[SAW共振子]
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
本開示に係るSAW素子は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義するとともに、D3軸の正側を上方として、上面または下面等の用語を用いることがある。なお、D1軸は、後述する圧電体の上面に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、圧電体の上面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、圧電体の上面に直交するように定義されている。
(SAW共振子の全体構成)
図1は、SAW素子の一例であるSAW共振子1の要部の構成を示す平面図である。この図では、図解を容易にするために、後述する導体層5の表面に対して(すなわち断面ではない面に)ハッチングを付している。
SAW共振子1は、いわゆる1ポートSAW共振子を構成しており、例えば、模式的に示す2つの端子51の一方から所定の周波数の電気信号が入力されると共振を生じ、その共振を生じた信号を2つの端子51の他方から出力する。
SAW共振子1は、例えば、圧電体3と、圧電体3の上面3a上に位置する導体層5とを有している。導体層5は、IDT電極7と、IDT電極7の両側に位置する1対の反射器9と、IDT電極7に挿入された複数の挿入導体11とを有している。なお、導体層5は、この他、IDT電極7と端子51とを接続する配線および端子51を有していてもよい。
(圧電体)
圧電体3は、圧電性を有する単結晶からなる。単結晶は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶である。カット角は、利用するSAWの種類等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、圧電体3は、回転YカットX伝搬のものである。すなわち、X軸は圧電体3の上面(D1軸)に平行であり、Y軸は、圧電体3の上面の法線に対して所定の角度で傾斜している。
圧電体3に係る構造、形状および寸法等は適宜なものとされてよい。例えば、圧電体3は、一定の厚さの層状(板状を含むものとする。)に構成されている。このような層状の圧電体3は、例えば、基本的に単体で利用される圧電基板によって構成されてよい。また、例えば、層状の圧電体3は、圧電基板と、圧電基板の下面に貼り合わされる支持基板とを有する複合基板の前記圧電基板によって構成されてもよい。また、例えば、層状の圧電体3は、互いに異なる材料からなる複数の薄膜が積層されて構成された多層膜に含まれる圧電体膜によって構成されてもよい。圧電体3の厚さ(D3方向)は、例えば、後述する波長λ(=2×p1)を基準として、0.05λ以上、0.3λ以上、1λ以上または3λ以上とされてよい。
(導体層)
導体層5は、例えば、IDT電極7、反射器9および挿入導体11に亘って、同一の材料かつ一定の厚さで形成されている。ただし、導体層5は、IDT電極7、反射器9および挿入導体11の一部において、他の部位とは厚さおよび/または材料が異なっていてもよい。本実施形態の説明では、特に断りが無い限りは、導体層5は、前者の態様(一定厚さおよび同一材料)であるものとする。
導体層5の材料は、例えば、金属とされてよい。金属は、適宜な種類のものとされてよく、例えば、アルミニウム(Al)またはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、アルミニウム-銅(Cu)合金である。なお、導体層5は、複数の金属層から構成されていてもよい。例えば、AlまたはAl合金と、圧電体3との間に、これらの接合性を強化するためのチタン(Ti)からなる比較的薄い層が設けられていてもよい。導体層5の厚みは、SAW共振子1に要求される仕様等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、導体層5の厚みは、0.005λ以上0.1λ以下とされてよい。
(IDT電極)
IDT電極7は、1対の櫛歯電極13を含んでいる。各櫛歯電極13は、例えば、バスバー15と、バスバー15から互いに並列に延びる複数の電極指17と、複数の電極指17間においてバスバー15から突出するダミー電極19とを含んでいる。1対の櫛歯電極13は、複数の電極指17が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。言い換えると、櫛歯電極13は複数の電極指17が互いに並列に位置するものである。
バスバー15は、例えば、後述する凹部15rを除いて、概略、一定の幅でSAWの伝搬方向(D1方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー15は、SAWの伝搬方向に直交する方向(D2方向)において互いに対向している。なお、バスバー15は、(凹部15r以外にも)幅が変化したり、SAWの伝搬方向に対して傾斜したりしていてもよい。
各電極指17は、例えば、概略、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。各櫛歯電極13において、複数の電極指17は、SAWの伝搬方向に配列されている。また、一方の櫛歯電極13の複数の電極指17と他方の櫛歯電極13の複数の電極指17とは、基本的には、交互に配列されている。言い換えると、一方の電極指17に他方の電極指17が間挿している。
複数の電極指17のピッチp1(例えば互いに隣り合う2本の電極指17の中心間距離。後述するピッチprおよびp2も同様。)は、IDT電極7内において基本的に一定である。なお、IDT電極7の一部に、他の大部分よりもピッチp1が狭くなる狭ピッチ部、または他の大部分よりもピッチp1が広くなる広ピッチ部が設けられてもよい。
なお、以下において、単にピッチp1または電極指17のピッチという場合、特に断りがない限りは、上記のような狭ピッチ部または広ピッチ部のような特異な部分を除いた部分(複数の電極指17の大部分)のピッチをいうものとする。また、特異な部分を除いた大部分の複数の電極指17においても、ピッチが変化しているような場合においては、大部分の複数の電極指17のピッチの平均値をピッチp1の値として用いてよい。
