JP7341368B1 - 負極添加剤、負極、及び二次電池 - Google Patents

負極添加剤、負極、及び二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 負極活物質としてケイ素系の活物質を含む負極を用いた場合であっても、充放電の繰り返しによる劣化を抑制することができ、容量維持率などの電池性能に優れた二次電池を得ることが可能な負極添加剤を提供する。【解決手段】 リグニン誘導体を少なくとも含むリグニン成分を含有し、前記リグニン成分の固形分当たりの、抽出成分量のメトキシ基量に対する質量比が0.005~0.25である。【選択図】 なし

Description

本発明は、二次電池の負極に用いられる負極添加剤、これを用いた負極、及び二次電池に関するものである。
近年、スマートフォンやタブレット等に代表される小型携帯端末や定置用蓄電池の急速な普及により、それらを駆動させる小型でエネルギー密度の高い電池に対する要求が高まっている。
一般に、リチウムイオン二次電池の負極には黒鉛系材料が用いられているが、黒鉛系材料の理論容量は372mAh/g(LiC)であり、現状、その限界に近付いている。
さらにリチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上するためには、新しい材料の選択が必要となっている。そこで、炭素、リチウムに次いで電位が低く、比容量の大きいケイ素、スズ等と、リチウムとを合金化した材料が注目を集めている。
これらの材料の中でも、ケイ素は、モル比でケイ素原子1に対してリチウム原子を4.4まで吸蔵することができ、理論的には黒鉛系炭素材料の約10倍の容量が得られる。しかし、ケイ素粒子はリチウムを吸蔵すると体積がおよそ3倍~4倍に膨れるため、充放電の繰り返しにより劣化が進行し、容量が低下することが問題となっている。この現象を詳しく解析すると、ケイ素を含む活物質にリチウムが挿入されると、体積膨張により電極内に微細な割れが生じ、この微細な割れに電解液が侵入し、新たな被膜(SEI層)が形成されることが確認されている。このとき、元に戻らない不可逆な容量が発生し、結果として、電池容量が低下する。この現象は、サイクル途中の充放電効率の変化に現れる。特に体積変化の大きいサイクル初期段階におけるサイクル効率の低下は、充放電効率の高い正極と組み合わせた電池としての寿命に大きな影響を与える。そのため、ケイ素を含む活物質を用いる場合、この体積膨張による電極構造の変化を最小限に抑えることが重要な課題となっている。
特許文献1には、ケイ素を含む電極活物質と、リグニンスルホン酸塩とを含む負極用合剤スラリーを、集電体上に塗布・乾燥することにより負極用合剤の塗膜(負極活物質層)を集電体上に形成し、負極を製造したことが記載されている。また、このようにして製造した負極を用いた電池は、容量特性に優れることが記載されている。
しかしながら、特許文献1の実施例に記載された負極用合剤スラリーは、活物質以外の成分であるリグニンとカルボキシメチルセルロースの合計含有割合が多すぎるため、このスラリーを使用して作製した負極を用いて得られる電池は、性能が低すぎて実使用に耐えないと考えられる。
欧州特許出願公開第3544099号明細書
特許文献1の実施例に記載された負極用合剤スラリーに含まれるケイ素系の活物質は固形分基準で60%程度であるが、ケイ素系活物質の配合量を増やした場合には、充放電の繰り返しによる劣化が進行するため、満足な電池特性が得られないという問題があった。
本発明の目的は、負極活物質としてケイ素系の活物質を含む負極を用いた場合であっても、充放電の繰り返しによる劣化を抑制することができ、容量維持率などの電池性能に優れた二次電池を得ることが可能な負極添加剤を提供することである。
本発明者らは、鋭意検討の結果、抽出成分の含有割合が特定の範囲であるリグニン成分を含むことにより上記課題を解決できることを見出した。
本発明は以下を提供する。
(1) リグニン誘導体を少なくとも含むリグニン成分を含有し、前記リグニン成分の固形分当たりの、抽出成分量のメトキシ基量に対する質量比が0.005~0.25である、二次電池の負極添加剤。
(2) 前記リグニン成分の固形分当たりの、アルカリ性ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率が、15%以下である、(1)に記載の負極添加剤。
(3) 前記リグニン誘導体は、下式(1)に示す官能基を有し、前記官能基中のS含量が1.0~6.5質量%である、(1)に記載の負極添加剤。
式(1):-SO
(式中、Mは、水素原子、一価金属、又は二価金属を示す)
(4) (1)記載の負極添加剤と、負極結合剤と、負極活物質を含む負極活物質層を備える二次電池用の負極。
(5) (4)記載の負極を含む二次電池。
(6) 前記二次電池がリチウムイオン電池である(1)に記載の負極添加剤。
本発明によれば、負極活物質としてケイ素系の活物質を含む負極を用いた場合であっても、充放電の繰り返しによる劣化を抑制することができ、容量維持率などの電池性能に優れた二次電池を得ることが可能な負極添加剤を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
<<負極添加剤>>
本発明の負極添加剤は、二次電池の負極に用いられる。また、本発明の負極添加剤は、リグニン誘導体を少なくとも含むリグニン成分を含有し、リグニン成分の固形分当たりの、抽出成分量のメトキシ基量に対する質量比が0.005~0.25である。
(リグニン成分)
本発明において、リグニン成分は、少なくともリグニン誘導体を含む。
(リグニン誘導体)
本明細書において、リグニン誘導体とは、リグニンの分解物、リグニンの誘導体、リグニンの分解物の誘導体を意味する。リグニン誘導体は、粉体状でも、液体状でもよい。液体状のリグニン成分の調製方法は特に限定されないが、例えば、粉末状のリグニン成分を適当な溶媒(例えば水、水酸化ナトリウム水溶液など)に溶解して液体状のリグニン成分を得る方法が挙げられる。
リグニン誘導体は、通常は木質バイオマス由来であり、その処理方法によって、構造及び物性が異なるいくつかの種類に分類される。リグニン誘導体としては、例えば、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、硫酸リグニンおよびそれらの分解物などが挙げられる。
リグニン誘導体は、負極用合剤組成物に含まれるCMC以外の材料の分散性を向上させるという観点から、変性されたものであることが好ましい。変性の種類としては、アルカリ処理、アルカリ酸素処理、オゾンや過酸化水素といった活性酸素種を用いた酸化処理による変性、およびスルホメチル化による芳香核の変性等が挙げられ、負極用合剤組成物に含まれるCMC以外の材料に対する分散性向上の観点から、アルカリ処理、アルカリ酸素処理およびスルホメチル化処理により変性されたものを含むことが好ましい。スルホメチル化リグニンは、原料リグニンをスルホメチル化することにより得ることができ、原料としては、クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、リグニンスルホン酸塩、硫酸リグニンおよびそれらの分解物、並びに、これらの誘導体などを用いることができる。リグニン誘導体は1種でも2種以上の組み合わせでもよい。変性度が高いほど、アルカリ性ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率が低いという関係があることから、総分解生成物収率を測定することにより変性の程度がわかる。
(抽出成分)
リグニン成分は、通常、抽出成分を含む。本明細書において抽出成分は、植物(例えばパルプ原料として用いられる植物、好ましくはスギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物の木材)の抽出成分であり、通常、木材の有機溶媒を用いた抽出処理により測定・同定される微量成分である。抽出成分のうち、フェノール性水酸基やカルボキシ基を有するものは、アルカリを用いた抽出でも得ることができる。抽出成分は、通常、色調、におい、耐久性、接着性、生物活性等の木材物性の決定因子であり、木材を化学的に特徴付ける成分であると言われている。樹木は、セルロース及びヘミセルロースの堆積、並びにリグニンの沈着により骨格が形成された後、心材形成と連動する抽出成分の蓄積を待って、初めて生物材料として完成する。抽出成分を得る際使用される有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ベンゼン、エーテル、アセトン、アルコールが挙げられる。木材に対する抽出成分の含有量は、通常、約5%以下である。
抽出成分は、通常、低分子化合物を含む。その多くは分子量数千以下の二次代謝産物であり、一般には極めて多様であるが、芳香族抽出成分とテルペノイドに大別される。芳香族抽出成分としては、例えば、フラボノイド類、タンニン類、リグナン類、スチルベン類が挙げられる。抽出成分は、これらから選ばれる少なくとも1種を含む。
フラボノイド類は、ジフェニルプロパン(C-C-C)骨格を持つ化合物の総称であり、例えば、フラボン、フラバノン、カルコン、オーロン、イソフラボン、カテキン、ロイコアントシアニジンが挙げられる。タンニン類は、加水分解型タンニンと縮合型タンニンのいずれでもよい。加水分解型タンニンは、グルコースなどを核として、これに没食子酸などのフェノールカルボン酸がエステル結合した構造を有するタンニンであり、例えば、ガロタンニン、エラグタンニンが挙げられる。加水分解型タンニンは、酸、アルカリなどによる加水分解により単純なフラグメントに分解され得るところ、ガロタンニン及びエラグタンニンを加水分解すると、それぞれ没食子酸、エラグ酸が得られる。縮合型タンニンとしては、例えば、カテキン類又はロイコアントシアニジン類を前駆物質とする無定形高分子が挙げられる。
