JP7343538B2 - 炭素繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、炭素繊維及びその製造方法に関する。
炭素繊維の製造方法としては、従来から、ポリアクリロニトリルを紡糸して得られる炭素繊維前駆体に耐炎化処理を施した後、炭化処理を施す方法が主として採用されている(例えば、特公昭37-4405号公報(特許文献1)、特開2015-74844号公報(特許文献2)、特開2016-40419号公報(特許文献3)、特開2016-113726号公報(特許文献4))。この方法に用いられるポリアクリロニトリルは安価な汎用溶媒に溶解しにくいため、重合や紡糸の際に、ジメチルスルホキシドやN,N-ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
また、特開2013-103992号公報(特許文献5)には、アクリロニトリル単位96~97.5質量部と、アクリルアミド単位2.5~4質量部と、カルボン酸含有ビニルモノマー0.01~0.5質量部とからなるポリアクリロニトリル系共重合体からなる炭素材料前駆体繊維が記載されている。このポリアクリロニトリル系共重合体は、ポリマーの水溶性に寄与するアクリルアミド単位やカルボン酸含有ビニルモノマー単位を含有するものの、これらの含有量が少ないため、水には不溶であり、重合や成形加工(紡糸)の際に、N,N-ジメチルアセトアミド等の高価な溶媒を使用する必要があり、炭素繊維の製造コストが高くなるという問題があった。
さらに、ポリアクリロニトリルやその共重合体に加熱処理を施すと、急激な発熱が起こり、ポリアクリロニトリルやその共重合体の熱分解が加速されるため、炭素材料(炭素繊維)の収率が低くなるという問題があった。このため、ポリアクリロニトリルやその共重合体を用いて炭素材料(炭素繊維)を製造する場合には、耐炎化処理や炭化処理の昇温過程において、急激な発熱が発生しないように、長時間をかけて徐々に昇温する必要があった。
一方、アクリルアミド単位を多く含有するアクリルアミド系ポリマーは水溶性のポリマーであり、重合や成形加工(フィルム化、シート化、紡糸等)の際に、安価で環境負荷の小さい水を溶媒として使用することができるため、炭素材料の製造コストの削減が期待される。例えば、特開2018-90791号公報(特許文献6)には、アクリルアミド系ポリマーと、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有する炭素材料前駆体組成物、及びそれを用いた炭素材料の製造方法が記載されている。また、特開2019-26827号公報(特許文献7)には、アクリルアミド系モノマー単位50~99.9モル%とシアン化ビニル系モノマー単位0.1~50モル%とを含有するアクリルアミド/シアン化ビニル系共重合体からなる炭素材料前駆体、及びこの炭素材料前駆体と、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分とを含有する炭素材料前駆体組成物、並びに、これらを用いた炭素材料の製造方法が記載されている。
また、特開2012-82541号公報(特許文献8)には、ポリアクリロニトリル系繊維を空気中において耐炎化する耐炎化工程と、前記耐炎化工程で得られた繊維を不活性雰囲気中において予備炭化する予備炭化工程と、前記予備炭化工程で得られた繊維を不活性雰囲気中において炭化する炭化工程とからなる炭素繊維の製造方法が記載されており、前記炭化工程において、繊維に4.0~35.0mN/dtexの張力を付与することによって、引張弾性率に優れた炭素繊維が得られることも記載されている。
さらに、特開2019-202924号公報(特許文献9)には、炭素材料前駆体の耐炎化反応において水蒸気の発生が促進される温度域と前記炭素材料前駆体の部分酸化反応において水蒸気の発生が促進される温度域との間の温度域において、前記耐炎化反応における水蒸気の発生が完結し、前記部分酸化反応における水蒸気の発生が抑制されるように、加熱装置内の水蒸気濃度を指標として前記加熱装置内の温度をフィードバック制御する温度制御工程を含む炭素材料前駆体の耐炎化処理方法が記載されており、この方法によって得られる耐炎化物に不活性ガス雰囲気下、1100℃以上の温度下で炭化処理を施すことによって、その表面のラマンスペクトルにおいてグラファイト構造に由来するGバンド(波数:1590cm-1付近)と欠陥構造に由来するDバンド(波数:1350cm-1付近)のピーク強度比〔I(G)/I(D)〕が1.0以上の炭素材料が得られることも記載されている。
特公昭37-4405号公報 特開2015-74844号公報 特開2016-40419号公報 特開2016-113726号公報 特開2013-103992号公報 特開2018-90791号公報 特開2019-26827号公報 特開2012-82541号公報 特開2019-202924号公報
しかしながら、従来の炭素繊維の製造方法では、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に炭化処理を施したり、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に予備炭化処理を施した後、炭化処理を施したりしても、得られる炭素繊維においては、引張強度が必ずしも十分に高いものではなかった。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた引張強度を有する炭素繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、所定の張力を付与しながら予備炭化処理を施した後、炭化処理を施すことによって、得られる炭素繊維については、その単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が少なくなることを見出し、さらに、この炭素繊維が引張強度に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の炭素繊維は、アクリルアミド系ポリマー繊維に由来する炭素繊維であって、前記アクリルアミド系ポリマーが、50mol%以上のアクリルアミド系モノマーと50mol%以下の他の重合性モノマーとの共重合体であり、前記他の重合性モノマーが、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、並びに不飽和カルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種であり、単繊維の平均繊維径が3~10μmの範囲内にあり、単繊維の繊維軸方向に垂直な断面におけるラマンスペクトルの1590cm-1付近のグラファイト構造に由来するGピークに対する1360cm-1付近のグラファイト構造の欠陥に由来するDピークの強度比(D/G)の平均値が、前記単繊維の断面の重心を中心とした直径1μmの円内の領域において0.90以下であり、前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域において0.90以下であることを特徴とするものである。
本発明の炭素繊維においては、前記D/Gの平均値が、前記単繊維の断面の重心を中心とした直径1μmの円内の領域において0.85以下であり、前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域において0.85以下であることが好ましい。
また、本発明の炭素繊維の製造方法は、アクリルアミド系ポリマー繊維からなる、単繊維の平均繊維径が3~80μmの炭素繊維前駆体繊維に加熱処理を施して、単繊維の平均繊維径が3~50μmの耐炎化繊維を得る耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、0.05~4mN/dtexの範囲内の張力を付与しながら、300~1000℃の範囲内の温度で加熱処理を施して予備炭化繊維を得る予備炭化処理工程と、前記予備炭化繊維に加熱処理を施して、単繊維の平均繊維径が3~10μmの炭素繊維を得る炭化処理工程とを含むことを特徴とする方法である。
前記予備炭化処理工程においては、前記耐炎化繊維に付与する張力が0.15~1.5mN/dtexの範囲内にあることが好ましい。
本発明によれば、優れた引張強度を有する炭素繊維を得ることが可能となる。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の炭素材料は、単繊維の平均繊維径が3~10μmの範囲内にあり、単繊維の繊維軸方向に垂直な断面におけるラマンスペクトルの1590cm-1付近のグラファイト構造に由来するGピークに対する1360cm-1付近のグラファイト構造の欠陥に由来するDピークの強度比(D/G)の平均値が、前記単繊維の断面の重心を中心とした直径1μmの円内の領域(中心部)において0.90以下であり、前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域(表層部)において0.90以下である炭素繊維である。
また、本発明の炭素繊維の製造方法は、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、0.05~4mN/dtexの範囲内の張力を付与しながら、300~1000℃の範囲内の温度で加熱処理を施して予備炭化繊維を得る予備炭化処理工程と、前記予備炭化繊維に加熱処理を施して炭素繊維を得る炭化処理工程とを含む方法である。
〔炭素繊維の製造方法〕
先ず、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー繊維、及びアクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維について説明する。
(アクリルアミド系ポリマー)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーとしては、アクリルアミド系モノマーの単独重合体であっても、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体であってもよいが、炭素繊維の引張強度が向上し、また、炭化収率が向上するという観点から、アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体が好ましい。
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体におけるアクリルアミド系モノマー単位の含有量の下限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点から、40mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、55mol%以上が更に好ましく、60mol%以上が特に好ましい。また、アクリルアミド系モノマー単位の含有量の上限としては、炭素繊維の引張強度が向上し、また、炭化収率が向上するという観点から、99.9mol%以下が好ましく、99mol%以下がより好ましく、95mol%以下が更に好ましく、90mol%以下が特に好ましく、85mol%以下が最も好ましい。
