【発明の詳細な説明】
植物プラスチド***遺伝子
発明の背景
農産業は経済的に有利な性質を持った表現型のはっきりした植物の開発にかな
りの資源を投入してきた。食用作物において価値ある特徴には、旺盛な生長、耐
病性、高い収量、長い貯蔵安定期間、増強された栄養成分が含まれる。
高収量の食用作物の開発は特に重要である。他の利用のためにより多くの土地
が使われるため農業生産のために利用できる耕作可能な土地は毎年減っている。
同時に、人口が急激に増加している。従って、世界中で急速に増加している人口
の栄養的要求を満たすために農業生産性を増大させることが必須である。
より高収量を生み出す作物植物を開発する努力は害虫の抑制、またはより多く
の数の果実をつける、またはより大きな果実をつける変種を選抜および育種する
ことに向けられてきた。これらの作物育種の努力は非常に時間のかかるものであ
り、労力のかかるものだが、歴史的には長い間徐々に作物収量を増大させてきた
。組換えDNA操作および遺伝子工学という近代技術は新規な特性をもった新規な
植物変種をより迅速に作り出すことへの期待を提供するものである。
植物における光合成は、ほとんど全ての生物がこれに依存している、我々の生
存に極めて重要な生合成過程である。光合成は植物細胞のクロロプラスト中で起
こる。光合成過程では光の形態のエネルギーがATPに変換され、炭水化物の合成
を触媒する一連の酵素反応にエネルギーを供給する。分子状酸素(O2)は光合
成の本質的な副産物である。光合成は植物における代謝エネルギーの供給源であ
るため、光合成効率は植物の生長と活力全般に関連する重要な因子である。
光合成活性はクロロプラスト数と正の相関があることが知られている(Leechと
Baker、「The development of photosynthetic capacity in leaves」:J.E.Dale
とF.L.Milthorpe編集、The Growth and Function of Leaves.Cambridge Unive
rsity Press,Campridge.pp271-307,19839)。クロロプラストの光合成機能が
生命にとって中心的であるにもかかわらず、クロロプラスト数と大きさが制
御されている方法は比較的僅かしか知られていない。
クロロプラストは植物細胞において、CRO植物の栄養成分に関与するいくつか
の重要な生化学的過程の場でもある。アミノ酸および脂質がクロロプラストで合
成される。プラスチドはいくつかの重要な2次代謝物およびビタミン合成の場で
もある。
技術に必要とされているのは、農業的および園芸的に重要な重要な植物におい
てクロロプラストの数と大きさを操作してより大きな植物生産性と栄養品質を達
成するための方法である。
発明の簡単な概要
本発明は、プラスチド***配列および、本来はその遺伝子と関連がなく、植物
中でその遺伝子発現を促進するプロモーターを含む遺伝的構築物をゲノム中に有
する植物であって、その遺伝子の植物における発現が、その植物の植物細胞中の
プラスチドの数と大きさを変化させている植物である。
本発明はまた、プラスチド***制御において働き、異所的(ectopically)に発
現するとクロロプラストの数と大きさを変化させる1つのタイプの遺伝子、およ
び、植物細胞中に存在する他のタイプのプラスチドを代表する、2つのDNA配列
(配列番号1および配列番号3)である。
本発明は、プラスチド***配列および、その配列の植物中での発現を促進する
プロモーターを含む遺伝的構築物に関するもので、そのプロモーターが本来プラ
スチド***配列と関連していない構築物に関する。
本発明はまた、プラスチド***配列および、本来はプラスチド***配列と関連
していない、植物中で遺伝子発現を促進するプロモーターを含む遺伝的構築物を
ゲノム中に有する種子である。
本発明はまた、プラスチド***配列および、本来はプラスチド***配列と関連
していない、植物中で遺伝子発現を促進するプロモータープロモーターを含む遺
伝的構築物をゲノム中に含んでいる植物細胞である。
本発明の目的は、クロロプラスト数の増加を含めた有利な性質を有する新規な
表現型をもったトランスジェニック植物を供給することである。
本発明の他の目的、利点、特徴は明細書及び図面を検討することにより明らかに
なるであろう。
図面の概要説明
図1はFtsZ遺伝子の配列マッチングの図解である。
図2は以下の実施例のプラスミド操作の概略図である。
図3は以下の実施例のプラスミド操作の別の概略図である。
図4もまた以下の実施例のプラスミド操作の別の概略図である。
発明の詳細な説明
本発明の1つの側面は、プラスチド***遺伝子配列および、本来はプラスチド
