JP2004309303A - プロテインキナーゼ活性の解析方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属基板上にプロテインキナーゼを認識するペプチドが1もしくは複数種固定化されてなるアレイを用いたプロテインキナーゼ活性の解析方法であって、アレイ上でリン酸化反応を行った後、キレート化合物を作用させることによりリン酸化を検出する方法に関する。特に表面プラズモン共鳴(以下、SPRと示すこともある。)による分析技術を用いることにより、迅速で効率的であり、しかも簡便なプロテインキナーゼ活性の解析を実現することができるものである。より具体的には、SPRにより解析された物質間の相互作用の様子をモニターした表面プラズモン共鳴イメージング法(以下、SPRイメージング法と示すこともある。)を応用した新規なプロテインキナーゼ活性の解析方法である。
【0002】
【従来の技術】
近年、細胞内シグナル伝達に関する研究は飛躍的に進歩しており、増殖因子やサイトカインにより活性化した細胞表面の受容体からどのように核へシグナルが伝達されるかはもとより、細胞周期、接着、運動、極性、形態形成、分化、生死などを制御する様々なシグナル伝達経路の実態が明らかになってきた。これらのシグナル伝達経路は独立して機能しているのではなく、互いにクロストークしあい、システムとして機能している。そして、癌をはじめ色々な疾病の原因が、これらのシグナル伝達経路の異常として説明されるようになってきた。
【0003】
上述したシグナル伝達経路においては、様々な種類のプロテインキナーゼが複雑に関連しあいながら重要な役割を果たしていることが知られている。これらプロテインキナーゼの活性を網羅的に解析して、その細胞内における動態を一度にプロファイリングすることができれば、細胞生物学、薬学の基礎的研究はもとより、創薬開発、臨床応用などの分野においても大きく寄与しうるものと期待される。しかしながら、これまでには簡便で効率よく種々のプロテインキナーゼにおける動態を同時にプロファイリングできるような技術は、未だ確立されていないのが現状である。
【0004】
既に報告されている関連する技術としては、例えばペプチドアレイを用いてチロシンキナーゼの一種であるc−Srcキナーゼの活性を評価したことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、p60チロシンキナーゼやプロテインキナーゼA(以下、PKAとも示す。)などに関して、おのおのの基質ペプチドをガラススライドに固定化したアレイを用いて、蛍光標識された抗体を用いたリン酸化反応の検出系について報告されている例(例えば、非特許文献2及び3参照)や、あるいは放射性物質([γ32P]ATP)を用いたアレイ上でのキナーゼ反応の検出系について報告されている例(例えば、非特許文献4,5及び6参照)がある。しかしながら、いずれの先行技術においても種々のプロテインキナーゼの動態を同時に効率的にプロファイリングための方法としては、十分な技術が開示されているものではない。また上記いずれの方法においても、蛍光性物質や放射性物質を用いる必要があり、解析に手間を要する点や、取り扱いの困難性、特殊な技術や施設の必要性などの点で大きな問題がある。
【0005】
【非特許文献1】
Benjamin T.Housemanら、Nature Biotechnology 第20巻、第270〜274頁(2002年3月発行)
【非特許文献2】
Bioorganic & Medical Chemistry Letters 第12巻、第2085〜2088頁(2002年発行)
【非特許文献3】
Bioorganic & Medical Chemistry Letters 第12巻、第2079〜2083頁(2002年発行)
【非特許文献4】
Current Opinion in Biotechnology 第13巻、第315〜320頁(2002年発行)
【非特許文献5】
The Journal of Biological Chemistry 第277巻、第27839〜27849頁(2002年発行)
【非特許文献6】
Science 第289巻、第1760〜1763頁(2000年発行)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、安価な物質を用いて迅速でしかも特別な技術を必要としない簡易な手法により基質ペプチドのリン酸化を検出することにより、特に種々のプロテインキナーゼにおける動態を網羅的にプロファイリングできる方法を確立しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、金属を蒸着した基板上にプロテインキナーゼを認識するペプチドが固定化されてなるアレイを用いてプロテインキナーゼによるリン酸化を行った後、キレート化合物を作用させた際に、特に該アレイ上における物質間の相互作用をSPRイメージング法により検出することが、様々なプロテインキナーゼ動態を迅速に特に網羅的な解析を行う上で極めて有用であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
項1.少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質となる対応する少なくとも1種のペプチドが基板の金属薄膜上に固定化されてなるアレイ上における該ペプチドのリン酸化を検出する方法であって、リン酸化の検出に際してキレート化合物を作用させることを特徴とするプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項2.キレート化合物としてポリアミン亜鉛錯体を用いる項1記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項3.キレート化合物としてポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体を用いる項1または2に記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項4.キレート化合物として式(I)に記載される化合物を用いる項1〜3のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
【化2】
項5.前記ペプチドがcGMP依存性プロテインキナーゼファミリー、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)ファミリー、ミオシン軽鎖キナーゼファミリー、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリー、プロテインキナーゼD(PKD)ファミリー、プロテインキナーゼB(PKB)ファミリー、MAPキナーゼ(MAPK)カスケードに属するプロテインキナーゼファミリー、Srcチロシンキナーゼファミリー、及び受容体型チロシンキナーゼファミリーからなる群から選ばれる少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質である項1〜4のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項6.各々が別々のプロテインキナーゼの基質である、少なくとも2種のペプチドが金属薄膜上に固定化されてなるアレイを用いる項1〜5のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項7.少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質となる対応する少なくとも1種のペプチドが基板の金属薄膜上に固定化されてなるアレイ上のペプチドにプロテインキナーゼを含み得る供試材料及びヌクレオシド三リン酸を作用させ、リン酸化された前記ペプチドを検出することを特徴とする項1〜6のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項8.リン酸化されたペプチドを表面プラズモン共鳴を利用して検出することを特徴とする項1〜7のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項9.リン酸化されたペプチドを表面プラズモン共鳴イメージング法により検出することを特徴とする項8に記載の方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における基板上のリン酸化ペプチドの検出方法としては、従来からよく知られているような放射性物質、蛍光性物質、化学発光性物質などの標識化合物を利用して行うことが可能である。しかしながら、表面プラズモン共鳴法(SPR)、楕円偏光法(以下、エリプソメトリと示す。)、和周波発生(以下、SFGと示す。)分光測定などの光学的検出方法を適用するのがより好ましい。なかでもSPRは位相差を求める必要がなく、反射光強度を求めるだけで、表面のnmオーダーの膜厚変化を求めることができるため特に好ましい。SPRイメージング法は広い範囲の観察が可能であり、アレイフォーマットでの物質相互作用観察が可能であるためさらに好ましい。
