【発明の詳細な説明】
細胞呼吸の阻害および雄性不稔植物の生成
本発明は、遺伝子の使用により雄性不稔植物を生成する方法に関する。この遺
伝子は、植物において発現可能であり、そして必須の細胞機能を阻害し、従って
選択された植物特性の全発現を破壊する。
本発明者らの国際特許出願WO90/08831は、本発明者らが「花粉不活化遺伝子」
ともいう種々の破壊遺伝子(disrupter gene)を使用する呼吸の破壊を記載し、そ
して特許請求の範囲とする。
この方法において機能するこのような不活化遺伝子の能力は変化し、従って、
特定の適用のための適切な選択がなされ得るような、さらに改善された遺伝子配
列が必要とされる。
本発明の目的は、遺伝子発現の阻害において使用するための遺伝子を提供する
ことである。
本発明によれば、標的植物組織における遺伝子発現を阻害する方法が提供され
る。この方法は、植物全体が再生され得る型の植物細胞を、標的植物組織の細胞
において作動する組織特異的または発生特異的なプロモーター、および発現され
る場合、標的組織の細胞において呼吸を阻害し、細胞死をもたらし得るタンパク
質をコードする破壊遺伝子を有する遺伝子構築物で、安定に形質転換する工程を
包含し、この破壊遺伝子は、T-urf13遺伝子、α-またはβ-チューブリンをコー
ドする遺伝子、2つの必須のトウモロコシ細胞周期遺伝子であるcdc25および複
製起点アクチベーター(ROA)の短いセンスコサプレッション、およびミトコンド
リア内膜のアデニンヌクレオチドトランスロケーター(ANT)に対する短いセンス
構築物からなる群から選択される点で特徴づけられる。
短いセンスコサプレッションによる遺伝子活性のダウンレギュレーションは、
本発明者らの国際特許出願WO 90/08299において記載される。
α-またはβ-チューブリン遺伝子は、植物細胞において微小管配列を脱安定化
し、従って、この標的組織における必須の微小管機能を阻害し、細胞死をもたら
すことにより、破壊剤(disrupter)として作用する。
2つの必須のトウモロコシ細胞周期遺伝子であるcdc25および複製起点アクチ
ベーター(ROA)の短いセンスコサプレッションの使用は、細胞***を破壊し、従
って、標的器官または標的組織における成長欠損を提供する。
プロモーターは、好ましくは、葯および/またはタペータム特異的プロモータ
ーまたは花粉特異的プロモーターであり、その結果、再生した植物において破壊
タンパク質が発現すると、その植物は雄性不稔になる。さらに好ましくは、この
葯および/またはタペータムに特異的なプロモーターは、添付の図面の図1また
は図2または図3において示されるcDNA配列を用いて、そして本発明者らの国際
特許出願WO 90/08826において記載される技術を用いて単離される。
図1、図2および図3において示されるDNA配列を含むプラスミドは、ブタペ
スト条約によって寄託されており、詳細は以下の通りである:
Escherichia coli RR1株宿主中のプラスミドpMS10は、本明細書の図1に示さ
れる遺伝子配列を含み、そして1989年1月9日に受託番号NCIB 40090の下でNati
onal Collection of Industrial&Marine Bacteriaに寄託されている。
Escherichia coli DH5α株宿主中のプラスミドpMS14は、本明細書の図2に示
される遺伝子配列を含み、そして1989年1月9日に受託番号NCIB 40099の下でNa
tional Collection of Industrial&Marine Bacteriaに寄託されている。
Escherichia coli RR1株宿主中のプラスミドpMS18は、本明細書の図3に示さ
れる遺伝子配列を含み、そして1989年1月9日に受託番号NCIB 40100の下でNati
onal Collection of Industrial&Marine Bacteriaに寄託されている。
