本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
図1は、本実施の形態に係るエンジン制御システムの全体構成図である。図1を参照して、このエンジン制御システムにおいて制御対象となるエンジン1は、たとえば走行のための動力発生装置として車両(たとえば、4輪自動車)に搭載される。本実施の形態では、エンジン1がコモンレール式の直列4気筒ディーゼルエンジンであるが、制御対象となるエンジンは、こうしたディーゼルエンジンに限られない。制御対象となるエンジンは、ガソリンエンジンであってもよいし、直列以外の気筒レイアウト(たとえばV型あるいは水平型)のエンジンであってもよい。また、気筒の数も任意に変更できる。
エンジン1は、エンジン本体10と、エアクリーナ20と、インタークーラ25と、吸気絞り弁26と、吸気マニホールド28と、過給機30と、排気マニホールド50と、EGR装置60とを備える。そして、エンジン1は、制御装置200によって制御される。以下、エンジン1において、流路として機能する配管等に関しては、上流側の一方端を「第1端」、下流側の他方端を「第2端」と称する。
エンジン本体10は、複数の気筒12と、コモンレール14と、複数のインジェクタ16とを含む。各気筒12内には、ピストン(図示せず)が設けられ、気筒12とピストンとによって燃焼室が形成される。気筒12ごとにインジェクタ16が設けられ、各インジェクタ16はコモンレール14に接続される。燃料タンク(図示せず)に貯留された燃料は、サプライポンプ(図示せず)により所定圧に加圧されてコモンレール14に供給される。コモンレール14に供給された燃料は、各インジェクタ16から所定のタイミングで燃焼室内に噴射される。
エアクリーナ20は、第1吸気管22の途中に設けられ、第1吸気管22の第1端に設けられる吸気口(図示せず)から吸入される空気に含まれている異物を除去するように構成される。第1吸気管22の第2端は、過給機30のコンプレッサ32の入口に接続され、コンプレッサ32の出口には、第2吸気管24の第1端が接続される。コンプレッサ32は、第1吸気管22を通じて吸入される空気を過給して第2吸気管24に供給する。
インタークーラ25は、第2吸気管24の途中に設けられ、第2吸気管24を流通する空気を冷却するように構成される。インタークーラ25は、たとえば空冷式又は水冷式の熱交換器である。
第3吸気管27の第1端はインタークーラ25に、第3吸気管27の第2端は吸気マニホールド28に接続されている。また、第3吸気管27の途中には吸気絞り弁26が設けられており、さらに吸気絞り弁26よりも下流側(吸気マニホールド28側)に位置する接続部C1で、EGR通路66の第2端が第3吸気管27に接続されている。
吸気絞り弁26は、バルブ、モータ、及び開度センサ(スロットルポジションセンサ)等を含んで構成される。吸気絞り弁26の開度に応じて吸気マニホールド28へ供給される空気流量(より特定的には、インタークーラ25から出力されて吸気マニホールド28に供給される新気量)が変化する。吸気絞り弁26の開度は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、吸気絞り弁26の開度を調整することによって、吸気絞り弁26を通過して接続部C1(ひいては、吸気マニホールド28)に供給される新気量(以下、単に「新気量」とも称する)を制御できる。
吸気マニホールド28は、エンジン本体10の各気筒12の吸気ポートに連結される。一方、排気マニホールド50は、エンジン本体10の各気筒12の排気ポートに連結される。排気マニホールド50には、第1排気管52の第1端が接続され、第1排気管52の第2端は、過給機30のタービン36の入口に接続される。各気筒12の排気ポートから排出される排気ガスは、排気マニホールド50に集められた後、第1排気管52を経由してタービン36に供給される。
