JP2004010594A - 重水素化メタクリル酸メチルの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シアン化水素及び/又はシアン化重水素とアセトン−dn(n=1〜6)との反応によりアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を合成し、これを通常の重水素化されていない水で水和して2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)とし、これをギ酸メチル−dn(n=0〜4)と反応させホルムアミド−dn(n=0〜1)と2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)とし、さらに後者を脱水してメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)とするとともに、副生物をシアン化水素及び/又はシアン化重水素となし循環使用することにより、重水素化率の低下を抑え、従来のアセトンシアンヒドリン法のように大量の廃硫酸や硫酸アンモニウムを副生することなく、効率的にメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を製造することができる。
【選択図】 無し
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は重水素化メタクリル酸メチルの製造方法に関するものである。重水素化メタクリル酸メチルは低伝送損失のプラスチック光ファイバーや光導波路材料の原料として期待されている化合物である。
【0002】
【従来の技術】
プラスチック光ファイバーは大容量通信網が各家庭、オフィスに敷設される際に欠くことのできない材料であり、石英系光ファイバーの有する低損失、広帯域と、銅線の有する取り扱いの容易さを兼ね備えた機能的な媒体である。また、光導波路などの光通信部品を構成する材料においても従来のガラスや無機結晶材料に代わり、熱光学効果が大きく、また加工が容易なポリマー光導波路デバイスは期待されている材料である。
【0003】
これまで、ポリマー光通信材料として、安価かつ加工の容易なポリメタクリル酸メチル(PMMA)が多く用いられてきた。しかしながら、 PMMAは光信号として用いられる近赤外域の波長において、炭素ー水素結合に起因する光信号の吸収損失が大きいため主として可視光域で使用されるが、近赤外吸収の倍音が可視光域に現れるため、可視光域においても伝送損失が大きい。この問題を解決するため、PMMAの水素を重水素で置換した重水素化PMMAが開発されている。重水素化PMMAでは近赤外の吸収が長波長側にシフトするため、低伝送損失の光通信材料を形成することが可能となる。
【0004】
重水素化PMMAを用いた光ファイバーについてはUSP4138194号に提案されており、特開昭58−149003号には同ファイバーを防湿しながら製造する方法が、また、特開昭58−154803号にはメチルメタクリレート−d5を用いたプラスチック光ファイバーが提案されている。さらに、特開昭63−115106号には重水素化メタクリル酸のベンジルエステルを用いたプラスチック光ファイバーが、 特開2000−95816号には重水素化メチルアミンによりイミド化された重水素化PMMAを用いた光導波路材料が開示されるなど、重水素化PMMAは光通信媒体用材料として有用な物質である。
【0005】
重水素化メタクリル酸メチルの合成法として、ナガイらによるJ.Poly.Sci.,vol.62,S95(1962)に、重水素化アセトン−d6とシアン化水素を反応させシアンヒドリンをつくり、これを硫酸処理した後、重水素化メタノール−d3と反応させて製造する方法が報告されている。
【0006】
同方法による重水素化メタクリル酸メチルの合成は、USP4138194号にも示されている。この場合、原料にシアン化重水素(DCN),重水素化硫酸(D2SO4)、メタノール−d4を用いても重水素化率に改善はみられないことが記載されている。また、特開昭61−20906号にはアセトン−d6とシアン化水素をシアン化カリウム触媒により15〜20℃で反応させシアンヒドリンを合成した後、硫酸及び水の存在下、加水分解してメタクリル酸−d5を製造する方法が記載されている。一方、Makromol.chem.,vol.182,P2505(1981)には、通常のシアン化水素を用いて合成すると重水素化率が92.5%にまで低下し、DCNを使用すると重水素化率が99%以上に達することが記載されている。また、特開昭61−17592号にはシアンヒドリン合成をシアン化水素を用いて行った場合、同位体交換が10%程度起こるため、これを避ける手法として、トリメチルシアニドを用いて行い、同位体交換を抑制する方法が記載されている。Berichte Bunsen−Gesellschatt Bd77,Nr2(1973)にはアセトン−d6,DCN,D2SO4,重水(D2O),メタノール−d4を用いて重水素化率が98%以上の重水素化メタクリル酸メチルを収率30%で合成したことが記載されている。また、J.Phy.Org.Chem.,vol.8,P249(1995)にはシアン化ナトリウムのD2O溶液にアセトン−d6を滴下してアセトンシアンヒドリン−d7を合成した後、硫酸及びメタノール−d4から重水素化メタクリル酸メチルを合成する方法が記載されている。