本発明のこれらの遺伝子配列の単離および特徴付けは、WO 93/01294に十分に
記載される。
他のプロモーター、例えば、タペータム特異的MFS14プロモーターのようなプ
ロモーターもまた使用され得る。
本発明はまた、標的植物組織の細胞において作動する組織特異的または発生特
異的なプロモーター、および発現される場合、この標的組織の細胞における必須
の細胞機能(例えば、呼吸、微小管配列または細胞***)を阻害し、細胞死をも
たらし得るタンパク質をコードする破壊遺伝子を有する遺伝子構築物を、形質転
換によりそのゲノム内に安定に組み込んでいる遺伝子構築物を有する植物を提供
する。
本発明はまた、標的植物組織の細胞において作動する組織特異的プロモーター
、および標的組織の細胞において必須の細胞機能(例えば、呼吸または微小管)
を阻害し、細胞死をもたらし得るタンパク質をコードする破壊遺伝子を有する遺
伝子構築物を、そのゲノム内に安定に組み込んでいる植物、特に単子葉植物、お
よびより特にトウモロコシ植物を提供する。これらの植物は、破壊遺伝子がT-ur
f13遺伝子、アデニンヌクレオチドトランスロケーターの短いセンス構築物、α-
またはβ-チューブリンをコードする遺伝子、ならびに必須の細胞周期遺伝子で
あるcdc25およびROAの短いセンスダウンレギュレーションからなる群から選択さ
れる点で特徴づけられる。
これらの遺伝子構築物は、単一の単細胞から複雑な多細胞生物(例えば、植物
および動物)までの広範な生物において細胞増殖を阻害する手段として使用され
得る。組織特異的または細胞特異的なプロモーターの使用により、特定の細胞ま
たは組織は標的化され得、そして複雑な生物において破壊され得る。本発明に意
図される1つの特定の適用は、雄性不稔を導く、雄花発生に必須の細胞の破壊に
ある。
従って、本発明は、必須の細胞機能(例えば、呼吸または微小管)を阻害する
遺伝子構築物に基づく植物細胞の増殖および発生を妨害または阻害する方法を提
供する。この技術は、特定の細胞または組織の阻害が必要とされる、多数の作物
において広範な用途を有する。
特に目的とするところは、インサイチュでのF1ハイブリッドの産生のためのト
ウモロコシにおける雄性稔性の阻害である。雄性不稔の機構としてのミトコンド
リア機能の阻害の概念は、雄性不稔表現型とミトコンドリア機能障害との間の関
連を示す、トウモロコシにおけるT型細胞質雄性不稔(cms-T)についてのいくつ
かの以前の研究から生じた。ミトコンドリア機能障害とcms-Tとの間の直接的な
因果関係はまだ確立されていないが、漸増する多くの証拠により、特に、タペー
タム細胞における十分に機能的なミトコンドリアは必須であることが示唆される
。このことは、タペータム細胞に置かれる代謝要求がミトコンドリア数において
40
倍の増加をもたらすので、小胞子形成の間、特に重要である。
従って、本発明者らは、ミトコンドリアに作用して機能的呼吸を阻害する、多
数のネガティブ変異を提供する。これらの変異は、トウモロコシの葯組織におい
て特異的に発現すると、雄性不稔表現型をもたらす。
本発明者らはまた、細胞機能を破壊するためにα-またはβ-チューブリン遺伝
子の発現を使用する。正常な細胞生活の間、チューブリン遺伝子の発現は、それ
らの内因性プロモーターにより厳密に調節され、そして植物の成長および発生の
間、微小管に重合されそして構築される、これらのタンパク質についての細胞の
要求性と厳密に一致する。特定の組織または発生の段階において、非チューブリ
ンプロモーターを用いる非調節様式でチューブリン遺伝子を発現することにより
、遊離のチューブリンモノマーと微小管に重合されたチューブリンモノマーとの
間の平衡が破壊され、これは微小管複合体の不安定性および細胞の機能障害をも
たらす。タペータムまたは葯における他の細胞において発現する場合、この後者
の効果は、植物を不稔にする。
本発明者らはまた、必須の細胞周期遺伝子のcdc25およびROAの短いセンスダウ
ンレギュレーションの使用を提案する。タペータムまたは葯における他の細胞に
