JPH10330906A - オーステナイト系ステンレス製品の製法 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス製品の製法

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JPH10330906A
JPH10330906A JP16538097A JP16538097A JPH10330906A JP H10330906 A JPH10330906 A JP H10330906A JP 16538097 A JP16538097 A JP 16538097A JP 16538097 A JP16538097 A JP 16538097A JP H10330906 A JPH10330906 A JP H10330906A
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Japan
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stainless steel
austenitic stainless
carburized
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JP16538097A
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English (en)
Inventor
Kenzo Kitano
憲三 北野
Kanji Aoki
寛治 青木
Tomoki Shirahata
知己 白幡
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Daido Hoxan Inc
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Daido Hoxan Inc
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Abstract

(57)【要約】 【課題】基本組成に近い安価な汎用型のオーステナイト
系ステンレスの表面に浸炭層を形成させることにより、
優れた耐蝕性と、高い表面剛性とを付与するオーステナ
イト系ステンレス製品の製法を提供する。 【解決手段】母材がオーステナイト相を呈するオーステ
ナイト系ステンレス製品を、炭化水素系ガス雰囲気下で
グロー放電を発生させて400℃〜500℃の温度で保
持することにより、炭素原子を拡散浸透させて表面層に
浸炭層を形成させるようにした。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、オーステナイト系
ステンレスに高い表面剛性と高度の耐蝕性とを付与する
オーステナイト系ステンレス製品の製法に関するもので
ある。
【0002】
【従来の技術】従来から、耐蝕性が重視される分野に使
用されるオーステナイト系ステンレスは、一般に鉄を基
材としてクロムを18重量%,ニッケルを8重量%含有
させた基本組成のものであり、一般に「18−8ステン
レス」と呼ばれているものである。また、この18−8
ステンレスに、1〜3重量%のモリブデン(Mo)を含
有させたオーステナイト系ステンレスも汎用鋼種として
多用されている。
【0003】これらの汎用型のオーステナイト系ステン
レスとしては、JISにおいて、SUS304,SUS
316等を中心に、用途や特性に合わせて多くの鋼種が
規格化されている。これらのなかでもSUS304は、
最も多用される代表的な汎用鋼種であるが、使用される
環境によっては耐蝕性が不充分な場合がある。例えば、
有機,無機の酸や塩類,薬品類,海水,ハロゲンガス,
SO2 等の強い腐食性環境下では、上記SUS304等
の18−8ステンレスを用いた金属製品では腐食されて
しまい、安定した使用ができない。そこで、上記のよう
な腐食性環境下においては、上記基本組成の18−8ス
テンレスにモリブデンを3〜7重量%まで多量に含有さ
