JP7113488B2 - ボールペンチップ及びボールペン - Google Patents
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Description
ここで、ボール抱持室の後端壁にある当接面の形状が、書き心地に対して重要であり、この当接面の形状を工夫する研究もなされている。例えば、特許文献1においては、ボールの曲率と異なる曲率状の当接面を設けることで、ボールと当接面との間に部分的に隙間を形成し、書き味を向上する試みがなされている。
しかし、特許文献1によると、ボール抱持室の後端壁にある当接面とボールとの接触状態が不均一となる。そうすると、ボールと当接面との間の摩擦係数が増加し、書き味向上に限界がある。このため、当接面の形状をボールの球面に沿った形状に成形し、ボールを当接面全体に均等に接触させることが好ましい。
ボールペンチップ1は、チップ本体2と、ボール3とを備える。以下、ボールペンチップ1のボール3が配置されている側を先端側、逆側を後端側として説明する。
チップ本体2は、略円筒形で、円筒形の中央部21と、中央部21よりも先端側(ボール3が配置されている側)に設けられ、中央部21よりも外径が小さい先端部22と、中央部21よりも後端側(ボール3が配置されている側と反対側)に設けられ、中央部21よりも外径が小さい円筒形のシャンク部23とを備える。シャンク部23は、図示しないインク保持部に挿入される部分である。
ボール抱持室50は、先端側から、抱持室円柱状空間部51と、抱持室円柱状空間部51の後部から後端側に向って径が小さくなる抱持室円錐台状空間部52と、抱持室円錐台状空間部52の後部から続く略球面状空間部53と、を備えている。
チップ本体2の後端側より先端側に向かって段階的に径が小さくなるように設けられたバック孔40(47,46,45,44,43,42,41)のうちの、最も先端側にあり、且つ最も径の小さいバック孔最先端部分41は、後端側から、バック孔円柱状空間部41aと、バック孔円柱状空間部41aの先端から、インク誘導孔60に向って径が小さくなるバック孔円錐台状空間部41bと、を備える。バック孔円錐台状空間部41bの頂角βは、90°以上180°以下である。
なお、油性インクの場合は、水性インクよりも泣きが生じやすい。また、当接面53aが小さいと泣きがより生じやすくなる。また、当接面53aが大きいと、かすれが生じやすくなる。このため、当接面53aの外周縁直径R1はボール径の80%以上95%以下が好ましく、ボール径の85%以上95%以下がさらに好ましい。
その後、ボール抱持室50の後端壁52aにボール3を載置した状態でボールペンチップ1の先端部側から押圧されて、ボール3と略同一形状の当接面53aが形成される。そして、ボール抱持室50の先端部が内側へかしめられ、かしめ部54が形成される。これによりボールペンチップ1が製造される。
図示するように、ボールペンチップ1の中心線Lを通り、且つ中心線Lに沿ったボールペンチップ1の断面において、バック孔最先端部分41の先端壁41ba(バック孔円錐台状空間部41bの側面,バック孔最先端部分41の底面)と側壁41aa(バック孔円柱状空間部41aの内面)との交点は、チップ本体2の外周面2aとバック孔40の内壁との距離aが最も短い最薄部Aである(図2参照)。種々寸法を変えた場合の、この最薄部Aの位置を、格子状の点で示す。最薄部Aにおけるバック孔の径R2は、ボール3の径の80%以上であることが好ましく、90%以上がさらに好ましい。
実施形態のボールペンチップ1は、
(1)最薄部Aが、図中に示す複数の最薄部Aのうち、ボール3を当接面53aに当接させた状態において中心Oと最薄部Aとを結ぶ直線Mと、中心線Lとのなす角度θが、図中矢印で示す35°≦θ≦55°(35°以上55°以下、45°±10°の範囲)にあるボールペンチップ1であり、さらに好ましくは40°≦θ≦50°(40°以上50°以下、45±5°の範囲)、より好ましくは42°≦θ≦48°(42°以上48°以下、45°±3°の範囲)°である。
(2)さらに、実施形態のボールペンチップ1は、ボール抱持室50の後端壁52a(抱持室円錐台状空間部52)の上端縁と最薄部Aとの間の、チップ本体の中心線Lに沿った方向の距離xが、ボール34の径の90%以下であり、好ましくは60%以下である。
ボール3の径をφ0.38mmとし、バック孔最先端部分41の内径φを0.35mm、0.45mm、0.55mm、0.65mm、0.75mmと変えて、それぞれにおいて距離xを0.1から0.45の間で0.05mm単位で変化させた27本のボールペンチップ(ボールペンチップ番号1から27)を作成した。
ボールペンチップ番号1から8は、バック孔最先端部分41の内径がφ0.35mm、ボールペンチップ番号9から15は、バック孔最先端部分41の内径がφ0.45mm、ボールペンチップ番号16から22は、バック孔最先端部分41の内径がφ0.55mm、ボールペンチップ番号23から26は、バック孔最先端部分41の内径がφ0.65mm、ボールペンチップ番号27は、バック孔最先端部分41の内径がφ0.75mmである。
(1)ボール3を当接面53aに当接させた状態において中心Oと最薄部Aとを結ぶ直線Mと、中心線Lとのなす角度θ(図3に示す)が、35°≦θ≦55°(35°以上55°以下、45°±10°の範囲) (図4(1)の斜線領域)、