【0010】
ペプチドのリン酸化は、プロテインキナーゼを有し得る供試試料とヌクレオシド三リン酸、例えばATPを本発明のアレイ上に適用して行うことができる。例えば、バッファー中にプロテインキナーゼを有し得る供試試料とヌクレオシド三リン酸を加え、10〜40℃程度の温度で、好ましくは30〜40℃の温度で、10分〜6時間程度、好ましくは30〜1時間程度反応させることで、ペプチドをリン酸化することができる。必要に応じて、リン酸化の反応溶液には、cAMP、cGMP、Mg2+,Ca2+などのリン酸化を補助する物質を共存させるのがよい。
【0011】
動態のプロファイリングの対象となるプロテインキナーゼとしては、蛋白質のチロシン、セリン、トレオニン、ヒスチジンなどのアミノ酸の側鎖をリン酸化する酵素が挙げられ、例えばcGMP依存性プロテインキナーゼファミリー、 cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)ファミリー、ミオシン軽鎖キナーゼファミリー、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリー、プロテインキナーゼD(PKD)ファミリー、プロテインキナーゼB(PKB)ファミリー、MAPキナーゼ(MAPK)カスケードに属するプロテインキナーゼファミリー、Srcチロシンキナーゼファミリー、及び受容体型チロシンキナーゼファミリーなどが例示できる。
【0012】
本発明において、ペプチドはプロテインキナーゼの動態を網羅的にプロファイリングすることが目的であるので、1種類のペプチドは1種類のプロテインキナーゼによってのみリン酸化され、他のプロテインキナーゼによってはリン酸化されないのが好ましい。例えばPKAの基質としては配列番号1のペプチドが例示され、MAPKの基質としては配列番号2のペプチドが例示される。また、c−Src系チロシンキナーゼであるp60の基質としては配列番号3のペプチドが例示される。PKA、MAPK、p60を含むプロテインキナーゼの基質となるペプチド配列は公知であるか、公知の配列に基づき適宜選択することが可能である。本発明のアレイがその動態の把握を必要とする複数のプロテインキナーゼの種類に対応した種類のペプチドを固定化していれば、1枚のアレイで全てのプロテインキナーゼのプロファイリングをすることができ好ましい。もちろん1つのアレイに1種のみのプロテインキナーゼに対応するペプチドを固定化し、必要な数のアレイを使用してプロテインキナーゼのプロファイリングを行ってもよい。
【0013】
エリプソメトリは試料に光を照射し、薄膜の表面で反射した光と、薄膜の裏面で反射してきた光の干渉によって生じる偏向状態の変化から、膜厚、屈折率を測定できる。すなわち、p偏光とs偏光の光に対する反射率の絶対値の比及び位相変化の比を評価する手段である。なかでも波長を変えながらエリプソメトリを測定する分光エリプソメトリは非常に敏感に表面の膜厚変化が検出できるため好ましい。
【0014】
SFGは2次の非線形光学効果の一種であり、周波数の異なる2種類の入射光(周波数ω1 と周波数ω2)が媒質中で混合され、ω1+ω2、あるいはω1−ω2の光が発生する現象である。特にω1として可視光を用い、ω2として波長可変の赤外光を用いると赤外分光に類似した振動分光を行うことができる。この手法は表面選択性が良いため単分子膜レベルの分子の振動分光が可能であり、非常に敏感な表面解析方法として有用である。
【0015】
上述したように、特に好ましい1つの実施形態において、本発明はSPRを用いて種々のプロテインキナーゼ活性を網羅的に解析することが特に好ましい。SPRは金属に照射する偏光光束によってエバネッセント波が生じて表面ににじみだし、表面波である表面プラズモンを励起し、光のエネルギーを消費して反射光強度を低下させる。反射光強度が著しく低下する共鳴角は金属の表面に形成される層の厚みによって変化する。よって、金属の表面に調べられるべき物質あるいは物質の集合体を固定化し、サンプル中の物質あるいは物質の集合体との相互作用を共鳴角の変化、あるいはある角度での反射光強度の変化で検出可能である。したがって、SPRは蛍光物質、放射性物質などによるラベルが不要であり、しかもリアルタイム評価が可能な定量法として有用である。
【0016】
このSPRを応用したSPRイメージング法は、広範囲に偏光光束を照射し、その反射像を解析することで、物質間の相互作用の様子を画像処理技術等を駆使することによりモニター化する方法であり、複数の物質を固定化したチップをスクリーニングすることや、表面に吸着する物体のモルホロジーを高感度に観察することが可能である。
【0017】
SPRイメージング法においては、反射像を解析するためにチップに広範囲で偏光光束を照射し、かつ光束の照度を十分に確保するための手段が必要である。図1においてその一例を示した。偏光光束の照度は明るいほどセンサーの感度が上昇してより好ましい。
【0018】
光源の種類は特に限定されるものではないが、SPR共鳴角の変化が特に敏感になる近赤外光を含む光を用いるのが好ましい。具体的には、メタルハライドランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、白熱灯などの広範囲に光を照射することのできる白色光源を用いることができるが、なかでも得られる光の強度が十分に高く、光の電源装置が簡易で安価なハロゲンランプが特に好ましい。
【0019】
通常の白色光源はフィラメント部に光の明暗ムラが生じる欠点がある。光源の光をそのまま照射すると、反射して得られる像に明暗ムラが生じ、スクリーニングやモルホロジー変化を評価するのが困難となる。したがって、チップに均一に光を照射する手段として、光をピンホールに通してから平行光にする方法が好ましい。
【0020】
ピンホールを通す手段は、明るさの均一な光束を得る手段としては好ましいが、そのままピンホールに光を通すと照度が低下する欠点がある。そこで、十分な照度を確保する手段として、ピンホールと光源の間に凸レンズを設置し、集光してピンホールを通す方法を用いることが好ましい。
【0021】
白色光源は放射光であるため、集光する前に凸レンズを用いて平行光にする必要がある。凸レンズの焦点距離近傍に光源を設置することで、平行光を得ることができる。もう一枚凸レンズを設置し、そのレンズの焦点距離近傍にピンホールを設置することで集光した光をピンホールに通すことが可能である。ピンホール内で交差し、通過した光はカメラ用のCCTVレンズで平行光とするが、その際に得られる平行光束の断面面積は10〜1000mm2に調節するのが好ましい。この方法によって広範囲にわたるスクリーニングやモルホロジー観察が可能となる。
【0022】
相互作用をモニターする際に、上記偏光光束は物質あるいは物質の集合体が固定化されている金属薄膜の反対面に照射される。上記偏光光束は物質もしくは物質の集合体が固定化されている金属薄膜の反対面に照射され、その反射光束が得られる。金属薄膜からの反射光束は近赤外波長の光干渉フィルターを通し、ある波長付近の光のみを透過させてからCCDカメラで撮影される。
【0023】
光干渉フィルターの中心波長は、SPRの感度が高い600〜1000nmが好ましい。光干渉フィルターの透過率が極大時の半分になる波長の波長幅を半値巾と呼ぶが、半値巾は小さい方が波長の分布がシャープとなり好ましく、具体的には半値巾100nm以下が好ましい。
【0024】
光干渉フィルターを通してCCDカメラで撮影された像はコンピュータに取り込まれ、ある部分の明るさの変化をリアルタイムで評価することや、画像処理により全体像の評価が可能である。こうして複数の物質を固定化したチップをスクリーニングすることや、表面に吸着する物体のモルホロジーを高感度に観察することができる。
【0025】
本発明において用いるSPR用のチップは好ましくは透明な基板上に金属薄膜が形成された金属基板からなり、上記金属薄膜上に直接的もしくは間接的に、化学的もしくは物理的に、物質もしくは物質の集合体が固定化されているスライドが用いられる。基板の素材は特に限定されるものではないが、透明なものを用いるのが好ましい。具体的にはガラス、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、アクリルなどのプラスチック類が挙げられる。中でもガラスが特に好ましい。
【0026】
基板の厚さは0.1〜20mm程度が好ましく1〜2mm程度がより好ましい。金属薄膜からの反射像を評価する目的を達成するために、SPR共鳴角はできるだけ小さい方が撮影される画像がひしゃげる恐れがなく解析がしやすい。したがって、透明基板あるいは透明基板とそれに接触するプリズムの屈折率nDは1.5以上であることが好ましい。