リグナン類としては、例えば、リグナン及びその近縁物質が挙げられる。リグナン(レジノール)は、リグニンの構成単位と同じフェニルプロパン単位が、その側鎖β位間で炭素-炭素結合したC-C-C-C骨格を有する構造を有する。リグニンと異なり、分子内に不斉炭素をもち、光学活性を有する。リグナン近縁物質としては、例えば、リグニン骨格より炭素数が1個少ないC-C-C-C骨格を有するノルリグナン類が挙げられる。スチルベン類は、α、β-ジフェニルエチレン骨格を有する化合物であればよい。
テルペノイドは、イソプレン単位(C)が2個以上、鎖状または環状に結合した一連の化合物であればよい。イソプレノイド単位2、3、4、6個からなるテルペノイドをそれぞれモノテルペン(炭素原子数10)、セスキテルペン(炭素原子数15)、ジテルペン(炭素原子数20:例えば、アビエチン酸)、トリテルペン(炭素原子数30)というが、これらのいずれでもよい。
抽出成分は、抽出成分の基本的な炭素骨格、置換基により多様な生理活性を有する。生理活性としては、例えば、微生物、昆虫、植物に対する生物活性(「抽出成分による木材の生物劣化抵抗性」、木材保存 34(2)、48-54、2008)、材の耐久性の向上、人体の健康への阻害作用、材の化学的、物理的加工(例えばパルプ化、漂白、セメント硬化)への阻害作用が挙げられる。
(抽出成分/リグニン成分(質量比))
リグニン成分においては、リグニン成分の固形分当たりの、抽出成分量のメトキシ基量に対する質量比が、負極内にてリグニンと抽出成分が高度に配向するという観点から、0.005~0.25、好ましくは0.008~0.2、より好ましくは0.01~0.15である。質量比が上記範囲であることにより、負極内でリグニンと抽出成分が高度に配向することができる。質量比が上記範囲より大きすぎると、不純物としての抽出成分量が多くなるため電池性能が低下し、小さすぎると、負極内でリグニンと抽出成分が配向することができなくなる。
抽出成分は、負極成分中の、特にリグニンとの配向に影響することがある。また、一般にリグニンの構造中には芳香核に結合したメトキシ基が存在するため、メトキシ基量は、リグニン誘導体含量の指標である。そのため、上記質量比は、負極内でリグニンと抽出成分が高度に配向するためのバランスを表すと言える。
(メトキシ基量)
リグニン成分の固形分あたりのメトキシ基量は、高純度のリグニンを用いるという観点から、好ましくは3~18質量%であり、より好ましくは5~15質量%である。一般にリグニンの構造中には芳香核に結合したメトキシ基が存在するため、メトキシ基量は、リグニンおよびリグニン誘導体の含量、すなわちリグニンおよびリグニン誘導体の純度の指標である。
(抽出成分量)
リグニン成分の固形分あたりの抽出成分量は、負極成分中の、特にリグニンとの配向に影響するという観点から、0.05~2.5質量%が好ましく、0.1~2.0質量%がより好ましい。
メトキシ基量は、ViebockおよびSchwappach法によるメトキシ基の定量法(「リグニン化学研究法」、P.336~340、平成6年、ユニ出版(株)発行、参照)により測定できる。抽出成分量は、JIS K 0102:2019記載のヘキサン抽出物質の測定法によって測定できる。
(総分解生成物収率)
リグニン成分は、アルカリ性ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率(単に、「総分解生成物収率」ともいう。)が、負極用合剤組成物に含まれるCMC以外の材料の分散性を向上させるという観点から、好ましくは15%以下であり、より好ましくは2%以上13%以下である。総分解生成物収率が上記範囲内であることにより、負極用合剤組成物に含まれるCMC以外の材料の分散性を向上させることができ、電池性能を向上させることができる。総分解生成物収率が、上記上限値より高すぎると、特に負極用合剤組成物に含まれるCMC以外の材料の分散性が不十分となり、電池性能が悪化するという問題がある。一方、総分解生成物収率が、上記下限値より低すぎると、リグニンの変性度が高すぎてリグニンとしての特質が消失し、リグニンに由来する各種性能を発揮することができないという問題がある。なお、総分解生成物収率が低いほどリグニンの変性度が高いことを意味する。ここで、総分解生成物収率の測定は、「植物細胞壁実験法」記載の方法により定量することができる(「植物細胞壁実験法」、P.128~131、2016年、弘前大学出版会発行、参照)。総分解生成物収率は、試料固形分に対する、測定で得られた6つの分解生成物類(p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸、バニリン、バニリン酸、シリンガアルデヒド、シリンガ酸)の合計重量の割合(w/w%)から求めることができる。
また、本発明に用いるリグニン誘導体は、下式(1)に示す官能基(スルホ基)を有することが好ましく、CMCをはじめとするバインダー成分との相溶性の観点から、前記官能基中のS含量が1.0~6.5質量%、好ましくは1.2~6.0質量%、より好ましくは1.5~6.0質量%である。S含量が大きすぎると、CMCをはじめとするバインダー成分との相溶性が悪化する。
式(1):-SOM(式中、Mは、水素原子、一価金属、又は二価金属を示す)
(S含量)
ここで、上記官能基中のS含量とは、リグニン誘導体の固形分含量に対する上記官能基に含有される硫黄原子の含量をいう。具体的には、下記式(2)により算出する値である。
式(2):S含量(質量%)=全S含量(質量%)-無機態S含量(質量%)
式(2)中、リグニン誘導体の全S含量及び無機態S含量は、いずれもリグニン誘導体の固形分量に対するS含量を示す。式(2)中、全S含量は、リグニン誘導体に含まれるすべてのS含量であり、ICP発光分光分析法により定量することができる。また、無機態S含量は、イオンクロマト法により定量したSOイオン含量、SOイオン含量及びSイオン含量の合計量より算出し得る。
(リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸塩)
リグニンスルホン酸、及びリグニンスルホン酸塩は、リグノセルロース原料から亜硫酸処理を経て調製される、スルホ基を有するリグニン誘導体である。リグニンスルホン酸、及びリグニンスルホン酸塩の調製方法としては、例えば、リグノセルロース原料またはリグニンそのものを亜硫酸処理して調製する方法、好ましくは、リグノセルロース原料またはリグニンそのものを亜硫酸蒸解処理して調製する方法が挙げられる。
(リグノセルロース原料)
リグノセルロース原料は、構成体中にリグノセルロースを含むものであれば特に限定されるものではない。例えば、木材、非木材等のパルプ原料が挙げられる。木材としては、たとえば、エゾマツ、アカマツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹木材、シラカバ、ブナ等の広葉樹木材が挙げられる。木材の樹齢、採取部位は問わない。そのため、互いに樹齢の異なる樹木から採取された木材や、互いに樹木の異なる部位から採取された木材を組み合わせて用いてもよい。非木材としては、例えば、竹、ケナフ、葦、稲が挙げられる。リグノセルロース原料は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
リグニンスルホン酸、及びリグニンスルホン酸塩は、リグノセルロース原料以外の原料、例えば、リグニンから調製されてもよい。リグニンとしては、天然由来のもの、人工的に製造されたもの(例えば、ヒドロキシケイ皮アルコール類縁体の脱水素重合物)が例示され、いずれも利用できる。リグニンからのリグニンスルホン酸、及びリグニンスルホン酸塩の調製は、例えば、リグニンを分解し、スルホ化する方法によることができる。
(亜硫酸処理)
亜硫酸処理は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかをリグノセルロース原料に接触させて行うことができる。亜硫酸処理の条件は、特に限定されず、リグノセルロース原料に含まれるリグニンの側鎖のα炭素原子にスルホ基が導入され得る条件であればよい。
亜硫酸処理は、亜硫酸蒸解法により行うことが好ましい。これにより、リグノセルロース原料中のリグニンをより定量的にスルホ化することができる。亜硫酸蒸解法は、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液(例えば、水溶液:蒸解液)中で、リグノセルロース原料を高温下で反応させる方法である。当該方法は、サルファイトパルプの製造方法として工業的に確立されており、実施されているため、経済性及び実施容易性の面で有利である。
亜硫酸塩の塩としては、亜硫酸蒸解を行う場合、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液における亜硫酸(SO2)濃度は、特に限定されないが、反応薬液100mLに対するSO2の質量(g)の比率が、1g/100mL以上が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には2g/100mL以上がより好ましい。上限は、20g/100mL以下が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には15g/100mL以下がより好ましい。SO2濃度は、1g/100mL~20g/100mLが好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には2g/100mL~15g/100mLがより好ましい。
