JP7363389B2 - 樹脂組成物成形体および電力ケーブル - Google Patents

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Description

本開示は、樹脂組成物、樹脂組成物成形体および電力ケーブルに関する。
架橋ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する樹脂成分として広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
特開昭57-69611号公報
しかしながら、経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
そこで、近年では、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。プロピレン系樹脂は非架橋であっても、電力ケーブルとして求められる絶縁性を満たすことができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。さらに、プロピレン系樹脂を用いることで、取り扱い性、加工性、および製造容易性を向上させることができる。
発明者等は、絶縁層を構成する樹脂成分としてプロピレン系樹脂を用いた検討を行ったところ、特に絶縁層の厚さを3mm以上とした場合に、ケーブル諸特性を確保することが困難となることを見出した。
本開示の目的は、プロピレンを含み3mm以上の厚さを有する絶縁層において、ケーブル諸特性を確保することができる技術を提供することである。
本開示の一態様によれば、
プロピレンおよびスチレンを含み、
融点は、158℃以上168℃以下であり、
融解熱量は、55J/g以上100J/g以下である、
樹脂組成物。
本開示の他の態様によれば、
樹脂組成物から形成され、対象物に対して3mm以上の厚さで被覆される成形体であって、
プロピレンおよびスチレンを含み、
前記成形体の融点は、158℃以上168℃以下であり、
前記成形体の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
表面から前記対象物に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記対象物から前記表面に向けた位置が0.5mmである内側試料と、を採取したときに、
前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
樹脂組成物成形体。
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周に3mm以上の厚さで被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレンおよびスチレンを含み、
前記成形体の融点は、158℃以上168℃以下であり、
前記成形体の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
前記絶縁層の表面から前記導体に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記導体から前記表面に向けた位置が0.5mmである内側試料と、を採取したときに、
前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
電力ケーブル。
本開示によれば、プロピレンを含み3mm以上の厚さを有する絶縁層において、ケーブル諸特性を確保することができる。
本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
一般に、ポリプロピレンの単体は、ポリエチレンなどと比べて硬い。また、ポリプロピレンの単体は、ポリエチレンなどと比べて、耐低温脆性に劣っている。
本発明者らは、このようなポリプロピレンを用いて電力ケーブルの絶縁層を形成したところ、所望のケーブル諸特性を得られないことが確認された。特に絶縁層が3mm以上と厚くなるほど、その傾向は顕著となった。ここで、ケーブル諸特性とは、電力ケーブルに要求される特性であって、例えば、柔軟性、耐低温脆性、絶縁性、および水トリー耐性のことを意味する。
この点について本発明者らが検討を行ったところ、ケーブル諸特性を得られない要因は、樹脂成分の結晶性(結晶状態:大きさ、形状)および結晶量(結晶化度)が絶縁層の厚さ方向でばらつくためであることを見出した。具体的に説明すると、電力ケーブルの絶縁層は、樹脂組成物を溶融させてケーブルコアの周囲に押出被覆した後、溶融させた樹脂組成物を冷却することにより形成している。この溶融させた樹脂組成物を冷却するときに、表面側は、外気に触れているため、冷却されやすいのに対して、内側(絶縁層の導体側)は、外気に触れていないため、冷却されにくい。つまり、絶縁層の厚さ方向で冷却速度が異なる。一方、ポリプロピレンは、冷却速度によって結晶成長が異なり、結晶量などが大きく変化しやすい。具体的には、冷却速度が速いと、球晶が成長しにくく、相対的に結晶量が少なくなるのに対して、冷却速度が遅いと、球晶が成長しやすく、結晶量が相対的に多くなる傾向にある。そのため、ポリプロピレンのみで絶縁層を厚く形成する場合、表面側は結晶量が少なく(結晶化度が小さく)、内側は結晶量が多く(結晶化度が大きく)なり、結晶量が厚さ方向で大きく変わってしまう。このような結晶量のばらつきは、絶縁層が薄い場合は生じにくいが、厚さが3mm以上となる場合は顕著となり、ケーブル諸特性を低下させる要因となる。
一方、ポリプロピレンは、自動車のバンパなどの技術分野においても採用されている。ここでは、その耐低温脆性を改善すべく、ポイプロピレンに対してエチレンプロピレンゴム(EPR)などを添加している。EPRによれば、樹脂組成物を柔軟化し、低温脆性を改善させることができる。
そこで、発明者等は、電力ケーブルの技術分野において、絶縁層の柔軟性および耐低温脆性を向上させるため、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレン系樹脂に対してEPRなどの低結晶性樹脂を添加することを試みた。
その結果、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂との添加比率によってはプロピレン系樹脂の結晶成長を制御することで、膜厚方向での結晶量のばらつきを抑制し、ケーブル諸特性を向上できることが確認された。ただし、添加比率の調整だけでは、ケーブル諸特性の向上にも限界があった。例えば、低結晶性樹脂を添加すると、プロピレン系樹脂の結晶成長を制御し、結晶量のばらつきを抑制できるものの、絶縁層全体としてプロピレン系樹脂の添加量が少なくなり、所望の絶縁層を得られないことがあった。このように低結晶性樹脂の添加比率を調整するだけではケーブル諸特性を高い水準でバランスよく得られないことがあった。
このことから、本発明者らは、EPRなどの低結晶性樹脂と同様にポリプロピレンの結晶成長を制御できるような成分について検討を行い、スチレン系樹脂に着目した。
スチレン系樹脂は、低結晶性樹脂と比べて、プロピレン系樹脂との相溶性が低い。そのため、スチレン系樹脂のみを添加する場合、スチレン系樹脂がプロピレン系樹脂に溶け込まずに凝集物を形成したりすることで、結晶量のばらつきがかえって生じてしまうことがある。しかし、本発明者らの検討によると、低結晶性樹脂とスチレン系樹脂とを併用することにより、低結晶性樹脂を起点としてスチレン系樹脂を微細に分散させて特異な相構造を形成することができ、プロピレン系樹脂の結晶成長を制御しながらも、プロピレン系樹脂が本来有する特性を得られ、ケーブル諸特性を向上できることを見出した。
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
プロピレンおよびスチレンを含み、
融点は、158℃以上168℃以下であり、
融解熱量は、55J/g以上100J/g以下である。
この構成によれば、ケーブル諸特性を確保することができる。