前記アクリルアミド系モノマーと他の重合性モノマーとの共重合体における他の重合性モノマー単位の含有量の下限としては、炭素繊維の引張強度が向上し、また、炭化収率が向上するという観点から、0.1mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましく、5mol%以上が更に好ましく、10mol%以上が特に好ましく、15mol%以上が最も好ましい。また、他の重合性モノマー単位の含有量の上限としては、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点から、60mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましく、45mol%以下が更に好ましく、40mol%以下が特に好ましい。
前記アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-n-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N-シクロヘキシルアクリルアミド等のN-シクロアルキルアクリルアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド;ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルアクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド等のヒドロキシアルキルアクリルアミド;N-フェニルアクリルアミド等のN-アリールアクリルアミド;ジアセトンアクリルアミド;N,N’-メチレンビスアクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスアクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-n-ブチルメタクリルアミド、N-tert-ブチルメタクリルアミド等のN-アルキルメタクリルアミド;N-シクロヘキシルメタクリルアミド等のN-シクロアルキルメタクリルアミド;N,N-ジメチルメタクリルアミド等のジアルキルメタクリルアミド;ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド;N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のヒドロキシアルキルメタクリルアミド;N-フェニルメタクリルアミド等のN-アリールメタクリルアミド;ジアセトンメタクリルアミド;N,N’-メチレンビスメタクリルアミド等のN,N’-アルキレンビスメタクリルアミドが挙げられる。これらのアクリルアミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのアクリルアミド系モノマーの中でも、水性溶媒又は水系混合溶媒への溶解性が高いという観点から、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド、ジアルキルアクリルアミド、メタクリルアミド、N-アルキルメタクリルアミド、ジアルキルメタクリルアミドが好ましく、アクリルアミドが特に好ましい。
前記他の重合性モノマーとしては、例えば、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、ビニル系モノマー、オレフィン系モノマーが挙げられる。前記シアン化ビニル系モノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2-ヒドロキシエチルアクリロニトリル、クロロアクリロニトリル、クロロメタクリロニトリル、メトキシアクリロニトリル、メトキシメタクリロニトリル等が挙げられる。前記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸の塩としては、前記不飽和カルボン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸無水物としては、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物等が挙げられ、前記不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられ、前記ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系モノマー、塩化ビニル、ビニルアルコール等が挙げられ、前記オレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。これらの他の重合性モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの他の重合性モノマーの中でも、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性及び炭化収率が向上するという観点からは、シアン化ビニル系モノマーが好ましく、アクリロニトリルが特に好ましく、前記共重合体の水性溶媒又は水系混合溶媒に対する可溶性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸及びその塩が好ましく、耐炎化処理時の単繊維同士の融着防止性が向上するという観点からは、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物が好ましく、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸無水物がより好ましい。
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の上限としては、特に制限はないが、通常500万以下であり、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性が向上するという観点から、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、50万以下が更に好ましく、30万以下がまた更に好ましく、20万以下が特に好ましく、13万以下がまた特に好ましく、10万以下が最も好ましい。また、アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量の下限としては、特に制限はないが、通常1万以上であり、アクリルアミド系ポリマー繊維、耐炎化繊維及び炭素繊維の強度が向上するという観点から、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、4万以上が特に好ましい。なお、前記アクリルアミド系ポリマーの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定されるものである。
また、本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマーは、水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒)及び水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)のうちの少なくとも一方に可溶なものであることが好ましい。これにより、アクリルアミド系ポリマーを紡糸する際には、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素繊維を製造することが可能となる。また、前記アクリルアミド系ポリマーに後述する添加成分を配合する場合に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと後述する添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。なお、前記水系混合溶媒中の有機溶媒の含有量としては、前記水性溶媒に不溶又は難溶な前記アクリルアミド系ポリマーが有機溶媒を混合することによって溶解する量であれば特に制限はない。また、このようなアクリルアミド系ポリマーの中でも、より低コストで安全に炭素繊維を製造することが可能となるという観点から、前記水性溶媒に可溶なアクリルアミド系ポリマーが好ましく、水に可溶な(水溶性の)アクリルアミド系ポリマーがより好ましい。
このようなアクリルアミド系ポリマーを合成する方法としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合等の公知の重合反応を、溶液重合、懸濁重合、沈殿重合、分散重合、乳化重合(例えば、逆相乳化重合)等の重合方法によって行う方法を採用することができる。前記重合反応の中でも、前記アクリルアミド系ポリマーを低コストで製造できるという観点から、ラジカル重合が好ましい。また、溶液重合を採用する場合、溶媒としては、原料のモノマー及び得られるアクリルアミド系ポリマーが溶解するものを使用することが好ましく、低コストで安全に製造できるという観点から、前記水性溶媒(水、アルコール等、及びこれらの混合溶媒等)又は前記水系混合溶媒(前記水性溶媒と有機溶媒(テトラヒドロフラン等)との混合溶媒)を使用することがより好ましく、前記水性溶媒を使用することが特に好ましく、水を使用することが最も好ましい。
前記ラジカル重合においては、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の従来公知のラジカル重合開始剤を使用することができるが、溶媒として前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を使用する場合には、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒(好ましくは前記水性溶媒、より好ましくは水)に可溶なラジカル重合開始剤が好ましい。また、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性の向上と、前記アクリルアミド系ポリマーの前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、前記重合開始剤に代えて又は加えて、テトラメチルエチレンジアミン等の従来公知の重合促進剤やn-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン等の分子量調節剤を用いることが好ましく、前記重合開始剤と前記重合促進剤とを併用することが好ましく、過硫酸アンモニウムとテトラメチルエチレンジアミンとを併用することが特に好ましい。
