(実施の形態1)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
図1は本発明における偽造防止印刷物(1)の一例を示す図である。この偽造防止印刷物(1)は、図1に示すように、基材(2)上の一部に、本発明における潜像模様が形成されている画像領域(3)を有している。なお、図1に示すように、画像領域(3)以外の領域には、料額、文字、他の模様等の情報を公知の印刷方式(例えば、オフセット印刷、凹版印刷等)により施してもよい。
本発明における基材(2)は、上質紙、コート紙、アート紙等の紙葉類を用いることができる。ただし、本発明の特徴点である基材を傾けて観察した際に視認される潜像模様を形成するために、基材(2)を加工することで形成した凹凸形状が必要であることから、基材(2)の厚みは20μm~1000μmがよく、好ましくは50μm~300μmがよい。また、フィルム、プラスチック及びそれらの複合素材等を用いることもできる。
図2は画像領域(3)の詳細を示す図であり、画像領域(3)は第1の要素群(4)、第2の要素群(5)及び第3の要素群(6)から成る。
(第1の要素群)
図3は第1の要素群(4)の詳細を示す図である。図3(a)に示す第1の要素群(4)は、図3(b)及び図3(c)に示すように、基材(2)上に基材(2)と同じ又は異なる色彩であって、凹又は凸形状の第1の要素(7)が、第1の方向(S1)に第1のピッチ(P1)で複数配列されて成る。本発明における「色彩」とは色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものをいう。(以下、第1の要素(7)のもつ色彩のことを「第1の色彩」という。)なお、本発明において、「第1の方向(S1)」とは、基材(2)上に第1の要素(7)が配置される方向のことであり、図3(a)において第1の方向(S1)は、第1の要素(7)の長辺方向に対して垂直の方向である。
また、第1の要素(7)は、画線、複数の画素又はこれらの組合せで構成してもよい。本発明において、「画線」とは、直線、破線、波線等のことである。また、本発明において、「画素」とは、所定の形状を有する文字、数字、記号、図形、マーク等のことである。ただし、複数の画素を用いて第1の要素(7)を形成する場合には、複数の画素を画線状に配置することにより、肉眼では画線と視認できるように配置する必要がある。本実施の形態については、直線で構成される第1の要素(7)が配置された例を用いて説明する。
図4(a)は第1の要素(7)によって第1の要素群(4)が形成された例を示す図であり、図4(b)は図4(a)の四角で囲った部分を拡大した図である。図4(b)に示すように、第1の要素(7)は第1の方向(S1)に規則的に配列されている。また、ここでは第1の要素(7)における第1の方向(S1)の幅を第1の要素の幅(W1)とする。第1の要素の幅(W1)は、限定されるものではないが、10μm~1000μmの範囲で形成されることが好ましい。なお、第1の要素の幅(W1)を1000μmより大きくしても潜像を観察することができるが、潜像の図柄を形成するための画像領域(3)が大きくなり、偽造防止印刷物を構成するデザイン、例えば、他の印刷図柄等の制約を受けるため好ましくない。また、第1の要素の幅(W1)が10μmより小さい場合、凹凸形状を形成することが困難になるため好ましくない。
ここでは、第1の要素(7)が均等な第1の要素の幅(W1)で形成されている例で説明するが、図4(c)に示すように第1の要素(7)の中で第1の要素の幅(W1)が異なっていてもかまわない。
図4(b)に示す第1のピッチ(P1)は、第1の要素の幅(W1)より大きければ、特に限定されるものではなく、一定のピッチで規則的に第1の要素(7)が配置される。これは、第1のピッチ(P1)が第1の要素の幅(W1)以下であると、第1の要素(7)同士で重なってしまい、後述する潜像部(8)と背景部(9)を形成できなくなるためである。そして、本発明の偽造防止印刷物(1)を銀行券や商品券といった人が手に持って観察する製品に適用する場合、第1のピッチ(P1)は、1000μm以下で形成されるのが好ましい。より好ましくは、上記した範囲で第1のピッチ(P1)を第1の要素の幅(W1)の2倍した値より小さい範囲で形成する、すなわち、隣り合う第1の要素(7)同士の間隔を狭くして形成するのがよい。このように、第1のピッチ(P1)を小さくして第1の要素(7)を形成した場合、基材(2)上に形成される第1の要素(7)の形成密度を大きくすることができるため、潜像の解像度を高め、それによって潜像の視認性の向上を図ることができる。