電極指17の本数は、SAW共振子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図1は模式図であることから、電極指17の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多く(例えば50本以上)の電極指17が配列されてよい。後述する反射器9の反射電極指23についても同様である。
複数の電極指17の長さは、例えば、互いに同等である。なお、IDT電極7は、複数の電極指17の長さ(別の観点では交差幅)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。電極指17の長さおよび幅は、要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。
ダミー電極19は、例えば、概略、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向に突出する形状に形成されている。その幅は、例えば、電極指17の幅と同等である。また、複数のダミー電極19は、複数の電極指17と同等のピッチで配列されており、一方の櫛歯電極13のダミー電極19の先端は、他方の櫛歯電極13の電極指17の先端とギャップを介して対向している。なお、IDT電極7は、ダミー電極19を含まないものであってもよい。
(反射器)
1対の反射器9は、SAWの伝搬方向においてIDT電極7の両側に位置している。反射器9は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器9は、互いに対向する1対の反射バスバー21と、1対の反射バスバー21間において延びる複数の反射電極指23とを有している。
反射バスバー21および反射電極指23の形状および寸法は、反射電極指23の両端が1対の反射バスバー21に接続されていることを除いては、基本的に、IDT電極7のバスバー15および電極指17と同様とされてよい。
例えば、反射バスバー21は、概略、一定の幅でSAWの伝搬方向(D1方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。各反射電極指23は、概略、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。また、複数の反射電極指23は、例えば、SAWの伝搬方向に配列されており、また、互いに同等の長さである。複数の反射電極指23の幅は、例えば、複数の電極指17の幅と同等である。また、複数の反射電極指23のピッチprは、例えば、複数の電極指17のピッチp1と同等である。なお、ここでの同等は、例えば、|p1-pr|<Cp×p1において、Cpが0.1、0.05または0.01の場合とされてよい。
複数の反射電極指23の本数は、例えば、利用を意図しているモードのSAWの反射率が概ね100%以上となるように設定されている。その理論的な必要最小限の本数は、例えば、数本~10本程度であり、通常は、余裕を見て20本以上または30本以上とされている。
各反射器9は、SAWの伝搬方向においてIDT電極7と隣り合っている。すなわち、IDT電極7の最も端に位置する電極指17と、反射器9の最もIDT電極7側に位置する反射電極指23とは隣り合っている。この互いに隣接する電極指17と反射電極指23とのピッチは、例えば、複数の電極指17のピッチp1と同等である。ここでの同等には、電極指17と反射電極指23とのピッチをピッチprに置き換えて、上述のピッチprがピッチp1と同等という場合の式を援用してよい。
反射器9は、例えば、IDT電極7とは電気的に非接続とされている。反射器9は、電気的に浮遊状態(外部から電位が付与されない状態)とされてもよいし、基準電位が付与されてもよい。ただし、反射器9は、IDT電極7の1対の櫛歯電極13のうちの一方と電気的に接続されていてもよい。
(挿入導体)
各挿入導体11は、例えば、複数の電極指17に並列に延びる偶数本(図1の例では2本)の挿入電極指25と、偶数本の挿入電極指25の端部同士を接続している1対の接続部27とを有している。別の観点では、挿入導体11の形状は、例えば、全体として、矩形状(挿入電極指25が2本の態様)または格子状(図2参照。挿入電極指25が4本以上の態様)である。挿入電極指25と接続部27との接続部分(挿入導体11の角部)は、挿入電極指25および接続部27のいずれの一部と捉えられてもよいが、本実施形態の説明では、便宜上、接続部27の一部であるものと捉えるものとする。
(挿入電極指および接続部の形状および寸法)
挿入電極指25の形状および寸法は、例えば、その長さ(D2軸方向)を除いては、電極指17と同様とされてよい。例えば、挿入電極指25は、概略、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。
挿入電極指25の長さは、適宜に設定されてよい。例えば、挿入電極指25は、複数の電極指17の交差幅W以上の長さを有している。交差幅は、例えば、互いに異なるバスバー15に接続されているとともに互いに隣り合っている2本の電極指17の一方の電極指17の先端から他方の電極指17の先端までの電極指17に平行な方向における距離である。換言すれば、交差幅は、SAWの伝搬方向に見て、互いに異なるバスバーに接続されているとともに互いに隣り合う2本の電極指17が重複する長さである。そして、例えば、挿入電極指25は、SAWの伝搬方向、および/またはバスバー15の延在方向(本実施形態ではいずれもD1方向)に見て、交差幅によって規定される領域の全体に重なっている。なお、バスバー15の延在方向は、例えば、1対のバスバー15の互いに対向する縁部(凹部15rを除く)に平行な方向である。
また、例えば、挿入電極指25は、1対のバスバー15の互いに対向する縁部(凹部15rを除く)間に亘る長さを有している。そして、例えば、挿入電極指25は、SAWの伝搬方向に見て、および/またはバスバー15の延在方向に見て、電極指17およびダミー電極19の双方の全体に重なっている。このようにすることで、挿入電極指25の端部がダミー電極と同じ構造になり、SAWを共振子内に閉じ込めるというダミー電極の効果が阻害されることによるロスの発生を低減することができる。