***遺伝子配列と関連していない、植物中で遺伝子発現を促進するプロモーター
を含む遺伝的構築物をゲノム中に有している植物である。この遺伝子の導入遺伝
子発現は、その構築物が発現される植物の細胞中のプラスチドの数と大きさの変
化を特徴とする新規な表現型を高いパーセンテージで生じさせる。
プラスチドは膜で隔てられた植物細胞のオルガネラで、植物細胞の生存に必須
なものである。光合成が起こるのは特殊なプラスチド、クロロプラストの中であ
る。プラスチドは必須アミノ酸、ビタミンE、プロビタミンA、デンプン、ある種
の生長ホルモン、脂質およびカロチン、キサントフィルおよびクロロフィルのよ
うな色素の合成の場である。プラスチドは植物細胞の生存に必須であるため、プ
ラスチド***の制御は不可欠な機能である。新しく***したそれぞれの細胞が生
存に必須であるプラスチドを含むことが保証されるように、プラスチドは細胞周
期中に複製されなければならず、細胞***の際に分配されなければならない。
種によるが、葉の細胞当りのクロロプラストの数は葉原基における15未満のプ
ロプラスチドから、成熟した光合成可能な葉肉細胞の150を越えるクロロプラス
トまで増加する。クロロプラスト***の発生過程のパターンは単子葉植物および
双子葉植物の双方で特徴が明らかにされている。単子葉植物では、新しく形成さ
れる葉細胞は葉の基部の節間***組織から生じ、葉の基部から先端へ直線的な発
生勾配(developmental gradient)を形成する細胞の帯を生じる。従って葉の特
定部分の断面は多数の同じ発生段階の細胞を与える。コムギ葉の基部における生
長点中の葉の生長は細胞***によって生じ、一方成長点の上では細胞***は止ま
り、葉の生長は完全に細胞伸長によって起こる。細胞あたりのクロロプラストの
数は***組織細胞中で一定に維持され、このことはクロロプラスト***はこの発
生段階では細胞***と歩調を合わせていることを示す。クロロプラスト数の主要
な増加は細胞伸長の間に起こる(LeechとPyke、「Chloroplast division in highe
r plants with particular reference to wheat.」,S.A.BoffeyとD.Lloyd編集Di vision and Segregation of Organelles
.Cambridge University Press,Cambri
dge,pp.39-62,1988)。
双子葉植物における葉の発生パターンはもっと複雑であるが、一般には単子葉
植物におけるのと同様である。生長は葉の基部の幼若な細胞については***によ
って主として起こり、基部の上の成熟細胞については伸長によって起こる。単子
葉植物においてのように、双子葉植物の葉断面を調べると双子葉植物における細
胞あたりのクロロプラストの数は葉の基部に近い未熟な***細胞中ではほとんど
変化しないが、基部から遠い距離にある伸長中の細胞では増加していることが示
された。このクロロプラスト***のパターンはまた、より古い葉のクロロプラス
トの平均数が徐々に増加することにも反映されている。例えば、ホウレンソウで
は長さ2cmの葉は細胞あたり平均20クロロプラストに満たないが、一方、完全に
伸長した長さ10cmの葉では細胞あたり平均150を越えるクロロプラストである(La
wrenceら、Plant Physiol. 91:708-710,1986)。一般には、これらの研究は葉が
成熟するにつれ細胞あたりのクロロプラスト数(またはクロロプラストの***)
について発生的に制御された増加があることを示している。
たくさんのEMS-変異誘発植物およびT-DNA-変異誘発植物の顕微鏡検査によって
同定されたシロイヌナズナ(Arabidopsis)arc(クロロプラストの蓄積および複
製(accumulation and replication of chloroplasts))変異は野生型に対してク
ロロプラストの数および大きさにおいて大きな変化を示す(Pykeら、Plant Physi ol
.104:201-207,1994,Pykeら、Plant Physiol.99:1005-1008,1992)。葉肉
細胞の単位領域あたりのクロロプラスト数の減少および増加を示す変異体が同定
されている。驚いたことに、arc変異体の生長は損なわれておらず(Pykeら、Plant Physiol
.104:201-207,1994、Pykeら、Plant Physiol.99:1005-1008,1
992)または、最も顕著な変異体であるarc6、この変異体は細胞あたりに野生型が
