたものが含まれることは勿論である。
【0041】
本発明のポリイミド不織布、すなわち本処理剤で処理されたポリイミド繊維から主としてなるポリイミド不織布及びその好ましい態様について詳細に説明する。
本発明のポリイミド不織布の主たる構成成分であるポリイミド繊維としては、上記したような本処理剤で処理されたポリイミド繊維であればよいが、短繊維状にカットされたポリイミド短繊維が好ましい。すなわち、本発明のポリイミド不織布としては、短繊維不織布が好ましいのであり、その理由としては、複合材料とする際の樹脂含浸が容易に行なえることや、複合材料とした後の切断、穴あけ等の加工性が良いことが挙げられる。
【0042】
本発明に用いるポリイミド短繊維の繊維長及び繊維径としては、得られる不織布の地合を良好にする点から、平均繊維長としては1〜15mmであることが好ましく、平均繊維径としては3〜30μmであることが好ましい。
なお、本処理剤による処理の前後で繊維長や繊維径が変化することは有意な変化ではなく通常考えなくてよい。
【0043】
本発明のポリイミド不織布は、本処理剤で処理されたポリイミド繊維から主としてなるものであるが、不織布を抄造しやすくしたり、得られる不織布の種々特性を改善する目的で、必要に応じて他の有機物もしくは無機物からなる繊維やパルプ状物、例えばアラミド、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、カーボン、ガラス、アルミナ等からなる繊維もしくはパルプ状物、さらには、種々の粒子状物(フィラー)が配合されたものであってもよい。
上記のようなポリイミド繊維以外の構成成分は、本発明の目的を損なわない範囲で1種もしくは数種配合されていてもよいが、その配合量の合計質量としては、本発明のポリイミド不織布の質量から本処理剤の質量を差し引いた質量に対して、40質量%以下にとどめることが好ましい。すなわち、ポリイミド不織布を抄造してから本処理剤で処理する好ましい方法を採用する場合には、ポリイミド繊維以外の構成成分の配合量は40質量%以下の範囲にとどめてポリイミド不織布を抄造することが好ましい。
【0044】
本発明のポリイミド不織布を製造する好ましい方法について、短繊維不織布を例として説明する。まず、ポリイミド短繊維及び必要に応じて配合される他の短繊維、パルプ状物、フィラー等を使用してポリイミド不織布を抄造する。このときのポリイミド短繊維としては、上記したように、未だ本処理剤による処理が施されていないものを用いるのが好ましく、本処理剤による処理は不織布の抄造後に行なえばよい。
【0045】
抄造方法としては特に限定されるものではないが、不織布の良好な平滑性を確保しつつ目的の目付のポリイミド不織布を得るのに有利な点から、湿式抄造法が好ましい。
湿式抄造法に用いる湿式抄造装置としては、特に限定されるものではなく、公知の抄紙機等を用いればよいが、具体例としては、円網式湿式抄紙機、短網傾斜式湿式抄紙機、長網傾斜式湿式抄紙機等が挙げられる。これらの湿式抄造装置には、熱風式、接触式もしくは輻射式の乾燥機が併設されていることが好ましい。
【0046】
湿式抄造を行う工程としては、まず、上記のポリイミド短繊維と、必要に応じて配合される他の成分とを水等の分散媒中に投入して混合し、パルパー等を用いて均一に分散させてスラリーを調製する。そして、上記のような抄造装置を用いてシート状に固液分離した後乾燥することにより、ポリイミド不織布を得ることができる。
なお、ポリイミド不織布の平滑性を向上させる目的で、抄造前にポリイミド短繊維をリファイナーやビーター等によって解繊やフィブリル化させる処理を行っておいてもよい。
【0047】
また、抄造工程において不織布の強度を確保する目的で、ポリイミド前駆体やエポキシ樹脂等を含むエマルジョンや溶液を含浸もしくはスプレーしてもよく、例えば、湿式抄造装置の抄造部と乾燥部の間に含浸装置やスプレー装置等を設けて行えばよい。本処理剤による処理を施す前の段階でそのような含浸もしくはスプレーしても、本発明の目的を達成するうえで特に問題とはならない。
【0048】
また、ポリイミド不織布の機械的強度を増す目的で、上記のようにして抄造された不織布に対して加熱加圧する工程を行うことが好ましい。上記のような工程によって湿式抄造された不織布は、一般的に極めて高い空隙率を有している。そのため、機械的強度不足から、後の加工の際に問題、例えば本処理剤による処理時や、複合材料とする場合のマトリックス樹脂の含浸時において破損する等の問題を生じる場合がある。そこで、より強度に優れたポリイミド不織布とするために、加熱加圧してある程度空隙率を低下させたり短繊維同士の結合を強めておいたりすることが好ましいのである。
【0049】
そのような目的でポリイミド不織布を加熱加圧する際の加熱温度としては、ポリイミド繊維を形成する主たるポリイミドのガラス転移点以上の温度とすることが好ましい。当該ガラス転移点以上の温度で加熱することにより、不織布を構成するポリイミド繊維の塑性変形が容易となり、ポリイミド繊維同士の結合を強めることが可能となるからである。それと同時に、加熱温度としては、当該ポリイミドが溶融もしくは分解する温度より低い温度であることが好ましく、ポリイミドが結晶性ポリイミドの場合には、当該ポリイミドの融点より低い温度、さらには融点より10℃以上低い温度であることが好ましい。加熱温度がポリイミドの溶融する温度以上では、ポリイミド繊維同士が極度に融着したり、繊維としての形状を損なわれたりして不織布としての性能を発揮できなくなる傾向にあるからである。
【0050】
また、加熱加圧する際の加圧圧力としては、特に限定されるものではないが、加圧圧力が高いほどポリイミド不織布の気孔率を減少させる傾向にあり、本発明では通常0.05〜10MPa程度の加圧圧力を採用すればよい。
【0051】
上記のような加熱加圧を行う装置としては、特に限定されるものではなく、従来公知の加熱プレス装置等を用いればよいが、長尺の不織布を連続的に加熱加圧できるという点から、カレンダーロール装置や、対向する一対の金属製等のベルト間で加熱プレスの行えるダブルベルトプレス装置等が好ましく用いられる。
【0052】
上記のようにして得られたポリイミド不織布を本処理剤で処理すること、具体的にはポリイミド不織布に本処理剤を付与して、加熱処理することにより、複合材料とした際のマトリックス樹脂との接着性に優れたポリイミド不織布を得ることができる。
ポリイミド不織布に本処理剤を付与する方法としては、従来公知の含浸等の方法が適用できる。例えば、本処理剤をスプレー、浸漬もしくはウェットロール等の方法によりポリイミド不織布に含浸せしめた後、余剰の本処理剤をプレスロール等で圧搾除去すればよい。
【0053】
本処理剤のポリイミド不織布への付与量としては、ポリイミド不織布100質量部に対して、本処理剤の有効成分量が1〜40質量部となるようにするのが好ましい。この付与量は、本処理剤の濃度やポリイミド不織布への含浸温度、含浸時間、含浸後余剰の本処理剤を圧搾する圧搾力等を適宜調整することにより、所望の付与量とすることができる。
【0054】
ポリイミド不織布に本処理剤を付与した後に加熱処理を行なう方法としては、本処理剤を付与して乾燥した不織布を、加熱加圧することが好ましく、例えば、既に説明したポリイミド不織布の製造時において加熱加圧するのと同様の方法で加熱加圧すればよい。
ポリイミド不織布に本処理剤を付与した後に加熱処理を行なう際の加熱温度としては、本処理剤の構成成分であるポリイミド前駆体をイミド化することによって得られるポリイミドのガラス転移点以上の温度とすることが好ましい。加熱温度が当該ガラス転移点未満の温度であると、ポリイミド前駆体からのポリイミド生成が不十分なために目的の効果が得られなくなる場合があるので好ましくない。また、加熱温度としては、不織布を形成する主たるポリイミドが溶融もしくは分解する温度より低い温度であることが好ましく、ポリイミドが結晶性ポリイミドの場合には、当該ポリイミドの融点より低い温度が好ましく、さらには融点より10℃以上低い温度であることが好ましい。
【0055】
なお、ポリイミド不織布に本処理剤を含浸させる工程は、ポリイミド不織布抄造工程中のウェットシートの段階で実施してもよく、その場合は加熱加圧工程が一工程ですむため効率が良いが、その反面、均一性や含浸量の調整が難しくなる傾向にあるので、目的に応じた有利な方法を採用すればよい。
【0056】
上記のようにして本処理剤で処理されたポリイミド不織布は、本処理剤の作用により接着性が改善されているため、繊維強化複合材料の強化材として好適であり、特に、熱硬化性樹脂と複合することにより、優れた性能を有する本発明の複合材料を得ることができる。
本発明において、ポリイミド不織布と複合化させて本発明の複合材料を得るための熱硬化性樹脂、すなわちマトリックス樹脂に用いる熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、シアナート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
なお、熱硬化性樹脂としては、複合材料の耐熱性、誘電特性、吸水性もしくは燃焼性などを改善する目的で、上記で例示したような熱硬化性樹脂の化学構造の一部を変性したものや、無機質もしくは有機質フィラーを適宜配合したものを用いてもよい。
【0057】
本発明の複合材料において、本処理剤で処理されたポリイミド不織布と、マトリックス樹脂たる熱硬化性樹脂の質量割合としては、本処理剤で処理されたポリイミド不織布70〜20質量部に対し、熱硬化性樹脂30〜80質量部の割合とすることが好ましい。熱硬化性樹脂の質量割合が上記範囲を外れて小さすぎると、熱硬化性樹脂が不織布内の空隙に十分に行き渡らないおそれがあり、得られる複合材料の内部に気孔が残留して性能が劣化することもあるので好ましくない。一方、ポリイミド不織布の質量割合が上記範囲を外れて小さすぎると、複合材料における繊維強化の効果が十分に得られない場合があるので好ましくない。さらに言えば、本処理剤で処理されたポリイミド不織布60〜30質量部に対し、熱硬化性樹脂40〜70質量部の割合とすることがより好ましい