【0007】
以上に示したこれらの方法は通常アセトンシアンヒドリン(ACH)法と称される方法の応用であるが、該方法を用いた場合、大量の廃硫酸及び硫酸アンモニウムの副生を伴うこと、また濃硫酸の存在下、高温度でアセトンシアンヒドリン−d6が処理される工程が含まれるため同位体交換が引き起こされる可能性があること、また、高価なアセトン−dn(n=1〜6)あたりの収率が十分とはいえないことなどの欠点を有する。
【0008】
これに対して特開昭61−148141号にはメタクリル酸メチル中の水素を白金属触媒を用いて重水または重水素ガスにより直接重水素交換する方法が記載されているが、重水素化率が50%程度と不十分である。また、他のメタクリル酸メチルの製法としては、イソブチレンやt−ブタノールを原料としたC4酸化法や、メタクロレインの酸化エステル化による方法、イソ酪酸の酸化脱水素法、プロピオン酸やプロピオンアルデヒドとホルムアルデヒドとの縮合脱水法などがあるが、これらは重水素化された原料のコトが高く、また、副反応によるロスが大きいため重水素化メタクリル酸メチルの製法としては不適当である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、アセトン−dn(n=1〜6)、およびメタノール−dn(n=0〜4)を原料に用い、シアン化水素及び/又は高価なシアン化重水素を循環使用しながら、重水素化率の低下が少なく、大量の廃硫酸や硫酸アンモニウムを副生しない効率的なメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)の製造方法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
シアン化水素及び/又はシアン化重水素とアセトン−dn(n=1〜6)との反応によりアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を製造する第▲1▼工程、前記第▲1▼工程で得られるアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を通常の重水素化されていない水で水和して2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)を製造する第▲2▼工程、メタノール−dn(n=0〜4)と一酸化炭素との反応により生成するギ酸メチル−dn(n=0〜4)、及び/又は、メタノール−dn(n=0〜4)の脱水素反応により生成するギ酸メチル−dn(n=0〜4)を、前記第▲2▼工程で得られる2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)と反応させることにより、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)とホルムアミド−dn(n=0〜1)を製造する第▲3▼工程、前記第▲3▼工程の生成物から分離される2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)を脱水してメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を製造する第▲4▼工程により、重水素化率の低下を抑えつつ重水素化メタクリル酸メチルを効率よく製造する方法を見出した。さらに、前記第▲3▼工程の生成物から分離したホルムアミド−dn(n=0〜1)の脱水反応によりシアン化水素及び/又はシアン化重水素を製造し、循環再使用することも可能である。本発明はかかる知見に基づいて完成するに至った。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の方法を詳しく説明する。
本発明の方法は最終的にアセトン−dn(n=1〜6)及びメタノール−dn(n=0〜4)のみを原料とするものであり、重水素化率の低下を抑えつつ、アセトンシアンヒドリンを経由はするが従来のACH法のように大量の廃硫酸や硫酸アンモニウムの副生を伴うことなく、重水素化メタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を高い収率で製造するプロセスである。
【0012】
本発明における重水素化アセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)の合成において、反応原料は重水素化アセトン−dn(n=1〜6)とシアン化水素及び/又はシアン化重水素である。例えば、アセトン−d6については通常99.8%以上の重水素化率を有するものが市販されており、これを用いることができる。シアン化水素及び/又はシアン化重水素については、なるべく不純物を持たず、純度が高いものが反応を円滑に進行させるために好ましい。
【0013】
