以下に、本発明の温度調節庫の一実施形態を添付図面を参照して説明する。本発明の温度調節庫10は、ドウコンディショナーと呼ばれるもので、パン生地を焼成する前に、フリーズ(冷凍)、リタード(冷蔵)、予熱及びホイロ(発酵)の各工程を順番に実行するものである。温度調節庫10では、上記各工程を実行するときに各工程に応じた温度制御を行うとともに、さらに、予熱及びホイロ(発酵)工程では温度制御に加えて湿度制御を行う機能も有したものである。
図1及び図2に示したように、温度調節庫10は、ハウジング11内にパン生地(収納物)を収納する上下2段の収納庫20と、ハウジング11の上部に機械室12とを備えている。上側の収納庫20と下側の収納庫20の構造は同じものであるので、上側の収納庫20を用いて具体的に説明する。図2に示したように、収納庫20の前部にはパン生地を載せたトレイを出し入れする前側開口部20aが設けられており、前側開口部20aにはこれを開閉する扉13が開閉自在に設けられている。扉13の中央部には収納庫20内を視認することができるようにガラス製の窓が設けられている。
図2及び図3に示したように、収納庫20内の左右両側部にはパン生地を載せたトレイTを上下方向に多段状に支持する支持フレーム21が設けられている。左右の各支持フレーム21は収納庫20の左右の各側部にて前後に設けた支柱21aと、前後の支柱21aに取り付けた複数のレール21bとを備えている。レール21bはトレイTの左右の各縁部を前後に摺動自在に支持するものであり、各トレイTを上下方向に多段状に収納する位置に取り付けられている。
図2及び図3に示したように、収納庫20の後側部(一方の側部)には仕切板22が設けられており、収納庫20の後側部は仕切板22によって仕切られた温度調節空間23となっている。仕切板22は収納庫20の後側壁と平行に配設されている。仕切板22の上端及び下端は収納庫20の上壁及び底壁から離間するように配置されており、仕切板22の上端と収納庫20の上壁との間には温度調節空間23の空気の導入口23aが形成され、仕切板22の下端と収納庫20の底壁との間には温度調節空間23の空気の導出口23bが形成されている。
図3に示したように、温度調節空間23内の上部には循環ファン24が設けられており、循環ファン24は収納庫20内の空気を温度調節空間23との間で循環させるものである。収納庫20内の空気は循環ファン24の作動によって導入口23aから温度調節空間23内に導入され、温度調節空間23内に導入された空気は導出口23bから収納庫20内に戻され、収納庫20内の空気は温度調節空間23との間を循環するようになっている。収納庫20内の空気を温度調節空間23との間で循環させているときには、収納庫20内には下側から上側への空気の流れが生じ、温度調節空間23内には上側から下側への空気の流れが生じるようになっている。
図3に示したように、温度調節空間23内には循環ファン24の下側に冷凍装置30の冷却器35が設けられており、冷凍装置30は温度調節空間23を通過する収納庫20内の空気を冷却することで、収納庫20内を冷却するものである。図4に示したように、冷凍装置30は周知の冷凍回路を用いたものであり、冷媒を圧縮する圧縮機31と、圧縮した冷媒ガスを冷却する凝縮器32と、液化冷媒に含まれる水分を除去するドライヤ33と、液化冷媒を膨張させるキャピラリチューブ(膨張手段)34と、膨張させた液化冷媒を気化させて収納庫20内を冷却する冷却器35とを備えている。冷却器35は温度調節空間23内に配置され、他の部品は機械室12に配置されている。
図3に示したように、温度調節空間23内には冷却器35の下側にヒータ36が設けられており、ヒータ36は温度調節空間23を通過する収納庫20内の空気を加熱することで、収納庫20内を加熱するものである。また、ヒータ36は上側に配置された冷却器35のデフロストヒータとしての機能も有している。冷却器35とヒータ36は特許請求の範囲に記載の温度調節器を構成している。
図3に示したように、温度調節空間23内にはヒータ36の下側に加湿器37の噴霧ノズル37aが設けられている。噴霧ノズル37aは温度調節空間23内を通過する空気に加圧状態の水を噴霧して、温度調節空間23を通過する空気を加湿することで、収納庫20内を加湿するようにしたものである。噴霧ノズル37aには水道等の給水源から導出された給水管とエアコンプレッサが接続されており、噴霧ノズル37aからエアコンプレッサによって加圧された状態で水が噴霧されるようになっている。温度調節空間23内の上部には温度センサ38が設けられており、温度センサ38は温度調節空間23内を通過する空気の温度を検出することで収納庫20内の温度を検出するようにしている。温度調節空間23内の上部には湿度センサ39が設けられており、湿度センサ39は温度調節空間23内を通過する空気の湿度を検出することで収納庫20内の湿度を検出するようにしている。