亜硫酸処理のpH値は特に限定されないが、通常は10以下である。亜硫酸蒸解を行う場合、酸性下で行うことが好ましく、pH5以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。これにより、リグニン誘導体(例えば、リグニンスルホン酸塩)を効率よく取り出すことができ、より高品質のパルプを得ることができる。pH値の下限は、0.1以上が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には0.5以上がより好ましい。亜硫酸処理の際のpH値は、0.1~10が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には0.5~5がより好ましく、0.5~3が更に好ましい。
亜硫酸処理の温度は特に限定されないが、170℃以下が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には150℃以下がより好ましい。下限は、70℃以上が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には100℃以上がより好ましい。亜硫酸処理の温度条件は、70~170℃が好ましく、亜硫酸蒸解を行う場合には100℃~150℃がより好ましい。
亜硫酸処理の処理時間は特に限定されなく、亜硫酸処理の諸条件にもよるが、0.5~24時間が好ましく、1.0~12時間がより好ましい。
亜硫酸処理においては、カウンターカチオン(塩:式(1)で表される基の置換基Mを含む)を供給する化合物を添加することが好ましい。カウンターカチオンを供給する化合物を添加することにより、亜硫酸処理におけるpH値を一定に保つことができる。カウンターカチオンを供給する化合物としては、例えば、MgO、Mg(OH)2、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、NaOH、NaHCO3、Na2CO3が挙げられる。カウンターカチオンは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオンが好ましい。
亜硫酸処理において、亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液を用いる場合、溶液には必要に応じて、SO2のほかに、上記カウンターカチオン(塩)、蒸解浸透剤(例えば、アントラキノンスルホン酸塩、アントラキノン、テトラヒドロアントラキノン等の環状ケトン化合物)を含ませてもよい。
亜硫酸処理を行う際に用いる設備に限定はなく、例えば、一般に知られている溶解パルプの製造設備等を用いることができる。
亜硫酸及び亜硫酸塩の少なくともいずれかの溶液から中間生成物を分離するには、常法に従って行えばよい。分離方法としては、例えば、亜硫酸蒸解後の亜硫酸蒸解排液の分離方法(例えば、ろ過)が挙げられる。
リグニンスルホン酸、及びリグニンスルホン酸塩の製造方法の別の例としては、本明細書の後方に記載するクラフトリグニンをスルホ化する方法が挙げられる。クラフトリグニンのスルホ化の方法は、通常の亜硫酸処理や亜硫酸蒸解処理によるスルホ化にならえばよいが、特に限定されず他の方法を採用してもよい。
亜硫酸処理により得られる(例えば、亜硫酸溶液の不溶解物をろ過後のろ液又はろ過残渣として、好ましくはろ液として得られる)リグニンスルホン酸、及びリグニンスルホン酸塩は、そのまま、または必要に応じて濃縮して有効成分であるリグニン誘導体として用いてもよい。一方、必要に応じてさらに他の処理を行ってもよい。これにより、純度の高い、及び/又は、適度なスルホ化度(S含量)を有するリグニン誘導体を得ることができる。他の処理としては、例えば、アルカリ処理、酸化処理、透析処理、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
(アルカリ処理)
アルカリ処理は、亜硫酸処理後のろ過残渣(不溶解物)やろ液、透析処理後の処理物に対して行うことが好ましい。アルカリ処理は、対象サンプルをアルカリ性条件下におけばよい。アルカリ性条件下におくとは、通常、pH値が8以上、好ましくはpH値が9以上の水溶液下におくことをいう。pH値の上限は、通常、14である。
アルカリ処理においては、通常、アルカリ性物質を亜硫酸処理物に接触させる。アルカリ性物質は、特に限定されないが、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアが挙げられる。中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムが好ましい。アルカリ性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
亜硫酸処理物にアルカリ性物質を接触させる方法としては、亜硫酸処理物の分散液又は溶液(例えば、水分散液、水溶液)を調製し、該分散液又は溶液中にアルカリ性物質を添加する方法や、亜硫酸処理物にアルカリ性物質の溶液又は分散液(例えば、水分散液、水溶液)を添加する方法が例示される。
アルカリ処理の温度は特に限定されないが、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。上限は、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ性物質の量は、亜硫酸処理物の固形分質量に対して、或いは、アルカリ処理抽出物を水性溶媒(例えば、水)に分散した水溶液又は分散液を調製する場合、水溶液又は分散液の質量に対して、0.5~40質量%が好ましく、1.0~30質量%がより好ましい。
アルカリ処理の時間は特に限定されないが、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。上限は、10時間以下が好ましく、6時間以下がより好ましい。
アルカリ処理に先立ち、必要に応じて、亜硫酸処理物の溶解、分散処理、濃度の調整(水等の水性溶媒の溶液又は分散液の調製)を行ってもよい。分散処理は、ディスクリファイナーの通過、ミキサー、ディスパーザーへの添加、ニーダー処理等により行うことができる。濃度の調整は、例えば、水等の水性溶媒を用いて行うことができる。
(酸化処理)
酸化処理は、亜硫酸処理後に得られる処理物(例えば、ろ過後のろ液)、又はアルカリ処理後の処理物に対して行うことができる。酸化処理は、適宜酸化剤を用いて行えばよく、酸化剤が気体の場合、気体をろ液中に通気することにより行うことができる。酸化剤が液体の場合、液体をろ過残渣やろ液に添加することにより行うことができる。酸化剤は、空気、酸素、過酸化水素、オゾン、又はこれらの組み合わせが好ましい。酸化処理は、アルカリ条件で行うこと(アルカリ酸化処理)が好ましい。アルカリ酸化処理の処理pHは、通常8以上であり、10以上が好ましく、12以上がより好ましい。酸化処理の温度は、通常、20~200℃であり、好ましくは50~180℃である。酸化処理の時間は、通常、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。上限は、5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。
(透析処理またはUF処理)
透析処理は、亜硫酸処理後に得られる処理物(例えば、ろ過後のろ液)に対して行うことができる。透析膜としては、例えば、セルロースアセテート等のセルロース系膜、エチレンビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン等の合成高分子系膜が挙げられ、分子量分画は通常5,000~100,000、好ましくは7,000~80,000、より好ましくは10,000~50,000である。
透析処理の代わりに、UF処理を用いることができる。UF膜としては、公知のUF膜を用いることができる。例えば、中空糸膜、スパイラル膜、チューブラー膜、平膜が挙げられる。UF膜の素材は、公知のものを用いることができる。例えば、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、セラミックが挙げられる。なお、UF膜は市販品であってもよい。
UF膜の分画分子量は、5,000~30,000が好ましく、10,000~25,000がより好ましく、15,000~23,000がさらに好ましい。分画分子量が5,000以上のUF膜を用いると、処理液の分離速度が過度に遅くなることを防止し得る。また、分画分子量が30,000以下のUF膜を用いると、処理液からリグニンが分離されなくなることを防止し得る。
UF膜を用いたUF処理による濃縮倍率は、任意に設定できる。すなわち、濃縮液の流出量が任意の量になった時に、UF処理を停止すればよい。好ましくは2~6倍に濃縮することが好ましい。2~6倍に濃縮とは、原液(黒液)量が1/2~1/6量になることを意味する。
UF処理時の処理液の温度は特に限定されない。例えば、20~80℃が好ましく、UF膜材質の耐熱面を考慮すると、20~70℃がより好ましい。UF処理時の処理液のpH値は、2~11が好ましい。UF処理時の黒液の固形分濃度(w/w)は、2~30%が好ましく、5~20%がより好ましい。
(クラフトリグニン)
クラフトリグニン(Kraft lignin)は、チオリグニン(Thiolignin)、サルフェートリグニン(Sulphate Lignin)とも呼ばれる。クラフトリグニンは、例えば、リグノセルロース原料をクラフト蒸解することにより得られる黒液に対して酸添加等を行うことにより沈殿させて得ることができる。