またこの反応は、Kirk−Othmer,Encyclopedia ofChemical Technology Third Edition, vol.7,P385〜P396に記載されているごとく、カルボニル基にシアン化水素及び/又はシアン化重水素が付加する平衡反応である。反応は低温側でシアンヒドリンに偏っており、また同位体交換を抑制するためにも低温の方が好ましく、−20〜30℃の反応温度で行われることが好ましい。反応温度が−20℃より低い場合には十分な反応速度が得られず、またシアン化水素及び/又はシアン化重水素が凝固するおそれがあり好ましくなく、30℃以上では平衡上不利となり、またシアン化水素及び/又はシアン化重水素の重合が引き起こされ、着色し易くなるため好ましくない。
【0014】
反応の平衡上の制約から、高価な重水素化アセトン−dn(n=1〜6)を有効に利用するためには、シアン化水素及び/又はシアン化重水素過剰下で反応を行うことが適切であるが、その場合、シアン化水素及び/又はシアン化重水素により、同位体交換が促進されるため、アセトン−dn(n=1〜6)に対するシアン化水素及び/又はシアン化重水素の使用モル比が1.5倍未満に抑制されることが好ましい。
【0015】
一方、得られた反応液をそのまま次のアミド化工程に供する場合、シアン化水素及び/又はシアン化重水素の余剰量に応じて副反応も大きくなるため、この面からもアセトン−dn(n=1〜6)に対するシアン化水素及び/又はシアン化重水素の使用モル比は1.5倍未満とすることが好ましい。なお、余剰のアセトン−dn(n=1〜6)は、次のアミド化工程後に定量的に回収することができる。反応圧力は減圧、常圧、加圧のいずれでもよい。
【0016】
反応にはアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミンなどのアミン化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属化合物、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物、塩基性イオン交換樹脂、ゼオライトなどの塩基性化合物を一般に触媒として用いるが、取り扱いの容易さ、および反応速度の点から、アミン化合物が好ましい。触媒添加量は反応が進行する最低量が好適であり、0.00001〜1重量%が好ましい。このようにして得られたアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)は原料のアセトン−dn(n=1〜6)に対して、0.5%以下の同位体交換しかみられなかった。
【0017】
得られたアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)と通常の重水素化されていない水を触媒の存在下反応させることにより、2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)を得ることができる。触媒としてはニトリル類の水和反応に有効な触媒が使用可能であり、塩酸、硫酸のような強酸を用いることもできるが、精製工程を考慮すると金属酸化物触媒あるいは金属触媒などの固体触媒が望ましい。具体的には、マンガン、亜鉛、マグネシウム、銅、ニッケルあるいはその酸化物が有効であるが、特に特開平3−68447、特開平3−93761で記載されているごとくマンガン酸化物が好ましい。
【0018】
水に対するアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)の仕込み重量比は1:9〜9:1が適切な範囲である。この系には、アセトン−dn(n=1〜6)が溶媒成分として共存してもよい。マンガン酸化物を触媒として用いる場合は、反応温度は0〜120℃が好ましい範囲であり、10〜60℃がより好適であり、分子状酸素共存下で行うことが反応収率や触媒寿命の面で好ましい。反応は、減圧、常圧、加圧のいずれでもよく、反応方式は流通式、回分式、いずれの方法も適用できる。得られた反応液より水、及び場合によっては反応に用いた溶媒を除去することにより2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)の白色結晶を得ることができる。このようにして得られた2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)は多量の水中で反応を行ったにも拘わらず、0.3%以下の同位体交換しかみられなかった。
【0019】
ギ酸メチル−dn(n=0〜4)は、メタノール−dn(n=0〜4)を原料として、カルボニル化法、または脱水素法により製造することができる。反応は公知の技術で製造することができるが、一例としてあげると、メタノール−dn(n=0〜4)に対して、一酸化炭素で0.2〜50MPaに加圧し、0〜200℃でアルカリ金属メチラート−dn(n=0〜3)を触媒として反応させることにより、ギ酸メチル−dn(n=0〜4)を得ることができる。この際、原則として原料メタノール−dnの重水素化数に対して、触媒として使用するアルカリ金属メチラート−dnの重水素化数が同等以上のものを用いることが、重水素化率の低下を抑える上で好ましい。反応は平衡反応であるため、反応液中に原料のメタノール−dn(n=0〜4)が残存するが、次の工程にそのまま供することができる。また、脱水素反応で製造する場合、副生したD2、もしくはDH、もしくはH2は、再び原料のメタノールdn(n=0〜4)の製造原料として使用することも可能である。
