以下、エンジンの制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジンの制御装置は例示である。
図1は、エンジンを例示する図である。図2は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17を有している。燃焼室17は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返す。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とを備えている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上に載置される。
シリンダブロック12に、複数のシリンダ11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図例のエンジン1は、図4に示すように、#1、#2、#3、#4の四つのシリンダ11を有している。尚、図1では、一つのシリンダ11のみを示す。
各シリンダ11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13は、燃焼室17を形成する。尚、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。エンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼を行う運転領域以外の運転領域において、エンジン1は、SI燃焼を行う。
SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度を高める必要がない。エンジン1の幾何学的圧縮比は低い。幾何学的圧縮比が低いと、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様であれば、14~17とし、ハイオク仕様であれは、15~18としてもよい。尚、レギュラー燃料は、オクタン価が91程度の低オクタン価燃料である。ハイオク燃料は、オクタン価が96程度の高オクタン価燃料である。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が発生するような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を開閉する。動弁機構は、吸気弁21を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を開閉する。動弁機構は、排気弁22を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスが燃焼室17の中に導入される。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型である。インジェクタ6は、燃焼室17の天井部の中央部から放射状にかつ、斜め下向きに、燃料を噴射する。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留する燃料タンク63と、燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62は、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いにつないでいる。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を送る。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から送られた燃料を蓄える。コモンレール64の中は高圧である。インジェクタ6は、コモンレール64につながっている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64の中の高圧の燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている(図4も参照)。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、点火部の一例である。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでいる。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入する吸気のガスは、吸気通路40の中を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端の近くには、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐している。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度が変わることによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力を高める。