JP7316753B2 - 耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
従来、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂を架橋する方法として、電子線を照射して橋架け(架橋ともいう)させる電子線架橋法、更に、成形後に熱を加えることにより有機過酸化物等を分解させて架橋反応させる架橋法や加水分解性シランカップリング剤を用いたシラン架橋法等の化学架橋法が知られている。これらの架橋法の中でも、特にシラン架橋法は特殊な設備を要しないことが多いため、生産上の利点を有する。
シラン架橋法は、通常、樹脂、加水分解性シランカップリング剤、有機過酸化物及び添加剤等の各成分を一括して溶融混練する。例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂及び無水マレイン酸系樹脂を混合してなる樹脂成分に、シランカップリング剤で表面処理した無機フィラー、シランカップリング剤、有機過酸化物及び架橋触媒をニーダーにて十分に混練した後に、単軸押出機にて押出成形し、次いで得られた成形体を温水中に浸漬する方法が提案されている。
溶融混練中にシランカップリング剤が揮発すると、溶融混練物に黒点生成、ひいては得られる架橋成形体に焼けが生じるばかりか、所望の耐熱性を付与することができない。本発明において、「焼け(burn)」とは、架橋成形体の表面若しくは内部に発生する、架橋成形体若しくはその材料の燃焼物若しくは炭化物をいい、通常、黒色を呈する点状領域(黒点)となる。
<1>下記工程(a)~(e)を有する耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a):ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物と、該樹脂組成物100質量部に対して無機フィラー1~400質量部とを溶融混練する工程
工程(b):工程(a)で得られた溶融混練物と、この溶融混練物中の樹脂組成物100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部、及び、ポリオレフィン樹脂のグラフト化反応可能な部位とグラフト化反応しうる部位を有するシランカップリング剤0.5~15質量部とを、有機過酸化物の分解温度未満の温度で、混合する工程
工程(c):工程(b)で得られた混合物を、シラノール縮合触媒の非存在下、有機過酸化物の分解温度以上で溶融混練して、有機過酸化物から発生したラジカルによってポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤をグラフト化反応させることにより、シラングラフト樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(d):前記シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを溶融混練した後に成形する工程
工程(e):工程(d)で得られた成形体と水とを接触させる工程
<2>前記無機フィラーの配合量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、1~80質量部である<1>に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<3>前記ポリオレフィン樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む<1>又は<2>に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<4>前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンゴムを含む<1>~<3>のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<5>前記エチレンゴムが、エチレン-プロピレン-ジエンゴム又はエチレンープロピレンゴムである<4>に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<6>前記シランカップリング剤が、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランである<1>~<5>のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<7>前記無機フィラーが、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、クレー、炭酸マグネシウム、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種である<1>~<6>のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<8>前記工程(c)の溶融混合を、押出装置を用いて行う<1>~<8>のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
<9>上記<1>~<8>のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法により製造された耐熱性シラン架橋樹脂成形体を含む耐熱性製品。
<10>前記耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆層を備えた電線若しくは光ファイバーケーブルである<9>に記載の耐熱性製品。
<11>上記<1>~<8>のいずれか1項に記載の耐熱性樹脂成形体の製造方法により製造された耐熱性シラン架橋樹脂成形体であって、ポリオレフィン樹脂がシラノール結合を介して架橋してなるシラン架橋樹脂を含有する耐熱性シラン架橋樹脂成形体。
よって、本発明は、シランカップリング剤の揮発を抑えて、焼けによる黒点のない外観に優れた耐熱性シラン架橋樹脂成形体を製造可能な耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法を提供できる。また、本発明は、焼けによる黒点のない外観に優れた耐熱性シラン架橋樹脂成形体及びこれを用いた耐熱性製品を提供できる。
<樹脂組成物>
本発明に用いる樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(ポリオレフィン樹脂ともいう。)を含有し、更に、必要に応じて、有機オイル、可塑剤等を含有してもよい。
