以下に、本発明の各実施形態に係る車両用フードについて、図1乃至図6を参照しながら概説する。図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用フード1の分解斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態に係る車両用フード1のインナパネル20の斜視図である。図3は、図2に示すインナパネル20のビード部220の断面図である。図4は、図2に示すインナパネル20の外側接合部201、底部202および前側縦壁部211の周辺の断面図である。
車両用フード1(図1)は、車両を構成する部材である。車両用フード1は、当該車両用フードが搭載される車両の前後方向におけるフロントガラスの前側において、当該車両の内蔵物を車幅方向の全体に亘って覆うように配置される。なお、本実施形態では、車両用フード1が搭載される車両の前後方向と交差する(直交する)左右方向を、車両幅方向と称する。また、各図面では、車両の不図示の運転席を基準に、前後、左右および上下方向がそれぞれ表記されている。
車両用フード1は、図1に示されるように、車両用フード1の上面部を画定するアウタパネル10と、アウタパネル10の下方に配置され車両用フード1の下面部を画定し、アウタパネル10に接合されるインナパネル20と、を有している。なお、図2では、アウタパネル10の図示は省略し、インナパネル20のみ図示している。アウタパネル10及びインナパネル20は、車両幅方向における車両の中央部を通りかつ車両幅方向と直交する平面(車両前後方向および車両上下方向を含む平面)を基準として、当該車両幅方向に対称な形状を備えている。アウタパネル10は、アルミニウム系材料により比較的平坦な形状に形成されている。
インナパネル20は、アルミニウム系材料により形成されている。インナパネル20は、アウタパネル10と同一材質により形成されてもよいし、異なる材質により形成されてもよい。本実施形態では、歩行者保護性能を向上する観点から、インナパネル20は、アウタパネル10よりも強度が小さくなるように当該アウタパネル10とは異なる材質により形成されている。このようにすれば、フードとして必要な剛性を確保した上で、インナパネル20の車両本体の内蔵物(エンジン等)への衝突時において、当該インナパネル20が潰れながら衝突エネルギーを効率よく吸収することができる。
インナパネル20は、図2に示すように、外側接合部201と、底部202と、中央突部203と、を有している。これらの形状は、アルミニウムからなる板状部材をプレス成形することにより形成される。
外側接合部201は、アウタパネル10の裏面に接合される。また、外側接合部201は、インナパネル20の外周部を画定する。具体的には、外側接合部201は、車両用フード1における最外周部分として環状に形成されるインナパネル20の最外周部分である。なお、図1のアウタパネル10の最外周部分がヘム加工(折り返し加工)されることによって、外側接合部201がアウタパネル10に強固に固着される。これにより、アウタパネル10とインナパネル20との間において、外側接合部201よりも内側の空間が略密閉状態となっている。なお、外側接合部201は、構造用接着剤を併用してアウタパネル10の裏面(下面)に接着されてもよい。
外側接合部201は、右前端部201Aと、左前端部201Bと、左後端部201Cと、右後端部201Dと、を有する。これらの端部は、インナパネル20の前側および後側の左右両端部に位置する。
底部202は、環状の外側接合部201の内側に位置しており、略水平な面からなる。底部202は、外側接合部201よりも下方に位置しており、外側接合部201と同様に、略環状に形成されている。なお、底部202及び外側接合部201は、環状の接続壁20Sによって接続されている(図2)。
中央突部203は、底部202の内側に配置され、底部202から上方に突出するように配置されている。中央突部203は、平面視で略矩形形状を有している。中央突部203は、前側縦壁部211と、後側縦壁部212と、右側縦壁部213(側方縦壁部)と、左側縦壁部214(側方縦壁部)と、上面部215と、を有する。
前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214は、それぞれ、中央突部203の前側、後側、右側および左側に位置する壁部(縦壁)である。これらの壁部は、それぞれ、上方に進むにつれてインナパネル20の内側に向かって傾斜している。上面部215は、中央突部203の上面部に相当する。すなわち、前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214は、それぞれ、環状の底部202と中央突部203の上面部215とを接続している。なお、前側縦壁部211と底部202との境界である前側下縁部211R(図2)は、車両幅方向に沿って延びている。