挿入電極指25の幅は、例えば、電極指17の幅と同等である。各挿入導体11における偶数本の挿入電極指25のピッチp2は、例えば、複数の電極指17のピッチp1と同等である。また、互いに隣り合う挿入電極指25と電極指17とのピッチは、複数の電極指17のピッチと同等である。ただし、これらの挿入電極指25に係る幅およびピッチは、電極指17の幅およびピッチとは異なるものとされてもよい。例えば、挿入電極指25のピッチp2は、電極指17のピッチp1および/または反射電極指23のピッチprに対して大きくされてよい。より具体的には、例えば、ピッチp2は、ピッチp1および/またはピッチprの1.05倍以上1.15倍以下とされてよい。
接続部27の形状は、適宜に設定されてよい。図示の例では、接続部27の形状は、SAWの伝搬方向および/またはバスバー15の延在方向(本実施形態ではいずれもD1方向)に平行に延びる矩形状とされている。接続部27の長さ(SAWの伝搬方向および/またはバスバー15の延在方向)は、各挿入導体11が含む全ての挿入電極指25の配列に亘る長さである。接続部27の幅(D2方向)は、例えば、挿入電極指25の幅(D1方向)よりも小さくてもよいし、同等でもよいし、大きくてもよい。
(挿入電極指の数等)
複数の挿入導体11同士において、挿入電極指25の本数は、互いに同一であってもよいし(図示の例)、互いに異なっていてもよい。各挿入導体11において、挿入電極指25の本数は、偶数本であれば適宜に設定されてよい。図1の例では、挿入電極指25の本数は2本である。図2の例では、挿入電極指25の本数は4本である。特に図示しないが、各挿入導体11における挿入電極指25の本数は、6本以上の偶数とされてもよい。各挿入導体11における挿入電極指25の本数の上限は、例えば、1つの反射器9における反射電極指23の数よりも小さい数、または8本もしくは6本とされてよい。
IDT電極7のD1方向の一端に位置する挿入導体11の数は、1つでもよいし、複数でもよい(図1の例では3つ。)。また、この数は、挿入電極指25の数を考慮して設定されてもよい。例えば、IDT電極7の一端に位置する挿入導体11の数は、当該一端に位置する挿入電極指25の総数が16以下となる数とされてよい。この場合、例えば、2本の挿入電極指25を有する挿入導体11が用いられている場合においては、一端に位置する挿入導体11の数は、8個以下とされてよい。また、例えば、4本の挿入電極指25を有する挿入導体11が用いられている場合においては、一端に位置する挿入導体11の数は、4個以下とされてよい。
各挿入導体11は、SAWの伝搬方向の両側において、IDT電極7の電極指17と隣り合っている。すなわち、各挿入導体11の偶数本の挿入電極指25のうち、D1方向の両側の挿入電極指25は電極指17と隣り合っている。なお、各挿入導体11において、複数の挿入電極指25は、D2方向の両端が接続部27によって接続されていることから明らかなように、その間にバスバー15から延びる電極指17を介在させていない。
別の観点では、反射器9と隣り合うのは、電極指17であり、挿入電極指25ではない。また、IDT電極7の一端に2以上の挿入導体11が設けられている態様において、挿入導体11の間には、少なくとも1本の電極指17が介在しており、挿入導体11同士は互いに隣り合っていない。
IDT電極7内で最も端に位置する挿入導体11よりも外側(反射器9側)に位置する電極指17の本数は適宜に設定されてよい。例えば、当該本数は、5本以下もしくは3本以下とされてよく、また、1本もしくは2本とされてよい。挿入導体11間に位置する電極指17の本数も適宜に設定されてよい。例えば、当該本数は、5本以下もしくは3本以下とされてよく、また、1本もしくは2本とされてよい。
IDT電極7において、全ての挿入導体11が配置される範囲、換言すれば、IDT電極7の端部は、適宜に規定されてよい。例えば、IDT電極7の一端(一方の反射器9と隣り合う電極指17)から、電極指17および挿入電極指25の本数を数えたときに、第1の本数までを一方の端部とする。また、IDT電極7の他端(他方の反射器9と隣り合う電極指17)から、電極指17および挿入電極指25の本数を数えたときに、第2の本数までをIDT電極7の他方の端部とする。このとき、第1の本数および第2の本数それぞれは、例えば、20本以下、かつ電極指17および挿入電極指25の総数の20%以下の本数である。なお、総数が100本超の態様においては、20本以下という条件によって端部が規定され、総数が100本未満の態様においては、20%以下という条件によって端部が規定される。
挿入導体11は、例えば、IDT電極7および反射器9とは電気的に非接続とされている。挿入導体11は、電気的に浮遊状態とされてもよいし、基準電位が付与されてもよい。ただし、挿入導体11は、例えば、IDT電極7の1対の櫛歯電極13のうちの一方と電気的に接続されていてもよい。なお、以下の説明では、特に断りがない限り、挿入導体11は、IDT電極7および反射器9のいずれとも非接続であり、また、電気的に浮遊状態とされているものとする。
(バスバーの挿入導体に対応する形状)
1対のバスバー15は、平面視において、互いに対向する縁部に、挿入導体11のD2方向の端部に対向する凹部15rを有している。凹部15rの幅(D1方向)は、挿入導体11の幅(接続部27のD1方向の長さ)よりも大きくされている。これにより、挿入導体11とバスバー15とを短絡させないようにしつつ、挿入導体11(挿入電極指25の)のD2方向の長さを長くすることができる。
凹部15rの深さ(D2方向)は、例えば、挿入導体11と凹部15rのD2方向に面する縁部とのD2方向における離間距離を適宜に確保できるように設定されてよい。同様に、凹部15rの幅(D1方向)は、当該凹部15rのD1方向に面する縁部と挿入導体11とのD1方向おける離間距離を適宜に確保できるように設定されてよい。離間距離は、例えば、隣り合う電極指17同士の距離、および/または電極指17の先端とダミー電極19の先端との距離と同程度とされてよい。凹部15rの形状は、矩形状等の適宜な形状とされてよい。
図示の例では、挿入導体11の端部は、凹部15r内に入り込んでいる。ただし、挿入導体11の端部は、凹部15r内に入り込んでいなくてもよい。この場合であっても、バスバー15と短絡させないように、挿入導体11をD1方向に長くすることができる効果が多少なりとも奏される。
