JP7099653B1 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents

鋼板およびその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP7099653B1
JP7099653B1 JP2022505521A JP2022505521A JP7099653B1 JP 7099653 B1 JP7099653 B1 JP 7099653B1 JP 2022505521 A JP2022505521 A JP 2022505521A JP 2022505521 A JP2022505521 A JP 2022505521A JP 7099653 B1 JP7099653 B1 JP 7099653B1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
steel sheet
steel
content
depth
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2022505521A
Other languages
English (en)
Other versions
JPWO2022097589A1 (ja
Inventor
直樹 ▲高▼山
亮 荒尾
俊一 橘
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
JFE Steel Corp
Original Assignee
JFE Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by JFE Steel Corp filed Critical JFE Steel Corp
Publication of JPWO2022097589A1 publication Critical patent/JPWO2022097589A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7099653B1 publication Critical patent/JP7099653B1/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C21METALLURGY OF IRON
    • C21DMODIFYING THE PHYSICAL STRUCTURE OF FERROUS METALS; GENERAL DEVICES FOR HEAT TREATMENT OF FERROUS OR NON-FERROUS METALS OR ALLOYS; MAKING METAL MALLEABLE, e.g. BY DECARBURISATION OR TEMPERING
    • C21D8/00Modifying the physical properties by deformation combined with, or followed by, heat treatment
    • C21D8/02Modifying the physical properties by deformation combined with, or followed by, heat treatment during manufacturing of plates or strips
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C22METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
    • C22CALLOYS
    • C22C38/00Ferrous alloys, e.g. steel alloys
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C22METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
    • C22CALLOYS
    • C22C38/00Ferrous alloys, e.g. steel alloys
    • C22C38/14Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing titanium or zirconium
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C22METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
    • C22CALLOYS
    • C22C38/00Ferrous alloys, e.g. steel alloys
    • C22C38/18Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing chromium
    • C22C38/40Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing chromium with nickel
    • C22C38/58Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing chromium with nickel with more than 1.5% by weight of manganese

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Materials Engineering (AREA)
  • Mechanical Engineering (AREA)
  • Metallurgy (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Physics & Mathematics (AREA)
  • Thermal Sciences (AREA)
  • Crystallography & Structural Chemistry (AREA)
  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Abstract

優れた脆性亀裂伝播停止特性を発揮しつつ、大入熱溶接後の継手において優れた靱性を発揮可能な鋼板を提供する。本発明の鋼板は、TiおよびNを、TiとNの質量%比(Ti/N)で2.00~4.00、かつ、169≦5158×Ti+25563×N≦360の関係を満足して含有し、Ceqが0.400~0.500である所定の成分組成と、ベイナイトの体積率が80%以上である組織とを有し、鋼板表面から深さ1mmの位置において、平均粒径が20~50nmのTiN粒子を5.0×108個/cm2以上の個数密度で含有し、板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である。