上面部215は、複数のビード部220を備える。複数のビード部220は、それぞれ、車両前後方向に沿って延びるとともに、車両幅方向に間隔をおいて配置されている。各ビード部220は、上面部215の一部が下方に凹没されることで形成されている。複数のビード部220の間および車両幅方向の外側には、複数の内側接合部221が形成されている。この内側接合部221は、マスチック樹脂材料からなる接着剤(マスチック接着剤)を介してアウタパネル10の裏面に接合されている。なお、図2では、前記接着剤が配置される位置に、それぞれ、マスチック接合部Mが白丸で示されている。上記の構造により、外側接合部201および内側接合部221がアウタパネル10の裏面に接合された状態において、ビード部220が空間を介してアウタパネル10から離間している。
図2に示すように、前側縦壁部211は前側棚部211S(第1棚部)を有し、後側縦壁部212は後側棚部212S(第2棚部)を有し、右側縦壁部213は右側棚部213S(第1棚部)を有し、左側縦壁部214は左側棚部214S(第1棚部)を有する。前側棚部211S、後側棚部212S、右側棚部213Sおよび左側棚部214Sは、水平面からなる段差部である。なお、これらの棚部は、前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214の左右または前後の両端部を除く位置に形成されている。この結果、前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214のそれぞれの上端縁に相当する、前側上縁部211T、後側上縁部212T、右側上縁部213Tおよび左側上縁部214Tは、上面部215の左右または前後の両端部よりも内側に配置される。この結果、中央突部203(上面部215)の四隅(角部)には、それぞれ、右前端突出部215A(前方上面突出部)、左前端突出部215B(前方上面突出部)、左後端突出部215C(後方上面突出部)および右後端突出部215D(後方上面突出部)が形成される。右前端突出部215Aは、前方かつ右方に向かって、換言すれば、外側接合部201の右前端部201Aに近づくように突出している(図2の矢印DA)。同様に、左前端突出部215Bは、前方かつ左方に向かって、換言すれば、外側接合部201の左前端部201Bに近づくように突出している(図2の矢印DB)。また、左後端突出部215Cは、後方かつ左方に向かって、換言すれば、外側接合部201の左後端部201Cに近づくように突出している。また、右後端突出部215Dは、後方かつ右方に向かって、換言すれば、外側接合部201の右後端部201Dに近づくように突出している。そして、これらの各突出部に前述のマスチック接合部Mが配置されることが望ましい。
図3に示すように、車両幅方向(左右方向)に沿った断面で見た場合、内側接合部221の幅がWD、内側接合部221の中心線がCL、ビード部220の幅がWT、内側接合部221とビード部220とを接続する傾斜面の幅がWS、隣接する内側接合部221の中心線間の距離がWP、ビード部220の深さがHで定義される。一例として、WD=30mm、WT=30mm、WS=20mm、WP=100mm、H=15mmに設定される。
また、図4に示すように、車両前後方向に沿った断面で見た場合、底部202に対する上面部215の高さ、換言すれば、前側縦壁部211(縦壁)の高さがH1、底部202に対する前側棚部211S(棚部)の高さがH2と定義される。なお、一例として、車両前後方向における前側棚部211Sの幅は10mm、H1=80mm、H2=50mmに設定される。
図5は、本実施形態に係るインナパネル20の右前端突出部215A(突出部)の平面図である。図5に示すように、本実施形態では、車両幅方向に延びる前側上縁部211Tと車両前後方向に延びる右側上縁部213Tとを結ぶ円弧(図5の破線参照)に対して、右前端突出部215Aは、角度θをもって前方かつ右方に向かって距離Lだけ突出している。また、本実施形態では、例えば、角度θは45度に設定されている。他の左前端突出部215B、左後端突出部215C、右後端突出部215Dについても同様である。なお、図5では、後記の実施例および比較例において参照されるインナパネルの形状が、実線(実施例1、3、4)、一点鎖線(実施例2)、破線(比較例1、2)で示されている。当該形状については、後記で詳述する。
また、車両用フード1は、不図示のストライカと、不図示の一対のヒンジ補強部材と、を備える。
ストライカは、インナパネル20のうち中央突部203よりも前側の底部202に固定され、車両本体と係合することが可能とされている。ストライカは、底部202に接合されたロック補強材接合部231(図2)に固定されている。ストライカは、U字状の部材である。
一対のヒンジ補強部材は、車両用フード1を車両本体に連結するヒンジ(図示しない)にインナパネル20を介して接合される。各ヒンジ補強部材は、底部202のうち、中央突部203の後方において車両幅方向に延びる部位の両端に配置されたヒンジ補強材接合部232に(図2)設けられている。
