以下、本発明の実施の形態1について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は電動ウィンチが搭載された車両を示す概要図を、図2は図1の車両を上方から見た電動ウィンチの説明図を、図3(a)は車両に設置された操作パネルを示す平面図,(b)は車室外から操作可能なリモコンを示す平面図を、図4は電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図を、図5は電動モータ部の内部構造(減速機構)を示す平面図を、図6は電動ウィンチの内部構造(ドラム周辺)を示す斜視図を、図7は電動ウィンチを構成する部材の接続関係を示す模式図を、図8はコントローラの周辺(電気系統)を示すブロック図を、図9はベルトの送り出し時の制御内容を示すフローチャートを、図10は弛み取りモータの停止タイミングを説明する説明図をそれぞれ示している。
図1および図2に示される車両10は、軽自動車(小型車)をベースとした福祉車両である。車両10の車室内でかつ後方側(図中右側)には、車椅子(牽引物)20を搭載する搭載スペース11が設けられている。搭載スペース11の車両前方側(図中左側)には、車両10の車幅方向(図2における上下方向)に所定間隔で配置された一対の電動ウィンチ30が設けられている。これらの電動ウィンチ30は、車両10の運転席DRおよび助手席ASの下部にそれぞれ設置されている。なお、図1においては、運転席DR側のみを図示している。
一対の電動ウィンチ30は、それぞれ先端側にフック31が設けられたベルト32を備え、ベルト32は車椅子20を牽引するようになっている。ここで、フック31は、容易に変形しないよう十分な剛性を備えた鋼製となっている。そして、一対の電動ウィンチ30からベルト32をそれぞれ引き出して、それぞれのフック31を車椅子20の左右側にある一対の前フレーム21に引っ掛ける。その後、この状態で一対の電動ウィンチ30を同期動作させて一対のベルト32を引き込むことで、車椅子20は搭載スペース11に向けて移動される。
搭載スペース11の車両後方側には、地面Jと車両10の床面Fとを緩やかな傾斜角度で接続するスロープ12が設けられ、このスロープ12は、合計3枚のアルミ板をスライド自在に組み合わせて形成されている。そして、車両10の走行時には、スロープ12はコンパクトに畳まれて、搭載スペース11の車両後方側で、かつ閉じられたテールゲート13の内側等に立て掛けられる。
そして、一対の電動ウィンチ30を同期動作させて一対のベルト32を引き込むことで、車椅子20は、図2に示される状態からスロープ12上を移動していき、やがて図1に示されるように床面F上に到達して、搭載スペース11内の固定位置に搬入される。ここで、固定位置とは、車椅子20が図1に示される状態となる位置、つまり車椅子20が車両10に対してがたつかないように固定され、車両10が走行可能な状態となる位置のことを言う。
なお、車椅子20を車両10の搭載スペース11に搬入する際には、まず、後部座席(セカンドシート)RSを前方に倒した状態にする。これにより、軽自動車である車両10の後方に、比較的大きな搭載スペース11が出現する。そして、運転席DRおよび助手席ASと、前方に倒された後部座席RSとの間には、床面Fに向けて凹んだ窪み部Gが形成され、当該窪み部Gから一対のベルト32が引き出されるようになっている。
また、一対の電動ウィンチ30を同期動作させて一対のベルト32を送り出すことで、搭載スペース11内に搭載された車椅子20がスロープ12上を移動していき、やがて床面Fから地面Jに搬出される。このようにスロープ12を設けることで、車椅子20を地面Jと床面Fとの間で容易に移動させることが可能となる。なお、一対の電動ウィンチ30は介助者(操作者)によって操作され、一対の電動ウィンチ30の操作中は、介助者は車椅子20の後方から当該車椅子20を支持(サポート)するようにする。
一対の電動ウィンチ30を制御する制御装置40は、図2に示されるように構成されている。つまり、制御装置40は、一対の電動ウィンチ30,コントローラ50,操作パネル60,リモコン(操作部材)70およびテールゲートスイッチTGから構成されている。一対の電動ウィンチ30とコントローラ50との間,操作パネル60とコントローラ50との間およびテールゲートスイッチTGとコントローラ50との間には、それぞれ配線14が電気的に接続して設けられている。なお、リモコン70はワイヤレス式で無線によりコントローラ50と通信自在であり、リモコン70を車室外に持ち出すことで、一対の電動ウィンチ30を車室外から操作することができる。