[2]本開示の他の態様に係る樹脂組成物成形体は、
樹脂組成物から形成され、対象物に対して3mm以上の厚さで被覆される成形体であって、
プロピレンおよびスチレンを含み、
前記成形体の融点は、158℃以上168℃以下であり、
前記成形体の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
表面から前記対象物に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記対象物から前記表面に向けた位置が0.5mmである内側試料と、を採取したときに、
前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である。
この構成によれば、ケーブル諸特性を確保することができる。
[3]上記[2]に記載の樹脂組成物成形体は、
架橋剤の残渣は、300ppm未満である。
この構成によれば、樹脂組成物成形体のリサイクル性を向上させることができる。
[4]上記[2]又は[3]に記載の樹脂組成物成形体において、
常温における交流破壊電界は、60kV/mm以上である。
この構成によれば、樹脂組成物成形体を電力ケーブルの絶縁層として好適に使用することができる。
[5]上記[2]から[4]のいずれか1つに記載の樹脂組成物成形体において、
前記外側試料および前記内側試料のそれぞれは、前記示差走査熱量測定を行ったDSC曲線において、100℃以上に単一の融解ピークのみを有する。
この構成によれば、樹脂成分の結晶量を容易に制御することができる。
[6]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周に3mm以上の厚さで被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレンおよびスチレンを含み、
前記絶縁層の融点は、158℃以上168℃以下であり、
前記絶縁層の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
前記絶縁層の表面から前記導体に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記導体から前記表面に向けた位置が2.5mmである内側試料と、を採取したときに、
前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
電力ケーブル。
この構成によれば、ケーブル諸特性を確保することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
<本開示の一実施形態>
(1)樹脂組成物成形体
本実施形態の樹脂組成物成形体(以下、単に成形体ともいう)は、例えば、対象物に対して3mm以上の厚さで被覆されたものである。具体的には、樹脂組成物成形体は、例えば、後述する電力ケーブル10の絶縁層130を構成している。樹脂組成物成形体の対象物は、例えば、長尺な線状の導体110である。樹脂組成物成形体は、例えば、導体110の外周を覆うように押出成形されている。すなわち、樹脂組成物成形体は、例えば、対象物の長手方向に同一の形状を有している。また、対象物の長手方向の樹脂組成物成形体の長さは、例えば、30cm以上、好ましくは50cm以上である。
本実施形態の成形体は、樹脂組成物から形成され、少なくとも、樹脂成分に由来するプロピレン単位およびスチレン単位を含む。樹脂成分としては、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂と、スチレン系樹脂と、を含む。以下、各成分について説明する。
(プロピレン系樹脂)
本実施形態の樹脂成分を構成するプロピレン系樹脂は、上述のように、プロピレンのみを含んでいる。すなわち、プロピレン系樹脂は、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)からなっている。
本実施形態では、プロピレン単独重合体の立体規則性は、例えば、アイソタクチックである。アイソタクチックプロピレン単独重合体は、チーグラーナッタ触媒で重合されたものであり、汎用的である。プロピレン単独重合体の立体規則性をアイソタクチックとすることで、成形体の融点を上述の規定範囲内とすることができる。また、プロピレン単独重合体の立体規則性をアイソタクチックとすることで、低結晶性樹脂を過剰に添加することなく、耐低温脆性を向上させることができる。これにより、絶縁性を容易に確保することができる。
なお、参考までに、他の立体規則性として、シンジオタクチック、アタクチックがあるが、いずれも、本実施形態のプロピレン単独重合体の立体規則性としては好ましくない。
シンジオタクチックプロピレン単独重合体は、メタロセン触媒で重合されたものであり、比較的高価である。プロピレン単独重合体の立体規則性がシンジオタクチックであると、成形体の融点が過剰に低くなる。また、プロピレン単独重合体の立体規則性がシンジオタクチックであると、低温脆化性が劣る。低温脆化性の改善には、低結晶性樹脂を過剰に添加する必要がある。このため、絶縁性の低下が顕著となる。
また、立体規則性がアタクチックであると、樹脂成分が結晶化しないため、所定のケーブル諸特性を確保することができなくなる。
本実施形態に用いられるプロピレン単独重合体の単体としての融点は、例えば、160℃以上175℃以下である。また、プロピレン単独重合体の単体としての融解熱量は、例えば、100J/g以上120J/g以下である。プロピレン単独重合体の単体としての弾性率(25℃)は、例えば、1600MPaである。
(低結晶性樹脂)
低結晶性樹脂は、プロピレン系樹脂の結晶成長(結晶量)を制御して樹脂組成物の成形体に柔軟性を付与する成分である。また低結晶性樹脂は、相溶化剤として、スチレン系樹脂のプロピレン系樹脂への分散性を向上させる。ここで、低結晶性樹脂とは、結晶量が低い、もしくは非晶性であって、融点を持たない、融点を持つとしても融点が100℃以下である成分を示す。その融解熱量は、例えば、50J/g以下、好ましくは30J/g以下である。
低結晶性樹脂としては、結晶成長の制御性や成形体の柔軟性を高める観点から、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体であることが好ましい。なお、低結晶性樹脂を構成するモノマー単位における炭素-炭素二重結合は、例えば、α位にあることが好ましい。
低結晶性樹脂としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)、超低密度ポリエチレン(VLDPE:Very Low Density Polyethylene)などが挙げられる。
低結晶性樹脂は、例えば、プロピレン系樹脂との相溶性の観点から、プロピレンを含む共重合体が好ましい。プロピレンを含む共重合体としては、上記の中で、EPRが挙げられる。
EPRのエチレン含有量は、例えば、20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上であることが好ましい。エチレン含有量が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなる。このため、成形体中のEPRの含有量を少なくしても、成形体を柔軟化することができる。しかしながら、プロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御できず、絶縁性が低下する可能性がある。これに対し、エチレン含有量を20質量%以上とすることで、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなることを抑制することができる。これにより、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによるプロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御することができる。その結果、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、エチレン含有量を好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上とすることで、結晶化をより安定して制御することができ、絶縁性の低下を安定的に抑制することができる。