上記のように、本実施形態では、図2に示すように、一対のヒンジ補強材接合部232の近傍から前方に向かって、右側縦壁部213および左側縦壁部214が配置されている。右側縦壁部213および左側縦壁部214は、底部202から上面部215まで連続的に形成されている。この結果、インナパネル20の曲げ変形に対する抵抗が大きくなり、曲げ剛性が向上する。更に、インナパネル20のフロント側においても、前側縦壁部211が底部202と上面部215とを接続するように連続的に形成されている。この結果、車両用フード1の中央部のストライカに荷重を加えた場合の車両用フード1の曲げ抵抗が大きくなる。したがって、車両用フード1の曲げ剛性が更に向上する。
更に、本実施形態では、中央突部203の前端部かつ左右の両端部には、左右一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215B(前方上面突出部)が形成されている。図2に示すように、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215B上にも、それぞれマスチック接合部Mが配置されている。このため、大きな荷重が加えられることが多いインナパネル20のフロント側のコーナー(左右両端部)にできるだけ近い位置にアウタパネル10とインナパネル20とを接合するマスチック接合部Mが配置される。このため、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを備えない場合と比較して、マスチック接合部Mが右前端部201Aおよび左前端部201Bに近い位置に配置される。この結果、車両用フード1のねじり剛性が向上する。
更に、本実施形態では、フロント側コーナーに加えてリア側のコーナーにおいても、左右一対の左後端突出部215Cおよび右後端突出部215Dが配置されている。図2に示すように、左後端突出部215Cおよび右後端突出部215D上にも、それぞれマスチック接合部Mが配置されている。この結果、インナパネル20のリア側のコーナー(左右両端部)にできるだけ近い位置にも、アウタパネル10とインナパネル20とを接合するマスチック接合部M(接合部)が配置可能とされる。この結果、車両用フード1のねじり剛性が更に向上する。
更に、本実施形態では、前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214には、それぞれ、前側棚部211S、後側棚部212S、右側棚部213Sおよび左側棚部214Sが配置される。これらの棚部の高さH2は、縦壁(前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214)の高さH1の1/2よりも低い位置に設定されることが好ましい。この場合、各縦壁に隣接する底部202の幅を広げることに近い効果を得ることができる。この結果、従来よりも、少なくとも5%以上の車両用フード1のねじり剛性の向上が可能となる。なお、このような棚部の幅は、車両用フード1の張り剛性等の他要件を満足するために適宜設定されてもよい。また、他の部品を接合するなどの目的に応じて部分的に棚幅が拡大されても良い。また、棚部は、前側、後側および左右両側のうちの何れかの縦壁部に形成される態様でもよく、複数の箇所に形成される態様でもよい。
なお、前側棚部211S、後側棚部212S、右側棚部213Sおよび左側棚部214Sは、下記のような更なる用途を備えている。これらの棚部は、他の部品の取り付け面として機能することができる。たとえば、フロント側の前側棚部211Sには、公知のデントRF(リインフォース)の後側の脚部が接合されてもよい。また、上記の棚部は、公知のダンパRFなどの補強部材の取り付け部として機能してもよい。また、車両において、インナパネル20の下方に配置される吸音、吸熱を目的とするヒートインシュレーターが係止される孔や、歩行者頭部衝突時に縦壁を潰れやすくするための弱体化孔などが、これらの棚部に設定されてもよい。これらの孔(穴)がトリム加工によって設けられるためには、上記の棚部を支持部としてプレス加工で打ち抜くことが可能となる。また、車両の製造段階において、車両用フード1を搬送するための公知のバキュームカップが吸着する平面部として、上記の各棚部が機能してもよい。
なお、図2に示すように前側縦壁部211が前側棚部211Sを備える場合には、前側棚部211Sを備えない場合と比較して、インナパネル20の車両幅方向の中央部において上面部215(内側接合部221)が後方に配置される。このため、インナパネル20のフロント側領域において耐デント性が高く要求される場合には、アウタパネル10の裏面に近接するように公知のデントRFが配置されることが望ましい。このデントRF(補強材)によって、車両用フード1の張り剛性や耐デント性を確保することが可能である。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図6は、本実施形態に係る車両用フードのインナパネル20Aの斜視図である。なお、本実施形態では、先の第1実施形態と比較して、中央突部203の形状において相違するため、当該相違点を中心に説明し、共通する点の説明を省略する。また、図6では、先の第1実施形態に係るインナパネル20の構造と同じ機能を有する構造については、図2と同じ符号を付している。
