次に、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施例について)
(レーダ装置の構成と動作)
図1は、本発明に係るレーダ装置1の構成を示すブロック図である。なお、本発明に係るレーダ装置1は、周波数が連続的に増加または減少するチャープ波を送信して対象物T1に関する物理量(例えば、距離および相対速度)を検出するFCM(Fast Chirp Modulation)方式として説明するが、FCM方式に限定されず、パルス方式でもよい。
ここで、FCM方式について説明する。図2は、2種類のチャープ信号によるFCM方式の送信信号波形を模式的に示す図である。FCM方式の場合、少なくとも1つ以上のチャープ信号f1を送信信号S1として送信し、対象物T1で反射された電磁波(第1受信信号R1)を受信する期間と、送信信号S1とは異なる開始周波数、終了周波数である少なくとも1つ以上のチャープ信号f2を送信信号S2として送信し、対象物T1で反射された電磁波(第2受信信号R2)を受信する期間を設ける。チャープ信号f1は、開始周波数がfa1であり、終了周波数がfb1である。チャープ信号f2は、開始周波数がfa2であり、終了周波数がfb2である。
つぎに、パルス方式の場合について説明する。図3は、2種類のパルス信号によるパルス方式の送信信号波形を模式的に示す図である。パルス方式では、中心周波数fc1にパルス信号を所定数(P1~PM)送信した後に、中心周波数fc1とは異なる中心周波数fc2のパルス信号を所定数(P1′~PM′)送信する。
レーダ装置1は、図1に示すように、送信部2と、受信部3と、記録部4と、ADC(Analog to Digital Converter)21と、距離演算部22と、速度演算部23と、選択部31と、保存処理部32と、第2物標判定部25と、第1物標判定部34と、角度演算部35とを備える。
送信部2は、第1周波数帯の第1送信信号S1と、第1周波数帯と異なる周波数帯域を有する第2周波数帯の第2送信信号S2との少なくとも2つ以上の周波数帯の信号を送信する。具体的には、送信部2は、送信アンテナ11と、送信制御部13と、信号生成部14と、発振器15とを備える。なお、送信部2は、異なる周波数帯の送信信号を3種類以上送信する構成でもよい。
送信制御部13は、信号生成部14を制御する。信号生成部14は、送信制御部13の制御に基づいて所定の周波数の送信信号(例えば、チャープ信号)を生成する。発振器15は、送信信号を所定の高周波信号に変調する。送信アンテナ11は、高周波信号に変調された送信信号を空間に放射する。なお、送信アンテナ11は、少なくとも1つ以上で構成される。
受信部3は、送信部2によって送信され、1または複数の対象物によって反射された第1送信信号S1および第2送信信号S2を、それぞれ第1受信信号R1および第2受信信号R2として受信する。具体的には、受信部3は、受信アンテナ12と、ミキサ16とを備える。受信アンテナ12は、対象物T1で反射された信号を受信する。なお、受信アンテナ12は、少なくとも1つ以上で構成される。ミキサ16は、受信した第1受信信号R1と第1送信信号S1をミキシングし、また、受信した第2受信信号R2と第2送信信号S2をミキシングし、レーダ装置1と対象物T1との距離に比例したビート周波数をもつビート信号を生成する。
ADC21は、受信部3(ミキサ16)から供給されたアナログ信号のビート信号をデジタル信号に変換する。
距離演算部22は、第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物T1との距離情報を算出する。FCM方式の場合には、距離演算部22は、第1受信信号R1および第2受信信号R2から生成したビート信号の周波数に基づいて、1または複数の対象物との距離情報を算出する。第1受信信号R1および第2受信信号R2は、ADC21によりデジタルデータに変換されている。
速度演算部23は、第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する。FCM方式の場合には、速度演算部23は、第1受信信号R1および第2受信信号R2から生成したビート信号の位相変化に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する。なお、本実施例では、速度演算部23は、距離演算部22により算出され、記録部4に記録されている1または複数の対象物との距離情報に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する構成であるとして説明するが、この構成に限定されず、ADC21から供給される第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する構成でもよい。
選択部31は、距離情報または相対速度情報に対応する振幅情報の中から特定の物理量に対応する振幅情報を第1振幅情報として選択する。選択部31の詳細な動作については、後述するが、特定の物理量とは、主に、所定の速度情報であるとして説明するが、所定の速度情報に限定されず、所定の距離情報などでもよい。
記録部4は、第1振幅情報と、振幅情報から第1振幅情報を除いた情報である第2振幅情報と、をそれぞれ記録する。
第1物標判定部34は、記録部4に記録されている第1振幅情報に基づいて物標の判定を行う。第1物標判定部34は、少なくとも第1受信信号R1および第2受信信号R2から得られた第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行う。複合とは、詳細は後述する、第1振幅情報の少なくとも一方をIQ平面上において回転させる処理の他、第1振幅情報の平均値を計算すること、第1振幅情報を加算または乗算すること、第1振幅情報の差分を取ることなどを含む概念である。
第2物標判定部25は、記録部4に記録されている第2振幅情報に基づいて物標の判定を行う。
角度演算部35は、第1物標判定部34による判定結果と、第2物標判定部25による判定結果に基づいて、物標の角度を求める。角度演算部35は、例えば、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、DBF(Digital Beam Forming)、または、MUSIC(Multiple Signal Classification)などの所定の方式を用いて角度を求める。
このようにして、レーダ装置1は、第1物標判定部34により、第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行い、第2物標判定部25により第2振幅情報に基づいて物標の判定を行うため、受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理することができる。
(距離情報を算出する処理手順について)
ここで、距離情報を算出する処理手順について説明する。図4は、距離情報を算出する処理手順についての説明に供する図である。
