JP2001214269A - 硬質炭素積層膜とその形成方法 - Google Patents
硬質炭素積層膜とその形成方法Info
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Abstract
滑性、耐凝着性などが良好な、摺動部品、耐摩耗性部品
として応用することのできる硬質炭素積層膜を提供す
る。 【解決手段】 基材1表面に非晶質炭化珪素膜層2、膜
密度が2.2〜3.5g/cm3 であるシリコンを含有
する高密度炭素膜層3、膜密度が1.5〜2.2g/c
m3 であるシリコンを含有する低密度炭素膜層4を真空
蒸着室内にて順次形成して硬質炭素積層膜を得る。
Description
炭素(Diamond Like Carbon、以下
DLCという)膜のような非晶質硬質炭素積層膜および
その形成方法に関し、特に金属基材との密着性に優れ、
耐摩耗性、潤滑性(摩擦係数が低い)、耐凝着性に優
れ、摺動部品、耐摩耗性部品として応用することのでき
る非晶質硬質炭素積層膜およびその形成方法に関するも
のである。
法、プラズマCVD法、アークイオンプレーティング
法、レーザーアブレーション法などによって金属基材上
に形成される非晶質硬質炭素膜は、高硬度(ビッカース
硬度で2000〜4000Hv)、高絶縁性(比抵抗1
010〜1014Ω・cm)、低摩擦係数(μ=0.1〜
0.2)、滑らかな表面モルフォロジー(表面粗さRa
=0.3nm以下)、化学的に安定で酸やアルカリに侵
されない、などの優れた性質を有しているため、切削工
具、耐摩耗保護膜、摺動部品などへの応用が広く検討さ
れている。
ドの物性に類似していることから、DLC膜と呼ばれて
おり、アモルファス(非晶質)状で組成がカーボン主体
の高硬度炭素膜である。
非晶質硬質炭素膜は鉄系材料やWC−Co系などの超硬
合金材料に対しては密着性が低く、1 μm程度の膜厚に
しか蒸着できない。また、自動車に用いられるような過
酷な摺動部品に対しては、被覆した被膜が摩擦により剥
がれてしまい、性能を満足することができないという問
題があった。
料表面に非晶質硬質炭素膜を被覆せしめるに当たって、
上記の各種の問題点を改良する方法が幾つか提案されて
いる。例えば、特開昭56−41372号公報には、基
材と非晶質硬質炭素膜の間にSiまたはSiCからなる
中間層を設けることで基材と非晶質硬質炭素膜の密着性
を改善することが開示されているが、この方法では5μ
mを超える層厚にすると、蒸着した炭素被覆層に剥離や
チッピングが起こることが明記されており、5μmを超
える層厚には適用できないものである。これは非晶質炭
素膜の内部応力が高いためであると考えられる。
覆せしめるに際して、非晶質硬質炭素膜の内部応力を下
げる方法として、炭素膜にシリコン、ゲルマニウム、錫
などのIVa族元素を含有させることが特開昭62−1
57602号公報に開示されている。この内容に関して
追試を行ったところ、3μmまでは蒸着可能であった
が、それ以上の膜厚では剥離してしまった。これは非晶
質炭素膜と基材との界面での密着性が不足するためと考
えられる。
密着性を確保するために、非晶質炭化珪素からなる中間
層を被覆した後、シリコンを含有する非晶質炭素膜層を
順次積層させることにより、15μmの膜厚においても
剥離することのない高密着性の非晶質硬質炭素積層膜が
得られることを知得した。そして、この積層膜の密着性
についてスクラッチ試験機(レスカ社製、CSR−01
を使用)による剥離臨界荷重Lcとして測定したとこ
ろ、40Nを越えており、密着性に関しては十分実用可
能であることが認められた。
し、ボールオンディスクタイプの摩擦摩耗試験機(新東
科学社製、HEIDON−20)にて、積層膜の摩擦係
数および比摩耗量を調べたところ、摩擦係数および比摩
耗量は、図5および図6に示すように、シリコンを含有
する非晶質炭素膜の密度に大きく依存することが分かっ
た。即ち、シリコンを含有する非晶質炭素膜の密度が
2.2g/cm3 を越える積層膜においては、摩擦係数
μは0.23と大きく、かつ比摩耗量もWs=10-8m
m3 /N・mmと大きい値を示している。