重合開始剤を添加する際の温度としては特に制限はないが、アクリルアミド系ポリマーの紡糸性の向上という観点から、25℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましく、45℃以上が特に好ましく、50℃以上が最も好ましい。また、前記重合反応の温度としては特に制限はないが、前記アクリルアミド系ポリマーの前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に対する溶解性の向上という観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が最も好ましい。
(アクリルアミド系ポリマー繊維)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマー繊維は、前記アクリルアミド系ポリマーからなるものであり、酸等の添加成分を配合せずに、そのまま炭素繊維の製造に使用することが可能であるが、脱水反応や脱アンモニア反応による環状構造の形成が加速し、また、多環が連続した構造の形成が加速して耐炎化繊維の引張弾性率が向上するため、耐炎化処理時の単繊維同士の融着が抑制され、さらに、耐炎化繊維の強度が向上するため、予備炭化処理時により大きい張力を付与することが可能となり、その結果、得られる炭素繊維においては、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が少なくなり、引張強度が更に向上するという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー繊維には、前記アクリルアミド系ポリマーに加えて、酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種の添加成分が含まれていることが好ましい。また、前記添加成分を含むアクリルアミド系ポリマー繊維に張力を付与しながら耐炎化処理を施すことによって、脱水反応や脱アンモニア反応による環状構造の形成が加速し、さらに、多環が連続した構造の形成が加速し、高温での耐荷重性に優れ、高い強度、高い弾性率及び高い炭化収率を有する耐炎化繊維が得られるため、この耐炎化繊維には、予備炭化処理時に繊維の切断を防止しながら、所定の張力を付与することが可能となり、その結果、得られる炭素繊維においては、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が更に少なくなり、引張強度がまた更に向上する。なお、耐炎化繊維及び炭素繊維には、前記添加成分及びその残渣の少なくとも一部が残存していてもよい。また、耐炎化繊維に前記添加成分を加えて予備炭化処理及び炭化処理を行ってもよい。
このような添加成分の含有量としては、耐炎化処理時の単繊維同士の融着が抑制され、また、耐炎化繊維の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が向上し、さらに、炭素繊維の引張強度が向上するという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー100質量部に対して0.05~100質量部が好ましく、0.1~50質量部がより好ましく、0.3~30質量部が更に好ましく、0.5~20質量部が特に好ましく、1.0~10質量部が最も好ましい。
前記酸としては、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、硝酸、炭酸、塩酸等の無機酸、シュウ酸、クエン酸、スルホン酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。また、このような酸の塩としては、金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、アンモニウム塩、アミン塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。特に、これらの添加成分のうち、耐炎化繊維の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が向上し、さらに、炭素繊維の引張強度が向上するという観点から、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸、ポリホウ酸、硫酸、及びこれらのアンモニウム塩が好ましく、リン酸、ポリリン酸、及びこれらのアンモニウム塩が特に好ましい。
また、前記アクリルアミド系ポリマー繊維においては、前記添加成分のほか、本発明の効果を損なわない範囲内において、塩化ナトリウム、塩化亜鉛等の塩化物、水酸化ナトリウム等の水酸化物、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン等の各種フィラーが含まれていてもよい。
前記添加成分は、前記水性溶媒及び前記水系混合溶媒のうちの少なくとも一方(より好ましくは前記水性溶媒、特に好ましくは水)に可溶なものであることが好ましい。これにより、アクリルアミド系ポリマー繊維を製造する際に、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた湿式混合が可能となり、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一かつ低コストで安全に混合することが可能となる。また、前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒を用いた乾式紡糸、乾湿式紡糸、湿式紡糸、又はエレクトロスピニングが可能となり、低コストで安全に炭素材料を製造することが可能となる。
このようなアクリルアミド系ポリマー繊維は以下のようにして作製(製造)することができる。先ず、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを含有するアクリルアミド系ポリマー組成物を紡糸する。このとき、溶融状態の前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を用いて溶融紡糸、スパンボンド、メルトブロー、遠心紡糸してもよいが、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、紡糸性が高まるという観点から、前記アクリルアミド系ポリマー又は前記アクリルアミド系ポリマー組成物を前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に溶解し、得られた水性溶液又は水系混合溶液を用いて紡糸すること、或いは、前述の重合後のアクリルアミド系ポリマーの溶液又は後述する湿式混合で得られるアクリルアミド系ポリマー組成物の溶液をそのまま若しくは所望の濃度に調整した後、紡糸することが好ましい。このような紡糸方法としては、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸、ゲル紡糸、フラッシュ紡糸、又はエレクトロスピニングが好ましい。これにより、所望の繊度及び平均繊維径を有するアクリルアミド系ポリマー繊維を低コストで安全に作製(製造)することができる。また、より低コストで安全にアクリルアミド系ポリマー繊維を製造することができるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することがより好ましく、水を使用することが特に好ましい。
また、前記水性溶液又は前記水系混合溶液における前記アクリルアミド系ポリマーの濃度としては特に制限はないが、生産性向上とコスト低減の観点から、20質量%以上の高濃度が好ましい。なお、前記アクリルアミド系ポリマーの濃度が高くなりすぎると、前記水性溶液又は前記水系混合溶液の粘度が高くなり、紡糸性が低下するため、前記水性溶液又は前記水系混合溶液の濃度を、粘度を指標として、紡糸が可能な濃度に調整することが好ましい。
前記アクリルアミド系ポリマー組成物を製造する方法としては、溶融状態の前記アクリルアミド系ポリマーに前記添加成分を直接混合する方法(溶融混合)、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とをドライブレンドする方法(乾式混合)、前記添加成分を含有する水性溶液又は水系混合溶液、或いは前記アクリルアミド系ポリマーは完全溶解していないが前記添加成分は溶解している溶液に繊維状に成形した前記アクリルアミド系ポリマーを浸漬したり、通過させたりする方法等を採用することも可能であるが、使用する前記アクリルアミド系ポリマー及び前記添加成分が前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒に可溶な場合には、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを均一に混合することができるという観点から、前記アクリルアミド系ポリマーと前記添加成分とを前記水性溶媒又は前記水系混合溶媒中で混合する方法(湿式混合)が好ましい。また、湿式混合としては、前記アクリルアミド系ポリマーの合成に際し、前述の重合を前記水性溶媒中又は前記水系混合溶媒中で行った場合に、重合後等に前記添加成分を混合する方法も採用することができる。さらに、得られる溶液から前記溶媒を除去することによって前記アクリルアミド系ポリマー組成物を回収し、これを前記アクリルアミド系ポリマー繊維の製造に用いることができるほか、前記溶媒を除去することなく、得られる溶液をそのまま前記アクリルアミド系ポリマー繊維の製造に用いることもできる。また、前記湿式混合においては、より低コストで安全に前記アクリルアミド系ポリマー組成物を製造できるという観点から、溶媒として前記水性溶媒を使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。さらに、前記溶媒を除去する方法としては特に制限はなく、減圧留去、再沈殿、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法のうちの少なくとも1つの方法を採用することができる。
このようなアクリルアミド系ポリマー繊維は、単繊維として使用してもよいし、繊維束として使用してもよい。前記アクリルアミド系ポリマー繊維を繊維束として使用する場合、1束あたりのフィラメント数としては特に制限はないが、耐炎化繊維及び炭素繊維の高生産性及び機械特性が向上するという観点から、50~96000本が好ましく、100~48000本がより好ましく、500~36000本が更に好ましく、1000~24000本が特に好ましい。1糸条あたりのフィラメント数が前記上限を超えると、耐炎化処理時に焼成ムラが生じる場合がある。
(炭素繊維前駆体繊維)