ADC21は、ミキサ16から供給されたアナログ信号のビート信号を、予め定められているサンプリング数Nに基づいて、デジタル信号に変換する。図4に示す「21a」は、サンプリング数Nでデジタル信号に変換されたビート信号を模式的に示している。
また、ビート信号のビート周波数は、距離に比例する。距離演算部22は、ADC21でデジタル信号に変換されたビート信号を、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)解析する。FFT解析により、周波数情報frが得られる。距離演算部22は、得られた周波数情報frを距離情報に相当する距離インデックスに変換する。なお、所定の範囲の距離情報がひとつの距離インデックスに変換されている。このとき、各距離インデックスに対応する振幅情報Irを合わせて得ることができる。図4に示す「22a」は、距離情報に相当する距離インデックスを模式的に示している。
ここで、振幅情報Irは複素信号である。実際には、ミキサ16から出力される信号は、I成分信号(実信号)とQ成分信号(複素信号)に復調されている。ビート信号は、実信号と複素信号のいずれでもよい。ビート信号が実信号の場合は、FFT解析を行うことで複素信号(振幅情報Ir)を得ることができる。
距離演算部22は、受信アンテナ12ごと(アンテナ番号ごと)に各チャープ単位にFFT解析を行い、得られた周波数情報frを距離インデックスに変換する。距離演算部22は、アンテナ番号、チャープ番号、距離インデックスごとに、得られた振幅情報Irを記録部4(具体的には、後述する第2記録部24)に記録する。図4に示す「24a」は、アンテナ番号、チャープ番号、距離インデックスごとに記録されている振幅情報群Ir_gを模式的に示している。
(相対速度情報を算出する処理手順について)
つぎに、速度演算部23により相対速度情報を算出する処理手順について説明する。図5は、相対速度情報を算出する処理手順についての説明に供する図である。
レーダ装置1と対象物T1との間に相対速度がある場合は、ドップラー効果によりチャープ信号間で周波数がシフトする。速度演算部23は、記録部4から、アンテナ番号に対応する距離インデックスごとにチャープ番号の数(図5に示す例では、M個)だけ振幅情報Irを取り出し、取り出した振幅情報Irを、例えば、FFT解析する。FFT解析により、周波数情報fsが得られる。速度演算部23は、得られた周波数情報fsを相対速度情報に相当する速度インデックスに変換する。なお、所定の範囲の相対速度情報がひとつの速度インデックスに変換されている。このとき、各速度インデックスに対応する振幅情報Isを合わせて得ることができる。図5に示す「23a」は、相対速度情報に相当する速度インデックスを模式的に示している。
速度演算部23は、アンテナ番号ごとに各距離インデックス単位でFFT解析を行い、得られた周波数情報fsを速度インデックスに変換する。速度演算部23は、アンテナ番号、距離インデックス、速度インデックスごとに、得られた振幅情報Is(第1振幅情報に相当)を記録部4(具体的には、後述する第2記録部24)に記録する。なお、速度演算部23は、速度演算を行うときに読みだした振幅情報Irが記録されている場所(アドレス)と同じ場所(アドレス)に、速度演算により得られた振幅情報Isを更新(上書き)する。図5に示す「24b」は、アンテナ番号、速度インデックス、距離インデックスごとに記録されている振幅情報群Is_gを模式的に示している。
(記録部の構成と動作について)
記録部4は、図1に示すように、第1振幅情報を記録する第1記録部33と、第2振幅情報を記録する第2記録部24とにより構成されている。
第1記録部33は、詳細は後述するが、すでに記録されている第1振幅情報の周波数帯と、新たに選択した第1振幅情報の周波数帯とが同じである場合、古い第1振幅情報から新たに選択した第1振幅情報に更新して記録する。
また、第1記録部33は、詳細は後述するが、すでに記録されている第1振幅情報の周波数帯と、新たに選択した第1振幅情報の周波数帯とが異なる場合、それぞれの第1振幅情報を異なる領域に記録する。
ここで、第1振幅情報(以下では、振幅情報Isともいう)を第1記録部33に記録する手順について説明する。図6は、送信信号ごとに特定の速度に対応する振幅情報Isを取り出し、第1記録部33に記録する手順についての説明に供する図である。以下では、送信信号は、中心周波数が異なる送信信号S1と送信信号S2の2種類の場合について説明するが、3種類以上でもよい。
第2記録部24には、図6に示すように、送信信号S1に対応する振幅情報群Is_g1と、送信信号S2に対応する振幅情報群Is_g2とが記録されている。
選択部31は、第2記録部24から特定の速度(例えば、相対速度が0〔m/s〕)における振幅情報Isを取り出す。具体的には、選択部31は、送信信号S1に対応する振幅情報群Is_g1から特定の速度の振幅情報Is_1を取り出し、また、送信信号S2に対応する振幅情報群Is_g2から特定の速度の振幅情報Is_2を取り出す。
保存処理部32は、送信信号S1に対応する振幅情報群Is-g1から取り出した振幅情報Is_1を、第1記録部33の領域d1に保存し、送信信号S2に対応する振幅情報群Is-g2から取り出した振幅情報Is_2を、第1記録部33の領域d2に保存する。
また、保存処理部32は、送信信号S1と同じ周波数帯の送信信号S1nの場合は、送信信号S1nに対応する振幅情報群Is-g1nから取り出した振幅情報Is_1nを第1記録部33の領域d1に保存(上書き)する。保存処理部32は、送信信号S2と同じ周波数帯の送信信号S2nの場合は、送信信号S2nに対応する振幅情報群Is-g2nから取り出した振幅情報Is_2nを第1記録部33の領域d2に保存(上書き)する。
図7は、保存処理部32の保存処理についての説明に供する図である。図7に示す以下では、振幅情報群をフレームともいう。また、奇数のフレーム(図7に示す「フレーム1」,「フレームn」)は、送信信号S1と同じ周波数帯の送信信号に対応し、偶数フレーム(図7に示す「フレーム2」,「フレームm」)は、送信信号S2と同じ周波数帯の送信信号に対応するものとして説明する。
保存処理部32は、フレーム1から取り出された振幅情報を第1記録部33の領域d1に記録する。保存処理部32は、フレーム2から取り出された振幅情報を第1記録部33の領域d2に記録する。第1物標判定部34は、第1記録部33の領域d1と領域d2に記録されている振幅情報に基づいて物標判定を行う。保存処理部32により各フレームから取り出された振幅情報が第1記録部33の領域d1、d2に記録され、その後、第1物標判定部34による物標判定が行われる一連の処理がフレームの数だけ繰り返し行われる。また、保存処理部32は、第1記録部33の領域d1、d2に振幅情報が記録されている場合には、次のフレームから取り出された振幅情報を第1記録部33の領域d1、d2に上書き記録する。つまり、保存処理部32は、奇数フレーム(フレームn)から取り出された振幅情報を第1記録部33の領域d1に上書き記録し、偶数フレーム(フレームm)から取り出された振幅情報を第1記録部33の領域d2に上書き記録する。なお、同じ領域に振幅情報を記録する場合、上書きに限定されず、既に記録されている古い振幅情報と新しい振幅情報とを平均化し、その平均値を記録してもよいし、既に記録されている古い振幅情報と新しい振幅情報とを加算または積算し、加算または積算した値を記録してもよい。
