WO2014155934A1

WO2014155934A1 - 変速機の潤滑構造

Info

Publication number: WO2014155934A1
Application number: PCT/JP2014/000669
Authority: WO
Inventors: 真也田外; 憲之和田; 泰樹岡留
Original assignee: マツダ株式会社
Priority date: 2013-03-29
Filing date: 2014-02-07
Publication date: 2014-10-02
Also published as: JP2014194247A; CN105074285B; CN105074285A; DE112014001757T5; JP5966997B2; US20160033028A1; US9528593B2; DE112014001757B4

Abstract

　ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集する給油部材（１００）に設けられて該オイルを変速機の軸方向の一側から他側に案内する樋部が、互いに並設された第１樋部（１３１）及び第２樋部（１３２）で構成され、前記給油部材の前記一側の部分には、第１樋部と第２樋部との間に立設されかつ前記ギヤとしての変速用ギヤ（２１，２２）により掻き揚げられたオイルを捕集して第１樋部に導く捕集壁（１２４）が設けられ、変速機ケース（２）には、前記変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルのうち変速機ケースの天井面（２ｃ）に付着したオイルを、第２樋部に案内するガイド部（１５０）が設けられている。

Description

変速機の潤滑構造

　本発明は、変速機の潤滑構造、特にギヤによる掻き揚げ給油を行う手動変速機の潤滑構造に関する技術分野に属する。

　手動変速機においては、例えば入力軸及び出力軸の軸受部、各変速ギヤの噛み合い部、前記入力軸及び出力軸におけるギヤの遊嵌合部及び同期装置等に潤滑用のオイルを供給するようになっており、このオイルの供給は、変速機ケースの底部に貯留したオイルをギヤの回転によって掻き揚げ、これを樋状の給油部材で受け取って各被潤滑部に供給するという掻き揚げ給油によって行われるのが通例である。

　例えば、特許文献１に開示されたオイル供給装置は、差動装置のケースが一体化された変速機ケースに収納された、ＦＦ車（フロントエンジン・フロンドドライブ車）用の変速機において、前記変速機ケース内の最も下部に配置されて変速機からの出力を差動装置に入力する大径のデフリングギヤによりオイルを掻き揚げ、このオイルを、入力軸及び出力軸の上方に配置された貯留部材（給油部材）に変速機の前側（エンジン側）から導入して、該貯留部材の貯留部に貯留した後、変速機の後側（反エンジン側）に案内して、入力軸の後端部から該入力軸の軸内油路に供給すると共に、前記貯留部の底部に設けたオイル滴下孔から入力軸、出力軸、各変速ギヤの噛み合い部、同期装置などにオイルを滴下させるように構成されている。

　しかし、前記特許文献１に開示されたオイル供給装置においては、もっぱらデフリングギヤによって掻き揚げられたオイルを各被潤滑部に供給する構成であるから、デフリングギヤが逆方向に回転する車両後退時には、掻き揚げられたオイルを貯留部材で十分に捕集することができず、したがって、車両後退時に各被潤滑部への給油量が不足する可能性がある。

　これに対して、特許文献２では、入力軸及び出力軸のうちの下方に位置する出力軸に遊嵌合された従動ギヤ、特に比較的大径の前進低速変速段用ギヤ列の従動ギヤを利用し、この従動ギヤの回転によって変速機ケース底部のオイルを掻き揚げてオイルガター（給油部材）で捕集するようにしている。

　これによれば、出力軸に遊嵌合された前進低速変速段用ギヤ列の従動ギヤは、車両後退時も車両前進時と同方向に回転することから、車両後退時においてもオイルを掻き揚げて給油部材に捕集させ、これを各被潤滑部に供給することが可能となる。

特開２０１１－１８５３３２号公報特開２０１１－１３７４９３号公報

　ところで、手動変速機においては、エンジンの燃費性能の向上のために、変速機ケースに貯留するオイル量を低減することによって、車両重量の低減と、デフリングギヤ等によるオイル撹拌抵抗の低減とが望まれている。したがって、オイルを掻き揚げるギヤの下部が確実に、変速機ケースの底部に貯留されたオイルに浸漬する範囲で、該貯留するオイル量をできるだけ少なくすることが望まれる。

　ここで、前進低速変速段用ギヤ列の従動ギヤによる掻き揚げ給油を行うようにしたとしても、車両後退時のように、前記デフリングギヤによる掻き揚げ給油が期待できない場合には、給油部材により捕集されるオイルの量が少なくなり、この場合、変速機ケースの底部に貯留されるオイル量が少ないと、変速機において潤滑が必要な箇所への要求オイル量を確保することがより一層困難になる。

　本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、変速機ケースに貯留するオイル量をできるだけ少なくしながら、潤滑が必要な箇所に必要な量のオイルを確実に供給することができるような、変速機の潤滑構造を提供することにある。

　上記の目的を達成するために、本発明では、変速機の潤滑構造を対象として、変速機ケース内に配設され、ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集する給油部材を備え、前記給油部材は、該給油部材に設けられた樋部により、前記捕集したオイルを、前記変速機の軸方向の一側から他側に案内して、前記変速機ケース内の前記他側の部分に位置する被潤滑部に供給するように構成され、前記給油部材の樋部は、互いに並設された第１樋部及び第２樋部で構成され、前記給油部材の前記一側の部分には、前記第１樋部と前記第２樋部との間に立設されかつ該給油部材の第１樋部側の側方に位置する、前記ギヤとしての変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集して該第１樋部に導く捕集壁が設けられ、前記変速機ケースには、前記変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルのうち該変速機ケースの天井面に付着したオイルを、該第２樋部に案内するガイド部が設けられている、という構成とした。

