JP6969219B2 - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
3.0≦{([Mn]+[Cu])/(100×[S])+[Al]}/[P]≦70
(1)
(ここで、[Mn]、[Cu]、[Al]、[P]、および[S]はそれぞれMn、Cu、Al、P、およびSの含有量[質量%]を意味する。)
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0.005%以下、Si:1.0〜4.0%、Al:0.1〜0.8%、Mn:0.01〜0.07%、P:0.02〜0.3%、N:0.005%以下、およびS:0.0012〜0.005%、Cu:0.001〜0.5%、Ti:0.005%以下、ならびにSnおよびSbのうち少なくとも1種:合計で0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、球相当直径が0.01〜1μmの介在物の個数NTotに対する該介在物のうちの硫化銅の個数NCuSの比率NCuS/NTotが0.100以下であることを特徴とする。
(1)硫化銅の析出状態
a.硫化銅の析出状態
本発明の無方向性電磁鋼板においては、球相当直径が0.01〜1μmの介在物の個数NTotに対する該介在物のうちの硫化銅の個数NCuSの比率NCuS/NTotが0.100以下である。すなわち、介在物の中でも磁気特性の劣化作用が大きい硫化銅の形成が極力抑制または完全に回避されている。これにより、磁気特性の劣化を効果的に抑制することができる。特に低磁場において、透磁率が改善されることにより、鉄損が改善される。
ここで、本発明において、「球相当直径が0.01〜1μmの硫化銅が含有されない」とは、後述の手順により、少なくとも200個の球相当直径が0.01〜1μmの介在物について、介在物の種類を調査した場合において、その中に硫化銅と判断される介在物が存在しない(硫化銅と判断される介在物の個数が0個である)ことを意味する。例えば、後述の手順により、1000個の球相当直径が0.01〜1μmの介在物について、介在物の種類を判定した場合には、1000個の該介在物のうち、硫化銅と判断される介在物の個数が0個であることを意味する。
本発明において、NCuS/NTotが上述した範囲内であることによって、低磁場での鉄損が低減されるメカニズムは、未解明な部分があるものの、以下のように推定される。
なお、本明細書においては、以下の推定メカニズムに基づいて本発明を説明している箇所があるが、該推定メカニズムは推定に過ぎないため、将来的に本発明の作用効果が該推定メカニズムとは異なるメカニズムにより発現していることが判明する可能性もある。しかしながら、そのように判明した知見は、本発明を否定するものではない。
本発明の無方向性電磁鋼板においては、Mn、Cu、Al、P、およびSの含有量が下記式(1)を満足する上述した化学組成を有し、球相当直径が0.01〜1μmの介在物の個数NTotに対する該介在物のうちの球相当直径が0.1μm以上の硫化物の個数NXS≧0.1μmの比率NXS≧0.1μm/NTotが0.51以上であり、上記介在物の球相当直径の平均が0.114μm以上であることが好ましい。
3.0≦{([Mn]+[Cu])/(100×[S])+[Al]}/[P]≦70
(1)
(ここで、[Mn]、[Cu]、[Al]、[P]、および[S]はそれぞれMn、Cu、Al、P、およびSの含有量[質量%]を意味する。以下において、Mn、Cu、Al、P、およびSの含有量[質量%]は、[Mn]、[Cu]、[Al]、[P]、および[S]と略すことがある。)
球相当直径が0.01〜1μmの介在物の個数NTotおよび該介在物のうちの硫化銅の個数NCuS、ならびに該介在物のうちの球相当直径が0.1μm以上の硫化物の個数NXS≧0.1μmおよび該介在物の球相当直径の平均は、鋼板に存在する介在物の種類、球相当直径、および個数から求められる。介在物の種類、球相当直径、および個数を調査する方法としては、鏡面研磨した鋼板表面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察して、EDSを用いて分析する方法が用いられる。
上述した介在物の析出状態の観察用サンプルの作成方法について説明する。
本発明者らが用いた析出状態の観察用サンプルの作成方法では、鋼板表面に形成されたスケール等の酸化皮膜等を化学的研磨または機械的研磨等により除去して鋼板表面を露出させ、さらに鋼板表面を鏡面研磨することにより、析出状態の観察用サンプルを作成する。該観察用サンプルを作成する際には、鏡面研磨方法として、水分により溶解しやすい介在物または析出物を安定的に観察するために、最終仕上げ工程を油研磨で鏡面仕上げする方法を用いる。上述した介在物の析出状態の調査は、このように作成した介在物の析出状態の観察用サンプルの研磨面を観察することより実施する。