クラフト蒸解は、リグノセルロース原料である木材チップを、苛性ソーダ(NaOH)及び硫化ナトリウム(NaS)を含むクラフト蒸解液とともに耐圧性容器に入れて行うことができる。木材チップと蒸解液の液比は、例えば、1.0~40L/kgとすることができ、1.5~30L/kgが好ましく、2.0~30L/kgがさらに好ましい。また別の態様において、木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0~5.0L/kgとすることができ、1.5~4.5L/kgが好ましく、2.0~4.0L/kgがさらに好ましい。
本発明においては、クラフト蒸解は、苛性ソーダ(NaOH)、硫化ナトリウム(NaS)の他に種々の蒸解助剤を併用することもできる。例えば、絶乾チップ当たり0.01~5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加してもよい。
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4-テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1-メチルアントラキノン、2-メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2-メチル-1,4-ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン、2-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10-ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2-メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4-ジヒドロ-9,10-ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
蒸解液は、対絶乾木材チップ質量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を8~55質量%とすることができ、8~20質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率が8質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、55質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOH、NaSの添加率をNaOの添加率として換算したもので、NaOHの添加率に0.775を乗じることでNaOの添加率に換算できる。また、硫化度は15~40%の範囲が好ましい。硫化度15%未満の領域においては、脱リグニン性の低下、パルプ粘度の低下、粕率の増加を招く。
クラフト蒸解は、120~180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140~160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
クラフト蒸解を行った後は、ろ過を行い、得られたアルカリ性の黒液(ろ液)を酸で沈殿させることにより、酸沈殿クラフトリグニンを調製することができる。この方法としては、例えば、粉末状の酸沈殿クラフトリグニンの調製方法(国際公開第2006/038863号、国際公開第2006/031175号、国際公開第2012/005677号)が挙げられる。
また、例えば、得られたアルカリ性の黒液に対して、二酸化炭素を通気して黒液のpHを10程度まで下げ、沈殿したリグニン粒子をろ過により分離し、分離したリグニン粒子を再度懸濁させ、硫酸を加えてpHを2程度まで下げ、得られた沈殿物をろ過により分離し、さらに沈殿物を水洗、乾燥等することによりクラフトリグニンを得ることができる。
(ソーダリグニン)
ソーダリグニンは、リグノセルロース原料をソーダ蒸解することにより得られる黒液に対して酸添加等を行うことにより沈殿させて得ることができる。
ソーダ蒸解は、リグノセルロース原料である木材チップをソーダ蒸解液(水酸化ナトリウム水溶液)とともに耐圧性容器に入れて行うことができる。木材チップと蒸解液の液比は、例えば、1.0~40L/kgとすることができ、1.5~30L/kgが好ましく、2.0~30L/kgがさらに好ましい。また別の態様において、木材チップと蒸解液の液比は、例えば、1.0~5.0L/kgとすることができ、1.5~4.5L/kgが好ましく、2.0~4.0L/kgがさらに好ましい。
本発明においては、ソーダ蒸解は、苛性ソーダ(NaOH)の他に種々の蒸解助剤を併用することもできる。例えば、絶乾チップ当たり0.01~5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加することが好ましい。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると助剤としての効果を十分に発揮させることができず、また、キノン化合物の添加量が5質量%を超えても助剤のパルプ中での残存が顕著になり、パルプから紙を製造した際に品質や安全性に影響が出る。なお、キノン化合物は、クラフト蒸解で説明したものと同様のものを用いることができる。
蒸解液は、対絶乾木材チップ質量当たりの苛性ソーダ添加率を1~50質量%とすることができ、10~30質量%とすることが好ましい。添加率が1質量%未満であるとリグニンやヘミルロースの除去が不十分となり、50質量%を超えると収率の低下や品質の低下が起こる。
ソーダ蒸解は、120~180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140~160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
ソーダ蒸解を行った後は、ろ過を行い、得られたアルカリ性の黒液(ろ液)を酸で沈殿させることにより、酸沈殿ソーダリグニンを調製することができる。例えば、アルカリ性の黒液に対して、硫酸を加えてpHを2程度まで下げ、得られた沈殿物をろ過により分離し、さらに沈殿物を水洗、乾燥等することによりソーダリグニンを得ることができる。
上記のようにして得られるクラフトリグニンおよびソーダリグニンは、必要に応じてさらに精製処理を行って純度を高めたリグニン誘導体として用いてもよい。また、必要に応じてさらに他の処理を行ってもよい。リグニンの誘導体化は特に限定されず、例えば、スルホメチル化を行ってもよい。
(スルホメチル化リグニン)
クラフトリグニン、ソーダリグニン、ソーダ-アントラキノンリグニン、オルガノソルブリグニン、爆砕リグニン、リグニンスルホン酸塩、硫酸リグニンなど、好ましくはクラフトリグニンおよびソーダリグニン、より好ましくはクラフトリグニンは、スルホメチル化により炭素を介して芳香核にスルホ基を導入して誘導体化し、スルホメチル化リグニンとして用いることができる。
クラフトリグニンのスルホメチル化反応では、一般的にリグニンのC-Cユニットに対して、下記一般式(1)に示す位置に炭素を介して芳香核にスルホ基が導入される。一般式(1)は、リグニンの部分構造であるC-Cユニットを示す。即ち、左側の矢印の反応ではα位にスルホ基が導入されており、一般にスルホ化と呼ばれる。一方、右側の矢印の反応ではα位以外に芳香核の5位にホルムアルデヒドを介してスルホ基が導入される。
Figure 0007341368000001
(一般式(1)中、Mは、水素原子、一価金属、又は二価金属を示す)
スルホメチル化リグニンの製造は、公知の方法で行えばよく、例えば、クラフトリグニン又はソーダリグニンと亜硫酸塩及びアルデヒド類を反応させることによって行い得る。
リグニンをスルホメチル化する方法の一例が、米国特許第2,680,113号に開示されている。この方法において、リグニンのスルホメチル化反応は、50~200℃の温度範囲で行われ、80~170℃の温度範囲で行われることが好ましく、90~160℃の温度範囲で行われることがさらに好ましい。また、スルホメチル化反応時のpHは、8以上が好ましい。
添加する亜硫酸塩の量は、反応を効率的に行い、かつ過剰に入れた際に未反応物が残存するのを防止する観点から、リグニンに対して1~50質量%が好ましい。
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒドが好ましい。添加するアルデヒドの量は、リグニンに対して0.25~12.5質量%が好ましい。ホルムアルデヒドがかかる範囲であると、上記一般式(1)の右側の矢印の反応が良好に進み、ホルムアルデヒドを介してスルホ基が導入される。
(任意成分)
リグニン成分は、リグニン誘導体を調製する際(例えば、亜硫酸蒸解の際)に原料より混入してくる抽出成分以外の成分、例えば、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、水酸化ナトリウム等の無機塩を含んでもよい。
(負極)
本発明の負極は、二次電池に用いられるものであり、本発明の負極添加剤と、負極結合剤と、負極活物質を含む負極活物質層を備える。
負極活物質層中の負極添加剤の含有量は、固形分基準で、0.1~10質量%が好ましく、0.2~8質量%がより好ましい。また、負極活物質層における負極添加剤の含有割合は、固形分基準で、負極活物質100質量部に対して、0.05~10質量部が好ましく、0.1~7質量部がより好ましい。
(負極結合剤)
本発明に用いられる負極結合剤としては、一般的に負極に用いられる結合剤であれば特に限定されないが、水系で負極を調製する場合には性能が高いという観点から、カルボキシメチルセルロース又はその塩を用いることが好ましい。また、負極結合剤には、カルボキシメチルセルロース又はその塩以外のその他の結合剤を含んでいてもよい。その他の結合剤としては、合成ゴム系バインダーが挙げられる。
(カルボキシメチルセルロースおよび/又はその塩)
