以下、本実施形態における異音検査方法について説明する。なお、以下製品としてはモータを例として挙げ、モータの生産時における動作音の検査について説明するが、製品はモータに限定するものではない。
(良品基準データの生成)
検査対象製品(ここではモータT)に対して良品(以下、良品モータ10という)か否かの判断の基準とする良品基準データは、品質管理基準に関する所定の訓練を行った人間の聴覚によって良品として判断(問題無しと判断)された製品の動作音から生成する。良品基準データは、図1に示す異音検査装置100が良品モータ10の動作音データ(良品動作音データ)を加工することにより得られる。良品モータ10とは、人間の聴覚により良品として判断されたものであり、良品モータ10を動作させることにより生じた動作音が良品動作音になる。良品動作音はマイクロフォン12によって取得され、マイクロフォン12からアナログ電気信号としてA/D変換回路14へ出力される。A/D変換回路14は、所定のサンプリング周波数および量子化ビット数によってデジタル化された良品動作音データ(良品のデジタル動作音データ)を生成する。
ここで、A/D変換の例としては、量子化ビット数16で、サンプリング周波数を22.05kHz(音楽CD等のサンプリング周波数の半分の周波数)とし、本実施形態では約2秒間のサンプリングを良品動作音に対して実行する場合を説明する。なお、良品動作音を取得する約2秒間という時間については、後述する処理装置20の性能等を勘案して適宜決定できるものであり、約2秒間に限定するものではない。
A/D変換回路14によってデジタル化して生成された良品動作音データは、補助記憶装置又は主記憶装置からなる記憶装置16に記憶される。なお、良品動作音データは、人間の聴覚によって良品と判断された複数の良品モータ10に対して取得されるため、記憶装置16には複数個の良品動作音データを記憶させることができる。記憶装置16から良品動作音データが処理装置20に出力され、処理装置20によって良品動作音データから良品基準データが生成される。処理装置20は、ROM,RAM,CPU等から構成されている。
次に、処理装置20における良品基準データの生成について説明する。まず、1個の良品モータ10の良品動作音データにおける処理について説明する。上記のように良品動作音データは、約2秒間のデータを22.05kHzでサンプリングしているため、44288個のサンプルデータを有している。
処理装置20は、図2に示すように、1個の良品動作音データにおける44288個のサンプルデータについて、時系列順に並んだ256個のサンプルデータを1つのブロックとし、173個のブロック(時系列順に所定範囲で区切ったブロック)に分割する。
次に処理装置20は、動作音データの加工を行う。具体的には図2に示すように、処理装置20は先に1個の良品動作音データ(サンプルデータ)から分割した173個のブロックについて、所定区間で分割した区間データを生成する。本実施形態における区間データは、2つの連続するブロックを繋げて生成されるが、連続する2つの区間データにおいてブロックの一部を重複させている。具体的には、処理装置20は、ブロック1とブロック2を繋げて区間データ1を生成し、ブロック2とブロック3を繋げて区間データ2を生成し、ブロック3とブロック4を繋げて区間データ3を生成し、・・・ブロック171とブロック172を繋げて区間データ171を生成し、ブロック172とブロック173を繋げて区間データ172を生成する。このように前後に連続する区間データにおいて、先の区間データの最終ブロックと次の区間データの先頭ブロックを重複させている。
本実施形態においては、1ブロックあたり256個のサンプルデータが存在しているので、生成された区間データは512個のサンプルデータを有することになる。このように1つの区間データ内のサンプルデータ数を512という2のn乗としたことにより、後述の高速フーリエ変換の処理速度の面で都合がよいというメリットがある。ただし、良品動作音データの取得時間、1ブロックのサンプルデータ数、1区間データのブロック数およびサンプルデータ数は本実施形態で説明した具体的数値に限定されるものではない。また、このように区間データを構成する2つのブロックのうちの1つのブロックを重複させて(所定割合(ここでは50%)の時系列区間でブロックを重複させて)区間データを構成することによって、後述する工程である窓関数を乗じる際の波形の取りこぼしを防ぐことができる。
次に、図3に示すように処理装置20は、それぞれの区間データに対して窓関数を乗じる(窓関数処理)。このような窓関数処理は、フーリエ変換(周波数解析)時に一般的に行うものであり、各区間データに窓関数を乗じることにより各区間データの時間軸上の両端部を0にして、フーリエ変換の際に連続した波形として処理することにより、周波数解析を容易にするという効果がある。窓関数には様々な種類のものがあるが、本実施形態ではハニング窓を採用している。ただし、窓関数としてはハニング窓に限定するものではない。
次に、図4に示すように処理装置20は、窓関数を乗じた各区間データに対してフーリエ変換を行う。本実施形態における処理装置20におけるフーリエ変換は、高速フーリエ変換(FFT)を行うため、以下、本実施形態においてはフーリエ変換のことを単にFFTと称する。1つの区間データKDがFFTされた結果を周波数特性STとすると、周波数特性STは、離散的な所定周波数毎の各成分の特性値を持つ。例えば、周波数分解能Δfを100Hzとすると、100Hz,200Hz,300Hz,・・・のように100Hz毎の各成分の特性値を持つことになる。