図5(a)は凸形状の第1の要素(7)を示す図であり、凸形状の第1の要素(7)の高さ(H1)は10~100μmの範囲で形成される。なお、第1の要素(7)の高さ(H1)を10μmより低くしても潜像を形成することはできるが、潜像画像が視認できる範囲が狭くなってしまうために、好ましくない。また、第1の要素(7)の高さ(H1)を100μmより高くすることも可能であるが、基材(2)が必要以上に厚くなり、加工効率が悪くなるという問題が生じるため、好ましくない。
同様に、図5(b)は凹形状の第1の要素(7)を示す図であり、凹形状の第1の要素(7)の深さ(D1)は10~100μmの範囲で形成される。なお、第1の要素(7)の深さ(D1)を10μmより浅くしても潜像を形成することはできるが、潜像画像が視認できる範囲が狭くなってしまうために、好ましくない。また、第1の要素(7)の深さ(D1)を100μmより深くすることも可能であるが、基材(2)が必要以上に厚くなり、加工効率が悪くなるという問題が生じるため、好ましくない。
図6は第1の要素(7)の位相が異なることで潜像模様が形成されることを示す図である。これまで、第1の要素群(4)は、第1の要素(7)が万線状に複数配置されて成ることを説明してきたが、詳細には、第1の要素群(4)は、図6(a)に示すように、万線状に複数配置される第1の要素(7)の位相が部分的に異なることによって、潜像模様である「ABC」の文字が形成される。なお、図6(b)において、点線で示す部分は、図6(a)に示す潜像模様の図柄に対応する範囲を示すためのものである。
以降、潜像模様(6)の図柄(本実施の形態では「ABC」の文字)に対応する第1の要素(7)を「潜像要素(7-1)」と呼び、潜像模様の図柄の背景に対応する第1の要素(7)を「背景要素(7-2)」と呼ぶ。潜像模様の図柄(以下「潜像部(8)」という。)は、複数の潜像要素(7-1)によって形成され、潜像模様の図柄の背景(以下「背景部(9)」という。)は、複数の背景要素(7-2)によって形成される。
具体的には、図6(b)に示すように、背景要素(7-2)を基準として、潜像要素(7-1)が、第1の方向(S1)の上方に位相がずれて配列されることで、潜像部(8)と背景部(9)を形成している。
ここでは潜像要素(7-1)が、第1の方向(S1)の上方に位相がずれて配列される例で説明したが、第1の方向(S1)の下方に位相が異なっていてもよい。
また、ここでは潜像模様がアルファベットの「ABC」とした例で説明したが、これに限定されるものではなく、潜像模様として表現したい図柄に合わせて潜像要素(7-1)の位相をずらして第1の要素群(4)を形成すればよい。
第1の要素(7)の形成方法としては、エンボス加工、すき入れ、レーザ加工やインキによる印刷等を用いることができる。
エンボス加工を用いる場合は、凸又は凹形状の版面を基材(2)に押し付けることによって、凹又は凸形状で基材(2)と等色の第1の要素(7)が形成される。
すき入れを用いる場合は、円網抄紙機で紙を製造する工程の段階で、円網ロールによって、凹又は凸形状で基材(2)と同じ色の第1の要素(7)が形成される。
レーザ加工を用いる場合は、レーザ光によって基材(2)の一部が除去されることによって凹形状の第1の要素(7)が形成される。このとき、レーザの出力を大きくすると基材(2)が焦げて変色し、凹形状の第1の要素(7)が、基材(2)と異なる色で形成される。また、一度に除去される基材(2)の量は小さくなるが、基材(2)を焦がさないようにレーザの出力を小さくした場合は、凹形状の第1の要素(7)が、基材(2)と同じ色で形成される。
インキによる印刷を用いる場合は、インキの厚みによって凸形状の第1の要素(7)が形成される。また、インキの場合、使用する色彩によっては基材(2)と同じ色彩又は基材(2)と異なる色彩で第1の要素(7)が形成される。
なお、すき入れ、レーザ加工、インキによって第1の要素(7)を形成する場合は、後述する第2の要素(10)及び第3の要素(11)を形成する前に、第1の要素(7)を形成する必要がある。これは、第2の要素(10)及び第3の要素(11)を形成した後に、すき入れ、レーザ加工を施すと、第2の要素(10)及び第3の要素(11)が基材(2)から除去されてしまうためである。また、第2の要素(10)及び第3の要素(11)を形成した後に、インキによって凸形状の第1の要素(7)を形成すると、第2の要素(10)及び第3の要素(11)が隠蔽されて潜像模様が観察できなくなるためである。
