JP7356114B2 - ヒトノロウイルスの増殖 - Google Patents
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Description
一方で、腸管上皮幹細胞マーカーの同定を皮切りとして、ヒトの腸管上皮細胞の初代培養が可能になり、2016年に、このヒト小腸組織検体由来の腸管上皮細胞を用いることで、GII.4型のHuNoVが増殖し得ることが報告された(非特許文献2および特許文献1)。しかし、GII.4以外の型(GI.1, GII.3, GII.17)については、胆汁で処理した細胞でしか増殖させることはできなかった。
本発明は上記知見に基づいて完成されてものである。
(1)HuNoVを増殖させる方法であって、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞にHuNoVを感染させる工程および該腸管上皮細胞を培養する工程を含む、前記方法。
(2)前記ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を胆汁で処理しないことを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)前記ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞が単層を形成していることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞が、パーミアブルサポート上で培養されることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5)以下(a)および(b)の工程を含む、HuNoVの増殖阻害物質のスクリーニング方法。
(a)ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞にHuNoVを感染させる工程および、
(b)ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞またはHuNoVと、候補物質を接触させる工程
(6)以下の(c)の工程をさらに含む上記(5)に記載のスクリーニング方法。
(c)候補物質を接触させたヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞中におけるHuNoVの増殖量を測定する工程
(7)前記ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を胆汁で処理しないことを特徴とする上記(5)または(6)に記載のスクリーニング方法。
第1の実施形態における増殖の対象となるHuNoVは、カリシウイルス科に属し、ヒトに感染するノロウイルスの遺伝子型を有するウイルスであれば、いかなるものであってもよく、今後出現する新規遺伝子型のウイルスも含まれる。当該HuNoVの型として、限定はしないが、例えば、GI.2、GI.3、GI.4、GI.6、GI.7、GII.2、GII.3、GII.4、GII.6、GII.14、GII.17など、好ましくは、GI.1、GI.7、GII.2、GII.3、GII.4、GII.6、GII.17、さらに好ましくは、GI.7、GII.3、GII.4、GII.6、GII.17およびこれらのバリアントを挙げることができる。
上記パーミアブルサポートは、多孔性メンブレンを有するインサートとこれを挿入して培養するための培養容器(ウェル)から構成されており、市販品(例えば、Corning International 社、Thermo Scientific社など)を入手して使用することができる。
ウイルス感染の前に、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を単層化することが望ましい。腸管上皮細胞の単層化は、例えば、Takahashiら, EBioMedicine 23:34-45 2017、非特許文献2および特許文献1などに記載されている方法を参照して実施してもよい。また、腸管上皮細胞へのウイルスの感染は、例えば、非特許文献2および特許文献1などに記載されている方法に従って行うことができる。ここで、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を単層化する場合、細胞外マトリクス(例えば、前出のMatrigelやType Iコラーゲン(Nitta Gelatin社)など)でコーティングしたプラスティックディッシュまたはパーミアブルサポート上で単層化してもよく、パーミアブルサポート上での単層化がより好ましい。
(a)ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞にHuNoVを感染させる工程および、
(b)ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞またはHuNoVと候補物質を接触させる工程