83個であるのに対して平均2個のクロロプラストしか有しないが、30%未満しか
阻害されない(Pykeら、Plant Physiol.106:1169-1177,1994;Pykeら、J.Cell S ci
,108:2937-2944,1994)。すべてのarc変異体で開花、稔性および種子は正常
である。
arc変異株におけるクロロプラスト数と大きさの関連性を調べると、クロロプ
ラスト数の変化は逆相関したクロロプラストの大きさの変化によって密接に補償
され、単位細胞体積あたりのクロロプラストの総体積が変異体と野生型植物細胞
において同等であることが示された(Pykeら、Plant Physiol.99:1005-1008,19
92)。これらのデータは、プラスチド***とプラスチド伸長は総クロロプラスト
区画サイズを検知するフィードバック機構によって統合されている、遺伝的に異
なった過程であることを示している。同様に、以下の実施例で詳述するように、
導入遺伝子として挿入されたクロロプラスト***遺伝子の発現により生じたクロ
ロプラスト数の変化はまたクロロプラストの大きさの補償的変化を生じさせる。
クロロプラスト***遺伝子の発現を変化させることができることにより、植物
細胞においてクロロプラストの大きさと数の操作ができるようになる。クロロプ
ラスト数は光合成能に直接の影響を与えることが知られている(LeechとBaker、「
The development of photosynthetic capacity in leaves」,J.E.DaleとF.L.Milt
horpe編集、The Growth and Functioning of Leaves.Cambridge University Pr
ess,pp271-307,1983)。したがって、遺伝的に操作された植物において、プラ
スチド***タンパク質の濃度を操作して、プラスチド(これは植物の生合成過程
において不可欠な役割を持つ)の数または大きさを増加させることにより、有利
な特性をもった植物を得ることができるように思われる。本発明の使用例として
、増強された活力と生産性を有する、または、プラスチド中で合成される種々の
化合物の1またはそれ以上の生産が増強された、農業経済的に、および園芸的に
重要な植物を開発するために本発明を利用してもよい。
本発明において有用なシロイヌナズナの2つのプラスチド***配列の同定およ
び特徴付けを以下の実施例に記載する。この配列はcpFtsZ(cpはchloroplastの
cp、配列番号1)およびAtFtsZ(AtはArabidopsis thalianaのAt、配列番号3)
と命名され、いくつかの原核生物種のFts(フィラメント形成温度感受性(Filam
enting temperature-sensitive))系統から単離されたバクテリアFtsZ遺伝子と
のホモロジーに基づいて同定された。バクテリアのFts変異株はバクテリアの細
胞***に関与する遺伝子に温度感受性変異を持つ;これらの変異は細胞***の際
に不完全な隔膜を形成するためバクテリア性フィラメントを形成する。
バクテリアの細胞***タンパク質Ftszはバクテリアの細胞***機構のキーコン
ポーネントである。***の開始時に細胞質***リング(cytokinetic ring)へ重合
し、隔膜形成完了後に脱重合する。FtsZのバクテリア細胞***における細胞骨格
的役割は、in vitroでGTP-依存性重合を行なう能力および、チューブリンに対す
る他の構造的類似性に基づいて仮定されている。以下の実施例に示すように、シ
ロイヌナズナFtsZタンパク質は、FtsZタンパク質とチューブリン間で保存され、
GTP結合に重要な、グリシン-リッチなチューブリンシグネチャー(tubulin signa
ture)モチーフを含んでおり、このことはこのタンパク質がチューブリンと類似
の細胞骨格的役割を有していることを示唆するものである。
本明細書で、「FtsZ」は、シロイヌナズナcpFtsZおよびAtFtsZ配列、および、他
の植物の類似の遺伝子配列、およびプラスチド***制御機能を保持する、その変
種および突然変異体をいう。以下の実施例に示すように、FtsZ遺伝子は種々の植
物種間で高度に保存されている。全ての植物がシロイヌナズナのプラスチド***
遺伝子cpFtsZまたはAtFtsZと相同なプラスチド***遺伝子を有していることが予
想される。バクテリアのFtsZ遺伝子もこれらの植物FtsZ遺伝子に相同であり、ト
ランスジェニック植物にも利用できるであろう。
プラスチド***配列の植物種間における一見した普遍性と高度な保存性をみれ
ば、本発明の実施において、どの植物のプラスチド***遺伝子(FtsZ遺伝子はそ
