JP2004293586A - 耐摩耗性チェーン及び耐摩耗性チェーンの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】水素脆性を生じることなく、酸化雰囲気中においても高い耐摩耗性を有する耐摩耗性チェーンを提供すること。
【解決手段】チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層することによって、クロム炭化物が有する耐酸化性とバナジウム炭化物が有する耐摩耗性とが相乗的に作用し、酸化雰囲気中における耐摩耗性を格段に向上させる。
【選択図】 図2
【解決手段】チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層することによって、クロム炭化物が有する耐酸化性とバナジウム炭化物が有する耐摩耗性とが相乗的に作用し、酸化雰囲気中における耐摩耗性を格段に向上させる。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、搬送用チェーン、動力伝達用チェーン、自動車エンジンのタイミングチェーンなどとして使用されるチェーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
屈曲摺動するチェーンの耐摩耗性を向上させる手段として、チェーンを構成する部品の表面に亜鉛めっき又はニッケルめっきを施すことや炭化クロムや炭化バナジウムなどの金属炭化物の硬化層を形成することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第3122037号公報
【特許文献2】
特許第3199225号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、亜鉛めっきやニッケルめっきをチェーン用部品の表面に施すと、めっき膜を形成する際、酸洗やめっき工程において発生する水素がチェーン用部品の金属組織内に侵入して水素脆性を生じさせ、当該部品の機械的強度を著しく低下させるという問題が生じていた。
【0005】
また、炭化クロムや炭化バナジウムなどの金属炭化物の硬化層は、亜鉛めっきやニッケルめっき層に比較して耐摩耗性が格段に優れてはいるものの、炭化バナジウムは、耐酸化性が十分でないためにエンジンルームなどの酸化雰囲気中に使用する場合には、十分な耐久性が得られないという問題が指摘されており、一方炭化クロムは、近年のチェーンに対する高速化・高負荷化に対応するためには、耐摩耗性の点で不十分であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、水素脆性を生じることなく、酸化雰囲気中においても高い耐摩耗性を有する耐摩耗性チェーンを提供することにある。また、本発明の別の目的は、水素脆性を生じることなく、酸化雰囲気中においても高い耐摩耗性を有する耐摩耗性チェーンを、特別の成膜装置を用いることなく、簡単な方法で製造することができる製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1に係る耐摩耗性チェーンは、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層することにより構成される。
【0008】
また、請求項2に係る耐摩耗性チェーンの製造方法は、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、クロムを主成分とする粉末とバナジウムを主成分とする粉末を混合した処理粉末中に前記部品を浸漬した後、650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有することにより構成される。
【0009】
ここで、クロムを主成分とする粉末としては、例えば、30〜200mesh程度の市販の純クロム粉末や、純クロム粉末:60〜65重量%程度;炭素:9重量%程度以下;珪素:8重量%程度以下;残部鉄及び不可避不純物(燐、硫黄等)の組成を有する高炭素フェロクロム粉末、若しくは、クロム:65〜70重量%程度;炭素:0.1重量%程度以下;珪素:1重量%程度以下;残部鉄及び不可避不純物(燐、硫黄等)の組成を有する低炭素フェロクロム粉末など50重量%を越える量のクロムを含有する粉末を使用することが可能である。
【0010】
一方、バナジウムを主成分とする粉末としては、例えば、325mesh程度以下の市販の純バナジウム粉末や、純バナジウム粉末:75〜85重量%程度;炭素:0.2重量%程度以下;珪素:2重量%程度以下;残部鉄及び不可避不純物(アルミニウム、燐、硫黄等)の組成を有する汎用のフェロバナジウム粉末を使用することが可能である。
【0011】
なお、本発明が対象としているチェーンは、エンジンなどに用いられる伝動用チェーン、物流搬送に用いられる搬送用チェーン、ケーブル類を保護案内するケーブルガイド用チェーンなど、屈曲摺動する金属製チェーンのすべてを含んでいる。また、本発明において、被覆層を形成する部品としては、チェーンを構成する全ての部品を対象としているが、特にチェーンの運転中に互いに接触摺動して摩耗しやすいピンとプレートに被覆層を形成することが最も効果的である。
【0012】
【作用】
本発明は、上述した装置構成を備えているため、以下のような本発明に特有な作用を奏する。
【0013】
請求項1に係る耐摩耗性チェーンによれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層しているため、クロム炭化物が有する耐酸化性とバナジウム炭化物が有する耐摩耗性とが相乗的に作用し、酸化雰囲気中における耐摩耗性を格段に向上させる。さらに、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層が積層されることによって、被覆層内に生じる内部応力が緩和され、被覆層に剥離やクラックが発生することを抑制する。
