[003]例えばセキュリティ文書のためのセキュリティ機能は、「隠された」、及び「明白な」セキュリティ機能に分類され得る。隠されたセキュリティ機能により提供される保護は、そのような機能が隠蔽されており、その検出のために典型的には特殊な機器及び知識が必要であるという概念に依拠し、一方「明白な」セキュリティ機能は、補助なしでの人間の感覚で容易に検出可能であり、例えば、そのような機能は、可視及び/又は触覚により検出可能でありながら、依然として作製及び/又は複写が困難であり得る。
[004]機械可読インク、例えば磁性インク、発光インク及びIR吸収インク等は、セキュリティ文書の分野において、特に紙幣印刷において、追加的な隠されたセキュリティ機能をセキュリティ文書に付与するために広く使用されている。隠されたセキュリティ機能により提供される偽造及び違法複製からのセキュリティ文書の保護は、そのような機能がその検出のために典型的には特殊な機器及び知識を必要とするという概念に依拠している。偽造、変造及び違法複製からの有価文書及び有価商品のセキュリティ及び保護の分野において、オフセット印刷、凸版印刷及び凹版印刷(当技術分野において彫刻鋼製金型又は銅版印刷とも呼ばれる)等の高粘度又はペースト状インクを使用した印刷プロセス、輪転グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷及びインクジェット印刷等の液体インクを使用した印刷プロセスを含む、様々な印刷プロセスにより機械可読セキュリティインクを塗布することが、当技術分野で公知である。
[005]赤外線(IR)吸収材料を含むセキュリティ機能が広く知られており、セキュリティ用途に使用されている。セキュリティの分野において一般的に使用されるIR吸収材料は、780nm~1400nmの間のスペクトル範囲(CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)により規定される範囲)の電子遷移による電磁放射線の吸収に基づいており、電磁スペクトルのこの部分は、通常NIR領域と呼ばれる。例えば、IR吸収機能は、銀行業務及び販売用途(自動預払機、自動販売機等)において、決定された通貨を認識し、その信頼性を検証するために、特にそれをカラーコピー機により作製された複製物と区別するために、自動通貨処理機器により使用する紙幣に実装されている。IR吸収材料は、実質的な量のIR吸収原子又はイオンを含む有機化合物、無機材料、ガラスを含む。IR吸収化合物の典型的な例は、中でも、カーボンブラック、キノン-ジインモニウム又はアンモニウム塩、ポリメチン(例えばシアニン、スクアライン、クロコナイン)、フタロシアニン又はナフタロシアニン型(IR吸収性π系)、ジチオレン、クアテリレンジイミド、金属(例えば遷移金属又はランタニド等) 塩(例えばフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、安息香酸塩、酢酸塩、クロム酸塩、六ホウ化物、モリブデン酸塩、マンガン酸塩、鉄酸塩、有機硫酸塩、有機スルホン酸塩、有機ホスホン酸塩、有機リン酸塩及びホスホノタングステン酸塩等)、金属酸化物(例えばインジウムスズ酸化物、ナノ粒子状形態のアンチモンスズ酸化物、及びドープ酸化スズ(IV)等)、金属窒化物を含む。
[006]可視領域におけるその強い吸収に起因して、カーボンブラックは好ましいセキュリティ材料ではないが、その理由は、可視領域におけるその強い吸収により、偽造又は違法複製から保護されるセキュリティ文書のデザインを実現する自由度が制限されるためである。
[007]理想的には、認証目的のための赤外線(IR)吸収材料を含むセキュリティ機能は、例えば、全ての種類の可視着色インクにおいて、及び肉眼では見えないマークにおいてもその使用を可能にするために、可視範囲(400nm~700nm)において吸収せず、同時に例えば、標準的な通貨処理機器によるその容易な認識を可能にするために、近赤外線範囲(700nm~1400nm)において強い吸収を示すべきである。
[009]改善された特性を示す無機IR吸収化合物が国際公開第2007/060133A2号に開示されており、デザインの自由度が電磁スペクトルの可視範囲での前記IR吸収化合物の吸収により制限されないセキュリティ機能を生成するためのセキュリティインクが開発されている。国際公開第2007/060133A2号は、IR吸収が遷移元素の原子又はイオンのd殻内での電子遷移の結果である遷移元素化合物からなるIR吸収材料を含む凹版印刷インクを開示している。特に、国際公開第2007/060133A2号は、IR吸収材料として、リン酸銅(II)、ピロリン酸Cu(II) メタリン酸銅(II)、水和リン酸鉄(II)(Fe3(PO4)2 8H2O、藍鉄鉱)、水和リン酸ニッケル(II)(Ni3(PO4)2 8H2O)及びCa2Fe(PO4)2 4H2O(アナパイト)を開示している。
[010]したがって、従来技術に勝る利点を有し、NIR放射線の吸収の点で公知のIR吸収剤と同様に好適である、又はさらにそれよりも好適であると同時に、高い化学安定性、可視範囲における高い反射率を有し、毒性学的又は環境上の懸念を生じない、機械可読セキュリティ機能を印刷するためのIR吸収材料を含むセキュリティインクが依然として必要とされている。
[013]本明細書に記載のセキュリティインクから作製された機械可読セキュリティ機能、及び前記機械可読セキュリティ機能を生成するための方法であって、好ましくは凹版印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、輪転グラビア印刷及びフレックステンショナルインクジェット印刷からなる群から選択される印刷プロセスによって、本明細書に記載のセキュリティインクを基板に塗布するステップa)を含む方法も本明細書に記載及び特許請求される。
[014]機械可読セキュリティ機能を備えるセキュリティ文書、並びに、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能からなる第1の部分と、電磁スペクトル(UV又はVis)の別の領域において吸収する1種若しくは複数の化合物を含むインクから作製されたセキュリティ機能からなる、又は1種若しくは複数の磁性化合物を含む機械可読磁性インクで作製されたセキュリティ機能からなる第2の部分とを備え、その結果、組み合わされた前記セキュリティ機能を形成するセキュリティ文書も、本明細書に記載及び特許請求される。
[016]驚くべきことに、セキュリティインクにおける本明細書に記載のIR吸収材料の使用は、NIR範囲における高い吸収特性、可視範囲における高い反射率、及び高い化学安定性を組み合わせることが見出された。
[017]本明細書に記載のIR吸収材料は、比較的容易に、及び比較的低コストで製造することができ、例えば有機又は金属有機吸収剤と比較して高い化学安定性により特徴付けられる。IR吸収材料は結晶水不含であり、その結果、放射線の一部が結晶水により吸収されるのではなく、放射線の全てが実際の複合体により吸収される。さらに、前記1種又は複数のIR吸収材料を含むセキュリティインクは、NIR範囲で特に高い吸収を示す一方で、可視範囲で高反射性である。
グラフトナイト構造を有する結晶水不含Fe3(PO4)2(IR吸収材料IR-A1、図1A)及び結晶水不含KFePO4(IR吸収材料IR-A2、図1B)のX線回折図(XRD)を示す図である。
グラフトナイト構造を有する結晶水不含Fe3(PO4)2(IR吸収材料IR-A1、図1A)及び結晶水不含KFePO4(IR吸収材料IR-A2、図1B)のX線回折図(XRD)を示す図である。
グラフトナイト構造を有し、結晶水不含であるFe3(PO4)2(IR吸収材料IR-A1、図2B)及び結晶水不含ではないFe3(PO4)2(IR吸収材料IR-A3、図2A)のDSC曲線を示す図である。
グラフトナイト構造を有し、結晶水不含であるFe3(PO4)2(IR吸収材料IR-A1、図2B)及び結晶水不含ではないFe3(PO4)2(IR吸収材料IR-A3、図2A)のDSC曲線を示す図である。
(紙基板を40重量%のIR吸収材料IR-A1(実線)、IR-A2(点線)及びIR-A3(一点鎖線)を含む凹版インクで印刷することにより得られたセキュリティ機能の)可視範囲及びNIR範囲における反射率曲線を示す図である。
[詳細な説明]
[018]以下の定義は、説明において議論され、特許請求の範囲において列挙される用語の意味を解釈するために使用される。
[019]本明細書において使用される場合、冠詞「a」は、1つ及び2つ以上を示し、必ずしも指示対象の名詞を単数に限定しない。
[020]本明細書において使用される場合、「約」という用語は、問題の量又は値が指定された値、又はほぼ同じある他の値であってもよいことを意味する。語句は、示された値の±5%の範囲内の同様の値が、本発明による同等の結果又は効果を促進することを伝えることを意図する。
[021]本明細書において使用される場合、「及び/又は」又は「又は/及び」という用語は、前記群の要素の全て又は1つのみのいずれかが存在し得ることを意味する。例えば、「A及び/又はB」は、「Aのみ、又はBのみ、又はA及びBの両方」を意味するものとする。
[022]本明細書において使用される場合、「少なくとも」という用語は、1つ又は2つ以上、例えば1つ又は2つ又は3つを定義することを意図する。
[023]「セキュリティ文書」という用語は、少なくとも1つのセキュリティ機能により、偽造又は不正から通常保護される文書を指す。セキュリティ文書の例は、限定することなく、有価文書及び有価商品を含む。
[024]「紫外」(UV)という表現は、100~400nmの間のスペクトル範囲を指すように使用され、「可視」(Vis)は、400~700nmの間のスペクトル範囲を指すように使用され、「赤外線」(IR)は、780nm~15000nmの間の波長のスペクトル範囲を指すように使用され、近赤外線(NIR)は、780nm~1400nmの間の波長のスペクトル範囲を指すように使用される(範囲は、CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)により規定されており、Sliney D. H.、Eye(the Scientific Journal of the Royal College of Ophtalmologists、2016、30(2)、222~229頁)において引用されている)。
[025]本発明は、機械可読セキュリティ機能を印刷するための、本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料を含むセキュリティインクをさらに提供する。本明細書において使用される場合、「機械可読セキュリティ機能」という用語は、デバイス又は機械により検出可能な少なくとも1つの特徴的特性を示し、層に含まれ得、その結果、その認証のための特定の機器の使用により前記層又は前記層を備える物品を認証する手法を付与する要素を指す。
[026]本明細書に記載のセキュリティ機能の機械可読特性は、本明細書に記載のセキュリティインクに含まれる、本明細書に記載の1種又は複数の吸収材料により具現化される。
[027]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料を含む機械可読セキュリティ機能は、可視範囲(400nm~700nm)における高い反射率及び近赤外線範囲(780nm~1400nm)における低い反射率を有利に示し、したがって、標準的な機器、及び高速紙幣選別機を備えたものを含む標準的な検出器による効率的な認証及び認識を可能にするが、その理由は、そのような検出器が、Vis及びNIR範囲の選択された波長での反射率の差に依拠するためである。
[028]本発明は、好ましくは凹版印刷、スクリーン印刷、輪転グラビア印刷、フレキソ印刷又はフレックステンショナルインクジェット印刷からなる群から選択される印刷プロセスによって本明細書に記載の基板上に機械可読セキュリティ機能を印刷するための本明細書に記載のセキュリティインクにおける機械可読化合物としての、本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料の使用をさらに提供する。
[029]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料は、好ましくは、約5~約60重量%の量で本明細書に記載のセキュリティインク中に存在し、重量パーセントは、セキュリティインクの総重量に対する。
[030]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料は、a)二価鉄及びリン酸アニオン又はホスホン酸アニオンの存在、並びに結晶水の欠失と、b)前記材料の結晶構造における反転中心の非存在とを組み合わせることにより、機械可読セキュリティ機能を生成するのに好適である。本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料は、グラフトナイト構造を有する式Fe3(PO4)2を有する結晶水不含オルトリン酸鉄(II)の場合と同様であるが、本明細書に記載の一般式FeaMb(POc)dの混合金属鉄(II)化合物の場合にも、反転中心を有さず、ラポルテの規則はもはや当てはまらず、吸収はそれに対応してより高い。
[031]1種又は複数のIR吸収材料において、リンは、酸化段階(V)で存在する。製造の結果として、酸化の他の段階でのリンの低いパーセンテージを除外することはできず、不可避の不純物の範囲で保護により包含されるべきである。本発明による生成物は、オルトリン酸(H3PO4)及びその縮合物(ポリマー)に由来する。オルトリン酸塩は、アニオン構造単位[PO4
3-]を有し、ピロリン酸塩及び二リン酸塩は、構造単位[P2O7
4-]を有し、環状メタリン酸塩は、構造単位=[(PO3
-)n]を有する。
[032]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料は、グラフトナイト結晶構造を有する一般式Fe3(PO4)2の結晶水不含オルトリン酸鉄(II)、一般式FeaMb(POc)d(式中、aは、1~5の数であり、bは、0超~5の数であり、cは、2.5~5の数であり、dは、0.5~3の数であり、Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、遷移金属(dブロック)、特にSc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Cu、Zn、Co、Ni、Ag、Au、第3、第4及び第5主族の金属及び半金属、特にB、Al、Ga、In、Si、Sn、Sb、Bi及びランタノイドからなる群から選択される1種又は複数の金属を表す)の結晶水不含オルトリン酸鉄(II)金属、結晶水不含ホスホン酸鉄(II)金属、結晶水不含ピロリン酸鉄(II)金属、結晶水不含メタリン酸鉄(II)金属、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
[033]一実施形態によれば、本明細書に記載のセキュリティインクは、グラフトナイト結晶構造を有する一般式Fe3(PO4)2を有する結晶水不含オルトリン酸鉄(II)からなる群から選択される1種又は複数のIR吸収材料を含む。換言すれば、本明細書に記載のセキュリティインクは、一般式Fe3(PO4)2の結晶水不含単一金属オルトリン酸鉄(II)を含み、「単一金属」という表現は、生成物が金属(カチオン)元素として鉄(II)のみを含有することを意味する。式Fe3(PO4)2の結晶水不含オルトリン酸鉄(II)のグラフトナイト結晶構造は、単斜晶である結晶系を有し、空間群はP21/cであり、格子定数はほぼa≒8.81Å、b≒11.56Å、c≒6,14Å、α≒90,00°、β≒99,35°、γ≒90.00°である。単位胞は、8つの式単位Fe1.5PO4を含有する。リンには、酸素が四面体配位しており、鉄(II)は、3つの異なる4重層(4e)で生じ、それぞれ、異なる配位構造:配位酸素イオンのうちの1つが大幅に離れた(dは約2.68Å)1つの歪んだ八面体、及び2つの三角両錐体を有する。したがって、グラフトナイト系における鉄原子は、反転中心なしで配位する。結晶水を含む(例えば八水和物藍鉄鉱Fe3(PO4)2 8H2O)、又は中心鉄原子に対して反転中心を有する(例えば紅燐石結晶構造におけるFe3(PO4)2)他の公知の結晶構造と比較して、本明細書に記載の式Fe3(PO4)2を有する結晶水不含オルトリン酸鉄(II)のグラフトナイト結晶構造は、改善された性能を示す。