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物の単独重合体又は共重合体からなる樹脂であって、後述する有機過酸化物から発生したラジカルの存在下において、シランカップリング剤のグラフト化反応しうる部位(グラフト化反応部位という。)とグラフト化反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する重合体の樹脂を用いる。このグラフト化反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位、水素原子を有する炭素原子等が挙げられる。
このようなポリオレフィン系樹脂としては、従来の耐熱性樹脂組成物に使用されるものを特に制限されることなく使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、酸共重合成分(酸エステル共重合成分を含む。)を有するポリオレフィン共重合体等の各樹脂、及び、これら重合体のゴム若しくはエラストマー等が挙げられる。ゴム若しくはエラストマーとしては、例えば、エチレンゴム、スチレン系エラストマー、アクリル酸アルキルとエチレンとの共重合ゴム(エチレンアクリルゴム)等が挙げられる。
中でも、金属水和物などをはじめとする各種無機フィラーに対する受容性(混和性)が高く、無機フィラーを多量に配合しても機械的強度を維持できる点から、酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂(エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体)、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、より好ましくは、エチレンゴムを含む。
ポリオレフィン系樹脂及び後述する各樹脂は、それぞれ1種を単独で用いても2種以上を用いてもよい。
ポリエチレン樹脂は、エチレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、エチレンの単独重合体、エチレンとα-オレフィン(好ましくは5mol%以下)との共重合体(ポリプロピレンに該当するものを除く。)、並びに、エチレンと官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持つ非オレフィン(好ましくは1mol%以下)との共重合体からなる樹脂が包含される。なお、上述のα-オレフィレン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いることができる。
ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)が挙げられる。中でも、低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレン又は超低密度ポリエチレンが好ましく、低密度ポリエチレン又は直鎖型低密度ポリエチレンがより好ましい。
ポリプロピレン樹脂は、主成分としてプロピレン構成成分を含む重合体の樹脂であればよく、プロピレンの単独重合体(ホモポリプロピレン樹脂)、エチレン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等の樹脂を使用することができる。
エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂としては、好ましくは、エチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体(上述のポリエチレン及びポリプロピレンに該当するものを除く。)の樹脂が挙げられる。
酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂における酸共重合成分(酸エステル共重合成分を含む。)としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸化合物、酢酸ビニル、又は、(メタ)アクリル酸アルキル(好ましくは炭素数1~12)等の酸エステル化合物が挙げられる。酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等の各樹脂が挙げられる。中でも、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体の各樹脂が好ましく、無機フィラーへの受容性及び耐熱性の点から、エチレン-酢酸ビニル共重合体の樹脂がより好ましい。
エチレンゴムとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体のゴムであれば特に限定されない。例えば、エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα-オレフィン(好ましくは炭素数1~12)との二元共重合体ゴム、エチレンとα-オレフィン(好ましくは炭素数1~12)とα-オレフィン以外の、不飽和結合を有する第三成分との3元共重合体からなるゴムが挙げられる。第三成分としては、共役若しくは非共役のジエンが挙げられ、具体的には、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン等が挙げられる。二元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、三元共重合体ゴムとしては、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
スチレン系エラストマーとしては、分子内に芳香族ビニル化合物を構成成分とするものをいう。このようなスチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。このようなスチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化SIS、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、水素化SBS、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム(HSBR)等が挙げられる。