【0058】
上記の本処理剤で処理されたポリイミド不織布(以下、本ポリイミド不織布と略記することがある)と熱硬化性樹脂とから本発明の複合材料を得るための好ましい方法について説明する。
まず、本ポリイミド不織布に液体状の熱硬化性樹脂を含浸もしくは塗布する。例えば、熱硬化性樹脂溶液を、含浸装置もしくはコーターを用いてポリイミド不織布に所定量含浸もしくは塗布する。しかる後、熱風式や輻射式等の乾燥機を用いて脱溶媒することにより、本ポリイミド不織布と熱硬化性樹脂を複合化したプリプレグが得られる。このとき、適当な乾燥条件を設定することにより、熱硬化性樹脂を半硬化状態にさせる、いわゆるBステージ化させることができ、プリプレグの取り扱い性が良くなるので好ましい。
【0059】
次に、上記で得られたプリプレグもしくは必要に応じてその複数枚を積層したものを、公知の熱プレス装置等を用いて加熱加圧成形し、かつ熱硬化性樹脂を十分に硬化させることにより、目的とする本発明の複合材料が得られる。このときの加熱加圧条件としては、使用する熱硬化性樹脂の種類や複合材料の厚さ等にもよるので、それらを考慮して適宜設定すればよいが、例えばエポキシ樹脂を使用する場合の好ましい条件としては、170℃程度の温度、2MPa程度の圧力下、60分間程度保持することにより通常は十分に樹脂を硬化させることができ、優れた性能の複合材料が得られる。
【0060】
なお、所望の形状の複合材料を得るためには、金型を利用すればよいが、板状の複合材料とする場合にその厚さを調整する方法としては、金型を利用するほか、加圧条件によって調整してもよく、所定の厚さを有する金属製等のスペーサーをを用いて調整してもよい。スペーサーを用いて厚さを調整するには、プリプレグもしくはその積層体からなる成形材料と、成形材料の周囲に配置したスぺーサーとを2枚の金属板間に挟み、成形材料をスペーサーの厚さ以下に圧縮するに十分な圧力を印加して金属板ごと加熱加圧することにより、簡便かつ確実に厚さを調整した成形を行なうことができる。
【0061】
上記したような本ポリイミド不織布と熱硬化性樹脂とを用いて構成される本発明の複合材料は、強化繊維たるポリイミド繊維とマトリックス樹脂たる熱硬化性樹脂とが強固に接着しているため、強度や耐久性に優れた複合材料となっている。それに加えて、ポリイミド不織布を強化材として使用していることから軽量で耐熱性に優れ、加工性も良好であり、結晶性ポリイミド繊維を用いてポリイミド不織布を構成したものでは、誘電特性及び熱寸法安定性に優れ、吸湿性も低いという特に好ましい特性をも具備した複合材料とすることもできる。したがって、本発明の複合材料は、各種耐熱構造材料用途や、プリント基板材料等の電子材料用途をはじめとする、様々な用途への展開が可能である。
【0062】
上記したように、本発明の複合材料は、プリント基板材料として好適であり、本発明の複合材料を板状に成形して、その表面に導電層を設けることにより、本発明の複合材料の優れた特性を活かした高性能のプリント基板が得られる。
すなわち、本発明のプリント基板は、上記した本発明の複合材料からなる板(以下、複合材料板と略記することがある)の片面もしくは両面に導電層を有してなるプリント基板であり、本発明の複合材料板の片面もしくは両面に、従来公知の方法等で導電層を積層することにより得ることができる。
【0063】
本発明のプリント基板における導電層を構成する素材としては、銅、鉄、アルミニウム、銀、金等の金属が好適であり、中でも性能及び材料コストの点から、銅が特に好ましい。
導電層の厚さとしては、加工性、性能面からみて5〜50μmとすることが好ましい。
なお、両面に導電層を有する場合には、片面あたり5〜50μmとすることが好ましい。
【0064】
本発明のプリント基板を製造するに際して、複合材料板の片面もしくは両面に導電層を積層する方法としては、特に限定されるものではないが、好ましい方法としては、複合材料を構成するための熱硬化性樹脂がBステージ化された状態にある複合材料のプリプレグを用い、このプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配し、加熱加圧成形する方法が挙げられる。この好ましい方法によれば、成形、熱硬化性樹脂の硬化及び積層の工程をまとめて一度に行うことができる。このとき、必要に応じて導電層と複合材料とを交互に複数層積層してもよい。また、プリント基板の厚さの調整は、上記した複合材料における場合と同様にして行なうことができる。
なお、上記の好ましい方法以外に、成形及び樹脂硬化済みの複合材料板の片面もしくは両面に、無電解めっきや真空蒸着により導電層を設ける方法も採用することができる。
【0065】
上記のようにして得られた本発明のプリント基板には、必要に応じて導電層に各種エッチング等の処理を施して回路を形成させたり、穴をあけたりする加工を施したりして、電子部品を実装することができる。
上記したように、本発明のプリント基板は、本処理剤で処理されたポリイミド不織布を基材とする複合材料を用いて構成されており、基材とマトリックス樹脂との接着性が優れているので、従来問題となっていたはんだ耐熱性が改善されている。したがって、本発明のプリント基板は、軽量かつ耐熱性、誘電特性及び熱寸法安定性に優れ、吸湿性も低く、さらに加工性も良好な高性能のプリント基板である。
【0066】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、実施例に用いたポリイミド不織布の製造方法を参考例として示す。
【0067】
参考例
ポリイミド繊維を得るためのポリイミド樹脂としては、結晶性熱可塑ポリイミド樹脂(三井化学株式会社製、「オーラム(商標名)PL450」)を用いた。DSC測定によるこのポリイミド樹脂のガラス転移点は、250℃であり、融点は387℃であった。上記ポリイミド樹脂を415℃に加熱して溶融させ、紡糸速度500m/minで溶融紡糸し、温度300℃、延伸倍率2.4倍で加熱延伸することにより、単糸繊度が1.3dTexのポリイミド繊維(マルチフィラメント)を得た。このポリイミド繊維の結晶化度は30%、繊維軸方向への結晶配向度は90%(いずれもX線回折法による測定値)であった。
このようにして得られたポリイミド繊維を、繊維長5mmにカットして、ポリイミド短繊維を得た。
上記のポリイミド短繊維を水中に投じ、パルパーを用いて水中に均一に分散させることにより濃度0.05質量%の抄造用スラリーを調製し、このスラリーを短網傾斜式連続抄紙機(斎藤鐵工所製)により幅60cmで抄造し、次いで、抄紙機に併設された熱風式乾燥機にて140℃で乾燥してウェブを得た。さらにこのウェブを連続プレス機(サンドビック社製ダブルベルトプレス機)に供し、300℃の加熱下、線圧196N/cm(面圧約0.8MPaに相当すると考えられる)の加圧条件で加熱加圧プレスすることによりポリイミド不織布を得た。
このようにして得られたポリイミド不織布の目付けは40g/m2、平均厚さは80μm、空隙率は63%であった。
【0068】
実施例1
室温下(約20℃)にて、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸118.22g(0.330mol)を水1800gに加えて懸濁させたのち、懸濁液を攪拌しながら、m−キシレンジアミン44.95g(0.330mol)を15分間かけて徐々に加えた。このとき、m−キシレンジアミンの添加による発熱が見られたので20℃に保温した。m−キシレンジアミンをすべて添加し終わった後、しばらくすると塩が形成され、懸濁液は褐色の均一溶液となってポリイミド前駆体水溶液が得られた。得られたポリイミド前駆体水溶液にγ−アミノプロピルトリエトキシシラン36.59g(0.165mol)を良く撹拌しながら加えることにより、濃度が10質量%である本発明のポリイミド繊維用処理剤を調製した。
【0069】
このポリイミド繊維用処理剤を、上記の参考例で得られたポリイミド不織布に含浸させた後、熱風乾燥機にて110℃で15分間かけて乾燥し、その後バッチ式加熱プレス機を用いて、300℃、0.3MPaで15分間加熱加圧することにより、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は6.0g付与されていた。
【0070】
別途、メチルエチルケトン15質量部、ジメチルホルムアミド20質量部及び及びメチルセロソルブ8質量部からなる混合溶媒に、エポキシ樹脂57質量部(油化シェルエポキシ社製「エピコート5046B80」の37質量部と「エピコート154」の20質量部からなる)、ジシアンジアミド2質量部及び2,4−エチルメチルイミダゾール0.1質量部とを加えることにより、熱硬化性樹脂溶液を調整した。この熱硬化性樹脂溶液中に上記の処理されたポリイミド不織布を浸漬して引き上げた後、熱風乾燥機を用いて150℃で4分間加熱乾燥させることにより、複合材料のプリプレグを得た。そして、このプリプレグをバッチ式加熱プレス機に供し、プリプレグに加圧しない状態で120℃で1時間保持し、引き続き2MPaの加圧下、170℃で60分間保持して、成形及び熱硬化性樹脂の硬化を行なった。このような操作により、厚さ0.1mmの複合材料板を得た。得られた複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は65質量%であった。
【0071】
実施例2