おいて発現する場合、この後者の効果は、植物を不稔にする。
植物細胞の形質転換のために使用される方法は、本発明に特に密接な関係があ
るというわけでなく、そして標的植物に適切な任意の方法が使用され得る。トラ
ンスジェニック植物は、形質転換された細胞からの再生により得られる。多くの
形質転換手順、例えば、Agrobacterium tumefaciensまたはそのTiプラスミドを
用いるアグロ感染(agroinfection)、エレクトロポレーション、植物細胞および
プロトプラストのマイクロインジェクション、マイクロプロジェクタイル(micro
projectile)形質転換および花粉管形質転換が文献から公知であり、ほんの少し
を言及する。公知の方法の十分な詳細のための文献が参照され得る。
単細胞生物である酵母におけるミトコンドリア機能の破壊剤としてのこれらの
遺伝子構築物の開発および試験が記載される。これらの遺伝子構築物を使用して
、形質転換植物における植物細胞増殖および分化を阻害し得る機構もまた記載さ
れる。これらの手順の目的は、ミトコンドリア機能を破壊するタンパク質を発現
す
るための遺伝子構築物の同定および最適化のモデル系としての酵母を使用するこ
とである。次いで、植物細胞は選択された構築物で形質転換され、そしてそれか
ら植物全体が再生される。
添付する図面は以下の通りである:
図1は、プラスミドpMS10により保持される、葯特異的cDNAのDNA配列を示す;
図2は、プラスミドpMS14により保持される、タペータム特異的cDNAのDNA配列
を示す;
図3は、プラスミドpMS18により保持される、葯特異的cDNAのDNA配列を示す;
図4は、T-urf13(配列番号1)の配列と下線を付したプライマーTurf-1(配
列番号2)およびTurf-2R(配列番号3)とを示す;
図5は、Nicotinia plumbaginifoliaのATP-2遺伝子からの59アミノ酸領域をコ
ードするDNA(配列番号4および5)と示されたプライマーPREB-IB(配列番号6
)およびPREB-R(配列番号7)とを示す;
図6はプレβ配列の切断部位を示す;
図7はベクターpCaMVI1Nのマップを示す;
図8はベクターRMS17のマップを示す;
図9はベクターpIE109のマップを示す;
図10は、以下の特性を有するMFS14プロモーター配列(配列番号8)を示す:
2198位の転写開始CCT"A"CAA(コンセンサスCTC"A"TCA)
2167位のATCCATT(可能なTATAボックスモチーフ)
2141位のCCAT(可能なCAATボックスモチーフ)
2233位のcdna開始CAC"A"CAG
2295位の転写開始GCAACAATGGCG(コンセンサスTAAACAATGGCT);
図11はベクターRMS11のマップである;
図12はベクターpMANT3のマップである;
図13は、トウモロコシ細胞株形質転換のためのベクターの構築物を例示する。
図14は、種々の異なる実験において産生された形質転換体の数を示す図である
。
本発明は以下の実施例により例示される。実施例1 トウモロコシ形質転換ベクター、RMS17の構築
本発明者らは、PCRを使用してcms-Tトウモロコシ(系統RW33:TMS)由来のT-urf1
3遺伝子、およびNicotiana plumbaginolia由来のミトコンドリア標的配列である
プレ-βを増幅した。植物材料由来のDNA試料を、Edwardsら(Nucliec Acids Rese
arch 1991,19,1349)により記載される方法を用いて調製した。
完全なT-urf13遺伝子を、Deweyら(1986,Cell,44,429-449)により提供される配
列情報から設計されたプライマー、turf-1(5'ATCGGATCCATGATCACTACTTTCTTAAACC
TTCCT-3'、配列番号2)およびturf-2R(5'TAGTCTAGATCACGGTACTTGTACGCTATCGGT-3