また、図2に示されるように、車両10の床面Fにはフック15を備えた一対の固定ベルト16が設けられている。これらの固定ベルト16のフック15は、搭載スペース11にある車椅子20の左右側の一対の後フレーム22にそれぞれ引っ掛けられる。これにより、搭載スペース11に搭載された車椅子20は、ベルト32のフック31および固定ベルト16のフック15の合計4箇所で支持される。よって、車両10の固定位置において、車椅子20は移動したりがたついたりすることがない。
なお、図1に示されるように、車椅子20が搭載スペース11内の固定位置に固定された状態では、車椅子20の左右側でかつ前方側に設けられた一対のキャスター(小車輪)23は、前方に倒された後部座席RSの上に配置されている。言い換えれば、軽自動車(小型車)である車両10の内部空間を有効に利用して、比較的大きな搭載スペース11を形成している。
操作パネル60は、図3(a)に示されるように、パネル本体61を備えている。パネル本体61は車両10の後方側に配置され、操作パネル60は車室外から容易に操作可能となっている。パネル本体61には、主電源スイッチ62,ベルトフリースイッチ63,速度切替スイッチ64およびブザー65が設けられている。
主電源スイッチ62は、制御装置40のシステム電源を入れるときに操作するスイッチである。そして、主電源スイッチ62をオン操作することでシステム電源が入り、インジケータ62aが点灯するようになっている。
ベルトフリースイッチ63は、一対の電動ウィンチ30をアンロック状態とするときに操作するスイッチである。そして、ベルトフリースイッチ63をオン操作することで、一対のベルト32をそれぞれ手動で自由に引き出したり収納したり(出し入れ)することができる。つまり、ベルトフリースイッチ63をオン操作し、一対のベルト32を引き出して、車室外にある車椅子20に一対のフック31を引っ掛けたり、一対の電動ウィンチ30からそれぞれ引き出された一対のベルト32の長さを揃えたりできる。ここで、ベルトフリースイッチ63をオン操作すると、インジケータ63aが点灯するようになっている。
速度切替スイッチ64は、車椅子20を搭載スペース11に搭載する際に、一対のベルト32の移動速度、つまり引き込み速度を、低速(LOW)または高速(HIGH)に切り替えるときに操作するスイッチである。
また、ブザー65は、一対のベルト32の引き込み作動時や送り出し作動時(正常作動時)、さらには一対の電動ウィンチ30の動作不良時(故障発生時)等において、電子音等の警告音を吹鳴するようになっている。つまり、ブザー65は、車椅子20の後退等を周囲に知らせるようになっている。ここで、警告音としては電子音に限らず、音声によるアナウンスであっても良い。
リモコン70は、ワイヤレスリモートコントロールユニットで、操作パネル60の主電源スイッチ62が操作され、制御装置40のシステム電源が入っているときに使用可能となる。リモコン70は、図3(b)に示されるように、リモコン本体71を備えている。リモコン本体71には、リモコン電源スイッチ72,入スイッチ73および出スイッチ74が設けられている。リモコン70は、さらにインジケータ75を備えており、当該インジケータ75は、リモコン70の操作時等に点灯するようになっている。
なお、リモコン70の操作は、介助者が行うようにする。そして、介助者によりリモコン電源スイッチ72をオン操作し、その後、入スイッチ73または出スイッチ74を押すことで、コントローラ50に操作信号が送出される。これによりコントローラ50は、一対の電動ウィンチ30を同期して作動させる。具体的には、入スイッチ73を押している間は、一対の電動ウィンチ30が継続して作動して、車椅子20の搭載スペース11への搬入が補助される。一方、出スイッチ74を押している間は、一対の電動ウィンチ30が逆回転して、車椅子20の搭載スペース11からの搬出が補助される。
ただし、リモコン70の操作中は、介助者は車椅子20のグリップGR(図1参照)を把持して、車椅子20を支持するとともに、その移動を誘導するようにする。このように、制御装置40は、一対の電動ウィンチ30を制御することで、介助者による車椅子20の移動を補助するようになっている。
