JP2004203745A - メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】肝細胞癌においてはPIVKA-IIの高値がその後の門脈浸潤への進展と密接に関連することは知られているが、PIVKA-IIと肝細胞癌の予後との関連についての詳細な分子メカニズムは不明であった
【解決手段】メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤、メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達抑制剤、メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝細胞癌治療剤及びPIVKA-II産生を抑制することによる肝癌細胞の増殖抑制方法を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】 なし
【解決手段】メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤、メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達抑制剤、メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝細胞癌治療剤及びPIVKA-II産生を抑制することによる肝癌細胞の増殖抑制方法を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、JAK-STAT系のシグナル伝達経路を刺激する物質の産生を抑制し、JAK-STAT系のシグナル伝達経路を遮断することによって細胞増殖を抑制することを特徴とする医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
肝細胞癌患者は高率に門脈浸潤をきたすことが知られており、一旦門脈浸潤が発生すると予後は極めて不良である。ここで、肝細胞癌患者におけるPIVKA-II(Des-γ-Carboxy Prothrombin : DCPと称されることもある。)の高値が、その後の門脈浸潤進展と密接に関連することが知られている(Koike Y. Cancer 2001;91:561-9)。PIVKA-IIとは、図1、図2に示すようにカルボキシ化されていない異常プロトロンビンであり、正常な凝固活性を有しておらず、ビタミンKが欠乏した状況で増えることが知られているタンパク質である。肝細胞癌患者の40−60%と高率かつ特異的に出現し、肝細胞癌の有用なマーカーとして用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、PIVKA-IIと肝細胞癌との関連についての詳細な分子生物学的機序は不明であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は、PIVKA-IIと肝細胞癌との関連についての詳細な分子生物学的機序を解明することにより、肝細胞癌の細胞増殖を抑制する優れた医薬を提供することを目的とする。
【0005】
本願発明は、(1)メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤、(2)メナテトレノンを含有するJAK-STAT(signal transducers and activators of transcription)系のシグナル伝達抑制剤、(3)メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝癌治療剤及び(4)PIVKA-II産生を抑制することによる肝癌増殖抑制方法である。
【0006】
近年、外部刺激による細胞増殖のメカニズムが種々明らかになりつつある。その1つは、erk-MAPKのリン酸化誘導により転写が活性化され細胞増殖が起こる経路である。また、JAK-STAT系を活性化することによる細胞増殖の経路も知られている。本願発明者は、PIVKA-IIが肝細胞癌を増殖するメカニズムを研究し、意外にもPIVKA-IIがJAK-STAT系を介して肝癌細胞増殖を増進していることを見出し本発明を完成した。したがって、本発明は、PIVKA-II産生を抑制することによる肝癌増殖抑制方法である。
一方、メナテトレノンを肝癌細胞に添加するとPIVKA-IIの産生が抑制されることが知られている。図9には、Hep3B細胞にメナテトレノン1nM又は10nMを添加した場合と、無添加の場合のPIVKA-IIの産生量を示すグラフを示した。メナテトレノンを添加するとPIVKA-IIの産生は70時間に渡り抑制されるが、添加しないと30時間以後PIVKA-IIの産生量が顕著に増加することが明らかである。この知見と、本願発明者が見出した上記の知見によりメナテトレノンは、PIVKA−IIの産生を抑制し、これによりJAK-STATシグナル伝達経路を遮断することによって、細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
したがって、本発明は、(1)メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤、(2)メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達抑制剤又は(3)メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝癌治療剤である。
【0007】
