JP2000297350A - 焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼板およびその製造方法Info
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Abstract
耐疲労性、耐衝撃性、耐常温時効性をともに向上させ
た、熱延鋼板およびその製造方法を提供する。 【解決手段】 C:0.01〜0.12%、Si:2.0 %以下、M
n:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、Al:0.001 〜0.1
%、N:0.003 〜0.02%を含有する圧延素材を熱間圧延
し、熱間圧延終了から0.5sec以内に50℃/s以上の冷却
速度で冷却を開始して、平均結晶粒径が8μm 以下のフ
ェライトを主相とする組織とし、固溶N量を0.003 〜0.
01%、フェライト結晶粒界に存在する平均固溶N濃度N
gbとフェライト結晶粒内に存在する平均固溶N濃度Ng
との比、Ngb/Ng を100 〜10000 とする。
Description
材、足周り部材等の使途に供して好適な薄物熱延鋼板に
関し、とくに焼付硬化性の一層の向上とともに、耐疲労
特性、耐衝撃性および耐常温時効性の向上を同時に図ろ
うとするものである。なお、本発明でいう、焼付硬化性
の向上とは、加工−焼付塗装処理後の降伏強さととも
に、さらに引張強さの増加をも意味するものとする。
燃費向上のため一層の高強度化が要求されている。しか
し、鋼板の高強度化は、プレス成形を困難にするという
問題がある。また、最近では乗員の安全確保と言う目的
から、衝突時におけるような高歪速度下での変形エネル
ギー量で評価させる耐衝撃性の向上が望まれている。
した高強度化技術としては、成形時には比較的低強度で
加工がし易く、塗装時の焼付によって強度を増加させ
る、いわゆる焼付硬化性(BH性)を利用した技術が知
られており、冷延鋼板については広く利用されている
(例えば、特開平6-73498 号公報、特開平7-268544号公
報)。しかしながら、これらの技術で得られる焼付硬化
性の向上は、降伏強さのみが増加し引張強さの増加が得
られないため、自動車外板における耐デント性の向上に
は有効であるが、内装板に要求される耐疲労性や耐衝撃
性の向上には繋がらない。
030 〜0.100 wt%、N:0.0015〜0.0150wt%、Al:0.02
5 〜0.100 wt%を含有する鋼を、1200℃以下に加熱し、
(Ar3+30℃)〜950 ℃の温度で仕上圧延を行い、圧延
後3秒以内に30℃/s以上の冷却速度で500 ℃以下まで
急冷し、400 〜500 ℃で巻き取る、加工性、焼付け硬化
性に優れた熱延鋼板の製造方法が提案されている。特開
平1-180917号公報に記載された技術では、圧延後急冷
し、鋼板中のC、Nの固溶量を増加させることにより、
BH性の向上を図っている。
02〜0.13wt%、N:0.0080〜0.0250wt%、solAl :0.10
wt%以下を含有する鋼を、1100℃以上に再加熱し、850
〜950 ℃の温度で仕上圧延を終了する熱間圧延を施し、
ついで15℃/s以上の冷却速度で、途中空冷を挟み、あ
るいは途中空冷することなく、350 ℃以下まで冷却した
のち巻き取る、焼付け硬化性と加工性に優れた熱延鋼板
の製造方法が提案されている。
010 〜0.025wt %、N:0.0015〜0.0030wt%、Nb:0.01
〜0.05wt%を含有し、solAl :0.008 wt%以下とし、熱
延後の巻取温度を制御することにより固溶C、固溶Nを
適量残存させた焼付け硬化性熱延鋼板が開示され、加工
−塗装焼付処理後に疲労限が上昇するとされる。また、
特開平10-183301 号公報には、C:0.01〜0.12wt%、
N:0.0001〜0.01wt%を含有する鋼において熱延後の冷
却速度や巻取り温度を制御することによりBH量(焼付
け処理による降伏強さの上昇量)を高める技術が開示さ
れている。
1-180917号公報に記載された技術で製造された熱延鋼板
では、耐室温時効性が劣化するという問題を残してい
た。また、塗装焼付処理後の降伏強さは増加するが、同
時に引張強さの増加が期待できないため、耐疲労性、耐
衝撃性の著しい向上も期待できない。また、特開平4-74
824 号公報に記載された技術で製造された熱延鋼板は、
フェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織であ
り、加工−塗装焼付処理後の引張強さは増加するが、耐
室温時効性の向上についての配慮はなく、耐室温時効性
が劣化するという問題を残していた。また、特開昭63-9
6248号公報に記載された鋼板では、降伏強さの増加に比
べ、疲労限の上昇は少なく、上昇量もたかだか25MPa 程
度であり、著しく耐疲労性が向上したとは言い難い。
