(第1実施形態)
以下、車載主機として回転電機を備える車両(例えば、ハイブリッド車や電気自動車)に「漏電判定装置」を適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示す車載モータ制御システムは、組電池10、モータ20、インバータ30、及び漏電判定装置50を備えている。
組電池10は、インバータ30を介して、モータ20に電気的に接続されている。組電池10は、例えば百V以上となる端子間電圧を有する蓄電池であり、複数の電池モジュールが直列接続されて構成されている。電池モジュールは、複数の電池セルが直列接続されて構成されている。電池セルとして、例えば、リチウムイオン蓄電池や、ニッケル水素蓄電池を用いることができる。組電池10が直流電源に相当する。
モータ20は、車載主機であり、図示しない駆動輪と動力伝達可能とされている。本実施形態では、モータ20として、3相の永久磁石同期モータを用いている。
インバータ30は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、各相巻線において通電電流が調整される。
インバータ30には、図示しないインバータ制御装置が設けられており、インバータ制御装置は、モータ20における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ30における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。これにより、インバータ制御装置は、組電池10からインバータ30を介してモータ20に電力を供給し、モータ20を力行駆動させる。また、インバータ制御装置は、駆動輪からの動力に基づいてモータ20を発電させ、インバータ30を介して、発電電力を変換して組電池10に供給し、組電池10を充電させる。
組電池10の正極側電源端子に接続される正極側電源経路L1には、インバータ30等の電気負荷の正極側端子が接続されている。この正極側電源経路L1は、車体などのグラウンドG1に対して電気的に絶縁されている。この正極側電源経路L1と、グラウンドG1との間における絶縁状態(対地絶縁抵抗)を地絡抵抗Rpとして表すことができる。また。正極側電源経路L1と、グラウンドG1との間には、ノイズ除去用のコンデンサや浮遊容量等の対地静電容量が存在し、これらをまとめて対地静電容量Cpとして表す。
同様に、組電池10の負極側電源端子に接続される負極側電源経路L2には、インバータ30等の電気負荷の負極側端子が接続されている。この負極側電源経路L2は、グラウンドG1に対して電気的に絶縁されている。この負極側電源経路L2と、グラウンドG1との間における絶縁状態(対地絶縁抵抗)を地絡抵抗Rnとして表すことができる。また。負極側電源経路L2と、グラウンドG1との間には、ノイズ除去用のコンデンサや浮遊容量等の対地静電容量が存在し、これらをまとめて対地静電容量Cnとして表す。
なお、地絡抵抗Rp,Rnをまとめて地絡抵抗Rxと示す場合があり、また、対地静電容量Cp,Cnをまとめて対地静電容量Cxと示す場合がある。また、正極側電源経路L1及び負極側電源経路L2には、それぞれインバータ30と組電池10との間の通電及び通電遮断を切り替えるシステムメインリレーSMRが設けられている。
漏電判定装置50は、正極側電源経路L1と負極側電源経路L2のうちいずれかに接続されており、正極側電源経路L1及び負極側電源経路L2がグラウンドG1に対して正常に絶縁されているか否か、すなわち、漏電の有無を判定する。以下、漏電判定装置50について説明する。
漏電判定装置50は、回路部51と、電圧検出器としてのA/D変換部52と、動作判定部としての制御部53と、を備えている。
回路部51は、所定の電圧を出力する電源部54と、検出抵抗R1と、カップリングコンデンサC1を備えている。電源部54、検出抵抗R1及びカップリングコンデンサC1は直列接続されており、電源部54の一端は、検出抵抗R1を介してカップリングコンデンサC1に接続されている。カップリングコンデンサC1は、負極側電源経路L2の接続点M0に接続されている。カップリングコンデンサC1は、低電圧回路である漏電判定装置50と、高電圧回路である組電池10、インバータ30、及びモータ20との間で、入力の直流成分を遮断する一方、交流成分を通過させるものである。なお、電源部54の他端は、グラウンドG1に接続されている。
A/D変換部52は、一端が検出抵抗R1とカップリングコンデンサC1との間の第1接続点M1に接続され、他端がグラウンドG1に接続されている。A/D変換部52は、第1接続点M1を介して、入力される信号(アナログ信号)を制御部53の処理に適した信号(デジタル信号)に変換して出力する装置である。
