以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
[1.第1の実施の形態]
[1-1.現金自動預払機及び硬貨処理装置の構成]
図1に外観を示すように、自動取引装置としての現金自動預払機1は、箱状の筐体2を中心に構成されており、例えば金融機関や各種商業施設等に設置され、使用者(すなわち金融機関や商業施設の顧客等)との間で、入金処理や出金処理等の現金に関する取引を行う。
筐体2は、その前側に使用者が対峙した状態で紙幣の投入やタッチパネルによる操作等をしやすい箇所に応対部3が設けられている。応対部3は、使用者との間で例えば現金やカード等を直接やり取りすると共に、取引に関する情報の通知や操作指示の受付を行うようになっており、カード入出口4、硬貨入出金口5、操作表示部6、テンキー7、及びレシート発行口8が設けられている。
カード入出口4は、キャッシュカード等の各種カードが挿入または排出される部分である。カード入出口4の奥側には、各種カードに磁気記録された口座番号等の読み取りを行うカード処理部(図示せず)が設けられている。硬貨入出金口5は、使用者によって入金される硬貨が投入されると共に、使用者へ出金する硬貨が排出される部分である。また硬貨入出金口5は、シャッタを駆動することにより開放又は閉塞するようになっている。因みに応対部3には、使用者により入金される紙幣が投入されると共に該使用者へ出金する紙幣が排出される紙幣入出金口(図示せず)等も設けられている。
操作部としての操作表示部6は、取引に際して操作画面や取引内容等を表示する液晶表示パネルと、使用者の入力操作を検知するタッチセンサとが一体化されたタッチパネルである。テンキー7は、「0」~「9」の数字等の入力を受け付ける物理キーであり、暗証番号や取引金額等の入力操作時に用いられる。レシート発行口8は、取引処理の終了時に取引内容等を印字したレシートを発行する部分である。
以下では、現金自動預払機1のうち使用者が対峙する側を前側とし、その反対を後側とし、当該前側に対峙した使用者から見て左及び右をそれぞれ左側及び右側とし、さらに上側及び下側を定義して説明する。
筐体2の内部には、現金自動預払機1全体を統括制御する主制御部9や、取引対象である硬貨に関する種々の処理を行う硬貨処理装置10、及び紙幣に関する種々の処理を行う紙幣処理装置(図示せず)等が設けられている。主制御部9は、図示しないCPU(Central Processing Unit)を中心に構成されており、図示しないROM(Read Only Memory)やフラッシュメモリ等から所定のプログラムを読み出して実行することにより、入金処理や出金処理等の種々の処理を行う。また主制御部9は、内部にRAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブやフラッシュメモリ等でなる記憶部を有しており、この記憶部に種々の情報を記憶させる。
[1-2.硬貨処理装置の構成]
硬貨処理装置10は、図2に模式的な右側面図を示すように、硬貨処理装置筐体11の内部に、硬貨に関する種々の処理を行う複数の部分が組み込まれている。この硬貨は、例えば銅及びニッケルの合金やアルミニウム等、十分な強度を有する種々の材料でなり、薄い円板状に形成されている。因みに硬貨処理装置10では、直径が異なる複数種類の硬貨を取り扱うことが想定されている。以下では、取り扱う中で最も直径が大きい硬貨を最大径硬貨と呼び、また最も直径が小さい硬貨を最小径硬貨と呼ぶ。
硬貨処理装置筐体11の内部には、比較的上側ないし中央付近に、硬貨制御部12、入出金部13、シュート部14、上分離部15、認識搬送部16、受渡部17、ピンベルト搬送部18、6個のスタッカ部21、出金搬送部22、及び一時保留部23が設けられている。また硬貨処理装置筐体11の内部には、比較的下側に、補充回収庫24、第1補充リジェクト庫25、第2補充リジェクト庫26、リジェクト庫27、取忘取込庫28及び下分離部29が設けられている。
硬貨制御部12は、主制御部9と同様、図示しないCPUを中心に構成されており、図示しないROMやフラッシュメモリ等から所定のプログラムを読み出して実行することにより、入金取引や出金取引等に関する種々の処理を行い、硬貨処理装置10を統括制御する。また硬貨制御部12は、内部にRAM及びフラッシュメモリ等でなる記憶部を有しており、この記憶部に種々の情報を記憶させる。
入出金部13は、使用者との間で硬貨を受け渡すことにより、該使用者に硬貨を入金させ、又は該使用者に硬貨を出金する。該入出金部13は、上側に開口部を有し硬貨を収容する収容器13A、該開口部を開閉するシャッタ13B等、及び収容器13A内における硬貨の有無等を検知するセンサ(図示せず)を有している。
入出金部13は、シャッタ13Bを開放した状態で使用者により硬貨が収容器13Aに投入されると、該シャッタ13Bを閉塞し、硬貨を収容器13A内からシュート部14に引き渡して該シュート部14内を下降させ、上分離部15内に到達させる。また入出金部13は、シャッタ13Bを閉塞した状態で、後述するピンベルト搬送部18から硬貨が搬送されてくると、該硬貨を収容器13A内に収容した後、シャッタ13Bを開放して利用者に受け取らせる。
上分離部15は、硬貨を集積すると共に、この硬貨を1枚ずつに分離して上方向へ搬送し、さらに後方向へ搬送して認識搬送部16に引き渡す。認識部としての認識搬送部16は、シュート部14の右側に位置しており、硬貨を搬送しながら撮像し、得られた画像信号を基に当該硬貨の金種や真偽、或いは損傷の程度等を基に当該硬貨が取扱可能であるか否かを判定する。そのうえで認識搬送部16は、得られた判定結果を当該硬貨の認識結果として硬貨制御部12に通知すると共に、当該硬貨を受渡部17に引き渡す。受渡部17は、認識搬送部16から受け取った硬貨をピンベルト搬送部18に引き渡す。
搬送部としてのピンベルト搬送部18は、スタッカ部21の前側下部、下側、後側及び上側を取り囲むように搬送経路Wを形成している。ピンベルト搬送部18は、硬貨の盤面と当接し搬送経路Wに沿って進行するよう案内する搬送ガイドと、概ね該搬送経路Wに沿って走行するピンベルトとにより構成されている。このピンベルトには、硬貨の末尾側から搬送方向へ付勢するピンが設けられている。ピンベルト搬送部18は、ピンベルトを走行させることにより、受渡部17から受け取った硬貨を搬送経路Wに沿って搬送し、入出金部13の収容器13A内へ放出することができる。