(回転処理について)
つぎに、第1受信信号R1および第2受信信号R2から得られた第1振幅情報を複合する処理について説明する。図8は、複数の第1振幅情報を複合する処理についての説明に供する図である。以下では、複合処理の一例として、IQ平面上において回転させる処理について説明する。
レーダ装置1は、図8に示すように、回転処理部41と、演算処理部42とを備える。回転処理部41は、少なくとも1つの所定の距離と、第1周波数帯または第2周波数帯と、に対応する所定の位相角に応じて、第1周波数帯の送信信号から得られた第1振幅情報および第2周波数帯の送信信号から得られた第1振幅情報の少なくとも一方をIQ平面上において回転させる処理を行う。
演算処理部42は、回転処理部41によって少なくとも一方が回転された第1周波数帯の送信信号から得られた第1振幅情報および第2周波数帯の送信信号から得られた第1振幅情報を加算または減算する。第1物標判定部34は、演算処理部42で処理された結果に基づいて物標の判定を行う。
このように構成されることにより、レーダ装置1は、回転処理部41による回転処理によって、既知の距離にある対象物に関する情報を消去することができるので、第1物標判定部34による物標判定処理において、既知の距離にある対象物以外の対象物に絞り込んで物標判定を行うことができる。
また、回転処理部41は、IQ平面上において回転させる処理を行う際に、特定の物理量である相対速度情報と、第1送信信号S1を送信してから第2送信信号S2を送信するまでの時間とに基づいて回転量を補正するようにしてもよい。このような場合、レーダ装置1は、特定の物理量である特定の速度が0〔m/s〕以外の場合において、この特定の速度から決まるドップラーシフトも考慮して、IQ平面における回転処理を行うことができる。
所定の距離とは、第2物標判定部25により物標の判定を行って得られた少なくとも1つ以上の物標の中から、少なくとも一つの物標の距離に対応するように選択された距離としてもよい。
また、回転処理部41により2種類の周波数を利用してIQ平面における回転処理を行った場合、除去(消去)できる距離成分は1個であり、3種類の周波数を利用してIQ平面における回転処理を行った場合、除去(消去)できる距離成分は2個になる。つまり、n種類(nは、1以上の自然数)の周波数を利用してIQ平面における回転処理を行った場合、除去(消去)できる距離成分は「n-1」個である。よって、周波数が異なる送信信号の数が増加すると、除去(消去)できる距離成分の数も増加する。
レーダ装置1が車両に搭載される場合、所定の距離は、当該レーダ装置1から車両のバンパーまでの距離に対応するように選択された距離としてもよい。
レーダ装置1が車両のバンパーの内側に配置される場合、レーダ装置1は、バンパーを含め様々な物標に反射された信号を受信する。レーダ装置1とパンバーの距離は、予め計測することができる。よって、所定の距離がレーダ装置1からバンパーまでの距離に対応するように選択された距離であれば、回転処理部41および演算処理部42によって、レーダ装置1からバンパーまでの距離成分を除去(消去)することができる。
回転処理部41は、1または複数の対象物との相対速度がn〔m/s〕(nは、0以上の数)の速度を特定の物理量として処理する。
よって、レーダ装置1は、相対速度が0〔m/s〕(静止物であり、例えば、バンパーなど)を含め、1または複数の対象物との相対速度を特定の物理量として処理することができる。
回転処理部41は、選択部31により選択された第1振幅情報において、1または複数の対象物との距離ごとに速度方向に対して第1物標判定部34による判定結果の少なくとも1つ以上の物標の中から少なくとも1つの物標の速度を選択し、この選択した速度を特定の物理量として処理する。少なくとも1つの物標の速度とは、例えば、移動する物標の中で最も速い物標の速度であるが、これに限定されない。
ここで、送信信号S1に対応する振幅情報群Is-g1から取り出した振幅情報Is_1が第1記録部33の領域d1に保存され、送信信号S2に対応する振幅情報群Is-g2から取り出した振幅情報Is_2が第1記録部33の領域d2に保存されている状態において、回転処理部41と演算処理部42の具体的な動作について説明する。以下では、レーダ装置1から距離L1離れた位置に第1対象物が存在し、距離L2離れた位置に第2対象物が存在する場合を想定する。また、レーダ装置1は、周波数f1の送信信号S1と周波数f2の送信信号S2の2種類の送信信号を想定する。また、ADC21のサンプル番号nのタイミングでの周波数f1nに対する波数をk1(=2πf1n/c)とし、ADC21のサンプル番号nのタイミングでの周波数f2nに対する波数をk2(=2πf2n/c)とする。なお、cは光速を示している。
図9は、送信信号の周波数と振幅情報の関係(IQ平面における回転処理前)を模式的に示す図である。図10は、送信信号の周波数と振幅情報の関係(IQ平面における回転処理後)を模式的に示す図である。
周波数f1nと周波数f2nの差は、周波数帯f1と周波数帯f2の開始周波数または中心周波数の差に相当し、ADC21のサンプリングのタイミングによらず、一定である。
IQ平面における任意の点は、A×exp(iθ)で示すことができる。ここで、Aは振幅を示し、iは虚数を示し、θは位相角を示す。以下の説明では、振幅Aについては説明を簡略化するために“1”であるとする。
このような場合に、周波数帯f1nによる検出信号は、以下の式(1)で表される。なお、式(1)の第1項は、図9に示す実線T1の矢印に対応する。また、式(1)の第2項は、図9の実線T2の矢印に対応している。
exp(i×k1×L1)+exp(i×k1×L2) ・・・(1)
また、周波数f2nにおける検出信号は、式(2)で表される。なお、式(2)の第1項は、図9の破線T1’の矢印に対応する。式(2)の第2項は、図9の破線T2’の矢印に対応している。
exp(i×k2×L1)+exp(i×k2×L2) ・・・(2)
ここで、k2=k1+Δk、とすると、式(2)は、以下の式(3)に変形される。
exp(i×k1×L1)×exp(i×Δk×L1)+exp(i×k1×L2)×exp(i×Δk×L2) ・・・(3)
また、式(3)に、exp(-i×Δk×L1)、を乗算すると、式(4)を得る。なお、式(3)にexp(-i×Δk×L1)を乗算することは、IQ平面上において、図9に示す周波数f2nによる検出結果を、θ1’とθ1の位相角の差分だけ時計方向に回転(図10)させることを意味する。
exp(i×k1×L1)+exp(i×k1×L2)×exp(i×Δk(L2-L1)) ・・・(4)
また、演算処理部42により、式(1)から式(4)を減算処理すると以下の式(5)を得る。
exp(i×k2×L2)-exp(i×k1×L2)×exp(i×Δk(L2-L1)) ・・・(5)
距離L1が既知の場合、第1対象物に関する項を消去することができ、第2対象物に関する情報のみを得ることができる。距離L1は、例えば、バンパーとレーダ装置1との間の距離である。
