実施例のモータシステムのブロック図である。
スイッチング回路の回路図である。
実施例のモータシステムの制御ブロック図である。
スイッチング回路における電流の流れを示す図である(電流が負値の場合)。
スイッチング回路における電流の流れを示す図である(図4の続き)。
スイッチング回路における電流の流れを示す図である(図5の続き)。
スイッチング回路における電流の流れを示す図である(図6の続き。ケース1の場合)。
スイッチング回路における電流の流れを示す図である(図6の続き。ケース2の場合)。
出力端電圧Vmのスター結線点電圧依存性を示すグラフである(電流が負値の場合)。
スイッチング回路における電流の流を示す図である(電流が正値の場合)。
スイッチング回路における電流の流を示す図である(図10の続き)。
スイッチング回路における電流の流を示す図である(図11の続き)。
スイッチング回路における電流の流を示す図である(図12の続き。ケース3の場合)。
スイッチング回路における電流の流を示す図である(図12の続き。ケース4の場合)。
出力端電圧Vmのスター結線点電圧依存性を示すグラフである(電流が正値の場合)。
電圧指令値と相電流の関係を示すグラフである。
図16の区間C1の拡大図である(3相中の2相がケース1の場合)。
図16の区間C1の拡大図である(3相中の2相がケース2の場合)。
図16の区間C2の拡大図である(3相中の2相がケース3の場合)。
図16の区間C2の拡大図である(3相中の2相がケース4の場合)。
図面を参照して実施例のモータシステム2を説明する。図1に、モータシステム2のブロック図を示す。実施例のモータシステム2は、3個のスイッチング回路10a-10cと、三相交流モータ20と、コントローラ30を備えている。モータシステム2は、電気自動車に搭載されている。三相交流モータ20は、走行用のモータである。以下では、三相交流モータ20を単純にモータ20と称する場合がある。
3個のスイッチング回路10a-10cは、いずれも、正極線3aと負極線3bの間に並列に接続されている。正極線3aと負極線3bは、それぞれ、直流電源90の正極90aと負極90bに接続されている。正極線3aと負極線3bは、3個のスイッチング回路10a-10cのそれぞれに、直流電源90の電力(直流電力)を供給する。3個のスイッチング回路10a-10cのそれぞれは、正極線3aと負極線3bを介して入力される直流電流を交流電流に変換して出力端11a-11cから出力する。3個のスイッチング回路10a-10cは、インバータ9を構成する。
よく知られているように、三相交流モータに接続されるインバータでは、1個のスイッチング回路から出力される交流電流は、残り2個のスイッチング回路へ戻る場合がある。また、2個のスイッチング回路から出力される交流が残り1個のスイッチング回路へ戻る場合がある。スイッチング回路10a-10cの出力端11a-11cから交流電流がスイッチング回路10a-10cに戻る場合があるが、本明細書では、説明の便宜上、交流が出力あるいは入力される端子を出力端11a-11cと称する。
モータ20は、3個のコイル21a-21cを備えている、3個のコイル21a-21cのそれぞれは、不図示のステータのコアに巻回されている。3個のコイル21a-21cのそれぞれの一端が一点で連結されている。すなわち、3個のコイル21a-21cは、スター結線されている。3個のコイル21a-21cが連結されている箇所を、スター結線点Scと称する。
コイル21aの他端22aは、スイッチング回路10aの出力端11aに接続されている。コイル21b、21cの他端22b、22cは、それぞれ、スイッチング回路10bの出力端11b、スイッチング回路10cの出力端11cに接続されている。先に述べたように、1個のスイッチング回路から出力された交流電流が残り2個のスイッチング回路の出力端に戻る場合と、2個のスイッチング回路から出力された交流電流が残り1個のスイッチング回路の出力端に戻る場合がある。
3個のスイッチング回路10a-10cから出力される交流(あるいは、スイッチング回路へ戻る電流)は、電流センサ5a-5cで計測される。電流センサ5a-5cの計測値は、コントローラ30へ送られる。コントローラ30は、不図示の上位コントローラから、三相交流出力の目標指令を受ける(なお、目標指令の単位は電圧である)。コントローラ30は、電流センサ5a-5cの計測値に基づいて、スイッチング回路10a-10cの動作が目標指令に追従するように、スイッチング回路10a-10cを制御する。
図2に、スイッチング回路10aの回路図を示す。以下、図2を参照しつつスイッチング回路10aについて説明する。スイッチング回路10a-10cはすべて同じ構造を有しているので、スイッチング回路10b、10cについての説明は省略する。
スイッチング回路10aは、第1上スイッチング素子12a、第2上スイッチング素子12b、第1下スイッチング素子13a、第2下スイッチング素子13b、第1サブリアクトル16a、第2サブリアクトル16bを備えている。さらに、スイッチング回路10aは、第1上ダイオード14a、第2上ダイオード14b、第1下ダイオード15a、第2下ダイオード15bを備えている。
第1上スイッチング素子12aと第1下スイッチング素子13aは、正極線3aと負極線3bの間に直列に接続されている。第1上スイッチング素子12aが正極線3aの側に位置しており、第1下スイッチング素子13aが負極線3bの側に位置している。なお、第1上スイッチング素子12aには第1上ダイオード14aが逆並列に接続されており、第1下スイッチング素子13aには第1下ダイオード15aが逆並列に接続されている。
第2上スイッチング素子12bと第2下スイッチング素子13bも、正極線3aと負極線3bの間に直列に接続されている。別言すれば、第1上スイッチング素子12aと第1下スイッチング素子13aの直列接続と、第2上スイッチング素子12bと第2下スイッチング素子13bの直列接続が、正極線3aと負極線3bの間で並列に接続されている。
第2上スイッチング素子12bが正極線3aの側に位置しており、第2下スイッチング素子13bが負極線3bの側に位置している。第2上スイッチング素子12bには第2上ダイオード14bが逆並列に接続されており、第2下スイッチング素子13bには第2下ダイオード15bが逆並列に接続されている。
第1サブリアクトル16aは、第1上スイッチング素子12aと第1下スイッチング素子13aの直列接続の中点(第1中点17a)と出力端11aの間に接続されている。第2サブリアクトル16bは、第2上スイッチング素子12bと第2下スイッチング素子13bの直列接続の中点(第2中点17b)と出力端11aの間に接続されている。