(第2の要素群)
図7は第2の要素群(5)の詳細を示す図である。図7(a)に示す第2の要素群(5)は、基材(2)上に、第2の要素(10)が第2の方向(S2)に第2のピッチ(P2)で複数配置されて成る。なお、本発明において、「第2の方向(S2)」とは、基材(2)上に第2の要素(10)が配置される方向のことであり、図7(a)において第2の方向(S2)は、第2の要素(10)の長辺方向に対して垂直の方向である。
また、第2の要素(10)は、図7(b)及び図7(c)に示すように、第1の要素(7)に少なくとも一部が重なるように配置される。
図8は第1の要素(7)と第2の要素(10)の配置の詳細を示す図である。第2の要素(10)は、図8(a)に示すように、第1の要素(7)が配置される第1の方向(S1)に対して、異なる方向の第2の方向(S2)に配置される。図8(b)に示す第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)は、0±10度の範囲で形成される。第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)の好ましい範囲は、0±1.5度の範囲である。これは、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)の絶対値が小さい方が、潜像の図柄を視認しやすいためである。なお、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)を10度より大きくするほど、縞が生じ潜像の図柄の視認性が低下する。
第2の要素(10)は、第1の要素(7)と同様に、画線、複数の画素、又はこれらの組合せで構成してもよい。本実施の形態については、直線で構成される第2の要素(10)が配置された例を用いて説明する。
図9(a)は第2の要素(10)によって第2の要素群(5)が形成された例を示す図であり、図9(b)は図9(a)の四角で囲った部分を拡大した図である。図9(b)に示すように、第2の要素(10)は第2の方向(S2)に規則的に配列されている。第2の要素(10)における第2の方向(S2)の幅を第2の要素の幅(W2)とする。第2の要素の幅(W2)は、少なくとも10μmより大きく、上限は、第1のピッチ(P1)に対して、9/10の大きさの範囲で形成される。これは、仮に、第2の要素の幅(W2)が、第1のピッチ(P1)に対して9/10より大きいと、第1の要素(7)の全体に第2の要素(10)が重なり、潜像部(8)と背景部(9)のコントラストが得られず潜像が観察できないためである。また、第2の要素の幅(W2)が10μmより小さいと、第1の要素(7)と第2の要素(10)の重なる面積が小さいため潜像の視認性が低下するためである。
ここでは、第2の要素(10)が均等な第2の要素の幅(W2)で形成されている例で説明するが、図9(c)に示すように第2の要素(10)の中で第2の要素の幅(W2)が異なっていてもかまわない。
第2のピッチ(P2)は、第1のピッチ(P1)とほぼ同じ大きさで形成される。ほぼ同じ大きさとは、第1のピッチ(P1)に対して4/5~6/5の大きさの範囲である。好ましくは、同じピッチとすることがよい。これは、第1のピッチ(P1)と第2のピッチ(P2)が同じ場合、第1の要素(7)と第2の要素(10)が必ず一定の間隔で重なるため、後述する潜像の図柄を視認しやすいためである。
第2の要素(10)は、第1の色彩とは異なる色彩の第2の色彩を有している。第2の色彩は第1の色彩と異なる色であればよく、特に限定されるものではない。
第2の要素(10)の形成方法は、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法又はレーザ加工等を用いることができる。なお、印刷によって第2の要素(10)が形成される場合は、第2の色彩はインキの色彩であり、レーザ加工によって第2の要素(10)が形成される場合は、第2の色彩は基材(2)がレーザによって変色された色彩である。この場合、基材(2)に形成された第1の要素(7)の形状を崩さないようにレーザの出力を調整して加工する必要がある。
(第3の要素群)
図10は第3の要素群(6)の詳細を示す図である。図10(a)に示す第3の要素群(6)は、基材(2)上に、第3の要素(11)が第3の方向(S3)に第3のピッチ(P3)で複数配置されて成る。なお、本発明において、「第3の方向(S3)」とは、基材上(2)に第3の要素(11)が配置される方向のことであり、図10(a)において第3の方向(S3)は、第3の要素(11)の長辺方向に対して垂直の方向である。
