本発明による固定子では、固定子鉄心のスロットに巻回された固定子コイルの巻線は、表面に絶縁被膜を備え、スロットの内部において、長さ方向に垂直な断面での一部の絶縁被膜が、この一部の部分の反対部分(巻線の中心を挟んで反対側の部分)の絶縁被膜よりも厚い。さらに、スロットの内部において、異相のコイルと隣り合う巻線は、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜が、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分(巻線の中心を挟んで反対側の部分)の絶縁被膜よりも厚い。巻線は、巻線の長さ方向の全てにおいて、長さ方向に垂直な断面での一部の絶縁被膜が、この一部の部分の反対部分の絶縁被膜よりも厚いのがより好ましい。
以下では、本発明の実施例による固定子と回転電機を説明する。本発明の実施例による回転電機は、自動車の走行に使用するのが好適な回転電機である。回転電機を使用するいわゆる電気自動車には、エンジンと回転電機の両方を備えるハイブリッドタイプの電気自動車(HEV)と、エンジンを用いないで回転電機のみで走行する純粋な電気自動車(EV)とがある。以下に説明する回転電機は、両方の電気自動車に利用できる。以下の実施例では、代表してハイブリッドタイプの自動車に用いられる回転電機について説明する。
以下の説明において、「軸方向」は、回転電機の回転軸に沿った方向を指す。「周方向」は、回転電機の回転方向に沿った方向を指す。「径方向」は、回転電機の回転軸を中心としたときの動径方向(半径方向)を指す。「内周側」は、径方向の内側(回転軸に近い部分である内径側)を指す。「外周側」は、内周側の逆方向、すなわち径方向の外側(回転軸から遠い部分である外径側)を指す。なお、これらの軸方向、周方向、及び径方向は、固定子や固定子鉄心の軸方向、周方向、及び径方向と、それぞれ同じ方向である。
初めに、本発明の実施例による回転電機を搭載した電気自動車の概略構成について説明する。
図17は、本発明の実施例による回転電機を搭載したハイブリッドタイプの電気自動車(HEV)の概略構成を示す図である。HEVは、前輪側の主動力として、エンジンENGと回転電機10を備える。エンジンENGと回転電機10の発生する動力は、変速機TRにより変速され、前輪側駆動輪FWに伝えられる。後輪の駆動については、後輪側に配置された回転電機10と後輪側駆動輪RWが機械的に接続され、回転電機10の動力が後輪側駆動輪RWに伝達される。前輪側の動力源である回転電機10は、エンジンENGと変速機TRの間に配置される。
回転電機10は、エンジンENGを始動し、また、車両の走行状態に応じて、駆動力の発生と、車両減速時のエネルギーを電気エネルギーとして回収する発電力の発生とを切り換える。回転電機10の駆動動作と発電動作は、車両の運転状況に合わせ、トルク及び回転数が最適になるように、電力変換装置INVにより制御される。回転電機10の駆動に必要な電力は、電力変換装置INVを介してバッテリBATから供給される。また、回転電機10が発電動作を行うときは、電力変換装置INVを介してバッテリBATに電気エネルギーが充電される。
回転電機10は、永久磁石内蔵型の三相同期モータである。回転電機10は、固定子コイルに三相交流電流が供給されることで、回転子を回転させる電動機として作動する。また、回転電機10は、エンジンENGによって回転子が回転すると、発電機として作動して三相交流の発電電力を出力する。つまり、回転電機10は、電気エネルギーに基づいて回転トルクを発生する電動機としての機能と、機械エネルギーに基づいて発電を行う発電機としての機能の両方を有しており、車両の走行状態によってこれら2つの機能を選択的に利用することができる。
次に、本発明の実施例1による固定子と回転電機10を説明する。