メナテトレノンとは、化学名2−メチル−3−テトラプレニル−1,4−ナフトキノン(2-methl-3-tetraprenyl-1,4-naphthoquinone)である。構造式を以下に示す。
【化1】
メナテトレノンは黄色の結晶又は油状の物質で、におい及び味はなく、光により分解しやすい。また、水にはほとんど溶けない。メナテトレノンは、ビタミンK−II(VK−II)とも称され、その薬理作用は、血液凝固因子(プロトロンビン、VII、IX、X)のタンパク合成過程で、グルタミン酸残基が生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸に変換する際のカルボキシル化反応に関与するものであり、正常プロントロビン等の肝合成を促進し、生体の止血機構を賦活して生理的に止血作用を発現するものである。
【0008】
本発明にかかる医薬の有効成分であるメナテトレノンは、無水物であってもよいし、水和物を形成していてもよい。また、メナテトレノンには結晶多形が存在することもあるが限定されず、いずれかの結晶形が単一であってもよいし、結晶形混合物であってもよい。さらに、本発明にかかるメナテトレノンが生体内で分解されて生じる代謝物も本発明の特許請求の範囲に包含される。
【0009】
本発明において用いるメナテトレノンは、自体公知の方法で製造することができ、代表的な例として、特開昭49−55650号公報に開示される方法によれば容易に製造することができる他、合成メーカーから容易に入手することもできる。また、メナテトレノンはカプセル剤、注射剤等の製剤としても入手できる。本発明にかかる医薬は、メナテトレノンをそのまま用いてもよいし、または、自体公知の薬学的に許容できる担体等(例:賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤等)、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して慣用される方法により製剤化してもよい。また、必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸、等の成分を配合してもよい。製剤化の剤形としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、パップ剤等があげられる。
また、本発明においては、メナテトレノンの投与形態は特に限定されないが、経口的に投与することが好ましい。メナテトレノンのカプセル剤は商品名ケイツーカプセル(エーザイ株式会社製)、グラケーカプセル(エーザイ株式会社製)として、またシロップ剤は商品名ケイツーシロップ(エーザイ株式会社製)として、注射剤は商品名ケイツーN注(エーザイ株式会社製)として入手することができる。
本発明にかかるメナテトレノン含有医薬は肝疾患治療・予防に有用である。メナテトレノンの好ましい投与量としては通常は10〜200mg/日であり、更に好ましくは30〜135mg/日である。
【0010】
【発明の実施の形態】
PIVKA-IIは、肝細胞癌細胞(PLC)にワーファリン(エーザイ株式会社製)を添加し、その産生を亢進させ、抗プロトロンビン抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィにより精製して作成した。
PIVKA-II、正常プロトロンビンは、図3に示すようにkringle domainと呼ばれる部位を2つ有する構造をしており、一方肝細胞増殖因子として知られているHGF(hepatocyte growth factor)はkringle domainを4つ有する構造をしており、構造は互いに類似している。HGFの場合には、このkringle domainの部分がc-Metとの結合部位であるため、PIVKA-II、正常プロトロンビンともにc-Metに作用して細胞増殖因子として働く可能性が考えられるため、以下の一連の試験を行った。ここで、c-Metレセプターが関与する際細胞増殖の活性化のシグナル伝達経路は図7に示した3つの経路が考えられている。この場合に考えられるシグナル経路は(1)Jak-STAT経路、(2)MAPK-elk経路及び(3)MAPK-Myc経路である。
【0011】
(cell proliferation assay)
PIVKA-II又は正常プロトロンビンが細胞増殖因子として働いているかについて、PIVKA-II産生細胞である肝細胞癌株細胞(Hep3B)、PIVKA-IIを産生しない大腸癌細胞(HT29)を用いてcell proliferation assayにより試験した。ポジティブコントロールとしては、細胞増殖因子であることが知られているEGFを用いた。本試験は表1に示すような手順により行った。
【表1】
本試験の結果を図4、図5に示す。図4から明らかなように、肝癌細胞Hep3Bでは、PIVKA-IIを加えた系において、20ng/mlで約1.35倍、200ng/mlで約1.6倍に増殖刺激を亢進していることが分かる。また、図5から明らかなように、大腸癌細胞HT29では、PIVKA-IIを加えた系において、20ng/mlで約1.4倍、200ng/mlで約1.6倍に増殖刺激を亢進していることが分かる。一方、正常プロトロンビンの場合には、PIVKA-IIよりも弱い細胞増殖亢進作用しか有していないということが分かった。本試験によりPIVKA-IIは濃度依存的に細胞増殖を亢進しており、ポジティブコントロールとして用いたEGFと同様の細胞増殖亢進作用があるということが分かる。これによりPIVKA-IIは細胞増殖因子として働いていることが明らかである。
【0012】
(Cell migration assay)