の一例に過ぎない)も利用できると予想するのは合理的である。例えば、その農
業的または園芸的価値ゆえに栽培される植物が本発明の実施に使用されるかもし
れない。
本発明の実施にどのプラスチド***配列も使用できることは特に考慮される。
「プラスチド***配列」とは、プラスチド***活性を示すどんな植物DNA配列を
も意味する。プラスチド***配列はいずれかの植物から単離された未修飾配列で
あってもよく、いずれかの植物に由来するcDNA配列であっても、少数のヌクレオ
チド付加、欠失、または置換を含むように改変されたゲノム配列またはcDNA配列
でもよく、または合成DNA配列でも良い。この語はまた、他の植物の類似配列お
よびプラスチド***をなお制御することができるアレル変異体および突然変異体
にも適用する意図である。
「プラスチド***活性」とは、プラスチド***配列が発現しているトランスジ
ェニック植物の細胞中に存在するクロロプラストまたは他のタイプのプラスチド
の数または大きさの変化を生じさせる能力を意味する。
「導入遺伝子」とは、植物のゲノム中に保持される人工的な遺伝的構築物であ
って、遺伝子導入によってその植物またはその祖先に導入されたものを表す。こ
のような導入遺伝子は一度導入されると通常のメンデル遺伝によって伝達され得
るものである。
プラスチド***活性を選択的にアップレギュレートまたはダウンレギュレート
するプラスチド***配列の導入遺伝子によってトランスジェニック植物が作製で
きることが特に予想される。さらなるプラスチド***のためには、プラスチド分
裂配列導入遺伝子の追加コピーまたは高発現コピーが植物に導入される。より低
いプラスチド***のためには、アンチセンスプラスチド***配列導入遺伝子の使
用、または他のどんな遺伝子抑制技術もプラスチド***をダウンレギュレートす
るために用いられるかもしれない。プラスチドのアップレギュレーションおよび
ダウンレギュレーションのいずれもある種の応用に有用であろう。
実施例に示すように、アグロバクテリウム(Agrobaterium)形質転換系を用い
てモデル系としてトランスジェニックシロイヌナズナ植物体が得られた。アグロ
バクテリウム媒介形質転換は多くの双子葉植物及びいくつかの単子葉植物におい
てよく機能することが知られている。双子葉植物および単子葉植物において同等
に有用な他の形質転換方法も本発明の実施に使用されてもよい。トランスジェニ
ック植物はパーティクルボンバー(particle bombardment)、エレクトロポレーシ
ョンまたは植物分子生物学における当業者に知られた植物形質転換方法の他のど
んな方法によって得られてもよい。植物遺伝子工学における今日までの経験によ
れ
ば遺伝子導入の方法はトランスジェニック植物において達成される表現型に関し
て特に重要ではない。
本発明はまた、プラスチド***配列、および、本来はこの配列と関連がなく、
新規な表現型を生じさせるに充分な濃度で植物においてこのプラスチド***配列
の発現を促進するプロモーターを含む遺伝的構築物に関する。この構築物は、こ
の配列をセンスまたはアンチセンス方向に含んでいてよい。形質転換された植物
細胞においてクロロプラストの数または大きさを変化させることが分かった3種
の構築物の開発を実施例に記載した。簡単に言うと、これらの構築物の関係する
特徴には、カナマイシン耐性マーカー、および5'から3'の順に、クロロプラスト
***配列に機能可能に結合したCamV 35Sプロモーター、およびOCSターミネータ
ーが含まれる。
CaMV 35Sプロモーターは色々な植物種において機能することが知られている構
成的プロモーターである。構築物が導入される植物において機能する他のプロモ
ーターも、本発明の実施に使用される遺伝的構築物を作製するために用いてもよ
い。これらには、他の構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生段階
特異的プロモーター、および誘導可能プロモーターが含まれる。プロモーターは
転写効率を上げるある種のエンハンサー配列要素を含んでもよい。
以下の実施例には、遺伝的構築物で形質転換された植物体の選抜のための選択
マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝を含む発現ベクターの使用が記載されてい
る。抗生物質および除草剤耐遺伝子を含む沢山の選択マーカーが植物分子生物学
の技術において知られており、本発明の実施のために適切な発現ベクターを構築
するために用いられてもよい。発現ベクターは、βグルクロニダーゼ(GUS)の
ようなスクリーニング可能なマーカーを含むように設計されてもよい。