図1は、本実施例による回転電機10の断面図である。回転電機10は、固定子20と、固定子20を保持するハウジング50と、固定子20の内周側に配置された回転子11とを備える。本実施例では、回転電機10は、液冷ジャケット130の内部に設置されている。液冷ジャケット130は、エンジンENGのケースや変速機TRのケースによって構成され、ハウジング50の外周側に固定されている。液冷ジャケット130の内周壁とハウジング50の外周壁とで、油などの液状の冷媒RFの冷媒通路153が構成されている。固定子20は、円筒形の固定子鉄心132と、固定子コイルとを備える。固定子コイルは、コイルエンド61、62を備える。回転子11は、回転子鉄心12と、シャフト13と、永久磁石18とを備え、シャフト13に固定される。シャフト13は、回転電機10の回転軸であり、液冷ジャケット130に設けられた軸受144、145に回転自在に支持されている。このため、液冷ジャケット130は、軸受ブラケットとも称される。
なお、直接液体冷却方式の場合には、冷媒RFは、冷媒貯蔵空間150に溜まった液体が冷媒通路153を通り、さらに冷媒通路154、155を通って固定子20にへ向けて流出し、固定子20を冷却する。冷媒RFは、冷却用の油であってもよい。
ハウジング50の内周側には、固定子20が固定されている。固定子20の内周側には、回転子11が回転可能に支持されている。ハウジング50は、円筒形状であり、回転電機10の外被を構成しており、枠体或いはフレームとも称される。ハウジング50は、厚さ2~5mm程度の鋼板(高張力鋼板など)を絞り加工により円筒形状に成形することで製作できる。また、ハウジング50は、炭素鋼など鉄系材料の切削により、または鋳鋼やアルミニウム合金の鋳造により、またはプレス加工によっても製作できる。
ハウジング50には、液冷ジャケット130に取り付けられた複数のフランジ(図示せず)が設けられている。複数のフランジは、円筒状のハウジング50の一端面の周縁において、径方向外側に突設している。なお、フランジは、絞り加工時に形成される端部において、フランジ以外の部分を切除して形成されるものであり、ハウジング50と一体となっている。なお、ハウジング50を設けずに、固定子20をケースである液冷ジャケット130に直接固定してもよい。
図2は、固定子20の全体斜視図である。図3は、固定子鉄心132の全体斜視図である。図2に示すように、固定子20は、固定子鉄心132と、巻線28で構成された固定子コイル60とを備える。固定子鉄心132は、珪素鋼板の薄板が積層されて構成される。図2、3に示すように、固定子鉄心132は、その内周部に複数のスロット420を備える。固定子コイル60は、スロット420に巻回されており、コイルエンド61、62を備える。固定子コイル60からの発熱は、固定子鉄心132を介して液冷ジャケット130に伝わり、液冷ジャケット130内を流通する冷媒RFにより冷却される。
図4は、回転子11及び固定子鉄心132の軸方向に垂直な断面図である。なお、図4では、シャフト13を示すのを省略した。回転子鉄心12は、珪素鋼板の薄板が積層されて構成されている。シャフト13は、図1に示すように、回転子鉄心12の径方向の中心に固定されている。シャフト13は、液冷ジャケット130に取り付けられた軸受144、145に回転自在に保持されており、固定子20の内周側の所定の位置で、固定子20に対向した位置で回転する。また、回転子11は、永久磁石18と、エンドリング(図示を省略)を備える。
図2~4に示すように、固定子鉄心132は、軸方向に平行な複数のスロット420を備える。スロット420は、周方向に等間隔となるように、固定子鉄心132に形成されている。スロット420の数は、例えば本実施例では72個である。スロット420は、固定子コイル60を収容する。スロット420の、固定子コイル60を収容する部分をコイル装着部と呼ぶ。各スロット420の内周側は、開口している。スロット420の周方向の幅は、この開口部での幅が、コイル装着部での幅とほぼ等しいか、コイル装着部での幅よりも若干小さい。図2に示すように、スロット420の内部には、スロットライナー310と呼ばれる絶縁部材(例えば、絶縁紙)が、スロット420と固定子コイル60との間に設置されている。