　前記の構成により、給油部材の第１樋部側の側方に位置する変速用ギヤにより掻き揚げられて捕集壁によって捕集されたオイルは、第１樋部に導かれて、該第１樋部を介して所定の被潤滑部に供給されると共に、前記変速用ギヤにより掻き揚げられてガイド部によって案内されたオイルは、第２樋部に導かれて、該第２樋部を介して他の被潤滑部に供給されることになる。その場合に、ガイド部により、変速用ギヤによって掻き揚げられて変速機ケースの天井面に付着したオイルが第２樋部に案内されるので、例えば、変速ギヤによる掻き揚げ給油しか期待できない車両後退時においても、第２樋部を介してオイルが供給される前記他の被潤滑部に所要量のオイルが供給されることになる。したがって、前記他の被潤滑部に給油するために変速機ケースの底部に貯留するオイル量を増量する必要性が軽減されるので、該オイル量をできるだけ少なくしながら、潤滑が必要な被潤滑部に必要な量のオイルを確実に供給することができる。

　なお、前記変速用ギヤにより掻き揚げられて変速機ケースの天井面に付着したオイルは、該天井面と前記捕集壁の上端との間の間隙を通過して第２樋部側に流れることになる。ところで、前機変速機ケース及び給油部材の各部の寸法公差やケース天井面の表面粗さ等を考慮して、捕集壁の上端が天井面に当接することを避けるように給油部材を設ける必要がある。このため、該捕集壁の上端と天井面との間には前記間隙が必ず生じる。このことから、ガイド部は、このようにして設けられる間隙を好適に利用したものであるということができる。

　前記変速機の潤滑構造の一実施形態では、前記被潤滑部は、前記変速機の入力軸としてのプライマリシャフト上の被潤滑部と、該プライマリシャフトと平行に延びるセカンダリシャフト上の被潤滑部とを含み、前記第１樋部は、前記オイルを前記プライマリシャフト上の被潤滑部に供給するように構成され、前記第２樋部は、前記オイルを前記セカンダリシャフト上の被潤滑部に供給するように構成されている。

　このことにより、例えば、変速ギヤによる掻き揚げ給油しか期待できない車両後退時においても、共に動力伝達を行うプライマリシャフト及びセカンダリシャフトの両方に必要量のオイルを給油することができる。

　前記変速機の潤滑構造の他の実施形態では、前記変速用ギヤは、前記変速機の入力軸としてのプライマリシャフトと平行に延びるセカンダリシャフト上の１速用及び２速用ギヤであり、前記ガイド部は、前記変速機ケースの天井面に設けられたリブを含み、前記リブは、前記変速機の軸方向において前記セカンダリシャフト上の１速用及び２速用ギヤを含む範囲で該軸方向に延びるように設けられている。

　こうすることで、セカンダリシャフト上の１速用及び２速用ギヤ（前進低速変速段用ギヤ列の従動ギヤ）により掻き揚げられて変速機ケースの天井面に付着したオイルを、ガイド部により、できるだけ多く第２樋部に案内することができる。

　前記変速機の潤滑構造の更に他の実施形態では、前記第２樋部の前記一側には、前記給油部材の第２樋部側の側方に位置するデフリングギヤにより掻き揚げられたオイルが導入されるオイル導入部が設けられ、前記給油部材に、前記第２樋部のオイル導入部に導入されたオイルの一部を前記第１樋部に導く連絡路が設けられている。

　これにより、例えば、デフリングギヤにより掻き揚げられたオイルの捕集が可能な車両前進時には、デフリングギヤにより第２樋部に多量のオイルが導入されるので、第２樋部を介してオイルが供給される被潤滑部を良好に潤滑することができるようになる。また、連絡路により、第２樋部に導入された多量のオイルの一部が第１樋部に導かれるので、第１樋部を介してオイルが供給される被潤滑部と、第２樋部を介してオイルが供給される被潤滑部との両方に、十分なオイルを供給することができる。

　以上説明したように、本発明の変速機の潤滑構造によると、ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集する給油部材に設けられて該オイルを変速機の軸方向の一側から他側に案内する樋部が、互いに並設された第１樋部及び第２樋部で構成され、前記給油部材の前記一側の部分には、前記第１樋部と前記第２樋部との間に立設されかつ該給油部材の第１樋部側の側方に位置する、前記ギヤとしての変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集して該第１樋部に導く捕集壁が設けられ、前記変速機ケースには、前記変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルのうち該変速機ケースの天井面に付着したオイルを、該第２樋部に案内するガイド部が設けられていることにより、第２樋部を介してオイルが供給される被潤滑部に給油するために変速機ケースに貯留するオイル量を増量する必要性が軽減され、よって、該オイル量をできるだけ少なくしながら、潤滑が必要な被潤滑部に必要な量のオイルを確実に供給することができる。

本発明の実施形態に係る潤滑構造を適用した変速機の基本構造を示す展開断面図である。前記変速機の給油部材の配置を示す変速機の後側から見た概略図である。前記変速機の側方から見た概略図である。給油部材を示す斜視図である。給油部材を示す平面図である。図５のａ－ａ線に沿って切断した拡大断面図である。変速機の後部におけるプライマリシャフト側の給油構造を示す、上側から見た断面図である。変速機の後部におけるセカンダリシャフト側の給油構造を示す、側方から見た断面図である。図５のｂ－ｂ線に沿って切断した拡大断面図である。図９のｃ－ｃ線に沿って切断した拡大断面図である。図３のｄ－ｄ線に沿って切断した、変速機ケース上部の概略断面図である。図である。

　以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。

　まず、図１により、本実施形態に係る潤滑構造が適用された変速機１の構造を説明する。変速機１に対して図１の右側にエンジン（図示せず）が配設され、このエンジンからの動力が、該エンジンの出力軸にクラッチを介して連結された、変速機１の入力軸としてのプライマリシャフト１０に入力される。プライマリシャフト１０が延びる方向（図１の左右方向）が、変速機１の軸方向である。変速機１の軸方向のエンジン側（図１の右側）が、変速機１の前側であり、反エンジン側（図１の左側）が、変速機１の後側である。以下、変速機１についての前及び後を、単に前及び後という。