(2)x/ボール径が90%以下(図4(2)の斜線領域)
の両方を満たす、図4で黒太線で囲んだボールペンチップである。
すなわち、ボールペンチップ番号1(実施例1),2(実施例2),9(実施例3),10(実施例4),16(実施例5),17(実施例6),18(実施例7),19(実施例8),及び23(実施例9)が本実施形態のボールペンチップ1であり、図4において斜線で示したボールペンチップ番号である。
ボールペンチップ番号3(比較例1),4(比較例2),5(比較例3),6(比較例4),7(比較例5),8(比較例6),11(比較例7),12(比較例8),13(比較例9),14(比較例10),15(比較例11),20(比較例12),21(比較例13),22(比較例14),24(比較例15),25(比較例16),26(比較例17),27(比較例18)のボールペンチップは、摩擦係数0.26以上0.28未満であり、従来と同様で効果がみられなかった。
ボールペンチップ番号1(実施例1),2(実施例2),9(実施例3),16(実施例5)17(実施例6)のボールペンチップ1は、摩擦係数0.20以上0.24未満で、その中でも好ましいボールペンチップ1であった。
ボールペンチップ番号1(実施例1),9(実施例3),17(実施例6)のボールペンチップ1は、摩擦係数0.20以上0.22未満で、その中でも、より好ましいボールペンチップ1であった。
図示するように、θが35°≦θ≦55°である実施形態のボールペンチップ1はボールペンチップ1の摩擦係数が、0.26以下で、比較形態に比べて低い値を示した。そして、θが45°に近くなるほど、摩擦係数が小さくなる傾向が見られた。
また、x/ボール径が小さくなるほど摩擦係数が小さくなる傾向が見られ、x/ボール径が90%以上の場合の比較形態では、いずれも摩擦係数が0.26以上0.28未満を示した。
(1)ボール3を当接面53aに当接させた状態において中心Oと最薄部Aとを結ぶ直線Mと中心線Lとのなす角度θが、35°≦θ≦55°であり、且つ
(2)x/ボール径が90%以下である本実施形態の範囲では、摩擦係数が比較形態と比べて低減し、最大で約20%低減することができた。
バック孔最先端部分41の内径φを0.85mmとし、それぞれにおいて距離xを0.28mmと0.75mmとした2本のボールペンチップを作成した。
距離xが0.28mmのボールペンチップは、θが45°であり、本実施形態の実施例のボールペンチップ1であり、且つx/ボール径が90%以下である。距離xが0.70mmのボールペンチップは、θが25°であり、x/ボール径が90%より大きく、比較例のボールペンチップである。
ボール3の径φ0.38mmの場合と同様に、作成したボールペンチップに油性インク(トンボ鉛筆社製BR-CAE搭載の黒色インク)を詰めて、筆記角度75°、筆記速度5mm/s、筆記荷重100gの条件で自動摩擦摩耗解析装置TSf-502(協和界面科学製)用いて摩擦係数の測定を行った。筆記対象である紙は、王子製紙製マシュマロ(登録商標)CoCを用いた。
それぞれのボールペンチップについて、摩擦係数の測定を5回行い、摩擦係数の平均値を求めた。図5にそれぞれの摩擦係数を示す。
比較例のようなボール径φ0.7mmの場合、ボール径φ0.38mmと比べて摩擦係数は小さくなっているが、本実施形態のθが45°とした場合、ボール径φ0.7mmにおいても摩擦係数を大幅に低減することができた。
ボール3の当接面53aは、ボール3をボール抱持室50の後端壁52aに押圧することで、ボール抱持室50の後端壁52aを球面状に塑性変形させて加工している。押圧加工は塑性変形と同時に弾性変形を生じるため、力を除いた際に弾性変形域が元の位置に戻るスプリングバックを生じる。押圧加工によるスプリングバックの発生は不可避である。
実施形態のように、ボールペンチップ1の中心線とボール3の中心と最薄部Aを結ぶ直線のなす角が45°に近くなると、ボール3をボール抱持室50の後端壁52aに押圧した際に生じるスプリングバックの縦方向と横方向の大きさが略等しくなる。これは、最薄部Aが脆弱なために、弾性変形を生じやすく、最薄部Aがスプリングバックの起点として働くためと考えらえる。
これにより、スプリングバックが発生する方向を制御し、当接面53aを球面状に加工でき、当接面53aとボール3とを面接触させることが可能になり、最大で約20%の摩擦係数を低下させることができる。
また、従来、バック孔を深くして、最薄部Aをより肉薄にすると、ボール3を押圧して当接面53aを作成する際に、最薄部Aの部分で亀裂や折れが発生するのではないかという懸念があったが、実施形態によると、このような亀裂や折れは発生しないことが分かった。
しかし、本実施形態のような、バック孔円錐台状空間部41bとバック孔円柱状空間部41aとに明確に分離されておらず、その交点に相当する部分にRが設けられている場合もある。例えばバック孔最先端部分41の形状がボール形状、ラジアス形状、R付円錐台形状の場合である。
図6は、このような場合の具体的な最薄部Aの位置を示す図であり、(a)はバック孔最先端部分41の形状がボール形状、(b)はラジアス形状、(c)はR付円錐台形状のときを示す。
