JP7099653B1 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
しかし、一般に、鋼板は高強度又は厚肉となるほど脆性亀裂伝播停止特性に劣る傾向があるため、コンテナ船等に使用される鋼板が有する脆性亀裂伝播停止特性への要求は近年一段と高まっている。
また、TiNを活用し大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させる上記技術では、大入熱溶接を受けた際に、溶接熱影響部がTiNの溶解温度域まで加熱されるため、TiNが分解して上記分散効果が消失したり、TiNの分解によって生成した固溶Tiおよび固溶NによってHAZ部の鋼の地組織が脆化したりして、溶接熱影響部の靱性が著しく低下するという問題を抱えていた。
なお、一例として、上記検討に際して用いた高強度鋼の降伏強度は390N/mm2以上であり、大入熱溶接の入熱量は150kJ/cmであり、使用環境は-10℃程度の低温環境下を想定した。
ここで、本発明における「MAをほとんど生成させない」とは、HAZの微細組織においてMAが占める体積率が10%以下であることをいう。
1.質量%で、
C:0.040%以上0.090%以下、
Si:0.02%以上0.10%以下、
Mn:1.60%以上2.00%以下、
P:0.010%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010%以上0.100%以下、
Nb:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.50%以下
を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比である(Ti/N)が2.00以上4.00以下、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量(Ceq)が0.400以上0.500以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、
ベイナイトの体積率が80%以上である組織と、を有し、
鋼板表面から深さ1mmの位置において、平均粒径が20nm以上50nm以下のTiN粒子を5.0×108個/cm2以上の個数密度で含有し、
板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である、鋼板。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
ここで、ベイナイトの体積率、TiN粒子の平均粒径、TiN粒子の個数密度、および、(211)面X線強度比は、それぞれ後述の実施例に記載の手法に従って測定可能である。
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1に記載の鋼板。
C:0.040%以上0.090%以下、
Si:0.02%以上0.10%以下、
Mn:1.60%以上2.00%以下、
P:0.010%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010%以上0.100%以下、
Nb:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.50%以下
を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比である(Ti/N)を2.00以上4.00以下とし、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量(Ceq)を0.400以上0.500以下とし、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する溶鋼を溶製し、
前記溶鋼を鋳造してスラブ状の鋼素材を得るに際し、前記鋳造時の前記スラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下として得られた鋼素材を用いて、
前記鋼素材を950℃以上1250℃以下の温度に加熱し、更に、圧延開始温度をAr3点+100℃以上とし、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上とし、圧延終了温度をAr3点以上とした熱間圧延を施して熱延板とした後、
前記熱延板に対し、冷却開始温度をAr3点(℃)以上とし、板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまで、600~500℃間の平均冷却速度を2.0℃/s以上とした冷却を施す、鋼板の製造方法。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
ここで、各工程における温度は、放射温度計を使用して測定および算出可能である。また、「スラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度」は、放射温度計を使用して測定したスラブの表面温度から、深さ1mmの位置における温度を計算によってもとめ、該温度が1400℃から1250℃までにおける冷却速度の平均として算出可能である。
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記4に記載の鋼板の製造方法。
また、本発明で得られる鋼板は、例えば、コンテナ船の建造の際の施工性に優れた大入熱溶接に好適であるため、産業上格段の効果を奏する。
本発明の製造方法によって得られる鋼板は、脆性亀裂伝播停止特性に優れ、大入熱溶接後のHAZに優れた靱性を発揮させることができる。したがって、本発明の製造方法は、コンテナ船等の大型構造物の製造に好適である。