　変速機１は、車両の前部のエンジンルーム内に、前記軸方向が車幅方向になるように横置き状態で搭載される。

　変速機１は、本実施形態では、前進６速、後進１速の手動変速機であって、変速機ケース２（以下、単にケース２という）内に、前記プライマリシャフト１０と、該プライマリシャフト１０に平行に配置された、変速機１の出力軸としてのセカンダリシャフト２０とが配設されている。また、これら両シャフト１０，２０間に、前側から、１速用ギヤ列Ｇ１、後退速用ギヤ列ＧＲ、２速用ギヤ列Ｇ２、３速用ギヤ列Ｇ３、４速用ギヤ列Ｇ４、５速用ギヤ列Ｇ５、及び、６速用ギヤ列Ｇ６が配設されている。前記エンジンからプライマリシャフト１０に入力された動力が、これら７つのギヤ列のうちの１つのギヤ列を介して、セカンダリシャフト２０に伝達される。

　１速用ギヤ列Ｇ１は、プライマリシャフト１０に固設された１速用プライマリギヤ１１と、セカンダリシャフト２０に遊嵌合された１速用セカンダリギヤ２１とで構成されている。２速用ギヤ列Ｇ２は、プライマリシャフト１０に固設された２速用プライマリギヤ１２と、セカンダリシャフト２０に遊嵌合された２速用セカンダリギヤ２２とで構成されている。また、３速用ギヤ列Ｇ３は、プライマリシャフト１０に遊嵌合された３速用プライマリギヤ１３と、セカンダリシャフト２０に固設された３速用セカンダリギヤ２３とで構成されている。４速用ギヤ列Ｇ４は、プライマリシャフト１０に遊嵌合された４速用プライマリギヤ１４と、セカンダリシャフト２０に固設された４速用セカンダリギヤ２４とで構成されている。５速用ギヤ列Ｇ５は、プライマリシャフト１０に遊嵌合された５速用プライマリギヤ１５と、セカンダリシャフト２０に固設された５速用セカンダリギヤ２５とで構成されている。６速用ギヤ列Ｇ６は、プライマリシャフト１０に遊嵌合された６速用プライマリギヤ１６と、セカンダリシャフト２０に固設された６速用セカンダリギヤ２６とで構成されている。

　後退速用ギヤ列ＧＲは、プライマリシャフト１０に固設された後退速用プライマリギヤ１７と、セカンダリシャフト２０に固定された後退速用セカンダリギヤ２７と、前記プライマリシャフト１０及びセカンダリシャフト２０に平行なアイドルシャフト３０にその軸方向に摺動自在に嵌合された後退速用アイドルギヤ３７とで構成されている。

　さらに、セカンダリシャフト２０に遊嵌合された１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の間には、１－２速用同期装置４１が、プライマリシャフト１０に遊嵌合された３速用及び４速用プライマリギヤ１３，１４の間には、３－４速用同期装置４２が、プライマリシャフト１０に遊嵌合された５速用及び６速用プライマリギヤ１５，１６の間には、５－６速用同期装置４３がそれぞれ配置されている。そして、チェンジレバー（図示せず）の操作により、これら同期装置４１～４３のスリーブを前側又は後側にスライドさせることにより、スライドされた側の遊嵌合ギヤがプライマリシャフト１０又はセカンダリシャフト２０に固定されて、当該ギヤ列が動力伝達状態とされるようになっている。

　後退速用ギヤ列ＧＲの後退速用セカンダリギヤ２７は、１－２速用同期装置４１のスリーブ４１ａに設けられて、該１－２速用同期装置４１のハブ４１ｂを介してセカンダリシャフト２０と一体回転するように構成されている。そして、前記チェンジレバーの操作により後退速用アイドルギヤ３７を後側へスライドさせることで、該後退速用アイドルギヤ３７が後退速用プライマリギヤ１７及び後退速用セカンダリギヤ２７にそれぞれ噛み合うことになり、これにより、後退速用ギヤ列ＧＲが動力伝達状態とされる。

　セカンダリシャフト２０の前側の端部には、出力ギヤ２８が設けられ、該出力ギヤ２８が差動装置５０の入力ギヤであるデフリングギヤ５１に噛み合わされ、これにより、セカンダリシャフト２０の回転、すなわち、変速機１の出力回転が、差動装置５０を介して左右の車軸６１，６２に伝達されるようになっている。これら車軸６１，６２は、車両の左右の前輪にそれぞれ連結される。

　プライマリシャフト１０の前後両端部には、それぞれ軸受７１，７２が配設され、これら軸受７１，７２を介して、プライマリシャフト１０がケース２に回転自在に支持されている。また、セカンダリシャフト２０の前後両端部には、それぞれ軸受７３，７４が配設され、これら軸受７３，７４を介して、セカンダリシャフト２０がケース２に回転自在に支持されている。

　また、プライマリシャフト１０には、その後端から前側に向かってプライマリシャフト１０の軸方向に延びる軸内油路１０ａと、該軸内油路１０ａから半径方向の外側に延び、該プライマリシャフト１０における３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６の遊嵌合面にそれぞれ開口する油路１０ｂ～１０ｅが設けられている。前記軸受７２の後方には、変速機ケース２の後壁部２ｂ（図７参照）に取り付けられかつ前記軸内油路１０ａ内に後側から突入するファンネル８１が設けられている。

　同様に、セカンダリシャフト２０には、その前端から後側に向かってセカンダリシャフト２０の軸方向に延びる軸内油路２０ａと、該軸内油路２０ａから半径方向の外側に延び、該セカンダリシャフト２０における１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の遊嵌合面にそれぞれ開口する油路２０ｂ，２０ｃが設けられている。前記軸受７３の前方には、ケース２の前壁部に取り付けられ、前記軸内油路２０ａ内に前側から突入するファンネル８２が設けられている。

　図２に示すように、車両前進時には、プライマリシャフト１０はＡ方向に、セカンダリシャフト２０はＢ方向に、デフリングギヤ５１はＣ方向に、それぞれ回転する。また、車両後退時には、プライマリシャフト１０は車両前進時と同様にＡ方向に回転し、セカンダリシャフト２０及びデフリングギヤ５１は、車両前進時とは反対のＢ′方向及びＣ′方向に、それぞれ回転する。

　但し、プライマリシャフト１０に固設された１速用及び２速用プライマリギヤ１１，１２に常時噛み合わされた、セカンダリシャフト２０上の１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２は、車両後退時も車両前進時と同様に、Ｂ方向に回転する。