ポリイミド前駆体水溶液を調製する際に、m−キシレンジアミンに代えてイソホロンジアミンを使用すること以外は実施例1と同様にして、濃度が10質量%のポリイミド繊維用処理剤を調製した。また、このポリイミド繊維用処理剤を用いること以外は実施例1と同様にして、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は5.6g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの複合材料板を得た。得られた複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は66質量%であった。
【0072】
実施例3
ポリイミド前駆体水溶液を調製する際に、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸に代えて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を使用すること以外は、実施例1と同様にして濃度が10質量%のポリイミド繊維用処理剤を調製した。また、このポリイミド繊維用処理剤を用いること以外は実施例1と同様にして、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は6.4g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの複合材料板を得た。得られた複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は64質量%であった。
【0073】
比較例1
ポリイミド繊維用処理剤による処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、比較用の複合材料板を得た。この複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は69質量%であった。
【0074】
比較例2
室温下(約20℃)にて、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸118.22g(0.330mol)を水1468gに加えて懸濁させたのち、懸濁液を攪拌しながら、m−キシレンジアミン44.95g(0.330mol)を15分間かけて徐々に加えた。このとき、m−キシレンジアミンの添加による発熱が見られたので20℃に保温した。m−キシレンジアミンをすべて添加し終わった後、しばらくすると塩が形成され、懸濁液は褐色の均一溶液となって濃度が10質量%のポリイミド前駆体水溶液が得られた。
このポリイミド前駆体水溶液を比較用のポリイミド繊維用処理剤として、本発明のポリイミド繊維用処理剤に代えて用いる以外は、実施例1と同様にして、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は6.0g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、比較用の複合材料板を得た。この複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は65質量%であった。
【0075】
比較例3
室温下(約20℃)にて、水980gに対しγ−アミノプロピルトリエトキシシラン20gを加えて攪拌することにより、濃度が2質量%のアミノシランカップリング剤水溶液を調製した。参考例で得られたポリイミド不織布を上記アミノシランカップリング剤水溶液に浸漬して引き上げた後、熱風乾燥機にて110℃で15分間かけて乾燥させることにより、カップリング処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、カップリング剤は0.8g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、比較用の複合材料板を得た。この複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は66質量%であった。
【0076】
[はんだ耐熱性試験の実施]
上記の実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた複合材料板を用いて、吸湿後のはんだ耐熱性試験を行った。
はんだ耐熱性試験はプリント基板の性能評価として用いられるものであり、プリント基板が急激に加熱された際に、マトリックス樹脂と繊維基材の接着力が不十分な場合には、吸湿されていた水分が蒸発することの影響でマトリックス樹脂と繊維の界面で剥離が起り、膨れ等の外観不良となってしまう。したがって、このはんだ耐熱性試験を行なうことにより、ポリイミド繊維とマトリックス樹脂との接着性を評価することができる。
なお、吸湿後のはんだ耐熱性試験の実施方法としては、複合材料板を40mm×40mmの正方形に切断したものを試料として、これを100℃で1時間煮沸してから260℃のはんだ浴に20秒間浸漬した後の試料の膨れ等の外観異常を観察することにより行なった。評価基準としては、膨れの無いものを○、少数の膨れが生じたものを△、多数の膨れが生じたものを×とした。その結果を下記表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示した結果からわかるように、実施例1〜3で得られた複合材料板は、比較例1〜3で得られた複合材料板と比較して、吸湿後のはんだ耐熱性に優れていた。これは、本発明のポリイミド繊維用処理剤で処理することによって、マトリックス樹脂とポリイミド繊維との界面の接着性が向上したためである。これに対して比較例1では、処理されていないポリイミド不織布を用いたためマトリックス樹脂との接着性が不十分であった。また、比較例2では、処理剤にシラン系カップリング剤が含まれていなかったため、比較例3ではシラン系カップリング剤のみによる処理であったため、それぞれ十分な接着性改善効果が得られずに膨れが発生してしまった。
【0079】
実施例4
実施例1において得られたプリプレグを4枚重ね、これを厚さ18μmの電解銅箔2枚ではさみ、実施例1と同様の条件で加熱及び加圧して成形及び熱硬化性樹脂の硬化を行なうことにより、両面に導電層を有する厚さ0.43mmのプリント基板を得た。得られたプリント基板に関する特性を下記表2に示す。
なお、下記表2に記載の特性は次の方法で測定又は評価した。
(1)比重
プリント基板の導電層をエッチングにより全て除去した後に30mm×30mmの正方形に切断した試験片を用いて、空気中での質量と水中に完全に浸漬したときの質量とを測定し、アルキメデス法により算出した。
(2)吸水率
プリント基板の導電層をエッチングにより全て除去した後に30mm×30mmの正方形に切断した試験片を用いて、JIS−C6481に準じて測定した。
(3)平均熱膨張係数
プリント基板の導電層をエッチングにより全て除去したものを試料として、JIS−C6481に準じて、TMA測定装置(TAインスツルメント製、「TMA2940」)を用い、25〜150℃の範囲で測定した。
(4)比誘電率および誘電正接
プリント基板の導電層をエッチングにより一部除去して電極を形成し、常態にて測定を行った
なお、周波数1MHzはブリッジ法(JIS−C6481に準じて測定)で、周波数1〜20GHzはトリプレート線路共振器法で行った。
(5)ドリル加工性
プリント基板をφ0.25mmのドリル刃にて穿孔し、穿孔部の状態を光学顕微鏡で観察して評価した。
【0080】
【表2】
【0081】
上記の結果よりわかるように、本発明のプリント基板は熱的、電気的特性に
優れ、吸水しにくく加工性も良好な軽量高性能の耐熱プリント基板である。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリイミド繊維用処理剤は、接着性に乏しいポリイミド繊維の表面を活性化して、ポリイミド繊維の接着性を簡単に改善することができる。
本処理剤で処理された本発明のポリイミド繊維は、繊維強化樹脂複合材料のマトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をはじめとする各種樹脂等との接着性に優れているので、長繊維、短繊維及びそれらからなるロービング、トウ、織物、編物、不織布の形態で、マトリックス樹脂との接着性に優れた複合材料の基材として好適に利用できる。
本処理剤で処理されたポリイミド繊維から主としてなる本発明の不織布は、複合材料の基材として用いてマトリックス樹脂、特に熱硬化性樹脂を含浸すれば、繊維−マトリックス樹脂界面の接着性に優れているので、界面の空隙や剥離の生じにくい複合材料を得ることができる。
したがって、そのような本発明の不織布に熱硬化性樹脂が含浸されてなる本発明の複合材料は、ポリイミド基材の持つ優れた性能を最大限に生かされ、軽量かつ耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水性が極めて低く、さらには誘電特性にも優れた複合材料とすることができるので、過酷な使用環境での耐熱性が要求される各種構造材料や電子材料等の用途に好適に使用できる。
また、そのような本発明の複合材料からなる板の片面もしくは両面に導電層を有してなる本発明のプリント基板は、上記したような複合材料由来の優れた特性を有し、耐熱性に優れるため鉛フリーはんだにも対応できる高性能のプリント基板であり、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末等の情報通信機器をはじめ、各種電子機器用途に好適に利用できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリイミド繊維用処理剤、並びにそれで処理されたポリイミド繊維、不織布、さらにはそれらを用いた複合材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の電気、電子分野もしくは宇宙、航空分野における技術開発はめざましく、これら分野ではその優れた耐熱性、機械特性および電気的特性からポリイミド樹脂が注目され、種々形態での使用が試みられている。