(鋼板)
本発明の鋼板は、所定の成分組成を有する。本発明の鋼板が有する成分組成では、C,Si,Mn,P,S,Al,Nb、O、Cu、Ni、Cr、MoおよびVの各元素の含有量を規定するとともに、TiおよびNを、TiとNの質量%比(Ti/N)、および所定の(1)式を満足する範囲で添加する。また、所定の(2)式に従うCeqを規定する。また、本発明の鋼板が有する組織では、ベイナイトの体積率を規定する。さらに、本発明の鋼板は、所定の平均粒径を有するTiN粒子の個数密度と、(211)面X線強度比とを規定する。
本発明の鋼板は、脆性亀裂伝播停止特性に優れ、大入熱溶接した後の継手に優れた靱性を発揮させることができるので、コンテナ船等の大型構造物に好適に使用可能であり、とりわけ、コンテナ船のハッチサイドコーミング部に好適に使用可能である。本発明の鋼板は、好ましくは大入熱溶接用鋼板である。
そして、本発明の鋼板は、例えば、後述する本発明の製造方法によって得ることができる。
まず、本発明において鋼板の成分組成を限定する理由を説明する。
なお、以下、鋼板の成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.040%以上0.090%以下
Cは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を向上させ母材において所望の強度を達成し、優れたアレスト特性を発揮するために必要である。また、Cは、鋼の集合組織の発達にも影響し、(211)面X線強度を高めて所望の脆性亀裂伝播停止特性を達成するためにも、重要な元素の1つである。前記効果を得るためには、C含有量を0.040%以上とする。また、他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、C含有量は0.045%以上とすることが好ましく、0.050%以上とすることがより好ましい。一方、C含有量が多いと、大入熱溶接に起因してオーステナイトが粗大化して変態したり、MAが生成したりすることにより、HAZ靭性が大幅に低下する。これらの観点から、C含有量は0.090%以下とする。また、HAZ靱性の低下を更に抑制する観点、溶接性の低下を抑制する観点からは、C含有量を0.085%以下とすることが好ましく、0.080%以下とすることがより好ましい。
Siは、脱酸などに必要な成分であり、また粗大な炭化物生成を抑制することで鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素である。Siは、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、集合組織を発達させ優れたアレスト特性を発揮するために必要であり、0.02%以上で添加する。他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、Si含有量は0.03%以上とすることが好ましく、0.04%以上とすることがより好ましい。一方で、Si含有量が多いと大入熱溶接に起因してMAが生成することにより、HAZ靭性が大幅に低下する。そのため、高いHAZ溶接性を確保するために、Si含有量は0.10%以下とする。HAZ靭性をより良好にする観点からは、Si含有量を0.09%以下とすることが好ましく、0.08%以下とすることがより好ましい。
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、集合組織を発達させ優れたアレスト特性を発揮するために必要である。また、Mnは、鋼の集合組織の発達にも影響し、(211)面X線強度を高めて所望の脆性亀裂伝播停止特性を達成するためにも、重要な元素の1つである。前記効果を得るためには、Mn含有量を1.60%以上とする。また、他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、Mn含有量は1.65%以上とすることが好ましく、1.70%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が多いと、HAZ靭性及び溶接性が低下することに加え、合金コストが過度に高くなってしまう。これらの観点から、Mn含有量は2.00%以下とする。また、靭性及び溶接性の低下を更に抑制する観点や、コストを更に抑制する観点からは、Mn含有量を1.95%以下とすることが好ましく、1.90%以下とすることがより好ましい。
Pは、粒界に偏析することによってHAZ靱性を低下させるといった悪影響を及ぼす。そのため、できる限りP含有量を低くすることが望ましいが、0.010%以下であれば許容できる。一方、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよい。通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってもよい。また、Pを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、HAZ靭性を低下させる、脆性破壊の発生起点となるといった悪影響を及ぼす。そのため、できる限りS含有量を低くすることが望ましいが、0.010%以下であれば許容できる。一方、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってもよい。また、Sを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、S含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Alは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、集合組織を発達させ優れたアレスト特性を発揮するために必要である。これらの効果を得るためには、Al含有量を0.010%以上とする。一方、Al含有量が0.100%を超えると、酸化物系介在物が増加して清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、Al含有量は0.100%以下とする。なお、Al含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましい。