本実施形態では、サンプリング周波数が22.05kHzでサンプリング数が512であるので、周波数分解能Δfは約86.13Hzであり、周波数特性STはサンプリング数512の半分である256個の特性値を持つ。すなわち、本実施形態における周波数特性STは、86.13Hz(Δf),172.27Hz(Δf*2),258.40Hz(Δf*3),344.53Hz(Δf*4),・・・,22050.00Hz(Δf*256)のそれぞれの周波数について、各周波数の成分であるV1,V2,V3,V4,・・・,V256のように特性値を256個持つことになる。この周波数特性STを周波数f、特性値STfで表すと図5のような表になる。なお、以下、所定の周波数特性STにおいて周波数fに対する特性値STfを、SB(ST,f)と表すこととする。例えば、周波数fが258.40Hz(Δf*3)の場合、SB(ST,Δf*3)は、周波数Δf*3の成分である特性値V3を意味する。
上述の通り、処理装置20により1つの動作音データから172の区間データKDが生成され(172の区間データKDはKD[1]~KD[172]と表現する)、各区間データについて処理装置20がFFTを行い、FFTの結果が172の周波数特性STに格納される(172の周波数特性STはST[1]~ST[172]と表現する)。
次に処理装置20は、1個の良品モータ10について172の周波数特性ST全てを対象として、各周波数(Δf,Δf*2,Δf*3,Δf*4,・・・,Δf*256)成分の特性値に対して統計的演算を行って、所定周波数毎の特性値における「平均値」「標準偏差値」「最大値」「最小値」「相対分布幅値(最大値と最小値の差を平均値で除した値)」「相対標準偏差値(標準偏差値を平均値で除した値)」を求める。これらの統計値のうち所定周波数毎の特性値における「平均値Avg」「相対分布幅値RtRg」「相対標準偏差値RtStD」の3つのことを評価指標統計値と呼ぶことにする。「最大値」「最小値」「標準偏差値」は評価指標統計値としては用いないが、評価指標統計値を算出する上で必要であるため算出する。
処理装置20における評価指標統計値の算出工程について以下に説明する。例として、1個目の良品モータ10における周波数特性ST1について検討する。処理装置20は、図6に示すように、各周波数がΔf,Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256において一番低い周波数である周波数特性STのΔfに注目し、SB(ST1[1],Δf),SB(ST1[2],Δf),SB(ST1[3],Δf),・・・,SB(ST1[172],Δf)によって得られる「周波数Δf成分についての」172個の周波数特性ST1[1~172]を母集団とする。そして処理装置20は、この母集団に基づいて3つの評価指標統計値である平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStDを算出する。処理装置20は、他の周波数(Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256)成分についても同様にして評価指標統計値(平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStD)を算出する。
例えば1個目の良品モータ10の評価指標統計値における平均値Avgは、Avg1_Δf,Avg1_Δf*2,Avg1_Δf*3,・・・,Avg1_Δf*256となる。同様にして、評価指標統計値における相対分布幅値RtRgは、RtRg1_Δf,RtRg1_Δf*2,RtRg1_Δf*3,・・・,RtRg1_Δf*256となる。さらに同様にして、評価指標統計値における相対標準偏差値RtStDは、RtStD1_Δf,RtStD1_Δf*2,RtStD1_Δf*3,・・・,RtStD1_Δf*256となる。
すなわち、1つの良品モータ10について、評価指標統計値(平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStD)におけるそれぞれの周波数特性(評価指標統計値周波数特性値)を得ることができる。また、平均値Avgの周波数特性を平均値周波数特性AvgSTとし、相対分布幅値RtRgの周波数特性を相対分布幅値周波数特性RtRgSTとし、相対標準偏差値RtStDの周波数特性を相対標準偏差値周波数特性RtStDSTとしている。これら求められた評価指標統計値は図7のようなイメージとなる。続けて、処理装置20は、図8に示すように、良品モータ10のすべてに対する平均値周波数特性AvgST,相対分布幅値周波数特性RtRgST,相対標準偏差値周波数特性RtStDSTの算出を実行する。このようにして算出された172個の周波数特性ST(ST[1]~ST[172])から得られる良品モータ10に対する平均値周波数特性AvgST,相対分布幅値周波数特性RtRgST,相対標準偏差値周波数特性RtStDSTのことを総体的に評価指標統計値周波数特性HSTSTと称する。
以降、評価指標統計値周波数特性HSTSTは、HSTST(k,f)のように表す。ここで、kは評価指標統計値の種類を表し、Avg,RtRg,RtStDのいずれかである。fは周波数を表し、Δf,Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256のいずれかである。例えば、評価指標統計値周波数特性HSTSTのΔf*4成分の特性値の平均値であるAvg_Δf*4は、HSTST(k=Avg,f=Δf*4)と表現する。評価指標統計値周波数特性HSTSTは、例えば図9に示すような演算によって算出される。