【0027】
金属薄膜を構成する金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金等が挙げられ、これらを単独であるいは組み合わせて用いてもよいが、なかでも金を用いるのが特に好ましい。金属薄膜の形成方法は特に限定されるものではないが、公知の手法として例えば蒸着法、スパッタ法、イオンコーティング法などが挙げられる。なかでも蒸着による方法が好ましい。また、金属薄膜の厚みは10〜3000Å程度が好ましく、100〜600Å程度がより好ましい。
【0028】
本発明の1つの特に好ましい具体例は、金属を蒸着した基板上にプロテインキナーゼの基質となるペプチドが少なくとも1種、好ましくは複数種のペプチドが固定化されてなるアレイを用い、且つ該アレイに細胞破砕液等のキナーゼを含有する溶液を作用させ、さらにキレート化合物を作用させてそれらの相互作用の様子を特にSPRないしはSPRイメージング法により検出することを特徴とする。本発明においてプロテインキナーゼの基質となるペプチドとは、該プロテインキナーゼによりリン酸化反応を受ける性質を有するペプチドをいうものである。
【0029】
ペプチドの長さは特に限定されないが、一般的には100アミノ酸残基以下のものが用いられる。好ましくは5〜60アミノ酸残基、より好ましくは10〜25アミノ酸残基程度からなるものが用いられる。ペプチドは公知の手法に基づく化学的な合成により得られたペプチドであってもよいし、あるいは遺伝子工学的な手法により生産されたペプチドを用いてもよい。また基板への脱着を容易にするために、上記ペプチドの片末端において、ビオチンや、チオール基を有するシステイン残基を付加させたものや、あるいはオリゴヒスチジン(His−tag)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)のような一般的によく用いられるタグを付加させたものを用いるのも有用である。
【0030】
上記ペプチドの金属薄膜への固定化の方法は、特に限定されるものではないが、金属薄膜表面に固定化しやすいような官能基を予め導入しておいて基質ペプチドを固定化処理するのがより好ましい。該官能基としては、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、アルデヒド基などが挙げられる。これらの官能基を金属薄膜表面に導入するには、一般的に用いられているアルカンチオールの誘導体を用いるのが好ましい。
【0031】
その際に、J.M.BrockmanらによりJ.Am.Chem.Soc. 第121巻、第8044〜8051頁(1999年)において報告されているような方法に基づいて、アルカンチオール層を介して固定化し、PEG(ポリエチレングリコール)によりバックグラウンドを修飾する方法を用いてもよい。また、非特異的な影響をより抑えるために、PEGの末端に上述のような官能基が導入された誘導体をアルカンチオールに結合させた後に、ペプチドを固定化することも、スペーサー効果を奏する点で有用である。
【0032】
具体的には、例えば金属薄膜にカルボキシメチルデキストランあるいはカルボキシル基で末端が修飾されたPEGのような水溶性高分子を結合させて表面にカルボキシル基を導入して、EDC(1−エチル−3,4−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)のような水溶性カルボジイミドを用いてNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)のエステルとして、活性化されたカルボキシル基にペプチドもしくは蛋白質のアミノ基を反応させる方法が挙げられる。あるいは表面をマレイミドにより修飾した後、システインのようなチオール基を含むアミノ酸残基を介して固定化してもよい。この場合のシステイン残基はペプチドの一方の末端に付加されてなるのが好ましい。非特異的な影響を低減させるためには、後者のチオール基を介した固定化方法がより好ましいが、特に限定されるものではない。
【0033】
上述したHis−tagやGSTのようなタグを付加したペプチドを固定化する方法も非常に簡便で有用である。この場合には、上述のように金属表面にアルカンチオールを介してアミノ基やカルボキシル基を導入した後に、それぞれNTA(ニトリロ三酢酸)、グルタチオンを金属薄膜上に導入させておくのがよい。His−tagの場合は、NTAを導入したアレイを塩化ニッケルにより処理した後で基質を固定化する。
【0034】
本発明においては、アレイ上における基質のリン酸化を特異的に感度よくモニターするためにキレート化合物を用いる。キレート化合物とは一般に多座配位子ないしキレート試薬が金属イオンに配位して生じた錯体をいうものを指すが、特にリン酸に選択的かつ可逆的に結合する性質を有する化合物が好ましく、ポリアミン亜鉛錯体を用いることがより好ましい。ポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体を用いることが更に好ましい。更に、二核亜鉛(II)錯体を基本構造にもつヘキサアミン二核亜鉛(II)錯体を用いることがより好ましい。
【0035】
このような化合物の典型としては、式(I)に示されるような、1,3−ビス[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]−2−ハイドロキシプロパノラート(IUPAC名:1,3−bis[bis(2−pyridylmethyl)amino]−2−propanolatodizinc(II) complex)を基本骨格とするポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体(ただし、プロパノール骨格の水酸基はアルコラートとして二つの亜鉛2価イオンの架橋配位子になっている)が挙げられるが、本発明は特にこの化合物に限定されるものではない。
【0036】
【化3】
【0037】
本発明で用いられる錯体は、一般的な化学合成技術を利用して合成することが可能であるが、市販の化合物を原料としても合成することができる。例えば、上記式(I)で示される化合物(Zn2L)は、市販の1,3−ビス[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]−2−ハイドロキシプロパンと酢酸亜鉛を原料として次の方法により合成することができる。
1,3−ビス[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]−2−ハイドロキシプロパン4.4mmolのエタノール溶液(100ml)に10M水酸化ナトリウム水溶液(0.44ml)を加え、次いで酢酸亜鉛二水和物(9.7mmol)を加える。溶媒を減圧留去することにより褐色のオイルを得ることができる。この残渣に水10mlを加えて溶解後、1M過塩素酸ナトリウム水溶液(3当量)を70℃に加温しながら滴下して加え、析出する無色の結晶を濾取し、加熱乾燥することにより式(I)の構造式で表される酢酸イオン付加体の二過塩素酸塩(Zn2L−CH3COO−・2ClO4 −・H2O)を高収率で得ることができる。この結晶は一分子の結晶水を含んでいる。
【0038】
元素分析、核磁気共鳴分析、および赤外線分析により上記化学構造を確認することができる。下記にそのデータの事例を示す。
元素分析の理論値・・・C29H34Cl2N6O12Zn2: C, 40.49; H, 3.98; N, 9.77
元素分析の実測値・・・C, 40.43; H, 3.86; N, 9.85
1H NMR (500MHz, DMSO−d6)の結果
δ2.04 (2H, dd, J = 12.1 and 12.3 Hz, CCHN), 2.53 (3H, s, CH3), 3.06 (2H, dd, J = 12.1 and 12.3 Hz, CCHN), 3.74 (1H, t, J = 10.4 Hz, CCHC), 4.02 − 4.34 (8H, m, ArCH2), 7.54 − 7.65 (8H, m, ArH), 8.06 − 8.12 (4H, m, ArH), 8.58 (4H, m, ArH)
13C NMR (125MHz, DMSO−d6)の結果
δ58.0, 60.1, 62.0, 64.6, 122.7, 124.3, 124.4, 124.4, 139.9, 140.4, 147.0, 147.2, 154.7, 155.1
赤外線分析の結果
1609, 1576, 1556(C=O), 1485, 1439, 1266, 1108(ClO4 −), 1090(ClO4 −), 770, 625 cm−1
上記のデータは、式(I)の化合物に対して酢酸イオンが1当量と過塩素酸イオンが2当量をカウンターイオンとしてもつ物質であることを示している。
【0039】