図4および図7に示されるように、電動ウィンチ30は、電動モータ部80とドラム部90とを備えている。これらの電動モータ部80およびドラム部90は、図示しない複数の締結ネジにより一体化(ユニット化)されている。
電動モータ部(メインモータ)80は、モータ部81とギヤ部82とを備えている。モータ部81の内部には、図5に示されるように、複数のマグネット81aが設けられ、これらのマグネット81aの内側には、コイル81bが巻装されたアーマチュア81cが回転自在に設けられている。アーマチュア81cの回転中心にはアーマチュア軸81dが固定されている。アーマチュア軸81dの長手方向中間部分には、一対のブラシ81eが摺接される整流子81fが設けられ、一対のブラシ81eから整流子81fを介してコイル81bに駆動電流を供給することで、アーマチュア軸81dは回転する。
アーマチュア軸81dの先端側(図中左側)には、ウォーム81gが一体に設けられ、このウォーム81gはギヤ部82の内部にまで延ばされている。ギヤ部82の内部には、ウォーム81gと噛み合うウォームホイール82aが回転自在に設けられ、これらのウォーム81gおよびウォームホイール82aによって減速機構SDを構成している。そして、減速機構SDは、アーマチュア軸81dの回転R1を減速して高トルク化し、高トルク化された回転R2を、ウォームホイール82aを介して出力軸83から外部に出力するようになっている。
ここで、出力軸83はドラム部90に向けて突出され、ドラム部90を形成するドラム92(図6参照)を回転させる。つまり、モータ部81の駆動力は、ベルト32を開口部91a(図4参照)から出し入れするようになっている。
このように、減速機構SDを、ウォーム81gおよびウォームホイール82aからなるウォーム減速機とすることで、出力軸83からの回転力をアーマチュア軸81dに伝達し難くしている。すなわち、ウォーム81gおよびウォームホイール82aよりなる減速機構SDは、ドラム部90から伝わる出力軸83の回転を止める制動力を発生するようになっている。
図7に示されるように、ギヤ部82(ウォームホイール82a)と出力軸83との間、つまりモータ部動力伝達経路におけるドラム92とモータ部81との間には、電磁クラッチ84が設けられている。電磁クラッチ84は、コントローラ50(図2参照)により制御され、ドラム92およびモータ部81を締結状態または開放状態とする。具体的には、電磁クラッチ84を締結状態とすることで、ドラム92とモータ部81とが動力伝達可能に接続され、電磁クラッチ84を開放状態とすることで、ドラム92とモータ部81とが切り離される。
ここで、電磁クラッチ84は、ウォームホイール82aと一体回転する第1プレート(図示せず)と、出力軸83と一体回転する第2プレート(図示せず)と、ステータコイル(図示せず)とを備えている。そして、ステータコイルに駆動電流を供給することでステータコイルが電磁力を発生し、これにより各プレートは吸引されて締結される(締結状態)。これに対し、ステータコイルへの駆動電流の供給を停止することで、各プレートは切り離される(開放状態)。
ドラム部90は、図4に示されるようにケーシング91を備えている。ケーシング91は略箱形状に形成され、その内部には、図6に示されるドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ケーシング91の外部には、ドラム92に巻き掛けられるベルト32の弛みを取り除く弛み取りモータ(サブモータ)95,ドラム92の回転を検出する回転センサ96,電動モータ部80や弛み取りモータ95等に駆動電流を供給するための外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部97等が設けられている。
ケーシング91の側部には、開口部91aが形成されており、当該開口部91aからは、ベルト32が出入り自在となっている。ベルト32は、ケーシング91の開口部91aの近傍に設けられた案内部材98によって出入りが案内され、これによりベルト32が捻れるのを防止している。また、案内部材98はフック31の通過を許さず、これによりベルト32の全てがケーシング91内に引き込まれてしまうのを防止している。
ここで、図4の符号STは、電動ウィンチ30を車両10の床面F(図2参照)に固定するための一対の取付ステーであり、これらの取付ステーSTは、図示しない複数の締結ボルトによって床面Fに強固に固定されている。これにより電動ウィンチ30は、車両10に対してがたつくことなく強固に固定される。