Nbは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、優れたアレスト特性を発揮するために必要である。前記効果を得るために、Nb含有量を0.005%以上とする。なお、Nb含有量は0.007%以上とすることが好ましく、0.009%以上とすることがより好ましい。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、HAZにMAが生成し靭性を低下させる。そのため、Nb含有量の上限は、0.100%以下とする。HAZ靭性向上の観点からは、0.050%以下とすることが好ましく、0.045%以下とすることがより好ましく、0.040%以下とすることがさらに好ましい。
Oは不可避的不純物として含有される元素であるが、特に低減すべき元素であるため、その含有量を規定する。Oは、酸化物を形成し、脆性破壊の発生起点となりHAZ靭性を低下させるといった悪影響を及ぼす。そのため、O含有量を0.0100%以下に制限する。O含有量は、0.0050%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、Oを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、O含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。
Cuは、鋼の焼入れ性を増加させて鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。Cuを添加する場合、前記効果を得るためにCu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を1.00%以下とする。なお、Cu含有量は、0.075%以上がより好ましい一方で、0.50%以下がより好ましい。
Niは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。Niを添加する場合、前記効果を得るためにNi含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を1.00%以下とする。なお、Ni含有量は、0.075%以上がより好ましい一方で、0.50%以下がより好ましい。
Crは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにCr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Crを添加する場合、Cr含有量を1.00%以下とする。なお、Cr含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.75%以下がより好ましく、0.50%以下がさらに好ましい。
Moは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにMo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量を0.50%以下とする。なお、Mo含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
Vは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにV含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Vを添加する場合、V含有量を0.50%以下とする。なお、V含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
Ti/Nが2.00未満では、TiNとならない固溶Nが増加し、HAZ靭性を低下させる。そのため、Ti/Nは2.00以上とする。Ti/Nは2.10以上とすることが好ましく、2.20以上とすることがより好ましい。また、Ti/Nが4.00を超えると、TiNが粗大化し、HAZ靭性を低下させる。そのため、Ti/Nの上限は、4.00とする。また、HAZ靭性向上の観点から、Ti/Nは3.90以下とすることが好ましく、3.80以下とすることがより好ましい。なお、Ti/Nにおいて各元素は鋼中の含有量(質量%)とする。
従来のTiNを活用した大入熱溶接時の靭性向上技術では、大入熱溶接に溶接熱影響部が曝された際に、TiNが分解して該TiNの分散効果が消失したり、TiNの分解によって生成した固溶Tiおよび固溶NによってHAZ部における鋼の地組織が脆化したりして、HAZ靱性が著しく低下するという問題を抱えていた。そこで、このTiNの分解を抑制するために、(5158×Ti)+(25563×N)の値、すなわち(1)式の値を169以上とすることが肝要である。よりHAZ靭性を向上させる観点からは、169超であることが好ましく、175以上であることがより好ましく、180以上とすることがさらに好ましい。
一方、上記(1)式の値が360超となるとTiNが多量に生成し、却ってHAZ靱性を低下させる。したがって、上記(1)式の値は360以下とする。より靭性を向上させる観点からは、360未満とすることが好ましく、330以下とすることがより好ましく、300以下とすることがさらに好ましい。