Description

本発明は、鋼板、特に、大入熱溶接に適用可能な鋼板および該鋼板を製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、優れた脆性亀裂伝播停止特性と、大入熱溶接後の継手における優れた靱性とを両立できる、鋼板およびその製造方法に関する。また、本発明の鋼板は、船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築・土木構造物等の大型構造物に好適に用いることができる。
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、建築・土木構造物等の大型構造物は、脆性破壊に伴う事故が起きた場合に社会経済及び環境に及ぼす影響が大きい。そのため、大型構造物には安全性の向上が常に求められており、大型構造物に使用される鋼材には、特に、使用温度における靭性及び強度、並びに、脆性亀裂が伝播することを防止する脆性亀裂伝播停止特性(アレスト性能)が高いレベルで要求されている。
コンテナ船及びバルクキャリアー等の船舶は、一般的な甲板を設けずにハッチカバー上にまで積荷を積載し、大きな荷重のかかる波を受けながら海洋を走行するといった構造上及び使用上の理由から、大きな繰り返し曲げ応力を受ける。それ故、船体外板には、この曲げ応力に耐え得る高強度かつ厚肉な鋼板母材を使用することが常であり、近年では、船体の大型化に伴って、鋼板の高強度厚肉化が一層進んでいる。
しかし、一般に、鋼板は高強度又は厚肉となるほど脆性亀裂伝播停止特性に劣る傾向があるため、コンテナ船等に使用される鋼板が有する脆性亀裂伝播停止特性への要求は近年一段と高まっている。
例えば、特許文献1には、フェライト-パーライトが主体のミクロ組織を有する鋼材において脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために、フェライト粒の形状を制御することで、脆性亀裂伝播停止特性を高める技術が提案されている。
また、特許文献2には、板厚1/2t位置の{311}<011>面X線強度比を2.5以上、板厚1/4t位置の{110}<001>面X線強度比を0.7以上かつシャルピー破面遷移温度を-40℃以下とすることで、脆性亀裂伝播停止特性を高める技術が提案されている。
一方、このようなコンテナ船を造る際は、通常、厚肉の鋼板を、船体の長手方向に連続して接合させなければならないため、作業効率の観点から、サブマージアーク溶接、エレクトロガスアーク溶接などの大入熱溶接を採用することが多い。しかし、この大入熱溶接を施した場合、鋼板の溶接熱影響部(Heat Affected Zone、以下、略してHAZともいう)に伝わる大きな熱を通じて、HAZの特性が損なわれてしまうおそれがある。一例として、大入熱溶接時に融点直下の高温に晒されたHAZでは、オーステナイト結晶粒が粗大化し易く、かかる粗大化したオーステナイト結晶粒は、その後の冷却によって靭性に劣る島状マルテンサイトを含んだ上部ベイナイト組織に変態するため、結果としてHAZの靭性が低下することがある。
特許文献3には、TiNを多量に分散させることで、HAZのオーステナイト結晶粒径の粗大化を抑制する技術が開示されている。
特許文献4には、C、Siの含有量を低減することの他に、Pの含有量の低減によりHAZにおける島状マルテンサイト(MA)を低減する技術が開示されている。
特許文献5に記載の発明では、結晶粒径を微細化させたフェライト主体のミクロ組織にTiNなどの粒子を分散させることで脆性亀裂伝播停止性能と大入熱溶接時のHAZ靭性とを両立させている。
特開2002-256375号公報 国際公開第2013/099177号 国際公開第2011/148754号 特開2008-163446号公報 特開2015-098642号公報
しかしながら、上記したミクロ組織およびX線強度比を用いる技術では、近年の大型コンテナ船で求められる高い脆性亀裂伝播停止特性を安定して達成できない課題を抱えていた。
また、TiNを活用し大入熱溶接時のHAZ靭性を向上させる上記技術では、大入熱溶接を受けた際に、溶接熱影響部がTiNの溶解温度域まで加熱されるため、TiNが分解して上記分散効果が消失したり、TiNの分解によって生成した固溶Tiおよび固溶NによってHAZ部の鋼の地組織が脆化したりして、溶接熱影響部の靱性が著しく低下するという問題を抱えていた。
加えて、MA量の低減を目的にPの含有量を低減する上記技術では、粒界などに偏析しやすいPの分布によってMA量の抑制にばらつきが生じ、HAZ組織内のMA量を均一に減少させる観点からは不十分であった。
そこで、本発明は、上記実情に鑑み、優れた脆性亀裂伝播停止特性を発揮しつつ、大入熱溶接後の継手において優れた靱性を発揮可能な鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、このような鋼板を好適に製造する方法を提供することを目的とする。
なお、本明細書において、「大入熱溶接」とは入熱量が150kJ/cm程度の溶接を指し、具体的にはサブマージアーク溶接が挙げられる。
発明者らは、コンテナ船のハッチサイドコーミング部に用いられる程度の高強度鋼に関して、一般にコンテナ船が使用される程度の低温環境下にて、母材の脆性亀裂伝播停止特性、並びに、大入熱溶接を施した際のHAZにおける靭性(以下、大入熱溶接によるHAZ靭性ともいう)を向上すべく鋭意検討を行い、以下の(1)~(4)の新たな知見を得た。
なお、一例として、上記検討に際して用いた高強度鋼の降伏強度は390N/mm以上であり、大入熱溶接の入熱量は150kJ/cmであり、使用環境は-10℃程度の低温環境下を想定した。
(1)大入熱溶接によるHAZ靱性を向上させるためには、HAZのオーステナイト結晶粒径の粗大化を抑制することが重要である。HAZのオーステナイト結晶粒径の粗大化を抑制するためには、TiNを多量に分散させることが重要であるが、大入熱溶接を受けた際に、溶解温度域まで加熱されることによってTiNが分解して分散効果が消失するおそれがあった。このTiNの分解を抑制するためには、TiとNとの添加量を、TiとNとの質量%比(Ti/N)が2.00以上4.00以下であり、かつ、後述する(1)式の条件を満足する範囲に設計することによって、大入熱溶接時のTiNの分解を抑制するのに有効であることを見出した。
(2)また、TiNを多量に分散させるに際し、所定範囲の平均粒径を有するTiN粒子が5.0×10個/cm以上の個数密度で析出するよう制御することにより、TiNの分散効果を良好に確保して、大入熱溶接によるHAZ靱性を向上可能なことも見出した。
(3)大入熱溶接によるHAZ靱性を向上させるためには、HAZの島状マルテンサイトを低減することも重要である。そして、HAZにおいてMAをほとんど生成させないためには、後述する(2)式で示される炭素当量(Ceq)を0.500以下に制御し、鋼板が含有するC含有量を0.090%以下、Si含有量を0.10%以下とすることが重要である。また、Mnの含有量を2.00%以下、Alの含有量を0.100%以下、Nbの含有量を0.100%以下とすることもHAZ靭性を低下させないために必要である。
ここで、本発明における「MAをほとんど生成させない」とは、HAZの微細組織においてMAが占める体積率が10%以下であることをいう。
(4)上述したHAZの優れた特性を発揮させつつ、鋼板の脆性亀裂伝播停止特性を更に両立させるためには、C、Si、Mn、Al、Nbを所定量以上で添加すること、上記Ceqを0.400以上に制御することに加え、鋼板において、板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度が1.60以上となる集合組織とすることが有効である。また、(211)面X線強度を上記のとおり高めるためには、鋼板におけるベイナイトの体積率を80%以上とすることが有効である。
本発明は、かかる知見に基づき、更に検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.040%以上0.090%以下、
Si:0.02%以上0.10%以下、
Mn:1.60%以上2.00%以下、
P:0.010%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010%以上0.100%以下、
Nb:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.50%以下
を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比である(Ti/N)が2.00以上4.00以下、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量(Ceq)が0.400以上0.500以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、
ベイナイトの体積率が80%以上である組織と、を有し、
鋼板表面から深さ1mmの位置において、平均粒径が20nm以上50nm以下のTiN粒子を5.0×10個/cm以上の個数密度で含有し、
板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である、鋼板。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
ここで、ベイナイトの体積率、TiN粒子の平均粒径、TiN粒子の個数密度、および、(211)面X線強度比は、それぞれ後述の実施例に記載の手法に従って測定可能である。
2.更に、質量%で、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1に記載の鋼板。
3.前記TiおよびNの含有量が、Ti:0.010%以上0.031%以下およびN:0.0038%以上0.0100%以下である、前記1または2に記載の鋼板。
4.質量%で、
C:0.040%以上0.090%以下、
Si:0.02%以上0.10%以下、
Mn:1.60%以上2.00%以下、
P:0.010%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.010%以上0.100%以下、
Nb:0.005%以上0.100%以下、
O:0.0100%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.50%以下
を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比である(Ti/N)を2.00以上4.00以下とし、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量(Ceq)を0.400以上0.500以下とし、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する溶鋼を溶製し、