図2~4に示すように、スロット420間には、ティース430が形成されている。それぞれのティース430は、環状のコアバック440と一体となっている。固定子鉄心132は、各ティース430とコアバック440とが一体成形された一体型コアである。ティース430は、固定子コイル60によって発生した回転磁界を回転子11に導き、回転子11に回転トルクを発生させる。
固定子鉄心132は、厚さ0.05~1.0mm程度の電磁鋼板を打ち抜き加工により円環形状に成形し、成形された円環形状の電磁鋼板を複数枚積層して溶接することで製作できる。図2、3に示すように、複数の電磁鋼板が溶接された部分である溶接部200は、TIG溶接やレーザー溶接などにより、円筒状の固定子鉄心132の外周部において、軸方向に平行に設けられている。なお、溶接部200を設けずに、複数の電磁鋼板をカシメなどで固定して、固定子鉄心132をケースに直接挿入して固定するようにしてもよい。
図4に示すように、回転子鉄心12は、等間隔に形成された磁石挿入孔810を備える。各磁石挿入孔810の内部には、矩形形状の永久磁石18が接着剤や粉体樹脂やモールドなどで固定されている。磁石挿入孔810の周方向の幅は、永久磁石18の周方向の幅よりも大きく、永久磁石18の周方向の両側には磁気的空隙156が設けられている。磁気的空隙156には、永久磁石18との間に接着剤が埋め込まれてもよいし、永久磁石18を固めて一体にした成形樹脂が設けられてもよい。永久磁石18は、回転子11の界磁極を形成する作用を持つ。本実施例では、1つの永久磁石18で1つの磁極を形成する構成を例示しているが、各磁極を構成する永久磁石18の数は複数でもよい。永久磁石18の数を増やすと、永久磁石18で形成される磁極の磁束密度が大きくなり、磁石トルクを増大させることができる。
永久磁石18の磁化方向は、径方向を向いており、界磁極毎に磁化方向の向きが反転している。すなわち、ある磁極を形成するための永久磁石18が、固定子20側の面(外周側の側面)がN極に磁化されており、回転軸側の面(内周側の側面)がS極に磁化されていたとすると、この永久磁石18による磁極の隣の磁極を形成する永久磁石18は、固定子20側の面がS極に磁化されており、回転軸側の面がN極に磁化されている。すなわち、これらの永久磁石18は、磁化方向が周方向に磁極毎に交互に変わるように磁化されて、配置されている。本実施例では、各永久磁石18は、等間隔に12個配置されており、回転子11は、12極の磁極を形成している。
永久磁石18には、ネオジム系やサマリウム系の焼結磁石、フェライト磁石、及びネオジム系のボンド磁石などを用いることができる。本実施例では、図4に示すように、磁極を形成する各永久磁石18間に補助磁極160が形成されている。この補助磁極160は、固定子コイル60が発生するq軸の磁束の磁気抵抗が小さくなるように作用する。この補助磁極160により、q軸の磁束の磁気抵抗がd軸の磁束の磁気抵抗に比べて非常に小さくなるため、大きなリラクタンストルクを発生させることができる。
図5は、固定子コイル60を示す斜視図である。図6は、固定子コイル60の接続状態を示す概念図である。本実施例では、固定子コイル60は、図6に示す2つのスター結線が並列接続された2スター構成の固定子コイルである。すなわち、固定子コイル60は、U1相コイル60U1、V1相コイル60V1、及びW1相コイル60W1のスター結線と、U2相コイル60U2、V2相コイル60V2、及びW2相コイル60W2のスター結線とを備える。これら2つのスター結線は、それぞれの中性点N1、N2を有する。U1相コイル60U1とU2相コイル60U2は、U相コイル60Uを構成する。V1相コイル60V1とV2相コイル60V2は、V相コイル60Vを構成する。W1相コイル60W1とW2相コイル60W2は、W相コイル60Wを構成する。