一方で、低結晶性樹脂は、例えば、プロピレンを含まない共重合体であってもよい。プロピレンを含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、VLDPEが好ましい。VLDPEとしては、例えば、エチレンおよび1-ブテンにより構成されるPE、エチレンおよび1-オクテンにより構成されるPEなどが挙げられる。
低結晶性樹脂として、プロピレンを含まない共重合体によれば、プロピレン系樹脂に対して低結晶性樹脂を所定量混合させつつ、完全相溶を抑制することができる。そのため、このような共重合体の含有量を所定量以上とすることで、プロピレン系樹脂の結晶化を安定して制御することができる。
(スチレン系樹脂)
スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンなどの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマである。スチレン系樹脂は、低結晶性樹脂と同様、樹脂組成物に分散してプロピレン系樹脂の結晶成長を制御し、絶縁層の厚さ方向での結晶量のばらつきを抑制する成分である。また、スチレン系樹脂は、芳香環により電子をトラップして安定的な共鳴構造を形成したり、エラストマとして成形体における機械的なストレスクラックの発生を抑制したりすることで、成形体の水トリー耐性の向上にも寄与する。
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレンブタジエンラバー、水添スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、ここでいう「水添」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
スチレン系樹脂としては、化学構造中に二重結合を含まない物が好ましい。二重結合を有する物を用いた場合、樹脂組成物の成形時などで樹脂成分が熱劣化することがあり、得られる成形体の特性を低下させることがある。この点、二重結合を含まない物によれば、熱劣化の耐性が高いので、成形体の特性をより高く維持することができる。
スチレン系樹脂のスチレン含量は、特に限定されないが、プロピレン系樹脂の結晶成長の制御、および成形体の柔軟化という観点からは、5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。
(樹脂組成物)
本実施形態の成形体を構成する樹脂組成物は、上述したプロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含む。この樹脂組成物は、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置により分析したときに、少なくとも、プロピレン系樹脂に由来するプロピレン単位と、スチレン系樹脂に由来するスチレン単位とを化学構造中に有する。低結晶性樹脂がEPRなどのエチレン単位を含むポリマである場合は、さらにエチレン単位を有することになる。
また、成形体を構成する樹脂組成物は、リサイクルの観点から、架橋せずに非架橋であることが好ましい。または、架橋させるとしても、ゲル分率(架橋度)が低くなるように架橋させることが好ましい。具体的には、樹脂組成物成形体における架橋剤の残渣が300ppm未満となるような架橋度で架橋させることが好ましい。なお、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを使用した場合には、残渣は、例えば、クミルアルコール、α-メチルスチレンなどである。
(成形体の融点および融解熱量)
本実施形態の成形体は、例えば、溶融させた樹脂組成物を対象物に対して3mm以上の厚さで押出被覆し、冷却させることにより形成することができる。上述した樹脂組成物は、プロピレン系樹脂に低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を混合しているので、溶融させた状態から冷却して固化させる際に、プロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制することができる。しかも、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の比率を調整することで、その結晶成長を適度に制御することができる。そのため、厚さが3mm以上の成形体を作製する場合であっても、その表面側と内側との間で、冷却速度の違いによる結晶成長の違いを抑制し、厚さ方向での結晶量のばらつきを抑制することができる。具体的には、成形体の表面側と内側とで、結晶量(結晶化度)の指標となる樹脂組成物の融解熱量や融点の差を小さくすることができる。
ここで、成形体の融点および融解熱量について説明する。
本実施形態の成形体は、それを構成する樹脂組成物の融点が、158℃以上168℃以下であり、融解熱量が、55J/g以上100J/g以下となる。成形体においては、結晶量が厚さ方向で多少ばらつくものの、そのばらつきが小さいので、成形体のいずれの位置で採取された試料であっても、融点および融解熱量が上記範囲内となる。つまり、成形体の表面側と内側とからそれぞれ採取される試料の融点や融解熱量が上記範囲内となる、
成形体の融点は158℃以上168℃以下となる。成形体は、高い融点のプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体)とともに、融点を持たない、もしくは融点のない低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含むので、成形体の融点は、プロピレン単独重合体が本来有する融点(160℃~175℃)よりも低くなる。成形体の融点が158℃未満となる場合は、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂の含有量が多く、168℃を超える場合は、プロピレン系樹脂が多いといったように、各成分の配合バランスが悪くなり、ケーブル諸特性を確保することができなくなる。成形体の融点が158℃~168℃となることで、ケーブル諸特性を確保できるような適度な配合バランスとすることができる。
また、成形体の融解熱量は55J/g以上100J/g以下となる。成形体は、結晶性のプロピレン系樹脂(プロピレン単独重合体)とともに、それよりも結晶量の少ない低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含むので、成形体の融解熱量は、プロピレン単独重合体が本来有する融解熱量(100J/g~120J/g)よりも低くなる。
融解熱量は、樹脂組成物における結晶量に応じて、つまりプロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の各配合量に応じて変化するので、各成分の比率の指標となる。
成形体においては、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂の添加量が多くなり、結晶性のプロピレン系樹脂の配合量が過度に少なくなると、成形体における結晶化度が低くなる(結晶量が少なくなる)。成形体における結晶量が、融解熱量で55J/g未満となるような範囲である場合は、結晶量が過度に少なくなり、所望の絶縁性を確保できなくなる。これに対し、成形体の融解熱量が55J/g以上となるように各成分の比率を調整して結晶量を制御することにより、成形体の絶縁性を向上させることができる。