スイッチング回路10aは、三相交流を出力するインバータ9の1個の交流出力回路に相当する。よく知られているように、インバータの1個の交流出力回路は、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子の直列接続で構成される。上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子が交互にオンオフすることで、直列接続の中点から交流が出力される。第1上スイッチング素子12aと第2上スイッチング素子12bが上アームスイッチング素子に対応し、第1下スイッチング素子13aと第2下スイッチング素子13bが、下アームスイッチング素子に対応する。別言すれば、スイッチング回路10aでは、2個のスイッチング素子(第1、第2上スイッチング素子12a、12b)で上アームスイッチング素子が構成され、別の2個のスイッチング素子(第1、第2下スイッチング素子13a、13b)で下アームスイッチング素子が構成される。
スイッチング回路10aでは、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子の直列接続が2組、並列に接続される構成を有している。2組の直列接続が交互に動作することで、各スイッチング素子に加わる負荷が低減される。また、2組の直列接続が同時に同期してオンオフすることで、各スイッチング素子の負荷を抑えつつ、大きな電流を出力することができる。本実施例では、2組の直列接続の交互動作に起因する損失を低減する技術に着目する。
スイッチング回路10aの4個のスイッチング素子(および、他のスイッチング回路のスイッチング素子)は、コントローラ30によって制御される。図3にコントローラ30の制御ブロック図を示す。図3の記号「SW」は、「スイッチング」を意味する。
コントローラ30は、信号出力部31、信号分配部32、信号調整部33、キャリア発生部34を備えている。なお、図3では、信号出力部31を重畳した3個の矩形で表してある。これは、3個のスイッチング回路10a-10cのそれぞれに対して信号出力部が用意されていることを示している。3個の信号出力部は同じ動作をするので、代表してスイッチング回路10aに対する信号出力部31を説明する。信号分配部32、信号調整部33についても同様である。以下、スイッチング回路10aに対応する信号出力部31、信号分配部32、信号調整部33を説明する。以下では説明の便宜のため、モータ20を駆動する交流三相(u相、v相、w相)のうち、スイッチング回路10aが担当する相をu相とする。
信号出力部31は、u相用の上PWM信号と下PWM信号を出力する。上PWM信号と下PWM信号は、いずれも、所定のデューティ比を有するPWM(Pulse Width Modulation)信号である。上PWM信号は、通常のインバータのu相の上アームスイッチング素子に対する駆動信号に相当する。下PWM信号は、通常のインバータのu相の下アームスイッチング素子に対する駆動信号に相当する。上PWM信号(下PWM信号)は、HIGHレベルとLOWレベルを含むパルス信号である。上PWM信号(下PWM信号)がHIGHレベルのときに対応するスイッチング素子はオンし、LOWレベルのときに対応するスイッチング素子がオフする。
信号出力部31は、上位コントローラ91から、目標電圧指令を受信する。信号出力部31は、u相の目標電圧指令とキャリア信号を比較し、u相の目標電圧指令がキャリア信号よりも大きい期間にHIGHレベルとなり、小さい期間にLOWレベルとなる上PWM信号を生成する。キャリア信号は、キャリア発生部34から得る。キャリア信号は、所定の周波数の三角波である。信号出力部31は、上PWM信号を反転させた信号を、下PWM信号として出力する。
信号調整部33は、信号出力部31と信号分配部32の間に接続されている。信号調整部33は、バイパス回路33aと反転回路33bを備えている。信号調整部33は、所定の条件が成立した場合、反転回路33bを介して信号出力部31と信号分配部32を接続する。このとき、信号調整部33は、信号出力部31が出力した上PWM信号と下PWM信号をそれぞれ反転させて信号分配部32へ出力する。所定の条件が成立しない間、信号調整部33は、バイパス回路33aを介して信号出力部31と信号分配部32を接続する。このとき、信号調整部33は、信号出力部31が出力した上PWM信号と下PWM信号をそのまま信号分配部32へ流す。信号調整部33の動作については後述する。
信号分配部32は、上PWM信号と下PWM信号のそれぞれに対して切り替えスイッチ32aを備えている。切り替えスイッチ32aの入力端には、上PWM信号(下PWM信号)が入力される。切り替えスイッチ32aの2個の出力端のそれぞれは、第1上スイッチング素子12a(第1下スイッチング素子13a)のゲート端子と、第2上スイッチング素子12b(第2下スイッチング素子13b)のゲート端子につながっている。信号分配部32は、上PWM信号(下PWM信号)のレベルがHIGHからLOWに切り替わると、出力端を切り替える。すなわち、信号分配部32は、上PWM信号を、その上PWM信号に含まれる1回のパルスごとに、スイッチング回路10aの第1上スイッチング素子12aと第2上スイッチング素子12bに交互に振り分ける。同時に、信号分配部32は、下PWM信号を、その下PWM信号に含まれる1回のパルスごとに、スイッチング回路10aの第1下スイッチング素子13aと第2下スイッチング素子13bに交互に振り分ける。信号分配部32によって、第1上スイッチング素子12aと第1下スイッチング素子13aの直列接続と、第2上スイッチング素子12bと第2下スイッチング素子13bの直列接続が交互に動作することになる。切り替えスイッチ32aで選択されなかったスイッチング素子のゲート端子は、LOWレベルに保持される。選択されなかったスイッチング素子のゲート端子をLOWレベルに保持する回路は図示を省略している。
信号出力部31と信号分配部32の上記説明は、1個のスイッチング回路10aに対する説明である。先に述べたように、信号出力部31と信号分配部32は、モータ20に供給する三相交流のそれぞれに対応して設けられている。3相の全体をまとめて説明すると、信号出力部31と信号分配部32は次の通りに表現される。信号出力部31は、3個の上PWM信号と、3個の下PWM信号を出力する。3個の上PWM信号は、それぞれが対応するスイッチング回路の第1上スイッチング素子12aまたは第2上スイッチング素子12bを駆動する信号である。3個の下PWM信号は、それぞれが対応するスイッチング回路の第1下スイッチング素子13aまたは第2下スイッチング素子13bを駆動する信号である。
信号分配部32は、3個の上PWM信号のそれぞれを、上PWM信号の1パルス毎に、対応するスイッチング回路の第1上スイッチング素子12aと第2上スイッチング素子12bに交互に振り分ける。また、信号分配部32は、3個の下PWM信号のそれぞれを、下PWM信号の1パルス毎に、対応するスイッチング回路の第1下スイッチング素子13aと第2下スイッチング素子13bに交互に振り分ける。