すなわち、最薄部Aは、ボールペンチップ1の中心線L、ボール3の中心O、バック孔最先端部分41の先端壁41baと側壁41aaとの交点に限らない。ボールペンチップ1の中心線Lを通るボールペンチップ1の断面において、チップ本体2の外周面2aからバック孔40の内面までの距離が最も短い、すなわち、チップ本体2の肉厚が最も薄い部分が最薄部Aである。
β バック孔円錐台状空間部の頂角
θ 直線Mと中心線Lとのなす角度
A 最薄部
L ボールペンチップの中心線
M 中心Oと最薄部Aとを結ぶ直線
O ボールの中心
1 ボールペンチップ
2 チップ本体
2a 外周面
3 ボール
23 シャンク部
40 バック孔
41 バック孔最先端部分
41a バック孔円柱状空間部
41aa 側壁
41b バック孔円錐台状空間部
41ba 先端壁
50 ボール抱持室
51 抱持室円柱状空間部
52 抱持室円錐台状空間部
52a 後端璧
53 略球面状空間部
53a 当接面
54 かしめ部
55 インク誘導溝
60 インク誘導孔
R1 当接面の先端側外周縁の径
R2 最薄部におけるバック孔の径
x 後端璧の上端縁と最薄部との間の中心線に沿った方向の距離
Claims (11)
- チップ本体とボールとを備えるボールペンチップであって、
前記チップ本体は、
前記チップ本体の先端側に設けられ、後端壁に前記ボールが内接する当接面が形成されたボール抱持室と、
後端側より先端側に向かって段階的に径が小さくなるように設けられたバック孔と、
前記当接面の中央に形成され、前記バック孔と前記ボール抱持室とを連通するインク誘導孔と、
前記インク誘導孔から放射状に延びる複数本のインク誘導溝と、
前記ボール抱持室の先端に設けられたかしめ部と、を備え、
前記ボールの一部を前記ボール抱持室より突出させるとともに、前記ボールを前記ボール抱持室の内部において回転自在に抱持し、
前記当接面に当接された状態での前記ボールの中心から、前記チップ本体の外周面と前記バック孔の先端部分の内壁との間の距離が最も短い最薄部のバック孔の内壁面上の点に延びる直線と、前記ボールペンチップの中心線との間の角度が、35°以上55°以下であり、且つ、
前記後端壁の上端縁と前記最薄部との間の、前記チップ本体の中心線に沿った方向の距離が、前記ボールの径の90%以下である、
ボールペンチップ。 - 前記当接面に当接された状態での前記ボールの中心から、前記最薄部のバック孔の内壁面上の点に延びる直線と、前記ボールペンチップの中心線との間の角度が、40°以上50°以下である、
請求項1に記載のボールペンチップ。 - 前記当接面に当接された状態での前記ボールの中心から、前記最薄部のバック孔の内壁面上の点に延びる直線と、前記ボールペンチップの中心線との間の角度が、42°以上48°以下である、
請求項1または2に記載のボールペンチップ。 - 前記最薄部は、
前記中心線に沿った断面において、前記バック孔のうちの最も先端側にあるバック孔最先端部分の側壁と前記側壁から前記インク誘導孔へと続く先端壁との交点である、
請求項1から3のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 前記ボール抱持室は、
抱持室円柱状空間部と、
前記抱持室円柱状空間部の後端から後端側に向って径が小さくなる抱持室円錐台状空間部と、
前記抱持室円錐台状空間部の後端から続く略球面状空間部と、
前記抱持室円柱状空間部の先端部に設けられたかしめ部と、を備え、
前記抱持室円錐台状空間部の頂角αは、90°以上150°以下である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 前記ボール抱持室は、
円柱状空間部と、
前記円柱状空間部の後端から後端側に向って径が小さくなる抱持室円錐台状空間部と、
前記抱持室円錐台状空間部の後端から続く略球面状空間部と、
前記円柱状空間部の先端部に設けられたかしめ部と、を備え、
前記略球面状空間部の前記ボールと当接する当接面の先端側の外周縁の径は、前記ボールの径の80%以上95%以下である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 前記最薄部における前記バック孔の径は、前記ボールの径の80%以上である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 前記バック孔のうちの最も先端側にあるバック孔最先端部分は、
後端側から、バック孔円柱状空間部と、
前記バック孔円柱状空間部の先端から、前記インク誘導孔に向って径が小さくなるバック孔円錐台状空間部を備え、
前記バック孔円錐台状空間部の頂角は、90°以上180°以下である、
請求項1から7のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 前記ボールの径が、0.5mm未満である、
請求項1から8のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 油性インクを搭載したボールペンリフィルに用いられる、
請求項1から9のいずれか1項に記載のボールペンチップ。 - 請求項1から10のいずれか1項に記載のボールペンチップを備えるボールペン。
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