(SAW素子のその他の構成)
特に図示しないが、圧電体3の上面3aは、導体層5の上から、SiO2やSi3N4等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜はこれらの材料からなる複数層の積層体としてもよい。保護膜は、単に導体層5の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。保護膜が設けられる場合等において、IDT電極7および反射器9の上面または下面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
SAW共振子1は、導体層5が位置する基板として、圧電体3単体を用いてもよいし、薄い圧電体3とそれに直接的または間接的に接合された支持基板とを含む複合基板を用いてもよい。
SAW共振子1は、適宜にパッケージングされてよい。パッケージは、例えば、不図示の基板上に隙間を介して圧電体3の上面3aを対向させるように圧電体3を基板上に実装し、その上から樹脂封止するものであってもよいし、下方に開口する箱型のカバーを圧電体3の上面3a上に被せるウェハレベルパッケージ型のものであってもよい。カバーの下部は、圧電体3上に位置していてもよいし、圧電体3の下方に圧電体3よりも広い他の層がある場合は当該他の層上に位置していてもよい。
(SAW共振子の作用)
1対の櫛歯電極13に電圧が印加されると、電極指17によって圧電体3に電圧が印加され、圧電体3の上面3a付近において上面3aに沿ってD1方向に伝搬する所定のモードのSAWが励起される。励起されたSAWは、電極指17によって機械的に反射される。その結果、電極指17のピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指17によって取り出される。このようにしてSAW共振子1は共振子として機能する。その共振周波数は、電極指17のピッチp1を半波長として圧電体3上を伝搬するSAWの周波数と概ね同一の周波数である。
IDT電極7において励起されたSAWは、反射器9の反射電極指23によって機械的に反射される。また、互いに隣接する反射電極指23が反射バスバー21によって互いに接続されていることから、IDT電極7からのSAWは、電気的にも反射電極指23によって反射される。これにより、SAWの発散が抑制され、IDT電極7における定在波が強く立ち、SAW共振子1の共振子としての機能が向上する。
IDT電極7と反射器9との境界においては、SAWの一部がバルク波に変換されて圧電体3内へ漏洩する。その結果、***振周波数付近において損失が生じる。挿入導体11は、この損失の低減に寄与する。
(実施例)
比較例および実施例に係るSAW共振子について、FEM(Finite Element Method)を用いたシミュレーション計算によって特性を調べた。その結果、挿入導体11を設けることによって、***振周波数付近において損失が低減されることなどを確認できた。具体的には、以下のとおりである。
(共通のシミュレーション条件)
比較例および実施例に係るSAW共振子に共通の条件を以下に示す。
圧電体3:
材料:LiTaO3
厚さ:無限大
カット角:42°回転YカットX伝搬
導体層5:
材料:Al
厚さ:0.08λ
IDT電極7:
電極指17および挿入電極指25の合計本数:100本
ピッチp1:1μm(λ=2μm)
デューティー:0.5
反射器9:
反射電極指23の本数:各反射器で30本(合計で60本)
ピッチpr:ピッチp1と同じ
上記のように、電極指17および挿入電極指25の総数は、比較例および実施例で同じとした。例えば、挿入電極指25を有さない比較例においては、電極指17の本数は100である。一方、挿入電極指25を図1のように12本(=2本×6組)有している実施例においては、電極指17の本数は88(=100-12)である。デューティーは、電極指17のピッチp1に対する電極指17の幅の比である。複数の挿入導体11が設けられる場合において、特に断りが無い限りは、挿入導体11の構成等(挿入電極指25の本数、ピッチ、デューティーおよび挿入導体11間の電極指17の本数等)は、複数の挿入導体同士で同様である。
(挿入導体の有無の影響)
図3(a)は、挿入導体の有無がSAW共振子の特性に及ぼす影響に関して、シミュレーション結果を示す図である。図3(b)は、図3(a)の領域Rbの拡大図である。図3(c)は、図3(a)の領域Rcの拡大図である。
この図において、横軸は、周波数(MHz)を示している。縦軸は、インピーダンスの位相θ(°)を示している。座標平面内の線は、比較例および実施例に係るSAW共振子の特性を示している。図3(a)の右側では、座標平面上の線の種類と、SAW共振子の種類(比較例CE1およびCE2ならびに実施例E1)との対応関係が示されている。
SAW共振子は、共振周波数(図示の例では1960MHz周辺)と、***振周波数(図示の例では2030MHz周辺)との間の周波数帯においては、位相θが90°に近いほど損失が少ない。また、SAW共振子は、上記の周波数帯の外側においては、位相θが-90°に近いほど損失が少ない。
比較例CE1およびCE2のSAW共振子は、挿入導体11を有していない。また、比較例CE1では、電極指17のピッチp1、反射電極指23のピッチpr、およびIDT電極7と反射器9との間のピッチが全て同一である。一方、比較例CE2では、IDT電極7と反射器9との境界付近のピッチが他の部分(大部分)のピッチに比較して狭くされている(ピッチ0.92μm)。その他の条件は、基本的に、比較例CE1およびCE2ならびに実施例E1同士で同じである。
実施例E1において、挿入導体11に係る条件は、以下のとおりである。
各端部における挿入導体11の数:3個
各挿入導体11における挿入電極指25の本数:2本
挿入電極指25のピッチp2:1.0×p1
各端部において最も外側の挿入導体11よりも外側に位置する電極指17の本数:1
各端部において隣り合う2つの挿入導体11の間に位置する電極指17の本数:2本