　また、１速用及び２速用ギヤ列Ｇ１，Ｇ２の間に配置された後退速用ギヤ列ＧＲの後退速用セカンダリギヤ２７は、車両前進時には、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２と同様に、Ｂ方向に回転し、車両後退時には、車両前進時とは反対のＢ′方向に回転する。

　さらに、車両停車時等において、変速機１がニュートラル状態にあるときには、セカンダリシャフト２０上の１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２は、プライマリシャフト１０がＡ方向に回転することで、車両前進時及び後退時と同様に、Ｂ方向に回転する。

　ここで、図２に符号Ｘで示すように、ケース２の底部には、デフリングギヤ５１の下部と、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の下部とが、変速機１の作動状態で浸漬するようにオイルが貯留されている。また、後退速用セカンダリギヤ２７の下部も、ケース２の底部に貯留されたオイルに浸漬される。

　次に、本実施形態に係る潤滑構造について説明する。この潤滑構造は、基本的に、変速機１の軸方向の中間部から後端部にかけての各被潤滑部に対する給油を目的とするものである。尚、変速機１の前側に配置された、軸受７１，７３、１－２速用同期装置４１、１速用、２速用及び後退速用ギヤ列Ｇ１，Ｇ２，ＧＲにおけるギヤ噛み合い部等は、ケース１の底部に貯留されたオイルに下部が浸漬されたデフリングギヤ５１並びに１速用、２速用及び後退速用セカンダリギヤ２１，２２，２７の回転により十分に掻き揚げ給油される。

　図２及び図３に示すように、前記潤滑構造は、ケース２内に配設された樹脂製の給油部材１００を備えている。この給油部材１００は、セカンダリシャフト２０上の各ギヤ及びデフリングギヤ５１の上方の空間に配置されていて、変速機１の軸方向に延びている。給油部材１００の前端部は、該前端部に設けられた縦壁面１０１に後方に向けて突設した取付ピン１０２が、ケース２の前壁部に設けられたボス部２ａの穴に前方から圧入されることによって、ケース２に支持されている。給油部材１００の後端部は、後方に突出する第１及び第２給油部１１１，１１２の先端部がケース２の後壁部２ｂに係合されることによって、ケース２に支持されている。尚、第１及び第２給油部１１１，１１２の先端部の構成については、後に詳細に説明する。

　前記給油部材１００は、図４～図６に示すように、給油部材１００の長手方向に延びる底壁１２１と、該底壁１２１の幅方向両端部から上方に突出した側壁１２２，１２３とを備えていて、前側（変速機１の軸方向の一側）から後側（変速機１の軸方向の他側）に向かってオイルを案内する樋状とされている。尚、以下、オイルの流れ方向の上流側（前側（図４及び図５の右側））から給油部材１００を見たときの左側を、単に左側といい、上流側（前側）から見たときの右側を、単に右側という。

　給油部材１００における左側の側壁１２２と右側の側壁１２３との間の部分には、給油部材１００における前側の端部から長手方向中間部にかけて、背の高い捕集壁１２４が突設されていると共に、長手方向中間部から後側の端部にかけて、底壁１２１を左右に仕切る仕切壁１２５が設けられている。給油部材１００において捕集壁１２４及び仕切壁１２５と右側の側壁１２３との間の部分が第１樋部１３１とされ、捕集壁１２４及び仕切壁１２５と左側の側壁１２２との間の部分が第２樋部１３２とされている。これにより、第１樋部１３１及び第２樋部１３２は、互いに左右方向（第１樋部１３１及び第２樋部１３２の幅方向）に並設され、捕集壁１２４は、第１樋部１３１と第２樋部１３２との間に立設されていることになる。

　また、前記捕集壁１２４の後部と仕切壁１２５の前部とは、給油部材１００の長手方向において互いにオーバラップする位置（給油部材１００の左右方向から見て互いに重なる位置）に設けられており、捕集壁１２４の後部が右側に位置し、仕切壁１２５の前部が左側に位置している。給油部材１００における前記オーバラップした捕集壁１２４の後部及び仕切壁１２５の前部の間の部分が、第２樋部１３２から分岐して第１樋部１３１に接続される連絡部１３３とされている。

　そして、右側に位置する第１樋部１３１の上流端部は、第１オイル導入部１３１ａとされている。この第１オイル導入部１３１ａの第１樋部１３１側の側方（右側側方）に、セカンダリシャフト２０上の１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２が位置している。第１オイル導入部１３１ａは、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の上方でかつこれら両セカンダリギヤ２１，２２の上部に対して回転方向Ｂの進み側（左側）に位置するように設けられている（図５参照）。捕集壁１２４は、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２（車両前進時には、後退速用セカンダリギヤ２７も加わる）により掻き揚げられたオイルを捕集して第１樋部１３１の第１オイル導入部１３１ａに導く役割を果たす。

　また、左側に位置する第２樋部１３２の上流端部は、左側に屈曲されかつ先端が開放された第２オイル導入部１３２ａとされている。この第２オイル導入部１３２ａの第２樋部１３２側の側方（左側側方）に、デフリングギヤ５１が位置している。第２オイル導入部１３２ａは、デフリングギヤ５１の上方でかつ該ギヤ５１の上部に対して車両前進時の回転方向Ｃの進み側（右側）に位置するように設けられている（図５参照）。捕集壁１２４は、デフリングギヤ５１により掻き揚げられて第２オイル導入部１３２ａを超えて飛ばされたオイルを捕集して第２樋部１３２の第２オイル導入部１３２ａの近傍（捕集壁１２４の左側側方部分）に導く役割も果たす。

　図４に示すように、前記第１樋部１３１は、略水平に設けられているのに対し、第２樋部１３２の下流部は、後側ほど低くなるように傾斜しており、これに伴い、前記仕切壁１２５は、第１及び第２樋部１３１，１３２の間に生じる段差を塞ぐように、後側ほど上下方向の長さが長くなっている。

　第１及び第２樋部１３１，１３２の後端部には、前述の第１及び第２給油部１１１，１１２がそれぞれ連設されている。第１給油部１１１は右側に屈曲して、前記プライマリシャフト１０の後端部を指向し、第２給油部１１２は後方に延びて、前記セカンダリシャフト２０の後端部を指向するように設けられている。