前記溶鋼を鋳造してスラブ状の鋼素材を得るに際し、前記鋳造時の前記スラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下として得られた鋼素材を用いて、
前記鋼素材を950℃以上1250℃以下の温度に加熱し、更に、圧延開始温度をAr点+100℃以上とし、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上とし、圧延終了温度をAr点以上とした熱間圧延を施して熱延板とした後、
前記熱延板に対し、冷却開始温度をAr点(℃)以上とし、板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまで、600~500℃間の平均冷却速度を2.0℃/s以上とした冷却を施す、鋼板の製造方法。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
ここで、各工程における温度は、放射温度計を使用して測定および算出可能である。また、「スラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度」は、放射温度計を使用して測定したスラブの表面温度から、深さ1mmの位置における温度を計算によってもとめ、該温度が1400℃から1250℃までにおける冷却速度の平均として算出可能である。
5.更に、質量%で、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記4に記載の鋼板の製造方法。
6.前記TiおよびNの含有量を、Ti:0.010%以上0.031%以下およびN:0.0038%以上0.0100%以下とする、前記4または5に記載の鋼板の製造方法。
本発明によれば、優れた脆性亀裂伝播停止特性と、大入熱溶接後の継手のHAZにおける優れた靱性とを両立した鋼板およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明で得られる鋼板は、例えば、コンテナ船の建造の際の施工性に優れた大入熱溶接に好適であるため、産業上格段の効果を奏する。
本発明の製造方法によって得られる鋼板は、脆性亀裂伝播停止特性に優れ、大入熱溶接後のHAZに優れた靱性を発揮させることができる。したがって、本発明の製造方法は、コンテナ船等の大型構造物の製造に好適である。
本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の好適な一例を示すものであり、これらの例のみに限定されるものではない。
(鋼板)
本発明の鋼板は、所定の成分組成を有する。本発明の鋼板が有する成分組成では、C,Si,Mn,P,S,Al,Nb、O、Cu、Ni、Cr、MoおよびVの各元素の含有量を規定するとともに、TiおよびNを、TiとNの質量%比(Ti/N)、および所定の(1)式を満足する範囲で添加する。また、所定の(2)式に従うCeqを規定する。また、本発明の鋼板が有する組織では、ベイナイトの体積率を規定する。さらに、本発明の鋼板は、所定の平均粒径を有するTiN粒子の個数密度と、(211)面X線強度比とを規定する。
本発明の鋼板は、脆性亀裂伝播停止特性に優れ、大入熱溶接した後の継手に優れた靱性を発揮させることができるので、コンテナ船等の大型構造物に好適に使用可能であり、とりわけ、コンテナ船のハッチサイドコーミング部に好適に使用可能である。本発明の鋼板は、好ましくは大入熱溶接用鋼板である。
そして、本発明の鋼板は、例えば、後述する本発明の製造方法によって得ることができる。
[成分組成]
まず、本発明において鋼板の成分組成を限定する理由を説明する。
なお、以下、鋼板の成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.040%以上0.090%以下
Cは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を向上させ母材において所望の強度を達成し、優れたアレスト特性を発揮するために必要である。また、Cは、鋼の集合組織の発達にも影響し、(211)面X線強度を高めて所望の脆性亀裂伝播停止特性を達成するためにも、重要な元素の1つである。前記効果を得るためには、C含有量を0.040%以上とする。また、他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、C含有量は0.045%以上とすることが好ましく、0.050%以上とすることがより好ましい。一方、C含有量が多いと、大入熱溶接に起因してオーステナイトが粗大化して変態したり、MAが生成したりすることにより、HAZ靭性が大幅に低下する。これらの観点から、C含有量は0.090%以下とする。また、HAZ靱性の低下を更に抑制する観点、溶接性の低下を抑制する観点からは、C含有量を0.085%以下とすることが好ましく、0.080%以下とすることがより好ましい。
Si:0.02%以上0.10%以下、
Siは、脱酸などに必要な成分であり、また粗大な炭化物生成を抑制することで鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素である。Siは、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、集合組織を発達させ優れたアレスト特性を発揮するために必要であり、0.02%以上で添加する。他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、Si含有量は0.03%以上とすることが好ましく、0.04%以上とすることがより好ましい。一方で、Si含有量が多いと大入熱溶接に起因してMAが生成することにより、HAZ靭性が大幅に低下する。そのため、高いHAZ溶接性を確保するために、Si含有量は0.10%以下とする。HAZ靭性をより良好にする観点からは、Si含有量を0.09%以下とすることが好ましく、0.08%以下とすることがより好ましい。
Mn:1.60%以上2.00%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、集合組織を発達させ優れたアレスト特性を発揮するために必要である。また、Mnは、鋼の集合組織の発達にも影響し、(211)面X線強度を高めて所望の脆性亀裂伝播停止特性を達成するためにも、重要な元素の1つである。前記効果を得るためには、Mn含有量を1.60%以上とする。また、他の合金元素の含有量を少なくして、より低コストで鋼板を製造するという観点からは、Mn含有量は1.65%以上とすることが好ましく、1.70%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が多いと、HAZ靭性及び溶接性が低下することに加え、合金コストが過度に高くなってしまう。これらの観点から、Mn含有量は2.00%以下とする。また、靭性及び溶接性の低下を更に抑制する観点や、コストを更に抑制する観点からは、Mn含有量を1.95%以下とすることが好ましく、1.90%以下とすることがより好ましい。
P:0.010%以下
Pは、粒界に偏析することによってHAZ靱性を低下させるといった悪影響を及ぼす。そのため、できる限りP含有量を低くすることが望ましいが、0.010%以下であれば許容できる。一方、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよい。通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってもよい。また、Pを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、P含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
S:0.010%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、HAZ靭性を低下させる、脆性破壊の発生起点となるといった悪影響を及ぼす。そのため、できる限りS含有量を低くすることが望ましいが、0.010%以下であれば許容できる。一方、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってもよい。また、Sを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、S含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Al:0.010%以上0.100%以下
Alは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、集合組織を発達させ優れたアレスト特性を発揮するために必要である。これらの効果を得るためには、Al含有量を0.010%以上とする。一方、Al含有量が0.100%を超えると、酸化物系介在物が増加して清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、Al含有量は0.100%以下とする。なお、Al含有量は0.050%以下とすることが好ましく、0.040%以下とすることがより好ましい。
Nb:0.005%以上0.100%以下
Nbは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、ベイナイト組織分率を高めて母材において所望の強度を達成し、優れたアレスト特性を発揮するために必要である。前記効果を得るために、Nb含有量を0.005%以上とする。なお、Nb含有量は0.007%以上とすることが好ましく、0.009%以上とすることがより好ましい。一方、Nb含有量が0.100%を超えると、HAZにMAが生成し靭性を低下させる。そのため、Nb含有量の上限は、0.100%以下とする。HAZ靭性向上の観点からは、0.050%以下とすることが好ましく、0.045%以下とすることがより好ましく、0.040%以下とすることがさらに好ましい。
O:0.0100%以下
Oは不可避的不純物として含有される元素であるが、特に低減すべき元素であるため、その含有量を規定する。Oは、酸化物を形成し、脆性破壊の発生起点となりHAZ靭性を低下させるといった悪影響を及ぼす。そのため、O含有量を0.0100%以下に制限する。O含有量は、0.0050%以下とすることが好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましい。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、Oを過剰に低減することは精錬コストの高騰を招くため、コストの観点からは、O含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。
Cu:1.00%以下