以下の実施例で用いた遺伝的構築物は、プラスミドベクターpART7およびpART2
7(Gleave,Plant Mol .Biol.20:1203-1207,1992)を用いて設計された。他のプ
ラスミドベクターまたはウイルスベクター、または分子生物学の技術において知
られた他のベクターが、植物を形質転換してプラスチド***配列の発現を起こす
ために使用されるかもしれない構築物の開発において有用であろうことが期待さ
れる。我々はアグロバクテリウム系を用いた形質転換に適した遺伝的構築物の
作製について記述する。しかしながら、トランスジェニック植物を得るためのど
んな形質転換系を利用してよい。ベクターの構築、および、ベクターの特定の形
質転換系への適合化は当業者の能力の範囲内である。
本発明はまた、植物中のプラスチドの数および大きさを野生型植物に対して変
化させる方法を意図したものである。本方法は、プラスチド***配列、および、
本来はその配列と関連のないプロモーターを含む遺伝的構築物を作製するステッ
プ、植物をその遺伝的構築物で形質転換するステップ、そのように作製されて遺
伝的構築物を発現できるようになったトランスジェニック植物を栽培するステッ
プを含む。植物中の導入遺伝子としての遺伝的構築物は植物中でプラスチド数を
変化させるであろう。
以下の実施例では、プラスチド***配列がトランスジェニック植物中の導入遺
伝子として発現している植物において、クロロプラスト数と大きさの変化が調べ
られた。また、プラスチド***配列が、クロモプラスト、アミロプラストおよび
エライオプラストを含む他のプラスチドの***の制御にも関与していることが予
想される。これらのプラスチドは、それぞれカロチノイド、デンプンおよび油を
合成するので、農業経済学上非常に重要である。クロロプラスト***配列の発現
を操作してクロロプラスト以外のプラスチドの数または大きさを変えることは本
発明の範囲および精神の範囲内である。
以下の非限定的な実施例は単なる説明を意図したものである。
実施例シロイヌナズナのクロロプラスト***遺伝子の単離と特徴づけ
バクテリアFtsZ遺伝子のホモログを以下のようにシロイヌナズナから単離した
。大腸菌(Escherichia coli)のFtsZのアミノ酸配列を発現配列タグ(Expressed
Sequence Tag)データベースdbEST(Newman,Tら、Pl.Physiol.106:1241-1255
,1994)のホモロジー検索においてプローブとして使用した。データベース中で
帰属されたマッチングはないが狭い範囲で大腸菌FtsZにホモロジーを示す、シロ
イヌナズナの相補的DNAが同定された。プラスミドpZL1(Gibco-BRL)に入った、同
定された配列に相同なシロイヌナズナcDNA配列を含むクローンを、シロ
イヌナズナ バイオロジカルリソースセンター(Arabidopsis Biological Resour
ce Center)(カタログ番号105K17T7)から入手し、完全にシーケンシングした。
cpFtsZと命名されたこのシロイヌナズナの配列を配列番号1に示してある。こ
れは、幾つかの原核生物種のFtsZ配列と有意なホモロジーのある、433アミノ酸
の椎定タンパク質(配列番号2)をコードするオープンリーデイングフレーム(
ORF)を含んでいる。シロイヌナズナFtsZタンパク質(Mr 45,000)はFtsZタンパ
ク質およびチューブリン間で保存され、GTP結合に重要な(de Boerら、Nature 35
9:254-256,1992)グリシン-リッチな「チューブリンシグネチャー」モチーフを
含んでいる。GTPに結合できるということは、cpFtszが、その活性にGTP-依存性
重合を必要とするチューブリンの細胞骨格的役割と類似の機能を有するかもしれ
ないことを示唆するものである。バクテリアのFtsZタンパク質とチューブリンと
で同一であるアミノ酸(Mukherjeeら、J.Bact.176:2754-2758,1994)は1つを除
いてシロイヌナズナcpFtsZ配列において保存されている。
シロイヌナズナのcpFtsZタンパク質は、核にコードされる、クロロプラストの
ストロマ画分に局在するタンパク質であることを2系統の証拠が示唆する。シロ
イヌナズナcpFtsZのアミノ末端45-55残基はクロロプラストトランジットペプチ
ドに典型的な性質を有しており、高い割合のヒドロキシル化アミノ酸、少数の酸
性アミノ酸、および2番残基としてのアラニンを特徴とする(Keegstraら、A .Re v.Pl.Physiol.,Pl.Molec.Biol
.40:471-501,1989)。