【0020】
このようにして得られた2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)とギ酸メチル−dn(n=0〜4)を反応させることにより2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)とホルムアミド−dn(n=0〜1)を製造することができる。反応は特開平2−255640、特開平2−268137、特開平3−48637、特開平5−178792のごとく、強い塩基性化合物を触媒として行うことにより、速やかかつ選択的に反応を進行させることができる。具体的にはアルカリ金属や、金属アルコラート、強塩基性イオン交換樹脂のごとく強塩基触媒の存在下で行うと、反応速度が速く好ましい。この際も、原則として原料メタノール−dnの重水素化数に対して、触媒として使用するアルカリ金属メチラート−dnの重水素化数が同等以上のものを用いることが、重水素化率の低下を抑える上で好ましい。反応温度は0〜150℃、特に20〜100℃が適切である。これ以下の温度では実用的な反応速度が得られず、これ以上の温度ではホルムアミドの分解や触媒の失活を招きやすくなる。本反応に於ける圧力はその反応温度に於ける蒸気圧下で遂行することができるが、ギ酸メチルの分解反応を抑制するため、一酸化炭素の加圧下で行うこともできる。また、2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)およびギ酸メチル−dn(n=0〜4)の溶解をたすけるため、メタノール−dn(n=0〜4)を溶媒として用いることもできる。
【0021】
また本反応系はメタノール−dn(n=0〜4)と一酸化炭素、2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)をワンポットで反応させることもできる。反応は平衡反応であるため、反応生成物は蒸留操作などで回収し、目的物2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)とホルムアミド−dn(n=0〜1)は分離回収し、未反応物は原料系に廻される。
【0022】
得られた2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)の脱水によるメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)の製造に関しては、一般に酸触媒を用いて容易に実施でき、液相でも気相でも行うことができる。しかしながら2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)は分解しやすいため、液相反応の場合は100℃以下の低温で速やかに行うことが好ましい。例えば、特開昭60−184047のごとく硫酸で脱水反応を行う場合、発煙硫酸を用いるとより低温で反応を進行させることができる。反応中、生成した水によりメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)が加水分解してメタクリル酸を生成する場合には、メタノール−dn(n=0〜4)を添加しメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)の収率を向上させることも可能である。
【0023】
また、特開平2−196753のごとく気相接触反応により2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)の脱水反応を行うと、短い接触時間で反応が終了するため、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)の分解を抑制することができる。これらの反応で得られた反応液から、蒸留、抽出などの通常の単位操作を用い、99.9%以上の化学純度で目的のメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を得ることが可能である。得られた重水素化メタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)は各C−D結合について原料の標識化率に比べ1%以下の同位体交換率しかみられず、高い重水素化率を維持することが可能である。また、同方法によれば、ふつう副生した水に重水素が含まれるが、これを再利用して重水を製造することも可能である。例えば、DOHが得られた場合、これを再濃縮して重水を得ることができる。
【0024】