Cuは、鋼の焼入れ性を増加させて鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。Cuを添加する場合、前記効果を得るためにCu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、靭性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を1.00%以下とする。なお、Cu含有量は、0.075%以上がより好ましい一方で、0.50%以下がより好ましい。
Ni:1.00%以下
Niは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。Niを添加する場合、前記効果を得るためにNi含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を1.00%以下とする。なお、Ni含有量は、0.075%以上がより好ましい一方で、0.50%以下がより好ましい。
Cr:1.00%以下
Crは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにCr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cr含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Crを添加する場合、Cr含有量を1.00%以下とする。なお、Cr含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.75%以下がより好ましく、0.50%以下がさらに好ましい。
Mo:0.50%以下
Moは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにMo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量を0.50%以下とする。なお、Mo含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
V:0.50%以下
Vは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにV含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Vを添加する場合、V含有量を0.50%以下とする。なお、V含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
TiおよびNは、鋼の凝固時にTiNとなって析出し、溶接熱影響部でのオーステナイトの粗粒化抑制や、フェライト変態核となって高靱性化に寄与する本発明で重要な働きをする元素であり、以下の範囲で含有させる。
Ti/N:2.00以上4.00以下
Ti/Nが2.00未満では、TiNとならない固溶Nが増加し、HAZ靭性を低下させる。そのため、Ti/Nは2.00以上とする。Ti/Nは2.10以上とすることが好ましく、2.20以上とすることがより好ましい。また、Ti/Nが4.00を超えると、TiNが粗大化し、HAZ靭性を低下させる。そのため、Ti/Nの上限は、4.00とする。また、HAZ靭性向上の観点から、Ti/Nは3.90以下とすることが好ましく、3.80以下とすることがより好ましい。なお、Ti/Nにおいて各元素は鋼中の含有量(質量%)とする。
169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
従来のTiNを活用した大入熱溶接時の靭性向上技術では、大入熱溶接に溶接熱影響部が曝された際に、TiNが分解して該TiNの分散効果が消失したり、TiNの分解によって生成した固溶Tiおよび固溶NによってHAZ部における鋼の地組織が脆化したりして、HAZ靱性が著しく低下するという問題を抱えていた。そこで、このTiNの分解を抑制するために、(5158×Ti)+(25563×N)の値、すなわち(1)式の値を169以上とすることが肝要である。よりHAZ靭性を向上させる観点からは、169超であることが好ましく、175以上であることがより好ましく、180以上とすることがさらに好ましい。
一方、上記(1)式の値が360超となるとTiNが多量に生成し、却ってHAZ靱性を低下させる。したがって、上記(1)式の値は360以下とする。より靭性を向上させる観点からは、360未満とすることが好ましく、330以下とすることがより好ましく、300以下とすることがさらに好ましい。
上記(1)式の条件は、HAZ靭性を良好に確保する目的で、TiN粒子の分布を制御するためのTiとNとの含有量比について、本発明者らが鋭意検討の結果知見した回帰値に基づくものである。
なお、本発明おいて、TiおよびNの含有量の範囲に関しては、上記の規定とおりであるが、上記の規定に従った上での、TiおよびNの各含有量の好適な範囲は具体的に以下のとおりになる。
Ti:0.010%以上0.031%以下
Tiは、鋼の凝固時にTiNとなって析出し、溶接熱影響部でのオーステナイトの粗粒化抑制や、フェライト変態核となって高靱性化に寄与する本発明で重要な元素のひとつである。TiNを必要量確保するには、Tiを0.010%含有させることが好ましい。Ti含有量は0.012%以上とすることがより好ましく、0.014%以上とすることがさらに好ましい。一方、Tiを0.031%超えて添加すると、TiNが多量に生成し易い、または、TiN粒子の粗大化が起こり期待する効果が得られ難くなくなり、却って溶接部の靱性を低下させ易い。そのため、Ti含有量の上限は、0.031%とすることが好ましい。また、靭性向上の観点から、Ti含有量を0.028%以下とすることがより好ましく、0.025%以下とすることがさらに好ましく、0.022%以下とすることが一層好ましい。
N:0.0038%以上0.0100%以下
Nは、上述したTiNの生成に必要な元素であり、TiNを必要量確保するには、Nを0.0038%以上含有させることが好ましい。なお、N含有量は0.0040%以上とすることがより好ましく、0.0042%以上とすることがさらに好ましい。一方、Nを0.0100%超えて添加すると、TiNが多量に生成し易く、却って溶接部の靱性を低下させ易い。そのため、N含有量の上限は、0.0100%とすることが好ましい。靭性向上の観点から、N含有量を0.0090%以下とすることがより好ましく、0.0080%以下とすることがさらに好ましく、0.0070%以下とすることが一層好ましい。
0.400≦Ceq≦0.500
鋼板における焼入性を向上し、ベイナイト組織分率および所定の集合組織の発達程度を高めて、優れた強度およびアレスト特性を実現するために、Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5の(2)式で定義される炭素当量を0.400以上とすることが肝要である。上記の効果を得るためには、Ceqは0.410以上であることが好ましく、0.420以上であることがより好ましく、0.430以上であることがさらに好ましい。
一方、Ceqが0.500を超えると、大入熱溶接時に生じるHAZにMA生成が生じ、HAZ靭性が低下する。そのため、Ceqは0.500以下とする。また、コストの観点からは、Ceqを0.490以下とすることが好ましく、0.480以下とすることがより好ましい。
本発明の鋼板における基本的な成分組成は、以上に説明した含有量の各元素を含み、残部がFeおよび他の不可避的不純物である。この基本成分組成は、更なる特性の向上、特には強度または母材靭性およびHAZ靭性の向上を目的として、任意に、W:0.50%以下、Co:0.50%以下、B:0.0100%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、REM:0.0200%以下のうちから選ばれる1種または2種以上を更に含有することができる。
W:0.50%以下
Wは、Cuと同様に鋼板(母材)の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにW含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを添加する場合、W含有量を0.50%以下とする。なお、W含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
Co:0.50%以下
Coは、Cuと同様に鋼板の強度を向上させる作用を有する元素であり、任意に添加することができる。前記効果を得るためにCo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Co含有量が0.50%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを添加する場合、Co含有量を0.50%以下とする。なお、Co含有量は、0.05%以上がより好ましい一方で、0.25%以下がより好ましい。
B:0.0100%以下
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。したがって、鋼板(母材)の強度を向上させることができる。また、HAZにおいて焼入れ性の向上に寄与することで粗大なフェライト組織の生成、成長を抑制するとともに、Nと析出物を形成することで変態核としてはたらき、組織の微細化に寄与することで、HAZ靭性も向上させることができる。前記効果を得るために、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、B含有量が0.0100%を超えると、粗大なFe-B系の炭化物が生成し易い。かかる粗大なFe-B系の炭化物は、破壊の起点となって母材およびHAZの靭性が著しく低下する。
そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0100%以下とする。また、B含有量は、0.0050%以下とすることがより好ましく、0.0030%以下とすることがより好ましく、0.0012%以下とすることがより好ましく、0.0010%以下とすることがさらに好ましい。更に、高合金化を回避してコストを抑制する観点からも、Bを添加する場合、B含有量の上限を上記のとおりとすることが好ましい。
Ca:0.0100%以下
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Caを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0100%以下とする。また、Ca含有量は、0.0075%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることがさらに好ましい。
Mg:0.0100%以下