次に良品基準データについて説明する。検査者は、RM個ある良品モータ10のそれぞれについて規定の動作をさせ、その動作音を取得し動作音データを得る。そして得られた動作音データから、RM個の良品モータ10についてそれぞれの評価指標統計値周波数特性HSTSTを求める。仮に1つ目の良品モータ10の動作音データについて説明すると、上述の通り1つの動作音データから172の区間データKD1(KD1[1]~KD1[172])が生成され、各区間データについてFFTを行い、結果が周波数特性ST1(ST1[1]~ST1[172])に格納されることになる。
これと同様にして、2つ目の良品モータ10について区間データKD2を生成し、ST2を得る。3つ目の良品モータ10について区間データKD3を生成し周波数特性ST3を得る。良品モータ10のRM個目のKDRMとSTRMまで同様のことを行う。結果として、1つ目~RM目の良品モータ10のそれぞれの動作音データを加工してRM個の区間データKD1~RM(KD1[1~172],KD2[1~172],KD3[1~172],・・・,KDRM[1~172])が生成され、RM個の周波数特性ST1~RM(ST1[1~172],ST2[1~172],ST3[1~172],・・・,STRM[1~172])が得られる。
RM個ある「172ある周波数特性ST(ST[1~172])」から、RM個の平均値周波数特性AvgST,相対分布幅値周波数特性RtRgST,相対標準偏差値周波数特性RtStDSTを求める。これら「RM個ある良品モータ10の評価指標統計値周波数特性」のことを総体的に良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRとする。
以降、良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRはHSTSTR(m,k,f)と表し、mは個別の良品モータを表す番号(1~RM)であり、kは評価指標統計値の種類を表す記号(Avg,RtRg,RtStD)であり、fは周波数(Δf,Δf*2,Δf*3,Δf*4,・・・,Δf*256)である。例えば、「3個目の良品モータの172ある周波数特性STのΔf*4成分における特性値の相対標準偏差値RtStD3_Δf*4」は、HSTSTR(m=3,k=RtStD,f=Δf*4)と表現する。良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRは、例えば図10に示すような演算によって算出される。これは先に説明した評価指標統計値周波数特性HSTSTを単純に良品群モータ全てについて求めるものである。
良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRは、図8に示すように良品基準データとしては非常に数が多くなり、処理装置20の演算能力が不足するおそれがある。このため、良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRのデータ量を削減する必要がある。そこで本実施形態における処理装置20は、図11に示すように、良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRに基づいて、その代表値である良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRの算出を行う。
良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとは、良品モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRの各k(評価指標統計値の種類)に対し、処理装置20が、それぞれの良品モータ10を対象として周波数成分毎の平均値および標準偏差値である良品群平均値AVGおよび良品群標準偏差値STDを求めたものである。具体的には、周波数Δfの平均値Avgについては、HSTSTR(m=1,k=Avg,f=Δf),HSTSTR(m=2,k=Avg,f=Δf),HSTSTR(m=3,k=Avg,f=Δf),・・・,HSTSTR(m=RM,k=Avg,f=Δf)のRM個のデータを母集団として、(平均値Avgの)良品群平均値AVGAvg_Δfと(平均値Avgの)良品群標準偏差値STDAvg_Δfの値が求められる。
これと同様にして処理装置20は各周波数成分(Δf,Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256)についても良品群平均値AVGAvg_Δfと良品群標準偏差値STDAvg_Δfを算出する。すなわち、AVGAVG_ΔfおよびSTDAVG_Δf,AVGAVG_Δf*2およびSTDAVG_Δf*2,AVGAVG_Δf*3およびSTDAVG_Δf*3,・・・,AVGAVG_Δf*256およびSTDAVG_Δf*256の値を求める。さらに、処理装置20は、各k(評価指標統計値の種類)についても同様にして良品群平均値AVGと良品群標準偏差値STDの値を求める。
本実施形態においては、以上のようにして算出された良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRをDHSTSTR(s,k,f)と表現する。sは代表評価指標統計値の統計種類(AVG,STD)であり、kは評価指標統計値の種類(Avg,RtRg,RtStD)であり、fは周波数(Δf,Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256)である。例えば「それぞれの良品モータ10の周波数Δf*2での平均値Avgについての良品群標準偏差値STDAvg_Δf*2」は、DHSTSTR(s=STD,k=Avg,f=Δf*2)と表されることになる。良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRは、例えば図12に示すような演算によって算出される。