本発明に用いられるアクリルアミド系ポリマー繊維は、後述する耐炎化処理において、そのまま炭素繊維前駆体繊維として使用してもよいが、耐炎化処理により繊維強度が向上し、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが発生しにくくなるという観点から、以下の延伸処理を施したものを炭素繊維前駆体繊維として使用することが好ましい。
延伸処理時の温度(最高温度)としては特に制限はなく、例えば、150~330℃でもよいが、225~320℃が好ましく、225~300℃がより好ましく、230~295℃が更に好ましく、235~290℃がまた更に好ましく、240~285℃が特に好ましく、245~280℃が最も好ましい。延伸処理時の最高温度が前記下限未満になると、前記延伸処理時に一部繊維の糸切れが起こることがあり、また、得られる炭素繊維前駆体繊維(延伸後のアクリルアミド系ポリマー繊維)においては、耐炎化処理を施しても繊維強度が十分に向上せず、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが発生しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記アクリルアミド系ポリマー繊維同士の融着が生じる場合がある。
また、前記延伸処理時の延伸倍率としては、1.3~100倍が好ましく、1.4~50倍がより好ましく、1.5~40倍が更に好ましく、1.8~30倍がまた更に好ましく、2.0~20倍が特に好ましく、3.0~10倍が最も好ましい。延伸倍率が前記下限未満になると、得られる炭素繊維前駆体繊維(延伸後のアクリルアミド系ポリマー繊維)においては、耐炎化処理を施しても繊維強度が十分に向上せず、耐炎化処理時に摩擦等による糸切れが発生しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記延伸処理時に糸切れが起こりやすくなる傾向にある。
なお、このような延伸倍率は、加熱炉等に導入される前記アクリルアミド系ポリマー繊維の送り速度(導入速度)と加熱炉等から引出される前記炭素繊維前駆体繊維の送り速度(引出速度)の比(引出速度/導入速度)によって決定することができるほか、前記アクリルアミド系ポリマー繊維と前記炭素繊維前駆体繊維の長さの比(炭素繊維前駆体繊維の長さ/アクリルアミド系ポリマー繊維の長さ)によって決定することもできる。このような延伸倍率は、前記アクリルアミド系ポリマー繊維と前記炭素繊維前駆体繊維の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維に付与する張力、延伸処理時の温度、アクリルアミド系ポリマー繊維の水分量等を調整することによって制御することができるが、例えば、延伸処理時の温度やアクリルアミド系ポリマー繊維の水分量が同じであっても、アクリルアミド系ポリマーの組成、アクリルアミド系ポリマー繊維における添加成分の有無やその添加量によって延伸倍率が変化するため、前記アクリルアミド系ポリマー繊維と前記炭素繊維前駆体繊維の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維に付与する張力(重りやバネ等によって制御)を調整することによって、所望の延伸倍率に調節することが好ましい。
延伸処理の方法としては特に制限はないが、例えば、所定の温度に加熱した気相中(例えば、所定の温度に加熱した空気や不活性ガスを含む加熱炉(熱風炉を含む)内)で延伸する方法(気中延伸処理)、所定の温度に加熱した熱ローラー等の加熱体を用いる方法(熱延伸処理)、所定の温度に加熱した溶媒中で延伸する方法(湿潤延伸処理)等の公知の延伸手段を採用することができる。これらの延伸処理方法のうち、気中延伸処理、熱延伸処理が好ましい。気中延伸処理の場合、酸化性ガス雰囲気下、不活性ガス雰囲気下のいずれの雰囲気下で延伸処理を行ってもよいが、簡便さの観点から、酸化性ガス雰囲気下、特に、空気中で行うことが好ましい。また、本発明においては、前記延伸処理を行った後、後述する耐炎化処理を行うため、耐炎化処理に使用する加熱炉(耐炎化炉)を用いて延伸処理と耐炎化処理とを連続して又は同時に行ってもよい。さらに、前記延伸処理は1段で行っても2段以上で行ってもよい。
このような炭素繊維前駆体繊維(すなわち、未延伸の前記アクリルアミド系ポリマー繊維又は前記延伸処理後のアクリルアミド系ポリマー繊維)において、単繊維の繊度としては、0.1~7dtexが好ましく、0.15~6dtexがより好ましく、0.2~5dtexが更に好ましく、0.25~4dtexが特に好ましい。炭素繊維前駆体繊維の単繊維の繊度が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや耐炎化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、単繊維の断面中心部までの十分な耐炎化が困難となるほか、前記延伸処理時の延伸による引張強度の向上効果が低下する傾向にある。
また、前記炭素繊維前駆体繊維において、単繊維の平均繊維径としては特に制限はないが、3~80μmが好ましく、3~50μmがより好ましく、4~40μmが更に好ましく、4~30μmが特に好ましく、5~25μmが最も好ましい。炭素繊維前駆体繊維の単繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや耐炎化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる耐炎化繊維の単繊維において、断面の中心部と表層部との間で構造が大きく異なり、得られる炭素繊維の引張強度が低下する傾向にある。
また、このような炭素繊維前駆体繊維には、繊維の集束性、ハンドリングの向上、繊維同士の癒着の防止という観点から、シリコーン系油剤等の従来公知の油剤を付着させてもよい。油剤の付着させる時期は、前記延伸処理の前(すなわち、前記アクリルアミド系ポリマー繊維に前記油剤を付着させた後、前記延伸処理を実施する)、前記延伸処理中(すなわち、前記アクリルアミド系ポリマー繊維に延伸処理を施しながら前記油剤を付着させる)、前記延伸処理後(すなわち、前記アクリルアミド系ポリマー繊維に延伸処理を施した後、得られた炭素繊維前駆体繊維に前記油剤を付着させる)のいずれでもよい。前記油剤としては特に制限はないが、シリコーン系油剤が好ましく、変性シリコーン系油剤(例えば、アミノ変性シリコーン系油剤、エポキシ変性シリコーン系油剤、エーテル変性シリコーン系油剤、メチルフェニルシリコーン等のアリール基変性シリコーン系油剤)が特に好ましい。これらの油剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、油剤を付着させる際に用いる油剤浴における油剤濃度としては0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。さらに、このようにして油剤を付着させた前記炭素繊維前駆体繊維は、50~250℃(好ましくは、100~200℃)の温度で乾燥させることが好ましい。これにより、緻密な前記炭素繊維前駆体繊維が得られる。乾燥方法としては特に制限はなく、例えば、表面温度が前記範囲内の温度に加熱された熱ローラーを用いて乾燥させる方法や加熱炉を用いる方法が挙げられる。
(耐炎化繊維)
本発明に用いられる耐炎化繊維は、前記炭素繊維前駆体繊維に酸化性雰囲気下(例えば、空気中)で加熱処理(耐炎化処理)を施すことによって得られるものであり、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維である。前記炭素繊維前駆体繊維は、前記アクリルアミド系ポリマーを含むものであり、耐炎化処理によって熱分解されにくく、また、前記アクリルアミド系ポリマーの構造が耐炎化処理によって耐熱性の高い構造に変換されるため、高い炭化収率を示す。特に、前記添加成分を含有する炭素繊維前駆体繊維においては、添加成分である酸やその塩の触媒作用により、前記アクリルアミド系ポリマーの脱水反応や脱アンモニア反応が促進されるため、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されやすく、前記アクリルアミド系ポリマーの構造が耐熱性の高い構造に変換されやすいため、炭化収率が更に高くなる。
前記耐炎化処理は、200~500℃の範囲内の温度で施されることが好ましく、270~450℃の範囲内の温度で施されることがより好ましく、300~430℃の範囲内の温度で施されることが更に好ましく、305~420℃の範囲内の温度で施されることが特に好ましいが、特に制限はない。なお、このような温度で施される耐炎化処理には、後述する耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)での耐炎化処理だけでなく、前記耐炎化処理温度までの昇温過程等における耐炎化処理も包含される。
また、前記耐炎化処理時の最高温度(耐炎化処理温度)としては、前記延伸処理時の温度(最高温度)より高くかつ500℃以下が好ましく、310~450℃がより好ましく、320~440℃が更に好ましく、325~430℃が特に好ましく、330~420℃が最も好ましい。前記耐炎化処理温度が前記下限未満になると、前記アクリルアミド系ポリマーの脱水反応や脱アンモニア反応が促進されず、分子内に環状構造(イミド環構造)が形成されにくいため、生成する耐炎化繊維の耐熱性が低く、炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、生成する耐炎化繊維が熱分解される傾向にある。
耐炎化処理時間(前記最高温度での加熱時間)としては特に制限はなく、長時間(例えば2時間超)の加熱も可能であるが、1~120分間が好ましく、2~60分間がより好ましく、3~50分間が更に好ましく、4~40分間が特に好ましい。耐炎化処理における前記加熱時間を前記下限以上とすることにより、炭化収率を向上させることができ、他方、2時間以下とすることにより、コストを低減することができる。
また、前記耐炎化繊維を製造する際、前記炭素材料前駆体繊維に、張力を付与しながら、或いは、張力を付与した後、前記耐炎化処理を施すことが好ましい。これにより、耐炎化処理時の炭素材料前駆体繊維の融着防止性が更に向上し、高温での耐荷重性に優れ、高い強度、高い弾性率及び高い炭化収率を有する耐炎化繊維が得られる。前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力としては特に制限はないが、0.007~30mN/dtexが好ましく、0.010~20mN/dtexがより好ましく、0.020~5mN/dtexが更に好ましく、0.025~1.5mN/dtexがまた更に好ましく、0.030~1mN/dtexが特に好ましく、0.035~0.5mN/dtexが最も好ましい。前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力が前記下限未満になると、耐炎化処理時の炭素材料前駆体繊維の融着が十分に抑制されず、耐炎化繊維の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐炎化処理時に糸切れが発生する場合がある。なお、本発明において、前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力(単位:mN/dtex)は、前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力(単位:mN)を、前記炭素材料前駆体繊維の絶乾状態での繊度(単位:dtex)で除した値、すなわち、前記炭素材料前駆体繊維の単位繊度当たりの張力である。また、前記炭素材料前駆体繊維に付与する張力は、耐炎化炉等の加熱装置の入口側、出口側等において、入口側ローラーと出口側ローラーの回転速度差により調整したり、ロードセル、バネ、重り等を用いて調整したりすることができる。