　ここで、第１及び第２給油部１１１，１２１による各シャフト１０，２０の後端部への給油構造を詳しく説明する。

　まず、プライマリシャフト１０側の給油構造を説明すると、図７に示すように、プライマリシャフト１０の後端部を支持する軸受７２とその後方のケース２の後壁部２ｂとの間には、ファンネル８１が設けられ、該ファンネル８１とケース２の後壁部２ｂとの間の空間がオイル溜り９１とされている。前記ファンネル８１の中央部には、プライマリシャフト１０の軸内油路１０ａに後方から突入する筒状部８１ａが設けられていると共に、その周囲のフランジ部には、連通孔８１ｂが設けられている。

　そして、前記給油部材１００の第１給油部１１１の先端部が前記オイル溜り９１に側方から突入されており、これにより、給油部材１００の第１樋部１３１を流れたオイルは、第１給油部１１１からオイル溜り９１に供給される。このオイル溜り９１に供給されたオイルは、該オイル溜り９１から前記ファンネル８１の筒状部８１ａ内を通ってプライマリシャフト１０の軸内油路１０ａ内に導入されると共に、前記連通孔８１ｂを通過して前記軸受７２に供給される。軸内油路１０ａ内に導入されたオイルは、半径方向に延びる油路１０ｂ～１０ｅを通って、プライマリシャフト１０における３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６の遊嵌合面にそれぞれ供給され、プライマリシャフト１０と３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６との遊嵌合部を潤滑すると共に、３－４速用同期装置４２及び５－６速用同期装置４３の摺動面等を潤滑する。また、軸受７２に供給されたオイルは、該軸受７２から、その前側に隣接する６速用プライマリギヤ１６の歯面（６速用セカンダリギヤ２６との噛み合い部）に供給される。したがって、第１樋部１３１は、前記オイルをプライマリシャフト１０上の被潤滑部（軸受７２、プライマリシャフト１０と３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６との遊嵌合部、３－４速用同期装置４２及び５－６速用同期装置４３の摺動面、６速用プライマリギヤ１６の歯面等）に供給するように構成されていることになる。

　続いて、セカンダリシャフト２０側の給油構造を説明する。図８に示すように、セカンダリシャフト２０の後端部を支持する軸受７４とその後方のケース２の後壁部２ｂとの間には、オイル溜り９２が設けられている。前記軸受７４の上方には、ケース２の、該軸受７４と嵌合する嵌合穴を切り欠くことにより、前記オイル溜り９２に通じる開口部９３が設けられている。前記給油部材１００の第２給油部１１２が、開口部９３に前方から突入されている。これにより、第２樋部１３２を流れたオイルは、第２給油部１１２からオイル溜り９２に供給される。このオイル溜り９２に供給されたオイルは、オイル溜り９２から軸受７４に供給される。この軸受７４に供給されたオイルは、軸受７４から、その前側に隣接する６速用セカンダリギヤ２６の歯面（６速用プライマリギヤ１６との噛み合い部）に供給される。したがって、第２樋部１３２は、前記オイルをセカンダリシャフト２０上の被潤滑部（軸受７４、６速用セカンダリギヤ２６の歯面等）に供給するように構成されていることになる。尚、第２樋部１３２は、後述のオイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂにより、前記オイルをセカンダリシャフト２０上の被潤滑部としての、４速用及び５速用セカンダリギヤ２４，２５の歯面にも供給するように構成されている。

　前記第１給油部１１１の先端部がオイル溜り９１にその側方から係合されることにより、給油部材１００の軸方向の位置が規制され、第２給油部１１２の先端部が開口部９３にその前方から係合されることにより、給油部材１００の後部の左右方向の位置が規制される。

　また、給油部材１００においては、図５に示すように、第２樋部１３２の下流部の傾斜した底部には、リブ１２６が設けられている。このリブ１２６は、前記仕切壁１２５に接続された前端部から該仕切壁１２５と左側の側壁１２２との間を通って前記第２給油部１１２の手前まで延びている。このリブ１２６により、第２樋部１３２の底部は、第１底部１４１と第２底部１４２とに区切られることになる。

　前記第２底部１４２は、仕切壁１２５とリブ１２６との間に設けられていて、第２樋部１３２の長手方向中間部から前記第２給油部１１２の手前（第２樋部１３２の後端近傍）まで延びている。前記第１底部１４１は、第２樋部１３２の底部において第２底部１４２を除く部分の底部であって、第２樋部１３２の下流部においては、左側の側壁１２２とリブ１２６との間に設けられることになる。第１及び第２底部１４１，１４２の下流端は互いに合流して、前記第２給油部１１２に連続するようになっている。

　そして、図９及び図１０に示すように、前記第２底部１４２には、４速用及び５速用セカンダリギヤ２４，２５の上方に位置しかつ該第２底部１４２上を流れるオイルを下方に滴下させるオイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂが設けられている。

　ここで、図１０に符号Ｙで示すように、前記リブ１２６の高さは、第２樋部１３２の第１底部１４１上を流れるオイルの量が、予め設定された設定量を超えたときに、第２底部１４２側に溢れ出す高さとされており、したがって、第２底部１４２から前記オイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂを通ってオイルが下方に滴下されるのは、第２樋部１３２の第１底部１４１上を流れるオイルの量が前記設定量を超えたときとなる。

　尚、図９に示すように、各オイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂの開口縁部の下流側には、傾斜した第２底部１４２上を流れるオイルを捕捉して、各オイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂから下方に滴下させるための堰１４２ａ′，１４２ｂ′がそれぞれ設けられている。

　以上の構成に加えて、本実施形態では、図１１に示すように、ケース２に、該ケース２の天井面２ｃに付着したオイルを、給油部材１００の第２樋部１３２に案内するガイド部１５０が設けられている。すなわち、１速用、２速用及び後退速用セカンダリギヤ２１，２２，２７（車両後退時には、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２）によって掻き揚げられたオイルの一部はケース２の天井面２ｃに向けて飛び、該天井面２ｃに付着する。この天井面２ｃに付着したオイルを、ガイド部１５０によって、第２樋部１３２に案内する。

