JPH07870B2 - スエード調シート - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 〈産業上の利用分野〉 本発明は柔軟で帯電防止性を有するスエード調シート、
とりわけ車両用内装シートに使用するに適したスエード
調シートに関するものである。

〈従来の技術〉 従来、自動車の運転操作後の降車の際に、静電気による
衝撃が発生する事は良く知られている。これは、人体が
車両内の内装材（例えば座席）と摩擦し合うことにより
人体が高電位に帯電し、これが導体に触れた際に急に多
量の静電気が一瞬の間に流れることによる、すなはちス
パーク放電現象である。

従来、繊維製品の帯電防止対策として導電性繊維を織り
込む手段が知られている。このものは、繊維製品に帯電
した静電気を導電性繊維に集電し、これを該繊維先端か
らコロナ放電により放出して繊維製品の帯電をなくする
機構を利用したものである。しかしながら、このような
手段を用いても繊維製品のコロナ放電効果（集電効果）
は少なく、到底自動車の座席の表面材として満足出来る
ものではなく、しかも導電性繊維自体の蓄電効果（コン
デンサー効果）も極めて小さく、例えば、高電位に帯電
した人体等、他の物体との接触によりこの静電気を該シ
ートに逃がして除去することは殆ど期待出来ない。

このため、除電効果を目的として、導電性繊維を混入し
た繊維シートの裏面に20％ないし50％のカーボン微粒子
を含有する導電バツキング剤層（表面抵抗10⁶Ω以下）
を一体化し、該バツキング剤層をアースしたものが除電
シートとして提案されている（実開昭60-40497号）。

〈発明が解決しようとする課題〉 従来のシートをカーシートの表面材として使用すると
き、シートと人体が当初から接触しているときは、シー
トおよび人体に帯電した静電気は常に導電性繊維および
バツキング材層をとおり車体に流れて除電されるために
両者の静電位は上がらないが、人体がシートから離れる
と、シートと人体（衣服）との剥離、あるいは摩擦によ
つて生じた人体は高電位に帯電し、シートと人体が再接
触したとき著しいスパーク放電を生じる事が認められ
る。これと同様の現象は、他の原因で高電位に帯電した
人体が同じシートに接触したときにも生ずる。このよう
な現象は高電位に帯電した人体が金属等の良導体に接触
するときのスパーク放電と同じである。したがつて、前
記シートは車両用の静電および除電シートとして必ずし
も有効なものとは言えない。

本発明は、車両内で高電位に帯電した人体等の帯電体
が、該シートに接触する過程で、該帯電体の電位を接触
前にスパーク放電する電位以下に下げ、接触後は導電に
よつて帯電体の除電を速やかに行うことができる機能を
有する車両用内装シート、特に自動車の座席の表面材用
シートであり、シート自体制電性を有するスエード調シ
ートを提供するものである。

更に、本発明は車両用内装シートとして要求される制電
性および除電性を有しながら、しかも車両用座席の表面
材として要求される、十分な柔軟性と高級感のある、更
に優美なライテイング効果の有る外観を有するシートを
提供するものである。

〈課題を解決するための手段〉 本発明は極細繊維および／またはその束状繊維と弾性樹
脂からなる基体、該基体の一面が平均繊度0.3デニール
以下の極細繊維でなる立毛密度が10⁴本／cm²以上の繊維
立毛を主体とする表面のスエード調シートにおいて、立
毛10⁴本当たり少なくとも１本の基体に連通する電気抵
抗が10⁵〜10⁹Ω/cmである導電性繊維の立毛を存在さ
せ、該スエード調シートの裏面に、表面電気抵抗が10⁶
〜10¹⁰Ωの可撓性半導体層を付与してなることを特徴と
するスエード調シートである。

また、本発明は平均繊度0.3デニール以下の極細繊維お
よび／または極細繊維発生型繊維と電気抵抗が10⁵〜10⁹
Ωの極細繊維または極細繊維発生型繊維を立毛繊維10⁴
本当たり少なくとも１本となる量とを混繊して繊維絡合
不織布を作り、（１）弾性樹脂を含有させた後、極細繊
維発生型繊維を処理して極細繊維または極細繊維束とす
る、（２）極細繊維発生型繊維を処理して極細繊維また
は極細繊維束とした後、弾性樹脂を含有させる、のいず
れかの工程をへて基体とし、該基体の一面に、表面の繊
維立毛密度が10⁴本／cm²以上になるまで立毛処理を施し
て、繊維立毛を主体とする表面のスエード調シートと
し、次いでスエード調シートの裏面に、表面電気抵抗が
10⁶〜10¹⁰Ωの可撓性重合体組成物を付与してなること
を特徴とするスエード調シートの製造法である。