Mgは、Caと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Mgを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0020%以上とすることがより好ましい。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼の清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0100%以下とする。また、Mg含有量は、0.0075%以下とすることがより好ましく、0.0050%以下とすることがさらに好ましい。
REM:0.0200%以下
REM(希土類金属)は、CaやMgと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、REMを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接継手等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、REMを添加する場合、REM含有量を0.0005%以上とすることが好ましく、0.0015%以上とすることがより好ましい。一方、REM含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下し、HAZ靭性が低下する。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.0200%以下とする。また、REM含有量は、0.0100%以下とすることがより好ましく、0.0080%以下とすることがさらに好ましく、0.0050%以下とすることが一層好ましい。
なお、REMは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種または2種以上を含有させることができる。また、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
[組織]
次いで、本発明の鋼板における組織について説明する。
鋼板表面から深さ1mmの位置において、平均粒径:20nm以上50nm以下のTiN粒子の個数密度:5.0×10個/cm以上
TiNは鋼の凝固時に析出し、溶接熱影響部でのオーステナイトの粗粒化抑制、および、フェライト変態核となって高靱性化に寄与する本発明で重要な働きをする析出物である。鋼板表面から深さ1mmの位置において所定密度以上で析出させるTiN粒子の平均粒径が20nm未満では、溶接時にTiNが分解してその分散効果が消失したり、かかる分解によって生成した固溶Tiおよび固溶NによってHAZ部における鋼の地組織が脆化したりして、HAZの靱性が著しく低下する。そのため、TiN粒子の平均粒径を20nm以上とする。TiN粒子の平均粒径は、HAZ靭性向上効果の観点から、25nm以上とするのが好ましく、30nm以上とするのがさらに好ましい。また、TiN粒子の平均粒径が50nmを超えると、オーステナイトの粗粒化抑制効果が低下し、HAZの靭性が低下する。そのため、TiN粒子の平均粒径を50nm以下とする。TiN粒子の平均粒径は、HAZ靭性向上の観点から45nm以下とするのが好ましく、40nm以下とするのがさらに好ましい。
また、溶接熱影響部でのオーステナイトの粗粒化抑制や、フェライト変態核となって高靱性化の効果を得るためには、上記平均粒径を有するTiNを多量に分散させることが重要である。そのため、鋼板表面から深さ1mmの位置において析出するTiN粒子の個数密度を5.0×10個/cm以上とする。TiN粒子の個数密度は、HAZ靭性向上効果の観点から、8.0×10個/cm以上とするのが好ましく、1.0×10個/cm以上とするのがさらに好ましい。一方、TiN粒子の個数密度の上限は特に限定されないが、本発明で規定するTiおよびNの含有量の関係を満たす観点、および、TiN粒子の個数密度が高まりすぎるとTiN粒子の平均粒径が細かくなりすぎる傾向がある観点から、実質的には1.0×1010個/cm以下である。
ここで、鋼板母材における脆性亀裂伝播停止特性およびHAZ部における靭性は、特に鋼板の表裏面において課題となり易く、したがって、鋼板の表裏面におけるこれらの特性を向上させることが望ましい。この観点から、本発明では、鋼板表面に近い、深さ1mmの位置において析出するTiN粒子の平均粒径および個数密度を規定する。
なお、本発明において、TiN粒子とは、TiおよびNをそれぞれ10%以上含む析出物を指すものとする。また、上述したTiN粒子の平均粒径および個数密度は、鋼板表面から深さ1mmの位置が観察面となるようにサンプルを採取し、顕微鏡により観察される任意に選択される10μm×10μmの範囲において、TiN粒子の面積円相当径と数とを特定し、これらより算出することができる。
板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比:1.60以上
本発明の鋼板では、板厚方向に貫通しながら圧延方向に直角な方向(板幅方向)を伝播する亀裂に対する脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために、板厚の1/2の深さ、すなわち板厚tの中央である1/2tに位置する、鋼板表面(板面)に平行な面における(211)面X線強度比を1.60以上に限定する。上記1/2tにおいて上記板面と平行な圧延面に(211)面を発達させた集合組織にすれば、亀裂の優先伝播の方向である(001)面が板幅方向に対して角度を有し、脆性亀裂が伝播する径路をジグザグにして伝播エネルギーを吸収できるため、脆性亀裂伝播停止特性の向上に有効である。上記の観点から、1/2tにおける(211)面X線強度比は1.80以上であることが好ましく、2.00以上であることがより好ましい。
一方、1/2tにおける(211)面X線強度比の上限に制限はないが、(211)面X線強度比を高めるためには制御圧延における未再結晶領域での圧下率/パスを高めることが有効であるところ、(211)面X線強度比を過度に高めるべく上記圧下率/パスを過度に高めると圧延機への負荷が高くなりすぎるため、3.00以下とするのが好ましい。
ここで、(211)面X線強度比とは、対象材(鋼板)の(211)結晶面の集積度を表す数値であり、対象材の(211)反射のX線回折強度(I(211))と、集合組織のないランダムな標準試料の(211)反射のX線回折強度(I0(211))との比(I(211)/I0(211))として算出される。
ベイナイトの体積率:80%以上
鋼板表面と平行な圧延面における(211)面は、圧延時に加工されたオーステナイト組織がフェライトおよび/またはベイナイト組織に変態することにより発達する。しかしながら、フェライト-セメンタイト組織に変態した場合は、微細組織の形成機構の違いにより、(211)面が揃った集合組織に発達し難い。また、主にフェライト組織に変態した場合は、コンテナ船等の大型構造物として耐え得る程度の強度を確保し難い。したがって、変態後の微細組織をベイナイト組織主体とすることが、(211)面X線強度比を高めるために有効である。この観点から、本発明の鋼板では、ベイナイトの体積率を80%以上と規定とし、板厚の1/2の深さである板厚中心部1/2tにおけるベイナイトの体積率を80%以上とすることが好ましい。かかるベイナイトの体積率は、90%以上であることが好ましく、勿論100%であっても構わない。ベイナイトの体積率を上記の範囲とすることにより、(211)面X線強度比を高め、鋼板母材の脆性亀裂伝播停止特性を向上させることができる。
また、ベイナイトの体積率が上記の範囲を満たす限り、残りの微細組織には、フェライト、パーライト等の鋼板に通常存在するベイナイト以外の組織が存在していてもよい。
大入熱溶接にて作製された継手の特性は主に上述の要件に従うことによって達成されるが、例えば、コンテナ船のハッチサイドコーミング部として使用する場合の鋼板の好ましい板厚および強度は以下のとおりである。
[板厚]
本発明の鋼板の板厚は特に限定されないが、例えば、コンテナ船におけるハッチサイドコーミング部に適用される場合、50mm以上であることが好ましく、65mm以上であることがより好ましい。一方、板厚は、100mm以下であることが好ましく、80mm以下であることがより好ましい。鋼板の板厚が上記下限を下回ると、例えば、コンテナ船におけるハッチカバー上部にまで貨物を積載することが困難となる。一方、鋼板の板厚が上記上限を上回ると、所望の強度を出すことが困難となる。
[強度]
本発明の鋼板(母材)の強度は特に限定されないが、例えば、コンテナ船におけるハッチサイドコーミング部に適用する場合、板厚の1/2の深さ(板厚1/2t位置)の降伏強度が390MPa以上の鋼板を適用することが好ましく、より好ましくは430MPa以上、さらに好ましくは460MPa以上である。
(鋼板の製造方法)
本発明の製造方法は、所定の成分組成を有する溶鋼を用いて、所定の条件にて、鋳造、加熱、熱間圧延、および冷却を行って、鋼板を得る。ここで、本発明の製造方法は、とりわけ、溶製工程における溶鋼の成分組成;鋳造工程における鋼素材の平均冷却速度;加熱工程における鋼素材の加熱温度;熱間圧延工程における圧延開始温度、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率および累計圧下率、並びに圧延終了温度;冷却工程における冷却開始温度および平均冷却速度;を規定することが肝要である。本発明の製造方法に従えば、上述した本発明の鋼板を良好に得ることができる。
[溶製工程]
溶製工程では、得られる溶鋼の成分組成を制御する。溶鋼の成分組成は、鋼板について前述した各元素量、Ti/N、(1)式およびCeqと同一の範囲である。通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であり、過度に含有量を下げすぎると精錬コストが高くなるため、鋼および鋼素材におけるO量の下限値を0.0005%とすることが好ましい。
[鋳造工程]
溶鋼からスラブ状の鋼素材を得る際の鋳造条件に関し、スラブの所定位置における平均冷却速度を、以下の条件のとおり規定する。
すなわち、鋳造時のスラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下とすることが肝要であり、TiNが析出する1400~1250℃の温度域における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下とすることが好ましい。平均冷却速度が100℃/min未満になると、製品鋼板における母材(鋼板)のTiNのサイズが粗大化し、TiN粒子の平均粒径を所定以下に制御することができない。また、TiN粒子のサイズが粗大化すると、母材(鋼板)におけるTiNの析出密度が低下して、TiN粒子の個数密度を所定以上に制御することができない。その結果、大入熱した際のHAZにおけるオーステナイト組織が粗大化し、HAZの靭性が低下する。したがって、鋳造時の平均冷却速度を100℃/min以上とし、150℃/min以上とするのが好ましく、200℃/min以上とするのがより好ましい。