図3(b)において矢印y1で指し示されているように、比較例CE2および実施例E1は、比較例CE1に比較して、***振周波数付近かつ共振周波数側(低周波数側)における位相θが90°に近く、損失が低減されている。また、図3(c)において矢印y2で指し示されているように、比較例CE2および実施例E1は、比較例CE1に比較して、***振周波数付近かつ共振周波数とは反対側(高周波数側)における位相θが-90°に近く、損失が低減されている。
ただし、図3(b)において矢印y3で指し示されているように、比較例CE2は、比較例CE1に比較して、共振周波数付近かつ***振周波数側(高周波数側)における位相θが90°から離れており、損失が大きくなっている。これに対して、実施例E1は、そのような損失はほとんど生じていない、もしくは低減されている。
また、図3(c)において矢印y4で指し示されているように、比較例CE2は、比較例CE1に比較して、共振周波数付近かつ***振周波数側とは反対側(低周波数側)におけるリップル(位相θが-90°側から90°側へ急峻に立ち上がる波)が大きくなっている。これに対して、実施例E1は、そのようなリップルが比較例CE2よりも小さくなっている。
また、図3(b)において矢印y5で指し示されているように、比較例CE2は、比較例CE1に比較して、共振周波数付近における位相θの90°への立ち上がりが***振周波数側(高周波数側)へ若干シフトしている。別の観点では、共振周波数と***振周波数との周波数差dfが若干小さくなっている。これに対して、実施例E1は、そのようなシフトが比較例CE2よりも低減されている。
以上のように、実施例E1では、比較例CE1に比較して***振周波数付近における損失が低減されるとともに、比較例CE2に比較して共振周波数付近の特性低下が低減される。
(挿入電極指のピッチの大きさの影響)
図4(a)、図4(b)および図4(c)は、挿入電極指25のピッチp2の大きさがSAW共振子の特性に及ぼす影響に関して、シミュレーション結果を示す図である。これらの図は、図3(a)、図3(b)および図3(c)と同様の図である。図4(a)の右側では、座標平面上の線の種類と、SAW共振子の種類(比較例CE1ならびに実施例E2~E5)との対応関係が示されている。
比較例CE1は、図3(a)~図3(c)でも示した比較例CE1と同じものである。実施例E2~E5は、基本的に挿入導体11に係る構成のみが比較例CE1と相違する。また、実施例E2~E5は、挿入電極指25のピッチp2の大きさが互いに異なる。具体的には、各実施例のピッチp2の大きさは、電極指17のピッチp1を用いて示すと、E2:1×p1、E3:1.05×p1、E4:1.10×p1、E5:1.15×p1である。ピッチp2以外の条件は、基本的に、実施例E2~E5同士で同じである。
実施例E2~E5において、挿入導体11に係る条件は、以下のとおりである。
各端部における挿入導体11の数:3個
各挿入導体11における挿入電極指25の本数:2本
各端部において最も外側の挿入導体11よりも外側に位置する電極指17の本数:1
各端部において隣り合う2つの挿入導体11の間に位置する電極指17の本数:2本
図4(a)の矢印y11および図4(c)の矢印y12で指し示されているように、挿入電極指25のピッチp2を大きくしていくと、共振周波数付近におけるリップルを低減することができる。図示の例では、ピッチp2をピッチp1の1.1倍以上にすると、比較例CE1よりもリップルを低減できている。
(挿入導体の数等の影響)
図5(a)、図5(b)、図6(a)および図6(b)は、挿入導体11の数等がSAW共振子の特性に及ぼす影響に関して、シミュレーションした結果を示す図である。
これらの図において、横軸は、共振周波数frと***振周波数faとの周波数差df(=fa-fr)を共振周波数frで割って正規化した値df/fr×100(%)を示している。dfを小さくする手法は、IDT電極7に対して並列にキャパシタを接続する方法など、種々存在する。一方、図3(b)を参照して説明したように、実施例のSAW共振子1は、比較例に比較してdfが小さくなりやすい。従って、ここでは、実施例においては、dfが大きいほど特性がよいと考えるものとする。なお、比較例および実施例において、共振周波数frは、1961MHz以上1967MHz以下の範囲に収まっている。
図5(a)の縦軸は、***振周波数よりも共振周波数とは反対側(高周波数側)における位相θの最小値θmin(°)を示している。この値は、小さいほど(-90°に近いほど)、損失が少ないことを示す。
図5(b)の縦軸は、***振周波数付近かつ共振周波数側(低周波数側)における位相θの値を示している。具体的には、***振周波数から5MHz(共振周波数frの約2.5%)低い周波数における位相θの値を示している。この値は、大きいほど(90°に近いほど)、損失が少ないことを示す。
図6(a)および図6(b)の縦軸は、***振周波数におけるQ値(Quality factor。図中ではQaと記す)を示している。図6(a)のQ値は、***振付近のインピーダンスの位相の傾きから計算する方法により求めたものである。図6(b)のQ値はBodeの理論に基づく方法により求めたものである。SAW共振子においては、Q値が高いことは損失が小さいことを示す。
各図の上部においては、プロットの種類とSAW共振子の種類(比較例CE1ならびに実施例E11~E17)との対応関係が示されている。この対応関係は、図5(a)、図5(b)、図6(a)および図6(b)において共通である。
比較例CE1は、図3(a)等でも示した比較例CE1と同じものである。実施例CE11~17は、IDT電極7の各端部における挿入導体11の数(Naとする。)、IDT電極7の各端部において隣り合う挿入導体11の間に位置する電極指17の数(Nbとする)、IDT電極7の各端部において最も外側の挿入導体11よりも外側に位置する電極指17の数(Ncとする。)が互いに相違する。また、E11~E16は各挿入導体11を構成する挿入電極指25の数(Nd)が2本で、E17は4本である。図中で1種の実施例として示されているものは、挿入導体11間の電極指17の数Nbが互いに異なる複数の実施例を含んでいる。これらの互いに異なる条件は、以下のとおりである。
実施例E11:
Na:2
Nb:1、2、3、4または5(実施例E11は5つの実施例を含む)
Nc:1
Nd:2
実施例E12:
Na:3