なお、本発明において作用されるキレート化合物の溶液濃度は特に限定されないが、通常0.001〜10M、特に0.01〜1Mの範囲とすることが好ましい。
【0040】
また、上記プロテインキナーゼとしては、種々のチロシンキナーゼあるいはセリン/スレオニンキナーゼが挙げられる。これらプロテインキナーゼの種類については特に限定されるものではなく、基本的にはあらゆる種類のプロテインキナーゼに対して適用することが可能である。
【0041】
こうしたキレート化合物は上述したような方法により非常に安価に合成することができる点で有利である。また常温により保存ができる点でも使いやすい。またリン酸化されるアミノ酸残基の種類に関係なく作用をすることや、リン酸化されたアミノ酸の近傍におけるアミノ酸配列に対して反応が依存しない点において、特に抗体を用いて検出する方法と比較して大きな優位性を有している。
【0042】
【実施例】
以下、実施例を挙げることにより、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
【0043】
実施例1:ペプチドアレイの作製
まず、金を蒸着させたガラス板(大阪真空工業株式会社製LAK−10;サイズ:18mm×18mm×1mm、コート内容:1層目 クロム20Å、2層目金450Å;屈折率1.72)を、1mM濃度のSUNBRIGHT MESH−50H(日本油脂製)のエタノール溶液20ml中に2時間浸漬させた。このガラス板をエタノール、水の順で洗浄し、乾燥後、上記ガラス板の上にフォトマスクを載せて固定し、紫外線照射(ウシオ電機製Optical Modulex SX−UI500Hを使用;500ワット)を2時間行った。フォトマスクは一辺500μmの正方形の穴が16個有し(4個×4個のパターンからなる。)、穴の中心間のピッチは1mmに設計されている。紫外線照射終了後エタノールによりガラス板を洗浄して、さらに1mMMOAM(8−amino−1−octanethiol,hydrochloride;同仁化学製)のエタノール溶液20ml中に1.5時間浸漬して、アレイ表面にアミノ基を導入した。
【0044】
上記の処理を施されたガラス板上に、10mg/ml濃度のNHS−PEG−MAL(分子量3400;Shearwater製)溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(100mM NaClを含む)に溶解した。)200μlを載せて室温で2時間静置させた。このガラス板をエタノール、水の順で洗浄して乾燥後、上記ガラス板上に形成されたフォトパターン上に10nlずつスポットした。スポットに用いたペプチド溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(100mM NaClを含む)に溶解した。)は100μg/ml濃度とした。スポッティングに際してはニチリョー製DNA−GRを用いた。基質ペプチドとしては、配列表・配列番号3(p60の基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチド及び配列番号3のアミノ酸配列中6番目のチロシン残基がリン酸化されている合成ペプチドを用いた。おのおのの基質の固定化パターンは図2に示した通りで行った。このようにペプチド溶液がスポットされたガラス板をウェットな環境下において室温で終夜静置して反応させた。こうしてキナーゼの基質ペプチドが固定化されたアレイを調製した。
【0045】
実施例2:SPR解析(1)
実施例1において調製したペプチドアレイを水、エタノールで洗浄して乾燥後、SPR装置(GWC Instruments Inc.製SPRimager)にセッティングして解析を行った。ランニングバッファーとしては、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)を用いた。ランニングバッファーの送液は、プランンジャーポンプ(フロム製Model−021)を用いた。温度は30℃に設定して行った。式(I)の化合物(以下、フォスタグと示す)を1mM濃度でランニングバッファーに溶解して、アレイに作用させた。結果は図3に示す通りである。リン酸化p60基質のスポットにおいてのみ特異的なSPRシグナルが確認され、非リン酸化p60基質のスポットではシグナルはほとんど確認されなかった。
【0046】
また、図2にSPRイメージングを行った結果を示した。これは実施例2におけるSPR解析に際して、CCDカメラによる画像の取り込みを5秒ごとに行い、フォスタグ反応後における時点で取り込まれた画像から、反応前の時点での画像を、画像演算処理ソフトウエアScion Image(Scion Corp.製)を用いて引き算処理を行った結果である。リン酸化p60基質の固定化された箇所にのみスポットが認められており、フォスタグが特異的に結合していることが確認される。
【0047】
実施例3:SPR解析(2)
実施例1と同様にして、配列表・配列番号1(PKAの基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなり8番目のセリン残基がリン酸化されている合成ペプチド、配列表・配列番号2(MAPKの基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなり11番目のセリン残基がリン酸化されている合成ペプチド、及び配列表・配列番号3(p60の基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなり6番目のチロシン残基がリン酸化されている合成ペプチドを固定化したアレイを調製した。おのおのの固定化のパターンは図4に示す通りである。このアレイを用いて作用させるフォスタグ濃度を0.1mMとした以外は実施例2と同様にしてSPR解析及びSPRイメージングを行った。SPR解析の結果を図5に、SPRイメージングの結果を図4に示した。いずれのリン酸化基質においてもフォスタグによるSPRシグナルの上昇が確認された。また、SPRイメージングにおいては、いずれのリン酸化基質においても、フォスタグの結合が確認されている。
【0048】
【発明の効果】
上述したように、本発明の方法により、特殊な技術を要することもなく、また特にSPRを用いた場合には、蛍光性物質、放射性物質等の標識を用いる必要もなく、非常に簡便で迅速に様々なプロテインキナーゼ動態の解析を行うことが可能となった。キレート化合物を用いることにより、安価で取り扱いも容易であるうえに、リン酸化アミノ酸の種類やその近傍のアミノ酸配列による影響も受けない点でも従来の方法と比べて大きな優位性がある。本発明を利用することにより、特に多種類のプロテインキナーゼシグナルを網羅的に解析することができ、機能が未知な遺伝子の導入、あるいは薬物投与に伴う細胞内のプロテインキナーゼ動態を効果的にプロファイリングすることができる。これにより新規な遺伝子からの機能解析、新薬探索へのアプローチといったゲノム創薬への展開が期待される。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において用いられる表面プラズモン共鳴イメージング装置の一例を示す図である。
【図2】実施例1においてアレイ上に基質ペプチドを固定化したパターン及び実施例2においてSPRイメージングを行った結果を示す図である。
【図3】実施例2において、SPR解析を行った結果である。
【図4】実施例3において、アレイ上に基質ペプチドを固定化したパターン及びSPRイメージングを行った結果を示す図である。
【図5】実施例3において、SPR解析を行った結果である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属基板上にプロテインキナーゼを認識するペプチドが1もしくは複数種固定化されてなるアレイを用いたプロテインキナーゼ活性の解析方法であって、アレイ上でリン酸化反応を行った後、キレート化合物を作用させることによりリン酸化を検出する方法に関する。特に表面プラズモン共鳴(以下、SPRと示すこともある。)による分析技術を用いることにより、迅速で効率的であり、しかも簡便なプロテインキナーゼ活性の解析を実現することができるものである。より具体的には、SPRにより解析された物質間の相互作用の様子をモニターした表面プラズモン共鳴イメージング法(以下、SPRイメージング法と示すこともある。)を応用した新規なプロテインキナーゼ活性の解析方法である。
【0002】
【従来の技術】
近年、細胞内シグナル伝達に関する研究は飛躍的に進歩しており、増殖因子やサイトカインにより活性化した細胞表面の受容体からどのように核へシグナルが伝達されるかはもとより、細胞周期、接着、運動、極性、形態形成、分化、生死などを制御する様々なシグナル伝達経路の実態が明らかになってきた。これらのシグナル伝達経路は独立して機能しているのではなく、互いにクロストークしあい、システムとして機能している。そして、癌をはじめ色々な疾病の原因が、これらのシグナル伝達経路の異常として説明されるようになってきた。