一方、成形体における結晶量が、融解熱量で100J/g超となるような範囲である場合は、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂が少なく、成形体がプロピレン単独重合体の単体に近い場合に相当する。この場合、結晶量が過度に多いため、成形体が硬くなり、耐低温脆性に劣る可能性がある。また、成形体において、プロピレン系樹脂の結晶成長を十分に制御できないことから、球晶が過度に大きくなるため、球晶のマイクロクラックに起因して絶縁性が低下する可能性がある。さらに、粗大な球晶の成長により非晶部が少なくなることから、球晶界面に水が集中しやすくなり、その結果として、水トリー耐性が低下する可能性がある。これに対し、成形体の融解熱量が100J/g以下となるように各成分の比率を調整して結晶量を制御することにより、成形体を柔軟化し、低温脆性を改善することができる。また、成形体における球晶のマイクロクラックに起因した絶縁性の低下を抑制することができる。また、粗大な球晶の成長を抑制し、非晶質部を確保できるので、球晶界面への水の集中を抑制して、樹脂組成物成形体の水トリー耐性を向上させることができる。
上述したように、本実施形態の成形体は、厚さ方向での結晶量のばらつきが小さくなる。そのため、成形体の表面から対象物に向かって0.5mmの位置にある外側試料と、対象物から表面に向かって0.5mmの位置にある内側試料と、を採取し、外側試料および内側試料の示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を行ったときに、内側試料と外側試料との間で融点および融解熱量の差も小さくなる。具体的には、内側試料の融点から外側試料の融点を引いた差の絶対値(以下、単に「融点の差」ともいう)は、8℃以下となり、内側試料の融解熱量から外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値(以下、単に「融解熱量の差」ともいう)は、10J/g以下となる。
融点の差が8℃超、もしくは融解熱量の差が10J/g超となる場合は、例えば、成形体の内側において、結晶成長を十分に制御できずにプロピレン系樹脂の球晶が粗大に成長したり、結晶化が進むことで結晶量が増えたりすることで、表面側との間で結晶量に大きな違いが生じていると考えられる。そのため、上述のように、ケーブル諸特性としての柔軟性、耐低温脆性、絶縁性および水トリー耐性を確保することが困難となる。これに対し、融点や融解熱量の差が上記範囲となるように結晶成長を制御し、成形体の全体にわたって、結晶をバランスよく分布させることで、つまり結晶量を均一にすることで、ケーブル諸特性としての柔軟性、耐低温脆性、絶縁性および水トリー耐性を確保することができる。なお、上述した「均一」とは、完全に均一である場合だけでなく、所定の誤差を有して均一である場合も含んでいる。
なお、樹脂組成物成形体の表面側では冷却速度が速くなることから、外側試料の球晶が内側試料の球晶よりも大きく成長することは少ない。このため、内側試料の融点から外側試料の融点を引いた差が負となることは少ない。ただし、たとえ内側試料の融点から外側試料の融点を引いた差が負となったとしても、融点の差は、-8℃以上である。
また、本実施形態では、外側試料および内側試料のそれぞれは、例えば、DSC測定を行ったDSC曲線において、100℃以上に単一の融解ピークのみを有している。すなわち、融解ピークを有する結晶性の樹脂成分は、プロピレン系樹脂のみである。たとえ樹脂成分として添加される低結晶性樹脂やスチレン系樹脂が融解ピークを有していたとしても、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂の融解ピークは、100℃未満であるか、或いは、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂の融解ピークは、プロピレン系樹脂の融解ピークよりも無視できるほど低い。言い換えれば、最も高い融解ピークの温度は、158℃以上168℃以下である。
なお、本明細書における「示差走査熱量測定」は、例えば、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行われる。具体的には、DSC装置において、室温(常温、例えば27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させる。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線が得られる。
このとき、試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点(融解ピーク温度)」とする。また、このとき、試料の吸熱が全て樹脂成分によって行われると仮定し、室温から220℃までの試料の吸熱量(J)を試料中の樹脂成分全体の質量(g)で除した値(J/g)を「融解熱量」とする。なお、試料の融解熱量と完全結晶体の融解熱量の理論値とに基づいて、試料の結晶化度(%)を求めることができる。
(樹脂組成)
成形体を構成する樹脂組成物に含まれる各成分の比率は、上述した外側試料の融解熱量が55J/g以上100J/g以下となるよう、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂のそれぞれの結晶量に応じて、適宜調整するとよい。
具体的には、樹脂組成物は、好ましくは、プロピレン系樹脂を55質量%以上85質量%以下、低結晶性樹脂を5質量%以上15質量%以下、スチレン系樹脂を5質量%以上35質量%以下、より好ましくは、プロピレン系樹脂を65質量%以上80質量%以下、低結晶性樹脂を5質量%以上15質量%以下、スチレン系樹脂を10質量%以上30質量%以下、含む。このような比率で各成分を混合することにより、融解熱量や融点を上記範囲に調整しやすくなる。
樹脂組成物において、スチレン系樹脂に由来するスチレン総量は、0.5質量%以上8質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。スチレン総量とは、樹脂組成物に占めるスチレン単位の総量を示す。スチレン総量が上記範囲となるよう、使用するスチレン系樹脂のスチレン含量に応じて、その添加量を適宜調整するとよい。これにより、ケーブル諸特性をより高い水準でバランスよく得ることができる。
また、プロピレン系樹脂にスチレン系樹脂を微細に分散させる観点からは、低結晶性樹脂の含有量をスチレン系樹脂に対して0.25倍以上2.5倍以下とすることが好ましい。これにより、スチレン系樹脂をより確実に分散させることができる。
(その他の添加剤)
成形体を構成する樹脂組成物は、上述の樹脂成分のほかに、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
ただし、本実施形態の樹脂組成物成形体は、例えば、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤の含有量が少ないことが好ましく、このような添加剤を実質的に含まないことがより好ましい。具体的には、核剤として機能する添加剤の含有量は、例えば、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の合計の含有量を100質量部としたときに、1質量部未満であることが好ましく、0質量部であることがより好ましい。これにより、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。
(2)電力ケーブル
次に、図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、オレフィン系エラストマ、上述の低結晶性樹脂などのうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した樹脂組成物成形体として構成されている。絶縁層130は、例えば、上述のように、樹脂組成物により押出成形されている。
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、上述の水トリー抑制効果を有していることで、例えば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