'、配列番号3)を用いるPCRにおいて増幅した。PCR条件は、94℃で0.8分の変性
、65℃で1分のアニーリング、および72℃で2.5分の伸長の35サイクルであった
。その後のクローニングを助けるために、PCRプライマーを、遺伝子の5'末端お
よび3'末端で、それぞれ唯一のBamHIおよびXbaI制限部位を導入するように設計
した。T-urf13遺伝子配列に対するこれらのプライマーの位置を図4に示す。
同様に、機能的なプレ-βミトコンドリア標的配列をコードする、Nicotiana p
lumbaginifoliaのATP2遺伝子からの59アミノ領域を、Boutryら(1987,Nature,328
,341)から提供された配列情報を用いて設計されたプライマー、PREB-IB(5'ATCGG
TACCGCCATGGCTTCTCGGAGGCTTCTCGCCT-3'、配列番号6)およびPREB-R(5'ATCGGATCC
CGCTGCGGAGGTAGCGTA-3'、配列番号7)を用いるPCRにおいて増幅した。PCR条件は
、アニーリング温度が60℃に下げた以外は、上記の通りであった。その後のクロ
ーニングを助けるために、PREB-IBおよびPREB-Rを、増幅されるフラグメントの5
'末端および3'末端で、それぞれ唯一のKpnIおよびBamHI制限部位を導入するよう
に設計した。ATP2遺伝子に対するこれらのプライマーの位置を図5に示す。
増幅の後、プレ-BのPCRフラグメントをKpnIおよびBamHIで消化して付着末端を
生成し、そしてベクターpUC18の対応する部位にクローニングしてプラスミドpPB
1を得た。次いで、TURF-13 PCR産物をBamHIおよびXbaIで消化し、そしてpPB1の
対応する部位にクローニングしてプラスミドpBP2を得た。植物細胞における発現
の後、完全な産物がミトコンドリアに輸送されるように、pBP2において、プレ-
β配列をT-urf13遺伝子とインフレームで融合する。残基55-56間の予想部位での
プレ-β配列の切断は、そのNH2末端でプレ-β配列由来のさらなる4残基を含むT
-urf13タンパク質を放出する(図6)。
pBB2のプレ-β/T-urf13遺伝子融合体を、酵素KpnIおよびSalIでの消化により
取り出し、平滑末端化し、そしてBamHIで消化して平滑末端化したプラスミドpCA
MVI1N(図7)にクローニングし、pPB3を得た。このクローニング工程は、CAMV3
5Sプロモーターの転写制御下にプレ-β/T-urf13融合を配置する。AdhIイントロ
ンはこの構築物内に存在し、トウモロコシ細胞での発現レベルを刺激し(Mascare
nhasら、1990.Plant Mol.Biol.,15,913-920)、そしてnos3'配列はポリA付加部位
を提供する。最終的なベクターRMS17(図8)を作製するために、ビアラホス(bi
alaphos)についての形質転換トウモロコシ細胞のインビトロ選択を可能にするpl
E109(図9)由来のPAT選択カセットを、pPB3の唯一のEcoRI部位にEcoRIフラグ
メントとして導入した。
実施例2
RMS17 でのBMSトウモロコシ細胞の形質転換
本実験の目的は、培養BMSトウモロコシ細胞におけるプレ-β/TURF-13遺伝子構
築物の発現が形質転換後のトランスジェニックカルスの樹立により測定されるよ
うに細胞生存性の減少をもたらすことを示すことである。PMS17ベクター(図8
)を、以下のように炭化ケイ素繊維媒介形質転換技術を用いて、培養BMS細胞に
導入した:
炭化ケイ素ウイスカーの調製
乾燥ウイスカーをガス室において常に取り扱い、吸入および潜在的な肺損傷を
防止した。これらのウイスカーは、それらがアスベストと同様の特性を有するの
で、発ガン性であり得る。Silar SC-9ウイスカーは、Advenced Composite Mater
ial Corporation Greer,South Carolina,USAより提供された。滅菌ウイスカー懸