[034]別の実施形態によれば、本明細書に記載のセキュリティインクは、一般式FeaMb(POc)dの結晶水不含オルトリン酸鉄(II)金属、結晶水不含ホスホン酸鉄(II)金属、結晶水不含ピロリン酸鉄(II)金属、結晶水不含メタリン酸鉄(II)金属、及びそれらの混合物からなる群から選択される1種又は複数のIR吸収材料を含み、式中、aは、1~5の数であり、bは、0超~5の数であり、cは、2.5~5の数であり、dは、0.5~3の数であり、Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、遷移金属(dブロック)、特にSc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Cu、Zn、Co、Ni、Ag、Au、第3、第4及び第5主族の金属及び半金属、特にB、Al、Ga、In、Si、Sn、Sb、Bi及びランタノイドからなる群から選択される1種又は複数の金属を表す。換言すれば、本明細書に記載のセキュリティインクは、本明細書に記載の一般分子式FeaMb(POc)dの結晶水不含混合金属オルトリン酸鉄(II)金属、結晶水不含ピロリン酸鉄(II)金属又は結晶水不含メタリン酸鉄(II)金属からなる群から選択される1種又は複数のIR吸収材料を含み、「混合金属」という表現は、生成物が金属(カチオン)構成成分として鉄(II)に加えて少なくとも1つのさらなる金属を含有することを意味し、これは本明細書では「M」と省略される。
[035]好ましくは、本明細書に記載のセキュリティインクは、一般式FeaMb(POc)dの結晶水不含オルトリン酸鉄(II)金属、ホスホン酸鉄(II)金属、ピロリン酸鉄(II)金属又はメタリン酸鉄(II)金属からなる群から選択される1種又は複数のIR吸収材料を含み、式中、aは、1~5の数であり、bは、0超~5の数であり、cは、2.5~5の数であり、dは、0.5~3の数であり、Mは、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Baからなる群から選択される1種又は複数の金属を表す。好ましくは、本明細書に記載のセキュリティインクは、本明細書に記載の一般式FeaMb(POc)dの結晶水不含オルトリン酸鉄(II)金属、ホスホン酸鉄(II)金属、ピロリン酸鉄(II)金属又はメタリン酸鉄(II)金属を含み、式中、Mは、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)及び亜鉛(Zn)又はそれらの組合せ、好ましくはカリウム(K)単独又はマグネシウム(Mg)若しくは亜鉛(Zn)のいずれかとの組合せを表す。より好ましくは、本明細書に記載の一般式FeaMb(POc)dの結晶水不含オルトリン酸鉄(II)金属、結晶水不含ホスホン酸鉄(II)金属、結晶水不含ピロリン酸鉄(II)金属又は結晶水不含メタリン酸鉄(II)金属は、KFePO4、K(Fe0.75Zn0.25)PO4又はK(Fe0.75Mg0.25)PO4である。
[036]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料は、特定のサイズを有することにより独立して特徴付けられる。本明細書において、「サイズ」という用語は、前記IR吸収材料の統計的な特性を指す。当技術分野において公知のように、前記1種又は複数のIR吸収材料のそれぞれは、試料の粒子サイズ分布(PSD)を測定することにより独立して特徴付けられ得る。そのようなPSDは、典型的には、個々の粒子のサイズ関連特性の関数としての、試料中の粒子の分量(総数、総重量又は総体積に対して)を説明する。個々の粒子を説明する一般的に使用されるサイズ関連特性は、「円相当」(CE)直径であり、これは、材料の正投影と同じ面積を有する円の直径に対応する。本出願では、以下の値が報告される:
d(v,50)(以降ではd50と省略される)は、PSDを等しい累積体積の2つの部分に分離する、ミクロン単位のCE直径の値であり、下の部分は、d50よりも小さいCE直径を有する粒子に対応する、全粒子の累積体積の50%を表し、上の部分は、d50よりも大きいCE直径を有する粒子に対応する、粒子の累積体積の50%を表す。D50は、粒子の体積分布の中央値としても公知であり、
d(v,90)(以降ではd90と省略される)は、PSDを異なる累積体積を有する2つの部分に分離する、ミクロン単位のCE直径の値であり、その結果、下の部分は、d90よりも小さいCE直径を有する粒子に対応する、全粒子の累積体積の90%を表し、上の部分は、d90よりも大きいCE直径を有する、粒子の累積体積の10%を表し、
同様に、d(v,10)(以降ではd10と省略される)は、PSDを異なる累積体積を有する2つの部分に分離する、ミクロン単位のCE直径の値であり、その結果、下の部分は、d10よりも小さいCE直径を有する粒子に対応する、全粒子の累積体積の10%を表し、上の部分は、d10よりも大きいCE直径を有する、粒子の累積体積の90%を表す。
[037]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料のそれぞれは、好ましくは、約0.01μm~約50μm、より好ましくは約0.1μm~約20μm、さらにより好ましくは約1μm~約10μmの平均粒子サイズ(d50値)を有する。
[038]PSDを測定するために、限定することなく、篩分析、電気伝導性測定(コールターカウンターを使用)、レーザー回折法(例えばマルバーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer))、音響分光法(例えばクオンタクローム(Quantachrome)DT-100)、分別沈降分析(例えばCPSデバイス)、及び直接光学粒度分布を含む様々な実験方法が利用可能である。本出願において引用されるPSDを決定するために、レーザー回折法が使用された(器具:サイラス(Cilas)1090)。試料調製:ISO標準13320に従い、レーザーのオブスキュレーションが13~15%の動作レベルに達するまで、測定する材料の水溶性に応じてIR吸収材料を蒸留水又は酢酸エチルに添加した。
[039]本明細書に記載のIR吸収材料は、好ましくは、以下:
a)
i)酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩、カルボン酸塩、例えばシュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、オルトリン酸塩、ホスホン酸塩、メタホスホン酸塩、ピロリン酸塩、硫酸塩及び上述されたものの混合からなる群から選択される、混合物の約20重量%~約90重量%のパーセンテージのFe(III)化合物、Fe(III)/Fe(II)化合物及びこれらの混合から選択される鉄化合物(A)と、
ii)固体、水溶液又は懸濁液としてのホスホン酸[H3PO3]、三酸化リン[P2O3]、ホスフィン酸[H3PO2]、四酸化リン[P2O4]、次亜二リン酸[H4P2O6]、二リン酸[H4P2O5]、次亜ジホスホン酸[H4P2O4]、上述の酸のFe塩及びMet塩、並びに上述の混合からなる群から選択される、混合物の約5重量%~約50重量%のパーセンテージの還元剤(B)と、
iii)水溶液としてのリン酸[H3PO4]、固体又は水溶液又は懸濁液としての金属リン酸塩[Mx(PO4)z]若しくは酸性金属リン酸塩[MHY(PO4)z](式中、1≧x≧4、1≧y≧5及び1≧z≧4)、二リン酸[H4P2O7]、メタリン酸[(HPO3)n](式中、n≧3)若しくはそれらの塩、五酸化リン[P2O5]、又は上記の混合から選択され、Metは上で定義された通りである、混合物の約0重量%~約50重量%のパーセンテージの任意選択のリン酸ドナー(C)と、
iv)K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、遷移金属(dブロック)、特にSc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Cu、Zn、並びに第3、第4及び第5主族の金属及び半金属、特にB、Al、Ga、In、Si、Sn、Sb、Bi、及びランタノイドからなる群からの1種又は複数の金属の金属化合物から選択され、上述の金属の酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩及び硫酸塩、並びにこれらの混合から選択される、混合物の約0重量%~約50重量%のパーセンテージの任意選択の金属(M)ドナー(D)と
を含有する混合物を製造するステップであって、混合物の構成成分(A)~(D)の重量の割合が、任意の溶媒及び/又は懸濁剤を含まない物質のパーセンテージに基づく、ステップと、
b)得られた混合物が、水性及び/又は有機溶媒を含有する場合、約400℃未満の温度で乾燥されるステップと、
c)乾燥又は乾燥された混合物が、約400~約1200℃の間の温度で処理されるステップと
を含む方法により生成される。
[040]本明細書に記載の方法のステップa)における鉄化合物(A)及び還元剤(B)及び任意選択のリン酸ドナー(C)及び金属(M)ドナー(D)の混合物の製造は、水性若しくは有機溶媒中での、又は追加の溶媒なしでの構成成分の溶解、懸濁及び/又は混合により達成され得る。
[041]ここで示された混合物の構成成分(A)~(D)の重量の割合は、任意の溶媒及び/又は懸濁剤を含まない物質のパーセンテージに基づく。例えば、リン酸[H3PO4]がリン酸ドナー(C)として導入され、水溶液として使用される場合、溶媒として導入された水を含まないH3PO4の重量の割合が示される。
[042]溶媒及び/又は懸濁化剤は、溶媒及び/又は懸濁剤を含まない混合物の総質量に対して10~0.1の間の比で存在し得る。8~1の間の重量比が好ましく、4~1の間の重量がより好ましい。高いパーセンテージの溶媒及び/又は懸濁化剤は、混合物の処理を単純化し得るが、低いパーセンテージの溶媒及び/又は懸濁剤は、その後の乾燥ステップを適宜短縮する。
[043]ステップa)の混合物が溶液又は懸濁液である場合、その製造は、約10℃又は室温~溶液又は懸濁液の沸点の間の温度で、好ましくは約150℃よりも低い温度で行われ、より好ましくは約20℃~約100℃の間が好ましく、さらにより好ましくは約40℃~約90℃の間である。さらに、本明細書に記載の溶液又は懸濁液の製造は、密閉容器を使用して、対応する温度での溶媒の自己圧力下、液体の沸点を超える温度で行われてもよい。
[044]ステップa)における混合物の製造には、好ましくは極性溶媒が、特に低レベルの粘度及び/又は低沸点を有する溶媒が使用されるが、その理由は、特に噴霧乾燥手順が使用される場合、その後の乾燥ステップが単純化され、著しく加速されるためである。極性溶媒の好適な例は、限定することなく、水、アルコール及び低鎖長のポリオール、アンモニアゴム、及びそれらの混合物を含み、水が特に好ましい。
[045]好ましくは、ステップa)において鉄化合物(A)として使用されるFe(III)及び/又はFe(III)/Fe(II)化合物は、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、メタリン酸塩及び硫酸塩からなる群から選択される。これらの化合物は、アニオンが混合及び乾燥プロセス中の分解及び/又は酸化還元反応に関して安定であるという利点を有する。アニオンの使用は、有利には、ステップc)の温度処理中に生じる酸化還元プロセス中に、いかなる望ましくない副生成物も放出しない。これは、より均一な粒子サイズ分布及び孔隙率を有する生成物を得ることができることを意味する。オルトリン酸、ピロリン酸及びメタリン酸Fe(III)及び/又はFe(III)/Fe(II)の使用は、生成物の形成のために、酸化段階(V)のリンを含むリン酸イオンも生成するというさらなる利点を有する。ステップa)の混合物中の鉄化合物(A)の量は、約20重量%~約90重量%の間、好ましくは約25重量%~約85重量%の間、より好ましくは約30重量%~約75重量%の間であり、重量パーセントは、任意の溶媒又は懸濁剤を含まない全ての構成成分i)~iv)の総重量に対する。
[046]好ましくは、ステップa)ii)における還元剤(B)は、ホスホン酸、ホスフィン酸、次亜二リン酸、ジホスホン酸及び次亜ジホスホン酸、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。代替として、又は補完的な手段として、酸無水物三酸化リン、四酸化リン又はそれらの混合物が、ステップb)の還元剤(B)として使用されてもよい。無水物の使用は、段階a)の後に行われる乾燥ステップb)が、無水物の低い水含有量に起因して比較的迅速に行われ得るという利点を有する。
[047]ステップa)で製造された混合物中の還元剤(B)の量は、約5重量%~約50重量%の間、好ましくは約7.5重量%~約40重量%の間、より好ましくは約10重量%~約30重量%の間であり、重量パーセントは、溶媒又は懸濁剤を含まない全ての構成成分i)~iv)の総重量に対する。
[048]本明細書に記載のように、ステップa)の混合物は、リンを有するリン酸イオンを酸化段階(V)の混合物に導入する本明細書に記載のリン酸ドナー(C)をさらに含んでもよい。温度処理段階c)中に還元剤(B)から生成されたリン酸イオン、及びリン酸ドナー(C)により導入されたリン酸イオンが、生成物の形成に十分なリン酸イオンが提供される、Feイオン及び該当する場合には金属(M)イオンに対するモル量で存在するような量で、追加のリン酸ドナー(C)を添加することが有利である。リン酸ドナーとしてのリン酸の強酸性水溶液の使用は、良好な利用可能性、単純な投入及び非常に低い価格に起因して有利である。対応する酸無水物P2O5の使用は、低い水含有量に起因して、混合後に行われる乾燥ステップが大幅により迅速に行われ得るという利点に繋がる。ステップa)の混合物中のリン酸ドナー(C)の量は、約0重量%~約50重量%の間、好ましくは約0重量%~約40重量%の間、より好ましくは約0重量%~約30重量%の間であり、重量パーセントは、任意の溶媒又は懸濁剤を含まない全ての構成成分i)~iv)の総重量に対する。
[049]本明細書に記載のように、ステップa)の混合物は、本明細書に記載の追加の金属ドナー(D)をさらに含んでもよい。一般式FeaMb(POc)dの結晶水不含混合金属鉄(II)金属化合物を生成するための製造方法において、この金属ドナー(D)は、鉄を含有する金属構成成分に加えて「M」を提供し、これらの構成成分は、リン酸ドナーにより十分な程度まで提供されていない。金属ドナー(D)は、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩、硫酸塩及びそれらの混合物からなる群から選択される。水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩、シュウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩及び/又は乳酸塩の使用は、ステップc)における温度処理後に、アニオンの残渣がこれらの化合物からの生成物中に不純物として残留しないという利点を有する。オルトリン酸塩及びピロリン酸塩の使用は、リン酸イオンが最終生成物の形成のために同時に提供されるという利点を有する。ステップa)の混合物中の金属ドナー(D)の量は、約0重量%~約50重量%の間、好ましくは約0重量%~約40重量%の間、より好ましくは約0重量%~約30重量%の間であり、重量パーセントは、溶媒又は懸濁剤を含まない全ての構成成分i)~iv)の総重量に対する。
[050]本明細書に記載の方法のステップa)において製造された混合物は、水性及び/又は有機溶媒を含有する場合、次いでその後のステップb)において約400℃未満の温度で乾燥されるが、400℃未満の温度は、乾燥プロセスにおいて乾燥される混合物の温度を指す。これに関連して、乾燥は、水及び/又は他の溶媒の含有量が約5重量%未満、好ましくは約3重量%未満、より好ましくは約0.8重量%未満となる程度まで、水及び/又は他の溶媒が混合物から除去されることを意味し、重量パーセントは、混合物の総質量に対する。乾燥の程度は、熱重量分析(TGA)により決定され得る。
[051]ステップb)における混合物の乾燥は、限定されないが、フリーズドライ、超臨界乾燥、マイクロ波乾燥、真空乾燥、対流乾燥、例えば対流空気乾燥若しくは不活性ガス雰囲気中での対流乾燥、噴霧乾燥、噴霧造粒、又は回転炉内での乾燥を含む、任意の好適な乾燥プロセスを使用して行われ得る。好ましくは、ステップb)における混合物の乾燥は、不活性ガス雰囲気中での対流乾燥、及び噴霧乾燥又は噴霧造粒を含むが、その理由は、生成物が酸化する傾向が低く維持されるためである。噴霧乾燥は、非常にエネルギー効率的であり、均一な粒子サイズ分布を有する生成物を提供するため、さらにより好ましい。例えば回転炉内での対流法を使用して乾燥させる場合、乾燥ガスの温度は、乾燥が不活性ガス雰囲気中で行われる場合、最高600℃であってもよい。この場合、乾燥される混合物の温度は、400℃を超えてはいけない。対流乾燥が不活性ガス雰囲気中で行われない場合、酸素による混合物中の還元剤の酸化を低減するために、乾燥ガスの温度は400℃を超えず、好ましくは300℃を超えず、より好ましくは250℃を超えない。