せた高耐蝕性のステンレス鋼が用いられることがある。
つまり、これら高耐蝕性のステンレス鋼は、モリブデン
の添加により、ステンレスの耐蝕性機能の源である不働
態皮膜が強化されるものと考えられる。そして、海水や
硫酸等の腐食性環境用としては、モリブデンを5〜7重
量%まで含有させた鋼種も開発されている。ところが、
上記モリブデンはフェライト安定化元素であるため、多
量に添加すると、オーステナイト系ステンレスのオース
テナイト相を安定化させる必要が生じ、オーステナイト
安定化元素であるニッケルや銅,窒素(N)等を多量に
添加させなければならなくなる。さらに、上記のような
強い腐食性環境下では、オーステナイト系ステンレス以
外に、26Cr−4Mo,29Cr−4Mo−2Ni等
の高クロム含有フェライト系ステンレスや、ハステロ
イ,モネル等のニッケル基合金材料やチタン合金材料が
用いられたり、あるいは、プラスチック材料,セラミッ
ク材料等の非金属材料等が用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記高
耐蝕性のステンレス鋼は、添加元素が増加することから
くる原料コストや製鋼コストが高くなるだけでなく、市
場流通性も低いことから、材料自体が高価なものにな
る。しかも、難加工性で溶接性も悪いことから量産性に
も劣り、成形加工,溶接等の加工コストも高くなる。し
たがって、上記高耐蝕性のステンレス鋼を原料とした金
属製品は、上記SUS304等の汎用鋼種を使用したも
のと比べてはるかに割高となる。また、ニッケル基合金
材料やチタン合金材料では、上記高耐蝕性向ステンレス
よりもさらに材料コスト,加工コストが高くなる。ま
た、樹脂材料,セラミック材料等の非金属材料を用いる
場合には、機械的強度等の信頼性の面で金属材料に劣
り,適用範囲が限定される。
【0005】また、オーステナイト系ステンレス製品
は、焼き入れによって強度を向上させることが不可能
で、製品形状を成形するまでに行われる塑性加工で生じ
る加工硬化に依存している。このため、炭素鋼や合金鋼
等を焼き入れすることにより得られるような表面剛性を
得ることはできず、機械部品として耐蝕性と同時に耐焼
付き性や耐磨耗性等を要求される場合には、湿式めっき
やPVD等のコーティング処理が施されるのが一般的で
ある。ところが、これらの表面処理は、高価であるだけ
でなく、コーティング層が剥離しやすい等、表面剛性も
不充分な場合な場合が多かった。
【0006】本発明は、このような事情に鑑みなされた
もので、基本組成に近い安価な汎用型のオーステナイト
系ステンレスの表面に浸炭層を形成させることにより、
優れた耐蝕性と、高い表面剛性とを付与するオーステナ
イト系ステンレス製品の製法の提供をその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、本発明のオーステナイト系ステンレス製品の製法
は、母材がオーステナイト相を呈するオーステナイト系
ステンレス製品を、炭化水素系ガス雰囲気下でグロー放
電を発生させて400℃〜500℃の温度で保持するこ
とにより、炭素原子を拡散浸透させて表面層に浸炭層を
形成させることを要旨とする。
【0008】本発明者らは、強い腐食性環境下での使用
に耐える安価な金属製品を得ることを目的として一連の
研究を重ねる過程で、汎用されている安価なオーステナ
イト系ステンレスに対して表面処理を施すことにより、
その耐蝕性をさらに向上させることができるのではない
かと想起し、オーステナイト系ステンレスに対する表面
処理に関して種々実験を繰り返した。その結果、オース
テナイト系ステンレスを母材とした金属製品を、炭化水
素系ガス雰囲気下でグロー放電を発生させて400〜5
00℃の温度で保持することにより、炭素原子を拡散浸
透させ、表面層に形成された浸炭層が、芯部よりもはる
かに高い硬度を示すだけでなく、母材であるオーステナ
イト系ステンレスよりもはるかに良好な耐蝕性を示し、
これによって得られた金属製品が強い腐食環境下におい
ても安定して使用できるようになることを突き止め、本