た技術で製造された熱延鋼板では、主に加工−塗装焼付
け処理後の降伏強さを上昇させることを意図しており、
耐疲労性や耐衝撃性については必ずしも最適な条件を見
出しているものではない。本発明は、上記した従来技術
の問題を有利に解決し、引張強さが370MPaを超える高強
度熱延鋼板において、固溶元素の過剰な添加を必要とせ
ず、焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効
性をともに向上させた、自動車の内装材として好適な熱
延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とす
る。本発明で目的とする焼付硬化性が向上した熱延鋼板
とは、加工−塗装焼付処理により、降伏強さと引張強さ
が同時に増加する焼付硬化性に優れた熱延鋼板をいう。
課題を達成すべく、鋭意研究した結果、加工−塗装焼付
処理後に引張強さが増加し、耐常温時効性にも優れる熱
延鋼板とするには、鋼板中に固溶状態で存在するN、固
溶Nの存在形態を制御し、結晶粒界に存在する固溶N量
を適正範囲内とするのが有効であることに想到した。そ
して、本発明者らは、結晶粒を微細化し結晶粒界を増加
させたうえで、鋼板中に存在する固溶N量を一定量に制
御し、さらに結晶粒界に存在する固溶N量Ngb と粒内に
存在する固溶N量Ngとの比を適正範囲に調整することに
より、耐常温時効性の劣化もなく、加工−塗装焼付処理
後の引張強さが著しく増加し、耐疲労特性、耐衝撃性が
ともに向上するという知見を得た。
いて説明する。0.065 mass%C−0.005 mass%Si−0.49
mass%Mn−0.01mass%P−0.021 mass%Al−0.015 mass
%Nを含む鋼A1 および0.07mass%C−0.12mass%Si−
1.2mass %Mn−0.02mass%P−0.015 mass%Al−0.015
mass%Nを含む鋼B1 を用いて、熱間圧延条件等の製造
条件を調整し、固溶N量、フェライト結晶粒径を種々変
化した熱延鋼板を製造した。 まず、実験1として、鋼
A1 の熱延鋼板では、固溶N量は5 〜100ppm、フェライ
ト結晶粒径は6.0 〜7.9 μm の範囲で変化させ、鋼B1
の熱延鋼板では、固溶N量は5 〜100ppm、フェライト結
晶粒径は6.0 〜7.9 μm および9.0 〜11.9μm の範囲に
変化させた。
ローブを用いて、フェライト結晶粒界および粒内に存在
する固溶N量(以下、それぞれ、Ngb 、Ngと称す。)を
測定した。この測定は、温度50Kにて行い、印加電圧を
7 〜15kV、パルス比を15〜20%とした。この結果、用い
た熱延鋼板はいずれもNgb /Ngが100 〜10000 の範囲内
であった。なお、3次元アトムプローブを用いて測定さ
れる結晶粒界に存在する固溶N量(Ngb)は、結晶粒界
面から±5nmの範囲内に存在する平均固溶N濃度であ
る。
試験片を採取し、通常の引張試験と、8%の引張予
歪を与えたのち一旦除荷して、170 ℃×20min の熱処理
(塗装焼付処理相当)を施し再度引張歪を加える引張試
験を実施し、引張強さを測定し、加工−塗装焼付処理を
施したのちの引張強さTSBHと通常の引張試験により得
られた熱延のままの引張強さTSとの差、ΔTSを計算
した。ΔTSと固溶N量との関係を図1に示す。
9 μm の範囲とし、固溶N量を30ppm 以上とすることに
より、ΔTSは60MPa 以上となり、焼付硬化性が顕著に
改善されることがわかる。一方、フェライト結晶粒径が
9.0 〜11.9μm の範囲では、固溶N量をいかに増加して
もΔTSの60MPa 以上という顕著な増加は望めない。つ
いで、実験2として、鋼B1 の熱延鋼板を用いて、固溶
N量を30〜80ppm 、フェライト結晶粒径を3.0 〜15.0μ
m の範囲で変化させた。
に、フェライト結晶粒界および粒内に存在する固溶N
量、Ngb 、Ngを測定した。また、これら熱延鋼板につい
て、実験1と同様に、加工−塗装焼付処理を施したのち
の引張強さTSBHと通常の引張試験により得られた熱延
のままの引張強さTSとの差、ΔTSを求めた。ΔTS
とフェライト結晶粒径との関係を図2に示す。
下とし、Ngb /Ngを100 〜10000 の範囲内とすることに
より、ΔTSが60MPa 以上となり、焼付硬化性が顕著に
改善されることがわかる。一方、Ngb /Ngが100 未満で
は、フェライト結晶粒径によらず、ΔTSの60MPa 以上
という顕著な増加は望めない。また、これら熱延鋼板か
ら、高速引張試験片を採取し、5%の引張予歪を付加し
たのち一旦除荷し、170 ℃×20min の塗装焼付け処理相
当の熱処理を施し、すいで、歪速度2×103 /sの高歪
速度引張試験を実施し、引張強さと応力−歪曲線を測定
した。測定された応力−歪曲線を用い、歪量30%までの
積分値を求め、吸収エネルギーEとした。吸収エネルギ
ーEとフェライト結晶粒径の関係を図3に示す。