上記(1)式の条件は、HAZ靭性を良好に確保する目的で、TiN粒子の分布を制御するためのTiとNとの含有量比について、本発明者らが鋭意検討の結果知見した回帰値に基づくものである。
Tiは、鋼の凝固時にTiNとなって析出し、溶接熱影響部でのオーステナイトの粗粒化抑制や、フェライト変態核となって高靱性化に寄与する本発明で重要な元素のひとつである。TiNを必要量確保するには、Tiを0.010%含有させることが好ましい。Ti含有量は0.012%以上とすることがより好ましく、0.014%以上とすることがさらに好ましい。一方、Tiを0.031%超えて添加すると、TiNが多量に生成し易い、または、TiN粒子の粗大化が起こり期待する効果が得られ難くなくなり、却って溶接部の靱性を低下させ易い。そのため、Ti含有量の上限は、0.031%とすることが好ましい。また、靭性向上の観点から、Ti含有量を0.028%以下とすることがより好ましく、0.025%以下とすることがさらに好ましく、0.022%以下とすることが一層好ましい。
Nは、上述したTiNの生成に必要な元素であり、TiNを必要量確保するには、Nを0.0038%以上含有させることが好ましい。なお、N含有量は0.0040%以上とすることがより好ましく、0.0042%以上とすることがさらに好ましい。一方、Nを0.0100%超えて添加すると、TiNが多量に生成し易く、却って溶接部の靱性を低下させ易い。そのため、N含有量の上限は、0.0100%とすることが好ましい。靭性向上の観点から、N含有量を0.0090%以下とすることがより好ましく、0.0080%以下とすることがさらに好ましく、0.0070%以下とすることが一層好ましい。
鋼板における焼入性を向上し、ベイナイト組織分率および所定の集合組織の発達程度を高めて、優れた強度およびアレスト特性を実現するために、Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5の(2)式で定義される炭素当量を0.400以上とすることが肝要である。上記の効果を得るためには、Ceqは0.410以上であることが好ましく、0.420以上であることがより好ましく、0.430以上であることがさらに好ましい。
一方、Ceqが0.500を超えると、大入熱溶接時に生じるHAZにMA生成が生じ、HAZ靭性が低下する。そのため、Ceqは0.500以下とする。また、コストの観点からは、Ceqを0.490以下とすることが好ましく、0.480以下とすることがより好ましい。
Wは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにW含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを添加する場合、W含有量を0.50%以下とする。なお、W含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
Coは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにCo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Co含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを添加する場合、Co含有量を0.50%以下とする。なお、Co含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。したがって、鋼板(母材)の強度を向上させることができる。また、HAZにおいて焼入れ性の向上に寄与することで粗大なフェライト組織の生成、成長を抑制するとともに、Nと析出物を形成することで変態核としてはたらき、組織の微細化に寄与することで、HAZ靭性も向上させることができる。前記効果を得るために、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、B含有量が0.0100%を超えると、粗大なFe-B系の炭化物が生成し易い。かかる粗大なFe-B系の炭化物は、破壊の起点となって母材およびHAZの靭性が著しく低下する。
そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0100%以下とする。また、B含有量は、0.0050%以下とすることがより好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましく、0.0012%以下とすることがより好ましく、0.0010%以下とすることがさらに好ましい。更に、高合金化を回避してコストを抑制する観点からも、Bを添加する場合、B含有量の上限を上記のとおりとすることが好ましい。
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Caを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0100%以下とする。また、Ca含有量は、0.0075%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることがさらに好ましい。
Mgは、Caと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Mgを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0100%以下とする。また、Mg含有量は、0.0075%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることがさらに好ましい。