一方、目的物2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)と同時に副生するホルムアミド−dn(n=0〜1)については脱水反応を利用してシアン化水素及び/又はシアン化重水素を製造する。ホルムアミド−dn(n=0〜1)からシアン化水素及び/又はシアン化重水素を製造する場合、反応はアルミナ、シリカーアルミナ、鉄ーシリカ、マンガン酸化物、マグネシウム酸化物などの固体触媒の存在下、気相接触反応にて実施される。反応温度は200〜600℃が適当であり、反応はほぼ定量的に進行し、シアン化水素またはシアン化重水素と水が生成する。生成したシアン化水素及び/又はシアン化重水素は分離回収し、アセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)製造工程に送り、循環使用することも可能である。
【0025】
本発明によれば、アセトン−dn(n=1〜6)、およびメタノール−dn(n=0〜4)を原料に用い、シアン化水素及び/又は高価なシアン化重水素を循環使用しながら、重水素化率の低下と廃棄物の生成を抑えつつ重水素化メタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を効率的に製造することが可能であり、その工業的な意義は極めて大きい。
【0026】
【実施例】
次に、本発明の方法を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。以下の記載においては重水素化率は1H−NMR内部標準法にて測定したものであり、次の定義に従うものとする。
重水素化率(%)=[1−{(生成した重水素化メタクリル酸メチル中の水素 原子数)/(生成した重水素化メタクリル酸メチル中の水素原子数+重水素原子数)}]×100
各結合の重水素化率(%)=[1−{(各C−D結合中の水素原子数)/(各C−D結合中の水素原子数+重水素原子数)}]×100
【0027】
実施例1
アセトンシアンヒドリン−d6の合成:アセトン−d6(重水素化率99.9%)1.05molに触媒としてトリエチルアミン0.005molを混合した液に、0℃でシアン化水素1.05molを徐々に供給した。供給終了後、1℃で4時間攪拌した後、無色透明のアセトンシアンヒドリン−d6を得た。収率は97.5%、C−CD3部分の重水素化率は99.8%であった。
触媒調製:過マンガン酸カリウム0.398molを水200mLに溶解した液に、硫酸マンガン一水和物0.316molを水200mLに溶かしたうえ濃硫酸0.968molと混合した液を、70℃撹拌下、速やかに注下した。さらに撹拌を継続し90℃で2時間熟成の後、得られた沈澱を濾過し、水2000mLで5回洗浄した。得られたケーキを110℃で一晩乾燥し、変性二酸化マンガン触媒64gを得、下記反応の触媒とした。
2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−d6の合成:上記のアセトンシアンヒドリン−d6の調製で得た反応液に水14molを加えた混合液に対して、上記変性二酸化マンガン触媒25gを仕込み、空気存在下60℃で2時間反応させた。触媒を濾別した後、反応液から過剰の水等を減圧下にて留去したところ、2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−d6、0.93molが得られた。C−CD3部分の重水素化率は99.8%であった。
2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9及びホルムアミド−d1の合成:ステンレス製オートクレーブにメタノール−d4(重水素化率99.9%)を5mol、金属Naを0.02mol仕込んだ後、一酸化炭素により7MPaに加圧しながら、75℃、3時間反応させたところ、転化率85%でギ酸メチル−d4が得られた。得られたギ酸メチル−d4とメタノール−d4の混合液中に、前記2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−d6を0.93mol加え、さらにメタノール−d4を4molと金属Naを0.02mol加え、50℃で5時間反応させたところ、転化率80%で2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9及びホルムアミド−d1が得られた。ついで反応液が中性を示すまで、硫酸を加えた後、蒸留を行い、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9及びホルムアミド−d1を単離した。2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9の重水素化率を測定したところ、C−CD3部分については99.8%、O−CD3部分については99.9%であり、トータルの重水素化率は99.8%であった。
メタクリル酸メチル−d8の合成:発煙硫酸7molに対し、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9を0.7mol室温で滴下し5分間撹拌した後、メタノール−d4を1.5mol加え、80℃で2時間加熱撹拌した。その後、抽出、蒸留操作を行い、0.5molのメタクリル酸メチル−d8を得た。得られたメタクリル酸メチル−d8の重水素化率は、C−CD3部分については99.6%、CD2=C部分については99.7%、O−CD3部分については99.9%であり、トータルの重水素化率は99.7%であった。
