JP7014240B2 - (s)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールを製造する方法 - Google Patents
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Description
特許文献1では、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物に作用して、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのS体を残存させうる能力を有する微生物(以下、「本発明の微生物」ということもある)を培養する際、培地のpHに関し、調製した培地のpH、すなわち、培養開始時のpHのみに着目しており、培養中にpHが変動することやそのpHを特定範囲内に制御することに関して一切示唆がない。
これに対して、本発明者らは、上記本発明の微生物を培養することにより、培地のpHが急激に変動することに着目した。通常、培養中は特許文献1の様にpHを制御しないか、もしくは培養中に培地のpHを制御する場合は、調製した培地のpH、すなわち、培養開始時のpHを維持するように行うことが技術常識である。本発明者らは、この技術常識に反し、鋭意検討した結果、驚くべきことに、pH制御を行わなかった場合や培養中の培地のpHを培養開始時のpHを維持するように制御した場合に比べて、培養中の培地の最低pHを、培養開始時のpHと、pH制御を行わなかった場合の培養中の最低pHとの間に位置する特定のpH範囲内に制御することにより、すなわち、培養中の培地の最低pHを特定範囲内に制御して培養することにより、その後の反応工程において、短い反応時間で高い光学純度の(S)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールを得ることができることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物に作用して、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのS体を残存させうる能力を有する、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物を、培養中の最低pHが4.6超過6.0未満の範囲となるように培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた微生物、又はその処理物を、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物と反応させる反応工程と、
を含む(S)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの製造方法に関する。
3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物は、その製造方法は限定されないが、例えば、2-メチル-エピハロヒドリンのエナンチオマー混合物の化学的開環反応によって得られる。3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物を合成できればどのような開環反応でもよいが、好ましくは、硫酸酸性下での開環反応で得ることができる。
本発明に使用する微生物は、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物に作用して、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのS体を残存させうる能力を有する限り、特に限定されない。すなわち、本発明に使用する微生物は、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物に作用して、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのR体を選択的に分解し、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのS体を残存させうる能力を有する限り、特に限定されない。
培養工程では、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物に作用して、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのS体を残存させうる能力を有する、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物を、培養中の最低pHが4.6超過6.0未満の範囲となるように培養する。
なお、本明細書において、単にODと記載した場合は660nmにおける光学濃度(OD値)を意味する。
本明細書において、4.6超過とは4.6を超えることを意味する。
中でも、培養中のpH値が、予め決めておいた最低pH値となった後は、培養中のpH値を増殖期が終了するまで最低pH値に維持することが好ましく、培養中に増殖期に入ったタイミングで、pH制御を開始し、培養中のpH値が、予め決めておいた最低pH値となった後は、培養中のpH値を増殖期が終了するまで最低pH値に維持することがより好ましい。
なお、本明細書において、増殖期とは、培養液に含まれる細胞が一定の間隔で細胞***して増殖し、培養液全体に含まれる細胞の総数がそれぞれ2倍ずつになるために時間軸に対して細胞数の対数が直線となる期間のことを意味する。
反応工程では、前記培養工程で得られた微生物、又はその処理物を、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物と反応させる。
ここで、前記培養工程で得られた微生物、又はその処理物は、非常に高い酵素活性を有するため、反応液中の基質濃度が比較的高い場合であっても比較的短時間で、高光学純度の(S)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールが得られる。そのため、前記培養工程で得られた微生物、又はその処理物をより効率的に利用するためには、反応液中の基質濃度の下限値は、好ましくは1.5%(w/v)以上、より好ましくは2.0%(w/v)以上、さらに好ましくは2.5%(w/v)以上、特に好ましくは3.0%(w/v)以上、最も好ましくは3.2%(w/v)以上、より最も好ましくは3.3%(w/v)以上である。
この様にして得られた反応液中に残存する(S)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールは一般的な方法で回収することができる。例えば、反応液から菌体を遠心分離等で除いた後、上清をエバポレーターにより濃縮し、エーテル等の溶媒で抽出すればよい。さらに、この抽出液を無水硫酸マグネシウム等を用いて脱水した後、減圧下で溶媒を除去することにより、(S)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのシロップを得ることができる。さらに、抽出、蒸留、各種クロマトグラフィーのような常法で精製してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の%は特に記載のない限り%(w/v)を表す。