濁液を、以下のように調製した。約50mgのウイスカーを、予め秤量した1.5mlのE
ppendorfチューブに入れ、ふたをし、そして再度秤量してウイスカーの重量を決
定した。チューブのふたをシリンジ針で穿孔し、そして2重層のアルミホイルで
覆った。チューブをオートクレーブし(121℃、15psi、20分間)、そして乾燥さ
せた。新鮮なウイスカー懸濁液を、各実験について調製した。なぜなら、新鮮な
懸濁液を用いる場合のDNA形質転換のレベルは、より古い懸濁液のDNA形質転換の
レベルより高いことが報告されているからである。5%(重量/容量)ウイスカ
ー懸濁液を、滅菌脱イオン水を用いて調製した。使用する直前に、これを2、3
分間ボルテックスしてウイスカーを懸濁した。
細胞へのDNA形質転換
全ての手順を、無菌条件下で層流キャビネットにおいて行った。DNAを、以下
のアプローチを用いて細胞に形質転換した。この方法に対する特定の改変は、本
文中に示されている。
細胞およびウイスカーの懸濁液を、切り落としたGilsonピペットチップを用い
てピペッティングした。100μlの新鮮なBMS培地(補遺1を参照のこと)を、滅
菌Eppendorfチューブ中に計り取った。これに40μlの5%(w/v)ウイスカー懸濁
液および25μl(1mg/ml)のプラスミドDNAを添加し、これを、デスクトップボルテ
ックスユニット(Vortex Genie 2 Scientific industries,Inc)を用いて60秒間最
大速度でボルテックスした。ボルテックスのこの期間の直後に、500μlの細胞懸
濁液(すなわち、250μlのパックされた(packed)細胞)を添加した。次いで、Ep
pendorfチューブにふたをし、そして垂直に立てて60秒間最大速度でボルテック
スした。同じ手順を用いて他の細胞株を形質転換した。
3つのコントロールを本実験において含めた。2つのポジティブコントロール
ベクターは、pPG3(PAT選択カセットのみを含む)、およびRMS15(T-urf13遺伝
子がミトコンドリア非結合タンパク質遺伝子であるUCP(これは、培養BMS細胞に
対して影響を及ぼさない)により置換された以外はRMS17と同一である)であった
。プレ-β標的化配列は両方の構築物において存在する。トランスジェニックカ
ルスの樹立を完全に妨げるはずであるネガティブコントロールは、RMS13により
提供された。RMS13は、プレβ/T-urf13遺伝子融合体が細胞傷害性リボヌクレア
ーセ遺伝子、バルナーゼにより置換されている以外はRMS17と同一である。本実
験において樹立されたトランスジェニックカルスの平均数を表1に示す。
これらのデータは、2つのポジティブコントロールpPG3およびRMS15に比較して
、プレB/T-urf13遺伝子融合体の発現がトランスジェニックカルスの樹立におい
て有意な減少(p<5%以上)をもたらすことを示す。このことは、ミトコンドリ
アへのT-urf13タンパタ質の標的化が、おそらくミトコンドリア機能の付与(impa
rtment)により、これらの細胞に対して有害な効果を有することを示唆する。細
胞傷害性リボヌクレアーゼであるバルナーゼの発現は、完全に形質転換カルスの
樹立を無効にする。
実施例3
トウモロコシ形質転換ベクター、RMS11の構築
RMS11は、プレ-β/T-urf13遺伝子融合体の発現がトウモロコシタペータム(tap
teum)プロモーターであるMFS14により制御される、形質転換ベクターである。MF
S14プロモーターおよび-2198〜+97位の非翻訳リーダー領域の配列を図10に示す
。この方法において、T-urf13タンパク質の発現は、花粉を産生する細胞に限定
され、そして植物全体では発現されない。
RMS11を構築するために、プレβ/T-urf13遺伝子融合体を含むpPB2由来のKpnI-
SalIフラグメントを平滑末端化し、そしてプラスミドpSC9の平滑末端化BamHI部
位に連結し、pPB4を得た。pPB4において、プレβ/T-urf13遺伝子融合体は今や、