なお、演算処理部42は、減算処理ではなく加算処理を行ってもよい。この場合、位相が同じ第1対象物については信号成分が2倍されている一方で、第2対象物については位相が異なることから2倍未満とされる。このため、第1対象物に関する成分を強調することができる。
また、特定の速度が0〔m/s〕以外の場合、この特定の速度から決まるドップラーシフトfdも考慮する必要がある。送信信号S1から送信信号S2を送信するまでの時間Δtsの間に変化する位相Δφsは、式(6)で表すことができる。
Δφs=2πfdΔts ・・・(6)
回転処理部41は、式(4)に位相の変化を考慮した式(6)を加えることにより、ドップラーシフトも考慮して、IQ平面における回転処理を行うことができる。
ここで、送信信号S1と送信信号S2を交互に繰り返し送信する第1実施例の処理について説明する。図11は、第1実施例にかかるレーダ装置1による処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下では、FCM方式として説明するが、FCM方式に限定されず、パルス方式でもよい。
ステップST11において、送信部2は、第1周波数帯f1に設定する。
ステップST12において、送信部2は、送信処理を行う。具体的には、送信部2は、第1周波数帯f1の送信信号S1を送信する。
ステップST13において、受信部3は、受信処理を行う。具体的には、受信部3は、反射信号R1を受信する。ADC21は、アナログ信号のビート信号をデジタル信号に変換する。
ステップST14において、距離演算部22は、距離演算処理を行う。具体的には、距離演算部22は、ADC21でデジタル信号に変換されたビート信号を、FFT解析する。FFT解析により、周波数情報frが得られる。距離演算部22は、得られた周波数情報frを距離情報に相当する距離インデックスに変換する。このとき、各距離インデックスに対応する振幅情報Irを合わせて得ることができる。
ステップST15において、速度演算部23は、速度演算処理を行う。具体的には、速度演算部23は、距離インデックスごとにチャープ番号の数だけ振幅情報Irを取り出し、取り出した振幅情報Irを、FFT解析する。FFT解析により、周波数情報fsが得られる。速度演算部23は、得られた周波数情報fsを相対速度情報に相当する速度インデックスに変換する。このとき、各速度インデックスに対応する振幅情報Isを合わせて得ることができる。選択部31は、所定の速度情報に対応する振幅情報Isを第1振幅情報として選択する。
ステップST21において、選択部31により選択された振幅情報Isは、記録部4(第1記録部33)の領域d1に保存(記録)される。例えば、選択部31による振幅情報Isを取り出す特定の速度条件を相対速度ゼロとした場合には、選択部31は、相対速度ゼロの振幅情報Isを取り出す。第1記録部33の領域d1には、この相対速度ゼロの振幅情報Is(第1振幅情報に相当)が保存される。第2記録部24には、相対速度ゼロの振幅情報Isが取り除かれた振幅情報Is(第2振幅情報に相当)が保存されている。
ステップST22において、回転処理部41は、第1記録部33の領域d2に振幅情報Isが保存されているかどうかを判断する。なお、領域d2に振幅情報Isが保存されているかどうかの判断は、保存処理部32などが行ってもよい。領域d2に振幅情報Isが保存されている場合(Yes)には、ステップST23に進み、領域d2に振幅情報Isが保存されていない場合(No)には、ステップST17に進む。まだ一度も後述するステップST31以降の工程を実施していない場合には、領域d2に振幅情報Isが保存されていない状態になる。
ステップST23において、回転処理部41は、領域d1に記録されている振幅情報Isと、領域d2に記録されている振幅情報Isとを利用してIQ平面における回転処理を行う。
ステップST24において、演算処理部42は、回転処理された結果に基づいて、演算(加算または減算)を行う。
ステップST25において、第1物標判定部34は、第1物標判定を行う。具体的には、第1物標判定部34は、演算処理部42により演算処理された後の相対速度ゼロの振幅情報Is(第1振幅情報)に対して、ピーク検出を行う。ピーク検出は、例えば、CFAR(Constant False Alarm Rate)などの所定の検出方式を用いて行われる。
ステップST16において、第2物標判定部25は、第2物標判定を行う。具体的には、第2物標判定部25は、第2記録部24に記録されている相対速度ゼロの振幅情報Isが取り除かれた振幅情報Is(第2振幅情報)に対して、ピーク検出を行う。
ステップST17において、角度演算部35は、ステップST25の工程により第1物標判定を行った結果と、ステップST16の工程により第2物標判定を行った結果とに基づいて、角度演算処理を行う。具体的には、角度演算部35は、ステップST25およびステップST16の工程によりピークが検出された距離または速度の少なくとも一方において各アンテナの振幅情報から得られる位相情報に基づいて、物標の角度を求める。角度演算部35は、例えば、ESPRIT、DBF、または、MUSICなどの所定の方式を用いて角度を求める。
ステップST31において、送信部2は、第2周波数帯f2に設定する。
ステップST32において、送信部2は、送信処理を行う。具体的には、送信部2は、第2周波数帯f2の送信信号S2を送信する。
ステップST33において、受信部3は、受信処理を行う。具体的には、受信部3は、反射信号R2を受信する。ADC21は、アナログ信号のビート信号をデジタル信号に変換する。
ステップST34において、距離演算部22は、距離演算処理を行う。具体的には、距離演算部22は、ADC21でデジタル信号に変換されたビート信号を、FFT解析する。FFT解析により、周波数情報frが得られる。距離演算部22は、得られた周波数情報frを距離情報に相当する距離インデックスに変換する。このとき、各距離インデックスに対応する振幅情報Irを合わせて得ることができる。
ステップST35において、速度演算部23は、速度演算処理を行う。具体的には、速度演算部23は、距離インデックスごとにチャープ番号の数だけ振幅情報Irを取り出し、取り出した振幅情報Irを、FFT解析する。FFT解析により、周波数情報fsが得られる。速度演算部23は、得られた周波数情報fsを相対速度情報に相当する速度インデックスに変換する。このとき、各速度インデックス対応する振幅情報Isを合わせて得ることができる。選択部31は、ステップST15と同様に、所定の速度情報に対応する振幅情報Isを第1振幅情報として選択する。
ステップST41において、選択部31により選択された振幅情報Isは、記録部4(第1記録部33)の領域d2に保存(記録)される。例えば、選択部31による振幅情報Isを取り出す特定の速度条件を相対速度ゼロとした場合には、選択部31は、相対速度ゼロの振幅情報Isを取り出す。第1記録部33の領域d2には、この相対速度ゼロの振幅情報Is(第1振幅情報に相当)が保存される。第2記録部24には、相対速度ゼロの振幅情報Isが取り除かれた振幅情報Is(第2振幅情報に相当)が保存されている。