なお、図11に示すように、良品群の平均値周波数特性AvgSTから求めた良品群平均値の周波数特性を平均値良品平均周波数特性AvgAVGSTとする。また、良品群の平均値周波数特性AvgSTから求めた良品群標準偏差値の周波数特性を平均値良品標準偏差周波数特性AvgSTDSTとする。また、良品群の相対分布幅値周波数特性RtRgSTから求めた良品群平均値の周波数特性を相対分布幅値良品平均周波数特性RtRgAVGSTとする。また、良品群の相対分布幅値周波数特性RtRgSTから求めた良品群標準偏差値の周波数特性を相対分布幅値良品標準偏差周波数特性RtRgSTDSTとする。さらに、良品群の相対標準偏差値周波数特性RtStDSTから求めた良品群平均値の周波数特性を相対標準偏差値良品平均周波数特性RtStDAVGSTとする。同じく良品群の相対標準偏差値周波数特性RtStDSTから求めた良品群標準偏差値の周波数特性を相対標準偏差値良品標準偏差周波数特性RtStDSTDSTとする。
以上のようにして良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRを構成する各特性を得ることができる。良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRは予め準備したものを異音検査装置100の記憶装置16に記憶させておくことが好ましい。なお、良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRを構成する各特性は図13に示すような構成になっている。以降、(量産工程を稼働させた際の)異音検査に用いる良品基準データとして良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRを使用する。
(異音検査方法)
続いて、異音検査装置100を用いたモータTの異音検査方法について説明する。以上に説明したように、良品基準データとしての良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRが準備された後に、検査者は異音検査装置100を用いたモータTの異音検査を行う。検査者は、検査対象であるモータTの製造ラインや検査ラインにおいてそれぞれのモータTを予め設定した同一条件で作動させ、動作音をマイクロフォン12で取得し、処理装置20が動作音データ(検査対象製品デジタル動作音データに相当する)として記憶装置16に記憶させる。先に説明した評価指標統計値周波数特性HSTSTの算出手法と同様にして、ある検査対象製品である検査対象のモータTについての172個の区間によって構成される区間データ(検査対象製品区間データに相当する)KDT(KDT[1~172])を生成し、それぞれの区間データに対して処理装置20が窓関数を乗じた後にFFTを実行し、所定周波数毎における検査対象製品周波数特性としての、ある周波数特性STT(STT[1~172])が算出される。なお、検査対象製品区間データに相当する区間データKDT(KDT[1~172])の生成においては、良品基準データの生成時に説明したブロック(段落0034を参照)と同様にして検査対象製品ブロックを得ている。
続いて処理装置20は、先に説明した評価指標統計値周波数特性HSTSTの算出方法と同様にして、図14に示すように検査対象であるモータTの周波数特性STTに基づいて、モータTの評価指標統計値周波数特性HSTSTTを算出する。以下、評価指標統計値周波数特性HSTSTTをHSTSTT(k,f)と表し、kを評価指標統計値の種類(Avg,RtRg,RtStD)とし、fを周波数(Δf,Δf*2,Δf*2,・・・,Δf*256)とする。
検査対象のモータTにおける評価指標統計値周波数特性HSTSTTが算出された後、処理装置20は、図15に示すように検査対象のモータTにおける評価指標統計値周波数特性HSTSTTと良品基準データである良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとの比較を行う。ここで、「比較」とは、評価指標統計値の種類毎に、それぞれの周波数成分の特性値の差異を統計学的標準化(いわゆるσ換算)して、最大値と二乗平均平方根値(RMS)を計算することである。例えば、平均値Avgのσ換算は(数1)の計算式に基づいて計算することができる。
図16に示した例は、評価指標統計値の中で平均値Avgについて注目し、良品基準データである良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRと「比較」したものである。より詳細には、図16に示すように、検査対象のモータTにおける評価指標統計値周波数特性HSTSTTの中の平均値Avgについて、処理装置20が「良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRの良品群平均値AVG(平均値良品平均周波数特性AvgAVGST)と検査対象のモータTの評価指標統計値周波数特性HSTSTT(平均値周波数特性AvgST)との差を、良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRの良品群標準偏差値(平均値良品標準偏差周波数特性AvgSTDST)で割る演算(σ換算)」を周波数(Δf,Δf*2,Δf*3,・・・Δf*256)毎に行ってσ値(σΔf,σΔf*2,σΔf*3,・・・,σΔf*256)を求めている。続いて処理装置20は、これら256個のσ値を母集団として平均値Avgの最大値σ(Avg)maxおよび二乗平均平方根値σ(Avg)RMSを算出する。これら平均値Avgの最大値σ(Avg)maxおよび二乗平均平方根値σ(Avg)RMSの算出は、例えば図17に示すような演算によって行われる。