発明に到達した。
【0009】すなわち、本発明は、オーステナイト系ス
テンレスがオーステナイト相を呈するうえで最小限のニ
ッケル,クロムあるいはモリブデンを含有する基本組成
の安価な汎用型ステンレスを使用し、この汎用型ステン
レスを加工して得られた金属製品の表面に炭素原子を拡
散浸透させたものであり、これにより、高い表面剛性を
示すとともに、厳しい腐食環境下であっても良好な耐蝕
性を発揮し、しかも汎用鋼種を用いることから安価な金
属製品が得られるのである。
【0010】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態につ
いて詳しく説明する。
【0011】本発明は、汎用型のオーステナイト系ステ
ンレスを所定の製品形状に加工して得られたオーステナ
イト系ステンレス品を用いる。
【0012】上記オーステナイト系ステンレスとして
は、オーステナイト相を呈したステンレスであれば、特
に限定されるものではなく、例えば、JISに規定され
るSUS304およびSUS316を中心に、Cr,N
i,Mo,Cu,Mn,N,Nb,Ti等の有価合金元
素を、その要求特性に応じて所定量添加したオーステナ
イト系ステンレスをいう。なお、Niを全てMnで置換
したFe−Cr−Mn系の非磁性特殊ステンレスも含ま
れる。したがって、ほとんどのSUS300系統のステ
ンレスや、SUS201やSUS202等の鋼種が含ま
れる。これらのなかでも、モリブデンを含有するSUS
316は、もともと耐蝕性の向上を主眼におかれたもの
で母材自体の耐蝕性もSUS304よりは良く、しかも
比較的オーステナイト相が安定であるため、本発明に好
適に用いられる。また、SUS304やSUS316等
のような安価な汎用型のステンレスに限られず、SUS
317,SUS310等の上記汎用型ステンレスよりも
耐蝕性のよいオーステナイト系ステンレスを母材として
使用することにより、その母材よりも耐蝕性のよい浸炭
層を形成させ、一層優れた耐蝕性を発揮させることがで
きる。
【0013】すなわち、本発明で使用するオーステナイ
ト系ステンレス品としては、常温においてフェライトの
生成がなくオーステナイト相を呈していればよい。した
がって、常温での加工によってもフェライトの生成がな
い安定型のオーステナイト系ステンレスを用いれば、よ
り好ましい。また、SUS301やSUS304は、オ
ーステナイト相が不安定で、強度の冷間加工によってフ
ェライトが生成し、本発明によっても耐蝕性が劣化する
場合がある。このため、SUS301やSUS304を
用いる場合には、加工度が低いオーステナイト系ステン
レス製品が好ましい。また、加工によってフェライトが
析出したオーステナイト系ステンレス品であっても、固
溶化処理等により、完全にオーステナイト相を呈するよ
うにすれば、本発明に使用することができる。
【0014】本発明は、上記母材がオーステナイト相を
呈するオーステナイト系ステンレス品を、炭化水素系ガ
ス雰囲気下でグロー放電を発生させて400〜500℃
の温度で保持することにより、炭素を拡散浸透させて表
面層に浸炭層を形成させる。
【0015】本発明における浸炭処理は、例えば、図1
に示す炉で行われる。この炉は、水冷された炉壁17内
が、隔壁6によって処理室1と循環用ガス加熱室2とに
分割されている。上記処理室1には開閉扉3が設けら
れ、内部にワーク(オーステナイト系ステンレス品)4
を載置する治具5が設けられている。16は温度センサ
ー、11は真空計、7は真空排気穴である。上記循環用
ガス加熱室2には、循環用ファン10が設けられ、内部
にはヒータ8が設けられている。9はヒータ8用の電極
である。上記処理室1および循環用ガス加熱室2には、
炭化水素ガスボンベ18,H2 ガスボンベ19およびA
rガスボンベ15が連通し、それぞれ反応ガス(炭化水
素ガス+H2 ガス)およびArガスが供給されるように
なっている。13は炭化水素ガスとH2 ガスを所定割合
で混合させる反応ガス制御装置である。そして、処理室
1内の治具5には、放電用電源12のマイナス側が接続