信号調整部33について詳しく説明する。先に述べたように、信号調整部33は、信号出力部31と信号分配部32の間に接続されている。先に述べたように、信号調整部33は、所定の条件が成立した場合、反転回路33bを介して信号出力部31と信号分配部32を接続する。別言すれば、信号調整部33は、所定の条件が成立した場合、信号出力部31が出力したすべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転させて信号分配部32へ送る。また、信号調整部33は、上記した条件が成立しない場合は、信号出力部31が出力したすべての上PWM信号とすべての下PWM信号をそのまま信号分配部32へ送る。
上記した所定の条件について説明する。信号調整部33は、次の(条件1)または(条件2)が成立した場合に、すべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転させる。その条件とは次の通りである。(条件1)モータ20の3個のコイル21a-21cに流れる3相の電流のうち2相の電流が負値であり、3個の上PWM信号のすべてがHIGHレベルのとき。(条件2)3個のコイル21a-21cに流れる3相の電流のうち2相の電流が正値であり、3個の下PWM信号のすべてがLOWレベルのとき。なお、ここでは、電流がスイッチング回路からコイルへ流れる向きを正値と定義する。逆に、電流がコイルからスイッチング回路へ流れる向きは負値となる。
信号調整部33の上記の動作によって、上スイッチング素子と下スイッチング素子の2組の直列接続を交互に動作させるときの損失が低減される。このことを、図4から図9を使って説明する。
図4から図8は、図2の回路図に電流の流れを太矢印線と太破線矢印線で示した図である。図4から図8は、負値の電流が流れるスイッチング回路10aにおいて、第1下スイッチング素子13aがオンオフした後に下PWM信号の次のパルスで第2下スイッチング素子13bがオンするときの電流の流れを示している。先に述べたように、信号分配部32が、下PWM信号を1パルスごとに第1下スイッチング素子13aと第2下スイッチング素子13bに振り分ける。
以下では、説明の便宜上、第1中点17aの電圧を記号Vx1(第1中点電圧Vx1)で表し、第2中点17bの電圧を記号Vx2(第2中点電圧Vx2)で表す。また、出力端11aの電圧を記号Vm(出力端電圧Vm)で表す。別言すると、電圧Vmは、第1サブリアクトル16aと第2サブリアクトル16bのモータ側の電圧を表しており、第1中点電圧Vx1(第2中点電圧Vx2)は、第1サブリアクトル16a(第2サブリアクトル16b)のスイッチング素子側の電圧を表している。さらに、正極線3aと負極線3bの間の電圧を、直流側電圧VHと称する。負極線3bの電位はグランド電位と称する。また、3個のコイル21a-21cのスター結線点Scの電圧を記号Vc(スター結線点電圧Vc)で表す。図4-図8では、第2上スイッチング素子12bと第2下スイッチング素子13bのそれぞれに付随する寄生容量19を破線で示してある。
信号調整部33の動作の効果の概略は次の通りである。出力端電圧Vmは、スター結線点電圧Vcに依存する。よく知られているように、スター結線点電圧Vcは、正極線3aの電位と負極線3bの電位の間で変化する。すなわち、スター結線点電圧Vcは、直流側電圧VHとグランド電位の間で変化する。スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHに等しく、かつ、スイッチング回路10aに負値の電流が流れていると、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも高くなる。そのような状況のもとで第1下スイッチング素子13aのオンオフに続いて第2下スイッチング素子13bがオフからオンに切り替わるとき、第1上ダイオード14aと第2上ダイオード14bの両方の逆回復電流が第2下スイッチング素子13bへ流れる。両方の上ダイオードから逆回復電流が流れ込むときに無駄な損失が発生する。そのような状況のときにすべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転することで、スター結線点電圧Vcが下がり、出力端電圧Vmが下がる。その結果、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも低くなり、一方の上ダイオードの逆回復電流を阻止できる。すなわち、損失を抑制することができる。類似の効果が、スター結線点電圧Vcが負極線3bの電圧に等しく、かつ、スイッチング回路10aに正値の電流が流れている場合にも期待できる。
(条件1)が2相のスイッチング回路に負値の電流が流れているときに限定しているのは、信号調整部の動作によって2個のスイッチング回路の損失が抑えられるからである。同様に、(条件2)が2相のスイッチング回路に正値の電流が流れているときに限定しているのは、信号調整部の動作によって2個のスイッチング回路の損失が抑えられるからである。信号調整部が上PWM信号と下PWM信号を反転すると総スイッチング回数が増え、損失は増える。しかし、信号調整部の動作によって2個のスイッチング回路の損失を抑えることの効果が大きいので、モータシステム全体での損失が抑えられる。
次に、信号調整部33の動作を具体的に詳しく説明する。
(図4)図4は、第1下スイッチング素子13aがオフからオンに切り替わったときの電流の流れを示している。
第1下スイッチング素子13aがオフからオンに切り替わると、コイル21aを流れるu相電流は出力端11aと第1サブリアクトル16aと第1中点17aと第1下スイッチング素子13aを通り、負極線3bへと流れる(図4の太矢印線)。このとき、第2下スイッチング素子13bはオフしており、第2下スイッチング素子13bには電流は流れない。また、出力端11aから正極線3aには電流が流れ得る状態にあるが、出力端11aが負極線3bと導通状態にあるから、出力端11aから正極線3aには電流は流れない。
(図5)図5は、第1下スイッチング素子13aがオンからオフに切り替わった後の電流の流れを示している。出力端11aから第1下スイッチング素子13aを介して負極線3bへ向かう電流が減少すると、コイル21aと第1サブリアクトル16aの誘導起電力が、出力端11aから第1中点17aへ向かう電流を発生する。この電流は第1中点17aから第1上ダイオード14aを通過し、正極線3aへと流れる(太矢印線)。第1上ダイオード14aの順電圧(第1順電圧)を記号Vf1で表すと、第1中点17aの電圧(第1中点電圧Vx1)は、直流側電圧VH+第1順電圧Vf1となる。このとき、第2上ダイオード14bには電流が流れていないので、第2中点17bの電圧(第2中点電圧Vx2)は、直流側電圧VHより小さい。すなわち、第1中点電圧Vx1>第2中点電圧Vx2となる。それゆえ、出力端11aから第2サブリアクトル16bを通じて寄生容量19へ電流が流れる(太破線矢印線)。寄生容量19に電荷が蓄えられる。