また、ケーシング91の内部には、ドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されるが、弛み取りモータ95,案内部材98およびフック31については、ケーシング91の外部に配置されている。
ドラム92にはベルト32が巻き掛けられ、当該ドラム92の回転中心には、ドラム軸92aが一体回転可能に取り付けられている。ドラム軸92aには、電動モータ部80の出力軸83(図5参照)の回転が伝達されるようになっており、ドラム軸92aおよびドラム92は、電動モータ部80の正逆方向への回転駆動に伴って正逆方向に回転駆動される。これにより、ベルト32をケーシング91内に引き込んだり、ケーシング91外に送り出したりすることができる。
ドラム92とドラム軸92aとの間には、図7に示されるように、ワンウェイクラッチ92bが設けられている。ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aがベルト32の引き込み方向(図6において反時計回り方向)に向かって回転する際、そのままこの回転をドラム92に伝達するよう構成されている。これに対し、ドラム軸92aよりも先にドラム92がベルト32の引き込み方向に向かって回転すると、ドラム92の回転はドラム軸92aに伝達されず、ドラム92は空回り可能となっている。
ラチェット機構93は、ドラム92に一体回転可能に設けられたラッチギヤ93aと、ラッチギヤ93aと係合し、ドラム92のベルト32の引き込み方向への回転を許容し、ベルト32の送り出し方向への回転(図6において時計回り方向)を規制する揺動自在な歯止め93bと、歯止め93bを揺動駆動するソレノイド駆動部材93cとを備えている。
ソレノイド駆動部材93cは駆動ピン93dを備えており、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給することで、駆動ピン93dはピンの軸方向に移動して引っ込むようになっている。これにより、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解かれてアンロック状態となり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向の双方にドラム92が回転自在となる。このように、ドラム92を双方向に回転自在とすることで、車椅子20を搭載スペース11から降ろせるようになる。
これに対し、コントローラ50の制御によりソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止することで、図示しない復帰ばねのばね力により駆動ピン93dは突出するようになっている。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合してロック状態となり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20の後退が防止される。
弛み取り機構94は、ドラム92に一体回転可能に設けられたスパーギヤ94aと、スパーギヤ94aと噛み合う小径ギヤ94bと、弛み取りモータ95により回転駆動される減速ギヤ機構94cとを備えている。弛み取りモータ95は、コントローラ50により電動モータ部80とは別に制御され、ドラム92がベルト32を巻き取る方向の回転力を発生する。弛み取りモータ95の回転力は、減速ギヤ機構94c,小径ギヤ94b,トルクリミッタ94dおよびスパーギヤ94aを介してドラム92に伝達される。
ここで、小径ギヤ94bと減速ギヤ機構94cとの間には、図7に示されるように、トルクリミッタ94dが設けられ、当該トルクリミッタ94dは、一定以上のトルクの伝達をカットするようになっている。これにより、弛み取りモータ95に過負荷が掛かるのを防止し、弛み取りモータ95が保護される。つまり、弛み取りモータ95には、ベルト32の弛みを取ることができる程度のトルク(低トルク)を発生し得る小型モータを採用することができる。
図8に示されるように、コントローラ50には、一対の電動ウィンチ30(図示では一方のみ示す)の他に、イグニッションスイッチIG,車速センサVS,シフトポジションセンサSP,テールゲートスイッチTG,操作パネル60およびブザー65が、配線14(図2参照)等を介して電気的に接続されている。また、コントローラ50には、リモコン70からの種々の操作信号を無線により受信可能となっている。