有機オイルは、芳香族系オイル、パラフィン系オイル若しくはナフテン系オイル、又は、これら三者を含む混合油が挙げられる。有機オイルとしては、樹脂組成物に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができ、パラフィン系オイル又はナフテン系オイルが好ましい。有機オイルは、スチレン系エラストマーと併用されることが好ましい。有機オイルは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
樹脂組成物中の、ポリオレフィン系樹脂の含有率は、特に制限されないが、有機オイルとの合計含有率合計で、15~100質量%であることが好ましい。樹脂組成物中の、有機オイルの含有率(樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、可塑剤との合計含有率)は、特に制限されないが、0~40質量%が好ましく、0~35質量%であることがより好ましい。
ポリエチレン樹脂の含有率は、0~98質量%が好ましく、5~90質量%がより好ましい。ポリプロピレン樹脂の含有率は、0~40質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましく、2~25質量%が更に好ましい。エチレン-α-オレフィン共重合体樹脂の含有率は、0~98質量%が好ましい。酸共重合成分を有するポリオレフィン共重合体樹脂の含有率は、0~90質量%が好ましく、0~70質量%がより好ましい。エチレンゴムの含有率は、0~98質量%が好ましく、0~90質量%がより好ましい。スチレン系エラストマーの含有率は、0~40質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましい。
本発明に用いる無機フィラーは、従来の耐熱性樹脂組成物に通常用いられるものであれば特に制限されず、その表面に、後述するシランカップリング剤の加水分解性シリル基と水素結合若しくは共有結合等又は分子間結合により、化学結合しうる部位を有するものが好ましい。加水分解性シリル基と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水若しくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、タルク等の水酸基又は結晶水を有する化合物のような金属水和物が挙げられる。また、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛等も挙げられる。
中でも、金属水和物、シリカ、三酸化アンチモン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、クレー、炭酸マグネシウム、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムが更に好ましい。
無機フィラーは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
無機フィラーの平均粒径が上記範囲にあると、2次凝集を防止してブツのない外観を有する成形体を得ることができる。
無機フィラーの平均粒径は、無機フィラーをアルコール又は水中に分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
本発明に用いる有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤のポリオレフィン系樹脂へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とポリオレフィン樹脂のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。例えばシランカップリング剤がグラフト化反応部位としてエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基とポリオレフィン樹脂とのラジカル反応(ポリオレフィン樹脂からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、上記機能をするものであれば、特に制限されない。例えば、一般式:R1-OO-R2、R3-OO-C(=O)R4又はR5C(=O)-OO(C=O)R6で表される化合物が好ましい。ここで、R1~R6は各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR1~R6のうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。このような有機過酸化物としては、ラジカル重合又は従来のシラン架橋法に用いられるものを特に制限されずに用いることができ、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン又は2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
有機過酸化物は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
本発明に用いるシランカップリング剤としては、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下でポリオレフィン系樹脂のグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうる部位(基又は原子)と、シラノール縮合可能な加水分解性シリル基とを有するものであれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤としては、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。中でも、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
Ra11基はグラフト化反応部位に相当し、Ra11として採りうる基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基、p-スチリル基が挙げられ、ビニル基が好ましい。
Rb11として採りうる脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1~8の脂肪族炭化水素基が挙げられる。Rb11は、好ましくは後述のY13である。
Y11、Y12及びY13は、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解しうる有機基)を示す。例えば、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数1~4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等が挙げられる。中でも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシが好ましい。