ステップST43において、回転処理部41は、領域d1に記録されている振幅情報Isと、領域d2に記録されている振幅情報Isとを利用してIQ平面における回転処理を行う。
ステップST44において、演算処理部42は、回転処理された結果に基づいて、演算(加算または減算)を行う。
ステップST45において、第1物標判定部34は、第1物標判定を行う。具体的には、第1物標判定部34は、第1記録部33に記録されている相対速度ゼロの振幅情報Is(第1振幅情報)に対して、ピーク検出を行う。
ステップST36において、第2物標判定部25は、第2物標判定を行う。具体的には、第2物標判定部25は、第2記録部24に記録されている相対速度ゼロの振幅情報Isが取り除かれた振幅情報Is(第2振幅情報)に対して、ピーク検出を行う。
ステップST37において、角度演算部35は、ステップST45の工程により第1物標判定を行った結果と、ステップST36の工程により第2物標判定を行った結果とに基づいて、角度演算処理を行う。具体的には、角度演算部35は、ステップST45およびステップST36の工程によりピークが検出された距離または速度の少なくとも一方において各アンテナの振幅情報から得られる位相情報に基づいて、物標の角度を求める。
このようにして、レーダ装置1は、第1物標判定部34により、少なくとも第1受信信号R1および第2受信信号R2から得られた第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行い、第2物標判定部25により第2振幅情報に基づいて物標の判定を行うため、従来技術のように、複数フレームのデータを平均化して1フレーム分のデータを作成しないので、受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理することができる。
(第1実施例の変形について)
また、第1記録部33から振幅情報Isを取り出す(選択する)特定の速度条件を可変にしてもよい。以下に、上述した第1実施例の変形について説明する。図12は、第1実施例の変形にかかるレーダ装置1による信号処理の流れを示すフローチャートである。第1実施例と同じ工程(ステップ)には、同じ番号を付し、詳細な説明を省略する。
ステップST11~ステップST16は、第1実施例と同様の処理を行う。
ステップST51において、第2物標判定部25は、ステップST16の工程による第2物標判定の結果に基づいて、1以上の物標が存在するかどうか判断する。1以上の物標が存在する場合(Yes)には、ステップST21に進み、1以上の物標が存在しない、つまり物標が存在しない場合(No)には、ステップST11に戻る。
ステップST21において、選択部31は、例えば、振幅情報の最も大きい物標Tmの速度インデックスを特定の速度Vmとし、第2記録部24から速度Vmの振幅情報Isを取り出す。保存処理部32は、この振幅情報Is_21を第1記録部33の領域d1に保存する。
また、ステップST17において、角度演算部35は、角度演算処理を行う。角度演算部35は、例えば、ステップST16の第2物標判定において検出された複数の物標の中から、振幅の大きい物標から順にその物標の距離を所定の距離としてもよい。この場合、角度演算部35は、振幅情報の最も大きい物標Tmを除く物標の角度演算処理を行う。
ステップST31~ステップST37は、第1実施例と同様の処理を行う。
ステップST41において、選択部31は、第2記録部24から特定の速度Vmの振幅情報Isを取り出す。保存処理部32は、取り出された振幅情報Is_22を第1記録部33の領域d2に保存する。
ステップST43において、回転処理部41は、領域d1に記録されている振幅情報Is_21と、領域d2に記録されている振幅情報Is_22とを利用して、IQ平面における回転処理を行う。
ステップST44およびステップST45は、第1実施例と同様の処理を行う。
なお、以上の説明は、一例であって、上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、第1実施例では、2種類の周波数帯の送信信号を送信し、これらの受信信号を回転処理して、演算処理(加算または減算)するようにしたが、3種類以上の周波数帯の送信信号を送信し、これらの受信信号を回転処理して、演算処理(加算または減算)するようにしてもよい。なお、周波数が3種類以上の場合も、2種類の場合と同様の処理によって、対象物に関する成分を強調または抑制することができる。また、複数の異なる周波数の信号を送信する場合、信号を送信するごとに周波数帯を変更して送信する構成でもよいし、1つの信号を送信し、この信号内における互いに異なる周波数成分を利用する構成でもよい。
また、パルス方式において複数の周波数信号を送信する際は、パルス信号を送信するための周波数分布を送信するごとに遷移させるようにしてもよいし、1つのパルス信号を送信し、当該パルス信号内における互いに異なる周波数成分により処理を実行するようにしてもよい。なお、このような場合には、複数の周波数成分を同時に発振する事になるが、複数の受信信号を受信した後、または同時に受信した後に加算または減算する処理を実行してもよい。
(第2実施例について_干渉対策)
ここで、第1記録部33に保存されている振幅情報は、干渉対策に利用してもよい。図13は、第2実施例にかかる干渉対策の構成の一部を示すブロック図である。
レーダ装置1は、振幅差分取得部51と、干渉検出部52とを備える。なお、送信部2と、受信部3と、記録部4と、ADC21と、距離演算部22と、速度演算部23と、選択部31と、保存処理部32と、第2物標判定部25と、第1物標判定部34と、角度演算部35との構成と動作は、上述の実施例と同様である。
振幅差分取得部51は、第1受信信号R1から得られた第1振幅情報と、第2受信信号R2から得られた第1振幅情報とに基づいて、所定の距離範囲における振幅差を取得する。なお、第1受信信号R1から得られた第1振幅情報は、第1記録部33の領域d1に振幅情報Is_21として記録されているものとする。また、第2受信信号R2から得られた第2振幅情報は、第1記録部33の領域d2に振幅情報Is_22として記録されているものとする。
干渉検出部52は、振幅差分取得部51によって取得された振幅差が所定の閾値以上である場合に、干渉の発生を検出する。また、干渉検出部52は、干渉の発生を検出した場合は、記録部4に記録されている第1振幅情報を破棄する。第1振幅情報が破棄された場合、干渉検出部52は、第1物標判定部34および第2物標判定部25において物標判定を行わないように指示する。
以下に、本実施形態に係る干渉対策について具体的に説明する。ここでは、一例として、2種類の送信信号を用いる場合について説明するが、3種類以上の送信信号を用いてもよい。3種類以上の送信信号を用いる場合には、受信信号も3種類以上となり、各第1振幅情報は、第1記録部33の領域d1~dxにそれぞれ記録される。