[052]一実施形態によれば、ステップb)における混合物の乾燥は、噴霧乾燥機内の高温ガス流中での本明細書に記載の製造された溶液又は懸濁液の気化により行われる。高温ガス及び生成物流は、連続流又は向流で誘導され、気化は、少なくとも1つの圧力ノズル、単一物質ノズル若しくは二物質ノズル、又は少なくとも1つの回転気化器、或いはこれらの組合せを使用して達成される。連続流手順での乾燥が特に好ましい。好ましくは、加熱空気、バーナー排気ガスを含有する空気、窒素又は不活性ガスが富化された酸素低減空気、及び窒素が、高温ガス流として機能し得る。加熱空気及びバーナー排気ガスを含有する空気の使用が特に好ましい。高温ガス流の加熱は、好ましくは、少なくとも1つのバーナー、高温ガス発生器、電気ガス加熱器若しくは蒸気熱交換器、又はそれらの組合せにより行われる。少なくとも1つの二物質ノズル又は回転気化器の使用が、気化の間特に好ましい。特に好ましくは、気化は、約1.0~約6.0バールの間の圧力の圧縮空気、窒素又は高温蒸気を使用して、二物質ノズルで行われる。より好ましくは、約1.5~約3.0バールの間の圧力範囲の圧縮空気が使用される。プロセスガス流からの乾燥した生成物流の分離は、好ましくは、少なくとも1つのサイクロン若しくは少なくとも1つのフィルター、又はこれらの任意の組合せを使用して達成される。
[053]別の実施形態によれば、ステップb)における混合物の乾燥は、少なくとも1つの造粒ゾーンを有する噴霧造粒器内のすでに乾燥したものでできている高温ガス流中の流動床での、本明細書に記載の製造された溶液又は懸濁液の気化により行われる。本発明による溶液又は懸濁液の気化は、少なくとも1つのノズル、単一物質ノズル、二物質ノズル、複数物質ノズル又はこれらの組合せを使用して達成される。製造は、バッチ式又は連続的であり得る。気化は、好ましくは、約1.0~約6.0バールの間の圧力の圧縮空気、窒素又は高温蒸気を使用して、二物質ノズルで行われる。より好ましくは、約1.5~約3.0バールの間の圧力範囲の圧縮空気が使用される。
[054]好ましい実施形態によれば、噴霧造粒は、溶液又は懸濁液の連続吹きかけ、及び流動床からの乾燥した造粒物の連続除去によって、連続操作で造粒ゾーンにより行われる。加熱空気、バーナー排気ガスを含有する加熱空気、窒素又は不活性ガスが富化された加熱酸素低減空気、及び加熱窒素が、高温ガス流として好適である。加熱空気及びバーナー排気ガスを含有する加熱空気の使用が特に好ましい。
[055]さらに好ましい実施形態において、ステップb)における混合物の乾燥は、いくつかの流動化ゾーン、特に好ましくは2~5つのゾーンを有する噴霧造粒器内で連続的に行われる。特に好ましい変形例において、最終流動化ゾーンは、生成物を冷却するために使用され、本発明による溶液又は懸濁液の吹きかけなしに、冷却ガスで流動化及び保持される。
[056]噴霧造粒法において、噴霧造粒器内の必要な流動層は、有利には、アブレーション及び噴霧乾燥により連続的に生成され、デバイス内のフィルター又はフィルターリターンにより提供される。特に好ましい実施形態において、造粒システムはまた、篩い分け及び粉砕サイクルを有し、それにより一方では乾燥生成物が粗すぎる粒子及び細かすぎる粒子から篩い分けにより分離され、粗い、及び細かい分画は、粉砕により流動化層として噴霧造粒器に再び加えられる。噴霧造粒のための高温ガス生成は、噴霧乾燥における高温ガス生成と同様に行われる。
[057]本明細書に記載の方法のステップb)において製造された乾燥した混合物は、次いで、約400℃~約1200℃の間、好ましくは約500℃~約1100℃の間、より好ましくは約600℃~約1000℃の間の温度での温度処理(焼成)に供される。温度は、反応に関与する物質の全ての溶融を確実とするのに十分高くなるように選択されるべきである。ステップc)での温度処理において、とりわけ鉄化合物(A)により混合物中に導入されるFe(III)イオンは、Fe(II)イオンに還元されるべきである。
[058]ステップb)において製造された乾燥した混合物の温度処理は、不活性又は還元雰囲気、好ましくは窒素、不活性ガス、最大濃度5体積%のH2を含むフォーミングガス中、又はこれらの組合せで、バッチ式又は連続的に行われる。プロセスガス中の酸素の体積パーセンテージは、理想的には、約0.0体積%~約1.0体積%の間、好ましくは約0.3体積%未満、より好ましくは約0.03体積%未満である。フォーミングガスの使用は、特に好ましくは「95/5」、換言すれば95体積%の窒素(N2)及び5体積%の水素(H2)である。
[059]好ましい実施形態において、ステップc)における温度処理は、制御雰囲気中での連続操作として行われ、プロセスガス雰囲気は、生成物と共に連続流で、又は生成物に対して向流で誘導される。
[060]さらに好ましい変形例において、ステップb)で製造された乾燥した混合物は、その後、冷却化ゾーンが接続された回転炉内で向流プロセスガスによる熱処理で処理される。プロセスガスは、冷却ゾーン側に導入され、酸化を防止するために冷却生成物上に流れる。少なくとも1つの加熱されたゾーンを有するが好ましくは2~8つの加熱ゾーンを有する、独立して調整され得る間接加熱回転ドラムの使用が、特に好ましい。間接加熱は、限定することなく、電気抵抗加熱(加熱素子、加熱コイル)、ガスバーナー、オイルバーナー、又は誘導による、を含む非常に多くの様々な様式で行うことができ、電気抵抗加熱及びガスバーナーが好ましい。
[061]さらに好ましい実施形態において、回転ドラムは、リフティングパドルの形状の取付具を内部に有し、好ましくは2~6つのリフティングパドルが半径方向に延在し、これによって固体の気相との混合が改善され、壁側の熱の伝達が促進される。さらに、回転ドラム内の滞留時間を短縮するのに好適な軸方向運搬部品を有するリフティングパドル又は取付具が有利である。好適な回転ドラムは、酸素の侵入を防止するために、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気中で適用される、ガスでフラッシングしたシールを有する。雰囲気分離は、ダブルシャトル弁、回転弁及び/又は洗浄されたネジ(rinsed screw)により有利に行われる。問題の生成物を不活性又は還元雰囲気の層で覆うことにより、炉内への酸素の進入が最小限となる。
[062]好ましい実施形態において、段階c)での温度処理は、回転炉内で行われる。これにより、連続的な温度処理手順を行うことが可能となり、したがってこれは一般にバッチ式手順よりもコスト効率的である。間接加熱回転炉の使用が特に好ましいが、その理由は、生成物エリアにおける雰囲気の正確な制御が可能となるためである。
[063]段階c)での温度処理は、不活性ガス雰囲気中で有利に行うことができ、換言すれば、雰囲気は、関連する温度範囲で混合物の構成成分と反応しないガス又はガス混合物、例えばN2及び/又は希ガス等で構成される。
[064]本明細書に記載の方法の好ましい実施形態において、段階c)での温度処理は、還元ガス雰囲気中で行われる。これに関連して、還元ガス雰囲気は、処理される混合物の構成成分を還元する、特に鉄化合物(A)により混合物に導入されるFe(III)イオンをFe(II)イオンに還元するのに好適な少なくとも1つの還元ガス構成成分を含有することを意味する。好適な還元ガス構成成分は、CO及びH2である。N2中に5体積%のH2を含有するフォーミングガスは、可燃性でも有毒でもないため、このガスの使用が特に好ましい。
[065]本発明によれば、還元剤(B)を使用してFe(III)イオンからFe(II)イオンへの還元の大部分を、及び還元ガス雰囲気を使用して残りの還元を行うことが特に好ましい。これは、遊離炭素の形成及び金属リン化物の形成の両方を抑制することができる。
[066]本明細書に記載の方法の好ましい実施形態において、ステップa)で製造された混合物は、化学量論に基づき100%変換を仮定して70%~99%、好ましくは80%~98%、特に好ましくは90%~95%の還元剤(B)によるFe(III)イオンからFe(II)イオンへの還元を提供する還元剤(B)に対するモル比でFe(III)イオンを含有する。化学量論の観点から高いパーセンテージの還元剤が必要な場合、生成物を低純度にし、暗色に着色し得る金属リン化物及び/又は元素金属の形成のリスクがある。酸化段階(III)のリンを含む還元剤としてホスホン酸[H3PO3]の例を使用すると、これは、70%~99%の還元を仮定して、0.35:1~0.495:1の、還元剤中のP(III)原子のFe(III)イオンとの化学量論比に対応する。
[067]本明細書に記載のセキュリティインクは、酸化乾燥セキュリティインク、UV-Vis硬化性セキュリティインク、熱乾燥セキュリティインク、又はそれらの組合せである。
[068]本明細書に記載のセキュリティインクは、オフセット印刷プロセス、凹版印刷プロセス、スクリーン印刷プロセス、輪転グラビア印刷プロセス、フレキソ印刷プロセス及びフレックステンショナルインクジェット印刷プロセスからなる群から選択される、好ましくは凹版印刷プロセス、スクリーン印刷プロセス、輪転グラビア印刷プロセス、フレキソ印刷プロセス及びフレックステンショナルインクジェット印刷プロセスからなる群から選択される、より好ましくは凹版印刷プロセス、スクリーン印刷プロセス及び輪転グラビア印刷プロセスからなる群から選択される印刷プロセスにより、本明細書に記載のもの等の基板に塗布されるのに特に好適である。
[069]酸化乾燥セキュリティインクは、酸素の存在下で、特に大気の酸素の存在下での酸化により乾燥する。乾燥プロセスの間、酸素はインクの1つ又は複数の構成成分と結合し、インクを固体状態に変換する。プロセスは、任意選択で熱処理の適用と共に、例えば(1種又は複数の)金属の無機又は有機塩、有機酸の金属石鹸、金属錯体及び金属錯塩等の乾燥剤(当技術分野において触媒、乾燥物質、吸湿剤又はデシケーターとも呼ばれる)の使用により加速され得る。本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインクに使用される1種又は複数の乾燥剤は、好ましくは約0.01~約10重量%の量で、より好ましくは約0.1~約5重量%の量で存在し、重量パーセントは、酸化乾燥セキュリティインクの総重量に対する。好ましくは、1種又は複数の乾燥剤は、(1つ又は複数の)カチオンとしてコバルト、カルシウム、銅、亜鉛、鉄、ジルコニウム、マンガン、バリウム、亜鉛、ストロンチウム、リチウム、バナジウム及びカリウム、並びに(1つ又は複数の)アニオンとしてハライド、ニトレート、サルフェート、アセテート等のカルボキシレート、エチルヘキサノエート、オクタノエート及びナフテネート又はアセトアセトネートを含有する多価塩である。より好ましくは、1種又は複数の乾燥剤は、マンガン、コバルト、カルシウム、ストロンチウム、ジルコニウム、亜鉛及びそれらの混合物のエチルヘキサン酸塩又はオクタン酸塩からなる群から選択される。
[070]当技術分野において一般的に公知のように、酸化乾燥セキュリティインクは、1種又は複数のニスを含む。「ニス」という用語は、当技術分野において、樹脂、結合剤又はインクビヒクルとも呼ばれる。本明細書に記載の乾燥ニスは、好ましくは、本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインク中に、約10~約90重量%の量で存在し、重量パーセントは、酸化乾燥セキュリティインクの総重量に対する。本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインク用の1種又は複数のニスは、当技術分野において一般的に公知のように、好ましくは、不飽和脂肪酸残基、飽和脂肪酸残基及びそれらの混合物を含むポリマーからなる群から選択される。好ましくは、本明細書に記載の1種又は複数のニス酸化乾燥セキュリティインクは、空気乾燥特性を確保するために、不飽和脂肪酸残基を含む。特に好ましい酸化乾燥ニスは、不飽和酸基を含む樹脂であり、さらにより好ましくは不飽和カルボン酸基を含む樹脂である。しかしながら、樹脂はまた、飽和脂肪酸残基を含んでもよい。好ましくは、本明細書に記載のニス酸化乾燥セキュリティインクは、酸基を含み、すなわち、酸化乾燥ニスは、酸変性樹脂の中から選択される。本明細書に記載の酸化乾燥ニスは、アルキド樹脂、ビニルポリマー、ポリウレタン樹脂、超分岐樹脂、ロジン修飾マレイン酸樹脂、ロジン修飾フェノール樹脂、ロジンエステル、石油樹脂修飾ロジンエステル、石油樹脂修飾アルキド樹脂、アルキド樹脂修飾ロジン/フェノール樹脂、アルキド樹脂修飾ロジンエステル、アクリル修飾ロジン/フェノール樹脂、アクリル修飾ロジンエステル、ウレタン修飾ロジン/フェノール樹脂、ウレタン修飾ロジンエステル、ウレタン修飾アルキド樹脂、エポキシ修飾ロジン/フェノール樹脂、エポキシ修飾アルキド樹脂、テルペン樹脂 ニトロセルロース樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、アクリル樹脂及びそれらの組合せ又は混合物からなる群から選択され得る。ポリマー及び樹脂は、本明細書において、同義的に使用される。
[071]飽和及び不飽和脂肪酸化合物は、天然及び/又は人工源から得ることができる。天然源は、動物源及び/又は植物源を含む。動物源は、動物脂肪、バター脂肪、魚油、ラード、肝臓脂肪、マグロ油、マッコウクジラ油並びに/又はタロウ油及びワックスを含み得る。植物源は、ワックス及び/又は油、例えば植物性油及び/又は非植物性油を含み得る。植物油の例は、限定することなく、苦瓜、ルリジサ、キンセンカ、キャノーラ、ヒマシ、アブラギリ、ココナッツ、針葉樹種子、トウモロコシ、綿実、脱水ヒマシ、アマニ、ブドウ種子、ジャカランダミモシフォリア種子、亜麻仁油、パーム、パーム核、落花生、ザクロ種子、菜種、ベニバナ、カラスウリ、ダイズ(マメ)、ヒマワリ、トール、キリ及び小麦胚芽を含む。人工源は、合成ワックス(例えば微結晶性及び/又はパラフィンワックス)、蒸留テール油及び/又は化学的若しくは生化学的合成法を含む。好適な脂肪酸は、(Z)-ヘキサダン-9-エン[パルミトレイン]酸(C16H30O2)、(Z)-オクタデカン-9-エン[オレイン]酸(C18H34O2)、(9Z,11E,13E)-オクタデカ-9,11,13-トリエン[α-エレオステアリン]酸(C18H30O2)、リカン酸、(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン[リノエイック(linoeic)]酸(C18H32O2)、(5Z、8Z,11Z,14Z)-エイコサ-5,8,11,14-テトラエン[アラキドン]酸(C20H32O2)、12-ヒドロキシ-(9Z)-オクタデカ-9-エン[リシノール]酸(C18H34O3)、(Z)-ドコサン-13-エン[エルカ]酸(C22H42O3)、(Z)-エイコサン-9-エン[ガドレイン]酸(C20H38O2)、(7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-7,10,13,16,19-ペンタエン[クルパノドン]酸及びそれらの混合物も含む。
[072]好適な脂肪酸は、エチレン性不飽和共役又は非共役C2~C24カルボン酸、例えばミリストレイン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、エルカ酸、ガドレイン酸、クルパナドン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、リカン酸、ニシン酸及びエレオステアリン酸、又はそれらの混合物である。それらの脂肪酸は、典型的には、天然又は合成油由来の脂肪酸の混合物の形態で使用される。
[073]本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインクは、当業者に公知のもの等の1種又は複数の酸化防止剤をさらに含んでもよい。好適な酸化防止剤は、限定することなく、アルキルフェノール、ヒンダードアルキルフェノール、アルキルチオメチル-フェノール、オイゲノール、二級アミン、チオエーテル、ホスファイト、ホスホナイト、ジチオカルバメート、ガレート、マロネート、プロピオネート、アセテート及び他のエステル、カルボキサミド、ヒドロキノン、アスコルビン酸、トリアジン、ベンジル化合物、並びにトコフェロール及び類似体テルペンを含む。そのような酸化防止剤は、例えば、国際公開第02/100960号において開示されている供給元から市販されている。ヒンダードアルキルフェノールは、フェノール性ヒドロキシルに対してオルトの少なくとも1つ又は2つのアルキル基を有するフェノールである。フェノール性ヒドロキシルに対してオルトの一方、好ましくは両方のアルキル基は、好ましくは二級又は三級アルキル、最も好ましくは三級アルキル、特にtert-ブチル、tert-アミル又は1,1,3,3-テトラメチルブチルである。好ましい酸化防止剤は、ヒンダードアルキルフェノール、特に2-tert-ブチル-ヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチル-ヒドロキノン、2-tert-ブチル-p-クレゾール及び2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールである。存在する場合、1種又は複数の酸化防止剤は、約0.05~約3重量%の量で存在し、重量パーセントは、酸化乾燥セキュリティインクの総重量に対する。