電源部54が検出抵抗R1及びカップリングコンデンサC1を介して所定の電圧を出力する場合、第1接続点M1の電圧(検出電圧)は、最終的に、電源部54が出力した所定の電圧を、検出抵抗R1の抵抗値と地絡抵抗Rxの抵抗値とで分圧した値となる。A/D変換部52は、この検出電圧の値を入力する。なお、第1接続点M1とA/D変換部52との間にバンドパスフィルタを設けてもよい。
制御部53は、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成されており、CPUがROMに記憶されているプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。なお、各種機能は、ハードウェアである電子回路によって実現されてもよく、あるいは、少なくとも一部をソフトウェア、すなわちコンピュータ上で実行される処理によって実現されてもよい。
制御部53は、第1接続点M1の電圧を検出し、検出電圧に基づいて、高電圧回路の絶縁状態を判定、すなわち、漏電の有無を判定する。例えば、制御部53は、第1接続点M1の検出電圧の電圧値と、閾値を比較して、漏電の有無を判定することができる。また、例えば、制御部53は、第1接続点M1における検出電圧の電圧値と電源部54が出力する電圧の電圧値との比に基づいて、地絡抵抗Rxの抵抗値を取得し、漏電の有無を判定することができる。
制御部53は、漏電が生じていると判定した場合、漏電に応じた各種処理を実行する。例えば、警報の出力を行う。また、例えば、組電池10からの電力供給や充電を停止し、高電圧回路と組電池10との通電を遮断する。
また、回路部51は、疑似漏電回路55を備える。疑似漏電回路55は、検出抵抗R1とカップリングコンデンサC1との間の電気経路上の第2接続点M2に接続されている。疑似漏電回路55については後述する。
ところで、従来において電源部が出力する電圧は、例えば、図2(a)に示すような矩形波の交流電圧が一般的であった。しかしながら、対地静電容量Cxの大きさや対地静電容量Cxの充電量により、検出電圧の時間変化(CR時定数の大きさ)が異なるという問題があった。この問題について、図2(b)及び図2(c)に基づいて、より詳しく説明する。図2(b)に地絡抵抗Rxが大きい場合(すなわち、絶縁されている場合)における検出電圧の時間変化を示す。そして、図2(c)に地絡抵抗Rxが小さい場合(すなわち、漏電している場合)における検出電圧の時間変化を示す。
地絡抵抗Rxが大きい場合であって、対地静電容量Cxが小さい場合、図2(b)において実線に示すように、出力される矩形波(交流電圧)にほぼ従って、検出電圧が時間変化する。一方、地絡抵抗Rxが大きい場合であって、対地静電容量Cxが大きい場合、図2(b)において破線に示すように、出力される矩形波の変化にかなり遅れて、検出電圧が時間変化する。具体的には、遷移開始時にわずかに電圧が変化し、その後、時間の経過と共に電圧値が徐々に変化していくこととなる。例えば、立ち上がり開始時にわずかに電圧が上昇し、その後、時間の経過と共に電圧値が徐々に増加していくこととなる。また、立ち下がり開始時にわずかに電圧が下降し、その後、時間の経過と共に電圧値が徐々に減少していくこととなる。
つまり、地絡抵抗Rxが大きい場合、対地静電容量Cxの大きさにより、検出電圧の波形がかなり異なる。このため、地絡抵抗Rxが大きい場合であっても、対地静電容量Cxの大きさにより、漏電していると誤判定する可能性がある。例えば、検出タイミングを時点T100に設定した場合、対地静電容量Cxが小さい場合には、検出電圧が閾値Vhを上回り、対地静電容量Cxが大きい場合には、検出電圧が閾値Vhを下回る可能性がある。この場合、誤判定が生じることとなる。検出タイミングを時点T100よりも遅らせることで、検出誤差は抑制される傾向があるが、その場合、検出時間(つまり、判定時間)が長くなるという問題がある。
なお、地絡抵抗Rxが小さい場合であって、対地静電容量Cxが小さい場合、図2(c)において実線に示すように、検出電圧が時間変化する。一方、地絡抵抗Rxが小さい場合であって、対地静電容量Cxが大きい場合、図2(c)において破線に示すように、対地静電容量Cxが小さい場合における検出電圧の波形(実線)に対して遷移開始時にわずかに遅れるものの、ほぼ同様に検出電圧が時間変化する。よって、地絡抵抗Rxが小さい場合、対地静電容量Cxの違いによる検出誤差は少なく、誤判定も少ないこととなる。