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される。過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式である。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達する状態と、駆動力の伝達を遮断する状態とを切り替える。後述するECU10が電磁クラッチ45に制御信号を出力することによって、過給機44はオン又はオフになる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気のガスを冷却する。インタークーラー46は、水冷式又は油冷式である。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44がオフの場合に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気のガスは、過給機44及びインタークーラー46をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に至る。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44がオンの場合、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44がオンの場合に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44及びインタークーラー46を通過した吸気のガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に戻る。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力が変わる。尚、「過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える状態をいい、「非過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる状態をいう、と定義してもよい。
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。詳細な図示は省略するが、スワール発生部は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。燃焼室17から排出された排気ガスは、排気通路50の中を流れる。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。これらの触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512と、を有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させる通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における二つの触媒コンバーターの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54は、外部EGRガスの還流量を調節する。
(エンジンの制御装置の構成)
エンジンの制御装置は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、制御部の一例である。ECU10は、図2に示すように、マイクロコンピュータ101と、メモリ102と、I/F回路103と、を備えている。マイクロコンピュータ101は、プログラムを実行する。メモリ102は、プログラム及びデータを格納する。メモリ102は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)である。I/F回路103は、電気信号の入出力を行う。
ECU10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1-SW11が接続されている。センサSW1-SW11は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1は、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する。エアフローセンサSW1は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている
第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている
第2吸気温度センサSW3は、燃焼室17に導入される吸気のガスの温度を計測する。第2吸気温度センサSW3は、サージタンク42に取り付けられている
吸気圧センサSW4は、燃焼室17に導入される吸気のガスの圧力を計測する。吸気圧センサSW4は、サージタンク42に取り付けられている