　具体的に、ガイド部１５０は、給油部材１００の上方におけるセカンダリシャフト２０側からデフリングギヤ５１側に向かって徐々に低くなるように傾斜した、ケース２の天井面２ｃと、該天井面２ｃから下方に突設したリブ１５１とで構成されている。

　このリブ１５１は、図３に示すように、天井面２ｃにおける前記給油部材１００の第２樋部１３２の上方位置に、変速機１の軸方向において１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２並びにその中間の後退速用セカンダリギヤ２７を含む範囲で該軸方向に延びるように設けられている。

　そして、前記給油部材１００における捕集壁１２４の上端とケース２の天井面２ｃとの間に間隙ｘが設けられ、前記リブ１５１と捕集壁１２４の上端部との間に間隙ｙが設けられ、こうしてガイド部１５０によって、オイルが付着する前記天井面２ｃから該間隙ｘ，ｙを経由して第２樋部１３２に臨むオイル流路が形成される。

　尚、前述のように、給油部材１００の前後両端部はケース２に支持されているが、長手方向中間部はケース２に支持されていない。このため、給油部材１００は、ケース２の上部に架け渡された状態になっている。このことと、ケース２及び給油部材１００の各部の寸法公差やケース２の天井面２ｃの表面粗さ等とを考慮して、前記捕集壁１２４の上端が天井面２ｃに当接しないように給油部材１００を設ける必要がある。このため、捕集壁１２４の上端と天井面２ｃとの間に間隙がどうしても生じる。このことから、前記ガイド部１５０は、このようにして設けられる間隙ｘを活用したものであるということができる。

　次に、本実施形態に係る潤滑構造の作用を説明する。

　まず、車両前進時には、図２及び図５に示すように、セカンダリシャフト２０はＢ方向に回転し、差動装置５０のデフリングギヤ５１はＣ方向にそれぞれ回転する。デフリングギヤ５１のＣ方向の回転によって、ケース２の底部に貯留されたオイルが該デフリングギヤ５１の歯面間に保持されて掻き揚げられ、該デフリングギヤ５１の上部からセカンダリシャフト２０側に飛ばされる。

　そして、その飛ばされたオイルは、給油部材１００における第２樋部１３２の第２オイル導入部１３２ａに導入される。また、デフリングギヤ５１により第２オイル導入部１３２ａを超えて飛ばされたオイルは、その前方の捕集壁１２４のデフリングギヤ５１側の面（第２樋部１３２側の面）に捕捉されて、該面に沿って下方に流れて、第２樋部１３２の第２オイル導入部１３２ａの近傍（捕集壁１２４の左側側方部分）に導入される。

　また、セカンダリシャフト２０と共にＢ方向に回転する１速用、２速用及び後退速用セカンダリギヤ２１，２２，２７も、下部がケース２の底部のオイルに浸漬されているので、これらセカンダリギヤ２１，２２，２７の回転によりオイルが掻き揚げられて、デフリングギヤ５１側に飛ばされる。そして、この飛ばされたオイルは、その前方の捕集壁１２４のセカンダリシャフト２０側の面（第１樋部１３１側の面）に捕捉されて、該面に沿って下方に流れて、第１樋部１３１の第１オイル導入部１３１ａに導入される。

　このとき、図１１に示すように、１速用、２速用及び後退速用セカンダリギヤ２１，２２，２７によって掻き揚げられたオイルの一部はケース２の天井面２ｃに向けて飛んで該天井面２ｃに付着した後、ガイド部１５０によって給油部材１００の第２樋部１３２に導入される。

　すなわち、前記セカンダリギヤ２１，２２，２７から飛び出して天井面２ｃに付着したオイルは、傾斜した天井面２ｃに沿って第２樋部１３２側に流れて、ガイド部１５０における天井面２ｃと捕集壁１２４の上端との間の間隙ｘを通ってリブ１５１の側面に伝わり、そのリブ１５１の側面から間隙ｙを通って第２樋部１３２に滴下して、該第２樋部１３２に導入される。

　こうして第２樋部１３２に導入されたオイルの一部は、連絡路１３３を通って第１樋部１３１に流入し、その残部は、そのまま第２樋部１３２内を後側へと流れる。

　前記第１樋部１３１の第１オイル導入部１３１ａからのオイルと、第２樋部１３２から連絡路１３３を通って第１樋部１３１に流入したオイルとは、第１樋部１３１内を後側へと流れて、第１樋部１３１の後端に連設された第１給油部１１１からプライマリシャフト１０の後方に位置するオイル溜り９１に供給される。このオイル溜り９１に供給されたオイルの一部が該オイル溜り９１からファンネル８１の連通孔８１ｂを通ってプライマリシャフト１０の後端部を支持する軸受７２に供給され、この軸受７２と、該軸受７２に対して前側に隣接する６速用プライマリギヤ１６と６速用セカンダリギヤ２６との噛み合い部を潤滑する。

　また、オイル溜り９１に供給されたオイルの残部は、前記ファンネル８１の筒状部８１ａからプライマリシャフト１０の軸内油路１０ａに導入され、該軸内油路１０ａから、半径方向に延びる油路１０ｂ～１０ｅを通って、プライマリシャフト１０における３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６の遊嵌合面にそれぞれ供給され、プライマリシャフト１０と３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６との遊嵌合部を潤滑すると共に、３－４速用同期装置４２及び５－６速用同期装置４３の摺動面等を潤滑する。

　さらに、２速用セカンダリギヤ２２がオイルを掻き揚げることにより、該２速用セカンダリギヤ２２に対して後側に隣接する３速用セカンダリギヤ２３の歯面（３速用プライマリギヤ１３との噛み合い部）にもオイルが供給され、該噛み合い部が潤滑される。