【0028】
比較例1
アセトンシアンヒドリン−d6の合成:アセトン−d6(重水素化率99.9%)1.05molに触媒としてトリエチルアミン0.005molを混合した液に対し、0℃でアセトン−d6の3倍量のシアン化水素3.15molを徐々に供給した。供給終了後、1℃で4時間攪拌した後、無色透明のアセトンシアンヒドリン−d6を得た。収率は97.5%、C−CD3部分の重水素化率は98.8%であった。
【0029】
実施例2
シアン化水素の回収:炭酸マンガン51.5gに、水30gに炭酸ナトリウム0.88gを溶解した液を加え1時間混練した。その後110℃で15時間乾燥し、さらに10%の水素を含む窒素気流中にて450℃で5時間焼成し触媒を調製した。当該触媒2.5gをステンレス製管型反応管に充填し、触媒層の最高温度を400℃に制御した。0.01MPaに圧力を保ちながら、実施例1で得られたホルムアミド−d1を毎時5gずつ連続的に供給し、6時間反応を継続した。非凝縮性ガスは水を入れた洗気びんを通し、同伴するシアン化水素を吸収させた。その際の収率は92%であった。この生成物を常法に従って蒸留することにより、高純度のシアン化水素及び/又はシアン化重水素を得、実施例1のアセトンシアンヒドリン−d6の調製(第▲1▼工程)の原料として循環使用した。
【0030】
実施例3
2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9の合成:ステンレス製オートクレーブにメタノール−d3(メチル基の重水素化率99.9%)を5mol、金属Naを0.02mol仕込んだ後、一酸化炭素により7MPaに加圧しながら、75℃で3時間反応させたところ、転化率85%でギ酸メチル−d3が得られた。得られたギ酸メチル−d3とメタノール−d3の混合液中に、実施例1と同様にして得られた2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−d6を0.93 mol加え、更にメタノール−d3を4mol、金属Naを0.02mol加え、50℃で5時間反応させたところ、転化率80%で、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9及びホルムアミド−dn(n=0〜1)が得られた。反応液が中性を示すまで硫酸を加えた後、蒸留を行い、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9及びホルムアミド−dn(n=0〜1)を単離した。2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9の重水素化率を測定したところ、C−CD3部分については99.7%、O−CD3部分については99.9%であり、トータルの重水素化率は99.8%であった。
メタクリル酸メチル−d8の合成:発煙硫酸7molに対し、上記2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9を0.7mol室温で滴下し5分間撹拌した後、メタノール−d3を1.5mol加え、80℃で2時間加熱撹拌した。その後、抽出、蒸留操作を行い、0.5molのメタクリル酸メチル−d8を得た。得られたメタクリル酸メチル−d8の重水素化率は、C−CD3部分については 99.5%、CD2=C部分については99.6%、O−CD3部分については99.9%であり、トータルの重水素化率は99.7%であった。
【0031】
実施例4
シアン化水素の回収:炭酸マンガン51.5gに、水30gに炭酸ナトリウム0.88gを溶解した液を加え1時間混練した。その後110℃で15時間乾燥し、さらに10%の水素を含む窒素気流中にて450℃で5時間焼成し触媒を調製した。当該触媒2.5gをステンレス製管型反応管に充填し、触媒層の最高温度400℃に制御した。0.01Mpaに圧力を保ちながら、実施例3さらに10%の水素を含む窒素気流中にて450℃で5時間焼成し触媒を調製した。実施例3の2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−d9の調製で得られたホルムアミドを毎時5gずつ連続的に供給し、6時間反応を継続した。非凝縮性ガスは水を入れた洗気びんを通し、同伴するシアン化水素を吸収させた。その際の収率は92%であった。この生成物を常法により蒸留することにより高純度のシアン化水素を得、実施例3の第▲1▼工程の原料として循環使用した。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、実質的にアセトン−dn(n=1〜6)とメタノール−dn(n=0〜4)のみを原料に用い、シアン化水素及び/又は高価なシアン化重水素を循環使用しながら、重水素化率の低下を抑えつつ、大量の廃硫酸や硫酸アンモニウムの副生を伴なうことなく、低伝送損失のプラスチック光ファイバーや光導波路材料の原料として期待される重水素化メタクリル酸メチルを効率的に製造することができ、工業的に極めて大きな意義を持つものである。