介在物の種類、球相当直径、および個数は、SEMを用いて、上述した介在物の析出状態の観察用サンプルの研磨面において、介在物の種類、球相当直径、および個数が偏ることがないようにランダムに選択される領域を観察することによって調査する。具体的には、球相当直径が0.01μm以上の介在物が明確に観察される倍率にSEMを設定した後に、観察領域に存在する全ての介在物のサイズ、形状、および個数を測定することによって、少なくとも200個の球相当直径が0.01μm〜1μmの介在物について球相当直径および個数を調査する。さらに、EDSを用いてそれらの介在物の種類を判定する。この場合には、例えば、作動距離(WD)を10mm、加速電圧を15kV、倍率を100倍〜200000倍として研磨面を測定する。
次に、本発明における化学組成について説明する。以下において、各成分の含有量は質量%での値である。
C含有量は、多いと、オーステナイト領域を拡大し、相変態区間を増加させて、焼鈍時にフェライトの結晶粒成長を抑制するので、鉄損を増加させるおそれがある。また、Ti等と結合して炭化物を形成して磁気特性を劣化させて、最終製品から加工した電気製品の使用時に磁気時効により鉄損を増加させるおそれがある。このため、C含有量は、0.005%以下にする。
Siは、比抵抗を増加させて渦電流損を低下させる作用を得るために添加される主要な元素である。Si含有量は、少ないと渦電流損を低下させる作用が得られにくく、多いと冷間圧延時に鋼板が破断するおそれがあるので、1.0〜4.0%にする。
Alは、製鋼工程において鋼を脱酸するために不可避的に添加される元素であって、Siと同様に比抵抗を増加させて渦電流損を低下させる作用を得るために添加される主要な元素である。このため、Alは、鉄損を低下させるために多く添加されるが、多く添加されると飽和磁束密度を減少させる。具体的には、Al含有量が0.8%を超えると、磁束密度を低下させることになる。一方、Mn、Al、P、およびSの含有量が上述した式(1)を満足する場合であっても、Al含有量が0.1%未満になると、微細なAlNを形成することで結晶粒成長性を低下させて磁気特性を低下させることになる。そこで、Al含有量は0.1〜0.8%にする。
Mnは、SiおよびAlと同様に比抵抗を増加させて渦電流損を低下させる作用を得るために添加される元素である。このような作用を得るために、従来は、Mn含有量を0.1%以上にしていた。しかしながら、Mn含有量を増加させると、飽和磁束密度を減少させて磁束密度を減少させる上、MnがSと結合して微細なMnSを形成することで結晶粒成長性を低下させて磁壁の移動性を低下させることにより、鉄損のうち特にヒステリシス損を増加させる。そこで、Mn含有量は、磁束密度の増加および鉄損の低減の観点から0.01〜0.07%にする。さらに、この観点から、Mn含有量は0.01〜0.05%にすることが好ましい。
Pは、比抵抗を増加させて鉄損を低下させるとともに、結晶粒界に偏析することによって、磁気特性に不利な{111}集合組織の形成を抑制し、磁気特性に有利な{100}集合組織の形成を促進することから添加する。P含有量は、0.3%を超えると圧延性が劣化して磁気特性を改善する効果が減少するため、0.02〜0.3%にする。
Nは、鋼中のAlまたはTi等と強く結合して窒化物を形成することで、結晶粒成長性を低下させる等の問題を生じさせる磁気特性に有害な元素であるから、少なくした方がよい。このため、N含有量は0.005%以下にする。
Sは、磁気特性に有害なMnS、CuS、および(Cu、Mn)S複合硫化物等の硫化物を形成する元素であるため、含有量を出来るだけ少なくすることが好ましい。しかしながら、S含有量は、0.0012%未満になるとむしろ集合組織の形成上不利となり磁気特性が劣化し、0.005%を超えると微細な硫化物の増加により磁気特性が劣化する。そこで、S含有量は、0.0012〜0.005%にする。
Cuは、Mnと同様にSと反応して硫化物を形成するが、硫化銅による低磁場の磁気特性への影響は硫化マンガンと比較して大きいため、含有量の制御が特に重要となる元素である。Cuは、含有量が僅かでも、熱間圧延工程、中でも仕上げ圧延以降において微細な硫化物を形成して鉄損および磁束密度を著しく劣化させると考えられている。このため、Cu含有量は出来るだけ少ないことが好ましいと考えられているが、通常は、鋼板内に原料や製造工程で混入するスクラップ等からCが不可避的に入るため、Cuを含有させないことは困難である。また、本発明の特徴は硫化銅の制御であるため、Cuの含有は必須であり、Cu含有量が過度に少ないと発明効果が発現しない。このため、Cu含有量は0.001%以上とする。一方で本発明においては硫化銅の形成を十分に抑制することが可能となるため、比較的多量の含有が可能であるから、Cu含有量は0.5%以下とする。磁束密度を劣化させることを回避するためには、Cu含有量は0.3%以下とすることが好ましい。