下とし、Ngb/Ng を100 〜10000の範囲内とすること
により、吸収エネルギーEが175 MJ/m3以上となり、耐
衝撃性が顕著に改善されることがわかる。一方、Ngb/
Ng が100 未満では、フェライト結晶粒径によらず、吸
収エネルギーEが175 MJ/m3以上という顕著な増加は望
めない。
鋼板の中から固溶Nが67ppm 、フェライト結晶粒径が6.
2 μm 、Ngb /Ngが126 であったものおよび固溶N量が
12ppm 、フェライト結晶粒径が9.6 μm 、Ngb /Ngが87
であったものを選んで、実験1と同様の実験を行った。
なお、引張予歪は2〜10%の範囲で変化させた。加工一
塗装焼付処理を施したのちの引張強さTSBHと通常の引張
試験により得られた熱延のままの引張強さTSとの差、△
TSを求め、△TSと予歪量との関係を図4に示す。
溶N量67ppm 、Ngb /Ngが126 のものでは、予歪量の増
加に従い、△TSが大きくなる。また、いずれの予歪量に
おいても大きな△TSを示している。5%の予歪の場合に
は△TS:50MPa 以上、8%の予歪の場合には△TS:60M
Pa 以上となる。本発明は、上記した知見に基づきさら
に検討を加え構成されたものである。
〜0.12%、Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.
2 %以下、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.003 〜0.02%を
含有し、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる組成
と、平均結晶粒径が8μm 以下、好ましくは6μm 以下
のフェライトを主相とする組織を有し、さらに質量%で
0.003 〜0.01%、好ましくは0.005 〜0.01%の固溶N量
を有し、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に存
在する平均固溶N濃度Ngb とフェライト結晶粒内に存在
する平均固溶N濃度Ngとの比、Ngb /Ngが100 〜10000
の範囲であることを特徴とする焼付硬化性、耐疲労性、
耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼板で
あり、また、本発明では、前記組成に加えて、質量%
で、Ti:0.001 〜0.1 %およびNb:0.001 〜0.1 %のう
ちの1種または2種を含有する組成とするのが好まし
く、また、本発明では、前記各組成に加えて、質量%
で、Ni:0.1 〜1.5 %、Cr:0.1 〜1.5 %、Mo:0.1 〜
1.5 %のうちの1種または2種以上を含有するのが好ま
しく、また、本発明では、前記組織が、第2相として、
パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オース
テナイトのうちの1種または2種以上を含有する組織と
するのが好ましい。
力熱延鋼板の表面に、めっき層を形成してなることを特
徴とする焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温
時効性に優れた高張力熱延鋼板である。また、本発明
は、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:2.0 %以下、M
n:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、Al:0.001 〜0.1
%、N:0.003 〜0.02%を含む組成の鋼素材を、1000〜
1300℃、好ましくは1070〜1180℃の温度範囲に加熱し、
粗圧延後、最終スタンド圧下率を10%以上、最終仕上圧
延温度FDTを(Ar3+100℃)〜(Ar3+10℃)の温
度範囲とする仕上圧延を行い、圧延終了後0.5sec以内に
50℃/s 以上の冷却速度で冷却し、巻取温度:600 〜35
0 ℃の温度範囲で巻き取ることを特徴とする焼付硬化
性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高
張力熱延鋼板の製造方法であり、また本発明では、前記
組成に加えて、質量%で、Ti:0.001 〜0.1 %およびN
b:0.001 〜0.1 %のうちの1種または2種を含有する
組成とするのが好ましく、また、本発明では、前記各組
成に加えて、質量%で、Ni:0.1 〜1.5 %、Cr:0.1 〜
1.5 %、Mo:0.1〜1.5 %のうちの1種または2種以上を
含有するのが好ましい。
限定理由について説明する。なお、以下組成における%
は質量%を意味する。 C:0.01〜0.12% Cは、鋼の強度を増加させる元素であり、0.01%以上の
含有を必要とする。一方、0.12%を超えて含有すると溶
接性が劣化する。このため、本発明では、Cは0.01〜0.