以上のように、対地静電容量Cxの大きさにより、誤判定する可能性がある。そして、ハイブリッド車や電気自動車では、対地静電容量Cxが大きくなる傾向があるため、従来のような矩形波のパルス信号では、判定精度を向上させつつ、判定時間を短縮することが困難となっていた。そこで、本実施形態の漏電判定装置50を、以下のように構成している。
図1に示すように、電源部54は、第1電源54aと、第2電源54bと、を有する。第1電源54a及び第2電源54bは、共に矩形波のパルス信号(交流電圧)を出力可能に構成されている。ただし、第1電源54aが出力するパルス信号と、第2電源54bが出力するパルス信号は、同じ交流周期であるものの、ピーク値など、その波形が異なるようになっている。以下、詳しく説明する。
図3(a)に示すように、第1電源54aが出力する第1パルス信号は、交流周期開始の時点T0から時点T1が経過するまで、電圧値が「V1」となる。そして、第1パルス信号は、時点T1の経過後から交流周期の後半開始の時点T3が経過するまで(交流周期の前半が終了するまで)、電圧値が「0(ゼロ)」となる。交流周期後半における第1パルス信号の波形は、極性が異なるだけで、交流周期前半における第1パルス信号の波形と同様である。すなわち、後半開始の時点T3から時点T4が経過するまで、電圧値が「-V1」となり、時点T4の経過後から交流周期が終了する時点T6まで、電圧値が「0(ゼロ)」となる波形を有する。
一方、図3(b)に示すように、第2電源54bが出力する第2パルス信号は、交流周期開始の時点T0から交流周期の後半開始の時点T3が経過するまで、電圧値が「V2」となる。交流周期後半における第2パルス信号の波形は、極性が異なるだけで、交流周期前半における第2パルス信号の波形と同様である。すなわち、第2パルス信号は、後半開始の時点T3から交流周期が終了する時点T6まで、電圧値が「-V2」となる波形を有する。
そして、第1電源54aから出力される第1パルス信号は、第2電源54bから出力される第1パルス信号に比較して、ピーク値を大きくしている。つまり、電圧値「V1」の絶対値>電圧値「V2」の絶対値となっている。その一方で、パルス信号がピーク値となっている時間(つまり、電圧値の絶対値が「V1」、若しくは「V2」である時間)は、第2パルス信号に比較して、第1パルス信号の方が短くなっている。
そして、第1電源54aは、第2電源54bに対して直列に接続されており、第1電源54aと第2電源54bは、交流周期の開始時を同期させてパルス信号をそれぞれ出力し、重複させている。このため、電源部54は、第1電源54aからの第1パルス信号と、第2電源54bからの第1パルス信号とを合成(重畳)させた電圧(以下、合成電圧と示す)を所定の電圧として出力することとなる。
図3(c)に示すように、所定の電圧としての合成電圧は、交流周期開始の時点T0から時点T1が経過するまで、電圧値が「V1+V2」となり、時点T1の経過後から交流周期後半開始の時点T3が経過するまで、電圧値が「V2」となる。交流周期後半における合成電圧の波形は、極性が異なるだけで、交流周期前半における合成電圧の波形と同様である。すなわち、合成電圧は、後半開始の時点T3から時点T4が経過するまで、電圧値が「-(V1+V2)」となり、時点T4の経過後から交流周期が終了する時点T6まで、電圧値が「-V2」となる波形を有する。このような合成電圧が、漏電判定の際、電源部54から交流電圧として出力されることとなる。
したがって、電源部54は、周期的に、所定の電圧として、予め決められた時間(時点T0~T1)、第1電圧「V1+V2」を出力してから、第1電圧よりも電圧値(絶対値)が低い第2電圧「V2」を出力するように構成されていることとなる。
そして、本実施形態において、交流周期前半では、時点T1の経過後から交流周期後半開始の時点T3が経過するまでの間のいずれかのタイミングであって、時点T1から所定時間経過した検出タイミング(時点T2)において、第1接続点M1における電圧(検出電圧)の電圧値が検出される。また、交流周期後半では、時点T4の経過後から交流周期終了の時点T6が経過するまでの間のいずれかのタイミングであって、時点T4から所定時間経過した検出タイミング(時点T5)において、第1接続点M1における電圧(検出電圧)の電圧値が検出される。
したがって、時点T0から時点T1の間における期間、及び時点T3から時点T4の間における期間が、準備期間に相当する。また、検出タイミング(時点T2,T5)において出力される交流電圧(合成電圧)の絶対値(V2の絶対値)に比較して、準備期間(時点T0~T1、T3~T4)において出力される交流電圧の絶対値(V1+V2の絶対値)は大きくなるといえる。