(図6)寄生容量19へのチャージが満杯になると、第2サブリアクトル16bで誘導起電力が生じ、第2サブリアクトル16bから第2上ダイオード14bを通じて正極線3aへと電流が流れる(太破線矢印線)。
以後の電流の流れは、出力端電圧Vmと第2中点電圧Vx2の大小関係に依存する。図7は、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも大きい場合(ケース1)の電流の流れを示しており、図8は出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも小さい場合(ケース2)の電流の流れを示している。詳しくは後述するが、ケース1の場合に損失が生じる。ケース2では損失が抑えられる。信号調整部33の働きによって、ケース1をケース2に変えることができる。ケース1とケース2が生じる理由は後述する。まずは、ケース1とケース2の相違について説明する。
(図7)図6の状態で「出力端電圧Vm>第2中点電圧Vx2」が成立する場合(ケース1)、寄生容量19が満充電となっても、電流は第2サブリアクトル16bと第2上ダイオード14bを通じて正極線3aへ流れ続ける。その状態で第2下スイッチング素子13bがオフからオンに切り替わる(図7)。そうすると、第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧が、「直流側電圧VH+第2順電圧Vf2」からゼロボルトに変化する。そうすると、図6において第1上ダイオード14aと第2上ダイオード14bを流れていた電流(コイル21aからスイッチング回路に流れてくる電流)は、第1上ダイオード14aと第2上ダイオード14bの代わりに第2スイッチング素子13bに流れていく(図7)。この電流変化のとき、第2上ダイオード14bを流れていた電流は瞬時に減少する。減少した分の電流は第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に第2下スイッチング素子13bを流れる。スイッチングと同時に電流が流れると大きな損失を発生させる。一方、図6において第1上ダイオード14aを流れていた電流は、第1サブリアクトル16aと第2サブリアクトル16bの効果により、徐々に減少する。その減少した分の電流は、時間遅れの効果によって、第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧がゼロボルトに下がった後に、第2下スイッチング素子13bを流れる。すなわち、図6において第1上ダイオード14aを流れていた電流の減少分は、第2下スイッチング素子13bのスイッチングが完了した後に第2下スイッチング素子13bを流れる。これらの電流はゼロボルトでの素子電流となるため、スイッチング損失をほとんど発生させない。
次の図8(出力端電圧Vm<第2中点電圧Vx2)の場合(ケース2)、第2下スイッチング素子13bのスイッチングの直前に、第2上ダイオード14bには電流が流れていない。そのため、第2上ダイオード14bを流れていた電流が瞬時に減少し、減少した分の電流が第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に第2下スイッチング素子13bを流れることで発生する大きな損失を抑えることができる。すなわち、ケース2の場合は、スイッチング損失を抑えることができる。
第2下スイッチング素子13bがオフからオンに切り替わると、図6において第1上ダイオード14aと第2上ダイオード14bを流れていた電流(コイル21aからスイッチング回路に流れてくる電流)に加えて、第1上ダイオード14aと第2上ダイオード14bの両方の逆回復電流が第2下スイッチング素子13bへ流れ込む(図7の太破線矢印線)。
図7において、第1上ダイオード14aの逆回復電流は、第1サブリアクトル16aと第2サブリアクトル16bを通じて第2下スイッチング素子13bへと流れる。このとき、第1サブリアクトル16aと第2サブリアクトル16bのインダクタンスにより、第1上ダイオード14aの逆回復電流が第2下スイッチング素子13bに到達するのに時間遅れが生じる。この時間遅れにより、第2下スイッチング素子13bが完全にオン状態に移行してから逆回復電流が流れることになるためスイッチング損失が抑制される。すなわち、第1上ダイオード14aの逆回復電流に起因するスイッチング損失が抑制される。
一方、第2上ダイオード14bの逆回復電流は直接に第2下スイッチング素子13bへと流れる。リアクトルを介さないため、第2上ダイオード14bの逆回復電流は、第2下スイッチング素子13bがオフからオンに切り替わると同時に第2下スイッチング素子13bへと流れ始める。スイッチングの最中に電流が流れると大きなスイッチング損失を生じる。次の図8(出力端電圧Vm<第2中点電圧Vx2)の場合(ケース2)、第2下スイッチング素子13bのスイッチングの直前に、第2上ダイオード14bには電流が流れていない。そのため、ケース1(図7)では生じていた第2上ダイオード14bから第2下スイッチング素子13bへ流れる逆回復電流をケース2(図8)では阻止できる。すなわち、ケース2の場合は第2上ダイオード14bの逆回復電流に起因する損失を抑えられる。
(図8)図6の状態で「出力端電圧Vm<第2中点電圧Vx2」が成立する場合(ケース2)、寄生容量19が満充電になると、出力端11aから第2中点17bへの電流が止まる。第2サブリアクトル16bを流れていた電流は止まり、第1サブリアクトル16aと第1上ダイオード14aを通じてのみ、電流は正極線3aへ流れる。その状態で第2下スイッチング素子13bがオフからオンに切り替わると(図8)、第1上ダイオード14aを流れていた電流は、上述のように、第1サブリアクトル16aと第2サブリアクトル16bの効果により、徐々に減少する。その減少した分の電流は、時間遅れの効果によって、第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧がゼロボルトに下がった後に、第2下スイッチング素子13bを流れる。これらの電流は、ゼロボルトでの素子電流となるため、スイッチング損失をほとんど発生させない。第2上ダイオード14bには、第2下スイッチング素子13bのオンの直前に電流が流れていない。図7のケース1では、第2上ダイオード14bを流れていた電流が瞬時に減少し、減少した分の電流が、第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に、第2下スイッチング素子13bを流れる。ケース1では、第2下スイッチング素子13bのスイッチングと同時に電流が流れるので大きなスイッチング損失が発生する。ケース2(図8)では、第2下スイッチング素子13bのスイッチングのときに第2下スイッチング素子13bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に電流が第2下スイッチング素子13bを流れることは発生しないでの、ケース1のときに生じるスイッチング損失を抑えることができる。
