JP7229827B2 - 高炭素鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
まず、本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法で製造される鋼板の成分組成について説明する。C以外の元素について、下記成分組成は本実施形態における一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。下記成分組成における「%」はいずれも「質量%」を意味する。
Cは、鋼板の強度を確保するうえで重要な元素である。所要の鋼板強度を確保するため、C含有量の下限を0.70%以上とする。C含有量が0.70%未満では、鋼板の焼入れ性が低下し、高硬度部品としての強度が得られない。C含有量の下限は、好ましくは0.55%以上である。しかし、C含有量が過剰になると、鋼板の靭性や加工性を確保するための熱処理に長時間を要することとなる。そのため、C含有量の上限を1.10%以下とする。C含有量の上限は、好ましくは1.00%以下である。
Siは、固溶強化および焼戻し軟化抵抗の増大による、最終製品の強度の向上に有効な元素である。このような効果を得るため、Si含有量の下限は、好ましくは0.001%以上である。しかし、Si含有量が過剰になると、固溶強化作用によりフェライトが過度に硬化し、鋼板の加工時に割れを発生させる原因となる。また、鋼板の製造過程で鋼板表面におけるスケール疵の発生を助長し、鋼板の表面品質を低下させる原因にもなる。そのため、Si含有量の上限は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは0.5%以下である。
Mnは、鋼の脱酸剤として作用するとともに、焼入れ性の向上に有効な元素である。このような効果を得るため、Mn含有量の下限は、好ましくは0.40%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。しかし、Mn含有量が過剰になると、熱延鋼板の硬度が高くなりすぎ、冷間圧延が困難となる。そのため、Mn含有量の上限は、好ましくは2.0%以下であり、より好ましくは1.5%以下である。
Pは、固溶強化元素であり、鋼板の高強度化に有効な元素である。しかし、P含有量が過剰になると、鋼板の靭性を低下させる。そのため、P含有量の上限は、好ましくは0.03%以下であり、より好ましくは0.02%以下である。P含有量の下限を規定する必要は特にない。しかし、過度にP含有量を低減することは鋼の精錬コストの上昇を招くため、P含有量の下限は0.005%以上としてもよい。
Sは、鋼中に非金属介在物を形成し、鋼板の加工性や熱処理後の鋼板の靭性を低下させる。そのため、S含有量の上限は、好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.004%以下である。S含有量の下限を規定する必要は特にない。しかし、過度にS含有量を低減することは鋼の精錬コストの大幅な上昇を招くため、S含有量の下限は0.0001%以上としてもよい。
Alは、鋼の脱酸剤として作用するとともに、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定し、鋼板の冷間加工性を向上させる元素である。このような効果を得るため、Al含有量の下限は好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは0.005%以上である。しかし、Al含有量が過剰になると、鋼中における介在物となるAl2O3が過剰に生成し、鋼板の冷間加工性が劣化するおそれがある。そのため、Al含有量の上限は、好ましくは0.060%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。
Niは、鋼の焼入れ性を改善するとともに、低温靭性の向上に有効な元素である。このような効果を得るため、Ni含有量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。また、Niは、鋼にCuを含有させた場合にCuに起因して生じる溶融金属脆化の悪影響を打ち消す作用も有する。鋼にCuを含有させる場合、Cuに起因する溶融金属脆化の発生を抑制するには、Cu含有量と同量程度のNiを含有させることが有効である。しかし、Niは、鋼の合金元素として高価であり、過度に含有させると鋼板のコストの増加を招くため、Ni含有量の上限は、好ましくは0.2%であり、より好ましくは0.15%である。