タービン36の出口には、第2排気管54の第1端が接続され、第2排気管54の第2端には、排気浄化装置56の入口が接続される。排気浄化装置56の例としては、DPF(Diesel Particulate Filter)、NOx触媒、DPNR(Diesel Particlulate-NOx Reduction)が挙げられる。排気浄化装置56の出口には、第3排気管58の第1端が接続される。排気浄化装置56で浄化された排気ガスは、第3排気管58を通り、図示しないマフラー等を経由して車外に排出される。
エンジン1においては、コンプレッサ32とタービン36とによって過給機30(たとえば、可変ノズルターボ)が構成される。コンプレッサ32のハウジング内にはコンプレッサホイール34が設けられ、タービン36のハウジング内にはタービンホイール38が設けられる。コンプレッサホイール34とタービンホイール38とは、連結軸42により連結されて一体的に回転する。これにより、コンプレッサホイール34は、タービンホイール38に供給される排気ガスの排気エネルギーによって回転駆動される。
EGR装置60は、EGR弁62と、EGRクーラ64と、EGR通路66と、バイパス通路68とを含む。EGR通路66は、エンジン本体10を経由せずに第3吸気管27と排気マニホールド50とを接続し、排気マニホールド50を流れる排気ガスの一部を第3吸気管27に還流させるための通路である。また、EGR弁62は、EGR通路66に設けられ、排気マニホールド50から第3吸気管27へ還流するEGRガス量を調整可能に構成される。EGRガスは、EGR装置60によって吸気側に還流される排気ガスである。この実施の形態では、第1吸気管22と第2吸気管24と第3吸気管27と吸気マニホールド28とが吸気通路を構成する。また、排気マニホールド50と第1排気管52と第2排気管54と第3排気管58とが排気通路を構成する。また、EGR通路66とバイパス通路68とが還流路を構成する。
EGR装置60は、排気ガスの一部を吸気通路に還流させるように構成される。EGR装置60は、たとえば排気エミッションの改善を目的として制御され、吸気ガスに排気ガスを含ませることによりエンジン本体10の燃焼温度を低下させて、燃焼によるNOxの発生を抑制できる。エンジン1運転時の燃焼によるNOxの発生が抑制されることで、排気中のNOx量が減少する。
EGR通路66の第1端は排気マニホールド50に接続され、EGR通路66の第2端は前述した第3吸気管27の接続部C1に接続されている。また、EGR通路66の途中にはEGR弁62が設けられている。第3吸気管27の接続部C1には、吸気絞り弁26によって流量が調整された新気と、EGR弁62によって流量が調整されたEGRガスとが供給される。なお、EGR通路66の第1端は、第1排気管52に接続されてもよく、EGR通路66の第2端は、吸気マニホールド28に接続されてもよい。
EGR通路66において、EGR弁62よりも上流側(排気マニホールド50側)にはEGRクーラ64が設けられている。EGRクーラ64は、EGRガスを冷却するように構成される。EGRクーラ64は、たとえば水冷式又は空冷式の熱交換器である。
また、EGR通路66は、EGRクーラ64の上流側及び下流側でバイパス通路68に接続されている。バイパス通路68の第1端、第2端はそれぞれ接続部C2、C3でEGR通路66に接続される。バイパス通路68によってEGRクーラ64を経由しない経路が形成される。すなわち、接続部C2に供給されたEGRガスは、バイパス通路68を通ることで、EGRクーラ64を経由せずにEGR通路66の接続部C3に到達する。接続部C3には、EGRクーラ64によって冷却されたEGRガス(以下、「第1EGRガス」とも称する)と、バイパス通路68を通りEGRクーラ64を経由していないEGRガス(以下、「第2EGRガス」とも称する)とが供給される。第1及び第2EGRガスは接続部C3で合流して混合EGRガスとなって、EGR弁62に供給される。なお、第1及び第2EGRガスが合流する箇所(接続部C3)に、第1EGRガスと第2EGRガスとの混合比率を調整するための弁を設けてもよい。