そして、このような合成電圧が出力されると、制御部53は、A/D変換部52を介して第1接続点M1から、図4(a)及び図4(b)に示すような波形の電圧(以下、検出電圧と示す)を検出することができる。図4(a)に地絡抵抗Rxが大きい場合(すなわち、絶縁されている場合)における検出電圧の時間変化を示す。図4(b)に地絡抵抗Rxが小さい場合(すなわち、漏電している場合)における検出電圧の時間変化を示す。なお、以下では、交流周期の後半(時点T3~T6)は、極性が異なるだけで交流周期の前半(時点T0~T3)と同様であるため、交流周期の前半についてのみ説明し、後半についての説明を省略する場合がある。つまり、交流電圧が立ち上がる場合のみについて主に説明する。
地絡抵抗Rxが大きい場合であって、対地静電容量Cxが小さい場合、図4(a)の実線に示すように、出力される交流電圧としての合成電圧にほぼ従って、検出電圧が時間変化する。すなわち、検出電圧は、交流周期開始の時点T0から時点T1が経過するまで、電圧値が「V11+V12」となる。そして、検出電圧は、時点T1の経過後(準備期間経過後)から交流周期の後半開始の時点T3が経過するまで、電圧値が「V11」となる。交流周期後半の波形は、極性が異なるだけで、前半の波形とほぼ同じである。すなわち、後半開始の時点T3から時点T4が経過するまで、電圧値が「-(V11+V12)」となる。そして、時点T4の経過後から交流周期が終了する時点T6まで、電圧値が「-V11」となる。なお、V11≦V2であり、V12≦V1である。よって、V11+V12≦V1+V2である。
このため、地絡抵抗Rxが大きい場合であって、対地静電容量Cxが小さい場合、検出タイミング(時点T2)において検出される検出電圧の電圧値は「V11」となる。電圧値「V11」は、電圧値「V2」よりも小さいものの、閾値Vhよりは大きいため、地絡抵抗Rxが大きいと判定されることとなる。
一方、地絡抵抗Rxが大きい場合であって、対地静電容量Cxが大きい場合、図4(a)の破線に示すように、検出電圧は、対地静電容量Cxが小さい場合に比較して、遷移開始時(立ち上がり開始時)において、電圧値が低くなる。具体的には、電圧値「V11」よりも低い電圧値「V13」となる。しかしながら、徐々に増加していき、最終的には対地静電容量Cxが大きい場合と同様の電圧値を検出する。
すなわち、検出電圧は、交流周期開始の時点T0から時点T1が経過するまでにおいて、合成電圧の変化に従って電圧値が急上昇し、電圧値が「V13」となる。なお、V13は、少なくとも「V1+V2」より小さく、本実施形態では、V13<V11である。そして、時点T1の経過後(準備期間経過後)から交流周期の後半開始の時点T3が経過するまでに、電圧値が「V11」となるように、徐々に増加していく。なお、後半開始の時点T3は、前半部分と極性を反対にしただけであるので説明を省略する。
このため、地絡抵抗Rxが大きい場合であって、対地静電容量Cxが大きい場合、検出タイミング(時点T2)において検出される検出電圧の電圧値は「V13」以上となる。電圧値「V13」は、電圧値「V11」よりも小さいものの、閾値Vhよりは大きいため、地絡抵抗Rxが大きいと判定されることとなる。
ここで、図2(b)において破線で示す従来における検出電圧と比較する。なお、比較のため、図2(b)において破線で示した従来における検出電圧を、図4(a)において一点鎖線で示す。図4において一点鎖線で示すように、従来の検出電圧に比較して、本実施形態の検出電圧は、いずれの時点においても電圧値が高くなることがわかる。また、従来の検出電圧に比較して、出力された合成電圧の変化に対する追従性がよく、誤差が少ない。また、従来の検出電圧に比較して、対地静電容量Cxが大きい場合における検出電圧の波形は、対地静電容量Cxが小さい場合における波形に近くなりやすい。したがって、検出時間を短縮しても、検出誤差が少なくなる。
次に、地絡抵抗Rxが小さい場合について説明する。地絡抵抗Rxが小さい場合であって、対地静電容量Cxが小さい場合、図4(b)の実線に示すように、合成電圧の電圧値「V1+V2」となったときに、合成電圧に従って、検出電圧の電圧値も急上昇する。そして、合成電圧の電圧値「V2」となったときに、合成電圧に従って、検出電圧の電圧値が急下降する。その際、合成電圧の電圧値「V2」よりも低い電圧値「V21」に変化し、その後、徐々に増加していき最終的には、電圧値「V22」となる。なお、検出電圧の電圧値「V21,V22」は、共に合成電圧の電圧値「V2」よりもはるかに低く、かつ、閾値Vhよりも小さい値となる。