シランカップリング剤は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
シランカップリング剤は、そのままの形態で用いてもよいし、溶剤で希釈した形態で用いてもよい。
本発明に用いるシラノール縮合触媒は、ポリオレフィン系樹脂にグラフト化反応したシランカップリング剤を水の存在下でシラノール縮合反応(促進)させる。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介してポリオレフィン系樹脂が架橋される。その結果、耐熱性に優れたシラン架橋樹脂成形体を得ることができる。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。具体的には、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物が挙げられる。好ましくは有機スズ化合物である。
シラノール縮合触媒は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
本発明においては、シラノール縮合触媒は、そのまま用いてもよいが、樹脂との混合物として用いることができる。シラノール縮合触媒と溶融混練される(担持する)樹脂(キャリア樹脂という。)としては、特に制限されないが、上記樹脂組成物で説明したポリオレフィン系樹脂を用いることができる。好ましくは、シラノール縮合触媒と親和性が高く、高い耐熱性を付与できる点で、ポリエチレン樹脂である。キャリア樹脂は、1種類を用いても、2種類以上を用いてもよい。
本発明においては、各種の添加剤を用いることができる。添加剤としては、電線、電気ケーブル、電気コード、自動車用部材、OA機器、建築部材、雑貨、シート、発泡体、チューブ、パイプ等において、一般的に使用される各種の添加剤が挙げられる。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、架橋助剤、滑剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、更には上記ポリオレフィン系樹脂以外の樹脂が挙げられる。
酸化防止剤としては、従来の耐熱性樹脂組成物に通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができ、例えば、ベンゾイミダゾール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ヒドラジン系酸化防止剤等が挙げられる。
次に、本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法(以下、本発明の製造方法ということがある。)を具体的に説明する。
本発明の製造方法は、下記工程(a)~(e)を有する。
工程(a):ポリオレフィン系樹脂を含有する樹脂組成物と、樹脂組成物100質量部に対して無機フィラー1~400質量部とを溶融混練する工程
工程(b):工程(a)で得られた溶融混練物と、この溶融混練物中の樹脂組成物100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部、及び、ポリオレフィン樹脂のグラフト化反応可能な部位とグラフト化反応しうる部位を有するシランカップリング剤0.5~15質量部とを、有機過酸化物の分解温度未満の温度で、混合する工程
工程(c):工程(b)で得られた混合物を、シラノール縮合触媒の非存在下、有機過酸化物の分解温度以上で溶融混練して、有機過酸化物から発生したラジカルによってポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤をグラフト化反応させることにより、シラングラフト樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(d):シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを溶融混練した後に成形する工程
工程(e):工程(d)で得られた成形体と水とを接触させる工程(e)
その理由の詳細はまだ定かではないが、以下のように考えられる。
シランカップリング剤と樹脂組成物等との溶融混練中に、摩擦等によりシランカップリング剤が、場合によっては急激にかつ多量に、揮発する。揮発したシランカップリング剤が、溶融混練物の表面近傍に存在する有機過酸化物と迅速に反応して、シランカップリング剤同士のラジカル重合反応が起こる。このラジカル重合反応は発熱反応であり、この重合反応の進行に伴って放熱される。この放熱による発熱量が大きくなると、系内温度が揮発成分や溶融混練物の引火点を越えて、溶融混練物が黒点発生を起こしやすくなる。
しかし、本発明の製造方法では、特定の混合順で各成分を順次溶融混練するため、溶融混練中に発生する摩擦を低減でき、シランカップリング剤の急激かつ多量の揮発を抑えることができる。更には、予め、樹脂組成物及び無機フィラーの溶融混合物、シランカップリング剤、架橋剤が均一に分散されていることから、シランカップリング剤同士の反応(付加反応、縮合反応)が起こりにくく、安定してポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤がグラフト化反応する。その結果、溶融混練物の黒点生成、ひいては耐熱性シラン架橋樹脂成形体の焼けを防止できる。
本発明の製造方法においては、樹脂組成物とシランカップリング剤と有機過酸化物とを溶融混練(シランカップリング剤の樹脂へのグラフト化反応)する前に、樹脂組成物と無機フィラーとを溶融混練する(工程(a))。
工程(a)において、樹脂組成物は、「全量(100質量部)が配合される態様」と、「一部が配合される態様」とを含む。工程(a)において、樹脂組成物の一部が配合される場合、樹脂組成物の残部は、工程(a)以外の他の工程であればいずれの工程で配合されてもよいが、工程(d)においてシラノール縮合触媒を担持するキャリア樹脂として配合されることが好ましい。工程(a)で樹脂組成物の一部を配合する場合、工程(a)と他の工程とで配合される樹脂組成物の合計配合量100質量部を各成分の配合量の基準(例えば工程(b)等)とする。他の工程、特に工程(d)で樹脂組成物の残部が配合される場合、樹脂組成物は、工程(a)において、好ましくは55~99質量%、より好ましくは60~95質量%が配合され、他の工程において、好ましくは1~45質量%、より好ましくは5~40質量%が配合される。