EGR弁62は、バルブ(たとえば、バタフライバルブ)と、バルブを駆動するモータ(たとえば、直流モータ)と、バルブ開度を検出するセンサ(たとえば、ホール素子による非接触式バルブ回転角センサ)とを含んで構成される。EGR弁62の開度(EGR開度)は、通路断面積に対応する。EGR弁62は、開状態(EGR開度が0%よりも大きい状態)においてはEGRガスの流通を許容し、閉状態(EGR開度が0%である状態)においてはEGRガスの流通を禁止する。EGR開度は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、EGR開度を調整することによって、EGR弁62を通過してEGR通路66の第2端(接続部C1)に供給されるEGRガス量(以下、単に「EGRガス量」とも称する)を制御できる。
エンジン1は、エアフローメータ102と、吸気圧センサ106と、回転数センサ108と、水温センサ110と、排気圧センサ118と、アクセルペダルポジションセンサ112と、大気圧センサ114と、外気温センサ116とをさらに備える。
エアフローメータ102は、外部からエアクリーナ20を通じて取り込まれてエンジン本体10に供給される空気量(新気量)を検出し、その検出値FIを制御装置200へ出力する。
吸気圧センサ106は、吸気マニホールド28に供給される吸気ガスの圧力(吸気圧力)を検出し、その検出値Pbを制御装置200へ出力する。排気圧センサ118は、排気マニホールド50に排出される排気ガスの圧力(排気圧力)を検出し、その検出値P4を制御装置200へ出力する。なお、この実施の形態に係る吸気圧センサ106、排気圧センサ118は、それぞれ本開示に係る「第1圧力検出部」、「第2圧力検出部」の一例に相当する。
回転数センサ108は、エンジン本体10の出力軸の回転速度(エンジン回転数)を検出し、その検出値NEを制御装置200へ出力する。水温センサ110は、エンジン本体10の冷却水の温度(エンジン冷却水温)を検出し、その検出値TEを制御装置200へ出力する。アクセルペダルポジションセンサ112は、アクセルペダル(図示せず)の踏込量(アクセル開度)を検出し、その検出値APを制御装置200へ出力する。大気圧センサ114は大気圧を検出し、その検出値Paを制御装置200へ出力する。外気温センサ116は外気温を検出し、その検出値Taを制御装置200へ出力する。
制御装置200は、演算装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、記憶装置と、各種信号を入出力するための入出力ポートと(いずれも図示せず)を含んで構成される。記憶装置は、作業用メモリとしてのRAM(Random Access Memory)と、保存用ストレージ(ROM(Read Only Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ等)とを含む。制御装置200は、入力ポートに接続された各種機器(たとえば、上述した各種センサ)から信号を受信し、受信した信号に基づいて出力ポートに接続された各種機器(インジェクタ16及びEGR装置60等)を制御する。記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することで、各種制御が実行される。ただし、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
この実施の形態では、エンジン1の運転中にEGR装置60を作動させることによって排気中のNOx量を減少させる。しかし、エンジン1の運転中において、新気量に対してEGRガス量が過剰に多くなると、エンジン本体10における燃焼が不安定になる。一方、新気量に対してEGRガス量が少なすぎると、エンジン運転時の燃焼によるNOxの発生が十分に抑制されなくなる。このため、EGR装置60の作動中においては、EGR率が適切な値(後述する目標EGR率)になるようにフィードバック制御が行なわれる。
