JP2006169614A - 金属複合ダイヤモンドライクカーボン(dlc)皮膜、その形成方法、及び摺動部材 - Google Patents

金属複合ダイヤモンドライクカーボン(dlc)皮膜、その形成方法、及び摺動部材 Download PDF

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Abstract

【課題】 従来技術のDLCに比べて摩擦係数を低くし、高密着性で、耐摩耗性を有し、且つ成膜速度を向上させ、サイクルタイムを短縮させるDLC及びその製造方法を提供する。また、低摩擦係数で、耐摩耗性及び密着性に優れた保護膜を有する摺動部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 固体カーボンターゲットを使用せず、炭化水素と不活性ガス導入雰囲気中で金属ターゲットのみをスパッタリングしつつ炭化水素を解離して基材上に形成されたダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜であって、炭素/金属元素の原子比が5〜50であることを特徴とする金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
【選択図】 図1

Description

本発明は、金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜及びその製造法に関するとともに、表面に金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を有する摺動部材に関する。
ダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCという)は、硬度、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学的安定性に優れ、低摩擦係数という特性を持ち、各種部材の表面改質に大きな効果がある。そのため、DLCは摺動部材、耐摩耗性機械部品、切削工具等、各種部材の表面層として利用されている。
下記特許文献1には、固体カーボンターゲットと金属ターゲットをスパッタリングしながら同時に炭化水素ガスと不活性ガスを導入し基材上に添加金属と炭素と水素からなる非晶質炭素皮膜を形成させる方法が開示されている。これにより耐摩耗性、密着性および摩擦係数の低減が図れると記載されている。
特開2003−247060号公報
自動車部品等の摺動部材において、そのフリクション低減による燃費向上を達成するためには更なる摩擦係数の低減が必要である。しかしながら、特許文献1等に開示された従来技術においては摩擦係数がドライ環境で0.18程度であり、十分低いとは言い難い。また、一般に蒸着によるコーティングは処理コストが高く、特に、カーボンターゲットを用いたスパッタリング法(上記特許文献に記載の従来技術も含む)は、カーボンのスパッタ率が究めて低く、成膜速度が遅いため、更に高コストであるという課題を有している。
このような問題が発生する理由としては、
(1)固体カーポンターゲットを使用した場合、ターゲット表面に突起物が生成しやすく、それがワークに付着し表面が荒れる現象が発生する。また、固体カーボンターゲットを炭素の供給源とした場合、表面の構成粒子が炭化水素ガスから供給した場合に比べ大きく、表面粗さが増加する傾向が見られる。これらのことから、従来技術のDLCは摩擦係数が高いのではないかと推定される。
(2)従来技術におけるスパッタリングの場合、ターゲットを多く配し成膜速度を上げ、サイクルタイムを短縮することがコスト低減に重要である。故に、複数種類のターゲットを使用すると、その分サイクルタイムが増加することになる。さらに従来技術で述べられている固体カーボンターゲットは、材料中最もスパッタ率が小さいため、必要な膜厚を確保するためのコーティング時間が掛かり、コストが高いと考えられる。
ことにあると考えられる。
そこで、本発明は、従来技術のDLCに比べて摩擦係数を低くし、高密着性で、耐摩耗性を有し、且つ成膜速度を向上させ、サイクルタイムを短縮させるDLC及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明は、また、低摩擦係数で、耐摩耗性及び密着性に優れた保護膜を有する摺動部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、特定のスパッタリング法によって得られる金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜が、低い摩擦係数(μ)を有することを見出し、本発明に到達した。
即ち、第1に、本発明は、金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜の発明であり、固体カーボンターゲットを使用せず、炭化水素と不活性ガス導入雰囲気中で金属ターゲットのみをスパッタリングしつつ炭化水素を解離して基材上に形成されたダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜であって、炭素/金属元素の原子比が5〜50であることを特徴とする金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜である。
ここで、前記金属元素としては、酸化物形成能及び炭化物形成能が高いものが用いられる。具体的には、Ta,Ti,Cr,Al,Mg,W,V,Nb,Moから選択される1種以上が好ましく例示される。これらの中でも、Ta,Ti,Crが特に好ましい。