12%の範囲に限定した。
り、所望の強度に応じ含有量を調整する。しかし、2.0
%を超える含有は加工性を劣化させる。このため、Siは
2.0 %以下に限定した。なお、強度の確保の観点から
は、Siは0.003 %以上含有するのが望ましい。
性を防止する元素であり、本発明では積極的に含有させ
る。しかし、3.0 %を超えて含有すると加工性が劣化す
る。このため、Mnは3.0 %以下に限定した。なお、所望
の強度を確保し、熱間脆性を防止するためには0.01%以
上の含有を必要とする。
確保するためにを0.005 %以上含有させるのが望まし
い。しかし、0.2 %を超えて含有すると、溶接性が劣化
し、またPが粒界に偏析し粒界割れを発生させる恐れが
ある。このため、Pは0.2 %以下に限定した。
%以上の含有を必要とする。一方、0.1 %を超える含有
は、表面性状を劣化させる。このため、Alは0.001 〜0.
1 %の範囲に限定した。 N:0.003 〜0.02% Nは、本発明では重要な元素であり、鋼板中に固溶して
加工−塗装焼付処理後の降伏強さ、とくに引張強さを増
加させるに有効に作用する。このためには、鋼板中に固
溶Nを0.003 %以上、好ましくは0.005 %以上残存させ
る必要があり、N含有量の下限を0.003 %とした。な
お、好ましくは0.005 %以上である。一方、0.02%を超
えると成形性が劣化する。このため、Nは0.003 〜0.02
%の範囲に限定した。
1 %のうちの1種または2種 Ti、Nbは、いずれも炭化物、窒化物、硫化物を形成し強
度および靱性の向上に寄与する。これらの効果は、0.00
1 %以上の含有で認められるが、0.1 %を超えて含有す
ると焼付硬化性に寄与するC、N量が減少し、所望の焼
付硬化性を確保できなくなる。このため、Ti、Nbは、い
ずれも0.001 〜0.1 %の範囲に限定するのが好ましい。
o:0.1〜1.5 %のうちの1種または2種以上 Ni、Cr、Moは、いずれも固溶強化により鋼の強度を増加
させる元素であるとともに、熱延後の冷却過程でオース
テナイト( γ)を安定化し2相組織を形成しやすくする
効果もある。このような効果は、0.1 %以上の含有で認
められる。一方、1.5 %を超えると、成形性、めっき
性、スポット溶接性を劣化させる。このため、Ni、Cr,
Moは、いずれも0.1 〜1.5 %の範囲とするのが好まし
い。
の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純
物としては、S、Oは、非金属介在物を形成し品質に悪
影響を及ぼすためそれぞれ0.05%以下、0.01%以下に低
減するのが望ましい。上記した組成を有する本発明の熱
延鋼板の組織はフェライトを主相とし、主相のみあるい
は主相と第2相とからなる。本発明では、とくに焼付硬
化性を顕著に高め、同時に耐疲労性、耐衝撃性を向上さ
せるため、組織を微細化し、さらに固溶N量と、固溶N
の存在形態を適正に調整する。
の平均結晶粒径を8μm 以下とする。結晶粒を微細化
し、固溶Nの存在位置としての結晶粒界を増加させる。
フェライトの平均結晶粒径が8μm を超えると、図2に
示すように、加工−塗装焼付処理後の引張強さの著しい
増加が得られず、焼付硬化性の顕著な向上が得られな
い。そして、引張強さの増加がないため、耐疲労性、耐
衝撃性の向上が望めない。なお、加工−塗装焼付処理後
の引張強さの増加という観点からは、フェライトの平均
結晶粒径は6μm 以下とするのが好ましい。さらに、フ
ェライト結晶粒を微細化することにより粒界面積が増大
し、粒界に存在する固溶Nの比率が高くなり、常温での
時効性劣化が抑制される。これは、粒界中に存在する固
溶Nが安定で、常温において拡散することができないた
めである。フェライトの結晶粒径が8μm を超えると、
この効果は著しく低減する。
テンサイト、残留オーステナイトのうちの1種または2
種以上とするのが望ましい。第2相を存在させることに