REM(希土類金属)は、CaやMgと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、REMを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、REMを添加する場合、REM含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0015%以上とすることがより好ましい。一方、REM含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.0200%以下とする。また、REM含有量は、0.0100%以下とすることがより好ましく、0.0080%以下とすることがさらに好ましく、0.0050%以下とすることが一層好ましい。
なお、REMは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種または2種以上を含有させることができる。また、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
次いで、本発明の鋼板における組織について説明する。
鋼板表面から深さ1mmの位置において、平均粒径:20nm以上50nm以下のTiN粒子の個数密度:5.0×108個/cm2以上
TiNは鋼の凝固時に析出し、溶接熱影響部でのオーステナイトの粗粒化抑制、および、フェライト変態核となって高靱性化に寄与する本発明で重要な働きをする析出物である。鋼板表面から深さ1mmの位置において所定密度以上で析出させるTiN粒子の平均粒径が20nm未満では、溶接時にTiNが分解してその分散効果が消失したり、かかる分解によって生成した固溶Tiおよび固溶NによってHAZ部における鋼の地組織が脆化したりして、HAZの靱性が著しく低下する。そのため、TiN粒子の平均粒径を20nm以上とする。TiN粒子の平均粒径は、HAZ靭性向上効果の観点から、25nm以上とするのが好ましく、30nm以上とするのがさらに好ましい。また、TiN粒子の平均粒径が50nmを超えると、オーステナイトの粗粒化抑制効果が低下し、HAZの靭性が低下する。そのため、TiN粒子の平均粒径を50nm以下とする。TiN粒子の平均粒径は、HAZ靭性向上の観点から45nm以下とするのが好ましく、40nm以下とするのがさらに好ましい。
ここで、鋼板母材における脆性亀裂伝播停止特性およびHAZ部における靭性は、特に鋼板の表裏面において課題となり易く、したがって、鋼板の表裏面におけるこれらの特性を向上させることが望ましい。この観点から、本発明では、鋼板表面に近い、深さ1mmの位置において析出するTiN粒子の平均粒径および個数密度を規定する。
本発明の鋼板では、板厚方向に貫通しながら圧延方向に直角な方向(板幅方向)を伝播する亀裂に対する脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために、板厚の1/2の深さ、すなわち板厚tの中央である1/2tに位置する、鋼板表面(板面)に平行な面における(211)面X線強度比を1.60以上に限定する。上記1/2tにおいて上記板面と平行な圧延面に(211)面を発達させた集合組織にすれば、亀裂の優先伝播の方向である(001)面が板幅方向に対して角度を有し、脆性亀裂が伝播する径路をジグザグにして伝播エネルギーを吸収できるため、脆性亀裂伝播停止特性の向上に有効である。上記の観点から、1/2tにおける(211)面X線強度比は1.80以上であることが好ましく、2.00以上であることがより好ましい。
一方、1/2tにおける(211)面X線強度比の上限に制限はないが、(211)面X線強度比を高めるためには制御圧延における未再結晶領域での圧下率/パスを高めることが有効であるところ、(211)面X線強度比を過度に高めるべく上記圧下率/パスを過度に高めると圧延機への負荷が高くなりすぎるため、3.00以下とするのが好ましい。
鋼板表面と平行な圧延面における(211)面は、圧延時に加工されたオーステナイト組織がフェライトおよび/またはベイナイト組織に変態することにより発達する。しかしながら、フェライト-セメンタイト組織に変態した場合は、微細組織の形成機構の違いにより、(211)面が揃った集合組織に発達し難い。また、主にフェライト組織に変態した場合は、コンテナ船等の大型構造物として耐え得る程度の強度を確保し難い。したがって、変態後の微細組織をベイナイト組織主体とすることが、(211)面X線強度比を高めるために有効である。この観点から、本発明の鋼板では、ベイナイトの体積率を80%以上と規定とし、板厚の1/2の深さである板厚中心部1/2tにおけるベイナイトの体積率を80%以上とすることが好ましい。かかるベイナイトの体積率は、90%以上であることが好ましく、勿論100%であっても構わない。ベイナイトの体積率を上記の範囲とすることにより、(211)面X線強度比を高め、鋼板母材の脆性亀裂伝播停止特性を向上させることができる。
また、ベイナイトの体積率が上記の範囲を満たす限り、残りの微細組織には、フェライト、パーライト等の鋼板に通常存在するベイナイト以外の組織が存在していてもよい。
本発明の鋼板の板厚は特に限定されないが、例えば、コンテナ船におけるハッチサイドコーミング部に適用される場合、50mm以上であることが好ましく、65mm以上であることがより好ましい。一方、板厚は、100mm以下であることが好ましく、80mm以下であることがより好ましい。鋼板の板厚が上記下限を下回ると、例えば、コンテナ船におけるハッチカバー上部にまで貨物を積載することが困難となる。一方、鋼板の板厚が上記上限を上回ると、所望の強度を出すことが困難となる。
本発明の鋼板(母材)の強度は特に限定されないが、例えば、コンテナ船におけるハッチサイドコーミング部に適用する場合、板厚の1/2の深さ(板厚1/2t位置)の降伏強度が390MPa以上の鋼板を適用することが好ましく、より好ましくは430MPa以上、さらに好ましくは460MPa以上である。