コントローラ50は、種々の入力信号に基づいて、電動ウィンチ30を統括的に制御、つまり車椅子20を牽引するベルト32の出し入れを制御する駆動制御部51を備えている。駆動制御部51は、電動ウィンチ30の駆動系部品であるモータ部81,電磁クラッチ84,ソレノイド駆動部材93cおよび弛み取りモータ95を、それぞれ制御するようになっている。
また、コントローラ50には、回転センサ96からドラム92の回転状態を示す回転信号rが入力されるとともに、モータ部81を流れる電流信号Aが入力されるようになっている。これにより、駆動制御部51は、回転信号rおよび電流信号Aに基づいて電動ウィンチ30の駆動状態を把握し、モータ部81の回転等を制御するようになっている。
ここで、コントローラ50は、イグニッションスイッチIGからのON信号およびOFF信号の入力に関わらず、コントローラ50が車両10に搭載されたバッテリー(図示せず)に接続されている限り常にスタンバイ状態となっている。そして、駆動制御部51は、シフトポジションセンサSPからの信号がパーキング信号(P信号)以外である場合に、車両10が停車状態にないと判断して、電動ウィンチ30の動作を禁止する。
このように、駆動制御部51は、車両10が確実に停車されていることをトリガとして、電動ウィンチ30の動作を許可するようになっている。よって、制御装置40(図2参照)は、信頼性および安全性の高いものとなっている。
コントローラ50には、駆動制御部51に加えて、ベルト位置算出部(ベルト引き出し量検出部)52が設けられている。ベルト位置算出部52は、ベルト32のドラム92(図6参照)からの引き出し量を検出するとともに、検出されたベルト32の引き出し量に基づいて、車椅子20が車両10(図1および図2参照)に対してどの位置にいるのか把握するようになっている。
そして、このベルト32の引き出し量の情報(車椅子20の位置情報)は、駆動制御部51に出力される。これにより、駆動制御部51は、入力された車椅子20の位置情報に基づいて、電動ウィンチ30を緻密に駆動制御可能となっている。
ここで、電動ウィンチ30の緻密な駆動制御としては、例えば、下記(1)~(5)に示すような駆動制御が挙げられる。
(1)車椅子20が搭載スペース11に搬入される直前において、電動ウィンチ30のモータ部81の回転速度を遅くなるよう制御する。これにより要介護者に不安感を与えないようにできる。このとき、「間もなく車両への搭載が終了します。」等のアナウンスを、ブザー65を介して行っても良い。
(2)車椅子20の搬入時で、かつスロープ12上に乗り上げられる直前において、電動ウィンチ30のモータ部81の回転速度を遅くなるよう制御し、これにより要介護者に不安感を与えないようにできる。このとき、「スロープ上に移動します。グリップを掴んで下さい。」等のアナウンスを、ブザー65を介して行っても良い。
(3)一対の電動ウィンチ30からのベルトの引き出し量をそれぞれ同じ長さに揃えて、例えば、車椅子20の進行方向がスロープ12上で曲がってしまうような不具合をなくすことができる。このとき、「ベルトの引き出し量を調整しています。車椅子を繋げないで下さい。」等のアナウンスを、ブザー65を介して行っても良い。
(4)車椅子20の搬入時であって、かつ車椅子20がスロープ12上にあるとき、すなわち、電動ウィンチ30に対する負荷が大きいときに、モータ部81への通電電流を大きくして、モータ部81の出力を高める制御を行うことができる。これにより、車椅子20を搭載スペース11に迅速に搬入可能となる。
(5)車椅子20の車室外への搬出時であって、かつ車椅子20がスロープ12上にあるとき、すなわち、電動ウィンチ30に対する負荷が大きいときに、モータ部81への通電電流を小さくして、モータ部81にブレーキを掛ける制御を行うことができる。これにより、車椅子20のスロープ12上での急加速を抑えて、要介護者に不安感を与えることがない。
上述のような種々の緻密な駆動制御を行うには、車椅子20の位置情報を正確に検出(把握)することが重要となる。そこで、本実施の形態では、ベルト位置算出部52に、ベルト負荷検出部53およびベルト位置記憶部54を設け、上述のような種々の緻密な駆動制御を行えるようにしている。