カルボキシメチルセルロースおよび/又はその塩(以下、「CMC」と略記することがある。)は、セルロースを構成するグルコース単位中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つ。カルボキシメチルセルロースは、塩の形態であってもよい。カルボキシメチルセルロースの塩としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などが例示される。
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース単位」、「無水グルコース」とも言う。)がβ,1-4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。
天然セルロースとしては、晒又は未晒パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹等が挙げられる。晒又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいは、機械的方法及び化学的方法を組み合わせた方法が例示される。晒又は未晒パルプとしては、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ、製紙用パルプが例示される。また晒又は未晒パルプとしては、化学的に精製され、主として薬品に溶解して使用する、人造繊維、セロハンなどの主原料となる溶解パルプも例示される。
再生セルロースとしては、セルロースを、銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体などの溶媒に溶解し、改めて紡糸して得られる再生セルロースが例示される。
微細セルロースとしては、天然セルロース、再生セルロースなどのセルロース系素材を、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理して得られる微細セルロース、セルロース系素材を機械的に処理して得られる微細セルロースが例示される。
CMCを製造するにあたっては、公知のCMCの製法を適用することができる。例えば、セルロースをマーセル化剤(アルカリ)で処理してマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を調製した後に、マーセル化セルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応させることでCMCを製造することができる。
原料のセルロースとしては、上述のセルロースであれば特に制限なく用いることができるが、セルロース純度が高いものが好ましく、溶解パルプ又はリンターがより好ましい。これらを用いることにより、純度の高いCMCを得ることができる。
マーセル化剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属塩が例示される。エーテル化剤としてはモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ソーダ等が例示される。
水溶性の一般的なカルボキシメチルセルロースの製法において、マーセル化剤とエーテル化剤のモル比(マーセル化剤/エーテル化剤)は、エーテル化剤としてモノクロロ酢酸を使用する場合では2.00~2.45が一般的である。その理由は、2.00以上であることによりエーテル化反応を十分に行うことができ、未反応のモノクロロ酢酸が残って無駄となることを防止できる。2.45以下であることにより、過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸による副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成することを防止でき、経済的である。
本発明においてCMCは市販品であってもよい。市販品としては、例えば、日本製紙(株)製の商品名「サンローズ」が挙げられる。
(カルボキシメチル基の置換度)
CMCは、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基の置換度(以下、DS値ということがある。)が、0.5~1.2である。DS値が0.5以上であることにより、水への溶解性を良好に保つことができ、未溶解物の発生を抑制することができる。また、DS値が1.2以下であることにより、液の曳糸性の増加を抑え、取扱いを容易に保つことができる。よって、本発明のCMCのDS値は0.5~1.2、好ましくは0.5~1.0であり、さらに好ましくは0.6~1.0である。
なお、カルボキシメチル基の置換度の測定方法は以下の通りである。
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチルセルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチルセルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-HSOで過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-HSO(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-HSOのファクター
F:0.1N-NaOHのファクター
(粘度)
CMCの、25℃においてB型粘度計(30rpm)を用いて測定した1質量%水溶液の粘度は、1,000~20,000mPa・sであることが好ましく、1,000~15,000mPa・sであることがより好ましく、1,000~10,000mPa・sであることがさらに好ましい。この粘度が高すぎるとスラリー作製時に活物質や導電助剤と上手く混合できないといった問題やスラリーを集電体に塗工する際に流動性が乏しく塗工できないという問題があり、低すぎるとスラリーを集電体に塗布した際に集電体から流れ落ち、上手く塗工できないことや、塗工した後に活物質のマイグレーションが生ずる可能性があるという問題がある。
なお、粘度の測定方法は以下の通りである。
CMCを、1000mL容ガラスビーカーに測りとり、蒸留水900mLに分散し、固形分1%(w/v)となるように水分散体を調製する。水分散体を25℃で撹拌機を用いて600rpmで3時間撹拌する。その後、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、回転数30rpmで3分後の粘度を測定する。
CMCは、1種類であってもよいし、DS値、粘度、分子量などの異なる2種類以上のCMCの組み合わせであってもよい。
(合成ゴム系バインダー)
合成ゴム系バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルブタジエンゴム、メチルメタクリレートブタジエンゴム、クロロプレンゴム、カルボキシ変性スチレンブタジエンゴム及びこれら合成ゴムのラテックスよりなる群から選択された1種以上が使用できる。このうち、スチレンブタジエンゴム(SBR)が好ましい。
ここで、SBRの平均粒子径(D50)は、50~300nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。SBRの平均粒子径(D50)が大きすぎるとSBRが活物質に均一に付着せず、バインダー機能が低下するため、電気抵抗が高くなるという問題があり、小さすぎるとSRBが活物質を覆ってしまい、電気抵抗が高くなってしまうという問題がある。
また、SBRのガラス転移温度(Tg)は、-50℃~50℃であることが好ましい。ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内であると、負極用合剤組成物に含まれるカルボキシメチルセルロースおよび/又はその塩、および本発明の負極添加剤とよく混ざり合い、かつ負極層とした際に適切な柔軟性を有するため、電気抵抗が高くなりにくい。
負極結合剤として、CMCとSBRとを併用する場合は、最適なバインダー性能を得るという観点から、固形分基準で、CMC100質量部に対してSBRを50~500質量部用いることが好ましい。
負極活物質層における負極結合剤と、負極添加剤との含有割合は、最適なバインダー性能を得るという観点から、固形分基準で、負極結合剤100質量部に対して負極添加剤10~250質量部が好ましく、12~200質量部であることがより好ましい。
負極活物質層中の負極結合剤の含有量は、固形分基準で0.05~10質量%が好ましく、1~7質量%がより好ましい。
(負極活物質)
本発明に用いられる負極活物質としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)、コークス、炭素繊維などの黒鉛質材料;リチウムと合金を形成することが可能な元素、すなわち例えばケイ素系化合物、Al、Sn、Ag、Bi、Mg、Zn、In、Ge、Pb、Tiなどの元素;リチウムと合金を形成することが可能な元素を含む化合物;リチウムと合金を形成することが可能な元素及び前記化合物と、炭素及び/又は前記黒鉛質材料との複合化物、若しくはリチウムを含む窒化物などを例示することができる。このうち黒鉛質材料及びケイ素系化合物が好ましく、黒鉛及びケイ素系化合物としてケイ素粒子又はケイ素酸化物粒子がより好ましい。
なお、本発明におけるケイ素酸化物とは、SiO(0<x≦2)で表されるものである。また本発明において、負極活物質としては、ケイ素系化合物と黒鉛質材料との複合体がさらに好適である。
前記負極活物質が黒鉛質材料とケイ素系化合物との複合体である場合、黒鉛質材料とケイ素系化合物は、黒鉛質材料:ケイ素系化合物=10:90~90:10の配合比が好ましく、50:50~80:20がさらに好ましい。