エンジン1におけるEGR率は、所定期間におけるエンジン本体10に供給される吸気ガス量中に占めるEGRガス量の割合である。エンジン本体10に供給される吸気ガスは、吸気マニホールド28で各気筒12に分配され各気筒12の燃焼室内に吸入される吸気ガスに相当するため、以下では「筒内吸入ガス」とも称する。筒内吸入ガス量(エンジン本体10に供給される吸気ガス量)は、各気筒12に吸入される総吸気ガス量に相当する。
図2は、筒内吸入ガスを構成する要素を示す図である。図2を参照して、筒内吸入ガスは、エンジン本体10に供給される新気及びEGRガスから構成される。筒内吸入ガスは、EGR弁62が閉状態であるときにはインタークーラ25から出力される新気であり、EGR弁62が開状態であるときには新気とEGRガスとの混合ガスである。筒内吸入ガス量は、コンプレッサ32からインタークーラ25を通じて吸気マニホールド28へ供給される新気量と、排気マニホールド50からEGR通路66及びバイパス通路68を通じて吸気マニホールド28へ供給されるEGRガス量との和(=新気量+EGRガス量)に相当する。
この実施の形態では、吸気圧センサ106により検出される吸気圧力と、上記の筒内吸入ガス量との関係を示す対応情報(マップ等)が、たとえば予め実験等によって求められて制御装置200の記憶装置に記憶されている。制御装置200は、こうした対応情報と吸気圧センサ106の検出値Pbとを用いて筒内吸入ガス量を推定する。また、制御装置200は、得られた筒内吸入ガス量の推定値から、エンジン本体10に供給される新気量(たとえば、エアフローメータ102の検出値FI)を減算することによりEGRガス量を算出する。そして、制御装置200は、こうして算出されたEGRガス量を上記筒内吸入ガス量の推定値で除算することにより、EGR率(=EGRガス量/筒内吸入ガス量)の検出値を取得する。
制御装置200は、たとえばエンジン本体10の運転状態(アクセル開度、エンジン回転数、エンジン冷却水温等)及び環境情報(大気圧、外気温等)に基づいて目標EGR率を決定する。目標EGR率の決定には、マップ等を用いることができる。そして、制御装置200は、上記のようにして取得したEGR率の検出値と目標EGR率との偏差(EGR率偏差)に基づいてフィードバック制御を行ない、EGR率の検出値が目標EGR率に近づくようにEGR弁62の開度を操作する。
上記フィードバック制御のゲイン(フィードバックゲイン)は、EGR率偏差に応じて可変とされる。より具体的には、EGR率偏差が大きいときにはEGR率を目標EGR率に早く近づけるために大きなゲインでフィードバック制御が行なわれ、EGR率偏差が小さいときにはオーバーシュートを抑制するために小さなゲインでフィードバック制御が行なわれる。なお、フィードバックゲインは、PID制御においては、比例ゲイン、積分ゲイン、及び微分ゲインの総称に相当する。
ところで、エンジン1の高負荷運転時には、排気圧力が高くなることに起因して、EGR開度変化に対するEGRガス量変化の感度(ひいては、EGR開度変化に対するEGR率変化の感度)が高くなる傾向がある。このため、エンジン1の高負荷運転時にEGR率のフィードバック制御を行なう場合には、オーバーシュートによりEGR率が過剰に高くなり、エンジン1の燃焼(ひいては、エンジン1の運転)が不安定になりやすくなる。こうしたEGR率の過剰な上昇を抑制するために、フィードバックゲインを小さくしてEGR弁62の開閉動作を遅くすることも考えられる。しかし、常にフィードバックゲインを小さくすると、フィードバック制御の応答性が低下し、EGRガスの入り遅れに起因した排気エミッションの悪化が生じやすくなる。
そこで、この実施の形態では、制御装置200が、EGR率偏差(EGR率の検出値と目標EGR率との偏差)に加えて、筒内吸入ガス量の推定値と、吸気圧センサ106の検出値Pbと排気圧センサ118の検出値P4との差圧(吸排気差圧)とを用いて、上記のフィードバックゲインを決定するように構成される。