されるとともに、炉壁17には上記放電用電源12のプ
ラス側が接続されている。これにより、ワーク4が陰極
に、炉壁17が陽極になり、処理室1内に反応ガスを適
当に減圧した状態で流すとともに両極間に印加すると、
グロー放電が起こるようになっている。14は放電量を
調節してワーク4の温度を調節する温度調節装置であ
る。
【0016】このようなグロー放電装置は、従来から鋼
の窒化処理に利用されているイオン窒化炉装置の改良品
であり、650℃以下の低温領域でも有効な加熱を行
い、炭素源が使用されることによって発生するすす等の
汚染を最小限にするようになっている。
【0017】上記炉を用いてオーステナイト系ステンレ
ス品への浸炭処理は、例えば、つぎのようにして行われ
る。まず、開閉扉3を開けて処理室1内の治具5上にワ
ーク4を載置し、開閉扉3を閉じる。ついで、Ar+H
2 混合ガスで処理室1内を15〜20分間パージを行
う。つぎに、ヒータ8用の電極9に通電してヒータ8を
加熱するとともに循環用ファン10を作動させる。上記
ヒータ8は処理室1内を均一に昇温させるためにAr+
2 混合ガスを加熱するためのもので、500℃以下の
低温下では輻射伝熱の寄与が小さいため、対流伝熱を強
化する目的で強力な循環用ファン14によって攪拌す
る。この加熱と同時に、処理室1内を0.5〜1Tor
rまで真空排気を行う。処理室1内が所定温度に近くな
ると、放電用電源12を入れ、ワーク4(陰極)と炉壁
17(陽極)との間でグロー放電を起こさせ、このグロ
ー放電によってもワーク4の加熱を行う。このときのグ
ロー電圧は最終的に300〜400Vになり、電流は最
大で10〜30Aになる。そして、ヒータ8用の電極9
を停止し、10〜15分後H2 +C3 8 もしくはH2
+CH4 の反応ガスを炉内に供給し、所定時間保持す
る。
【0018】反応ガスを導入する前に、ワーク表面をス
パッタリングで活性化しておくことが重要である。スパ
ッタリングは、例えば、400〜500℃の温度領域に
おいて、0.5〜5.0Torr程度のAr+H2 混合
ガス雰囲気でグロー加熱することにより、高温のガスイ
オンを金属表面に打ち込み、最表面の数原子層の金属を
気化蒸発させることにより、酸化皮膜や吸着汚染層を除
去するようして行われる。この操作が適切でなければ、
形成される浸炭層が不充分になり、極端な場合は浸炭層
が形成されなくなることもある。
【0019】炭素源の炭化水素としては、通常CH4
用いられるが、C3 8 ,C4 10,C2 6 ,C2
4 等の他の炭化水素ガスも使用可能である。これらのガ
スは、H2 ガスと混合させた反応ガスとして炉内に導入
される。このときの反応ガス中の炭化水素濃度は、通常
3〜5%程度で十分である。また、炭化水素濃度は浸炭
処理の処理時間を通じて常に一定濃度に保つ必要がな
い。むしろ、前半を3〜5%の濃度に保持し、後半を
0.1〜0.5%の低濃度にして操業するのが好まし
い。
【0020】上記のようにして、オーステナイト系ステ
ンレス品の表面層に浸炭層が形成される。この浸炭層
は、製品の表面から、5〜50μmの厚さに設定するの
が好ましく、20〜30μmであれば一層好ましい。す
なわち、5μm未満では良好な耐蝕性を得るのに不充分
であり、50μmを超えると、処理時間が長くなってコ
スト的に不利になるからである。
【0021】一般に、オーステナイト系ステンレスは、
700℃以上の高温での浸炭処理や、500〜600℃
での窒化処理によって表面硬化を行うと耐蝕性が著しく
劣化する。したがって、オーステナイト系ステンレスへ
の浸炭処理や窒化処理は、耐蝕性を犠牲にして例外的に
行われているにすぎなかった。また、400〜600℃
の低温度域での浸炭は、工業プロセスとして困難と考え
られていたため、実施されることもなかった。本発明者
らは、図1に示すような装置を用い、炭化水素ガスを炭
素源として用い、400〜500℃の処理温度でオース
テナイト系ステンレス製品の表面に浸炭層を形成するこ
とに成功した。この浸炭層は、表面から5〜50μm程