固定子コイル60を構成する巻線28は、長さ方向に垂直な断面が四角形状の平角線であってもよく、この断面が丸形状の丸線であってもよい。ただし、スロット420の内部の空間をできるだけ有効に利用し、スロット420内で巻線28が占める空間が多いと効率が向上する傾向にあるため、平角線の方が丸線よりも効率向上の点で望ましい。なお、平角線の断面の各辺の長さは、固定子鉄心132の径方向が長くてもよく、周方向が長くてもよい。
本実施例では、固定子コイル60の巻線28は、断面が長方形の平角線であり、長方形断面の長辺がスロット420内において周方向に沿い、短辺が径方向に沿う。
固定子コイル60の巻線28は、導体部であるセグメント導体と、巻線28の表面に設けられた絶縁被膜を備える。絶縁被膜は、セグメント導体の外周を覆う。セグメント導体には、例えば、無酸素銅や有酸素銅を用いることができる。例えば、セグメント導体に用いられる有酸素銅は、酸素含有率がおよそ10ppm以上から1000ppm程度である。絶縁被膜には、例えば、エナメルや樹脂を用いることができる。
図7Aと図7Bは、固定子コイル60を構成する巻線28を説明する図である。図7Aは、固定子鉄心132のスロット420に収容される前の巻線28の形状を示す図である。図7Bは、固定子鉄心132のスロット420に収容された後の巻線28の形状を示す図である。巻線28は、平角線で構成されており、直線部分である一対の脚部28Bと、これらを連結する頭頂部28Cとを有する略U字形状である。脚部28Bは、一端が頭頂部28Cにつながり、他端が巻線28の端部28Eである。
巻線28同士を接続して各相の固定子コイル60を形成するときは、図7Bに示すように、巻線28の一対の脚部28Bを、固定子鉄心132の軸方向の一方(図7Bでは上方)からそれぞれ異なるスロット420に挿入する。その後、固定子鉄心132の軸方向の他方(図7Bでは下方)にスロット420から突出した脚部28B1、28B2を、接続すべき巻線28の方向(周方向)に折り曲げる。そして、折り曲げた脚部28B1の端部28Eと、折り曲げた脚部28B2の端部28Eとを、互いに溶接する。巻線28の頭頂部28Cは、固定子鉄心132の軸方向の一方にスロット420から突出する。従って、固定子コイル60では、複数の端部28Eと複数の頭頂部28Cが固定子鉄心132から突出する。
図5に示すように、固定子鉄心132の軸方向の一方から突出する頭頂部28Cの集合は、固定子コイル60の軸方向の一方側のコイルエンド61を構成する。固定子鉄心132の軸方向の他方から突出する端部28Eの集合は、固定子コイル60の軸方向の他方側のコイルエンド62を構成する。以下では、コイルエンド61を反溶接側コイルエンド61とも呼び、コイルエンド62を溶接側コイルエンド62とも呼ぶ。
図6に示すように、U1相コイル60U1の一端には、口出し線41U1が接続され、U2相コイル60U2の一端には、口出し線41U2が接続されている。V相についても同様に、V1相コイル60V1の一端には、口出し線41V1が接続され、V2相コイル60V2の一端には、口出し線41V2が接続されている。W相についても同様に、W1相コイル60W1の一端には、口出し線41W1が接続され、W2相コイル60W2の一端には、口出し線41W2が接続されている。
図5に示すように、反溶接側コイルエンド61では、口出し線41U1と口出し線41U2とが引き出されている。口出し線41U1と口出し線41U2とは、交流端子42Uにより1つに纏められている。V相についても同様に、反溶接側コイルエンド61では、口出し線41V1と口出し線41V2とは、交流端子42Vにより1つに纏められている。W相についても同様に、反溶接側コイルエンド61では、口出し線41W1と口出し線41W2とは、交流端子42Wにより1つに纏められている。