筒内圧センサSW5は、各燃焼室17内の圧力を計測する。筒内圧センサSW5は、シリンダ11毎に、シリンダヘッド13に取り付けられている
水温センサSW6は、冷却水の温度を計測する。水温センサSW6は、エンジン1に取り付けられている
クランク角センサSW7は、クランクシャフト15の回転角を計測する。クランク角センサSW7は、エンジン1に取り付けられている
アクセル開度センサSW8は、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダル機構に取り付けられている
吸気カム角センサSW9は、吸気カムの回転位置を計測する。吸気カム角センサSW9は、エンジン1に取り付けられている
排気カム角センサSW10は、排気カムの回転位置を計測する。排気カム角センサSW10は、エンジン1に取り付けられている
SCVポジションセンサSW11は、スワールコントロール弁56の開度を計測する。SCVポジションセンサSW11は、スワールコントロール弁56に取り付けられている。
ECU10は、これらのセンサSW1-SW11の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。
ECU100は、制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排気ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に、圧縮自己着火による燃焼を行う。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
SPCCI燃焼は、次のような燃焼形態である。つまり、1サイクル中に噴射すべき全燃料が燃焼室17の中に噴射された後、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。このことによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼を開始する。SI燃焼の開始後、(1)SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、(2)火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする。
図3の上図31は、燃焼がSPCCI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生率dq/dθの変化(実線)と、混合気が自己着火せず、燃焼がSI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生率dq/dθの変化(実線及び一点鎖線)と、を例示している。図3の下図32は、燃焼がSPCCI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生Qの変化(実線)と、燃焼がSI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生Qの変化(実線及び一点鎖線)と、を例示している。
SPCCI燃焼は、点火により火炎伝播による燃焼が開始した後、θciにおいて、混合気が自己着火し、自己着火による燃焼が行われる。上図31に示すように、SPCCI燃焼における熱発生率(dq/dθ)の波形は、SI燃焼による熱発生の山に、CI燃焼による熱発生の山が積み重なったような形状になる。下図32に示すように、SPCCI燃焼における熱発生の変化は、θciよりも前と、θciよりも後とで、傾きが変わる。
SI燃焼の燃焼量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収できる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、SI燃焼の燃焼量が調節される。ECU10が点火タイミングを調節すれば、混合気は目標のタイミングで自己着火する。SPCCI燃焼は、SI燃焼の燃焼量がCI燃焼の開始タイミングをコントロールしている。
(エンジンの点火制御)
図4は、エンジン1の点火制御に係る点火制御装置100の構成を例示している。点火制御装置100は、推定部111、点火時期設定部112、補正量算出部113、自気筒F/Bフィルタ部114及び全気筒F/Bフィルタ部115を備えている。これらは全て、ECU10の機能ブロックである。
推定部111は、各種のセンサの計測信号に基づいて、これから行う燃焼において、点火から質量燃焼割合が50%となるクランク角(mfb50)までの期間を推定する。ここで、質量燃焼割合は、燃焼室17に供給された1燃焼サイクルあたりの燃料の質量のうち、燃焼した質量の比であり、クランク角度毎に算出される。mfb50は、図3の下図32に示すように、燃焼完了時の熱発生をQとした場合に、0.5Qとなるクランク角である。