(3)ケーブル諸特性
本実施形態では、絶縁層130(樹脂組成物成形体)の融点および融解熱量をそれぞれ所定の範囲内としつつ、絶縁層130の厚さ方向に対する融点および融解熱量のそれぞれのばらつきを小さくすることで、以下のケーブル諸特性が確保されている。
なお、以下でいう「内側試料」とは、上述のように、絶縁層130において、導体110から絶縁層130の表面に向かって0.5mmの箇所から採取した試料のことである。内側試料では結晶量が高くなりやすいことから、内側試料でケーブル諸特性が満たされれば、樹脂組成物成形体の全体に亘ってケーブル諸特性が満たされることを意味する。
(絶縁性)
本実施形態では、常温(例えば27℃)における絶縁層130の交流破壊電界強度は、例えば、60kV/mm以上である。より具体的には、常温において、0.2mm厚の内側試料に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加したときの、交流破壊電界は、60kV/mm以上である。
(耐低温脆性)
本実施形態では、例えば、JISK7216に準拠して、内側試料を-25℃で衝撃具により衝撃を与えた(殴打した)ときに割れを生じない。
(柔軟性)
本実施形態では、内側試料の引張弾性率は、例えば、1200MPa以下である。なお、「引張弾性率」とは、IT計測制御社製のDVA-200を用い、引張モードにて10℃/分の昇温速度で昇温する測定を、-50℃から200℃まで実施し、30℃で記録した貯蔵弾性率のことを意味する。
また、本実施形態では、例えば、内側試料を500mmの直径で曲げたときに、内側試料が白化しない。なお、ここでいう「白化」とは、曲げ前後にて折り曲げ部と非折り曲げ部との間に色目の差が生じ、ヘイズが発生した状態のことをいう。
(水トリー耐性)
本実施形態では、絶縁層130としての樹脂組成物成形体を、常温(27℃)の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、樹脂組成物成形体に対して商用周波数(例えば60Hz)4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、樹脂組成物成形体中に発生する水トリーの最大長さは、例えば、150μm未満である。これにより、水トリーに起因した絶縁層130の絶縁破壊を安定的に抑制することができる。
なお、樹脂組成物成形体中に発生する水トリーの最大長さは、短ければ短いほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態では、上述の試験によって所定量の水トリーが発生しうることから、樹脂組成物中に発生する水トリーの最大長さは、例えば、30μm以上となる。
また、本実施形態では、絶縁層130としての樹脂組成物成形体を、常温(27℃)の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、樹脂組成物成形体に対して商用周波数(例えば60Hz)4kV/mmの交流電界を1000時間印加したときに、樹脂組成物成形体中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度は、例えば、150個/cm未満である。これにより、水トリーに起因した絶縁層130の絶縁破壊を安定的に抑制することができる。
なお、水トリーの発生個数濃度は、低ければ低いほどよいため、限定されるものではない。しかしながら、本実施形態では、上述の試験によって所定量の水トリーが発生しうることから、水トリーの発生個数濃度は、例えば、10個/cm以上となる。
(4)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、成形体を形成するための樹脂組成物を準備する。
本実施形態では、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含む樹脂成分と、必要に応じて、その他の添加剤(酸化防止剤等)と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
このとき、樹脂組成物において、プロピレン系樹脂の含有量が55質量%以上85質量%以下、低結晶性樹脂の含有量が5質量%以上15質量%以下、スチレン系樹脂の含有量を5質量%以上35質量%以下、となるように各成分を混合する。
混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、上述の樹脂組成物を、導体110の外周を3mm以上の厚さで被覆するように押出し、冷却させることにより、絶縁層130を形成する。
押出した樹脂組成物を冷却するときに、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂によりプロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制できるので、厚さ方向での結晶成長のばらつきを低減することができる。これにより、得られた絶縁層において、表面側と内側との間での結晶量のばらつきを少なくすることができる。具体的には、外側試料の融点が158℃以上168℃以下となり、外側試料の融解熱量が55J/g以上100J/g以下となり、融点の差が8℃以下となり、かつ、融解熱量の差が10J/g以下となるような、絶縁層130を形成することができる。
また、このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用組成物を投入する。
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節することが好ましい。
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
(5)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
(a)本実施形態の成形体は、NMRで測定したときにプロピレン(単位)およびスチレン(単位)を含み、DSCを行ったときの融点が158℃以上168℃以下であり、融解熱量が55J/g以上100J/g以下である樹脂組成物から形成されている。この樹脂組成物は、結晶性の樹脂成分としてプロピレン単独重合体と低結晶性樹脂とスチレン系樹脂とを、融解熱量が55~100J/gとなるような比率で含んでいる。この樹脂組成物によれば、溶融した状態から冷却するときに、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂によりプロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制して制御することができる。そのため、樹脂組成物を対象物に対して3mm以上の厚さで被覆して成形体を形成する際に、例えば成形体として電力ケーブルの絶縁層を形成する際に、厚さ方向での結晶量のばらつきを少なくすることができる。つまり、成形体の全体にわたって結晶をバランスよく分布させ、結晶量を均一にすることができる。具体的には、成形体の表面側の外側試料と導体側の内側試料との間で融点の差を8℃以下、融解熱量の差の絶対値を10J/g以下とすることができる。このように成形体(絶縁層)の厚さ方向での結晶量のばらつきを少なくすることにより、ポリプロピレン系樹脂を使用しながらも、絶縁層を柔軟化して、絶縁層の耐低温脆性を向上させることができる。また、過少な結晶量に起因した絶縁性の低下を抑制するとともに、粗大な球晶のマイクロクラックに起因した絶縁性の低下を抑制することができる。また、粗大な球晶の成長を抑制し、非晶質部を確保できるので、球晶界面の水の集中を抑制することができ、その結果として、樹脂組成物成形体の水トリー耐性を向上させることができる。このように、本実施形態では、ケーブル諸特性を確保することが可能となる。
(b)本実施形態では、樹脂組成物成形体における架橋剤の残渣は、300ppm未満である。これにより、成形体のリサイクル性を向上させることができる。その結果、環境への影響を抑制することができる。
