以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
<本発明の概要>
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材などの支持体が構成する面上に、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある還元銅を含む導電層を形成し、この導電層の上にメッキ銅層を形成することにより、導電層とメッキ銅層との密着性及び配線の耐屈曲性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本実施の形態に係る導電性パターン領域付構造体は、支持体、及び、前記支持体が構成する面上に配置された、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある還元銅を含む導電層と、前記導電層上に配置された、メッキ銅層とで構成された導電性パターン領域を具備することを特徴とする。
ここで、還元銅を含む導電層にボイドが含まれるとは、膜中に複数の穴があることを意味する。断面SEM(Scanning Electron Microscopeの略、走査型電子顕微鏡)又はTEM(Transmission Electron Microscopeの略、透過型電子顕微鏡)画像により確認できる。特に下層部にボイドが多数あると、密着性が向上する。また、還元銅とメッキ銅は同じ元素のため、異種金属に比べ密着性が向上し、還元銅を含む導電層とメッキ銅層との密着性があがり、銅配線としての耐屈曲性が向上する。
また、還元銅を含む導電層に炭素が含まれるとは、炭素材料にて、応力緩和ができるため、還元銅を含む導電層の曲げ応力が向上することを意味する。炭素とは、酸化銅インク中に含まれる分散剤などが熱分解することで生じる炭素材料のことである。
前記導電層中のボイドの割合は、体積割合で、好ましくは0.1%以上、70%以下、より好ましくは1%以上、60%以下、さらに好ましくは5%以上、50%以下、最も好ましくは10%以上、40%以下である。
また、還元銅を含む導電層中の銅の体積割合は、好ましくは30%以上、99%以下、より好ましくは40%以上、95%以下、さらに好ましくは50%以上、90%以下、最も好ましくは60%以上、85%以下である。
また、還元銅を含む導電層中のC/Cuの比は、相対元素濃度で、1以上、6以下、が好ましく、さらに0.5以上、5.5以下が好ましく、2以上、5以下がもっとも好ましい。
また、粒界のある還元銅とは、すべて焼結してつながった構造ではなく、界面のある粒子が断面SEMやTEMで観察するとみてとれることを意味する。
この構成によれば、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある還元銅を含む導電層を形成し、その上に無電解メッキ又は電解メッキにより必要な電流を流すことが可能な層厚でメッキ銅層が設けられているので、還元銅を含む導電層とメッキ銅層との密着性が向上すると共に、銅配線の耐屈曲性が向上する。これにより、導電性に優れ、かつ、不良が少ない導電性パターン領域を備えた構造体を提供することができる。
密着性の向上は、還元銅を含む導電層の上にメッキされた銅(メッキ銅)がその表面に形成された窪みに入り込みメッキ膜がはがれにくくなるアンカー効果と、還元銅とメッキ銅が同種元素のため、密着性が向上する効果と、還元銅を含む導電層にボイドがあり、そのボイド内に基材の樹脂成分が入りこむことで向上すると予想する。また、耐屈曲性は、導電層とメッキ層との密着性が向上するため、向上する。
本実施の形態に係る導電性パターン領域付構造体は、前記導電層の層厚が1nm以上10μm以下であり、前記メッキ銅層の層厚が1μm以上50μm以下であることが好ましい。
また、本実施の形態に係る導電性パターン領域付構造体の製造方法は、支持体が構成する面上に酸化銅及び分散剤を含む塗布層を形成する工程と、光線、プラズマ又は熱により前記酸化銅を還元銅に還元して、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある前記還元銅を含む導電層を形成する工程と、前記導電層上に前記還元銅を触媒とした無電解メッキ又は電解メッキによりメッキ銅層を配置し、前記導電層及び前記メッキ銅層で構成された導電性パターン領域を得る工程と、を含むことを特徴とする。
この構成によれば、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある還元銅を含む導電層を形成し、その上に還元銅を触媒とした無電解メッキ又は電解メッキによりメッキ銅層を設けるので、還元銅を含む導電層とメッキ銅層との密着性が向上すると共に、導電層の耐屈曲性が向上する。これにより、導電性に優れ、かつ、不良が少ない導電性パターン領域を備えた構造体を簡便に製造することができる。
また、本実施の形態に係る導電性パターン領域付構造体の製造方法は、支持体が構成する面上に酸化銅及び分散剤を含む塗布層を形成する工程と、前記塗布層に中心波長が355nm以上、532nm以下のレーザ光を照射して前記酸化銅を還元銅に還元し、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある前記還元銅を含む導電層を形成する工程と、前記レーザ光が照射されていない前記塗布層を除去する工程と、前記導電層上に前記還元銅を触媒とした無電解メッキ又は電解メッキによりメッキ銅層を配置し、前記導電層及び前記メッキ銅層で構成された導電性パターン領域を得る工程と、を含むことを特徴とする。
この構成によれば、レーザ光の照射により、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある還元銅を含む導電層を所望のパターンで容易に形成できるので、フォトリソグラフィ工程が不要になり、導電性に優れ、かつ、不良が少ない導電性パターン領域付構造体をより簡便に製造することができる。
本実施の形態において、導電性パターン領域とは、導電性金属で構成されたパターンである。導電性パターン領域は、例えば、配線、放熱シートの金属層(例えば、メッシュ状)、又は、電磁波シールドの金属層(例えば、メッシュ状)を含むが、特に限定されない。ここで、配線は、例えば、支持体上に配置された複数の部品間を繋ぐための配線、集積回路内の配線、電気機器又は電子機器の間を繋ぐための配線(例えば、自動車等の乗り物において、スイッチと照明等の機器との間の配線、又は、センサとECU(Electronic Control Unit)との間の配線)を含むが、特に限定されない。
また、支持体は、塗布層を形成するための面を構成するものである。しかし、その形状は、特に限定されない。
支持体の材質は、導電性パターン領域の間での電気絶縁性を確保するため、絶縁材料であることが好ましい。ただし、支持体の全体が絶縁材料であることは必ずしも必要がない。塗布層が配置される面を構成する部分だけが絶縁材料であれば足りる。
支持体は、より具体的には、平板状体、フィルム又はシートであってもよい。板状体は、例えば、プリント基板等の回路基板に用いられる支持体(基材とも呼ばれる)である。フィルム又はシートは、例えば、フレキシブルプリント基板に用いられる、薄膜状の絶縁体であるベースフィルムである。
支持体は、立体物であってもよい。立体物が構成する曲面又は段差等を含む面に塗布層を形成することもできる。
立体物の一例としては、携帯電話端末、スマートフォン、スマートグラス、テレビ、パーソナルコンピュータ等の電気機器の筐体が挙げられる。また、立体物の他の例としては、自動車分野では、ダッシュボード、インストルメントパネル、ハンドル、シャーシ等が挙げられる。
<酸化銅インク>
本実施の形態の酸化銅インクは、分散媒に、(1)酸化銅と、(2)分散剤とを含むことを特徴とする。
分散剤の含有量が下記式(1)の範囲を満たす。これにより、酸化銅の凝集を抑制し、分散安定性が向上する。