図8に示されるように、ベルト負荷検出部53には、所定の大きさの電流閾値TH1が予め格納されている。そして、ベルト負荷検出部53にはモータ部81を流れる電流信号Aが入力され、ベルト負荷検出部53は、入力された電流信号Aと電流閾値TH1とを比較する比較処理を行う。
電流信号Aと電流閾値TH1との比較結果が「電流信号A>電流閾値TH1」である場合、つまりベルト32に掛かる負荷が大きく、モータ部81への負荷が大きい場合には、ベルト負荷検出部53は、車椅子20が搭載スペース11に搬入された状態にあると判定する。そして、このときの状態信号、つまり車椅子20が搭載スペース11に搬入済であることを示す「搬入済信号」を、駆動制御部51に出力する。
これにより、駆動制御部51は、電動ウィンチ30の駆動制御を停止して、モータ部81に負荷が掛かり続けるのを防止する。
これに対し、電流信号Aと電流閾値TH1との比較結果が「電流信号A≦電流閾値TH1」である場合、つまりベルト32に掛かる負荷が通常の大きさであって、モータ部81への負荷が通常の大きさである場合には、ベルト負荷検出部53は、車椅子20は牽引中であると判断する。そして、このときの状態信号、つまり車椅子20が牽引中であることを示す「牽引中信号」を、駆動制御部51に出力する。
これにより、駆動制御部51は、電動ウィンチ30の駆動制御を継続して行う。
また、ベルト位置算出部52には、テールゲートスイッチTGからの開閉信号(開信号または閉信号)が入力される。ここで、テールゲートスイッチTGは、テールゲート13(図1参照)の開閉状態を検出するようになっている。
そして、ベルト位置算出部52は、ベルト負荷検出部53が、「搬入済信号」を出力していることと、テールゲートスイッチTGが、テールゲート13が閉じたことを示す信号、つまり「閉信号」を出力していることとに基づいて、このときのベルト32の引き出し量の情報(車椅子20の位置情報)を、ベルト位置記憶部54に記憶させる。
ベルト32の引き出し量の情報(車椅子20の位置情報)は、ベルト32が巻き掛けられたドラム92の回転を検出する回転センサ96からのパルス信号(回転信号r)の「オン」のカウント数に比例する。また、ベルト位置算出部52は、ベルト位置記憶部54に記憶された「オン」のカウント数を基準カウント数n1とし、この基準カウント数n1を、車椅子20の基準位置、つまり図1に示された状態の固定位置に設定する。
なお、回転センサ96はホール素子よりなり、回転センサ96と対向するドラム92の部分には、当該ドラム92の回転に伴い回転するリングマグネット(図示せず)が設けられている。これにより、回転センサ96は、リングマグネットの相対回転に伴い「オン」または「オフ」を示す矩形波信号(パルス信号)を発生する。
また、ベルト位置記憶部54は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)を採用している。すなわち、ベルト位置記憶部54は、イグニッションスイッチIGの操作に関わらず、制御装置40(図2参照)のシステム電源をオフにしても、その記憶データを記憶保持することが可能となっている。
さらに、コントローラ50には、しきい値格納部55が設けられ、当該しきい値格納部55には、ベルト32の引き出し量(カウント数Pct)と比較される比較しきい値TH2が格納(記憶)されている。ここで、しきい値格納部55においても、例えばEEPROMを採用しており、よって、比較しきい値TH2においても、イグニッションスイッチIGの操作に関わらず、制御装置40のシステム電源をオフにしても消失することがない。
具体的には、比較しきい値TH2の大きさは、図10に示されるように、車椅子20に設けられた一対の車輪24が、スロープ12から降ろされて地面Jに到達している状態、すなわち、[搬出(降車)完了状態]または[搬入(乗車)準備完了状態]を示すベルト32の引き出し量に設定されている。つまり、図10の実線で示される車椅子20の状態では、当該車椅子20は急激に移動することは無く、車椅子20からベルト32(フック31)を取り外せる状態となっている。なお、車椅子20の搬入/搬出作業は、車両10を水平な地面J上に停車させた状態で行うようにする。
したがって、コントローラ50により、カウント数Pctが、基準カウント数n1よりも大きく比較しきい値TH2よりも小さいと判断された場合(n1<Pct<TH2)、つまり、カウント数Pctがカウント小領域AR1にある場合には、車椅子20は[搬入/搬出途中(牽引中)]であると判断することができる。