本発明の製造方法では、上述のように、シランカップリング剤の揮発を防止できるから、生産性(押出負荷の低減)等を目的として、上記好ましい配合量にかかわらず、無機フィラーの配合量を低く設定することもできる。例えば、樹脂組成物100質量部に対して、1~80質量部に設定することができ、また1~60質量部に設定することもでき、更には1~30質量部に設定することもできる。
混練方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に制限されない。混練装置は、例えば無機フィラーの量に応じて適宜に選択される。例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が挙げられる。中でも、バンバリーミキサー、各種のニーダー等の密閉型ミキサーが樹脂の分散性の点で好ましい。
樹脂組成物の溶融混練方法は、特に制限されない。例えば、予め調製した樹脂組成物を溶融混練してもよく、樹脂組成物に含有させる樹脂又は有機オイル等それぞれを別々に溶融混練してもよい。
本発明の製造方法においては、次いで、シランカップリング剤と樹脂とのグラフト化反応(工程(c))に先立ち、工程(a)で得られた溶融混練物と、この溶融混練物中の樹脂組成物100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部及びシランカップリング剤0.5~15質量部とを、有機過酸化物の分解温度未満の温度で、混合する(工程(b))。
本発明の製造方法では、上述のように、シランカップリング剤の揮発を防止できるから、耐熱性(架橋密度)の向上を目的として、シランカップリング剤の配合量を高く設定することもできる。例えば、樹脂組成物100質量部に対して、3.0質量部以上に設定できる。
工程(b)の混合は、シラノール縮合触媒の非存在下で行い、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることが好ましい。シラノール縮合触媒の非存在下で溶融混練するとは下記工程(c)で説明する通りである。
本発明の製造方法においては、次いで、工程(b)で得られた混合物を、シラノール縮合触媒の非存在下、有機過酸化物の分解温度以上で溶融混練する(工程(c))。
本発明において、シラノール縮合触媒の非存在下で溶融混練するとは、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに溶融混練することを意味する。すなわち、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による下記混練性及び成形性の問題が生じない程度であれば存在していてもよいことを意味する。例えば、シラノール縮合触媒は、樹脂組成物100質量部に対して、0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
上記溶融混練をシラノール縮合触媒の非存在下で行うことにより、この工程でのシランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、混練性に優れ(溶融混練しやすく)、また成形性に優れる(所望の形状に押出成形できる)。
工程(c)により、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト化反応部位とポリオレフィン樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化(結合)反応させる。有機過酸化物の分解温度未満で混練すると、シラングラフト化反応が起こらず、所望の耐熱性を得ることができないばかりか、押出中に有機過酸化物が反応してしまい、所望の形状に成形できない場合がある。
工程(c)における溶融混練は、工程(a)で説明した混練装置を用いて行うことができ、中でも、押出装置(一軸押出機、二軸押出機)を用いて行うことが好ましい。
得られるシランマスターバッチ(シランMB)中に含まれるシラングラフト樹脂は、工程(d)により成形可能な程度にシランカップリング剤が樹脂にグラフト化反応している。シランMB中の無機フィラーは、シランカップリング剤(加水分解性シリル基)と結合していてもしていなくてもよい。
本発明の製造方法においては、次いで、工程(c)で得られたシランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを溶融混練した後に成形する(工程(d))。
キャリア樹脂としては、上記工程(a)で樹脂組成物の一部を溶融混練した場合、樹脂組成物の残部を用いる。この場合、樹脂組成物の残部とシラノール縮合触媒との配合割合は、特に限定されず、樹脂組成物の配合量及びシラノール縮合触媒の配合量を満たすように、設定される。また、キャリア樹脂としては、上記樹脂組成物以外の樹脂を用いることができる。この場合、キャリア樹脂の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは1~60質量部、より好ましくは2~50質量部、更に好ましくは2~40質量部である。
更に、触媒MBは無機フィラーを含有していてもよい。触媒MB中の無機フィラーの含有量は、特には制限されないが、キャリア樹脂100質量部に対して、350質量部以下が好ましい。あまりフィラー量が多いとシラノール縮合触媒が分散しにくく、シラノール縮合反応が進行しにくくなることがある。一方、キャリア樹脂が多すぎると、成形体の架橋度が低下して、所望の耐熱性が得られないことがある。
キャリア樹脂とシラノール縮合触媒との溶融混練は、樹脂組成物の溶融下で行う方法であればよい。この溶融混練は上記工程(a)の溶融混練と同様に行うことができる。例えば、混練温度は、80~250℃、より好ましくは100~240℃に設定できる。その他の条件、例えば混練時間は適宜設定することができる。
シラノール縮合触媒の配合量は、樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01~0.6質量部、より好ましくは0.001~0.4質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤のシラノール縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、耐熱性シラン架橋樹脂成形体の耐熱性を高め、外観荒れ及び物性の低下を防止でき、更に生産性も向上する。