金属元素としてTaを用いる場合は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Ta比が5〜20であることが好ましく、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Ta比が0.4以下であることが好ましい。
金属元素としてTiを用いる場合は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Ti比が20〜25であることが好ましく、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Ti比が1.0以下であることが好ましい。
金属元素としてCrを用いる場合は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Cr比が10〜25であることが好ましく、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Cr比が0.3以下であることが好ましい。
本発明の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜は、摩擦係数が小さい。例えば、摩擦係数を0.1以下とすることが可能であり、更に、摩擦係数を0.05以下とすることも可能である。
第2に、本発明は、上記金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜の形成方法の発明であり、真空槽内のカソードに、固体カーボンターゲットを使用せず、金属ターゲットのみを配置し、該金属ターゲットをスパッタリングしつつ、該真空槽内に炭化水素ガスと不活性ガスを導入し、アノードに配置した基材上に金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を形成する。従来のスパッタリングでは、カーボン蒸発源である固体カーボンターゲットと金属蒸発源である金属ターゲットを併用していた点が本発明と異なる。
前記炭化水素ガスとしては、アルカン化合物、アルケン化合物及びアルキン化合物から選択される鎖状炭化水素化合物の1種以上が好ましい。この中で、アルカン化合物としてはメタン、アルケン化合物としてはエチレン、アルキン化合物としてはアセチレンが好ましく例示される。
前記真空槽内に導入される炭化水素ガス量は、不活性ガスと炭化水素ガスの合計量に対する炭化水素ガスの体積比率として10〜50%が好ましい。
第3に、本発明は、基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材の発明であり、下記の態様が含まれる。
(1)基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、該保護膜は、上記の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜からなる。
(2)基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、該保護膜は、(a)金属層と、(b)前記金属層の上に形成された金属−カーボン組成傾斜層と、(c)前記金属−カーボン組成傾斜層の上に形成された上記の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜からなる。これにより、低摩擦DLC皮膜と基材との密着性が確保される。
(3)基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、前記保護膜は、(a)金属層と、(b)前記金属層の上に形成された金属−カーボン組成傾斜層と、(d)前記金属−カーボン組成傾斜層の上に形成された上記の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜と添加する炭化水素ガス量を低下して得られる金属−カーボン硬質層との交互積層層からなることを特徴とする摺動部材。これにより、高密着性を確保した低摩擦DLC皮膜の耐摩耗性が確保される。
本発明の摺動部材は、その摩擦係数は0.1以下とすることが可能であり、更に、摩擦係数を0.05以下とすることも出来る。
なお、上記金属−カーボン組成傾斜層は、DLCを徐々に硬質化し、内部応力を緩和して、密着性を確保するものである。DLC皮膜の硬さを連続的に変化させる方法としては、以下の手法が挙げられる。
(1)成膜時のバイアス電圧を制御する。
(2)成膜時に添加する炭化水素ガスの種類と量を調整する。例えば、アセチレンガス導入量を、不活性ガスとアセチレンガスの合計量に対するアセチレンガスの体積比率を変化させることによって得られる。
(3)成膜時に添加する窒素ガスの量を制御する。