さらに、前記炭素材料前駆体繊維に所定の張力を付与しながら耐炎化処理を施す場合、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)において、前記炭素材料前駆体繊維に所定の張力が付与されていれば、前記耐炎化処理温度までの昇温過程等において張力が付与されていても、付与されていなくてもよいが、張力の付与による効果が十分に得られるという観点から、前記昇温過程等においても張力が付与されていることが好ましい。また、張力は、前記昇温過程等の初期段階から付与されていてもよいし、途中の段階から付与されていてもよい。
また、前記耐炎化繊維を製造する際、前記耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度)で所定の張力を付与しながら加熱処理を施した後に、前記耐炎化処理温度より高い温度で所定の張力以外の張力を付与しながら又は張力を付与せずに加熱処理を施してもよい。
さらに、前記耐炎化繊維を製造する際、延伸処理を施しながら耐炎化処理を施してもよい。耐炎化処理時の延伸倍率としては、1.3~100倍が好ましく、1.7~50倍がより好ましく、2.0~25倍が更に好ましく、3.0~10倍が特に好ましい。耐炎化処理時の延伸倍率が前記下限未満になると、耐炎化処理時の炭素材料前駆体繊維の融着が十分に抑制されず、耐炎化繊維の高温での耐荷重性、強度、弾性率及び炭化収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、耐炎化処理時に糸切れが発生する場合がある。
なお、このような延伸倍率は、加熱炉(耐炎化炉)に導入される前記炭素材料前駆体繊維の送り速度(導入速度)と加熱炉等から引出される前記耐炎化繊維の送り速度(引出速度)の比(引出速度/導入速度)によって決定することができるほか、前記炭素材料前駆体繊維と前記耐炎化繊維の長さの比(耐炎化繊維の長さ/炭素材料前駆体繊維の長さ)によって決定することもできる。このような延伸倍率は、前記炭素材料前駆体繊維と前記耐炎化繊維の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維に付与する張力、延伸処理時の温度、アクリルアミド系ポリマー繊維の水分量等を調整することによって制御することができるが、例えば、延伸処理時の温度やアクリルアミド系ポリマー繊維の水分量が同じであっても、アクリルアミド系ポリマーの組成、アクリルアミド系ポリマー繊維における添加成分の有無やその添加量によって延伸倍率が変化するため、前記炭素材料前駆体繊維と前記耐炎化繊維の送り速度の比(引出速度/導入速度)や繊維に付与する張力(重りやバネ等によって制御)を調整することによって、所望の延伸倍率に調節する必要がある。
このような耐炎化繊維において、単繊維の繊度としては、0.1~6dtexが好ましく、0.15~6dtexがより好ましく、0.2~5dtexが更に好ましく、0.25~4dtexが特に好ましい。耐炎化繊維の単繊維の繊度が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや炭化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる炭素繊維の引張強度が低下する傾向にある。
また、前記耐炎化繊維において、単繊維の平均繊維径としては特に制限はないが、3~50μmが好ましく、3~40μmがより好ましく、4~30μmが更に好ましく、4~25μmが特に好ましく、5~20μmが最も好ましい。耐炎化繊維の単繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、糸切れが発生しやすく、安定した巻取りや炭化処理が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる炭素繊維の単繊維において、断面の中心部と表層部との間で構造が大きく異なり、引張強度が低下する傾向にある。
さらに、前記耐炎化繊維は、赤外吸収スペクトルにおいて、1560~1595cm-1の範囲内に多環構造に由来する吸収ピークを有するものであることが好ましい。このような吸収ピークを有する耐炎化繊維は耐熱性が高く、炭化収率が高くなる。また、前記耐炎化繊維においては、1560~1595cm-1の範囲内に見られる吸収ピークの強度(I)と1648cm-1付近に見られるアクリルアミド系ポリマーのアミド基に由来する吸収ピークの強度(I)との比(I/I)が0.1~20であることが好ましく、0.5~10であることが好ましい。I/Iが前記範囲内にある耐炎化繊維束は、耐熱性及び炭化収率が高くなる。
<炭素繊維の製造方法>
本発明の炭素繊維の製造方法は、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、所定の張力を付与しながら、所定の温度で加熱処理を施して予備炭化繊維を得る予備炭化処理工程と、前記予備炭化繊維に加熱処理を施して炭素繊維を得る炭化処理工程とを含む方法である。
(予備炭化処理工程)
前記予備炭化処理工程においては、前記耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下(窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス中)、所定の張力を付与しながら、所定の温度で加熱処理を施すことによって、予備炭化繊維が得られる。
本発明において、耐炎化繊維に付与する張力は0.05~4mN/dtexの範囲内にあることが必要である。耐炎化繊維に付与する張力が前記範囲内にあると、予備炭化処理時に繊維の破断が起こりにくく、また、得られる炭素繊維においては、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が少なくなり、引張強度が向上する。一方、耐炎化繊維に付与する張力が前記下限未満になると、得られる炭素繊維においては、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が多くなるため、ボイドが形成しやすく、引張強度が低下する。他方、耐炎化繊維に付与する張力が前記上限を超えると、予備炭化処理時に繊維の破断が起こりやすく、また、得られる炭素繊維に毛羽立ちが発生しやすくなる。さらに、得られる炭素繊維においては、単繊維の断面の中心部又は表層部の少なくとも一方において、グラファイト構造の欠陥が多くなるため、ボイドが形成しやすく、引張強度が低下する。また、予備炭化処理時に繊維の破断が起こりにくく、得られる炭素繊維においては、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が少なくなり、引張強度が更に向上するという観点から、耐炎化繊維に付与する張力としては、0.1~3mN/dtexが好ましく、0.12~2.5mN/dtexがより好ましく、0.15~1.5mN/dtexが更に好ましく、0.2~1.3mN/dtexが特に好ましく、0.25~0.9mN/dtexが最も好ましい。なお、本発明において、前記耐炎化繊維に付与する張力(単位:mN/dtex)は、前記耐炎化繊維に付与する張力(単位:mN)を、前記耐炎化繊維の絶乾状態での繊度(単位:dtex)で除した値、すなわち、前記耐炎化繊維の単位繊度当たりの張力である。また、前記耐炎化繊維に付与する張力は、炭化炉等の加熱装置の入口側、出口側等において、入口側ローラーと出口側ローラーの回転速度差により調整したり、ロードセル、バネ、重り等を用いて調整したりすることができる。
また、本発明において、耐炎化繊維の加熱処理温度は300~1000℃の範囲内にあることが必要である。加熱処理温度が前記範囲内にあると、優れた引張強度を有する炭素繊維が得られる。一方、加熱処理温度が前記下限未満になると、得られる炭素繊維において、引張弾性率及び引張強度の向上効果が低下する傾向にある。他方、加熱処理温度が前記上限を超えると、得られる炭素繊維において、引張強度の向上効果が低下する傾向にある。また、得られる炭素繊維において、引張強度が向上するという観点から、加熱処理温度としては、300~950℃が好ましく、350~900℃がより好ましく、400~850℃が更に好ましく、450~800が特に好ましい。
さらに、前記予備炭化処理工程においては、前記耐炎化繊維に延伸処理を施しながら、前記加熱処理を施してもよい。この場合の延伸倍率は、得られる予備炭化繊維の配向性が高くなるという観点から、高い方が好ましいが、予備炭化処理時の糸切れや得られる炭素繊維における毛羽立ちを考慮して設定する必要がある。
(炭化処理工程)
本発明の炭素繊維の製造方法においては、前記予備炭化処理工程において得られた予備炭化繊維に、不活性ガス雰囲気下(窒素、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガス中)、前記予備炭化処理時の温度よりも高い温度で加熱処理を施すことによって、前記予備炭化繊維の炭化が更に進行し、優れた引張強度を有する炭素繊維が得られる。
炭化処理工程における加熱温度(最高温度)としては、1000℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましく、1200℃以上が更に好ましく、1300℃以上が特に好ましい。また、加熱温度の上限としては3000℃以下が好ましく、2500℃以下がより好ましく、2000℃以下が更に好ましく、1900℃以下が特に好ましい。
また、本発明の炭素繊維の製造方法においては、前記予備炭化繊維に、不活性ガス雰囲気下、1000℃以上(より好ましくは1100℃以上、更に好ましくは1200℃以上、特に好ましくは1300℃以上)2000℃未満の加熱温度(最高温度)で炭化処理を施した後、不活性ガス雰囲気下、2000℃以上3000℃以下の加熱温度(最高温度)で炭化処理(「黒鉛化処理」ともいう)を施してもよい。
前記炭化処理における加熱時間としては特に制限はないが、10秒~60分間が好ましく、30秒~30分間がより好ましく、1~10分間が更に好ましい。