すなわち、検出電圧は、交流周期開始の時点T0から時点T1が経過するまでにおいて、合成電圧の変化に従って電圧値が急上昇し、電圧値が「V20」となる。時点T1の経過後(準備期間経過後)に、合成電圧の変化に従って電圧値が急下降し、電圧値が「V21」となり、その後、交流周期後半開始の時点T3が経過するまでに、電圧値が「V22」となるように、徐々に増加していく。なお、後半開始の時点T3以降は、前半部分と極性を反対にしただけであるので説明を省略する。
以上のように、地絡抵抗Rxが小さい場合であって、対地静電容量Cxが小さい場合、時点T1以降から後半開始の時点T3を経過するまで、閾値Vhよりも小さい値となる。このため、時点T1(準備期間経過後)から後半開始の時点T3までのいずれの時点で検出しても、地絡抵抗Rxが小さく、漏電していると判定することとなる。
一方、地絡抵抗Rxが小さい場合であって、対地静電容量Cxが大きい場合、図4(b)の破線に示すように、合成電圧の変化に対して、わずかに遅れて追従するように、検出電圧も変化する。
すなわち、検出電圧は、交流周期開始の時点T0から時点T1が経過するまでにおいて、合成電圧の変化に従って電圧値が急上昇し、電圧値が「V30」となる。電圧値が「V30」は、電圧値「V20」よりも小さい値である。なお、電圧値が低くなるのは、対地静電容量Cxが大きく、対地静電容量Cxへの充電量が多いからであると考えられる。
そして、検出電圧は、時点T1の経過後(準備期間経過後)に、合成電圧の変化に従って電圧値が下降する。このとき、対地静電容量Cxが大きい場合の検出電圧は、対地静電容量Cxが小さい場合の検出電圧に比較して、緩やかに下降することとなる。なお、緩やかに下降するのは、対地静電容量Cxが大きく、対地静電容量Cxからの放電の影響によるものと考えられる。
その後、対地静電容量Cxが大きい場合の検出電圧は、対地静電容量Cxが小さい場合の検出電圧と同じ値となると、対地静電容量Cxが小さい場合の検出電圧と同様に、交流周期の後半開始の時点T3が経過するまでに、電圧値が「V22」となるように、徐々に増加していく。なお、後半開始の時点T3以降は、前半部分と極性を反対にしただけであるので説明を省略する。
このように、対地静電容量Cxが大きい場合における検出電圧は、時点T1からの一定期間だけ対地静電容量Cxが小さい場合に比較して、電圧値が高くなる傾向がある。しかしながら、対地静電容量Cxが大きい場合における検出電圧の電圧値は指数関数的に減少するため、対地静電容量Cxが小さい場合に比較して電圧値が高くなる傾向はすぐに解消され、その後は、対地静電容量Cxが小さい場合と同様の波形となる。このため、準備期間経過後から一定期間経過した後のタイミング(時点T2,T5)に、検出電圧を取得することにより、対地静電容量Cxが大きい場合であっても、地絡抵抗Rxが小さいということ、すなわち、漏電していることを適切に判定することができる。
ところで、漏電しているか否かを適切に判定するためには、電源部54などの動作確認が必要となる。すなわち、電源部から電圧が正常に出力されていることが、漏電判定の前提となる。漏電判定装置50の動作確認を行う場合、一般的には擬似的に漏電させて、検出電圧の電圧値と閾値との比較により、動作確認が行われていた。
しかしながら、上述したような合成電圧である場合、単純な閾値との比較では、第2電源54bはともかく、第1電源54aが正常に動作しているか否かを判定することは困難であった。そこで、本実施形態では、以下のように構成している。
まず、図1に基づいて擬似的に漏電させる疑似漏電回路55について説明する。疑似漏電回路55は、第2接続点M2とグラウンドG1との間の電気経路L3の通電及び通電遮断を切り替えるスイッチ部としての半導体スイッチ55aと、半導体スイッチ55aに直列接続されている分圧抵抗55bと、を有する。
次に、制御部53が実行する動作確認処理について図5に基づいて説明する。制御部53は、車両のシステム始動時や所定期間経過時などに、動作確認処理を開始する。
動作確認処理を開始すると、制御部53は、動作確認期間を設定し(ステップS101)、疑似漏電回路55の半導体スイッチ55aをオンさせる(ステップS102)。すなわち、第2接続点M2とグラウンドG1との間を通電させて、疑似的に漏電させる。動作確認期間は、システムメインリレーSMRがオフされ、ノイズ源となり得るインバータ30から電気的に接続されている期間に設定されることが望ましい。