中でも、ポリイミド繊維及びそれを加工して得られる不織布を強化材とした複合材料の開発が盛んに行われており、ポリイミド繊維間を熱硬化性樹脂バインダーにより結合した積層板用基材不織布(例えば、特許文献1参照。)が知られている。また、熱可塑性を有する結晶性ポリイミド短繊維を主な構成成分とする不織布と熱硬化性樹脂とからなる、耐熱寸法安定性等に優れた複合材料の発明(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0003】
ところで、ポリイミド繊維に限らず、繊維材料を複合材料の強化材として用いる場合には、マトリックス樹脂との接着性を高めることが重要であることはよく知られている。繊維材料とマトリックス樹脂との界面での剥離が生じると、強度低下等の種々の問題を引き起こすからである。したがって、ポリイミド繊維についても、例えば、ポリイミド不織布と熱硬化性樹脂からなる複合材料をプリント基板材料として用いる場合に、複合材料の基材であるポリイミド不織布とマトリックス樹脂である熱硬化製樹脂との接着が不十分であれば、吸湿時のはんだ耐熱性が低下したりして、せっかくのポリイミドの優れた特性が生かせないという懸念が生じる。
【0004】
一方、ポリイミドは元来接着性に乏しい樹脂であることが知られているため、ポリイミド成形品の接着性の改善が古くから試みられており、ポリイミド成形品の表面をアルカリ処理した後にカップリング処理を行う方法(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−200210号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−138385号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭63−99282号公報(特許請求の範囲)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した他にも、ポリイミド成形品の接着性を改善する試みがなされてはいるが、いずれもフィルム状のポリイミド成形品を対象としているものであり、ポリイミドフィルムよりもさらに表面が不活性で接着性に乏しいポリイミド繊維、特に、延伸されて高度に結晶配向された接着性に極めて乏しいポリイミド繊維の接着性を向上させるのに有効な方法は、未だ見出されていないのが現状である。
【0007】
そのような状況に鑑み、本発明の課題は、マトリックス樹脂との接着性に乏しいポリイミド繊維の接着性を改善させる効果の高いポリイミド繊維用処理剤、及び接着性に優れたポリイミド繊維や不織布、並びにポリイミド繊維材料を強化材としたマトリックス樹脂との界面接着性に優れる複合材料、さらにはそれを用いてなるプリント基板を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液を処理剤としてポリイミド繊維に付与することにより、接着性改善に著るしい効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、次の通りである。
第一に、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴とするポリイミド繊維用処理剤であり、ポリイミド前駆体が、下記一般式(1)に示すジアミンと下記一般式(2)に示すテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体とからなる水溶性の塩である好ましい態様、及びシラン系カップリング剤がアミノシラン系カップリング剤である好ましい態様を包含する。
【0010】
【化4】
(式中、R1は2価の脂肪族残基、少なくとも1個の芳香族環を含む2価の芳香族残基及び少なくとも1個の芳香族環を含む2価の部分芳香族残基からなる群から選択される残基を表す。)
【0011】
【化5】
(式中、R2 は4価の芳香族又は脂肪族残基を表し、R3及びR4は、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基もしくはヒドロキシアルキレン基を表す。ただし、式中の4個のカルボニル基はR2に含まれる異なった炭素原子に直接連結しており、かつ2個ずつが対をなして隣接する炭素原子に結合しており、また、R3とR4のうちの少なくとも一方は水素原子である。)
【0012】
第二に、上記の処理剤で処理されたことを特徴とするポリイミド繊維であり、ポリイミド繊維が下記一般式(3)で示される繰り返し単位を有する熱可塑性ポリイミドで形成された繊維である好ましい態様を包含する。
【0013】
【化6】
(式中、R5は単環式芳香族、縮合多環式芳香族、芳香環が直接もしくは架橋員により結合された非縮合多環式芳香族からなる群から選択される4価の芳香族の残基を表わす。また、Xは直接結合、炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオ基及びスルホニル基からなる群から選択される2価の残基を表わし、Y1〜Y4は水素、アルキル基、アルコキシル基及びハロゲン基からなる群から選択される価の残基を表わす。)
【0014】
第三に、上記のポリイミド繊維から主としてなることを特徴とするポリイミド不織布である。
第四に、上記のポリイミド不織布に熱硬化性樹脂が含浸されてなることを特徴とする複合材料である。
第五に、上記の複合材料からなる板の片面もしくは両面に導電層を有してなることを特徴とするプリント基板である。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリイミド繊維用処理剤(以下、本処理剤と略記することがある)は、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴としている。
本処理剤に含まれるポリイミド前駆体は、加熱によりイミド化されポリイミドを形成するため、その形成されたポリイミドがポリイミド系繊維と良く接着するのは勿論である。それに加えて、前期ポリイミド前駆体は単にイミド化するだけでなく、その一部とシラン系カップリング剤とが反応して、反応性の高い官能基、例えばカルボキシル基、水酸基、アミノ基、イミノ基等を多く有するポリイミドが形成され、これらの反応性の高い官能基がマトリックス樹脂との接着性を改善すると考えられる。すなわち、本処理剤から形成された反応性の高いポリイミドを介して、ポリイミド繊維とマトリックス樹脂との接着性が改善されることになると考えられる。
【0016】
本処理剤に含まれるポリイミド前駆体としては、特に限定されるものではなく、公知のポリイミド前駆体を採用することができるが、作業性や環境問題等の観点から、水溶性のポリイミド前駆体であることが好ましい。そのような水溶性のポリイミド前駆体としては、例えば特開2000−319389号公報に記載されているようなポリイミド前駆体を用いることができ、下記一般式(1)に示すジアミンと下記一般式(2)に示すテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体とからなる水溶性の塩が好ましい。
【0017】
【化7】
(式中、R1は2価の脂肪族残基、少なくとも1個の芳香族環を含む2価の芳香族残基及び少なくとも1個の芳香族環を含む2価の部分芳香族残基からなる群から選択される残基を表す。)
【0018】
【化8】
(式中、R2 は4価の芳香族又は脂肪族残基を表し、R3及びR4は、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基もしくはヒドロキシアルキレン基を表す。ただし、式中の4個のカルボニル基はR2に含まれる異なった炭素原子に直接連結しており、かつ2個ずつが対をなして隣接する炭素原子に結合しており、また、R3とR4のうちの少なくとも一方は水素原子である。)
【0019】
上記一般式(1)において、R1で表わす残基の具体例としては、次に示す化学構造のものが挙げられる。
【0020】
【化9】
【0021】
また、上記一般式(2)において、R2で表わす残基の具体例としては、次に示す化学構造のものが挙げられる。
【0022】
【化10】
【0023】
また、上記一般式(2)中の、炭素数1〜12のアルキル基もしくはヒドロキシアルキレン基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられ、メチル基が好ましい。上記一般式(2)におけるR3とR4の組み合わせとしては、一方がメチル基であり、他方が水素原子である組み合わせが特に好ましい。
【0024】
また、本処理剤に含まれるシラン系カップリング剤としては、公知のものを適用することができるが、接着性や保存安定性等の観点から、アミノシラン系カップリング剤であることが好ましい。そのようなアミノシラン系カップリング剤の具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
本処理剤は、上記したようなポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とが水等の溶媒に溶解されてなるものである。本処理剤におけるポリイミド前駆体とシランカップリング剤とを合算した濃度としては、5〜40質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。上記の好ましい範囲より濃度が低すぎると本処理剤の使用効果が得られ難い傾向にあり、逆に高すぎると本処理剤にゲル化や沈殿が生じる傾向にあるので好ましくない。
【0026】
また、ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤との配合割合としては、ポリイミド前駆体を構成するテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体1モルに対して、シランカップリング剤を0.1〜4.0モルの割合とするのが好ましく、0.3〜3.0モルの割合とするのがより好ましい。シラン系カップリング剤の添加割合が上記の好ましい範囲外では、ポリイミド繊維の接着性改善効果が十分に得られない傾向にあるので好ましくない。