また、本発明の炭素繊維の製造方法においては、炭素繊維の表面を改質し、樹脂との密着性を適正化するために、前記炭素繊維に電解処理やプラズマ処理等の表面処理を施すことが好ましい。これにより、前記炭素繊維は、樹脂との複合材料を形成した場合に、繊維軸方向の強度特性が低下したり、繊維軸方向に垂直な方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、強度特性が繊維軸方向とそれに垂直な方向とにバランスの取れた複合材料が得られる。
前記電解処理に用いられる電解液としては、酸、アルカリ、又はそれらの塩を含有する水溶液が挙げられる。酸としては、硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。
さらに、前記電解処理を施した炭素繊維には、水洗処理を施して前記電解液を除去し、乾燥処理を施した後、樹脂との密着性を向上させるために、サイジング剤を付与してもよい。このようなサイジング剤としては、複数の反応性官能基を有する化合物が好ましい。前記反応性官能基としては特に制限はないが、カルボキシ基や水酸基と反応可能な官能基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。前記サイジング剤において、前記化合物1分子中に存在する前記反応性官能基の個数としては、2~6個が好ましく、2~4個がより好ましく、2個が特に好ましい。前記反応性官能基の個数が1個の場合、前記炭素繊維と樹脂との密着性が向上しない傾向にあり、他方、前記反応性官能基の個数が前記上限を超えると、前記サイジング剤を構成する化合物の分子間架橋密度が大きくなり、前記サイジング剤により形成される層が脆くなり、前記炭素繊維と樹脂との複合材料の引張強度が低下する傾向にある。
本発明においては、このように、前記アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、所定の張力を付与しながら、所定の温度で加熱処理を施して予備炭化処理を行い、さらに、加熱処理を施して炭化処理を行うことによって、単繊維の平均繊維径が所定の範囲内にあり、単繊維の断面におけるラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比の平均値が単繊維の断面の中心部及び表層部の何れにおいても所定の範囲内にある、本発明の炭素繊維が得られる。
〔炭素繊維〕
次に、本発明の炭素繊維について説明する。本発明の炭素繊維は、単繊維の平均繊維径が3~10μmの範囲内にあり、単繊維の繊維軸方向に垂直な断面におけるラマンスペクトルの1590cm-1付近のグラファイト構造に由来するGピークに対する1360cm-1付近のグラファイト構造の欠陥に由来するDピークの強度比(D/G)の平均値が、前記単繊維の断面の重心を中心とした直径1μmの円内の領域(中心部)において0.90以下であり、前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域(表層部)において0.90以下である炭素繊維である。このような炭素繊維は、前記本発明の炭素繊維の製造方法によって得ることができる。
本発明の炭素繊維においては、単繊維の平均繊維径が3~10μmの範囲内にあることが必要である。炭素繊維の単繊維の平均繊維径が前記下限未満になると、樹脂等をマトリックスとして複合材料を作製する場合に、マトリックスの粘度が高いと炭素繊維中への樹脂等の含浸不足が生じ、複合材料の引張強度が低下する。他方、炭素繊維の単繊維の平均繊維径が前記上限を超えると、炭素繊維の引張強度が低下する。また、樹脂等をマトリックスとして複合材料を作製した場合に、複合材料の引張強度が向上し、また、炭素繊維の引張強度が向上するという観点から、炭素繊維の単繊維の平均繊維径としては、4~9μmが好ましく、5~8μmがより好ましい。
また、本発明の炭素繊維においては、前記単繊維の断面におけるラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比(D/G)の平均値が、前記単繊維の断面の中心部において0.90以下であり、表層部において0.90以下であることが必要である。ここで、前記D/Gの平均値は、単繊維中のグラファイト構造に対するその欠陥構造の割合の大小を表す指標であり、前記D/Gの平均値が小さいほど、グラファイト構造の欠陥が少ないことを意味する。したがって、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても前記D/Gの平均値が前記範囲内にある炭素繊維は、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、グラファイト構造の欠陥が少ないため、優れた引張強度を有している。一方、単繊維の断面の中心部又は表層部の少なくとも一方において、前記D/Gの平均値が前記上限を超える炭素繊維は、単繊維の断面の中心部又は表層部の少なくとも一方において、グラファイト構造の欠陥が多いため、引張強度が低下する。また、得られる炭素繊維において、グラファイト構造の欠陥が少なく、引張強度が向上するという観点から、単繊維の断面の中心部及び/又は表層部における前記D/Gの平均値としては、0.85以下が好ましい。
なお、本発明において、前記単繊維の断面におけるラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比(D/G)の平均値は、以下のようにして求めることができる。すなわち、先ず、炭素繊維を、顕微ラマン分光光度計(例えば、レニショー社製「inVia Reflex/StreamLine」、顕微鏡:Leica社製、対物レンズ:100倍、検出器:CCD(チャンネル数:1024×256))を用いて観察し、無作為に抽出した単繊維の繊維軸方向に垂直な断面について、レーザー波長532nm、回折格子1800本/mm、分解能0.6μmの条件でラマン分光分析を行い、ラマンマッピング画像を得る。次に、この単繊維の断面のラマンマッピング画像に基づいて、前記単繊維の断面の重心を中心とする直径1μmの円内の領域(中心部)及び前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域(表層部)のそれぞれにおいて、ラマンスペクトルの1590cm-1付近のグラファイト構造に由来するGピークの強度に対する1360cm-1付近のグラファイト構造の欠陥に由来するDピークの強度の比(D/G)の平均値を求める。ピーク強度としては、ガウスフィッティングとローレンツフィッティングの混合モードでのフィッティングにより求めた強度を採用することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した各アクリルアミド系ポリマー及び各アクリルアミド系ポリマー繊維は以下の方法により調製した。
(調製例1)
<アクリルアミド/アクリロニトリル共重合体の合成>
アクリルアミド(AM)75mol%及びアクリロニトリル(AN)25mol%からなるモノマー100質量部とテトラメチルエチレンジアミン4.36質量部とをイオン交換水400質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム3.43質量部を添加した後、70℃で150分間加熱し、次いで、90℃まで30分かけて昇温した後、90℃で1時間加熱して重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル共重合体(AM/AN共重合体)を得た。
<AM/AN共重合体の組成比の測定>
得られたAM/AN共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルにおいて、約177ppm~約182ppmに現れるアクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークと約121ppm~約122ppmに現れるアクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークとの積分強度比に基づいて、AM/AN共重合体中のアクリルアミド(AM)単位のアクリロニトリル(AN)単位に対するモル比(AM/AN)を求めたところ、AM/AN=75mol%/25mol%であった。
(調製例2)
<アクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体の合成>
アクリルアミド(AM)73mol%、アクリロニトリル(AN)25mol%及びアクリル酸(AA)2mol%からなるモノマー100質量部とテトラメチルエチレンジアミン4.36質量部とをイオン交換水566.7質量部に溶解し、得られた水溶液に、窒素雰囲気下で撹拌しながら、過硫酸アンモニウム3.43質量部を添加した後、70℃で150分間加熱し、次いで、90℃まで30分かけて昇温した後、90℃で1時間加熱して重合反応を行った。得られた水溶液をメタノール中に滴下して共重合物を析出させ、これを回収して80℃で12時間真空乾燥させ、水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(AM/AN/AA共重合体)を得た。
<AM/AN/AA共重合体の組成比の測定>
得られたAM/AN/AA共重合体を重水に溶解し、得られた水溶液について、室温、周波数100MHzの条件で13C-NMR測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルにおいて、約177ppm~約182ppmに現れるアクリルアミドのカルボニル基の炭素に由来するピークと、約121ppm~約122ppmに現れるアクリロニトリルのシアノ基の炭素に由来するピークと、約179ppm~約182ppmに現れるアクリル酸のカルボニル基の炭素に由来するピークとの積分強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位及びアクリル酸(AA)単位のアクリロニトリル(AN)単位に対するモル比((AM+AA)/AN)を算出した。
また、AM/AN/AA共重合体について、赤外分光分析(IR)を行い、得られたIRスペクトルにおいて、約1678cm-1に現れるアクリルアミド(AM)に由来するピークと、約2239cm-1に現れるアクリロニトリル(AN)に由来するピークと、約1715cm-1に現れるアクリル酸(AA)に由来するピークとの強度比に基づいて、AM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AA)を算出した。
前記(AM+AA)/ANと前記AM/AAとからAM/AN/AA共重合体中のアクリルアミド(AM)単位とアクリロニトリル(AN)単位とアクリル酸(AA)単位とのモル比(AM/AN/AA)を求めたところ、AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%であった。