一方、平均冷却速度が500℃/minを超えると、TiNの析出密度は増加するものの、TiN粒子のサイズが過度に微細化してしまい、TiN粒子の平均粒径を所定以上に制御することができない。その結果、大入熱溶接時にTiNが溶解してオーステナイト粒が粗大化するため、HAZの靭性が劣化する。また、鋼素材(スラブ)の表面に割れが発生するため、割れを取り除くためのコストおよび鋼素材の歩留まりが低下するおそれがある。したがって、鋳造時の平均冷却速度を500℃/min以下とし、400℃/min以下とするのが好ましく、300℃/min以下とするのがより好ましい。
また、鋳造速度が0.3m/min未満になると、製品鋼板における母材(鋼板)のTiN粒子のサイズが粗大化してしまう場合がある。TiN粒子のサイズが粗大化すると、母材(鋼板)におけるTiNの析出密度が低下して、大入熱HAZにおけるオーステナイト組織が粗大化し、HAZ靭性が低下するおそれがある。したがって、スラブ鋳造時の鋳造速度を0.3m/min以上とするのが好ましい。一方、鋳造速度の上限は特に制限されないが、鋳造速度が2.5m/minを超えると、TiNの析出密度は増加するものの、TiN粒子のサイズが微細化してしまい、大入熱溶接時にTiNが溶解してオーステナイト粒が粗大化する場合があり、HAZ靭性が劣化するおそれがある。したがって、スラブ鋳造時の鋳造速度を2.5m/min以下とするのが好ましい。
以下に記載する製造工程における温度は、別段の記載がない限り、各鋼材の板厚中心部(1/2t)における温度とする。
[加熱工程]
鋼素材の加熱温度:950℃以上1250℃以下
鋼素材の加熱温度は950℃以上1250℃以下である必要がある。加熱温度が950℃未満では、加熱温度が低すぎてオーステナイトへの逆変態が十分に完了しない。オーステナイトへの逆変態が完了していない熱延板を用いて鋼板を製造しても、集合組織が十分に発達せずにベイナイト組織が十分に得られないため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、母材強度が低下するとともに、変形抵抗が高くなり、熱間圧延機への負荷が増大するので、後に続く熱間圧延が困難になる。一方、加熱温度が1250℃を超える高温では、オーステナイト粒が粗大化して、集合組織が十分に発達せずにベイナイト組織が十分に得られないため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、母材強度が低下するとともに、酸化が著しくなって酸化ロスが増大し、歩留りが低下するおそれがあるため、加熱温度を1250℃以下とする。なお、加熱温度は、1000℃以上が好ましい一方で、1150℃以下が好ましい。
[熱間圧延工程]
圧延開始温度:Ar点+100℃以上
上述のとおり加熱された鋼素材を熱間圧延して熱延板を得るに際し、圧延を開始する温度がAr点+100℃未満では、熱間圧延された熱延板において再結晶が十分に起こらないため、オーステナイト粒径が細かくならない。オーステナイト粒径が十分に微細化されなかった熱延板を用いて鋼板を製造しても、集合組織が十分に発達せずベイナイト組織が十分に得られないため、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。また、母材強度が低下する。そのため、圧延開始温度はAr点+100℃以上とする。後述の未再結晶領域において圧延を行う時間を確保する観点からは、圧延開始温度はAr点+150℃以上とするのが好ましく、Ar点+200℃以上とするのがより好ましい。また、圧延開始温度の上限は、通常、上述した鋼素材の加熱温度に従えばよい。
なお、Ar点(℃)は以下の(3)式にしたがって求めることができる。
Ar点(℃)
=910-273C-74Mn-57Ni-16Cr-9Mo-5Cu・・・(3)
ここで、(3)式中、各元素記号は該元素の鋼中含有量(質量%)を表し、含有されない元素については0とする。
未再結晶領域における1パスあたりの圧下率:5.0%以上かつ累計圧下率:50%以上
未再結晶領域(本発明においては、熱間圧延対象である鋼素材におけるAr点+100℃未満の温度領域を意味する)において、1パスあたりの圧下率(以下、圧下率/パスとも記載する)が5.0%未満、または、累積圧下率が50%未満であると、オーステナイトに対する十分な加工の効果が得られない。オーステナイトが十分に加工されないと、後述する冷却工程後の(211)面X線強度比が低下し、所望の脆性亀裂伝播停止特性が得られない。そのため、未再結晶領域において、1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上に規定する。
(211)面X線強度比を更に高めて、脆性亀裂伝播停止特性を更に向上させる観点からは、未再結晶領域での圧下率/パスを8.0%以上とすることが好ましく、10.0%以上とすることがより好ましく、12.0%以上とすることがさらに好ましい。一方、圧延機への負荷が大きくなりすぎることを防止する観点からは、未再結晶領域での圧下率/パスを20.0%以下とするのが好ましい。
また、未再結晶領域での累積圧下率は、脆性亀裂伝播停止特性を更に向上させる観点から、55%以上とするのが好ましく、60%以上とするのがより好ましい。一方、未再結晶領域での累積圧下率が70%を超えると、再結晶領域の累計圧下率が十分に確保できないことに繋がるため、オーステナイト粒径が十分に微細化されない。オーステナイト粒径が十分に微細化されないと、鋼板の靱性が低下し、脆性亀裂伝播停止特性がかえって悪化するため、未再結晶領域での累積圧下率は70%以下とするのが好ましい。
圧延終了温度:Ar点以上
熱間圧延工程は、Ar変態点(℃)以上の温度で終了する必要がある。熱間圧延に際して温度がAr変態点(℃)未満となると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。更に、低温ほど変形抵抗が増加するため、熱間圧延機への負荷が大きくなるといった問題が生じる。なお、かかる終了温度は、後工程の冷却開始温度をAr点(℃)以上とする観点からは、Ar点+10℃以上であることが好ましい。
[冷却工程]
冷却開始温度:Ar点以上
上述のとおり熱間圧延を経て得られた熱延板に対し、Ar変態点(℃)以上の温度にて冷却を開始する必要がある。冷却開始温度がAr変態点(℃)を下回ると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。そのため、冷却開始温度はAr点(℃)以上とする。
500℃以下になるまで、600~500℃間の平均冷却速度:2.0℃/s以上
冷却を開始した後の板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまでの、600~500℃間の平均冷却速度が2.0℃/s未満であると、徐冷により鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。そのため、板厚の1/2の深さ(1/2t)における平均冷却速度は2.0℃/s以上とし、好ましくは3.0℃/s以上とする。一方、平均冷却速度の上限は特に限定されないが、過度の急冷による冷却コストの増大を回避するため、20℃/s以下とすることが好ましい。
なお、かかる平均冷却速度を測定する温度範囲は、大部分のオーステナイト組織の変態が起こり特性に大きく寄与する、600℃以下500℃以上とする。
冷却停止温度:500℃以下
上記の冷却工程は、板厚の1/2の深さである1/2tにおける温度が500℃以下になるまで行う必要がある、換言すれば、冷却停止温度:500℃以下で行う必要がある。冷却停止温度が500℃を超えると、鋼中に多量のフェライトが生成するため、ベイナイトの体積率を高めることができない。この結果、(211)面X線強度比が低下し、優れた脆性亀裂伝播停止特性が得られなくなる。また、母材強度が低下する。一方、冷却停止温度の下限は限定されないが、冷却停止温度が低すぎると鋼板の形状が悪くなるため、好ましくは200℃程度であり、より好ましくは300℃程度である。
上述した成分組成を有する鋼素材に対し、上述した製造工程を施すことにより、上述した特徴を満足する鋼板を得ることができる。かくして得られる鋼板は優れた脆性亀裂伝播停止特性を備える。また、かくして得られる鋼板は高強度を備える。さらに、かかる鋼板を大入熱溶接した結果生じるHAZは優れた靭性を兼ね備えるので、該HAZを含む溶接継手も優れた靭性を兼ね備える。
ここで、本発明において、実施例で詳述する母材特性に関しては、-10℃におけるKca値(Kca(-10℃)):6000N/mm3/2以上である場合を優れた脆性亀裂伝播停止特性とし、降伏強度(YS):390MPa以上である場合を優れた強度特性とする。また、-20℃における吸収エネルギー(vE-20℃):46J以上である場合を優れたHAZ靭性とし、53J以上である場合をより優れた靭性とし、64J以上である場合を特に優れた靭性とする。
また、本発明の鋼板は、通常の炭素鋼と比較して炭素量およびSi量が低く抑えられ、かつ大入熱溶接時にTiNが溶解しにくい成分組成をもって製造されている。したがって、大入熱溶接された際に生成するHAZにおいて、通常の炭素鋼の場合よりも、オーステナイトの粗大化、並びに、フェライトおよび島状マルテンサイトの生成を回避することができ、上記HAZにおいて高いYSおよび高いvE-20℃を両立することができる。そして、該HAZを含む溶接継手においても高いYSおよび高いvE-20℃を両立することができる。このように、本発明の鋼板およびその製造方法は、高い脆性亀裂伝播停止特性に加え、大入熱溶接による継手の靭性確保という従来の問題を解消するものであり、大入熱溶接に好適に用いることができる。
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、以下の実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成を有する溶鋼を溶製し、表2に示す条件で、鋼素材(スラブ)とし、得られた鋼素材に、加熱、熱間圧延および冷却を施して、鋼板を得た。
得られた各鋼板について、表面から深さ1mmにおけるTiN粒子の平均粒径および個数密度、板厚の1/2深さ(板厚中心部、1/2tとも記す)における(211)面X線強度比およびベイナイトの体積率を測定した。また、当該鋼板について、母材特性として、1/2tにおける降伏強度YSおよび脆性亀裂伝播停止特性Kca(-10℃)を評価した。
更に、当該鋼板それぞれから採取した継手用試験板に、V開先加工を施し、市販の低温用鋼用溶接用ワイヤを使用して溶接入熱150kJ/cmのサブマージアーク溶接を行い、大入熱溶接による継手を作製した。そして、得られた継手を用いて靭性を評価した。各試験方法は、次の通りである。なお、このように、得られた継手を用いて評価した特性を、HAZ特性とした。