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (1)
また、分散剤の酸価は、20以上、130以下であることが好ましい。これにより、分散安定性に優れる。
また、酸化銅は、微粒子状であり、その平均粒子径は、3nm以上、50nm以下であることが好ましく、5nm以上、40nm以下であることがより好ましい。平均粒子径が50nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基板の汎用性が広がる。また、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。また、3nm以上だと、酸化銅インクに用いられた際に分散安定性がよく、分散体の長期保管安定性が向上するので好ましい。また、均一な薄膜を作製できる。
また、分散媒は、炭素数8以下のモノアルコールであることが好ましい。これにより、酸化銅の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用において、より安定に酸化銅を分散させる。また、抵抗値も低くなる。
また、分散媒の酸化銅インク中の含有量が30質量%以上、95質量%以下であることが好ましい。
本実施の形態の酸化銅インクは、フラッシュ光又はレーザ光を用いて焼成処理(後述)を行うことができる。これにより、酸化銅中の有機物が分解され、酸化銅の焼成が促進され、抵抗の低い導電膜を形成できる。このため、電気を流す配線、放熱シート、電磁波シールド、回路などの様々な導電層を提供できる。
次に、酸化銅インクにおける酸化銅と分散剤の状態について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。図1に示すように、酸化銅インク1において、酸化銅の一例である酸化銅2の周囲には、分散剤としてリン含有有機物の一例であるリン酸エステル塩3が、リン3aを内側に、エステル塩3bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩3は電気絶縁性を示すため、隣接する酸化銅2との間の電気的導通は妨げられる。また、リン酸エステル塩3は、立体障害効果により酸化銅インク1の凝集を抑制する。
したがって、酸化銅2は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩3で覆われているので、酸化銅インク1は電気絶縁性を示し、断面視(図2中に示す上下方向に沿った断面)で、酸化銅インク1の両側に隣接する導電層の間の絶縁を確保することができる。
一方、導電層は、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化銅を銅に還元する。このように酸化銅が還元された銅を還元銅という。また、当該一部の領域において、リン含有有機物は、リン酸化物に変性する。リン酸化物では、上述のエステル塩3b(図1参照)のような有機物は、レーザなどの熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
また、図1に示すように、酸化銅2が用いられている場合、レーザなどの熱によって、酸化銅が還元銅に変化すると共に焼結し、隣接する酸化銅2同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する領域、すなわち導電層を形成することができる。
導電層は、このように酸化銅を焼成した焼成体である。
また、導電層において、還元銅の中にリン元素が残存している。リン元素は、リン元素単体、リン酸化物及びリン含有有機物のうち少なくとも1つとして存在している。このように残存するリン元素は導電性パターン領域中に偏析して存在しており、導電層の抵抗が大きくなる恐れはない。
[(1)酸化銅]
本実施の形態においては、金属酸化物成分の一つとして酸化銅を用いる。酸化銅としては、酸化第一銅(Cu2O)及び酸化第二銅(CuO)が含まれるが、酸化第一銅が好ましい。これは、金属酸化物の中でも還元が容易で、さらに微粒子を用いることで焼結が容易であること、価格的にも銅であるがゆえに銀などの貴金属類と比較し安価で、マイグレーションに対し有利であるためである。以下の本実施の形態では、酸化第一銅を用いる場合を例にあげて説明する。
上述の通り、酸化銅は微粒子状であることが好ましい。酸化第一銅粒子の平均粒子径の好ましい範囲は、これを還元処理することにより得られる金属の緻密性、電気的特性の観点から、さらには焼成条件を樹脂基板の使用を考慮して基板に与えるダメージを低減する観点から、より低温化する必要がある。このため、好ましい平均粒子径は、3nm以上、50nm以下、より好ましくは5nm以上、40nm以下、さらに好ましくは10nm以上、30nm以下である。平均粒子径が50nm以下の場合、低温焼成が可能となり、基板の汎用性が広がる。また、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。また、3nm以上だと、酸化銅インクに用いられた際に分散安定性がよく、分散体の長期保管安定性が向上するので好ましい。また、均一な薄膜を作製できる。ここで平均粒子径とは、酸化銅インク中での分散時の粒子径であり、大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した値である。つまり一次粒子径とは限らず、2次粒子径であってもよい。
また、平均粒子径分布において、多分散度が0.1以上0.4以下の範囲がよい。この範囲であれば、成膜性がよく、分散安定性も高い。なお、本実施の形態において、酸化第一銅粒子の平均粒小径は、後述する針金状、樹枝状、及び鱗片状の形状を有する銅粒子によるクラック防止効果には影響しない。
酸化第一銅に関しては、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。合成法としては、次の方法が挙げられる。
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、いったん有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱する加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅-N-ニトロソフェニルヒドロキシアミン錯体)を、ヘキサデシルアミンなどの保護材存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
この中では(3)の方法は操作が簡便で、かつ、平均粒小径の小さい酸化第一銅が得られるので好ましい。
合成終了後、合成溶液と酸化第一銅の分離を行うが、遠心分離などの既知の方法を用いればよい。また、得られた酸化第一銅を後述の分散剤、分散媒を加えホモジナイザーなど既知の方法で攪拌し分散する。分散媒によっては分散し難く分散が不充分な場合があるが、このような場合は一例として、分散しやすいアルコール類、例えばブタノールなどの分散媒を用い分散させた後、所望の分散媒への置換と所望の濃度への濃縮を行う。方法の一例としてUF膜による濃縮、所望の分散媒による希釈、濃縮を繰り返す方法が挙げられる。このようにして得られた酸化銅分散体は、後述の方法で銅粒子などと混合され、本実施の形態の酸化銅インクとされる。この酸化銅インクが印刷、塗布に用いられる。
[(2)分散剤]
次に分散剤について説明する。分散剤としては、例えば、リン含有有機物が好ましい。リン含有有機物は酸化銅に吸着してもよく、この場合、立体障害効果により凝集を抑制する。また、リン含有有機物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。
分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、例えば300~300,000であることが好ましい。300以上であると、絶縁性に優れ、得られる酸化銅インクの分散安定性が増す傾向があり、30,000以下であると、焼成しやすい。また、構造としては酸化銅に親和性のある基を有する高分子量共重合物のリン酸エステルが好ましい。例えば、化学式(1)の構造は、酸化銅、特に酸化第一銅と吸着し、また基板への密着性にも優れるため、好ましい。