加えて、ケース2では、第2下スイッチング素子13bがオフからオンに切り替わると(図8)、第1上ダイオード14aの逆回復電流は第2下スイッチング素子13bへと流れ得るが(太破線矢印線)、第2上ダイオード14bの逆回復電流は発生しない。第1上ダイオード14aから第2下スイッチング素子13bへ流れる逆回復電流は、図7の場合(ケース1)と同様に、第1サブリア16aと第2サブリアクトル16bの効果により、時間遅れを伴って第2下スイッチング素子13bに到達するのでスイッチング損失が抑制される。また、第2上ダイオード14bの逆回復電流は発生しないので、第2上ダイオード14bに起因する損失は生じない。図7と図8を比較すると明らかなとおり、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも小さい場合(ケース2)、第2上ダイオード14bの逆回復電流に起因する損失が抑えられる。
ケース1(出力端電圧Vm>第2中点電圧Vx2)と、ケース2(出力端電圧Vm<第2中点電圧Vx2)が生じる状況について説明する。u相(スイッチング回路10a)に流れる電流が負値の場合、第1中点電圧Vx1=直流側電圧VH+第1順電圧Vf1である。ここで、第1順電圧Vf1は、第1上ダイオード14aの順電圧を表している。
一方、出力端電圧Vmは、次の(数式1)で表される。
Vm=Vc+(Vx1-Vc)*Lm/(Lm+Lr1) (数式1)
(数式1)において、記号Lmはコイル21aのインダクタンスを表しており、記号Lr1は、第1サブリアクトル16aのインダクタンスを表している。(数式1)の右辺第2項は、出力端11aにおけるスター結線点電圧Vcと第1中点電圧Vx1の分電圧を表している。別言すれば、分電圧は、コイル21aのインダクタンスLmと第1サブリアクトル16aのインダクタンスLr1によって、(数式1)の右辺第2項で表される。
(数式1)に「Vx1=VH+Vf1」を代入すると、次の(数式2)が得られる。
Vm=Vc+(VH+Vf1-Vc)*Lm/(Lm+Lr1) (数式2)
(数式2)は、出力端電圧Vmが、スター結線点電圧Vcと第1サブリアクトル16aのインダクタンスLr1に依存することを示している。図9に、出力端電圧Vmのスター結線点電圧Vc及びインダクタンスLr1への依存性を示す。図9は、電流が負値の場合の出力端電圧Vmの変化を示している。よく知られているように、スター結線点電圧Vcは、3個のコイルの線間電圧に依存して、VH、2VH/3、VH/3、グランド電位のいずれかになる。
図9に示されているように、スター結線点電圧Vc=直流側電圧VHの場合、第1サブリアクトル16aのインダクタンスがコイル21aのインダクタンスに等しくなっても出力端電圧Vmは第2中点電圧Vx2よりも大きいままとなる。第1サブリアクトル16aのインダクタンスLr1はコイル21bのインダクタンスLmよりも相応に小さくなければならない(そうでなければ、モータ20の動作に支障が生じてしまう)。逆に、スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHより低ければ、第1サブリアクトル16aのインダクタンスLr1がコイル21aのインダクタンスLmより小さい値でも、出力電圧VMを第2中点電圧Vx2よりも小さくすることが可能となる(すなわち、ケース2を実現することができる)。従って、スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHとなることを避けることができれば、ケース1をケース2に変更することができる。
スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHに等しくなるのは、3相すべての上アームスイッチング素子がオンであり、3相すべての下アームスイッチング素子がオフの場合である。このとき、3相の線間電圧(u相とv相の電圧差Vuv、u相とw相の電圧差Vuw、および、v相とw相の電圧差Vvw)のすべてがゼロとなる。また、3相すべての上アームスイッチング素子がオフであり、3相すべての下アームスイッチング素子がオンの場合も、3相の線間電圧Vuv、Vuw、Vvwのすべてがゼロとなる。従って、すべての上アームスイッチング素子がオンであり、すべての下アームスイッチング素子がオフの場合と、すべての上アームスイッチング素子がオフであり、すべての下アームスイッチング素子がオンの場合では、モータの動きに相違はない。すなわち、すべての上アームスイッチング素子がオンでありすべての下スイッチング素子がオフの場合において、すべてのスイッチング素子の状態を反転させても、モータの動きに支障はない。さらに、すべての上アームスイッチング素子がオフでありすべての下アームスイッチング素子がオンの場合、スター結線点電圧Vcはグランド電位となる。図9から明らかなとおり、スター結線点電圧Vcがグランド電位であれば、ケース2(出力端電圧Vm<第2中点電圧Vx2)を実現可能である。
ところで、実施例のモータシステム2において、すべての上アームスイッチング素子がオンとなるのは、コントローラ30の信号出力部31が出力する3個の上PWM信号のすべてがHIGHレベルのときである。なお、このとき、3個の下PWM信号のすべてはLOWレベルになっている。信号出力部31が出力する3個の上PWM信号のすべてがHIGHレベルのとき、すべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転させると、モータ20の動作に影響を与えることなく、スター結線点電圧Vcを直流側電圧VHからグランド電位に変更できる。
上記の条件は、先に述べた(条件1)に相当する。なお、先に述べたように、(条件1)が2相のスイッチング回路に負値の電流が流れているときに限定しているのは、信号調整部の動作によって2個のスイッチング回路の損失が抑えられるからである。コントローラ30の信号調整部33は、(条件1)が成立したときにすべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転させる。この動作により、2個のスイッチング回路(負値の電流が流れるスイッチング回路)において、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも大きい状態(ケース1)を、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも小さい状態(ケース2)に変えることができる。ケース1をケース2に変えることができるので、図7と図8を参照して説明したように、第2上ダイオード14bの逆回復電流に起因する損失、及び、コイル21aから流れてくる電流による損失を抑えることができる。
図4-図9で説明した事象と類似の事象が、スイッチング回路に流れる電流が正値の場合にも起こり得る。そのことを図10-図15を使って説明する。