度と、従来の処理法で得られる浸炭層の厚さよりはるか
に薄いが、表面硬さはマイクロビッカース硬度でHv6
00〜1000程度を示し、Hv200〜220程度の
芯部の硬度よりもはるかに高い硬度になる。
【0022】本発明の方法で490℃で浸炭処理したと
きの浸炭処理品および未処理品のX線回折結果を図2に
示す。図に示すように、浸炭処理品のチャートにクロム
炭化物のピークは認められず、母材(未処理品)とほぼ
同等のパターンを示すことが明らかで、浸炭層は、クロ
ム炭化物粒子が存在しないオーステナイト相からなるの
である。また、浸炭処理品は、回折ピークの位置が母材
に比べて各指数面でも低角度側にずれており、格子定数
aが母材よりも約2.7%程度増大している。すなわ
ち、上記浸炭処理品は、オーステナイト相に格子歪が生
じていることがわかる。この格子歪は、炭素が高濃度に
侵入固溶したことにより、格子が等方に膨張したもので
あり、この歪みが浸炭層を硬化させているものと考えら
れる。なお、上記X線回折は、RINT1500装置を
用い、50kV,40mA,Cuターゲットの条件下で
行った。
【0023】すなわち、本発明における浸炭処理で形成
される浸炭層は、オーステナイト相の面心立方格子の隙
間に炭素原子が侵入型に固溶し、等方に膨張した面心立
方格子の結晶(オーステナイト相)から形成されてい
る。このように、従来の浸炭処理法で高クロム鋼を浸炭
したときのように、クロム炭化物が析出せず、耐蝕性の
向上に寄与するクロムが減少しないことから、耐蝕性の
劣化がないものと考えられる。また、本発明によって浸
炭した浸炭処理品が、母材以上の耐蝕性を有することの
理由は、現在のところ明白でないが、最表面の不働態皮
膜直下に高濃度のCバンドが形成され、金属イオンや自
由電子の運動バリヤーが形成されるためと推測される。
そして、上記浸炭層が高い硬度を示すのは、上記格子歪
みにより転位が増加することに基づくものと考えられ
る。なお、上記のようなクロム炭化物粒子が存在しない
オーステナイト相とは、X線回折によって、Cr
236 ,Cr7 3 ,Cr3 2 等の結晶質のクロム炭
化物が確認できないオーステナイト相をいう。
【0024】このように、本発明では、浸炭処理の温度
が400〜500℃と、上記一般の浸炭温度領域よりは
るかに低いことから、ステンレス等の高クロム鋼を高温
で浸炭したときに生じるCr3 2 ,Cr7 3 ,Cr
236 等のクロム炭化物が形成されない。そして、浸炭
層がクロム炭化物が存在しないオーステナイト相からな
るため、固溶クロムがクロム炭化物の生成に消費され
ず、浸炭処理品の耐蝕性が低下しない。
【0025】図3に、本発明における浸炭処理を行った
オーステナイト系ステンレス製品の浸炭層のEPMA線
分析結果を示す。図3からわかるとおり、表面から約3
0μmにわたって浸炭層が形成され、最表面での炭素濃
度は2重量%強を示している。この数値は、1100℃
における純鉄のオーステナイト相への炭素の固溶度
(1.7重量%)よりも大きい。このように、本発明で
は、形成される浸炭層の炭素濃度が非常に高くなること
が特徴であり、浸炭層が高硬度を示す一因となっている
と考えられる。
【0026】本発明において、図1に示す炉から取り出
した直後のサンプルは、黒色を呈している。その表層
は、ごく薄くではあるが酸化層(処理後の冷却時に生じ
ているものと思われる)が存在している。これを50〜
65℃のHNO3 +HF溶液に15〜30分浸漬して酸
洗処理(仕上げ処理)すると、母材と同様の金属光沢の
表面が得られる。ここで、HNO3 +HF溶液の濃度
は、HNO3 :10〜20重量%+HF:1〜7重量%
程度が好ましい。この酸洗処理を行った後でも、処理前
と殆ど変わらない表面剛性を備えている。
【0027】厳密には、この酸洗処理の前後で浸炭層の
厚みや硬度が変化するが、使用されているオーステナイ
ト系ステンレス材の性状によって変化の程度が異なる。
母材として、オーステナイト相が不安定なSUS301
系オーステナイト系や、冷間加工でフェライト相が発生
しやすいSUS304系の場合、酸洗処理後の浸炭層厚