-152〜+97のMFS14プロモーターフラグメントとnos3'ポリアデニル化配列との間
に配置されている。この完全なカセットを、SacIおよびEcoRIでの消化によりpPB
4から取り出し、そしてpSC7の対応する部位にクローニングしてプラスミドpB5を
得た。pSC7は、MFS14プロモーターの-153〜-5800領域を含み、その結果、pPB4由
来のSacI-EcoRIフラグメントの導入により、全5.8kb MFS14プロモーターが再形
成される。
RMS11(図11)を、pPB5の唯一のEcoRI部位へのp1E109由来のPATインビトロ選
択カセットの導入により完成した。
実施例4
安定に形質転換された雄性不稔植物を提供するための、パーティクルボンバー ドメントによるRMS11でのトウモロコシ細胞の形質転換
トウモロコシ形質転換ベクターであるRMS11を用いて、再生可能なトウモロコ
シ細胞培養物をパーティクルボンバードメントにより形質転換した。
培養材料
破砕性(friable)胚形成II型カルスを、近交系B73由来の花粉で受粉した10〜12
日後、温室または野外のいずれかで生育させた(filed grown)A188植物から切除
した未熟接合胚から開始(initiate)した。カルス開始および維持に使用された培
地は、ArmstrongおよびGreenにより改変されたN6培地に基づいた。詳細には、こ
の培地は、6mM L-プロリン、2%(w/v)スクロース、2mg/l 2,4-ジクロロフェノ
キシ酢酸(2,4-D)、および3%(w/v)Gelrite(登録商標、Caroline Bioiogical Su
pply)を含んだ(pH6)。カルスを、懸濁培養開始前に4-4週間成長させた。懸濁
培養を、100mg/l ミオイノシトール、2mg/l 2,4-D、2mg/l 1-ナフタレン酢酸(
NAA)、6mMプロリン、200mg/lカゼイン加水分解物(Difco Laboratories)、35(w/
v)スクロースおよび5%(v/v)ココナッツウォーター(Difco Laboratories)を含
むMSに基づく液体培地(pH6.0)において開始した。細胞懸濁液を、125rpmの旋回
シエーカー上、28℃、暗所で、これらの培地を含む125ml Erlenmeyerフラスコ中
で維持した。懸濁液を、3mlパック容量の細胞および10mlの培養培地を新鮮な培
地20mlに添加することにより3.5日毎に継代培養した。懸濁培養物は、ボンバー
ドメント時に代表的には6ヶ月齢〜1年齢であった。凍結保存から再生された懸
濁培養物を、いくつかの形質転換に使用した。
マイクロプロジェクタイルボンバードメント
細胞懸濁液を、1.0mm、次いで0.5mmスクリーンに通してふるいにかけた。次い
で、ふるいに通した0.2mlのパック容量の細胞を、5mlの懸濁培地に懸濁し、そし
て、4.7cm微量分析ホルダーを用いる真空濾過を介してWhatman No.4濾紙ディス
ク上に均等に分布させた。超らせんプラスミドDNAのタングステン粒子への沈澱
およびDuPont PDS-1000 Biolistics(登録商標)装置を用いるボンバードメント
は、本質的に製造者により記載される通りであった。標的プレートを、1回ボン
バードメントした。
形質転換体の選択および植物の再生
ボンバードメントの後、各濾紙ディスク(細胞を有する)を、100mg/lミオイ
ノシトール、2mg/l 2,4-D、3%(w/v)スクロース、および0.3%(w/v)Gelriteを
含むN6に基づく培地(pH6.0)に移した。NPTII遺伝子を用いる選択のために、この
培地に200mg/lカナマイシン硫酸を補充した。濾紙ディスクを、7日後および再
度14日後に、選択薬剤を含む新鮮な培地に移した。懸濁液を2つの等しいアリコ
ートに分け、そしてそれぞれを、100×20mmペトリ皿の選択薬剤および3%(w/v)
Gelriteを含む20mlの固体化培地上に均等にプレーティングした。2〜5週間後