Crは、鋼の焼入れ性および焼戻し軟化抵抗の改善に有効な元素である。このような効果を得るため、Cr含有量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Cr含有量が過剰になると、炭化物であるセメンタイトが球状化した組織を得るための焼鈍を鋼板に施した際に、炭化物が溶解しにくくなり、鋼板の軟質化が困難となる。そのため、Cr含有量の上限は、好ましくは1.0%であり、より好ましくは0.8%である。
Moは、少量でもCrと同様に鋼の焼入れ性および焼戻し軟化抵抗の改善に有効な元素である。このような効果を得るため、Mo含有量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.05%である。しかし、Mo含有量が過剰になると、焼鈍による鋼板の軟質化が困難となり、却って焼入れ前の冷間加工性が低下するおそれがある。そのため、Mo含有量の上限は、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.3%である。
Nbは、鋼中で炭窒化物を形成し、鋼の結晶粒の粗大化の防止や靭性の向上に有効な元素である。このような効果を安定して得るため、Nb含有量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。しかし、Nb含有量が一定量以上になるとNbの効果は飽和する。そのため、Nb含有量の上限は、好ましくは0.050%以下であり、より好ましくは0.030%である。
Tiは、溶鋼の脱酸調整に用いられる元素であり、脱窒作用も有する。また、鋼板に固溶しているNを窒化物として固定するため、鋼の焼入れ性の改善を目的として鋼中にBを含有させる場合には、Tiも含有させることにより、鋼の焼入れ性の改善に必要な有効B量を確保することができる。このような効果を安定して得るため、Ti含有量の下限は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。しかし、Ti含有量が一定量以上になるとTiの効果は飽和する。そのため、Ti含有量の上限は、好ましくは0.050%であり、より好ましくは0.030%である。
Vは、Nbと同様に鋼中で炭窒化物を形成し、鋼の結晶粒の粗大化の防止や靭性の向上に有効な元素である。このような効果を安定して得るため、V含有量の下限は、好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.02%以上である。しかし、V含有量が一定量以上になるとVの効果は飽和する。そのため、V含有量の上限は、好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.2%である。
Nは、鋼中で窒化物を形成する元素である。鋼中のN含有量が過剰である場合、湾曲型連続鋳造機における鋳片の曲げ矯正時に窒化物が析出し、鋳片に割れが発生することがある。このような窒化物に起因する鋳片の割れの発生を抑制するため、N含有量の上限は、好ましくは0.01%以下であり、より好ましくは0.007%である。しかし、過度にN含有量を低減することは鋼の精錬コストの増加を招くため、N含有量の下限は、好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは0.003%以上である。
Oは、鋼中で酸化物を形成する元素である。鋼中で酸化物が凝集して粗大化すると、鋼板の延性が低下する。そのため、O含有量の上限は、0.0025%以下が好ましい。Oは少ないことが好ましいが、過度にO含有量を低減することは技術的に困難であるため、Oを0.0001%以上含有することは許容される。
本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法に適用する鋼板の溶製原料としてスクラップを用いた場合、Sn、Sb、As、Zn、Zr等の元素が不可避的不純物として混入する。本実施形態では、本実施形態に係る製造方法で製造された高炭素鋼板の特性を阻害しない範囲で、これらの元素の混入を許容する。Sn、Sb、As、Zn、Zr以外の元素についても同様である。
本発明の実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法について説明する。本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法は、素材鋼板を均熱保持する工程と、均熱保持後の鋼板を冷却する工程とを有する焼鈍工程を含んでいれば、その他の工程については鋼板の製造において一般的な工程とすることができる。
まず、上記成分組成を有する圧延用の鋼材(スラブ)を作製する。スラブは既知の任意の方法により準備することができる。スラブの作製方法としては、例えば、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造により、スラブを作製する方法が適用できる。必要に応じて、造塊または連続鋳造により得た鋳造材を分塊圧延してスラブを得てもよい。