[TiN粒子の平均粒径および個数密度]
鋼板表面から深さ1mmの位置が観察面となるように、鋼板からサンプルを採取した。採取したサンプルから抽出レプリカ法により薄膜サンプルを作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて10μm×10μmの範囲を撮影した。さらにEDX分析により確認される、TiおよびNをそれぞれ10%以上含む析出物について、画像解析装置を用いて、撮影された像から、析出物の面積より算出される円相当径および析出物の数を解析し、平均粒径および個数密度を算出した。
[(211)面X線強度比]
鋼板の板厚中央部を板厚中心として板厚1mmのサンプルを採取し、サンプルの表面に平行な面を機械研磨および電解研磨することにより、X線回折用の試験片を用意した。この試験片を用いて、Mo線源を用いてX線回折装置を使用して、X線回折測定を実施し、(211)面X線強度比を求めた。
[ベイナイトの体積率]
鋼板から、板厚中心部が観察面となるようにサンプルを採取した。採取したサンプルの表面を鏡面研磨し、更にナイタール腐食して組織を現出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、500~3000倍に拡大して、10mm×10mmの範囲を撮影した。SEM像において、細長く成長したラス状のフェライト組織を有し、円相当径で0.05μm以上の炭化物を含む組織をベイナイト組織と判別した。そして、撮影された像について画像解析装置を用いて解析することによりベイナイト組織の分率を求め、その値を体積率とした。
[母材の降伏強度]
鋼板の板厚中心部から、圧延方向に直角の方向に、当該板厚中心部が試験片の中心となるようにJIS Z 2201の14A号試験片を採取した。採取した試験片について、JIS Z 2241の要領で引張試験を行い、降伏強度YS(単位:MPa)を測定した。
[母材の脆性亀裂伝播停止特性]
鋼板について、温度勾配型標準ESSO試験を行い、脆性亀裂伝播停止特性として、-10℃におけるKca値(Kca(-10℃))(単位:N/mm3/2)を測定した。
[HAZ靭性]
大入熱溶接により得られた継手の表面から深さ1mmを試験片表層とし、HAZを切欠位置とするようなNK U4号衝撃試験片を採取した。採取した試験片について、試験温度-20℃でシャルピー衝撃試験を実施し、同一条件で実施した試験片3本の吸収エネルギーの平均値vE-20℃(単位:J)を、HAZ靭性として求めた。
かくして得られた評価結果を表2に併記する。
Figure 0007099653000001
Figure 0007099653000002
Figure 0007099653000003
Figure 0007099653000004
表1および2から分かるように、発明例はいずれも、母材のKca値が6000N/mm3/2以上の高い脆性亀裂伝播停止特性を発揮するとともに、降伏強度(YS)が390MPa以上であって、大入熱溶接によるHAZのvE-20℃が46J以上と、高い強度及び靭性を両立していた。このように、発明例の鋼板は、大入熱溶接に好適であることがわかる。
一方、比較例に相当する鋼板No.5~6は、TiNの平均粒径および個数密度のうち少なくともいずれかが本発明の条件を満たしておらず、結果として、HAZ靭性に劣っている。比較例に相当する鋼板No.7~15は、板厚中心部の(211)面X線強度比、およびベイナイトの体積率のうち少なくともいずれかが本発明の条件を満たしておらず、結果として、母材の脆性亀裂伝播停止特性に劣っている。
また、比較例に相当する鋼板No.27~49は、鋼素材の成分組成が本発明の条件を満たしていない。具体的には、鋼板No.27は、炭素量が低過ぎるために所望の集合組織への発達程度が低く、母材の脆性亀裂伝播停止特性に劣っている。鋼板No.28は、炭素量が高過ぎるためにHAZの靱性に劣っている。鋼板No.29~49は、種々の元素の添加量およびTiとNにかかる規定並びにCeqのいずれかが本発明で規定する上限または下限を外れており、母材の脆性亀裂伝播停止特性およびHAZの靱性のいずれかに劣っている。
以上の結果より、本発明によれば、母材における優れた脆性亀裂伝播停止特性と、大入熱溶接後の継手における優れた靱性を両立した鋼板及びその製造方法を提供可能であることがわかる。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.040%以上0.090%以下、
    Si:0.02%以上0.10%以下、
    Mn:1.60%以上2.00%以下、
    P:0.010%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.010%以上0.100%以下、
    Nb:0.005%以上0.100%以下、
    O:0.0100%以下、
    Cu:1.00%以下、
    Ni:1.00%以下、
    Cr:1.00%以下、
    Mo:0.50%以下、
    V:0.50%以下
    を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比であるTi/Nが2.00以上4.00以下、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量Ceqが0.400以上0.500以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、
    ベイナイトの体積率が80%以上である組織と、を有し、
    鋼板表面から深さ1mmの位置において含有されるTiN粒子の平均粒径が20nm以上50nm以下であって、該TiN粒子の個数密度が5.0×10 個/cm 以上であり
    板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である、鋼板。
    169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
    ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
  2. 更に、質量%で、
    W:0.50%以下、
    Co:0.50%以下、
    B:0.0100%以下、
    Ca:0.0100%以下、
    Mg:0.0100%以下および
    REM:0.0200%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
  3. 前記TiおよびNの含有量が、Ti:0.010%以上0.031%以下およびN:0.0038%以上0.0100%以下である、請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 質量%で、
    C:0.040%以上0.090%以下、
    Si:0.02%以上0.10%以下、
    Mn:1.60%以上2.00%以下、
    P:0.010%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.010%以上0.100%以下、
    Nb:0.005%以上0.100%以下、
    O:0.0100%以下、
    Cu:1.00%以下、
    Ni:1.00%以下、
    Cr:1.00%以下、
    Mo:0.50%以下、
    V:0.50%以下
    を含み、更に、TiおよびNを、TiとNの質量%比であるTi/Nを2.00以上4.00以下とし、かつ、以下の(1)式を満足する範囲で含有し、以下の(2)式で示される炭素当量Ceqを0.400以上0.500以下とし、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有する溶鋼を溶製し、
    前記溶鋼を鋳造してスラブ状の鋼素材を得るに際し、前記鋳造時の前記スラブ表面から深さ1mmの位置における平均冷却速度を100℃/min以上500℃/min以下として得られた鋼素材を用いて、
    前記鋼素材を950℃以上1250℃以下の温度に加熱し、更に、圧延開始温度をAr点+100℃以上とし、未再結晶領域における1パスあたりの圧下率を5.0%以上かつ累計圧下率を50%以上とし、圧延終了温度をAr点以上とした熱間圧延を施して熱延板とした後、
    前記熱延板に対し、冷却開始温度をAr点(℃)以上とし、板厚の1/2の深さにおける温度が500℃以下になるまで、600~500℃間の平均冷却速度を2.0℃/s以上とした冷却を施すことにより、
    ベイナイトの体積率が80%以上である組織を有し、鋼板表面から深さ1mmの位置において含有されるTiN粒子の平均粒径が20nm以上50nm以下であって、該TiN粒子の個数密度が5.0×10 個/cm 以上であり、板厚の1/2の深さにおける(211)面X線強度比が1.60以上である鋼板を得る、鋼板の製造方法。
    169≦5158×Ti+25563×N≦360・・・(1)
    Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(V+Mo+Cr)/5・・・(2)
    ただし、(1)式および(2)式中の各元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
  5. 更に、質量%で、
    W:0.50%以下、
    Co:0.50%以下、
    B:0.0100%以下、
    Ca:0.0100%以下、
    Mg:0.0100%以下および
    REM:0.0200%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項4に記載の鋼板の製造方法。
  6. 前記TiおよびNの含有量を、Ti:0.010%以上0.031%以下およびN:0.0038%以上0.0100%以下とする、請求項4または5に記載の鋼板の製造方法。
JP2022505521A 2020-11-05 2021-10-29 鋼板およびその製造方法 Active JP7099653B1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020185388 2020-11-05
JP2020185388 2020-11-05
PCT/JP2021/040172 WO2022097589A1 (ja) 2020-11-05 2021-10-29 鋼板およびその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPWO2022097589A1 JPWO2022097589A1 (ja) 2022-05-12
JP7099653B1 true JP7099653B1 (ja) 2022-07-12