また、第3の要素(11)は、図10(b)及び図10(c)に示すように、第1の要素(7)に少なくとも一部が重なるように配置される。
図11は第1の要素(7)と第3の要素(11)の配置の詳細を示す図である。第3の要素(11)は、図11(a)に示すように、第1の要素(7)が配置される第1の方向(S1)に対して、異なる方向の第3の方向(S3)に配置される。図11(b)に示す第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)は、0±10度の範囲で形成される。第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)の好ましい範囲は、0±1.5度の範囲である。これは、第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)の絶対値が小さい方が、潜像の図柄を視認しやすいためである。なお、第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)を10度より大きくするほど、縞が生じ潜像の図柄の視認性が低下する。
第3の要素(11)は、第1の要素(7)と同様に、画線、複数の画素又はこれらの組合せで構成してもよい。本実施の形態については、直線で構成される第3の要素(11)が配置された例を用いて説明する。
図12(a)は第3の要素(11)によって第3の要素群(6)が形成された例を示す図であり、図12(b)は図12(a)の四角で囲った部分を拡大した図である。図12(b)に示すように、第3の要素(11)は第3の方向(S3)に規則的に配列されている。第3の要素(11)における第3の方向(S3)の幅を第3の要素の幅(W3)とする。第3の要素の幅(W3)は、少なくとも10μmより大きく、上限は、第1のピッチ(P1)に対して、9/10の大きさの範囲で形成される。これは、仮に、第3の要素の幅(W3)が、第1のピッチ(P1)に対して9/10より大きいと、第1の要素(7)の全体に第3の要素(11)が重なり、潜像部(8)と背景部(9)のコントラストが得られず潜像が観察できないためである。また、第3の要素の幅(W3)が10μmより小さいと、第1の要素(7)と第3の要素(11)の重なる面積が小さいため潜像の視認性が低下するためである。
ここでは、第3の要素(11)が均等な第3の要素の幅(W3)で形成されている例で説明するが、図12(c)に示すように第3の要素(11)の中で第3の要素の幅(W3)が異なっていてもかまわない。
第3のピッチ(P3)は、第1のピッチ(P1)とほぼ同じ大きさで形成される。ほぼ同じ大きさとは、第1のピッチ(P1)に対して4/5~6/5の大きさの範囲である。好ましくは、同じピッチとすることがよい。これは、第1のピッチ(P1)と第3のピッチ(P3)が同じ場合、第1の要素(7)と第3の要素(11)が必ず一定の間隔で重なるため、後述する潜像の図柄を視認しやすいためである。
第3の要素(11)は、第1の色彩とは異なる色彩の第3の色彩を有している。第3の色彩は第1の色彩と異なる色であればよく、特に限定されるものではないが、観察される潜像模様の色彩を豊かなものとするためには第2の色彩とも異なる色であることが好ましい。
第3の要素(11)の形成方法は、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷方法又はレーザ加工等を用いることができる。なお、印刷によって第3の要素(11)が形成される場合は、第3の色彩はインキの色彩であり、レーザ加工によって第3の要素(11)が形成される場合は、第3の色彩は基材(2)がレーザによって変色された色彩である。この場合、基材(2)に形成された第1の要素(7)の形状を崩さないようにレーザの出力を調整して加工する必要がある。
図13は、第1の要素(7)の上に第2の要素(10)と第3の要素(11)が形成された構成を示す図であり、図13(a)では凸形状、図14(b)では凹形状の第1の要素(7)の上に第2の要素(10)と第3の要素(11)が形成されている。図13(a)及び図13(b)に示すように、第1の要素(7)、第2の要素(10)、第3の要素(11)は互いに交差するように配置される必要がある。言い換えれば第1の要素(7)が配置される方向である第1の方向(S1)、第2の要素(10)が配置される第2の方向(S2)及び第3の要素(11)が配置される第3の方向(S3)が各々異なる方向である必要がある。