なお、この実施の形態では、吸排気差圧として、排気圧センサ118の検出値P4(排気圧力)から吸気圧センサ106の検出値Pb(吸気圧力)を減算した値(以下、「吸排気差圧P4-Pb」とも称する)を採用する。排気圧力よりも吸気圧力のほうが高いため、吸排気差圧P4-Pbは正の値になる。なお、吸気圧力と排気圧力との差の絶対値を、吸排気差圧として採用してもよい。
本願発明者は、EGR開度感度(EGR開度変化に対するEGR率変化の感度)が、吸排気差圧P4-Pb及び筒内吸入ガス量の各々と高い相関性を示すことを見出した。以下、図3及び図4を用いて、この相関性について説明する。
図3は、EGR弁62の開度を単位操作量だけ開く側に操作したときのEGRガス量変化量Δegr(以下、単に「Δegr」とも称する)と、吸排気差圧P4-Pbとの関係を示す図である。図3では、吸排気差圧P4-Pbが0であるときのΔegrを0(基準)として、Δegrの大きさを示す。
図3を参照して、EGR開度を一定量だけ開く側に操作したときのEGRガスの増加量(Δegr)は、吸排気差圧P4-Pbが大きいほど大きくなる。この理由は、吸排気差圧P4-Pbが大きくなるほど排気マニホールド50から吸気マニホールド28へEGRガスが供給されやすくなるからであると考えられる。吸排気差圧P4-Pbが大きい場合には、EGRガス量に対するEGR開度の変動の影響が大きくなり、フィードバック制御におけるEGR開度の操作によってEGRガス量が大きく変化する傾向がある。このため、EGR開度の操作量(フィードバック制御によってEGR開度を変化させる量)が少なくても、EGRガス量(ひいては、EGR率)が大きく変化し得る。
図4は、2つの例について、EGR開度の操作によってΔegrに相当するEGRガスが加えられた筒内吸入ガスを示す図である。図4に示される2つの例において、Δegrは同じである。ただし、右側の例では左側の例よりも筒内吸入ガス量が多い。
図4を参照して、左側の例でも右側の例でも、EGRガスの変動量(Δegr)は同じである。しかし、「EGR率=EGRガス量/筒内吸入ガス量」のような関係式から、EGRガス量の変動(より特定的には、Δegrに相当するEGRガスの増加)に伴うEGR率の変動量は、右側の例(筒内吸入ガス量が多い例)よりも左側の例(筒内吸入ガス量が少ない例)のほうが大きくなる。筒内吸入ガス量が少ない場合には、EGR率に対するEGRガス量の変動の影響が大きくなり、EGRガス量の変動によってEGR率が大きく変化する傾向がある。このため、EGR開度の操作量(ひいては、EGRガスの変化量)が少なくても、EGR率が大きく変化し得る。
制御装置200は、筒内吸入ガス量(推定値)と吸排気差圧P4-PbとからEGR開度感度の高さを把握し、EGR開度感度の高さに応じたフィードバックゲインを採用することができる。すなわち、EGR開度感度が高い状況(たとえば、エンジン1の高負荷運転時)においても、EGR開度感度が低い状況(たとえば、エンジン1の低負荷運転時)においても、適切なフィードバックゲインを採用することができる。このため、制御装置200は、EGR率のフィードバック制御において、エンジン1の低負荷運転時及び高負荷運転時のいずれにおいても適切なフィードバックゲインを採用することによりオーバーシュートを抑制しつつ十分な応答性を確保することができる。
近年、排気規制が強化されたことにより、エンジンの低負荷運転時だけでなく高負荷運転時においても、EGR装置による排気ガスの還流を行なうことが要求されている。図5は、排気規制が強化される前と後との各々におけるエンジンの使用条件の傾向を示す図である。図5に示されるグラフでは、横軸に吸排気差圧P4-Pbを示し、縦軸に筒内吸入ガス量を示す。図5において、データD1は、排気規制が強化される前のデータを示し、データD2は、排気規制が強化された後のデータを示す。