またピンベルト搬送部18には、スタッカ部21の前側下部及び下側に配置された部分に、硬貨の搬送経路を分岐させる分岐部19(19A、19B、19C、19D、19E及び19F)が設けられている。各分岐部19の左側には、硬貨を案内する案内部30(30A、30B、30C、30D、30E及び30F)が設けられている。
案内部30A、30B、30C、30D及び30Eは、それぞれ補充回収庫24、第1補充リジェクト庫25、一時保留部23、リジェクト庫27及び取忘取込庫28へ硬貨を進行させる。また案内部30Fは、補充回収庫24が硬貨処理装置筐体11(図2)の後側に取り付けられた場合(詳しくは後述する)に、該補充回収庫24へ硬貨を進行させる。また案内部30Bには、分岐部19Gが設けられており、その左側に硬貨を第2補充リジェクト庫26へ案内する案内部30Gが設けられている。各分岐部19は、それぞれ回動可能な案内板及びアクチュエータ等(図示せず)を有しており、硬貨制御部12の制御に基づいて案内板を回動させることにより、硬貨を引き続きピンベルト搬送部18に沿って進行させるか、或いは各案内部30へ分岐させるかを切り替える。
さらにピンベルト搬送部18には、6個のスタッカ部21のそれぞれ上側となる6箇所に、スタッカ分岐部20が設けられている。各スタッカ分岐部20の左側には、硬貨をスタッカ部21へ案内する案内部が設けられている。各スタッカ分岐部20は、各分岐部19と同様に構成されており、硬貨制御部12の制御に基づいて案内板を回動させることにより、硬貨を引き続きピンベルト搬送部18に沿って進行させるか、或いは各スタッカ部21へ分岐させるかを切り替える。
スタッカ部21は、それぞれ所定の金種の硬貨と対応付けられており、上側に設けられた案内部と、該案内部の下側において硬貨を上下方向に沿って積み重ねるように集積する集積部と、該集積部の下側から硬貨を繰り出す繰出部とを有している。このスタッカ部21は、ピンベルト搬送部18により搬送された硬貨をスタッカ分岐部20から受け取ると、該硬貨を案内部により集積部へ案内して集積させる。またスタッカ部21は、硬貨制御部12の制御に基づき、集積部に集積している硬貨を1枚ずつ繰り出し、下方の出金搬送部22又は一時保留部23へ落下させる。
出金搬送部22は、ピンベルト搬送部18の右側に位置しており、上側及び前側が開放された中空の直方体のように構成され、内部に硬貨を収容し得る空間を形成している。また出金搬送部22は、底部にベルトやプーリ等でなるベルト搬送機構が組み込まれており、スタッカ部21から繰り出された硬貨をベルト上に載置若しくは集積する。この出金搬送部22は、ベルトの上に硬貨が載置若しくは集積された状態で、該ベルトの上側部分を前方へ向けて走行させることにより、該硬貨を前側の一時保留部23へ落下させる。
一時保留部23は、出金搬送部22の後端を下げると共に前端を持ち上げ、さらに左右の側板を三角形状としたような構成となっており、その内部に硬貨を収容する空間を形成すると共に、底部にベルト搬送機構が組み込まれている。このため一時保留部23は、スタッカ部21から繰り出された硬貨や出金搬送部22から搬送されてきた硬貨を、内部空間のベルト上に載置若しくは集積させる。また一時保留部23は、ベルトの上に硬貨が載置若しくは集積された状態で、該ベルトの上側部分を前斜め上方へ向けて走行させることにより、該硬貨を前側の上分離部15へ繰り出し、その内部へ落下させる。
ところで硬貨処理装置筐体11の下部前側及び下部後側には、前装填部11CF及び後装填部11CRが設けられている。硬貨処理装置筐体11は、前装填部11CF及び後装填部11CRのうち何れか一方に補回カセット31が装着され、他方にリジェクトカセット32が装着される。
例えば硬貨処理装置10は、図2に示したように、前装填部11CFに補回カセット31が装着され、後装填部11CRにリジェクトカセット32が装着された状態(以下これを前面機と呼ぶ)に構成される。また硬貨処理装置10では、前装填部11CFにリジェクトカセット32が装着され、後装填部11CRに補回カセット31が装着された状態(図示せず、以下これを後面機と呼ぶ)に構成することもできる。
補回カセット31は、内部が適宜仕切られることにより、補充回収庫24、第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26が形成されている(詳しくは後述する)。またリジェクトカセット32は、内部が適宜仕切られることにより、リジェクト庫27及び取忘取込庫28が形成されている。
硬貨集積庫としての補充回収庫24は、内部に硬貨を集積する集積部や、該集積部に集積されている硬貨を搬送する搬送機構等を有している。この補充回収庫24は、案内部30Aにより案内されてきた硬貨を集積し、また内部に集積している硬貨を後方へ繰り出して下分離部29に引き渡す(詳しくは後述する)。第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26は、それぞれ内部に硬貨を集積する空間を有しており、案内部30B及び30Gにより案内されてきた硬貨を集積する。リジェクト庫27及び取忘取込庫28は、それぞれ内部に硬貨を集積する空間を有しており、それぞれ案内部30D及び30Eにより案内されてきた硬貨を集積する。
[1-3.補充回収庫の構成]
次に、補充回収庫24の構成について説明する。上述したように、補充回収庫24は、補回カセット31の一部として形成されている。補回カセット31は、図3に模式的な斜視図を示すと共に図4に模式的な右側面図を示すように、本体部51の上側に蓋体部52が設けられた構成となっている。
本体部51は、上側が開放された中空の直方体状に構成されている。蓋体部52は、長方形の板状に形成されており、本体部51の前側に位置する前側板の上端近傍に対し、所定の蝶番を介して取り付けられている。これにより蓋体部52は、本体部51に対して回動することにより、該本体部51の上側を開放又は閉塞することができる。
本体部51は、後上側に抑制部としての仕切板53が設けられている。抑制部としての仕切板53は、例えば板状の材料が屈曲されて前側の前仕切板53F及び下側の下仕切板53Lを形成しており、右側から見て英大文字の「L」を描くような姿勢で、本体部51に取り付けられている。これにより本体部51は、内部の空間が仕切板53の前側ないし下側を占める部分と、該仕切板53の後上側を占める部分とに区分されている。さらに本体部51には、仕切板53の上後側に、左右方向の略中央となる位置に、左右方向に薄い板状でなる副仕切板54が取り付けられている。