【0027】
なお、本処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリイミド前駆体及びシラン系カップリング剤以外に、pH調整剤、界面活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0028】
上記したような本処理剤でポリイミド繊維を処理することにより、本発明の処理されたポリイミド繊維が得られる。ここで、本処理剤で処理するためのポリイミド繊維としては、特に限定されるものではないが、下記一般式(3)で示される化学構造を繰り返し単位として有する熱可塑性ポリイミドで形成された繊維であることが好ましい。この好ましい繊維を形成する熱可塑性ポリイミドは、熱可塑性かつ結晶性のポリイミドであるため、溶融紡糸により容易に繊維にすることができると共に、優れた耐熱性と熱加工性を具備したポリイミド繊維が形成されるからである。
【0029】
【化11】
(式中、R5は単環式芳香族、縮合多環式芳香族、芳香環が直接もしくは架橋員により結合された非縮合多環式芳香族からなる群から選択される4価の芳香族の残基を表わす。また、Xは直接結合、炭化水素基、カルボニル基、エーテル基、チオ基及びスルホニル基からなる群から選択される2価の残基を表わし、Y1〜Y4は水素、アルキル基、アルコキシル基及びハロゲン基からなる群から選択される価の残基を表わす。)
【0030】
上記一般式(3)で示される化学構造を繰り返し単位として有する熱可塑性ポリイミドの具体例としては、下記構造式(4)で示される化学構造を繰り返し単位として有するポリイミドが挙げられ、このポリイミドは、例えば、三井化学株式会社より「オーラム(商標名)」が市販されている。
【0031】
【化12】
【0032】
本発明において、ポリイミド繊維を形成するための熱可塑性ポリイミドの熱的性質としては、ガラス転移点が230℃以上であり、かつ融点が400℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が230℃未満であるとポリイミド繊維の耐熱性が低下する傾向にあるので好ましくなく、一方、融点が400℃を超えると、ポリイミド繊維を得る工程での紡糸、延伸加工が困難になったり、得られたポリイミド繊維の熱加工が困難となる傾向にあるので好ましくない。
【0033】
ポリイミド繊維を形成するポリイミドとしては、種々特性を改善する目的で、上記の好ましいポリイミドに、他の構造を有するポリイミドを共重合もしくはブレンドしたものでもよい。また、ポリイミド繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアリレート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの他のポリマーが含まれていてもよく、また酸化チタン、アルミナ、シリカ、カーボンブラックなどの無機系充填材が含まれていてもよい。
【0034】
本発明に用いられるポリイミド繊維としては、上記したようなポリイミドもしくは、ポリイミドに必要に応じて他の成分を配合した樹脂組成物を原料として、例えば溶融紡糸して、必要に応じて延伸することにより製造することができる。このとき、ポリイミドとして結晶性を有する好ましいポリイミドを用いれば、溶融紡糸された原糸を延伸することにより、結晶部を高度に配向させたポリイミド繊維を得ることができる。そのような高度に配向した結晶性のポリイミド繊維は、非晶性のポリイミド繊維に比べて加熱、冷却時の寸法変化が小さく、熱寸法安定性に優れる。したがって、そのような高度に配向した結晶性のポリイミド繊維を用いれば、熱寸法安定性に優れたポリイミド布帛やポリイミド不織布を得ることができ、ひいては熱寸法安定性に優れた複合材料を得ることができる。
【0035】
また、ポリイミド繊維としては、その使用目的に応じて、長繊維であってもよく、所望の繊維長にカットされた短繊維であってもよい。
【0036】
本発明において、本処理剤でポリイミド繊維を処理する際には、上記のようなポリイミド繊維に、本処理剤を付与した後、加熱処理をする。加熱処理をすることによって、本処理剤に含まれるポリイミド前駆体がイミド化して生じた反応性の高い官能基を有するポリイミド樹脂(以下、反応基ポリイミド樹脂と略記することがある)が、ポリイミド繊維に付着する。このときのポリイミド繊維への反応基ポリイミド樹脂の付着状態としては、ポリイミド繊維の1本1本が反応基ポリイミド樹脂でコーティングされている状態が理想的であるが、本発明の効果を得るうえでそのような理想的なコーティングが実現されていることは要しない。すなわち、ポリイミド繊維表面に反応基ポリイミド樹脂の連続層が形成されて付着している状態、断片的に付着している状態、あるいはポリイミド繊維内部に反応基ポリイミド樹脂が浸透して含浸された状態等が考えられるが、これらのいずれの状態でも構わない。
なお、本処理剤においては、加熱前の状態すなわちイミド化前の状態でポリイミド前駆体に反応性の高い官能基が取り込まれていると考えられる。これについては、本処理剤を調製する過程で、ポリイミド前駆体溶液にカップリング剤を添加すると溶液の色が変化することを本発明者らが実際に確認しているため、そのように考えられるのである。
【0037】
ポリイミド繊維に本処理剤を付与する方法としては、繊維処理剤について従来公知の方法が適用できる。また、ポリイミド繊維に本処理剤を含浸もしくは付与するタイミングとしては、長繊維の段階、短繊維の段階、及びそれらから布帛や不織布を構成した後の段階のいずれでもよいが、最終的に布帛や不織布として利用するのであれば、布帛や不織布を構成した後に付与するのが好ましい。熱処理のタイミングとしても、本処理剤を付与した後であれば、特に限定されるものではない。
例えば布帛や不織布にした後の段階に本処理剤を付与するのであれば、ポリイミド布帛もしくは不織布に、本処理剤をスプレー、浸漬もしくはウェットロール等の方法により含浸せしめ、余剰の処理剤をプレスロール等で圧搾した後、乾燥すればよい。このとき、本処理剤の濃度、含浸温度、含浸時間及び圧搾力等を適宜調整することにより、本処理剤を所望の量で付与することができる。
【0038】
ポリイミド繊維に本処理剤を付与する付与量としては、ポリイミド繊維の100質量部に対して、本処理剤に含まれるポリイミド前駆体とシランカップリング剤とを合わせた量(以下、有効成分量と略記する)が1〜40質量部であることが好ましく、5〜25質量部がより好ましく、10〜20質量部が特に好ましい。有効成分量が1質量部未満では、接着性改善効果が得られ難いので好ましくない。一方、40質量部を超えると、ポリイミド繊維が本来有する優れた特性が活かされなくなったり、繊維の可とう性が低下したり、布帛や不織布の段階で付与した場合には目が詰まって複合材を得るためにマトリックス樹脂を含浸させるのが困難になったりする等、弊害が生じる場合があるので好ましくない。
【0039】
ポリイミド繊維に本処理剤を付与した後に加熱処理するときの温度条件としては、本処理剤に含有されたポリイミド前駆体をイミド化することによって得られるポリイミドのガラス転移点以上の温度が好ましい。当該ガラス転移点未満の温度であると、ポリイミド前駆体のイミド化によるポリイミドの生成が十分でなく、目的の効果が得られ難いので好ましくない。また、加熱処理するときの温度条件としては、ポリイミド繊維を形成する主たるポリイミドの分解点もしくは融点より低い温度が好ましく、さらには当該分解点もしくは融点より10℃以上低い温度であることがより好ましい。当該分解点もしくは融点以上の温度で加熱処理を行なうと、ポリイミド繊維の形状や性能が損なわれる場合があるので好ましくない。
【0040】
本処理剤で処理したポリイミド繊維は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂に代表される熱硬化性樹脂等の各種樹脂との接着性に優れているので、繊維強化樹脂複合材料の強化材として有用なものである。そのような目的で本処理剤で処理したポリイミド繊維を使用する場合、スライバー、トウ、布帛、不織布等、各種の形態で用いることが可能であるが、不織布の形態で用いることは好ましい態様である。したがって、本処理剤で処理したポリイミド繊維は、不織布の構成素材として好適である。
なお、本処理剤で処理したポリイミド繊維を不織布の構成素材とする際には、ポリイミド繊維を予め本処理剤で処理してから不織布を製造してもよいが、先にポリイミド繊維を不織布の形態にしておいてから、不織布を本処理剤で処理する方法が効率的で好ましく、本発明のポリイミド不織布にはそのような好ましい方法で得られたものが含まれることは勿論である。
【0041】
本発明のポリイミド不織布、すなわち本処理剤で処理されたポリイミド繊維から主としてなるポリイミド不織布及びその好ましい態様について詳細に説明する。
本発明のポリイミド不織布の主たる構成成分であるポリイミド繊維としては、上記したような本処理剤で処理されたポリイミド繊維であればよいが、短繊維状にカットされたポリイミド短繊維が好ましい。すなわち、本発明のポリイミド不織布としては、短繊維不織布が好ましいのであり、その理由としては、複合材料とする際の樹脂含浸が容易に行なえることや、複合材料とした後の切断、穴あけ等の加工性が良いことが挙げられる。
【0042】
本発明に用いるポリイミド短繊維の繊維長及び繊維径としては、得られる不織布の地合を良好にする点から、平均繊維長としては1〜15mmであることが好ましく、平均繊維径としては3〜30μmであることが好ましい。