図5を参照して、データD2で示されるように、排気規制が強化されることによって、排気規制が強化される前(データD1)よりもエンジンの使用領域が拡大されている。領域Rは、排気規制が強化された後のエンジンの使用領域のうち、特にEGR開度感度が高い領域を示している。より具体的には、筒内吸入ガス量が少なく、かつ、吸排気差圧P4-Pbが高い条件において、EGR開度感度が高くなる。領域Rの中でも、筒内吸入ガス量が80g/s以上120g/s以下であり、かつ、吸排気差圧P4-Pbが50kPa以上70kPa以下である領域(以下、「高頻度領域」とも称する)が、特に高い頻度で使用されている。
この実施の形態では、図5に示されるような排気規制が強化された後のエンジンの使用条件(使用領域)を考慮して、制御装置200が以下に説明するようなゲイン情報(たとえば、後述する図8に示される第2ゲイン情報)を保有し、このゲイン情報で規定される関係を用いてフィードバックゲインを決定している。
ゲイン情報は、吸排気差圧P4-Pbと筒内吸入ガス量との関係を規定し、より具体的には、吸排気差圧P4-Pbが同じであれば筒内吸入ガス量が少なくなるほどフィードバックゲインが小さくなり、筒内吸入ガス量が同じであれば吸排気差圧P4-Pbが大きくなるほどフィードバックゲインが小さくなるような関係を規定している。また、ゲイン情報は、少なくとも筒内吸入ガス量が80g/s以上120g/s以下であり、かつ、吸排気差圧が50kPa以上70kPa以下である領域(すなわち、上記の高頻度領域)において上記の関係を規定する。
EGR弁62の開閉速度(たとえば、バルブの角速度)はフィードバックゲインに応じて変わり、フィードバックゲインを高くするほどEGR弁の開閉動作が速くなる傾向がある。上記のようなゲイン情報を用いてフィードバックゲインが決定されることで、EGR開度感度が高い状況(たとえば、エンジンの高負荷運転時)においては、EGR開度感度が低い状況(たとえば、エンジンの低負荷運転時)よりもフィードバックゲインが小さくなってEGR弁の開閉動作が遅くなり、EGR率の過剰な上昇が抑制される。また、EGR開度感度が低い状況においては、フィードバックゲインが十分大きくなることによってEGR弁の開閉動作が速くなり、EGR率のフィードバック制御において十分な応答性を確保することが可能になる。
また、上記ゲイン情報によれば、エンジン1の高負荷運転時にEGR装置60による排気ガスの還流を行なう場合に高い頻度で使用される上記の高頻度領域においてEGR率を適切にフィードバック制御することが可能になる。
なお、EGR率のフィードバック制御において複数のゲイン(たとえば、比例ゲイン、積分ゲイン、及び微分ゲイン)を使用する場合には、ゲインごとに適したゲイン情報を用意してもよい。また、特定のゲイン(たとえば、EGR弁62の開閉速度に影響しやすい比例ゲイン)のみを上記ゲイン情報によって決定し、他のゲインは別の方法で決定するようにしてもよい。
以下、制御装置200により実行されるEGR率のフィードバック制御について説明する。図6は、制御装置200においてEGR率のフィードバック制御を行なうための構成を示す制御ブロック図である。
図6を参照して、制御装置200は、コントローラ210と、筒内吸入ガス量取得部220と、EGR率取得部230と、減算部240,250とを含む。
筒内吸入ガス量取得部220は、吸気圧センサ106の検出値Pbに基づいて筒内吸入ガス量を取得して、筒内吸入ガス量を示す信号EGinをEGR率取得部230及びコントローラ210の各々へ出力する。
筒内吸入ガス量の取得には、吸気圧力と筒内吸入ガス量との関係を示す対応情報(たとえば、数式)を用いることができる。筒内吸入ガス量取得部220は、予め制御装置200の記憶装置に格納された対応情報を参照することにより、吸気圧センサ106の検出値Pbから筒内吸入ガス量を推定することができる。対応情報は、数式に限られず、マップでもテーブルでもモデルでもよい。また、対応情報は、複数のマップ等を組み合わせて構成されていてもよい。なお、過給圧に相当する上記吸気圧センサ106の検出値Pbに加えて、吸気マニホールド28の吸気温度(たとえば、吸気マニホールド28に設けられた温度センサ(図示せず)によって実測される吸気温度)、及びエンジン回転数も加味して、筒内吸入ガス量を求めてもよい。