(c)本実施形態によれば、成形体の全体として、結晶の大きさが過小または過大となることが抑制されている。また、成形体の全体にわたって、結晶量が均一であるだけでなく、結晶の大きさも均一となっている。これにより、成形体の絶縁性を向上させることができる。具体的には、常温における成形体の交流破壊電界を60kV/mm以上とすることができる。その結果、本実施形態の成形体を電力ケーブルの絶縁層として好適に使用することができる。
(d)本実施形態では、外側試料および内側試料のそれぞれは、例えば、DSC測定を行ったDSC曲線において、100℃以上に単一の融解ピークのみを有している。すなわち、融解ピークを有する結晶性の樹脂成分は、プロピレン系樹脂のみである。これにより、樹脂成分の結晶量を容易に制御することができる。
(e)本実施形態の成形体は、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤の含有量が、例えば、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂の合計の含有量を100質量部としたときに、1質量部未満であることが好ましい。
ここで、成形体が核剤として機能する添加剤を含んでいると、核剤によって、樹脂成分の結晶量が成形体中で均一となりうる。しかしながら、樹脂組成物が上記添加剤を含んでいるため、添加剤を起因として成形体の絶縁性が低下する可能性がある。この場合、異常結晶成長部においてマイクロクラックが発生し、絶縁性が低下する可能性がある。
これに対し、本実施形態では、樹脂組成物成形体において核剤として機能する添加剤が少なくても、低結晶性樹脂やスチレン系樹脂の添加により、樹脂成分の結晶量が過多となることが抑制され、樹脂組成物成形体の厚さ方向に対する樹脂成分の結晶量のばらつきが抑制されている。また、樹脂組成物成形体において核剤として機能する添加剤を少なくすることで、添加剤を起因とした樹脂組成物成形体の絶縁性の低下を抑制することができる。また、樹脂組成物成形体において核剤として機能する添加剤を少なくすることで、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。これにより、樹脂組成物成形体の絶縁性の低下を抑制することができる。
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
上述の実施形態では、絶縁層としての樹脂組成物成形体は、メカニカル的に混合され押出成形されたものである場合について説明したが、樹脂組成物成形体は、重合され押出成形されたものであってもよい。
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、上述の顕著な水トリー抑制効果を有していることで、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出てもよい。
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
(1)電力ケーブルの作製
本実施例では、以下の手順により電力ケーブルを作製した。
(1-1)材料
絶縁層を形成するための樹脂組成物の材料として、以下の成分を準備した。
プロピレン系樹脂(A)として、以下を用いた。
ホモポリプロピレン(アイソタクチック):メルトフローレート:0.5g/10min、密度:0.9g/ml
低結晶性樹脂(B)として、以下の(b1)~(b3)を用いた。
(b1)エチレンプロピレンゴム(EPR):エチレン含有量:52質量%、ムーニー粘度ML(1+4)100℃:40
(b2)超低密度ポリエチレン(エチレンおよび1-ブテンの共重合体、VLDPE1):1-ブテン含有量:40質量%、融点:95℃、密度:0.88g/ml、ショアA硬度:66
(b3)超低密度ポリエチレン(エチレンおよび1-オクテンの共重合体、VLDPE2):1-オクテン含有量:10質量%、融点:55℃、密度:0.87g/ml、ショアA硬度:70
スチレン系樹脂(C)として、スチレン含有量の異なる以下の(c1)~(c6)を用いた。
(c1)水添スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS1):スチレン含有量:35質量%、硬度:A35、メルトフローレート:0g/10min(230℃、2.16kg)
(c2)水添スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS2):スチレン含有量:30質量%、硬度:A84、メルトフローレート:5g/10min(230℃、2.16kg)
(c3)水添スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS3):スチレン含有量:20質量%、硬度:A67、メルトフローレート:13g/10min(230℃、2.16kg)
(c4)水添スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS4):スチレン含有量:12質量%、硬度:A42、メルトフローレート:4.5g/10min(230℃、2.16kg)
(c5)水添スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS5):スチレン含有量:42質量%、硬度:A96、メルトフローレート:0.8g/10min(190℃、2.16kg)
(c6)水添スチレン系熱可塑性エラストマ(SEBS6):スチレン含有量:47質量%、硬度:A93、メルトフローレート:3g/10min(190℃、2.16kg)
(1-2)樹脂組成物の調製
上述した材料を下記表1に示す配合でバンバリーミキサによって混合し、押出機によりペレット状に造粒した。
Figure 0007363389000001
(サンプル1~3)
サンプル1では、ホモポリマであるプロピレン系樹脂(A)を70質量部、低結晶性樹脂(B)として(b1)EPRを10質量部、スチレン系樹脂(C)としてスチレン含有量が20質量%である(c3)SEBS3を20質量部混合し、スチレン総量が4.0質量%となるように樹脂組成物を調製した。また、サンプル2、3では、低結晶性樹脂(B)の種類を(b1)から(b2)および(b3)に変更した以外はサンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
(サンプル4~6)
サンプル4~6では、スチレン系樹脂(C)の種類を、(c3)から(c1)、(c2)または(c4)のいずれかに変更した以外はサンプル2と同様に樹脂組成物を調製した。
(サンプル7、8)
サンプル7、8では、プロピレン系樹脂(A)、低結晶性樹脂(B)およびスチレン系樹脂(C)の比率を変更した以外はサンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
(サンプル9)
サンプル9では、スチレン系樹脂(C)を添加せずに、プロピレン系樹脂(A)を75質量部、低結晶性樹脂(B)を25質量部とした以外はサンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
(サンプル10、11)
サンプル10、11では、スチレン系樹脂(C)の種類を(c3)から(c5)または(c6)に変更した以外はサンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
(サンプル12、13)
サンプル12、13では、プロピレン系樹脂(A)、低結晶性樹脂(B)およびスチレン系樹脂(C)の比率を、成形体の融点や融解熱量が上述した範囲から外れるように設定した以外はサンプル1と同様に樹脂組成物を調製した。
(1-3)電力ケーブルのサンプルの作製