炭素膜の密度が1.9g/cm3 と小さい場合、摩擦係
数μは0.05と小さく、また比摩耗量もWs=10
-10 mm3 /N・mmと小さい値を示している。トライ
ボロジ特性の良好な被膜とは、摩擦係数が小さいこと、
被膜自体が摩耗しないこと、相手材への攻撃性が少ない
こと、これら3つの条件を満足しなければならない。こ
のことからすると、シリコンを含有する非晶質炭素膜で
膜密度が小さいものは、潤滑性にすぐれた被膜であると
いうことができる。ところが、シリコンを含有する非晶
質炭素膜で膜密度が小さいものは、負荷荷重の大きい摺
動部品(油圧ピストンおよびピストンリング等)に対し
ては、荷重により被膜が割れ、層間剥離が発生し、実用
に耐えないなどの問題があった。
2を介してシリコンを含有する低密度の炭素膜層4aを
被覆した従来の積層構成を示し、図3は、同じく非晶質
炭化珪素膜層2を介してシリコンを含有する高密度の炭
素膜層3aを被覆した従来の積層構成を示すものであ
る。上記図2において、非晶質炭化珪素膜層2の膜厚は
0.1μm、低密度の炭素膜層4aの膜厚は1〜15μ
mが代表的である。このような低密度炭素膜層4aの場
合、軽い荷重で摺動する時は問題ないが、高荷重で摺動
させると、被膜が破壊してしまうという問題がある。図
3の高密度炭素膜層3aの場合には、高荷重においても
被膜の破壊、剥離は起こらないが、摩擦係数が大きくて
被膜自体の摩耗が大きいという問題がある。
荷荷重の摺動部品に対しても、基材との密着性にすぐ
れ、耐摩耗性、低摩擦係数を有する硬質炭素積層膜、さ
らに該積層膜の形成方法を提供することを目的とするも
のである。
載の発明は、基材表面に非晶質炭化珪素膜層、膜密度が
2.2〜3.5g/cm3 であるシリコンを含有する高
密度炭素膜層、膜密度が1.5〜2.2g/cm3 であ
るシリコンを含有する低密度炭素膜層を順次被覆形成し
てなる硬質炭素積層膜を特徴とする。
の発明において、高密度炭素膜層および低密度炭素膜層
は、1〜30at%のシリコンを含有することを特徴と
する。
た非対称パルス電圧が印加される基材にアルゴンガスと
水素ガスのプラズマによって放電洗浄を施す工程、テト
ラメチルシランガスを導入して上記基材上に非晶質炭化
珪素膜層を形成する工程、次いでテトラメチルシランガ
スに加えて炭化水素系ガスを導入してシリコンを含有す
る高密度炭素膜層を形成する工程、さらにシリコンを含
有する低密度炭素膜層を形成する工程、とを順次行うプ
ラズマCVD法による硬質炭素積層膜の形成方法を特徴
とする。
の発明において、非対称パルス電圧は、負電圧の絶対値
が正電圧の絶対値よりも大きく、その周波数が10kH
z〜250kHzで、正電圧に維持される時間の最小値
が0.1μs以上であって、最大値がデューティー比で
表わして40%のものであることを特徴とするものであ
る。
細に説明する。この発明の硬質炭素積層膜は、図1に示
すように基材の表面に3層の被膜が積層されている。す
なわち、基材1の表面に非晶質炭化珪素膜層2、シリコ
ンを含有する高密度炭素膜層3、シリコンを含有する低
密度炭素膜層4が順次形成されている。非晶質炭化珪素
膜層2は、基材1とシリコンを含有する高密度炭素膜層
3とを密着性よく結合させるための中間層である。この
高密度炭素膜層3、さらに低密度炭素膜層4に含まれる
シリコンは、硬質炭素層の内部応力(圧縮応力)を下げ
る役目を果たすものである。硬質炭素層中のシリコンの
含有量は1〜30at%が適当であるが、より好ましく
は5〜15at%である。これは、シリコン含有量が3
0at%を越えると摩擦係数が大きくなってしまって、
摺動特性が低下し、また含有量が1at%よりも少ない
と、内部応力の緩和効果を有しないためである。
成するシリコンを含有する高密度炭素膜層3、シリコン
を含有する低密度炭素膜層4の被膜密度としては、高密
度炭素膜層3が2.2〜3.5g/cm3 、低密度炭素
膜層4が1.5〜2.2g/cm3 の範囲が適当であ
る。この被膜密度の大小は、プラズマCVD法における
反応室に導入するガス流量,プラズマ密度,基材へのイ
オン衝撃エネルギーを適宜調整することで制御すること
ができる。