図10から図14は、正値の電流が流れるスイッチング回路10aにおいて、第1上スイッチング素子12aがオンオフした後に上PWM信号の次のパルスで第2上スイッチング素子12bがオンするときの電流の流れを示している。先に述べたように、信号分配部32が、上PWM信号を1パルスごとに第1上スイッチング素子12aと第2上スイッチング素子12bに振り分ける。
(図10)図10は、u相(スイッチング回路10a)を流れる電流が正値であるとともに、第1上スイッチング素子12aがオフからオンに切り替わったときの電流の流れを示している。
第1上スイッチング素子12aがオフからオンに切り替わると、電流は、正極線3aから第1上スイッチング素子12a、第1サブリアクトル16aを通り、コイル21aへと流れる(図10の太矢印線)。このとき、第2上スイッチング素子12bはオフしており、第2上スイッチング素子12bには電流は流れない。なお、第2上スイッチング素子12bと第2下スイッチング素子13bの寄生容量19には電荷がチャージされている。
(図11)図11は、第1上スイッチング素子12aがオンからオフに切り替わった後の電流の流れを示している。正極線3aから第1上スイッチング素子12aを介してコイル21aへ向かう電流が減少すると、コイル21aと第1サブリアクトル16aの誘導起電力が、第1中点17aから出力端11aへ向かう電流を発生する。この電流は、負極線3bから第1下ダイオード15aを通じて第1サブリアクトル16a、コイル21aへと流れる(太矢印線)。同時に、コイル21aの誘導起電力により、寄生容量19の電荷が放電され、第2サブリアクトル16bからコイル21aへと電流が流れる(太破線矢印線)。
(図12)寄生容量19の電荷が空になると、第2サブリアクトル16bで誘導起電力が生じ、第2下ダイオード15bを通じて負極線3bから第2サブリアクトル16bへと電流が流れる(太破線矢印線)。
以後の電流の流れは、出力端電圧Vmと第2中点電圧Vx2の大小関係に依存する。図13は、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも小さい場合(ケース3)の電流の流れを示しており、図14は出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも大きい場合(ケース4)の電流の流れを示している。詳しくは後述するが、ケース3の場合に損失が生じる。ケース4では損失が抑えられる。信号調整部33の働きによって、ケース3をケース4に変えることができる。次に、ケース3とケース4の相違について説明する。
(図13)図12の状態で「出力端電圧Vm<第2中点電圧Vx2」が成立する場合(ケース3)、寄生容量19の電荷が空になっても、電流は負極線3bから第2下ダイオード15bを通して第2サブリアクトル16b、出力端11aへと流れ続ける。その状態で第2上スイッチング素子12bがオフからオンに切り替わる。そうすると、第2上スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧が、「直流側電圧VH+第2順電圧Vf2」からゼロボルトに変化する。第1下ダイオード15aと第2下ダイオード15bを流れていた電流(スイッチング回路からコイル21aに流れていく電流)は、第1下ダイオード15aと第2下ダイオード15bの代わりに、第2上スイッチング素子12bを流れるようになる。このとき、第2下ダイオード15bを流れていた電流は、瞬時に減少する。減少した分の電流が、第2上スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に、第2上スイッチング素子12bを流れる。第2上スイッチング素子12bのスイッチングと同時に第2上スイッチング素子12bへ電流が流れると大きな損失を発生させる。一方、第1下ダイオード15aを流れていた電流は、第1サブリアクトル16aと第2サブリアクトル16bの効果により、徐々に減少する。減少した分の電流は、時間遅れを伴って第2上スイッチング素子12bを流れる。それゆえ、第1下ダイオード15aから流れてくる電流は、第2スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧がゼロボルトに下がった後に第2上スイッチング素子12bを流れる。これらの電流は、ゼロボルトでの素子電流となるため、スイッチング損失をほとんど発生させない。
次の図14(出力端電圧Vm>第2中点電圧Vx2)の場合(ケース4)、第2上スイッチング素子12bのスイッチングの直前に、第2下ダイオード15bには電流が流れていない。そのため、ケース3(図13)のときに生じていた損失は、ケース4では生じない。すなわち、ケース4の場合は、スイッチング損失が抑えられる。ここで、ケース3(図13)のときに生じていた損失とは、第2下ダイオード15bを流れていた電流が瞬時に減少し、減少した分の電流が第2上スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に第2上スイッチング素子12bを流れることによる損失である。
第2上スイッチング素子12bがオフからオンに切り替わると、図12において第1下ダイオード15aと第2下ダイオード15bを流れていた電流(スイッチング回路からコイル21aに流れていく電流)に加えて、第1下ダイオード15aと第2下ダイオード15bの両方の逆回復電流が、正極線3aから第2上スイッチング素子12bを介して流れる(図13の太破線矢印線)。
図13において、第1下ダイオード15aの逆回復電流は、正極線3aから第2上スイッチング素子12bと第2サブリアクトル16bと第1サブリアクトル16aを通じて流れる。このとき、第2サブリアクトル16bと第1サブリアクトル16aのインダクタンスにより、第1下ダイオード15aの逆回復電流は時間遅れを伴って第2上スイッチング素子12bへ流れる。すなわち、第1下ダイオード15aの逆回復電流は、第2上スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化に対して遅れて第2上スイッチング素子12bを流れる。すなわち、第1下ダイオード15aの逆回復電流は、第2上スイッチング素子12bが完全にオン状態に移行してから流れることになるため、逆回復電流に起因するスイッチング損失が抑制される。すなわち、第1下ダイオード15aの逆回復電流に起因するスイッチング損失が抑制される。
一方、第2下ダイオード15bの逆回復電流は、直接に第2上スイッチング素子12bを介して流れる。リアクトルを介さないため、第2下ダイオード15bの逆回復電流は、第2上スイッチング素子12bがオフからオンに切り替わると同時に第2上スイッチング素子12bを介して流れ始める。スイッチングの最中に電流が流れると大きなスイッチング損失を生じる。次の図14(出力端電圧Vm>第2中点電圧Vx2)の場合(ケース4)、第2上スイッチング素子12bのスイッチングの直前に、第2下ダイオード15bには電流が流れていない。それゆえ、ケース3では生じていた逆回復電流(第2上スイッチング素子12bを介して流れる第2下ダイオード15bの逆回復電流)を阻止できる。すなわち、ケース4の場合は第2下ダイオード15bの逆回復電流に起因する損失を抑えられる。