Tiは、微細な炭化物または窒化物を形成して結晶粒成長性を低下させるため、添加量が多くなるほど微細な炭化物または窒化物の増加により集合組織も劣位となり、磁気特性が劣化する。このため、Ti含有量は0.005%以下にする。
SnおよびSbは、結晶粒界に偏析する元素(segregates)であって、結晶粒界を介する窒素の拡散を抑制することによって、磁気特性に不利な{111}集合組織の形成を抑制し、磁気特性に有利な{100}集合組織の形成を促進する。このため、磁気特性を向上させるために、SnおよびSbのうち少なくとも1種を添加する。SnおよびSbのうちの1種を添加する場合のその1種の含有量、またはSnおよびSbの両方を添加する場合の両方の合計の含有量は、0.2%を超えると結晶粒成長性を低下させて磁気特性を劣化させるため、0.01〜0.2%にする。
残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物のうちNb、Zr、Mo、およびV等は、炭窒化物を形成する元素であるため、極力低減することが望ましく、これらの含有量はそれぞれ0.01%以下にすることが好ましい。さらに、不可避的不純物にはその他にも各製造工程で不可避的に入る不純物が含まれ、例えば原料にスクラップを使用することにより混入するNiやCr等が挙げられる。また、本発明の無方向性電磁鋼板は、本発明の作用効果を得ることができれば、磁気特性の向上、強度、耐食性、もしくは疲労特性等の機械特性の向上、または鋳造性もしくは通板性等の生産性に関する特性の向上を図るなど公知の目的で、Ni、Cr、W、Co、Mg、Ca、REM等を残部のFeの一部に代えて含有するものでもよい。
Mn、Cu、Al、P、およびSの含有量は上述した式(1)を満足することが好ましい。高磁場での鉄損をさらに低減させ、かつ磁束密度を高くすることができるからである。
本発明の無方向性電磁鋼板においては、結晶粒径は50〜180μmであることが好ましい。結晶粒径が増大する場合、鉄損中のヒステリシス損が低下するため有利であるが、鉄損中の渦電流損は増加するため、このような鉄損を最小とするのに適した結晶粒径はこのように制限される。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記「A.無方向性電磁鋼板」の項目に記載された無方向性電磁鋼板の製造方法であって、上述した化学組成を有するスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、上記熱延鋼板に対して、600℃から800℃までの平均昇温速度を50℃/秒以上800℃/秒以下として、800℃以上1200℃以下の温度域の最高到達温度にまで昇温して、該温度域に5秒間以上300秒間以下保持した後に、800℃から400℃までの平均冷却速度を50℃/秒以上800℃/秒以下として冷却する熱延板焼純および酸洗を施して熱延板焼純板を得る熱延板焼純・酸洗工程と、上記熱延焼鈍板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、上記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、を有することを特徴とする。
スラブが有する化学組成については、上記「A.無方向性電磁鋼板 2.化学組成」の項目に記載された化学組成である。また、スラブの化学組成は、上述した式(1)を満足する組成が好ましい。前述の通り、介在物種の個数の比率および球相当直径の平均が好ましい範囲内に制御されるからである。
熱間圧延工程においては、上述した化学組成を有するスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得る。
熱延板焼純・酸洗工程においては、上記熱延鋼板に対して、熱延板焼純および酸洗を施して熱延板焼純板を得る。酸洗および熱延板焼鈍は順不同であり、酸洗後に熱延板焼鈍を施してもよく、熱延板焼鈍後に酸洗を施してもよい。
冷間圧延工程においては、熱延焼鈍板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る。必要に応じて一回または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を施す。
仕上げ焼鈍工程においては、冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す。