かくして本体部51は、仕切板53の前側ないし下側の部分が補充回収庫24となり、該仕切板53の後側ないし上側における副仕切板54の右側部分が第1補充リジェクト庫25となり、該仕切板53の後側ないし上側における副仕切板54の左側部分が第2補充リジェクト庫26となっている。説明の都合上、以下では第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26を第2集積部とも呼ぶ。
因みに蓋体部52には、案内部30A(図2)の下端近傍となり且つ補充回収庫24の天井部分に相当する箇所に、硬貨を通過させるための通過孔が穿設されている。これと同様に蓋体部52には、案内部30B及び30Gの下端近傍となり且つ第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26の天井部分に相当するそれぞれの箇所にも、硬貨を通過させるための通過孔がそれぞれ穿設されている。
補充回収庫24における下端近傍には、搬送ベルト部55が設けられている。搬送ベルト部55は、従動プーリ61、駆動プーリ62及びテンションプーリ63といった3個のプーリと、従動プーリ61及び駆動プーリ62の間に配置されたベルトガイド64と、3個のプーリの周囲に張架されたベルト65とにより構成されている。
従動プーリ61は、補充回収庫24における前下端近傍に配置されており、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されている。この従動プーリ61は、本体部51により回転可能に支持されている。
駆動プーリ62は、補充回収庫24における後側の中央付近であり、仕切板53の下面よりも低く、且つ従動プーリ61よりも高い位置に配置されている。この駆動プーリ62は、従動プーリ61と同様に中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されると共に、本体部51により回転可能に支持されている。さらに駆動プーリ62は、図示しないモータから駆動力が供給されることにより、図4において矢印R1又はR2により示す方向、すなわち時計回り又は反時計回りに回転する。
テンションプーリ63は、上下方向に関して従動プーリ61と同等の位置(すなわち高さ)であり、且つ前後方向に関して駆動プーリ62よりも前側であり、且つ仕切板53の下側となる位置に配置されている。このテンションプーリ63は、従動プーリ61と同様に、中心軸を左右方向に沿わせた円柱状に形成されると共に、回転可能に支持されている。さらに従動プーリ61は、図示しない付勢部材により、後方向ないし下方向に付勢されている。
ベルトガイド64は、本体部51の左側板及び右側板における内側面にそれぞれ設けられている。このベルトガイド64は、前後方向に十分に長く、且つ左右方向に十分に短い板状の部材でなり、従動プーリ61の上端近傍から後方へ進行した後、仕切板53の下側に位置する屈曲部64Cにおいて後斜め上方へ屈曲され、やがて駆動プーリ62の上端近傍に到達している。
ベルト65は、無端状且つ幅広のベルトであり、ゴム等の可撓性を有する材料により構成されている。因みにベルト65における左右方向の長さは、最大径硬貨(硬貨処理装置10において取り扱うなかで直径が最も大きい硬貨)の直径の2倍よりもやや大きくなっている。すなわちベルト65は、その上面において、左右方向に2枚程度の硬貨を並べることができる。
このベルト65は、従動プーリ61、駆動プーリ62及びテンションプーリ63の周囲を周回するように張架されており、且つ従動プーリ61及び駆動プーリ62の間において、左右方向の両端近傍部分が、ベルトガイド64の下側に当接するように配置されている。
かかる構成により搬送ベルト部55は、ベルト65の上面により、補充回収庫24の内部に形成される空間(以下これを集積空間56又は集積部と呼ぶ)の底面を形成する。すなわち補充回収庫24は、案内部30A(図2)により硬貨が案内されてくると、この硬貨を蓋体部52の通過孔から集積空間56内へ通過させ、ベルト65上に載置させ、若しくは他の硬貨と共に集積させる。因みに補充回収庫24では、内側面を形成する部材が適宜設けられており、硬貨が部品同士の隙間等に入り込むことを防止している。
また搬送ベルト部55は、図示しないモータから駆動プーリ62に駆動力が供給されると、該駆動プーリ62を図4における時計回りとなる矢印R1方向へ回転させ、これに伴ってベルト65を矢印E1で示す方向(以下これを順方向とも呼ぶ)に走行させる。これにより搬送ベルト部55は、ベルト65上に載置若しくは集積されている硬貨を後方向へ搬送することができる。
因みに搬送ベルト部55は、駆動プーリ62を反時計回りとなる矢印R2方向へ回転させた場合、ベルト65を矢印E2で示す方向(以下これを逆方向とも呼ぶ)に、すなわち矢印E1と反対方向に走行させる。これにより搬送ベルト部55は、ベルト65上に載置若しくは集積されている硬貨を前方向へ搬送することができる。
ところでベルト65は、従動プーリ61の上端近傍からベルトガイド64の屈曲部64Cの近傍までの範囲において、ほぼ水平な平面を形成する一方、該屈曲部64Cの近傍から駆動プーリ62の上端近傍までの範囲において、後側が高い傾斜面を形成している。説明の都合上、以下では、ベルト65における屈曲部64Cよりも前側の部分及び後側の部分を、それぞれベルト平坦部65F及びベルト傾斜部65Sと呼ぶ。また、ベルト65のうちベルトガイド64の屈曲部64Cにより屈曲されている部分をベルト屈曲部65Cとも呼ぶ。さらに以下では、搬送ベルト部55のうちベルト平坦部65Fに相当する部分を平坦搬送ベルト部55Fと呼び、ベルト傾斜部65Sに相当する部分を傾斜搬送ベルト部55Sと呼ぶ。
他の観点から見ると、補充回収庫24(図4)では、放出口57を基準とした前後方向の位置に関し、ベルト平坦部65F及びベルト傾斜部65Sの境界であるベルト屈曲部65Cが、下仕切板53Lの下面における前端近傍から下方の位置に配置されている。さらに詳細に見ると、補充回収庫24では、該ベルト屈曲部65Cが、仕切板53において放出口57から最も遠い部分である前仕切板53Fよりも後側に、すなわち放出口57に近い位置にある。
このような構成により、補充回収庫24は、ベルト65を矢印E1の方向へ走行させた場合、該ベルト65上に載置若しくは集積された硬貨を、ベルト平坦部65Fにおいては後方向へほぼ水平に搬送し、ベルト傾斜部65Sにおいて後斜め上方向へ持ち上げながら搬送する。このベルト傾斜部65Sは、水平方向に対する傾斜角度が所定の搬送傾斜角度α(例えば約35[°])となっている。