ウイルスの腸管上皮細胞への侵入を阻害することで、ウイルスの増殖を阻害する物質をスクリーニングする場合には、必ずしも、複製能を有するウイルス粒子を用いる必要はなく、例えば、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞にウイルス様粒子(virus like particle:VLP)を侵入させることでもよい。これに対し、ウイルスの腸管上皮細胞内での複製を阻害する物質をスクリーニングする場合には、細胞への侵入および細胞内での複製能を有するウイルス粒子を用いる方が望ましい。
VLPおよびウイルス粒子の細胞内への侵入は、VLPおよびウイルス粒子を免疫染色等して、蛍光顕微鏡等で確認することができる。
また、前述のように、スクリーニングの結果を正しく評価するためには、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を胆汁で処理しない方が好ましい。
(c)候補物質を接触させたヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞中におけるHuNoVの複製量を測定する工程
工程(c)は、工程(a)および(b)の後の工程で、候補物質のウイルス侵入・複製に対する影響を調べる工程である。
腸管上皮細胞内におけるノロウイルスの複製量は、当業者において周知の方法に基づいて、ウイルス粒子数をゲノムコピー数として測定し、調べることができる。例えば、感染後の培養上清または腸管上皮細胞、もしくはその両者からRNAを抽出し、リアルタイムPCR法でノロウイルスゲノムコピー数を検出し、当該サンプル中に存在していたノロウイルスの粒子数をゲノムコピー数に基づいて概算することができる。測定したノロウイルスのコピー数をコントロール(例えば、感染後短時間で測定したウイルス数)と比較して、ノロウイルスの複製の有無および複製の程度を評価することができる。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
1-1.細胞
腸管上皮細胞の誘導には、国立大学法人東京大学医科学研究所・ステムセルバンクから入手したヒトiPS細胞株、TkDN4-M株(Oct3/4、Sox2、Klf4を導入;Takayamaら, J. Exp. Med., 207:2817-2830 2010)を使用した。細胞は、TCプロテクター(DSファーマバイオメディカル社)に懸濁し、-80℃で保存していたものを融解し、復元培養して用いた。
ヒトiPS細胞は、Essential 8 medium(Thermo Fisher Scientific社:#A1517001)中、フィーダー細胞フリーの条件でビトロネクチン(Thermo Fisher Scientific社:#A14700)コートしたプレート上で、コロニーの状態で維持した。細胞は、コンフルエントになる前に、3、4日毎に継代した。
オルガノイドは、すでに報告されているプロトコール(McCracken et al., Nat. Prot. 6:1920, 2011)に若干の変更を加えた方法により、ヒトiPS細胞(クローン:TkDN4-M)から分化誘導させた。hESC-qualified Matrigel(Becton Dickinson社:#354277)でコートしたプレート上に、80-90%程度コンフルエントになるように培養したiPS細胞を、DE1培地(表1)中で24時間培養した後、DE2培地(表1)中で24時間、さらに、DE3培地(表1)中で24時間培養し、胚体内胚葉(definitive endoderm:DE)に分化させた。
中腸-後腸については、DE細胞(胚体内胚葉細胞)を中腸、後腸分化用培地中(表1)4日間培養した。
浮遊してきたスフェロイドを回収し、腸成長用培地(表1)中、Matrigel(Becton Dickinson社:#354232)内で、2、3日毎に培地交換をしながら14日間、3次元培養を行った。得られたオルガノイドは、下記1-6に記載の通り、Takahashiらの方法(Takahashiら, Stem Cell Reports 10:314-328 2018)に従って、数回継代した後、回収した。
オルガノイドは、2~3×104/50 μL Matrigel(=10 μL培養用培地(表1)(+10 μM Y-27632(和光純薬工業:#253-00513))+40 μL Matrigel)/ウェルで継代してから5~7日後に、4-well分から細胞を回収した。培地をアスピレーションで除去後、1 mL/ウェルのD-PBS (-)で1度洗浄した。0.5 mL/ウェルの10 μM Y-27632を含むTyrpLE Express(Thermo Fisher Scientific社:#12605010)を加え、マイクロピペットでMatrigelごと細胞塊を回収し、15 mL チューブに移した。その後の処置効率化のため、1本の15 mL チューブには、4-ウェル分(約2 mL)を最大量とした。チューブの蓋を閉めた後、37℃の水浴で5分間インキュベートした。クリーンベンチ内で蓋を開け、マイクロピペットを用いて細胞塊を破砕した。細胞懸濁液を、メッシュを通してステムフル15 mL チューブ(住友ベークライト:#MS-90150)に移した。この状態の懸濁液を数マイクロリットル取り、細胞数計数に用いた。