次に、断面積が100mmの導体を準備した。導体を準備したら、エチレン-エチルアクリレート共重合体を含む内部半導電層用樹脂組成物と、上述の(1-2)で準備した絶縁層用の樹脂組成物と、内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料からなる外部半導電層樹脂組成物と、をそれぞれ押出機A~Cに投入した。押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。このとき、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層の厚さを、それぞれ、0.5mm、3.5mm、0.5mmとした。その結果、中心から外周に向けて、導体、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を有する電力ケーブルを製造した。
(2)評価
本実施例では、作製した電力ケーブルの絶縁層について、以下の項目を評価した。
(2-1)融点と融解熱量
まず、サンプル1~13の電力ケーブルの絶縁層を桂剥きし、絶縁層の表面から導体に向かって深さ0.5mmの箇所での試料片を外側試料として採取した。また、導体から表面に向かって0.5mmの箇所、つまり、表面から導体に向かって深さ2.5mmの箇所での試料片を内側試料として採取した。外側試料および内側試料のそれぞれの厚さは0.5mmとした。
各試料の融点は、DSC測定により求めた。DSC測定は、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行った。具体的には、DSC装置としては、パーキンエルマー社製DSC8500(入力補償型)を用いた。基準試料は例えばα-アルミナとした。試料の質量は、8~10gとした。DSC装置において、室温(27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させた。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線を得た。
このとき、各試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点」とした。また、このとき、DSC曲線において、融解ピークとベースラインとで囲まれた領域の面積を求めることにより、「融解熱量」を求めた。
(2-2)低温脆化性
JISK7216に準拠して、内側試料を-25℃で衝撃具により衝撃を与えた(殴打した)。このときに割れの有無を目視で確認した。その結果、割れが無かった場合を「A(良好)」とし、割れが有った場合を「B(不良)」とした。
(2-3)引張弾性率
IT計測制御社製のDVA-200を用い、引張モードにて10℃/分の昇温速度で昇温する測定を、-50℃から200℃まで実施し、30℃で貯蔵弾性率を記録した。その結果、引張弾性率が1000MPa以下である場合を、良好として評価した。
(2-4)AC破壊強度
AC破壊強度は、交流破壊試験により求めた。具体的には、まず、0.5mm厚の内側試料を0.2mm厚に切り出した。その後、常温(27℃)において、0.2mm厚の内側試料に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加した。内側試料が絶縁破壊したときの電界強度を測定した。その結果、交流破壊強度が60kV/mm以上である場合を、良好として評価した。
(2-5)曲げ試験
内側試料を500mmの直径で折り曲げ、内側試料の白化を目視で確認した。その結果、白化していなかった場合を「A(良好)」とし、白化していた場合を「B(不良)」とした。
(2-6)水トリー耐性
水トリー耐性は、以下の試験により評価した。
具体的には、まず、絶縁層を桂剥きし、1mmの厚さを有するシートを2枚作製した。シートを作製したら、所定の半導電シートを2枚のシートで挟み、積層シートを形成した。積層シートを形成したら、半導電シートに対して配線を形成した。次に、積層シートを常温(27℃)の1規定NaCl水溶液中に浸漬した状態で、半導電シートと水溶液との間のシートに対して60Hz4kV/mmの交流電界を1000時間印加した。そして、所定の交流電界の印加後、積層シートを乾燥させ、メチレンブルー水溶液で積層シートを煮沸染色した。積層シートを染色したら、積層シートを積層方向(すなわち積層シートの主面直交方向)に沿って30μmの厚さでスライスし、観察用スライス片を形成した。その後、観察用スライス片を光学顕微鏡により観察することで、観察用スライス片のシートにおいて、半導電シートの沿面方向または半導電シートの主面直交方向に発生した水トリーを観察した。
このとき、シート中に発生した水トリーの最大長さを計測した。また、シート中に発生し30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度を計測した。なお、「水トリーの最大長さ」は、無作為に抽出した10個の観察用スライス片において最も長かった水トリーの長さを四捨五入して求め、また、「水トリーの発生個数濃度」は、無作為に抽出した10個の観察用スライス片における水トリーの発生個数濃度の平均値を四捨五入して求めた。
本実施例では、水トリーの最大長さが150μm未満である場合を、良好として評価した。また、30μm以上の長さを有する水トリーの発生個数濃度が150個/cm未満である場合を、良好として評価した。
なお、参考までに、従来の水トリー耐性の評価では、所定の樹脂組成物からなる絶縁層を有する電力ケーブルを作製し、電力ケーブルを水に浸漬させて、水トリーの評価を行っていた。このとき、電力ケーブルの絶縁層の外側には遮蔽層およびシースを設けていた。このため、絶縁層は直接水に接することがなかった。これに対し、本実施例では、上述のように、積層シートを所定の水溶液に直接浸漬させて、水トリーの評価を行った。このため、シートを水溶液に直接接触させた。したがって、本実施例における水トリー耐性の評価は、従来の電力ケーブルを用いた評価と比べて、厳しい条件で行ったことになる。
(3)評価結果
評価結果を表1にまとめる。
表1に示すように、サンプル1~3では、プロピレン系樹脂(A)、低結晶性樹脂(B)およびスチレン系樹脂(C)を所定の組成で混合することにより、絶縁層の厚さ方向で融解熱量や融点の差を小さくして、ケーブル諸特性を高い水準でバランスよく得られることが確認された。すなわち、低結晶性樹脂(B)として、EPRやVLDPEの種類によらず、所望のケーブル諸特性を得られることが確認された。
サンプル4~6によれば、スチレン系樹脂(C)として、スチレン含有量が5質量%から35質量%のものを用いることで、各成分を所定の比率で混合しながらも、成形体におけるスチレン総量を0.5質量%~8質量%に調整することができ、ケーブル諸特性を高い水準でバランスよく得られることが確認された。
サンプル7、8によれば、成形体における融点が158℃以上168℃以下、融解熱量が55J/g以上100J/g以下となるように、プロピレン系樹脂(A)、低結晶性樹脂(B)およびスチレン系樹脂(C)を所定の比率で混合することにより、ケーブル諸特性を高い水準でバランスよく得られることが確認された。
これに対して、サンプル9では、スチレン系樹脂(C)を添加せずに低結晶性樹脂(B)のみを添加することで、絶縁層の交流破壊強度が低いことが確認された。これは、低結晶性樹脂(B)を添加したことにより、絶縁層における結晶量が過度に少なくなったためと推測される。
また、サンプル10、11では、絶縁層の厚さ方向で結晶量を制御できずに結晶量のばらつきが大きくなったため、絶縁層の絶縁性や低温脆化性、引張弾性率、そして柔軟性などが低くなることが確認された。これは、樹脂組成物におけるスチレン総量が9.4質量%もしくは8.4質量%と過度に大きいためと推測される。
サンプル12では、プロピレン系樹脂(A)、低結晶性樹脂(B)およびスチレン系樹脂(C)を混合したものの、プロピレン系樹脂(A)の含有量が相対的に多くなるようにしたため、ある程度の絶縁性は得られるものの、絶縁層の低温脆化性や柔軟性が悪いことが確認された。逆に、サンプル13では、スチレン系樹脂(C)の含有量を増やして、プロピレン系樹脂(A)の含有量が相対的に少なくなるように混合したため、絶縁層全体として結晶量が少なく、所望の絶縁性を得られないことが確認された。