本発明に用いる極細繊維発生型繊維は複数に分割可能な
多成分繊維、海成分を抽出除去可能な海島繊維で、弾性
樹脂を含有させる前もしくは弾性樹脂を含有させた後に
極細化されるものである。その中でスエード調シートと
して優美な外観と柔軟な触感を得るためには極細繊維の
繊度はム0.3デニール以下、好ましくは0.1デニール以下
のものを使用する。

本発明に用いられる導電性繊維としては、カーボン、金
属などの導電性粉粒を混入したポリマーからなる繊維、
これら導電性粉粒を混入したポリマーと導電性粉粒を実
質的に含まないポリマーからなる複合繊維等が挙げられ
る。金属細線なども導電性繊維としてあるが、これらの
繊維は一般に後述する電気抵抗が10⁵Ω/cm未満であり、
電気抵抗の点でこれら導電性繊維は一般に本発明に用い
ることができない。本発明において特に繊維素材の外観
上の審美性及び風合いを損なわないためには、また本発
明の目的の点でカーボン等の導電性粉粒を含むポリマー
が導電性粉粒を実質的に含まないポリマー層により包囲
されたような複合繊維が有用である。

また導電性繊維としては、電気抵抗が10⁹Ω/cm以下のも
のが集電による除電効果の点で好ましいが、10⁵Ω/cm未
満になると電撃によるショックを来すこととなるため、
本発明では10⁹〜10⁵Ω/cmの範囲のものが用いられる。
なお前記したようなカーボン、金属導電性粉粒を混入し
たポリマーからなる繊維あるいは該ポリマーを含む複合
繊維の場合でも導電性粉粒の添加量により電気抵抗値が
大きく変化することとなる。したがって電気抵抗値が上
記範囲となるように導電性粉粒が添加されていることが
必要である。

上記の極細繊維発生型繊維と導電性繊維を必要な一定長
に切断した後混綿する手法、もしくは切断する前に必要
な比率で各々の繊維束を集束し、必要があれば延伸、捲
縮、切断する方法によって両繊維を均一に混綿し、既存
の方法で３次元絡合不織布とする。

この不織布に含有せしめる弾性体はポリウレタンが好ま
しく用いられ、平均分子量700〜3000のポリエステルジ
オール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテル
ジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジ
オール、などから選ばれた少なくとも１種のポリマージ
オール、芳香族ジイソシアネートおよび／または脂環族
ジイソシアネートから選ばれた少なくとも１種の有機ジ
イソシアネートを主体に、必要に応じて他の有機ジイソ
シアネートあるいは有機トリイソシアネートを配合した
有機ジイソシアネート、および低分子ジオール、低分子
ジアミン、ヒドラジン、ヒドロキシアミンなど活性水素
原子２個有する化合物とを溶液重合法、溶融重合法、塊
状重合法などによって重合して得たポリエステル系ポリ
ウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル
ポリエーテル系ポリウレタン、ポリラクトン系ポリウレ
タン、ポリカーボネート系ポリウレタンなどであり、ポ
リウレタンは30℃における溶液粘度〔η〕＝0.5〜1.3の
範囲のポリウレタンである。この溶液粘度以外では本発
明で目的とする牛革や羊革のスエード調シートを構成す
るうえで好ましくない。

このように極細繊維不織布に弾性樹脂を含有させた基体
のメモリをバフィングして立毛を形成させるが、スエー
ド調シートとしてのライティング効果のある優美な外観
と柔軟な触感を得るためには、先に述べた極細繊維の繊
度の他に立毛密度も大きく影響し、10⁴本／cm²以上好ま
しくは10⁵本／cm²以上とする。