Claims (9)
- シアン化水素及び/又はシアン化重水素とアセトン−dn(n=1〜6)との反応によりアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を製造する第▲1▼工程、第▲1▼工程で得られるアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を通常の重水素化されていない水で水和して2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)を製造する第▲2▼工程、メタノール−dn(n=0〜4)と一酸化炭素との反応によりにより生成するギ酸メチル−dn(n=0〜4)、及び/又は、メタノール−dn(n=0〜4)の脱水素反応により生成するギ酸メチル−dn(n=0〜4)を、第▲2▼工程で得られる2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)と反応させることにより、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)とホルムアミド−dn(n=0〜1)を製造する第▲3▼工程、第▲3▼工程の生成物から分離される2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)を脱水してメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を製造する第▲4▼工程からなる、重水素化メタクリル酸メチルの製造方法。
- 第▲1▼工程で使用するシアン化水素及び/又はシアン化重水素として、第▲3▼工程で得られるホルムアミド−dn(n=0〜1)の脱水反応により製造されるシアン化水素及び/又はシアン化重水素を用いることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
- 第▲1▼工程で、シアン化水素及び/又はシアン化重水素とアセトン−dn(n=1〜6)との反応によりアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を製造する際、アセトン−dn(n=1〜6)に対するシアン化水素及び/又はシアン化重水素の使用モル比が1.5倍未満となる条件で反応させることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
- 第▲1▼工程で、シアン化水素及び/又はシアン化重水素とアセトン−dn(n=1〜6)との反応によりアセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を製造する際、触媒として有機及び/又は無機の塩基性化合物を使用することを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
- 第▲2▼工程で、アセトンシアンヒドリン−dn(n=1〜7)を通常の重水素化されていない水で水和して2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)を製造する際、触媒としてマンガン酸化物を使用することを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
- マンガン酸化物を用いた触媒反応を、分子状酸素の共存下で行うことを特徴とする、請求項5記載の製造方法。
- 第▲3▼工程で、メタノール−dn(n=0〜4)と一酸化炭素との反応によりギ酸メチル−dn(n=0〜4)を製造する際、アルカリ金属とメタノール−dn(n=0〜4)より生成させたアルカリ金属メチラート−dn(n=0〜3)を触媒として用いることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
- 第▲3▼工程で、ギ酸メチル−dn(n=0〜4)と第▲2▼工程で得られる2−ヒドロキシイソ酪酸アミド−dn(n=1〜7)を反応させ、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)とホルムアミド−dn(n=0〜1)を製造する際、アルカリ金属とメタノール−dn(n=0〜4)より生成させたアルカリ金属メチラート−dn(n=0〜3)を触媒として用いることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
- 第▲4▼工程で、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル−dn(n=1〜10)から脱水反応によりメタクリル酸メチル−dn(n=1〜8)を製造する際、メタノール−dn(n=0〜4)を添加しながら行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
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