[074]本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインクは、好ましくは、合成ワックス、石油ワックス及び天然ワックスからなる群から選択される、1種又は複数のワックスをさらに含んでもよい。好ましくは、1種又は複数のワックスは、微結晶性ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、フッ化炭素ワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、シリコーン流体、ミツロウ、キャンデリラワックス、モンタンワックス、カルナウバワックス及びそれらの混合物からなる群から選択される。存在する場合、1種又は複数のワックスは、好ましくは約0.1~約15重量%の量で存在し、重量パーセントは、酸化乾燥セキュリティインクの総重量に対する。
[075]本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインクは、好ましくは炭素繊維、タルク、雲母(例えば白雲母)、珪灰石、焼成粘土、陶土、カオリン、炭酸塩(例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムアルミニウム)、ケイ酸塩(例えばケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム)、硫酸塩(例えば硫酸マグネシウム、硫酸バリウム)、チタン酸塩(例えばチタン酸カリウム)、水和アルミナ、シリカ、フュームドシリカ、モンモリロナイト、グラファイト、アナターゼ、ルチル、ベントナイト、バーミキュライト、亜鉛白、硫化亜鉛、木粉、石英粉、天然繊維、合成繊維及びそれらの組合せからなる群から選択される、1種又は複数の充填剤及び/又は増量剤をさらに含んでもよい。存在する場合、1種又は複数の充填剤又は増量剤は、好ましくは約0.1~約40重量%の量で存在し、重量パーセントは、酸化乾燥セキュリティインクの総重量に対する。
[076]一実施形態によれば、本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインクは、酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクであり、前記酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の乾燥剤と、本明細書に記載の1種又は複数のニスと、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[077]一実施形態によれば、本明細書に記載の酸化乾燥セキュリティインクは、酸化乾燥オフセット印刷セキュリティインクであり、前記酸化乾燥オフセット印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の乾燥剤と、本明細書に記載の1種又は複数のニスと、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[078]本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能は、凹版印刷プロセス(当技術分野において彫刻銅版印刷及び彫刻鋼製金型印刷とも呼ばれる)により調製され得、このプロセスは、十分に多量の機械可読材料を基板上に堆積させることができ、その結果、その検出及び感知を可能にする。凹版印刷プロセスは、特にセキュリティ文書の分野において使用される印刷方法を指す。凹版印刷プロセスは、細かいテーパ線を生成するための最も一貫性があり高品質の印刷プロセスであることが公知であり、したがって、セキュリティ文書、特に紙幣及びスタンプの分野における細かいデザインに最適な印刷技術である。特に、凹版印刷プロセスの顕著な特徴の1つは、基板に転写されたインクの層厚が、凹版印刷デバイスの対応する浅い又は深い彫刻を使用することにより、数マイクロメートル~数十マイクロメートルと様々となり得ることである。したがって、上で言及されたように、凹版印刷されたセキュリティ機能の層厚は、その検出及び感知のための基板上の十分に多量の機械可読材料を可能にする。
[079]酸化乾燥オフセット印刷セキュリティインクは、当技術分野において、高粘度を必要とするものとして公知である。典型的には、酸化乾燥オフセット印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、40℃及び1000s-1で約2.5~約25Pa sの範囲の粘度を有し、粘度は、コーン2cm、0.5°を用いたHaakeロトビスコ(Roto-Visco)RV1で測定される。
[080]酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクは、当技術分野において、高粘度を必要とするものとして公知である。典型的には、酸化乾燥凹版印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、20mm直径のコーンプレート及び0.5°ジオメトリーを用いたHaakeロトビスコRV1回転式レオメーターを使用し、40℃及び1000s-1で約3~約60Pa sの範囲の粘度を有する。
[081]本明細書に記載の酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクは、1種又は複数の界面活性剤、特に、例えば欧州特許第0340163号に記載のもの等の親水性高分子界面活性剤をさらに含んでもよい。任意選択の界面活性剤の役割は、印刷シリンダー上に存在する過剰のインクを、前記印刷シリンダーが基板と接触する直前に拭き取るのを補助することである。過剰のインクを拭き取るこのプロセスは、任意の高速工業凹版印刷プロセスの一部であり、ティッシュ若しくはペーパーロール(「キャラコ」)、又はポリマーワイピングシリンダー及び水性洗浄液(「ワイピング溶液」)を使用して行われる。この場合、任意選択の界面活性剤は、過剰のインクを洗浄液中に乳化させるために使用される。前記界面活性剤は、非イオン性、アニオン性又はカチオン性、及び双性イオン性界面活性剤であってもよい。親水性高分子界面活性剤の場合、官能基は、例えば、カルボン酸又はスルホン酸基、ヒドロキシル基、エーテル基、又は一級、二級、三級若しくは四級アミノ基である。酸基は、アミン、アルカノールアミン若しくは好ましくは無機塩基、又はそれらの混合物で中和されてもよい。一級、二級及び三級アミノ基は、無機又は有機酸、例えばスルホン酸、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等で中和されてもよい。特に好ましいのは、アニオン性高分子界面活性剤(AMS)、例えば欧州特許出願公開第2014729号に記載のものである。
[082]UV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-可視光放射線により硬化され得るセキュリティインクからなる。本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、約0.1重量%~約20重量%、好ましくは約1重量%~約15重量%の1種又は複数の光開始剤を含み、重量パーセントは、UV-Vis硬化性セキュリティインクの総重量に対する。
[083]好ましくは、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、ラジカル硬化性化合物及びカチオン硬化性化合物からなる群から選択されるモノマー及びオリゴマーである、1種又は複数のUV硬化性化合物を含む。本明細書に記載のセキュリティインクは、ハイブリッド系であり、1種又は複数のカチオン硬化性化合物及び1種又は複数のラジカル硬化性化合物の混合物を含んでもよい。カチオン硬化性化合物は、酸等のカチオン種を遊離させ、次いで、モノマー及び/又はオリゴマーを反応及び/又は架橋させるように硬化を開始する、1種又は複数の光開始剤の放射線による活性化を典型的に含むカチオン機構により硬化され、それによりセキュリティインクを硬化させる。ラジカル硬化性化合物は、1種又は複数の光開始剤の放射線による活性化を典型的に含むフリーラジカル機構により硬化され、それにより次に重合を開始するラジカルを生成して、その結果、キュリティインクを硬化させる。
[084]好ましくは、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、オリゴマー性(メタ)アクリレート、ビニルエーテル、プロペニルエーテル、環式エーテル、例えばエポキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、ラクトン、環式チオエーテル、ビニル及びプロペニルチオエーテル、ヒドロキシル含有化合物、並びにそれらの混合物からなる群から選択される1種又は複数のオリゴマー(当技術分野においてプレポリマーとも呼ばれる)を含む。より好ましくは、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクの結合剤は、オリゴマー性(メタ)アクリレート、ビニルエーテル、プロペニルエーテル、環式エーテル、例えばエポキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、ラクトン及びそれらの混合物からなる群から選択されるオリゴマーから調製される。エポキシドの典型的な例は、限定することなく、グリシジルエーテル、脂肪族又は脂環式ジオール又はポリオールのβ-メチルグリシジルエーテル、ジフェノール及びポリフェノールのグリシジルエーテル、多価フェノールのグリシジルエステル、フェノールホルムアルデヒド(phenolformalhedhyde)ノボラックの1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アクリルエステルのコポリマーを含むグリシジルエーテル(例えばスチレン-グリシジルメタクリレート又はメチルメタクリレート-グリシジルアクリレート)、多官能性液体及び固体ノボラックグリシジルエーテル樹脂、ポリグリシジルエーテル及びポリ(β-メチルグリシジル)エーテル、ポリ(N-グリシジル)化合物、ポリ(S-グリシジル)化合物、グリシジル基又はβ-メチルグリシジル基が異なる種類のヘテロ原子に結合したエポキシ樹脂、カルボン酸及びポリカルボン酸のグリシジルエステル、一酸化リモネン、エポキシ化ダイズ油、ビスフェノール-A及びビスフェノール-Fエポキシ樹脂を含む。好適なエポキシドの例は、欧州特許第2125713号において開示されている。芳香族、脂肪族又は脂環式ビニルエーテルの好適な例は、限定することなく、分子内に少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのビニルエーテル基を有する化合物を含む。ビニルエーテルの例は、限定することなく、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、プロピレンカーボネートのプロペニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、tert-アミルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ブタンジオールモノビニルエーテル、ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールブチルビニルエーテル、ブタン-1,4-ジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールメチルビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、プルリオール(pluriol)-E-200ジビニルエーテル、ポリテトラヒドロフランジビニルエーテル-290、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、(4-シクロヘキシル-メチレンオキシエテン)-グルタル酸メチルエステル及び(4-ブトキシエテン)-iso-フタル酸エステルを含む。ヒドロキシ含有化合物の例は、限定することなく、ポリエステルポリオール、例えばポリカプロラクトン又はポリエステルアジペートポリオール、グリコール及びポリエーテルポリオール等、ヒマシ油、ヒドロキシ官能性ビニル及びアクリル樹脂、セルロースエステル、例えばセルロースアセテートブチレート、並びにフェノキシ樹脂を含む。好適なカチオン硬化性化合物のさらなる例は、欧州特許第2125713号及び欧州特許第0119425号において開示されている。
[085]本発明の一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、(メタ)アクリレートから選択される、好ましくはエポキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル化油、ポリエステル(メタ)アクリレート、脂肪族又は芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アミノ(メタ)アクリレート、アクリル性(メタ)アクリレート、及びそれらの混合物からなる群から選択される1種又は複数のラジカル硬化性オリゴマー化合物を含む。本発明に関連する「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート及び対応するメタクリレートを指す。本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクの構成成分は、追加のビニルエーテル及び/又はモノマーアクリレート、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリトリトールトリアクリレート(PTA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)等及びそれらのポリエトキシル化等価物、例えばポリエトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエトキシル化ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエトキシル化トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエトキシル化ジプロピレングリコールジアクリレート及びポリエトキシル化ヘキサンジオールジアクリレート等で調製され得る。
[086]代替として、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、ハイブリッドインクであり、本明細書に記載のもの等のラジカル硬化性化合物及びカチオン硬化性化合物の混合物から調製され得る。
[087]上述のように、モノマー、オリゴマーのUV-Vis硬化は、1種又は複数の光開始剤の存在を必要とし、いくつかの様式で実現され得る。本明細書において言及されるように、また当業者に公知のように、基板上で硬化及び硬質化される本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、本明細書に記載のもの等、任意選択で1種又は複数の光増感剤と共に1種又は複数の光開始剤を含み、前記1種又は複数の光開始剤及び任意選択の1種又は複数の光増感剤は、放射線源の発光スペクトルと関連して、その/それらの(1つ又は複数の)吸収スペクトルに従って選択される。基板を通る電磁放射線の透過度に依存して、セキュリティインクの硬質化は、照射時間を増加させることにより得ることができる。しかしながら、基板材料に依存して、照射時間は、基板材料、及び放射線源により生成された熱に対するその感受性により制限される。
[088]本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクに使用されるモノマー、オリゴマー又はプレポリマーに依存して、様々な光開始剤が使用され得る。フリーラジカル光開始剤の好適な例は当業者に公知であり、限定することなく、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケタール、アルファ-アミノケトン、アルファ-ヒドロキシケトン、ホスフィンオキシド及びホスフィンオキシド誘導体、並びにそれらの2つ以上の混合物を含む。カチオン光開始剤の好適な例は当業者に公知であり、限定することなく、オニウム塩、例えば有機ヨードニウム塩(例えばジアリールヨードニウム塩)、オキソニウム(例えばトリアリールオキソニウム塩)及びスルホニウム塩(例えばトリアリールスルホニウム塩)、並びにそれらの2つ以上の混合物を含む。有用な光開始剤の他の例は、1998年にSITA Technology Limitedと共同でJohn Wiley & Sonsにより発行された、「Chemistry & Technology of UV & EB Formulation for Coatings, Inks & Paints」、第3巻、「Photoinitiators for Free Radical Cationic and Anionic Polymerization」、第2版、J.V.Crivello & K.Dietliker著、G.Bradley編等の標準的教本において見出すことができる。また、効率的な硬化を達成するために、1種又は複数の光開始剤と併せて増感剤を含めることが有利となり得る。好適な光増感剤の典型的な例は、限定することなく、イソプロピル-チオキサントン(ITX)、1-クロロ-2-プロポキシ-チオキサントン(CPTX)、2-クロロ-チオキサントン(CTX)及び2,4-ジエチル-チオキサントン(DETX)、並びにそれらの2つ以上の混合物を含む。