残りの細胞懸濁液に、10% FBS/基本培地(表1)を適量加え、TrypLE Expressの酵素反応を停止した後、遠心(400 g、25℃、5分)により細胞を沈殿させた。沈殿した細胞を2~3×106/mLになるように培養用培地(+10 μM Y-27632)で懸濁した。40 μLを1.5 mL チューブに取り、氷上で数分間冷却した。ここに160 μLのMatrigelを加え、ピペッティングにより懸濁し、そこから50 μL/ウェルの量を、24-ウェルプレートに添加した(2~3×104/50 μL Matrigel/ウェル)。プレートを37℃、5% CO2インキュベーターに10分間静置し、Matrigelを固化させた。培養用培地(+10 μM Y-27632)を500 μL/ウェルで加え、37℃、5% CO2インキュベーターで2日間培養し、Y-27632を含まない培養用培地に培地交換した。
2~3×104/50 μL Matrigel/ウェルで継代してから5~7日後に、4-ウェル分から細胞を回収する。培地をアスピレーションで除去後、1 mL/ウェルのD-PBS (-)で1度洗浄した。0.5 mL/ウェルのTyrpLE Express(+10 μM Y-27632)を加え、マイクロピペットでMatrigelごと細胞塊を回収し、15 mLチューブに移した。その後の処置効率化のため、1本の15 mL チューブには、4-ウェル分(約2 mL)を最大量とした。チューブの蓋を閉めた後、37℃の水浴で5分間インキュベートした。クリーンベンチ内で蓋を開け、マイクロピペットを用いて細胞塊を破砕した。細胞懸濁液をメッシュを通してステムフル15 mL チューブに移した。この状態の懸濁液を数マイクロリットル取り、細胞数計数に用いた。残りの細胞懸濁液に、10% FBS/基本培地を適量加え、TrypLE Expressの酵素反応を停止した後、遠心(400 g、25℃、5分)により細胞を沈殿させた。沈殿した細胞を1~4×105/mLになるように培養用培地(+10 μM Y-27632)で懸濁した。
播種の24時間後に培地を分化用培地(表1)に置換した。
さらに48時間後、培地を0.015~0.03% ブタ胆汁(SIGMA社)添加または非添加の分化用培地に置換した。
その後、さらに48時間後にHuNoVの感染を開始した。
2~3×104/50 μL Matrigel/ウェルで継代してから5~7日後に、細胞を回収した。培地をアスピレーションで除去後、1 mL/ウェルのD-PBS (-)で1度洗浄した。0.5 mL/ウェルのTyrpLE Express(+10 μM Y-27632)を加え、マイクロピペットでMatrigelごと細胞塊を回収し、15 mL チューブに移した。その後の処置効率化のため、1本の15 mL チューブには、4-ウェル分(約2 mL)を最大量とした。チューブの蓋を閉めた後、37℃の水浴で5分間インキュベートした。クリーンベンチ内で蓋を開け、マイクロピペットを用いて細胞塊を破砕した。10% FBS/基本培地を適量加え、TrypLE Expressの酵素反応を停止した後、遠心(400 g、25℃、5分)により細胞を沈殿させた。沈殿した細胞を、回収に用いた細胞1-ウェル分につき2 mL(4-ウェル分から回収した場合8 mL)のCELLBANKER-1(タカラバイオ: #TKR-CB011)(+10 μM Y-27632)で懸濁し、1 mLずつクライオチューブに分注し、速やかに-80℃で保存した。
本実施例で使用したHuNoVは、大阪健康安全基盤研究所から入手した。
具体的には、HuNoVに感染した患者の糞便を100 mg/mlになるようにPBSに懸濁して、0.22 μMのFilterを通して滅菌、不純物除去を行ってウイルス原液とした。
公定法に基づいたリアルタイムPCRを用いて原液中のウイルスのゲノムコピー数を算定し、1-ウェル(0.32 mm2)あたり1~2×106コピーのウイルスを上記1-7で調製した単層化腸管上皮細胞に、基本培地(胆汁非添加)中にて3時間感染させた。
なお、後述する実験結果において、胆汁(+)の条件とは、上記1-7に記載の感染前2日から0.015~0.03 %ブタ胆汁を添加した分化用培地で培養後、血清および胆汁非添加の分化用培地に変えてHuNoVを感染させ、3時間培養後、洗浄し、0.015~0.03 %胆汁を添加した分化用培地でさらに培養した。一方、胆汁(-)の条件では、胆汁を一切添加せずに、上記の工程を行った。
2-1.iPS由来単層化腸管上皮細胞
Transwell 上に単層化したiPS細胞由来腸管上皮細胞を、メンブレンごと4%パラホルムアルデヒドで固定し、OCTコンパウンドに埋め込み凍結させ、約7 μMの凍結切片を作製した。作製した凍結切片に対し、抗Villin1抗体、抗E-カドヘリン抗体、ローダミン標識UEA1、Alexa633標識ファロイジン等を反応させ、必要に応じ適切な蛍光標識2次抗体を反応させて免疫組織染色用サンプルとした。サンプルをスライドグラスとカバーガラス間に封入するときに、核染色に用いるDAPIを含んだ試薬(ProLongTM Diamond Antifade Mountant with DAPI, Thermo Fisher Scientifi, #P36962)を用いた。調製したサンプルを蛍光顕微鏡ないしは共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察を行った。