【0003】
上述したシグナル伝達経路においては、様々な種類のプロテインキナーゼが複雑に関連しあいながら重要な役割を果たしていることが知られている。これらプロテインキナーゼの活性を網羅的に解析して、その細胞内における動態を一度にプロファイリングすることができれば、細胞生物学、薬学の基礎的研究はもとより、創薬開発、臨床応用などの分野においても大きく寄与しうるものと期待される。しかしながら、これまでには簡便で効率よく種々のプロテインキナーゼにおける動態を同時にプロファイリングできるような技術は、未だ確立されていないのが現状である。
【0004】
既に報告されている関連する技術としては、例えばペプチドアレイを用いてチロシンキナーゼの一種であるc−Srcキナーゼの活性を評価したことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、p60チロシンキナーゼやプロテインキナーゼA(以下、PKAとも示す。)などに関して、おのおのの基質ペプチドをガラススライドに固定化したアレイを用いて、蛍光標識された抗体を用いたリン酸化反応の検出系について報告されている例(例えば、非特許文献2及び3参照)や、あるいは放射性物質([γ32P]ATP)を用いたアレイ上でのキナーゼ反応の検出系について報告されている例(例えば、非特許文献4,5及び6参照)がある。しかしながら、いずれの先行技術においても種々のプロテインキナーゼの動態を同時に効率的にプロファイリングための方法としては、十分な技術が開示されているものではない。また上記いずれの方法においても、蛍光性物質や放射性物質を用いる必要があり、解析に手間を要する点や、取り扱いの困難性、特殊な技術や施設の必要性などの点で大きな問題がある。
【0005】
【非特許文献1】
Benjamin T.Housemanら、Nature Biotechnology 第20巻、第270〜274頁(2002年3月発行)
【非特許文献2】
Bioorganic & Medical Chemistry Letters 第12巻、第2085〜2088頁(2002年発行)
【非特許文献3】
Bioorganic & Medical Chemistry Letters 第12巻、第2079〜2083頁(2002年発行)
【非特許文献4】
Current Opinion in Biotechnology 第13巻、第315〜320頁(2002年発行)
【非特許文献5】
The Journal of Biological Chemistry 第277巻、第27839〜27849頁(2002年発行)
【非特許文献6】
Science 第289巻、第1760〜1763頁(2000年発行)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、安価な物質を用いて迅速でしかも特別な技術を必要としない簡易な手法により基質ペプチドのリン酸化を検出することにより、特に種々のプロテインキナーゼにおける動態を網羅的にプロファイリングできる方法を確立しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、金属を蒸着した基板上にプロテインキナーゼを認識するペプチドが固定化されてなるアレイを用いてプロテインキナーゼによるリン酸化を行った後、キレート化合物を作用させた際に、特に該アレイ上における物質間の相互作用をSPRイメージング法により検出することが、様々なプロテインキナーゼ動態を迅速に特に網羅的な解析を行う上で極めて有用であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
項1.少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質となる対応する少なくとも1種のペプチドが基板の金属薄膜上に固定化されてなるアレイ上における該ペプチドのリン酸化を検出する方法であって、リン酸化の検出に際してキレート化合物を作用させることを特徴とするプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項2.キレート化合物としてポリアミン亜鉛錯体を用いる項1記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項3.キレート化合物としてポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体を用いる項1または2に記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項4.キレート化合物として式(I)に記載される化合物を用いる項1〜3のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
【化2】
項5.前記ペプチドがcGMP依存性プロテインキナーゼファミリー、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)ファミリー、ミオシン軽鎖キナーゼファミリー、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリー、プロテインキナーゼD(PKD)ファミリー、プロテインキナーゼB(PKB)ファミリー、MAPキナーゼ(MAPK)カスケードに属するプロテインキナーゼファミリー、Srcチロシンキナーゼファミリー、及び受容体型チロシンキナーゼファミリーからなる群から選ばれる少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質である項1〜4のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項6.各々が別々のプロテインキナーゼの基質である、少なくとも2種のペプチドが金属薄膜上に固定化されてなるアレイを用いる項1〜5のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項7.少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質となる対応する少なくとも1種のペプチドが基板の金属薄膜上に固定化されてなるアレイ上のペプチドにプロテインキナーゼを含み得る供試材料及びヌクレオシド三リン酸を作用させ、リン酸化された前記ペプチドを検出することを特徴とする項1〜6のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項8.リン酸化されたペプチドを表面プラズモン共鳴を利用して検出することを特徴とする項1〜7のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
項9.リン酸化されたペプチドを表面プラズモン共鳴イメージング法により検出することを特徴とする項8に記載の方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明における基板上のリン酸化ペプチドの検出方法としては、従来からよく知られているような放射性物質、蛍光性物質、化学発光性物質などの標識化合物を利用して行うことが可能である。しかしながら、表面プラズモン共鳴法(SPR)、楕円偏光法(以下、エリプソメトリと示す。)、和周波発生(以下、SFGと示す。)分光測定などの光学的検出方法を適用するのがより好ましい。なかでもSPRは位相差を求める必要がなく、反射光強度を求めるだけで、表面のnmオーダーの膜厚変化を求めることができるため特に好ましい。SPRイメージング法は広い範囲の観察が可能であり、アレイフォーマットでの物質相互作用観察が可能であるためさらに好ましい。
【0010】
ペプチドのリン酸化は、プロテインキナーゼを有し得る供試試料とヌクレオシド三リン酸、例えばATPを本発明のアレイ上に適用して行うことができる。例えば、バッファー中にプロテインキナーゼを有し得る供試試料とヌクレオシド三リン酸を加え、10〜40℃程度の温度で、好ましくは30〜40℃の温度で、10分〜6時間程度、好ましくは30〜1時間程度反応させることで、ペプチドをリン酸化することができる。必要に応じて、リン酸化の反応溶液には、cAMP、cGMP、Mg2+,Ca2+などのリン酸化を補助する物質を共存させるのがよい。
【0011】
動態のプロファイリングの対象となるプロテインキナーゼとしては、蛋白質のチロシン、セリン、トレオニン、ヒスチジンなどのアミノ酸の側鎖をリン酸化する酵素が挙げられ、例えばcGMP依存性プロテインキナーゼファミリー、 cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)ファミリー、ミオシン軽鎖キナーゼファミリー、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリー、プロテインキナーゼD(PKD)ファミリー、プロテインキナーゼB(PKB)ファミリー、MAPキナーゼ(MAPK)カスケードに属するプロテインキナーゼファミリー、Srcチロシンキナーゼファミリー、及び受容体型チロシンキナーゼファミリーなどが例示できる。