なお、本処理剤による処理の前後で繊維長や繊維径が変化することは有意な変化ではなく通常考えなくてよい。
【0043】
本発明のポリイミド不織布は、本処理剤で処理されたポリイミド繊維から主としてなるものであるが、不織布を抄造しやすくしたり、得られる不織布の種々特性を改善する目的で、必要に応じて他の有機物もしくは無機物からなる繊維やパルプ状物、例えばアラミド、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、カーボン、ガラス、アルミナ等からなる繊維もしくはパルプ状物、さらには、種々の粒子状物(フィラー)が配合されたものであってもよい。
上記のようなポリイミド繊維以外の構成成分は、本発明の目的を損なわない範囲で1種もしくは数種配合されていてもよいが、その配合量の合計質量としては、本発明のポリイミド不織布の質量から本処理剤の質量を差し引いた質量に対して、40質量%以下にとどめることが好ましい。すなわち、ポリイミド不織布を抄造してから本処理剤で処理する好ましい方法を採用する場合には、ポリイミド繊維以外の構成成分の配合量は40質量%以下の範囲にとどめてポリイミド不織布を抄造することが好ましい。
【0044】
本発明のポリイミド不織布を製造する好ましい方法について、短繊維不織布を例として説明する。まず、ポリイミド短繊維及び必要に応じて配合される他の短繊維、パルプ状物、フィラー等を使用してポリイミド不織布を抄造する。このときのポリイミド短繊維としては、上記したように、未だ本処理剤による処理が施されていないものを用いるのが好ましく、本処理剤による処理は不織布の抄造後に行なえばよい。
【0045】
抄造方法としては特に限定されるものではないが、不織布の良好な平滑性を確保しつつ目的の目付のポリイミド不織布を得るのに有利な点から、湿式抄造法が好ましい。
湿式抄造法に用いる湿式抄造装置としては、特に限定されるものではなく、公知の抄紙機等を用いればよいが、具体例としては、円網式湿式抄紙機、短網傾斜式湿式抄紙機、長網傾斜式湿式抄紙機等が挙げられる。これらの湿式抄造装置には、熱風式、接触式もしくは輻射式の乾燥機が併設されていることが好ましい。
【0046】
湿式抄造を行う工程としては、まず、上記のポリイミド短繊維と、必要に応じて配合される他の成分とを水等の分散媒中に投入して混合し、パルパー等を用いて均一に分散させてスラリーを調製する。そして、上記のような抄造装置を用いてシート状に固液分離した後乾燥することにより、ポリイミド不織布を得ることができる。
なお、ポリイミド不織布の平滑性を向上させる目的で、抄造前にポリイミド短繊維をリファイナーやビーター等によって解繊やフィブリル化させる処理を行っておいてもよい。
【0047】
また、抄造工程において不織布の強度を確保する目的で、ポリイミド前駆体やエポキシ樹脂等を含むエマルジョンや溶液を含浸もしくはスプレーしてもよく、例えば、湿式抄造装置の抄造部と乾燥部の間に含浸装置やスプレー装置等を設けて行えばよい。本処理剤による処理を施す前の段階でそのような含浸もしくはスプレーしても、本発明の目的を達成するうえで特に問題とはならない。
【0048】
また、ポリイミド不織布の機械的強度を増す目的で、上記のようにして抄造された不織布に対して加熱加圧する工程を行うことが好ましい。上記のような工程によって湿式抄造された不織布は、一般的に極めて高い空隙率を有している。そのため、機械的強度不足から、後の加工の際に問題、例えば本処理剤による処理時や、複合材料とする場合のマトリックス樹脂の含浸時において破損する等の問題を生じる場合がある。そこで、より強度に優れたポリイミド不織布とするために、加熱加圧してある程度空隙率を低下させたり短繊維同士の結合を強めておいたりすることが好ましいのである。
【0049】
そのような目的でポリイミド不織布を加熱加圧する際の加熱温度としては、ポリイミド繊維を形成する主たるポリイミドのガラス転移点以上の温度とすることが好ましい。当該ガラス転移点以上の温度で加熱することにより、不織布を構成するポリイミド繊維の塑性変形が容易となり、ポリイミド繊維同士の結合を強めることが可能となるからである。それと同時に、加熱温度としては、当該ポリイミドが溶融もしくは分解する温度より低い温度であることが好ましく、ポリイミドが結晶性ポリイミドの場合には、当該ポリイミドの融点より低い温度、さらには融点より10℃以上低い温度であることが好ましい。加熱温度がポリイミドの溶融する温度以上では、ポリイミド繊維同士が極度に融着したり、繊維としての形状を損なわれたりして不織布としての性能を発揮できなくなる傾向にあるからである。
【0050】
また、加熱加圧する際の加圧圧力としては、特に限定されるものではないが、加圧圧力が高いほどポリイミド不織布の気孔率を減少させる傾向にあり、本発明では通常0.05〜10MPa程度の加圧圧力を採用すればよい。
【0051】
上記のような加熱加圧を行う装置としては、特に限定されるものではなく、従来公知の加熱プレス装置等を用いればよいが、長尺の不織布を連続的に加熱加圧できるという点から、カレンダーロール装置や、対向する一対の金属製等のベルト間で加熱プレスの行えるダブルベルトプレス装置等が好ましく用いられる。
【0052】
上記のようにして得られたポリイミド不織布を本処理剤で処理すること、具体的にはポリイミド不織布に本処理剤を付与して、加熱処理することにより、複合材料とした際のマトリックス樹脂との接着性に優れたポリイミド不織布を得ることができる。
ポリイミド不織布に本処理剤を付与する方法としては、従来公知の含浸等の方法が適用できる。例えば、本処理剤をスプレー、浸漬もしくはウェットロール等の方法によりポリイミド不織布に含浸せしめた後、余剰の本処理剤をプレスロール等で圧搾除去すればよい。
【0053】
本処理剤のポリイミド不織布への付与量としては、ポリイミド不織布100質量部に対して、本処理剤の有効成分量が1〜40質量部となるようにするのが好ましい。この付与量は、本処理剤の濃度やポリイミド不織布への含浸温度、含浸時間、含浸後余剰の本処理剤を圧搾する圧搾力等を適宜調整することにより、所望の付与量とすることができる。
【0054】
ポリイミド不織布に本処理剤を付与した後に加熱処理を行なう方法としては、本処理剤を付与して乾燥した不織布を、加熱加圧することが好ましく、例えば、既に説明したポリイミド不織布の製造時において加熱加圧するのと同様の方法で加熱加圧すればよい。
ポリイミド不織布に本処理剤を付与した後に加熱処理を行なう際の加熱温度としては、本処理剤の構成成分であるポリイミド前駆体をイミド化することによって得られるポリイミドのガラス転移点以上の温度とすることが好ましい。加熱温度が当該ガラス転移点未満の温度であると、ポリイミド前駆体からのポリイミド生成が不十分なために目的の効果が得られなくなる場合があるので好ましくない。また、加熱温度としては、不織布を形成する主たるポリイミドが溶融もしくは分解する温度より低い温度であることが好ましく、ポリイミドが結晶性ポリイミドの場合には、当該ポリイミドの融点より低い温度が好ましく、さらには融点より10℃以上低い温度であることが好ましい。
【0055】
なお、ポリイミド不織布に本処理剤を含浸させる工程は、ポリイミド不織布抄造工程中のウェットシートの段階で実施してもよく、その場合は加熱加圧工程が一工程ですむため効率が良いが、その反面、均一性や含浸量の調整が難しくなる傾向にあるので、目的に応じた有利な方法を採用すればよい。
【0056】
上記のようにして本処理剤で処理されたポリイミド不織布は、本処理剤の作用により接着性が改善されているため、繊維強化複合材料の強化材として好適であり、特に、熱硬化性樹脂と複合することにより、優れた性能を有する本発明の複合材料を得ることができる。
本発明において、ポリイミド不織布と複合化させて本発明の複合材料を得るための熱硬化性樹脂、すなわちマトリックス樹脂に用いる熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フェノール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、シアナート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
なお、熱硬化性樹脂としては、複合材料の耐熱性、誘電特性、吸水性もしくは燃焼性などを改善する目的で、上記で例示したような熱硬化性樹脂の化学構造の一部を変性したものや、無機質もしくは有機質フィラーを適宜配合したものを用いてもよい。
【0057】
本発明の複合材料において、本処理剤で処理されたポリイミド不織布と、マトリックス樹脂たる熱硬化性樹脂の質量割合としては、本処理剤で処理されたポリイミド不織布70〜20質量部に対し、熱硬化性樹脂30〜80質量部の割合とすることが好ましい。熱硬化性樹脂の質量割合が上記範囲を外れて小さすぎると、熱硬化性樹脂が不織布内の空隙に十分に行き渡らないおそれがあり、得られる複合材料の内部に気孔が残留して性能が劣化することもあるので好ましくない。一方、ポリイミド不織布の質量割合が上記範囲を外れて小さすぎると、複合材料における繊維強化の効果が十分に得られない場合があるので好ましくない。さらに言えば、本処理剤で処理されたポリイミド不織布60〜30質量部に対し、熱硬化性樹脂40〜70質量部の割合とすることがより好ましい
【0058】
上記の本処理剤で処理されたポリイミド不織布(以下、本ポリイミド不織布と略記することがある)と熱硬化性樹脂とから本発明の複合材料を得るための好ましい方法について説明する。
まず、本ポリイミド不織布に液体状の熱硬化性樹脂を含浸もしくは塗布する。例えば、熱硬化性樹脂溶液を、含浸装置もしくはコーターを用いてポリイミド不織布に所定量含浸もしくは塗布する。しかる後、熱風式や輻射式等の乾燥機を用いて脱溶媒することにより、本ポリイミド不織布と熱硬化性樹脂を複合化したプリプレグが得られる。このとき、適当な乾燥条件を設定することにより、熱硬化性樹脂を半硬化状態にさせる、いわゆるBステージ化させることができ、プリプレグの取り扱い性が良くなるので好ましい。