Nb:1、2、3または4(実施例E12は4つの実施例を含む)
Nc:1
Nd:2
実施例E13:
Na:4
Nb:1、2または3(実施例E13は3つの実施例を含む)
Nc:1
Nd:2
実施例E14:
Na:3
Nb:1-2、2-4または3-6(実施例E14は3つの実施例を含む)
Nc:1
Nd:2
実施例E15:
Na:3
Nb:1、2、3または4(実施例E15は4つの実施例を含む)
Nc:2
Nd:2
実施例E16:
Na:3
Nb:1、2、3または4(実施例E16は4つの実施例を含む)
Nc:3
Nd:2
実施例E17:
Na:2
Nb:1、2、3または4(実施例E17は4つの実施例を含む)
Nc:1
Nd:4
実施例E11、E12およびE13は、それぞれ挿入導体11の数Naが2、3または4である。従って、例えば、これらの比較から挿入導体11の数Naの影響を見ることができる。
1つの実施例(1つのIDT電極7)において、IDT電極7の各端部に3以上の挿入導体11が設けられている場合は、挿入導体11同士の隙間も2以上存在する。この2以上の隙間に位置する電極指17の数Nbは、実施例E14を除いては、互いに同一である。実施例E14では、実施例E12と同様にNa=3としつつ、2つの隙間の一方においてはNb=1、他方においてはNb=2のように隙間同士で電極指17の数を異ならせている。この2種のNbの数を上記では1-2、2-4、3-6のように示している。従って、例えば、実施例E12およびE14の比較から数Nbを1つのIDT電極7内で相違させた場合の影響を見ることができる。
実施例E15およびE16は、実施例E12と同様にNa=3としつつ、挿入導体11の外側の電極指17の数Ncを互いに異ならせている。従って、例えば、実施例E12、E15およびE16の比較から、数Ncの影響を見ることができる。
実施例E17は、各挿入導体11を構成する挿入電極指25の数(Nd)を4本としたもので、E13と比較することにより挿入電極指25の数の効果を見ることができる。
実施例E11~E17において、挿入導体11以外の条件は、比較例CE1と同様である。実施例E11~E17に共通の挿入導体11に係る条件は、以下のとおりである。
挿入電極指25のピッチp2:1×p1
これらの図に示されているように、実施例E11~E16は、比較例CE1に比較して、***振周波数付近の損失が低減されている。また、実施例E17は、***振周波数付近より高周波側の損失(図5(a))は比較例CE1よりも低減されているが、***振周波数付近より低周波側の損失(図5(b))は比較例CE1と同等である。すなわち、図示の全ての実施例においては、***振周波数付近の損失は、概ね比較例CE1における損失以下に抑えられている。
従って、例えば、図5(a)~図6(b)から、***振周波数付近における損失低減の効果は、以下の条件でも奏されることが確認された。挿入導体11の数Naが2以上4以下。挿入導体11間の電極指17の数Nbが1以上3以下。挿入導体11よりも外側の電極指17の数Ncが1以上3以下。
実施例E11~E17において、IDT電極7の一端から最も内側に位置する挿入電極指25までの電極指17および挿入電極指25の数(Neとする)が多いものとしては、以下のものを挙げることができる。実施例E17のうちNb=4のもの(Ne=21)、実施例E13またはE17のうちNb=3のもの(Ne=18)、実施例E16のうちNb=4のもの(Ne=17)。従って、IDT電極7の一端から、当該一端から数えて、電極指17および挿入電極指25の本数が20本となる位置までの範囲に全ての挿入導体11が位置していれば、***振周波数付近における損失低減の効果が得られることが確認できた。また、実施例では、1つのIDT電極7全体における電極指17および挿入電極指25の総数(Ntとする)は100本であるから、IDT電極7の一端から、当該一端から数えて、電極指17および挿入電極指25の本数が総数Ntの20%となる位置までの範囲に全ての挿入導体11が位置していれば、***振周波数付近における損失低減の効果が得られることが確認できた。
また、実施例E11~E13の比較から、挿入導体11の数を多くすると、***振周波数付近における損失を低減する効果が向上する傾向があることが分かる。
以上のとおり、本実施形態では、SAW素子(SAW共振子1)は、圧電体3と、IDT電極7と、1対の反射器9と、複数の挿入導体11とを有している。圧電体3は、第1方向(D1方向)およびD1方向に交差する第2方向(D2方向)に広がっている第1面(上面3a)を有している。IDT電極7は、圧電体3の上面3a上で互いに並列にD2方向へ延びている複数の電極指17を有している。反射器9は、1つのIDT電極7に対してD1方向の両側に位置しており、1つのIDT電極7と隣り合っている。複数の挿入導体11は、IDT電極7のD1方向の両側の端部それぞれに少なくとも1つが位置している。複数の挿入導体11のそれぞれは、偶数本の挿入電極指25と、1対の接続部27とを有している。偶数本の挿入電極指25は、複数の電極指17に対して並列に延びている。1対の接続部27は、偶数本の挿入電極指25同士をD2方向の両端側で接続している。複数の挿入導体11のそれぞれにおいて、偶数本の挿入電極指25のうちD1方向の両側の挿入電極指25は複数の電極指17のいずれかと隣り合っている。
従って、実施例で示したように、挿入導体11を設けることによって、IDT電極7と反射器9との境界付近におけるSAWの漏れを低減し、***振周波数付近の損失を低減することができる。しかも、IDT電極7と反射器9との境界付近における電極指17および/または反射電極指23のピッチを小さくする態様に比較して、共振周波数付近における特性劣化を低減することができる。具体的には、共振周波数付近において、損失が低減され、リップルが小さくされ、また、dfが小さくなる程度も抑えられる。
IDT電極7の一端から、当該一端から数えて電極指17および挿入電極指25の数が第1の本数となる位置までの範囲と、IDT電極7の他端から、当該他端から数えて電極指17および挿入電極指25の数が第2の本数となる位置までの範囲とに全ての挿入電極指25が位置しているとする。このとき、第1の本数および第2の本数それぞれは、20本以下、かつ電極指17および挿入電極指25の総数の20%以下の本数とされてよい。