これに対し、コントローラ50により、カウント数Pctが比較しきい値TH2以上であると判断された場合(Pct≧TH2)、すなわちカウント数Pctがカウント大領域AR2にある場合には、車椅子20は確実に車室外に出ていると判断することができる。
言い換えれば、比較しきい値TH2は、車椅子20が[搬入/搬出途中(牽引中)]であるのか、[搬出(降車)完了状態]または[搬入(乗車)準備完了状態]であるのか、を判断するのに用いられるしきい値となっている。
次に、以上のように形成された制御装置40の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
なお、図9に示されるフローチャートは、特に、車椅子20を搭載スペース11から車室外に搬出(降車)させる場合におけるコントローラ50の具体的な動作内容を示している。
図9に示されるように、まず、ステップS10において、介助者がリモコン70の出スイッチ74を押圧操作する。すると、コントローラ50は、出スイッチ74の押圧操作を受けて、ベルト32を送り出すよう電動ウィンチ30の制御装置40を制御する。すなわち、ベルト32の送り出し動作がスタートされる(ステップS11)。このとき、コントローラ50は、弛み取りモータ95も駆動させる。したがって、仮に、スロープ12上においてベルト32に弛みが生じた場合には、その弛みが除去される。
その後、介助者による出スイッチ74の押圧操作の継続に伴って、図中矢印Mに示されるように、車椅子20が搭載スペース11から車室外に向けて徐々に移動していく。つまり、車椅子20はスロープ12上を徐々に降りていく。このとき、ベルト32の引き出し量の増加に伴って、カウント数Pctも徐々に増加していく。
続くステップS12では、コントローラ50が、カウント数Pctが比較しきい値TH2以上になったか否かを判断する。ステップS12でカウント数Pctが比較しきい値TH2よりも小さいと判断した場合(no判定)は、ステップS12の処理を繰り返し実行する。一方、ステップS12でカウント数Pctが比較しきい値TH2以上であると判断した場合(yes判定)は、ステップS13に進む。
ステップS13では、コントローラ50は、弛み取りモータ95の駆動を停止させる処理を実行する。具体的には、ベルト32の引き出し量に比例したカウント数Pctが、車椅子20が車室外に搬出されたことを示すカウント数n2(図10参照)に到達したことから、コントローラ50は、車椅子20が搬出されたと判断して、弛み取りモータ95の駆動を停止させる。
このとき、介助者が出スイッチ74を未だ押圧操作をしているのであれば、電動モータ部80の駆動は継続して行われる。ここで、弛み取りモータ95は停止され、かつ電動モータ部80は駆動しているため、ベルト32が弛む場合がある。しかしながら、車椅子20の車室外への搬出が完了しているので、車椅子20が急激に移動するようなことは無い。よって、何ら問題は生じない。
続くステップS14では、コントローラ50は、車椅子20の車室外への搬出が完了したことから、ベルトフリースイッチ63の押圧操作によるベルトフリー動作を許可する。つまり、コントローラ50は、車椅子20の車室外への搬出が完了したことをトリガとして、一対のベルト32をそれぞれ手動で自由に引き出したり収納したり(出し入れ)することが可能なベルトフリーモードへの移行を許可するようになっている。これにより、より信頼性の高いシステムの構築を実現している。
次いで、ステップS15では、介助者による出スイッチ74の押圧操作が解除されたか否か、つまり出スイッチ74が「オフ」になったか否かをコントローラ50が判断する。ステップS15で出スイッチ74が「オフ」されていない(出スイッチ74が「オン」のまま)と判断した場合(no判定)は、ステップS15の処理を繰り返し実行する。一方、ステップS15で出スイッチ74が「オフ」されたと判断した場合(yes判定)は、ステップS16に進む。
ステップS16では、コントローラ50は、電動モータ部80の駆動を停止させる処理を実行し、続くステップS17では、コントローラ50は、主電源を落とす(オフさせる)処理を実行する。これにより、何らかの原因、例えば、リモコン70を誤操作したり、操作パネル60を第三者が操作してしまったりした場合に、ベルト32が引き込まれてしまうようなことが防止される。