[089]本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、好ましくは、UV-Vis硬化性オフセット印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性凹版印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性フレキソ印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性輪転グラビア印刷セキュリティインク又はUV-Vis硬化性フレックステンショナルインクジェット印刷セキュリティインク、より好ましくはUV-Vis硬化性凹版印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性フレキソ印刷セキュリティインク、UV-Vis硬化性輪転グラビア印刷セキュリティインク又はUV-Vis硬化性フレックステンショナルインクジェット印刷セキュリティインクである。
[090]一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-Vis硬化性オフセット印刷セキュリティインクであり、前記UV-Vis硬化性オフセット印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の光開始剤と、本明細書に記載のモノマー及びオリゴマーである1種又は複数のUV硬化性化合物と、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[091]一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-Vis硬化性凹版印刷セキュリティインクであり、前記UV-Vis硬化性凹版印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の光開始剤と、本明細書に記載のモノマー及びオリゴマーである1種又は複数のUV硬化性化合物と、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[092]UV-Vis硬化性オフセット印刷セキュリティインクは、当技術分野において、高粘度を必要とするものとして公知である。典型的には、UV-Vis硬化性印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、40℃及び1000s-1で約2.5~約25Pa sの範囲の粘度を有し、粘度は、コーン2cm、0.5°を用いたHaakeロトビスコRV1で測定される。
[093]UV-Vis硬化性凹版印刷セキュリティインクは、当技術分野において、高粘度を必要とするものとして公知である。典型的には、凹版印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、20mm直径のコーンプレート及び0.5°ジオメトリーを用いたHaakeロトビスコRV1回転式レオメーターを使用し、典型的には40℃及び1000s-1で約3~約60Pa sの範囲の粘度を有する。
[094]一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクであり、前記UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の光開始剤と、本明細書に記載のモノマー及びオリゴマーである1種又は複数のUV硬化性化合物と、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[095]スクリーン印刷(当技術分野においてシルクスクリーン印刷とも呼ばれる)は、フレーム上にきつく張られた絹、合成繊維又は金属糸の細かいメッシュ生地により支持されたステンシルを通して、インクが表面に転写されるステンシルプロセスである。メッシュの細孔は、非画線エリアにおいては塞がれ、画線エリアにおいては開放したままであり、画線担持体は、スクリーンと呼ばれる。スクリーン印刷は、フラットベッド式又は回転式であってもよい。印刷中、フレームにインクが供給されてインクがスクリーンを浸し、次いでスクリーン全体にスキージが引かれ、そのようにしてインクがスクリーンの開孔に押し通される。同時に、印刷される表面がスクリーンとの接触を保持され、インクがそれに転写される。スクリーン印刷は、例えば、The Printing ink manual、R.H.Leach及びR.J.Pierce、Springer編、第5版、58~62頁並びにPrinting Technology、J.M.Adams及びP.A.Dolin、Delmar Thomson Learning、第5版、293~328頁にさらに記載されている。
[096]UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクは、当技術分野において、低粘度を必要とするものとして公知である。典型的には、スクリーン印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、Brookfield機械(モデル「DV-Iプライム(DV-I Prime)」、少量試料アダプター、スピンドルSC4-21、50rpm)を使用して、25℃で約0.05~約5Pa sの範囲の粘度を有する。
[097]一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-Vis硬化性フレキソ印刷セキュリティインクであり、前記UV-Vis硬化性フレキソ印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の光開始剤と、本明細書に記載のモノマー及びオリゴマーである1種又は複数のUV硬化性化合物と、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[098]フレキソ印刷法は、好ましくは、チャンバー付きドクターブレード、アニロックスローラー及び版胴を有するユニットを使用する。アニロックスローラーは、有利には、その容積及び/又は密度が保護ニスの塗布率を決定する小セルを有する。チャンバー付きドクターブレードは、アニロックスローラー上に載置され、セルを充填すると同時に余分な保護ニスを掻き落とす。アニロックスローラーは、インクを版胴に転写し、版胴は最終的にインクを基板に転写する。版胴は、ポリマー又はエラストマー材料から作製されてもよい。ポリマーは、主に版のフォトポリマーとして、時折スリーブ上の継ぎ目のないコーティングとして使用される。フォトポリマー版は、紫外(UV)光により硬質化される感光性ポリマーから作製される。フォトポリマー版は、必要なサイズに切断され、UV光露光ユニット内に設置される。版の片側は、版の基部を硬質化又は硬化させるためにUV光に完全に露光される。次いで版は反転され、未硬化側にジョブのネガが装着され、版がUV光にさらに露光される。これにより、画線エリアの版が硬質化する。次いで、版は、非画線エリアから未硬質化フォトポリマーを除去するために処理され、これによってこれらの非画線エリアの版表面が低くなる。処理後、版は乾燥され、後露光線量のUV光が当てられて、版全体が硬化される。フレキソ印刷用の版胴の調製は、Printing Technology、J.M.Adams及びP.A.Dolin、Delmar Thomson Learning、第5版、359~360頁に記載されている。
[099]UV-Vis硬化性フレキソ印刷セキュリティインクは、当技術分野において、低粘度を必要とするものとして公知である。典型的には、フレキソ印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、TA Instruments製回転式粘度計DHR-2(コーン-平面ジオメトリー、直径40mm)を使用して、25℃及び1000s-1で約0.01~約1Pa sの範囲の粘度を有する。
[0100]一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-Vis硬化性輪転グラビア印刷セキュリティインクであり、前記UV-Vis硬化性輪転グラビア印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の光開始剤と、本明細書に記載のモノマー及びオリゴマーである1種又は複数のUV硬化性化合物と、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[0101]当業者により公知のように、輪転グラビア印刷という用語は、例えば「Handbook of print media」、Helmut Kipphan、Springer編、48頁に記載されている印刷プロセスを指す。輪転グラビア印刷は、画線要素がシリンダーの表面に彫刻される印刷プロセスである。非画線エリアは、一定の元のレベルにある。印刷の前に、印刷版全体(非印刷及び印刷要素)がインクでインク付けされ、浸される。インクは、セル内にのみインクが残留するように、印刷前にワイパー又はブレードにより非画線から除去される。画線は、典型的には2~4バールの範囲の圧力により、及び基板とインクとの間の接着力により、セルから基板に転写される。輪転グラビア印刷という用語は、例えば異なる種類のインクに依存する凹版印刷プロセス(当技術分野において彫刻鋼製金型又は銅版印刷プロセスとも呼ばれる)を包含しない。
[0102]UV-Vis硬化性輪転グラビア印刷セキュリティインクは、当技術分野において、低粘度を有するものとして公知である。典型的には、輪転グラビア印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、TA Instruments製回転式粘度計DHR-2(コーン-平面ジオメトリー、直径40mm)を使用して、25℃及び1000s-1で約0.01~約0.5Pa sの範囲の粘度を有する。
[0103]一実施形態によれば、本明細書に記載のUV-Vis硬化性セキュリティインクは、UV-Vis硬化性フレックステンショナルインクジェット印刷セキュリティインクであり、前記UV-Vis硬化性フレックステンショナルインクジェット印刷セキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数の光開始剤と、本明細書に記載のモノマー及びオリゴマーである1種又は複数のUV硬化性化合物と、任意選択の本明細書に記載の添加剤又は成分とを含む。
[0104]フレックステンショナルインクジェット印刷は、フレックステンショナルインクジェット印刷ヘッド構造を使用したインクジェット印刷である。通常、フレックステンショナルトランスデューサーは、本体又は基板、開口が画定された可撓性膜、及びアクチュエーターを含む。基板は、流動性材料の供給を保持するための貯蔵部を画定し、可撓性膜は、基板により支持された周縁端部を有する。アクチュエーターは圧電性であって(すなわち、電圧が印加されると変形する圧電材料を含む)、又は例えば米国特許第8,226,213号に記載のように熱的に活性化されてもよい。したがって、アクチュエーターの材料が変形すると、可撓性膜は屈曲し、貯蔵部から開口を通して多量の流動性材料を排出させる。フレックステンショナル印刷ヘッド構造は、米国特許第5,828,394号に記載されており、ノズルを画定する開口を有する弾性薄膜を含む1つの壁と、ノズルから流体の液滴を排出するように膜を屈曲させるための電気信号に応答する要素とを含む流体排出器が開示されている。フレックステンショナル印刷ヘッド構造は、米国特許第6,394,363号に記載されており、開示されているものは、例えば、アドレス指定能力を有する1つの表面層上に配置されたノズルを組み込んだ表面層の励起を使用し、液体噴射アレイを形成し、広範な液体を用いて高振動数で動作可能である。フレックステンショナル印刷ヘッド構造は、米国特許第9,517,622号にも記載されているが、これは液体保持ユニット内に保持された液体を排出するように振動するように構成されるフィルム部材を備える液滴形成装置を記載しており、ノズルはフィルム部材に形成されている。さらに、その装置は、フィルム部材を振動させるための振動ユニットと;排出波形及び撹拌波形を振動ユニットに選択的に適用するための駆動ユニットとを備える。フレックステンショナル印刷ヘッド構造は、米国特許第8,226,213号にも記載されているが、これは受動ビームに融合された能動ビームを有する熱湾曲アクチュエーターを作動させる方法を記載している。方法は、能動ビームに電流を流して、その結果、受動ビームに対する能動ビームの熱弾性膨張及びアクチュエーターの湾曲をもたらすことを含む。
[0105]UV-Vis硬化性フレックステンショナルインクジェット印刷セキュリティインクは、当技術分野において、非常に低い粘度を有するものとして公知である。典型的には、フレックステンショナルインクジェット印刷プロセスに好適なセキュリティインクは、コーン-平面ジオメトリー及び40mmの直径を有するTA Instruments製回転式粘度計DHR-2を使用して、25℃及び1000s-1で測定した場合、約100mPa s未満の粘度を有する。
[0106]熱乾燥セキュリティインクは、高温空気、赤外線又はそれらの組合せにより乾燥されるセキュリティインクからなる。熱乾燥セキュリティインクは、典型的には、約10重量%~約90重量%の印刷基板上に残留する固形分、及び約10重量%~約90重量%の乾燥の結果蒸発する1種又は複数の溶媒からなり、1種又は複数の溶媒は、有機溶媒、水及びそれらの混合物からなる群から選択される。
[0107]好ましくは、本明細書に記載の有機溶媒は、アルコール(例えばエタノール)、ケトン(例えばメチルエチルケトン)、エステル(例えば酢酸エチル又は酢酸プロピル)、グリコールエーテル(例えばドワノール(DOWANOL)DPM)、グリコールエーテルエステル(例えばブチルグリコールアセテート)及びそれらの混合物からなる群から選択される。
[0108]一実施形態によれば、本明細書に記載の熱乾燥セキュリティインクは、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂(例えばカルボキシル化ポリウレタン樹脂)、ポリウレタンアルキド樹脂、ポリウレタン-アクリレート樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、スチレンアクリレート樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ(エチレングリコール)樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエチレンイミン樹脂、改質デンプン、セルロースエステル又はエーテル(例えば、酢酸セルロース及びカルボキシメチルセルロース)、コポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択される1種又は複数の樹脂を含む、水ベースの熱乾燥セキュリティインクからなる。
[0109]一実施形態によれば、本明細書に記載の熱乾燥セキュリティインクは、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ロジン修飾フェノール樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリケトン樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選択される1種又は複数の樹脂を含む、溶媒ベースの熱乾燥セキュリティインクからなる。
[0110]上で言及されたように、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を印刷するために、二重硬化又は二重硬質化セキュリティインクが使用されてもよく、これらのセキュリティインクは、2つの乾燥又は硬化機構を兼ね備える。
[0111]二重硬化又は二重硬質化セキュリティインクの例は、酸化乾燥機構及びUV-Vis硬化機構、例えば凹版印刷セキュリティインク等を含む。
[0112]二重硬化又は二重硬質化セキュリティインクの例は、酸化乾燥機構及び熱乾燥機構、例えばスクリーン印刷セキュリティインク、輪転グラビア印刷セキュリティインク及びフレックステンショナルインクジェット印刷セキュリティインク等を含む。
[0113]二重硬化又は二重硬質化セキュリティインクの例は、UV-Vis硬化機構及び熱乾燥機構、例えばスクリーン印刷セキュリティインク及び輪転グラビア印刷インク等を含む。典型的には、そのようなこれらの二重硬化又は二重硬質化セキュリティインクは、UV-Vis硬化性セキュリティインクに類似しているが、水及び/又は1種若しくは複数の有機溶媒で構成される揮発性部分を含む。これらの揮発性構成物は、まず高温空気及び/又はIR乾燥剤を使用して蒸発され、次いでUV-Vis硬化が硬質化プロセスを完了する。