処理装置20は、以上に説明した平均値Avgにおける最大値σ(Avg)maxおよび二乗平均平方根値σ(Avg)RMSの算出方法と同様にして、他の評価指標統計値である相対分布幅値RtRgと相対標準偏差値RtStDについての最大値σ(RtRg)maxおよびσ(RtStD)maxと二乗平均平方根値σ(RtRg)RMSおよびσ(RtStD)RMSの算出を行う。
良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRは、各周波数成分(Δf,Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256の成分)において評価指標統計値(平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStD)がどのような統計的特徴を有しているのかを複数の良品モータ10の動作音データに基づいて定義しているものである。このような良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRを良品基準データにすることで、検査対象のモータTの評価指標統計値周波数特性HSTSTTの評価指標の各周波数成分が良品群モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTRの評価指標の各周波数成分と比較してどの程度乖離しているのか、或いは、検査対象のモータTの評価指標の各周波数成分が良品モータ10の分布において信頼性の高い区間に位置している(これを換言すると、複数の良品モータ10と比較して統計的に差異が無い)か否かを判断することができる。
ところで、良品モータ10といえども動作音が無い訳ではなく、動作中は然るべき動作音が発生する。そして良品モータ10の動作音は全て同じ周波数特性を有しているものでも無く、それぞれの動作音には差異がある。具体的には、複数の良品モータ10に共通して特性値の低い周波数(特定周波数A)や、複数の良品モータ10の動作音において特性値にバラつきのある周波数(特定周波数B)、および、複数の良品モータ10の動作音において動作時の回転数に起因する固有周波数に比例して特性値が高くなる周波数(特定周波数C)等が存在する。
本実施形態のように各周波数成分をσ値として比較することで、特定周波数Aについては特性値が厳しく吟味され、特定周波数Bについては特性値が広い幅を以って比較され、特定周波数Cについては検査として緩い判定を行うことができる。すなわち、各周波数成分をσ値として比較することにより、特定の周波数ごとに比較の精度を調整することが可能になる。また、複数の良品モータ10を事前に選別して動作音データを取得し統計的処理を行うことによってσ値を算出しているので、検査員は特定の周波数を意識して検査をする必要が無くなり、人間の感覚に依らないモータTの良否判断が可能である。
また本来、評価指標統計値(平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStD)はそれぞれ別の概念であり、数値として同じレンジで比較することはできない。しかしながら、これら評価指標をσ換算することで正規化され、σ値として統計上の比較を同一の水準で相互に確認が可能となり、同一グラフ上にプロットして視覚的に鳥瞰することもでき、モータTの良否判断の均整化を実現できる。加えて、評価指標に新たな統計計算値を採用した場合であっても、その値をσ換算することで同様に比較を行うことが可能であり、評価手法の拡張性を高めることができる点においても好都合である。
また、上述のσ換算の例では最大値σmaxと二乗平均平方根値σRMSを求める際に各周波数成分(Δf,Δf*2,Δf*3,・・・,Δf*256の成分)をそのまま演算に用いてσ値(σΔf,σΔf*2,σΔf*3,・・・,σΔf*256)を求めたが、各周波数成分に人間の聴覚の周波数特性(人間の可聴周波数帯において0.0~1.0の係数を持つ)を乗じた後にσ値を求める演算処理をすることも可能である。このような周波数特性を乗じてからσ値を求めることで、より人間の感覚に近い評価を行うことが可能となる。
図16のσの特性値に記載されているように、検査対象のモータTの良否判断におけるσ換算を行う際には、検査対象のモータTの動作音における評価指標統計値周波数特性HSTSTTと良品モータ10の動作音における良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとの差を算出している。この差には正の値と負の値が存在することになる。評価指標統計値(平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStD)は、数値が大きいものほど動作音としての当該周波数成分のエネルギーが高いことになる。すなわち異音という意味においては、評価指標統計値の数値は小さい方が良いことになる。
そして、検査対象のモータTの評価指標統計値が複数の良品モータ(良品群モータ)10の評価指標統計値より小さい値となる可能性もあるので、検査対象のモータTの動作音における評価指標統計値周波数特性HSTSTTと良品モータ10の動作音における良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとの差が負の値になった場合には、σmaxを算出するための数値に、検査対象のモータTの動作音における評価指標統計値周波数特性HSTSTTと良品モータ10の動作音における良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとの差を0として扱うこともできる。