鋼板の製造工程のうち、焼鈍工程は、通常、素材鋼板を加熱する工程、素材鋼板を均熱保持する工程、および均熱保持後の鋼板を冷却する工程を有する。本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法では、焼鈍工程のうち、素材鋼板を均熱保持する工程と、均熱保持後の鋼板を均熱保持した温度からAc1-50℃までの温度域において冷却する工程に特徴を有する。
まず、素材鋼板を加熱する。本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法では、焼鈍工程において均熱保持の前に行われる鋼板の加熱速度については、特に規定しない。しかし、バッチ焼鈍炉を使用してコイルを加熱する場合、加熱速度が大きすぎると、コイル表面からコイル内部への熱伝導が加熱速度に追いつかず、コイルの高温部と低温部との温度差が大きくなり、焼鈍むらおよびこれに起因する鋼板の硬さ(軟質化)のむらが生じるおそれがある。そのため、バッチ焼鈍炉を使用してコイルを加熱する場合、加熱速度の上限は、好ましくは100℃/h以下である。一方、加熱速度が小さすぎると生産性の低下が大きいため、加熱速度の下限は、好ましくは10℃/h以上である。
本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法において、素材鋼板を均熱保持する工程では、加熱後の素材鋼板をAc1~Ac1+60℃の温度範囲で、5~40時間保持する。均熱保持する温度(以下「均熱保持温度」という。)をAc1未満とした場合、および均熱保持温度をAc1+60℃以下とし且つ均熱保持する時間(以下「均熱保持時間」という。)を5時間未満とした場合には、パーライトが残存した組織またはセメンタイトが球状化した球状炭化物の成長が不足して球状炭化物が微細に分散した組織となるため、鋼板の軟質化が不十分となる。均熱保持温度をAc1+60℃を超える温度とした場合、および均熱保持温度をAc1以上とし且つ均熱保持時間を40時間を超える時間とした場合、炭化物の鋼中への溶解が進行し、オーステナイト相への逆変態が過度に進行し、その後の冷却でパーライト(再生パーライト)が生成して、鋼板の軟質化が不十分となる。また、均熱保持時間を、40時間を超える時間とした場合、鋼板の生産性が低下する。
Ac1(℃)=723-10.7(%Mn)-16.9(%Ni)+29.1(%Si)+16.9(%Cr) …(1)
本実施形態に係る高炭素鋼板の製造方法において、均熱保持後の鋼板を均熱保持した温度からAc1-50℃までの温度域(以下「初期冷却温度域」という。)で冷却する工程は、以下の条件で行う。初期冷却温度域のうち、少なくともAc1-5℃からAc1-10℃までの温度域を「徐冷温度域」とする。徐冷温度域では、冷却速度を3℃/h以下とする。これにより、球状炭化物が十分に成長し、軟質化した鋼板を得ることができる。
鋼を溶製して得られたスラブを1250℃に加熱した後、熱間圧延を施し、仕上げ温度を890℃、巻取温度を620℃とし、表1に示す板厚および化学成分組成を有する熱延鋼板を得た。表1に示す化学成分組成のうち「-」と記載された元素は、鋼の溶製にあたって当該元素を添加していないことを意味する。
焼鈍後の試料については、ビッカース硬さを評価指標として評価した。
ビッカース硬さは、JIS Z 2244:2009に規定されるビッカース硬さの試験方法に準じて測定した。具体的には、焼鈍後の試料を樹脂に埋め込み、厚さ方向の断面について、荷重を5kgとして測定した。測定位置は、各試料の厚さtについて、各試料の厚さ方向の断面の深さt/2部(厚さ方向の中心部)とし、各測定位置についてn数を2としてのビッカース硬さを測定した。その2点の平均値を、当該試料のビッカース硬さ(HV)として表2に示した。
表2に試験条件とともに示されるビッカース硬さHVの値から、以下のように考察される。
Claims (1)
- C含有量が0.70質量%~1.10質量%である高炭素鋼板の製造方法であって、
素材鋼板を、Ac1以上Ac1+60℃以下の温度範囲で5~40時間均熱保持する工程と、
均熱保持後の鋼板を、均熱保持した温度からAc1-50℃までの温度域において冷却する工程と、を有する焼鈍工程を含み、
前記鋼板を冷却する工程において、均熱保持した温度からAc1-50℃までの温度域のうち、少なくともAc1-5℃からAc1-10℃までの温度域を3℃/h以下の速度で徐冷し、前記徐冷する温度域以外の温度域を5~15℃/hの速度で冷却し、
前記徐冷する温度域以外の温度域は、少なくともAc 1 -40℃からAc 1 -50℃までの温度域を含む、高炭素鋼板の製造方法。
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