図6に示すように、本実施形態では、インナパネル20Aは、先の第1実施形態に係るインナパネル20と同様に、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを備えている。一方、インナパネル20Aは、左後端突出部215Cおよび右後端突出部215Dを備えていない。更に、インナパネル20Aの前側縦壁部211、後側縦壁部212、右側縦壁部213および左側縦壁部214には、先の第1実施形態に係るインナパネル20の前側棚部211S、後側棚部212S、右側棚部213Sおよび左側棚部214Sが形成されていない。
インナパネル20Aでは、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを形成するために、第1実施形態に係るインナパネル20と比較して、中央突部203の前側下縁部211Rが後方に位置している。この結果、中央突部203の前側の左右両端部が、前方に突出した形状となる。また、中央突部203の右側下縁部213Rの前端部および左側前縁部214Rの前端部が、それぞれ、車両幅方向の外側に突出している。この結果、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが、車両幅方向の外側に突出することとなる。
本実施形態においても、先の第1実施形態と同様に、インナパネル20のフロント側のコーナー(左右両端部)にできるだけ近い位置にアウタパネル10とインナパネル20とを接合するマスチック接合部Mが配置される。詳しくは、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが、前方かつ車両幅方向外側に突出するように配置される。そして、図6に示すように、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215B上にマスチック接合部Mが配置される。この結果、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを備えない場合と比較して、マスチック接合部Mが右前端部201Aおよび左前端部201Bに近い位置に配置される。この結果、車両用フード1のねじり剛性が向上する。
更に、本実施形態では、底部202のうち中央突部203の前側において車両幅方向に延びる部分の幅、および底部202のうち中央突部203の左右両側において車両前後方向に延びる部分の幅が、それぞれ広く設定される。これは、先の第1実施形態と比較して、中央突部203の前側下縁部211Rが後方に配置され、中央突部203の右側下縁部213Rのうち右前端突出部215Aよりも後側部分および左側前縁部214Rのうち左前端突出部215Bよりも後側部分が車両幅方向に内側に配置されているためである。この結果、車両用フード1のねじり剛性を更に向上することができる。本実施形態のように、本発明に係る突出部はフロント側の両端部(前方上面突出部)のみに配置されてもよい。なお、本実施形態において、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215B上にマスチック接合部Mが配置されなくてもよい。この場合も、上記のような底部202の拡張によるねじり剛性の向上効果が発現される。
以上のように、本発明の第1または第2実施形態に係るインナパネル20、20Aを備える車両用フード1は、車両を構成するとともに当該車両の前後方向における前側に配置される車両用フード1であって、アウタパネル10と、前記アウタパネル10に接合されるインナパネル20と、を備える。前記インナパネル20は、前記インナパネル20の外周部を画定するとともに、前記アウタパネル10に接合される環状の外側接合部201と、前記環状の外側接合部201の内側に配置される中央突部203と、を有する。前記中央突部203は、前記アウタパネル10に接合される上面部215と、前記上面部215の前縁部に接続され、車両上下方向および車両幅方向に沿って延びる前側縦壁部211と、前記上面部215の左右の側縁部(車両幅方向の両端部)に接続され、車両上下方向および車両前後方向に沿ってそれぞれ延びる一対の右側縦壁部213および左側縦壁部214(側方縦壁部)と、前記上面部215の前端部かつ車両幅方向の両端部にそれぞれ設けられ、前記外側接合部201に近づくように車両前後方向の前方かつ車両幅方向の外側に向かってそれぞれ突出する、一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bと、を有する。