そして、制御部53は、動作確認期間において、電源部54から合成電圧を出力させて、A/D変換部52を介して、検出電圧を取得する(ステップS103)。制御部53は、取得した検出電圧の波形形状に基づいて電源部54や回路部51等が正常に動作するか否かを判定する(ステップS104)。検出電圧の波形形状とは、検出電圧の高低の変化態様を指す。
ここで、図6に基づいて、検出電圧の波形形状に基づく動作確認について詳しく説明する。電源部54や回路部51等が正常に動作する場合、検出電圧は、図6(a)に示すような波形形状となり、複数の変曲点が生じる。すなわち、交流周期開始時において、電源部54から電圧「V1+V2」が印加されたとき、1つめの変曲点が生じる(時点T11)。次に、電源部54から電圧「V2」のみが印加されたとき、2つめの変曲点が生じる(時点T12)。その後、検出電圧が急激に低下した後、再び増加に転じる。これにより、3つ目の変曲点が生じる(時点T13)。
その後、電源部54から電圧「-(V1+V2)」が印加されたとき、4つめの変曲点が生じる(時点T14)。次に、電源部54から電圧「-V2」のみが印加されたとき、5つめの変曲点が生じる(時点T15)。その後、検出電圧が急激に上昇した後、再び低下に転じる。これにより、6つ目の変曲点が生じる(時点T16)。以降、交流周期ごとに、6つの変曲点が生じることとなる。
一方、第1電源54aが正常に動作していない場合(第1パルス信号が出力されない場合)には、図5(b)に示すような波形形状となる。すなわち、交流周期開始時において、電源部54から電圧「V2」のみが印加されたとき、1つめの変曲点が生じる(時点T11)。次に、電源部54から電圧「-V2」のみが印加されたとき、2つめの変曲点が生じる(時点T15)。すなわち、第1パルス信号が出力されないため、変曲点の数が減ることがわかる。なお、第2電源54bが正常に動作していない場合も同様に、変曲点の数が減る。
そこで、制御部53は、ステップS104において、検出電圧から変曲点を特定し、1交流周期における変曲点の数が所定数(本実施形態では、6点)であるか否かを判定し、所定数である場合には、正常であると判定する。なお、変曲点の特定方法は任意の方法でよく、例えば、二階微分することにより、求めてもよいし、電圧値の増減が変化した時点を変曲点としてもよい。なお、複数の交流周期で取得した変曲点の数を平均し、平均値に基づいて判定してもよい。
そして、ステップS104の判定結果が肯定の場合、すなわち、正常に動作している場合、制御部53は、正常である旨の信号を出力する(ステップS105)。一方、ステップS104の判定結果が否定の場合、すなわち、正常に動作していない場合、制御部53は、異常である旨の信号を出力する(ステップS106)。そして、動作確認処理を終了する。
上記実施形態に示す構成により、以下に示すような有利な効果を有する。
疑似漏電回路55により、擬似的に地絡させることにより、漏電判定装置50が正常に動作するか否かを判定することができる。また、動作判定部としての制御部53は、検出電圧の波形形状に基づいて、電源部54が正常に動作しているか否かを判定している。これにより、電源部54は、周期的に、予め決められた時間、第1電圧(V1+V2)を出力してから、第1電圧よりも電圧値が低い第2電圧(V2)を出力するように構成されていても、第1電圧及び第2電圧がそれぞれ正常に出力されているか否かを適切に判定することができる。
電源部54が、周期的に、予め決められた時間、第1電圧を出力してから、第1電圧よりも電圧値が低い第2電圧を出力するように構成されている場合、正常に合成電圧が出力されるのであれば、検出電圧の波形形状は、それに伴い所定数(上記実施形態では6つ)の変曲点が生じることとなる。このため、制御部53は、変曲点の数に基づいて検出電圧の波形形状を特定し、正常に動作しているか否かを判定している。これにより、波形形状を適切に特定し、動作確認を適切に行うことができる。
インバータ30は、ノイズ源となり得る。このため、動作確認期間を、電源経路からインバータ30が遮断されている間に設定した。これにより、ノイズを少なくし、正常に動作するか否かを適切に判定することができる。
第2接続点M2は、検出抵抗R1と、カップリングコンデンサC1との間に設定される。これにより、カップリングコンデンサC1よりも電源経路L1,L2の側に疑似漏電回路55を接続する場合に比較して、疑似漏電回路55の耐圧を低くすることができる。
なお、第1実施形態では、分圧抵抗55bに対して並列にコンデンサが接続されていない。このため、電源部54から出力された合成電圧の波形形状と、検出電圧の波形形状とを対応させやすくなっている。このため、検出電圧の波形形状から、合成電圧を予測しやすくなっている。