、迅速に増殖している、推定的に形質転換されたカルスを取り出し、そして新鮮
な選択培地の表面に移した。植物を、1g/lミオイノシトール、1mg/l NAA、6%
(w/v)スクロースおよび3%(w/v)Gelriteを含むMSに基づく培地(pH6.0)に組織を
移すことにより再生させた(renerate)。2〜3週間後、組織を0.25mg/l NAA、お
よび3%(w/v)スクロースを含むMS培地に移し、そして明所に置いた。ここで胚
発生(embryo germination)が起こった。次いで、植物を、500mg/lミオイノシト
ール、3%(w/v)スクロースおよび0.3%Gelriteを含む、半分の濃度(half stren
gth)のMSに基づく培地(pH6.0)中で、温室に移す前に約1〜2週間生育させた。
温室に移した後、それぞれ独立に形質転換したクローンの中の植物を、MFS14/
プレ-B/T-urf13遺伝子構築物の存在についてPCRを用いて試験した。DNAを、Edwa
rdsら(1991,Nucleic Acids Research,19,1349)により記載される技術を用いて小
さな葉の試料から抽出し、そしてこれをプライマー14-SA(5'-AGACGCTGAGCTCAAGG
ACGTGA-3'、配列番号9)およびturf-2R(このプライマーの配列については実施
例1を参照のこと)を用いるPCRにおいて使用した。
開花時に、それぞれ独立に形質転換したクローン中の植物を、CMS系統用に開
発され、そして表2に記載する、目視等級を用いて温室において評価した。4お
よびそれより下とスコアされた植物は、機能的に不稔である。独立したPCRポジ
ティブクローンのそれぞれについての蓄積された不稔性スコアを、表3に示し、
そしてRMS11を用いたボンバードメントにより生成されたが、MFS14/プレ-B/T-ur
f13遺伝子構築物についてPCRネガティブである、トウモロコシ系統と比較する。
不稔植物を、稔性非トランスジェニックBE70植物由来の花粉と戻し交配した。
これらの交雑のうちの1つ(クローンYK23、植物5×BE70)から生じた子孫種子を
温室に播種し、そして開花させた。PCRおよびPAT試験(後者は、形質転換プロセ
スにおいて使用される選択マーカーが存在するか否かを決定する)により評価さ
れるMFS14/プレ-B/T-urf13遺伝子構築物の存在および植物の稔性スコアを、表4
に示す。PCRネガティブであった植物を、開花の前に温室から間引きした。植物
1および2は、PCR試験では結論づけられず、そして開花するまで保持した。植
物12を、コントロールとして保持した。表4に見られ得るように、子孫植物のう
ち6つは不稔であり、そしてこの不稔性は、PCR試験またはPAT試験のいずれかに
より評価されるようにトランスジーンの存在と相関する。このことは、不稔性を
付与する単一のトランスジーンの遺伝子座の存在と一致する。
*クラス4〜5の雄穂を稔性であるとみなした。
実施例5
トウモロコシ形質転換ベクターpRMS-23の構築
本発明者らは、トウモロコシアデニンヌクレオチドトランスロケーター(ANT)
遺伝子由来の短いセンス構築物の発現がトウモロコシ細胞の増殖において欠損を
起こすか否かを試験した。トウモロコシANTのフラグメントを、PCRおよびBathga
teら(1989,Eur.J.Biochem.,83,303-310)により出版されたトウモロコシ遺伝子の
配列から設計されたプライマーを用いて単離した。
ANT遺伝子のフラグメントを、プライマーMANT-1(5'-ATGCCCGGGCTTGCAATGTCTGT
TAGCGGTGGCATCA-3'、配列番号10)およびMANT-2RB(5-ATGCCCGGGCGATGGGGTAAGATGC
AAGACCA-3'、配列番号11)を用いてPCRにおいて増幅した。PCR条件は、94℃で0.8
分の変性、65℃で1分のアニーリング、および72℃で2.5分の伸長の35サイクル