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、通常は90~99質量%、好ましくは91~99質量%、より好ましくは92~99質量%、さらに好ましくは95~99質量%、特に好ましくは96~99重量%、最も好ましくは98~99質量%である。
また、負極活物質層には、必要に応じて負極導電助剤を含んでいてもよい。負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンが挙げられる。負極活物質層中の負極導電助剤の含有量は、固形分基準で、通常0.01~20質量%、好ましくは0.1~10質量%である。
(負極の製造方法)
本発明の負極は、例えば、本発明の負極添加剤、負極結合剤、負極活物質、及び必要に応じて用いられる負極導電助剤等の助剤と、溶媒とを含むスラリー状の負極用合剤組成物を得てから、これを集電体に塗布・乾燥することにより、集電体上に負極活物質層が形成された負極として得ることができる。
負極用合剤組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、本発明の負極添加剤と、負極結合剤とを溶媒に溶解又は分散させ、そこへ負極用合剤組成物に用いられるその他の材料を添加し、必要に応じて撹拌しながら混合する方法が挙げられる。また、本発明の負極添加剤、負極結合剤、負極活物質、及び必要に応じて用いられる負極導電助剤等の助剤を先に混合しておき、そこへ溶媒を加えて、必要に応じて撹拌しながら混合する方法を採用してもよい。また、負極用合剤組成物の性状も特に限定されない。例えば、液状、ペースト状、スラリー状などが挙げられ、いずれであってもよい。
負極用合剤組成物に用いる溶媒としては、水系溶媒が好ましい。水系溶媒の種類は特に限定されないが、水、水溶性有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒であることが好ましく、水がより好ましい。
水溶性有機溶媒とは、水に溶解する有機溶媒である。その例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン(THF)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、コハク酸メチルトリグリコールジエステル、酢酸およびこれらの組合せ等が挙げられる。
水系溶媒として上記混合溶媒を用いる場合において、混合溶媒中の水溶性有機溶媒の量は、10質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。当該量の上限は限定されないが95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。また、発明の効果を損なわない範囲で、水系溶媒は非水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。
集電体上に負極用合剤組成物を塗布する方法としては、例えば、ブレード塗工、バー塗工、ダイ塗工が挙げられ、ブレード塗工が好ましい。例えばブレード塗工の場合には、ドクターブレードなどの塗工装置を用いて負極用合剤組成物を集電体上にキャスティングする方法が例示される。また、塗布の方法は上記具体例に限定されず、バックアップロールに巻回して走行する集電体上に、スロットノズルを有するエクストルージョン型注液器より前記負極用合剤組成物を吐出させ塗布する方法も例示される。ブレード塗工においては、キャスティング後さらに必要に応じて加熱(温度は例えば80~120℃、加熱時間は例えば4~12時間)などによる乾燥、ロールプレスなどによる加圧を行うことにより負極活物質層が得られる。
電極の形状は特に限定されないが、通常はシート状である。シート状の極板の場合の厚さ(集電体部分を除く、負極用合剤組成物から形成される負極活物質層の厚さ)は、組成物の組成や製造条件などにもよるので規定することは困難であるが、通常は30~150μmである。
(負極用集電体)
集電体としては、電極あるいは電池において致命的な化学変化を起こさない電気伝導体であれば何れも使用可能である。
負極用集電体の材料としては、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、炭素、銅又はステンレス鋼の表面に、カーボン、ニッケル、チタン又は銀を付着処理させたもの等が例示される。これらのうち、銅又は銅合金が好ましく、銅がより好ましい。
集電体の形状としては、網、パンチドメタル、フォームメタル、板状に加工された箔などが例示され、板状に加工された箔が好ましい。
(リチウムイオン電池)
上記した本発明の負極を含む二次電池は、好適には、リチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池)である。
リチウムイオン二次電池は、正極及び負極が交互に、セパレータを介して積層され、多数回巻回された構造を取りうる。また、多数回巻回された正極、セパレータ、及び負極の積層体を、電池容器に入れ、非水電解質を注入して封口することによりリチウムイオン二次電池が得られる。
(正極)
正極は、例えば、正極用集電体に正極活物質層を有している。
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極活物質のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、必要に応じて正極用結合剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極用結合剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極用結合剤、負極導電助剤と同様である。なお、正極用結合剤としては、負極用結合剤として挙げたカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、合成ゴム系バインダーのほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)も例示される。
(正極活物質)
正極活物質としては、LiFePO、LiMe(MeはNi、Co、Mnの少なくとも1種を含む遷移金属を意味する。x、yは任意の数を意味する。)系の正極活物質が好ましい。
(正極用集電体)
正極用集電体の材料としては、アルミニウム、ステンレスなどの金属が例示され、アルミニウムが好ましい。
(セパレータ)
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン製の微孔膜または不織布を用いることができる。なお、前記セパレータは、非水電解質で含浸され得る。
(非水電解質)
非水電解質は、通常、リチウム塩と非水溶媒を含んでなる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiClO4等が挙げられる。また、非水溶媒としては、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート等が挙げられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。非水電解質におけるリチウム塩の濃度は、通常0.5~2.5モル/Lの濃度で用いることができる。
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定はなく、円筒型、角型、扁平型、コイン型、ボタン型、シート型等を採用することができる。また、電池容器の材質としては、電池内部への水分の侵入を防ぐ目的を達成可能な限り特に限定はなく、金属、アルミニウム等のラミネート等が挙げられる。
本発明の負極添加剤は、リグニン誘導体を少なくとも含むリグニン成分を含有するものであり、リグニン成分の固形分当たりの、抽出成分量のメトキシ基量に対する質量比が特定の範囲内であるため、この負極添加剤を添加した負極は、負極活物質として充放電に伴い膨張収縮することが知られているSiOxを用いた場合であっても、膨張収縮に伴う構造破壊が抑制され、この負極を使用したリチウムイオン電池は放電容量等の特性に優れる。
以下、本発明の実施の形態を実施例により説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
<測定方法および評価方法>
実施例および比較例において、以下のように測定・評価を行った。
(メトキシ基量)
実施例および比較例で製造したリグニン誘導体のメトキシ基量は、Viebock及びSchwappach法によるメトキシ基の定量法(「リグニン化学研究法」、P.336~340、平成6年、ユニ出版(株)発行、参照)によって測定した。
(抽出成分量)
抽出成分量は、JIS K 0102:2019記載のヘキサン抽出物質の測定法によって測定した。
(S含量)
実施例および比較例で製造したリグニン誘導体のスルホ基(-SOM)のS含量は、以下の式により求めた。
S含量(質量%)=全S含量(質量%)-無機態S含量(質量%)
(式中のS含量は、いずれもリグニンサンプルの固形分量に対するS含量を示す。)
式中、全S含量は、ICP発光分光分析法により定量した。また、無機態S含量の算出には、イオンクロマト法により定量したSOイオン含量、SOイオン含量及びSイオン含量の合計量を計算に用いた。
(アルカリ性ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率)
実施例および比較例で製造したリグニン誘導体のアルカリ性ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率の測定は、「植物細胞壁実験法」記載の方法により行った(「植物細胞壁実験法」、P.128~131、2016年、弘前大学出版会発行、参照)。総分解生成物収率は、試料固形分に対する、測定で得られた6つの分解生成物類(p-ヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシ安息香酸、バニリン、バニリン酸、シリンガアルデヒド、シリンガ酸)の合計重量の割合(w/w%)で求めた。