図14は、第1の方向(S1)、第2の方向(S2)及び第3の方向(S3)の関係を示す図である。図14(a)では、第2の要素(10)は第1の要素(7)に対し、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)傾いて配置されている。また、第3の要素(11)は第1の要素(7)に対し、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)とは異なる方向に、第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)傾いて配置されている。
一方、図14(b)では、第2の要素(10)は第1の要素(7)に対し、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)傾いて配置されている。また、第3の要素(11)は第1の要素(7)に対し、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)と同じ方向に、第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)傾いて配置されている。
ここで重要なことは、第1の方向(S1)と第2の方向(S2)が成す角度(α)と、第1の方向(S1)と第3の方向(S3)が成す角度(β)が異なる角度であることであり、図14(a)に示すように異なる方向で異なる角度でも図14(b)に示すように同じ方向で異なる角度であってもよい。
(潜像模様)
次に潜像模様が視認される原理について説明する。本発明の潜像模様の視認される基本的な原理は特許文献1及び特許文献2の技術と同様である。
図15(a)は、本発明の偽造防止印刷物(1)と、偽造防止印刷物(1)を観察する視点を示す図であり、偽造防止印刷物(1)を正面から観察した場合の視点を第1の観察点(L1)とし、偽造防止印刷物(1)を傾けて観察した場合の視点を第2の観察点(L2)とする。
図15(b)は、偽造防止印刷物(1)を第1の観察点(L1)から観察した場合の画像領域(3)の一部の拡大図である。前述したように本発明の画像領域(3)には第1の要素(7)が形成されており、その中に潜像要素(7-1)と背景要素(7-2)が形成されている。図15(b)では潜像要素(7-1)と背景要素(7-2)に重なるように第2の要素(10)と第3の要素(11)が配置されている。
第1の観察点(L1)から画像領域(3)を観察した場合は各要素のもつ色彩がそのまま視認されることから、潜像模様は視認されない。
図15(b)のX-X’線における断面図を図15(c)、Y-Y’線における断面図を図15(d)に示す。
図15(c)では、背景要素(7-2)の凸形状の頂部を境として、凸形状の表面の半分に第3の要素(11)が重なっており、背景要素(7-2)が形成されない基材上に第2の要素(10)が配置されている。なお、本発明において、「凸形状の頂部」とは、凸形状で形成される第1の要素(7、7-1、7-2)のうち、最も高い部分のことである。
一方、図15(d)では、潜像要素(7-1)の凸形状の頂部を境として、凸形状の表面の半分に第2の要素(10)が重なっており、潜像要素(7-1)が形成されない基材上に第3の要素(11)が配置されている。
これらを、第2の観察点(L2)から観察した場合には、凸形状の頂部を境として、手前側となる凸形状の表面は観察することができるが、奥側の表面は凸形状の死角となることから観察することができない。したがって、第2の観察点(L2)から観察した場合には、凸形状の頂部を境として、図15(c)においては手前側となる凸形状の表面に重なる第3の要素(11)のみを観察することができ、図15(d)においては手前側となる凸形状の表面に重なる第2の要素(10)のみを観察することができる。なお、第2の観察点(L2)から観察するときに、凸形状の表面の観察できる範囲は、前述した第1のピッチ(P1)及び第1の要素の幅(W1)によって、若干の差はある。