であった。この後のクローニングを助けるために、PCRプライマーを、それらが
遺伝子の5'および3'末端で唯一のSmaI制限部位を導入するように設計した。トウ
モロコシANT遺伝子の配列は、Eur.J.Biochem.(1989)183,303-310に出版された。
MANT-1プライマー配列は、遺伝子のコード配列の初めに現れ、そしてMANT-2Rプ
ライマー配列が遺伝子の末端付近にある。
1050bpの予想されるサイズのDNAフラグメントを生成したPCR後、DNAをSmaIで
消化し、そしてpUC18のSmaI部位にサブクローンニングしてpMANT1を得た。続い
て、nos3'ポリアデニル化シグナル配列を、pMANT1における対応する部位にSacI-
EcoRIフラグメントとして、ANT遺伝子の3'側に導入してpMANT2を得た。pCaMVI1N
由来のCaMV 35SプロモーターおよびADH 1イントロンを有するHindIII-BamHIフラ
グメント(図5)を、pMANT2の対応する部位に導入してpMANT3を得た。pRMS-23
(図12)を、pIE109由来のPATインビトロ選択カセット(図7)のpMANT3の唯一
のEcoRI部位への導入により完成させた。
実施例6
pRMS-23 でのBMSトウモロコシ細胞の形質転換
この実験の目的は、培養BMSトウモロコシ細胞におけるpRMS-23の発現が、2つ
の別々の実験における形質転換後にトランスジェニックカルスの樹立により測定
されるような細胞生存性の低下をもたらすことを示すことである。ベクターDNA
を、実施例2に記載のように炭化ケイ素繊維形質転換技術を用いて培養BMS細胞
に導入した。
pRMS23での形質転換後、インビトロ選択カセットのみを含むポジティブコント
ロールpPG3と比較して、樹立されたトランスジェニックカルスの平均の数を決定
した(表5)。これらのデータは、短いセンスアデニンヌクレオチドトランスロ
ケーター遺伝子の発現が、トランスジェニックカルスの樹立において有意な減少
をもたらすことを示す。
実施例7
トウモロコシ形質転換ベクター、pTBRおよびpTBSの構築
本発明者らは、α-チューブリン遺伝子の調節されない発現がトウモロコシ細
胞の増殖において欠損をもたらすか否かを試験した。Eleusine indicaの2つの
生物型から単離されたα-チューブリンcDNA由来のコード配列を含む2つの構築
物を調製した。pTBR(図13)は、平滑末端化HinfIフラグメントとしてpCaMVI1N
(図7)の平滑末端化BamHI部位にクローニングされる、ジニトロアニリン耐性
生物型のEleusine indica由来のα-チューブリンcDNAを含む。pTBS(図13)は、
pTBRについて記載されるように正確にクローニングされる、ジニトロアニリン感
受性生物型由来のα-チューブリンcDNAを含む。
実施例8
pTBR およびpTBSでのBMSトウモロコシ細胞の形質転換
本実験の目的は、培養BMSトウモロコシ細胞におけるpTBRおよびpTBSの発現が
、形質転換後のトランスジェニックカルスの樹立により測定されるような細胞生
存性の低下をもたらすことを示すことである。ベクターDNAを、実施例2に記載
のように炭化ケイ素繊維形質転換技術を用いて培養BMS細胞に導入した。
pTBRおよびpTBSでの形質転換後、インビトロ選択カセットのみを含むポジティ
ブコントロールpPG3と比較して、樹立されたトランスジェニックカルスの平均の
数を決定した(図14)。これらのデータは、Eleusine indicaのいずれかの生物
型由来のα-チューブリン遺伝子の調節されない発現が、トランスジェニックカ
ルスの樹立において有意な減少をもたらすことを示す。
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バークシャー,スロー,ロックフォード
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