化学式(1)中、lは1~20の整数、好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~10の整数であり、mは1~20の整数、好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~10の整数であり、nは1~20の整数、好ましくは1~15の整数、より好ましくは1~10の整数である。この範囲とすることで、酸化銅の分散性を高めつつ、さらに分散媒に分散剤が可溶となる。
リン含有有機物は、光や熱によって分解又は蒸発しやすいものであることが好ましい。光や熱によって分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電層を得ることができる。
リン含有有機物の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。リン含有有機物の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
リン含有有機物の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長の、例えば、355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、又は、1056nmの光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。支持体が樹脂の場合、355nm、405nm、445nm、又は、450nmの波長の光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。
分散剤としては公知のものを用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸などの高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK-110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK-118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK-142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―160、DISPERBYK―161、DISPERBYK―162、DISPERBYK―163、DISPERBYK―2155、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2000、DISPERBYK―2025、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、BYK―9076、BYK―9077、TERRA-204、TERRA-U(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA-15B、フローレンDOPA-15BHFS、フローレンDOPA-22、フローレンDOPA-33、フローレンDOPA-44、フローレンDOPA-17HF、フローレンTG-662C、フローレンKTG-2400(以上共栄社化学社製)、ED-117、ED-118、ED-212、ED-213、ED-214、ED-216、ED-350、ED-360(以上楠本化成社製)、プライサーフM208F、プライサーフDBS(以上第一工業製薬製)などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
分散剤の必要量は、酸化銅の量に比例し、要求される分散安定性を考慮し調整する。本実施の形態の酸化銅インクに含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であり、好ましくは0.050以上0.25以下であり、より好ましくは0.10以上0.23である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施の形態の酸化銅インクにおける分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましい。より好ましくは30以上、100以下が好ましい。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。具体的にはビックケミー社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK-140」(酸価73)、「DISPERBYK-142」(酸価46)、「DISPERBYK-145」(酸価76)、「DISPERBYK-118」(酸価36)、「DISPERBYK-180」(酸価94)が挙げられる。
また、分散剤のアミン価(mgKOH/g)と酸価の差(アミン価-酸価)は-50以上0以下であることが好ましい。アミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すものであり、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すものである。アミン価、酸価はJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。-50以上0以下だと分散安定性に優れるため、好ましい。より好ましくは-40以上0以下であり、さらに好ましくは-20以上0以下である。
[(3)その他]
本実施の形態の酸化銅インクは、上述の構成成分(1)、(2)の他に、その他の構成成分(3)として、還元剤や分散媒が含まれていてもよい。
まず還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、ヒドラジン水和物、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などが挙げられる。焼成処理において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い導電層を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジン又はヒドラジン水和物が最も好ましい。これにより、酸化銅インクの分散安定性も維持できる。還元剤の必要量は酸化銅の量に比例し、要求される還元性を考慮し調整する。
本実施の形態の酸化銅インクに含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.0001以上0.1以下が好ましく、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03である。還元剤の質量比率は、0.0001以上だと分散安定性が向上し、かつ導電層の抵抗が低下する。また、0.1以下だと酸化銅インクの長期安定性が向上する。
また、本実施の形態に用いられる分散媒は、分散という観点から分散剤の溶解が可能なものの中から選択する。一方、酸化銅インクを用いて導電性パターンを形成するという観点からは、分散媒の揮発性が作業性に影響を与えるため、導電性パターンの形成方法、例えば印刷や塗布の方式に適するものである必要がある。従って、分散媒は分散性と印刷や塗布の作業性に合わせて下記の溶剤から選択すればよい。