(図14)図12の状態で「出力端電圧Vm>第2中点電圧Vx2」が成立する場合(ケース4)、寄生容量19の電荷が空になると、第2中点17bから出力端11aへ向かう電流が止まる。第2サブリアクトル16bを流れていた電流は止まり、第1サブリアクトル16aと第1下ダイオード15aを通じてのみ、負極線3bから電流は流れる。その状態で第2上スイッチング素子12bがオフからオンに切り替わると(図14)、第1下ダイオード15aを流れていた電流は、上述のように、第1リアクトル16aと第2リアクトル16bの効果により、徐々に減少する。減少した分の電流は時間遅れを伴って第2上スイッチング素子12bへ流れる。第1下ダイオード15aから流れてくる電流は、第2上スイッチング素子14bのエミッタ/コレクタ間の電圧がゼロボルトに下がった後に、第2上スイッチング素子12bを流れる。これらの電流はゼロボルトでの素子電流となるため、スイッチング損失をほとんど発生させない。ケース4では、第2下ダイオード15bには、第2上スイッチング素子12bのオンの直前に電流が流れていない。それゆえ、ケース3では発生した損失(第2上スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化と同時に第2下ダイオード15bから第2上スイッチング素子12bへ流れる電流による損失)は、ケース4では生じない。
加えて、ケース4では、第2上スイッチング素子12bがオフからオンに切り替わると(図14)、第1下ダイオード15aの逆回復電流は、正極線3aから第2上スイッチング素子12bを介して流れる(太破線矢印線)。第2上スイッチング素子12bのスイッチングの直前に、第2下ダイオード15bには電流が流れていないため、第2下ダイオード15bの逆回復電流は発生しない。第2上スイッチング素子12bを介して第1下ダイオード15aを流れる逆回復電流は、図13(ケース3)と同様に、第2サブリアクトル16bと第1サブリアクトル16aの効果により、第2上スイッチング素子12bのエミッタ/コレクタ間の電圧の変化に対し、時間遅れを伴って第2スイッチング素子12bを流れる。それゆえ、スイッチング損失が抑制される。また、第2下ダイオード15bの逆回復電流は発生しないので、第2下ダイオード15bに起因する損失は生じない。図13と図14を比較すると、明らかなとおり、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2より大きい場合(ケース4)、第2下ダイオード15bの逆回復電流に起因する損失が抑えられる。
図15に示されているように、スター結線点電圧Vc=グランド電位の場合、第1サブリアクトル16aのインダクタンスがコイル21aのインダクタンスに等しくなっても出力端電圧Vmは第2中点電圧Vx2よりも小さいままである。第1サブリアクトル16aのインダクタンスLr1はコイル21bのインダクタンスLmよりも相応に小さくなければならない(そうでなければ、モータ20の動作に支障が生じてしまう)。スター結線点電圧Vcがグランド電位よりも高ければ、第1サブリアクトル16aのインダクタンスLr1がコイル21aのインダクタンスLmより小さい値でも、ケース4、すなわち、出力電圧VMが第2中点電圧Vx2よりも大きくなり得る。
スター結線点電圧Vcがグランド電位に等しくなるのは、3相すべての下アームスイッチング素子がオンであり、3相すべての上アームスイッチング素子がオフの場合である。この場合、先に述べたように、すべてのPWM信号を反転しても、モータの動きに支障はない。そして、3相すべての下アームスイッチング素子をオフに切り替え、3相すべての上アームスイッチング素子をオンに切り替えることで、スター結線点電圧Vcを直流側電圧VHへ引き上げることができる。
実施例のモータシステム2の場合、すべての下アームスイッチング素子がオンとなるのは、コントローラ30の信号出力部31が出力するすべての下PWM信号がHIGHレベルのときである。また、すべての上アームスイッチング素子がオフとなるのは、コントローラ30の信号出力部31が出力するすべての上PWM信号がLOWレベルのときである。
先のケース1とケース2の場合と類似の理由により、先の(条件2)が成立したときにすべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転させることで、ケース3をケース4に変えることが出来る。なお、先に述べたように、(条件2)が2相のスイッチング回路に正値の電流が流れているときに限定しているのは、信号調整部の動作によって2個のスイッチング回路の損失が抑えられるからである。コントローラ30の信号調整部33は、(条件2)が成立したときにすべての上PWM信号とすべての下PWM信号を反転させる。この動作により、2個のスイッチング回路(正値の電流が流れるスイッチング回路)において、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも小さい状態(ケース3)を、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも大きい状態(ケース4)に変えることができる。ケース3をケース4に変えることができるので、図13と図14を参照して説明したように、第2下ダイオード15bを流れる電流に起因する損失、及び、コイル21aに流れていく電流による損失を抑えることができる。
信号調整部33による損失低減効果を、図16-図20を使って説明する。図16は、コントローラ30が上位コントローラ91から受ける3相各相の目標電圧指令(電圧指令Vu、Vv、Vw)のグラフと、モータ20の三相各相(コイル21a-21c)に流れる電流(Iu、Iv、Iw)のグラフである。電圧指令Vuに対してu相電流Iuは位相が90度ずれる。同様に、電圧指令Vvに対してv相電流Ivは位相が90度ずれる。電圧指令Vwに対してw相電流Iwは位相が90度ずれる。
図16の区間C1は、2相(u相、v相)の電流Iu、Ivが負値であり、残り1相(w相)の電流Iwが正値の区間である。区間C1を拡大した図を図17、図18に示す。
図17は、3相交流のうち、u相とv相の2相がケース1、すなわち、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも大きい場合の電圧指令と各相の電圧変化、及び、スター結線点電圧Vcの変化を示す。電圧指令のグラフには、三角波のキャリア信号も記してある。キャリア信号のレベルよりも電圧指令が高い区間で相電圧が直流側電圧VHになる。キャリア信号のレベルよりも電圧指令が低い区間では相電圧がゼロボルト(グランド電位)となる。図17は、信号調整部33が無い場合の波形であって損失が発生する場合(すなわち比較例)を示している。