みは、処理前と比べて減少する。しかし、SUS31
6,SU305,SUS310のようなオーステナイト
相の安定な材料では、浸炭層の厚みに大きな変化はな
い。これらのことは、浸炭層の耐蝕性の高さに依存して
いるのである。すなわち、SUS301やSUS304
を用いると、母材と同様程度の耐蝕性を示し、SUS3
16やSUS310を用いると、母材以上の耐蝕性を示
す。
【0028】なお、浸炭処理後の酸洗処理としては、H
NO3 +HF溶液による浸漬洗浄処理に限るものではな
く、HCl+HNO3 溶液や、HNO3 溶液,H2 SO
4 +HNO3 溶液等を用いた浸漬洗浄処理でもよい。こ
こで、HCl+HNO3 溶液の濃度は、HCl:5〜2
0重量%+HNO3 :15〜40重量%程度が好まし
く、HNO3 溶液の濃度は、10〜30重量%程度が好
ましい。なお、上記酸洗処理に用いる溶液の液温として
は、50〜65℃に限らず、65℃を超えてもよいし、
50℃未満でもよい。また、仕上げ処理としては、酸洗
処理でなくても、機械的研磨や化学研磨あるいは電解研
磨でもよい。
【0029】つぎに、実施例について説明する。
【0030】
【実施例1】SUS316(Cr17%,Ni13.5
%,Mo2.5%,C0.05%)圧延品(厚み2m
m,芯部硬度Hv210〜220)の小片、SUS30
4(Cr18.5%,Ni8.5%,C0.04%)板
材(厚み1.5mm,芯部硬度Hv180)の小片を、
図1に示す装置において下記の条件で浸炭処理をした。
SUS316小片の浸炭処理品の浸炭層の厚みは25μ
mであり、浸炭層の硬度はHv810〜820であっ
た。また、SUS304小片の浸炭処理品の浸炭層の厚
みは20μmであり、浸炭層の硬度はHv980〜10
00であった。 〔処理条件〕 反応ガス :97%H2 +3%C3 8 処理時間 :8時間 圧力 :1Torr 温度 :490℃ グロー放電条件:280〜300V,5〜7A 酸洗 :15%HNO3 −5%HF,60℃×20分
【0031】それぞれの小片について、本発明における
浸炭処理品と未処理品を、硫酸もしくは塩酸に浸漬した
時の重量減少を測定した結果を図4および図5に示す。
また、浸炭処理品の表面層金属組織写真を図6および図
7に示す。塩酸および硫酸いずれの酸に浸漬した場合で
も、浸炭処理品は、未処理品よりも重量減少が少なく、
良好な耐蝕性を示すことがわかる。また、硫酸に浸漬し
た場合には、SUS304の浸炭処理品よりもSUS3
16の浸炭処置品の方が良好な耐蝕性を示すことがわか
る。
【0032】
【実施例2】軟質のSUS304の圧延板の小片(厚み
2mm,芯部硬度Hv170),硬質のSUS304の
圧延板の小片(厚み2mm,芯部硬度Hv250)およ
びSUS305製のシャフト片(直径6mm)ならびに
SUS316の圧延板小片(厚み2mm,芯部硬度Hv
290)を準備した。これらのサンプルを図1に示す炉
において、下記の条件で浸炭処理を行った。 〔処理条件〕 反応ガス :95%H2 +5%CH4 処理時間 :12時間 圧力 :1.5Torr 温度 :470℃ グロー放電条件:280〜300V,5〜7A 酸洗 :15%HNO3 −5%HF,55℃×20分
【0033】上記各サンプルの浸炭処理品について、酸
洗前および酸洗後それぞれの浸炭層の厚みと表面(浸炭
層)硬度および芯部硬度を調査した。その結果を下記の
表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】上記表1からわかるように、いずれのサン
プルも浸炭処理により、厚み20〜20数μm程度の浸
炭層が形成され、Hv980〜1150程度の表面硬度
が得られている。浸炭処理品を酸洗することにより、浸
炭層の厚みは減少し表面硬度も低下するが、SUS31
6材では、厚みの減少も硬度低下も少ないことがわか
る。
【0036】
【実施例3】実施例1で得られたSUS316小片の浸
炭処理品と、未処理品とについて弱酸性3.5%食塩水
溶液における孔食電位の測定結果を図8に示す。図から