σmaxを算出する際に処理装置20に以上のような演算処理を実行させることにより、検査対象のモータTの動作音が静寂な場合、その評価指標は低い数値を示すことになり、良品として判断される可能性を高めることができる。
また、本実施形態における処理装置20は、σmaxを算出する際において、検査対象のモータTの動作音における評価指標統計値周波数特性HSTSTTと良品モータ10の動作音における良品モータ10の動作音における良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとの差が正の値において最大となるものを算出しているがこれに限定されない。例えば、検査対象のモータTの動作音における評価指標統計値周波数特性HSTSTTと良品モータ10の動作音における良品群モータ代表評価指標統計値周波数特性DHSTSTRとの差が絶対値として最大となるものを算出させてもよい。こうすることで、複数の良品モータ10の評価指標から動作音が大きい方向にも小さい方向にも最も逸脱しているものを検出することができる。
前述にもあるように、異音という意味では動作音が大きい方向に最も逸脱しているものの意義は大きい(符号付σで演算したσmaxが動作音の最大値の目安になる)が、絶対値σで演算したσmaxで評価すると良品モータ10に近しいか否かということが検出できる。これは検査対象のモータTが特定の動作音を発生しているか否かを区別できることにもなる。
良品モータ10の動作音から統計的に逸脱しているか否かについては、異音検査のみに使用可能なのではなく、検査対象のモータTの動作音が人間に所定の感覚が発生しているか否かをも評価できる。例えば、電気自動車の駆動用モータの場合、評価指標統計値は騒音としては低い方が良いが、運転手の運転感(ドライバビリティー)としては車両の性格に特徴付けられた動作音(通常動作時とは異なる加速時における動作音(内燃機関エンジン車でいうエンジン音や排気音))をマーケティング的に好適と判断する場合があり、製品の顧客訴求力として一定の特徴を有した動作音のモータを弁別できるようにすることが可能になる。
σを用いた判定について、良品モータ10のσRMS(図17のavg_sig_rms相当値)は1.0近傍となるが、異音のレベルが高いものほどσRMSも大きくなる。例えばσRMSが1.5以下のモータTをOK品、σRMSが2.5以上のモータTをNG品、その間の値のσRMSを有するモータTを用途限定のB級品、とする等して選別が可能となる。σmaxについても同様なことがいえる。
以上のように評価指標統計値として平均値Avgを用いる場合について説明してきたが、引き続き、評価指標統計値である、平均値Avg,相対分布幅値RtRg,相対標準偏差値RtStDのそれぞれの特性について説明する。
動作音データがFFTされて周波数特性STが生成された際、エネルギースペクトラムが集中している周波数成分を有意に区別するうえで平均値Avgは総合的指標として有用である。評価指標統計値は数値としてみた場合に大きいほど異常の度合いが高いことを示し、異音が特定の周波数帯で恒常的に発生するような状況を明確にすることができる。このように平均値Avgを用いた評価は、第一次的な検査に適している指標であることがいえる。
また、相対分布幅値RtRgによれば、特定の周波数成分が突発的に高くなるような異音の特性を有意に区別することができる。平均値Avgでは時間軸方向で特定の周波数成分の特性が希釈(平均化)されてしまうため、時間軸方向における突発的な周波数成分の高まりを区別できない。これに対して相対分布幅値RtRgでは、一度の突発的な高まりであっても検出することができ、検査対象のモータTの異音をさらに精度よく区別することが可能になる。
すなわち相対分布幅値RtRgを用いることで、ボールベアリングが不規則に回転して希に疵のある部分が接触して生じる異音や、異物が回転子と固定子の間に侵入して不規則に生じる異音等を検知することができる。また、分布幅を相対値とすることで各周波数成分の変動幅が正規化されて表されることにもなり、各周波数成分を相互に比較する際に都合が良く、またこれは動作音データを取得する際の音圧のバラつきを補正する効果があり、生産ラインで検査品質の安定化に貢献する。
相対標準偏差値RtStDを用いると、特定の周波数成分が断続的に高くなる異音の特性を有意に弁別する。平均値Avgや相対分布幅値RtRgでは時間軸方向で特定の周波数成分の断続的な変化が希釈(平均化)されてしまうため、このような特性は弁別できないが、相対標準偏差値RtStDでは標準偏差値の特徴でこの種の変動を有意に検出でき、検査対象のモータTの異音を精度よく弁別することが可能である。
相対標準偏差値RtStDによれば、回転軸が接触する箇所に傷がある場合や、回転子の回転によって発生する気流が内部構造と干渉している場合等により生じる異音を検知することができる。さらに標準偏差を相対値とすることで、各周波数成分のバラつきの程度が正規化されて表されることにもなる。上述の相対分布幅値RtRgと同様に、各周波数成分を相互に比較する際に都合が良く、動作音データを取得する際の音圧のバラつきを補正する効果があり、生産ラインでの検査品質の安定化に貢献する。
以上に説明した本発明の異音検査方法のMT法(マハラノビス・タグチ法)に対する優位な点について説明する。MT法は、多変量多数個の群を基準としてこれに対する乖離度合を判定する上では本件発明と類似する効果が期待できる。しかしながら、モータの異音のような複数の発生要因が複雑に関係しあう状況においては効果的に利用できない場合がある。