対地静電容量Cxが大きい場合、交流電圧を出力しても、対地静電容量Cxへの充電の影響により、検出電圧の時間変化が緩やかになる。すなわち、CR時定数が大きくなる。そこで、検出タイミング(時点T2,T5)よりも前に設定される準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)において出力する交流電圧の電圧値の絶対値「V1+V2」を、検出タイミングにおいて出力する交流電圧の電圧値の絶対値「V2」よりも大きくした。そして、検出タイミング(時点T2,T5)より前の準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)において、短期間で対地静電容量Cxへの充電を行うこととした。
これにより、対地静電容量Cxの影響を抑制することができ、対地静電容量Cxによる検出誤差を抑制して、判定精度を向上させることができる。また、準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)中に、交流電圧の絶対値を大きくすることにより、従来方法のように、一定電圧を印加し続ける場合に比較して、対地静電容量Cxへの充電を素早く完了させて、その影響を取り除くことができる。したがって、検出タイミング(時点T2,T5)を早期に設定することができ、電圧値を大きくする準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)を設けない場合に比較して、判定時間を短縮することができる。
準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)中に、対地静電容量Cxへの充電が行われても、準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)が開始してから検出タイミング(時点T2,T5)が終了するまでの間で交流電圧の極性が変化する場合、対地静電容量Cxが放電してしまい、充電の意味がなくなる。そこで、準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)が開始してから検出タイミングが終了するまでの間、交流電圧の極性を変化させることなく維持することで、対地静電容量Cxの充電状態を維持し、対地静電容量Cxによる検出誤差を抑制することとしている。
地絡抵抗Rxが小さい場合であって、対地静電容量Cxが大きい場合、準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)の経過後、対地静電容量Cxによる放電により、検出電圧の絶対値が大きくなる場合がある(図4(b)の破線で示す)。そこで、制御部53は、準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)の終了後から所定時間経過後に検出電圧を取得することとし、対地静電容量Cxによる放電の影響を抑制し、検出誤差を抑制することとしている。
電源部54は、第1の矩形波の電圧(第1パルス信号)を出力する第1電源54aと、第2の矩形波の電圧(第2パルス信号)を出力する第2電源54bと、を有する。そして、電源部54は、準備期間(時点T0~T1、時点T3~T4)において、第1パルス信号と第2パルス信号と、を重複して出力するようにした。そして、準備期間の経過後、検出タイミング(時点T2,T5)が終了するまで、第2パルス信号のみを出力するようにした。これにより、準備期間において出力する交流電圧の電圧値の絶対値を、検出タイミングにおいて出力する交流電圧の電圧値の絶対値よりも大きくすることが、簡易な回路構成で達成することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の漏電判定装置50について説明する。なお、以下では、各実施形態で互いに同一又は均等である部分には同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
図7に示すように、第2実施形態における疑似漏電回路55は、分圧抵抗55bに対して並列に接続されているコンデンサ55cを有する。このコンデンサ55cは、電源経路に接続される対地静電容量Cxよりもその容量が大きくなるように構成されている。なお、対地静電容量Cxは、車両の種類によりその容量がほぼ決まっており、その容量よりもコンデンサ55cの容量は大きくなるように定められている。
具体的には、コンデンサ55cの容量及び分圧抵抗55bの抵抗値が、電源部54から合成電圧が正常に出力された場合において、図8(a)に示すように、検出電圧が矩形波(方形波)となるように設定されている。