本発明により、低摩擦係数を有する金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜が得られる。また、この低摩擦係数を有する金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を保護層または保護層の一部とすることで、低摩擦係数を有し、且つ耐摩耗性及び密着性に優れた摺動部材を得ることができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を製造するのに用いたスパッタリング装置の概略図である。真空ポンプ18によって排気される真空容器11内に複数の金属蒸発源である金属ターゲット12a〜12dが配置され、皮膜を形成すべき基材であるワーク13は中央の回転テーブル14上に配置される。真空容器11内には、ワーク13を加熱するためのヒーター15a,15bも配置されている。アルゴンなどの放電用ガスは一方のノズル16から真空容器11内に導入され、放電ガス以外のプロセスガスである炭化水素ガスは他方のノズル17から導入される。蒸発源としては、アンバランスド・マグネトロン(UBM)方式の蒸発源を用いた。ワーク13に金属層を形成させるため、蒸発源にはCr,Ti,Taターゲットを配置した。この金属としては、酸化物や炭化物を形成しやすい材料が選定され、Cr,Ti,Ta以外にW,V,Nb,Moなども利用できる。本発明では蒸発源として、カーボンターゲットは配置しない。
図2は、ターゲット及びワークに接続された電位印加電源を示す模式図である。UBM蒸発源のターゲット21,22は直流電源23,24の負極に接続され、グラウンドに対して負電位にされている。UBMによって発生したプラズマ中のArイオンにより導入された炭化水素ガスが解離されワーク13上に堆積するとともに、プラズマ中のArイオンはターゲット21,22に衝突することによってターゲットをスパッタし、スパッタされたターゲット原子がワーク13上に堆積し、金属複合DLC薄膜が形成される。また、UBMによって発生したプラズマは皮膜を形成すべきワーク13にまで達している。ワーク13のグラウンドに対する電位は、電圧可変電源25を調整することによって変化させることができる。
[実施例]
放電用ガスとしては、一般的なArガスを用い、また、DLC成膜中に導入するプロセスガスとしてメタン、アセチレン、プロパン等の炭化水素を検討した。
スパッタリングの場合、カーボンの供給が固体ターゲットである場合は、成膜されたDLC表面には固体ターゲットからの飛来物や皮膜の内部応力により発生したと考えられる盛り上がりが発生しており、表面が平坦でないことが摩擦係数が低くならないことの要因の一つと推定される。また、金属を含有することで反応生成物を形成し、摩擦が低減する可能性も考えられる。以上のことから、スパッタリングをベースとし、表面の平滑化を狙い、カーボンの供給を固体ターゲットから、炭化水素ガスへ変更し、金属もCr,W,Mo,Si,Ta,Ti等、酸化物や炭化物を作りやすい材料へ変更した。
すなわち、図1に示すUBM蒸発源に金属を配置し、それをスパッタリンゲする際炭化水素ガス(代表的にはメタン、アセチレン)を導入し、金属とプラズマにより解離・電離された力一ポン、水素を含むDLCとの複合皮膜を形成させ、得られた皮膜を図3の摩擦摩耗試験により摩擦係数を測定した。
基材として用いたSCM15浸炭材を鏡面仕上げし、その表面に次の条件にてDLCコーティングを施し、形成された皮膜のダイナミック硬度をボールオンディスク試験により評価した。まず、スパッタリング装置内を0.003Pa以下に真空排気し、ヒーターによって基材を300〜500℃で30分間に予熱した。基材をアルゴンイオンエッチングし、その後、DLCを成膜した。放電用ガスとしてはアルゴンガスを用いた。DLC成膜時の圧力は0.4Pa、スパッタ出力(各種金属)は2kW、炭化水素ガス導入量は0〜200cc/min、基材に印加したバイアス電圧は200Vである。成膜時間は120分である。
図3に、ボールオンディスク試験の概要を示す。基材であるSCM15浸炭材上に金属複合DLC皮膜を形成した円盤に、SUJ2の鉄球を荷重10Nで押圧した。円盤の面圧:1300MPa、速度:0.3m/s、距離:2km、潤滑:ドライで試験した。
図4に、Ta,Ti,Crに対するCの組成比(%)と摩擦係数の関係を示す。図4より、Ta,Ti,Crのいずれの金属複合DLCの場合も、摩擦係数0.1以下を達成しており、特にTa,Tiの場合は摩擦係数0.05以下を達成している。そして、摩擦係数0.1以下を達成するためには、金属元素としてTaを用いる場合は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Ta比が5〜20、Tiを用いる場合は、C/Ti比が20〜25、Crを用いる場合は、C/Cr比が10〜25であることが必要であることが分かる。
図5に、Ta,Ti,Crに対するOの組成比(%)と摩擦係数の関係を示す。図5より、摩擦係数0.1以下を達成するためには、金属元素としてTaを用いる場合は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Ta比が0.4以下、Tiを用いる場合は、O/Ti比が1.0以下、Crを用いる場合は、O/Cr比が0.3以下であることが必要であることが分かる。
本発明により、無潤滑下で0.05以下の摩擦係数を示す低摩擦な皮膜がえられた。従来の固体カーボンターゲットを使用した場合、その成膜速度は0.8μm/Hrであったが、本発明では金属を高出力でスパッタリングしているため、成膜速度としては2.4μm/Hrと3倍の効率を得ることができた。このため、処理コストの大幅な低減を達成できる。
また、金属複合のDLCを作製する場合、金属ターゲットの汚染が発生し、次の処理の前にターゲットの汚染を空飛ばし(捨てバッチにてターゲットを放電させ、表面の汚染層を除去)する必要がある。これは生産上、非常に大きなネックとなるため、ターゲットが汚染されないDLCコートは非常に有効である。
[メタンガス流量と金属複合DLCの摩擦係数の関係]