点火制御装置100は、mfb50を燃焼指標として用いて、点火制御を行う。これは、SPCCI燃焼は、点火から自己着火を開始するまでの期間が、シリンダの中の状態に応じて変化するためである。SPCCI燃焼は、点火時期が同じでも、自己着火を開始する時期が変わる場合がある。自己着火を開始する時期が変わると、SPCCI燃焼の燃焼波形が変わってしまう。そこで、点火制御装置100は、mfb50が目標のクランク角となるように点火時期を調節する。これにより、SPCCI燃焼の燃焼波形を所望の波形にすることができる。点火制御装置100は、SPCCI燃焼を適切にコントロールできる。
推定部111は、燃焼期間モデルを有している。燃焼期間モデルは、各種のパラメータから、点火からmfb50までのクランク角期間を推定する。推定に使用するパラメータは、図4に示すように、外部EGR率、内部EGR率、目標φ(目標当量比)、噴射モード、充填効率、吸気開弁時期、排気開弁時期、水温、エンジン回転数、及び、SCV開度である。
外部EGR率及び内部EGR率は、エアフローセンサSW1及び吸気圧センサSW4の計測信号に基づいて算出される。目標φはECU10が設定する目標値である。
噴射モードは、燃料の噴射時期に係り、例えば吸気行程中に燃料を噴射する噴射セット、又は、圧縮行程中に燃料を噴射する噴射セットが噴射モードに相当する。噴射モードは、ECU10が定める設定値である。
充填効率は、吸気圧センサSW4の計測信号に基づいて算出される。吸気開弁時期及び排気開弁時期はそれぞれ、吸気カム角センサSW9及び排気カム角センサSW10の計測信号に基づいて算出される。水温は、水温センサSW6の計測信号に基づいて算出される。エンジン回転数は、クランク角センサSW7の計測信号に基づいて算出される。SCV開度は、SCVポジションセンサSW11の計測信号に基づいて算出される。
点火時期設定部112は、推定部111が推定した燃焼期間、つまり、mfb50の推定値と、目標mfb50とに基づいて、mfb50が目標mfb50となるように、目標点火時期を設定する。目標mfb50は、ECU10がエンジン1の運転状態に基づいて設定する。点火時期設定部112は、オープンループ制御により、目標点火時期を設定することができる。
点火時期設定部112は、シリンダ11毎に、目標点火時期を設定する。より詳細には、点火時期設定部112は、シリンダ11毎のフィードバック補正量に基づいて、オープンループ制御によって設定した目標点火時期を、シリンダ11毎に補正する。フィードバック補正量の算出は、後で詳述する。点火時期設定部112は、シリンダ11毎に設定した目標点火時期に従って、各シリンダ11の点火プラグ25に点火信号を出力する(指示IG)。複数の点火プラグ25は順番に点火をする。図5は、四つのシリンダ11それぞれの、燃焼サイクルを示している。図5に例示するように、このエンジン1では、#1、#3、#4、#2の順番で、各シリンダ11の中の混合気が燃焼する。
補正量算出部113は、シリンダ11毎に、目標点火時期のフィードバック補正量を算出する。補正量算出部113は、筒内圧センサSW5の計測信号を受ける。補正量算出部113は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、実際のmfb50を算出する。補正量算出部113はまた、推定部111が推定したmfb50と実際のmfb50との差と、点火時期設定部112が設定した点火時期とに基づいて、フィードバック補正量を算出する。補正量算出部113は、推定したmfb50と実際のmfb50との差が大きいほど、フィードバック補正量を大きくする。算出されるフィードバック補正量は、点火時期を進角側に補正する場合、及び、点火時期を遅角側に補正する場合の両方がある。
自気筒F/Bフィルタ部114は、補正量算出部113が算出した補正量を、シリンダ11毎に、フィルタ処理する。自気筒F/Bフィルタ部114は、第1の一次遅れフィルタによって、フィードバック補正量をフィルタ処理する。第1の一次遅れフィルタは、後述する全気筒F/Bフィルタ部115の、第2の一次遅れフィルタよりも、フィルタ強度が強い。自気筒F/Bフィルタ部114は、フィルタ強度の強い、第1の一次遅れフィルタによってフィルタ処理を行うため、定常安定性を高めることができる。つまり、筒内圧センサSW5の計測信号には、誤差やノイズが含まれやすい。しかし、自気筒F/Bフィルタ部114が、強いフィルタを用いてフィードバック補正量のフィルタ処理を行うことにより、フィードバック補正量に対する誤差やノイズの影響を小さくすることができる。その結果、点火時期がハンチングしてしまうことが抑制できる。定常運転時にエンジン1のトルクが変動することが抑制でき、自動車のドライバビリティが向上する。
自気筒F/Bフィルタ部114は、フィルタ処理後のフィードバック補正量、つまり第1の補正量を、点火時期設定部112に出力する。点火時期設定部112は、シリンダ11毎に設定されたフィルタ処理後のフィードバック補正量に基づいて、オープンループ制御によって設定した目標点火時期を補正する。目標点火時期は、進角側、又は、遅角側に変更される。フィードバック制御によって、mfb50が、目標mfb50に近づく。SPCCI燃焼及びSI燃焼が適正化する。燃焼騒音を抑制しながら、エンジン1の燃費性能が向上する。点火制御装置100は、シリンダ11毎に、点火時期のフィードバック行うことによって、気筒間差を吸収できる。