また、図5に示すように、反溶接側コイルエンド61には、中性点結線用導体40N1と中性点結線用導体40N2が配置されている。中性点結線用導体40N1は、図6に示したU1相コイル60U1、V1相コイル60V1、及びW1相コイル60W1のスター結線における中性点N1で、これら3相のコイルを接続する。中性点結線用導体40N2は、図6に示したU2相コイル60U2、V2相コイル60V2、及びW2相コイル60W2のスター結線における中性点N2で、これら3相のコイルを接続する。
固定子鉄心132には、分布巻の方式で巻線28が巻かれている。分布巻とは、巻線28が、複数のスロット420(図3参照)に分布して収容されるように、固定子鉄心132に巻かれる方式である。本実施例では、巻線28が分布巻で巻かれているので、形成された磁束分布は、集中巻に比べて正弦波に近く、リラクタンストルクを発生しやすいという特徴がある。このため、本実施例による回転電機10は、弱め界磁制御やリラクタンストルクを活用する制御の制御性が向上し、低回転速度から高回転速度までの広い回転速度範囲に亘って利用が可能であり、電気自動車に適した優れたモータ特性を得ることができる。
図8は、図5に示した固定子コイル60の一相分であるU相コイル60Uの斜視図である。図6に示すように、U相コイル60Uは、並列接続された2つのスター結線であるU1相コイル60U1とU2相コイル60U2とで構成される。
図9は、U1相コイル60U1を示す斜視図である。U1相コイル60U1を構成する巻線28の一端は、交流端子42Uに接続され、他端は、中性点結線用導体40N1に接続されている(図6も参照)。
図10は、U2相コイル60U2を示す斜視図である。U2相コイル60U2を構成する巻線28の一端は、交流端子42Uに接続され、他端は、中性点結線用導体40N2に接続されている(図6も参照)。
図11は、固定子鉄心132のスロット420に収容された巻線28を示す図であり、スロット420の断面図である。図11に示す固定子鉄心132には、スロット420に、U1相コイル60U1を構成する巻線28と、U2相コイル60U2を構成する巻線28と、W1相コイル60W1を構成する巻線28と、W2相コイル60W2を構成する巻線28とが、径方向に並んで収容されている。
巻線28は、導体部であるセグメント導体28Gと、巻線28の表面に設けられてセグメント導体28Gの外周を覆う絶縁被膜28Hとを備える。巻線28は、スロット420の内部において、径方向の一方の絶縁被膜28Hの厚さと、他方の絶縁被膜28Hの厚さが互いに異なる。さらに、スロット420の内部において、異相のコイルと径方向で隣り合う巻線28は、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜28Hが、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分(巻線の中心を挟んだ径方向の反対部分)の絶縁被膜28Hよりも厚い。
図11に示した構成では、スロット420の内部において、U2相コイル60U2を構成する巻線28(28a)は、W1相コイル60W1と径方向で隣り合い、W1相コイル60W1と隣り合う部分の絶縁被膜28H(28HT)が、巻線28aのW1相コイル60W1と隣り合う部分の反対部分の絶縁被膜28H(28Ht)よりも厚い。また、スロット420の内部において、W1相コイル60W1を構成する巻線28(28b)は、U2相コイル60U2と径方向で隣り合い、U2相コイル60U2と隣り合う部分の絶縁被膜28H(28HT)が、巻線28bのU2相コイル60U2と隣り合う部分の反対部分の絶縁被膜28H(28Ht)よりも厚い。また、スロット420の内部において、巻線28は、同相のコイルと隣り合う部分のうち、径方向の一方での絶縁被膜28Hが、径方向の他方での絶縁被膜28Hよりも薄い。
固定子鉄心132のスロット420の内部では、異相のコイルの巻線28と隣り合う巻線28(28a、28b)は、絶縁被膜28Hが厚い部分28HT同士が隣り合い、異相のコイル間での絶縁性が向上する。このため、異相のコイル間に絶縁部材(例えば、絶縁紙)を配置する必要がない。