工程(d)における溶融混練は、樹脂組成物の溶融下で行う方法であればよく、例えば、工程(a)の溶融混練と同様に行うことができる。工程(d)は、ポリオレフィン樹脂にグラフト化したカップリング剤のシラノール縮合反応を抑えて行う。例えば、工程(d)においては、水存在量が少ない条件で行うことが好ましく、また、シランMBとシラノール縮合触媒が混練された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
工程(d)における溶融混練前に、各成分をポリオレフィン樹脂又はキャリア樹脂の非溶融下で混合、例えばドライブレンドすることができる。ドライブレンドの方法及び条件は、特に限定されず、例えば、工程(b)での乾式混合及びその条件が挙げられる。
このようにして、シランMBとシラノール縮合触媒との溶融混練物である耐熱性シラン架橋性樹脂組成物が得られる。
耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形は、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を成形できればよく、樹脂架橋成形体の形態に応じて、適宜の成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。
押出成形は、本発明の耐熱性製品が配線材、特に電線又は光ファイバーケーブルである場合に、好ましく適用される。押出成形は、汎用の押出成形機を用いて、行うことができる。押出成形温度は、樹脂組成物ないしキャリア樹脂の種類、押出速度(引取り速度)の諸条件にもよるが、シリンダー部を120~180℃、クロスヘッド部(ダイス温度)を約160~190℃程度に設定することが好ましい。
上述のようにして、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体が得られる。
成形体中のシラングラフト樹脂は、加水分解性シリル基が無機フィラーと結合又は吸着していてもいなくてもよい。
添加剤は、キャリア樹脂に加えることが好ましく、特に酸化防止剤や金属不活性剤はシランカップリング剤の樹脂へのグラフト化反応を阻害しないように、キャリア樹脂に加えることが好ましい。また滑剤もキャリア樹脂に加えることが好ましい。更に架橋助剤は、工程(a)、工程(c)、及び工程(d)の触媒MB調製時に、実質的に混合しないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混練中に架橋助剤を介した樹脂成分同士の架橋反応が生じにくく、ゲル化による外観荒れを防止できる。また、シランカップリング剤の樹脂へのグラフト化反応が生じやすく、耐熱性が優れたものになる。ここで、架橋助剤が実質的に混合されないとは、不可避的に存在する架橋助剤をも排除するものではなく、上述利点を損なわない程度に存在していてもよいことを意味する。
本発明の製造方法において、添加剤の配合量は、特に制限されず、目的とする効果を損なわない範囲で適宜に設定できる。酸化防止剤の配合量は、適宜に設定できるが、樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.1~15.0質量部、より好ましくは0.1~10質量部である。
本発明の製造方法においては、次いで、工程(d)で得られた耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体と水とを接触させて架橋させる(工程(e))。工程(d)により、シランカップリング剤の加水分解性シリル基が水により加水分解されてシラノール(ケイ素原子に結合するOH基)となり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒により、シラノールの水酸基同士が(脱水)縮合して、架橋反応が起こる。
工程(e)は、通常の方法によって行うことができる。上記縮合反応は常温で保管するだけで進行する。したがって、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体と水とを積極的に接触させなくてもよい。この縮合反応を促進させるために、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体と水とを積極的に接触させることもできる。積極的に水と接触させる方法としては、例えば、水(温水)への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等が挙げられる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
本発明の耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、本発明の製造方法により製造され、ポリオレフィン系樹脂がシラノール結合を介して架橋したシラン架橋樹脂を含有している。このシラン架橋樹脂は、上述のシラングラフト樹脂におけるシランカップリング剤由来の加水分解性シリル基同士がシラノール結合した架橋部を有しており、加水分解性シリル基の一部が無機フィラーと結合又は吸着していてもよい。
この耐熱性シラン架橋樹脂成形体は、シランカップリング剤の揮発を抑えて製造されたものであり、焼けによる黒点のない優れた外観を有し、高い耐熱性を示す。
耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法において、シランカップリング剤が大量に揮発すると、溶融混練物に黒点が生成し、最悪発火する可能性もあり、安全性に懸念がある。しかし、本発明の製造方法は、シランカップリング剤の揮発を抑えることができ、高い安全性を確保できる。
(耐熱性製品)
本発明の耐熱性製品は、シラン架橋樹脂成形体を含む製品(半製品、部品、部材等も含む。)であり、シラン架橋樹脂成形体のみからなる製品でもよい。このような耐熱性製品として、例えば、その他耐熱性難燃電線部品、難燃性耐熱シート、難燃性耐熱フィルム、その他種々の耐熱性成形体、具体的には電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、電気・電子機器の内部及び外部配線に使用される配線材や、電線の絶縁体やシース等の成形部品が挙げられる。
本発明の耐熱製品は、シラン架橋樹脂成形体を被覆層として有する配線材、特に電線又は光ファイバーケーブルが好ましい。
本発明の製法方法は、シラン架橋樹脂成形体を含む耐熱性製品、例えば本発明の耐熱性製品の製造に適用することができる。本発明の製造方法は、配線材の製造に好適に適用され、配線材の被覆層(絶縁体、シース)を形成することができる。