本構成によれば、インナパネル20には、車両上下方向および車両幅方向に沿って延びる前側縦壁部211と、車両上下方向および車両前後方向に沿ってそれぞれ延びる一対の右側縦壁部213および左側縦壁部214とが、それぞれ形成されている。この結果、インナパネル20の曲げ変形に対する抵抗が大きくなり、曲げ剛性が向上する。また、中央突部203の前端部かつ左右の両端部には、一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが形成されている。このため、大きな荷重が加えられることが多いインナパネル10のフロント側のコーナー(左右両端部)にできるだけ近い位置にアウタパネル10とインナパネル20とを接合するマスチック接合部Mが配置可能とされる。特に、一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが、前方かつ車両幅方向外側に突出するように配置されることで、マスチック接合部Mがインナパネル20のフロント側のコーナーに近い位置に配置される。この結果、車両用フード1のねじり剛性が向上する。なお、一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが形成されるためには、従来のインナパネルに対して、中央突部203の前端部の左右両端部が積極的に右前端部201Aおよび左前端部201Bに向かって突出されてもよく、また、中央突部203の前端部の左右両端部を残してその周辺部分が中央突部203の内側に没するように設定されることで、結果的に一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが形成されてもよい。前者の場合は、マスチック接合部Mが右前端部201Aおよび左前端部201Bに近い位置に配置されることで、ねじり剛性が向上する。また、後者の場合は、底部202のうち中央突部203の前側および左右両側の幅が拡がることで、ねじり剛性が向上する。
上記の構成において、インナパネル20は、中央突部203の外側かつ外側接合部201の内側で、前記アウタパネル10から離間するように当該アウタパネル10の反対側に凹んだ環状の底部202を更に有し、中央突部203は、前側縦壁部211のうちの前記一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bよりも車両幅方向の内側の領域および前記一対の右側縦壁部213および左側縦壁部214のうちの前記一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bよりも後方の領域の少なくとも一方に設けられる第1棚部(前側棚部211S、右側棚部213S、左側棚部214S)を更に有し、車両上下方向における底部202と前記中央突部203の前記上面部215との中間位置よりも低い位置に前記第1棚部が配置されていることが望ましい。
本構成によれば、第1棚部によって、中央突部203の前方または側方において底部202の幅を疑似的に拡張することができる。このため、一対の右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bが安定して形成され、車両用フード1のねじり剛性を向上することができる。また、第1棚部を、他の部品の取り付け面として利用することができる。
上記の構成において、前記中央突部203は、前記上面部215の後縁部に接続され、車両上下方向および車両幅方向に沿って延びる後側縦壁部212と、前記上面部215の後端部かつ車両幅方向の両端部にそれぞれ設けられ、外側接合部201に近づくように後方かつ車両幅方向の外側に向かってそれぞれ突出する、一対の左後端突出部215Cおよび右後端突出部215Dと、を更に有することが望ましい。
本構成によれば、インナパネル20のリア側のコーナー(左右両端部)にできるだけ近い位置にも、アウタパネル10とインナパネル20とを接合するマスチック接合部Mが配置可能とされる。この結果、車両用フード1のねじり剛性が更に向上する。
上記の構成において、中央突部203は、前記後側縦壁部212のうちの前記一対の左後端突出部215Cおよび右後端突出部215Dよりも車両幅方向の内側の領域に設けられる第2棚部(後側棚部212S)を更に有し、車両上下方向における前記底部202と前記中央突部203の前記上面部215との中間位置よりも低い位置に前記第2棚部が配置されていることが望ましい。
本構成によれば、第2棚部によって、中央突部203の後方において底部202の幅を疑似的に拡張することができる。このため、一対の左後端突出部215Cおよび右後端突出部215Dが安定して形成され、車両用フード1のねじり剛性を向上することができる。また、第2棚部を、他の部品の取り付け面として利用することができる。