次に肝癌細胞Hep3Bを用いてPIVKA-II又は正常プロトロンビンが細胞の浸潤能を活性化するか否かについて調査した。試験は肝癌細胞Hep3Bをコンフルエントにした培養ディッシュで、細胞をラバーポリスマンではがし、細胞群間の距離を測定、細胞をPIVKA-II又は正常プロトロンビンにより刺激した後24時間後に再度細胞群間の距離を測定し、その差から細胞の移動度を定量化する方法により行った。結果を図6に示す。図6から明らかなように、PIVKA-II又は正常プロトロンビンいずれも陰性であった。これによりPIVKA-II、正常プロトロンビンいずれも肝癌細胞の浸潤能に対しては影響を与えないということが明らかである。
【0013】
次にPIVKA-IIがどのようなシグナル伝達経路により細胞増殖に関与しているのかをWestern blot assayにより調査した。本試験は表2に示すような手順により行った。
(Western blot assay)
【表2】
本試験の結果を図10〜図15に示す。図10により明らかなように、PIVKA-IIはerk-MAPKのリン酸化には影響を与えなかった。図11、図12より明らかなように、PIVKA-IIはc-Metレセプターと結合があること、通常はc-Metをリン酸化しないがc-Metのリン酸化部位のうち1234番目のタイロシンをリン酸化するが、1349番目はリン酸化しないということが分かった。図13より明らかなように、PIVKA-IIはMycのリン酸化には影響しなかった。図14より明らかなように、PIVKA-IIはJAK1のリン酸化を亢進し、STAT3については濃度依存的に亢進することが明らかとなった。
これらの図から明らかなように本試験によりPIVKA-IIはHGFレセプター(c-Met)に作用し、STATシグナル伝達回路を介して細胞増殖を促すことが示唆された。
【0014】
(Luciferase assay)
次にLuciferase assayにより細胞増殖を促すシグナル伝達経路としてMAPK経路を介しているかどうかを試験した。本試験は表3に示す手順により行った。
【表3】
試験結果を図8に示す。図8より明らかなようにPIVKA-II、正常プロトロンビン及びEGFのうちEGFのみがLuciferase activityを有していることが分かった。これはEGFのみがMAPK経路を経由して細胞増殖を亢進しているということを表わす。よって、本試験結果もPIVKA-IIはMAPK経路を経由していないということを支持する。
これら一連の試験によりPIVKA-IIはc-Metに結合し、シグナル伝達経路としてJAK1-STAT3系を経由して細胞増殖の亢進に寄与しているということが明らかとなった。
【0015】
【発明の効果】
肝細胞癌自身がPIVKA-IIを産生することにより自己の細胞増殖を亢進させて細胞を増殖させることにより肝細胞癌は予後が悪くなっていることが示唆された。また、メナテトレノンを投与することによりPIVKA-IIの産生抑制作用によってJAK-STAT系のシグナル伝達経路を遮断し、肝癌細胞の細胞増殖を抑制できることが明らかとなった。従って、メナテトレノンは、PIVKA-II陽性肝細胞癌に対する門脈浸潤の発生抑制効果に優れており、また、肝細胞癌治療後の予後の改善効果、肝細胞癌の治療後の再発抑制に優れた効果を有すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】PIVKA-IIとビタミンKの代謝を表わす説明図である。
【図2】正常プロトロンビンとPIVKA-IIの違いを表わす説明図である。
【図3】HGFとPIVKA-II、正常プロトロンビンとの構造を表わす説明図である。
【図4】Hep3Bにおける[3H]-thymidineの取り込みを表わすグラフである。
【図5】HT29における[3H]-thymidineの取り込みを表わすグラフである。
【図6】Hep3Bの浸潤能を表わすグラフである。
【図7】c-Metレセプターが関与するシグナル伝達経路を表わす説明図である。
【図8】ルシフェラーゼアッセイの結果を表わすグラフである。
【図9】ビタミンKによるPIVKA-IIの産生の抑制効果を表わすグラフである。
【図10】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図11】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図12】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図13】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図14】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図15】ファーウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、JAK-STAT系のシグナル伝達経路を刺激する物質の産生を抑制し、JAK-STAT系のシグナル伝達経路を遮断することによって細胞増殖を抑制することを特徴とする医薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