具体例としては、分散媒として以下の溶剤を挙げることができる。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-3-メチル-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ-1,2-プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、2-メチルブタノール、2-ペンタノール、t-ペンタノール、3-メトキシブタノール、n-ヘキサノール、2-メチルペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-エチルブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、n-オクタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、n-ノニルアルコール、2、6ジメチル-4-ヘプタノール、n-デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5-トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどが挙げられる。これらに具体的に記載したもの以外にも、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル類溶剤を分散媒に用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよく、印刷方式に応じ蒸発性や、印刷機材、被印刷基板の耐溶剤性を考慮し選択する。
また、分散媒としては、炭素数10以下のモノアルコールがより好ましい。また、酸化銅の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用において、より安定に分散させるために、モノアルコールの炭素数は8以下であることがさらに好ましい。また、モノアルコールの炭素数が8以下であることにより、抵抗値も低くなる。炭素数8以下のモノアルコール中でも、例えば、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらにより好ましい。これらのモノアルコールを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
分散媒の含有量は、酸化銅インク全体の中で30質量%以上、95質量%以下が好ましく、40質量%以上、95質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上、90質量%以下が最も好ましい。
[酸化銅と銅を含む分散体の調整]
本実施の形態の酸化銅インクは、酸化銅の微粒子の他、銅の粒子を含むことが好ましい。酸化銅の微粒子と銅粒子を含む分散体は、前述の酸化銅分散体に、銅微粒子、必要に応じ分散媒を、それぞれ所定の割合で混合し、例えば、ミキサー法、超音波法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、ホモジナイザー、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ボールミル、サンドミル、自公転ミキサーなどを用いて分散処理することにより調整することができる。
分散媒の一部は既に作成した酸化銅分散体に含まれているため、この酸化銅分散体に含まれている分で充分な場合はこの工程で添加する必要はなく、粘度の低下が必要な場合は必要に応じこの工程で加えればよい。もしくはこの工程以降で加えてもよい。分散媒は前述の酸化銅分散体作製時に加えたものと同じものでも、異なるもの加えてもよい。
この他に必要に応じ、有機バインダ、酸化防止剤、還元剤、金属粒子、金属酸化物を加えてもよく、不純物として金属や金属酸化物、金属塩及び金属錯体を含んでもよい。
また、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子はクラック防止効果が大きいため、単独であるいは球状、サイコロ状、多面体などの銅粒子や他の金属と複数組み合わせて加えてもよく、その表面を酸化物や他の導電性のよい金属、例えば銀などで被覆してもよい。
なお、銅以外の金属粒子で、形状が針金状、樹枝状、鱗片状の一種もしくは複数を加える場合、同様な形状の銅粒子と同様にクラック防止効果を有するため、同様の形状の銅粒子の一部との置き換え、もしくは同様の形状の銅粒子に追加して使うこともできるが、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。銅以外の金属粒子としてとしては、例えば、金、銀、錫、亜鉛、ニッケル、白金、ビスマス、インジウム、アンチモンを挙げることができる。
金属酸化物粒子としては、酸化第一銅を酸化銀、酸化第二銅などに置き換え、もしくは追加して使うことができる。しかしながら、金属粒子の場合と同様に、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。これらの金属粒子及び金属酸化物粒子の添加は、導電膜の焼結、抵抗、導体強度、光焼成の際の吸光度などの調整に用いることができる。これらの金属粒子及び金属酸化物粒子を加えても、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子の存在により、クラックは充分抑制される。これらの金属粒子及び金属酸化物粒子は単独でもしくは二種類以上組み合わせて用いてもよく、形状の制限は無い。例えば銀や酸化銀は、抵抗低下や焼成温度低下などの効果が期待される。
しかしながら、銀は貴金属類でありコストがかさむことや、クラック防止の観点から、銀の添加量は、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子を超えない範囲が好ましい。また、錫は安価であり、また融点が低いため焼結しやすくなるという利点を有する。しかしながら、抵抗が上昇する傾向があり、クラック防止の観点からも、錫の添加量は針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子と酸化第一銅を超えない範囲が好ましい。酸化第二銅はフラッシュランプやレーザなどの光や赤外線を用いた方法では光吸収剤、熱線吸収剤として働く。しかしながら、酸化第二銅は酸化第一銅より還元し難いこと、還元時のガス発生が多いことによる基板からの剥離を防ぐ観点から、酸化第二銅の添加量は酸化第一銅より少ない方が好ましい。
本実施の形態においては、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、酸化銅以外の金属酸化物を含んでいても、クラック防止効果、抵抗の経時安定性向上効果は発揮される。しかしながら、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、並びに酸化銅以外の金属酸化物の添加量としては針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅より少ない方が好ましい。また、針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅に対する、銅以外の金属や針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、酸化銅以外の金属酸化物の添加割合は50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下がよい。
<導電性基板>
本実施の形態に係る導電性パターン領域付構造体の製造方法では、まず、支持体が構成する面の上に電解メッキのためのシード層としての、上述の還元銅を含む導電層を備えた支持体を作成する。以下の説明では、支持体として基板を用いた場合を例に挙げて説明する。また、導電層を備えた基板を導電性基板と呼ぶ。
本実施の形態の導電性基板の製造方法は、本実施の形態に係る酸化銅インクを基板上に塗布して塗布層を形成する工程と、塗布層を部分的に焼成処理(後述)して基板上に導電層を形成する工程と、を具備する。この構成によれば、塗布層を部分的に焼成処理することにより、所望のパターンで導電層を形成できるため、従来のフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。