これにより、電源部54から合成電圧が正常に出力された場合、検出電圧を時間で微分すると、図8(b)に示すように、電圧の極性が変化する時点においてのみ、動作判定用の閾値以上の微分値(dV/dt)を取り得ることとなる。
一方、電源部54が正常に動作しない場合、例えば、第1パルス信号が正常に出力されていない場合、コンデンサ55cが充電されないため、検出電圧は、図9(a)に示すような三角波形状を有することとなる。
このため、図9(a)に示すような三角波形状の検出電圧を時間微分すると、図9(b)に示すように、所定期間以上、動作判定用の閾値以上の微分値(dV/dt)を取り得ることとなる。
そこで、第2実施形態の制御部53は、動作確認処理のステップS104において、交流周期において取得された検出電圧を時間微分し、微分値の変化を示すタイムチャートを取得する。そして、制御部53は、動作判定用の閾値以上の微分値が、所定期間継続している場合には、異常が生じていると判定し、動作判定用の閾値以上の微分値が、所定期間継続していない場合には、正常であると判定する。
第2実施形態では、以下に示す有利な効果を有する。
疑似漏電回路55は、分圧抵抗55bに対して並列に接続されているコンデンサ55cを有する。このコンデンサ55cにより、検出電圧からノイズを取り除くことができ、判定精度を向上させることができる。
また、コンデンサ55cは、電源経路に接続される対地静電容量Cxよりもその容量が大きくなるように構成されている。これにより、対地静電容量Cxへの充電が完了する前に、疑似漏電回路55のコンデンサ55cの充電が完了してしまうことがなくなり、ノイズを確実に吸収することができる。
また、コンデンサ55cの容量及び分圧抵抗55bの抵抗値は、電源部54から合成電圧が正常に出力された場合において、検出電圧が矩形波(方形波)となるように設定されている。これにより、制御部53は、検出電圧の波形形状を時間微分し、その微分値が予め決められた期間、動作判定用の閾値を越えたか否かにより、電源部54が正常に動作しているか否かを判定することができる。このため、変曲点を数える場合に比較して、計算が簡単となり、判定を容易に行うことができる。
(他の実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。
・上記実施形態において、電源部54が出力する交流電圧は、極性が変更するものであったが、極性を変更しないものであってもよい。例えば、出力(電圧印加)と停止を繰り返す交流電圧であってもよい。
・上記実施形態において、準備期間の終了から一定期間経過後に、検出タイミングを設定したが、準備期間の終了直後に検出タイミングを設定してもよい。この場合、準備期間において出力される交流電圧の電圧値や準備期間の長さを適切に調整すればよい。
・上記実施形態において、交流電圧の波形は、上述した波形に限らない。検出タイミングにおける電圧値の絶対値に比較して、準備期間における電圧値の絶対値が大きくなるのであれば、任意に変更してもよい。
・上記実施形態において、「直流電源」として組電池10を用いたが、当該構成に代えて、「直流電源」として単電池を用いてもよい。
・上記実施形態において、漏電の有無を判定する高電圧回路は「直流電源(電圧源)」を有するものであればよく、上記実施形態の回路に限定されるものではない。
・上記実施形態において、準備期間の開始タイミングは、交流周期の開始タイミングと同じにしたが、検出タイミングよりも前であれば、任意に変更してもよい。例えば、第2パルス信号の出力開始から所定時間経過した時点において、第1パルス信号と第2パルス信号とを重複して出力してもよい。
・上記実施形態において、電源部54は、第1電源54aと、第2電源54bを有していたが、任意電圧波形印加回路にて、第1パルス信号と第2パルス信号の合成電圧を出力させるように構成してもよい。
・上記第1実施形態では、検出電圧の波形形状における変曲点の数により、正常であるか否かを判定したが、この方法に限定するものではない。例えば、検出電圧の波形形状の傾きが、上昇傾向にあるか、下降傾向にあるかを判別し、上昇傾向から下降傾向に変化した数に基づいて判定してもよい。また、傾きが変化した点に基づいて判定してもよい。また、上昇傾向の期間及び下降傾向の期間を特定し、それらを正常な波形形状における各期間と比較してもよい。また、上昇傾向となる回数、及び下降傾向となる回数について、出力電圧と検出電圧とでそれぞれ特定し、それらを比較してもよい。
・上記第1実施形態において、組電池10の電圧を測定するとともに、動作確認を行ってもよい。