肝細胞癌患者は高率に門脈浸潤をきたすことが知られており、一旦門脈浸潤が発生すると予後は極めて不良である。ここで、肝細胞癌患者におけるPIVKA-II(Des-γ-Carboxy Prothrombin : DCPと称されることもある。)の高値が、その後の門脈浸潤進展と密接に関連することが知られている(Koike Y. Cancer 2001;91:561-9)。PIVKA-IIとは、図1、図2に示すようにカルボキシ化されていない異常プロトロンビンであり、正常な凝固活性を有しておらず、ビタミンKが欠乏した状況で増えることが知られているタンパク質である。肝細胞癌患者の40−60%と高率かつ特異的に出現し、肝細胞癌の有用なマーカーとして用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、PIVKA-IIと肝細胞癌との関連についての詳細な分子生物学的機序は不明であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は、PIVKA-IIと肝細胞癌との関連についての詳細な分子生物学的機序を解明することにより、肝細胞癌の細胞増殖を抑制する優れた医薬を提供することを目的とする。
【0005】
本願発明は、(1)メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤、(2)メナテトレノンを含有するJAK-STAT(signal transducers and activators of transcription)系のシグナル伝達抑制剤、(3)メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝癌治療剤及び(4)PIVKA-II産生を抑制することによる肝癌増殖抑制方法である。
【0006】
近年、外部刺激による細胞増殖のメカニズムが種々明らかになりつつある。その1つは、erk-MAPKのリン酸化誘導により転写が活性化され細胞増殖が起こる経路である。また、JAK-STAT系を活性化することによる細胞増殖の経路も知られている。本願発明者は、PIVKA-IIが肝細胞癌を増殖するメカニズムを研究し、意外にもPIVKA-IIがJAK-STAT系を介して肝癌細胞増殖を増進していることを見出し本発明を完成した。したがって、本発明は、PIVKA-II産生を抑制することによる肝癌増殖抑制方法である。
一方、メナテトレノンを肝癌細胞に添加するとPIVKA-IIの産生が抑制されることが知られている。図9には、Hep3B細胞にメナテトレノン1nM又は10nMを添加した場合と、無添加の場合のPIVKA-IIの産生量を示すグラフを示した。メナテトレノンを添加するとPIVKA-IIの産生は70時間に渡り抑制されるが、添加しないと30時間以後PIVKA-IIの産生量が顕著に増加することが明らかである。この知見と、本願発明者が見出した上記の知見によりメナテトレノンは、PIVKA−IIの産生を抑制し、これによりJAK-STATシグナル伝達経路を遮断することによって、細胞増殖を抑制することが明らかとなった。
したがって、本発明は、(1)メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤、(2)メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達抑制剤又は(3)メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝癌治療剤である。
【0007】
メナテトレノンとは、化学名2−メチル−3−テトラプレニル−1,4−ナフトキノン(2-methl-3-tetraprenyl-1,4-naphthoquinone)である。構造式を以下に示す。
【化1】
メナテトレノンは黄色の結晶又は油状の物質で、におい及び味はなく、光により分解しやすい。また、水にはほとんど溶けない。メナテトレノンは、ビタミンK−II(VK−II)とも称され、その薬理作用は、血液凝固因子(プロトロンビン、VII、IX、X)のタンパク合成過程で、グルタミン酸残基が生理活性を有するγ−カルボキシグルタミン酸に変換する際のカルボキシル化反応に関与するものであり、正常プロントロビン等の肝合成を促進し、生体の止血機構を賦活して生理的に止血作用を発現するものである。
【0008】
本発明にかかる医薬の有効成分であるメナテトレノンは、無水物であってもよいし、水和物を形成していてもよい。また、メナテトレノンには結晶多形が存在することもあるが限定されず、いずれかの結晶形が単一であってもよいし、結晶形混合物であってもよい。さらに、本発明にかかるメナテトレノンが生体内で分解されて生じる代謝物も本発明の特許請求の範囲に包含される。
【0009】
本発明において用いるメナテトレノンは、自体公知の方法で製造することができ、代表的な例として、特開昭49−55650号公報に開示される方法によれば容易に製造することができる他、合成メーカーから容易に入手することもできる。また、メナテトレノンはカプセル剤、注射剤等の製剤としても入手できる。本発明にかかる医薬は、メナテトレノンをそのまま用いてもよいし、または、自体公知の薬学的に許容できる担体等(例:賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤等)、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して慣用される方法により製剤化してもよい。また、必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸、等の成分を配合してもよい。製剤化の剤形としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、パップ剤等があげられる。