[導電性基板の構成]
図2に示すように、導電性基板10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、酸化銅インクを塗布した塗布層の一部であって光線を照射していない未焼成領域12と、塗布層の一部であって光線を照射した焼成領域13と、が互いに隣接して配置された単一層14と、を具備することを特徴とする。
ここで、未焼成領域12は、例えば、酸化銅インクを構成する(1)酸化銅及び(2)分散剤を含む。また、焼成領域13は、例えば、酸化銅を還元した銅、すなわち還元銅を含む。
[基板への酸化銅インクの塗布方法]
酸化銅インクを用いた塗布方法について説明する。塗布方法としては特に制限されず、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などの印刷法やインクジェット法、ディスペンサー描画法などを用いることができる。塗布法としては、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、インクジェット、スプレーコート、ディツプコートなどの方法を用いることができる。
[基板又は筐体]
本実施の形態で用いられる基板又は筐体は、特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料で構成される。また、筐体としては、3次元加工された形状であり、使用形態によって様々な形状がある。本発明によると、立体物にも配線が作製できる。
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラスなどのガラスや、アルミナなどのセラミック材料が挙げられる。
有機材料としては、高分子材料、紙、不織布などが挙げられる。高分子材料としては樹脂フィルムを用いることができ、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂などを挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。基板の厚さは、例えば1μm~10mmとすることができ、好ましくは25μm~250μmである。基板の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。
紙としては、一般的なパルプを原料とした上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボールなどの洋紙やセルロースナノファイバーを原料としたものが挙げられる。紙の場合は高分子材料を溶解したもの、もしくはゾルゲル材料などを含浸硬化させたものを使うことができる。また、これらの材料はラミネートするなど貼り合わせて使用してもよい。例えば、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材などの複合基材、テフロン(登録商標)基材、アルミナ基材、低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)、シリコンウェハなどが挙げられる。
[酸化銅を含む塗布層]
塗布層は、例えば、酸化銅及び分散剤並びにヒドラジンを含む。還元剤としてのヒドラジンを用いることで、焼成処理において、酸化銅の還元に寄与し、より抵抗の低い還元銅を含む導電層を作製することができる。
塗布層としての酸化銅インクに含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.0001以上0.1以下が好ましく、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03である。還元剤の質量比率は、0.0001以上だと分散安定性が向上し、かつ導電層の抵抗が低下する。また、0.1以下だと酸化銅インクの長期安定性が向上する。
塗布層中での酸化第一銅を含む微粒子の平均粒子径は、3nm以上、50nm以下、さらに好ましくは5nm以上40nm以下、もっとも好ましくは10nm以上、30nm以下である。平均粒子径が50nm以下だと基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均粒子径が3nm以上であれば、分散体の長期保管安定性が向上するため好ましい。
分散剤の必要量は、酸化銅の量に比例し、要求される分散安定性を考慮し調整する。本実施の形態の酸化銅インクに含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であり、好ましくは0.050以上0.25以下であり、より好ましくは0.10以上0.23である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施の形態の酸化銅インクにおける分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電膜において分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましい。より好ましくは30以上、100以下が好ましい。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。
塗布層の層厚は、均一な導電層を形成できるため、1nm以上、10μm以下が好ましく、100nm以上、5μm以下がより好ましく、200nm以上、1μm以下であることがさらに好ましい。
[焼成処理]
本実施の形態では、塗布層における酸化銅の微粒子を還元してボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある銅を生成させて還元銅を含む導電層を形成する。この工程を焼成処理と呼ぶ。この工程により、導電層がボイド及び炭素を含むことで、導電層とメッキ銅層との密着性及び耐屈曲性が向上する。これは、還元銅を含む導電層の上にメッキされた銅(メッキ銅)がその表面に形成された窪みに入り込みメッキ膜がはがれにくくなるアンカー効果と、還元銅とメッキ銅が同種元素のため、密着性が向上する効果と、還元銅を含む導電層にボイドがあり、そのボイド内に基材の樹脂成分が入りこむことで向上すると予想する。また、耐屈曲性は、導電層とメッキ銅層との密着性が向上するため、向上する。また、導電層に炭素を含むことで、曲げに対し応力緩和し、導電層の耐屈曲性が向上する。
本実施の形態における焼成処理は、プラズマ法、例えば200℃以上の熱をあてる方法、光線を塗布層に照射する方法により行うことができる。光線の照射は、例えば、フラッシュランプ又はレーザを単独もしくは組み合わせて用いた光焼成法で行ってもよい。
[光焼成法]
光焼成法は、光源としてキセノンなどの放電管を用いたフラッシュ光方式やレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基板上に塗布した酸化銅インクを短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、酸化銅の還元、銅粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電膜を形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基板へのダメージが少ない方法で、耐熱性の低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基板上に形成された酸化銅インクに照射することにより酸化銅を瞬時に高温に加熱し、導電膜に変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、回数で調整可能であり基板の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えば、PET、PENや紙などへも、酸化銅インクによる導電層の形成が可能となる。