巻線28は、スロット420の内部だけでなく、長さ方向の全てにおいて、長さ方向に垂直な断面での一部の絶縁被膜が、この部分の反対部分の絶縁被膜よりも厚いのが好ましい。このような巻線28を用いると、スロット420の内部で、巻線28の径方向の一方の絶縁被膜28Hの厚さと他方の絶縁被膜28Hの厚さが異なり、異相のコイルと径方向で隣り合う巻線28の、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜28H(28HT)が、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分の絶縁被膜28H(28Ht)よりも厚くなるように、巻線28を固定子鉄心132に巻きつけるのが容易である。このような巻線28は容易に製造できるので、このような巻線28を固定子鉄心132に巻きつけることで、固定子20を容易に製造することができる。
さらに、巻線28は、絶縁被膜28Hが厚い部分28HTを備えるので、ツイスト成形により成形されるときに、頭頂部28Cの絶縁被膜28Hに亀裂が発生し、巻線28の絶縁性が低下するのを防止することができる。
図7Cは、ツイスト成形されて固定子鉄心132のスロット420に収容された巻線28を示す図である。図7Cでは、巻線28の絶縁被膜28Hが厚い部分28HTにハッチングをつけている。
巻線28のスロット420から突出する頭頂部28Cは、巻線28がスロット420に収容されると、ねじられて(すなわち、ツイスト成形により)成形される。スロット420に収容された巻線28は、頭頂部28Cを頂部とする略U字形状であり、ツイスト成形時に略U字形状の外周部分が伸びる。このため、巻線28の頭頂部28Cは、ツイスト成形時にねじられて、外周部分の絶縁被膜28Hが伸びて亀裂が発生する可能性がある。
図11に示した構成では、巻線28が頭頂部28Cでも絶縁被膜28Hの厚い部分28HTを備えるので、ツイスト成形時に伸びる部分に絶縁被膜28Hの厚い部分28HTが位置すると、ツイスト成形時に巻線28がねじられても、頭頂部28Cで絶縁被膜28Hに亀裂が発生するのを防止できる。これにより、反溶接側コイルエンド61において、固定子コイル60同士の絶縁性を向上することができる。
なお、スロット420と固定子コイル60との間に設置されたスロットライナー310は、角筒形状に成形したものを用いることができる。スロットライナー310は、このような簡易な形状でも、スロット420内の固定子コイル60を囲って、固定子鉄心132と固定子コイル60とを絶縁することができる。
図12は、固定子鉄心132のスロット420に収容された別の巻線28を示す図であり、スロット420の断面図である。図12において、図11と同様の構成については説明を省略する。
巻線28は、平角線であり、巻線28を構成する4つの面のうち、互いに隣接する2つの面での絶縁被膜28Hが、これら2つの面が向かい合う2つの面(これら2つの面の、巻線28の中心を挟んで反対側の2つの面)での絶縁被膜28Hよりも厚い。
図12に示した巻線28は、スロット420の内部において、径方向の一方の絶縁被膜28Hの厚さと、他方の絶縁被膜28Hの厚さが異なるとともに、周方向の一方の絶縁被膜28Hの厚さと、他方の絶縁被膜28Hの厚さが異なる。すなわち、巻線28は、スロット420の内部において、周方向と径方向とで一方の絶縁被膜28H(28HT)が厚く、他方の絶縁被膜28H(28Ht)が薄い。スロット420で径方向に隣り合う2つの巻線28において、一方の巻線28での周方向で絶縁被膜28Hが厚い部分28HTと、他方の巻線28での周方向で絶縁被膜28Hが薄い部分28Htは、径方向で隣り合う。すなわち、スロット420に径方向に並んだ巻線28において、絶縁被膜28Hの周方向の厚さが厚い部分28H)と薄い部分28Htは、径方向に交互に並ぶ。