また、本発明においては、メナテトレノンの投与形態は特に限定されないが、経口的に投与することが好ましい。メナテトレノンのカプセル剤は商品名ケイツーカプセル(エーザイ株式会社製)、グラケーカプセル(エーザイ株式会社製)として、またシロップ剤は商品名ケイツーシロップ(エーザイ株式会社製)として、注射剤は商品名ケイツーN注(エーザイ株式会社製)として入手することができる。
本発明にかかるメナテトレノン含有医薬は肝疾患治療・予防に有用である。メナテトレノンの好ましい投与量としては通常は10〜200mg/日であり、更に好ましくは30〜135mg/日である。
【0010】
【発明の実施の形態】
PIVKA-IIは、肝細胞癌細胞(PLC)にワーファリン(エーザイ株式会社製)を添加し、その産生を亢進させ、抗プロトロンビン抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィにより精製して作成した。
PIVKA-II、正常プロトロンビンは、図3に示すようにkringle domainと呼ばれる部位を2つ有する構造をしており、一方肝細胞増殖因子として知られているHGF(hepatocyte growth factor)はkringle domainを4つ有する構造をしており、構造は互いに類似している。HGFの場合には、このkringle domainの部分がc-Metとの結合部位であるため、PIVKA-II、正常プロトロンビンともにc-Metに作用して細胞増殖因子として働く可能性が考えられるため、以下の一連の試験を行った。ここで、c-Metレセプターが関与する際細胞増殖の活性化のシグナル伝達経路は図7に示した3つの経路が考えられている。この場合に考えられるシグナル経路は(1)Jak-STAT経路、(2)MAPK-elk経路及び(3)MAPK-Myc経路である。
【0011】
(cell proliferation assay)
PIVKA-II又は正常プロトロンビンが細胞増殖因子として働いているかについて、PIVKA-II産生細胞である肝細胞癌株細胞(Hep3B)、PIVKA-IIを産生しない大腸癌細胞(HT29)を用いてcell proliferation assayにより試験した。ポジティブコントロールとしては、細胞増殖因子であることが知られているEGFを用いた。本試験は表1に示すような手順により行った。
【表1】
本試験の結果を図4、図5に示す。図4から明らかなように、肝癌細胞Hep3Bでは、PIVKA-IIを加えた系において、20ng/mlで約1.35倍、200ng/mlで約1.6倍に増殖刺激を亢進していることが分かる。また、図5から明らかなように、大腸癌細胞HT29では、PIVKA-IIを加えた系において、20ng/mlで約1.4倍、200ng/mlで約1.6倍に増殖刺激を亢進していることが分かる。一方、正常プロトロンビンの場合には、PIVKA-IIよりも弱い細胞増殖亢進作用しか有していないということが分かった。本試験によりPIVKA-IIは濃度依存的に細胞増殖を亢進しており、ポジティブコントロールとして用いたEGFと同様の細胞増殖亢進作用があるということが分かる。これによりPIVKA-IIは細胞増殖因子として働いていることが明らかである。
【0012】
(Cell migration assay)
次に肝癌細胞Hep3Bを用いてPIVKA-II又は正常プロトロンビンが細胞の浸潤能を活性化するか否かについて調査した。試験は肝癌細胞Hep3Bをコンフルエントにした培養ディッシュで、細胞をラバーポリスマンではがし、細胞群間の距離を測定、細胞をPIVKA-II又は正常プロトロンビンにより刺激した後24時間後に再度細胞群間の距離を測定し、その差から細胞の移動度を定量化する方法により行った。結果を図6に示す。図6から明らかなように、PIVKA-II又は正常プロトロンビンいずれも陰性であった。これによりPIVKA-II、正常プロトロンビンいずれも肝癌細胞の浸潤能に対しては影響を与えないということが明らかである。
【0013】
次にPIVKA-IIがどのようなシグナル伝達経路により細胞増殖に関与しているのかをWestern blot assayにより調査した。本試験は表2に示すような手順により行った。
(Western blot assay)
【表2】
本試験の結果を図10〜図15に示す。図10により明らかなように、PIVKA-IIはerk-MAPKのリン酸化には影響を与えなかった。図11、図12より明らかなように、PIVKA-IIはc-Metレセプターと結合があること、通常はc-Metをリン酸化しないがc-Metのリン酸化部位のうち1234番目のタイロシンをリン酸化するが、1349番目はリン酸化しないということが分かった。図13より明らかなように、PIVKA-IIはMycのリン酸化には影響しなかった。図14より明らかなように、PIVKA-IIはJAK1のリン酸化を亢進し、STAT3については濃度依存的に亢進することが明らかとなった。
これらの図から明らかなように本試験によりPIVKA-IIはHGFレセプター(c-Met)に作用し、STATシグナル伝達回路を介して細胞増殖を促すことが示唆された。
【0014】
(Luciferase assay)
次にLuciferase assayにより細胞増殖を促すシグナル伝達経路としてMAPK経路を介しているかどうかを試験した。本試験は表3に示す手順により行った。
【表3】
試験結果を図8に示す。図8より明らかなようにPIVKA-II、正常プロトロンビン及びEGFのうちEGFのみがLuciferase activityを有していることが分かった。これはEGFのみがMAPK経路を経由して細胞増殖を亢進しているということを表わす。よって、本試験結果もPIVKA-IIはMAPK経路を経由していないということを支持する。