(放電容量(充放電レート試験))
実施例、比較例、及び参考例で作製したコイン型リチウムイオン二次電池の充放電レート試験は株式会社ナガノのBTS2004を用い、25℃の恒温槽にて、コイン型リチウムイオン二次電池を用いて、充電処理-放電処理の順で行う充放電を1サイクルとして、52サイクルを実施した。なお、充電処理の条件としては、すべてのサイクルで、定電流定電圧(CC-CV)方式(CC電流0.2C、CV電圧4.2V、終止電流0.02C)とした。
放電処理の条件としては、終止電圧を3.0Vに設定した。最初の1サイクルは、放電処理の定電流を0.2Cで行い、放電後に1サイクル後の放電容量(mAh/g)を計測した。
その後の52サイクル目までは、下記の通り放電処理の定電流を設定し、各サイクルの放電後に放電容量(mAh/g)の計測を行った。
(各サイクルにおける放電処理の定電流)
2~10サイクル :放電処理の定電流0.2C
11~20サイクル:放電処理の定電流1C
21サイクル :放電処理の定電流0.2C
22~31サイクル:放電処理の定電流2C
32サイクル :放電処理の定電流0.2C
33~42サイクル:放電処理の定電流3C
43~52サイクル:放電処理の定電流0.2C
(容量維持率)
容量維持率は、前述の各サイクル試験での放電容量(mAh/g)から、「容量維持率=52サイクル後の放電容量(mAh/g)/1サイクル後の放電容量(mAh/g)×100」の式より算出した。結果を表1に示した。
(実施例1)
(高変性リグニン誘導体の製造)
木材チップ(ラジアータパイン)を亜硫酸蒸解法に基づき亜硫酸処理した。亜硫酸処理においては、SO濃度4g/100mLの亜硫酸ナトリウムの溶液を用いて、温度140℃、pH2、処理時間4時間とした。次に、中間組成物をろ過および脱水し、ろ液1とパルプ(亜硫酸処理物)を得た。続いて、当該パルプをNaOH5質量%(対パルプ固形分)に懸濁させてからアルカリ処理し、その後ろ過してアルカリ処理パルプとアルカリ処理抽出物とを分離して、ろ液としてアルカリ処理抽出物1を得た。アルカリ処理は、NaOH5質量%(対パルプ固形分)を接触させ、100℃にて2時間処理する条件で行った。
得られたろ液1とアルカリ処理抽出物1を固形分質量比で、ろ液1/アルカリ処理抽出物1が9/1の割合となるように混合し、原料1を得た。得られた原料1を、固形分が50%となるまでロータリーエバポレーターで濃縮した。その後溶液のpHをNaOHでpH4.5に調整し、スプレードライヤーで粉末化した。得られた粉末を水に溶解して固形分が25%の水溶液となるように調製し、40%NaOHでpH13とした後、160℃で120分間アルカリ空気酸化した。その後、70%硫酸を加えてpH3とし、沈殿物を分別沈殿させた。得られた沈殿物を、ろ液が中性となるまで水で洗浄し、沈殿物の20部を80部の水に懸濁し、60℃に加温後に撹拌しながらpHが9となるまで40%NaOHを加えて沈殿物を完全に溶解した。得られた溶液をスプレードライヤーで粉末化して高変性リグニン誘導体Aを得た(メトキシ基量:11.9質量%、抽出成分量:0.7質量%、抽出成分量/メトキシ基量:0.06、スルホ基のS含量:1.6質量%、ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率:7.1%)。
(負極用合剤組成物の製造)
負極活物質としてのSiOxと、導電助剤としてのアセチレンブラック(Stream Chemical社製)と、カルボキシメチルセルロース(日本製紙社製、MAC500LC)(DS値:0.65mol/C6、1%粘度:4700mPa・s)と、高変性リグニン誘導体Aと、スチレンブタジエンゴム(SBR、株式会社ENEOSマテリアル社製、品番TRD104A)とを、固形分質量比率が97:0.5:0.67:0.33:1.5になるように混合し、スラリー濃度が45.6質量%になるように水を添加し、マゼルスター(倉敷紡績製、KK-250S)を用いてよく撹拌し、スラリー状の負極用合剤組成物を得た。
(負極板の作製)
このスラリー状の負極用合剤組成物をアプリケーターで縦320mm×横170mm×厚さ17μmの銅箔(古河電気工業社製、NC-WS)に塗工して30分間風乾した後、乾燥機にて60℃で30分間乾燥した。更に小型卓上ロールプレス(テスター産業社製、SA-602)を用いて、5kN、ロール周速50m/minの条件でプレスし、目付量19.7g/m、放電実効容量2100mAh/gの負極板を得た。
(コイン型リチウムイオン二次電池の作製)
得られた負極板と、LiCoO正極板(NEI社製、目付量20.56mg/cm、容量3mAh/cm)を直径16mmの円形になるように打ち抜き、打ち抜いた負極板と正極板を120℃で12時間真空乾燥を行った。
同様に直径17mmの円形となるようにセパレータ(CS Tech社製、厚み20μmのポリプロピレンセパレータ)を打ち抜き、60℃で12時間真空乾燥を行った。
その後、直径20.0mmのステンレス製円形皿型容器に負極板を置き、次いで、セパレータ、正極板、スペーサー(直径15.5mm、厚さ1mm)、ステンレス製のワッシャー(宝泉株式会社製)をこの順で積層し、その後円形皿型容器に電解液(1mol/LのLiPF、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの体積比1:1)を300μL添加した。これにポリプロピレン製のパッキンを介してステンレス製のキャップを被せ、コイン電池用かしめ機(宝泉株式会社)で密封し、コイン型のリチウムイオン二次電池を得た。
(実施例2)
(高変性リグニン誘導体の製造)
木材チップ(ラジアータパイン)を亜硫酸蒸解法に基づき亜硫酸処理した。亜硫酸処理においては、SO濃度2.5g/100mLの亜硫酸ナトリウムの溶液を用いて、温度140℃、pH3、処理時間4時間とした。次に、中間組成物をろ過および脱水し、ろ液2とパルプ(亜硫酸処理物)を得た。続いて、当該パルプをNaOH5質量%(対パルプ固形分)に懸濁させてからアルカリ処理し、その後ろ過してアルカリ処理パルプとアルカリ処理抽出物とを分離して、ろ液としてアルカリ処理抽出物2を得た。アルカリ処理は、NaOH5質量%(対パルプ固形分)を接触させ、100℃にて2時間処理する条件で行った。
得られたろ液2とアルカリ処理抽出物2を固形分質量比で、ろ液2/アルカリ処理抽出物2が9/1の割合となるように混合し、原料2を得た。得られた原料2を、固形分が50%となるまでロータリーエバポレーターで濃縮した。その後溶液のpHをNaOHでpH4.5に調整し、スプレードライヤーで粉末化した。得られた粉末を水に溶解して固形分が25%の水溶液となるように調製し、40%NaOHでpH12とした後、150℃で120分間アルカリ空気酸化した。その後、70%硫酸を加えてpH3とし、沈殿物を分別沈殿させた。得られた沈殿物を、ろ液が中性となるまで水で洗浄し、沈殿物の20部を80部の水に懸濁し、60℃に加温後に撹拌しながらpHが9となるまで40%NaOHを加えて沈殿物を完全に溶解した。得られた溶液をスプレードライヤーで粉末化して高変性リグニン誘導体Bを得た(メトキシ基量:11.8質量%、抽出成分量:1.1質量%、抽出成分量/メトキシ基量:0.10、スルホ基のS含量:2.7質量%、ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率:8.9%)。
高変性リグニン誘導体Aに代えて高変性リグニン誘導体Bを用いたこと以外は実施例1と同様に、負極用合剤組成物の製造、負極板の作製、及びコイン型リチウムイオン二次電池の作製を行った。
(実施例3)
(高変性リグニン誘導体の製造)
実施例1で調製したアルカリ処理抽出物1を含む原料1を、固形分が50%となるまでロータリーエバポレーターで濃縮した。その後溶液のpHをNaOHでpH4.5に調整し、スプレードライヤーで粉末化した。得られた粉末を水に溶解して固形分が25%の水溶液となるように調製し、透析膜(分子量分画:20,000、スペクトラ/ポア セルロースエステル透析用チューブ)を用い、3日間透析処理した。透析チューブ内の溶液を集め、原液量が25%となるまで濃縮し、スプレードライヤーにより粉末化して透析処理物1を得た。
撹拌装置及び温度コントローラーのついた3L容オートクレーブに、透析処理物1を含む下記の物質を所定量仕込んだ。
透析処理物1 : 500g
水酸化ナトリウム: 75g
水 : 1,500g
この混合液を撹拌下、140℃に加温後2時間保持し、その後70℃まで冷却し、空気を500mL/minで3時間吹き込んだ。得られた溶液をスプレードライヤーで粉末化して高変性リグニン誘導体Cを得た(メトキシ基量:9.7質量%、抽出成分量:0.2質量%、抽出成分量/メトキシ基量:0.02、スルホ基のS含量:5.6質量%、ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率:7.1%)。
高変性リグニン誘導体Aに代えて高変性リグニン誘導体Cを用いたこと以外は実施例1と同様に、負極用合剤組成物の製造、負極板の作製、及びコイン型リチウムイオン二次電池の作製を行った。
(実施例4)
(高変性リグニン誘導体の製造)