図6に、Cr,Ta,W,Si,Mo,Tiの各金属ターゲットを用い、メタンガス流量を変化させた場合の金属複合DLCの摩擦係数を示す。図6より、メタンガス流量が少ない、即ち含有されるCが少ない、場合から、メタンガス流量が多い、即ち含有されるCが多い、場合まで摩擦係数を見ることで、各金属元素毎にメタンガス流量の最適範囲があることが分かる。例えば、Taでは65〜150cc/min、Tiでは50〜160cc/min、Crでは70〜100cc/minのメタンガス流量が最適範囲である。このように、金属種および炭化水素ガスの供給量により摩擦係数に大きく影響することが確認できた。
なお、各金属各金属ターゲットを用い場合の最低摩擦係数は、Crが0.08、Taが0.04、Wが0.14、Siが0.27、Moが0.24、Tiが0.04であった。
[摩擦摩耗試験後のボールの表面の元素分析(EPMA)]
本発明の金属複合DLCが優れた低摩擦係数を示すことは上記の通りであるが、この現象を確認するため、摩擦摩耗試験後のボールの表面の元素分析(EPMA)を実施した。図7に、摩擦摩耗試験後のボール表面のTaの場合の元素分析結果を示す。図7の左上より、SEM写真、C元素分析、Fe元素分析、O元素分析、Ta元素分析の結果である。図7の結果より、低摩擦を示したボール表面には複合化した金属(Ta)と酸素(O)が検出された。
他の金属についても同様な結果が得られ、この結果から、摩擦摩耗試験の摺動中にDLC皮膜中に含有された金属の酸化物が生成されることが低摩擦の要因と考えられる。このことから、今回、低摩擦を示した材料は酸化物を形成しやすい金属元素であり、特に、Cr,Ti,Taが有望であると考えられる。
ただし、これらの金属においても、炭化水素ガスの流量に適正な領域があることが分かった。これは炭化水素が少ないと金属リッチの膜になり、硬さは硬いが、相手の鉄材と凝着しやすい,即ち摺動による適当な酸化物生成が得られない、状態になり、逆に多い場合、皮膜が早期に摩耗するため下地との凝着が発生したためと考えられる。
[XPS分析]
DLC表面をXPSで分析し、金属の含有量を調査した結果、摩擦係数が0.05以下を達成するためにはC/Tiが25〜50、C/Taが約5以上であることが判った。
[表面の粗さと摩擦係数の関係]
図8に、従来法と本発明のDLC皮膜をAFMにより表面形態、粗さを測定した結果を示す。表面の粗さと摩擦係数には強い相関関係があり、本発明の金属複合DLCが表面粗さ5nmRaで摩擦係数0.05であるのに対し、従来の固体カーボンターゲットを使用したDLCでは、表面粗さ15nmRaで摩擦係数0.35である。
これより、本発明のDLC皮膜は表面粗さも低減していることが判り、上述の酸化生成物とこの表面粗さ低減により摩擦係数が低減したものと考えられる。
[本発明と徒釆技術との製造条件の差]
下記表1に、本発明と従来技術との一般的な製造条件の差を比較する。
Figure 2006169614
表1のように、従来技術と本発明ではコーティング条件としても異なる部分が多い。なお、従来技術では、固体カーボンターゲットを使用しない場合のデータが比較例として記載してあるが、それによると摩擦係数は固体Cターゲットを併用した場合の0.12と比べて高くなっており、その摩擦係数0.18は本発明の0.04に対して4倍以上も高い。
この摩擦係数の差は、上記コーティング条件の差に起因するものと考えられる。どの条件の差がどれくらい性能に効いているかは、ここでは不明であるが、電源をパルスにしていないこと(これは成膜速度の点からも有利)、およびイオンボンバードの電圧が低く、表面のエッチング量が少ないことによる表面粗さの低減による効果ではないかと考えられる。また、カーボン/金属の比率がより適正であるからと考えられる。加えて、カーボン/酸素の比率も、低摩擦化には必要で、この両者の成立が必須であると考える。
[密着性について]
図9に、本発明の低摩擦皮膜の密着性を確保するために必要な層構成を示す。基材31に対して、第1層目は純金属のみからなる金属層32とし、基材31との金属結合による密着性向上を図る。また第2層目はその金属とCの傾斜層33とし、皮膜内部応カを徐徐に暫変させることで皮膜の自己破壊を抑制する。第3層は上述した金属が複合されたDLC低摩擦層34である。
図10に、金属がTiの場合の製造条件を示す。図10において、工程1は金属層21形成工程、工程2は金属−C傾斜層22形成工程、工程3は金属複合DLC低摩擦層23形成工程である。
ただし、この皮膜の密着性は十分ではなかった。密着性を示す評価として、スクラッチ(引っ掻き)法、およびHRc(圧子押込み)法による皮膜の損傷状態およびオージェによる皮膜の組成分析、SEMによる皮膜断面写真撮影を行った。その結果から、皮膜の密着性としては不十分であり、AESでの分析結果より、傾斜層の初期にTiとCの反応が発生していることが推察された。これをXRDで調査した結果、TiC化合物であることが分かった。このことから、この柱状晶のTiC化合物層が脆弱で剥離の起点である可能性があると考えられた。これは、金属Tiと炭化水素ガスのある組成範囲で生じるものと考えられる。
そこで、この範囲を回避するため、図11のプロセスチャートに示すように、メタンの導入流量を変えて、傾斜層形成工程初期からメタンガスを40sccm導入し、傾斜層形成工程終期からメタンガスを60sccm導入した。この結果、HRc圧痕周辺の剥離の発生はなく、密着性が向上したことが確認された。また、AESの分析結果を観ると上記で見られた柱状晶の層は大幅に減少していることが確認された。