構成原子どうしの距離が小さい。従って、負荷荷重に対
して変形しにくく、強固である。一方、低密度炭素膜層
4は膜密度が低く、構成原子どうしの原子間距離が離れ
ているため、負荷荷重に対して変形しやすい。しかしな
がら、この低密度炭素膜層4の下地として変形しにくい
高密度炭素膜層3が存在すれば、その変形量は僅かであ
り、破損することはない。また、低密度炭素膜層4の摩
擦係数μは0.05と非常に小さいため、相手材と接す
る最表面は、自己潤滑性にすぐれた被膜で覆われている
ことになる。
着性よく結合させるための中間層として基材表面に形成
する非晶質炭化珪素膜層2の膜厚は、0.01〜1μ
m、好ましくは0.1〜0.3μmである。また、シリ
コンを含有する高密度炭素膜層3の膜厚は、この硬質炭
素積層膜層を形成した基材がどのような摺動部品に対し
て適用されるかによって決められるものであるが、良好
な密着性と耐摩耗性を合わせ持つという観点からは、そ
の膜厚は、1〜20μmの範囲が望ましい。一方、シリ
コンを含有する低密度炭素膜層4については、その膜厚
が3μmを越えると、低密度炭素膜層4に加わる負荷荷
重が高密度炭素膜層3に影響しにくくなり、低密度炭素
膜層4のみでその荷重を吸収してしまい、その結果、低
密度炭素膜層4の破壊、剥離が発生してしまう恐れがあ
る。また、この低密度炭素膜層4の膜厚が0.01μm
より薄いと、膜厚が薄すぎることにより、その良好な特
性(低摩擦係数、低摩耗量)が発現しにくくなる。この
ような観点から、低密度炭素膜層4の膜厚は、0.01
〜3μm、好ましくは0.1〜1μmが適当である。
に非対称パルス電圧が印加される基材を設置し、この基
材をアルゴンガスと水素ガスの混合プラズマによって放
電洗浄を行う工程、テトラメチルシランガスを導入して
上記基材上に非晶質炭化珪素膜層を形成する工程、次に
テトラメチルシランガスに加えて炭化水素系ガスを導入
してシリコンを含有する高密度炭素膜層を形成する工
程、さらにシリコンを含有する低密度炭素膜層を形成す
る工程、とをプラズマCVD法によって順次おこなって
ゆくことで形成することができる。
法による形成は、一例として図4に示すような熱陰極P
IG(Penning Ionization Gau
ge)プラズマCVD装置を用いればよい。この熱陰極
PIGプラズマCVD装置について、その構成の概略を
説明すると、この装置は下方に排気口12を介して真空
ポンプ(図示せず)に結合している真空蒸着室11を有
している。この真空蒸着室11には、その開口部を覆う
ようにプラズマ室13が設けられ、フッ素樹脂やアルミ
ナ等からなる絶縁板14によって浮遊電位(絶縁電位)
に維持されている。上記のプラズマ室13内には、熱陰
極15、陽極16、電子注入電極17、ガスノズル18
が配置されている。熱陰極15はタングステンフィラメ
ントよりなり、直流又は交流で容量が20V、100A
のフィラメント加熱電源により熱電子が放出される温度
(2000℃以上)に維持されている。
6は、アノード電源(容量100V、30A、直流)2
0によって、熱陰極15に対して正の電圧が印加され
る。また、上記陽極16に近接して配置されている電子
注入電極17は、電子注入電源21(容量100V、3
0A、直流)を介して熱陰極15に接続しているととも
に、真空蒸着室11の壁部と同様に接地電位に維持され
ている。従って、熱陰極15の電位は、電子注入電圧に
より制御されて、その値は接地電位に対して0〜−10
0Vの範囲である。なお、これら熱陰極15、陽極1
6、電子注入電極17は、プラズマ室13の壁部から浮
遊しており、このプラズマ室13は絶縁電位に維持され
ている。
室13に対向し、真空蒸着室11の壁部から浮遊した状
態で反射電極24が設けられており、また上方にはホル
ダ26に支持された基材25が配置されている。この基
材25にはホルダ26を介して真空蒸着室11の外部に
設けられた非対称パルス電源28が接続されている。そ
して、この電源28により負電圧の絶対値が正電位の絶
対値よりも大きいパルス電圧が、周波数10〜250k
Hzの範囲で印加されるようになっている。
するノズルである。29は基材25を所定の温度に加熱