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いても同様な効果が得られる。レーザの場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、パターンを形成した酸化銅インクの光吸収波長や基板の吸収波長を考慮し選択することも可能である。またビームスキャンによる露光が可能であり、基板全面への露光、もしくは部分露光の選択など、露光範囲の調整が容易であるといった特徴がある。レーザの種類としては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガスなどを用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
特に、レーザ光を用いる場合、その中心波長は、300nm以上1500nm以下が好ましい。例えば、中心波長が、355nm以上532nm以下であると、酸化銅を含む塗布膜が吸収する領域であるため、好ましい。基板や筐体が樹脂の場合、特に好ましくは、中心波長が、355nm、405nm、445nm、450nm、532nmのレーザ波長である。
また、レーザ光の発振モードは連続波発振(Continuous Wave:CW)であっても、パルス発振であっても良く、適宜選択することが出来る。パルス発振を選択する際は、パルス幅が1~100ナノ秒であることが好ましく、5~80ナノ秒であることがより好ましく、10~50ナノ秒であることがさらに好ましい。この範囲を選択することで、塗布膜がアブレーションすることなく適切に焼成を行うことができる。
還元銅を含む導電層のボイド及び粒界は、焼成反応時における還元銅の温度状態によって変化するため、照射するレーザ光のエネルギー量と走査速度を変えることによってボイド及び粒界をコントロールすることができる。例えば、エネルギー量を高くして走査速度を下げると熱量が多くなりボイドの割合が増加し、粒界は減少する。適宜組み合わせることでボイド及び粒界をコントロールすることができる。
レーザ光のエネルギー量は、塗布層の厚み1μmあたりに対して、パルスレーザーであれば、1パルスのエネルギー量が5mJ/cm2以上、100mJ/cm2以下が好ましく、10mJ/cm2以上、70mJ/cm2以下がより好ましく、15mJ/cm2以上、50mJ/cm2以下がさらに好ましく、20mJ/cm2以上、40mJ/cm2以下が最も好ましい。
CWレーザであれば、0.5kW/cm2以上、60kW/cm2以下が好ましく、0.7kW/cm2以上、45kW/cm2以下がより好ましく、1kW/cm2以上、30kW/cm2以下がさらに好ましく、1.2kW/cm2以上、15kW/cm2以下が最も好ましい。
走査速度は、1mm/秒以上、1000mm/秒以下が好ましく、2mm/秒以上、500mm/秒以下がより好ましく、3mm/秒以上、300mm/秒以下がさらに好ましく、5mm/秒以上、100mm/秒以下が最も好ましい。
酸化銅を含む塗布層にレーザを照射して得られる還元銅を含む導電層の厚みは、均一な導電層を形成し、めっき処理を好適に行うことができるため、1nm以上、10μm以下が好ましく、10nm以上、5μm以下がより好ましく、50nm以上、3μm以下であることがさらに好ましい。
光線の選択的な照射は、塗布層の一部の領域に光線を照射することをいう。光線の選択的な照射は、例えば、フラッシュ光方式及びレーザ光方式においてマスクを介して光線を塗布層に照射すること、及び、レーザ光方式においてビームスキャンにより塗布層に所望のパターンを直接描画することにより行うことができる。
本実施の形態における焼成処理は、支持体が構成する面が平面でなくてもよい。例えば、支持体が3次元の筐体でも適用できる。
図3を参照して、本実施の形態に係る導電性基板の製造方法について、より具体的に説明する。図3中(a)において、水、プロピレングリコール(PG)の混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンを加えて攪拌する。
次に、図3中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。次に、図3中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤としてリン含有有機物及びアルコールを加え、分散する。
次いで、図3中(e)、(f)において、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、酸化銅を含有する分散体I(酸化銅インク)を得る。
図3中(g)、(h)において、分散体Iをスプレーコート法により例えばPET製の基板(図3(h)中、「PET」と記載する)上に塗布し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗布層(図3(h)中、「Cu2O」と記載する)を形成する。
次に、図3中(i)において、塗布層に対して選択的な光照射を行い、塗布層の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅(図3(i)中、「Cu」と記載する)に還元する。この結果、図3中(j)において、基板上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁領域(図3(j)中、「A」と記載する)と、還元銅を含む導電層(図3(j)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された単一層が形成された導電性基板10(図2参照)が得られる。
[未焼成領域の除去]
図2に示す未焼成領域12は、適切な洗浄液を用いて除去してもよい。この場合、基板11の上に焼成領域13だけが残された導電性基板が得られる。
[樹脂層]
本実施の形態においては、塗布層上に樹脂層を配置した後、光線を、樹脂層を透過させて塗布層に照射してもよい。すなわち、図2に示す導電性基板10において、単一層14の表面を覆うようにして樹脂層が配置されていてもよい。
(酸素バリア層)
樹脂層の一例は、酸素バリア層である。酸素バリア層は、光照射の際に塗布層が酸素に触れるのを防止し、酸化銅の還元を促進できる。これにより、光照射のときに塗布層の周囲を無酸素又は低酸素雰囲気にする、例えば、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気のための設備が不要になり、製造コストを削減できる。
また、酸素バリア層は、光照射の熱等によって焼成領域13が剥離又は飛散するのを防止できる。これにより、導電性基板10を歩留まりよく製造できる。
酸素バリア層は、焼成処理の後に剥離されてもよい。その場合、その後未焼成領域12が上述のように除去される。
(封止材層)
樹脂層の他の例は、封止材層である。封止材層は、酸素バリア層を除去した後に新たに配置される。
酸素バリア層は、主に製造時に重要な働きをする。これに対して、封止材層は、製造後の完成品(導電性パターン領域付構造体そのもの及びそれを含む製品)において、導電性パターン領域を外部からのストレスから保護し、導電性パターン領域付構造体の長期安定性を向上することができる。
この場合、樹脂層の一例である封止材層は、透湿度が1.0g/m2/day以下であることが好ましい。これは、長期安定性を確保するものであって、透湿度を十分低くすることで、封止材層の外部からの水分の混入を防ぎ、導電性パターン領域の酸化を抑制するためである。
封止材層は、酸素バリア層を剥離した後に、導電性パターン領域付構造体に機能を与える機能層の一例であり、これ以外にも、導電性パターン領域付構造体を取り扱った際の耐傷性を持たせたり、外界からの汚染から守るために防汚性を持たせたり、強靭な樹脂を用いることで導電性パターン領域付構造体に剛性を持たせることもできる。
<無電解メッキ>