前記2種の成膜条件における、金属ターゲットのスパッタ電流をモニタした。この結果より、メタンの導入が初期から多い場合ではターゲット電流の低下が著しいことが判明した。すなわち、この部分で金属表面が炭化水素ガスの分解によるCに汚染されていることを示していると思われる。この汚染をなくす方策としては、もし汚染されても直に金属ターゲットのスパッタリングと同時に除去されることが必要で、そのためにスパッタリング時のAr流量の増加による変化を調査した。
その結果より、Ar流量が120sccmより少ない場合は、Ti−C傾斜の範囲でターゲット電流が一旦下がった後上昇する不安定な挙動をすることが判明した。この部分と前述の柱状晶が生成している場所はよく対応しており、このような不安定な部分を発生させないことが重要と考えられる。一方、Ar流量を増加させた場合(240〜480sccm)は、その傾向がなくなっていることが確認された。また、コーティング後の金属ターゲット表面は煤で汚染されていなかった。密着性については特に剥離等なく良好であった。
このように、皮膜の密着性を確保するためには、結晶性のTiC等の炭化物を形成させないようにするため、添加する炭化水素の量を規定し、かつターゲット汚染が発生しないようにAr圧力を限定することが必要である。ここで、炭化水素ガスの導入流量を最表面の低摩擦係数化のために必要な導入量の半分から開始する。また、Ar圧力としては、0.8〜1.3Paが必要である。このAr圧力があまり高すぎると(Ar流量が480以上)では皮膜へのAr原子のトラップが増加し、また構造が変化することから低摩擦が維持されないことから限定した。
更に、皮膜と基材の界面を調査した結果、特にTiの場合ゲッタリング効果により酸素が濃化していることが確認された。本来は、成膜前のイオンボンバード工程にて表面の酸化膜や吸着分子を除去するが、その後、金属層を成膜する際、酸素、カーボン等のコンタミが付着してしまうことが密着性の低下につながると考えられる。そこで、金属層を短時間成膜し、コンタミを基材に付着させ、その後、再度イオンボンバードを施すことにより密着性を確保した。
具体的には、真空排気→予熱→イオンボンバード(1)→成膜(1)→イオンボンバード(2)→成膜(2)→成膜(3)の工程において、イオンボンバード(1)は、
Ar圧力:1.3Pa
バイアス電圧:400V
時間:10分
で行い、イオンボンバード(2)は、
Ar圧力:1.3Pa
バイアス電圧:600V
時間:10分
で行った。このような条件でコーティングすることで、密着性を確保した低摩擦なDLC皮膜を得ることができた。
[耐磨耗性について]
更に、皮膜の耐摩耗性を高めるために次のような多層膜構造を考えた。すなわち、添加する炭化水素ガスの流量を減らした金属炭化物層(硬質)を本発明の低摩擦層と交互に積層することにより、皮膜の硬質化を達成し、耐摩耗性と低摩擦の両立図った。
図12に、皮膜の構成図を示し、図13にプロセスチャート例を示す。基材31上に金属層32と傾斜層33を成膜した後、低摩擦層と硬質DLC層の多層膜35を成膜する。
このように、炭化水素ガスの流量を変化させるだけで難しい調整などいらず、品質も安定した摺動部材が得られる。低摩擦層と硬質DLC層の数は各層100〜200層が望ましい。
この皮膜構成により密着性30N、摩擦係数0.06、皮膜の摩耗量を0.1μmとすることができた。なお、硬質層との積層なしの単層の場合は摩耗量が0.3μmであった。
本発明によると、耐摩耗性及び密着性に優れたダイヤモンドライクカーボン層を有する摺動部材を得ることができる。各種分野で摺動部材として用いることが出来る。
本発明の摺動部材を製造するのに用いたスパッタリング装置の概略図。 ターゲット及びワークに接続された電位印加電源を示す模式図。 ボールオンディスク試験の概要を示す図。 Ta,Ti,Crに対するCの組成比(%)と摩擦係数の関係を示す図。 Ta,Ti,Crに対するOの組成比(%)と摩擦係数の関係を示す図。 各金属ターゲットを用い、メタンガス流量を変化させた場合の金属複合DLCの摩擦係数を示す図。 摩擦摩耗試験後のボール表面のTaの場合の元素分析結果を示す写真。 DLC皮膜の表面粗さと摩擦係数の相関関係を示す図。 密着性、耐摩耗性確保のための摺動部材の断面模式図。 密着性、耐摩耗性確保のためのプロセスチャート。 メタンの導入流量を変えたプロセスチャート。 密着性、耐摩耗性確保のための摺動部材の断面模式図。 密着性、耐摩耗性確保確保のためのプロセスチャート。
符号の説明
11…真空容器、12a〜12d…蒸発源、13…ワーク、14…回転テーブル、15a,15b…ヒーター、16,17…ノズル、21,22…ターゲット、23,24…直流電源、25…電圧可変電源、31…基材、32…金属層、33…金属とCの傾斜層、34…金属複合DLC低摩擦層、35…金属複合DLC低摩擦層と硬質DLC層の多層膜。

Claims (19)