するヒータである。32、33はソレノイドコイルであ
り、真空蒸着室11内に形成されるプラズマ35の形状
を制御するものである。
用いて硬質炭素積層膜を得る際に用いるガスとしては、
基材の放電洗浄用には、Arガス、H2 ガスが、中間層
としての非晶質炭化珪素膜の形成にはテトラメチルシラ
ン〔Si(CH3 )4 〕ガス(以下、TMSガスとい
う)が、シリコン含有炭素膜の形成にはTMSガスと炭
化水素系のガスが用いられる。炭化水素系のガスとして
は、CH4 、C2 H2 、C2 H4 、C6 H6 のガスがあ
るが、なかでもC2 H2 ガスが好ましい。シリコン系の
ガスとしては、TMSガスのほかにモノシラン(SiH
4 )ガス、四塩化珪素(SiCl4 )ガスなどがある
が、SiH4 ガスは自然発火性、爆発性があり、使用に
際しては特殊材料ガスに係わる設備、例えばシリンダー
キャビネット、排ガス処理装置、ガス検知器等が必要で
あり、危険を伴うとともに設備費が高価である。また、
SiCl4 ガスは爆発性ではないが、腐食性があり、プ
ラズマCVD装置の配管、真空室などに特殊な処理を施
さないと使用できない。TMSガスは、危険物第4類第
1石油類に属し、その取り扱いはアセトン、ガソリンに
準じており、可燃性ではあるが、腐食性がなく、毒性も
少ない。以上のようなことからこの発明では、非晶質炭
化珪素膜の形成やシリコン含有炭素膜の形成にTMSガ
スを使用した。
表面の酸化層、有機汚染層などをArガス等の不活性ガ
スイオンを衝撃させることで除去し、基材と被膜との密
着性を向上させる目的で行うものであって、通常Arガ
スのみで行うことが多いが、この発明ではArガスとと
もにH2 ガスを導入して行った。これは、Arガスのみ
のプラズマでは、有機汚染層の除去に時間を要するこ
と、また放電洗浄の条件によっては、真空蒸着室に存在
する残留有機ガスがArガスプラズマにより活性化し、
基材表面に炭素膜が付着し、逆に基材表面を汚してしま
うなどの恐れがあるためである。
水素の持つ化学反応性から酸化層、有機汚染層を水蒸
気、炭化水素系ガスに還元するため、エッチング割合が
大きく、また基材表面が炭素膜で汚染されることもな
い。真空蒸着室に導入するArガスとH2 ガスの流量比
は、例えばAr:H2 =1:2が適当である。
間層として形成する非晶質炭化珪素の成膜にはTMSガ
スを用いるが、被膜組成の調整の意味から水素ガスを同
時に導入することもある。水素を導入することで、非晶
質炭化珪素層のカーボン量を下げることができるが、必
要以上に導入すると、TMSガスの分解効率が低くな
り、堆積速度が低下する。
ン含有低密度炭素層の形成には、TMSガスと炭化水素
系ガスを同時に蒸着室に導入して、プラズマCVDを行
う。シリコン含有量は、導入するTMSガスの流量と炭
化水素系ガス流量の比で調整することができる。特に炭
化水素系ガスとしてC2 H2 を用いた場合には、ガス流
量比はC2 H2 :TMS=1:0.05〜1の範囲で使
用される。炭素膜層の膜密度は、基材に入射するイオン
量とエネルギーによって制御する。イオン量はプラズマ
密度に比例し、プラズマを発生させるパワーに依存す
る。エネルギーは基材に印加する非対称パルス電圧の負
電圧でもって制御する。イオン電流密度が0.5mA/
cm2 以上のとき、イオンエネルギーが大きいほど膜密
度が小さくなる傾向にある。一方、イオン電流密度が
0.1mA/cm2 以下のとき、イオンエネルギーが大
きいほど膜密度が大きくなる傾向にある。
において、基材は常時、非対称のパルス電圧が印加され
ている。非対称パルス電圧は、負電圧の絶対値が正電圧
の絶対値よりも大きく、その周波数が10kHz〜25
0kHzで、正電圧に維持される時間の最小値が0.1
μs以上であって、最大値がデューティー比で表わして
40%のものであることを特徴としている。
の絶対値よりも正電圧の絶対値が大きくなると、基材に
入射するイオンの量よりも電子の量が多くなる。このた
め、パルス負電圧の絶対値よりも正電圧の絶対値を小さ
くして電荷の中和が行えるようにしてある。また、周波
数を10〜250kHzとするのは、10kHzよりも