本発明の製造方法は、所定の成分組成を有する溶鋼を用いて、所定の条件にて、鋳造、加熱、熱間圧延、および冷却を行って、鋼板を得る。ここで、本発明の製造方法は、とりわけ、溶製工程における溶鋼の成分組成;鋳造工程における鋼素材の平均冷却速度;加熱工程における鋼素材の加熱温度;熱間圧延工程における圧延開始温度、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率および累計圧下率、並びに圧延終了温度;冷却工程における冷却開始温度および平均冷却速度;を規定することが肝要である。本発明の製造方法に従えば、上述した本発明の鋼板を良好に得ることができる。
溶製工程では、得られる溶鋼の成分組成を制御する。溶鋼の成分組成は、鋼板について前述した各元素量、Ti/N、(1)式およびCeqと同一の範囲である。通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、過度に含有量を下げすぎると精錬コストが高くなるため、鋼および鋼素材におけるO量の下限値を0.0005%とすることが好ましい。
溶鋼からスラブ状の鋼素材を得る際の鋳造条件に関し、スラブの所定位置における平均冷却速度を、以下の条件のとおり規定する。
すなわち、鋳造時のスラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下とすることが肝要であり、TiNが析出する1400~1250℃の温度域における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下とすることが好ましい。平均冷却速度が100℃/min未満になると、製品鋼板における母材(鋼板)のTiNのサイズが粗大化し、TiN粒子の平均粒径を所定以下に制御することができない。また、TiN粒子のサイズが粗大化すると、母材(鋼板)におけるTiNの析出密度が低下して、TiN粒子の個数密度を所定以上に制御することができない。その結果、大入熱した際のHAZにおけるオーステナイト組織が粗大化し、HAZの靭性が低下する。したがって、鋳造時の平均冷却速度を100℃/min以上とし、150℃/min以上とするのが好ましく、200℃/min以上とするのがより好ましい。
一方、平均冷却速度が500℃/minを超えると、TiNの析出密度は増加するものの、TiN粒子のサイズが過度に微細化してしまい、TiN粒子の平均粒径を所定以上に制御することができない。その結果、大入熱溶接時にTiNが溶解してオーステナイト粒が粗大化するため、HAZの靭性が劣化する。また、鋼素材(スラブ)の表面に割れが発生するため、割れを取り除くためのコストおよび鋼素材の歩留まりが低下するおそれがある。したがって、鋳造時の平均冷却速度を500℃/min以下とし、400℃/min以下とするのが好ましく、300℃/min以下とするのがより好ましい。
鋼素材の加熱温度:950℃以上1250℃以下
鋼素材の加熱温度は950℃以上1250℃以下である必要がある。加熱温度が950℃未満では、加熱温度が低すぎてオーステナイトへの逆変態が十分に完了しない。オーステナイトへの逆変態が完了していない熱延板を用いて鋼板を製造しても、集合組織が十分に発達せずにベイナイト組織が十分に得られないため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、母材強度が低下するとともに、変形抵抗が高くなり、熱間圧延機への負荷が増大するので、後に続く熱間圧延が困難になる。一方、加熱温度が1250℃を超える高温では、オーステナイト粒が粗大化して、集合組織が十分に発達せずにベイナイト組織が十分に得られないため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、母材強度が低下するとともに、酸化が著しくなって酸化ロスが増大し、歩留りが低下するおそれがあるため、加熱温度を1250℃以下とする。なお、加熱温度は、1000℃以上が好ましい一方で、1150℃以下が好ましい。
圧延開始温度:Ar3点+100℃以上
上述のとおり加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延板を得るに際し、圧延を開始する温度がAr3点+100℃未満では、熱間圧延された熱延板において再結晶が十分に起こらないため、オーステナイト粒径が細かくならない。オーステナイト粒径が十分に微細化されなかった熱延板を用いて鋼板を製造しても、集合組織が十分に発達せずベイナイト組織が十分に得られないため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、母材強度が低下する。そのため、圧延開始温度はAr3点+100℃以上とする。後述の未再結晶領域において圧延を行う時間を確保する観点からは、圧延開始温度はAr3点+150℃以上とするのが好ましく、Ar3点+200℃以上とするのがより好ましい。また、圧延開始温度の上限は、通常、上述した鋼素材の加熱温度に従えばよい。
なお、Ar3点(℃)は以下の(3)式にしたがって求めることができる。
Ar3点(℃)
=910-273C-74Mn-57Ni-16Cr-9Mo-5Cu・・・(3)
ここで、(3)式中、各元素記号は該元素の鋼中含有量(質量%)を表し、含有されない元素については0とする。