上述のようにして得られた導電性基板の、還元銅を含む導電層上に、ボイド及び炭素が含まれ、かつ、粒界のある還元銅を触媒とした無電解メッキを施し、所望の層厚にメッキ銅層を配置し、導電層及びメッキ銅層で構成された導電性パターンを得る。この結果、導電性パターン領域付構造体を製造することができる。ここで無電解メッキによるメッキ銅層は、下地層である導電層よりも銅粒子の粒界が少ないことが、より抵抗が低くなる点で好ましい。粒界が少ないとは、粒子形状が大きく、銅粒子が成長した状態であり、断面SEMやTEM観察により確認できる。
無電解メッキには、一般的な無電解メッキ法を適用することができる。例えば、無電解メッキ法では、無電解メッキ液に含まれるホルムアルデヒドなどの還元剤が触媒表面で酸化するときに放出される電子によって銅イオンが還元析出され、銅皮膜が形成される。本実施の形態においては、前述の還元銅が触媒として作用するため、還元銅の表面に銅が析出し、メッキ銅層が形成される。
一方、通常産業的に用いられる無電解メッキ法によれば、樹脂などの基材表面にパラジウム触媒を配位させ、無電解メッキ液に含まれるホルムアルデヒドなどの還元剤がパラジウム触媒表面で酸化するときに放出される電子によって銅イオンが還元析出され、銅皮膜が形成される。この方法に依れば、高額なパラジウム触媒を基材表面に配位させる必要が生じてしまう。
本実施の形態においては、還元銅が触媒として作用するため、高額なパラジウム触媒を配位させる必要がない。
<電解メッキ>
上述のようにして得られた導電性基板の、還元銅を含む導電層上に電解メッキを施し、所望の層厚にメッキ銅層を配置し、導電層及びメッキ銅層で構成された導電性パターンを得る。この結果、導電性パターン領域付構造体を製造することができる。ここで電解メッキによるメッキ銅層は、下地層である導電層よりも粒界が少ないことが、より抵抗が低くなる点で好ましい。
電解メッキには、一般的な電解メッキ法を適用することができる。例えば、電解メッキ法では、銅イオンを含む溶液(メッキ浴)中に、一方に電極を入れ、他方にメッキを施す対象である導電性基板を入れる。そして、外部直流電源から直流を電極及び導電性基板の間に印加する。本実施の形態においては、導電性基板上の導電層に、外部直流電源の一方の電極に接続された、例えば、クリップのような治具を接続することで、導電層に電流を印加する。この結果、導電性基板上の導電層の界面に銅イオンが還元され、銅が析出し、メッキ銅層が形成される。
メッキ銅層の層厚は、必要な電流を流すことが可能であるため、1μm以上50μm以下であることが好ましい。
<導電性パターン領域付構造体>
図4は、本実施の形態に係る導電性パターン領域付構造体を示す断面模式図である。図4に示すように、導電性パターン領域付構造体20は、支持体の一例である基板11、及び、基板11が構成する面上に配置された、導電層である上述の焼成領域13と、焼成領域13上に、還元銅を触媒とした無電解メッキ又は電解メッキにより配置されたメッキ銅層21とで構成された導電性パターン領域22を具備する。
最後により密着性を向上させる目的で、フィルム又は構造体に圧力をかけることが好ましい。この工程は、還元銅形成直後又はメッキ銅形成後に行うことが好ましい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[ヒドラジン定量方法]
標準添加法によりヒドラジンの定量を行った。
サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
同じく、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
最後に、サンプル(銅ナノインク)50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15N2H4)33μg、ベンズアルデヒド1%アセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、標準添加法による検量線を得た。
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除しヒドラジンの重量を得た。
[粒子径測定]
分散体の平均粒子径は大塚電子製FPAR-1000を用いてキュムラント法によって測定した。
(実施例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2-プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を-5℃にした。ヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235g(製)を20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、90分間攪拌した。攪拌後、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DISPERBYK-145(ビッグケミー製)13.7g(分散剤含有量4g)、サーフロンS611(セイミケミカル製)54.6g、及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液1365gを得た。
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有量は20gであり、粒子径は21nmであった。ヒドラジン量は3000ppmであった。
得られた分散液を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、40℃のオーブンで2時間保持して塗膜内の溶媒を揮発させて試料1を得た。得られた試料1の塗膜厚は10μmであった。
ガスバノスキャナを用いて、最大速度300mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長445nm、出力1.2W、連続波発振(Continuous Wave:CW))を、試料1の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、15μΩcmであった。
次に、導電層が形成された試料1に電解メッキ処理を施すことによって、導電性パターン領域の上に銅を積層した。電解メッキ処理液は、ENTHONE社製硫酸銅メッキ液SC-50を用い、電流値0.1Aを10分間流して処理した。積層された銅(導電性パターン領域)の厚みは約10μmであった。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.8μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例2)
電解メッキ処理の電流値を0.3Aにすること以外は実施例1と同様の操作を施すことで、電解メッキ処理によって導電層の上に銅を積層した。積層された銅の厚みは約50μmであった。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、4μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例3)
実施例1に記載の操作を施すことによって試料1を得た後に、塗膜の上に樹脂層としてPETフィルムを、アクリル微粘着層を介して配置したこと以外は、実施例1のレーザ光照射と同様の操作を施すことによって、レーザ光を樹脂層を透過させて照射し、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。その後、アクリル微粘着層を剥離し、実施例1と同様の操作を施すことで、電解メッキ処理によって導電層の上に銅を積層した。積層された銅の厚みは約10μmであった。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.8μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例4)