また、このシートに十分な制電性能、除電性能を付与す
るためには先に述べた電気抵抗が10⁵〜10⁹Ω/cmである
導電性繊維がある程度の密度をもって裏面の半導体層か
ら基体を連通して表面に立毛を存在させる必要がある。
該立毛繊維は高電位に帯電した帯電体が接近してくると
き接触する直前にシートに集電させてコロナ放電により
帯電体の電位をある程度下げる機能を持つ。本発明でい
う制電シートとして必要な基体に連通する導電性繊維の
立毛密度は少なくとも極細繊維立毛密度10⁴本／cm²当た
り１本以上である。それ以下では十分な集電及び放電効
果は得られない。しかし、逆に極細繊維の10倍以上の太
さの導電性繊維密度が高くなりすぎると、同効果は飽和
となり著しい効果の向上は認められないばかりか、触感
は荒くなり発色性の著しく異なる立毛が増えるためにシ
モフリ調の外観となり好ましくない。

また本発明でいう半導体層は、布帛層の裏面にバッキン
グ剤としてコートされるか、フィルム等として貼り合わ
されて形成される。該バッキング剤としては、通常のバ
ッキング樹脂またはゴムにカーボン、金属等の導電性粉
粒または物質を微分散したものが用いられ、該フィルム
としても同様に導電性微粒子等が混入されたものが用い
られる。

該半導体層は表面抵抗が10⁶〜10¹⁰Ωであることが必要
であり、10¹⁰Ω以上では帯電体との接触によってその除
電を行いにくく、また10⁶Ω以下になると該層が導体に
近くなり、帯電体の電位によってはシートとの間でスパ
ーク放電を起こし好ましくない。該バッキング剤は例え
ば通常のバッキング樹脂にカーボン粉粒を一般に樹脂剤
重量（固形分）の1.5〜15重量％混入微分散することに
よって容易に得られる。またフィルムの場合も同様に、
導電性粉粒または物質の混入量を調節することにより容
易に得られる。

一般に、樹脂に導電性粉粒を添加すると、この樹脂混合
物から得られる樹脂層は柔軟性が半減し、座席用表面材
として用いるとシートの柔軟性が損なわれ、座り心地が
悪化する。このようなことを防ぐためには、樹脂層を発
泡コーティング法やメッシュコーティング法（点状、線
状、網目状コーティングを含む）により形成するのが有
効である。

本発明において導電性繊維と半導体層とが接触している
ことが必要であり、接触していない場合には、布帛層に
集電された静電気のコロナ放電能が低下すると同時に半
導体層への漏洩効果も減ずることとなる。また導電性繊
維の電気抵抗値は半導体層の表面抵抗値よりも低いこと
が、半導体層への漏洩効果の点で好ましい。

さらに、本発明では帯電体から集電したシートの静電気
をアースにより除去するのが好ましく、このために前記
布帛層と半導体層からなるシートの裏面に表面抵抗10⁶
Ω以下の導電層を一体化することが望ましい。

この導電層としては、導電性フィルム、導電性布帛、金
属シート、金属板等が用いられる。第１図は本発明によ
る制電、除電機能を有する複合シートの断面図であり、
図中、１は極細繊維、２は導電性繊維、３は基体層、４
は半導体層、５は導電層を示す。

〈作用〉 本発明の複合シートは、導電層にアースされて使用され
るが、このシート表面に高電位に帯電した人体等の帯電
体が接触しようとするとき、まず、接触直前に帯電体の
静電気は繊維層の導電繊維に集電されコロナ放電により
帯電体の電位が下がり、また本発明のシート全体として
は導体でなく、徐々に静電気を流し一挙に放電しないた
め、スパークすることなく、帯電体とシート面が接触し
たときは、導電体に比べて緩やかに帯電体の静電気がシ
ートの導電性繊維を通じて半導体層に流れ、アースによ
って除電される。したがって高電位の帯電体が本発明の
シートに接触するときスパーク放電による電撃やノイズ
等の静電気障害を招くことなく速やかに帯電体の除電を
行うことができる。また帯電体の電位が低いときにはシ
ートとの接触のみで除電されることになる。

本発明によるシート自体は、導電性繊維が混入されてい
るため制電効果を有し、しかも前記除電機能により本発
明のシートに接触している物質に大きく帯電することは
ない。

以上の機能から、本発明のシートは、車両用の内装材と
して、たとえば座席の表面材、ドアライニング、インサ
イドパネル板等に使用できるが、特に自動車の座席の表
面材として優れている。さらに、これら以外に、コンピ
ュータールームの椅子張り、ドアノブカバー、敷物、壁
材等として使用できる。