未再結晶領域(本発明においては、熱間圧延対象である鋼素材におけるAr3点+100℃未満の温度領域を意味する)において、1パスあたりの圧下率(以下、圧下率/パスとも記載する)が5.0%未満、または、累積圧下率が50%未満であると、オーステナイトに対する十分な加工の効果が得られない。オーステナイトが十分に加工されないと、後述する冷却工程後の(211)面X線強度比が低下し、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。そのため、未再結晶領域において、1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上に規定する。
(211)面X線強度比を更に高めて、脆性亀裂伝播停止特性を更に向上させる観点からは、未再結晶領域での圧下率/パスを8.0%以上とすることが好ましく、10.0%以上とすることがより好ましく、12.0%以上とすることがさらに好ましい。一方、圧延機への負荷が大きくなりすぎることを防止する観点からは、未再結晶領域での圧下率/パスを20.0%以下とするのが好ましい。
また、未再結晶領域での累積圧下率は、脆性亀裂伝播停止特性を更に向上させる観点から、55%以上とするのが好ましく、60%以上とするのがより好ましい。一方、未再結晶領域での累積圧下率が70%を超えると、再結晶領域の累計圧下率が十分に確保できないことに繋がるため、オーステナイト粒径が十分に微細化されない。オーステナイト粒径が十分に微細化されないと、鋼板の靱性が低下し、脆性亀裂伝播停止特性がかえって悪化するため、未再結晶領域での累積圧下率は70%以下とするのが好ましい。
熱間圧延工程は、Ar3変態点(℃)以上の温度で終了する必要がある。熱間圧延に際して温度がAr3変態点(℃)未満となると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。更に、低温ほど変形抵抗が増加するため、熱間圧延機への負荷が大きくなるといった問題が生じる。なお、かかる終了温度は、後工程の冷却開始温度をAr3点(℃)以上とする観点からは、Ar3点+10℃以上であることが好ましい。
冷却開始温度:Ar3点以上
上述のとおり熱間圧延を経て得られた熱延板に対し、Ar3変態点(℃)以上の温度にて冷却を開始する必要がある。冷却開始温度がAr3変態点(℃)を下回ると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。そのため、冷却開始温度はAr3点(℃)以上とする。
冷却を開始した後の板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまでの、600~500℃間の平均冷却速度が2.0℃/s未満であると、徐冷により鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。そのため、板厚の1/2の深さ(1/2t)における平均冷却速度は2.0℃/s以上とし、好ましくは3.0℃/s以上とする。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、過度の急冷による冷却コストの増大を回避するため、20℃/s以下とすることが好ましい。
なお、かかる平均冷却速度を測定する温度範囲は、大部分のオーステナイト組織の変態が起こり特性に大きく寄与する、600℃以下500℃以上とする。
上記の冷却工程は、板厚の1/2の深さである1/2tにおける温度が500℃以下になるまで行う必要がある、換言すれば、冷却停止温度:500℃以下で行う必要がある。冷却停止温度が500℃を超えると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。一方、冷却停止温度の下限は限定されないが、冷却停止温度が低すぎると鋼板の形状が悪くなるため、好ましくは200℃程度であり、より好ましくは300℃程度である。
更に、当該鋼板それぞれから採取した継手用試験板に、V開先加工を施し、市販の低温用鋼用溶接用ワイヤを使用して溶接入熱150kJ/cmのサブマージアーク溶接を行い、大入熱溶接による継手を作製した。そして、得られた継手を用いて靭性を評価した。各試験方法は、次の通りである。なお、このように、得られた継手を用いて評価した特性を、HAZ特性とした。
鋼板表面から深さ1mmの位置が観察面となるように、鋼板からサンプルを採取した。採取したサンプルから抽出レプリカ法により薄膜サンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて10μm×10μmの範囲を撮影した。さらにEDX分析により確認される、TiおよびNをそれぞれ10%以上含む析出物について、画像解析装置を用いて、撮影された像から、析出物の面積より算出される円相当径および析出物の数を解析し、平均粒径および個数密度を算出した。
鋼板の板厚中央部を板厚中心として板厚1mmのサンプルを採取し、サンプルの表面に平行な面を機械研磨および電解研磨することにより、X線回折用の試験片を用意した。この試験片を用いて、Mo線源を用いてX線回折装置を使用して、X線回折測定を実施し、(211)面X線強度比を求めた。
鋼板から、板厚中心部が観察面となるようにサンプルを採取した。採取したサンプルの表面を鏡面研磨し、更にナイタール腐食して組織を現出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、500~3000倍に拡大して、10mm×10mmの範囲を撮影した。SEM像において、細長く成長したラス状のフェライト組織を有し、円相当径で0.05μm以上の炭化物を含む組織をベイナイト組織と判別した。そして、撮影された像について画像解析装置を用いて解析することによりベイナイト組織の分率を求め、その値を体積率とした。
鋼板の板厚中心部から、圧延方向に直角の方向に、当該板厚中心部が試験片の中心となるようにJIS Z 2201の14A号試験片を採取した。採取した試験片について、JIS Z 2241の要領で引張試験を行い、降伏強度YS(単位:MPa)を測定した。