全気筒F/Bフィルタ部115は、補正量算出部113が算出した、各シリンダ11のフィードバック補正量を読み込む。全気筒F/Bフィルタ部115は、読み込んだ全シリンダ11のフィードバック補正量に対して、第2の一次遅れフィルタによるフィルタ処理を行う。第2の一次遅れフィルタは、第1の一次遅れフィルタよりもフィルタ強度が弱い。
自気筒F/Bフィルタ部114は、前述したように、エンジン1が定常運転をしている場合に、フィードバック制御を安定化させることを目的としている。これに対し、全気筒F/Bフィルタ部115は、エンジン1の運転状態が変化する過渡時における、フィードバック制御の応答遅れを抑制することを目的としている。
多気筒のエンジン1は、複数のシリンダ11が順番に燃焼する。このため、図5に示すように、一のシリンダ11における燃焼と燃焼との間隔は広い。4気筒のエンジン1において、一のシリンダ11は、エンジン1が4回の燃焼を行う間に、1回の割合で燃焼する。
過渡時には、シリンダ11に導入される新気及び/又はEGRガスの量は刻々と変化する。一のシリンダ11において前の燃焼から次の燃焼を行うまでの間にも、シリンダ11に導入される新気及び/又はEGRガスの量は変化している。このため、補正量算出部113が、シリンダ毎にフィードバック補正量を定めていると、前の燃焼時に定めたフィードバック補正量が、これから行おうとする燃焼時のシリンダの中の状態量に対応しない場合がある。
特に、自気筒F/Bフィルタ部114は、強い一次遅れフィルタによって、フィードバック補正量のフィルタ処理を行っている。このため、シリンダ11に導入される新気及び/又はEGRガスの量が変化しても、その変化がフィードバック補正量に反映されにくい。それらの結果、過渡時に、自気筒F/Bフィルタ114による第1の補正量のみに基づいて点火時期のフィードバック制御を行うと、応答遅れが大きくなってしまう。
全気筒F/Bフィルタ部115においてフィルタ処理されたフィードバック補正量、つまり第2の補正量は、全てのシリンダ11のフィードバック補正量を読み込んでいる。このため、自気筒F/Bフィルタ部114がシリンダ毎に算出するフィルタ処理後のフィードバック補正量よりも、更新頻度が高い。全気筒F/Bフィルタ部115においてフィルタ処理されたフィードバック補正量は、自気筒F/Bフィルタ部114がシリンダ毎に算出するフィルタ処理後のフィードバック補正量よりも新しいシリンダの中の状態量が、反映されている。図5に示すように、#1シリンダ11において筒内圧センサSW5が計測した信号に基づき、補正量算出部113がフィードバック補正量を算出すると、そのフィードバック補正量は、#2シリンダ11の目標点火時期を設定する際に、反映させることができる。第2の補正量は、4点火後の点火時期の補正に反映できる。尚、第1の補正量は、5点火後の点火時期の補正にしか反映できない。
また、全気筒F/Bフィルタ部115における第2の一次遅れフィルタの強度が弱い。全気筒F/Bフィルタ部115においてフィルタ処理されたフィードバック補正量は、シリンダ11の状態量が大きく変化することに対応して、大きくなる。全気筒F/Bフィルタ部115においてフィルタ処理されたフィードバック補正量は、自気筒F/Bフィルタ部114がシリンダ毎に算出するフィルタ処理後のフィードバック補正量よりも、シリンダ11に導入される新気及び/又はEGRガスの量の変化が反映されやすい。
全気筒F/Bフィルタ部115は、フィルタ処理後のフィードバック補正量を、点火時期設定部112に出力する。
点火時期設定部112は、自気筒F/Bフィルタ部114からのフィルタ処理後のフィードバック補正量と、全気筒F/Bフィルタ部115からのフィルタ処理後のフィードバック補正量と、を比較する。エンジン1が定常運転をしている間は、シリンダ11の中の状態量の変化が小さいため、複数のシリンダ11のうち、一のシリンダ11についてのフィードバック補正量と、他のシリンダ11についてのフィードバック補正量とは、同じ、又は、ほぼ同じである。そのため、自気筒F/Bフィルタ部114からのフィルタ処理後のフィードバック補正量と、全気筒F/Bフィルタ部115からのフィルタ処理後のフィードバック補正量とは、同じ、又は、ほぼ同じになる。エンジン1が定常運転をしている間は、自気筒F/Bフィルタ部114からのフィルタ処理後のフィードバック補正量と、全気筒F/Bフィルタ部115からのフィルタ処理後のフィードバック補正量との偏差は小さい。
一方、過渡時は、シリンダ11の中の状態量の変化が大きいため、一のシリンダ11についてのフィードバック補正量と、他のシリンダ11についてのフィードバック補正量とは、同じにならない。そのため、自気筒F/Bフィルタ部114からのフィルタ処理後のフィードバック補正量と、全気筒F/Bフィルタ部115からのフィルタ処理後のフィードバック補正量との偏差は大きくなる。点火時期設定部112は、フィードバック補正量の偏差が、予め定めたしきい値を超えるか否かを判断する。フィードバック補正量の偏差がしきい値を超える場合、点火時期設定部112は、エンジン1の運転状態は過渡状態であると判断できる。