領域d1に記録されている複素信号の振幅情報Is_21、および、領域d2に記録されている複素信号の振幅情報Is_22を絶対値に変換し、アンテナ間の平均をとると、距離インデックス対振幅値の2次元情報を作成することができる。図14は、干渉が発生していない場合における距離インデックス対振幅値の2次元情報と、干渉が発生している場合における距離インデックス対振幅値の2次元情報の一例を示す図である。図14(A)は、振幅情報Is_21に基づく距離インデックス対振幅値の2次元情報に干渉が発生している例を示している。また、図14(B)は、振幅情報Is_22に基づく距離インデックス対振幅値の2次元情報に干渉が発生している例を示している。
他のレーダから干渉を受け、対象物からの反射信号よりも強い信号を受信した場合、周波数も一定でないため、図14(B)に示すように、全距離インデックスにわたってノイズレベルが増加する。そのため、各周波数帯の受信信号から得られる、任意の距離インデックスの範囲のノイズレベルを比較することで干渉の有無を判定することが可能である。なお、本願発明でいう複合とは、ここでいう任意の距離インデックスの範囲におけるノイズレベルの比較を含む概念である。
例えば、振幅差分取得部51は、振幅情報Is_21に基づく距離インデックス対振幅値の2次元情報における、任意の距離インデックスの範囲のノイズレベルNaと、振幅情報Is_22に基づく距離インデックス対振幅値の2次元情報における、任意の距離インデックスの範囲のノイズレベルNbとを比較し、ノイズレベルNaとノイズレベルNbの差を取得する。
干渉検出部52は、振幅差分取得部51により取得されたノイズレベルの差が所定の閾値以上である場合に、干渉が発生していると検出する。なお、干渉検出部52は、全距離インデックスの振幅値の積算値または平均値とを比較し、その結果に基づいて干渉の有無を検出してもよい。
ここで、送信信号S1と送信信号S2を交互に繰り返し送信する第2実施例(干渉対策)の処理について説明する。図15は、第2実施例にかかるレーダ装置1による処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下では、FCM方式として説明するが、FCM方式に限定されず、パルス方式でもよい。
ステップST11~ステップST15、ステップST21~ステップST22は、第1実施例と同様の処理を行う。
ステップST27において、振幅差分取得部51は、干渉処理を行う。具体的には、振幅差分取得部51は、第1記録部33の領域d1に保存されている振幅情報Is_21に基づいて、距離インデックス対振幅値の2次元情報を生成し、また、第1記録部33の領域d2の振幅情報Is_22に基づいて、距離インデックス対振幅値の2次元情報を生成する。振幅差分取得部51は、生成した二つの距離インデックス対振幅値の2次元情報に基づいて、任意の距離インデックスの範囲のノイズレベルを比較し、ノイズレベルの差を取得する。
ステップST61において、干渉検出部52は、振幅差分取得部51により取得された差に基づいて、干渉の有無を検出する。干渉が存在する場合(Yes)には、ステップST28に進み、干渉が存在しない場合(No)には、ステップST16およびステップST25に進む。
ステップST28において、干渉検出部52は、第1記録部33の領域d1に保存されている振幅情報Is_21を破棄させる。振幅情報Is_21の破棄は、干渉検出部52が行ってもよいし、干渉検出部52から指示を受け付けた保存処理部32が行ってもよい。その後、ステップST31に進む。
一方、干渉が存在しなかった場合は、第1実施例と同様に、第2物標判定部25は、第2記録部24に記録されている振幅情報Is_21が取り除かれた振幅情報Isに対して第2物標判定を行う(ステップST16)。また、第1物標判定部34は、第1記録部33の領域d1に保存されている振幅情報Is_21に対して第1物標判定を行う(ステップST25)。
また、角度演算部35は、ステップST25の工程により第1物標判定を行った結果と、ステップST16の工程により第2物標判定を行った結果とに基づいて、角度演算処理を行う(ステップST17)。
また、ステップST31~ステップST35、ステップST41は、第1実施例と同様の処理を行う。
ステップST42において、振幅差分取得部51は、第1記録部33の領域d1に振幅情報Is_21が保存されているかどうかを判断する。なお、領域d1に振幅情報Is_21が保存されているかどうかの判断は、保存処理部32などが行ってもよい。領域d1に振幅情報Is_21が保存されている場合(Yes)には、ステップST47に進み、領域d1に振幅情報Is_21が保存されていない場合(No)には、ステップST11に戻る。
ステップST47において、振幅差分取得部51は、干渉処理を行う。具体的には、振幅差分取得部51は、第1記録部33の領域d1に保存されている振幅情報Is_21に基づいて、距離インデックス対振幅値の2次元情報を生成し、また、第1記録部33の領域d2の振幅情報Is_22に基づいて、距離インデックス対振幅値の2次元情報を生成する。振幅差分取得部51は、生成した二つの距離インデックス対振幅値の2次元情報に基づいて、任意の距離インデックスの範囲のノイズレベルを比較し、ノイズレベルの差を取得する。
ステップST62において、干渉検出部52は、振幅差分取得部51により取得された差に基づいて、干渉の有無を検出する。干渉が存在する場合(Yes)には、ステップST48に進み、干渉が存在しない場合(No)には、ステップS36およびステップST45に進む。
ステップST48において、干渉検出部52は、第1記録部33の領域d2に保存されている振幅情報Is_22を破棄させる。振幅情報Is_22の破棄は、干渉検出部52が行ってもよいし、干渉検出部52から指示を受け付けた保存処理部32などが行ってもよい。その後、ステップST11に戻る。
一方、干渉が存在しなかった場合は、第1実施例と同様に、第2物標判定部25は、第2記録部24に記録されている振幅情報Is_22が取り除かれた振幅情報Isに対して第2物標判定を行う(ステップST36)。また、第1物標判定部34は、第1記録部33の領域d2に保存されている振幅情報Is_22に対して第1物標判定を行う(ステップST45)。
また、角度演算部35は、ステップST45の工程により第1物標判定を行った結果と、ステップST36の工程により第2物標判定を行った結果とに基づいて、角度演算処理を行う(ステップST37)。
このようにして、レーダ装置1は、例えば、他のレーダ装置から干渉を受け、対象物からの反射信号よりも強い信号を受信した場合において、任意の距離インデックスの範囲のノイズレベルを比較することで干渉の有無を判定し、干渉が確認された場合には、第1記録部33に記録されている対象となる振幅情報を破棄して、その後の物標判定を行わず、干渉が確認されなかった場合には、物標判定を行うので、干渉が生じていない振幅情報に対して物標判定を行うことができ、干渉対策を図ることができる。
(第3実施例について_ノイズ対策)
ここで、第1記録部33に保存されている振幅情報は、ノイズ対策に利用してもよい。図16は、第3実施例にかかるノイズ対策の構成の一部を示すブロック図である。
レーダ装置1は、算出処理部61を備える。なお、送信部2と、受信部3と、記録部4と、ADC21と、距離演算部22と、速度演算部23と、選択部31と、保存処理部32と、第2物標判定部25と、第1物標判定部34と、角度演算部35の構成と動作は、第1実施例と同様である。