【0014】
請求項2に係る耐摩耗性チェーンの製造方法によれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、クロムを主成分とする粉末とバナジウムを主成分とする粉末を混合し処理粉末中に前記部品を浸漬した後、650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有しているため、元来母材に含まれていた炭素とクロム又はバナジウムが選択的に反応し、CVD装置やPVD装置などの特別の成膜装置を要することなく、また、段取り替えなどを行わずに3層以上の被覆層を形成することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の好ましい実施の形態について実施例に基づいて説明する。図1は、本発明をローラーチェーン20に適用した例を示している。この例では、ローラーチェーン20を構成する部品が互いに摺動して摩耗しやすい個所及びローラチェーン20を構成する部品とローラチェーン20と共に使用されるスプロケットやテンショナレバーなどのチェーン周辺部品との摺動部分にあたる個所であるピン25の外表面、ブシュ22の内周面と外周面、プレート24に穿孔したピン孔の内周面等にクロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記個所と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層している。
【0016】
このような被覆層は次のような方法により形成する。被覆層を形成する部品を上述したようなクロムを主体とした粉末とバナジウムを主体とした粉末を混合した処理粉末中に浸漬する。そして650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する。
【0017】
クロム炭化物は、650℃以上の温度領域で安定して成膜する性質があり、バナジウム炭化物は、900℃以上という温度領域で他の物質よりも優先して成膜する性質を有している。そのため、被覆層を形成すべき部品をクロムを主体とした粉末とバナジウムを主体とした粉末を混合してなる処理粉末に浸漬し、上記のように温度を変えて加熱処理することで、クロム炭化物を主体とした被覆層上にバナジウム炭化物を主体とした被覆層が形成され、さらにその上にクロム炭化物を主体とした被覆層が形成された3層からなる被膜層を形成することができる。なお、上記の処理粉末に、焼結防止剤として、例えば、Al2O3のような酸化物を添加したり、反応促進剤として、例えば、NH4Clなどのハロゲン化物を添加することによって、クロム炭化物及びバナジウム炭化物の生成を促進し、且つ品質を安定させることができる。
【0018】
上記加熱処理における処理時間は、10〜120分の範囲で調整することによって、被覆層の厚さを調整することができる。本実施例においては、700℃で40分、950℃で60分、さらに700℃で60分の加熱処理を行った。図2は、このようにして成膜された被覆層の組成の断面分布を示している。この図から明らかなように、上記のような加熱処理を行うことによって、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層からなる3層の被膜層が形成される。しかも、この被覆層は、クロム炭化層とバナジウム炭化層との境界部分において、両者の組成割合が次第に変化する境界領域が存在しているため被覆層間の内部応力の発生が抑制され、耐剥離性に優れた膜が得られる。
【0019】
本発明の耐摩耗チェーンが奏する効果を確認するために、ローラチェーンのローラの外表面にクロム炭化物(2μm)−バナジウム炭化物(3μm)−クロム炭化物(3μm)からなる被覆層を施したものを新油中において下記の条件でモータリング試験機を用いて摩耗試験を行い、被覆層の摩耗量を測定した。比較例としては、クロム炭化物の被覆層(8μm)を施したもの及びバナジウム炭化物の被覆層(8μm)を施したものを用いた。その結果を図3に示す。
<試験条件>
イ)チェーン :ピッチ6.35mmのローラチェーン
ロ)スプロケット歯数 :23枚×46枚
ハ)チェーン負荷 :1.5kN
ニ)回転速度 :6500回転/分
ホ)試験時間 :2000時間
【0020】
図3から分かるように、本発明の被覆層は、バナジウム炭化物のみからなる被覆層に比べると耐摩耗性の点で若干劣るものの、クロム炭化物のみからなる被覆層に比べると、摩耗量を40%程度抑制することができる。
【0021】
次に酸化雰囲気における本発明の耐摩耗チェーンの効果を確認するため、新油に微量の硫酸を添加した油中で上記と同様の摩耗試験を行った。その結果を図4に示す。
【0022】
図4から分かるように、本発明の被覆層は、クロム炭化物のみからなる被覆層に比べると耐摩耗性の点で若干劣るものの、バナジウム炭化物のみからなる被覆層に比べると、摩耗量を20%程度抑制することができる。
【0023】