次に、実施例を基づいて本発明を更に詳述する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下では、CAE解析を用いて車両用フード1の曲げ剛性およびねじり剛性に対する影響因子を評価した。図7は、車両用フード1のインナパネル20の曲げ剛性およびねじり剛性が評価される様子を示す斜視図であって、簡易フードモデルの剛性評価方法を説明する図である。当該評価では、インナパネル20の左右のヒンジ補強材接合部232の位置が完全拘束される(拘束部232X)。そして、曲げ剛性の評価では、インナパネル20の前端部の車両幅方向における中央部P2に下向きの荷重Fが加えられる。一方、ねじり剛性の評価では、インナパネル20の前端部の右端部がZ方向(車両上下方向)において拘束されつつ(拘束部Q)、左端部P1に-Z方向(下方向)の荷重Fが加えられる。図8乃至図13は、それぞれ実施例の評価結果を示すグラフである。当該評価結果の詳細については、後記で詳述する。
一方、図14乃至図20は、本発明の各実施形態に係る車両用フード1のインナパネル20、20Aと比較される他のインナパネル20Z1~20Z7の斜視図である。なお、各図では、先の第1実施形態に係るインナパネル20の構造と同じ機能を有する構造については、図2と同じ符号を付している。以下では、各図に示されるインナパネルと先の第1または第2実施形態に係るインナパネル20、20Aとの相違点を説明する。
図14に示されるインナパネル20Z1では、中央突部203の上面部215に、複数の上ビード220Zが配置されている。上ビード220Zは、先の第1実施形態に係るインナパネル20のビード部220と異なり、上面部215から上方に向かって凸形状とされている。なお、インナパネル20Z1には、第1実施形態のような突出部(215A~215D)は形成されていない。図15に示されるインナパネル20Z2では、第2実施形態に係るインナパネル20Aと比較して、突出部が形成されていない点で相違する。図16に示されるインナパネル20Z3では、中央突部203の側方、すなわち、右側縦壁部213および左側縦壁部214に、それぞれ、右側棚部213Sおよび左側棚部214Sが形成されている。しかしながら、インナパネル20Z3には、第1および第2実施形態のような突出部は形成されていない。図17に示されるインナパネル20Z4では、中央突部203の前端部の左右両端部の角部分に、それぞれ、棚部50A、50Bが形成されている。しかしながら、インナパネル20Z4には、第1および第2実施形態のような突出部は形成されていない。図18に示されるインナパネル20Z5では、中央突部203の前端部に、前側棚部211Sが形成されている。しかしながら、インナパネル20Z5には、第1および第2実施形態のような突出部は形成されていない。図19に示されるインナパネル20Z6では、中央突部203の後端部に、後側棚部212Sが形成されている。しかしながら、インナパネル20Z6には、第1および第2実施形態のような突出部は形成されていない。図20に示されるインナパネル20Z7では、中央突部203の周方向全域に、それぞれ、前側棚部211S、後側棚部212S、右側棚部213Sおよび左側棚部214Sが形成されている。また、これらの棚部は互いに連結されている。しかしながら、インナパネル20Z7には、第1および第2実施形態のような突出部は形成されていない。
本発明の各実施形態に係るインナパネル20、20Aおよび上記の他のインナパネル20Z1~Z7を用いた評価結果を表1に示す。また、図8は、表1に基づく、インナパネルのねじり剛性の評価結果を示すグラフである。図9は、表1に基づく、インナパネルの曲げ剛性の評価結果を示すグラフである。図10は、表1に基づく、インナパネルの縦壁高さH1に対する棚高さH2の比とねじり剛性との関係を示すグラフである。図11は、表1に基づく、インナパネルの縦壁高さH1に対する棚高さH2の比と曲げ剛性との関係を示すグラフである。なお、表1に示すように、曲げ剛性およびねじり剛性の評価では、比較例1での値を基準として、その他の比較例および実施例での値を相対的に示している。
なお、表1の比較例1~7のインナパネルは、順に、図14のインナパネル20Z1~図20のインナパネル20Z7に相当する。図5では、比較例1(図14)、比較例2(図15)における中央突部の形状が破線で示されている。前述のように当該中央突部には、各実施例のような突出部が形成されていない。また、比較例8~10のインナパネルは、図20のインナパネル20Z2(比較例7)において、棚部の高さ(H2/H1(%))を変化させている。実施例1には、第1実施形態に係るインナパネル20を用いており、実施例2には、第2実施形態に係るインナパネル20Aを用いている。図5では、実施例1、3および4の中央突部が実線で示され、実施例2の中央突部が一点鎖線で示されている。