一般に、MT法においては、基準となるデータ群として変量数kとデータ個数nを用意したうえでk2の相関行列Rを算出し、その逆行列Aを元にマハラノビス距離を算出し、判定に用いる。またデータ個数nは変量数kより大きい数となる必要がある。これを本発明の区間データKDから得られる周波数特性STに当て嵌めると、変量は周波数特性STにおける各周波数成分の特性値であり、変量数kは256となる。データは周波数特性STを複数の良品モータの分を集めることによりデータ個数nを変量数k以上にすることとなる。
上述の状況においてMT法の相関行列Rは、周波数特性STの各周波数成分の相関(相互の関係性)を算出することになる。しかしながら、モータの異音においては回転周波数とその逓倍の周波数を除くと必ずしも周波数成分間の相関があるとは言えず、良品群モータの選択の仕方によっては相関行列Rの内容が大きく異なってしまい、MT法では安定した判定が行えない場合がある。本発明の手法では、各周波数成分の相互の関係性は計算の上では加味せず、各周波数成分において単純な統計的演算を行うものである。また、モータの異音の特徴に適するような評価指標統計値を設定しているため、汎用的なMT法より適切に異音検査を行うことができる。
くわえて、MT法においてはデータ個数nを大きくする必要がある。前述の通り周波数特性STをMT法で評価すると各周波数成分の相関が結果に影響を及ぼすため、一般には多数のデータ個数nを用意する必要がある。仮に本発明の事例に合わせて1つのモータにつき172の周波数特性STが得られたとしても、安定した結果を期待して良品群を設定する場合には少なくても数十の良品モータが必要となる。これに対して本発明にかかる異音検査方法では、周波数特性STの各周波数成分の相関を必要としないため、MT法と比較して少ない個数の良品群モータであっても良品基準データを構築することが可能である。よって、新規機種の量産準備のために行う試作量産、大量生産に先立って確認的に行う先行量産、および、少数個のみを限定生産するカスタム生産等において、迅速に異音検査環境を整えることができる。
前述の通り、MT法では相関行列Rとその逆行列Aを求めて演算に用いることが特徴であるが、この相関行列Rはk2であるため、本発明の周波数特性STを用いる場合にはk=256となる。2562の正則行列の各要素には256C2回(32640回)の相関計算を必要とし、さらに2562の逆行列を求める処理には多大な演算量が必要とされる。これに対して本発明にかかる異音検査方法では、周波数特性STの各周波数成分毎に対して単純な統計的演算を行うことによって評価指標統計値を求め、それらをまとめて代表値とし、比較を行う。このような手法の採用により、MT法と比較してはるかに少ない必要演算量にすることができる。
また、代表値を得た後には、その元となった評価指標統計値のデータは不要になるため、実際の異音検査を行う際には主記憶装置に格納しておく必要が無く、MT法の相関逆行列の演算に必要な容量より少ない主記憶装置で運用が可能となる。このように、比較の基準となる良品群のデータを準備するまでに必要な演算量(準備演算量)や主記憶容量を大幅に簡素化することができ、モータ個別の制御システム(コンピュータ)の記憶装置に上述の異音検査方法を実行させることが可能な異音検査プログラムPGMを組み込み、モータ単独で自身の異音検査を行えるようにした異音検査機能付モータ200を提供することも可能になる。以下、異音検査方法そのものを独立した機能として組み込まれた異音検査機能付モータ200について説明する。
上記の異音検査機能付モータ200は、図18に示すように、電機本体DHと、電機本体DHの動作を制御する制御部30を具備している。制御部30は、電機本体DHを駆動させる駆動部32、音響ピックアップとしてのマイクロフォン12、外部と通信を行う通信部34、記憶装置36およびこれらの動作を制御するCPU38を有する。なお、音響ピックアップはマイクロフォン12に限定されるものではない。記憶装置36には以上に説明した異音検査方法をCPU38(コンピュータ)に実行させることが可能な異音検査プログラムPGMが格納されている。
このような異音検査機能付モータ200によれば、電機本体DHが自身の動作音データを取得可能であり、記憶装置36に良品基準データを格納可能であり、取得した電機本体DH自身の動作音データと記憶装置36に格納されている良品基準データとを比較して電機本体DH自身の動作音に対してOK/NG判定することができる(以下、自己診断という)。このような自己診断を定期的に行い、異常の有無を通信部34から異音検査機能付モータ200の外部(例えば後述する統括制御システム(図示はせず))へ通知することが可能である。加えて、通信部34を介して異音検査機能付モータ200の外部へ異常の有無を通知する以外に、電機本体DH自身の動作音に対してNGを判定した場合にフェールセーフ的な挙動として駆動部32を制御して電機本体DHの動作を停止あるいは出力低減する等も可能である。
また、統括制御システムが、トリガーとしての自己診断の実行指令を送信し、通信部34から受信したトリガーに基づいて異音検査機能付モータ200のCPU38に異音検査プログラムPGMを実行させるようにしてもよい。CPU38が異音検査プログラムPGMを実行した後、CPU38は通信部34から異常の有無(自己診断結果)を電機本体DHの外部へ通知することも可能である。このように、記憶装置36に異音判定の基準データとして良品基準データを格納した異音検査機能付モータ200によって、良品基準データに基づいた電機本体DH自身の動作中の異音の検出と、それに応じた応答(フェールセーフ・外部への通知・外部からの自己診断指示に対する結果の通知)が可能な自己診断機能を実現することができるのである。