この場合、例えば、図5(a)等に示したように、***振周波数付近における損失低減の効果が奏される。また、挿入電極指25をIDT電極7の中央側にまで配置する態様に比較して、挿入電極指25の挿入による電極指17の数の低減が抑えられるから、電極指17の数の低減に起因する特性低下が低減される。
また、SAW共振子1は、IDT電極7のD1方向の両側の端部それぞれに2以上の挿入導体11を有してよい。この場合、例えば、挿入導体11が1つの場合に比較して、***振周波数付近における損失を低減する効果が向上する。
SAW共振子1は、IDT電極7のD1方向の両側の端部それぞれに4つのみ挿入導体11を有してよい。また、この合計8つの挿入導体11それぞれが2つのみ挿入電極指25を有してよい。
この場合、挿入導体11の数が比較的多く、***振周波数付近における損失低減の効果が向上することが期待される。その一方で、挿入電極指25の本数が、IDT電極7の1つの端部につき8本に抑えられるから、電極指17の数が低減されることによる特性低下が低減される。
また、SAW共振子1は、IDT電極7のD1方向の両側の端部それぞれに2つのみ挿入導体11を有してよい。この合計4つの挿入導体11それぞれが4つのみ挿入電極指25を有してよい。
この場合、1つの挿入導体11が含む挿入電極指25の数が比較的多いから、***振周波数付近における損失低減の効果が向上することが期待される。その一方で、挿入電極指25の本数が、IDT電極7の1つの端部につき8本に抑えられるから、電極指17の数が低減されることによる特性低下が低減される。
また、本実施形態では、反射器9は、D2方向に互いに並列に延びている複数の反射電極指23を有している。複数の電極指17のピッチをp1、複数の反射電極指23のピッチをpr、複数の挿入電極指25のピッチをp2としたときに、|p1-pr|<0.1×p1、p2>p1およびp2>prが成り立ってよい。
この場合、例えば、図4(c)を参照して説明したように、共振周波数付近において生じるリップルを小さくすることができる。その結果、例えば、共振周波数付近と***振周波数付近との双方において特性が向上する。
また、本実施形態では、複数の挿入導体11は、IDT電極7と非接続とされている。この場合、例えば、挿入導体11がIDT電極7と接続されている場合に比較して、dfが小さくなる程度を抑えることができる。
また、本実施形態では、IDT電極7は、複数の電極指17に対してD2方向の両側に位置しており、それぞれ複数の電極指17の一部または残りが接続されている1対のバスバー15を有している。1対のバスバー15は、複数の挿入導体11に対向している複数の凹部15rを有している。
従って、挿入導体11とバスバー15とを短絡させないように、挿入導体11をD2方向に長くすることができる。その結果、SAWの伝搬方向および/またはバスバー15の延在方向(実施形態ではいずれもD1方向)に見て、電極指17(およびダミー電極19)と挿入電極指25との重なりを大きくして、挿入導体11を設けたことによる効果を向上させることができる。
なお、いずれの構成においても、1つの挿入導体11を構成する挿入電極指25の数が奇数個の場合には、共振周波数近傍に大きなリップルが発生することが確認されている。また、いずれの構成においても、接続部27をなくし挿入電極指25をオープンとした場合も波形が大きく乱れることが確認されている。このことから、1つの挿入導体11を構成する挿入電極指25の数は偶数とし、かつ、接続部27を設け挿入電極指25を短絡させることで上述の実施例の効果を得ることができることが分かる。
[SAW共振子の利用例:分波器]
図7は、SAW共振子1の利用例としての分波器101の構成を模式的に示す回路図である。この図の紙面左上に示された符号から理解されるように、この図では、櫛歯電極13が二叉のフォーク形状によって模式的に示され、反射器9は両端が屈曲した1本の線で表わされている。ここでは、挿入導体11の図示は省略されている。
分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
送信フィルタ109は、例えば、複数のSAW共振子1がラダー型に接続されて構成された、ラダー型フィルタによって構成されている。すなわち、送信フィルタ109は、送信端子105とアンテナ端子103との間に直列に接続された複数(1つでも可)のSAW共振子1(直列SAW共振子1S)と、その直列のライン(直列腕)と基準電位とを接続する複数(1つでも可)のSAW共振子1(並列SAW共振子1P。別の観点では並列腕)とを有している。なお、送信フィルタ109を構成する複数のSAW共振子1は、例えば、同一の圧電体3の上面3aに設けられている。
複数の直列SAW共振子1Sは、基本的に、共振周波数frが互いに同等とされるとともに、***振周波数faが互いに同等とされている。複数の並列SAW共振子1Pは、基本的に、共振周波数frが互いに同等とされるとともに、***振周波数faが互いに同等とされている。直列SAW共振子1Sおよび並列SAW共振子1Pは、直列SAW共振子1Sの共振周波数frと並列SAW共振子1Pの***振周波数faとが概ね一致するように共振周波数frおよび***振周波数faが設定される。これにより、送信フィルタ109は、並列SAW共振子1Pの共振周波数frから直列SAW共振子1Sの***振周波数faまでの周波数範囲(減衰域)よりも若干狭い範囲を通過帯域とするフィルタとして機能する。上記減衰域の幅は、概ね、並列SAW共振子1Pの周波数差dfと直列SAW共振子1Sの周波数差dfとの和である。これらそれぞれの共振子の周波数配置やIDT本数、交差幅は、目的とするフィルタ特性を発揮するように適宜設定される。
受信フィルタ111は、例えば、SAW共振子1と、多重モード型フィルタ(ダブルモード型フィルタを含むものとする。)113とを含んで構成されている。多重モード型フィルタ113は、SAWの伝搬方向に配列された複数(図示の例では3つ)のIDT電極7と、その両側に配置された1対の反射器9とを有している。なお、受信フィルタ111を構成するSAW共振子1および多重モード型フィルタ113は、例えば、同一の圧電体3の上面3aに設けられている。送信フィルタ109および受信フィルタ111は、同一の圧電体3の上面3aに設けられていてもよいし、互いに異なる圧電体3の上面3aに設けられていてもよい。