実施例1は、比較例1の中央突部のコーナーを突出させることで右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを形成したものであり、実施例2は、比較例1の中央突部の前側部および左右側部の一部を内側に配置することで右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを形成したものである。比較例3~比較例7、実施例1における棚部の高さは、H2/H1=50(%)に設定されている。実施例2は、棚部の高さがH2/H1=0(%)に設定されていることに等しい。また、いずれの評価においても、棚部の幅は10mm、アウタパネル10の板厚は、tO=0.9mm、インナパネル20の板厚は、ti=0.8mmである。また、剛性解析には、汎用されている静的陰解法ソフトABAQUSを用いた。
表1および図9に示すように、本発明の実施例1、2の曲げ剛性は、比較例1と比較して約123%および約136%と大幅に高くなっている。同様に、表1および図8に示すように、本発明の実施例1、2のねじり剛性は、比較例1と比較して約108%および約122%と大幅に高くなっている。
また、比較例3~比較例6の結果から、棚部を設定することは、曲げ剛性を向上させる効果に繋がることが確認された。なお、比較例4のように、中央突部203のコーナーのみに棚部を設けた場合は、逆に僅かながらねじり剛性が低下する結果となった。また、中央突部203の左右、フロントおよびリア側の縦壁にそれぞれ個別に棚部を設定した場合は、ねじり剛性が約2.5%程度増加する結果となった。更に、比較例7のように、コーナーを含む周方向の全域に棚部を設けた場合には、ねじり剛性が更に向上する結果となった。また、中央突部203のサイド側(左右側部)およびフロント側の縦壁への棚部の設定と比較して、リア側への棚部の設定(比較例6)は、ねじり剛性の向上効果が若干小さいことが確認された。この結果から、ねじり剛性の向上のためには、サイドおよびフロント側の棚部の設定、あるいは、底部202の幅を拡大することで、前述のような右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを形成することが望ましいことが確認された。また、比較例7と比較例10との比較から、ねじり剛性は、中央突部203のコーナーを除く全領域に棚部を設けることで向上することが確認された。
また、図10に示すように、ねじり剛性に対しては、棚部をできるだけ下側に配置した方が、剛性が高くなることが知見された。また、図11に示すように、棚部が形成された場合、当該棚部の高さ方向における設定位置は曲げ剛性には大きな影響を与えにくいものの、棚部が底部202の一部となるように、H2/H1=0(%)に設定される場合は、曲げ剛性が相対的に高くなることが知見された。換言すれば、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを形成するために、第1実施形態のように棚部を設定した場合よりも、第2実施形態のように底部202の幅を広くした方が、より高い剛性を確保することができる。一方、他部品の取り付けなどの理由で棚部を設ける場合には、棚高さH1は低い方が望ましく、少なくとも比較例1の構造と比較して5%以上の剛性アップ効果を確保するためには、棚高さH2は縦壁高さH1の1/2の位置(中間位置)よりも下側に設定されることが望ましい。
表2は、表1の比較例1、比較例2および実施例2に加えて、新たに実施例3、4を含む各条件における、ねじり剛性および曲げ剛性の評価結果を示している。前述の実施例2では、直辺部外周ビード幅拡大量D(図5)=10(mm)に設定されている。直辺部外周ビード幅拡大量Dとは、右前端突出部215Aおよび左前端突出部215Bを形成するための底部202の幅の拡大量である。また、実施例3および実施例4は、突出部(右前端突出部215A、左前端突出部215B)の突出量(図5のL)が、それぞれ、5mm、10mmの点で互いに相違する。また、図12は、表2に基づき、インナパネルのねじり剛性および曲げ剛性の評価結果を示すグラフである。図13は、従来の構造(比較例1)に対するインナパネルのねじり剛性および曲げ剛性の増減率を示すグラフである。
表2、図13に示すように、比較例2、実施例2、実施例3および実施例4の曲げ剛性は、比較例1と比較して約20%以上高くなっている。すなわち、上面部215に形成されたビード部が下方に向かって凸形状の場合の方が、上方に向かって凸形状の場合よりも、曲げ剛性が向上する効果が確認された。実施例2は、実施例3、4と比較して、ねじり剛性および曲げ剛性ともに高い結果が確認された。これは、直辺部外周ビード幅拡大量Dの設定によって、底部202が拡大し、ねじり剛性が効率的に向上しているものと推定される。また、実施例3と実施例4とを比較すると、突出部の突出量が大きいほど、ねじり剛性は増加し、曲げ剛性は変わらない傾向が確認された。このねじり剛性の増加については、荷重点P1(図7)とマスチック接合部Mとの距離が小さくなるためと推定される。