木材チップ(ラジアータパイン)をクラフト蒸解法に基づき、アルカリ処理した。アルカリ処理は回転式反応釜を用いて行い、以下の条件で実施した。活性アルカリ(対絶乾チップ):20%、硫化度:25%、液比:3.2 L/kg、反応温度:165℃、反応時間:180分。アルカリ処理に用いた反応液の調製には、水酸化ナトリウムおよび硫化ナトリウムを水に溶解して活性アルカリ濃度 50 g/Lとしたものを使用した。反応後はろ過を行い、ろ液としてアルカリ処理抽出物3を得た。アルカリ処理抽出物3に二酸化炭素を通気して黒液のpHを10まで下げ、1次ろ過を実施した。1次ろ過により得られた沈殿物をイオン交換水に分散させ、硫酸を滴下してpH2まで下げて2次ろ過を実施した。2次ろ過により得られた沈殿物を水洗したのちに、乾燥してろ過沈殿物1を得た。
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1Lセパラブルフラスコに、乾燥したろ過沈殿物1を固形分17%となるよう40%NaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム17部、37%ホルムアルデヒド溶液12部を仕込み、撹拌下にて95℃で24時間反応した。室温まで冷却後、得られた溶液をスプレードライヤーで粉末化して高変性リグニン誘導体Dを得た(メトキシ基量:10.1質量%、抽出成分量:1.0質量%、抽出成分量/メトキシ基量:0.10、スルホ基のS含量:4.4質量%、ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率:4.7%)。
高変性リグニン誘導体Aに代えて高変性リグニン誘導体Dを用いたこと以外は実施例1と同様に、負極用合剤組成物の製造、負極板の作製、及びコイン型リチウムイオン二次電池の作製を行った。
(実施例5)
(高変性リグニン誘導体の製造)
木材チップ(ラジアータパイン)をソーダ蒸解法に基づき、アルカリ処理した。アルカリ処理は回転式反応釜を用いて行い、以下の条件で実施した。チップを入れた回転式反応釜に、水酸化ナトリウムをチップの対固形分で25w/w%およびアントラキノンをチップの対固形分で0.02w/w%となるように添加し、液比が5.0 L/kgとなるようにイオン交換水を添加した。次に回転させながら蒸気を吹き込んで160℃に昇温して4時間反応させた。反応後はろ過を行い、ろ液としてアルカリ処理抽出物4を得た。アルカリ処理抽出物4に硫酸を滴下してpH2まで下げてろ過を実施した。ろ過により得られた沈殿物を水洗したのちに、乾燥してろ過沈殿物2を得た。
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1Lセパラブルフラスコに、乾燥したろ過沈殿物2を固形分17%となるよう40%NaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム8.5部、37%ホルムアルデヒド溶液6.0部を仕込み、撹拌下にて95℃で24時間反応した。室温まで冷却後、得られた溶液をスプレードライヤーで粉末化して高変性リグニン誘導体Eを得た(メトキシ基量:10.6質量%、抽出成分量:1.0質量%、抽出成分量/メトキシ基量:0.09、スルホ基のS含量:3.0質量%、ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率:3.7%)。
高変性リグニン誘導体Aに代えて高変性リグニン誘導体Eを用いたこと以外は実施例1と同様に、負極用合剤組成物の製造、負極板の作製、及びコイン型リチウムイオン二次電池の作製を行った。
(比較例1)
(リグニンスルホン酸塩の製造)
実施例1にて得られたろ液1を、固形分が50%となるまでロータリーエバポレーターで濃縮した。その後溶液のpHをNaOHでpH4.5に調整し、スプレードライヤーで粉末化した。得られた粉末を水に溶解して固形分が25%の水溶液となるように調製し、透析膜(分子量分画:20,000、スペクトラ/ポア セルロースエステル透析用チューブ)を用い、3日間透析処理した。透析チューブ内の溶液を集め、原液量が25%となるまで濃縮し、スプレードライヤーにより粉末化して比較例1のリグニンスルホン酸塩を得た(メトキシ基量:11.1質量%、抽出成分量:0.03質量%、抽出成分量/メトキシ基量:0.003、スルホ基のS含量:6.7質量%、ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率:16.0%)。
高変性リグニン誘導体Aに代えて上記のようにして得られた比較例1のリグニンスルホン酸塩を用いたこと以外は実施例1と同様に、負極用合剤組成物の製造、負極板の作製、及びコイン型リチウムイオン二次電池の作製を行った。
(参考例)
負極用合剤組成物の製造において、高変性リグニン誘導体Aを添加しなかったこと以外は実施例1と同様に負極用合剤組成物を製造した。なお、負極活物質としてのSiOxと、導電助剤としてのアセチレンブラック(Stream Chemical社製)と、カルボキシメチルセルロース(日本製紙社製、MAC500LC)(DS値:0.65mol/C6、1%粘度:4700mPa・s)と、スチレンブタジエンゴム(SBR、株式会社ENEOSマテリアル社製、品番TRD104A)とを、固形分質量比率が97:0.5:1.0:1.5になるように混合した。これを用いて実施例1と同様にして負極板の作成、及びコイン型リチウムイオン二次電池の作製を行い、ブランクとした。
Figure 0007341368000002
表1に示すように、比較例1のリグニンスルホン酸塩を用いた電池は、ブランクと比べると容量維持率は向上するものの、性能は十分ではないことがわかる。しかしながら、抽出成分が多く含まれる実施例1~5の高変性リグニン誘導体A~Eを用いた電池は、抽出成分が少量しか含まれない比較例1のリグニンスルホン酸塩を用いた電池と比較して、電池の容量維持率が明らかに向上することがわかる。
実施例1~5と比較例1で電池性能向上の程度が異なる原因を調べる目的で、電極用結合剤のフィルムを作製し、フィルムの特性を評価した。
(電極用結合剤フィルムの作製)
カルボキシメチルセルロースMAC500LCを固形分濃度1%(w/v)、リグニン誘導体(実施例1~5で得られた高変性リグニン誘導体A~Eまたは比較例1で得られたリグニンスルホン酸塩のいずれか)を固形分濃度0.5%(w/v)となるように水を加えて調整した後、カルボキシメチルセルロースに対し固形分量で50質量%となるようにグリセロールを添加し、溶解するまでよく撹拌した。
次いで、マゼルスター(倉敷紡績製、KK-250S)を用いて脱泡を行い、直径14cmのポリテトラフルオロエチレン製シャーレに80g流し込み、気泡が入らないようにシャーレ全面に流し広めた後、送風乾燥機にて30℃で30時間乾燥させて、フィルムを得た。
(フィルム評価)
上記のようにして得た電極用結合剤フィルムを、室温23℃、湿度50%に保たれた部屋に静置して一昼夜調湿し、1.5cm幅に断裁した後、テンシロン万能試験機にて引張試験を行った。試験はサンプル間距離5cm、速度1cm/minの条件で実施し、破断点伸度(伸び率)及び引張強度を得た。結果を表2に示した。
Figure 0007341368000003
表2に示すように、比較例1のリグニンスルホン酸塩を用いたフィルムは、実施例1~5の高変性リグニン誘導体A~Eを用いたフィルムに比べて、明らかに破断点伸度(伸び率)が低いことが分かる。負極活物質(SiOx)は、充放電に伴って膨張収縮することが知られており、この膨張収縮に起因する構造破壊が電池の容量維持率低下の一因となっている。比較例1のリグニンスルホン酸塩を用いた電池が実施例1~5の高変性リグニン誘導体A~Eを用いた電池と比べて電池性能が劣る原因として、電極用結合剤のフィルムの破断点伸度が低いことより、充放電に伴う膨張収縮に起因する構造破壊が、実施例1~5の高変性リグニン誘導体A~Eよりも進んでしまうことが挙げられる。結果として、容量維持率の低下につながっていると考えられる。一方、電極用結合剤のフィルムで高い破断点伸度をもたらした、抽出成分が多く含まれる実施例1~5の高変性リグニン誘導体A~Eでは、たとえ充放電に伴う膨張収縮が起きても、伸び率が高い、すなわち柔軟性の高い構造物を形成できたため、構造破壊がそれほど進行せず、高い容量維持率を保つことができた可能性が考えられる。実施例1~5の高変性リグニン誘導体は、原料の一部または全量にアルカリ処理抽出物を用いたが、このアルカリ処理抽出物はリグニン誘導体と同じ六員環構造を有する樹脂酸類(例えばアビエチン酸)および芳香環を有するものが抽出成分として多く含まれている。高変性リグニン誘導体A~Eを含むフィルムが柔軟性の高い構造物を形成できた原因として、高度に変性したリグニン誘導体とアルカリ処理抽出物に含まれる抽出成分が相互作用して、電池負極内でそれぞれが高度に配向して柔軟な構造を形成できた可能性が考えられる。

Claims (6)

  1. リグニン誘導体を少なくとも含むリグニン成分を含有し、
    前記リグニン成分の固形分当たりの、抽出成分量のメトキシ基量に対する質量比が0.005~0.25であ
    前記リグニン成分の固形分当たりの抽出成分量が、0.05~2.5質量%であり、
    前記リグニン成分の固形分当たりのメトキシ基量が、3~18質量%である二次電池の負極添加剤。
  2. 前記リグニン成分の固形分当たりの、アルカリ性ニトロベンゼン酸化による総分解生成物収率が、15%以下である、請求項1に記載の負極添加剤。
  3. 前記リグニン誘導体は、下式(1)に示す官能基を有し、前記官能基中のS含量が1.0~6.5質量%である、請求項1に記載の負極添加剤。
    式(1):-SO
    (式中、Mは、水素原子、一価金属、又は二価金属を示す)
  4. 請求項1記載の負極添加剤と、負極結合剤と、負極活物質を含む負極活物質層を備える二次電池用の負極。
  5. 請求項4記載の負極を含む二次電池。
  6. 前記二次電池がリチウムイオン電池である請求項1に記載の負極添加剤。
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