上記の摩耗試験の結果から分かるように、本発明の被覆層は、新油中においても酸化雰囲気中においてもチェーンの高速化・高負荷化に対応可能な耐摩耗性を備えている。なお、実施例では、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層からなる3層の被膜層を用いているが、3層以上の被覆層とすることも可能である。その場合には、最外層を耐酸性に優れているクロム炭化物を主体とした被覆層とすることが好ましい。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による耐摩耗性チェーン及び耐摩耗性チェーンの製造方法は、上述したような構成を備えているため、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0025】
まず、請求項1に係る耐摩耗性チェーンによれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層しているため、クロム炭化物が有する耐酸化性とバナジウム炭化物が有する耐摩耗性とが相乗的に作用し、酸化雰囲気中における耐摩耗性が格段に向上する。しかも、積層された被覆層は、被覆層間に拡散層が形成されているため、耐剥離性にも優れている。
【0026】
また、請求項2に係る耐摩耗性チェーンの製造方法によれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、クロムを主体とした粉末とバナジウムを主体とした粉末を混合し処理粉末中に前記部品を浸漬した後、650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有しているため、CVD装置やPVD装置などの特別の成膜装置を要することなく、また、段取り替えなどを行わずに耐摩耗性に優れた3層以上の被覆層を再現性良く簡単に形成することができる。しかも、チェーンを構成する部品の金属組織内に水素が侵入することなく被覆層を形成することができるため、この方法で製造された耐摩耗性チェーンは、水素脆性が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1による耐摩耗性チェーンの斜視図。
【図2】本発明に用いられる被覆層断面における組成分布を示す図。
【図3】新油中における摩耗試験の結果を示す図。
【図4】酸化雰囲気中における摩耗試験の結果を示す図。
【符号の説明】
20 ・・・ ローラーチェーン
21 ・・・ 内プレート
22 ・・・ ブシュ
23 ・・・ ローラ
24 ・・・ 外プレート
25 ・・・ ピン
【発明の属する技術分野】
本発明は、搬送用チェーン、動力伝達用チェーン、自動車エンジンのタイミングチェーンなどとして使用されるチェーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
屈曲摺動するチェーンの耐摩耗性を向上させる手段として、チェーンを構成する部品の表面に亜鉛めっき又はニッケルめっきを施すことや炭化クロムや炭化バナジウムなどの金属炭化物の硬化層を形成することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第3122037号公報
【特許文献2】
特許第3199225号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、亜鉛めっきやニッケルめっきをチェーン用部品の表面に施すと、めっき膜を形成する際、酸洗やめっき工程において発生する水素がチェーン用部品の金属組織内に侵入して水素脆性を生じさせ、当該部品の機械的強度を著しく低下させるという問題が生じていた。
【0005】
また、炭化クロムや炭化バナジウムなどの金属炭化物の硬化層は、亜鉛めっきやニッケルめっき層に比較して耐摩耗性が格段に優れてはいるものの、炭化バナジウムは、耐酸化性が十分でないためにエンジンルームなどの酸化雰囲気中に使用する場合には、十分な耐久性が得られないという問題が指摘されており、一方炭化クロムは、近年のチェーンに対する高速化・高負荷化に対応するためには、耐摩耗性の点で不十分であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、水素脆性を生じることなく、酸化雰囲気中においても高い耐摩耗性を有する耐摩耗性チェーンを提供することにある。また、本発明の別の目的は、水素脆性を生じることなく、酸化雰囲気中においても高い耐摩耗性を有する耐摩耗性チェーンを、特別の成膜装置を用いることなく、簡単な方法で製造することができる製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1に係る耐摩耗性チェーンは、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層することにより構成される。
【0008】
また、請求項2に係る耐摩耗性チェーンの製造方法は、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、クロムを主成分とする粉末とバナジウムを主成分とする粉末を混合した処理粉末中に前記部品を浸漬した後、650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有することにより構成される。
【0009】
ここで、クロムを主成分とする粉末としては、例えば、30〜200mesh程度の市販の純クロム粉末や、純クロム粉末:60〜65重量%程度;炭素:9重量%程度以下;珪素:8重量%程度以下;残部鉄及び不可避不純物(燐、硫黄等)の組成を有する高炭素フェロクロム粉末、若しくは、クロム:65〜70重量%程度;炭素:0.1重量%程度以下;珪素:1重量%程度以下;残部鉄及び不可避不純物(燐、硫黄等)の組成を有する低炭素フェロクロム粉末など50重量%を越える量のクロムを含有する粉末を使用することが可能である。
【0010】