図2、図3及び図5に示したように、収納庫20の底部には底部ダクト41が設けられており、底部ダクト41は温度調節空間23の導出口23bから導出される温度調節された空気を収納庫20の底部の全体に広がるように送り出すためのものである。底部ダクト41は板金部材を屈曲加工したものであり、収納庫20の底壁との間に形成される空間によって構成されている。図5に示したように、底部ダクト41は、収納庫20の底部の後半部にて収納庫20の左右の内寸よりも少し短い幅で設けられている。図3に示したように、底部ダクト41の温度調節空間23側となる後部側には空気の流入口41aが設けられている。図5に示したように、底部ダクト41の左右方向の両側には空気の放出口41bが設けられており、左右の各放出口41bと対向する収納庫20の左右の各側壁との間には空気が通過できる間隔が配置されている。底部ダクト41の前側は空気が流出しないように塞がれており、底部ダクト41の後側の流入口41aから流入する空気は底部ダクト41の左右の方向の放出口41bからのみ流出するようになっている。温度調節空間23から導出された温度の調節された空気はこの底部ダクト41によって、収納庫20の前部に向けて放出されずに、収納庫20の左右の側部に向けて放出されるので、収納庫20の前部だけが局部的に温度調節されるのを防ぐことができるようになっている。
図2及び図3に示したように、収納庫20の左右の側部(一方の側部である前側部と他方の側部である後側部とを結ぶ方向の水平方向での交差方向である左右の側部)には側部ダクト42が設けられており、側部ダクト42は底部ダクト41の放出口41bから放出される温度調節された空気を収納庫20内にて上方に導くためのものである。側部ダクト42は前後方向の中間部にて上下に延出して設けられている。側部ダクト42は板金部材を屈曲加工したものであり、収納庫20の左右の各側壁との間に形成される空間によって構成されている。側部ダクト42の下部には空気の導入口42aが設けられており、側部ダクト42の導入口42aは底部ダクト41の放出口41bの前部と対向する位置に配置されている。側部ダクト42には上下方向に複数の吹出口42bが形成されており、各吹出口42bは収納庫20内にて上下に多段状に収納されるトレイと対応する高さ位置に配置されている。吹出口42bは側部ダクト42の空気の流れと同じ方向である上下に細長い長孔よりなる。吹出口42bを側部ダクト42を上昇する空気の流れと同じ方向で長くしているため、吹出口42bから吹き出される空気を丸孔としたときよりも吹き出しやすくすることができ、各吹出口42bから吹き出される空気の流れを良好とすることができた。側部ダクト42に形成された吹出口42bは下部に配置されるトレイ(この実施形態では下側の2段であるがこれに限られるものではない)よりも上側のトレイの高さに対応させた位置に形成されている。
図2、図3、図5及び図6に示したように、収納庫20の上部(天井部)には上部ダクト43が設けられており、上部ダクト43は収納庫20の上部の空気を温度調節空間23に導くためのものである。上部ダクト43は板金部材を屈曲加工したものであり、収納庫20の上壁との間に形成される空間によって構成されている。上部ダクト43の前部には収納庫20内の空気を流入させる空気の流入口43aが設けられ、上部ダクト43の後部には温度調節空間23の導入口23aに空気を送り出す送出口43bが設けられている。上部ダクト43の流入口43aは底部ダクト41の放出口41b及び側部ダクト42の各吹出口42bから前後に離れた位置に設けられているので、底部ダクト41の放出口41b及び側部ダクト42の各吹出口42bから放出された空気が収納庫20内の前後方向の中間部より後側だけを通過するのを防いで、収納庫20内の前後方向の全体を通過させることができる。
図7に示したように、温度調節庫10は制御装置50を備えており、制御装置50は、循環ファン24、冷凍装置30、ヒータ36、加湿器37、温度センサ38、湿度センサ39に接続されている。制御装置50はマイクロコンピュータ(図示省略)を有しており、マイクロコンピュータは、バスを介してそれぞれ接続されたCPU、RAM、ROM及びタイマ(いずれも図示省略)を備えている。制御装置50は、ROMに収納庫20内のパン生地をフリーズ(冷凍)、リタード(冷蔵)、予熱及びホイロ(発酵)の各工程を順に実行する発酵プログラムを備えている。なお、温度調節庫10は、フリーズ(冷凍)、リタード(冷蔵)、予熱及びホイロ(発酵)の各工程の少なくとも1つを選択的に実行することも可能となっている。
