JP7468814B1 - 高強度極厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

高強度極厚鋼板およびその製造方法を提供する。本発明の高強度極厚鋼板は、特定の成分組成を有し、板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度比が1.60以上である集合組織を有し、面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であり、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下であり、かつ、鋼板1/2位置に残存する最大ポロシティの円相当径:200μm以下である、板厚1/2位置における鋼組織を有し、板厚が100mm超であり、板厚1/2位置における降伏強度が390MPa以上であり、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度がvTrs≦-100℃であり、かつ、Kca(-10℃)の値が8400N/mm3/2以上である。

Description

本発明は、例えば船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築構造物および土木構造物等の大型構造物に使用される板厚が100mm超えの高強度極厚鋼板であり、脆性き裂伝播停止特性に優れた高強度極厚鋼板およびその製造方法に関する。
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築構造物および土木構造物等の大型構造物は、脆性破壊に伴う事故が起きた場合に社会経済および環境に及ぼす影響が大きい。そのため、大型構造物には安全性の向上が常に求められている。大型構造物に使用される鋼材には、特に、使用温度における靭性および強度、並びに、脆性亀裂が伝播することを防止する脆性亀裂伝播停止特性(アレスト性能)が高いレベルで要求されている。
コンテナ船およびバルクキャリアー等の船舶は、一般的な甲板を設けずにハッチカバー上にまで積荷を積載して、大きな荷重のかかる波を受けながら海洋を走行するので、構造上および使用上の理由から、繰り返し大きな曲げ応力を受ける。そのため、船体外板には、この曲げ応力に耐え得る高強度かつ厚肉な鋼板を使用することが常である。近年では、船体の大型化に伴って、使用される鋼板の高強度厚肉化が一層進んでいる。
一般に、鋼板は高強度または厚肉となるほど、脆性亀裂伝播停止特性に劣る傾向がある。このため、近年のコンテナ船等に使用される鋼板の高強度厚肉化に際し、要求される脆性亀裂伝播停止特性を満たすことが難しくなっている。
鋼材の脆性亀裂伝播停止特性を向上させる手段として、従来から、鋼中のNi含有量を増加させる方法が知られている。例えば、極低温下での脆性亀裂伝播停止特性が要求される液化天然ガス(LNG)の貯槽タンクにおいては、9%Ni鋼が商業規模で使用されている。しかし、鋼中Ni量の増加は、製造コストの大幅な上昇を余儀なくさせるため、LNG貯槽タンク以外の用途には適用が難しい。
他方、LNGのような極低温下にまで至らない、例えば、船舶やラインパイプに使用される、板厚が50mm未満の比較的薄手の鋼材に対しては、TMCP(Thermo-Mechanical Control Process)法により細粒化を図り、低温靭性を向上させる。これにより、優れた脆性亀裂伝播停止特性を付与することができる。
例えば、特許文献1には、ミクロ組織がフェライトおよびベイナイトの混合組織であり、または、フェライト、パーライトおよびベイナイトの混合組織であり、かつ、板厚中心部における平均結晶粒径を5~20μmに制御することで靭性を向上させることにより、脆性亀裂伝播停止特性を高める技術が開示されている。
また、合金コストを上昇させることなく、脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために、鋼材の表層部の組織を超微細化する技術が、例えば特許文献2および特許文献3に開示されている。
特許文献2では、脆性亀裂が伝播する際に鋼材表層部に発生するシアリップ(すなわち塑性変形領域)が、脆性亀裂伝播停止特性の向上に効果があることに着目している。シアリップ部分の結晶粒を微細化させることによって、伝播する脆性亀裂が有する伝播エネルギーを該結晶粒で吸収することが特許文献2に開示されている。また、特許文献2では、製造方法として、熱間圧延後の制御冷却によって表層部分をAr3変態点以下の温度に冷却した後、制御冷却を停止して表層部分をAr3変態点以上の温度に復熱させる工程を1回以上繰り返して行う。この工程で鋼材に圧下を加えることにより、繰り返し変態を生じさせ、または加工再結晶させることで、表層部分に超微細なフェライト組織またはベイナイト組織を生成させることが、特許文献2に開示されている。
特許文献3には、フェライト-パーライトを主体のミクロ組織とする鋼材において脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために、鋼材の両表面部を、円相当粒径:5μm以下かつアスペクト比:2以上のフェライト粒を有するフェライト組織を50面積%以上有する層で構成しつつ、フェライト粒径のバラツキを抑えることを開示している。このバラツキを抑える方法として、仕上げ圧延中の1パス当りの最大圧下率を12%以下とすることで局所的な再結晶現象を抑制することが、特許文献3に開示されている。
また、制御圧延において、変態したフェライトに圧下を加えて集合組織を発達させることにより、脆性き裂伝播停止特性を向上させる方法も知られている。例えば、特許文献4および特許文献5の技術が挙げられる。
特許文献4では、有効結晶粒の平均円相当径が、厚鋼板の表層部では25μm以下、かつ板厚中心部では35μm以下であり、また、圧延面、圧延方向に対する集合組織強度比が、厚鋼板の表層部では、
I{001}<110>+I{112}<110>+I{332}<113>>5、
I{110}<001>+I{110}<110>+I{001}<010>≦3
を満足し、かつ板厚中心部では、
I{001}<110>+I{112}<110>+I{332}<113>≧3.5
を満足するように集合組織を制御する。これにより脆性亀裂伝播停止特性を高める技術が、特許文献4に開示されている。
特許文献5では、鋼板の表裏面から板厚方向に25%までの表裏層部とそれ以外の板厚中心部との三層に分け、該表裏層部で、板厚の5%以上25%以下の領域において圧延面と平行な(100)X線面強度比が1.5以上2.0未満の集合組織を有し、該板厚中心部において圧延面と平行な(111)または/および(211)X線面強度比が2.0以上の集合組織を有するように制御する。これにより、脆性亀裂伝播停止特性を高める技術が、特許文献5に開示されている。
国際公開第2011/96456号 特開2002-256375号公報 特開2011-184754号公報 特開2012-172258号公報 特開2008-169467号公報
しかしながら、特許文献2、3に記載の技術は、鋼材表層部のみを一旦冷却した後に復熱させ、かつ復熱中に加工を加えることによって、特定の組織を得るものである。そのため、実生産規模では制御が容易でなく、圧延設備および冷却設備への負荷が大きい問題がある。
また、特許文献1~5に記載の技術は、いずれも、製造条件や開示されている実験データを考慮すると、板厚80mm程度の鋼板および鋼材が主な対象であり、100mm超の極厚鋼板に各技術を適用する際に所定の特性が得られるかは不明である。また、船体構造において要求される、板厚方向の亀裂伝播停止特性を得られるかも不明である。しかし、100mm超の極厚鋼板では、板厚80mm程度の鋼板に比べて、亀裂伝播停止に必要となる特性は高くなることが予見される。
そして、船体の剛性を保持しつつ脆性き裂伝播停止特性を向上させるため、100mm超の極厚鋼板であっても、高強度および優れた靭性を兼ね備えることも要求される。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、板厚が100mmを超える場合であっても、靭性および脆性き裂伝播停止特性に優れた高強度極厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
ここで、本発明における「高強度」とは、高強度極厚鋼板の板厚1/2位置における降伏強度(YS)が390MPa以上であることを指す。本発明における「靭性に優れた」とは、高強度極厚鋼板の板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度がvTrs≦-100℃であることを指す。本発明における「脆性き裂伝播停止特性(アレスト特性)に優れた」とは、-10℃でのKca値(以下、Kca(-10℃)の値(N/mm3/2)とも記す)が8400N/mm3/2以上であることを指す。
なお、降伏強度、vTrsおよびKca値は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
本発明者らは、上記課題を解決するために、板厚が100mm超でも、強度を確保しつつ優れた靭性および脆性き裂伝播停止特性を有する高強度極厚鋼板、および当該鋼板を安定して得る製造方法について、鋭意研究を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