また、図4におけるA1-A2断面図を図5に示すように、ベルト65の表面(すなわち外周面)には、周囲よりも外方へ突出した突起66が複数設けられている。突起66は、ベルト65の幅方向に関して互いに離隔した4箇所に配置され、且つベルト65の走行方向に関して所定間隔ごとに配置されている。すなわちベルト65の表面には、周方向に沿って所定間隔ごとに離隔した突起66が、左右方向に4列並ぶように、すなわち格子状に配置されている。この突起66は、ベルト65が走行する際に硬貨CNを引っ掛けることにより、該硬貨CNを該ベルト65と共に進行させることができる。
因みに搬送ベルト部55では、左右方向に関する突起66同士の間隔が、最小径硬貨(硬貨処理装置10において取り扱うなかで直径が最も小さい硬貨)の直径よりも短くなっている。このため搬送ベルト部55は、突起66同士の隙間から硬貨CNをすり抜けさせることなく、確実に引っ掛けることができる。
突起66は、ベルト平坦部65Fにおける拡大した側面図を図6(A)に示すように、左右方向から見て台形状に形成されている。突起66では、ベルト65が順方向へ走行する場合の進行方向側である後側部分を形成する第1傾斜面71が、ベルト65の表面に対して所定の突起第1傾斜角度β(例えば約65[°])をなすように設定されている。この突起第1傾斜角度βは、搬送傾斜角度αよりも十分に大きく、且つベルト65の表面に対して垂直である90[°]よりも小さい角度となるよう、選定されている。
また突起66では、台形における上底に相当する上面72が、ベルト65の表面とほぼ平行な平面として形成されている。さらに突起66では、ベルト65が逆方向へ走行する場合の進行方向側となる前側部分を形成する第2傾斜面73が、ベルト65の表面に対して所定の突起第2傾斜角度γ(例えば約30[°])をなすように設定されている。
この突起66は、ベルト65の走行に伴ってベルト傾斜部65Sに到達すると、図6(B)に示すように、反時計回りに搬送傾斜角度αだけ傾いた姿勢となる。このとき第1傾斜面71は、水平方向(図中に水平補助線LHとして表す)に対して角度(β-α)だけ傾斜した状態となる。
このような関係を踏まえて、搬送ベルト部55では、ベルト傾斜部65Sにおける搬送傾斜角度αや突起66における突起第1傾斜角度β等の角度が、硬貨とベルト65との間に作用する摩擦力の作用等も考慮されて、総合的に決定されている。すなわち搬送傾斜角度α及び突起第1傾斜角度βは、ベルト傾斜部65Sにおいて、集積された硬貨のうち、突起66に引っ掛かった下側の硬貨を落下させずに駆動プーリ62の上端近傍まで搬送し得ると共に、当該硬貨の上側に重なり突起66に引っ掛かっていない他の硬貨を滑り落とすような角度に、それぞれ設定されている。この場合、上側に重なった硬貨は、下側の硬貨との間に作用する摩擦力よりも、当該硬貨やその上側に重なっている他の硬貨に作用する重力の方が大きいために、滑り落ちることになる。
ところで搬送ベルト部55では、図7(A)に模式的な右側面図及び前側面図を並べて示すように、ベルト65を順方向へ走行させる際に、ベルト平坦部65Fにおいて2個の突起66の間に硬貨CNの末尾側を引っ掛けた状態となる場合がある。このとき搬送ベルト部55では、円盤状である硬貨CNのうち末尾側における左右方向のほぼ中央となる末端CNTが、最も末尾側に位置している。すなわち硬貨CNでは、末端CNTが、突起66の第1傾斜面71よりも前側(すなわち進行方向と反対側)に位置している。
因みに突起66は、図6(A)に示したように、第1傾斜面71がベルト65の表面に対して突起第1傾斜角度βをなしている。このため搬送ベルト部55では、突起66の第1傾斜面71における左右方向の内側に位置する稜線(以下これを前内側稜線と呼ぶ)の最下部において、硬貨CNに当接する。
やがて搬送ベルト部55では、硬貨CNの先端側がベルト屈曲部65Cを通過すると、図7(B)に示すように、該ベルト65と共に該硬貨CNの先頭側を徐々に持ち上げていく。このとき硬貨CNは、突起66の第1傾斜面71よりも前側に位置する末端CNTの下面側を支点とし、先頭側における左右方向のほぼ中央に位置する先端CNHの下面側をベルト65のベルト傾斜部65Sに当接させながら、水平方向に対する傾斜角度を徐々に増加させていく。これに伴い搬送ベルト部55では、突起66のうち硬貨CNと当接する箇所が、前内側稜線における最下部から徐々に上昇していき、ベルト65から徐々に離れていく。
さらに搬送ベルト部55では、突起66の第1傾斜面71がベルト屈曲部65Cに到達すると、図7(C)に示すように、硬貨CNの傾斜角度をベルト傾斜部65Sにおけるベルト65の傾斜角度(すなわち搬送傾斜角度α)に近づけた状態となる。このとき搬送ベルト部55では、突起66のうち硬貨CNと当接する箇所が、前内側稜線における十分に高い位置、すなわちベルト65から比較的大きく離れた位置となる。
その後、搬送ベルト部55では、突起66がベルト屈曲部65Cを乗り越えると、図7(D)に示すように、硬貨CNの傾斜角度をベルト傾斜部65Sにおけるベルト65の傾斜角度(すなわち搬送傾斜角度α)とほぼ同等とする。その一方で搬送ベルト部55では、突起66が徐々に傾斜していき、第1傾斜面71が徐々に持ち上がっていく。これにより搬送ベルト部55では、突起66のうち硬貨CNと当接する箇所が、前内側稜線におけるベルト65側に近づいていく。
このように搬送ベルト部55では、2個の突起66により硬貨CNの末尾側を引っ掛けた状態でベルト65を走行させた場合、突起66がベルト屈曲部65Cを通過する頃に、前内側稜線において硬貨CNと当接する箇所が、ベルト65から最も離れることになる。そこで搬送ベルト部55では、硬貨処理装置10において取り扱う全ての大きさの硬貨CNについて、突起66がベルト屈曲部65Cを通過する頃に前内側稜線を硬貨CNと当接させた状態を維持できるよう、突起66における各部の大きさや配置が適切に設定されている。
また本体部51(図3及び図4)の後側面には、放出部としての放出口57が形成されている。放出口57は、前後方向に貫通した角孔であり、上下方向に関して下仕切板53Lの下面付近から駆動プーリ62の上端近傍までの範囲に渡り、また左右方向に関して本体部51の左端近傍から右端近傍までの範囲に渡っている。因みに放出口57は、図示しないシャッタにより開閉し得るようになっている。
[1-4.硬貨の搬送]
次に、補充回収庫24における硬貨の搬送について説明する。補充回収庫24は、作業員等の作業により、補回カセット31として硬貨処理装置筐体11(図2)から取り外された上で、本体部51に対し蓋体部52が上方へ回動されて開放された状態(図3)で、硬貨が収容される。
ここで、説明の都合上、図4と対応する図8に示すように、集積空間56を、前仕切板53Fよりも前側の部分でなる平坦搬送部56Aと、下仕切板53Lの下側にある部分のうち前側の部分でなる滞留部56Bと、該下仕切板53Lの下側にある部分のうち後側の部分でなる傾斜部56Cとに分ける。