より、高価な添加元素を多量に添加することなく高強度
化が可能となり耐疲労性、耐衝突性が向上する。第2相
の体積率は3〜30%とするのが加工性の観点から望まし
い。
0.0030〜0.01%の固溶N量を残存させる。固溶Nが0.00
30%未満では、図1に示すように、加工−塗装焼付処理
後の引張強さの増加量が少なく、焼付硬化性の顕著な向
上が得られない。そして、引張強さの増加がないため、
耐疲労性、耐衝撃性の著しい向上が望めない。一方、固
溶N量が0.01%を超えると、室温での時効が顕著とな
り、降伏点が大きく上昇し降伏伸びが顕著となり、全伸
びが減少して、実用上問題となる。このため、熱延鋼板
中に固溶状態で存在するN量は0.003 〜0.01%、好まし
くは0.005 〜0.01%の範囲に限定した。本発明でいう、
固溶状態で存在するN量は、湿式分析により得られた鋼
中N量から抽出分離法により得られたN化物量を差し引
くことにより得られる値を用いるものとする。
り、Ngは、フェライト粒内に存在する固溶N濃度であ
り、3次元アトムプローブ、分析電子顕微鏡、オージェ
電子分光法等を用いて測定される。固溶N量の測定にお
いては、粒内より測定を開始し、粒界を経て隣接する粒
内まで連続的に測定するか、もしくは粒界表面より粒内
まで連続的に測定する。測定は1次元的、2次元的、3
次元的のいずれであっても良い。各測定手段に応じてイ
オン化原子、特性X線、オージェ電子等を検出、解析を
おこない、粒界より離れて安定した部分での固溶Nの濃
度Ng、および粒界に対し±5nmの範囲において平均した
固溶N濃度Ngb を求める。これを少なくとも3箇所以上
の粒界に対して行ない平均したものを、各々Nb、Ngbと
する。
処理後の引張強さの増加量が少なく、焼付硬化性、耐疲
労性、耐衝撃性の顕著な向上がみられない。一方、Ngb
/Ngが10000 を超えると結晶粒界の固溶Nが析出し、加
工−塗装焼付処理後の引張強さの増加量が少なくなる。
このため、Ngb /Ngは100 〜10000 の範囲に限定した。
り、加工−塗装焼付処理後に引張強さが顕著に増加する
理由については、現在のところ詳細には明らかでない
が、以下のように考えられる。加工されたために可動転
位を有する鋼板に、塗装焼付処理のような熱処理を施す
と、可動転位と固溶Nとの相互作用により、固溶Nが可
動転位周辺に凝集し、可動転位を固着して降伏応力を増
加させる。さらに固溶N量が増加すると、コットレル雰
囲気の形成に加え、微細窒化物の析出により転位が固着
され、さらに窒化物や固着転位が可動転位の運動の障害
となり強度が増加する。可動転位の発生源は結晶粒界で
あり、結晶粒が微細化され、結晶粒界が増加すると、同
一歪量だけ加工されても、可動転位は高密度にしかも均
一に分布する。可動転位の障害物としての固着された転
位も高密度に分布し、このため可動転位の運動が困難と
なり、鋼板の強度が顕著に増加する。さらに、Ngb /Ng
を大きくする、すなわち結晶粒界に存在する固溶N量が
多いほど、粒界近傍に堆積している可動転位群に固溶N
が拡散しやすく、効率的に可動転位を固着する。一方、
粒内に存在する固溶Nは、フェライト地の強化に寄与す
るのみで、加工−塗装焼付処理による引張強さの増加に
寄与する割合は少ない。
た鋼板では、高歪速度下で変形しても、低歪速度変形下
と同様に、微細窒化物、固着転位が転位の移動の障害と
なるために強度が増加し、変形時に要する変形エネルギ
ーが大きくなり、耐衝撃性が向上する。また、繰り返し
荷重を付加した場合にも、固着転位、微細窒化物が密に
分布しているため、疲労亀裂の進展の抵抗となるため疲
労強度が増加する。
明する。まず、上記した質量%で、C:0.01〜0.12%、
Si:2.0 %以下、Mn:0.01〜3.0 %、P:0.2 %以下、
Al:0.001 〜0.1 %、N:0.003 〜0.02%を含み、ある
いはさらにTi:0.001 〜0.1 %およびNb:0.001 〜0.1
%のうちの1種または2種および/またはNi:0.1 〜1.