発酵プログラムは、フリーズ(冷凍)工程では収納庫20内を-5℃で3時間維持し、リタード(冷蔵)工程では収納庫20内を0℃~2℃で維持し、予熱工程では収納庫20内を15℃~18℃で75~80%の湿度を2時間維持し、ホイロ(発酵)工程では28℃~35℃で75~85%の湿度を1時間維持するように制御している。この発酵プログラムでは、フリーズ(冷凍)工程の開始時刻からホイロ(発酵)工程で予め設定した終了時刻までに要する時間からフリーズ(冷凍)工程、予熱工程及びホイロ(発酵)工程に要する時間を減じて残る時間をリタード(冷蔵)工程を実行するように制御している。なお、温度、湿度及び時間はあくまで一例であり、発酵に供するパン生地の種類等によって変更可能としている。
次に、発酵プログラムの各工程を実行したときの各種構成機器の制御と収納庫20内の空気の流れについて説明する。発酵プログラムの各工程を実行したときには、収納庫20内の空気は循環ファン24の作動によって温度調節空間23との間で循環し、収納庫20内の温度が各工程で設定された温度となるように、制御装置50は温度センサ38の検出温度に基づいて冷凍装置30及び/またはヒータ36の作動を制御する。また、予熱及びホイロ(発酵)の各工程では、さらに収納庫20内の湿度が各工程で設定された湿度となるように、制御装置50は湿度センサ39の検出湿度に基づいて加湿器37の作動を制御する。
収納庫20内の空気は循環ファン24の作動によって、収納庫20の上側前部の流入口43aから上部ダクト43内に吸引され、上部ダクト43内に吸引された空気は収納庫20の後側上部の送出口43bから導入口23aを通って温度調節空間23内に吸引される。温度調節空間23に吸引された空気は温度センサ38の検出温度に基づく冷凍装置30またはヒータ36の作動によって設定温度となるように冷却または加熱されて温度調節される。また、上述した予熱工程及びホイロ(発酵)工程を実行するときには、温度調節空間23に吸引された空気は湿度センサ39の検出湿度に基づく加湿器37の作動によって設定湿度となるように加湿されて湿度調節される。温度調節空間23で温度調節(温度調節と湿度調節)がされた空気は導出口23bから流入口41aを通って底部ダクト41内に送られる。底部ダクト41内に送られた温度調節(温度調節と湿度調節)された空気は左右の放出口41bから収納庫20の底部に放出される。底部ダクト41の放出口41bは収納庫20の後半部の左右方向の両側に開口しているので、放出口41bから放出された温度調節された空気は収納庫20の左右の側壁に沿って上側に上昇する。また、収納庫20の底部にて放出口41bから放出された温度調節された空気の一部は導入口42aから側部ダクト42内に導かれ、側部ダクト42に導かれた空気は各吹出口42bから収納庫20内の下部より上側に収納されたトレイに向けて吹き出される。
また、収納庫20内の空気は前側上部で開口する上部ダクト43の導入口23aから吸引されるようになっており、収納庫20内の空気は後側から前側に流れる気流が発生している。このため、収納庫20の底部の後半部にて底部ダクト41の放出口41bから放出された空気と、側部ダクト42の各吹出口42bから吹き出された空気は、この前側に流れる気流によって上方に上昇しながら前方に流れるようになり、底部ダクト41の放出口41bから放出された空気と側部ダクト42の各吹出口42bから吹き出された空気は収納庫20内の前後方向及び上下方向にて全体に拡がるようになり、収納庫20内は前後方向で温度のばらつきを抑えることができるようになっている。また、収納庫20内の下部は底部ダクト41の放出口41bから放出された空気によって温度調節され、収納庫20の下部より上側は側部ダクト42の各吹出口42bから吹き出された空気によって温度調節されており、収納庫20内は上下方向で温度のばらつきを抑えることができるようになっている。このように、収納庫20内にて上下方向に多段状に収納されたトレイTに載せたパン生地はこの底部ダクト41の放出口41bから放出される空気と側部ダクト42の各吹出口42bから吹き出される空気によって前後方向及び上下方向にばらつきのない状態で温度調節されるようになり、上下方向の各段のトレイTに載せたパン生地は上下方向の段の違いやトレイTに載せた前後位置の違いによって発酵の状態にばらつきが生じないようにすることができた。