具体的には、板厚が100mm超となる極厚鋼板における高強度を達成するためには、炭素当量(Ceq)を0.480質量%以上に制御することが有効であり、これにより板厚1/2位置の鋼組織を全面的にベイナイトとすることで強度が向上し、高強度を達成する。
また、上記極厚鋼板における優れた靭性を達成するためには、板厚1/2位置における鋼組織を、方位差15°以上の粒界に囲まれたまれたベイナイトの結晶粒が20μm以下となるように制御し、鋼板中心部に残存する最大ポロシティの円相当径が200μm以下となるように制御することが有効である。これにより粒径微細化効果により靭性が向上し、最も特性の低くなる板厚の1/2位置におけるシャルピー靭性がvTrs≦-100℃を達成する。
また、上記極厚鋼板における優れた脆性き裂伝播停止特性を達成するためには、優れた靭性を持ち、かつ板厚1/2位置における圧延面での(211)面X線強度が1.60以上となる集合組織とすることが有効である。これにより脆性亀裂が直進的に進展することを阻害し、Kca(-10℃)の値(N/mm3/2)≧8400N/mm3/2を達成する。
そして、上記の靭性を得るためには、熱間圧延工程において、板厚1/2位置における温度がオーステナイト未再結晶温度域での累計圧下率:50.0%以上に制御し、かつ、最終製品の板厚に対するスラブの厚みの比率を表す圧下比:3.25以上となるように制御することが有効である。これにより、100mmを超える極厚鋼板であっても、板厚の影響を受けることなく、板厚1/2位置に十分な圧延応力を付与することができる。その結果、上記ベイナイトの結晶粒の平均粒径に制御でき、かつ破壊起点となる鋼板の板厚1/2位置のポロシティを圧着させることができるため、優れた靭性を達成する。
また、上記の脆性き裂伝播停止特性を得るためには、熱間圧延工程において、上記オーステナイト未再結晶温度域での累計圧下率:50.0%以上に制御し、かつ、上記圧下比:3.25以上となるように制御し、かつ板厚1/2位置における圧延終了温度:Ar3点以上となるように制御する。この制御によって、板厚1/2位置での鋼組織の結晶粒を微細にするとともに、板厚1/2位置での集合組織を制御することが有効である。これにより、優れた低温靭性を達成しつつ、オーステナイトを圧延方向に延伸させてベイナイト変態集合組織を特定の方位に揃って発達させることができる。その結果、板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度が1.60以上となる集合組織が得られる。
本発明は、上記した知見に、さらに検討を加えて完成されたものであり、本発明の要旨は次のとおりである。
[1] 質量%で、
C:0.040~0.150%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:1.00~2.50%、
P:0.020%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010~0.100%、
N:0.0010~0.0100%以下、および
O:0.0100%以下
を含有し、かつ、式(1)で定義されるCeqが0.480~0.560%であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度比が1.60以上である集合組織を有し、
面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であり、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下であり、かつ、板厚1/2位置に残存する最大ポロシティの円相当径:200μm以下である、板厚1/2位置における鋼組織を有し、
板厚が100mm超であり、
板厚1/2位置における降伏強度が390MPa以上であり、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度がvTrs≦-100℃であり、かつ、Kca(-10℃)の値が8400N/mm3/2以上である、高強度極厚鋼板。
Ceq=C+Mn/6+Cu/15+Ni/15+Cr/5+Mo/5+V/5 …(1)
ここで、式(1)におけるC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない元素は含有量を0とする。
[2] 前記成分組成に加えて、質量%で、以下のA群およびB群のうちから選ばれた1群または2群を含有する、[1]に記載の高強度極厚鋼板。
A群:Ti:0.030%以下、Nb:0.050%以下、Cu:2.00%以下、Ni:2.50%以下、およびCr:2.00%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
B群:Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、W:0.50%以下、Co:0.50%以下、B:0.0100%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、およびREM:0.0200%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
[3] 前記集合組織は、板厚1/4位置における圧延面での(110)面のX線強度比が0.90以上であり、
面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であり、かつ、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下である、板厚1/4位置における鋼組織を有する、[1]または[2]に記載の高強度極厚鋼板。
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載の高強度極厚鋼板の製造方法であって、
前記成分組成を有する鋼素材を、1000~1200℃の加熱温度に加熱し、
次いで、板厚1/2位置における圧延開始温度:(Ar3点+100)℃以上、板厚1/2位置における温度がオーステナイト再結晶温度域での累積圧下率:5.0%以上、板厚1/2位置における温度がオーステナイト未再結晶温度域での累計圧下率:50.0%以上、および板厚1/2位置における圧延終了温度:Ar3点以上となる条件、
かつ、スラブの厚みを350mm以上とし、最終製品の板厚に対するスラブの厚みの比率を表す圧下比:3.25以上4.00未満となる条件で、熱間圧延を施し、
次いで、板厚1/2位置における冷却開始温度:Ar3点以上、板厚1/2位置における温度が700~500℃の温度域での平均冷却速度:2.0℃/s以上、かつ、板厚1/2位置における冷却停止温度:500℃以下となる条件で冷却を施す、高強度極厚鋼板の製造方法。
[5] 前記熱間圧延では、さらに、
板厚1/2位置における温度がオーステナイト再結晶温度域での平均圧下率/パス:3.5%以上とし、
かつ、板厚1/4位置における圧延終了温度:Ar3点以上となる条件で施す、[4]に記載の高強度極厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、ベイナイト相とフェライト相からなる混合組織であり、上記ベイナイトの結晶粒の平均粒径が20μm以下であり、かつ、鋼板中心部に残存する最大ポロシティの円相当径が200μm以下である、板厚1/2位置における鋼組織を有するので、板厚1/2位置おけるポロシティが十分に圧着した鋼板が得られる。これとともに、板厚1/2位置における上述の集合組織を有するので、脆性亀裂が直進的に進展することを阻害できる。これにより、本発明の高強度極厚鋼板は、板厚が100mm超であっても、靭性および脆性き裂伝播停止特性に優れる。また、本発明の製造方法によれば、上記の特性を備える高強度極厚鋼板を、圧延条件を最適化することで製造できる。
例えば、本発明の高強度極厚鋼板を、造船分野ではコンテナ船や、バルクキャリアーの強力甲板部構造においてハッチサイドコーミングに接合される甲板部材へ適用することにより、船舶の安全性向上に寄与する。このように、本発明は、産業上極めて有用である。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
まず、本発明において高強度極厚鋼板の成分組成を限定した理由について説明する。本明細書において、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
C:0.040~0.150%
Cは、鋼の焼き入れ性を増加させる作用を有する元素であり、所望の強度を達成するために必要である。本発明では、前記効果を得るためには、C含有量を0.040%以上とする。一方で、C含有量が0.150%を超えると、溶接性が劣化するばかりか、靭性にも悪影響がある。このため、C含有量は、0.040~0.150%の範囲とする。なお、下限について好ましいC含有量は0.050%以上であり、より好ましくは0.055%以上である。また、上限について好ましいC含有量は0.100%以下であり、より好ましくは0.090%以下である。
Si:0.02~0.50%