低いと、チャージアップの充分な効果が得られず、また
250kHzを超えると、ノイズが発生しやすくなって
好ましくないためである。
とするのは、13.56MHzの高周波電圧を基材に印
加した時には、チャージアップを防止できることがわか
っており、この13.56MHzに近い周波数である1
0MHzの周期が0.1μsであり、少なくとも0.1
μs以上の期間にわたって正電圧を印加すると、チャー
ジアップを防止できると考えられるからである。また、
デューティー比を40%以下としたのは、デューティー
比を大きくすると、その間には基材にはイオンが入射し
なくなるし、緻密で高性能を有した反応膜を作成するた
めには、低エネルギーで大電流のイオン照射が有効であ
ることが判明しており、デューティー比を必要以上に大
きくすると、これに反することになるからである。
シリコン含有炭素膜の比抵抗は、1010〜1013Ω・c
mの範囲であり、高抵抗で絶縁性が高い。イオン衝撃を
利用して絶縁膜を形成するプラズマCVD法において
は、基材バイアス電源として、通常13.56MHzの
高周波が用いられる。高周波の場合、パワーを基材に効
率良く投入するためにはマッチング調整が必要である。
高周波はプラズマの負荷(成膜室に導入するガスの種
類,流量,圧力,プラズマ密度,基材の表面積,数量
等)が変われば常にマッチング調整が必要で、煩雑であ
る。自動で調整することのできるオートマッチング機器
もあるが、安定するまで数秒程度かかる。数秒程度の期
間においては、成膜が不安定である。また、被膜の密着
性は基材表面と被膜との界面における結合力に左右され
るので、成膜初期および互いの積層膜の界面において、
基材へのRF投入パワーに不安定が生じると、密着強度
の高い被膜は得られない。また、再現性においても問題
がある。
電源として使用する場合、常に上記のような不安定要素
をかかえており、これを回避するために、この発明の形
成方法では、基板に非対称の直流パルス電圧を基材に印
加している。非対称パルス電源は高周波で必要なマッチ
ング調整が不要である。また、価格についても高周波電
源の1/3〜1/4であり、硬質炭素積層膜を安価に形
成することができる。
CVD装置を用いて、非晶質硬質炭素積層膜の形成を行
った。なお、基材としてはSUS304鏡面板を用い
た。ホルダー26に支持させてSUS304鏡面板を基
材25として真空蒸着室11内に配置した。この蒸着室
11内にプラズマ室13のガスノズル18からArガス
を10mL/min、H2 ガスを20mL/minの流
量で導入し、プラズマガン出力500W、基材に印加す
る基板パルスバイアスを−400Vとして、10分間放
電洗浄をおこなった。その後、ArガスとH2 ガスを流
した状態で、材料ガス導入ノズル23から蒸着室11内
にTMSガスを30mL/min導入して、5分間成膜
をおこない、非晶質炭化珪素膜を100nmの厚さに蒸
着した。
/min導入し、TMSガス流量を20mL/min、
H2 ガスを0mL/minに調整して、50分間成膜を
おこない、膜密度2.4g/cm3 を有する高密度炭素
膜を5μm厚蒸着した。さらに、ガス流量はそのまま
で、プラズマ出力を250Wに調整して13分間成膜を
おこなって、膜密度2.0g/cm3 を有する低密度炭
素膜層を1μm蒸着することにより、図1に示すこの発
明の硬質炭素積層膜を形成した。
ガスを10mL/min、H2 ガスを20mL/min
の流量で導入し、プラズマガン出力500W、基材に印
加する基板パルスバイアスを−400Vとし、10分間
放電洗浄をおこなった。その後、ArガスとH2 ガスを
流した状態で、蒸着室にTMSガスを30mL/min
導入して、5分間成膜をおこない、非晶質炭化珪素膜を
100nm蒸着した。次にC2 H2 ガスを150mL/
min導入し、TMSガス流量を20mL/min、H
2 ガス流量を0mL/minに調整して、60分間成膜
をおこない、膜密度2.4g/cm3 を有する高密度炭
素膜を6μm蒸着して図3に示す硬質炭素膜層を形成し
た。
ガスを10mL/min、H2 ガスを20mL/min
を導入し、プラズマガン出力500W、基材に印加する