実施例1に記載の操作を施すことによって導電層を得た後、レーザ光を照射しなかった領域に残った塗布層をエタノールを用いて洗浄除去した。その後、実施例1に記載の操作を施すことで、電解メッキ処理によって導電層の上に銅を積層した。積層された銅の厚みは約10μmであった。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.8μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例5)
実施例4に記載の操作において、エタノールを1%濃度の2-アミノエタンチオール水溶液に代えて洗浄除去の操作を行った以外は、実施例4と同様の操作を施すことで、電解メッキ処理によって導電層の上に銅を積層した。積層された銅の厚みは約10μmであった。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、4μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例6)
ガスバノスキャナを用いて、最大速度100mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長532nm、出力0.23W、パルス波繰返し周波数300kHz、パルス幅30ナノ秒)を、試料1の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、11μΩcmであった。
次に、導電層が形成された試料1に電解メッキ処理を施すことによって、導電層の上に銅を積層した。電解メッキ処理液は、メルテックス社製アルカリ性銅メッキ液CF-2170を用い、銅の厚みが10μmになるまで電流値0.05Aを印加した。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.3μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例7)
実施例1で得られた分散液を、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、カプトン500H、厚み125μm)にスピンコート法によって塗布し、90℃のオーブンで2時間保持して塗膜内の溶媒を揮発させて試料2を得た。得られた試料2の塗膜厚は8μmであった。
ガスバノスキャナを用いて、最大速度25mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長532nm、出力0.71W、パルス波繰返し周波数300kHz、パルス幅30ナノ秒)を、試料2の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、14μΩcmであった。
次に、導電層が形成された試料2に電解メッキ処理を施すことによって、導電層の上に銅を積層した。電解メッキ処理液は、メルテックス社製アルカリ性銅メッキ液CF-2170を用い、銅の厚みが20μmになるまで電流値0.05Aを印加した。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.0μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例8)
実施例1で得られた分散液を、ガラス基板(ショット社製、テンパックスフロート、厚み0.7mm)にスピンコート法によって塗布し、60℃のオーブンで2時間保持して塗膜内の溶媒を揮発させて試料3を得た。得られた試料3の塗膜厚は1μmであった。
ガスバノスキャナを用いて、最大速度25mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長532nm、出力0.65W、パルス波繰返し周波数300kHz、パルス幅30ナノ秒)を、試料3の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、10μΩcmであった。
次に、導電層が形成された試料3に電解メッキ処理を施すことによって、導電層の上に銅を積層した。電解メッキ処理液は、メルテックス社製アルカリ性銅メッキ液CF-2170を用い、銅の厚みが10μmになるまで電流値0.05Aを印加した。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.2μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例9)
ガスバノスキャナを用いて、最大速度100mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長355nm、出力0.16W、パルス波繰返し周波数320kHz、パルス幅25ナノ秒)を、試料1の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、16μΩcmであった。
次に、導電層が形成された試料1に電解メッキ処理を施すことによって、導電層の上に銅を積層した。電解メッキ処理液は、メルテックス社製アルカリ性銅メッキ液CF-2170を用い、銅の厚みが10μmになるまで電流値0.05Aを印加した。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.5μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例10)
ガスバノスキャナを用いて、最大速度100mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長532nm、出力0.4W、連続波発振(Continuous Wave:CW))を、試料1の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、16μΩcmであった。
次に、導電層が形成された試料1に電解メッキ処理を施すことによって、導電層の上に銅を積層した。電解メッキ処理液は、メルテックス社製アルカリ性銅メッキ液CF-2170を用い、銅の厚みが10μmになるまで電流値0.05Aを印加した。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.6μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例11)
実施例6に記載の操作を施すことによって導電層を得た後、レーザ光を照射しなかった領域に残った塗布層を水を用いて洗浄除去した。その後、実施例6に記載の操作を施すことで、電解メッキ処理によって導電層の上に銅を積層した。積層された銅の厚みは約10μmであった。
積層された銅の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、3.6μΩcmであった。電気回路を形成するのに十分低い抵抗値であることが示された。
(実施例12)
実施例8に記載の試料3の塗膜(酸化銅フイルム)(厚み1μm)を使い、導電層を作成した。すなわち、ガスバノスキャナを用いて、最大速度100mm/秒で焦点位置を動かしながらレーザ光(中心波長445nm、出力1.2W、CWレーザ)を、試料3の塗布層に照射することで、所望とする25mm×1mmの寸法の銅を含む導電層を得た。レーザ光を照射しなかった領域には塗膜が残っていた。
導電層の抵抗値を4端子測定法によって測定したところ、15μΩcmであった。
次に導電層の断面観察を行ため、試料を剃刀で粗加工し、基材裏側からBIB(Broad Ion Beam)加工で観察断面を作製した。その断面を走査電子顕微鏡(SEM、装置:FE-SEM:日立ハイテク S-4700 加速電圧5kV)を用いて観察した。その結果を図5に示す。
なお、本発明は、上記実施の形態や実施例に限定されるものではない。当業者の知識に基づいて上記実施の形態や実施例に設計の変更等を加えてもよく、また、上記実施の形態や実施例を任意に組み合わせてもよく、そのような変更等を加えた態様も本発明の範囲に含まれる。