【0012】
本発明において、ペプチドはプロテインキナーゼの動態を網羅的にプロファイリングすることが目的であるので、1種類のペプチドは1種類のプロテインキナーゼによってのみリン酸化され、他のプロテインキナーゼによってはリン酸化されないのが好ましい。例えばPKAの基質としては配列番号1のペプチドが例示され、MAPKの基質としては配列番号2のペプチドが例示される。また、c−Src系チロシンキナーゼであるp60の基質としては配列番号3のペプチドが例示される。PKA、MAPK、p60を含むプロテインキナーゼの基質となるペプチド配列は公知であるか、公知の配列に基づき適宜選択することが可能である。本発明のアレイがその動態の把握を必要とする複数のプロテインキナーゼの種類に対応した種類のペプチドを固定化していれば、1枚のアレイで全てのプロテインキナーゼのプロファイリングをすることができ好ましい。もちろん1つのアレイに1種のみのプロテインキナーゼに対応するペプチドを固定化し、必要な数のアレイを使用してプロテインキナーゼのプロファイリングを行ってもよい。
【0013】
エリプソメトリは試料に光を照射し、薄膜の表面で反射した光と、薄膜の裏面で反射してきた光の干渉によって生じる偏向状態の変化から、膜厚、屈折率を測定できる。すなわち、p偏光とs偏光の光に対する反射率の絶対値の比及び位相変化の比を評価する手段である。なかでも波長を変えながらエリプソメトリを測定する分光エリプソメトリは非常に敏感に表面の膜厚変化が検出できるため好ましい。
【0014】
SFGは2次の非線形光学効果の一種であり、周波数の異なる2種類の入射光(周波数ω1 と周波数ω2)が媒質中で混合され、ω1+ω2、あるいはω1−ω2の光が発生する現象である。特にω1として可視光を用い、ω2として波長可変の赤外光を用いると赤外分光に類似した振動分光を行うことができる。この手法は表面選択性が良いため単分子膜レベルの分子の振動分光が可能であり、非常に敏感な表面解析方法として有用である。
【0015】
上述したように、特に好ましい1つの実施形態において、本発明はSPRを用いて種々のプロテインキナーゼ活性を網羅的に解析することが特に好ましい。SPRは金属に照射する偏光光束によってエバネッセント波が生じて表面ににじみだし、表面波である表面プラズモンを励起し、光のエネルギーを消費して反射光強度を低下させる。反射光強度が著しく低下する共鳴角は金属の表面に形成される層の厚みによって変化する。よって、金属の表面に調べられるべき物質あるいは物質の集合体を固定化し、サンプル中の物質あるいは物質の集合体との相互作用を共鳴角の変化、あるいはある角度での反射光強度の変化で検出可能である。したがって、SPRは蛍光物質、放射性物質などによるラベルが不要であり、しかもリアルタイム評価が可能な定量法として有用である。
【0016】
このSPRを応用したSPRイメージング法は、広範囲に偏光光束を照射し、その反射像を解析することで、物質間の相互作用の様子を画像処理技術等を駆使することによりモニター化する方法であり、複数の物質を固定化したチップをスクリーニングすることや、表面に吸着する物体のモルホロジーを高感度に観察することが可能である。
【0017】
SPRイメージング法においては、反射像を解析するためにチップに広範囲で偏光光束を照射し、かつ光束の照度を十分に確保するための手段が必要である。図1においてその一例を示した。偏光光束の照度は明るいほどセンサーの感度が上昇してより好ましい。
【0018】
光源の種類は特に限定されるものではないが、SPR共鳴角の変化が特に敏感になる近赤外光を含む光を用いるのが好ましい。具体的には、メタルハライドランプ、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、蛍光灯、白熱灯などの広範囲に光を照射することのできる白色光源を用いることができるが、なかでも得られる光の強度が十分に高く、光の電源装置が簡易で安価なハロゲンランプが特に好ましい。
【0019】
通常の白色光源はフィラメント部に光の明暗ムラが生じる欠点がある。光源の光をそのまま照射すると、反射して得られる像に明暗ムラが生じ、スクリーニングやモルホロジー変化を評価するのが困難となる。したがって、チップに均一に光を照射する手段として、光をピンホールに通してから平行光にする方法が好ましい。
【0020】
ピンホールを通す手段は、明るさの均一な光束を得る手段としては好ましいが、そのままピンホールに光を通すと照度が低下する欠点がある。そこで、十分な照度を確保する手段として、ピンホールと光源の間に凸レンズを設置し、集光してピンホールを通す方法を用いることが好ましい。
【0021】
白色光源は放射光であるため、集光する前に凸レンズを用いて平行光にする必要がある。凸レンズの焦点距離近傍に光源を設置することで、平行光を得ることができる。もう一枚凸レンズを設置し、そのレンズの焦点距離近傍にピンホールを設置することで集光した光をピンホールに通すことが可能である。ピンホール内で交差し、通過した光はカメラ用のCCTVレンズで平行光とするが、その際に得られる平行光束の断面面積は10〜1000mm2に調節するのが好ましい。この方法によって広範囲にわたるスクリーニングやモルホロジー観察が可能となる。
【0022】
相互作用をモニターする際に、上記偏光光束は物質あるいは物質の集合体が固定化されている金属薄膜の反対面に照射される。上記偏光光束は物質もしくは物質の集合体が固定化されている金属薄膜の反対面に照射され、その反射光束が得られる。金属薄膜からの反射光束は近赤外波長の光干渉フィルターを通し、ある波長付近の光のみを透過させてからCCDカメラで撮影される。
【0023】
光干渉フィルターの中心波長は、SPRの感度が高い600〜1000nmが好ましい。光干渉フィルターの透過率が極大時の半分になる波長の波長幅を半値巾と呼ぶが、半値巾は小さい方が波長の分布がシャープとなり好ましく、具体的には半値巾100nm以下が好ましい。
【0024】
光干渉フィルターを通してCCDカメラで撮影された像はコンピュータに取り込まれ、ある部分の明るさの変化をリアルタイムで評価することや、画像処理により全体像の評価が可能である。こうして複数の物質を固定化したチップをスクリーニングすることや、表面に吸着する物体のモルホロジーを高感度に観察することができる。
【0025】
本発明において用いるSPR用のチップは好ましくは透明な基板上に金属薄膜が形成された金属基板からなり、上記金属薄膜上に直接的もしくは間接的に、化学的もしくは物理的に、物質もしくは物質の集合体が固定化されているスライドが用いられる。基板の素材は特に限定されるものではないが、透明なものを用いるのが好ましい。具体的にはガラス、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、アクリルなどのプラスチック類が挙げられる。中でもガラスが特に好ましい。
【0026】
基板の厚さは0.1〜20mm程度が好ましく1〜2mm程度がより好ましい。金属薄膜からの反射像を評価する目的を達成するために、SPR共鳴角はできるだけ小さい方が撮影される画像がひしゃげる恐れがなく解析がしやすい。したがって、透明基板あるいは透明基板とそれに接触するプリズムの屈折率nDは1.5以上であることが好ましい。
【0027】
金属薄膜を構成する金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金等が挙げられ、これらを単独であるいは組み合わせて用いてもよいが、なかでも金を用いるのが特に好ましい。金属薄膜の形成方法は特に限定されるものではないが、公知の手法として例えば蒸着法、スパッタ法、イオンコーティング法などが挙げられる。なかでも蒸着による方法が好ましい。また、金属薄膜の厚みは10〜3000Å程度が好ましく、100〜600Å程度がより好ましい。
【0028】
本発明の1つの特に好ましい具体例は、金属を蒸着した基板上にプロテインキナーゼの基質となるペプチドが少なくとも1種、好ましくは複数種のペプチドが固定化されてなるアレイを用い、且つ該アレイに細胞破砕液等のキナーゼを含有する溶液を作用させ、さらにキレート化合物を作用させてそれらの相互作用の様子を特にSPRないしはSPRイメージング法により検出することを特徴とする。本発明においてプロテインキナーゼの基質となるペプチドとは、該プロテインキナーゼによりリン酸化反応を受ける性質を有するペプチドをいうものである。
【0029】