Siは、脱酸などに必要な成分である。またSiは、粗大な炭化物生成を抑制することで鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、所望の強度を達成するためにはSiを0.02%以上で含有する。一方、Si含有量が0.50%を超えると鋼の表面性状を損なうばかりか、靭性が極端に劣化する。このため、Si含有量は、0.02~0.50%の範囲とする。なお、下限について好ましいSi含有量は0.050%以上であり、より好ましくは0.10%以上である。また、上限について好ましいSi含有量は0.40%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。
Mn:1.00~2.50%
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、所望の強度を発揮するために必要である。前記効果を得るためには、Mn含有量を1.00%以上とする。一方、Mn含有量が多いと、強度が過剰に上がるため、靭性が低下することに加え、合金コストが過度に高くなってしまう。これらの観点から、Mn含有量は2.50%以下とする。なお、下限について好ましいMn含有量は1.50%以上であり、より好ましくは1.65%以上である。また、上限について好ましいMn含有量は2.35%以下であり、より好ましくは2.15%以下である。
P:0.020%以下、S:0.010%以下
P、Sは、鋼中の不可避的不純物である。これらの含有量が多くなると靭性が劣化する。板厚が100mm超の極厚鋼板において、良好な靭性を保つためには、P含有量は0.020%以下、S含有量は0.010%以下に抑制する。なお、P含有量は、0.012%以下が好ましく、0.006%以下がより好ましい。S含有量は、0.006%以下が好ましく、0.002%以下がより好ましい。
なお、P含有量およびS含有量の下限は特に限定しない。ただし、PおよびSの過度の低減は製造コストの増加を招くため、P含有量およびS含有量は、それぞれ、好ましくはP:0.0005%以上、S:0.0005%以上とする。より好ましくはP:0.002%以上、S:0.001%以上とする。
Al:0.010~0.100%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、その効果を得るためにAl含有量を0.010%以上にする必要がある。一方、Al含有量が0.100%を超えると、靭性が低下するとともに、溶接した場合に、溶接金属部の靭性が低下する。このため、Al含有量は、0.010~0.100%の範囲とする。なお、下限について好ましいAl含有量は、0.020%以上であり、より好ましくは0.030%以上である。また、上限について好ましいAl含有量は0.070%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。
N:0.0010~0.0100%
Nは、鋼中のAlと結合し、圧延加工時の結晶粒径を調整し、鋼を強化する。この効果を得るためにはN含有量を0.0010%以上にする必要がある。また、N含有量が0.0100%を超えると靭性が劣化する。このため、N含有量は0.0010~0.0100%の範囲とする。なお、下限について好ましいN含有量は、0.0020%以上であり、より好ましくは0.0025%以上である。また、上限について好ましいN含有量は0.0070%以下であり、より好ましくは0.0055%以下である。
O:0.0100%以下
O(酸素)は不可避的不純物として含有される元素であるが、特に低減すべき元素であるため、その含有量を規定する。Oは酸化物を形成し脆性破壊の発生起点となるため、靭性低下とそれに伴う脆性き裂伝播停止特性の低下などの悪影響を及ぼす。そのため、O含有量を0.0100%以下に制限する。O含有量は、0.0050%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、Oを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、O含有量を0.0009%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。
また、本発明では、各元素を上記範囲内とし、かつ式(1)で定義されるCeq(炭素当量)(%)が以下の範囲を満足するように含有する。
Ceq=C+Mn/6+Cu/15+Ni/15+Cr/5+Mo/5+V/5…(1)
ここで、式(1)におけるC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない元素は含有量を0とする。
Ceq:0.480~0.560%
本発明の極厚鋼板における焼入性を向上し、かつ、高強度と集合組織の発達に伴う脆性き裂伝播停止特性の向上とを実現するためには、式(1)で表すCeqの値を0.480%以上に調整する。これより鋼板の焼き入れ性が上昇し、冷却速度が最も小さくなる板厚1/2位置であっても鋼組織が全面的にベイナイトとなり、強度向上を得られる。一方、Ceqの値が0.560%を超えると、焼き入れ性過多となり地の組織の強度が過度に上昇し、かつ脆性破壊起点となるMA(マルテンサイト)の生成量が増加する。その結果、溶接性および母材(鋼板)の靭性を確保できなくなる。このためCeqは0.560%以下とする。Ceqの値は、好ましくは0.490%以上とし、より好ましくは0.500%以上とする。またCeqの値は、好ましくは0.540%以下とし、より好ましくは0.530%以下とする。
以上が本発明の基本の成分組成であり、残部はFeおよび不可避的不純物である。
この基本の成分組成を有し、かつ、上記の式(1)を満足することで、本発明の高強度極厚鋼板は目的とする特性を得られる。
本発明では、さらに特性を向上させるため、基本の成分組成に加えて、必要に応じて後述のA群およびB群のうちから選ばれた1群または2群を含有することが可能である。なお、Ti、Nb、Cu、Ni、Cr、Mo、V、W、Co、B、Ca、Mg、REMの各成分は必要に応じて含有できるので、これらの成分は0%であってもよい。
A群:Ti:0.030%以下、Nb:0.050%以下、Cu:2.00%以下、Ni:2.50%以下、およびCr:2.00%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Ti:0.030%以下
Tiは、微量の含有により、窒化物、炭化物、あるいは炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化して母材靭性を向上させる効果を有する。その効果を得るためには、Ti含有量を0.005%以上にすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.030%を超えると、母材および溶接熱影響部の靭性が低下を招く場合がある。そのため、Tiを含有する場合には、Ti含有量は0.030%以下とすることが好ましく、0.025%以下とすることがより好ましい。Ti含有量は、0.010%以上とすることがより好ましい。
Nb:0.050%以下
Nbは、鋼の焼入れ性を増加させると共にオーステナイト域の圧延(熱間圧延)において未再結晶温度域を拡大させる効果を有する。その効果を得るためには、Nb含有量を0.005%以上にすることが好ましい。一方で、Nb含有量が0.050%を超えると、粗大なNbCが析出して、靭性の低下を招く場合がある。そのため、Nbを含有する場合には、Nb含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましい。Nb含有量は、0.010%以上とすることがより好ましい。
Cu:2.00%以下
Cuは、鋼の焼入れ性を高める元素である。Cuは、圧延後の強度向上に直接寄与する。これとともに、靭性、高温強度、および耐候性などの機能向上のためにCuを含有させることができる。この元素による上記効果を得るためには、Cu含有量を0.01%以上とするのが好ましい。一方、Cu含有量が2.00%を超えると、溶接性、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを含有する場合には、Cu含有量は2.00%以下とすることが好ましく、1.00%以下とすることがより好ましい。Cu含有量は、0.05%以上とすることがより好ましく、0.10%以上とすることがさらに好ましい。
Ni:2.50%以下
Niは、鋼の焼入れ性を高める元素である。Niは、圧延後の強度向上に直接寄与する。これとともに、靭性、高温強度、および耐候性などの機能向上のためにNiを含有させることができる。この元素による上記効果を得るためには、Ni含有量を0.01%以上とするのが好ましい。一方、Ni含有量が2.50%を超えると、溶接性、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを含有する場合には、Ni含有量を2.50%以下とすることが好ましく、2.00%以下とすることがより好ましい。Ni含有量は、0.10%以上とすることがより好ましい。
Cr:2.00%以下