補充回収庫24は、上側から硬貨が投入されると、重力の作用により、搬送ベルト部55(図4)のベルト65上に、すなわち集積空間56内において平坦搬送部56A、滞留部56B及び傾斜部56Cの区別無く、下側から順次集積されていく。やがて補充回収庫24では、集積された硬貨の最上面が下仕切板53Lの下面にまで到達すると、これ以降に投入された硬貨を前仕切板53Fの前側に順次集積させていく。
やがて補回カセット31は、補充回収庫24への硬貨の収容作業が終了すると、蓋体部52(図3)が閉塞された上で、硬貨処理装置筐体11の前装填部11CF(図2)に装填される。硬貨処理装置10は、作業員等の操作指示に基づき、補充回収庫24内の硬貨をスタッカ部21へ搬送する補充処理を行う場合、硬貨制御部12の制御に基づき、まず補充回収庫24内に収容されている硬貨を後側の下分離部29へ順次繰り出す。
このとき補充回収庫24は、搬送ベルト部55のベルト65を順方向へ走行させると、該ベルト65に設けられた突起66(図5等)が集積空間56内における最下部の硬貨に引っ掛かるため、該集積空間56内の硬貨を後方向へ進行させようとする。しかしながら補充回収庫24では、平坦搬送部56Aに集積された硬貨のうち上側の部分が、前仕切板53Fに当接して後方向への進行を抑制される。
これにより補充回収庫24では、平坦搬送部56Aに集積された硬貨のうち前仕切板53Fよりも低い部分を中心に、前方向へ進行する。ただし補充回収庫24では、平坦搬送部56Aに集積された硬貨のうち前仕切板53Fよりも低い部分が、その上側部分に集積された硬貨との間にある程度の摩擦力を作用させる。このため補充回収庫24では、ベルト65の走行速度と比較して低い速度で、換言すれば単位時間当たりの搬送量を低下させた状態で、硬貨を後方へ進行することになる。
一方、補充回収庫24では、滞留部56B及び傾斜部56Cにおいて、ベルト65の走行に伴って該ベルト65の近傍に位置する硬貨が後方向ないし後上方向へ進行する。しかしながら補充回収庫24では、特にベルト65が傾斜したベルト傾斜部65Sにおいて、該ベルト65の突起66に引っ掛かる最下部の硬貨については後上方へ持ち上げ得るものの、これよりも上側に積み重なった他の硬貨については、下方向若しくは前方向からの支えが無い。このため補充回収庫24では、傾斜部56Cにおけるベルト65から上方へ離れた部分において、硬貨が前下方へ滑り落ち、滞留部56Bに滞留することになる。
すなわち補充回収庫24では、傾斜部56Cに到達した硬貨のうち、ベルト65の突起66に直接引っ掛かる最下部の硬貨については、駆動プーリ62の上側まで搬送し得る。しかしながら補充回収庫24では、傾斜部56Cに到達した硬貨のうち、ベルト65から離れた上側に重なっており突起66に引っ掛からない硬貨については、前下方へ滑り落とさせて滞留部56Bに滞留させる。
これを換言すれば、補充回収庫24では、ベルト屈曲部65Cにおいてベルト65の傾斜角度がほぼ水平から搬送傾斜角度αに切り替わることにより、該ベルト65上に集積されている硬貨のうち最下部に位置する一部のみを進行させる一方、他の硬貨の進行を抑制している。
これにより補充回収庫24は、集積空間56内に大量の硬貨を集積していたとしても、比較的少量ずつ、放出口57から後方の下分離部29(図2)へ硬貨を繰り出すことができる。
[1-5.効果等]
以上の構成において、第1の実施の形態による現金自動預払機1の硬貨処理装置10では、補充回収庫24(図4)内に、集積されている硬貨を後方へ搬送する搬送ベルト部55を下部に設け、且つ後側面に設けた放出口57の上側部分を仕切板53によって仕切り、さらに該仕切板53の下側に傾斜搬送ベルト部55Sを構成した。
補充回収庫24は、集積空間56内に硬貨が集積された状態で搬送ベルト部55によりベルト65を順方向へ走行させると、まず平坦搬送部56A(図8)内の上側に集積されている硬貨を前仕切板53Fに当接させ、後方向への進行を抑制する。これにより補充回収庫24は、仕切板53により、平坦搬送部56Aから後方の滞留部56Bへ進行する硬貨の量を削減できる。
また補充回収庫24(図4)は、ベルト屈曲部65Cにおいて、後方向へ進行するベルト65をほぼ水平から搬送傾斜角度αに傾斜させた。このため補充回収庫24は、傾斜部56Cに集積された硬貨のうち、主に突起66(図5等)に引っ掛かる最下部の硬貨を搬送し、これらよりも上側の他の硬貨を前下方に落下させ、滞留部56Bに滞留させる。これにより補充回収庫24は、ベルト傾斜部65Sの最上部である駆動プーリ62の上側にまで到達する硬貨の量をさらに少なく抑えることができる。
すなわち補充回収庫24は、仕切板53を設けたこと、及びベルト傾斜部65Sを傾斜させたことにより、平坦搬送部56Aに集積された大量の硬貨を段階的に削減しながら後方へ搬送できる。この結果、補充回収庫24では、集積している大量の硬貨が一度に放出口57に集中した場合に発生し得る、硬貨の詰まりやベルト65のロック(順方向及び逆方向の何れへも走行できなくなること)等を未然に防止できる。
他の観点から見れば、補充回収庫24では、ベルト65における左右方向の長さが硬貨の直径2枚よりもやや長い程度であり、該ベルト65に設けられた突起66に引っ掛かる硬貨は、例えば2~4枚程度である。このため補充回収庫24では、ベルト65の走行速度が一定であり、滞留部56Bから傾斜部56Cへ供給される硬貨の量がある一定量以上であれば、単位時間当たりにベルト傾斜部65Sから放出口57へ供給する硬貨の量は、該傾斜部56Cに供給される硬貨の量が変化した場合でも、それほど変化せずに概ね一定となる。換言すれば、傾斜部56Cでは、ベルト傾斜部65Sにより最下部の硬貨のみが搬送されるため、その上側に集積された硬貨を、滞留部56Bの硬貨と共に、あたかもバッファに蓄えた硬貨として扱うことができる。
このことを踏まえると、補充回収庫24では、特に平坦搬送部56Aに大量の硬貨が集積されている場合、該平坦搬送部56Aから滞留部56Bを介して傾斜部56Cへ供給する硬貨の量を、詰まりが発生しない程度に抑えることが望ましい。そこで補充回収庫24では、仕切板53を設けたことにより、平坦搬送部56Aから滞留部56Bを介して傾斜部56Cへ供給する硬貨の量を良好に抑制でき、結果的に放出口57から放出される硬貨の量を概ね一定に維持できる。
また従来の補充回収庫では、仮に放出口から放出する硬貨の量が目標よりも多かった場合、ベルトの走行を一時的に停止させ、所定時間待機した後に走行を再開する、といった制御を行う必要があった。この場合、補充回収庫では、ベルトの停止及び走行再開を繰り返すことにより、駆動プーリに駆動力を供給するモータや該駆動プーリ、或いは該ベルト等、搬送ベルト部の各部に過大な負荷が生じ、部品の摩耗や損傷を招く恐れがあった。