フィードバック補正量の偏差がしきい値を超える場合、点火時期設定部112は、自気筒F/Bフィルタ部114からのフィルタ処理後のフィードバック補正量を修正する。より詳細に、点火時期設定部112は、前述したフィードバック補正量の偏差と、しきい値との差に相当する修正量を、自気筒F/Bフィルタ部114からのフィルタ処理後のフィードバック補正量に加える。他のシリンダ11のフィードバック補正量を考慮して、一のシリンダ11のフィードバック補正量を修正するため、過渡時にフィードバック制御の応答が遅れることが抑制される。
次に、図6及び図7のフローチャートを参照しながら、点火制御装置100が実行する点火制御について説明する。図6は、シリンダ11毎にフィードバック補正量を算出する手順を示すフローチャートである。スタート後のステップS1において、点火制御装置100の推定部111は、燃焼期間モデルを用いて燃焼期間を推定すると共に、点火時期設定部112は、推定した燃焼期間と目標mfb50とに基づいて、オープンループ制御により、目標点火時期を算出する。
続くステップS11、S21、S31、S41のそれぞれにおいて、点火時期設定部112は、シリンダ11毎に、目標点火時期の補正を行う。前述したように、シリンダ11毎に、フィルタ処理されたフィードバック補正量に基づいて、点火時期設定部112は、目標点火時期を補正する。
ステップS12、S22、S32、S42のそれぞれにおいて、点火時期設定部112は、各シリンダ11の点火プラグ25に、点火指示を行う。四つのシリンダ11は、#1、#3、#4、#2の順番に燃焼する。
ステップS13、S23、S33、S43のそれぞれにおいて、各シリンダ11の筒内圧センサSW5は、シリンダ11の中の圧力を計測する。続くステップS14、24、34、44のそれぞれにおいて、補正量算出部113は、計測された圧力に基づいてフィードバック補正量を算出する。補正量算出部113は、算出したフィードバック補正量を、全気筒F/Bフィルタ部へ出力する(図6及び図7の(A)(B)(C)(D)参照)。
ステップS15、S25、S35、S45のそれぞれにおいて、自気筒F/Bフィルタ部114は、シリンダ11毎に、フィードバック補正量のフィルタ処理を実行する。前述したように、自気筒F/Bフィルタ部114は、第1の一次遅れフィルタによって、フィルタ処理を行う。
ステップS16、S26、S36、S46のそれぞれにおいて、点火時期設定部112は、自気筒F/Bフィルタ部114からの、フィルタ処理後のフィードバック補正量と、全気筒F/Bフィルタ部115からの、フィルタ処理後のフィードバック補正量と、の偏差を算出する。そして、点火時期設定部112は、その偏差がしきい値を超えるか否かを判断する。ステップS16の判断がYESの場合、プロセスはステップS17に進み、NOの場合、プロセスは、ステップS18に進む。同様に、ステップS26の判断がYESの場合、プロセスはステップS27に進み、NOの場合、プロセスは、ステップS28に進む。また、ステップS36の判断がYESの場合、プロセスはステップS37に進み、NOの場合、プロセスは、ステップS38に進む。ステップS46の判断がYESの場合、プロセスはステップS47に進み、NOの場合、プロセスは、ステップS48に進む。
ステップS17、S27、S37、S47のそれぞれにおいて、点火時期設定部112は、エンジン1の運転状態が変化している過渡時と判断できるため、フィードバック補正量を修正する。前述したように、各シリンダ11のフィードバック補正量に、フィードバック補正量の偏差としきい値との差に相当する修正量を加える。そして、ステップS18、S28、S38、S48のそれぞれにおいて、点火時期設定部112は、フィードバック補正量を更新する。ステップS17、S27、S37、S47においてフィードバック補正量が修正された場合、修正後のフィードバック補正量が、次回の点火時に利用される。また、フィードバック補正量が修正されなかった場合、ステップS15、S25、S35、S45においてフィルタ処理されたフィードバック補正量が、次回の点火時に利用される(図6の一点鎖線の矢印参照)。
図7は、全気筒F/Bフィルタ部115がフィードバック補正量を算出する手順を示すフローチャートである。スタート後のステップS51において、全気筒F/Bフィルタ部115は、初期値を定める。初期値はゼロとしてもよい。初期値は適宜の値に定めることもできる。
ステップS52において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#1シリンダ11のフィードバック補正値が算出されたか否かを判断する。ステップS52の判断がYESの場合、プロセスはステップS53に進み、NOの場合、プロセスはステップS54に進む。ステップS53において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#1シリンダ11のフィードバック補正値を読み込む。