[0114]本明細書に記載のセキュリティインクは、好ましくは炭素繊維、タルク、雲母(白雲母)、珪灰石、焼成粘土、陶土、カオリン、炭酸塩(例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムアルミニウム)、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム)、硫酸塩(例えば硫酸マグネシウム、硫酸バリウム)、チタン酸塩(例えばチタン酸カリウム)、水和アルミナ、シリカ、フュームドシリカ、モンモリロナイト、グラファイト、アナターゼ、ルチル、ベントナイト、バーミキュライト、亜鉛白、硫化亜鉛、木粉、石英粉、天然繊維、合成繊維及びそれらの組合せからなる群から選択される、1種又は複数の充填剤又は増量剤をさらに含んでもよい。存在する場合、1種又は複数の充填剤又は増量剤は、好ましくは約0.1~約40重量%の量で存在し、重量パーセントはセキュリティインクの総重量に対する。
[0115]本明細書に記載のセキュリティインクは、1種又は複数の着色剤(顔料又は染料)をさらに含んでもよい。
[0116]本明細書に記載のセキュリティインクは、当技術分野において公知の1種又は複数のIR吸収剤をさらに含んでもよい。前記IR吸収剤の役割は、例えば、セキュリティ機能の反射率プロファイルを、例えば検出システムの仕様に完全に適合するように若干修正することである。本明細書に記載のセキュリティインクは、例えばセキュリティ機能に向上した偽造抵抗性を提供するために、1種又は複数の発光化合物をさらに含んでもよい。本明細書に記載のセキュリティインクは、1種又は複数のマーカー物質又はタガントをさらに含んでもよい。
[0117]本明細書に記載のセキュリティインクは、1種又は複数の添加剤をさらに含んでもよく、前記1種又は複数の添加剤は、限定することなく、セキュリティインクの物理的、レオロジー的及び化学的パラメーター、例えば稠度(例えば沈降防止剤及び可塑剤)、発泡特性(例えば消泡剤及び脱気剤)、潤滑特性(ワックス)、UV安定性(光安定剤)、接着特性、表面特性(湿潤剤、疎油性及び疎水性薬剤)、乾燥/硬化特性(硬化促進剤、増感剤、架橋剤)等を調節するために使用される化合物及び材料を含む。本明細書に記載の添加剤は、当技術分野において公知の量、及び添加剤の寸法の少なくとも1つが1~1000nmの範囲であるいわゆるナノ材料の形態を含む形態で、本明細書に記載のセキュリティインク中に存在してもよい。
[0118]本発明は、本明細書に記載のセキュリティインクを生成するための方法、及びそれから得られるセキュリティインクをさらに提供する。本明細書に記載のセキュリティインクは、本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料、及び他の全ての成分を分散又は混合して、液体又はペースト状インクを形成することにより調製され得る。本明細書に記載のセキュリティインクがUV-VIS硬化性セキュリティインクである場合、1種又は複数の光開始剤は、他の全ての成分の分散若しくは混合ステップ中に組成物に添加されてもよく、又は、後の段階で、すなわち液体若しくはペースト状インクの形成後に添加されてもよい。ニス、結合剤化合物、モノマー、オリゴマー、樹脂及び添加剤は、典型的には、当技術分野において公知の、及び上で記載されたものの中から選択され、本明細書に記載のセキュリティインクを本明細書に記載の基板に塗布するために使用される印刷プロセスに依存する。
[0119]本明細書に記載のセキュリティインクは、好ましくはオフセット印刷プロセス、凹版印刷プロセス、スクリーン印刷プロセス、輪転グラビア印刷プロセス、フレキソ印刷プロセス及びフレックステンショナルインクジェット印刷プロセスからなる群から選択される、より好ましくは凹版印刷プロセス、スクリーン印刷プロセス、輪転グラビア印刷プロセス、フレキソ印刷プロセス及びフレックステンショナルインクジェット印刷プロセスからなる群から選択される、さらにより好ましくは凹版印刷プロセス、スクリーン印刷プロセス及び輪転グラビア印刷プロセスからなる群から選択される印刷プロセスにより、機械可読セキュリティ機能を生成するために本明細書に記載の基板に塗布される。
[0120]本発明は、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を生成するための方法、及びその得られた機械可読セキュリティ機能をさらに提供する。方法は、好ましくは凹版印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、輪転グラビア印刷及びフレックステンショナルインクジェット印刷からなる群から選択される印刷プロセスによって、本明細書に記載のセキュリティインクを本明細書に記載の基板に塗布するステップa)を含む。
[0121]印刷ステップを行った後、UV-VIS放射線及び/又は空気若しくは熱の存在下でセキュリティインクを乾燥及び/又は硬化させて、その結果、基板上に本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を形成するステップb)が行われ、乾燥させる前記ステップは、ステップa)の後に行われる。
[0122]本発明は、本明細書に記載の基板上の本明細書に記載のセキュリティインクで作製された機械可読セキュリティ機能をさらに提供する。
[0123]本明細書に記載の基板は、好ましくは、紙又は他の繊維性材料(織繊維及び不織繊維性材料を含む)、例えばセルロース、紙含有材料、ガラス、金属、セラミック、プラスチック及びポリマー、金属化プラスチック又はポリマー、複合材料、並びにそれらの2つ以上の混合物又は組合せからなる群から選択される。典型的な紙、紙様又は他の繊維性材料は、限定することなく、マニラ麻、綿、リネン、木材パルプ、及びそれらのブレンドを含む様々な繊維から作製される。当業者には周知のように、綿及び綿/リネンブレンドは、紙幣に好ましく、一方木材パルプは、紙幣以外のセキュリティ文書において一般的に使用される。プラスチック及びポリマーの典型的な例は、ポリオレフィン、例えばポリエチレン(PE)及び二軸配向ポリプロピレン(BOPP)を含むポリプロピレン(PP)、ポリアミド、ポリエステル、例えばポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(1,4-ブチレンテレフタレート)(PBT)、ポリ(エチレン2,6-ナフトエート)(PEN)、並びにポリ塩化ビニル(PVC)を含む。スパンボンドオレフィン繊維、例えばタイベック(Tyvek)(登録商標)の商標で販売されているものもまた、基板として使用され得る。金属化プラスチック又はポリマーの典型的な例は、表面に連続的又は断続的に配置された金属を有する、上で記載されたプラスチック又はポリマー材料を含む。金属の典型的な例は、限定されないが、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、それらの合金、及び上述の金属の2種以上の組合せを含む。上で記載されたプラスチック又はポリマー材料の金属化は、電着プロセス、高真空コーティングプロセスにより、又はスパッタリングプロセスにより行われてもよい。複合材料の典型的な例は、限定することなく、紙及び上で記載されたもの等の少なくとも1種のプラスチック又はポリマー材料の多層構造又はラミネート、並びに上で記載されたもの等の紙様又は繊維性材料中に組み込まれたプラスチック及び/又はポリマー繊維を含む。当然ながら、基板は、例えば充填剤、サイズ剤、増白剤、加工助剤、補強又は湿潤強化剤等の当業者に公知のさらなる添加剤を含んでもよい。
[0124]本発明は、本明細書に記載の基板及び本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を備えるセキュリティ文書、又は本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能の2つ以上を備えるセキュリティ文書をさらに提供する。セキュリティ文書は、限定することなく、有価文書及び有価商品を含む。有価文書の典型的な例は、限定することなく、紙幣、証書、券、小切手、証票、収入印紙及び課税表示、契約書等、パスポート、IDカード、ビザ、運転免許証、銀行カード、クレジットカード、取引カード、アクセス文書又はカード等の身分証明書、入場券、公共交通機関の乗車券又は権利書等を含む。「有価商品」という用語は、例えば本物の薬物等の包装の内容物を保証するために、偽造及び/又は違法複製から保護され得る、特に医薬品、化粧品、電子機器又は食品産業のための包装材料を指す。これらの包装材料の例は、限定することなく、ラベル、例えば認証ブランドラベル、改ざん防止ラベル及びシールを含む。好ましくは、本明細書に記載のセキュリティ文書は、紙幣、身分証明書、権利を付与する文書、運転免許証、クレジットカード、アクセスカード、交通機関の権利書、証票及び製品保証ラベルからなる群から選択される。代替として、本明細書に記載のセキュリティ機能は、補助基板、例えばセキュリティスレッド、セキュリティストライプ、箔、デカール、ウィンドウ又はラベル等の上に生成され、結果的に別個のステップにおいてセキュリティ文書に転写されてもよい。
[0125]セキュリティ文書のセキュリティレベル並びに偽造及び違法複製に対する抵抗性をさらに増加させる目的で、本明細書に記載の基板は、印刷、コーティング又はレーザーマーキング若しくはレーザー穿孔された印、透かし模様、セキュリティスレッド、繊維、プランシェット、発光化合物、ウィンドウ、箔、デカール、プライマー及びそれらの2つ以上の組合せを含有してもよいが、但し、これらの潜在的な追加要素は、機械可読セキュリティ機能のNIR範囲スペクトルにおける吸収特性に不利益となるように干渉しない。
[0126]汚損に対する耐久性若しくは耐薬品性及び清浄性を、ひいてはセキュリティ文書の流通耐用期間を増加させる目的で、又はその美的外観(例えば光学的光沢)を修正する目的で、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能又はセキュリティ文書の上に1つ又は複数の保護層が塗布されてもよい。存在する場合、1つ又は複数の保護層は、典型的には、透明又は若干着色若しくは色付けされてもよく、また多少なりとも光沢を有してもよい保護ニスで作製される。保護ニスは、放射線硬化性組成物、熱乾燥組成物又はそれらの任意の組合せであってもよい。好ましくは、1つ又は複数の保護層は、放射線硬化性組成物で作製される。より好ましくは、UV-Vis硬化性組成物。
[0127]本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能は、セキュリティ機能が永久的に残存すべき基板上に直接提供されてもよい(例えば紙幣用途において)。代替として、機械可読セキュリティ機能はまた、生成目的の一時的な基板上に提供されてもよく、その後に機械可読セキュリティ機能がそこから除去される。その後、機械可読セキュリティ機能の生成のための本明細書に記載のセキュリティインクの硬質化/硬化後、一時的な基板は、機械可読セキュリティ機能から除去され得る。
[0128]代替として、別の実施形態において、接着剤層が機械可読セキュリティ機能の上に存在してもよく、又は前記機械可読セキュリティ機能を備える基板上に存在してもよく、前記接着剤層は、機械可読セキュリティ機能が提供される側とは反対側の基板上、又は機械可読セキュリティ機能と同じ側の機械可読セキュリティ機能の上にある。したがって、接着剤層は、機械可読セキュリティ機能に、又は基板に塗布されてもよく、前記接着剤層は、乾燥又は硬化ステップが完了した後に塗布される。そのような物品は、印刷、又は機械及び幾分高い労力が関与する他のプロセスなしに、全ての種類の文書、又は他の物品若しくは品に付属してもよい。代替として、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を備える本明細書に記載の基板は、別個の転写ステップにおいて文書又は物品に塗布することができる転写箔の形態であってもよい。この目的のために、基板には剥離コーティングが提供され、その上に本明細書に記載のように機械可読セキュリティ機能が生成される。そのように生成された乾燥機械可読セキュリティ機能の上に、1つ又は複数の接着剤層が塗布されてもよい。
[0129]2つ以上、すなわち2つ、3つ、4つ等の本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を備える基板、セキュリティ文書、装飾要素及び物体も本明細書に記載される。本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能を備える物品、特にセキュリティ文書、装飾要素又は物体も本明細書に記載される。
[0130]上で言及されたように、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能は、セキュリティ文書又は装飾要素の保護及び認証に使用され得る。
[0131]装飾要素又は物体の典型的な例は、限定することなく、高級品、化粧品包装、自動車部品、電子/電気製品、家具及び爪用の物品を含む。
[0132]セキュリティ文書は、限定することなく、有価文書及び有価商品を含む。有価文書の典型的な例は、限定することなく、紙幣、証書、券、小切手、証票、収入印紙及び課税表示、契約書等、パスポート、IDカード、ビザ、運転免許証、銀行カード、クレジットカード、取引カード、アクセス文書又はカード等の身分証明書、入場券、公共交通機関の乗車券、卒業証明書又は権利書等、好ましくは紙幣、身分証明書、権利を付与する文書、運転免許証及びクレジットカードを含む。「有価商品」という用語は、特に化粧用品、栄養補助食品、医薬用品、アルコール、煙草物品、飲料若しくは食料品、電気/電子物品、布地又は宝石類、すなわち、例えば本物の薬物等の包装の内容物を保証するために、偽造及び/又は違法複製から保護されるべき物品のための包装材料を指す。これらの包装材料の例は、限定することなく、ラベル、例えば認証ブランドラベル、改ざん防止ラベル及びシールを含む。開示された基板、有価文書及び有価商品は、例示目的のためだけに挙げられ、本発明の範囲を制限しないことが指摘される。
[0133]本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料を含む機械可読セキュリティ機能は、パターン、画像、印、ロゴ、文章、数字、又はコード(バーコード又はQRコード等)からなってもよい。
[0134]一実施形態によれば、本明細書に記載の基板、セキュリティ文書、装飾要素及び物体は、組み合わされたセキュリティ機能を形成するように、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能からなり、本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料を含むセキュリティインクで作製される第1の部分と、電磁スペクトル(UV又はVis)の別の領域において吸収する1種又は複数の化合物を含むインクで作製されたセキュリティ機能からなる第2の部分とを備え、その結果、組み合わされたセキュリティ機能を形成する。本明細書に記載の組み合わされたセキュリティ機能の第1及び第2の部分は、隣接、互いに重複、又は離間していてもよい。第2の部分が、電磁スペクトルの可視領域において吸収する1種又は複数の化合物を含むインクで作製される場合、第1及び第2の部分が画像を構築するような全体的なセキュリティ機能が想起され得、両方の部分は可視スペクトル内で色が一致したインクで作製される。
[0135]一実施形態によれば、本明細書に記載の基板、セキュリティ文書、装飾要素及び物体は、組み合わされたセキュリティ機能を備え、前記組み合わされたセキュリティ機能は、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能からなり、本明細書に記載の1種又は複数のIR吸収材料を含むセキュリティインクで作製される第1の部分と、1種又は複数の磁性化合物を含む機械可読磁性インクで作製されたセキュリティ機能からなる第2の部分とを備え、その結果、前記組み合わされたセキュリティ機能を形成する。本明細書に記載の組み合わされたセキュリティ機能の第1及び第2の部分は、隣接、互いに重複、又は離間していてもよい。好ましくは、本明細書に記載の基板、セキュリティ文書、装飾要素及び物体は、組み合わされたセキュリティ機能を備え、第2の部分は、例えば国際公開第2010/115986A2号及び国際公開第2016/005158A1号に記載のもの等の、有機材料からなる群及び無機材料の群から選択される1種又は複数の材料で作製された1つ又は複数の追加の層で包囲された磁性コア(好ましくはニッケル、コバルト、鉄並びに鉄含有合金及び酸化物で作製される)を含む磁性顔料粒子を含む機械可読磁性インクで作製される。本明細書に記載の有機材料は、好ましくは、ポリアクリレート、ポリスチレン、パリレン、アルコキシシラン及びそれらの混合物からなる群から選択される。本明細書に記載の無機材料は、好ましくは、金属(好ましくは銀、アルミニウム及び金からなる群から選択される)、金属酸化物(好ましくはMgO及びZnO、Al2O3、Y2O3、Ln2O3(式中、Lnはランタニドである)、SiO2、TiO2、ZrO2、CeO2並びにそれらの混合物からなる群から選択される)及び金属硫化物(好ましくはZnS、CaS及びそれらの混合物からなる群から選択される)からなる群から選択される。特に好ましいのは、組み合わされたセキュリティ機能を備える本明細書に記載の基板、セキュリティ文書、装飾要素及び物体であり、第2の部分は、本明細書に記載の有機材料からなる群及び無機材料の群から選択される1種又は複数の材料で作製された1つ又は複数の追加の層で包囲された本明細書に記載の磁性コアを含む磁性顔料粒子を含む機械可読磁性インクで作製され、第1の部分及び第2の部分は、可視スペクトル内で色が一致したインクで作製される。