この点において本実施の形態による補充回収庫24では、集積している大量の硬貨を段階的に抑制しながら放出口57へ搬送することにより、放出する硬貨の量を容易に目標に近づけることができる。これにより補充回収庫24では、硬貨の放出量を抑えるためにベルト65の停止及び走行再開を繰り返す、といった制御を行う頻度が極めて低く、該ベルト65をほぼ一定の速度で走行させることができ、搬送ベルト部55の各部に過大な負荷をかける恐れが無い。
ところで、仮に補充回収庫においてベルト屈曲部を前仕切板よりも前側に、すなわち順方向に走行するベルトから見て上流側に配置した場合、滞留部が無くなり、平坦搬送部の前側に傾斜部が隣接する状態となる。この場合、この補充回収庫では、傾斜部から流れ落ちてきた硬貨が平坦搬送部に入ろうとするものの、該平坦搬送部において下仕切板よりも高い部分まで大量の硬貨が集積されている場合に、該平坦搬送部に入り込むことが困難となる。これによりこの補充回収庫では、傾斜部において硬貨があふれてしまい、放出口から大量の硬貨が放出される恐れや、傾斜部において硬貨が詰まりを発生させる恐れがあった。さらにこの補充回収庫では、ベルトの上面から下仕切板までの距離が比較的短くなるため、この部分においても硬貨の詰まりが発生する恐れがあった。
これに対し、本実施の形態による補充回収庫24では、ベルト屈曲部65Cを前仕切板53Fよりも後側に、すなわち順方向に走行するベルト65から見て下流側に配置した。これにより補充回収庫24では、傾斜部56Cと平坦搬送部56Aとの間に、該平坦搬送部56Aから搬送されてくる硬貨の量が前仕切板53Fにより削減された滞留部56Bを形成できる。すなわち補充回収庫24では、硬貨の量が比較的少ない滞留部56Bにより、傾斜部56Cから滑り落ちてきた硬貨を受け入れて滞留させ、また撹拌することができ、該傾斜部56Cにおける硬貨の詰まりを抑止できる。また補充回収庫24では、ベルト平坦部65Fの上面から下仕切板53Lまでの距離が比較的長くなるため、この部分においても硬貨の詰まりを発生し難くすることができる。
さらに補充回収庫24では、駆動プーリ62を従動プーリ61よりも十分に高い位置に設けることにより、放出口57も比較的高い位置に設けることができ、後側の下分離部29(図2)に対して比較的高い位置から硬貨を放出できる。これにより下分離部29では、内部に十分な量の硬貨を集積できるので、補充回収庫24から硬貨が供給される速度が変動した場合であっても、集積している硬貨をバッファとして機能させることができ、一時保留部23へ効率良く硬貨を搬送できる。
そのうえ補充回収庫24では、ベルトガイド64によりベルト65をベルト屈曲部65Cにおいて屈曲させるようにした。これにより補充回収庫24では、例えばベルトガイド64を省略して従動プーリ61および駆動プーリ62の間でベルト65を直線的に張架させる場合と比較して、集積空間56内に集積し得る硬貨の枚数を増加させることができ、該補充回収庫24内における空間の利用効率を高めることができる。これと共に補充回収庫24では、硬貨を後方へ搬送する区間(すなわちベルト平坦部65F)と硬貨の搬送量を抑制する区間(すなわちベルト傾斜部65S)とを明確に区別でき、ベルト65の搬送速度や搬送傾斜角度α等を適切な値とすることにより、それぞれの搬送速度を適切に調整できる。
また補充回収庫24では、ベルト65の突起66(図7)における第1傾斜面71の突起第1傾斜角度βを、90[°]よりも小さく、且つ搬送傾斜角度αとの差分である角度(β-α)を30[°]程度とした。これにより補充回収庫24では、突起66がベルト傾斜部65Sに沿って走行する際に、水平面に対する第1傾斜面71のなす角度を約30[°]として硬貨を引っ掛けた状態を維持できる。これに加えて補充回収庫24では、突起66が駆動プーリ62の上端近傍に到達した際に、仮に第1傾斜面71と本体部51の後内側面との間に硬貨が挟まったとしても、該硬貨の末尾側を第1傾斜面71に沿って滑らせ、該硬貨の下側に逃がすことができる。
これに加えて補充回収庫24では、仕切板53の上側を第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26とした(図3)。これにより硬貨処理装置10では、補回カセット31を取り外した際に、補充処理において発生した補充リジェクト硬貨を同時に回収することができる。
以上の構成によれば、第1の実施の形態による現金自動預払機1の硬貨処理装置10では、補充回収庫24内の下部に搬送ベルト部55を設け、且つ後側面の放出口57の上側部分に仕切板53を設け、さらに該仕切板53の下側にベルト傾斜部65Sを形成した。補充回収庫24は、ベルト65を順方向へ走行させた際に、平坦搬送部56A内の上側に集積されている硬貨を前仕切板53Fに当接させて進行を抑制する。また補充回収庫24は、傾斜部56Cに集積された硬貨のうち最下部の硬貨のみを搬送し、他の硬貨を前下方に落下させて滞留部56Bに滞留させる。これにより補充回収庫24は、平坦搬送部56Aに集積された硬貨を段階的に削減しながら搬送でき、硬貨の詰まり等を未然に防止して適切な量の硬貨を放出口57から放出できる。
[2.第2の実施の形態]
第2の実施の形態による現金自動預払機101(図1)は、第1の実施の形態による現金自動預払機1と比較して、硬貨処理装置10に代わる硬貨処理装置110を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。硬貨処理装置110(図2)は、第1の実施の形態による硬貨処理装置10と比較して、補充回収庫24及びこれが設けられた補回カセット31に代わる補充回収庫124及び補回カセット131を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。
図4と対応する図9に示すように、第2の実施の形態による補充回収庫124は、第1の実施の形態による補充回収庫24と比較して、搬送ベルト部55に代わる搬送ベルト部155を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。搬送ベルト部155は、第1の実施の形態による搬送ベルト部55と比較して、左右それぞれにベルトガイド64に代わる屈曲プーリ164を有する点、及び搬送幅制限板168を有する点において相違するものの、他の点については同様に構成されている。