各スイッチング回路のスイッチング素子の状態は次の通りである。電圧指令値(Vw、Vv、Vu)が直流側電圧VHのとき、上スイッチング素子がオン(上PWM信号がHIGHレベル)、下スイッチング素子がオフ(下PWM信号がLOWレベル)である。また、電圧指令値(Vw、Vv、Vu)がゼロボルトのとき、上スイッチング素子がオフ(上PWM信号がLOWレベル)、下スイッチング素子がオン(下PWM信号がHIGHレベル)である。
図17では、u相とv相の電流が負値である。それゆえ、u相とv相のスイッチング回路において、図4-図7で示した電流の流れが生じる。図17において区間dTが、3相すべての上スイッチング素子がオン(上PWM信号がHIGHレベル)であり、下スイッチング素子がオフ(下PWM信号がLOWレベル)の区間である。この区間dTにおいて、スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHとなる。図17の記号Aが示す立下りの箇所が、損失発生箇所(下スイッチング素子のオフ時に両方の上ダイオードを電流が流れることによる損失発生箇所)である。記号Bが示す箇所は、電流が正値のw相にてスター結線点電圧Vcがゼロボルト(グランド電位)となった後に上スイッチング素子がオフからオンに切り替わる箇所であり、この箇所でも損失(上スイッチング素子のオフ時に両方の下ダイオードを電流が流れることによる損失)が発生する。以下、「損失」は、一方の上ダイオード(下ダイオード)から無駄な電流が流れることによる損失を意味する。
図18は、図17の場合のu相とv相をケース1からケース2に変更した場合である。すなわち、図18は、3個の上PWM信号のすべてがHIGHレベルのときに信号調整部33がすべての上PWM信号と下PWM信号を反転し、3相中の2相をケース2にした場合である。すべてのPWMを反転した結果、3相中の2相において図8で示した電流の流れが生じる。図18においてグレーで示した区間dTで、上PWM信号と下PWM信号が反転される。その結果、区間dTで相電圧(Vw、Vv、Vu)はいずれもゼロとなり、スター結線点電圧Vcもゼロボルト(グランド電位)となる。その結果、損失が抑制され、図17において記号Aが示した箇所(損失発生箇所)は消滅する。なお、記号Bが示す箇所は残る。図18では、スター結線点電圧Vcがゼロボルト(グランド電位)となる区間が増えるので、記号Bの箇所も増える。
図17と図18で、損失の改善効果を定量的に評価する。図17では、キャリア信号の1周期の間に3回のオンスイッチングが行われ、そのうちの3回で損失が発生する。図18では、キャリア信号の1周期の間に4回のオンスイッチングが行われ、そのうちの2回で損失が発生する。今、無駄な電流による損失が通常のスイッチングにおける損失の10倍であると仮定する。すなわち、通常のスイッチングにおける損失を「0.1」とし、無駄な電流が発生するスイッチングにおける損失を「1」とする。図17の場合、キャリア信号の1周期の間の総損失Lossは、Loss=3×1=3.0となる。図18の場合、総損失Lossは、Loss=2×1+2×0.1=2.2となる。従って、信号調整部33の動作により、総損失Lossが低減される。
図16の区間C2は、2相(v相、w相)の電流Iv、Iwが正値であり、残り1相(u相)の電流が負値の区間である。区間C2を拡大した図を図19、図20に示す。
図19は、3相交流のうち、v相とw相の2相がケース3、すなわち、出力端電圧Vmが第2中点電圧Vx2よりも小さい場合の電圧指令と各相の電圧変化、及び、スター結線点電圧Vcの変化を示す。電圧指令のグラフには、三角波のキャリア信号も記してある。キャリア信号のレベルよりも電圧指令が高い区間で相電圧が直流側電圧VHになる。キャリア信号のレベルよりも電圧指令が低い区間では相電圧がゼロボルト(グランド電位)となる。図19は、信号調整部33が無い場合の波形であって損失が発生する場合(すなわち比較例)を示している。
図19では、v相とw相の電流が正値であるので、図10-図13で示した電流の流れが生じる。図19において区間dTが、3相すべての上スイッチング素子がオフ(上PWM信号がLOWレベル)であり、下スイッチング素子がオン(下PWM信号がHIGHレベル)の区間である。この区間dTにおいて、スター結線点電圧Vcがゼロボルト(グランド電位)となる。図19の記号Bが示す立ち上がり箇所が、損失が発生する箇所である。記号Aが示す箇所は、スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHとなった後に電流が負値のu相にて下スイッチング素子がオフからオンに切り替わる箇所であり、この箇所でも損失が発生する。
図20は、図19の場合のv相とw相をケース3からケース4に変更した場合である。すなわち、図20は、3個の下PWM信号のすべてがHIGHレベルのときに信号調整部33がすべての上PWM信号と下PWM信号を反転し、3相中の2相をケース4にした場合である。すべてのPWM信号を反転した結果、3相中の2相において図14で示した電流の流れが生じる。図20においてグレーで示した区間dTで、上PWM信号と下PWM信号が反転される。その結果、区間dTで相電圧(Vw、Vv、Vu)はいずれも直流側電圧VHとなり、スター結線点電圧Vcも直流側電圧VHとなる。その結果、損失が抑えられ、図19において記号Bが示した箇所(損失発生箇所)は消滅する。なお、記号Aが示す箇所は残る。図20では、スター結線点電圧Vcが直流側電圧VHとなる区間が増えるので、記号Aの箇所も増える。
図19と図20で、損失の改善効果は、図17と図18の場合と同じである。図19では、キャリア信号の1周期の間に3回のオンスイッチングが行われ、そのうちの3回で損失が発生する。図20では、キャリア信号の1周期の間に4回のオンスイッチングが行われ、そのうちの2回で損失が発生する。損失発生時のスイッチングにおける損失を「1」とし、通常の(損失が発生しない)スイッチングにおける損失を「0.1」とする。図19の場合、キャリア信号の1周期の間の総損失Lossは、Loss=3×1=3.0となる。図20の場合、総損失Lossは、L=2×1+2×0.1=2.2となる。従って、信号調整部33の動作により、損失が低減される。
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例のモータシステム2では、コントローラ30の信号出力部31は、三角波のキャリア信号を使ってPWM信号を生成する。このPWM信号生成方法は、三角波-正弦波方式と呼ばれる。本明細書が開示する技術は、三角波-正弦波方式以外の方式(例えば、空間ベクトル法)でPWM信号を生成するモータシステムに適用することができる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。