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記「A.無方向性電磁鋼板」の項目に記載された無方向性電磁鋼板を製造するものであれば特に限定されるものではなく、他の工程を有していてもよい。例えば、仕上げ焼鈍工程後に、仕上げ焼鈍により得られた鋼板表面にコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程を有していてもよい。絶縁被膜は一般的に電磁鋼板を積層して使用する際の絶縁性を付与するものであり、絶縁被膜の種類は特に限定されない。絶縁被膜は有機成分から構成されるものでもよいし、無機成分から構成されるものでもよく、さらに有機成分および無機成分の両方から構成されるものでもよい。絶縁被膜を構成する無機成分としては、例えば、重クロム酸−ホウ酸系、リン酸系、シリカ系等が挙げられる。また、絶縁被膜を構成する有機成分としては、例えば、一般的なアクリル系、アクリルスチレン系、アクリルシリコン系、シリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系等の樹脂が挙げられる。また、塗装性を考慮した場合、好ましい樹脂は、エマルジョンタイプの樹脂である。加熱または加圧することにより接着能を発揮する絶縁被膜を形成してもよい。接着能を有する絶縁被膜としては、例えば、アクリル系、フエノール系、エポキシ系、メラミン系等の樹脂が挙げられる。絶縁被膜の膜厚は、特に限定されないが、一般的には片面当たり0.05μm〜2μmである。また、他の絶縁被膜形成条件は、一般的なものでよい。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.005%以下、Si:1.0〜4.0%、Al:0.1〜0.8%、Mn:0.01〜0.07%、P:0.02〜0.3%、N:0.005%以下、およびS:0.0012〜0.005%、Cu:0.001〜0.5%、Ti:0.005%以下、ならびにSnおよびSbのうち少なくとも1種:合計で0.01〜0.2%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、
球相当直径が0.01〜1μmの介在物の個数NTotに対する該介在物のうちの硫化銅の個数NCuSの比率NCuS/NTotが0.100以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。 - 球相当直径が0.01〜1μmの硫化銅が含有されないことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
- Mn、Cu、Al、P、およびSの含有量が下記式(1)を満足する前記化学組成を有し、
前記介在物の個数NTotに対する前記介在物のうちの球相当直径が0.1μm以上の硫化物の個数NXS≧0.1μmの比率NXS≧0.1μm/NTotが0.51以上であり、
前記介在物の球相当直径の平均が0.114μm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
3.0≦{([Mn]+[Cu])/(100×[S])+[Al]}/[P]≦70
(1)
(ここで、[Mn]、[Cu]、[Al]、[P]、および[S]はそれぞれMn、Cu、Al、P、およびSの含有量[質量%]を意味する。) - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
請求項1に記載の化学組成を有するスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板を得る熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板に対して、600℃から800℃までの平均昇温速度を50℃/秒以上800℃/秒以下として、800℃以上1200℃以下の温度域の最高到達温度にまで昇温して、該温度域に5秒間以上300秒間以下保持した後に、800℃から400℃までの平均冷却速度を50℃/秒以上800℃/秒以下として冷却する熱延板焼純および酸洗を施して熱延板焼純板を得る熱延板焼純・酸洗工程と、
前記熱延焼鈍板に冷間圧延を施して冷延鋼板を得る冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を施す仕上げ焼鈍工程と、
を有することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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