境界プーリとしての屈曲プーリ164は、図9におけるB1-B2断面図を図10に示すと共に、この図10におけるC1-C2断面図を図11に示すように、全体として中心軸を左右方向に沿わせた円柱状であるものの、周側面における左右方向に関する中央部分が凹むことにより周側凹部164Dが形成され、糸巻き状に形成されている。この屈曲プーリ164は、ベルト65におけるベルト屈曲部65Cの上側に位置しており、下端近傍において該ベルト65の上面と当接することにより、その前側を略平坦なベルト平坦部65Fとする一方、その後側を傾斜したベルト傾斜部65Sとしている。また屈曲プーリ164は、本体部51により回転可能に支持されている。
さらに屈曲プーリ164は、図11に示したように、ベルト65に設けられた4列の突起66のうち、左外側及び右外側の各突起66を跨ぐように、すなわち該突起66を周側凹部164Dに入り込ませるように、取付位置や各部の大きさが設定されている。このため屈曲プーリ164は、突起66と干渉することなく、ベルト65の表面と安定的に当接して屈曲した状態を維持できる。他の観点から見れば、突起66は、ベルト65の走行に伴い、周側凹部164Dの内部を通過することになる。また搬送ベルト部155では、ベルト65における突起66が設けられていない既存の部分に屈曲プーリ164を当接させることができるため、該ベルト65に屈曲プーリ164と当接させるための部分を追加する必要が無く、補回カセット31(図3等)を拡大せずに済む。
この屈曲プーリ164は、ベルト65の走行に伴って回転しながら、該ベルト65をベルト屈曲部65Cにおいて屈曲させた状態を維持する。このとき搬送ベルト部155では、第1の実施の形態による搬送ベルト部55(図4)と比較して、ベルト65と他の部材との間に発生する摩擦を大幅に減少させることができ、該ベルト65を円滑に走行させることができる。
当接制限部としての搬送幅制限板168は、例えば板状の金属材料が適宜切削及び屈曲されることにより、複数の板状部材を互いに接合させたような形状となっており、ベルト平坦部65Fの上側における左側約1/4の部分及び右側約1/4の部分を、左右それぞれの屈曲プーリ164と共に、それぞれ覆っている。すなわちベルト平坦部65Fは、図11に長さL1及びL2として示したように、その上面のうち左右方向に関する両外側部分が搬送幅制限板168により覆われており、集積空間56側に露出している範囲が中央の約1/2の範囲のみに制限され、この範囲でのみベルト65と硬貨とを当接可能としている。
一方、ベルト傾斜部65Sは、その上面がベルト屈曲部65Cの近傍において搬送幅制限板168により僅かに覆われているに過ぎず、そのほとんどを露出させている。すなわちベルト傾斜部65Sは、左右方向に関するほぼ全範囲において、ベルト65と硬貨とを当接可能としている。
これにより搬送ベルト部155は、集積空間56内に集積されている硬貨に対してベルト平坦部65Fから順方向へ作用させる力を、第1の実施の形態における搬送ベルト部55と比較して、ほぼ半分に抑えることができる。その一方で搬送ベルト部155は、ベルト傾斜部65Sにおいて、第1の実施の形態と同等の搬送能力を維持できる。また搬送幅制限板168は、屈曲プーリ164と硬貨との接触も抑止でき、該硬貨が屈曲プーリ164及びベルト65の間に挟まるといった問題の発生を未然に防止できる。
かくして補充回収庫124では、第1の実施の形態による補充回収庫24と比較して、平坦搬送部56Aから滞留部56B及び傾斜部56Cへ供給する硬貨の量をさらに削減できる。この結果、補充回収庫124は、第1の実施の形態よりも硬貨の詰まりやベルト65のロック等が発生する可能性をさらに低減させ、放出口57から安定的に硬貨を放出することができる。
その他の点においても、第2の実施の形態による補充回収庫124は、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏し得る。
以上の構成によれば、第2の実施の形態による現金自動預払機101の硬貨処理装置110では、補充回収庫124内の下部に搬送ベルト部155を設け、放出口57の上側部分に仕切板53を設け、屈曲プーリ164によりベルト65を屈曲させてベルト傾斜部65Sを形成し、搬送幅制限板168によりベルト平坦部65Fの約半分を覆った。補充回収庫124は、ベルト65を順方向へ走行させた際に、搬送幅制限板168によってベルト平坦部65Fによる硬貨の搬送量を低減させ、且つ平坦搬送部56A内の上側に集積されている硬貨を前仕切板53Fに当接させて進行を抑制する。また補充回収庫124は、傾斜部56Cに集積された硬貨のうち最下部の硬貨のみを搬送し、他の硬貨を前下方に落下させて滞留部56Bに滞留させる。これにより補充回収庫124は、平坦搬送部56Aに集積された硬貨を段階的に削減しながら搬送でき、硬貨の詰まり等を未然に防止して適切な量の硬貨を放出口57から放出できる。
[3.他の実施の形態]
なお上述した第1の実施の形態においては、搬送ベルト部55においてベルトガイド64によりベルト65を屈曲させる場合について述べた。また第2の実施の形態においては、搬送ベルト部155において屈曲プーリ164によりベルト65を屈曲させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、他の種々の構成によりベルト65を屈曲させるようにしても良い。この場合、ベルト65をできるだけ円滑に走行させることが望ましい。
また上述した第1の実施の形態においては、搬送ベルト部55においてベルト65のベルト屈曲部65Cを前仕切板53Fよりも後側、すなわち順方向における下流側に位置させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えばベルト屈曲部65Cを前仕切板53Fよりも前側、すなわち順方向における上流側に位置させても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第1の実施の形態においては、搬送ベルト部55においてベルト平坦部65Fの上面をほぼ水平とする場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば従動プーリ61側に対しベルト屈曲部65C側を高くするように傾斜させ、或いは低くするように傾斜させても良い。この場合、ベルト屈曲部65Cにおける水平方向に対する傾斜角度を、ベルト傾斜部65Sにおける搬送傾斜角度αよりも小さくすることが望ましい。