Crは、鋼の焼入れ性を高める元素である。Crは、圧延後の強度向上に直接寄与する。これとともに、靭性、高温強度、および耐候性などの機能向上のためにCrを含有させることができる。この元素による上記効果を得るには、Cr含有量を0.01%以上とするのが好ましい。一方、Cr含有量が2.00%を超えると、溶接性、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Crを含有する場合には、Cr含有量を2.00%以下とすることが好ましく、1.00%以下とすることがより好ましい。Cr含有量は、0.05%以上とすることがより好ましく、0.10%以上とすることがさらに好ましい。
B群:Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、W:0.50%以下、Co:0.50%以下、B:0.0100%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、およびREM:0.0200%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Mo:0.50%以下
Moは、鋼の焼入れ性を高める元素である。Moは、圧延後の強度向上に直接寄与する。これとともに、靭性、高温強度、および耐候性などの機能向上のためにMoを含有させることができる。この元素による上記効果を得るには、Mo含有量を0.01%以上とするのが好ましい。一方、Mo含有量が0.50%を超えると、溶接性、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを含有する場合には、Mo含有量を0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。Mo含有量は、0.03%以上とすることがより好ましい。
V:0.50%以下
Vは、V(CN)として析出する析出強化によって、鋼の強度を向上させる元素である。この効果は、V含有量を0.001%以上にすることにより発揮される。しかし、V含有量が0.50%を超えると、靭性が低下する場合がある。そのため、Vを含有する場合には、V含有量を0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。V含有量は、0.005%以上とすることがより好ましく、0.010%以上とすることがさらに好ましい。
W:0.50%以下
Wは、鋼板の強度を向上させる作用を有する元素である。この効果を得るためにはW含有量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを含有する場合には、W含有量を0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。W含有量は、0.005%以上とすることがより好ましい。
Co:0.50%以下
Coは、鋼板の強度を向上させる作用を有する元素である。この効果を得るためにはCo含有量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、Co含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを含有する場合には、Co含有量を0.50%以下とすることが好ましく、0.40%以下とすることがより好ましく、0.30%以下とすることがさらに好ましい。Co含有量は、0.005%以上とすることがより好ましい。
B:0.0100%以下
Bは、微量で鋼の焼入れ性を高める元素である。しかし、0.0100%を超えてBを含有すると溶接部の靭性を低下させる。そのため、Bを含有する場合には、B含有量は0.0100%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。鋼板の強度を向上させるため、B含有量は0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましく、0.0010%以上とすることがさらに好ましい。
Ca:0.0100%以下
Caは、溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。この効果を得るために、Caを含有する場合には、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、粗大な介在物を形成し、靭性を劣化させる。そのため、Caを含有する場合には、Ca含有量を0.0100%以下とすることが好ましく、0.050%以下とすることがより好ましい。
Mg:0.0100%以下
Mgは、Caと同様、溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。この効果を得るために、Mgを含有する場合には、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、粗大な介在物を形成し、靭性を劣化させる。そのため、Mgを含有する場合には、Mg含有量を0.0100%以下とすることが好ましく、0.0050%以下とすることがより好ましい。
REM:0.0200%以下
REM(希土類金属)は、Caと同様、溶接熱影響部の組織を微細化し、靭性を向上させる。この効果を得るために、REMを含有する場合には、REM有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0015%以上とすることがより好ましく、0.0100%以上とすることがさらに好ましい。一方、REM含有量が0.0200%を超えると、粗大な介在物を形成し、靭性を劣化させる。そのため、REMを含有する場合には、REM含有量を0.0200%以下とすることが好ましい。
<集合組織>
板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度比:1.60以上
板厚が100mm超の極厚鋼板は、脆性き裂伝播停止特性を向上させるためには、板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度比を1.60以上とする必要がある。(211)面のX線強度比が1.60未満の場合、脆性亀裂が直進的に進展しやすくなり、その結果、板厚の脆性き裂伝播停止特性が低下する。そのため、板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度比を1.60以上とする。脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の(211)面のX線強度比は、1.70以上とすることが好ましく、1.80以上とすることがより好ましい。
なお、上記の(211)面のX線強度比の上限は特に規定しない。圧延能率および製造負荷の観点から、上記の(211)面のX線強度比は2.50以下とすることが好ましく、2.30以下とすることがより好ましい。
ここで、(211)面のX線強度比とは、対象材(すなわち高強度極厚鋼板)の(211)結晶面の集積度を表す数値である。(211)面のX線強度比は、後述の実施例に記載のように、対象材の(211)反射のX線回折強度(I(211))と、集合組織のないランダムな標準試料の(211)反射のX線回折強度(I0(211))との比(すなわち、I(211)/I0(211))として算出される。
<板厚1/2位置の鋼組織>
本発明では、板厚1/2位置における鋼組織は、面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織とし、かつ、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下とし、かつ、板厚1/2位置(板厚中心部)に残存する最大ポロシティの円相当径:200μm以下とする。
[板厚1/2位置におけるベイナイト相の面積分率:80~100%]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/2位置におけるベイナイト相の面積分率が80~100%である必要がある。ベイナイト相の面積分率が80%未満の場合、硬質な組織の分率が低下し、かつ(211)面の集合組織が十分に発達しないため、強度および脆性き裂伝播停止特性が低下する。したがって、板厚1/2位置におけるベイナイト相の面積分率を80%以上とする。強度および脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の面積分率は、85%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがより好ましい。
[板厚1/2位置におけるフェライト相の面積分率:0~20%]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/2位置におけるフェライト相の面積分率が0~20%である必要がある。フェライト相の面積分率が20%超えの場合、硬質な組織の分率が低下し、かつ(211)面の集合組織が十分に発達しないため、強度および脆性き裂伝播停止特性が低下する。したがって、板厚1/2位置におけるフェライト相の面積分率を20%以下とする。強度および脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の面積分率は、15%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。