図7は、あくまで分波器101の構成の一例に過ぎない。従って、例えば、受信フィルタ111が送信フィルタ109と同様にラダー型フィルタによって構成されるなどしてもよい。また、適宜な位置に、キャパシタおよび/またはインダクタが設けられてもよい。また、分波器101として、送信フィルタ109と受信フィルタ111とを備えるデュプレクサについて説明したが、分波器(マルチプレクサ)は、3以上のフィルタを含んでいてもよい。複数のSAW共振子の全てが実施形態のSAW共振子1によって構成されるものとして説明したが、一部のSAW共振子のみが実施形態のSAW共振子1によって構成されてよい。
[SAW共振子の利用例:通信装置]
図8は、SAW共振子1の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。通信装置151は、電波を利用した無線通信を行うものであり、分波器101を含んでいる。
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF-IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数を有する高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101(送信フィルタ109)は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101(アンテナ端子103)に入力される。分波器101(受信フィルタ111)は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して受信端子107から増幅器161へ出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF-IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図8では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図8は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
以上の実施形態において、D1方向は第1方向の一例である。D2方向は第2方向の一例である。圧電体3の上面3aは第1面の一例である。SAW共振子1は、SAW素子の一例である。送信フィルタ109、受信フィルタ111および分波器101のそれぞれは、SAW素子の一例として捉えられてもよいし、SAW素子の利用例として捉えられてもよい。
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
実施形態の説明では、IDT電極と反射器との境界付近におけるピッチを小さくする構成を比較例として説明した。ただし、このような構成と、挿入導体とが組み合わされても構わない。
なお、上記の実施形態の例は、IDT電極と反射器との境界部分におけるSAWの漏れを低減するためにIDT電極の端部において、IDT電極と非接続の挿入導体を位置させた場合について説明したがこの限りではない。
例えば、図9に示すように、IDT電極7の端部においてIDT電極7の電極指17が省略重み付けされていてもよい。言い換えると、IDT電極7の端部において同じ電位に接続される電極指17が隣接するように「間引き」されていてもよい。具体的には、図9において、IDT電極7のうち反射器9に隣接する電極指17から連続して複数本(この例では3本)一方電位に接続された電極指17が位置しており、その隣には他方の電位に接続された電極指が複数本(この例では3本)連続して位置している。この例の最初の3本の電極指は、反射器9に隣接する電極指17がIDT電極7の一部であり、それに隣接する2本の電極指が挿入電極指25を構成しているものと同等と考えることができる。なお、図9においてダミー電極の図示は省略している。
このような構成とした場合においても、図10に示すように共振周波数と***振周波数との間のロスを低減するとともに、***振周波数の高周波数側においてもロスを低減することができる。なお、図10(a)は図3(b)に相当する図であり、図10(b)は図3(c)の矢印y2近傍の拡大図である。モデル1は、図3と同様に挿入導体や間引き部を備えない通常共振子をモデルとしたものであり、モデル2は、間引きを端部のみではなくIDT電極7の全領域において均等に分散させた場合のモデルであり、モデル3は、端部近傍のみに間引き部を設けた場合のモデルである。図中において、モデル1の位相特性は実線で、モデル2の位相特性は長破線で、モデル3の位相特性は短破線で、それぞれ示している。
図10からも明らかなように、モデル3は、モデル1、2に比べロスを低減したSAW素子を提供することができる。なお、通常間引きを行なうとΔfは小さくなるが、間引きを行なってもモデル3においてΔfを小さくする効果は少なかった。また、モデル3は共振周波数よりも低周波数側においてリップルが発生することがある。これに対して、反射器9のピッチprをp1の1.002倍から1.03倍にしたり、IDT電極と反射器との電極指中心間隔をp1に対して1.05倍から1.4倍に広げたりすることでリップルを小さくすることができる。
また、挿入導体と端部における間引きを組み合わせてもよい。具体的には、挿入導体と反射器との間の電極指を間引き部としてもよい。
以上より、本発明とは別の以下概念を抽出可能である。
[別発明1]
第1方向および該第1方向に交差する第2方向に広がっている第1面を有している圧電体と、
前記第1面上で互いに並列に前記第2方向へ延びている複数の電極指を有している1つのIDT電極と、
前記IDT電極に対して前記第1方向の両側に位置しており、前記IDT電極と隣り合っている1対の反射器と、を有しており、
前記IDT電極の前記第1方向の両側の端部から連続する領域それぞれに少なくとも1つが位置している省略重み付け部と、
を有しており、
前記省略重み付け部は、
前記複数の電極指が、第1の電位に接続された第1電極指と第2の電位に接続された第2電極指とを備え、
前記第1電極指が複数隣接する部位と、前記第2電極指が複数隣接する部位とが隣り合って位置する
弾性表面波素子。