さらに、スロット420の内部において、異相のコイルと径方向で隣り合う巻線28は、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜28H(28HT)が、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分(巻線の中心を挟んだ反対部分)の絶縁被膜28H(28Ht)よりも厚い。このため、スロット420の内部では、異相のコイルの巻線28と隣り合う巻線28(28a、28b)は、絶縁被膜28Hが厚い部分28HT同士が隣り合い、異相のコイル間での絶縁性が向上する。このため、異相のコイル間に、絶縁部材(例えば、絶縁紙)を配置する必要がない。
図7Bを用いて説明したように、スロット420から突出した巻線28の脚部28B1、28B2は、接続すべき巻線28の方向(周方向)に折り曲げられ、折り曲げられた脚部28B1の端部28Eと、折り曲げられた脚部28B2の端部28Eとが互いに溶接される。脚部28B1、28B2は、折り曲げられると、外周部分の絶縁被膜28Hが伸びて亀裂が発生する可能性がある。
図12に示した構成では、巻線28が脚部28B1、28B2でも絶縁被膜28Hの厚い部分28HTを備えるので、脚部28B1、28B2が折り曲げられるときに伸びる部分に絶縁被膜28Hの厚い部分28HTが位置すると、脚部28B1、28B2が周方向に折り曲げられても、脚部28B1、28B2で絶縁被膜28Hに亀裂が発生するのを防止できる。これにより、溶接側コイルエンド62において、固定子コイル60同士の絶縁性を向上することができる。
さらに、図12に示した構成では、図11に示した構成と同様に、巻線28は、頭頂部28Cでも絶縁被膜28Hが厚い部分28HTを備えるので、ツイスト成形により成形されるときに、頭頂部28Cの絶縁被膜28Hに亀裂が発生し、絶縁性が低下するのを防止することができる。これにより、反溶接側コイルエンド61において、固定子コイル60同士の絶縁性を向上することができる。
巻線28は、スロット420の内部だけでなく、長さ方向の全てにおいて、図12に示すように、長さ方向に垂直な断面での一部の絶縁被膜が、この部分の反対部分の絶縁被膜よりも厚いのが好ましい。巻線28が平角線であれば、巻線28は、長さ方向の全てにおいて、巻線28を構成する4つの面のうち、互いに隣接する2つの面での絶縁被膜が、これら2つの面が向かい合う2つの面(これら2つの面の、巻線の中心を挟んで反対側の2つの面)での絶縁被膜よりも厚いのが好ましい。
なお、図12に示した構成でも、スロット420と固定子コイル60との間に設置されたスロットライナー310は、角筒形状に成形したものを用いることができる。スロットライナー310は、このような簡易な形状でも、スロット420内の固定子コイル60を囲って、固定子鉄心132と固定子コイル60とを絶縁することができる。
本発明の実施例3による固定子20と回転電機10を説明する。以下では、本実施例について、実施例1と異なる構成についてのみ説明する。本実施例では、固定子鉄心132には、集中巻の方式で巻線28が巻かれている。
図14は、集中巻の固定子33の斜視図である。集中巻の固定子33は、分割された固定子鉄心132と、固定子コイル60と、固定子鉄心132に設けられたボビン78を備える。ボビン78は、固定子鉄心132と固定子コイル60とを絶縁するための部材であり、例えば樹脂で構成される。固定子コイル60を構成する巻線28には、平角線や丸線などを用いることができる。
図15は、集中巻の固定子33の断面図である。図15には、互いに隣り合う2つの固定子鉄心132a、132bと、固定子鉄心132aに巻回されたU相コイル60Uと、固定子鉄心132bに巻回されたW相コイル60Wとを示している。固定子コイル60(60U、60W)を構成する巻線28は、径方向と周方向に並んでスロット420に収容される。固定子鉄心132と固定子コイル60の間には、ボビン78が配置される。巻線28は、平角線であるとする。