これら一連の試験によりPIVKA-IIはc-Metに結合し、シグナル伝達経路としてJAK1-STAT3系を経由して細胞増殖の亢進に寄与しているということが明らかとなった。
【0015】
【発明の効果】
肝細胞癌自身がPIVKA-IIを産生することにより自己の細胞増殖を亢進させて細胞を増殖させることにより肝細胞癌は予後が悪くなっていることが示唆された。また、メナテトレノンを投与することによりPIVKA-IIの産生抑制作用によってJAK-STAT系のシグナル伝達経路を遮断し、肝癌細胞の細胞増殖を抑制できることが明らかとなった。従って、メナテトレノンは、PIVKA-II陽性肝細胞癌に対する門脈浸潤の発生抑制効果に優れており、また、肝細胞癌治療後の予後の改善効果、肝細胞癌の治療後の再発抑制に優れた効果を有すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】PIVKA-IIとビタミンKの代謝を表わす説明図である。
【図2】正常プロトロンビンとPIVKA-IIの違いを表わす説明図である。
【図3】HGFとPIVKA-II、正常プロトロンビンとの構造を表わす説明図である。
【図4】Hep3Bにおける[3H]-thymidineの取り込みを表わすグラフである。
【図5】HT29における[3H]-thymidineの取り込みを表わすグラフである。
【図6】Hep3Bの浸潤能を表わすグラフである。
【図7】c-Metレセプターが関与するシグナル伝達経路を表わす説明図である。
【図8】ルシフェラーゼアッセイの結果を表わすグラフである。
【図9】ビタミンKによるPIVKA-IIの産生の抑制効果を表わすグラフである。
【図10】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図11】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図12】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図13】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図14】ウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
【図15】ファーウェスタンブロットアッセイの結果を表わす図である。
Claims (4)
- メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤。
- メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達抑制剤。
- メナテトレノンを含有するJAK-STAT系のシグナル伝達を抑制する肝細胞癌治療剤。
- PIVKA-II産生を抑制することによる肝癌細胞の増殖抑制方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2002371166A JP2004203745A (ja) | 2002-12-20 | 2002-12-20 | メナテトレノンを含有する肝癌細胞増殖抑制剤 |
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007143450A (ja) * | 2005-11-25 | 2007-06-14 | Eisai R & D Management Co Ltd | Pivka−iiを指標とした血管新生を亢進又は抑制する化合物のスクリーニング方法 |
WO2013038907A1 (ja) * | 2011-09-14 | 2013-03-21 | 日本化薬株式会社 | 細胞の増殖抑制方法、nek10バリアント遺伝子に対するrna干渉作用を有する核酸分子、及び抗癌剤 |
CN110010113A (zh) * | 2019-04-04 | 2019-07-12 | 哈尔滨工程大学 | 径向辐射的杰纳斯-亥姆霍兹水声换能器 |
-
2002
- 2002-12-20 JP JP2002371166A patent/JP2004203745A/ja active Pending
Cited By (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2007143450A (ja) * | 2005-11-25 | 2007-06-14 | Eisai R & D Management Co Ltd | Pivka−iiを指標とした血管新生を亢進又は抑制する化合物のスクリーニング方法 |
WO2013038907A1 (ja) * | 2011-09-14 | 2013-03-21 | 日本化薬株式会社 | 細胞の増殖抑制方法、nek10バリアント遺伝子に対するrna干渉作用を有する核酸分子、及び抗癌剤 |
JPWO2013038907A1 (ja) * | 2011-09-14 | 2015-03-26 | 日本化薬株式会社 | 細胞の増殖抑制方法、nek10バリアント遺伝子に対するrna干渉作用を有する核酸分子、及び抗癌剤 |
CN110010113A (zh) * | 2019-04-04 | 2019-07-12 | 哈尔滨工程大学 | 径向辐射的杰纳斯-亥姆霍兹水声换能器 |
CN110010113B (zh) * | 2019-04-04 | 2023-12-08 | 哈尔滨工程大学 | 径向辐射的杰纳斯-亥姆霍兹水声换能器 |
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