シロイヌナズナcpFtsZタンパク質がクロロプラストに局在するという更なる証
拠がin vitroクロロプラスト取り込み実験で提出された(Osteryoungら、Nature3
76:473-474,1995)。その実験では、完全長シロイヌナズナcpFtsZ翻訳産物の翻
訳後取り込みおよびプロセッシングがエンドウマメの単離クロロプラストで調べ
られた。この実験は、シロイヌナズナcpFtsZ翻訳産物は翻訳後にクロロプラスト
中へ取り込まれ、そこで推定されるトランジットペプチドが切断され、クロロプ
ラスト膜が界面活性剤で破壊されない限りプロテアーゼ処理から保護される可溶
性タンパク質を生じることを明らかにした。シロイヌナズナにおける更なるFtsZホモログの同定
シロイヌナズナ中に少なくとも1つの更なるFtsZ遺伝子が存在することが、cp
FtsZに短い範囲で相同性を有する第2のESTがdbEST中で同定されたことによって
示された。このESTの配列はcDNAが再構成を受けていることを示したので、cpFts
Zに相同な領域を含むPCR断片を増幅し、シロイヌナズナcDNAライブラリーをスク
リーニングするために使用した。非再構成cDNAクローンを単離し、シーケンシン
グした。この第2のcDNA配列をAtFtsZと名付け、配列番号3に示した。推定され
るアミノ酸配列(配列番号4)はcpFtsZおよびバクテリアのFtsZタンパク質とお
よそ50%の同一性を示し、他のFtsZタンパク質間で保存されている全ての残基を
含んでいる。推定されるアミノ酸配列はアナベナ(Anabaena)FtsZと56%同一で73
%類似しており、内部共生起源(endosymbiotic origin)およびクロロプラストの
局在性を示唆する。しかしながら、cpFtsZタンパク質と反対に、AtFtsZのin vit
ro翻訳産物は単離クロロプラストに取り込まれることができなかった;これはAt
FtsZ cDNAが完全長でなく、トランジットペプチドをコードする領域を欠いてい
るからかもしれない。このcDNAが完全な遺伝子を含んでいないということは、At
FtsZ cDNA中の最初のATGが38アミノ酸のORFの後に現れ、開始コドンであるには
不十分な前後関係の中にあるという観察によって示唆される(Lutkeら、EMBO J.
6:43-48,1987)。
シロイヌナズナ配列のサザンおよびノーザンブロットのプロービングのために
cpFtsZ cDNAを用いて高いストリンジェンシー条件の下で行なったハイブリダイ
ゼーションテストは、単一のバンドに対するハイブリダイゼーションを示し、cp
FtsZがシロイヌナズナ中で単一の遺伝子にコードされていることを示した。
AtFtsZ cDNAをプローブとして用いて高いストリンジェンシー条件の下で行な
ったハイブリダイゼーションテストは、cpFtsZがハイブリダイズした配列とは異
なる2つの配列へのハイブリダイゼーションを明らかにした。このことはAtFtsZ
と有意な相同性を有する第3のシロイヌナズナFtsZ配列があるかもしれないこと
を示唆する。キメラアンチセンス遺伝子の構築
プラスチド***遺伝子としてのcpFtsZおよびAtFtsZ機能を証明するために、そ
れぞれの遺伝子の発現を低下させプラスチド数と大きさに対する影響を決定する
ためにアンチセンス遺伝子を構築した。この研究のために選択した植物形質転換
ベクターはpART27(Gleave)であった。どちらのアンチセンス構築物も標準的な組
換えDNA技術を用いて作製した。cpFtsZアンチセンス構築物は、743bpのXbaI/Ava
I制限断片をこれと結合可能な制限部位を有するpART27誘導体へアンチセンス方
向でライゲーションしたものからなる(図2)。AtFtsZアンチセンス構築物は、同
じpART27誘導体へアンチセンス方向にライゲーションした1166bpのSpeI/AvaI制
限断片からなる(図3)。大腸菌内でこのライゲーション産物を増幅させた後、ミ
ニプレップ(miniprep)DNAを標準的な方法で精製し、ベクター中のAtFtsZまたはc
pFtsZ断片の適切な挿入を確認するためにいくつかの診断的制限酵素消化にかけ
た。大腸菌形質転換体から単離したプラスミドDNAは、5'から3'の順に、カリフ
ラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、cpFtsZまたはAtFtsZ遺伝子断
片、およびOCSターミネータを含んでいた。キメラcpFtsZセンス遺伝子の構築
プラスミドpZL1(Gibco-BRL)中にcpFtsZ cDNAを含む組換えプラスミドは、シ
ロイヌナズナバイオロジカルリソースセンターから入手したが(カタログ番号105