(調製例3)
<アクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体の合成と組成比の測定>
モノマーとして、アクリルアミド(AM)65mol%、アクリロニトリル(AN)33mol%及びアクリル酸(AA)2mol%からなるモノマー100質量部を用いた以外は調製例2と同様にして水溶性のアクリルアミド/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体(AM/AN/AA共重合体)を得た。このAM/AN/AA共重合体の組成比を調製例2と同様にして測定したところ、AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%であった。
(製造例1)
<アクリルアミド系ポリマー繊維の作製>
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)をイオン交換水に溶解し、得られた水溶液を用いて、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約3dtex/本、平均繊維径が約17μmとなるように乾式紡糸を行い、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の繊度及び平均繊維径を以下の方法により測定したところ、繊度は3.3dtex/本であり、平均繊維径は18μmであった。
<アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度>
得られたアクリルアミド系ポリマー繊維を100本束ねてアクリルアミド系ポリマー繊維束(100本/束)を作製し、この繊維束の絶乾時又は120℃で2時間乾燥後の質量を測定して、下記式:
繊維束の繊度[dtex]=繊維束の質量[g]/繊維長[m]×10000[m]
により前記繊維束の繊度を算出し、前記繊維束を構成する単繊維の繊度(前記アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度)を求めた。
<アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径>
前記アクリルアミド系ポリマー繊維束の密度を、乾式自動密度計(マイクロメリティックス社製「アキュピックII 1340」)を用いて測定し、下記式:
D={(Dt×4×100)/(ρ×π×n)}1/2
〔前記式中、Dは繊維束を構成する単繊維の平均繊維径[μm]を表し、Dtは繊維束の繊度[dtex]を表し、ρは繊維束の密度[g/cm]を表し、nは繊維束を構成する単繊維の本数[本]を表す。〕
により前記繊維束を構成する単繊維の平均繊維径(前記アクリルアミド系ポリマー繊維の平均繊維径)を求めた。
<耐炎化繊維の作製>
得られたアクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)を1500本束ねて繊維束(1500本/束)を作製し、この繊維束を、温度250℃の空気雰囲気下、2倍の延伸倍率で延伸して炭素繊維前駆体繊維束(f-1)(1500本/束)を作製した。得られた炭素繊維前駆体繊維束(1500本/束)を合糸して12000本/束の前駆体繊維束を作製し、この前駆体繊維束(12000本/束)に、空気雰囲気下、350℃(耐炎化処理温度(耐炎化処理時の最高温度))で60分間の加熱処理(耐炎化処理)を施して耐炎化繊維束(f-1)(12000本/束)を作製した。この耐炎化繊維束(f-1)の単繊維繊度及び平均繊維径を以下の方法により測定したところ、繊度は1.4dtex/本であり、平均繊維径は11μmであった。
<耐炎化繊維の繊度>
得られた耐炎化繊維束の絶乾時又は120℃で2時間乾燥後の質量を測定して、下記式:
繊維束の繊度[dtex]=繊維束の質量[g]/繊維長[m]×10000[m]
により前記繊維束の繊度を算出し、前記耐炎化繊維束を構成する単繊維の繊度(前記耐炎化繊維の繊度)を求めた。
<耐炎化繊維の平均繊維径>
得られた耐炎化繊維束について、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製「デジタルマイクロスコープVHX-1000」)を用いてそれぞれの側面を観察し、無作為に抽出した10本の単繊維の各々の繊維径の測定点を無作為に選択して、前記耐炎化繊維束を構成する耐炎化単繊維の繊維径を測定し、その平均値(耐炎化繊維の平均繊維径)を求めた。
(製造例2)
<アクリルアミド系ポリマー繊維の作製>
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)をイオン交換水に溶解し、得られた水溶液にAM/AN共重合体100質量部に対して3質量部のリン酸を添加して完全に溶解させた。得られた水溶液を用いて、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約3dtex/本、平均繊維径が約17μmとなるように乾式紡糸を行い、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は3.8dtex/本であり、平均繊維径は20μmであった。
<耐炎化繊維の作製>
アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の代わりに前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-2)を用い、延伸時の温度を260℃に、延伸倍率を4倍に変更した以外は製造例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(f-2)(1500本/束)及び耐炎化繊維束(f-2)(12000本/束)を作製した。この耐炎化繊維束(f-2)の単繊維繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は0.9dtex/本であり、平均繊維径は9μmであった。
(製造例3)
<アクリルアミド系ポリマー繊維の作製>
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例2で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=73mol%/25mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約6dtex/本、平均繊維径が約25μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例2と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は6.8dtex/本であり、平均繊維径は26μmであった。
<耐炎化繊維の作製>
アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の代わりに前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-3)を用い、延伸時の温度を260℃に、延伸倍率を4倍に変更した以外は製造例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(f-3)(1500本/束)及び耐炎化繊維束(f-3)(12000本/束)を作製した。この耐炎化繊維束(f-3)の単繊維繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は1.1dtex/本であり、平均繊維径は10μmであった。
(製造例4)
<アクリルアミド系ポリマー繊維の作製>
調製例1で得られたAM/AN共重合体(AM/AN=75mol%/25mol%)の代わりに調製例3で得られたAM/AN/AA共重合体(AM/AN/AA=65mol%/33mol%/2mol%)を用い、アクリルアミド系ポリマー繊維の繊度が約2dtex/本、平均繊維径が約14μmとなるように乾式紡糸を行った以外は製造例2と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は2.3dtex/本であり、平均繊維径は15μmであった。
<耐炎化繊維の作製>
アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の代わりに前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-4)を用い、延伸時の温度を260℃に、延伸倍率を4倍に変更した以外は製造例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(f-4)(1500本/束)及び耐炎化繊維束(f-4)(12000本/束)を作製した。この耐炎化繊維束(f-4)の単繊維繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は0.4dtex/本であり、平均繊維径は6μmであった。
(製造例5)
<アクリルアミド系ポリマー繊維の作製>
リン酸の代わりにAM/AN/AA共重合体100質量部に対して3質量部のリン酸水素二アンモニウムを添加した以外は製造例4と同様にして、アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)を作製した。このアクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)の繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は2.0dtex/本であり、平均繊維径は14μmであった。
<耐炎化繊維の作製>
アクリルアミド系ポリマー繊維(f-1)の代わりに前記アクリルアミド系ポリマー繊維(f-5)を用い、延伸時の温度を260℃に、延伸倍率を4倍に変更した以外は製造例1と同様にして、炭素繊維前駆体繊維束(f-5)(1500本/束)及び耐炎化繊維束(f-5)(12000本/束)を作製した。この耐炎化繊維束(f-5)の単繊維繊度及び平均繊維径を製造例1と同様にして測定したところ、繊度は0.4dtex/本であり、平均繊維径は6μmであった。