[板厚1/2位置におけるベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/2位置におけるベイナイトの結晶粒の平均粒径が20μm以下である必要がある。この平均粒径が20μm超えの場合、粒径粗大化に伴い結晶粒の劈開破面の破面単位が大きくなるため、靭性および脆性き裂伝播停止特性が低下する。したがって、板厚1/2位置における結晶粒の平均粒径を20μm以下とする。靭性および脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の平均粒径は、19μm以下とすることが好ましく、18μm以下とすることがより好ましい。
なお、上記の平均粒径の下限は特に規定しない。圧延能率の観点から、上記の平均粒径は5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。
[板厚1/2位置に残存するポロシティの円相当径:200μm以下]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/2位置に残存する最大ポロシティの円相当径が200μm以下である必要がある。最大ポロシティの円相当径が200μm超えの場合、ポロシティが破壊起点となり靭性が著しく低下する。したがって、板厚1/2位置における残存する最大ポロシティの円相当径は200μm以下とする。靭性をさらに高めるためには、上記の円相当径は、150μm以下とすることが好ましく、100μm以下とすることがより好ましい。なお、上記の円相当径の下限は特に規定しない。圧延能率の観点から、上記の円相当径は25μm以上とすることが好ましく、50μm以上とすることがより好ましく、70μm以上とすることがさらに好ましい。
なお、本発明では、上述の鋼組織及び集合組織に加えて、さらに、以下に説明する構成を有していてもよい。
<板厚1/4位置の鋼組織>(好適条件)
本発明では、板厚1/4位置における鋼組織は、面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であることが望ましい。また、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下であることが望ましい。
[板厚1/4位置におけるベイナイト相の面積分率:80~100%]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/4位置におけるベイナイト相の面積分率が80~100%であることが望ましい。ベイナイト相の面積分率が80%未満の場合、硬質な組織の分率が低下し、かつ(110)面の集合組織が十分に発達しないため、強度および脆性き裂伝播停止特性が低下する。そのため、板厚1/4位置におけるベイナイト相の面積分率を80%以上であることが望ましい。強度および脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の面積分率は、85%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがより好ましい。
[板厚1/4位置におけるフェライト相の面積分率:0~20%]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/4位置におけるフェライト相の面積分率が0~20%であることが望ましい。フェライト相の面積分率が20%超えの場合、硬質な組織の分率が低下し、かつ(110)面の集合組織が十分に発達しないため、強度および脆性き裂伝播停止特性が低下する。そのため、板厚1/4位置におけるフェライト相の面積分率を20%以下であることが望ましい。強度および脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の面積分率は、15%以下とすることが好ましく、10%以下とすることがより好ましい。
[板厚1/4位置におけるベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下]
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/4位置におけるベイナイトの結晶粒の平均粒径が20μm以下であることが望ましい。この平均粒径が20μm超えの場合、粒径粗大化に伴い結晶粒の劈開破面の破面単位が大きくなるため、脆性き裂伝播停止特性が低下する。そのため、板厚1/4位置におけるベイナイトの結晶粒の平均粒径が20μm以下であることが望ましい。脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の平均粒径は、19μm以下とすることが好ましく、16μm以下とすることがより好ましい。
なお、上記の平均粒径の下限は特に規定しない。圧延能率の観点から、上記の平均粒径は5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。
<集合組織>(好適条件)
[板厚1/4位置における圧延面での(110)面のX線強度比:0.90以上]
板厚が100mm超の極厚鋼板は、脆性き裂伝播停止特性を向上させるためには、板厚1/4位置における圧延面での(110)面のX線強度比を0.90以上とすることが望ましい。(110)面のX線強度比が0.90未満の場合、板厚1/2位置における集合組織との方位差が小さくなり脆性き裂が分散せず直進的に進展しやすくなり、その結果、板厚の脆性き裂伝播停止特性が低下する。そのため、板厚1/4位置における圧延面での(110)面のX線強度比を0.90以上とする。脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、上記の(110)面のX線強度比は、1.00以上とすることが好ましく、1.10以上とすることがより好ましい。
なお、上記の(110)面のX線強度比の上限は特に規定しない。圧延能率の観点から、上記の(110)面のX線強度比は1.50以下とすることが好ましく、1.30以下とすることがより好ましい。
ここで、(110)面のX線強度比とは、対象材(高強度極厚鋼板)の(110)結晶面の集積度を表す数値である。(110)面のX線強度比は、後述の実施例に記載のように、対象材の(110)反射のX線回折強度(I(110))と、集合組織のないランダムな標準試料の(110)反射のX線回折強度(I0(110))との比(すなわち、I(110)/I0(110))として算出される。
<強度>
板厚1/2位置における降伏強度:390MPa以上
本発明の高強度極厚鋼板は、板厚の1/2の深さ(すなわち板厚1/2位置)から採取したΦ14mmのJIS 14A号引張試験片を用いて測定した降伏強度が390MPa以上である。コンテナ船及びバルクキャリアー等の船舶は、この曲げ応力に耐え得る高強度かつ厚肉な鋼板母材を使用することが常であり、降伏強度が390MPa未満の場合には、使用に適さない。
<シャルピー破面遷移温度>
板厚1/2位置におけるvTrs:-100℃以下
板厚が100mm超の極厚鋼板は、脆性き裂伝播停止特性を向上させるためには、板厚1/2位置におけるvTrsを-100℃以下とする必要がある。vTrs:-100℃よりも遷移温度が高い場合には、板厚の脆性き裂伝播停止特性が低下する。そのため、本発明の高強度極厚鋼板は、板厚1/2位置におけるvTrsを-100℃以下とする。脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、vTrsを-110℃以下とすることが好ましく、vTrsを-120℃以下とすることがより好ましい。なお、vTrsの下限は特に規定しない。圧延能率の観点から、上記vTrsは-160℃以上とすることが好ましく、-150℃以上とすることがより好ましい。
vTrsは、後述の実施例に記載のように、高強度極厚鋼板の板厚1/2位置からJIS 4号の衝撃試験片を採取し、シャルピー試験を実施することで評価できる。
<脆性き裂伝播停止特性>
Kca(-10℃)の値:8400N/mm3/2以上
板厚が100mm超の極厚鋼板は、船体の脆性き裂伝播を防止するために、Kca(-10℃)の値を8400N/mm3/2以上とする必要がある。脆性き裂伝播停止特性をさらに高めるためには、-10℃におけるKca値を9000N/mm3/2以上とすることが好ましい。なお、該Kca値の上限は特に規定しない。圧延能率の観点から、-10℃におけるKca値は25000N/mm3/2以下とすることが好ましく、20000N/mm3/2以下とすることがより好ましい。
Kca値は、後述の実施例に記載のように、温度勾配型標準ESSO試験することで評価できる。
以上説明したように、上記の成分組成の調整や集合組織や特定の位置での靭性の制御(すなわち、板厚1/2位置の鋼組織の微細化)により、100mm超の板厚であっても、本発明の高強度極厚鋼板は、高強度、高靭性および高い(優れた)脆性き裂伝播停止特性を有する。
本発明の高強度極厚鋼板の板厚の上限は特に規定しない。圧延能率の観点から、板厚の上限は、180mm以下とすることが好ましい。