【0059】
次に、上記で得られたプリプレグもしくは必要に応じてその複数枚を積層したものを、公知の熱プレス装置等を用いて加熱加圧成形し、かつ熱硬化性樹脂を十分に硬化させることにより、目的とする本発明の複合材料が得られる。このときの加熱加圧条件としては、使用する熱硬化性樹脂の種類や複合材料の厚さ等にもよるので、それらを考慮して適宜設定すればよいが、例えばエポキシ樹脂を使用する場合の好ましい条件としては、170℃程度の温度、2MPa程度の圧力下、60分間程度保持することにより通常は十分に樹脂を硬化させることができ、優れた性能の複合材料が得られる。
【0060】
なお、所望の形状の複合材料を得るためには、金型を利用すればよいが、板状の複合材料とする場合にその厚さを調整する方法としては、金型を利用するほか、加圧条件によって調整してもよく、所定の厚さを有する金属製等のスペーサーをを用いて調整してもよい。スペーサーを用いて厚さを調整するには、プリプレグもしくはその積層体からなる成形材料と、成形材料の周囲に配置したスぺーサーとを2枚の金属板間に挟み、成形材料をスペーサーの厚さ以下に圧縮するに十分な圧力を印加して金属板ごと加熱加圧することにより、簡便かつ確実に厚さを調整した成形を行なうことができる。
【0061】
上記したような本ポリイミド不織布と熱硬化性樹脂とを用いて構成される本発明の複合材料は、強化繊維たるポリイミド繊維とマトリックス樹脂たる熱硬化性樹脂とが強固に接着しているため、強度や耐久性に優れた複合材料となっている。それに加えて、ポリイミド不織布を強化材として使用していることから軽量で耐熱性に優れ、加工性も良好であり、結晶性ポリイミド繊維を用いてポリイミド不織布を構成したものでは、誘電特性及び熱寸法安定性に優れ、吸湿性も低いという特に好ましい特性をも具備した複合材料とすることもできる。したがって、本発明の複合材料は、各種耐熱構造材料用途や、プリント基板材料等の電子材料用途をはじめとする、様々な用途への展開が可能である。
【0062】
上記したように、本発明の複合材料は、プリント基板材料として好適であり、本発明の複合材料を板状に成形して、その表面に導電層を設けることにより、本発明の複合材料の優れた特性を活かした高性能のプリント基板が得られる。
すなわち、本発明のプリント基板は、上記した本発明の複合材料からなる板(以下、複合材料板と略記することがある)の片面もしくは両面に導電層を有してなるプリント基板であり、本発明の複合材料板の片面もしくは両面に、従来公知の方法等で導電層を積層することにより得ることができる。
【0063】
本発明のプリント基板における導電層を構成する素材としては、銅、鉄、アルミニウム、銀、金等の金属が好適であり、中でも性能及び材料コストの点から、銅が特に好ましい。
導電層の厚さとしては、加工性、性能面からみて5〜50μmとすることが好ましい。
なお、両面に導電層を有する場合には、片面あたり5〜50μmとすることが好ましい。
【0064】
本発明のプリント基板を製造するに際して、複合材料板の片面もしくは両面に導電層を積層する方法としては、特に限定されるものではないが、好ましい方法としては、複合材料を構成するための熱硬化性樹脂がBステージ化された状態にある複合材料のプリプレグを用い、このプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配し、加熱加圧成形する方法が挙げられる。この好ましい方法によれば、成形、熱硬化性樹脂の硬化及び積層の工程をまとめて一度に行うことができる。このとき、必要に応じて導電層と複合材料とを交互に複数層積層してもよい。また、プリント基板の厚さの調整は、上記した複合材料における場合と同様にして行なうことができる。
なお、上記の好ましい方法以外に、成形及び樹脂硬化済みの複合材料板の片面もしくは両面に、無電解めっきや真空蒸着により導電層を設ける方法も採用することができる。
【0065】
上記のようにして得られた本発明のプリント基板には、必要に応じて導電層に各種エッチング等の処理を施して回路を形成させたり、穴をあけたりする加工を施したりして、電子部品を実装することができる。
上記したように、本発明のプリント基板は、本処理剤で処理されたポリイミド不織布を基材とする複合材料を用いて構成されており、基材とマトリックス樹脂との接着性が優れているので、従来問題となっていたはんだ耐熱性が改善されている。したがって、本発明のプリント基板は、軽量かつ耐熱性、誘電特性及び熱寸法安定性に優れ、吸湿性も低く、さらに加工性も良好な高性能のプリント基板である。
【0066】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
なお、実施例に用いたポリイミド不織布の製造方法を参考例として示す。
【0067】
参考例
ポリイミド繊維を得るためのポリイミド樹脂としては、結晶性熱可塑ポリイミド樹脂(三井化学株式会社製、「オーラム(商標名)PL450」)を用いた。DSC測定によるこのポリイミド樹脂のガラス転移点は、250℃であり、融点は387℃であった。上記ポリイミド樹脂を415℃に加熱して溶融させ、紡糸速度500m/minで溶融紡糸し、温度300℃、延伸倍率2.4倍で加熱延伸することにより、単糸繊度が1.3dTexのポリイミド繊維(マルチフィラメント)を得た。このポリイミド繊維の結晶化度は30%、繊維軸方向への結晶配向度は90%(いずれもX線回折法による測定値)であった。
このようにして得られたポリイミド繊維を、繊維長5mmにカットして、ポリイミド短繊維を得た。
上記のポリイミド短繊維を水中に投じ、パルパーを用いて水中に均一に分散させることにより濃度0.05質量%の抄造用スラリーを調製し、このスラリーを短網傾斜式連続抄紙機(斎藤鐵工所製)により幅60cmで抄造し、次いで、抄紙機に併設された熱風式乾燥機にて140℃で乾燥してウェブを得た。さらにこのウェブを連続プレス機(サンドビック社製ダブルベルトプレス機)に供し、300℃の加熱下、線圧196N/cm(面圧約0.8MPaに相当すると考えられる)の加圧条件で加熱加圧プレスすることによりポリイミド不織布を得た。
このようにして得られたポリイミド不織布の目付けは40g/m2、平均厚さは80μm、空隙率は63%であった。
【0068】
実施例1
室温下(約20℃)にて、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸118.22g(0.330mol)を水1800gに加えて懸濁させたのち、懸濁液を攪拌しながら、m−キシレンジアミン44.95g(0.330mol)を15分間かけて徐々に加えた。このとき、m−キシレンジアミンの添加による発熱が見られたので20℃に保温した。m−キシレンジアミンをすべて添加し終わった後、しばらくすると塩が形成され、懸濁液は褐色の均一溶液となってポリイミド前駆体水溶液が得られた。得られたポリイミド前駆体水溶液にγ−アミノプロピルトリエトキシシラン36.59g(0.165mol)を良く撹拌しながら加えることにより、濃度が10質量%である本発明のポリイミド繊維用処理剤を調製した。
【0069】
このポリイミド繊維用処理剤を、上記の参考例で得られたポリイミド不織布に含浸させた後、熱風乾燥機にて110℃で15分間かけて乾燥し、その後バッチ式加熱プレス機を用いて、300℃、0.3MPaで15分間加熱加圧することにより、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は6.0g付与されていた。
【0070】
別途、メチルエチルケトン15質量部、ジメチルホルムアミド20質量部及び及びメチルセロソルブ8質量部からなる混合溶媒に、エポキシ樹脂57質量部(油化シェルエポキシ社製「エピコート5046B80」の37質量部と「エピコート154」の20質量部からなる)、ジシアンジアミド2質量部及び2,4−エチルメチルイミダゾール0.1質量部とを加えることにより、熱硬化性樹脂溶液を調整した。この熱硬化性樹脂溶液中に上記の処理されたポリイミド不織布を浸漬して引き上げた後、熱風乾燥機を用いて150℃で4分間加熱乾燥させることにより、複合材料のプリプレグを得た。そして、このプリプレグをバッチ式加熱プレス機に供し、プリプレグに加圧しない状態で120℃で1時間保持し、引き続き2MPaの加圧下、170℃で60分間保持して、成形及び熱硬化性樹脂の硬化を行なった。このような操作により、厚さ0.1mmの複合材料板を得た。得られた複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は65質量%であった。
【0071】
実施例2
ポリイミド前駆体水溶液を調製する際に、m−キシレンジアミンに代えてイソホロンジアミンを使用すること以外は実施例1と同様にして、濃度が10質量%のポリイミド繊維用処理剤を調製した。また、このポリイミド繊維用処理剤を用いること以外は実施例1と同様にして、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は5.6g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの複合材料板を得た。得られた複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は66質量%であった。
【0072】
実施例3