一方、バナジウムを主成分とする粉末としては、例えば、325mesh程度以下の市販の純バナジウム粉末や、純バナジウム粉末:75〜85重量%程度;炭素:0.2重量%程度以下;珪素:2重量%程度以下;残部鉄及び不可避不純物(アルミニウム、燐、硫黄等)の組成を有する汎用のフェロバナジウム粉末を使用することが可能である。
【0011】
なお、本発明が対象としているチェーンは、エンジンなどに用いられる伝動用チェーン、物流搬送に用いられる搬送用チェーン、ケーブル類を保護案内するケーブルガイド用チェーンなど、屈曲摺動する金属製チェーンのすべてを含んでいる。また、本発明において、被覆層を形成する部品としては、チェーンを構成する全ての部品を対象としているが、特にチェーンの運転中に互いに接触摺動して摩耗しやすいピンとプレートに被覆層を形成することが最も効果的である。
【0012】
【作用】
本発明は、上述した装置構成を備えているため、以下のような本発明に特有な作用を奏する。
【0013】
請求項1に係る耐摩耗性チェーンによれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層しているため、クロム炭化物が有する耐酸化性とバナジウム炭化物が有する耐摩耗性とが相乗的に作用し、酸化雰囲気中における耐摩耗性を格段に向上させる。さらに、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層が積層されることによって、被覆層内に生じる内部応力が緩和され、被覆層に剥離やクラックが発生することを抑制する。
【0014】
請求項2に係る耐摩耗性チェーンの製造方法によれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、クロムを主成分とする粉末とバナジウムを主成分とする粉末を混合し処理粉末中に前記部品を浸漬した後、650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有しているため、元来母材に含まれていた炭素とクロム又はバナジウムが選択的に反応し、CVD装置やPVD装置などの特別の成膜装置を要することなく、また、段取り替えなどを行わずに3層以上の被覆層を形成することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の好ましい実施の形態について実施例に基づいて説明する。図1は、本発明をローラーチェーン20に適用した例を示している。この例では、ローラーチェーン20を構成する部品が互いに摺動して摩耗しやすい個所及びローラチェーン20を構成する部品とローラチェーン20と共に使用されるスプロケットやテンショナレバーなどのチェーン周辺部品との摺動部分にあたる個所であるピン25の外表面、ブシュ22の内周面と外周面、プレート24に穿孔したピン孔の内周面等にクロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記個所と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層している。
【0016】
このような被覆層は次のような方法により形成する。被覆層を形成する部品を上述したようなクロムを主体とした粉末とバナジウムを主体とした粉末を混合した処理粉末中に浸漬する。そして650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する。
【0017】
クロム炭化物は、650℃以上の温度領域で安定して成膜する性質があり、バナジウム炭化物は、900℃以上という温度領域で他の物質よりも優先して成膜する性質を有している。そのため、被覆層を形成すべき部品をクロムを主体とした粉末とバナジウムを主体とした粉末を混合してなる処理粉末に浸漬し、上記のように温度を変えて加熱処理することで、クロム炭化物を主体とした被覆層上にバナジウム炭化物を主体とした被覆層が形成され、さらにその上にクロム炭化物を主体とした被覆層が形成された3層からなる被膜層を形成することができる。なお、上記の処理粉末に、焼結防止剤として、例えば、Al2O3のような酸化物を添加したり、反応促進剤として、例えば、NH4Clなどのハロゲン化物を添加することによって、クロム炭化物及びバナジウム炭化物の生成を促進し、且つ品質を安定させることができる。
【0018】
上記加熱処理における処理時間は、10〜120分の範囲で調整することによって、被覆層の厚さを調整することができる。本実施例においては、700℃で40分、950℃で60分、さらに700℃で60分の加熱処理を行った。図2は、このようにして成膜された被覆層の組成の断面分布を示している。この図から明らかなように、上記のような加熱処理を行うことによって、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層からなる3層の被膜層が形成される。しかも、この被覆層は、クロム炭化層とバナジウム炭化層との境界部分において、両者の組成割合が次第に変化する境界領域が存在しているため被覆層間の内部応力の発生が抑制され、耐剥離性に優れた膜が得られる。
【0019】
本発明の耐摩耗チェーンが奏する効果を確認するために、ローラチェーンのローラの外表面にクロム炭化物(2μm)−バナジウム炭化物(3μm)−クロム炭化物(3μm)からなる被覆層を施したものを新油中において下記の条件でモータリング試験機を用いて摩耗試験を行い、被覆層の摩耗量を測定した。比較例としては、クロム炭化物の被覆層(8μm)を施したもの及びバナジウム炭化物の被覆層(8μm)を施したものを用いた。その結果を図3に示す。
<試験条件>
イ)チェーン :ピッチ6.35mmのローラチェーン
ロ)スプロケット歯数 :23枚×46枚
ハ)チェーン負荷 :1.5kN