次に、本発明の一実施形態における高強度極厚鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度極厚鋼板は、上述の成分組成を有する鋼素材に対し、以下に説明する特定の条件で加熱工程、熱間圧延工程および冷却工程を行うことによって、製造される。
以下に、各工程について詳細に説明する。各工程における温度は、別段の記載がない限り、鋼素材および熱延板の板厚中心部(すなわち板厚1/2位置)における温度を指すものとする。例えば、鋼板断面内の温度分布を伝熱解析により計算し、その結果を鋼板の表面温度によって補正することで求めることができる。
<加熱工程>
まず、上述の成分組成を有する鋼素材を、1000~1200℃の加熱温度に加熱する。
[鋼素材の加熱温度:1000~1200℃]
鋼素材の加熱温度が1000℃未満では、加熱温度が低すぎて変形抵抗が高くなり、熱間圧延機への負荷が増大する。そのため、後に続く熱間圧延工程の実施が困難になる。よって、上記の加熱温度を1000℃以上とする。一方、鋼素材の加熱温度が1200℃を超える高温では、オーステナイト粒が粗大化し、その結果、靭性が低下し、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、鋼板の強度が低下する。さらに、酸化が著しくなって酸化ロスが増大し、歩留りが低下するおそれがある。このような理由から、上記の加熱温度を1200℃以下とする。なお、上記の加熱温度は、1050℃以上が好ましく、1080℃以上がより好ましい。上記の加熱温度は、1150℃以下が好ましく、1130℃以下がより好ましい。
<熱間圧延工程>
次いで、加熱工程で加熱された鋼素材に、板厚1/2位置における圧延開始温度:(Ar3点+100)℃以上、板厚1/2位置における温度がオーステナイト再結晶温度域での累積圧下率:5.0%以上、板厚1/2位置における温度がオーステナイト未再結晶温度域での累計圧下率:50.0%以上、および板厚1/2位置における圧延終了温度:Ar3点以上となる条件、かつ、スラブの厚みは350mm以上とし、最終製品の板厚に対するスラブの厚みの比率を表す圧下比:3.25以上4.00未満となる条件で、熱間圧延を施す。
[圧延開始温度:(Ar3点+100)℃以上]
上述の加熱工程で加熱された鋼素材を熱間圧延するに際し、板厚1/2位置における熱間圧延を開始する温度が(Ar3点+100)℃未満では、熱間圧延工程終了後の熱延板において再結晶が十分に起こらない。そのため、オーステナイト粒径が細かくならず、靭性が低下する。その結果、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。そのため、圧延開始温度は(Ar3点+100)℃以上とする。後述の未再結晶領域において熱間圧延を行う時間を確保する観点からは、圧延開始温度は(Ar3点+150)℃以上とすることが好ましく、(Ar3点+200)℃以上とすることがより好ましい。圧延開始温度の上限は、上述した鋼素材の加熱温度に従えばよい。すなわち、圧延開始温度は、1150℃以下とすることが好ましく、1130℃以下とすることがより好ましい。
なお、Ar3点(Ar3変態点)(℃)は、以下の式(3)にしたがって求めることができる。
Ar3点(℃)=910-273×C-74×Mn-57×Ni-16×Cr-9×Mo-5×Cu …(3)
ここで、式(3)中、各元素記号は該元素の鋼中含有量(質量%)を表し、含有されない元素については0とする。
[オーステナイト再結晶温度域での累積圧下率:5.0%以上]
板厚中心部(板厚1/2位置)の温度がオーステナイト再結晶温度域での累積圧下率を5.0%以上とする熱間圧延を行う。この温度域での累積圧下率が5.0%未満であると、オーステナイトの細粒化が不十分であり、靭性が向上せず、その結果、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度:-100℃以下が達成されない。この温度域での累積圧下率は、好ましくは10%以上であり、より好ましくは15%以上である。
この温度域での累積圧下率の上限は特に限定されない。上記細粒化の向上効果が飽和するため、この温度域での累積圧下率は45%以下とすることが好ましく、40%以下とすることがより好ましい。
なお、本発明の成分組成の場合、オーステナイト再結晶温度域での累積圧下率は、1100~950℃の温度域での累積圧下率を5.0%以上とすることが好ましい。
[オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下率:50.0%以上]
さらに、板厚中心部(板厚1/2位置)の温度がオーステナイト未再結晶温度域にあるときの累積圧下率を50.0%以上とする熱間圧延を行う。この温度域での累積圧下率を50.0%以上とすることにより、オーステナイト相を圧延する時に発達した圧延集合組織が、オーステナイトからベイナイトに変態する。この時に、バリアント選択によって選択された滑り系にそって相変態することで、板厚中心部における圧延面での(211)面のX線強度比が1.60以上となる集合組織を得られる。
一方、この温度域での累積圧下率が50%未満であると、オーステナイトが圧延方向に十分延伸せずにベイナイト変態時の核生成サイトが減少し、これにより、粗大なベイナイトが生成して粒径微細化ができなくなる。その結果、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度(vTrs):-100℃以下が達成されない。また、板厚中心部における圧延面での(211)面集積度が1.60以上となる集合組織も得られない。
したがって、この温度域での累積圧下率は、50.0%以上とする。該累積圧下率は、好ましくは55%以上であり、より好ましくは60%以上である。
この温度域での累積圧下率の上限は特に限定されない。圧延能率を阻害しない観点から、この温度域での累積圧下率は75%以下であることが好ましく、70%以下とすることがより好ましい。
なお、本発明の成分組成の場合、オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下率は、950℃未満700℃以上の温度域での累積圧下率を50.0%以上とすることが好ましい。
[板厚1/2位置における圧延終了温度:Ar3点以上]
熱間圧延工程は、板厚1/2位置における圧延終了温度が、Ar3点(℃)以上の温度で終了する必要がある。熱間圧延に際して鋼板の温度がAr3点(℃)未満となると、フェライトへの相変態が開始し、(211)面のX線強度を高めるベイナイトの分率が低下するため、(211)面のX線強度比が低下する。その結果、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。更に、低温ほど変形抵抗が増加するため、熱間圧延機への負荷が大きくなるといった問題が生じる。なお、この圧延終了温度は、後工程の冷却開始温度をAr3点(℃)以上とする観点から、(Ar3点+10)℃以上であることが好ましい。
この圧延終了温度の上限は特に限定されない。圧延能率の観点から、圧延終了温度は(Ar3点+60)℃以下とすることが好ましく、(Ar3点+50)℃以下とすることがより好ましい。
[圧下比:3.25以上4.00未満]
本発明では、熱間圧延工程終了後の熱延板の厚みが次のようになっていることが重要である。具体的には、スラブの厚みは350mm以上とし、かつ、最終製品の板厚に対するスラブの厚みの比率(圧下比)が3.25以上となるように、熱間圧延工程での圧延を制御する。
上記の圧下比が3.25未満であると、鋼組織の細粒化が不十分であるために靭性が向上しない。その結果、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度:-100℃以下が達成されない。また、上記の圧下比が3.25未満であると、板厚1/2位置にかかる圧延応力が不十分となり鋼板内部に生じたポロシティが閉鎖する方向に変形が進まず、圧延が完了した時点でも粗大なポロシティが残存し破壊起点となる。そのため、鋼板内部に生じたポロシティが圧着せず靭性が著しく低下する。上記の圧下比は、3.40以上が好ましく、3.50以上がより好ましい。
一方、上記の圧下比が4.00以上であると鋼組織が過度に細粒化して焼き入れ性が低下し、冷却速度が低位となる100mm越えの極厚鋼板における板厚1/2位置のベイナイトの面積分率を高めることができない。その結果、(211)面のX線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、強度が低下する。よって、上記の圧下比は4.00未満であることが必要である。上記の圧下比は、3.80以下が好ましく、3.70以下がより好ましい。
本発明では、上述の熱間圧延条件で熱間圧延を行うことで、上記の作用効果を得ることができる。より作用効果を有効に得る観点から、さらに、以下の熱間圧延条件を規定することも有効である。
具体的には、板厚1/2位置における温度がオーステナイト再結晶温度域での平均圧下率/パス:3.5%以上とし、かつ、板厚1/4位置における圧延終了温度:Ar3点℃以上とする。
[オーステナイト再結晶温度域での平均圧下率/パス:3.5%以上](任意条件)