K17T7)、これをcpFtsZ過剰発現遺伝子の構築に使用した。このプラスミドをNotI
で直線状にし、末端をKlenow断片で埋めた。完全なcpFtsZ cDNAを含む断片は、
このプラスミドを続いてEcoRIで消化し精製することによって得た。この断片をS
maIおよびEcoRIで消化しておいたpART7に方向性をもってライゲーションした。
得られたプラスミドをNotIで消化した。キメラcpFtsZ遺伝子を含む断片を精製し
、NotIで消化しておいたpART27にライゲーションした(図4参照)。キメラ構築物のアグロバクテリウムへの導入
プラスミドDNAを以下のようにアグロバクテリウムGV3101株に導入した:1)
5μl(およそ1〜2μg)のプラスミドDNA調製物を、前に凍結しておいたコ
ンピテントアグロバクテリウム細胞を氷中で溶解したものに加えた; 2)その
細胞を液体窒素で凍結し、37℃の水槽でインキュベーションすることにより溶解
した;3)その細胞を1mlのYEP培地(イーストエキストラクト、ペプトン、食
塩)に加え、緩やかに振盪しながら2〜4時間28℃にてインキュベーションした
; 4)この細胞を1.5mlの遠心管に移し、微量遠心機で30秒間遠心(12,000rpm
)することによりペレット化した; 5)上清を捨て、残ったペレットを100μ
lの液体YEP培地に再懸濁した; 6)この細胞を以下の抗生物質を含むYEPプレ
ート上にスプレッドした:リファンピシン(50μg/ml)、スペクチノマイシン(15
0μg/ml)、およびゲンタマイシン(25μg/ml); 7)コロニーを28℃にて2日
間インキュベーションした。
プラスミドをアグロバクテリウムに移した後に再構成が起こっていないことを
確認するため、各構築物について2個の単離コロニーをリファンピシン(50μg/
ml)、スペクチノマイシン(150μg/ml)およびゲンタマイシン(25μg/ml)を
含むYEP培地の別々のプレート上にストリークし、28℃にて2日間培養した。各
プレートから5個の単離コロニーを3mlのLB液体培地および100μg/mlスペクチ
ノマイシンを含む別々のチューブに移し、振盪培養器で30℃にて2日間培養した
。組換えプラスミドの小スケールDNA調製(ミニプレップ)を標準的な方法で行
なった。5個のDNAサンプルのそれぞれを5μlに溶解し保存した。このDNAをい
くつかの診断的制限酵素消化にかけ、得られた断片の大きさをアガロースゲル電
気泳動で決定した。アグロバクテリウムから単離したプラスミドDNAの消化は、
大腸菌から単離して同様に消化したプラスミドから得られたものと同じ大きさの
断片を生じた。この結果は導入したDNAの再配列は起こらなかったことを示す。シロイヌナズナの形質転換
適切な構築物で形質転換したアグロバクテリウムの単一コロニーを、リファン
ピシン(50μg/ml)、スペクチノマイシン(150μg/ml)およびゲンタマイシン(2
5μg/ml)を含む25mlのYEPを入れたフラスコに移した。振盪培養基で30℃にて
1日インキュベーションした後、25mlの培養液を上記と同じ抗生物質を含
む1lのYEP培地に移した。アグロバクテリウム細胞を振盪培養器で30℃で一晩イ
ンキュベーションした。アグロバクテリウム培養液を遠心機で6000rpmで15分間
の遠心によりペレット化した。細胞ペレットを41の浸透培地(infiltration me
dium)(8.8g Murashige-Skoog塩(Gibco-BRL)、4ml Gamborgの1X B5ビタミン(Gib
co-BRL)、2g MES、pH5.7、18μlベンジルアミノプリン、800μlSilwett L-
77)に再懸濁した。それぞれ6週齢のシロイヌナズナ植物体の入った5個のポッ
トを、浸透培地の入った密閉ガラス真空容器にいれ、15インチHgで15分間保っ
た。次に植物体をパーシバル環境グロースチャンバー(Percivalenvironmental g
rowth chamber)に入れ、20℃にて16昼間時間、15℃にて8夜間時間、70%湿度お
よび100-150μmol m-2s-1の光強度とした。熟した種子を収穫した。形質転換T1世代の実生の同定
種子を滅菌し100μg/mlのカナマイシンを含むMSプレート(Murashige塩4.3g/L
、ショ糖20g/L、フィトアガー(phytagar)7g/L、pH5.8)に移した。プレートを
種子の春化処理のため4℃の冷蔵庫に2日間置き、次に20℃のグロースチャンバ
ーに置いた(20℃にて16昼時間、15℃にて8夜間時間)。カナマイシン耐性を示す
形質転換植物は第1葉および長い分枝根を発達させる実生によって明らかになっ