〈実施例〉 次に、本発明の実施態様を具体的な実施例で説明する。
なお実施例中の部および％はことわりのないかぎり重量
に関するものである。

実施例１ 島成分としてポリエチレンテレフタレートを50部、海成
分として低密度ポリエチレン50部からなる太さ５デニー
ルの多成分繊維（Ａ）190部とアセチレンブラック26.5
％を含む６−ナイロンがアセチレンブラックを含まない
ポリエチレンテレフタレートにより包囲された断面構造
を有する太さ12.5デニールの複合導電性繊維（Ｂ）５部
を混綿して作成した３次元絡合不織布にポリテトラメチ
レンエーテルグリコール60部、ポリカプロラクトン40部
をソフトセグメントとするポリウレタン組成物のDMF溶
液を含浸し、湿式凝固した後、熱トルエン中にて繊維
（Ａ）の海成分（ポリエチレン）を抽出除去し、繊維シ
ートを得た。

この繊維シートの表面をバフィングして極細繊維の立毛
を形成し、これを120℃の高温高圧液流染色機で染色し
た後、ブラッシングして、ライティング効果のある優美
な外観のスエード調シートを得た。極細繊維の立毛密度
は平均10⁵本／cm²、基体に連通する導電性繊維（Ｂ）の
立毛密度は平均25本／cm²であった。

この立毛シートの裏面にカーボン粉末を10％混入したバ
ッキング材を倒伏し、半導体層を形成し、スエード調繊
維シート（Ｉ）を得た。

比較のために（Ｉ）のシートの半導体バッキングをしな
いサンプル（II）、更に（Ｉ）のシートの半導体バッキ
ングの代わりに表面抵抗10⁴Ωの導体バッキング（バッ
キング樹脂にカーボン粉末30％混入したもの）をしたサ
ンプル（III）を作成し、これらの除電性能を評価し
た。結果は第１表の通りである。

これらサンプル（Ｉ）〜（III）を表面材として用いて
それぞれ自動車用座席を作製した。そして作製された座
席を自動車内にセットし、５℃−12％RHの温湿度条件下
で、ポリエステルシャツにポリエステルズボンをはいた
人を座席に座らせ、10秒間に腰を前後に10往復させて座
席と着衣とを摩擦させた。

サンプル（II）の場合は、座席から立ち上がり導電性物
（金属）に触れると大きな電撃ショックが発生した。ま
たサンプル（III）の場合は座席から立ち上がった際に
大きな電撃ショックが発生した。それに対してサンプル
（Ｉ）の場合には導電性物に触れた際にほんの僅かな電
撃を感じただけであった。

実施例２ 実施例１のサンプル（Ｉ）の製法において、半導体層と
して、予め泡立てた樹脂液（カーボン粉末を10重量％含
む）を裏面に塗布して乾燥させたものを用いる以外はサ
ンプル（Ｉ）と同様に行ったシートを製造した。この際
の半導体層の気泡含有率は65体積％であった。また半導
体層の塗布量は95g/m²であった。このシートを表面材と
する座席を作製したところ、制電および除電能に関して
は前記サンプル（Ｉ）と同様に極めて優れたものであ
り、さらにシート自体も極めて柔軟であり、座席の表面
材としたときの座り心地は極めて良いものであった。

〈効果〉 本発明のスエード調シートは、帯電体の電位がシートと
の接触直前にスパーク放電を生ずることがない電位に下
げることができ、その後、速やかに帯電体から除電する
ことが出来る。

【図面の簡単な説明】

第１図は本発明のスエード調シートを用いた複合シート
の一例の断面模式図であり、第２図はシートの除電性能
を測定するための装置の図である。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】極細繊維および／またはその束状繊維と弾
   性樹脂からなる基体、該基体の一面が平均繊度0.3デニ
   ール以下の極細繊維でなる立毛密度が10⁴本／cm²以上の
   繊維立毛を主体とする表面のスエード調シートにおい
   て、立毛10⁴本当たり少なくとも１本の基体に連通する
   電気抵抗が10⁵〜10⁹Ω/cmである導電性繊維の立毛を存
   在させ、該スエード調シートの裏面に、表面電気抵抗が
   10⁶〜10¹⁰Ωの可撓性半導体層を付与してなることを特
   徴とするスエード調シート。