(実施例1)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)に、0.09mN/dtexの張力を付与しながら、300℃~900℃の温度勾配がついた窒素雰囲気中を3分間かけて移動させて加熱処理(予備炭化処理)を施して予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、次いで、この予備炭化繊維束を1300℃~1700℃の温度勾配がついた窒素雰囲気中を3分間かけて移動させて加熱処理(炭化処理)を行い、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例2)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例2で得られた耐炎化繊維束(f-2)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を0.15mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例3)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例3で得られた耐炎化繊維束(f-3)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を0.15mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例4)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例4で得られた耐炎化繊維束(f-4)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を0.33mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例5)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例5で得られた耐炎化繊維束(f-5)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を0.42mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例6)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例4で得られた耐炎化繊維束(f-4)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を1.04mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(実施例7)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例4で得られた耐炎化繊維束(f-4)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を2.08mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(比較例1)
予備炭化処理時に付与する張力を0.02mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
(比較例2)
製造例1で得られた耐炎化繊維束(f-1)の代わりに製造例4で得られた耐炎化繊維束(f-4)を用い、予備炭化処理時に付与する張力を5.00mN/dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、予備炭化繊維束(12000本/束)を作製し、さらに、炭素繊維束(12000本/束)を作製した。
<予備炭化処理時の繊維の破断の有無>
得られた予備炭化繊維束から長さ5cmの評価用繊維束を切出し、この評価用繊維束をマイクロスコープ(斎藤光学株式会社製「SKM-S20B-PC」)を用いて観察し、前記予備炭化繊維束を構成する予備炭化単繊維の状態を下記基準で評価した。その結果を表1に示す。
A:予備炭化単繊維は破断していない。
B:1~4本の予備炭化単繊維が破断していた。
C:5本以上の予備炭化単繊維が破断していた。
<炭素繊維のラマン分光分析>
得られた炭素繊維束を、顕微ラマン分光光度計(レニショー社製「inVia Reflex/StreamLine」、顕微鏡:Leica社製、対物レンズ:100倍、検出器:CCD(チャンネル数:1024×256))を用いて観察し、無作為に抽出した単繊維の繊維軸方向に垂直な断面について、レーザー波長532nm、回折格子1800本/mm、分解能0.6μmの条件でラマン分光分析を行い、ラマンマッピング画像を得た。なお、無作為に抽出した5~6本の単繊維について前記ラマン分光分析を行ったところ、いずれも同等のラマンマッピング画像が得られた。
前記単繊維の断面のラマンマッピング画像に基づいて、前記単繊維の断面の重心を中心とする直径1μmの円内の領域(中心部)及び前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域(表層部)のそれぞれにおいて、ラマンスペクトルの1590cm-1付近のグラファイト構造に由来するGピークの強度に対する1360cm-1付近のグラファイト構造の欠陥に由来するDピークの強度の比(D/G)の平均値を求めた。その結果を表1に示す。なお、ピーク強度としては、ガウスフィッティングとローレンツフィッティングの混合モードでのフィッティングにより求めた強度を採用した。
<炭素繊維の平均繊維径>
得られた炭素繊維束について、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製「デジタルマイクロスコープVHX-1000」)を用いてそれぞれの側面を観察し、無作為に抽出した10本の単繊維の各々の繊維径の測定点を無作為に選択して、前記炭素繊維束を構成する炭素繊維の繊維径を測定し、その平均値(炭素繊維の平均繊維径)を求めた。その結果を表1に示す。
<炭素繊維の引張強度>
得られた炭素繊維束から単繊維を取出し、微小強度評価試験機(株式会社島津製作所製「マイクロオートグラフMST-I」)を用いてJIS R7606に準拠して室温にて引張試験(標線間距離:25mm、引張速度:1mm/分)を行い、引張強度を測定し、5回の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
表1に示したように、アクリルアミド系ポリマー繊維の耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、所定の張力を付与しながら、予備炭化処理を施した場合(実施例1~7)には、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、ラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比(D/G)の平均値が所定の範囲内にある炭素繊維が得られることがわかった。また、この炭素繊維は引張強度に優れていることがわかった。
一方、予備炭化処理時に付与する張力が所定の範囲より小さい場合(比較例1)、得られる炭素繊維は、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、ラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比(D/G)の平均値が所定の範囲より大きくなり、引張強度に劣ることがわかった。また、予備炭化処理時に付与する張力が所定の範囲より大きい場合(比較例2)、得られる炭素繊維は、単繊維の断面の中心部において、ラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比(D/G)の平均値が所定の範囲より大きくなり、引張強度に劣ることがわかった。
また、実施例4と実施例5とを対比すると、予備炭化処理時に付与する張力が大きいほど、得られる炭素繊維は、単繊維の断面の中心部及び表層部のいずれにおいても、ラマンスペクトルのGピークに対するDピークの強度比(D/G)の平均値が小さくなる傾向にあり、引張強度が向上することがわかった。ただし、実施例6~7の結果から明らかなように、予備炭化処理時に付与する張力が大きくなるにつれて、予備炭化処理時に繊維の破断が起こりやすくなる傾向にあることがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、優れた引張強度を有する炭素繊維を得ることが可能となる。また、このような本発明の炭素繊維は、軽量性、剛性、強度、弾性率、耐腐食性等の各種特性に優れているため、例えば、航空用材料、宇宙用材料、自動車用材料、圧力容器、土木・建築用材料、ロボット用材料、通信機器材料、医療用材料、電子材料、ウェアラブル材料、風車、ゴルフシャフト、釣竿等のスポーツ用品等の各種用途の材料として広く使用することができる。

Claims (4)

  1. アクリルアミド系ポリマー繊維に由来する炭素繊維であって、
    前記アクリルアミド系ポリマーが、50mol%以上のアクリルアミド系モノマーと50mol%以下の他の重合性モノマーとの共重合体であり、
    前記他の重合性モノマーが、シアン化ビニル系モノマー、不飽和カルボン酸及びその塩、不飽和カルボン酸無水物、並びに不飽和カルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種であり、
    単繊維の平均繊維径が3~10μmの範囲内にあり、
    単繊維の繊維軸方向に垂直な断面におけるラマンスペクトルの1590cm-1付近のグラファイト構造に由来するGピークに対する1360cm-1付近のグラファイト構造の欠陥に由来するDピークの強度比(D/G)の平均値が、前記単繊維の断面の重心を中心とした直径1μmの円内の領域において0.90以下であり、前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域において0.90以下である、
    ことを特徴とする炭素繊維。
  2. 前記D/Gの平均値が、前記単繊維の断面の重心を中心とした直径1μmの円内の領域において0.85以下であり、前記単繊維の断面の外周からその内側1μmまでの領域において0.85以下である、
    ことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維。
  3. アクリルアミド系ポリマー繊維からなる、単繊維の平均繊維径が3~80μmの炭素繊維前駆体繊維に加熱処理を施して、単繊維の平均繊維径が3~50μmの耐炎化繊維を得る耐炎化処理工程と、
    前記耐炎化繊維に、不活性ガス雰囲気下、0.05~4mN/dtexの範囲内の張力を付与しながら、300~1000℃の範囲内の温度で加熱処理を施して予備炭化繊維を得る予備炭化処理工程と、
    前記予備炭化繊維に加熱処理を施して、単繊維の平均繊維径が3~10μmの炭素繊維を得る炭化処理工程と、
    を含むことを特徴とする炭素繊維の製造方法。
  4. 前記予備炭化処理工程において、前記耐炎化繊維に付与する張力が0.15~1.5mN/dtexの範囲内にあることを特徴とする請求項3に記載の炭素繊維の製造方法。
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