板厚中心部(板厚1/2位置)の温度がオーステナイト再結晶温度域での圧延の平均圧下率/パスを3.5%以上とする熱間圧延を行うと、より板厚1/2位置のポロシティを圧着させる効果を得ることができる。この温度域での平均圧下率/パスが3.5%未満であると、ポロシティ圧着に有効な高温での圧延時に十分に圧延応力を付与することができずに、圧延終了時にポロシティが残存しやすくなる。これが破壊起点となって板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度:-100℃以下が達成しにくくなる。この温度域での平均圧下率/パスは、好ましくは4.0%以上であり、より好ましくは5.0%以上である。
この温度域での平均圧下率/パスの上限は特に限定されない。製造負荷の観点化から、この温度域での平均圧下率/パスは、10%以下とすることが好ましく、8.0%以下とすることがより好ましい。
[板厚1/4における圧延終了温度:Ar3点以上](任意条件)
熱間圧延工程では、板厚1/4における圧延終了温度が、板厚1/4位置でAr3点(℃)以上の温度で終了すると、より脆性亀裂伝播停止特性向上効果を有効に得ることができる。熱間圧延に際して熱延板の板厚1/4位置の温度がAr3点(℃)未満となると、板厚1/4位置で加工フェライトが生成し、(110)面のX線強度を高めるベイナイトの分率が低下するため、板厚1/4位置の(110)面のX線強度比が低下する。その結果、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。更に、低温ほど変形抵抗が増加するため、熱間圧延機への負荷が大きくなるといった問題が生じる。なお、この圧延終了温度はAr3点+20)℃以上であることが好ましい。
この圧延終了温度の上限は特に限定されない。圧延能率の観点から、この圧延終了温度は、(Ar3点+50)℃以下とすることが好ましく、(Ar3点+40)℃以下とすることがより好ましい。
<冷却工程>
次いで、熱間圧延工程で熱間圧延された熱延板に、板厚1/2位置における冷却開始温度:Ar3点以上、板厚1/2位置における温度が700~500℃の温度域での平均冷却速度:2.0℃/s以上、かつ、板厚1/2位置における冷却停止温度:500℃以下となる条件で冷却を施す。
[冷却開始温度:Ar3点以上]
上述の熱間圧延工程を経て得られた熱延板に対し、板厚1/2位置における温度がAr3点(℃)以上の温度で冷却を開始する必要がある。冷却開始温度がAr3点(℃)を下回ると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、強度を高めることができない。その結果、(211)面のX線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。そのため、この冷却開始温度はAr3点(℃)以上とする。冷却開始温度は(Ar3点+10)℃以上とすることが好ましく、また(Ar3点+40)℃以下とすることが好ましい。
[700~500℃の温度域での平均冷却速度:2.0℃/s以上]
板厚1/2位置の温度が700℃から冷却停止温度(500℃以下)になるまでの温度域における平均冷却速度が2.0℃/s未満であると、徐冷により鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。その結果、(211)面のX線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、強度が低下する。
一方で、この平均冷却速度を測定する温度範囲は、大部分のオーステナイト組織の変態が起こり、鋼板の特性に大きく寄与する効果を得る観点から、700~500℃の温度域とする。
すなわち、本発明では、板厚1/2位置における700~500℃の温度域での平均冷却速度を2.0℃/s以上とする。これにより、ベイナイトの分率を向上させる効果を得られ、強度が向上し、かつ、(211)面の集合組織が発達し、脆性き裂伝播停止特性が向上する。この温度域での平均冷却速度は、好ましくは3.0℃/s以上とする。
なお、該平均冷却速度の上限は特に限定されない。過度の急冷による冷却コストの増大を回避する観点から、該平均冷却速度は、20℃/s以下とすることが好ましく、10℃/s以下とすることがより好ましい。
上記の700~500℃の温度域の範囲外の平均冷却速度は、ベイナイト生成に大きく影響を与えないため特に規定しない。製造能率の観点から、0.5~0.1℃/sとすることが好ましい。
[冷却停止温度:500℃以下]
冷却工程は、板厚1/2位置における温度が500℃以下になるまで行う必要がある。換言すれば、冷却停止温度が500℃以下の温度となるまで行う必要がある。冷却停止温度が500℃を超えると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの面積分率を高めることができない。その結果、(211)面のX線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、強度が低下する。冷却停止温度は、好ましくは450℃以下であり、より好ましくは400℃以下である。一方、冷却停止温度の下限は限定されないが、冷却停止温度が低すぎると鋼板の形状が悪くなる。そのため、冷却停止温度は、好ましくは200℃以上であり、より好ましくは300℃以上である。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明の好適な一例を示すものであり、本発明はこの実施例に限定されない。
表1に供試鋼の成分成分を示し、表2に製造条件を示した。表1に示す各成分組成の溶鋼(鋼記号:A~AG)を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼素材とした。その後、表2に示す製造条件で加熱工程、熱間圧延工程、および冷却工程をこの順に行い、表3に示す板厚の高強度極厚鋼板(鋼記号:1~42)を製造した。なお、表1中の空欄は、意図的に元素を添加しないことを表しており、元素を含有しない(すなわち0%)場合だけでなく、元素を不可避的に含有する場合も含む。
Figure 0007468814000001
Figure 0007468814000002
得られた各高強度極厚鋼板について、以下に説明する方法で、(1)強度、(2)靭性、(3)集合組織、(4)鋼組織、(5)脆性き裂伝播停止特性を評価した。
(1)強度
得られた高強度極厚鋼板の板厚1/2位置より、試験片の長手軸の方向が圧延方向と垂直となるように、Φ14のJIS 14A号試験片を採取し、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を行い、降伏強度(YS)、引張強さ(TS)を測定した。
ここでは、降伏強度が390MPa以上を高強度であると評価した。また、引張強さが570MPa以上を高強度であると評価した。
(2)靭性
靭性の評価は、板厚1/2位置のシャルピー破面遷移温度で行った。
得られた高強度極厚鋼板の板厚1/2位置より、試験片の長手軸の方向が圧延方向と平行となるように、JIS4号衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242(2005)の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を行って、-40℃~-160℃の範囲におけるシャルピー破面遷移温度(vTrs)を求めた。なお、1試験温度につき3本試験し、3本の脆性破面率の平均値から計算した。
ここでは、vTrs≦-100℃を低温靭性に優れると評価した。
(3)集合組織
集合組織の評価は、鋼板の板厚1/2位置における(211)面のX線強度比を測定して行った。
得られた高強度極厚鋼板から、板厚1/2位置を板厚中心として板厚1mm、圧延方向と平行な方向に22mm、かつ圧延方向と垂直な方向に25mmとする寸法の板状のサンプルを採取し、該サンプルの表面に平行な面を機械研磨および電解研磨することにより、X線回折用の試験片を用意した。この試験片を用いて、Mo線源を用いたX線回折装置を使用して、X線回折測定を実施し、(211)面のX線強度比を求めた。
また、鋼板の板厚1/4位置における(110)面のX線強度比を測定した。
得られた高強度極厚鋼板から、板厚1/4位置を板厚中心として板厚1mm、圧延方向と平行な方向に22mm、かつ圧延方向と垂直な方向に25mmとする寸法の板状のサンプルを採取し、該サンプルの表面に平行な面を機械研磨および電解研磨することにより、X線回折用の試験片を用意した。この試験片を用いて、Mo線源を用いたX線回折装置を使用して、X線回折測定を実施し、(110)面のX線強度比を求めた。
(4)鋼組織
[鋼組織]
板厚1/2位置の鋼組織は、次の通り測定した。
圧延方向と垂直な面が観察面となるように、鋼板の幅中央、板厚1/2位置から試料を採取した。試料の寸法は板厚方向に20mm、圧延方向と平行な方向に10mm、かつ圧延方向と垂直な方向に1mmとした。この試料の圧延方向に垂直な面を鏡面研磨した後、ナイタール腐食により現出させた金属組織の光学顕微鏡写真を撮影した。撮影部は板厚1/2位置で倍率は200倍とした。得られた写真から白い塊状として現出した組織をフェライト、残部をベイナイトとして画像解析によって面積分率を計算することによりベイナイト相およびフェライト相の面積分率を評価した。
また、板厚1/4位置の鋼組織は、次の通り測定した。