上記のように構成した温度調節庫10は、パン生地(収納物)を載せたトレイを上下方向に多段状に収納可能な収納庫20と、収納庫20の後側部(一方の側部)に上下方向に延出するように設けられて、上部に空気の導入口23aと下部に空気の導出口23bを有した温度調節空間23と、温度調節空間23内に配設されて、収納庫20内の空気を導入口23aと導出口23bとを通して温度調節空間23との間で循環させる循環ファン24と、温度調節空間23内に配設されて、収納庫20との間で循環する空気を加熱するヒータ(温度調節器)36と冷却する冷却器(温度調節器)35とを備えている。温度調節空間23内でヒータ36により加熱または冷却器35により冷却されて設定温度となるように温度調節されており、収納庫20内の空気は循環ファン24によって温度調節された温度調節空間23との間で循環することで設定温度となるように温度調節されている。
この温度調節庫10においては、収納庫20の底部には後側部(一方の側部)に開口する流入口41aを有するとともに、温度調節空間23を配置した後側部(一方の側部)からその反対の前側部(他方の側部)との間の中間部まで延び、前側(他方側)を閉塞させるとともに前後方向(一方と他方とを結ぶ方向)との水平方向の交差方向である左右方向で開口する放出口41bを有した底部ダクト41を設けた。このようにしたことで、温度調節空間23内で温度の調節された空気が底部ダクト41の放出口41bから前側部(他方の側部)に直接流れることなく収納庫20の後半部から底部の全体に拡がり、収納庫20の底部の全体に拡がった空気は収納庫20の各側壁に沿って上昇するときに上下方向に多段状に収納されたトレイの各段を通過する。このように、収納庫20内に上下方向に多段状に収納したトレイを前後にずらしたりすることなく、上下方向に多段状に収納されたトレイの各段の温度のばらつきを抑えることができるようになった。また、収納庫20内にトレイを階段状に収納してないので、扉13の窓から収納庫20内を覗いたときの各トレイに載せたパン生地の状態の視認性を良好とすることができた。
また、収納庫20の左右方向の側部における前後方向の中間部(交差方向の側部における一方と他方とを結ぶ方向の中間部)には上下方向に延び、上下方向に複数の空気の吹出口42bを有した側部ダクト42を設けた。これにより、温度調節空間23内で温度の調節された空気の一部は底部ダクト41の放出口41bから側部ダクト42に導かれ、側部ダクト42に導かれた空気は上下方向の各吹出口42bから吹き出されるので、上下方向に多段状に収納された各段のトレイの温度のばらつきをさらに抑えることができるようになった。この場合に、側部ダクト42の空気の吹出口42bを上下方向に多段状に収納されるトレイの高さに対応させた位置に配置しているので、上下方向に多段状に収納された各段のトレイに温度の調節された空気が直接吹き出され、各段のトレイの温度のばらつきを特に抑えることができるようになった。
また、側部ダクト42の空気の吹出口42bを下部に配置されるトレイ(下側の2段のトレイ)よりも上側のトレイの高さに対応させた位置に配置した。これにより、収納庫20の下部に収納されたトレイは底部ダクト41の放出口41bから放出される空気によって温度調節され、収納庫20の下部より上側に配置されたトレイは側部ダクト42の各吹出口42bから吹き出される空気によって温度調節され、収納庫20の下部に偏ることなく全体に空気を循環させて温度調節できるようになった。また、吹出口42bは上下に長い長孔として、吹出口42bを側部ダクト42を上昇する空気の流れと同じ方向で長くしたので、吹出口42bから吹き出される空気を吹き出しやすくして、吹出口42bの空気の流れを良好とすることができた。
この実施形態では、収納庫20の一方の側部として後側部に温度調節空間23を配置し、底部ダクト41を後半部に設けるとともに、底部ダクト41の放出口41bを左右方向の両側で開口するようにしたが、本発明はこれに限られるものでなく、収納庫20の一方の側部として左側部または右側部に温度調節空間23を配置し、底部ダクト41を左半部または右半部に設けるとともに、底部ダクト41の放出口41bを前後方向の両側で開口するようにしたものであってもよい。
この実施形態では、温度調節器として冷却器35とヒータ36との両方を用いたが、本発明はこれに限られるものでなく、温度調節器として冷却器35とヒータ36の一方だけを用いたものであってもよい。