た。カナマイシン感受性の実生は白い子葉と分枝のない根を伸ばす。濃緑色のカ
ナマイシン耐性形質転換体をバーミキュライトと1X Hoaglandの土壌に移し,T
2種子を集めるため成体になるまで育てた。変化したcpFtsZまたはAtFtsZ発現のクロロプラスト数および大きさに関する調査
変化したcpFtsZまたはAtFtsZ発現がプラスチド***に影響を与えるかどうかを
決定するために、トランスジェニック系統をPykeとLeechによって記載された方
法(Plant Physiol.96:1193-1195,1991)を用いてプラスチド数及び大きさの
変化について調べた。T1またはT2形質転換体の小さな子葉片または葉組織を3.5
%グルタルアルデヒドで1時間固定し、次に、0.1%Na2EDTA pH8.0に
移し、55℃にて3〜5時間インキュベーションした。葉肉細胞を細かく切り分け
、クロロプラストを視覚化できるようにノマルスキー干渉対照光学系(Nomarski
interference contrast optics)を用いてオリンパスBH-2顕微鏡下で調べた。形質転換体におけるクロロプラスト数および大きさの変化
導入したcpFtsZまたはAtFtsZ配列を有する形質転換体は、野生型クロロプラス
トよりもずっと大きく、数の減少したクロロプラストによって特徴づけられる固
有の表現型を示すことが分かった(表1)。これらの結果はこれらの配列がクロロ
プラスト***に重要な役割を演じることを確認するものであり、クロロプラスト
数がトランスジェニック植物において操作し得ることを示すものである。
調べた98のAtFtsZアンチセンス形質転換体のおよそ60%が野生型にくらべて大
きくなって数の減少したクロロプラストを有していた。およそ半分の形質転換体
はわずかに約1〜4倍に大きくなったクロロプラストを有し、およそ10%が約5
から20倍に大きくなったクロロプラストを有していた(表1)。およそ40%の形質
転換体は正常な大きさの野生型の数(80から100)のクロロプラストを有してい
た。
cpFtsZをセンス方向に含んでいる構築物を有する25の形質転換体のうち、7つ
は非常に大きく数が非常に減少したクロロプラストをもった葉肉細胞を有してい
た。cpFtsZセンス変異体のうち7つは野生型の表現型を有し、4つは中間の表現
型を有し、4つは混合した表現型を有していた。3つの形質転換体は野生型より
も小さく、数の多いプラスチドを有していた(表1)。
cpFtsZをアンチセンス方向にもつ構築物を有する26の形質転換体が得られた。
これらの植物体のうち、13は野生型の表現型を示し、4つは非常に大きな、数が
著しく減少したクロロプラストを有し、1つは中間の表現型を有し、13は野生型
の表現型を示し、1つは色々な大きさのクロロプラストを有する葉肉細胞を有し
ていた(表1)。
これらの結果を合わせると、クロロプラストの数の増加または減少のどちらも
cpFtsZまたはAtFtsZ発現レベルを操作することによってトランスジェニック植物
中で達成できることを示すものである。 他の植物種におけるFtsZ配列の同定
他の植物種がシロイヌナズナcpFtsZまたはAtFtsZ配列と相同性のあるDNA配列
を有しているかどうか決定するために、以下のようにサザンハイブリダイゼーシ
ョン実験を行なった。この技術において既知の標準的な方法に従って多数の植物
種からゲノムDNAを単離した。このDNAをEcoRIで消化しアガロースゲル上で電気
泳動的に分離した。このDNA断片をサザンブロッティングによりニトロセルロー
ス膜に移した。cpFtsZc DNAをNotIとSalI消化によりpZL1から単離し、32P-dATP
で放射ラベルし、記載されているように(Ausabelら、Current Protocols in Mo
lecular Biology,John Wiley & Sons,1994、42℃にて水性バッファー中でこの
ブロットにハイブリダイズさせた。このブロットを中程度のストリンジェンシー
(0.2xSSC、45℃)で洗浄し、X線フィルムに露光した。ブロット上に表された
種のいずれにおいても、2またはそれ以上のバンドがcpFtsZプローブにハイブリ
ダイズした。これらの結果はFtsZホモログが他の植物種にも存在し、小さな遺伝
子ファミリーによってコードされることを示すものである。
このハイブリダイゼーション実験の結果は(図X)多数の多様な植物種がシロ
イヌナズナのプラスチド***遺伝子と相同性を有する配列を含むことの証拠を提
供するものである。
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