算出処理部61は、第1受信信号R1から得られた第1振幅情報と、第2受信信号R2から得られた第1振幅情報とをそれぞれ複素数の四則演算に基づいて平均化または積算した値を算出する。第1物標判定部34は、算出処理部61において平均化または積算された振幅値を用いて物標判定を行う。
なお、第1受信信号R1から得られた第1振幅情報は、第1記録部33の領域d1に振幅情報Is_21として記録されているものとする。また、第2受信信号R2から得られた第2振幅情報は、第1記録部33の領域d2に振幅情報Is_22として記録されているものとする。
以下に、ノイズ対策について、具体的に説明する。なお、ここでは、一例として、2種類の送信信号を用いる場合について説明するが、3種類以上の送信信号を用いてもよい。3種類以上の送信信号を用いる場合には、受信信号も3種類以上となり、各第1振幅情報は、第1記録部33の領域d1~dxにそれぞれ記録される。
上述した第2実施例と同様に、領域d1に記録されている複素信号の振幅情報Is_21、および、領域d2に記録されている複素信号の振幅情報Is_22を絶対値に変換し、アンテナ間の平均をとると、距離インデックス対振幅値の2次元情報を作成することができる。そして、この距離インデックス対振幅値の2次元情報を平均化または積算することでノイズの影響を抑制することができる。
ここで、送信信号S1と送信信号S2を交互に繰り返し送信する第2実施例(ノイズ対策)の処理について説明する。図17は、第3実施例にかかるレーダ装置1による処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下では、FCM方式として説明するが、FCM方式に限定されず、パルス方式でもよい。
ステップST11~ステップST15、ステップST21、ステップST22は、第1実施例と同様の処理を行う。
ステップST26において、算出処理部61は、算出処理を行う。具体的には、算出処理部61は、第1記録部33の領域d1に記録されている振幅情報Is_21と、領域d2に記録されている振幅情報Is_22のそれぞれを複素数の四則演算に基づいて平均化または積分する。以下では、平均化または積分した情報を振幅情報Iaという。
第1物標判定部34は、振幅情報Iaに対して第1物標判定を行う(ステップST25)。第2物標判定部25は、第2記録部24に記録されている振幅情報Is_21が取り除かれた振幅情報Isに対して第2物標判定を行う(ステップST16)。
また、角度演算部35は、ステップST25の工程により第1物標判定を行った結果と、ステップST16の工程により第2物標判定を行った結果とに基づいて、角度演算処理を行う(ステップST17)。具体的には、角度演算部35は、ステップST16とステップST25でピークが検出された距離または速度の少なくとも一方において各アンテナの振幅情報Ia、または、振幅情報Is_21以外の振幅情報Isから得られる位相情報に基づいて物標の角度を求める。
また、ステップST31~ステップST35、ステップST41は、第1実施例と同様の処理を行う。
ステップST46において、算出処理部61は、算出処理を行う。具体的には、算出処理部61は、第1記録部33の領域d1に記録されている振幅情報Is_21と、領域d2に記録されている振幅情報Is_22のそれぞれを複素数の四則演算に基づいて平均化または積分する。以下では、平均化または積分した情報を振幅情報Iaという。
第1物標判定部34は、振幅情報Iaに対して第1物標判定を行う(ステップST45)。第2物標判定部25は、第2記録部24に記録されている振幅情報Is_22が取り除かれた振幅情報Isに対して第2物標判定を行う(ステップST36)。
また、角度演算部35は、ステップST45の工程により第1物標判定を行った結果と、ステップST36の工程により第2物標判定を行った結果とに基づいて、角度演算処理を行う(ステップST37)。具体的には、角度演算部35は、ステップST36とステップST45でピークが検出された距離または速度の少なくとも一方において各アンテナの振幅情報Ia、または、振幅情報Is_22以外の振幅情報Isから得られる位相情報に基づいて物標の角度を求める。
このようにして、レーダ装置1は、複素信号の振幅情報を絶対値に変換し、アンテナ間の平均をとり、距離インデックス対振幅値の2次元情報を作成し、この距離インデックス対振幅値の2次元情報を平均化または積算することにより、ノイズの影響を抑制することができる。
(対象物検出方法について)
つぎに、受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理するレーダ装置1の対象物検出方法について説明する。図18は、受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理する対象物検出方法の手順を示すフローチャートである。
ステップST71において、送信部2は、第1周波数帯の第1送信信号S1と、第1周波数帯と異なる周波数帯域を有する第2周波数帯の第2送信信号S2との少なくとも2つ以上の周波数帯の信号を送信する(送信工程)。
ステップST72において、受信部3は、ステップST71の工程によって送信され、1または複数の対象物によって反射された第1送信信号S1および第2送信信号S2を、それぞれ第1受信信号R1および第2受信信号R2として受信する(受信工程)。
ステップST73において、距離演算部22は、第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物との距離情報を算出する(距離演算工程)。
ステップST74において、速度演算部23は、第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する(速度演算工程)。
ステップST75において、選択部31は、距離情報または相対速度情報に対応する振幅情報の中から特定の物理量に対応する振幅情報を第1振幅情報として選択する(選択工程)。
ステップST76において、第1物標判定部34は、第1振幅情報と、振幅情報から第1振幅情報を除いた情報である第2振幅情報と、をそれぞれ記録する記録部4に記録されている第1振幅情報に基づいて物標の判定を行う(第1物標判定工程)。
ステップST77において、第2物標判定部25は、記録部4に記録されている第2振幅情報に基づいて物標の判定を行う(第2物標判定工程)。
また、第1物標判定工程は、少なくとも第1受信信号R1および第2受信信号R2から得られた第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行う。
なお、ステップST76とステップST77とは、同時に行われてもよいし、ステップST77をステップST76の前に行ってもよい。
このような構成によれば、対象物検出方法は、第1物標判定工程により、第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行い、第2物標判定工程により第2振幅情報に基づいて物標の判定を行うため、従来技術のように、複数フレームのデータを平均化して1フレーム分のデータを作成しないので、受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理することができる。