基板パルスバイアスを−400Vとし、10分間放電洗
浄をおこなった。その後、ArガスとH2 ガスを流した
状態で、TMSガスを蒸着室に30mL/min導入し
て、5分間成膜をおこない、非晶質炭化珪素膜を100
nm蒸着した。次にC2 H2 ガスを蒸着室に150mL
/min導入し、TMSガス流量を20mL/minに
調整、H2 ガスを0mL/minに調整、プラズマガン
出力を250Wに調整して80分間成膜をおこない、膜
密度2.0g/cm3 を有する低密度炭素膜を6μm蒸
着して図2に示す硬質炭素膜層を形成した。
04基材にそれぞれ6.1μmの厚さに形成した積層膜
について、低密度炭素膜層および高密度炭素膜層のシリ
コン含有量をX線マイクロアナライザー(EPMA)で
測定したところ、それぞれ6at%、5at%で大きな
差は認められなかった。また、被膜ヌープ硬度は低密度
炭素膜層で1500Hk、高密度炭素膜層で2300H
kであり、高密度炭素膜層のほうが硬質であった。
のテストを行った。その結果は表1に示した。なお、摩
擦テストは、ボールオンディスクタイプの摩擦摩耗試験
機(新東科学社製、HEIDON−20)を用い、相手
材は半径5mmの半球状単結晶ダイヤモンド圧子を用
い、荷重0.98N、ディスク回転数150rpm、繰
り返し数20000サイクル、大気中、無潤滑の条件で
行った。また、被膜の密着性は摺動させながら荷重を増
加させ、被膜が破損して摩擦係数が急に大きくなる値で
もって評価した。
層膜の摩擦係数は、従来技術である比較例1の高密度炭
素膜と較べて約1/4である。また、比摩耗量は、約1
/10と小さい。さらに、剥離荷重は従来技術である比
較例2の低密度炭素膜と比べて約5倍という結果を得
た。以上により、この発明の硬質炭素積層膜は、高負荷
荷重の摩擦摩耗においても、優れた摺動特性を示す被膜
であることが認められた。
炭化珪素膜層、膜密度が2.2〜3.5g/cm3 であ
るシリコンを含有する高密度炭素膜層、膜密度が1.5
〜2.2g/cm3 であるシリコンを含有する低密度炭
素膜層を順次形成して得た、この発明の硬質炭素積層膜
は、基材との密着性に優れ、摩擦係数が従来の約1/4
であり、比摩耗量も1/10と小さく、また、剥離荷重
が従来の約5倍も有することから、高負荷の摩擦摩耗に
対しても安定した摺動特性を示すものである。さらに、
この発明の形成方法によれば、このような硬質炭素積層
膜を再現性良く、かつ安定して形成することができ、各
種摺動部品に必要とされる固体潤滑膜として非常に有効
であるといえる。
である。
る。
る。
ズマCVD装置の一例を示す説明図である。
す線図である。
す線図である。
Claims (4)
- 【請求項1】 基材表面に非晶質炭化珪素膜層、膜密度
が2.2〜3.5g/cm3 であるシリコンを含有する
高密度炭素膜層、膜密度が1.5〜2.2g/cm3 で
あるシリコンを含有する低密度炭素膜層を順次被覆形成
してなることを特徴とする硬質炭素積層膜。 - 【請求項2】 高密度炭素膜層および低密度炭素膜層
は、1〜30at%のシリコンを含有することを特徴と
する請求項1に記載の硬質炭素積層膜。 - 【請求項3】 真空蒸着室に配置した非対称パルス電圧
が印加される基材にアルゴンガスと水素ガスのプラズマ
によって放電洗浄を施す工程、テトラメチルシランガス
を導入して上記基材上に非晶質炭化珪素膜層を形成する
工程、次いでテトラメチルシランガスに加えて炭化水素
系ガスを導入してシリコンを含有する高密度炭素膜層を
形成する工程、さらにシリコンを含有する低密度炭素膜
層を形成する工程、とを順次行うことを特徴とするプラ
ズマCVD法による硬質炭素積層膜の形成方法。 - 【請求項4】 非対称パルス電圧は、負電圧の絶対値が
正電圧の絶対値よりも大きく、その周波数が10kHz
〜250kHzで、正電圧に維持される時間の最小値が
0.1μs以上であって、最大値がデューティー比で表
わして40%のものであることを特徴とする請求項3に
記載の硬質炭素積層膜の形成方法。
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