図15(e)は、図15(b)に示す画像領域(3)の一部を、第2の観察点(L2)から観察した場合を示す図である。ここでは背景要素(7-2)と潜像要素(7-1)が隣り合って形成されているが、観察される色彩は異なっている。具体的には背景要素(7-2)は第2の観察点(L2)から観察した場合に、手前側となる凸形状の表面に重なる第3の要素(11)が持つ色彩である第3の色彩、同様に潜像要素(7-1)は第2の要素(10)が持つ色彩である第2の色彩で観察され、背景部(9)を形成する背景要素(7-2)と、潜像部(8)を形成する潜像要素(7-1)が異なる色彩で観察されることによって、隣接する背景部(9)と潜像部(8)が異なる色彩として視認され、色彩の差により潜像模様が視認される。
この色彩の見え方は第1の要素(7)、第2の要素(10)及び第3の要素(11)の配列されるピッチや、第1の方向(S1)、第2の方向(S2)及び第3の方向(S3)の成す角度差等で変化するため必ずしも上述した例の限りではないが、隣接する潜像要素(7-1)と背景要素(7-2)に対し、第2の要素(10)及び第3の要素(11)の重なり方が異なれば隣接する背景部(9)と潜像部(8)で色彩の差が生じ潜像模様が視認できる。
また、本発明では、第1の要素(7)上に配置される第2の要素(10)と第3の要素(11)の方向がそれぞれ異なっていることから、いずれか一方の要素が印刷ずれ等で、潜像要素(7-1)に重ならない場合でも、他方の要素が重なることで潜像模様の視認性が向上する。
特許文献2のように、2本の万線画線を平行に配置する場合は、2本の万線画線を隣接して配列する必要があり、刷り合わせの精度が必要とされるが、本発明は第2の要素(10)と第3の要素(11)が交差すればよいため、刷り合わせの精度を必要とすることなく、潜像模様の視認性を向上することができる。
また、本発明は第1の要素(7)上に形成される第2の要素(10)を配列するピッチと配列する方向を設定すれば潜像模様の視認性を向上できることに加え、第3の要素(11)を配列するピッチと配列する方向も設定することでさらに潜像模様の視認性を向上することができる。
(非要素部)
ここで、観察点(L1)から視認した際に、第2の要素(10)の持つ第2の色彩と、第3の要素(11)が持つ第3の色彩が異なる色彩の場合、要素同士が重複する領域で混色が生じ、濃度が高くなることで第1の観察点(L1)から観察した際に画像領域(3)に縞が生じることがある。それにより潜像模様の視認性に影響を及ぼすことはないが、縞の発生を防ぐために図16に示す構成とすることも可能である。
図16(a)は第2の要素(10)の配置状態を示す図であり、図16(b)は図16(a)の四角で囲まれた部分の拡大図である。図16(b)の点線で囲われた部分に示すように、第2の要素(10)は要素が形成されない部分(以下「非要素部(12)」という。)を有している。図16(b)では、第2の要素(10)が画線で形成される例であるが、この場合における非要素部(12)は部分的に画線が形成されない領域のことである。
図16(c)は、この構成とした場合の第2の要素(10)と第3の要素(11)の関係を示す図であり、第2の要素(10)の非要素部(12)に交差して第3の要素(11)が配置される構成となっている。この構成とすることで第2の色彩と第3の色彩が混色することによる縞の発生を防止することができる。
この形態において、非要素部(12)の面積と非要素部(12)に交差する第3の要素(11)の面積は等しいことが好ましい。なお、非要素部(12)の面積が非要素部(12)に交差する第3の要素(11)の面積より大きい場合、非要素部(12)が視認されることから潜像模様の視認性が低下するが、潜像模様の視認性に影響を及ぼさない程度であれば非要素部(12)の面積が非要素部(12)に交差する第3の要素(11)の面積より大きくてもよい。また、非要素部(12)の面積が非要素部(12)に交差する第3の要素(11)の面積率より小さい場合、境界となる部分で混色が発生するが、縞が発生しない程度であれば非要素部(12)の面積が非要素部(12)に交差する第3の要素(11)の面積率より小さくてもよい。
なお、ここでは第2の要素(10)が非要素部(12)を有する例で説明したが、第3の要素(11)が非要素部(12)を有していてもよく、第2の要素(10)と第3の要素(11)の少なくともどちらかが非要素部(12)を有していればよい。
本実施の形態では、第1の要素群(4)、第2の要素群(5)及び第3の要素群(6)の3つの要素群で画像領域が形成される例で説明したが、これは本発明において最低限必要とされる構成であり、更なる要素群として複数の要素群備えてもよい。ここでは、更にに第4の要素群を備える例について説明する。
(第4の要素)