巻線28は、導体部であるセグメント導体28Gと、巻線28の表面に設けられてセグメント導体28Gの外周を覆う絶縁被膜28Hとを備える。巻線28は、スロット420の内部において、周方向の一方の絶縁被膜28Hの厚さと、他方の絶縁被膜28Hの厚さが異なる。さらに、スロット420の内部において、異相のコイルと周方向で隣り合う巻線28は、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜28Hが、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分の絶縁被膜28Hよりも厚い。
図15に示した構成では、スロット420の内部において、U相コイル60Uを構成する巻線28(28a)は、周方向でW相コイル60Wに隣り合う部分での絶縁被膜28H(28HT)が、この部分と巻線の中心を挟んで反対側の部分での絶縁被膜28H(28Ht)よりも厚い。また、スロット420の内部において、W相コイル60Wを構成する巻線28(28b)は、周方向でU相コイル60Uに隣り合う部分での絶縁被膜28H(28HT)が、この部分と巻線の中心を挟んで反対側の部分での絶縁被膜28H(28Ht)よりも厚い。すなわち、スロット420の内部において、異相のコイルと対向する巻線28(28a、28b)は、絶縁被膜28Hの厚い部分28HTを、異相のコイルと対向する部分に持つ。
固定子鉄心132のスロット420の内部では、異相のコイルの巻線28と隣り合う巻線28(28a、28b)は、絶縁被膜28Hが厚い部分28HT同士が隣り合い、異相のコイル間での絶縁性が向上する。このため、異相のコイル間に、絶縁部材(例えば、絶縁紙)を配置する必要がない。
図16は、図15と同様に、集中巻の固定子33の断面図である。図16に示す固定子33は、図15に示した固定子33と同様の構成を備えるが、巻線28が丸線であることが図15に示した固定子33と異なる。
図16に示す固定子33でも、図15に示した固定子33と同様に、巻線28は、スロット420の内部において、周方向の一方の絶縁被膜28Hの厚さと、他方の絶縁被膜28Hの厚さが異なる。さらに、スロット420の内部において、異相のコイルと周方向で隣り合う巻線28は、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜28Hが、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分の絶縁被膜28Hよりも厚い。すなわち、スロット420の内部において、異相のコイルと対向する巻線28(28a、28b)は、絶縁被膜28Hの厚い部分28HTを、異相のコイルと対向する部分に持つ。このため、図16に示す固定子33でも、異相のコイル間での絶縁性が向上する。
以上説明したように、本発明の実施例による固定子は、巻線28は、スロット420の内部において、長さ方向に垂直な断面での一部の絶縁被膜28Hが、この一部の部分の反対(巻線28の中心を挟んで反対側の部分)の絶縁被膜28Hよりも厚い。さらに、スロット420の内部において、異相のコイルと隣り合う巻線28は、異相のコイルと隣り合う部分の絶縁被膜28Hが、異相のコイルと隣り合う部分の反対部分(巻線28の中心を挟んで反対側の部分)の絶縁被膜28Hよりも厚い。巻線28は、巻線28の長さ方向の全てにおいて、長さ方向に垂直な断面での一部の絶縁被膜28Hが、この一部の部分の反対部分の絶縁被膜28Hよりも厚いのがより好ましい。
本発明の実施例による固定子では、スロット420の内部において、異相間のコイルの絶縁性を向上でき、コイルエンド61、62において、巻線28のねじりや折り曲げによって絶縁被膜28Hに亀裂が発生するのを防止できる。異相間のコイルの絶縁性が向上するので、異相のコイル間に絶縁部材(例えば、絶縁紙)を配置する必要がない。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。