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第1の実施の形態においては、搬送ベルト部55においてベルトガイド64に1箇所のみ屈曲部64Cを設けたことにより、ベルト65の上側部分を1箇所のベルト屈曲部65Cにおいてのみ屈曲させる場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えばベルトガイド64に2箇所以上の屈曲部64Cを設けることにより、ベルト65の上側部分を2箇所以上のベルト屈曲部65Cにおいて屈曲させるようにしても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第1の実施の形態においては、ベルト65に設ける突起66(図6)を左右方向から見て台形状に形成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば左右方向から見て三角形状や半円状等、他の種々の形状で合っても良い。またベルト65に対する各突起66の配置に関して、図5に示したように格子状に配置し、左右方向に4列とし、走行方向に沿って所定周期ごととする以外にも、左右方向に任意の列数としても良く、走行方向に関する間隔を様々に変化させても良い。さらには、格子状以外にも、千鳥状に配置しても良く、或いはランダムに配置しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第2の実施の形態においては、屈曲プーリ164の周側面に周側凹部164Dを設ける場合について述べた(図9~図11)。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば屈曲プーリ164から周側凹部164Dを省略し、その周側面を一様な円筒状としても良い。この場合、ベルト65において左右方向に関し突起66が配置されていない部分の幅に応じて、屈曲プーリ164における左右方向の幅を適切に定めれば良い。要は、屈曲プーリ164と突起66との当接を回避できれば良い。
さらに上述した第2の実施の形態においては、搬送幅制限板168によりベルト平坦部65Fの上面のうち硬貨と当接可能な範囲を、左右方向に関してベルト65の全範囲の約半分に制限する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、ベルト平坦部65Fの上面のうち硬貨と当接可能な範囲を、例えばベルト65の全範囲のうち約70%や約30%等の任意の割合で制限しても良い。
さらに上述した第1の実施の形態においては、補回カセット31(図3及び図4)の本体部51において仕切板53により仕切られた部分に第1補充リジェクト庫25及び第2補充リジェクト庫26を設ける場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、他の種々の収納庫を設けても良い。また、仕切板53により仕切られた部分を副仕切板54により2分割する構成に限らず、例えば3以上に分割しても良く、或いは分割せずに1つの収納庫としても良い。或いは、例えば補回カセット31のうち仕切板53よりも後上側の部分を切り落としても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第1の実施の形態においては、仕切板53をほぼ鉛直な平板状の前仕切板53F及びほぼ水平な平板状の下仕切板53Lにより構成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば前仕切板53Fの上側を前方向へ傾斜させても良く、或いは下仕切板53Lの後側を下方向へ傾斜させても良い。また前仕切板53F及び下仕切板53Lは、平面状に限らず、それぞれ複数の異なる平面の組合せや曲面、さらにはこれらの組合せとしても良い。さらには、仕切板53を前仕切板53F及び下仕切板53Lに区切らず、一連の曲面により構成しても良い。また仕切板53は、薄い板状の部材に限らず、例えば樹脂等を成型した部材等、種々の形状の部材により構成しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第1の実施の形態においては、補回カセット31を着脱可能に構成すると共に硬貨処理装置筐体11に前装填部11CF及び後装填部11CRを設け、該補回カセット31の装填位置に応じて硬貨処理装置10を前面機(図2)又は後面機(図示せず)に変更し得るように構成する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば硬貨処理装置10を前面機又は後面機の何れか一方に固定した構成としても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに上述した第1の実施の形態においては、現金自動預払機1に組み込まれる硬貨処理装置10に本発明を適用する場合について述べた。しかしながら本発明はこれに限らず、例えば自動券売機等のように顧客との間で硬貨に関する取引を行う種々の装置や、金融機関の職員や小売店の店員等が現金を管理するために使用する現金管理装置等に本発明を適用しても良い。第2の実施の形態についても同様である。
さらに本発明は、上述した各実施の形態及び他の実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態と上述した他の実施の形態の一部又は全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
さらに上述した第1の実施の形態においては、入出金部としての入出金部13と、搬送部としてのピンベルト搬送部18、上分離部15及び下分離部29と、認識部としての認識搬送部16と、スタッカ部としてのスタッカ部21と、制御部としての硬貨制御部12と、補充庫としての補充回収庫24とによって硬貨処理装置としての硬貨処理装置10を構成する場合について述べた。このうち補充庫は、集積部としての集積空間56と、搬送ベルト部としての搬送ベルト部55と、放出部としての放出口57と、抑制部としての仕切板53とによって構成した。さらに搬送ベルト部は、第1搬送部としての平坦搬送ベルト部55Fと、第2搬送部としての傾斜搬送ベルト部55Sとによって構成した。しかしながら本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる入出金部と、搬送部と、認識部と、スタッカ部と、制御部と、補充庫とによって硬貨処理装置を構成しても良い。この場合、補充庫は、その他種々の構成でなる集積部と、搬送ベルト部と、放出部と、抑制部とによって構成しても良い。さらに搬送ベルト部は、その他種々の構成でなる第1搬送部と、第2搬送部とによって構成しても良い。