図1のiPS細胞由来ヒト腸管上皮細胞は、Transwell上で極性を持たせ単層化したもので、Villin1(Villin1は吸収上皮細胞のマーカー)が管腔側で発現していることが確認できた(図1左)。また、E-cadherinの染色像も確認でき、タイトジャンクションがきちんと形成されていることも確認できた(図1)。HuNoVの感染には、血液型抗原(HBGA)が必要と考えられている。最も代表的なものがα1,2フコースで、ヒトではFUT2によって修飾される糖鎖である。この糖鎖はレクチンの一種であるUEA1で検出できる。上記1-7に記載したTranswell上のiPS由来単層化腸管上皮細胞においても、血液型抗原が十分に発現していることがUEA1染色により明らかになった(図1右)。
生きたHuNoVを感染させる前に、ゲノムを持たないVLPを用いて、ここで作製した腸管上皮細胞にVLPが侵入できるかどうかを検討した。
GII.4型のVLPは既報に基づいて調製した。上記1-7に記載したTranswell上の単層化腸管上皮細胞に、VLP 300 ngを添加し、CO2インキュベーター内で3時間静置した。基本培地で2度洗浄後、上記2-1に記載したように切片を調製し、抗Villin1抗体、抗GII.4 VLP抗体およびAlexa633標識ファロイジンを用いて、染色した。
図2に示すように、GII.4 VLPが腸管上皮細胞内に侵入していることが確認できた。
これまでに、ヒト小腸組織検体由来の腸管上皮細胞へのHuNoV(少なくとも、GII.3、GII.17およびGI.1)の感染には、当該腸管上皮細胞を胆汁で処理する必要があった(非特許文献2および特許文献1)。そこで、iPS細胞由来腸管上皮細胞に対するHuNoVの感染についても、細胞を胆汁処理する必要があるかどうかの検討を行った。
GII.4(17-53株および17-231株)については、胆汁非処理の条件で、感染後72時間の細胞内のウイルスコピー数が、感染後3時間のウイルスコピー数の約140倍~440倍程度(17-53株が約143倍、17-231株が約430倍)に増加しており(図3)、iPS細胞由来腸管上皮細胞では、胆汁非処理であっても、ウイルスが感染し増殖可能であることが確認された。
また、GII.3、GII.17、GII.6およびGI.7についても、同様に、胆汁非処理のiPS細胞由来腸管上皮細胞に感染し増殖可能であることが確認された(図4、図5、図6および図7)。感染後3時間の細胞内のウイルスコピー数と比べて、感染後72時間の細胞内のウイルスコピー数が、GII.3(16-50株)では約16倍に(図4)、GII.17(16-421株)では約28.0倍(図5)、GII.6(16B27株)では約16倍に(図6)、GI.7(18-36株)では約3.0倍(図7)、に増加していた。
Claims (5)
- ヒトノロウイルス(HuNoV)を増殖させる方法であって、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞にHuNoVを感染させる工程および該腸管上皮細胞を培養する工程を含み、当該ヒトノロウイルスの遺伝子型がGII.3、GII.17、GII.6またはGI.7であり、当該ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を胆汁で処理しないことを特徴とする、前記方法。
- 前記ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞が単層を形成していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞が、パーミアブルサポート上で培養されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
- HuNoVの増殖阻害物質のスクリーニング方法であって、当該HuNoVの遺伝子型がGII.3、GII.17、GII.6またはGI.7であり、以下の(a)および(b)の工程を含み、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞を胆汁で処理しないことを特徴とする、前記方法。
(a)ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞にHuNoVを感染させる工程および、
(b)ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞またはHuNoVと、候補物質を接触させる工程 - 以下の(c)の工程をさらに含む請求項4に記載のスクリーニング方法。
(c)候補物質を接触させたヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞中におけるHuNoVの増殖量を測定する工程
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