EGR率取得部230は、筒内吸入ガス量取得部220から入力される信号EGinと、エアフローメータ102の検出値FIとに基づいてEGR率を取得して、EGR率を示す信号eegrを減算部240へ出力する。より具体的には、EGR率取得部230は、信号EGinにより示される筒内吸入ガス量の推定値からエアフローメータ102の検出値FI(新気量)を減算することにより、EGRガス量を算出する。そして、EGR率取得部230は、こうして算出されたEGRガス量を上記筒内吸入ガス量の推定値で除算することにより、EGR率を取得する。
減算部240は、EGR率の目標値を示す目標EGR率から、信号eegrにより示される現在のEGR率(以下、「実EGR率」とも称する)を減算し、その演算値(すなわち、目標EGR率と実EGR率との偏差)をコントローラ210へ出力する。目標EGR率は、たとえばエンジン本体10の運転状態(検出値AP,NE,TE)や環境情報(検出値Pa,Ta)等に基づいて生成される。
一方、減算部250は、排気圧センサ118の検出値P4(現在の排気圧力)から吸気圧センサ106の検出値Pb(現在の吸気圧力)を減算し、その演算値(すなわち、現在の吸排気差圧P4-Pb)をコントローラ210へ出力する。
コントローラ210は、筒内吸入ガス量取得部220から入力される信号EGinと、減算部240から入力されるEGR率偏差(目標EGR率と実EGR率との偏差)と、減算部250から入力される吸排気差圧P4-Pbとを用いてフィードバックゲイン(たとえば、比例ゲイン、積分ゲイン、及び微分ゲイン)を決定する。
コントローラ210による上記フィードバックゲインの決定は、制御装置200の記憶装置に格納されたゲイン情報(マップ等)を参照して行なわれる。制御装置200の記憶装置には、EGR率偏差とフィードバックゲインとの関係を示す第1ゲイン情報と、筒内吸入ガス量と吸排気差圧とフィードバックゲインとの関係を示す第2ゲイン情報とが記憶されている。たとえば予め実験等によってゲインごとに適した第1ゲイン情報及び第2ゲイン情報が求められて記憶装置に格納される。なお、第1ゲイン情報及び第2ゲイン情報は、各々独立して、マップでもテーブルでも数式でもモデルでもよい。また、各ゲイン情報は、複数のマップ等を組み合わせて構成されていてもよい。
図7は、第1ゲイン情報の一例(マップ)を示す図である。図7を参照して、第1ゲイン情報は、EGR率偏差に対応するフィードバックゲインの値を規定している。第1ゲイン情報は、EGR率偏差が大きくなるほどフィードバックゲインが大きくなるような関係を規定している。
図8は、第2ゲイン情報の一例(マップ)を示す図である。図8を参照して、第2ゲイン情報は、第1ゲイン情報によって求められたフィードバックゲインを補正するための補正係数を規定する。この第2ゲイン情報における筒内吸入ガス量の範囲は80g/s以上120g/s以下を含む範囲(たとえば、30g/s以上150g/s以下)である。また、この第2ゲイン情報における吸排気差圧の範囲は50kPa以上70kPa以下を含む範囲(たとえば、30kPa以上150kPa以下)である。第2ゲイン情報は、吸排気差圧が同じであれば筒内吸入ガス量が少なくなるほど補正係数が小さくなり、筒内吸入ガス量が同じであれば吸排気差圧が大きくなるほど補正係数が小さくなるような関係を規定している。
この実施の形態では、第1ゲイン情報によって求められたフィードバックゲインの値に、第2ゲイン情報によって求められた補正係数を乗算した値を、フィードバックゲインとする。こうして第1ゲイン情報及び第2ゲイン情報によってフィードバックゲインが決定される。第2ゲイン情報において、補正係数の最大値(より特定的には、筒内吸入ガス量が多く、かつ、吸排気差圧が小さい領域で規定される補正係数の値)は、たとえば1.0(補正なし)であり、補正係数の最小値(より特定的には、筒内吸入ガス量が少なく、かつ、吸排気差圧が大きい領域で規定される補正係数の値)は、たとえば0.5である。