3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの合成
有機合成用3Lのフラスコに、イオン交換水1700g、濃硫酸2.7gを添加し、反応液の温度を65-70℃に保ち、攪拌しながら2-メチル-エピクロルヒドリン1014.5gを滴下し、熟成も含め5時間反応させた。反応液中の2-メチル-エピクロルヒドリン及び3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの定量は、ガスクロマトグラフィー(GLサイエンス社製のカラム担体:PEG20M,60-80メッシュ(0.31-0.42mm))により行った。炭酸水素ナトリウムを加えて反応液のpHを6.0に調整した後、濃縮し、3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのシロップを1200g得た。
3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオール250mgを1,2-ジクロロエタン10mLに溶解させ、4-ジメチルアミノピリジン600mgを加え、溶解後、冷却しながら塩化アセチル350μLを添加し、撹拌することによりアセチル化反応を行った。反応液に1N塩酸10mLを加えて撹拌し、静置分液後、水層を取り除いた。同様に5%炭酸水素ナトリウム10mLで洗浄し、続いて水10mLで洗浄した。水層を取り除き、有機層を硫酸マグネシウム(無水)で脱水、ろ過したものを下記条件でガスクロマトグラフィーにより分析に用いた。なお、光学純度はS体とR体の各チャートの面積を求め、次式により光学純度を求めた。
<計算式>
光学純度(%e.e.) =(S体の面積-R体の面積)/(S体の面積+R体の面積)×100
<GC条件>
カラム :CHIRALDEX G-BP (30mm×0.25mm I.D. Df=0.125μm)
検出器 :FID
スプリット比 :1/100
カラム流量(mL/min) :0.8
全流量(mL/min) :50
キャリアー :水素
カラム温度(℃) :110
検出器温度(℃) :250
注入量(μL) :2.0
R体のリテンションタイム:19分、S体のリテンションタイム:21分
シュードモナスsp.DS-SI-5株を用いた反応
1.5w/v%ペプトン、1.75w/v%酵母エキス、1.0w/v%グリセリン、0.2w/v%硫酸アンモニウムからなる組成の培地100ml(pH6.8)を、500ml容のバッフル付き三角フラスコに入れ、121℃で20分間、加圧蒸気滅菌した。次いで、あらかじめ同栄養培地プレートで生育させたシュードモナスsp.DS-SI-5株を植菌し、30℃で24時間好気的に培養した。
培養中のpHを制御せず、実施例1と同様に培養を行った。OD12.4であった。なお、培養中における培養液の最低pH(すなわち、培養中の培養液の最低pH)は4.6まで低下した。すなわち、培養時間全体の25%において、培養液のpHは4.6であった。基質の仕込み量は、実施例1に記載した方法と同じ方法で反応を行った。反応終了後の3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの濃度は1.47%(残存率44.5%)であった。また、得られた3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールは光学純度74.6%e.e.以上の(S)-3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールであった。
培養中における培養液の最低pH(すなわち、培養中の培養液の最低pH)が5.5以上となるように制御し、OD13.2となるまで培養した以外は、実施例1に記載した方法と同じ方法で培養を行った。すなわち、培養時間全体の20%において、培養液のpHを5.5に維持した。反応終了後の3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの濃度は1.42%(残存率43%)であった。また、得られた3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールは光学純度97.4%e.e.以上の(S)-3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールであった。
培養中における培養液の最低pH(すなわち、培養中の培養液の最低pH)が6.0以上となるように制御し、OD13.0となるまで培養した以外は、実施例1に記載した方法と同じ方法で培養を行った。すなわち、培養時間全体の15%において、培養液のpHを6.0に維持した。反応終了後の3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの濃度は1.71%(残存率51.8%)であった。また、得られた3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールは光学純度77.7%e.e.の(S)-3-クロロ-2-メチル-1,2-プロパンジオールであった。
Claims (2)
- 3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物に作用して、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのS体を残存させる能力を有する、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物を、培養開始時のpHが6.0以上、培養中の最低pHが4.6超過6.0未満の範囲となるように培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた微生物、又はその処理物を、3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールのエナンチオマー混合物と反応させる反応工程と、
を含み、
前記培養工程において、
培養中のpHが、予め決めておいた最低pHとなった後は、培養中のpHを前記培養中の最低pH範囲に維持し、
培養中のpHが、前記培養中の最低pH範囲内に制御されている期間が、培養時間全体の15%以上である(S)-3-ハロゲノ-2-メチル-1,2-プロパンジオールの製造方法。 - 微生物が、シュードモナス(Pseudomonas)sp.DS-SI-5株(国際寄託番号:FERM BP-7080)、シュードモナスニトロレデューセンス(Pseudomonas nitroreducens)DS-S-RP8株(国際寄託番号:FERM BP-7793)からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項1に記載の方法。
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