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
(付記1)
プロピレンおよびスチレンを含み、
融点は、158℃以上168℃以下であり、
融解熱量は、55J/g以上100J/g以下である、
樹脂組成物。
(付記2)
樹脂組成物から形成され、対象物に対して3mm以上の厚さで被覆される成形体であって、
プロピレンおよびスチレンを含み、
前記成形体の融点は、158℃以上168℃以下であり、
前記成形体の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
表面から前記対象物に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記対象物から前記表面に向けた位置が2.5mmである内側試料と、を採取したときに、
前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
樹脂組成物成形体。
(付記3)
付記2において、
架橋剤の残渣は、300ppm未満である。
(付記4)
付記2又は3において、
常温における交流破壊電界は、60kV/mm以上である。
(付記5)
付記2~4のいずれかにおいて、
前記外側試料および前記内側試料のそれぞれは、前記示差走査熱量測定を行ったDSC曲線において、100℃以上に単一の融解ピークのみを有する。
(付記6)
付記2~5のいずれかにおいて、
前記樹脂組成物は、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含み、
前記プロピレン系樹脂は、融解熱量が100J/g以上120J/g以下であり、融点が160℃以上175℃以下であり、
前記低結晶性樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうちの少なくとも2つを含む共重合体である。
(付記7)
付記6において、
前記樹脂組成物は、前記プロピレン系樹脂を55質量%以上85質量%以下、前記低結晶性樹脂を5質量%以上15質量%以下、前記スチレン系樹脂を5質量%以上35質量%以下、含む。
(付記8)
付記6または7において、
前記スチレン系樹脂は、スチレン含有量が5質量%以上35質量%以下である。
(付記9)
付記6~8のいずれかにおいて、
前記樹脂組成物におけるスチレン総量が0.5質量%以上8質量%以下である。
(付記10)
付記6~9のいずれかにおいて、
前記プロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体である。
(付記11)
導体と、
前記導体の外周に3mm以上の厚さで被覆された絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層は、プロピレンおよびスチレンを含み、
前記絶縁層の融点は、158℃以上168℃以下であり、
前記絶縁層の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
前記絶縁層の表面から前記導体に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記導体から前記表面に向けた位置が0.5mmである内側試料と、を採取したときに、
前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
電力ケーブル。
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース

Claims (7)

  1. 樹脂組成物から形成され、対象物に対して3mm以上の厚さで被覆される成形体であって、
    前記樹脂組成物は、プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含み、
    前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下、かつ融解熱量が100J/g以上120J/g以下であり、
    前記低結晶性樹脂は、融点を持たない、もしくは融点が100℃以下、かつ融解熱量が50J/g以下であるエチレンプロピレンゴムまたは超低密度ポリエチレンであり、
    前記プロピレン系樹脂を55質量%以上85質量%以下、前記低結晶性樹脂を5質量%以上15質量%以下、前記スチレン系樹脂を5質量%以上35質量%以下、含み、
    前記成形体の融点は、158℃以上168℃以下であり、
    前記成形体の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
    前記対象物とは反対の前記成形体の表面から前記対象物に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記対象物から前記対象物とは反対の前記成形体の表面に向けた位置が0.5mmである内側試料と、を採取したときに、
    前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
    前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
    樹脂組成物成形体。
  2. 常温における交流破壊電界は、60kV/mm以上である、
    請求項1に記載の樹脂組成物成形体。
  3. 前記外側試料および前記内側試料のそれぞれは、示差走査熱量測定を行ったDSC曲線において、100℃以上に単一の融解ピークのみを有する、
    請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物成形体。
  4. 前記スチレン系樹脂は、スチレン含有量が5質量%以上35質量%以下である、
    請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の樹脂組成物成形体。
  5. 前記樹脂組成物におけるスチレン総量が0.5質量%以上8質量%以下である、
    請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の樹脂組成物成形体。
  6. 前記プロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体である、
    請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物成形体。
  7. 導体と、
    樹脂組成物から形成され、前記導体の外周に3mm以上の厚さで被覆された絶縁層と、
    を備え、
    前記樹脂組成物は、
    プロピレン系樹脂、低結晶性樹脂およびスチレン系樹脂を含み、
    前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下、かつ融解熱量が100J/g以上120J/g以下であり、
    前記低結晶性樹脂は、融点を持たない、もしくは融点が100℃以下、かつ融解熱量が50J/g以下であるエチレンプロピレンゴムまたは超低密度ポリエチレンであり、
    前記プロピレン系樹脂を55質量%以上85質量%以下、前記低結晶性樹脂を5質量%以上15質量%以下、前記スチレン系樹脂を5質量%以上35質量%以下、含み、
    前記絶縁層の融点は、158℃以上168℃以下であり、
    前記絶縁層の融解熱量は、55J/g以上100J/g以下であり、
    前記絶縁層の表面から前記導体に向けた位置が0.5mmである外側試料と、前記導体から前記表面に向けた位置が0.5mmである内側試料と、を採取したときに、
    前記内側試料の融点から前記外側試料の融点を引いた差の絶対値は、8℃以下であり、
    前記内側試料の融解熱量から前記外側試料の融解熱量を引いた差の絶対値は、10J/g以下である、
    電力ケーブル。
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