5 %、Cr:0.1 〜1.5 %、Mo:0.1〜1.5 % のうちの1
種または2種以上を含有し、残部が実質的にFeである組
成の鋼素材を、加熱炉等通常公知の装置で加熱する。ま
た、圧延用鋼素材は、公知の溶製方法により溶製された
溶鋼を、公知の連続鋳造法、あるいは造塊法により鋳造
凝固され、スラブ等の形状とされるのが好ましい。
は、加熱時に窒化物を溶解させておく必要があり、ま
た、熱延板の組織を微細化するためには、加熱温度を低
くして加熱時のオーステナイト粒をできるだけ細かくす
る方が好ましい。このようなことから、加熱温度は1000
℃〜1300℃、より好ましくは1070℃〜1180℃とするのが
望ましい。1000℃未満ではNの析出が進行し、熱延板中
に固溶状態でNを残存させるのが困難となる。また、13
00℃を超えると、フェライトの平均結晶粒径を8μm 以
下とすることも困難となる。
れる。熱間圧延は、粗圧延、および仕上圧延とからな
る。粗圧延により適当な厚さに調整された鋼素材は、つ
いで仕上圧延を施される。仕上圧延は、最終スタンド圧
下率を10%以上、最終仕上圧延温度FDTを(Ar3+10
0 ℃)〜(Ar3+10℃)の温度範囲とする圧延とする。
延後の急冷処理を行っても結晶粒の微細化、適正量の固
溶Nを確保できない。一方、FDTが(Ar3+10℃)未
満では、変態前の板厚方向での歪分布が不均一となり、
フェライトの平均結晶粒径が8μm 以下に微細化できな
い。このようなことから、FDTは(Ar3+100 ℃)〜
(Ar3+10℃)の温度範囲に限定した。
は、フェライト変態前の歪の蓄積が十分でなく、結晶粒
の微細化、固溶Nの存在形態の制御が不十分となる。こ
のため、最終スタンドの圧下率を10%以上とした。な
お、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下であ
る。仕上圧延終了後0.5sec以内に50℃/s 以上の冷却速
度で冷却し、巻取温度:600 〜350 ℃の温度範囲で巻き
取る。
大きくするために、圧延終了後0.5sec以内に50℃/s 以
上の冷却速度で冷却する。これにより、より多くのフェ
ライト核を生成しフェライト変態を促進させるととも
に、γ中の固溶Nがフェライト粒内に拡散するのを抑制
でき、フェライト粒界に存在する固溶N量が増加し、Ng
b /Ngを大きくできる。急冷開始までの時間が0.5secを
超えたり、冷却速度が50℃/s 未満では、固溶Nが析出
し、所望の固溶N量が確保できなくなり、焼付硬化性と
くに△TSが低下する。また、急冷開始までの時間が0.