  1. 固体カーボンターゲットを使用せず、炭化水素と不活性ガス導入雰囲気中で金属ターゲットのみをスパッタリングしつつ炭化水素を解離して基材上に形成されたダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜であって、炭素/金属元素の原子比が5〜50であることを特徴とする金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  2. 前記金属元素は、Ta,Ti,Cr,Al,Mg,W,V,Nb,Moから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  3. ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Ta比が5〜20であることを特徴とする請求項1に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  4. ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Ti比が20〜25であることを特徴とする請求項1に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  5. ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のC/Cr比が10〜25であることを特徴とする請求項1に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  6. ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Ta比が0.4以下であることを特徴とする請求項3に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  7. ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Ti比が1.0以下であることを特徴とする請求項4に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  8. ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜中のO/Cr比が0.3以下であることを特徴とする請求項5に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  9. 摩擦係数が0.1以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  10. 前記摩擦係数が0.05以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜。
  11. 真空槽内のカソードに、固体カーボンターゲットを使用せず、金属ターゲットのみを配置し、該金属ターゲットをスパッタリングしつつ、該真空槽内に炭化水素ガスと不活性ガスを導入し、アノードに配置した基材上に金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を形成することを特徴とする金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜形成方法。
  12. 前記炭化水素ガスが、アルカン化合物、アルケン化合物及びアルキン化合物から選択される鎖状炭化水素化合物の1種以上であることを特徴とする請求項11に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜の形成方法。
  13. 前記炭化水素ガスが、メタン、エチレン、アセチレンから選択される1種以上であることを特徴とする請求項12に記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜の形成方法。
  14. 前記真空槽内に導入される炭化水素ガス量は、不活性ガスと炭化水素ガスの合計量に対する炭化水素ガスの体積比率として10〜50%であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれかに記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜の形成方法。
  15. 基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、該保護膜は、請求項1乃至10のいずれかに記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜からなることを特徴とする摺動部材。
  16. 基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、前記保護膜は、(a)金属層と、(b)前記金属層の上に形成された金属−カーボン組成傾斜層と、(c)前記金属−カーボン組成傾斜層の上に形成された請求項1乃至10のいずれかに記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜からなることを特徴とする摺動部材。
  17. 基材と、該基材の表面に形成した保護膜とを含む摺動部材において、前記保護膜は、(a)金属層と、(b)前記金属層の上に形成された金属−カーボン組成傾斜層と、(d)前記金属−カーボン組成傾斜層の上に形成された請求項1乃至10のいずれかに記載の金属複合ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜と添加する炭化水素ガス量を低下して得られる金属−カーボン硬質層との交互積層層からなることを特徴とする摺動部材。
  18. 摩擦係数が、0.1以下であることを特徴とする請求項15乃至17のいずれかに記載の摺動部材。
  19. 摩擦係数が、0.05以下であることを特徴とする請求項15乃至17のいずれかに記載の摺動部材。
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