ニ)回転速度 :6500回転/分
ホ)試験時間 :2000時間
【0020】
図3から分かるように、本発明の被覆層は、バナジウム炭化物のみからなる被覆層に比べると耐摩耗性の点で若干劣るものの、クロム炭化物のみからなる被覆層に比べると、摩耗量を40%程度抑制することができる。
【0021】
次に酸化雰囲気における本発明の耐摩耗チェーンの効果を確認するため、新油に微量の硫酸を添加した油中で上記と同様の摩耗試験を行った。その結果を図4に示す。
【0022】
図4から分かるように、本発明の被覆層は、クロム炭化物のみからなる被覆層に比べると耐摩耗性の点で若干劣るものの、バナジウム炭化物のみからなる被覆層に比べると、摩耗量を20%程度抑制することができる。
【0023】
上記の摩耗試験の結果から分かるように、本発明の被覆層は、新油中においても酸化雰囲気中においてもチェーンの高速化・高負荷化に対応可能な耐摩耗性を備えている。なお、実施例では、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層からなる3層の被膜層を用いているが、3層以上の被覆層とすることも可能である。その場合には、最外層を耐酸性に優れているクロム炭化物を主体とした被覆層とすることが好ましい。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明による耐摩耗性チェーン及び耐摩耗性チェーンの製造方法は、上述したような構成を備えているため、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0025】
まず、請求項1に係る耐摩耗性チェーンによれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層しているため、クロム炭化物が有する耐酸化性とバナジウム炭化物が有する耐摩耗性とが相乗的に作用し、酸化雰囲気中における耐摩耗性が格段に向上する。しかも、積層された被覆層は、被覆層間に拡散層が形成されているため、耐剥離性にも優れている。
【0026】
また、請求項2に係る耐摩耗性チェーンの製造方法によれば、チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、クロムを主体とした粉末とバナジウムを主体とした粉末を混合し処理粉末中に前記部品を浸漬した後、650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有しているため、CVD装置やPVD装置などの特別の成膜装置を要することなく、また、段取り替えなどを行わずに耐摩耗性に優れた3層以上の被覆層を再現性良く簡単に形成することができる。しかも、チェーンを構成する部品の金属組織内に水素が侵入することなく被覆層を形成することができるため、この方法で製造された耐摩耗性チェーンは、水素脆性が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1による耐摩耗性チェーンの斜視図。
【図2】本発明に用いられる被覆層断面における組成分布を示す図。
【図3】新油中における摩耗試験の結果を示す図。
【図4】酸化雰囲気中における摩耗試験の結果を示す図。
【符号の説明】
20 ・・・ ローラーチェーン
21 ・・・ 内プレート
22 ・・・ ブシュ
23 ・・・ ローラ
24 ・・・ 外プレート
25 ・・・ ピン
Claims (2)
- チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、
クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層したことを特徴とする耐摩耗性チェーン。 - チェーンを構成する少なくとも1つの部品の表面に、
クロム炭化物を主体とした被覆層とバナジウム炭化物を主体とした被覆層を3層以上交互に、且つ、前記部品と接する層がクロム炭化物を主体とした被覆層となるように積層した耐摩耗性チェーンの製造方法であって、
クロムを主成分とする粉末とバナジウムを主成分とする粉末を混合した処理粉末中に前記部品を浸漬した後、
650〜800℃の処理温度に一定時間保持した後、
900〜1000℃の処理温度に一定時間保持し、
さらに、650〜800℃の処理温度に一定時間保持する工程を有することを特徴とする耐摩耗性チェーンの製造方法。
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JP2003083526A JP2004293586A (ja) | 2003-03-25 | 2003-03-25 | 耐摩耗性チェーン及び耐摩耗性チェーンの製造方法 |
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2005249042A (ja) * | 2004-03-03 | 2005-09-15 | Tsubakimoto Chain Co | 防食性チェーン |
JP2008013820A (ja) * | 2006-07-06 | 2008-01-24 | Honda Motor Co Ltd | 耐摩耗性部品及びその製造方法 |
CN105088133A (zh) * | 2015-08-28 | 2015-11-25 | 杭州东华链条集团有限公司 | 一种高耐磨链条的制造工艺 |
-
2003
- 2003-03-25 JP JP2003083526A patent/JP2004293586A/ja active Pending
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