5secを超え、あるいは冷却速度が50℃/s 未満では、フ
ェライトの核生成が遅延され、Nを効率的に粒界に分配
することが困難となる。また、冷却が遅れ粒成長が生
じ、フェライトの平均粒径を8μm 以下とすることが困
難となる。
に、固溶Nの析出が生じ、焼付硬化に必要な固溶N量を
所定値以上とすることができない。一方、巻取温度が35
0 ℃未満では、板形状が悪化したり、通板性が劣化する
など操業上の問題が発生する。このことから、巻取温度
は600 〜350 ℃の範囲に限定した。上記した本発明の熱
延鋼板は各種めっき用原板として好適であり、表面に各
種めっき層を形成し、各種めっき鋼板として使用しても
よい。めっきの種類としては、電気亜鉛めっき、溶融亜
鉛めっき、電気錫めっき、電気クロムめっき、電気ニッ
ケルめっきが挙げられ、いずれも本発明の熱延鋼板表面
に形成されるめっき層として好適である。
鋳造法でスラブとした。これらスラブを加熱温度:1080
℃に加熱し、粗圧延で適正な厚さにしたのち、表2に示
す条件で仕上圧延し、圧延後急冷し、表2に示す巻取温
度でコイル状に巻き取った。これら熱延鋼板について、
組織試験、引張試験、焼付硬化性試験、耐衝撃性試験、
常温時効性試験、疲労試験を実施した。 (i)組織試験 これら熱延鋼板の、圧延方向と直角な断面について、光
学顕微鏡により組織を観察し、熱延鋼板の組織を同定し
た。また、光学顕微鏡写真を用いてASTMにより規定
された粒径測定方法である求積法によりフェライトの平
均結晶粒径を測定した。
と、AlN として存在するN量を測定した。熱延鋼板中の
固溶N量は、{(熱延鋼板中のN量)−(AlN として存
在するN量)}の値を用いた。Ngb 、Ngは、3次元アト
ムプローブを用いて測定し、3個以上のフェライト粒
内、および粒界面についての平均値を用いた。 (ii)引張試験 これら熱延鋼板から、JIS 13 B号引張試験片を採取し、
歪速度10-3/s で引張試験を実施し、降伏点YS、引張
強さTS、伸びElを測定した。 (iii )焼付硬化性試験 これら熱延鋼板から、JIS 13 B号引張試験片を採取し、
5%の引張予歪を付加したのち一旦除荷し、170 ℃×20
min の塗装焼付処理相当の熱処理を施し、ついで引張試
験を再度行って引張強さTSBHを測定した。塗装焼付処
理相当の熱処理後の引張強さTSBHと熱延のままの引張
強さTSの差、ΔTS=TSBH−TS、を求め、ΔTS
を加工−塗装焼付処理による引張強さの増加量とした。 (iv)耐衝撃性試験 これら熱延鋼板から、高速引張用試験片を採取し、5%
の引張予歪を付加したのち一旦除荷し、170 ℃×20min
の塗装焼付処理相当の熱処理を施し、ついで、歪速度2
×103 /s の高歪速度引張試験を実施し、引張強さTS
HSと応力−歪曲線を測定した。測定された応力−歪曲線
を用い、歪量30%までの積分値を求め、吸収エネルギー
Eとした。なお、高歪速度引張試験の試験片寸法や試験
方法は、Journal of the Society of Material Science
Japan, vol.47, No.10, p1058(1998)に準拠した。 (v)疲労試験 これら熱延鋼板から、疲労試験片を採取し、5%の引張
予歪を付加したのち一旦除荷し、170 ℃×20min の塗装
焼付処理相当の熱処理を施し、ついで、JIS Z2273の規
定に準拠した引張疲労試験を行い、S−N曲線から疲労
限(1×107 回) σwBH を求めた。なお、熱延のままの
鋼板についても同様の疲労試験を実施し疲労限σw を求
めた。熱延のままの鋼板の疲労限との差、Δσw =σ
wBH −σwを耐疲労性の向上量とした。 (vi)常温時効性試験 これら熱延鋼板から試料を採取し、50℃×400hr の時効
処理を施したのちJIS13 B号引張試験片を採取し、引張
試験を実施し、伸びElA を測定した。熱延のままの鋼
板の伸びElとの差、ΔEl=El−ElA で耐常温時
効性の評価を行った。
装焼付処理後の引張強さと熱延のままの鋼板の引張強さ
の差、5%予歪におけるΔTSが40MPa 以上と、高い焼
付硬化性を有し、塗装焼付処理後の鋼板の疲労限と熱延
のままの鋼板の疲労限の差、Δσw も110MPa以上と、著
しく向上した耐疲労性を示し、さらに高歪速度での変形
に際して吸収される吸収エネルギーEも160MJ/m3以上と
優れた耐衝撃性を有している。さらに、常温時効による
伸びの低下量も0.6 〜1.2 %と顕著でなく、耐常温時効
性の低下も少ない。これに対し、本発明の範囲を外れる
比較例は、ΔTSが9MPa 以下、Δσw が65MPa 以下と
焼付硬化性、耐疲労性の向上が少ない。鋼板No.1-6は、
固溶N量が本発明範囲を外れて多すぎるため耐常温時効
性が劣化している。