圧延方向と垂直な面が観察面となるように、鋼板の幅中央、板厚1/4位置から試料を採取した。試料の寸法は板厚方向に20mm、圧延方向と平行な方向に10mm、かつ圧延方向と垂直な方向に1mmとした。この試料の圧延方向に垂直な面を鏡面研磨した後、ナイタール腐食により現出させた金属組織の光学顕微鏡写真を撮影した。撮影部は板厚1/4位置で倍率は200倍とした。得られた写真を画像解析することによりベイナイト相およびフェライト相の面積分率を評価した。
[ベイナイトの結晶粒の平均粒径]
板厚1/2位置のベイナイトの結晶粒の平均粒径は、次の通り測定した。
圧延方向と垂直な面が観察面となるように、鋼板の幅中央、板厚1/2位置から試料を採取した。試料の寸法は板厚方向に20mm、圧延方向と平行な方向に10mm、かつ圧延方向と垂直な方向に1mmとした。この試料の圧延方向に垂直な面を鏡面研磨した後、板厚1/2位置を下記の条件でEBSP解析を行った。得られた結晶方位マップより、隣接する結晶粒との方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた組織の円相当直径を求め、下記の解析領域における円相当直径の平均値を平均有効結晶粒径とした。
(EBSP条件)
・加速電圧:20KV、照射電流:50nA
・ビーム径:50nm
・解析領域:板厚中心の1mm×1mm領域
・ステップサイズ:0.4μm
また、板厚1/4位置のベイナイトの結晶粒の平均粒径は、次の通り測定した。
圧延方向と垂直な面が観察面となるように、鋼板の幅中央、板厚1/4位置から試料を採取した。試料の寸法は板厚方向に20mm、圧延方向と平行な方向に10mm、かつ圧延方向と垂直な方向に1mmとした。この試料の圧延方向に垂直な面を鏡面研磨した後、板厚1/4位置を下記の条件でEBSP解析を行った。得られた結晶方位マップより、隣接する結晶粒との方位差が15°以上の大角粒界で囲まれた組織の円相当直径を求め、下記の解析領域における円相当直径の平均値を平均有効結晶粒径とした。
(EBSP条件)
・加速電圧:20KV、照射電流:50nA
・ビーム径:50nm
・解析領域:板厚中心の1mm×1mm領域
・ステップサイズ:0.4μm
[最大ポロシティの円相当径]
鋼板内部の欠陥の検出には、非破壊で検査できるため超音波探傷が用いられることが多いが、本実施例では正確に欠陥部の状態を確認するために直接観察をおこなって、ポロシティの個数密度を測定した。まず、圧延材の板厚1/2位置において板幅方向に対して平行に観察用のサンプルを1~2断面採取し、鏡面研磨仕上げとした。次いで、作製したサンプルを光学顕微鏡にて観察して写真を撮影した。倍率は400倍とした。得られた写真を画像解析して、存在するポロシティ個々の円相当径を求め、最大ポロシティの円相当径を算出した。
(5)脆性き裂伝播停止特性
脆性き裂伝播停止特性の評価は、Kca値を求めて行った。
脆性亀裂伝播停止特性を評価するため、温度勾配型標準ESSO試験を行い、-10℃におけるKca値(Kca(-10℃)の値(N/mm3/2))を求めた。
試験体は、得られた高強度極厚鋼板から3本ずつ採取した。試験体のサイズは、全厚×L:500×W:500(mm)とした。3体試験の結果から、Kca値を求めた。
ここでは、Kca(-10℃)の値が8400N/mm3/2以上のものを脆性き裂伝播停止特性に優れると評価した。
表3にこれらの試験結果を示した。
Figure 0007468814000003
表3に示された結果から、次のことが分かった。本発明例(製造No.1~17)の場合、成分組成および製造条件が本発明範囲内であり、かつ板厚1/2位置の集合組織が(211)面のX線強度比:1.60以上を満足し、かつ上述の板厚1/2位置の鋼組織も得られていた。これにより、板厚1/2位置における降伏強度が390MPa以上、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度が-100℃以下、かつKca(-10℃)の値が8400N/mm3/2以上の特性を得られた。
一方、比較例(製造No.18~42)の場合、成分組成および製造条件のいずれか1つ以上で本発明範囲外となったため、板厚1/2位置における集合組織および鋼組織を得られず、板厚1/2位置での目標特性を満足しなかった。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.040~0.150%、
    Si:0.02~0.50%、
    Mn:1.00~2.50%、
    P:0.020%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.010~0.100%、
    N:0.0010~0.0100%以下、および
    O:0.0100%以下
    を含有し、かつ、式(1)で定義されるCeqが0.480~0.560%であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    板厚1/2位置における圧延面での(211)面のX線強度比が1.60以上である集合組織を有し、
    面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であり、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下であり、かつ、板厚1/2位置に残存する最大ポロシティの円相当径:200μm以下である、板厚1/2位置における鋼組織を有し、
    板厚が100mm超であり、
    板厚1/2位置における降伏強度が390MPa以上であり、板厚1/2位置におけるシャルピー破面遷移温度がvTrs≦-100℃であり、かつ、Kca(-10℃)の値が8400N/mm3/2以上である、高強度極厚鋼板。
    Ceq=C+Mn/6+Cu/15+Ni/15+Cr/5+Mo/5+V/5 …(1)
    ここで、式(1)におけるC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない元素は含有量を0とする。
  2. 前記成分組成に加えて、質量%で、以下のA群およびB群のうちから選ばれた1群または2群を含有する、請求項1に記載の高強度極厚鋼板。
    A群:Ti:0.030%以下、Nb:0.050%以下、Cu:2.00%以下、Ni:2.50%以下、およびCr:2.00%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
    B群:Mo:0.50%以下、V:0.50%以下、W:0.50%以下、Co:0.50%以下、B:0.0100%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、およびREM:0.0200%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
  3. 前記集合組織は、板厚1/4位置における圧延面での(110)面のX線強度比が0.90以上であり、
    面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であり、かつ、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下である、板厚1/4位置における鋼組織を有する、請求項1に記載の高強度極厚鋼板。
  4. 前記集合組織は、板厚1/4位置における圧延面での(110)面のX線強度比が0.90以上であり、
    面積分率で、ベイナイト相:80~100%およびフェライト相:0~20%からなる混合組織であり、かつ、方位差15°以上の粒界に囲まれたベイナイトの結晶粒の平均粒径:20μm以下である、板厚1/4位置における鋼組織を有する、請求項2に記載の高強度極厚鋼板。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載の高強度極厚鋼板の製造方法であって、
    前記成分組成を有する鋼素材を、1000~1200℃の加熱温度に加熱し、
    次いで、板厚1/2位置における圧延開始温度:(Ar3点+100)℃以上、板厚1/2位置における温度がオーステナイト再結晶温度域での累積圧下率:5.0%以上、板厚1/2位置における温度がオーステナイト未再結晶温度域での累計圧下率:50.0%以上、および板厚1/2位置における圧延終了温度:Ar3点以上となる条件、
    かつ、スラブの厚みを350mm以上とし、最終製品の板厚に対するスラブの厚みの比率を表す圧下比:3.25以上4.00未満となる条件で、熱間圧延を施し、
    次いで、板厚1/2位置における冷却開始温度:Ar3点以上、板厚1/2位置における温度が700~500℃の温度域での平均冷却速度:2.0℃/s以上、かつ、板厚1/2位置における冷却停止温度:500℃以下となる条件で冷却を施す、高強度極厚鋼板の製造方法。
  6. 前記熱間圧延では、さらに、
    板厚1/2位置における温度がオーステナイト再結晶温度域での平均圧下率/パス:3.5%以上とし、
    かつ、板厚1/4位置における圧延終了温度:Ar3点以上となる条件で施す、請求項に記載の高強度極厚鋼板の製造方法。
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