ポリイミド前駆体水溶液を調製する際に、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸に代えて3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を使用すること以外は、実施例1と同様にして濃度が10質量%のポリイミド繊維用処理剤を調製した。また、このポリイミド繊維用処理剤を用いること以外は実施例1と同様にして、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は6.4g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mmの複合材料板を得た。得られた複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は64質量%であった。
【0073】
比較例1
ポリイミド繊維用処理剤による処理を行わないこと以外は、実施例1と同様にして、比較用の複合材料板を得た。この複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は69質量%であった。
【0074】
比較例2
室温下(約20℃)にて、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸118.22g(0.330mol)を水1468gに加えて懸濁させたのち、懸濁液を攪拌しながら、m−キシレンジアミン44.95g(0.330mol)を15分間かけて徐々に加えた。このとき、m−キシレンジアミンの添加による発熱が見られたので20℃に保温した。m−キシレンジアミンをすべて添加し終わった後、しばらくすると塩が形成され、懸濁液は褐色の均一溶液となって濃度が10質量%のポリイミド前駆体水溶液が得られた。
このポリイミド前駆体水溶液を比較用のポリイミド繊維用処理剤として、本発明のポリイミド繊維用処理剤に代えて用いる以外は、実施例1と同様にして、処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、処理剤の有効成分は6.0g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、比較用の複合材料板を得た。この複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は65質量%であった。
【0075】
比較例3
室温下(約20℃)にて、水980gに対しγ−アミノプロピルトリエトキシシラン20gを加えて攪拌することにより、濃度が2質量%のアミノシランカップリング剤水溶液を調製した。参考例で得られたポリイミド不織布を上記アミノシランカップリング剤水溶液に浸漬して引き上げた後、熱風乾燥機にて110℃で15分間かけて乾燥させることにより、カップリング処理されたポリイミド不織布を得た。このとき、ポリイミド不織布1m2あたり、カップリング剤は0.8g付与されていた。
さらに、この処理された不織布を用いること以外は実施例1と同様にして、比較用の複合材料板を得た。この複合材料板中の熱硬化性樹脂の含有率は66質量%であった。
【0076】
[はんだ耐熱性試験の実施]
上記の実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた複合材料板を用いて、吸湿後のはんだ耐熱性試験を行った。
はんだ耐熱性試験はプリント基板の性能評価として用いられるものであり、プリント基板が急激に加熱された際に、マトリックス樹脂と繊維基材の接着力が不十分な場合には、吸湿されていた水分が蒸発することの影響でマトリックス樹脂と繊維の界面で剥離が起り、膨れ等の外観不良となってしまう。したがって、このはんだ耐熱性試験を行なうことにより、ポリイミド繊維とマトリックス樹脂との接着性を評価することができる。
なお、吸湿後のはんだ耐熱性試験の実施方法としては、複合材料板を40mm×40mmの正方形に切断したものを試料として、これを100℃で1時間煮沸してから260℃のはんだ浴に20秒間浸漬した後の試料の膨れ等の外観異常を観察することにより行なった。評価基準としては、膨れの無いものを○、少数の膨れが生じたものを△、多数の膨れが生じたものを×とした。その結果を下記表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示した結果からわかるように、実施例1〜3で得られた複合材料板は、比較例1〜3で得られた複合材料板と比較して、吸湿後のはんだ耐熱性に優れていた。これは、本発明のポリイミド繊維用処理剤で処理することによって、マトリックス樹脂とポリイミド繊維との界面の接着性が向上したためである。これに対して比較例1では、処理されていないポリイミド不織布を用いたためマトリックス樹脂との接着性が不十分であった。また、比較例2では、処理剤にシラン系カップリング剤が含まれていなかったため、比較例3ではシラン系カップリング剤のみによる処理であったため、それぞれ十分な接着性改善効果が得られずに膨れが発生してしまった。
【0079】
実施例4
実施例1において得られたプリプレグを4枚重ね、これを厚さ18μmの電解銅箔2枚ではさみ、実施例1と同様の条件で加熱及び加圧して成形及び熱硬化性樹脂の硬化を行なうことにより、両面に導電層を有する厚さ0.43mmのプリント基板を得た。得られたプリント基板に関する特性を下記表2に示す。
なお、下記表2に記載の特性は次の方法で測定又は評価した。
(1)比重
プリント基板の導電層をエッチングにより全て除去した後に30mm×30mmの正方形に切断した試験片を用いて、空気中での質量と水中に完全に浸漬したときの質量とを測定し、アルキメデス法により算出した。
(2)吸水率
プリント基板の導電層をエッチングにより全て除去した後に30mm×30mmの正方形に切断した試験片を用いて、JIS−C6481に準じて測定した。
(3)平均熱膨張係数
プリント基板の導電層をエッチングにより全て除去したものを試料として、JIS−C6481に準じて、TMA測定装置(TAインスツルメント製、「TMA2940」)を用い、25〜150℃の範囲で測定した。
(4)比誘電率および誘電正接
プリント基板の導電層をエッチングにより一部除去して電極を形成し、常態にて測定を行った
なお、周波数1MHzはブリッジ法(JIS−C6481に準じて測定)で、周波数1〜20GHzはトリプレート線路共振器法で行った。
(5)ドリル加工性
プリント基板をφ0.25mmのドリル刃にて穿孔し、穿孔部の状態を光学顕微鏡で観察して評価した。
【0080】
【表2】
【0081】
上記の結果よりわかるように、本発明のプリント基板は熱的、電気的特性に
優れ、吸水しにくく加工性も良好な軽量高性能の耐熱プリント基板である。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のポリイミド繊維用処理剤は、接着性に乏しいポリイミド繊維の表面を活性化して、ポリイミド繊維の接着性を簡単に改善することができる。
本処理剤で処理された本発明のポリイミド繊維は、繊維強化樹脂複合材料のマトリックス樹脂として用いられるエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をはじめとする各種樹脂等との接着性に優れているので、長繊維、短繊維及びそれらからなるロービング、トウ、織物、編物、不織布の形態で、マトリックス樹脂との接着性に優れた複合材料の基材として好適に利用できる。
本処理剤で処理されたポリイミド繊維から主としてなる本発明の不織布は、複合材料の基材として用いてマトリックス樹脂、特に熱硬化性樹脂を含浸すれば、繊維−マトリックス樹脂界面の接着性に優れているので、界面の空隙や剥離の生じにくい複合材料を得ることができる。
したがって、そのような本発明の不織布に熱硬化性樹脂が含浸されてなる本発明の複合材料は、ポリイミド基材の持つ優れた性能を最大限に生かされ、軽量かつ耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水性が極めて低く、さらには誘電特性にも優れた複合材料とすることができるので、過酷な使用環境での耐熱性が要求される各種構造材料や電子材料等の用途に好適に使用できる。
また、そのような本発明の複合材料からなる板の片面もしくは両面に導電層を有してなる本発明のプリント基板は、上記したような複合材料由来の優れた特性を有し、耐熱性に優れるため鉛フリーはんだにも対応できる高性能のプリント基板であり、携帯電話、ノートパソコン、携帯情報端末等の情報通信機器をはじめ、各種電子機器用途に好適に利用できる。
Claims (8)
- ポリイミド前駆体とシラン系カップリング剤とを含む溶液からなることを特徴とするポリイミド繊維用処理剤。
- ポリイミド前駆体が、下記一般式(1)に示すジアミンと下記一般式(2)に示すテトラカルボン酸又はそのジエステル誘導体とからなる水溶性の塩であることを特徴とする請求項1記載のポリイミド繊維用処理剤。
- シラン系カップリング剤がアミノシラン系カップリング剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミド繊維用処理剤。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の処理剤で処理されたことを特徴とするポリイミド繊維。
- 請求項4又は請求項5に記載のポリイミド繊維から主としてなることを特徴とするポリイミド不織布。
- 請求項6に記載のポリイミド不織布に熱硬化性樹脂が含浸されてなることを特徴とする複合材料。
- 請求項7に記載の複合材料からなる板の片面もしくは両面に導電層を有してなることを特徴とするプリント基板。
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-
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- 2003-04-24 JP JP2003120080A patent/JP2004324007A/ja active Pending
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