ステップS54において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#3シリンダ11のフィードバック補正値が算出されたか否かを判断する。ステップS54の判断がYESの場合、プロセスはステップS55に進み、NOの場合、プロセスはステップS56に進む。ステップS55において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#3シリンダ11のフィードバック補正値を読み込む。
ステップS56において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#4シリンダ11のフィードバック補正値が算出されたか否かを判断する。ステップS56の判断がYESの場合、プロセスはステップS57に進み、NOの場合、プロセスはステップS58に進む。ステップS57において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#4シリンダ11のフィードバック補正値を読み込む。
ステップS58において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#2シリンダ11のフィードバック補正値が算出されたか否かを判断する。ステップS58の判断がYESの場合、プロセスはステップS59に進み、NOの場合、プロセスはステップS510に進む。ステップS59において、全気筒F/Bフィルタ部115は、#4シリンダ11のフィードバック補正値を読み込む。
ステップS510において、全気筒F/Bフィルタ部115は、フィードバック補正量のフィルタリング処理を行う。前述したように、全気筒F/Bフィルタ部115は、第2の一次遅れフィルタによって、フィードバック補正量のフィルタ処理を行う。全気筒F/Bフィルタ部115は、フィルタ処理後のフィードバック補正量を、点火時期設定部112へ出力する(図6及び図7の(E)参照)。
次に、図8のタイムチャートを参照しながら、点火制御装置100が実行する点火制御時の各パラメータの変化について説明する。図8の横軸は時間を示し、紙面右に進むに従って時間が進行する。チャート81は、燃料噴射量の変化を示している。時刻t1において、燃料噴射量が増えている。チャート82は、充填効率の変化を示している。時刻t1において、充填効率が高くなっている。図8は、自動車が加速している例に相当する。つまり、時刻t1以前において、エンジン1は定常運転をしている。時刻t1以降において、エンジン1は過渡状態へ移行している。
チャート83は、推定部111が推定する燃焼期間を示している。時刻t1以前の、エンジン1の負荷が相対的に低い状態において、燃焼期間は相対的に長い。つまり、点火からmfb50までの期間が長い。チャート84は、点火時期設定部112が設定する目標点火時期を示している。目標点火時期は、進角側に設定される。尚、破線はフィードバック補正を行わない場合の目標点火時期を例示している。図8の例では、目標点火時期は、進角側にフィードバック補正されている。
チャート86は、#3シリンダ11のフィードバック補正量を示している。これは、フィルタ処理後のフィードバック補正量である。図8の例では、フィードバック補正量は、進角側に設定されている。前述したように、目標点火時期は、進角側にフィードバック補正される。
チャート85は、mfb50を示している。目標点火時期を進角側に設定する結果、mfb50は進角側になる。点火時期の調節によって、実線で示す実際のmfb50は、破線で示す目標のmfb50に一致、又は、ほぼ一致している。
チャート87は、全気筒のフィードバック補正量を示している。時刻t1以前の、エンジン1の定常運転時において、チャート86の#3シリンダ11のフィードバック補正量と、全気筒のフィードバック補正量とは、ほぼ一致している。チャート88は、#3シリンダ11のフィードバック補正量と、全気筒のフィードバック補正量との偏差を示している。偏差はゼロ、又は、ほぼゼロであり、しきい値よりも小さい。チャート89は、#3シリンダ11のフィードバック補正量と、全気筒のフィードバック補正量との偏差によって定まる修正量を示している。偏差がしきい値よりも小さいため、修正量はゼロである。
時刻t1以降において、充填効率が高くなりかつ、燃料の噴射量が増えると、推定される燃焼期間が短くなる(チャート83)。目標mfb50は、チャート85に破線で示すように、推定燃焼期間が短くなることに対応して、遅角側に変更される。そのため、目標点火時期は、遅角側に変わる(チャート84)。
前述したように、シリンダ11毎に設定されるフィードバック補正量は、燃焼の間隔が広いことと、第1の一次遅れフィルタの強度が強いこととによって、チャート86に一点鎖線で示すように、遅角側への変更されるタイミングが遅れる(時刻t3)と共に、その変更量も小さい。仮に、過渡時に、シリンダ11毎のフィードバック補正を継続すると、チャート84に一点鎖線で示すように、目標点火時期は、徐々に遅角側へと変わる。その結果、実際のmfb50は、チャート85に一点鎖線で示すように、徐々に遅角側へと変わる。実際のmfb50が目標mfb50に至るまでに、時間を要する。つまり、過渡時にフィードバック制御の応答性が遅れる。