[0136]本発明は、セキュリティ文書を認証するための方法であって、a)本明細書に記載の列挙されたインクで作製された機械可読セキュリティ機能を備える、本明細書に記載のセキュリティ文書を用意するステップと、b)機械可読セキュリティ機能を少なくとも2つの波長で照明するステップであり、前記少なくとも2つの波長のうちの一方が可視範囲(400~700nm)にあり、前記少なくとも2つの波長のうちの他方がNIR範囲(780nm~1400nm)にある、ステップと、c)少なくとも2つの波長で前記機械可読セキュリティ機能により反射された光を感知することによって、機械可読セキュリティ機能の光学特性を検出するステップであり、前記少なくとも2つの波長のうちの一方が可視範囲(400~700nm)にあり、前記少なくとも2つの波長のうちの他方がNIR範囲(780nm~1400nm)にある、ステップと、d)機械可読セキュリティ機能の検出された光学特性から、セキュリティ文書の信頼性を決定するステップとを含む方法をさらに提供する。
[0137]本明細書に記載され、本明細書に記載のインクで作製された機械可読セキュリティ機能の認証は、1つ又は複数の光源、1つ又は複数の検出器、アナログ-デジタル変換器及びプロセッサーを備える認証デバイスを使用することによって行われてもよい。機械可読セキュリティ機能は、同時に、又は引き続いて、1つ又は複数の光源により照明され、1つ又は複数の検出器は、前記機械可読セキュリティ機能により反射された光を検出し、光強度に比例する電気信号を出力し、アナログ-デジタル変換器は、前記信号をデジタル情報に変換し、これがプロセッサーによりデータベースに保存された参照値と比較される。次いで、認証デバイスは、信頼性の肯定的信号(すなわち機械可読セキュリティ機能が本物である)又は否定的信号(すなわち機械可読セキュリティ機能が偽物である)を出力する。
[0138]一実施形態によれば、認証デバイスは、可視範囲(400~700nm)の第1の波長で発光する第1の源(例えばVIS LED)、NIR範囲(780~1400nm)の第2の波長で発光する第2の源(例えばNIR LED)と、広帯域検出器(例えば光電子増倍管)とを備える。第1及び第2の源は、時間間隔をおいて発光し、広帯域検出器にVIS及びNIR発光のそれぞれに対応する信号を別個に出力させる。これらの2つの信号は別個に比較され得る(VIS信号がVIS参照値と、NIR信号がNIR参照値と)。代替として、これらの2つの信号は、差分(又は比)値に変換されてもよく、前記差分(又は比)値は、データベースに保存された差分(又は比)参照値と比較されてもよい。
[0139]検出器ユニットの別の実施形態によれば、動作速度を増加させる目的で、前記検出器は、第1及び第2の源の発光波長に特に適合した2つの検出器(例えば可視範囲用のSiフォトダイオード及びNIR範囲用のInGaAsフォトダイオード)を備えてもよい。第1及び第2の源は同時に発光し、2つの検出器は、セキュリティ機能により反射された光を同時に検知し、2つの信号(又はそれらの差分若しくは比)がデータベースに保存された参照値と比較される。
[0140]別の実施形態によれば、偽造に対する抵抗性を増加させる目的で、認証デバイスは、VIS範囲の複数(すなわち2つ、3つ等)の波長及びNIR範囲の複数(すなわち2つ、3つ等)の波長で発光する源を備える。源は逐次活性化され、機械可読セキュリティ機能により反射された光は、広帯域検出器(例えば光電子増倍管)により検出される。次いで、複数の発光波長に対応する信号は完全なスペクトルに処理され、これがデータベースに保存された参照スペクトルと比較される。
[0141]別の実施形態によれば、偽造に対する抵抗性を増加させると共に動作速度を増加させる目的で、認証デバイスは、広帯域連続光源(例えばタングステン、タングステンハロゲン又はキセノンランプ)、コリメーションユニット、回折格子及び検出器アレイを備える。回折格子は、機械可読セキュリティ機能の後の光路に設置され、前記機械可読セキュリティ機能により反射された光は、コリメーションユニット(通常は一連のレンズ及び/又は調節可能スリットでできている)によって格子に集束される。検出器アレイは、複数の検出素子でできており、検出素子のそれぞれが特定波長に感受性である。このようにして、複数の波長における光強度に対応する信号が同時に得られ、完全なスペクトルとして処理され、データベースの参照スペクトルと比較される。
[0142]別の実施形態において、本明細書に記載の機械可読セキュリティ機能の二次元画像を得る目的で、検出器は、CCD又はCMOSセンサーであってもよい。この場合、検出可能な波長の範囲は、約400nm~約1100nmである(これはケイ素センサーの検出上限値である)。機械可読セキュリティ機能は、少なくとも2つの波長で逐次照明され、前記少なくとも2つの波長のうちの一方は、可視範囲(400~700nm)にあり、他方はCCD又はCMOS検出器に到達可能なNIR範囲(780nm~1100nm)にある。代替として、CCD又はCMOSセンサーは、センサーの個々のピクセルが可視(400~700nm)及びNIRスペクトル(780~1100nm)の異なる限られた領域に感受性であるように、フィルター層を備えてもよい。この場合、少なくとも2つの波長で機械可読セキュリティ機能の二次元画像を同時に得ることが可能であり、一方は可視範囲(400~700nm)、他方はCCD又はCMOS検出器に到達可能なNIR範囲(780nm~1100nm)。次いで、二次元画像は、データベースに保存された参照画像と比較される。
[0143]任意選択で、認証デバイスは、1つ又は複数の光拡散素子(例えばコンデンサー)、1つ又は複数のレンズアセンブリー(例えば集束又はコリメートレンズ)、1つ又は複数のスリット(調節可能又は調節不可能)、1つ又は複数の反射素子(例えばミラー、特に半透過ミラー)、1つ又は複数のフィルター(例えば偏光フィルター)、及び1つ又は複数の光ファイバー素子を備えてもよい。
[0144]当業者は、本発明の精神から逸脱せずに、上述の特定の実施形態に対するいくつかの変更形態を想定し得る。そのような変更形態は、本発明に包含される。
[0145]さらに、本明細書全体にわたり参照される全ての文書は、参照によって完全に本明細書に記載されるようにその全体が組み込まれる。
[0146]ここで、非限定的な例を参照しながら本発明をより詳細に記載する。以下の実施例は、機械可読セキュリティ機能を印刷するためのセキュリティインクの調製及び使用に関するさらなる詳細を提供し、前記セキュリティインクは、IR吸収材料を独立して含む。
[0147]4種類のセキュリティインクを調製し、基板に塗布した。
i)酸化乾燥凹版印刷セキュリティインク(実施例E1、E2及び比較例C1)、
ii)UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク(実施例E3、E4及び比較例C2)、
iii)熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインク(実施例E5、E6及び比較例C3)、及び
iv)熱乾燥スクリーン印刷セキュリティインク(実施例E7、E8及び比較例C4)。
E1、E3、E5及びE7は、グラフトナイト構造を有する結晶水不含オルトリン酸鉄(II)(IR-A1)を含み、
E2、E4、E6及びE8は、結晶水不含オルトリン酸カリウム鉄(II)(IR-A2)を含み、
C1、C2、C3及びC4は、市販の含水オルトリン酸鉄(II)(IR-A3)を含んでいた。
IR吸収材料IR-A1及びIR-A2の構造及び組成
IR吸収材料IR-A1の調製
[0148]21.75kgの酸化水酸化鉄(III)[FeO(OH)又はFe2O3・H2O]、12.15kgの98%ホスホン酸(H3PO3)、10.3kgのリン酸鉄(III)二水和物[FePO4・2H2O]及び140kgの水を含む懸濁液を噴霧造粒した。そのようにして得られた造粒物を、回転炉内で約90分間、フォーミングガス雰囲気(5v/v%のN2中のH2、及び750℃)中で温度処理した。ほぼ無色の生成物が得られた。生成物はグラフトナイト構造で結晶化し、PDFカード00-49-1087を使用して同定した。IR吸収材料IR-A1のX線回折図(XRD)を図1Aに示す。d50値(中央粒子サイズ)が3μm未満となるように、ジェットミル(AFG100流動床対向型ジェットミル(Fluidized Bed Opposed Jet Mill)、Hosokawa Alpine)を使用して生成物を粉砕した。表1に記載のd10、d50及びd90は、蒸留水中で以下に記載の測定方法により得た。
IR吸収材料IR-A2の調製
[0149]11.80kgの酸化水酸化鉄(III)[FeO(OH)又はFe2O3・H2O]、10.70kgの98%ホスホン酸(H3PO3)、24.8kgのリン酸鉄(III)二水和物[FePO4・2H2O]、29.8kgの50%苛性アルカリ溶液[KOH]、1.0kgの75%リン酸[H3PO4]及び110kgの水を含む懸濁液を噴霧造粒した。そのようにして得られた造粒物を、回転炉内で約3時間、フォーミングガス雰囲気(5v/v%のN2中のH2、及び650℃)中で温度処理した。淡い薄緑色の生成物が得られた。IR吸収材料IR-A2のX線回折図(XRD)を図1Bに示す。生成物は、PDFカード01-076-4615を使用して同定した。d50値(中央粒子サイズ)が3μm未満となるように、ジェットミル(AFG100流動床対向型ジェットミル、Hosokawa Alpine)を使用して生成物を粉砕した。表1に記載のd10、d50及びd90は、酢酸エチル中で以下に記載の測定方法により得た。
X線回折(XRD)
[0150]上で言及されたように、2つのIR吸収材料IR-A1及びIR-A2に対してX線回折測定(XRD)を行った。D8アドバンス(Advance)A25型回折計(Bruker)及びCuKα線を、前記X線回折測定(XRD)に使用した。生成物及びその結晶構造は、以前のJCPDS(粉末回折標準に関する合同委員会(Joint Committee on Powder Diffraction Standards))データベースであるICDD(国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data))からの対応する参照回折図(粉末回折ファイル(Powder Diffraction Files;PDF))に基づいて同定した。
粒子サイズ分布
[0151]PSD測定は、ISO13320に従い、レーザー回折法(サイラス1090)により水中又は酢酸エチル中のいずれかで行った。d10、d50及びd90の値は、粒子サイズ分布曲線から抽出し、表1に記載されている。フラウンホーファーモデルを使用し、サイズエキスパート(SizeExpert)バージョン9.40で計算を行った。表1に報告されているD10、d50及びd90値は、それぞれd(v,10)、d(v,50)及びd(v,90)に対応する。
結晶水の存在又は非存在の分析測定(図2)
[0152]IR-A1及びIR-A3に対して、示差走査熱量計(DSC131 Evo、SETARAM)を使用して、窒素雰囲気下、それぞれ約25mgのIR吸収材料を用いてDSC測定を独立して行った。各IR吸収材料に対して、2回の完全測定サイクルを行った。各サイクルに対して、温度を約10℃/分の速度で約25℃から約385℃に上げ、次いで温度を再び同じ速度で約25℃に下げた。
[0153]図2A及び2Bは、両方のサイクルに対して得られたDSC曲線を示す(図2A:IR-A3及び図2B:IR-A1)。図2Aにおいて約150℃の極値の強い吸熱ピーク(負のピーク)の存在により示されるように、結晶水は、第1のサイクル中にIR-A3から抽出した(黒の連続曲線は温度を上昇させたサイクルに対応し、黒の点線の曲線は温度を低下させたサイクルに対応する)。第2のサイクル中(灰色の連続曲線は温度を上昇させたサイクルに対応し、灰色の点線の曲線は温度を低下させたサイクルに対応する)、負のピークは観察されなかった。したがって、IR-A3は、結晶水不含ではない材料からなっていた。
[0154]図2Bにおいて、吸熱ピークの非存在、並びに第1及び第2のサイクルの曲線の重なりにより示されるように(黒の連続曲線は温度を上昇させた第1のサイクルに対応し、黒の点線の曲線は温度を低下させた第1のサイクルに対応し、灰色の連続曲線は温度を上昇させた第2のサイクルに対応し、灰色の点線の曲線は温度を低下させた第2のサイクルに対応する)、IR-A1は、結晶水不含材料からなっていた。
A.酸化乾燥凹版印刷セキュリティインク(実施例E1、E2及び比較例C1)
A.1.セキュリティインク(E1、E2及びC1)の調製
[0155]表2Aの成分を、スパチュラを用いて手作業で独立して完全に混合して、酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE1、E2及びC1を生成した。そのようにして得られたペースト状混合物を、Buhler SDY200三本ロールミルで4回の通過(2回の通過は6バールで開放、1回の通過は12バールで閉鎖、及び最後の通過は6バールで開放)で独立して粉砕した。20mm直径のコーンプレート及び0.5°ジオメトリーを用いたHaakeロトビスコRV1回転式レオメーターを使用し、1000s-1及び40℃で粘度を独立して測定した。
A.2.印刷されたセキュリティ機能(E1、E2及びC1)の調製
[0156]表2Aに記載の酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクから作製された凹版印刷されたセキュリティ機能を模擬する目的で、Prufbau製多目的印刷性試験機(Multipurpose Printability tester)MZ-Eを使用して、前記セキュリティインクを信託用紙片(Louisenthal製BNP紙、100g/m2、4.5cm×23.3cm)に独立して塗布した。印刷されたパターンは、20.2cm×3.9cmのサイズを有していた。塗布されたセキュリティインク(湿潤)の量は、8±0.2g/m2であった。コーティング/印刷ステップ後、セキュリティ機能を室温で7日間暗所で乾燥させた。
A.3 結果(E1、E2及びC1)
[0157]CIELAB(1976)に従って印刷された試料のL*a*b*値を測定することにより、酸化乾燥凹版印刷セキュリティインク中に存在するIR吸収材料の、セキュリティ機能の可視色に対する影響を評価したが、L*は、印刷された試料の明度を示し、a*及びb*は、デカルト二次元空間における色座標である(a*=赤/緑軸に沿った色値、b*=青/黄軸に沿った色値)。L*a*b*値は、Datacolor製分光光度計DC45で測定した(測定ジオメトリー:45/0°;スペクトル分析器:独自のデュアルチャネルホログラフィック格子。256-フォトダイオード線形アレイを参照及び試料チャネルの両方に使用;光源:全帯域幅LED照明)。各セキュリティ機能に対して、3つの個別のスポットを測定した。L*a*b*値の3回の測定の平均値を、表2Bに記載する。
[0158]酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE1、E2及びC1で印刷された試料の反射率スペクトルを、Datacolor製DC45で400nm~1100nmの間で測定した。デバイスの内部標準を使用して100%反射率を測定した。選択された波長での反射率値(%)を表2Cに記載し、全スペクトル(400~1100nm)を図3に示す(E1-実線;E2-点線及びE3-一点鎖線)。
[0159]表2Cに示されるように、比較酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクC1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能は、約400nm~約1100nmの間で低い反射率を示した。表2Dに示されるように、比較酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクC1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲の最大反射率と、NIR範囲の最小反射率(すなわち最大吸収)との間にほとんど差を示さなかった。示された反射率値及びプロファイルにより、前記セキュリティ機能(すなわち機械可読特性)の検出は、高速紙幣選別機を特徴付けるもの等の標準的な検出器では不可能であるが、その理由は、そのような検出器が、Vis及びNIR範囲の選択された波長での反射率の差に依存しているためである。さらに、比較酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクC1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、深緑色に対応し、NIR範囲での十分に強い吸収と同時に、Vis範囲で清浄な薄い色を得ることが極めて困難となる。