用して好適な、焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性に優
れ、耐常温時効性の劣化の少ない熱延鋼板が、安定して
製造できるという、産業上格段の効果を奏する。
延のままの鋼板の引張強さの差、ΔTSにおよぼす固溶
N量の影響を示すグラフである。
延のままの鋼板の引張強さの差、ΔTSにおよぼすフェ
ライト結晶粒径の影響を示すグラフである。
高歪速度引張試験における加工−塗装
焼付処理後の鋼板の吸収エネルギーEにおよぼすフェラ
イト結晶粒径の影響を示すグラフである。
引張予歪量と△TSとの関係を示すグ
ラフである。
Claims (8)
- 【請求項1】 質量%で、 C:0.01〜0.12%、 Si:2.0 %以下、 Mn:0.01〜3.0 %、 P:0.2 %以下、 Al:0.001 〜0.1 %、 N:0.003 〜0.02% を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる組成
と、平均結晶粒径が8μm 以下のフェライトを主相とす
る組織を有し、さらに重量%で0.003 〜0.01%の固溶N
量を有し、フェライト結晶粒界面から±5nmの範囲内に
存在する平均固溶N濃度Ngb とフェライト結晶粒内に存
在する平均固溶N濃度Ngとの比、Ngb /Ngが100 〜1000
0 の範囲であることを特徴とする焼付硬化性、耐疲労
性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼
板。 - 【請求項2】 前記組成に加えて、質量%で、Ti:0.00
1 〜0.1 %およびNb:0.001 〜0.1 %のうちの1種また
は2種および/またはNi:0.1〜1.5 %、Cr:0.1〜1.5
%、Mo:0.1〜1.5 %のうちの1種または2種以上を含有
することを特徴とする請求項1に記載の焼付硬化性、耐
疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高張力熱
延鋼板。 - 【請求項3】 前記フェライトの平均結晶粒径が6μm
以下であり、かつ前記固溶N量が質量%で0.005 〜0.01
%であることを特徴とする請求項1または2に記載の焼
付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優
れた高張力熱延鋼板。 - 【請求項4】 前記組織が、第2相として、パーライ
ト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト
のうちの1種または2種以上を含有する組織であること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の焼付
硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れ
た高張力熱延鋼板。 - 【請求項5】 請求項1ないし4のいずれかに記載の高
張力熱延鋼板の表面に、めっき層を形成してなることを
特徴とする焼付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常
温時効性に優れた高張力熱延鋼板。 - 【請求項6】 質量%で、 C:0.01〜0.12%、 Si:2.0 %以下、 Mn:0.01〜3.0 %、 P:0.2 %以下、 Al:0.001 〜0.1 %、 N:0.003 〜0.02% を含む組成の鋼素材を、1000〜1300℃の温度範囲に加熱
し、粗圧延後、最終スタンド圧下率を10%以上、最終仕
上圧延温度FDTを(Ar3+100 ℃)〜(Ar3+10℃)
の温度範囲とする仕上圧延を行い、圧延終了後0.5sec以
内に50℃/s 以上の冷却速度で冷却し、巻取温度:600
〜350 ℃の温度範囲で巻き取ることを特徴とする焼付硬
化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた
高張力熱延鋼板の製造方法。 - 【請求項7】 前記組成に加えてさらに、質量%で、T
i:0.001 〜0.1 %およびNb:0.001 〜0.1 %のうちの
1種または2種および/またはNi:0.1 〜1.5%、Cr:
0.1 〜1.5 %、Mo:0.1 〜1.5 %のうちの1種または2
種以上を含有することを特徴とする請求項6に記載の焼
付硬化性、耐疲労性、耐衝撃性および耐常温時効性に優
れた高張力熱延鋼板の製造方法。 - 【請求項8】 前記1000〜1300℃の温度範囲に加熱する
に代えて、1070〜1180℃の温度範囲に加熱することを特
徴とする請求項6または7に記載の焼付硬化性、耐疲労
性、耐衝撃性および耐常温時効性に優れた高張力熱延鋼
板の製造方法。
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