上述の自己診断における異音検査の基準となるデータとして良品基準データを記憶装置36に格納する以外に、上述の良品基準データ以外のものを異音判定の基準データとして採用することで異なる機能を実現することもできる。一般的に電機本体DHは、負荷に接続されて動作する際には、無負荷状態とは異なった動作音を発する。電機本体DHの筐体や回転軸に対する応力や負荷から伝達される振動等が影響するからである。当然ながら、電機本体DHからは「負荷の接続の有無」や「接続されている負荷がどのような状態であるか」ということは把握することはできない。電機本体DHとその外部にある負荷との総体(運転機械)を全体的に制御する統括制御システムが全体の状況を把握して通信部34を通して異音検査機能付モータ200に指令を行うといった構成が考えられる。
このような運転機械としての構成において前述の「動作音の自己診断」は、電機本体DHが運転機械に組付けられた際には行うことができない。何故ならば負荷が接続された状態での異音判定の基準データが存在せず良品基準データをそのまま使用することができないからである。この初期の状態において、統括制御システムまたは駆動部32およびCPU38は、電機本体DHの負荷の状態を想定可能な範囲内で複数段階に変化させながらそれぞれの状態において動作音データを取得する。この際には当該運転機械の動作音に精通した聴覚検査員が動作音を傾聴し異音が無いことを確認することが好ましい。
CPU38が前述の複数の電機本体DHの動作音データを取得後、統括制御システムは、取得した複数の動作音を元にCPU38に異音判定の基準データの作成を指令する。動作音データから基準データを作成する方法は前述の「良品群モータ評価指標統計値周波数特性HSTSTR」を算出する方法と同様である。このようにして「負荷の状態」と「その負荷の際の動作音を元に作成した基準データ」とを紐づけした複数の基準データを記憶装置36に格納する。以降、統括制御システムはCPU38に対して通信部34を通じて「電機本体DHの始動」を指令して「現在の負荷の状態」の通知と「自己診断の実施」を指令し、CPU38は通知された現在の負荷に紐づけされた基準データを用いて電機本体DHの動作音について異常の有無を確認し、統括制御システムへ通信部34を通じて結果を通知する。このように、特定の運転機械環境における異音判定の基準データをその環境において実地に取得しその基準データに基づいて異音判定を行うことにより、精度の高い異常の有無の確認が実現できるのである。
しかしながら、運転機械の負荷が動作音データを取得した想定の範囲外となった場合には、自己診断が良好に機能しないことになる。その場合には、その時点での負荷において、統括制御システムは異音検査機能付モータ200に対して通信部34を通じて現在の電機本体DHの負荷の状態を通知し、新規に電機本体DHの動作音データを取得してこの負荷における基準データの作成を指令する。このような想定を逸脱した負荷状態の場合には、共振等で発振的な異常振動が発生し急速に破壊モードへ移行することがあるため、電機本体DHの動作音から新規に基準データを急遽生成する必要が生じる。このとき統括制御システムは、電機本体DHのCPU38に対し、急遽生成された基準データに基づいた自己診断実施の指令を出す。
発振的な異常振動等を検知して異音検査自己診断の結果としてNGと判定した場合には、通信部34を通じて電機本体DHからのその旨の通知を統括制御システムが受信する。そして統括制御システムは、電機本体DHのCPU38に対して電機本体DHの出力を落とす旨を指令したり、負荷を切り離す等して運転機械をセーフモードへ移行するよう制御することになる。異常振動が自己診断でNGとならない場合には、統括制御システムは穏やかに電機本体DHの負荷を制御して運転機械の動作継続に努めることになる。
このような異音検査機能付モータ200において、コストを抑えるためには制御部30のCPU38の性能はなるべく低いものを採用し、また記憶装置36の容量もなるべく少ないものを採用する。いうまでもなく、この種の組込み用途で採用されるCPU38や記憶装置36は、一般的なパーソナルコンピュータの性能と比較すると圧倒的に低性能で少容量である。
以上に説明した異音検査機能付モータ200によって新規に動作音データを取得して基準データの作成において、MT法のような準備演算量が大きな方法であると、電機本体DHの制御部30に採用されるようなCPU38や記憶装置36では処理に遅延を生じてしまう可能性があり、異音検査機能付モータ200の実現を困難にしてしまう。その点、本発明の方法では準備演算量が少ないので、より低性能なCPU38がより少容量の記憶装置36を以って高速に処理可能であるため、異音検査機能付モータ200をより低コストで実現できるという有利な作用がある。
以上本発明において好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明の技術的範囲は以上に示した実施形態に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
例えば、以上の実施形態においては、異音検査方法を異音検査機能付モータ200のCPU38に実行させることを可能にした異音検査プログラムPGMを異音検査機能付モータ200の記憶装置36に格納した形態について説明しているが、この形態に限定されるものではない。異音検査プログラムPGMは、統括制御システムや電機本体DHに接続可能なパーソナルコンピュータ(図示はせず)の記憶装置に格納することもできるし、ネットワークストレージ(図示はせず)にダウンロード可能な状態で格納することもできる。さらには、統括制御システムやパーソナルコンピュータが読み出し可能な記録媒体に格納することもできる。