制御装置200は、上記のように決定されたフィードバックゲインを用いてEGR率のフィードバック制御を行なう。より具体的には、コントローラ210が、減算部240から入力されるEGR率偏差に基づいて上記フィードバックゲインによるPID制御(比例積分微分制御)を実行することによって、EGR率偏差を0に近づけるための操作量(より特定的には、EGR開度の操作量)を算出し、この操作量に対応する駆動信号Vegrを生成してEGR弁62へ出力する。この駆動信号VegrによりEGR弁62が駆動されることによって、実EGR率が目標EGR率に近づくようにEGR弁62の開度が操作される。
制御装置200によるEGR率のフィードバック制御では、筒内吸入ガス量取得部220による筒内吸入ガス量の取得と、EGR率取得部230によるEGR率の取得と、減算部240によるEGR率偏差の算出と、減算部250による吸排気差圧P4-Pbの取得と、コントローラ210によるゲインの決定と、コントローラ210によるEGR開度の操作量の算出とが繰り返し行なわれるとともに、コントローラ210により算出されたEGR開度の操作量に基づいて生成された駆動信号VegrによってEGR弁62が駆動される。これにより、実EGR率が目標EGR率に収束するように制御される。
上記EGR率のフィードバック制御において、フィードバックゲインは、EGR率偏差が小さくなるほど小さくなり、筒内吸入ガス量が少なくなるほど小さくなり、吸排気差圧P4-Pbが大きくなるほど小さくなるように決定される。こうした傾向でフィードバック制御のゲインを可変とすることによって、EGR率のフィードバック制御を好適に行なうことができる(図3及び図4参照)。また、第1ゲイン情報(図7)及び第2ゲイン情報(図8)によれば、図5中の領域Rにおいても、EGR率のフィードバック制御においてオーバーシュートを抑制しつつ十分な応答性を確保することが可能になる。なお、コントローラ210は、PID制御に代えてPI制御を実行するようにしてもよい。
上記実施の形態では、フィードバックゲインの値を規定するマップ(第1ゲイン情報)と、補正係数を規定するマップ(第2ゲイン情報)とを使用している。しかし、2ステップで最適なフィードバックゲインを求める(すなわち、仮のゲインを取得してから補正で最適化する)ことは必須ではなく、EGR率偏差、筒内吸入ガス量、及び吸排気差圧から直接的に最適なフィードバックゲインを求めるようにしてもよい。たとえば、予め実験等によって条件ごとの最適なフィードバックゲイン(ひいては、その関数)を求めて、EGR率偏差、筒内吸入ガス量、及び吸排気差圧の関数で表わされたゲイン(たとえば、比例ゲイン)を用いてEGR率のフィードバック制御(たとえば、PID制御又はPI制御)を行なうようにしてもよい。
上記実施の形態では、吸気圧力及び排気圧力の各々の実測値(吸気圧センサ106及び排気圧センサ118による実測値)を用いて吸排気差圧を求めている。しかしこれに限られず、吸気圧力及び排気圧力の少なくとも一方として、エンジン1の状態等から推定される推定値を用いてもよい。たとえば、エンジン回転数、エンジン負荷(燃料噴射量)、及び過給機30のVN開度(可変ノズル機構を構成するノズルベーンの開度)から排気マニホールド50の排気圧力を推定してもよい。また、排気マニホールド50よりも下流側の排気圧力(たとえば、排気浄化装置56の入口付近に設けられた圧力センサ(図示せず)で実測される排気圧力)から、排気マニホールド50の排気圧力を推定してもよい。
本発明のエンジンの制御装置が適用される対象は、車両に限られず任意である。適用対象は、たとえば、他の乗り物(船、飛行機等)であってもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。