ペプチドの長さは特に限定されないが、一般的には100アミノ酸残基以下のものが用いられる。好ましくは5〜60アミノ酸残基、より好ましくは10〜25アミノ酸残基程度からなるものが用いられる。ペプチドは公知の手法に基づく化学的な合成により得られたペプチドであってもよいし、あるいは遺伝子工学的な手法により生産されたペプチドを用いてもよい。また基板への脱着を容易にするために、上記ペプチドの片末端において、ビオチンや、チオール基を有するシステイン残基を付加させたものや、あるいはオリゴヒスチジン(His−tag)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)のような一般的によく用いられるタグを付加させたものを用いるのも有用である。
【0030】
上記ペプチドの金属薄膜への固定化の方法は、特に限定されるものではないが、金属薄膜表面に固定化しやすいような官能基を予め導入しておいて基質ペプチドを固定化処理するのがより好ましい。該官能基としては、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、アルデヒド基などが挙げられる。これらの官能基を金属薄膜表面に導入するには、一般的に用いられているアルカンチオールの誘導体を用いるのが好ましい。
【0031】
その際に、J.M.BrockmanらによりJ.Am.Chem.Soc. 第121巻、第8044〜8051頁(1999年)において報告されているような方法に基づいて、アルカンチオール層を介して固定化し、PEG(ポリエチレングリコール)によりバックグラウンドを修飾する方法を用いてもよい。また、非特異的な影響をより抑えるために、PEGの末端に上述のような官能基が導入された誘導体をアルカンチオールに結合させた後に、ペプチドを固定化することも、スペーサー効果を奏する点で有用である。
【0032】
具体的には、例えば金属薄膜にカルボキシメチルデキストランあるいはカルボキシル基で末端が修飾されたPEGのような水溶性高分子を結合させて表面にカルボキシル基を導入して、EDC(1−エチル−3,4−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)のような水溶性カルボジイミドを用いてNHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)のエステルとして、活性化されたカルボキシル基にペプチドもしくは蛋白質のアミノ基を反応させる方法が挙げられる。あるいは表面をマレイミドにより修飾した後、システインのようなチオール基を含むアミノ酸残基を介して固定化してもよい。この場合のシステイン残基はペプチドの一方の末端に付加されてなるのが好ましい。非特異的な影響を低減させるためには、後者のチオール基を介した固定化方法がより好ましいが、特に限定されるものではない。
【0033】
上述したHis−tagやGSTのようなタグを付加したペプチドを固定化する方法も非常に簡便で有用である。この場合には、上述のように金属表面にアルカンチオールを介してアミノ基やカルボキシル基を導入した後に、それぞれNTA(ニトリロ三酢酸)、グルタチオンを金属薄膜上に導入させておくのがよい。His−tagの場合は、NTAを導入したアレイを塩化ニッケルにより処理した後で基質を固定化する。
【0034】
本発明においては、アレイ上における基質のリン酸化を特異的に感度よくモニターするためにキレート化合物を用いる。キレート化合物とは一般に多座配位子ないしキレート試薬が金属イオンに配位して生じた錯体をいうものを指すが、特にリン酸に選択的かつ可逆的に結合する性質を有する化合物が好ましく、ポリアミン亜鉛錯体を用いることがより好ましい。ポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体を用いることが更に好ましい。更に、二核亜鉛(II)錯体を基本構造にもつヘキサアミン二核亜鉛(II)錯体を用いることがより好ましい。
【0035】
このような化合物の典型としては、式(I)に示されるような、1,3−ビス[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]−2−ハイドロキシプロパノラート(IUPAC名:1,3−bis[bis(2−pyridylmethyl)amino]−2−propanolatodizinc(II) complex)を基本骨格とするポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体(ただし、プロパノール骨格の水酸基はアルコラートとして二つの亜鉛2価イオンの架橋配位子になっている)が挙げられるが、本発明は特にこの化合物に限定されるものではない。
【0036】
【化3】
【0037】
本発明で用いられる錯体は、一般的な化学合成技術を利用して合成することが可能であるが、市販の化合物を原料としても合成することができる。例えば、上記式(I)で示される化合物(Zn2L)は、市販の1,3−ビス[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]−2−ハイドロキシプロパンと酢酸亜鉛を原料として次の方法により合成することができる。
1,3−ビス[ビス(2−ピリジルメチル)アミノ]−2−ハイドロキシプロパン4.4mmolのエタノール溶液(100ml)に10M水酸化ナトリウム水溶液(0.44ml)を加え、次いで酢酸亜鉛二水和物(9.7mmol)を加える。溶媒を減圧留去することにより褐色のオイルを得ることができる。この残渣に水10mlを加えて溶解後、1M過塩素酸ナトリウム水溶液(3当量)を70℃に加温しながら滴下して加え、析出する無色の結晶を濾取し、加熱乾燥することにより式(I)の構造式で表される酢酸イオン付加体の二過塩素酸塩(Zn2L−CH3COO−・2ClO4 −・H2O)を高収率で得ることができる。この結晶は一分子の結晶水を含んでいる。
【0038】
元素分析、核磁気共鳴分析、および赤外線分析により上記化学構造を確認することができる。下記にそのデータの事例を示す。
元素分析の理論値・・・C29H34Cl2N6O12Zn2: C, 40.49; H, 3.98; N, 9.77
元素分析の実測値・・・C, 40.43; H, 3.86; N, 9.85
1H NMR (500MHz, DMSO−d6)の結果
δ2.04 (2H, dd, J = 12.1 and 12.3 Hz, CCHN), 2.53 (3H, s, CH3), 3.06 (2H, dd, J = 12.1 and 12.3 Hz, CCHN), 3.74 (1H, t, J = 10.4 Hz, CCHC), 4.02 − 4.34 (8H, m, ArCH2), 7.54 − 7.65 (8H, m, ArH), 8.06 − 8.12 (4H, m, ArH), 8.58 (4H, m, ArH)
13C NMR (125MHz, DMSO−d6)の結果
δ58.0, 60.1, 62.0, 64.6, 122.7, 124.3, 124.4, 124.4, 139.9, 140.4, 147.0, 147.2, 154.7, 155.1
赤外線分析の結果
1609, 1576, 1556(C=O), 1485, 1439, 1266, 1108(ClO4 −), 1090(ClO4 −), 770, 625 cm−1
上記のデータは、式(I)の化合物に対して酢酸イオンが1当量と過塩素酸イオンが2当量をカウンターイオンとしてもつ物質であることを示している。
【0039】
なお、本発明において作用されるキレート化合物の溶液濃度は特に限定されないが、通常0.001〜10M、特に0.01〜1Mの範囲とすることが好ましい。
【0040】
また、上記プロテインキナーゼとしては、種々のチロシンキナーゼあるいはセリン/スレオニンキナーゼが挙げられる。これらプロテインキナーゼの種類については特に限定されるものではなく、基本的にはあらゆる種類のプロテインキナーゼに対して適用することが可能である。
【0041】
こうしたキレート化合物は上述したような方法により非常に安価に合成することができる点で有利である。また常温により保存ができる点でも使いやすい。またリン酸化されるアミノ酸残基の種類に関係なく作用をすることや、リン酸化されたアミノ酸の近傍におけるアミノ酸配列に対して反応が依存しない点において、特に抗体を用いて検出する方法と比較して大きな優位性を有している。
【0042】
【実施例】
以下、実施例を挙げることにより、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。
【0043】
実施例1:ペプチドアレイの作製