本発明の製造方法により配線材を製造する場合、好ましくは、工程(c)で得られたシランMBとシラノール縮合触媒と(成形材料)を押出機(押出被覆装置)内で溶融混練しながら、得られる耐熱性シラン架橋性樹脂組成物を導体等の外周に押出成形する。このようにして、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物で導体等を被覆して、配線材を製造できる。
このような耐熱性製品は、無機フィラーを大量に加えても高耐熱性で高温でも溶融しない耐熱性シラン架橋樹脂成形体を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて成形することができる。用いる導体としては、軟銅等の単線若しくは撚線又は抗張力繊維を縦添えした導体でもよく、また裸線でも錫メッキ若しくはエナメル被覆したものでもよい。導体を形成する金属材料としては軟銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の耐熱性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが、通常、0.15~5mm程度である。
表1及び表2において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
<樹脂組成物>
UE-320:ノバテックLL(商品名)、LLDPE、三菱油化社製
エボリューSP1540:商品名、LLDPE、プライムポリマー社製)
EC9:ノバテックPP(商品名)、ポリプロピレン樹脂、日本ポリプロ社製
EV360:エバフレックスEV360(商品名)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、三井・デュポンポリケミカル社製)
セプトン4077:商品名、スチレン系エラストマー(SEEPS)、クラレ社製
ダイアナプロセスPW90:商品名、パラフィン系オイル、出光興産社製
三井EPT0045H:商品名、EPM、三井化学社製
三井EPT3092EPM:商品名、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)、三井化学社製
ノーデル3720:商品名、EPDM(エチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンゴム)、ダウ・ケミカル社製
<無機フィラー>
水酸化マグネシウム:キスマ5L(商品名)、平均粒径0.8μm、協和化学工業社製
水酸化アルミニウム:OL-104(商品名)、平均粒径1.2μm、HYUBER社製
炭酸カルシウム:ソフトン2200(商品名)、平均粒径1.5μm、備北粉化社製
三酸化アンチモン:PATOX-C(商品名)、平均粒径3.5μm、日本精鉱社製
シリカ:クリスタライト5X(商品名)、平均粒径1.2μm、龍森社製
<有機過酸化物>
パーヘキサ25B:商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、分解温度179℃、日本油脂社製
<シランカップリング剤>
KBM-1003:商品名、ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製
KBE-1003:商品名、ビニルトリエトキシシラン、信越化学工業社製
<シラノール縮合触媒>
アデカスタブOT-1:商品名、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製
<酸化防止剤>
イルガノックス1010:商品名、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF社製
<実施例1~10>
表1の樹脂組成物欄に示す、樹脂、有機オイル及び無機フィラーを表1に示す配合量で日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、混練温度180~190℃で約8分溶融混練した後、材料排出温度180~190℃で排出し、溶融混練物を得た(工程(a))。
次いで、得られた溶融混練物とシランカップリング剤と有機過酸化物とを表1に示す配合比率で東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入して、シラノール縮合触媒の非存在下、室温で8分混合(ドライブレンド)して、予備混合物としてのドライブレンド物を得た(工程(b))。
次いで、40mm単軸押出機(ベント孔付き)に、得られたドライブレンド物を投入し、シラノール縮合触媒を投入せずに(非存在下で)、押出機温度を有機過酸化物の分解温度を超える190℃に、ヘッド温度を200℃に設定して溶融混練し、これを押出した。押出したストランドを水冷した後にカットして、シランMBのペレットを得た(工程(c))。
得られた被覆導体を、温度80℃、相対湿度95%の環境下に24時間放置して、耐熱性シラン架橋性樹脂組成物の成形体を水に接触させて、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆層を有する電線(耐熱製品)を製造した(工程(e))。
表2のシランMB用成分欄に示す各成分(樹脂、有機オイル、無機フィラー、シランカップリング剤及び有機過酸化物)を表2に示す配合量で日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、混練温度160~200℃で約8分溶融混練した後、材料排出温度200℃で排出し、シランマスターバッチを得た。
一方、表2に示す触媒MB用成分欄に示す各成分(キャリア樹脂、シラノール縮合触媒及び酸化防止剤)を表2に示す配合量でバンバリーミキサーにて180~190℃で溶融混練し、材料排出温度を180~190℃に設定して、触媒MBを得た。
次いで、シランMBと触媒MBを表2に示す割合(シランMBの調製に用いた樹脂組成物と触媒MBの調製に用いたキャリア樹脂を併せて100質量%となる割合)でドライブレンドした後に、直径が40mmのスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D24、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度200℃)に導入した。この押出機内でシランMBと触媒MBを溶融混練しつつ、1/0.8TA導体の外側に肉厚1mmで押出被覆し、外径2.8mmの被覆導体を得た。
得られた被覆導体を、温度80℃、相対湿度95%の環境下に24時間放置して、被覆導体の押出被覆を水に接触させて、耐熱性シラン架橋樹脂成形体からなる被覆層を有する電線を製造した。