その後、ステップS18において、車椅子20を搭載スペース11から車室外に搬出(降車)させるための上述した制御が終了する。これにより、車室外に搬出された車椅子20から、ベルト32(フック31)を容易に外すことが可能となり、介助者への負担を軽減することができる。
なお、ベルト32(フック31)を車椅子20から外した後は、介助者により主電源を入れ直すことで、制御装置40は再始動される。その後、他の車椅子にベルト32(フック31)を繋ぐ作業をし、他の車椅子を搭載スペース11に搬入したり、ベルトフリースイッチ63を押圧操作し、一対のベルト32を仕舞ったりすることができる。
以上詳述したように、本実施の形態によれば、コントローラ50は、ベルト32の引き出し量(カウント数Pct)が比較しきい値TH2以上であると判断すると、弛み取りモータ95の駆動を停止させる処理を実行する。これにより、介助者は、車両10の車室外に搬出し終えた車椅子20から、ベルト32(フック31)を容易に外すことが可能となる。したがって、介助者に掛かる負荷を軽減することができる。
また、本実施の形態によれば、コントローラ50は、ベルト32の引き出し量(カウント数Pct)が比較しきい値TH2以上であると判断すると、ベルト32をドラム92から自由に引き出せるベルトフリーモードへの移行を許可する。これにより、車椅子20がスロープ12上にある場合にベルトフリースイッチ63が誤って押圧操作されても、ベルトフリーモードに移行させないようにできる。したがって、より信頼性の高いシステムを構築することが可能となる。
次に、本発明の実施の形態2について、図面を用いて詳細に説明する。なお、上述した実施の形態1と同様の機能を有する部分について同一の記号を付し、その詳細な説明を省略する。
図11は実施の形態2の制御内容を示すフローチャートを示している。
実施の形態2では、実施の形態1に比して、コントローラ50の制御内容のみが若干異なっており、その他の電動ウィンチ30の構造や制御装置40の構造は、実施の形態1と同じである。
図11に示されるように、実施の形態2では、ステップS12において、コントローラ50が、カウント数Pctが比較しきい値TH2以上になったか否かを判断した後に、続けてステップS15の処理を実行する。具体的には、ステップS15では、介助者による出スイッチ74の押圧操作が解除されたか否か、つまり、リモコン70からの操作信号(ここでは出スイッチ74が押圧操作されていることを示す信号)に変化があったか否かをコントローラ50が判断するようになっている。
そして、コントローラ50は、上述の2つの判断を続けて実行した後、すなわち、カウント数Pctが比較しきい値TH2以上であると判断(ステップS12でyes判定)し、かつ出スイッチ74の押圧操作が解除された、つまり操作信号に変化があったと判断(ステップS15でyes判定)すると、ステップS20に進む。続くステップS20では、コントローラ50は、弛み取りモータ95および電動モータ部80の双方の駆動を同時に停止させる処理を実行する。
次いで、コントローラ50は、ステップS20での処理に引き続き、ステップS14の処理を実行する。つまり、コントローラ50は、車椅子20の車室外への搬出が完了したと判断して、ベルトフリースイッチ63の押圧操作によるベルトフリー動作を許可する。その後、ステップS17に進んで、コントローラ50は、主電源を落とす(オフさせる)処理を実行する。
以上詳述したように、実施の形態2においても、実施の形態1と略同様の作用効果を奏することができる。これに加えて、実施の形態2では、弛み取りモータ95を停止させる処理と電動モータ部80を停止させる処理とを、ステップS20において集約して同時に行うことができるので、コントローラ50の制御ロジックを簡素化して、コントローラ50に掛かる負荷を軽減することができる。
本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態では、牽引物が車椅子20であるものを示したが、本発明はこれに限らず、牽引物がキャスター付きの担架であっても良い。
また、上記各実施の形態では、一対の電動ウィンチ30を、運転席DRおよび助手席ASの下部にそれぞれ設置した場合を示したが、本発明はこれに限らず、車両10の後方下部等、他のデッドスペースに設置しても構わない。
その他、上記各実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であって、上記各実施の形態に限定されるものではない。