[0160]比較酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクC1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能とは対照的に、また表2C及び2Dに示されるように、本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインク(E1及びE2)から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲とNIR範囲との間の反射率の顕著な差を示し、したがって高速での前記セキュリティ機能の容易で確実な検出を可能にする。本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能は、本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE2から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能から作製されたセキュリティ機能と、それぞれのNIR反射率プロファイルの分だけ異なっていた。特に、本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能では、最小反射率は1000nmで生じたが、本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE2から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能では、最小反射率は850nmで生じた。本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE1から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、薄ベージュ色に対応し、本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインクE2から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、薄緑色に対応する。したがって、本発明による酸化乾燥凹版印刷セキュリティインク(E1及びE2)から作製された凹版印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲で明瞭な薄い色を示すと共に、NIR範囲で十分に強い吸収を示した。
B.UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク(実施例E3、E4及び比較例C2)
B.1.セキュリティインク(E3、E4及びC2)の調製
[0161]ディスパーマット(Dispermat)(LC220-12)を使用して、表3Aに記載のインクビヒクルの成分を1500rpmで10分間、室温で混合及び分散させた。
[0162]200gのIR吸収材料(IR-A1、IR-A2及びIR-A3のそれぞれ)を、表3Aに記載の800gのインクビヒクルに独立して添加し、1500rpmで10分間分散させて、その結果、表3Bに記載の1kgのUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE3、E4及びC2を独立して得た。表3Bに記載の粘度は、9gのUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE3、E4及びC2に対し、Brookfield機械(モデル「DV-Iプライム」、少量試料アダプター、スピンドルSC4-21、50rpm)で25℃で測定した。
B.2 印刷されたセキュリティ機能(E3、E4及びC2)の調製
[0163]表3BのUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクから作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能を調製する目的で、90Tスクリーン(230メッシュ)を使用して、前記セキュリティインクを信託用紙片(Louisenthal製BNP紙、100g/m2、14.5cm×17.5cm)に手作業で独立して塗布した。印刷されたパターンは、6cm×10cmのサイズを有していた。印刷ステップ後、印刷されたセキュリティ機能をPhoseon製UV-LEDランプ(ファイヤフレックス型(Type FireFlex)50×75mm、395nm、8W/cm2)で約2秒間UV硬化に独立して曝露することにより、セキュリティ機能を硬化させた。
B.3 結果(E3、E4及びC2)
[0164]上述のように、CIELAB(1976)に従って印刷された試料のL*a*b*値を測定することにより、UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク中に存在するIR吸収材料の、セキュリティ機能の可視色に対する影響を評価した。各セキュリティ機能に対して、3つの個別のスポットを測定した。L*a*b*値の3回の測定の平均値を、表3Cに記載する。
[0165]UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE3、E4及びC2で印刷された試料の反射率スペクトルを、Datacolor製DC45で400nm~1100nmの間で測定した。デバイスの内部標準を使用して100%反射率を測定した。選択された波長での反射率値(%)を、表3Dに記載する。
[0166]表3Dに示されるように、比較UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクC2から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能は、約400nm~約1100nmの間で低い反射率を示した。表3Eに示されるように、比較UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクC2から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲の最大反射率と、NIR範囲の最小反射率との間に差を示さなかった。示された反射率値及びプロファイルにより、前記セキュリティ機能(すなわち機械可読特性)の検出は、高速紙幣選別機を特徴付けるもの等の標準的な検出器では不可能であるが、その理由は、そのような検出器が、VIS及びNIR範囲の選択された波長での反射率の差に依存しているためである。さらに、比較UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクC2から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、深緑色に対応し、NIR範囲での十分に強い吸収と同時に、Vis範囲で清浄な薄い色を得ることが極めて困難となる。
[0167]比較UV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクC2から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能とは対照的に、また表3Dに示されるように、本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク(E3及びE4)から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能は、VIS範囲とNIR範囲との間の反射率の顕著な差を示し、したがって高速での前記セキュリティ機能の容易で確実な検出を可能にする。本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE3から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能は、本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE4から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能から作製されたセキュリティ機能と、それぞれのNIR反射率プロファイルの分だけ異なっていた。特に、本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE3から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能では、最小反射率は1000nmで生じたが、本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE4から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能では、最小反射率は850nmで生じた。本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE3から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、薄ベージュ色に対応し、本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインクE4から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、薄緑色に対応する。したがって、本発明によるUV-Vis硬化性スクリーン印刷セキュリティインク(E3及びE4)から作製されたスクリーン印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲で明瞭な薄い色を示すと共に、NIR範囲で十分に強い吸収を示した。
C.熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインク(実施例E5、E6及び比較例C3)
C.1.セキュリティインク(E5、E6、C3)の調製
[0168]ディスパーマット(LC220-12)を使用して、表4Aに記載のインクビヒクルの成分を500rpmで10分間、室温で混合及び分散させた。
[0169]150gのIR吸収材料(IR-A1、IR-A2及びIR-A3のそれぞれ)を、表4Aに記載の850gのインクビヒクルに独立して添加し、1200rpmで10分間及び1550rpmで1分間分散させて、その結果、表4Bに記載の1kgの熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクE5、E6及びC3を独立して得た。熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクE5、E6及びC3の表4Bに記載の25℃及び1000s-1での粘度は、TA Instruments製回転式粘度計DHR-2(コーン-平面ジオメトリー、直径40mm)を使用して決定した。
C.2 印刷されたセキュリティ機能(E5、E6、C3)の調製
[0170]表4Bの熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクで印刷された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能を模擬する目的で、2番のバーを備えるハンドコーターを使用して、前記セキュリティインクを信託用紙片(Louisenthal製BNP紙、100g/m2、14.5cm×17.5cm)に手作業で独立して塗布した。印刷されたパターンは、10cm×12cmのサイズを有していた。コーティング/印刷ステップ後、1分の間約50℃の高温空気乾燥機でセキュリティ機能を乾燥させた。
C.3 結果(E5、E6、C3)
[0171]上述のように、CIELAB(1976)に従って印刷された試料のL*a*b*値を測定することにより、熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインク中に存在するIR吸収材料の、セキュリティ機能の可視色に対する影響を評価した。各セキュリティ機能に対して、3つの個別のスポットを測定した。L*a*b*値の3回の測定の平均値を、表4Cに記載する。
[0172]熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクE5、E6及びC3で印刷された試料の反射率スペクトルを、Datacolor製DC45で400nm~1100nmの間で測定した。デバイスの内部標準を使用して100%反射率を測定した。選択された波長での反射率値(%)を、表4Dに記載する。
[0173]表4Dに示されるように、比較熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクC3から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能は、約400nm~約1100nmの間で低い反射率を示した。表4Eに示されるように、比較熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティ印刷インクC3から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲の最大反射率と、NIR範囲の最小反射率との間に差を示さなかった。示された反射率値及びプロファイルにより、前記セキュリティ機能(すなわち機械可読特性)の検出は、高速紙幣選別機を特徴付けるもの等の標準的な検出器では不可能であるが、その理由は、そのような検出器が、Vis及びNIR範囲の選択された波長での反射率の差に依存しているためである。さらに、比較熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクC3から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、緑色に対応し、NIR範囲での十分に強い吸収と同時に、Vis範囲で清浄な薄い色を得ることが極めて困難となる。
[0174]比較熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクC3から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能とは対照的に、また表4Dに示されるように、本発明による熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインク(E5及びE6)から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲とNIR範囲との間の反射率の顕著な差を示し、したがって高速での前記セキュリティ機能の容易で確実な検出を可能にする。本発明による熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティ印刷インクE5から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能は、本発明による熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインクE6から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能から作製されたセキュリティ機能と、それぞれのNIR反射率プロファイルの分だけ異なっていた。特に、本発明による比較熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティ印刷インクE5から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能では、最小反射率は1000nmで生じたが、熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティ印刷インクE6から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能では、最小反射率は850nmで生じた。本発明による熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインク(E5及びE6)から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能のL*a*b*値は、無着色試料の値である。したがって、本発明による熱乾燥輪転グラビア印刷セキュリティインク(E5及びE6)から作製された輪転グラビア印刷されたセキュリティ機能は、Vis範囲で明瞭な薄い色を示すと共に、NIR範囲で十分に強い吸収を示した。