わかるとおり、電位を徐々に上昇させると、未処理材で
は約0.4V前後の電位で急激に電流密度が上昇してい
る。これに対し浸炭処理品は、上記未処理材の場合より
もはるかに高い約1Vまで急激な電流密度の上昇はな
い。すなわち、この測定において急激に電流密度が上昇
した時点で孔食が発生するものと考えられ、本発明の浸
炭処理をしたものは、未処理品に比べ孔食電位が高く、
オーステナイト系ステンレス材において弱点とされてい
る耐孔食性について著しく改善され、母材以上の耐蝕性
を示していることがわかる。なお、孔食電位の測定は、
JIS 0577の規定に準じた条件で行った。
【0037】
【発明の効果】このように、本発明によれば、基本組成
に近い安価な汎用型のオーステナイト系ステンレスを使
用し、その表面に浸炭層を形成させることにより、耐酸
性,耐海水性,耐薬品性に優れ、高い耐蝕性を有するオ
ーステナイト系ステンレス製品を安価に得ることができ
る。そのため、ボルト,ナット,ねじ等のファスナー類
から、一般産業分野において使用される、機械部品、す
なわち、各種のシャフト類やインペラー,ベアリング,
ばね類,バルブ部品等,多様な機械部品に適用すること
ができる。また、特に、食品機械,化学プラント,半導
体工業等の分野に用いられる機械部品の製法として有望
である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における浸炭処理に用いる炉の構成図で
ある。
【図2】SUS316材のX線回折チャートであり、
(a)は未処理品、(b)は浸炭処理品である。
【図3】本発明における浸炭処理を行ったオーステナイ
ト系ステンレス製品の浸炭層のEPMA線分析結果であ
る。
【図4】SUS316の浸炭処理品および未処理品の塩
酸浸漬試験結果である。
【図5】浸炭処理品および未処理品の硫酸浸漬試験結果
であり、(a)はSUS316材を20%の硫酸に浸漬
した結果であり、(b)はSUS316材およびSUS
304材を50%の硫酸に浸漬した結果である。
【図6】SUS316材の浸炭処理品の断面金属顕微鏡
写真である。
【図7】SUS304材の浸炭処理品の断面金属顕微鏡
写真である。
【図8】SUS316材の浸炭処理品および未処理品の
孔食電位測定結果である。

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 母材がオーステナイト相を呈するオース
    テナイト系ステンレス製品を、炭化水素系ガス雰囲気下
    でグロー放電を発生させて400℃〜500℃の温度で
    保持することにより、炭素原子を拡散浸透させて表面層
    に浸炭層を形成させることを特徴とするオーステナイト
    系ステンレス製品の製法。
  2. 【請求項2】 オーステナイト系ステンレス製品にスパ
    ッタリングをしたのちグロー放電を発生させて炭素原子
    を拡散浸透させるようにした請求項1記載のオーステナ
    イト系ステンレス製品の製法。
  3. 【請求項3】 浸炭層が、クロム炭化物粒子が存在しな
    いオーステナイト相からなる請求項1または2記載のオ
    ーステナイト系ステンレス製品の製法。
  4. 【請求項4】 浸炭層の深さが5〜50μmである請求
    項1〜3のいずれか一項に記載のオーステナイト系ステ
    ンレス製品の製法。
  5. 【請求項5】 炭素原子を拡散浸透させたのち最表面層
    を除去する仕上げ処理を行う請求項1〜4のいずれか一
    項に記載のオーステナイト系ステンレス製品の製法。
  6. 【請求項6】 オーステナイト系ステンレス製品が、モ
    リブデンを1〜6%含有する安定型ステンレスからなる
    請求項1〜4のいずれか一項に記載のオーステナイト系
    ステンレス製品の製法。
  7. 【請求項7】 仕上げ処理が、酸洗処理である請求項5
    記載のオーステナイト系ステンレス製品の製法。
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