Family

ID=81457863

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2022505521A Active JP7099653B1 (ja) 2020-11-05 2021-10-29 鋼板およびその製造方法

Country Status (4)

Country Link
JP (1) JP7099653B1 (ja)
KR (1) KR20230041045A (ja)
CN (1) CN116194602A (ja)
WO (1) WO2022097589A1 (ja)

Families Citing this family (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7468814B1 (ja) 2022-11-14 2024-04-16 Jfeスチール株式会社 高強度極厚鋼板およびその製造方法
WO2024105967A1 (ja) * 2022-11-14 2024-05-23 Jfeスチール株式会社 高強度極厚鋼板およびその製造方法
WO2024116737A1 (ja) * 2022-11-29 2024-06-06 Jfeスチール株式会社 高強度極厚鋼板およびその製造方法

Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2008261009A (ja) * 2007-04-12 2008-10-30 Kobe Steel Ltd 材質異方性が少なくhaz靭性および低温母材靭性に優れた厚鋼板
JP2009179868A (ja) * 2008-01-31 2009-08-13 Kobe Steel Ltd 溶接性に優れた高張力鋼板
JP2010031309A (ja) * 2008-07-25 2010-02-12 Kobe Steel Ltd 厚肉鋼板およびその製造方法
WO2011148754A1 (ja) * 2010-05-27 2011-12-01 新日本製鐵株式会社 厚鋼板の製造方法
JP2014029019A (ja) * 2012-07-03 2014-02-13 Jfe Steel Corp 脆性亀裂伝播停止特性に優れた大入熱溶接用鋼板の製造方法

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4077167B2 (ja) 2001-02-28 2008-04-16 株式会社神戸製鋼所 アレスト特性に優れた鋼板およびその製法
JP5076658B2 (ja) 2006-12-06 2012-11-21 Jfeスチール株式会社 大入熱溶接用鋼材
WO2013099177A1 (ja) 2011-12-27 2013-07-04 Jfeスチール株式会社 脆性き裂伝播停止特性に優れた構造用高強度厚鋼板およびその製造方法
JP5713135B1 (ja) 2013-11-19 2015-05-07 新日鐵住金株式会社 鋼板

Patent Citations (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2008261009A (ja) * 2007-04-12 2008-10-30 Kobe Steel Ltd 材質異方性が少なくhaz靭性および低温母材靭性に優れた厚鋼板
JP2009179868A (ja) * 2008-01-31 2009-08-13 Kobe Steel Ltd 溶接性に優れた高張力鋼板
JP2010031309A (ja) * 2008-07-25 2010-02-12 Kobe Steel Ltd 厚肉鋼板およびその製造方法
WO2011148754A1 (ja) * 2010-05-27 2011-12-01 新日本製鐵株式会社 厚鋼板の製造方法
JP2014029019A (ja) * 2012-07-03 2014-02-13 Jfe Steel Corp 脆性亀裂伝播停止特性に優れた大入熱溶接用鋼板の製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JPWO2022097589A1 (ja) 2022-05-12
KR20230041045A (ko) 2023-03-23
WO2022097589A1 (ja) 2022-05-12
CN116194602A (zh) 2023-05-30

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP7099653B1 (ja) 鋼板およびその製造方法
TWI653343B (zh) 高錳鋼板及其製造方法
KR102648171B1 (ko) 강재 및 그 제조 방법
CN108026618B (zh) 结构用高强度厚钢板及其制造方法
JP7127753B2 (ja) 鋼板およびその製造方法
CN115135787A (zh) 钢板及其制造方法
JP2012229470A (ja) 低温靭性および溶接継手破壊靭性に優れた鋼板およびその製造方法
WO2015194619A1 (ja) 高強度鋼板およびその製造方法
JP7099654B1 (ja) 鋼板およびその製造方法
EP3730642B1 (en) Structural steel having excellent brittle crack propagation resistance, and manufacturing method therefor
JP4276576B2 (ja) 大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板
JP7127752B2 (ja) 鋼板およびその製造方法
KR102193527B1 (ko) 고강도 후강판 및 그의 제조 방법
JP6504131B2 (ja) 高強度厚鋼板およびその製造方法
JP7243916B2 (ja) 鋼板および鋼板の製造方法
JP7396322B2 (ja) 鋼板
JP7323090B1 (ja) 鋼板および鋼板の製造方法
JP7127751B2 (ja) 鋼板およびその製造方法
JP7444339B1 (ja) 大入熱溶接用鋼板およびその製造方法
JP7468814B1 (ja) 高強度極厚鋼板およびその製造方法
CN113226614B (zh) 焊接结构体
WO2023166935A1 (ja) 鋼板および鋼板の製造方法
WO2024105967A1 (ja) 高強度極厚鋼板およびその製造方法
JP2023148714A (ja) 高強度厚鋼板とその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20220126

A871 Explanation of circumstances concerning accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A871

Effective date: 20220126

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220322

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220415

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20220531

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20220613

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7099653

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150