図17は、第4の要素群(13)の詳細を示す図である。図17(a)に示す第4の要素群(13)は、基材(2)上に、第4の要素(14)が第4の方向(S4)に第4のピッチ(P4)で複数配置されて成る。なお、本発明において「第4の方向(S4)」とは、基材上(2)に第4の要素(14)が配置される方向のことであり、図17(a)において第4の方向(S4)は、第4の要素(14)の長辺方向に対して垂直の方向である。
図17(b)は、第4の要素(14)によって第4の要素群(13)が形成された例を示す図であり、図17(c)は図17(b)の四角で囲った部分を拡大した図である。第4の要素の幅(W4)や第4のピッチ(P4)の条件については第2の要素(10)及び第3の要素(11)と同様であるため説明は省略する。
また、第4の要素(14)が配置される第4の方向(S4)は、特に制限はなく、第1の方向(S1)、第2の方向(S2)及び第3の方向(S3)のいずれかと同じ方向でもよいし、全てと異なる方向でもよい。ただし、いずれかの方向と同じ方向に配置される場合は、同じ方向に配置される要素と配置の位相をずらして完全に重ならないように配置する必要がある。
第4の要素(14)は、第1の色彩とは異なる色彩の第4の色彩を有している。第4の色彩は第1の色彩と異なる色であればよく、特に限定されるものではないが、観察される潜像の色彩を豊かなものとするためには第2の色彩及び第3の色彩とも異なる色であることが好ましい。
第4の要素(14)の形成方法は、第2の要素(10)及び第3の要素(11)と同じであるため、説明は省略する。
このように第4の要素(14)を備えることで、潜像模様の視認性をさらに向上することができるとともに、第4の色彩が第2の色彩及び第3の色彩とも異なる色である場合は潜像模様の色彩もさらに豊かなものとすることが可能となる。
(実施の形態2)
また、本発明の別の実施の形態として凹要素群(15)を備える形態について以下に説明する。なお、実施の形態2の偽造防止印刷物(1)は実施の形態1と同様に第1の要素群(4)、第2の要素群(5)及び第3の要素群(6)を備えているが、詳細は実施の形態1と同様であるため説明は省略する。また、効果についても同様である。
図18は、凹要素群(15)の詳細を示す図であり、図18(a)に示すように凹要素群(15)は第1の要素(7)が形成されない基材(2)上に基材よりも透過性の高い凹要素(16)が複数形成されることで成る。
図18(b)は、図18(a)のX-X’ 線における断面図を示す図であり、第1の方向(S1)に複数配置される第1の要素(7)間の第1の要素(7)が形成されない基材(2)上に円形の凹要素(16)が形成されており、凹要素(16)は第1の要素(7)が形成されない基材(2)よりも厚みが薄くなることから透過性が高くなる。
また、凹要素群(15)は凹要素(16)が複数配置されることで透過画像を形成している。ここでいう透過画像はアルファベットの「T」であるが、これに限定されるものではなく、透過画像として表現したい図柄にあわせて凹要素(16)を配置すればよい。
ここでは凹要素(16)が円形の例で説明したが、図18(c)に示すように画線で形成してもよい。
図19は、凹要素(16)の詳細を示す図である。凹要素(16)における第1の方向(S1)の幅を凹要素の幅(W5)とする。凹要素の幅(W5)は、第1のピッチ(P1)から第1の要素の幅(W1)を引いた幅である第1の要素(7)の間の底面距離(U1)より狭ければ、特に制限を受けるものではない。例えば、第1のピッチ(P1)が1000μm、第1の要素の幅(W1)が400μmであった場合、凹要素の幅(W5)は600μmより狭いものであればよい。
凹要素(16)の深さの範囲については、基材(2)を貫通することがなければ特に制限はない。
また、凹要素(16)は、面積率を異ならせること及び深さを異ならせることで、透過画像に明暗の階調を持たせて表現することも可能である。
図20は、透過画像の視認原理を示す図である。図20(a)に示す光源(17)からの透過光が支配的な観察点(L3)から本実施の形態の偽造防止印刷物(1)を観察した場合、凹要素(16)が基材より透過率が高いことから、凹要素(16)が形成された領域は明るく視認される。そのため、図20(b)に示すように凹要素(16)によって形成される透過画像であるアルファベットの「T」が視認される。
実施の形態2の構成とすることで、実施の形態1における基材を傾けて観察した際に潜像模様が視認できることに加え、透過光下で異なる透過画像が視認できるといった更なる効果を奏することが可能となる。