　一方、第２樋部１３２に導入されたオイルのうち連絡路１３３に流入しなかったオイルは、該第２樋部１３２を後側に向かって流れることになる。ここで、前述のように、第２樋部１３２の底部は、リブ１２６によって第１底部１４１と第２底部１４２とに区切られ、第２樋部１３２に導入されたオイルのうち連絡路１３３に流入しなかったオイルは、基本的には、第１底部１４１上を流れることになる。但し、第１底部１４１上を流れるオイルの量が前記設定量よりも多いときには、リブ１２６を越えて第２底部１４２側に溢れ出すために、第２樋部１３２に導入されたオイルのうち連絡路１３３に流入しなかったオイルは、第１底部１４１上及び第２底部１４２上を流れることになる。

　車両前進時においては、前述のように、第２樋部１３２には、１速用、２速用及び後退速用セカンダリギヤ２１，２２，２７に掻き揚げられて、ケース２の天井部に設けられたガイド部１５０を経由して導入されたオイルに加え、ケース２の底部のオイルに深く浸漬しかつ変速用ギヤに比べて歯幅が大きいデフリングギヤ５１によって多量に掻き揚げられたオイルが導入されるから、給油部材１００により捕集されるオイルの量は、所定量よりも多くなる。このとき、第２樋部１３２の第１底部１４１上を流れるオイルの量は前記設定量よりも多くなり、この結果、第１底部１４１上を流れるオイルは、リブ１２６を越えて第２底部１４２側に溢れ出す。したがって、第２樋部１３２に導入されたオイルのうち連絡路１３３に流入しなかったオイルは、第１底部１４１上及び第２底部１４２上の両方を通って下流側に流れる。

　前記両底部１４１，１４２上を流れたオイルは第２給油部１１２の手前で合流して、図８に示すように、第２給油部１１２からセカンダリシャフト２０の後方に位置するオイル溜り９２に導入され、このオイル溜り９２から、該セカンダリシャフト２０の後端部を支持する軸受７４に供給されて該軸受７４を潤滑する。また、軸受７４を通過したオイルが、６速用セカンダリギヤ２６に供給され、該６速用セカンダリギヤ２６と６速用プライマリギヤ１６との噛み合い部を潤滑する。

　前記第２底部１４２側に溢れ出したオイルの一部は、該第２底部１４２に設けられたオイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂから、該オイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂの下方に位置する４速用及び５速用のセカンダリギヤ２４，２５の歯面上に滴下し、これにより、４速用プライマリギヤ１４と４速用セカンダリギヤ２４との噛み合い部、及び、５速用プライマリギヤ１５と５速用セカンダリギヤ２５との噛み合い部がそれぞれ潤滑される。その場合に、前記第２底部１４２におけるオイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂの開口縁部には、堰１４２ａ′，１４２ｂ′が設けられているから、前記各噛み合い部に供給されるオイルの量が必要量確保される。

　以上のようにして、車両前進時には、変速機１の軸方向中間部から後側にかけて配置されて頻繁に動力伝達状態となる３速用～６速用ギヤ列Ｇ３～Ｇ６を構成する各ギヤの噛み合い部、同じく頻繁に作動する３－４速用及び５－６速用同期装置４２，４３、動力を伝達するプライマリシャフト１０及びセカンダリシャフト２０の後端部をそれぞれ支持する軸受７２，７４等に確実にオイルが供給され、これら各部が潤滑されることになる。

　一方、車両後退時には、デフリングギヤ５１の回転方向は、図２及び図１１に示すＣ′方向となり、該デフリングギヤ５１がオイルを飛び出させる方向が、給油部材１００が配設された方向とは反対側となるので、該デフリングギヤ５１の回転によって掻き揚げられたオイルは、給油部材１００に捕集されない。したがって、車両後退時には、車両前進時と同方向に回転する１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の回転によって掻き揚げられたオイルのみが給油部材１００に捕集されることになる。この場合、車両前進時に比べて給油部材１００へのオイルの導入量は著しく少なくなる。すなわち、給油部材１００により捕集されるオイルの量が前記所定量以下となる。

　１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の回転によって掻き揚げられて給油部材１００側に飛び出したオイルは、給油部材１００の捕集壁１２４における第１樋部１３１側の面に付着した後、該面に沿って下方に流れて第１樋部１３１に導入され、該第１樋部１３１を後側に流れて、第１給油部１１１からプライマリシャフト１０の後方のオイル溜り９１に供給される。

　そして、車両前進時と同様、オイル溜り９１に供給されたオイルの一部は、ファンネル８１の連通孔８１ｂから軸受７２に供給され、該軸受７２、及び、６速用プライマリギヤ１６と６速用セカンダリギヤ２６との噛み合い部を潤滑する。

　また、オイル溜り９１に供給されたオイルの残部は、前記ファンネル８１の筒状部８１ａからプライマリシャフト１０の軸内油路１０ａ及び連通孔１０ｂ～１０ｅを通って、該プライマリシャフト１０における３速用～６速用プライマリギヤ１３～１６の遊嵌合面や、３－４速用同期装置４２及び５－６速用同期装置４３に供給され、これらの摺動面等を潤滑する。

　１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２の回転によって掻き揚げられて給油部材１００側に飛び出したオイルの一部は、ケース２の天井面２ｃに付着し、前述のようにして、ガイド部１５０によって給油部材１００の第２樋部１３２に導入される。

　その場合に、前記第２樋部１３２の第１底部１４１上を流れるオイルは、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２が掻き揚げたオイルのうち、ケース２の天井面２ｃに付着してガイド部１５０により第２樋部１３２に導入されたオイルでかつ連絡路１３３に流入しなかったオイルだけであるから、第２樋部１３２の第１底部１４１上を流れるオイルの量は前記設定量以下となり、このため、第１底部１４１上を流れるオイルは、リブ１２６を越えて第２底部１４２側へ溢れ出すことはない。

　したがって、第２底部１４２に設けられたオイル滴下孔１４２ａ，１４２ｂからオイルが滴下されず、４速用プライマリギヤ１４と４速用セカンダリギヤ２４との噛み合い部、及び、５速用プライマリギヤ１５と５速用セカンダリギヤ２５との噛み合い部にはオイルが供給されないことになる。しかし、車両後退時には、これらのギヤは噛み合った状態で、動力を伝達することなく空転しているだけであるから、これら噛み合い部への給油は不要であり、給油が不十分であることによる問題はない。