尚、チャート86の破線(つまり、フィルタなし)は、フィルタ処理を行っていないフィードバック補正量を示している。つまり、チャート86の破線は、補正量算出部113が算出したフィードバック補正量に相当する。フィルタ処理を行わないと、フィードバック補正量が遅角側へ大きく変更される。しかしながら、フィルタ処理を行わないと、エンジン1の定常運転時に、フィードバック制御が安定化しないという不都合がある。
チャート87に示すように、全シリンダ11のフィードバック補正量は、遅角側へ変更されるタイミングが早まる(時刻t2)と共に、その変更量が大きい。その結果、フィードバック補正量の偏差が、しきい値を超える(チャート88参照)。点火時期設定部112は、偏差としきい値とに基づいて修正量を算出する。修正量Δaは、偏差としきい値との差である(チャート88、89参照)。点火時期設定部112は、シリンダ11毎のフィードバック補正量を、修正量により修正する。チャート86に実線で示すように、#3シリンダ11のフィードバック補正量は、一点鎖線で示すフィードバック補正量に、修正量Δaを、遅角側へ加えた量になる。
目標点火時期は、チャート84に実線で示すように、遅角側へ速やかに変更され、実際のmfb50は、チャート85に実線で示すように、目標mfb50へ速やかに近づく。過渡時において、フィードバック制御の応答性が高まる。
エンジン1の運転状態が変化した後、エンジン1の運転状態が定常状態へ移行するに従い、シリンダ11毎のフィードバック補正量と全気筒のフィードバック補正量との偏差は小さくなる。時刻t4以降において、偏差がしきい値よりも小さくなると、前述したフィードバック補正量の修正は行われない。
図8に示すように、自動車の加速時には、目標点火時期の補正方向が、進角側から遅角側へと反転する。自動車の減速時には、目標点火時期の補正方向が、遅角側から進角側へと反転する。補正方向が反転する場合に、全気筒のフィードバック補正量は、シリンダ11毎のフィードバック補正量よりも反転するタイミングが早くかつ、補正量も大きくなる。その結果、シリンダ11毎のフィードバック補正量と全気筒のフィードバック補正量との偏差が大きくなる。逆に、エンジン1が定常運転になれば、フィードバック補正量の偏差は小さくなる。点火制御装置100は、シリンダ11毎のフィードバック補正量と全気筒のフィードバック補正量との偏差に基づいて、エンジン1の運転状態が、定常状態であるか、過渡状態であるかを、正確にかつ、速やかに判断できる。
次に、図9のタイムチャートを参照しながら、全気筒のフィードバック補正量と、シリンダ11毎のフィードバック補正量との変化を比較する。チャート91は、充填効率の変化を示している。図8と同様に、時刻t1において充填効率が、低から高へと変化している。これは、自動車の加速時に相当する。
チャート92は、全気筒のフィードバック補正量を示している。チャート92の破線は、フィルタ処理前のフィードバック補正量である。実線は、フィルタ処理後のフィードバック補正量である。実線と破線との比較から、全気筒F/Bフィルタ部115の第2の一次遅れフィルタは、フィルタ強度が弱い。
チャート93、94、95、96はそれぞれ、#1、#3、#4、#2シリンダ11のフィードバック補正量を示している。チャート93、94、95、96の破線は、フィルタ処理前のフィードバック補正量である。一点鎖線は、シリンダ11毎のフィルタ処理後のフィードバック補正量である。実線は、シリンダ11毎のフィルタ処理後のフィードバック補正量を、全気筒のフィードバック補正量に基づいて修正したフィードバック補正量である(つまり、多気筒考慮)。実線と一点鎖線との比較から、自気筒F/Bフィルタ部114の第1の一次遅れフィルタは、フィルタ強度が強い。時刻t1の直後において、#1、#3、#4、#2シリンダ11のそれぞれにおいて、フィードバック補正量が修正されている。時刻t1から時間が経過すると、シリンダ11毎のフィルタ処理後のフィードバック補正量と、全気筒のフィルタ処理後のフィードバック補正量との偏差が小さくなるため、フィードバック補正量は修正されなくなる。
尚、前記の構成では、シリンダ11毎のフィードバック補正量に、全気筒のフィードバック補正量に基づく修正量を加えているが、目標点火時期の修正は、フィードバック補正量の修正に限らない。シリンダ11毎のフィードバック補正量と全気筒のフィードバック補正量との偏差がしきい値を超える場合、点火時期設定部112は、シリンダ11毎のフィードバック補正量と全気筒のフィードバック補正量とに基づいて、目標点火時期の修正を行ってもよい。
また、点火時期の制御に用いる燃焼指標は、mfb50に限らない。点火時期設定部112は、任意の割合の質量燃焼割合を、燃焼指標として用いることができる。また、SPCCI燃焼の点火時期の制御において、点火時期設定部112は、混合気が自己着火を開始するθci(図3参照)を燃焼指標として用いることができる。
尚、ここに開示するエンジンの制御装置は、前述した構成のエンジン1への適用に限定されない。エンジンは、SPCCI燃焼を行わない、例えば火炎伝播によるSI燃焼のみを行うエンジンであってもよい。