(プログラムについて)
受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理するプログラムは、主に以下の工程で構成されており、コンピュータ500(ハードウェア)によって実行される。
工程1(送信工程):第1周波数帯の第1送信信号S1と、第1周波数帯と異なる周波数帯域を有する第2周波数帯の第2送信信号S2との少なくとも2つ以上の周波数帯の信号を送信する工程。
工程2(受信工程):工程1によって送信され、1または複数の対象物によって反射された第1送信信号S1および第2送信信号S2を、それぞれ第1受信信号R1および第2受信信号R2として受信する工程。
工程3(距離演算工程):第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物との距離情報を算出する工程。
工程4(速度演算工程):第1受信信号R1および第2受信信号R2に基づいて、1または複数の対象物との相対速度情報を算出する工程。
工程5(選択工程):距離情報または相対速度情報に対応する振幅情報の中から特定の物理量に対応する振幅情報を第1振幅情報として選択する工程。
工程6(第1物標判定工程):第1振幅情報と、振幅情報から第1振幅情報を除いた情報である第2振幅情報と、をそれぞれ記録する記録部4に記録されている第1振幅情報に基づいて物標の判定を行う工程。
工程7(第2物標判定工程):記録部4に記録されている第2振幅情報に基づいて物標の判定を行う工程。
また、工程6では、少なくとも第1受信信号R1および第2受信信号R2から得られた第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行う。
なお、工程6と工程7とは、同時に行われてもよいし、工程7を工程6の前に行ってもよい。
ここで、コンピュータ500の構成と動作について図を用いて説明する。図19は、コンピュータ500の構成を示す図である。コンピュータ500は、図19に示すように、プロセッサ501と、メモリ502と、ストレージ503と、入出力I/F504と、通信I/F505とがバスA上に接続されて構成されている。これらの各構成要素の協働により、本開示に記載される機能、および/または、方法を実現する。
メモリ502は、RAM(Random Access Memory)で構成される。RAMは、揮発メモリまたは不揮発性メモリで構成されている。
ストレージ503は、ROM(Read Only Memory)で構成される。ROMは、不揮発性メモリで構成されており、例えば、HDD(Hard Disc Drive)やSSD(Solid State Drive)、Flash Memoryにより実現される。ストレージ503は、上述した記録部4に相当する。ストレージ503には、上述した工程1~工程7で実現されるプログラムなどの各種のプログラムが格納されている。
入出力I/F504には、RF回路600が接続されている。RF回路600には、1または複数の送信アンテナ11と、1または複数の受信アンテナ12とが接続されている。RF回路600は、所定の周波数の送信信号を生成する信号生成部14と、送信信号を所定の高周波信号に変調する発振器15と、受信信号と送信信号とをミキシングするミキサ16などの機能を有する。
プロセッサ501は、コンピュータ500全体の動作を制御する。プロセッサ501は、ストレージ503からオペレーティングシステムや多様な機能を実現する様々なプログラムをメモリ502にロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する演算装置である。
具体的には、プロセッサ501は、ユーザの操作を受け付けた場合、ストレージ503に格納されているプログラム(例えば、本発明に係るプログラム)を読み出し、読み出したプログラムをメモリ502に展開し、プログラムを実行する。また、プロセッサ501が処理プログラムを実行することにより、送信制御部13と、ADC21と、距離演算部22と、速度演算部23と、選択部31と、保存処理部32と、第2物標判定部25と、第1物標判定部34と、角度演算部35、回転処理部41と、演算処理部42と、振幅差分取得部51と、干渉検出部52と、算出処理部61の各機能が実現される。
ここで、プロセッサ501の構成について説明する。プロセッサ501は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、これら以外の各種演算装置、またはこれらの組み合わせにより実現される。
また、本開示に記載される機能、および/または、方法を実現するために、プロセッサ501、メモリ502およびストレージ503などの機能の一部または全部は、専用のハードウェアであるコンピュータ(以下、処理回路という)700で構成されてもよい。図20は、処理回路700の構成を示す図である。処理回路700は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものである。処理回路700には、RF回路600が接続されている。RF回路600には、1または複数の送信アンテナ11と、1または複数の受信アンテナ12とが接続されている。なお、RF回路600も処理回路700の一部として構成されてもよい。
また、プロセッサ501は、単一の構成要素として説明したが、これに限られず、複数の物理的に別体のプロセッサの集合により構成されてもよい。本明細書において、プロセッサ501によって実行されるとして説明されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、単一のプロセッサ501で実行されてもよいし、複数のプロセッサにより分散して実行されてもよい。また、プロセッサ501によって実行されるプログラムまたは当該プログラムに含まれる命令は、複数の仮想プロセッサにより実行されてもよい。
通信I/F505は、所定の通信規格(例えば、CAN(Controller Area Network))に準拠したインターフェースであり、有線または無線により外部装置(例えば、ECU(Electronic Control Unit))と通信を行う。
このようにして、信号処理プログラムは、コンピュータ500,700で実行されることにより、第1物標判定工程により、第1振幅情報を複合するとともに、当該複合された第1振幅情報に基づいて物標の判定を行い、第2物標判定工程により第2振幅情報に基づいて物標の判定を行うため、従来技術のように、複数フレームのデータを平均化して1フレーム分のデータを作成しないので、受信した複数のフレーム間の情報の解析を短い時間で効率的に処理することができる。
以上、本願の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、本発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。