　一方、車両後退時にも動力伝達状態で回転するセカンダリシャフト２０の後端部を支持する軸受７４に対しては、第２樋部１３２の第１底部１４１上を流れたオイルが、第２給油部１１２を経て供給されることになる。

　したがって、本実施形態では、車両前進時には、デフリングギヤ５１並びに１速用、２速用及び後退速用セカンダリギヤ２１，２２，２７から給油部材１００の第１樋部１３１及び第２樋部１３２にオイルが導入され、また、デフリングギヤ５１から第２樋部１３２に導入された多量オイルの一部が連絡路１３３を通じて第２樋部１３２から第１樋部１３１に流入することにより、変速機ケース２内の後側の部分に位置する被潤滑部（プライマリシャフト１０上及びセカンダリシャフト２０上の、変速機１の軸方向中間部から後端部にかけての被潤滑部）に十分なオイルが供給されることになる。

　また、車両後退時には、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２が掻き揚げたオイルのうち、捕集壁１２４により捕集されたオイルは、第１樋部１３２を介してプライマリシャフト１０上の前記被潤滑部に供給される。ここで、車両後退時には、前記の通り、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２（変速ギヤ）による掻き揚げ給油しか期待できない。そのため、プライマリシャフト１０上の前記被潤滑部に加えて、セカンダリシャフト２０上の前記被潤滑部にオイルを供給するためには、例えば第１樋部１３１に導入されたオイルを第２樋部１３２に流入させることになるが、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２により掻き揚げられるオイル量が少ないので、第１樋部１３１からオイルを第２樋部１３２に流入させると、プライマリシャフト１０上の前記被潤滑部へのオイル供給量が少なくなってしまう。これを補うために、変速機ケースの底部に貯留するオイル量を増量して、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２により掻き揚げられるオイル量を増大させることが考えられるが、変速機ケースの底部に貯留するオイル量を増量すると、車両重量が増大すると共にに、デフリングギヤ５１等によるオイル撹拌抵抗が増大してしまう。

　本実施形態では、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２が掻き揚げたオイルのうち、ケース２の天井面２ｃに付着したオイルを、ガイド部１５０によって、第２樋部１３２に導入するので、車両後退時にセカンダリシャフト２０上の前記被潤滑部に給油するためにケース２の底部に貯留するオイル量を増量する必要性が軽減され、該オイル量をできるだけ少なくしながら、プライマリシャフト１０上及びセカンダリシャフト２０上の前記被潤滑部に必要な量のオイルを確実に供給することができる。

　また、ガイド部１５０のリブ１５１が、天井面２ｃにおける給油部材１００の第２樋部１３２の上方位置に、変速機１の軸方向において１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２並びに後退速用セカンダリギヤ２７を含む範囲で該軸方向に延びるように設けられているので、必要な箇所のみにリブ１５１を設けて、ケース２の軽量化、ひいては車両全体の軽量化を図ることができる。

　尚、１速用及び２速用セカンダリギヤ２１，２２は、車両停車時においてもプライマリシャフト１０が回転しているときにはＢ方向に回転し、したがって、車両後退時と同様に、プライマリシャフト１０上の前記被潤滑部に供給されると共に、セカンダリシャフト２０上の前記被潤滑部にオイルが供給される。

　本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。

　上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。

　本発明は、変速機ケース内に配設され、ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集する給油部材を備えた、変速機（特に手動変速機）の潤滑構造に有用である。

　　１　　　　変速機
　　２　　　　変速機ケース
　　２ｃ　　　天井面
　　１０　　　プライマリシャフト
　　２０　　　セカンダリシャフト
　　１００　　給油部材
　　１２４　　捕集壁
　　１３１　　第１樋部
　　１３２　　第２樋部
　　１３３　　連絡路
　　１５０　　ガイド部
　　１５１　　ガイド部のリブ

Claims

　変速機の潤滑構造であって、
　変速機ケース内に配設され、ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集する給油部材を備え、
　前記給油部材は、該給油部材に設けられた樋部により、前記捕集したオイルを、前記変速機の軸方向の一側から他側に案内して、前記変速機ケース内の前記他側の部分に位置する被潤滑部に供給するように構成され、
　前記給油部材の樋部は、互いに並設された第１樋部及び第２樋部で構成され、
　前記給油部材の前記一側の部分には、前記第１樋部と前記第２樋部との間に立設されかつ該給油部材の第１樋部側の側方に位置する、前記ギヤとしての変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルを捕集して該第１樋部に導く捕集壁が設けられ、
　前記変速機ケースには、前記変速用ギヤにより掻き揚げられたオイルのうち該変速機ケースの天井面に付着したオイルを、該第２樋部に案内するガイド部が設けられていることを特徴とする変速機の潤滑構造。
　請求項１記載の変速機の潤滑構造において、
　前記被潤滑部は、前記変速機の入力軸としてのプライマリシャフト上の被潤滑部と、該プライマリシャフトと平行に延びるセカンダリシャフト上の被潤滑部とを含み、
　前記第１樋部は、前記オイルを前記プライマリシャフト上の被潤滑部に供給するように構成され、
　前記第２樋部は、前記オイルを前記セカンダリシャフト上の被潤滑部に供給するように構成されていることを特徴とする変速機の潤滑構造。
　請求項１又は２記載の変速機の潤滑構造において、
　前記変速用ギヤは、前記変速機の入力軸としてのプライマリシャフトと平行に延びるセカンダリシャフト上の１速用及び２速用ギヤであり、
　前記ガイド部は、前記変速機ケースの天井面に設けられたリブを含み、
　前記リブは、前記変速機の軸方向において前記セカンダリシャフト上の１速用及び２速用ギヤを含む範囲で該軸方向に延びるように設けられていることを特徴とする変速機の潤滑構造。
　請求項１～３のいずれか１つに記載の変速機の潤滑構造において、
　前記第２樋部の前記一側には、前記給油部材の第２樋部側の側方に位置するデフリングギヤにより掻き揚げられたオイルが導入されるオイル導入部が設けられ、
　前記給油部材に、前記第２樋部のオイル導入部に導入されたオイルの一部を前記第１樋部に導く連絡路が設けられていることを特徴とする変速機の潤滑構造。