鋼板について、温度勾配型標準ESSO試験を行い、脆性亀裂伝播停止特性として、-10℃におけるKca値(Kca(-10℃))(単位:N/mm3/2)を測定した。
大入熱溶接により得られた継手の表面から深さ1mmを試験片表層とし、HAZを切欠位置とするようなNK U4号衝撃試験片を採取した。採取した試験片について、試験温度-20℃でシャルピー衝撃試験を実施し、同一条件で実施した試験片3本の吸収エネルギーの平均値vE-20℃(単位:J)を、HAZ靭性として求めた。
かくして得られた評価結果を表2に併記する。
また、比較例に相当する鋼板No.27~49は、鋼素材の成分組成が本発明の条件を満たしていない。具体的には、鋼板No.27は、炭素量が低過ぎるために所望の集合組織への発達程度が低く、母材の脆性亀裂伝播停止特性に劣っている。鋼板No.28は、炭素量が高過ぎるためにHAZの靱性に劣っている。鋼板No.29~49は、種々の元素の添加量およびTiとNにかかる規定並びにCeqのいずれかが本発明で規定する上限または下限を外れており、母材の脆性亀裂伝播停止特性およびHAZの靱性のいずれかに劣っている。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.040%以上0.090%以下、
Si:0.02%以上0.10%以下、
Mn:1.60%以上2.00%以下、
P:0.010%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010%以上0.100%以下、
Nb:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.50%以下
を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比であるTi/Nが2.00以上4.00以下、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量Ceqが0.400以上0.500以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、
ベイナイトの体積率が80%以上である組織と、を有し、
鋼板表面から深さ1mmの位置において含有されるTiN粒子の平均粒径が20nm以上50nm以下であって、該TiN粒子の個数密度が5.0×10 8 個/cm 2 以上であり、
板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である、鋼板。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。 - 更に、質量%で、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。 - 前記TiおよびNの含有量が、Ti:0.010%以上0.031%以下およびN:0.0038%以上0.0100%以下である、請求項1または2に記載の鋼板。
- 質量%で、
C:0.040%以上0.090%以下、
Si:0.02%以上0.10%以下、
Mn:1.60%以上2.00%以下、
P:0.010%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010%以上0.100%以下、
Nb:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.50%以下
を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比であるTi/Nを2.00以上4.00以下とし、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量Ceqを0.400以上0.500以下とし、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する溶鋼を溶製し、
前記溶鋼を鋳造してスラブ状の鋼素材を得るに際し、前記鋳造時の前記スラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下として得られた鋼素材を用いて、
前記鋼素材を950℃以上1250℃以下の温度に加熱し、更に、圧延開始温度をAr3点+100℃以上とし、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上とし、圧延終了温度をAr3点以上とした熱間圧延を施して熱延板とした後、
前記熱延板に対し、冷却開始温度をAr3点(℃)以上とし、板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまで、600~500℃間の平均冷却速度を2.0℃/s以上とした冷却を施すことにより、
ベイナイトの体積率が80%以上である組織を有し、鋼板表面から深さ1mmの位置において含有されるTiN粒子の平均粒径が20nm以上50nm以下であって、該TiN粒子の個数密度が5.0×10 8 個/cm 2 以上であり、板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である鋼板を得る、鋼板の製造方法。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。 - 更に、質量%で、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項4に記載の鋼板の製造方法。 - 前記TiおよびNの含有量を、Ti:0.010%以上0.031%以下およびN:0.0038%以上0.0100%以下とする、請求項4または5に記載の鋼板の製造方法。
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