上記で調製したシランMB、製造した電線について下記試験を評価し、結果を表1及び表2に示した。
(試験1:押出性試験)
各実施例と同様にしてシランMBの調製を5回行った。得られたシランMBを、直径が25mmφのスクリューを備えた押出機(スクリュー有効長Lと直径Dとの比:L/D=25、シリンダー温度を180℃、ヘッド温度を190℃に設定した。)に導入して、厚さ1mm、幅約8mmのシートを押出成形した。
得られたシートの長さ50cm分の表面について、焼けによる黒点と、外観荒れの有無を目視にて評価した。
- 黒点発生の有無 -
黒点発生の有無は、5枚のシート全てにおいて黒点が発生(確認)されなかったもの(合格)を「○」とし、5枚のシートのうち1枚でも黒点が発生(確認)されたもの(不合格)を「×」とした。
- 外観荒れ発生の有無 -
また、5枚のシート全てにおいて直径が1mm以上のブツが1つも発生(確認)されなかったもの(合格)を「○」とし、5枚のシートのうち2枚において直径が1mm以上のブツが1つも発生(確認)されなかったもの(合格)を「△」とし、5枚のシートのうち全てにおいて直径が1mm以上のブツが発生(確認)されたもの(不合格)を「×」とした。
各実施例及び比較例で製造した電線について、長さ3m分の外観荒れの有無を、目視で確認した。
外観荒れ試験は、直径1mm以上のブツが発生(確認)できなかったもの(合格)を「○」とし、直径1mm以上のブツが2~4個発生(確認)できたもの(合格)を「△」とし、直径1mm以上のブツが5個以上発生(確認)できたもの(不合格)を「×」とした。
電線(被覆層)の耐熱性として加熱変形試験を行った。加熱変形試験は、JIS C 3005に基づいて、電線をそのまま試験片として用いて、測定温度120℃、荷重5Nで行った。加熱変形試験は試験片の厚さの減少率(%)が40%以下を合格とした。
加熱変形特性試験において、電線の被覆層(耐熱性シラン架橋樹脂成形体)について厚さの減少率が40%以下のものは、電線の被覆層中に、ポリオレフィン系樹脂がシラノール結合を介して架橋してなるシラン架橋樹脂を含有していることを確認できる。
比較例2及び5は、いずれも外観が非常に悪いため、加熱変形特性試験を行うことができず、表2において「-」で示した。
本発明で規定する工程を経ない製造方法でシラン架橋性樹脂組成物(シート)を調製した比較例は、シラン架橋性樹脂組成物の調製(成形)時に、バンバリーミキサー内で有機過酸化物から発生したラジカルがシランカップリング剤に作用してシランカップリング剤が反応したと推定される破裂音が確認された。また、得られたシラン架橋性樹脂組成物の成形体(シート)には黒点又は外観荒れが確認された。また、比較例1~5は、電線の被覆層(シラン架橋樹脂成形体)に、焼け及び外観荒れが発生し、外観に劣ることが分かる。
これに対して、本発明の製造方法で耐熱性シラン架橋樹脂成形体を製造した実施例1~10は、いずれも、シランカップリング剤の揮発を効果的に抑えて焼けがなく、かつ外観荒れもない、優れた外観を有し(押出性試験及び電線の外観荒れ試験に合格し)、更に加熱変形試験での厚さの減少率も40%以下という優れた耐熱性を示している。
Claims (8)
- 下記工程(a)~(e)を有する耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a):ポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物と、該樹脂組成物100質量部に対して無機フィラー1~400質量部とを溶融混練する工程
工程(b):工程(a)で得られた溶融混練物と、この溶融混練物中の樹脂組成物100質量部に対して、有機過酸化物0.01~0.6質量部、及び、前記ポリオレフィン樹脂のグラフト化反応可能な部位とグラフト化反応しうる部位を有するシランカップリング剤0.5~15質量部とを、有機過酸化物の分解温度未満の温度で、混合する工程
工程(c):工程(b)で得られた混合物を、シラノール縮合触媒の非存在下、有機過酸化物の分解温度以上で溶融混練して、前記有機過酸化物から発生したラジカルによってポリオレフィン樹脂にシランカップリング剤をグラフト化反応させることにより、シラングラフト樹脂を含むシランマスターバッチを調製する工程
工程(d):前記シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを溶融混練した後に成形する工程
工程(e):工程(d)で得られた成形体と水とを接触させる工程 - 前記無機フィラーの配合量が、前記樹脂組成物100質量部に対して、1~80質量部である請求項1に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記ポリオレフィン樹脂が、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体、低密度ポリエチレン、直鎖型低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む請求項1又は2に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記ポリオレフィン樹脂が、エチレンゴムを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記エチレンゴムが、エチレン-プロピレン-ジエンゴム又はエチレンープロピレンゴムである請求項4に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記シランカップリング剤が、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランである請求項1~5のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記無機フィラーが、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、クレー、炭酸マグネシウム、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛及びタルクからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
- 前記工程(c)の前記溶融混合を、押出装置を用いて行う請求項1~8のいずれか1項に記載の耐熱性シラン架橋樹脂成形体の製造方法。
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