まず、金を蒸着させたガラス板(大阪真空工業株式会社製LAK−10;サイズ:18mm×18mm×1mm、コート内容:1層目 クロム20Å、2層目金450Å;屈折率1.72)を、1mM濃度のSUNBRIGHT MESH−50H(日本油脂製)のエタノール溶液20ml中に2時間浸漬させた。このガラス板をエタノール、水の順で洗浄し、乾燥後、上記ガラス板の上にフォトマスクを載せて固定し、紫外線照射(ウシオ電機製Optical Modulex SX−UI500Hを使用;500ワット)を2時間行った。フォトマスクは一辺500μmの正方形の穴が16個有し(4個×4個のパターンからなる。)、穴の中心間のピッチは1mmに設計されている。紫外線照射終了後エタノールによりガラス板を洗浄して、さらに1mMMOAM(8−amino−1−octanethiol,hydrochloride;同仁化学製)のエタノール溶液20ml中に1.5時間浸漬して、アレイ表面にアミノ基を導入した。
【0044】
上記の処理を施されたガラス板上に、10mg/ml濃度のNHS−PEG−MAL(分子量3400;Shearwater製)溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(100mM NaClを含む)に溶解した。)200μlを載せて室温で2時間静置させた。このガラス板をエタノール、水の順で洗浄して乾燥後、上記ガラス板上に形成されたフォトパターン上に10nlずつスポットした。スポットに用いたペプチド溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(100mM NaClを含む)に溶解した。)は100μg/ml濃度とした。スポッティングに際してはニチリョー製DNA−GRを用いた。基質ペプチドとしては、配列表・配列番号3(p60の基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチド及び配列番号3のアミノ酸配列中6番目のチロシン残基がリン酸化されている合成ペプチドを用いた。おのおのの基質の固定化パターンは図2に示した通りで行った。このようにペプチド溶液がスポットされたガラス板をウェットな環境下において室温で終夜静置して反応させた。こうしてキナーゼの基質ペプチドが固定化されたアレイを調製した。
【0045】
実施例2:SPR解析(1)
実施例1において調製したペプチドアレイを水、エタノールで洗浄して乾燥後、SPR装置(GWC Instruments Inc.製SPRimager)にセッティングして解析を行った。ランニングバッファーとしては、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)を用いた。ランニングバッファーの送液は、プランンジャーポンプ(フロム製Model−021)を用いた。温度は30℃に設定して行った。式(I)の化合物(以下、フォスタグと示す)を1mM濃度でランニングバッファーに溶解して、アレイに作用させた。結果は図3に示す通りである。リン酸化p60基質のスポットにおいてのみ特異的なSPRシグナルが確認され、非リン酸化p60基質のスポットではシグナルはほとんど確認されなかった。
【0046】
また、図2にSPRイメージングを行った結果を示した。これは実施例2におけるSPR解析に際して、CCDカメラによる画像の取り込みを5秒ごとに行い、フォスタグ反応後における時点で取り込まれた画像から、反応前の時点での画像を、画像演算処理ソフトウエアScion Image(Scion Corp.製)を用いて引き算処理を行った結果である。リン酸化p60基質の固定化された箇所にのみスポットが認められており、フォスタグが特異的に結合していることが確認される。
【0047】
実施例3:SPR解析(2)
実施例1と同様にして、配列表・配列番号1(PKAの基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなり8番目のセリン残基がリン酸化されている合成ペプチド、配列表・配列番号2(MAPKの基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなり11番目のセリン残基がリン酸化されている合成ペプチド、及び配列表・配列番号3(p60の基質となる。)に示されるアミノ酸配列からなり6番目のチロシン残基がリン酸化されている合成ペプチドを固定化したアレイを調製した。おのおのの固定化のパターンは図4に示す通りである。このアレイを用いて作用させるフォスタグ濃度を0.1mMとした以外は実施例2と同様にしてSPR解析及びSPRイメージングを行った。SPR解析の結果を図5に、SPRイメージングの結果を図4に示した。いずれのリン酸化基質においてもフォスタグによるSPRシグナルの上昇が確認された。また、SPRイメージングにおいては、いずれのリン酸化基質においても、フォスタグの結合が確認されている。
【0048】
【発明の効果】
上述したように、本発明の方法により、特殊な技術を要することもなく、また特にSPRを用いた場合には、蛍光性物質、放射性物質等の標識を用いる必要もなく、非常に簡便で迅速に様々なプロテインキナーゼ動態の解析を行うことが可能となった。キレート化合物を用いることにより、安価で取り扱いも容易であるうえに、リン酸化アミノ酸の種類やその近傍のアミノ酸配列による影響も受けない点でも従来の方法と比べて大きな優位性がある。本発明を利用することにより、特に多種類のプロテインキナーゼシグナルを網羅的に解析することができ、機能が未知な遺伝子の導入、あるいは薬物投与に伴う細胞内のプロテインキナーゼ動態を効果的にプロファイリングすることができる。これにより新規な遺伝子からの機能解析、新薬探索へのアプローチといったゲノム創薬への展開が期待される。
【0049】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において用いられる表面プラズモン共鳴イメージング装置の一例を示す図である。
【図2】実施例1においてアレイ上に基質ペプチドを固定化したパターン及び実施例2においてSPRイメージングを行った結果を示す図である。
【図3】実施例2において、SPR解析を行った結果である。
【図4】実施例3において、アレイ上に基質ペプチドを固定化したパターン及びSPRイメージングを行った結果を示す図である。
【図5】実施例3において、SPR解析を行った結果である。
Claims (9)
- 少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質となる対応する少なくとも1種のペプチドが基板の金属薄膜上に固定化されてなるアレイ上における該ペプチドのリン酸化を検出する方法であって、リン酸化の検出に際してキレート化合物を作用させることを特徴とするプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- キレート化合物としてポリアミン亜鉛錯体を用いる請求項1記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- キレート化合物としてポリアミン化合物を配位子として有する二核亜鉛錯体を用いる請求項1または2に記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- 前記ペプチドがcGMP依存性プロテインキナーゼファミリー、 cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)ファミリー、ミオシン軽鎖キナーゼファミリー、プロテインキナーゼC(PKC)ファミリー、プロテインキナーゼD(PKD)ファミリー、プロテインキナーゼB(PKB)ファミリー、MAPキナーゼ(MAPK)カスケードに属するプロテインキナーゼファミリー、Srcチロシンキナーゼファミリー、及び受容体型チロシンキナーゼファミリーからなる群から選ばれる少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質である請求項1〜4のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- 各々が別々のプロテインキナーゼの基質である、少なくとも2種のペプチドが金属薄膜上に固定化されてなるアレイを用いる請求項1〜5のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- 少なくとも1種のプロテインキナーゼの基質となる対応する少なくとも1種のペプチドが基板の金属薄膜上に固定化されてなるアレイ上のペプチドにプロテインキナーゼを含み得る供試材料及びヌクレオシド三リン酸を作用させ、リン酸化された前記ペプチドを検出することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- リン酸化されたペプチドを表面プラズモン共鳴を利用して検出することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のプロテインキナーゼ活性の解析方法。
- リン酸化されたペプチドを表面プラズモン共鳴イメージング法により検出することを特徴とする請求項8に記載の方法。
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